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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023003711
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】鉄骨柱の耐火構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/94 20060101AFI20230110BHJP
   A62C 3/16 20060101ALI20230110BHJP
   H02G 3/12 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
E04B1/94 M
E04B1/94 D
A62C3/16 A
H02G3/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021104956
(22)【出願日】2021-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000149136
【氏名又は名称】日本インシュレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 幸生
(72)【発明者】
【氏名】大根田 正人
【テーマコード(参考)】
2E001
5G361
【Fターム(参考)】
2E001DE01
2E001EA05
2E001FA02
2E001GA01
2E001GA12
2E001GA52
2E001GA66
2E001HA03
2E001HA32
2E001HF12
2E001JA02
2E001JA25
2E001JA28
5G361AA01
5G361AB12
5G361AC01
5G361AC09
5G361AC13
5G361AD01
(57)【要約】
【課題】耐火性を損なうことなく、施工性を向上することができる鉄骨柱の耐火構造を提供する。
【解決手段】鉄骨柱2の耐火構造1は、鉄骨柱2と、鉄骨柱2に対して隙間を空けて配置され、鉄骨柱2を被覆する耐火板3と、を備える鉄骨柱2の耐火構造1である。鉄骨柱2の耐火構造1は、耐火板3に形成された開口部32と、一面に開口面を有し、当該開口面が開口部32に対向しかつ耐火板3と鉄骨柱2との間に位置するように耐火板3に取り付けられた配線ボックス4と、耐火板3と鉄骨柱2との間において、配線ボックス4を被覆する耐火被覆材7と、を備える。耐火被覆材7は、配線ボックス4の左側板42及び右側板43に取り付けられ鉄骨柱2まで延びる一対の側方被覆材71と、一対の側方被覆材71の上端部同士をつなぐ上方被覆材72とを有すると共に、配線ボックス4の背板45及び底板44に対応する部分が開放している。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨柱と、
前記鉄骨柱に対して隙間を空けて配置され、前記鉄骨柱を被覆する耐火板と、
を備える鉄骨柱の耐火構造であって、
前記耐火板に形成された開口部と、
一面に開口面を有し、当該開口面が前記開口部に対向しかつ前記耐火板と前記鉄骨柱との間に位置するように前記耐火板に取り付けられた配線ボックスと、
前記耐火板と前記鉄骨柱との間において、前記配線ボックスを被覆する耐火被覆材と、
を備え、
前記耐火被覆材は、
前記配線ボックスの左側板及び右側板に取り付けられ前記鉄骨柱まで延びる一対の側方被覆材と、
前記一対の側方被覆材の上端部同士をつなぐ上方被覆材と、
を有すると共に、前記配線ボックスの背板及び底板に対応する部分が開放している、
鉄骨柱の耐火構造。
【請求項2】
前記一対の側方被覆材は、前記耐火板まで延びている、
請求項1記載の鉄骨柱の耐火構造。
【請求項3】
前記配線ボックスは、天板又は底板に、電気ケーブルを通す連結コネクタを有する、
請求項1又は請求項2記載の鉄骨柱の耐火構造。
【請求項4】
前記耐火被覆材は、けい酸カルシウム板、せっこうボード、強化せっこうボード、ロックウールボード、セラミックファイバーボード、セラミックファイバーブランケット、PC板、押出成形セメント板、ALCパネル、GRCパネルからなる群より選ばれる少なくとも一つで構成されている、
請求項1~3のいずれか一項に記載の鉄骨柱の耐火構造。
