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特開2023-37027リチウムイオンバッテリーの寿命予測方法、寿命予測プログラム、及び情報処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023037027
(43)【公開日】2023-03-14
(54)【発明の名称】リチウムイオンバッテリーの寿命予測方法、寿命予測プログラム、及び情報処理装置
(51)【国際特許分類】
   G06N 20/00 20190101AFI20230307BHJP
【FI】
G06N20/00 130
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007597
(22)【出願日】2023-01-20
(62)【分割の表示】P 2022509178の分割
【原出願日】2021-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2020174106
(32)【優先日】2020-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】倉内 裕史
(72)【発明者】
【氏名】南 拓也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 祐司
(72)【発明者】
【氏名】香野 大輔
(72)【発明者】
【氏名】井上 浩文
(72)【発明者】
【氏名】奥野 好成
(57)【要約】
【課題】リチウムイオンバッテリーの開発効率を向上させる。
【解決手段】本発明のリチウムイオンバッテリーの寿命予測方法は、バッテリーの各セルに対して定電流充電のステップとその後に定電流放電のステップとを含む充放電試験を行うことで、各セルに加わる電圧と各セルを流れる電流と電流容量とを記録したサイクル測定データと寿命データとを含む学習データを取得するステップ(a)と、一つ以上の予測実行サイクル数ni(iは1以上の整数)に対して、前記学習データの各セルのサイクル測定データから初期niサイクル数を切り出した、学習用サイクル測定データAniを説明変数、前記学習データの寿命データを目的変数として寿命予測モデルの学習を行い、前記予測実行サイクル数niの数に対応した数の学習済み寿命予測モデルCniの集合を得るステップ(b)と、をコンピュータが実行し、前記学習データに含まれる寿命データは、前記サイクル測定データに記録された電流容量の推移に基づいて推定される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリーの各セルに対して定電流充電のステップとその後に定電流放電のステップとを含む充放電試験を行うことで、各セルに加わる電圧と各セルを流れる電流と電流容量とを記録したサイクル測定データと寿命データとを含む学習データを取得するステップ(a)と、
一つ以上の予測実行サイクル数ni(iは1以上の整数)に対して、前記学習データの各セルのサイクル測定データから初期niサイクル数を切り出した、学習用サイクル測定データAniを説明変数、前記学習データの寿命データを目的変数として寿命予測モデルの学習を行い、前記予測実行サイクル数niの数に対応した数の学習済み寿命予測モデルCniの集合を得るステップ(b)と、をコンピュータが実行し、
前記学習データに含まれる寿命データは、前記サイクル測定データに記録された電流容量の推移に基づいて推定される、リチウムイオンバッテリーの寿命予測方法。
【請求項2】
前記学習データに含まれる寿命データは、数理モデルあるいは時系列データ解析手法の組み合わせを用いて推定される、請求項1に記載のリチウムイオンバッテリーの寿命予測方法。
【請求項3】
前記数理モデルには、ルート則またはべき乗則のいずれかが含まれ、前記時系列データ解析手法には、自己回帰和分移動平均(ARIMA)モデル、カルマンフィルタ、ガウス過程回帰のいずれかが含まれる、請求項2に記載のリチウムイオンバッテリーの寿命予測方法。
【請求項4】
予測対象のバッテリーのセルに対して定電流充電のステップとその後に定電流放電のステップとを含む、予測実行サイクル数nx(xは1以上のいずれかの整数)の充放電試験を行うことで、該セルに加わる電圧と該セルを流れる電流と電流容量とを記録した予測用サイクル測定データを取得するステップ(c)と、
前記予測実行サイクル数nxまで取得された予測用サイクル測定データを、前記予測実行サイクル数ni(ただし、i=x)の学習済み寿命予測モデルCni(ただし、i=x)に入力して、出力として、前記予測実行サイクル数nxにおける寿命の確率分布を取得するステップ(d)と、
を更にコンピュータが実行する、請求項1に記載のリチウムイオンバッテリーの寿命予測方法。
【請求項5】
前記寿命予測モデルは、
各セルについて初期niサイクル数が切り出された前記学習用サイクル測定データAniを受け取り、各サイクルの各測定項目の値を、列数を増やす方向に配列することで固定長のデータを生成し、生成した固定長のデータを、セルの数だけ行数を増やす方向に配列することで、行列形式の固定長データに整形するデータ整形部と、
前記行列形式の固定長データを、圧縮して圧縮データとする特徴量抽出部と、
前記圧縮データを、高次元空間にマップした非線形特徴量データに変換する非線形変換部と、
前記非線形特徴量データを入力とし、寿命の確率分布を出力する回帰部とが、この順番で連結して構成されていることを特徴とする、請求項4に記載のリチウムイオンバッテリーの寿命予測方法。
【請求項6】
前記特徴量抽出部におけるデータ圧縮手法として、次元削減手法を用いることを特徴とする請求項5に記載のリチウムイオンバッテリーの寿命予測方法。
【請求項7】
前記次元削減手法が、主成分分析であることを特徴とする請求項6に記載のリチウムイオンバッテリーの寿命予測方法。
【請求項8】
バッテリーの各セルに対して定電流充電のステップとその後に定電流放電のステップとを含む充放電試験を行うことで、各セルに加わる電圧と各セルを流れる電流と電流容量とを記録したサイクル測定データと寿命データとを含む学習データを取得するステップ(a)と、
一つ以上の予測実行サイクル数ni(iは1以上の整数)に対して、前記学習データの各セルのサイクル測定データから初期niサイクル数を切り出した、学習用サイクル測定データAniを説明変数、前記学習データの寿命データを目的変数として寿命予測モデルの学習を行い、前記予測実行サイクル数niの数に対応した数の学習済み寿命予測モデルCniの集合を得るステップ(b)と、をコンピュータに実行させ、
前記学習データに含まれる寿命データは、前記サイクル測定データに記録された電流容量の推移に基づいて推定される、寿命予測プログラム。
【請求項9】
