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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023037131
(43)【公開日】2023-03-15
(54)【発明の名称】処理方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/01 20060101AFI20230308BHJP
   C02F 1/58 20230101ALI20230308BHJP
【FI】
C01B25/01
C02F1/58 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021143689
(22)【出願日】2021-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】金 熙濬
(72)【発明者】
【氏名】島田 大輝
【テーマコード(参考)】
4D038
【Fターム(参考)】
4D038AA08
4D038AB45
4D038AB48
4D038BA04
4D038BB13
(57)【要約】
【課題】被処理物から、低コストで効率よくリンを分離するとともに、副生成物の廃棄問題を解決し、廃液量や使用する化学物質の量を抑制できる処理方法を提供すること。
【解決手段】本発明の方法は、被処理物であるリン鉱石と塩酸とを混合し第1の混合物を得る第1の溶解工程、第1の混合物を固液分離する工程、第1の液体に、第1の物質ならびに第2の物質を添加して、第2の混合物を得る第1の析出工程、第2の混合物を固液分離する工程、第2の固体を水酸化ナトリウム水溶液で溶解させ第3の混合物を得る第2の溶解工程、第3の混合物を固液分離する工程、第3の液体に、第3の物質を添加して第4の混合物を得る第2の析出工程、第4の混合物を固液分離する工程、を有する一連の工程を繰り返し、第4の液体を第の溶解工程に供することによりリサイクルする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物であるリン鉱石と塩酸とを混合し、前記被処理物中に含まれるリンを溶解させ、第1の液体および第1の固体を含む第1の混合物を得る第1の溶解工程と、
リンが溶解するとともに塩化物イオンを含む前記第1の液体を、前記第1の固体と分離する第1の固液分離工程と、
前記第1の液体に、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、および、炭酸マグネシウムよりなる群から選択される少なくとも1種である第1の物質、ならびに、鉄系物質およびアルミニウム系物質よりなる群から選択される少なくとも1種である第2の物質を添加して、鉄およびアルミニウムのうちの少なくとも一方とリンとを含む第2の固体を析出させ、第2の液体および前記第2の固体を含む第2の混合物を得る第1の析出工程と、
鉄およびアルミニウムのうちの少なくとも一方ならびにリンを含む前記第2の固体を、カルシウムおよびマグネシウムのうちの少なくとも一方が溶解するとともに塩化物イオンを含む前記第2の液体と分離する第2の固液分離工程と、
前記第2の固体を水酸化ナトリウム水溶液で溶解させ、第3の液体および第3の固体を含む第3の混合物を得る第2の溶解工程と、
リンおよびナトリウムが溶解した前記第3の液体を、水酸化鉄および水酸化アルミニウムよりなる群から選択される少なくとも1種を含む前記第3の固体と分離する第3の固液分離工程と、
前記第3の液体に、水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウムよりなる群から選択される少なくとも1種である第3の物質を添加して、カルシウムおよびリンを含む第4の固体を析出させ、第4の液体および前記第4の固体を含む第4の混合物を得る第2の析出工程と、
カルシウムおよびリンを含む前記第4の固体を、水酸化ナトリウムが溶解した前記第4の液体と分離する第4の固液分離工程とを有する一連の工程を繰り返し行う処理方法であって、
前記第4の固液分離工程で得られた前記第4の液体を、前記第2の溶解工程に供することによりリサイクルすることを特徴とする処理方法。
【請求項2】
前記第2の物質は、塩化鉄、水酸化鉄、塩化アルミニウムおよび水酸化アルミニウムよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
前記第3の固液分離工程で得られた前記第3の固体を、前記第1の析出工程に供することによりリサイクルする、請求項1または2に記載の処理方法。