【請求項5】
前記耐火板は、けい酸カルシウム板、せっこうボード、強化せっこうボード、ロックウールボード、セラミックファイバーボード、PC板、押出成形セメント板、ALCパネル、GRCパネルからなる群より選ばれる少なくとも一つで構成されている、
請求項1~4のいずれか一項に記載の鉄骨柱の耐火構造。
【請求項6】
鉄骨柱と、
前記鉄骨柱に対して隙間を空けて配置され、前記鉄骨柱を被覆する耐火板と、
を備える鉄骨柱の耐火構造であって、
前記耐火板に形成された開口部と、
一面に開口面を有し、当該開口面が前記開口部に対向しかつ前記耐火板と前記鉄骨柱との間に位置するように前記耐火板に取り付けられた配線ボックスと、
前記配線ボックスの内面に設けられ、加熱によって膨張して耐火断熱層を形成する熱膨張性耐火材と、
を備える、
鉄骨柱の耐火構造。
【請求項7】
前記熱膨張性耐火材は、前記配線ボックスの背板の内面に設けられている、
請求項6記載の鉄骨柱の耐火構造。
【請求項8】
前記熱膨張性耐火材が、シート材及び塗料の少なくとも一つを含む、
請求項6又は請求項7記載の鉄骨柱の耐火構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨柱の耐火構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、従来の鉄骨柱の耐火構造が記載されている。特許文献1記載の鉄骨柱の耐火構造は、鉄骨柱と、鉄骨柱を被覆するボード部材と、を備える。ボード部材には、上下方向の全長に亘って、開口部が形成されている。
【0003】
開口部内には、例えば、スイッチボックス、コンセントボックス等が配置され、蓋部材によって開口が閉じられる。開口部におけるボード部材と鉄骨柱との間には、断面略コ字状に形成された耐火板が取り付けられる。断面略コ字状の耐火板によって、開口部を覆うことで、開口部を有するボード部材において、耐火性が低下するのを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-062683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の耐火構造では、ボード部材と鉄骨柱との間において、耐火板を用いて、左右一対の側面と背面との3面を形成するのは、施工に手間が掛かるという問題がある。とりわけ、近年では、鉄骨柱をボード部材で囲んだ柱をできる限り小さく仕上げる構造が多く、鉄骨柱とボード部材との間のスペースが狭いため、一層、施工が難しいという問題がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、耐火性を損なうことなく、施工性を向上することができる鉄骨柱の耐火構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る一態様の鉄骨柱の耐火構造は、鉄骨柱と、前記鉄骨柱に対して隙間を空けて配置され、前記鉄骨柱を被覆する耐火板と、を備える鉄骨柱の耐火構造であって、前記耐火板に形成された開口部と、一面に開口面を有し、当該開口面が前記開口部に対向しかつ前記耐火板と前記鉄骨柱との間に位置するように前記耐火板に取り付けられた配線ボックスと、前記耐火板と前記鉄骨柱との間において、前記配線ボックスを被覆する耐火被覆材と、を備える。前記耐火被覆材は、前記配線ボックスの左側板及び右側板に取り付けられ前記鉄骨柱まで延びる一対の側方被覆材と、前記一対の側方被覆材の上端部同士をつなぐ上方被覆材と、を有すると共に、前記配線ボックスの背板及び底板に対応する部分が開放している。
【0008】
本発明に係る一態様の鉄骨柱の耐火構造は、鉄骨柱と、前記鉄骨柱に対して隙間を空けて配置され、前記鉄骨柱を被覆する耐火板と、を備える鉄骨柱の耐火構造であって、前記耐火板に形成された開口部と、一面に開口面を有し、当該開口面が前記開口部に対向しかつ前記耐火板と前記鉄骨柱との間に位置するように前記耐火板に取り付けられた配線ボックスと、前記配線ボックスの内面に設けられ、加熱によって膨張して耐火断熱層を形成する熱膨張性耐火材と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る上記態様の鉄骨柱の耐火構造は、耐火性を損なうことなく、施工性を向上することができる、という利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1(A)は、本発明の一実施形態に係る鉄骨柱の耐火構造の断面図である。図1(B)は、図1(A)のB部分拡大図である。