バッテリーの各セルに対して定電流充電のステップとその後に定電流放電のステップとを含む充放電試験を行うことで、各セルに加わる電圧と各セルを流れる電流と電流容量とを記録したサイクル測定データと寿命データとを含む学習データを取得するステップ(a)と、
一つ以上の予測実行サイクル数ni(iは1以上の整数)に対して、前記学習データの各セルのサイクル測定データから初期niサイクル数を切り出した、学習用サイクル測定データAniを説明変数、前記学習データの寿命データを目的変数として寿命予測モデルの学習を行い、前記予測実行サイクル数niの数に対応した数の学習済み寿命予測モデルCniの集合を得るステップ(b)と、を実行し、
前記学習データに含まれる寿命データは、前記サイクル測定データに記録された電流容量の推移に基づいて推定される、情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオンバッテリーの寿命予測方法、寿命予測プログラム、及び情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオンバッテリーの研究開発においては、充放電サイクル試験を行い、バッテリーセルのサイクル寿命を測定することによって、バッテリーを構成する材料や設計を評価することが行われる。図1の1Aは充放電サイクル試験によって取得されるサイクル寿命を図示したものであり、サイクル寿命は放電容量維持率が閾値を下回るサイクル数として取得される。バッテリーの研究開発に占める時間の大半はサイクル寿命の測定に費やされており、バッテリーの開発を加速するためには、サイクル寿命を直接、あるいは放電容量維持率を介して、早期に予測できる方法が求められる。
【0003】
このうち、バッテリーセルのサイクル寿命を直接、早期に予測する方法として、機械学習技術を用いて、充放電サイクル試験の初期の結果からサイクル寿命を予測する方法が開示されている(特許文献1および2)。また、充放電サイクル試験を行わず、バッテリーセルの設計時点で決まる設計因子、工程因子、化成因子を含むデータを学習データとする機械学習技術を用いた、サイクル寿命を予測する方法が開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2010-539473号公報
【特許文献2】特開2019-113524号公報
【特許文献3】特開2013-217897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リチウムイオンバッテリーの研究開発におけるサイクル寿命の予測方法としては、開発効率の向上の観点から、以下の二つの要件を満たすことが求められる。
【0006】
第一に、研究開発では材料や設計の変更が頻繁に生じる。こうした変更の度に機械学習のための学習データを準備するところからやり直す必要が生じないように、学習データはバッテリーを構成する材料や設計に依存しないことが求められる。
【0007】
第二に、現在のバッテリーセルのサイクル寿命は数千サイクルに及び、このような長期予測における誤差の影響は大きいため、予測されるサイクル寿命は確率分布の形式であることが望ましい。
【0008】
特許文献1および2に開示の方法では、充放電サイクル試験の初期に取得した電圧、電流、充放電容量などの測定データを学習データに用いており、バッテリーを構成する材料や設計の情報を含まないため前述した第一の要件を満たす。しかし、特許文献1に開示の方法で用いているニューラルネットワークの出力は単一の値であり、特許文献2に開示の方法ではサイクル寿命を確率分布の形式で予測する手続きが提示されていない。よって両方法とも前述した第二の要件を満たさない。
【0009】
特許文献3に開示の方法は、バッテリーを構成する材料や設計に依存するデータを学習データとしているため、前述した第一の要件を満たさない。
【0010】
本開示は、リチウムイオンバッテリーの開発効率を向上させる予測技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下に示す構成を備える。
【0012】
[1]バッテリーのサイクル測定データと寿命データとを含む学習データを取得するステップ(a)と、
一つ以上の予測実行サイクル数に対して、前記学習データを用いて寿命予測モデルの学習を行い、それぞれの予測実行サイクル数に対応した学習済み寿命予測モデルの集合を得るステップ(b)と、
予測対象であるバッテリーの予測用サイクル測定データを、前記予測実行サイクル数まで逐次取得するステップ(c)と、
予測実行サイクル数まで取得された予測用サイクル測定データを、対応する予測実行サイクル数の学習済み寿命予測モデルにそれぞれ入力して、出力として、それぞれの予測実行サイクル数における寿命の確率分布を取得するステップ(d)と、をコンピュータが実行することを特徴とするリチウムイオンバッテリーの寿命予測方法。
【0013】
[2]前記寿命予測モデルは、
前記サイクル測定データを固定長データに整形するデータ整形部と、
前記固定長データを、圧縮して圧縮データとする特徴量抽出部と、
前記圧縮データを、高次元空間にマップした非線形特徴量データに変換して非線形特徴量データとする非線形変換部と、を有し、
前記非線形特徴量データを入力とし、寿命の確率分布を出力する回帰部とが、この順番で連結して構成されていることを特徴とする、[1]に記載のリチウムイオンバッテリーの寿命予測方法。
【0014】
[3]前記特徴量抽出部におけるデータ圧縮手法として、次元削減手法を用いることを特徴とする[2]に記載のリチウムイオンバッテリーの寿命予測方法。
【0015】
[4]前記次元削減手法が、主成分分析であることを特徴とする[3]に記載のリチウムイオンバッテリーの寿命予測方法。
【0016】
[5]バッテリーのサイクル測定データと各サイクルにおける放電容量維持率とを含む学習データを取得するステップ(a)と、
一つ以上の予測実行サイクル数に対して、前記学習データを用いて各サイクルにおける放電容量維持率の学習を行い、それぞれの予測実行サイクル数に対応した学習済み放電容量維持率予測モデルの集合を得るステップ(b)と、
予測対象であるバッテリーの予測用サイクル測定データを、前記予測実行サイクル数まで逐次取得するステップ(c)と、
予測実行サイクル数まで取得された予測用サイクル測定データを、対応する予測実行サイクル数の学習済み放電容量維持率予測モデルにそれぞれ入力して、出力として、それぞれの予測実行サイクル数から寿命までの間の各サイクルでの放電容量維持率の確率分布を取得するステップ(d)と、をコンピュータが実行することを特徴とするリチウムイオンバッテリーの放電容量維持率予測方法。
【0017】
[6]バッテリーのサイクル測定データと寿命データとを含む学習データを取得するステップ(a)と、