【請求項4】
前記第3の固体は、塩酸に溶解した後に、前記第1の析出工程に供されるものである、請求項3に記載の処理方法。
【請求項5】
1サイクル目の前記第1の析出工程では、前記第2の物質として塩化鉄を用いる、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項6】
前記第1の析出工程の終了時における液相のpHが、-0.3以上6.0以下である、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項7】
前記第2の溶解工程の終了時における液相のpHが、12.0以上15.0以下である、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項8】
前記第2の固液分離工程で得られた前記第2の液体を、前記第1の溶解工程に供することによりリサイクルする、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項9】
リサイクルを行った後の前記第2の液体を、マグネシウム塩およびカルシウム塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含むアルカリ土類金属資源として回収する、請求項8に記載の処理方法。
【請求項10】
リサイクルを行った後の前記第2の液体と、リンを含む物質を塩酸に溶解した液体とを混合し、さらに、水酸化カルシウムおよび水酸化マグネシウムよりなる群から選択される少なくとも1種を添加して、リン酸のカルシウム塩およびリン酸のマグネシウム塩のうちの少なくとも一方とともに、不純物である重金属を析出させ、その後、当該析出物を除去することにより、前記アルカリ土類金属資源を回収する、請求項9に記載の処理方法。
【請求項11】
前記リンを含む物質として、リン鉱石を用いる、請求項10に記載の処理方法。
【請求項12】
前記析出物を析出させる工程の終了時における液相のpHが、6.0以上12.0以下である、請求項10または11に記載の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界的人口増加による食糧用穀物、新興国の食生活の変化に起因する飼料用穀物、バイオマス燃料用作物等の生産量増加に伴い、肥料の消費量は増大している。リンは窒素、カリウムと並んで肥料の三要素のひとつであり、植物の成長に多量に必要とされる。
【0003】
従来の肥料用リン酸の製造法としては、例えば、乾式法や硫酸湿式法等が挙げられる。これらの方法では、まず、リン鉱石からリン酸を製造し、さらにリン酸を加工してリン系肥料を製造している。乾式法は、その製造コストが高いため、現在のリン酸製造法の主流は、硫酸湿式法である。
【0004】
硫酸湿式法では、リン鉱石を硫酸でリン成分を溶解し、カルシウムイオンと反応させることにより、硫酸を硫酸カルシウムとして除去し、リン酸を得る(例えば、非特許文献1参照)。この時、副生成物として、硫酸カルシウムを主成分とする石膏が生成される。副生成物である石膏は、リンの含有率が高い高品位リン鉱石を原料として用いたものでなければ、重金属等の不純物を多く含むため、埋め立てまたは海上投棄等により廃棄される。
【0005】
高品位リン鉱石の限られた埋蔵量と、リン系肥料の生産量増加により、リン鉱石の原料価格は、2006年と比べて倍になっている。そして、近年、リンの含有率が低く、放射性物質や、カドミウム、ヒ素等の重金属を多く含む低品位リン鉱石の流通割合が増加している。
【0006】
低品位リン鉱石を使用すれば、リン酸と副生成物の石膏との両方に放射性物質や重金属が含まれることが容易に予測できる。低品位リン鉱石から放射性物質や重金属を好適に分離することや、副生成物である石膏の品質向上が求められているが、これらの問題を解決できる技術は確立されていない。
【0007】
そこで、環境的問題を解決しながら、経済的にも成り立つプロセスの開発が必要である。
【0008】
一方、本発明者は、酸処理やアルカリ処理等の各工程を所定の順序で行うことにより、リンおよび重金属を含む被処理物から、低コストで効率よく重金属を分離することができ、リンを非常に高い回収率(例えば、80%以上)で回収することに成功している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】再表2018/225638号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 自然起源放射性物質(NORM)データベース リン鉱石(https://www.nirs.qst.go.jp/db/anzendb/NORMDB/PDF/52.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、リン回収後の廃液量が多く、また、リンの溶解に用いるNaOH、HCl等の化学物質を有効利用することができなかった。また、使用量も比較的多く、更なるコスト削減が求められた。