図2図2(A)は、同上の鉄骨柱の耐火構造において、正面側の耐火板を省略した正面図である。図2(B)は、図2(A)のA部分拡大図である。
図3図3(A)は、同上の鉄骨柱の耐火構造において、側面側の耐火板を省略した側面図である。図3(B)は、図3(A)のC部分拡大図である。
図4図4は、同上の蓋部を示す斜視図である。
図5図5(A)は、変形例1に係るA部分拡大図である。図5(B)は、図5(A)のX1-X1線断面図である。
図6図6は、変形例2に係るC部分拡大図である。
図7図7は、変形例3に係る鉄骨柱の耐火構造の断面図である。
図8図8(A)(B)は、変形例4に係る鉄骨柱の耐火構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施形態>
(1)全体
本実施形態に係る鉄骨柱2の耐火構造1は、建築物の鉄骨柱2を耐火板3で囲んで被覆することで、火災が生じた際に、鉄骨柱2が高温になって強度が低下するのを防ぐための構造である。建築物としては、特に制限はないが、例えば、商業施設、オフィスビル、物流施設、体育館、集合住宅等が挙げられる。耐火構造1は、図1に示すように、鉄骨柱2と、複数の耐火板3と、複数のスペーサー8と、配線ボックス4と、蓋部6(図2)と、配線ボックス4を被覆する耐火被覆材7と、を備える。
【0012】
(2)鉄骨柱
鉄骨柱2は、金属製の柱である。鉄骨柱2の長手方向は、上下方向に略平行である。鉄骨柱2としては、例えば、角形鋼管柱、円形鋼管柱、H形鋼柱、CFT(Concrete Filled Steel Tube)等が挙げられるが、本実施形態では、角形鋼管柱が用いられる。鉄骨柱2は、中空状の柱であるが、中実状の柱であってもよい。
【0013】
(3)耐火板
耐火板3は、耐火性を有する板材である。複数の耐火板3によって、鉄骨柱2を被覆する。各耐火板3は、鉄骨柱2に対して隙間を空けて配置されている。耐火板3と鉄骨柱2との間の隙間は、複数のスペーサー8によって保たれており、耐火板3は、鉄骨柱2に接触しないように設置されている。耐火板3と鉄骨柱2との間の隙間の寸法H1は、特に制限はないが、配線ボックス4が設置される場合、配線ボックス4の厚さ寸法より大きくなり、通常、40mm以上300mm以下であり、本実施形態では100mmに設定されている。
【0014】
図1(A)に示すように、鉄骨柱2は、複数の耐火板3によって囲まれている。ただし、本発明では、鉄骨柱2の一の面に対向する外壁板(例えば、ALC,PC板等)と、鉄骨柱2の他の三面に対向する三つの耐火板3とで鉄骨柱2を囲んでもよいし、出隅をなす一対の外壁板と、二つの耐火板3とで鉄骨柱2を囲んでもよい。すなわち、耐火板3は、鉄骨柱2を囲む要素の少なくとも一部に含まれていればよい。
【0015】
また、耐火板3と鉄骨柱2との間の隙間の寸法H1は、鉄骨柱2の全周に亘って同じ寸法であってもよいし、部位によって異なる寸法であってもよい。
【0016】
耐火板3は、けい酸カルシウム板、せっこうボード、強化せっこうボード、ロックウールボード、セラミックファイバーボード、PC板、押出成形セメント板、ALCパネル、GRCパネルからなる群より選ばれる少なくとも一つで構成されている。このなかでも、耐火性の観点から、耐火板3には、けい酸カルシウム板を含むことが好ましい。
【0017】
隣り合う耐火板3は、平面視略直角に配置された状態で、留付材31で互いに固定されている。留付材31は、例えば、ねじ、釘、ボルト、固定金具等で構成される。ただし、耐火板3は、例えば、スペーサー8や他の固定金具を用いて、他の構造物(例えば、鉄骨柱2、天井板、フロア板等)に取り付けられてもよい。
【0018】
耐火板3の厚さ寸法は、特に制限はなく、必要な耐火性に応じて適宜決定される。耐火板3の厚さ寸法は、例えば、25mmである。
【0019】
耐火板3には、配線ボックス4内に収容された器具本体5の正面を露出させるための開口部32が形成されている。開口部32は、耐火板3を貫通している。開口部32は、本実施形態では正面視略矩形状に形成されている。開口部32は、本実施形態では、略矩形状の貫通穴で構成されているが、例えば、一の耐火板3の縁から切り欠かれた形状であってもよい。