一つ以上の予測実行サイクル数に対して、前記学習データを用いて寿命予測モデルの学習を行い、それぞれの予測実行サイクル数に対応した学習済み寿命予測モデルの集合を得るステップ(b)と、
予測対象であるバッテリーの予測用サイクル測定データを、前記予測実行サイクル数まで逐次取得するステップ(c)と、
予測実行サイクル数まで取得された予測用サイクル測定データを、対応する予測実行サイクル数の学習済み寿命予測モデルにそれぞれ入力して、出力として、それぞれの予測実行サイクル数における寿命の確率分布を取得するステップ(d)と、をコンピュータに実行させるための寿命予測プログラム。
【0018】
[7]バッテリーのサイクル測定データと各サイクルにおける放電容量維持率とを含む学習データを取得するステップ(a)と、
一つ以上の予測実行サイクル数に対して、前記学習データを用いて各サイクルにおける放電容量維持率の学習を行い、それぞれの予測実行サイクル数に対応した学習済み放電容量維持率予測モデルの集合を得るステップ(b)と、
予測対象であるバッテリーの予測用サイクル測定データを、前記予測実行サイクル数まで逐次取得するステップ(c)と、
予測実行サイクル数まで取得された予測用サイクル測定データを、対応する予測実行サイクル数の学習済み放電容量維持率予測モデルにそれぞれ入力して、出力として、それぞれの予測実行サイクル数から寿命までの間の各サイクルでの放電容量維持率の確率分布を取得するステップ(d)と、をコンピュータに実行させるための放電容量維持率予測プログラム。
【0019】
[8]バッテリーのサイクル測定データと寿命データとを含む学習データを取得するステップ(a)と、
一つ以上の予測実行サイクル数に対して、前記学習データを用いて寿命予測モデルの学習を行い、それぞれの予測実行サイクル数に対応した学習済み寿命予測モデルの集合を得るステップ(b)と、
予測対象であるバッテリーの予測用サイクル測定データを、前記予測実行サイクル数まで逐次取得するステップ(c)と、
予測実行サイクル数まで取得された予測用サイクル測定データを、対応する予測実行サイクル数の学習済み寿命予測モデルにそれぞれ入力して、出力として、それぞれの予測実行サイクル数における寿命の確率分布を取得するステップ(d)と、を実行する情報処理装置。
【0020】
[9]バッテリーのサイクル測定データと各サイクルにおける放電容量維持率とを含む学習データを取得するステップ(a)と、
一つ以上の予測実行サイクル数に対して、前記学習データを用いて各サイクルにおける放電容量維持率の学習を行い、それぞれの予測実行サイクル数に対応した学習済み放電容量維持率予測モデルの集合を得るステップ(b)と、
予測対象であるバッテリーの予測用サイクル測定データを、前記予測実行サイクル数まで逐次取得するステップ(c)と、
予測実行サイクル数まで取得された予測用サイクル測定データを、対応する予測実行サイクル数の学習済み放電容量維持率予測モデルにそれぞれ入力して、出力として、それぞれの予測実行サイクル数から寿命までの間の各サイクルでの放電容量維持率の確率分布を取得するステップ(d)と、を実行する情報処理装置。
【発明の効果】
【0021】
第一に、材料や設計の変更が生じても、機械学習のための学習データの準備をやり直す必要が生じない。第二に、サイクル寿命または放電容量維持率が確率分布の形式であることにより、長期予測における誤差の影響を抑えることができる。
【0022】
つまり、本開示によれば、リチウムイオンバッテリーの開発効率を向上させる予測技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1の1Aは、充放電サイクル試験によって取得される放電容量維持率とサイクル寿命との関係を示すグラフである。図1の1Bは、予測実行サイクル数までの放電容量維持率と、予測実行サイクル数までのサイクル測定結果と本発明の組み合わせを用いて取得されたサイクル寿命の確率分布とを示すグラフである。
図2図2は、本発明の第1の実施形態の寿命予測方法の流れを示すフローチャートである。
図3図3は、本発明の第1の実施形態で用いるサイクル測定データおよび寿命データの構成を示す図である。
図4図4は、本発明の第1の実施形態で用いる寿命予測モデルの構成を概略的に示すブロック図である。
図5図5は、本発明で用いる寿命予測モデルを実行する情報処理装置のハードウェア構成を示す図である。
図6図6は、実施例で用いたサイクル測定データを一部抜粋してプロットしたグラフである。
図7図7の7Aは、データ整形部C-1のステップ(4)で処理する前の、充放電サイクルの定電流放電のステップにおける電流容量を、電圧に対してプロットしたグラフである。図7の7Bは、等間隔の電圧のサンプリング点で再サンプリングして得た電流容量を、電圧に対してプロットしたグラフである。
図8図8は、実施例で得た寿命予測結果を示すグラフである。
図9図9は、予測実行サイクル数までの放電容量維持率と、予測実行サイクル数以降の予測放電容量維持率を示すグラフである。
図10図10は、本発明の第2の実施形態の寿命予測方法の流れを示すフローチャートである。
図11図11は、本発明の第2の実施形態で用いるサイクル測定データおよび放電容量維持率データの構成を示す図である。
図12図12は、本発明の第2の実施形態で用いる寿命予測及び放電容量維持率予測モデルの構成を概略的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付の図面を参照しながら実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0025】
[第1の実施形態]
本発明のリチウムイオンバッテリーの寿命予測方法は、バッテリーのサイクル測定データと寿命データとを含む学習データを取得するステップ(a)と、一つ以上の予測実行サイクル数に対して、前記学習データを用いて寿命予測モデルの学習を行い、それぞれの予測実行サイクル数に対応した学習済み寿命予測モデルの集合を得るステップ(b)と、予測対象であるバッテリーの予測用サイクル測定データを、前記予測実行サイクル数まで逐次取得するステップ(c)と、予測実行サイクル数まで取得された予測用サイクル測定データを、対応する予測実行サイクル数の学習済み寿命予測モデルにそれぞれ入力して、出力として、それぞれの予測実行サイクル数における寿命の確率分布を取得するステップ(d)と、を含む。
【0026】
図2は前記ステップ(a)から(d)を詳細に説明するためのフローチャートであり、ステップ(a)はステップS1、ステップ(b)はステップS31からS32に、ステップ(c)はステップS41、ステップ(d)はステップS42に、それぞれ対応する。以下、図2に基づいて本発明のリチウムイオンバッテリーの寿命予測方法を説明する。
【0027】