【0012】
本発明の目的は、被処理物であるリン鉱石から、低コストで効率よくリンを分離することができるとともに、副生成物の廃棄問題を解決し、廃液量や全体として使用する化学物質の量を抑制することができる処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の処理方法は、被処理物であるリン鉱石と塩酸とを混合し、前記被処理物中に含まれるリンを溶解させ、第1の液体および第1の固体を含む第1の混合物を得る第1の溶解工程と、
リンが溶解するとともに塩化物イオンを含む前記第1の液体を、前記第1の固体と分離する第1の固液分離工程と、
前記第1の液体に、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、および、炭酸マグネシウムよりなる群から選択される少なくとも1種である第1の物質、ならびに、鉄系物質およびアルミニウム系物質よりなる群から選択される少なくとも1種である第2の物質を添加して、鉄およびアルミニウムのうちの少なくとも一方とリンとを含む第2の固体を析出させ、第2の液体および前記第2の固体を含む第2の混合物を得る第1の析出工程と、
鉄およびアルミニウムのうちの少なくとも一方ならびにリンを含む前記第2の固体を、カルシウムおよびマグネシウムのうちの少なくとも一方が溶解するとともに塩化物イオンを含む前記第2の液体と分離する第2の固液分離工程と、
前記第2の固体を水酸化ナトリウム水溶液で溶解させ、第3の液体および第3の固体を含む第3の混合物を得る第2の溶解工程と、
リンおよびナトリウムが溶解した前記第3の液体を、水酸化鉄および水酸化アルミニウムよりなる群から選択される少なくとも1種を含む前記第3の固体と分離する第3の固液分離工程と、
前記第3の液体に、水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウムよりなる群から選択される少なくとも1種である第3の物質を添加して、カルシウムおよびリンを含む第4の固体を析出させ、第4の液体および前記第4の固体を含む第4の混合物を得る第2の析出工程と、
カルシウムおよびリンを含む前記第4の固体を、水酸化ナトリウムが溶解した前記第4の液体と分離する第4の固液分離工程とを有する一連の工程を繰り返し行う処理方法であって、
前記第4の固液分離工程で得られた前記第4の液体を、前記第2の溶解工程に供することによりリサイクルすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、被処理物であるリン鉱石から、低コストで効率よくリンを分離することができるとともに、副生成物の廃棄問題を解決し、廃液量や全体として使用する化学物質の量を抑制することができる処理方法を提供することができる。特に、水酸化ナトリウムの溶液を循環して好適に利用することができる。また、カルシウムおよびマグネシウムのうちの少なくとも一方が溶解するとともに塩化物イオンを含む第2の液体も好適に循環して利用することができ、廃水の発生を大幅に減少することができる。また、例えば、循環して利用した第2の液体からは、マグネシウム塩およびカルシウム塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含むアルカリ土類金属資源を好適に回収することができる。また、水酸化鉄および水酸化アルミニウムよりなる群から選択される少なくとも1種を含む第3の固体も好適に循環して利用することができ、処理方法全体として用いる被処理物であるリン鉱石に対する鉄系物質、アルミニウム系物質の使用量も少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の処理方法の一例を示すフローチャートである。
図2図2は、実施例1でのリン鉱石、第1の固体および第4の固体についてウラン系列の放射能濃度を示すグラフである。
図3図3は、実施例1での1~5サイクル目で得られた第1の液体、第2の固体および第2の液体について、各サイクルにおける各重金属(Cr、Cu、Zn、As、Cd、Pb)の含有量の変化を示すグラフである。