【0020】
(4)配線ボックス
配線ボックス4は、器具本体5を収容するためのボックスである。配線ボックス4は、金属製の箱で構成されており、図2(B)に示すように、天板41、左側板42、右側板43、底板44及び背板45(図3(B))を備え、かつ正面に開口面を有する。配線ボックス4の一面の開口と耐火板3の開口部32を覆うカバー47が、配線ボックス4に取り付けられている。カバー47の中央部には、器具本体5を露出する開口が形成されている。
【0021】
器具本体5としては、例えば、プラグを差し込むための給電器具、スイッチを有するスイッチ器具等や、これらを複合した器具等が挙げられる。スイッチとしては、特に制限はなく、例えば、ロッカースイッチ、スライドスイッチ、トグルスイッチ、押しボタンスイッチ等が挙げられる。
【0022】
配線ボックス4としては、例えば、スイッチボックス、コンセントボックス、アウトレットボックス、プルボックス等が挙げられる。本実施形態では、配線ボックス4として、図2(A)に示すように、コンセントボックスと、コンセントボックスの上方に配置されたスイッチボックスと、が用いられている。配線ボックス4の成形方法は、特に制限はなく、金属板を曲げ加工することで、箱状に形成されてもよいし、鋳造で形成されてもよいし、絞り加工で形成されてもよい。
【0023】
配線ボックス4は、図3(B)に示すように、正面の開口面が耐火板3の開口部32に対向すると共に、耐火板3と鉄骨柱2との間に位置するように設置される。配線ボックス4の背板45と鉄骨柱2との間には、隙間L1が介在している。配線ボックス4は、耐火板3に取り付けられる。配線ボックス4の耐火板3に対する取付けは、特に制限はなく、例えば、ねじ止め、嵌め込み、挟み込み、接着等により実現される。
【0024】
配線ボックス4は、連結コネクタ46を有する。連結コネクタ46は、内部に電気ケーブル51が配置される可とう管52が接続され、連結コネクタ46の内部を通して、配線ボックス4の内部に電気ケーブル51を配線することができる。連結コネクタ46は、筒状に形成されており、天板41に取り付けられている。なお、後の変形例で説明するが、連結コネクタ46は、底板44に取り付けられてもよい。
【0025】
電気ケーブル51は、配線ボックス4の内部の器具本体5に接続される。電気ケーブル51は、図3(A)に示すように、鉄骨柱2と耐火板3との間を通り、耐火板3の上端部に設けられた蓋部6を貫通して、鉄骨柱2と耐火板3との間から、外側に取り出される。
【0026】
(5)蓋部
蓋部6は、図4に示すように、耐火板3と鉄骨柱2との間の隙間を塞ぐ。蓋部6は、切欠き部611を有する板本体61と、生体溶解性繊維及び無機質系接着剤で構成された充填材62と、筒体63と、を備える。
【0027】
板本体61は、蓋部6の主体を構成する部分である。板本体61の耐火板3に対向する端面には、切欠き部611が形成されている。板本体61は、耐火性を有することが好ましく、耐火板3と同様の材料で構成されることが好ましい。
【0028】
充填材62は、筒体63を切欠き部611に配置した状態で、筒体63と切欠き部611との間に充填される。充填材62は、例えば、筒体63と切欠き部611との間に生体溶解性繊維を詰めた上で、生体溶解性繊維を無機質系接着剤によって固めることで構成される。ここで、生体溶解性繊維とは、生体内で溶解する非晶質の無機繊維を意味する。生体溶解性繊維によれば、万が一、生体溶解性繊維が生体内に取り込まれても、生体における発がん性のリスクを低減することができる。生体溶解性繊維としては、例えば、AES等が挙げられる。なお、AESは、シリカ、カルシア、マグネシア等を原料とした人造鉱物繊維断熱材のことであり、アルカリアースシリケートウール、アルカリアースシリケートファイバーを含む。
【0029】
筒体63は、筒状に形成されており、一端部が板本体61の下方に開口し、他端が板本体61の上方に開口する。これによって、筒体63には、中心軸に沿って可とう管52が通される。すなわち、筒体63の内周面は蓋部6の貫通孔を構成する。
【0030】
筒体63は、熱膨張材で構成されることが好ましい。熱膨張材は、火災による高温に晒されると、体積膨張して筒体63の開口を塞ぐ材料である。熱膨張材としては、特に制限はないが、例えば、膨張性黒鉛を混合した合成樹脂である。熱膨張材としては、例えば、主剤となる合成樹脂と、膨張性黒鉛と、無機充填剤とを含む。合成樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂、ゴム物質、熱硬化性樹脂等が挙げられる。