図2に示す通り、本発明のリチウムイオンバッテリーの寿命予測方法では、学習用サイクル測定データAおよび学習用寿命データBを取得するステップS1と、一つ以上の予測実行サイクル数ni(i=1,2,…)を決定するステップS2と、学習用サイクル測定データAから初期niサイクル分の測定データAniを切り出すステップS31と、切り出した測定データAniと学習用寿命データBを用いて寿命予測モデルCを学習させ、学習済み寿命予測モデルCniを取得するステップS32の2つのステップを、ステップS2で決定した予測実行サイクル数niごとに行うステップと、予測実行サイクル数niまでの予測用サイクル測定データDniを取得するステップS41と、予測用サイクル測定データDniを前記学習済み寿命予測モデルCniに入力し、予測寿命の確率分布Eniを取得するステップS42の2つのステップを、ステップS2で決定した予測実行サイクル数niごとに行うステップと、の流れで行われる。
【0028】
ステップS1では、複数のバッテリーのセルに対して充放電サイクル試験を行い、学習用サイクル測定データAと学習用寿命データBを取得する。学習データ取得に用いるセルの個数は50以上であることが望ましい。また、学習用寿命データBを取得するために、充放電サイクル試験は各セルがサイクル寿命に到達するまで続けることが望ましい。
【0029】
前記充放電サイクル試験における1サイクルは、定電流充電のステップと、その後に定電流放電のステップとを必ず含む。このとき、定電流充電のステップと定電流放電のステップとの間に定電圧充電のステップを含んでもよい。また各充放電ステップの間に休止のステップを含んでもよい。
【0030】
前記サイクル寿命は、放電容量があらかじめ定めた閾値を下回るサイクル数である。一例としてこの閾値は1サイクル目で測定された放電容量の80%である。
【0031】
図3に、サイクル測定データと寿命データの構成を示す。
【0032】
サイクル測定データは、複数のセルに対して充放電サイクル試験を行い、各サイクルで、サンプリング時間t1,t2,…と、その時間における物性値を併せて記録したものである。サンプリング時間は物性値の変化に十分追随できるように適宜選択することが望ましく、一定間隔でなくともよい。記録する物性値の項目はセルに加わる電圧とセルを流れる電流を必ず含み、さらにセルが示す物理的および化学的特性で測定可能な物性値を、少なくとも1つ含む。記録する物性値としては、例えば、電圧、電流および電流容量の構成である。
【0033】
寿命データは、前記サイクル測定データを取得したセルの、それぞれのサイクル寿命である。
【0034】
ステップS1で学習用サイクル測定データAと学習用寿命データBを取得する際に、充放電サイクル試験をサイクル寿命到達まで行わなかった場合、測定が済んだ充放電サイクルまでの放電容量の推移と、数理モデルあるいは時系列データ解析手法の組合せを用いて、サイクル寿命を推定し、推定して得たサイクル寿命を学習用寿命データBとして用いても良い。数理モデルの例として、リチウムイオンバッテリーの容量減衰に関して知られているルート則およびべき乗則が挙げられる。時系列データ解析手法の例として、自己回帰和分移動平均(ARIMA)モデル、カルマンフィルタ、ガウス過程回帰が挙げられる。
【0035】
ステップS1で取得する学習用サイクル測定データAおよび学習用寿命データBとして、ストックされている測定データを用いても良い。
【0036】
ステップS2で決定する予測実行サイクル数は、寿命を予測するセルの予測実行までに、充放電サイクル試験の充放電サイクルを繰り返して測定データを蓄積する充放電サイクル数である。予測実行サイクル数は複数選択して決定されても良い。あらかじめ用意しておいた予測実行サイクル数を用いることとし、ステップS2を行わなくてもよい。
【0037】
ステップS2で決定した一つ以上の予測実行サイクル数ni(i=1,2,…)に対して、ステップS31とS32を繰り返す。
【0038】
ステップS31では、ステップS1で取得した学習用サイクル測定データAから、予測実行サイクル数niまでのサイクル測定データを学習用サイクル測定データAniとして切り出す。学習用サイクル測定データAおよび学習用寿命データBに含まれるセルで、予測実行サイクル数niよりも前に測定が終了しているものがある場合、そのセルのデータは使用できないため除外する。
【0039】
続くステップS32では、切り出した学習用サイクル測定データAniを説明変数、学習用寿命データBを目的変数として、寿命予測モデルCを学習させ、予測実行サイクル数niの学習済み寿命予測モデルCniを取得する。
【0040】
ステップS31とS32では、予測実行サイクル数niに対応する、初期niサイクルまでのサイクル測定データを学習した学習済み寿命予測モデルCniを準備する。すなわち、予測実行サイクル数が複数選択される場合、予測実行サイクル数niに対応する初期niサイクルごとの寿命予測モデルCniを複数学習させる。
【0041】
初期niサイクルとは、例えば、初期200サイクルは、1サイクルから200サイクルを意味する。寿命予測モデルC200は、学習用サイクル測定データAから、1~200サイクルの初期200サイクル分を切り出した、学習用サイクル測定データA200、及び、学習用寿命データBを用いて学習させる。学習済み寿命予測モデルC200は、予測実行サイクル数200までの予測用サイクル測定データD200が入力されると、予測寿命の確率分布E200を出力する。
【0042】
目的変数であるサイクル寿命は常に正の数値である。よって、ステップS32における寿命予測モデルCの学習の際に、学習用寿命データBをそのまま学習させるのではなく、Bの対数へと変換してから学習させることが望ましい。そうすると予測結果も寿命の対数となるため、逆変換して得られる予測寿命が正であることを保証することができる。
【0043】
図4に示す通り、本発明のリチウムイオンバッテリーの寿命予測方法が用いる寿命予測モデルは、データ整形部C-1、特徴量抽出部C-2、非線形変換部C-3、回帰部C-4をこの順番で連結された構成とすることができる。寿命予測モデルは、予測実行サイクル数niまでの予測用サイクル測定データを入力として受け取り、寿命の確率分布を出力する。以下、一例として、寿命予測モデルを構成する要素をそれぞれ説明する。
【0044】
データ整形部C-1は、予測実行サイクル数niまでのサイクル測定データを入力として受け取り、行数がセルの数で列数が固定長である行列形式の固定長データを出力する。行列形式の固定長データは、各セルのサイクル測定データを下記(1)から(7)の整形処理によって列数が固定長のデータとし、それを行方向に重ねることで生成される。
【0045】