図4図4は、実施例1でのリサイクル後の第2の液体の各種金属(Zn、Cd、As、Ni、Fe、Cr、Mg、Cu、Al)の含有量を示すグラフである。
図5図5は、実施例1についての、第1の溶解工程での、HCl/リン鉱石[mol/g]を変えた時の、リンの溶出率への影響を示すグラフである。
図6図6は、実施例1についての、第1の溶解工程での温度および攪拌時間を変えた時のリンの溶出率への影響を示すグラフである。
図7図7は、実施例1についての、第1の析出工程でのpHを変えた時のリンの析出率への影響を示すグラフである。
図8図8は、実施例1についての、第2の溶解工程での、水酸化ナトリウム/リン酸鉄[mol/g]を変えた時のリンの溶出率への影響を示すグラフである。
図9図9は、実施例1についての、第2の溶解工程での固液比を変えた時のリンの溶出率への影響を示すグラフである。
図10図10は、実施例1についての、第2の溶解工程での固液比を変えた時の、ろ過に要した時間への影響を示すグラフである。
図11図11は、実施例1についての、第2の析出工程でのカルシウム添加量および析出時間を変えた時の、リンの析出率への影響を示すグラフである。
図12図12は、実施例1についての、第2の析出工程において、析出時間とリンの析出率との関係を示す図である。
図13図13は、1サイクル目の第1の析出工程で塩化鉄に替えて塩化アルミニウムを用い、2サイクル目以降の第1の析出工程で水酸化鉄に替えて水酸化アルミニウムを用いた以外は、実施例1と同様にして処理方法を実施した場合の、第1の析出工程でのpHを変えた時のリンの析出率への影響を示すグラフである。
図14図14は、第1の析出工程で水酸化カルシウムに替えて炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムを用いた以外は、実施例1と同様にして処理方法を実施した場合の、第1の析出工程でのpHを変えた時のリンの析出率への影響を示すグラフである。
図15図15は、水酸化カルシウムに替えて炭酸カルシウムを用いた以外は、実施例1と同様にして処理方法を実施した場合の、第2の析出工程での析出時間を変えた時のリンの析出率への影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
図1は、本発明の処理方法の一例を示すフローチャートである。
【0017】
本発明の処理方法は、被処理物であるリン鉱石と塩酸とを混合し、被処理物中に含まれるリンを溶解させ、第1の液体および第1の固体を含む第1の混合物を得る第1の溶解工程と、リンが溶解するとともに塩化物イオンを含む第1の液体を、第1の固体と分離する第1の固液分離工程と、第1の液体に、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、および、炭酸マグネシウムよりなる群から選択される少なくとも1種である第1の物質、ならびに、鉄系物質およびアルミニウム系物質よりなる群から選択される少なくとも1種である第2の物質を添加して、鉄およびアルミニウムのうちの少なくとも一方とリンとを含む第2の固体を析出させ、第2の液体および第2の固体を含む第2の混合物を得る第1の析出工程と、鉄およびアルミニウムのうちの少なくとも一方ならびにリンを含む第2の固体を、カルシウムおよびマグネシウムのうちの少なくとも一方が溶解するとともに塩化物イオンを含む第2の液体と分離する第2の固液分離工程と、第2の固体を水酸化ナトリウム水溶液で溶解させ、第3の液体および第3の固体を含む第3の混合物を得る第2の溶解工程と、リンおよびナトリウムが溶解した第3の液体を、水酸化鉄および水酸化アルミニウムよりなる群から選択される少なくとも1種を含む第3の固体と分離する第3の固液分離工程と、第3の液体に、水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウムよりなる群から選択される少なくとも1種である第3の物質を添加して、カルシウムおよびリンを含む第4の固体を析出させ、第4の液体および第4の固体を含む第4の混合物を得る第2の析出工程と、カルシウムおよびリンを含む第4の固体を、水酸化ナトリウムが溶解した第4の液体と分離する第4の固液分離工程とを有する一連の工程を繰り返し行う処理方法であって、第4の固液分離工程で得られた第4の液体を、第2の溶解工程に供することによりリサイクルする。
【0018】