【0031】
(6)耐火被覆材
耐火被覆材7は、図1(B)に示すように、耐火板3と鉄骨柱2との間において、配線ボックス4を被覆する。ただし、本実施形態に係る耐火被覆材7は、配線ボックス4の外面を全て覆うのではなく、図2(B)図3(B)に示すように、配線ボックス4の背板45及び底板44に対応する部分については開放している。すなわち、配線ボックス4の背板45及び底板44は、被覆されることなく、耐火板3と鉄骨柱2との間のスペースに露出している。これによって、一定の耐火性を確保しながらも、耐火被覆材7の施工のし易さや施工の難易度を低減して施工性を向上でき、また材料費を削減することができる。耐火被覆材7は、図2(B)に示すように、一対の側方被覆材71と、上方被覆材72と、で構成されている。
【0032】
側方被覆材71は、配線ボックス4の左側板42と右側板43の各々の外面に取り付けられる。側方被覆材71は、上端面が配線ボックス4の天板41の上面と同レベルに位置し、かつ下端面が配線ボックス4の底板44の下面と同レベルに位置している。ただし、側方被覆材71の下端面は、配線ボックス4の底板44の下面よりも下方に位置していてもよい。
【0033】
側方被覆材71は、図3(B)に示すように、耐火板3から鉄骨柱2まで延びている。本実施形態では、耐火板3に対向する面が耐火板3に当たる位置まで延びており、鉄骨柱2に対向する面が鉄骨柱2まで延びている。ただし、本発明では、側方被覆材71は、左右側板42,43の鉄骨柱2側の端部から半分程度被覆していればよく、側方被覆材71の耐火板3に対向する面は、耐火板3に当たるまで延びている必要はない。
【0034】
ここで、「側方被覆材71が耐火板3まで延びている」とは、耐火板3に対して、耐火板3に対向する面が接する位置まで延びることだけでなく、耐火板3に対向する面が、耐火板3に近接する位置まで延びることも含む。また、「側方被覆材71が鉄骨柱2まで延びている」という表現についても同様である。
【0035】
側方被覆材71は、配線ボックス4の左側板42及び右側板43の各々に対して、接着によって取り付けられてもよいし、耐火板3に対して釘等の固着具F1によって取り付けられてもよいし、接着と固定具F1との両方で取り付けられてもよい。
【0036】
上方被覆材72は、図2(B)に示すように、一対の側方被覆材71の上端部同士をつなぐ。上方被覆材72は、天板41の上面を含む、一対の側方被覆材71の上端面の全長にわたって形成されてもよいが、本実施形態では、天板41には連結コネクタ46が取り付けられているため、図3(B)に示すように、一対の側方被覆材71の上端面のうち配線ボックス4の天板41に対応する位置には設けられていない。上方被覆材72によれば、配線ボックス4の背板45から放射された熱が、側方被覆材71の上端よりも上方に移動するのを妨げる。
【0037】
上方被覆材72は、鉄骨柱2まで延びていることが好ましい。「上方被覆材72が鉄骨柱2まで延びる」には、側方被覆材71と同様、鉄骨柱2に対して、鉄骨柱2に対向する面が接する位置まで延びることだけでなく、鉄骨柱2に対向する面が、耐火板3に近接する位置まで延びることも含む。
【0038】
耐火被覆材7(すなわち、側方被覆材71及び上方被覆材72)としては、けい酸カルシウム板、せっこうボード、強化せっこうボード、ロックウールボード、セラミックファイバーボード、セラミックファイバーブランケット、PC板、押出成形セメント板、ALCパネル、GRCパネルからなる群より選ばれる少なくとも一つで構成されていることが好ましい。このなかでも、耐火性の観点から、耐火被覆材7には、けい酸カルシウム板を含むことが好ましい。
【0039】
このように、耐火被覆材7は、側方被覆材71と上方被覆材72とで構成され、背板45と底板44に対応する位置を開放したため、耐火被覆材7の施工のし易さや施工の難易度を低減して施工性を向上でき、また材料費を削減することができる。
【0040】
一方で、耐火被覆材7として、背板45と底板44を被覆する耐火被覆材7を省いたため、耐火性の低下が懸念されるが、一対の側方被覆材71と上方被覆材72とで、配線ボックス4と鉄骨柱2との間を側方及び上方から覆うと、一定の耐火性能が得られる。この結果、一定の耐火性を確保しながらも、施工性を向上でき、また材料費を削減することができる。