(1)整形後のデータには、充放電サイクル試験の特定の時点における物性値とそれらを用いて算出する値を含めることができる。整形後のデータに含める値の項目には、例えば、1サイクル目の充電開始時電圧、2サイクル目の充電開始時電圧、・・・、niサイクル目の充電開始時電圧、1サイクル目の充電時間、2サイクル目の充電時間、・・・、niサイクル目の充電時間、1サイクル目の充電容量、2サイクル目の充電容量、・・・、niサイクル目の充電容量、1サイクル目の放電容量、2サイクル目の放電容量、・・・、niサイクル目の放電容量、初期クーロン効率、niサイクル目付近のサイクル数―充電開始時電圧プロットの傾きと切片、niサイクル目付近のサイクル数―充電時間プロットの傾きと切片、niサイクル目付近のサイクル数―充電容量プロットの傾きと切片、niサイクル目付近のサイクル数―放電容量プロットの傾きと切片が含まれる。これらはすべて単一の値であり、項目ごとの長さは1である。
【0046】
(2)整形後のデータには、充放電サイクル試験の各サイクルの特定の時点における物性値を含めることができる。整形後のデータに含める値の項目には、例えば、各サイクルの充電開始時電圧、各サイクルの充電時間、各サイクルの充電容量、各サイクルの放電容量が含まれる。このとき、項目ごとの長さは予測実行サイクル数niである。
【0047】
(3)充放電サイクルの定電流充電のステップのデータは、電圧の関数とみなして処理を行う。電圧の変化に対して意義のある変化を示している物性値があれば、あらかじめ決めておいた数の電圧の再サンプリング点において再サンプリングを行う。この処理を全てのサイクルに対して行うことで、一つの物性につき、予測実行サイクル数ni×電圧の再サンプリング点数の長さを持つデータへと変換される。電圧の変化に対して意義のある変化を示す物性値の例として電流容量が挙げられる。
【0048】
(4)充放電サイクルの定電流放電のステップのデータは、定電流充電のステップのデータと同様に処理を行う。
【0049】
(5)充放電サイクルに定電圧充電のステップがある場合は、そのデータは電流の関数とみなして処理を行う。電流の変化に対して意義のある変化を示している物性値があれば、あらかじめ決めておいた数の電流の再サンプリング点において再サンプリングを行う。この処理を全てのサイクルに対して行うことで、一つの物性につき、予測実行サイクル数ni×電流の再サンプリング点数の長さを持つデータへと変換される。電流の変化に対して意義のある変化を示す物性値の例として電流容量、時間が挙げられる。
【0050】
(6)充放電サイクルに休止のステップがある場合は、そのデータは削除する。
【0051】
(7)上記(1)から(6)のステップで取得した項目の値を列方向に連結して行列形式の固定長データの一行分が生成される。
【0052】
データ整形部C-1で行われる再サンプリングの手法には最も簡便な線形補間を用いればよいし、二次以上の多項式補間あるいはスプライン補間等を用いてもよい。
【0053】
特徴量抽出部C-2は、データ整形部C-1から出力される固定長データを入力として受け取り、データ圧縮手法を用いて、固定長データを圧縮して圧縮データとして出力する。データ圧縮手法としては次元削減手法が挙げられ、次元削減手法としては主成分分析が好ましい。主成分分析を用いる場合、行列形式のデータ内で列方向に連結されている項目ごとにデータ圧縮することが好ましい。ただし、列方向に長さが1の項目は、データ圧縮せずそのままとする。主成分分析は、固定長データから主成分を取り出す。取り出す主成分の数は,項目ごとにあらかじめ定めておかなければならない。取り出す主成分の数は、取り出された主成分の累積寄与率が90%以上となるように十分大きく選択することが好ましい。
【0054】
非線形変換部C-3は、特徴量抽出部C-2から出力される圧縮データを入力として受け取り、非線形変換を適用して、高次元空間にマップした非線形特徴量データとして出力する。続く回帰部C-4は前記非線形特徴量データを入力として受け取り、寿命の確率分布として出力する。
【0055】
非線形変換部C-3と回帰部C-4に用いる手法は個別に設定しても良いが、両機能を有するガウス過程回帰をC-3とC-4に適用することがより好ましい。個別に設定する場合、非線形変換部C-3にはカーネル法を用いることが好ましい。回帰部C-4は出力が確率分布でなければならず、ガウス過程回帰以外ではベイジアンリッジ等を用いることができる。
【0056】
非線形変換部C-3と回帰部C-4にガウス過程回帰を適用する場合と、非線形変換部C-3にカーネル法を適用する場合には、非線形変換となるように動径基底関数カーネル等の非線形カーネルを用いる。
【0057】
ステップS31とS32の繰り返しにより、一つ以上の予測実行サイクル数ni(i=1,2,…)に対応した学習済み寿命予測モデルCniの集合が取得される。それら一つ以上のniとCniに対して、下記の通りステップS41とS42を繰り返す。
【0058】
ステップS41では、寿命を予測するバッテリーのセルに対して充放電サイクル試験を予測実行サイクル数niまで行い、予測用サイクル測定データDniを取得する。予測用サイクル測定データDniの物性値の構成は学習用サイクル測定データAniの物性値の構成を包含する。
【0059】
続くステップS42では、前記予測用サイクル測定データDniを、対応する予測実行サイクル数niの学習済み寿命予測モデルCniに入力して、出力として寿命の確率分布Eniを取得する。予測用サイクル測定データDniが学習用サイクル測定データAniにはない物性値の項目を含んでいる場合は、寿命予測モデルCniに入力する前にその項目をDniから削除しておく。
【0060】
ステップS41とS42の繰り返しは、一つ以上の予測実行サイクル数niすべてに対して行ってもよいが、早期の予測実行サイクル数での寿命予測結果を鑑みて、予測対象セルの寿命に関して十分な確信を得たと実施者が判断するならば、それ以降の予測実行サイクル数niでの予測を省略してもよい。その場合、実施者は予測対象セルの充放電サイクル試験を早期に終了させることができる。
【0061】
図5に、上記寿命予測モデルを実行する情報処理装置のハードウェア構成を示す。図5に示すように、情報処理装置500は、プロセッサ501、メモリ502、補助記憶装置503、I/F(Interface)装置504、通信装置505、ドライブ装置506を有する。なお、情報処理装置500の各ハードウェアは、バス507を介して相互に接続されている。
【0062】
プロセッサ501は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等の各種演算デバイスを有する。プロセッサ501は、各種プログラム(例えば、寿命予測プログラム等)をメモリ502上に読み出して実行する。
【0063】