これにより、リンを含む被処理物から、低コストで効率よくリンを分離することができるとともに、副生成物の廃棄問題を解決し、廃液量や全体として使用する化学物質の量を抑制することができる処理方法を提供することができる。特に、リンを、重金属の含有率が極めて低い高品位な状態で回収することができ、被処理物から、非常に高い回収率(例えば、90%以上。より具体的には、ほぼ100%。)でリンを回収することができる。また、水酸化ナトリウムの溶液を循環して好適に利用することができる。また、カルシウムおよびマグネシウムのうちの少なくとも一方が溶解するとともに塩化物イオンを含む第2の液体も好適に循環して利用することができ、廃水の発生を大幅に減少することができる。また、例えば、循環して利用した第2の液体からは、マグネシウム塩およびカルシウム塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含むアルカリ土類金属資源を好適に回収することができる。また、水酸化鉄および水酸化アルミニウムよりなる群から選択される少なくとも1種を含む第3の固体も好適に循環して利用することができ、処理方法全体として用いる被処理物であるリン鉱石に対する鉄系物質、アルミニウム系物質の使用量も少なくすることができる。
【0019】
なお、本発明では、重金属とは、対応する単体金属が、25℃において、鉄の比重よりも大きい比重を有する金属元素のことをいう。また、一連の工程に含まれる各工程のうちの少なくとも一部は、各サイクルで異なる条件で処理を行ってもよい。
【0020】
特に、本発明の処理方法では、リンを分離するだけにとどまらず、マグネシウム塩およびカルシウム塩のうちの少なくとも一方を含むアルカリ土類金属資源を好適に回収することができる。
【0021】
本発明の処理方法で得ることができるアルカリ土類金属資源は、従来の硫酸湿式法のプロセスで得られる石膏に比べて、付加価値が高いものとなる。これにより、副生成物の廃棄問題をより好適に解決することができる。
【0022】
<第1の溶解工程>
第1の溶解工程では、被処理物であるリン鉱石を塩酸と混合し、第1の液体および第1の固体を含む第1の混合物を得る。
これにより、被処理物中に含まれるリンを溶解させる。
【0023】
なお、被処理物中において、リンは、通常、リン酸カルシウム、リン酸石灰、リン酸アルミニウム、リン酸マグネシウム、酸化物(P等)やリン酸、リン酸塩等の形態で含まれている。本明細書では、これらの形態を含めて原子としてのリンを含む化合物(イオン性物質を含む)や当該化合物中に含まれるリン原子のことを、単にリンということがある。
【0024】
本工程で用いる被処理物であるリン鉱石は、通常、リン酸塩鉱物を主成分とした鉱石である。リン鉱石は、その成因によって、無機質と有機質リン鉱石とに分けられる。無機質リン鉱石は、マグマや火成岩の生成、活動によってできる鉱物であり、その主成分は、リン酸三カルシウムである。無機質リン鉱石の代表的な鉱物にリン灰石(アパタイト)がある。有機質リン鉱石は、魚類や脊椎動物の遺骸が海底で堆積し、地殻の変動・隆起により陸化してリン灰土となったものをいい、その主成分は、リン酸三カルシウムである。
【0025】
肥料用に使用されるリン鉱石には、大部分が海成のリン鉱床から採掘されたリン鉱石が使用される。
【0026】
また、リン鉱石中において、重金属は、金属酸化物(複酸化物を含む)や単体金属、合金、金属塩等の形態で含まれている。本明細書では、これらの形態を含めて原子としての重金属を含む化合物(イオン性物質を含む)や当該化合物中に含まれる重金属原子のことを、単に重金属ということがある。また、他の元素名や元素記号で示す成分についても同様である。
【0027】
なお、リン鉱石の鉱床には、ウラン系列、トリウム系列、カリウム系列、ランタン系列、ポロニウム系列等の放射性物質(核種)が含まれている。重金属には、放射性物質としての重金属と、放射性物質ではない重金属とが含まれる。
【0028】
リン鉱石は、粉砕した状態で、本工程に供するのが好ましい。これにより、リン鉱石中に含まれるリンをより効率よく溶出させることができる。
【0029】
粉砕したリン鉱石の粒径は、ふるい分けによる粒径で5.0mm以下であるのが好ましく、2.0mm以下であるのがより好ましく、0.75mm以下であるのがさらに好ましい。
これにより、リン鉱石中に含まれるリンをさらに効率よく溶出させることができる。
【0030】
塩酸を用いることにより、系内に塩化物イオンを好適に供給することができ、第2の固液分離工程で得られる第2の液体を比較的高い濃度で塩酸を含むものとすることができ、第2の液体のリサイクルを好適に行うことができるとともに、リサイクルを行った後の第2の液体からのカルシウム塩、マグネシウム塩の分離をより好適に行うことができる。