【0041】
耐火性能の低下が抑えられた理由の一つとして以下のことが考えられる。本実施形態の耐火構造1では、仮に火災が発生し、配線ボックス4が加熱されても、背板45から耐火板3と鉄骨柱2との間に放熱するため、配線ボックス4内に熱がこもりにくく、火災の炎等により配線ボックス4が加熱されても、背板45から熱が耐火板3と鉄骨柱2との間に放熱されるため、熱が配線ボックス4の天板41と天板41に設置される連結コネクタ46や連結コネクタ46に繋がる電気ケーブル51に集中して最終的に電気ケーブル51を延焼させることになる危険を抑制することができる。また、背板45から放熱した熱は、上方被覆材72によって上昇するのが妨げられるため、上記と同様に連結コネクタ46や電気ケーブル51が集中的に加熱されるのを防ぐことができる。なお、底板44に伝導した熱は底板44から放熱する。ただし、炎は上に向かう性質があるため、炎による加熱は、底板44を加熱するよりも、背板45を加熱する方がはるかに強い。
【0042】
また、本実施形態では、配線ボックス4の内部の空間に、耐火性を付与するためのロックウールやセラミックファイバー等の充填材を詰めないため、配線ボックス4の内部のスペースを広く使うことができる。このため、電気ケーブル51を器具本体5に接続する電気工事が容易であるうえに、充填材によって配線ボックス4の内部に湿気が保持されることがなく、充填材が漏電の原因になることが回避できるという利点もある。
【0043】
<変形例>
上記実施形態は、本発明の様々な実施形態の一つに過ぎない。実施形態は、本発明の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。以下、実施形態の変形例を説明する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。
【0044】
(1)変形例1
上記実施形態では、連結コネクタ46は、配線ボックス4の天板41に取り付けられたが、図5(A)(B)に示すように、連結コネクタ46は、配線ボックス4の底板44に取り付けられてもよい。電気ケーブル51は、床スラブから耐火板3と鉄骨柱2との間を通って連結コネクタ46に接続される。
【0045】
図5に示すように、耐火被覆材7が一対の側方被覆材71と上方被覆材72とで構成された点は、上記実施形態と同じであるが、本変形例では、上方被覆材72は、耐火板3から鉄骨柱2まで延びている。したがって、上方被覆材72は、配線ボックス4の天板41の上面を被覆する。
【0046】
これによって、配線ボックス4が加熱されても、熱が上方に直ちに上昇することなく、背板45から放熱することができる。底板44に取り付けられた連結コネクタ46は、配線ボックス4の下方にあるため、熱が集中しにくい。
【0047】
(2)変形例2
上記実施形態では、配線ボックス4を耐火被覆材7で被覆したが、本変形例では、図6に示すように、上記実施形態の耐火被覆材7に代えて、熱膨張性耐火材9を配線ボックス4の内面に取り付ける。
【0048】
熱膨張性耐火材9は、火災による高温に晒されると、体積膨張して耐火断熱材を形成し、配線ボックス4の内部を埋める。熱膨張性耐火材9としては、特に制限はなく、例えば、膨張性黒鉛を混合した合成樹脂が挙げられる。熱膨張性耐火材9は、例えば、主剤となる合成樹脂と、膨張性黒鉛と、無機充填剤とを含む。合成樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂、ゴム物質、熱硬化性樹脂等が挙げられる。熱膨張性耐火材9としては、例えば、耐火性シートであってもよいし、耐火性塗料であってもよい。
【0049】
耐火性シートとしては、熱膨張層と接着層との2層構造の耐火シート(例えば、「すりーぶたすけ」(登録商標) 日本インシュレーション株式会社製)を好ましく用いることができる。
【0050】
熱膨張性耐火材9の膨張率としては、膨張時に配線ボックス4の内部の大部分を埋めることができれば特に制限はないが、例えば、膨張後の体積が膨張前に比べて、200%以上であることが好ましく、より好ましくは、250%であり、更に好ましくは300%である。
【0051】