メモリ502は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の主記憶デバイスを有する。プロセッサ501とメモリ502とは、いわゆるコンピュータを形成し、プロセッサ501が、メモリ502上に読み出した各種プログラムを実行することで、当該コンピュータは上記機能を実現する。
【0064】
補助記憶装置503は、各種プログラムや、各種プログラムがプロセッサ501によって実行される際に用いられる各種データを格納する。
【0065】
I/F装置504は、操作装置511及び表示装置512と、情報処理装置500とを接続する接続デバイスである。通信装置505は、ネットワークを介して不図示の外部装置と通信するための通信デバイスである。ドライブ装置506は記録媒体513をセットするためのデバイスである。
【0066】
なお、補助記憶装置503にインストールされる各種プログラムは、例えば、配布された記録媒体513がドライブ装置506にセットされ、該記録媒体513に記録された各種プログラムがドライブ装置506により読み出されることでインストールされる。あるいは、補助記憶装置503にインストールされる各種プログラムは、通信装置505を介してネットワークからダウンロードされることで、インストールされてもよい。
【0067】
[実施例]
以下に、本実施形態に基づく実施例を説明する。
【0068】
本実施例では、ステップS1において104個のリチウムイオンバッテリーのセルに対して充放電サイクル試験を行い、学習用サイクル測定データAと学習用寿命データBを取得した。充放電サイクル試験の充放電サイクルは、定電流充電のステップ、定電圧充電のステップ、休止のステップ、定電流放電のステップ、休止のステップの5ステップで構成され、サイクル測定データに含める物性値として、セルに加わる電圧、セルを流れる電流、電流容量の3つの項目を記録した。
【0069】
図6は、実施例で用いたサイクル測定データを一部抜粋してプロットしたグラフである。具体的には、実施例で取得された学習用サイクル測定データAから、ある1つのセルの1サイクル目開始前から2サイクル目終了後までのデータを抜き出し、時間を横軸に、電圧、電流、電流容量を縦軸にしてプロットしてある。図6に示されている通り、本実施例の充放電サイクル試験では、電圧幅は2.8Vから4.2V、電流幅は-50mAから50mAである。プロットは各ステップ内でなめらかな曲線あるいは直線となっており、サンプリング時間が物性値の変化に十分追随できるように適切に選択されていることが分かる。
【0070】
本実施例では、セルの放電容量が1サイクル目の80%を下回るサイクル数をサイクル寿命と定義し、ステップS1で学習用寿命データBを取得するための充放電サイクル試験は、短いものは2,000サイクル、最長のものは4,000サイクル行った。一部のサイクル寿命に到達しなかったセルについては、測定値として得た放電容量の推移とべき乗則の組合せを用いてサイクル寿命を推定した。べき乗則による曲線あてはめの二乗平均平方根誤差が0.001mAh未満であるという条件の元、推定されたサイクル寿命を学習用寿命データBとして用いた。結果として、本実施例の学習用サイクル測定データAおよび学習用寿命データBに含まれるセルの数は70個となり、学習用寿命データBに含まれる寿命の範囲はおよそ500サイクルから6,000サイクルまでとなった。
【0071】
ステップS2で決定する予測実行サイクル数niとして、本実施例では100サイクルから1,000サイクルまで100サイクル刻みで10個を選択した。
【0072】
ステップS2で決定した前記10個の予測実行サイクル数niに対して、学習用サイクル測定データAから予測実行サイクル数niまでのサイクル測定データを学習用サイクル測定データAniとして切り出すステップS31と、切り出した学習用サイクル測定データAniを説明変数、学習用寿命データBを対数へと変換したデータを目的変数として、寿命予測モデルCを学習させ、予測実行サイクル数niの学習済み寿命予測モデルCniを取得するステップS32を繰り返した。
【0073】
本実施例における寿命予測モデルの詳細は以下のとおりである。
【0074】
データ整形部C-1は、予測実行サイクル数niまでのサイクル測定データを入力として受け取り、行数がセルの数で列数が固定長である行列形式の固定長データを出力する。本実施例における前記固定長データは、各セルのサイクル測定データを下記(1)から(7)の整形処理によって列数が固定長のデータとし、それを行方向に重ねることで生成した。
【0075】
(1)充放電サイクル試験の特定の時点における物性値とそれらを用いて算出する値として、1サイクル目の充電開始時電圧、2サイクル目の充電開始時電圧、niサイクル目の充電開始時電圧、1サイクル目の全充電時間、2サイクル目の全充電時間、niサイクル目の全充電時間、1サイクル目の定電圧充電時間、2サイクル目の定電圧充電時間、niサイクル目の定電圧充電時間、1サイクル目の全充電容量、2サイクル目の全充電容量、niサイクル目の全充電容量、1サイクル目の定電圧充電容量、2サイクル目の定電圧充電容量、niサイクル目の定電圧充電容量、1サイクル目の放電容量、2サイクル目の放電容量、niサイクル目の放電容量、niサイクル目の放電容量維持率、niサイクル目付近のサイクル数―充電開始時電圧プロットの傾きと切片、niサイクル目付近のサイクル数―全充電時間プロットの傾きと切片、niサイクル目付近のサイクル数―定電圧充電時間プロットの傾きと切片、niサイクル目付近のサイクル数―全充電容量プロットの傾きと切片、niサイクル目付近のサイクル数―定電圧充電容量プロットの傾きと切片、niサイクル目付近のサイクル数―放電容量プロットの傾きと切片、niサイクル目付近のサイクル数―放電容量維持率プロットの傾きと切片の33項目を含めた。これらはすべて単一の値であり、項目ごとの長さは1である。
【0076】
(2)充放電サイクル試験の各サイクルの特定の時点における物性値として、各サイクルの充電開始時電圧、各サイクルの全充電時間、各サイクルの定電圧充電時間、各サイクルの全充電容量、各サイクルの定電圧充電容量、各サイクルの放電容量、各サイクルの放電容量維持率の7項目を含めた。項目ごとの長さは予測実行サイクル数niである。
【0077】
(3)充放電サイクルの定電流充電のステップにおける電流容量のデータは電圧の関数とみなし、本実施例の電圧範囲である2.8Vから4.2Vにわたって等間隔にサンプリングされた101個の電圧のサンプリング点に対して線形補間で再サンプリングを行った。この処理を全てのサイクルに対して行うことで、予測実行サイクル数ni×電圧の再サンプリング点数101の長さを持つデータへと変換した。
【0078】
(4)充放電サイクルの定電流放電のステップにおける電流容量のデータは定電流充電のステップにおける電流容量のデータと同様に処理を行った。
【0079】