【0031】
本工程で用いる塩酸のpH(水素イオン指数)は、特に限定されないが、-1.0以上1.5以下であるのが好ましく、-0.7以上1.0以下であるのがより好ましく、-0.5以上0.3以下であるのがさらに好ましい。
【0032】
本工程では、以下の条件を満足するように、塩酸を加えるのが好ましい。すなわち、第1の溶解工程で用いるリン鉱石の質量をX[g]とし、当該第1の溶解工程で用いる塩酸中に含まれる塩化水素(HCl)の物質量をXHCl[mol]としたとき、0.015≦XHCl/Xの関係を満足するのが好ましく、0.020≦XHCl/Xの関係を満足するのがより好ましい。
これにより、リン鉱石中に含まれるリンをより確実に溶出させることができる。
【0033】
本工程の終了時における液相(すなわち、リンが溶解した第1の液体)のpHは、-1.0以上3.0以下であるのが好ましく、-0.3以上2.0以下であるのがより好ましく、-0.2以上1.0以下であるのがさらに好ましい。
【0034】
本工程の終了時における液相中へのリンの溶解率は、70%以上であるのが好ましく、90%以上であるのがより好ましく、ほぼ100%であるのが最も好ましい。
【0035】
また、本工程は、被処理物と塩酸との混合物を撹拌しつつ行うのが好ましい。
これにより、リン鉱石中に含まれるリンを、より確実に塩酸中に溶出させることができる。
被処理物と塩酸との混合物の撹拌には、各種撹拌装置、各種混合装置を用いることができる。
【0036】
攪拌時間は、特に限定されないが、例えば、10分間以上であるのが好ましい。
これにより、リン鉱石中に含まれるリンを、さらに確実に塩酸中に溶出させることができる。
また、本工程は、バッチ式で行ってもよいし、連続式で行ってもよい。
【0037】
<第1の固液分離工程>
第1の固液分離工程では、リンが溶解するとともに塩化物イオンを含む第1の液体を、第1の固体と分離する。
【0038】
これにより、リンを含む第1の液体を、リンを実質的に含まない固体である第1の固体から好適に分離することができる。第1の固体は、放射性物質等を含み、例えば、産業廃棄物として廃棄することができる。
【0039】
固液分離の方法は、特に限定されないが、例えば、デカンテーション、ろ過、遠心分離等が挙げられ、複数の方法を組み合わせて行ってもよい。
【0040】
また、本工程では、必要に応じて、一旦分離された第1の固体を水等の液体(液体A)により洗浄してもよい(第1の洗浄工程)。これにより、例えば、第1の固体中に残存する第1の液体の含有率をより低くすることができる。なお、第1の固体の洗浄に用いた液体Aは、例えば、固液分離された第1の液体とともに以降の工程に供してもよいし、第2の液体とともにリサイクルさせてもよい。
【0041】
固液分離された第1の固体中におけるリンの含有率は、10.0質量%以下であるのが好ましく、1.0質量%以下であるのがより好ましい。
【0042】
<第1の析出工程>
第1の析出工程では、第1の液体に、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、および、炭酸マグネシウムよりなる群から選択される少なくとも1種である第1の物質、ならびに、鉄系物質およびアルミニウム系物質よりなる群から選択される少なくとも1種である第2の物質を添加して、鉄およびアルミニウムのうちの少なくとも一方とリンとを含む第2の固体を析出させ、第2の液体および第2の固体を含む第2の混合物を得る。
【0043】
特に、リンをリン酸鉄、リン酸アルミニウムやリン酸塩(リン酸塩はリン酸カルシウムやリン酸ナトリウムを示す)として析出させる。これにより、後の工程における、リンを含む物質の取り扱いが容易となる。また、このような条件でリン酸化合物を析出させることにより、後の第2の溶解工程において、当該リン酸化合物を溶解させやすくすることができるとともに、鉄やアルミニウムの水酸化物(固体状態の化合物)を含む第3の固体を好適に析出させることができ、リン(溶解状態のリン)を好適に分離することができる。さらに、リン酸化合物の粒子が大きくなるので固液分離がしやすくなる。
【0044】
第1の物質は、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、および、炭酸マグネシウムよりなる群から選択される少なくとも1種である。このような第1の物質は、酸性の液体に好適に溶解する物質であるとともに、当該液体のpHを上昇させることができるものである。中でも、第1の物質としては、溶解性の観点、アルカリ土類金属資源として回収した際の有用性の観点等から、水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウムのうちの一方であるのが好ましく、水酸化カルシウムであるのがより好ましい。