熱膨張性耐火材9は、配線ボックス4の天板41、左側板42、右側板43、背板45又は/及び底板44のいずれに設けられてもよいが、熱への反応性や鉄骨柱2への熱の伝わりを抑制する観点から、背板45の内側に設けることが好ましい。本変形例では、背板45の内面にのみ設けられるが、背板45の内面に加えて、他の面に設けられてもよい。これによって、膨張した熱膨張性耐火材9は、配線ボックス4の内部の大部分を埋めることができる。
【0052】
熱膨張性耐火材9は、背板45に対して、例えば、塗布、接着、ねじ止め、リベット止め等の手段で固定される。熱膨張性耐火材9が背板45の内面に設けられることで、耐火板3の外側から施工することができ、施工性がよい。
【0053】
(3)変形例3
上記実施形態では、鉄骨柱2は角形鋼管柱で構成されたが、図7に示すように、鉄骨柱2は、H形鋼によって構成されてもよい。鉄骨柱2がH形鋼で構成される場合、配線ボックス4は、H形鋼のフランジ21と耐火板3との間に配置される。なお、その他の構成は上記実施形態と同じであるため、説明を省略する。
【0054】
鉄骨柱2がH形鋼によって構成された場合でも、変形例2に示すように、耐火被覆材7に代えて、熱膨張性耐火材9を配線ボックス4の内面に取り付けてもよい。
【0055】
(4)変形例4
上記実施形態では、鉄骨柱2は角形鋼管柱で構成されたが、図8(A)(B)に示すように、鉄骨柱2は、円形鋼管柱によって構成されてもよい。鉄骨柱2が円形鋼管柱で構成される場合、配線ボックス4は、円形鋼管柱の周方向のいずれかの部分と耐火板3との間に配置される。なお、その他の構成は上記実施形態と同じであるため、説明を省略する。
【0056】
耐火板3は、図8(A)に示すように、鉄骨柱2と同心円状に形成されて、鉄骨柱2に対して一定の間隔をおいて配置されてもよい。この場合、円弧状の複数の耐火板3を連結して、円形状の耐火板3を構成してもよいし、筒状の耐火板3を用いてもよい。また、耐火板3は、図8(B)に示すように、鉄骨柱2が円形鋼管柱であっても、上記実施形態と同様、断面矩形状に形成されてもよい。
【0057】
変形例4の場合でも、変形例2に示すように、耐火被覆材7に代えて、熱膨張性耐火材9を配線ボックス4の内面に取り付けてもよい。
【0058】
(5)その他の変形例
以下、実施形態の変形例を列挙する。
【0059】
上記実施形態では、配線ボックス4の背板45に対応する耐火被覆材7は設けられていないが、鉄骨柱2の背板45に対向する部分に対する局所的な加熱が懸念される場合には、必要に応じて、鉄骨柱2の当該部分に対して耐火材や熱膨張性耐火材9等を取り付けてもよい。
【0060】
また、上記実施形態では、連結コネクタ46や、電気ケーブル51及び可とう管52に対して、延焼防止措置が施されていないが、必要に応じて、耐火性又は防火性を付与してもよい。例えば、連結コネクタ46及び電気ケーブル51を、耐火シートによって被覆したり、耐火塗料を塗布したり、連結コネクタ46自体を熱膨張性耐火材9で形成したりしてもよい。
【0061】
上記実施形態では、電気ケーブル51を耐火板3の上端部に設けられた蓋部6を貫通して、鉄骨柱2と耐火板3との間から、外側に取り出されたが、耐火板3の中間部の側面に蓋部6を設け、電気ケーブル51を耐火板3の中間部から外へ出すこともできる。
【0062】
本明細書にて、「略平行」、又は「略直交」のように「略」を伴った表現が、用いられる場合がある。例えば、「略平行」とは、実質的に「平行」であることを意味し、厳密に「平行」な状態だけでなく、数度程度の誤差を含む意味である。他の「略」を伴った表現についても同様である。
【0063】
また、本明細書において「端部」及び「端」などのように、「…部」の有無で区別した表現が用いられている。例えば、「端」は物体の末の部分を意味するが、「端部」は「端」を含む一定の範囲を持つ域を意味する。端を含む一定の範囲内にある点であれば、いずれも、「端部」であるとする。他の「…部」を伴った表現についても同様である。
【0064】
<まとめ>