(5)充放電サイクルの定電圧充電のステップにおける電流容量と時間のデータは電流の関数とみなし、本実施例の電流範囲である-50mAから50mAにわたって等間隔にサンプリングされた101個の電流のサンプリング点に対して線形補間で再サンプリングを行った。この処理を全てのサイクルに対して行うことで、電流容量と時間それぞれについて予測実行サイクル数ni×電圧の再サンプリング点数101の長さを持つデータへと変換した。
【0080】
(6)充放電サイクルの休止のステップのデータは削除した。
【0081】
(7)上記(1)から(6)の整形処理で取得した長さ1の項目33個と、長さniの項目7個と、長さni×101の項目4個とを列方向に連結して行列形式の固定長データの一行分を生成した。
【0082】
図7の7Aは、データ整形部C-1の整形処理(4)で処理する前の、充放電サイクルの定電流放電のステップにおける電流容量を、電圧に対してプロットしたグラフである。3つのプロットは異なるサイクル数での電流容量であり、プロット間で電圧におけるサンプリング数とサンプリング位置が異なる。図7の7Bは、図7の7Aで示したデータに整形処理(4)の処理を行い、共通の電圧のサンプリング点で再サンプリングして得た電流容量を、電圧に対してプロットしたグラフである。
【0083】
特徴量抽出部C-2は、データ整形部C-1から出力される固定長データを入力として受け取り、それにデータ圧縮手法を適用して圧縮データとして出力する。本実施例では、データ圧縮手法として主成分分析を採用し、行列形式の固定長データ内で列方向に連結されている項目ごとに別途主成分分析を適用し、圧縮データを得た。このとき、列方向に長さが1しかない33項目に関しては主成分分析を適用せずそのままとした。主成分分析において取り出す主成分の数は、取り出した主成分の累積寄与率が90%以上となるように十分大きく選択した。具体的には、列方向の長さが予測実行サイクル数niである7項目については、それぞれ10個の主成分を取り出し、列方向の長さが予測実行サイクル数ni×101である4項目については、それぞれ20個の主成分を取り出した。
【0084】
非線形変換部C-3は、特徴量抽出部C-2から出力される圧縮データを入力として受け取り、非線形変換を適用して非線形特徴量データとして出力する。続く回帰部C-4は、前記非線形特徴量データを入力として受け取り、寿命の確率分布として出力する。本実施例では、非線形変換部C-3と回帰部C-4に用いる手法として、両機能を有するガウス過程回帰を採用し、動径基底関数カーネル、定数カーネルおよびホワイトカーネルの和をカーネルとして用いた。
【0085】
ステップS31とS32の繰り返しにより、10個の予測実行サイクル数niそれぞれに対応した学習済み寿命予測モデルCniの集合が取得された。それら10個のniとCniに対して、本実施例では下記の通りステップS41とS42を繰り返した。
【0086】
本実施例のステップS41では、寿命を予測する2つのセルに対して充放電サイクル試験を予測実行サイクル数niまで行い、予測用サイクル測定データDniを取得した。予測用サイクル測定データDniの構成は本実施例における学習用サイクル測定データAniの構成と同じである。
【0087】
続くステップS42では、前記予測用サイクル測定データDniを、対応する予測実行サイクル数niの学習済み寿命予測モデルCniに入力して、出力として寿命の対数の確率分布Eniを取得した。
【0088】
図8は、得られた寿命の対数の確率分布Eniから平均値と95%信頼区間とを求め、対数から逆変換して、2つのセルに対してそれぞれプロットしたグラフである。「□」が寿命の平均値であり、上下方向のひげが寿命の95%信頼区間である。予測対象とした2つのセルそれぞれについて、図8の8Aと図8の8Bに分けて示した。図8の8Aに対応するセルは充放電サイクル試験の668サイクルで寿命に到達したため、700サイクル以降の予測は行なわなかった。実寿命である668サイクルは、図8の8A中に破線で示した。図8の8Bに対応するセルは、最後の予測実行サイクル数である1,000サイクルの時点でもサイクル寿命に到達しなかった。検証のためその後1,400サイクルまで充放電サイクル試験を続行し、得られた放電容量とべき乗則との組合せを用いて実サイクル寿命を4,650サイクルと推定した。曲線あてはめの二乗平均平方根誤差は0.001mAh未満であった。推定して得た推定実寿命である4,650サイクルは、図8の8B中に破線で示した。
【0089】
図8の8Aと図8の8Bの双方において、予測された寿命の平均値「□」は、対象セルの実寿命あるいは推定実寿命に近い値となっており、予測された95%信頼区間は予測実行サイクル数が大きくなるにつれて実寿命あるいは推定実寿命へと収束していくことが分かる。95%信頼区間が十分狭くなったと実施者が判断するならば、それ以降の予測実行サイクル数での予測を省略し、充放電サイクル試験を早期に終了させることができる。
【0090】
[第2の実施形態]
上記第1の実施形態では、予測用サイクル測定データに基づいて予測する予測項目として、寿命の確率分布を予測する場合について説明した。しかしながら、予測項目は寿命の確率分布に限定されず、例えば、予測実行サイクル数から予測寿命に到達するまで、または予測寿命を超えた先までの間の各サイクルにおける予測放電容量維持率を更に予測するように構成してもよい。以下、第2の実施形態について、上記第1の実施形態との相違点を中心に説明する。
【0091】
はじめに、第2の実施形態における新たな予測項目である、各サイクルにおける放電容量維持率について説明する。図9は、予測実行サイクル数までの放電容量維持率と、予測実行サイクル数以降の予測放電容量維持率とを示す図である。
【0092】
図1と同様に、図9の横軸はサイクル数を示しており、縦軸は放電容量維持率を示している。
【0093】
図9において、符号910は、予測実行サイクル数までに取得された予測用サイクル測定データのグラフを表している。
【0094】
また、符号920は、予測実行サイクル数以降の任意のサイクル数(例えば、サイクル数=200、300、400・・・等)における予測放電容量維持率のプロットと、各プロットを結ぶ折れ線グラフとを表している。
【0095】
また、符号921、922は、予測実行サイクル数以降の任意のサイクル数において予測放電容量維持率を算出した際の各95%信頼区間の上限値を結ぶ折れ線グラフ及び下限値を結ぶ折れ線グラフを表している。
【0096】
このように、予測寿命に到達するまでの間の各サイクルにおける予測放電容量維持率を表示することで、実施者は、予測寿命に到達するまでの予測放電容量維持率の推移を把握することができる。
【0097】
なお、図9の例では、寿命の確率分布として、寿命の平均値(符号930)と、寿命の95%信頼区間(符号931)とを合わせて表示している。