【0045】
第2の物質は、第2の固体を構成する鉄、アルミニウムの供給源である。
第2の物質としては、塩化鉄、水酸化鉄、塩化アルミニウムおよび水酸化アルミニウムよりなる群から選択される少なくとも1種であるのが好ましく、塩化鉄および水酸化鉄よりなる群から選択される少なくとも1種であるのがより好ましい。
【0046】
これにより、本工程で、リンをリン酸の鉄塩およびアルミニウム塩よりなる群から選択される少なくとも1種(例えば、リン酸鉄、リン酸アルミニウム等)として析出させることができ、後の工程をより好適に行うことができる。
【0047】
特に、1サイクル目の本工程では、第2の物質として塩化鉄を用い、2サイクル目以降の本工程では、第2の物質として水酸化鉄を用いるのが好ましい。
【0048】
これにより、後の第3の固液分離工程で分離された固相である第3の固体を、本工程においてリサイクルすることができるとともに、本発明の処理方法に実施に要するコストをさらに抑制することができる。
【0049】
本工程の終了時における液相のpHは、-0.3以上6.0以下であるのが好ましく、0.1以上4.0以下であるのがより好ましく、1.0以上3.0以下であるのがさらに好ましい。
【0050】
これにより、重金属の析出を抑制するとともに、リンをリン酸の鉄塩やアルミニウム塩等の形態(例えば、リン酸鉄、リン酸アルミニウム等)としてより好適に析出させることができる。
【0051】
リン酸をこのような化合物として生成させることにより、当該リン酸化合物は、本工程(第1の析出工程)で好適に析出されるとともに、アルカリ条件下での溶解性がより高いものとなり、後の第2の溶解工程でより好適に溶解することができ、さらには、第2の溶解工程より後の第2の析出工程では、pH12.0以上の高アルカリでも溶解度が低いハイドロキシアパタイトとして好適に析出させ、リンとしてより好適に回収することができる。
【0052】
<第2の固液分離工程>
第2の固液分離工程では、鉄およびアルミニウムのうちの少なくとも一方ならびにリンを含む第2の固体を、カルシウムおよびマグネシウムのうちの少なくとも一方が溶解するとともに塩化物イオンを含む第2の液体と分離する。
【0053】
固液分離の方法は、特に限定されないが、例えば、デカンテーション、ろ過、遠心分離等が挙げられ、複数の方法を組み合わせて行ってもよい。なお、本工程で、分離された液相(第2の液体)中に、比較的多くの固体(第2の固体)が含まれる場合であっても、当該分離された液相(第2の液体)は、第1の溶解工程にリサイクルされるため、2サイクル目以降の第2の固液分離工程で前記固体(第2の固体)を好適に液相(第2の液体)から分離することができる。したがって、本工程は、デカンテーション等の簡易な方法や、メッシュが粗い濾材を用いたろ過により好適に行うことができ、処理方法の実施に要するコストのさらなる削減を図る上で有利である。
【0054】
第1の液体中に含まれていた重金属は、本工程において、第2の液体中に含まれて、第2の固体から好適に除去され、分離された第2の固体中における重金属の含有率をより低くすることができる。
【0055】
また、リン鉱石に含まれていたカルシウム、マグネシウムは、カルシウム塩やマグネシウム塩等の形態(例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等)として、第2の液体中に含まれて分離される。このようなカルシウム、マグネシウムは、第2の液体のリサイクルを繰り返すことにより濃縮される。また、リン鉱石に含まれていたカルシウム、マグネシウムは、第1の物質を構成するアルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム)とともに、アルカリ土類金属資源として好適に回収することができる。
【0056】
また、本工程では、必要に応じて、一旦分離された第2の固体を水等の液体(液体B)により洗浄してもよい(第2の洗浄工程)。この場合、例えば、第2の固液分離工程で固液分離した後に第2の固体に水を散布することで洗浄を行ってもよい。これにより、例えば、第2の固体中に含まれる塩化水素や、第2の固体中に残存する第2の液体の含有率をより低くすることができる。なお、第2の固体の洗浄に用いた液体Bは固液分離された第2の液体とともに第1の溶解工程に供してリサイクルすることができる。このとき、液体Bと塩酸とを混合して1回目の第1の溶解工程で使用した塩酸のpHと同程度のpHになるようにしてもよい。