以上説明したように、第1の態様に係る鉄骨柱2の耐火構造1は、鉄骨柱2と、鉄骨柱2に対して隙間を空けて配置され、鉄骨柱2を被覆する耐火板3と、を備える鉄骨柱2の耐火構造1である。鉄骨柱2の耐火構造1は、耐火板3に形成された開口部32と、一面に開口面を有し、当該開口面が開口部32に対向しかつ耐火板3と鉄骨柱2との間に位置するように耐火板3に取り付けられた配線ボックス4と、耐火板3と鉄骨柱2との間において、配線ボックス4を被覆する耐火被覆材7と、を備える。耐火被覆材7は、配線ボックス4の左側板42及び右側板43に取り付けられ鉄骨柱2まで延びる一対の側方被覆材71と、一対の側方被覆材71の上端部同士をつなぐ上方被覆材72とを有すると共に、配線ボックス4の背板45及び底板44に対応する部分が開放している。
【0065】
この態様によれば、鉄骨柱2の耐火構造1として、耐火性を一定に保ちながらも、配線ボックス4の耐火被覆材7の施工性を向上することができる上に、材料費を削減することができる。この結果、耐火性を損なうことなく、施工性及び材料費を削減することができる。
【0066】
第2の態様に係る鉄骨柱2の耐火構造1では、第1の態様において、一対の側方被覆材71は、耐火板3まで延びている。
【0067】
この態様によれば、火災により配線ボックス4内に侵入した熱が配線ボックス4の左右側板42,43から側方に放熱することにより、鉄骨柱2の耐火構造内の温度が直ちに上昇するのを防ぐことができる。
【0068】
第3の態様に係る鉄骨柱2の耐火構造1では、第1又は第2の態様において、配線ボックス4は、天板41又は底板44に、電気ケーブル51を通す連結コネクタ46を有する。
【0069】
この態様によれば、熱の影響が小さい天板41又は底板44に連結コネクタ46を取り付けることができ、電気ケーブル51が熱により損傷するのを抑制することができる。
【0070】
第4の態様に係る鉄骨柱2の耐火構造1では、第1~3のいずれか1つの態様において、耐火被覆材7は、けい酸カルシウム板、せっこうボード、強化せっこうボード、ロックウールボード、セラミックファイバーボード、セラミックファイバーブランケット、PC板、押出成形セメント板、ALCパネル、GRCパネルからなる群より選ばれる少なくとも一つで構成されている。
【0071】
この態様によれば、より効果的に、開口部32の耐火性を得ることができる。
【0072】
第5の態様に係る鉄骨柱2の耐火構造1では、第1~4のいずれか1つの態様において、耐火板3は、けい酸カルシウム板、せっこうボード、強化せっこうボード、ロックウールボード、セラミックファイバーボード、PC板、押出成形セメント板、ALCパネル、GRCパネルからなる群より選ばれる少なくとも一つで構成されている。
【0073】
この態様によれば、効果的に、鉄骨柱2の耐火性を得ることができる。
【0074】
第6の態様に係る鉄骨柱2の耐火構造1は、鉄骨柱2と、鉄骨柱2に対して隙間を空けて配置され、鉄骨柱2を被覆する耐火板3と、を備える鉄骨柱2の耐火構造1である。鉄骨柱2の耐火構造1は、耐火板3に形成された開口部32と、一面に開口面を有し、当該開口面が開口部32に対向しかつ耐火板3と鉄骨柱2との間に位置するように耐火板3に取り付けられた配線ボックス4と、配線ボックス4の内面に設けられ、加熱によって膨張して耐火断熱層を形成する熱膨張性耐火材9と、を備える。
【0075】
この態様によれば、耐火被覆材7を用いることなく、熱膨張性耐火材9を設けることで耐火性を得ることができるため、耐火性を一定に保ちながらも、配線ボックス4の耐火被覆材7の施工性を向上することができる上に、材料費を削減することができる。この結果、耐火性を損なわないで、施工性及び材料費を削減することができる。
【0076】
第7の態様に係る鉄骨柱2の耐火構造1では、第6の態様において、熱膨張性耐火材9は、配線ボックス4の背板45の内面に設けられている。
【0077】
この態様によれば、火災の際、熱膨張性耐火材9を反応性よく膨張させることができる上に、背板45から鉄骨柱2へ放射する熱を効果的に抑制することができる。
【0078】
第8の態様に係る鉄骨柱2の耐火構造1では、第6又は第7の態様において、熱膨張性耐火材9が、シート材及び塗料の少なくとも一つを含む。
【0079】
この態様によれば、熱膨張性耐火材9を設ける際の施工性を向上することができる。
【符号の説明】
【0080】
1 耐火構造
2 鉄骨柱
3 耐火板
32 開口部
4 配線ボックス
41 天板
42 左側板
43 右側板
44 底板
45 背板
46 連結コネクタ
7 耐火被覆材
71 側方被覆材
72 上方被覆材
9 熱膨張性耐火材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8