【0098】
続いて、第2の実施形態の寿命予測方法の流れについて説明する。図10は、本発明の第2の実施形態の寿命予測方法の流れを示すフローチャートである。上記第1の実施形態において図2を用いて説明したフローチャートとの相違点は、ステップS12、S33、S43である。
【0099】
ステップS12では、ステップS11においてサイクル寿命に到達するまで充放電サイクル試験を続けることで取得した、各サイクルにおける放電容量維持率B'を算出する。
【0100】
ステップS33では、切り出した学習用サイクル測定データAniを説明変数、放電容量維持率B'を目的変数として、放電容量維持率予測モデルC'を学習させ、予測実行サイクル数niの学習済み放電容量維持率予測モデルC'niを取得する。
【0101】
ステップS31とS33では、予測実行サイクル数niに対応する、初期niサイクルまでのサイクル測定データを学習した学習済み放電容量維持率予測モデルC'niを準備する。すなわち、予測実行サイクル数が複数選択される場合、予測実行サイクル数niに対応する初期niサイクルごとの放電容量維持率予測モデルC'niを複数学習させる。
【0102】
上述したように、初期niサイクルとは、例えば、初期200サイクルは、1サイクルから200サイクルを意味する。放電容量維持率予測モデルC'200は、学習用サイクル測定データAから、1~200サイクルの初期200サイクル分を切り出した、学習用サイクル測定データA200、及び、各サイクルにおける放電容量維持率B'を用いて学習させる。学習済み放電容量維持率予測モデルC'200は、予測実行サイクル数200までの予測用サイクル測定データD200が入力されると、予測放電容量維持率の確率分布E'200を出力する。
【0103】
なお、目的変数である予測放電容量維持率は、通常ゼロより大きく、かつ、予測実行サイクル数での放電容量維持率よりも小さい値となる。このため、ステップS33における放電容量維持率予測モデルC'の学習の際に、放電容量維持率B'をそのまま学習させるのではなく、下式(1)により変換した値を学習させることが望ましい。そうすると予測放電容量維持率も下式(1)により変換した値となるため、逆変換して得られる予測放電容量維持率が、ゼロより大きく、かつ、予測実行サイクル数での放電容量維持率よりも小さい値であることを保証することができる。
式(1):変換値=log(ymi/(yni-ymi))
ただし、ymiは、予測したいサイクル数miにおける予測放電容量維持率であり、yniは、予測実行サイクル数niにおける放電容量維持率である。
【0104】
ステップS43では、予測用サイクル測定データDniを、対応する予測実行サイクル数niの学習済み放電容量維持率予測モデルC'niに入力して、出力として各サイクルにおける放電容量維持率の確率分布E'niを取得する。
【0105】
また、得られた放電容量維持率の式(1)による変換値の確率分布E'niから予測放電容量維持率と95%信頼区間とを求め、逆変換して、図9に例示したとおりのプロットを得る。
【0106】
図11に、サイクル測定データと放電容量維持率データの構成を示す。このうち、サイクル測定データの詳細は、上記第1の実施形態において図3を用いて説明済みであるため、ここでは説明を省略する。
【0107】
放電容量維持率は、サイクル測定データを取得したセルそれぞれの、各サイクルにおける放電容量維持率である。図11の例は、m1サイクルにおける放電容量維持率、m2サイクルにおける放電容量維持率、・・・等が含まれることを示している。
【0108】
続いて、第2の実施形態で用いる寿命予測及び放電容量維持率予測モデルの構成について説明する。図12は、本発明の第2の実施形態で用いる寿命予測及び放電容量維持率予測モデルの構成を概略的に示すブロック図である。
【0109】
図12に示す通り、第2の実施形態における寿命予測及び放電容量維持率予測モデルは、データ整形部C-1、特徴量抽出部C-2、非線形変換部C-3、回帰部C-4、非線形変換部C'-3、回帰部C'-4を有する。寿命予測及び放電容量維持率予測モデルは、予測実行サイクル数niまでの予測用サイクル測定データを入力として受け取り、寿命の確率分布と、各サイクルの放電容量維持率の確率分布とを出力する。
【0110】
以下、一例として、寿命予測及び放電容量維持率予測モデルを構成する要素をそれぞれ説明する。ただし、データ整形部C-1~回帰部C-4は、上記第1の実施形態において図4を用いて説明済みであるため、ここでは、非線形変換部C'-3、回帰部C'-4について説明する。
【0111】
非線形変換部C'-3は、特徴量抽出部C-2から出力される圧縮データを入力として受け取り、非線形変換を適用して非線形特徴量データを出力する。続く回帰部C'-4は非線形特徴量データを入力として受け取り、各サイクルにおける放電容量維持率の確率分布を出力する。
【0112】
非線形変換部C'-3に用いる手法と回帰部C'-4に用いる手法とは個別に設定しても良いが、両機能を有するガウス過程回帰をC'-3及びC'-4に適用することがより好ましい。なお、個別に設定する場合には、非線形変換部C'-3にカーネル法を用いることが好ましい。一方、回帰部C'-4は出力が確率分布でなければならないため、ガウス過程回帰以外ではベイジアンリッジ等が用いられることになる。
【0113】
なお、非線形変換部C'-3と回帰部C'-4にガウス過程回帰を適用する場合、あるいは、非線形変換部C'-3にカーネル法を適用する場合には、非線形変換となるように動径基底関数カーネル等の非線形カーネルを用いる。
【0114】
このように、第2の実施形態によれば、予測用サイクル測定データに基づいて、寿命の確率分布と、予測実行サイクル数から予測寿命に到達するまで、または予測寿命を超えた先までの間の各サイクルにおける予測放電容量維持率及び95%信頼区間とを予測することができる。
【0115】
[その他の実施形態]
上記第2の実施形態では、寿命の確率分布の予測と、放電容量維持率の確率分布の予測とを、一体のモデル(寿命予測及び放電容量維持率予測モデル)を用いて実現する場合について説明した。しかしながら、寿命の確率分布の予測と、放電容量維持率の確率分布の予測とは、別体のモデル(寿命予測モデル、放電容量維持率予測モデル)を用いて実現してもよい。具体的には、寿命予測プログラムと放電容量維持率予測プログラムとを別々に用意し、情報処理装置500が、それぞれのプログラムを独立して実行できるように構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明のリチウムイオンバッテリーの寿命予測方法は、リチウムイオンバッテリー開発における寿命評価に好適に用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12