【0057】
固液分離された第2の液体中におけるリンの含有率は、0.01質量%以上20質量%以下であるのが好ましく、0.05質量%以上5質量%以下であるのがより好ましい。
【0058】
<第2の溶解工程>
第2の溶解工程では、第2の固体を、水酸化ナトリウム水溶液で溶解させ、第3の液体および第3の固体を含む第3の混合物を得る。
【0059】
このようにアルカリ性の水酸化ナトリウム水溶液を用いることにより、リンを好適に溶解させるとともに、第2の固体を構成していた鉄、アルミニウムを水酸化物として析出させることができる。
【0060】
また、水酸化ナトリウム水溶液は、本発明の処理方法において、好適にリサイクルして利用することができるので、コスト削減、安定的な処理等の点から有利である。
【0061】
本工程で用いる水酸化ナトリウム水溶液のpHは、特に限定されないが、12.0以上であるのが好ましく、13.5以上15.0以下であるのがより好ましい。
【0062】
本工程では、以下の条件を満足するように、水酸化ナトリウム水溶液を加えるのが好ましい。
【0063】
すなわち、第2の溶解工程で用いる第2の固体の質量をX[g]とし、当該第2の溶解工程で用いる水酸化ナトリウムの物質量をXNaOH[mol]としたとき、0.05≦XNaOH/X≦0.50の関係を満足するのが好ましく、0.10≦XNaOH/X≦0.35の関係を満足するのがより好ましい。
これにより、第2の固体中に含まれるリンを、より好適に溶出させることができる。
【0064】
また、本工程において、液相である水酸化ナトリウム水溶液の体積をX[mL]とし、固相である第2の固体の質量をX[g]としたとき、3.2<X/Xの関係を満足するのが好ましく、5.0≦X/Xの関係を満足するのがより好ましい。
【0065】
これにより、第3の混合物の体積が必要以上に多くなることを防止しつつ、第3の混合物の流動性をより好適なものとすることができ、後の第3の固液分離工程での第3の液体と第3の固体との分離をより好適に行うことができる。
【0066】
本工程終了時における液相のpHは、12.0以上15.0以下であるのが好ましく、13.3以上14.8以下であるのがより好ましく、13.5以上14.5以下であるのがさらに好ましい。
【0067】
これにより、第2の固体中に含まれるリンをより好適に水酸化ナトリウム水溶液中に溶解させることができるとともに、鉄の水酸化物、アルミニウムの水酸化物、重金属の水酸化物をより好適に析出させることができる。
【0068】
<第3の固液分離工程>
第3の固液分離工程では、リンおよびナトリウムが溶解した第3の液体を、水酸化鉄および水酸化アルミニウムよりなる群から選択される少なくとも1種を含む第3の固体と分離する。
【0069】
これにより、被処理物に含まれていたリンの大部分が鉄やアルミニウムから分離される。
【0070】
なお、第3の混合物中に含まれていたリンは、そのほとんどが第3の液体中に存在しているが、通常、第3の固体中にもその一部が含まれている。すなわち、本工程で分離される第3の固体は、通常、水酸化鉄および水酸化アルミニウムよりなる群から選択される少なくとも1種を含むとともにリンも含んでいる。第3の固体を後に詳述するようなリサイクルに供することにより、第3の固体中に含まれているリンも鉄やアルミニウムから分離し、好適に回収することができるので、リン鉱石からのリンの回収率を特に優れたものとすることができる。
【0071】
固液分離の方法は、特に限定されないが、例えば、デカンテーション、ろ過、遠心分離等が挙げられ、複数の方法を組み合わせて行ってもよい。
【0072】
また、本工程では、必要に応じて、一旦分離された第3の固体を水等の液体(液体C)により洗浄してもよい(第3の洗浄工程)。この場合、例えば、第3の固液分離工程で固液分離した後に第3の固体に水を散布することで洗浄を行ってもよい。これにより、例えば、第3の固体中に含まれるナトリウム(例えば、水酸化ナトリウム等)等の不純物や、第3の固体中に残存する第3の液体の含有率をより低くすることができる。なお、第3の固体の洗浄に用いた液体Cは、例えば、固液分離された第3の液体とともに以降の工程に供してもよいし、後に詳述する第4の液体とともにリサイクルしてもよい。
【0073】
固液分離された第3の固体中におけるリンの含有率は、リン酸(P)換算で20質量%以下であるのが好ましく、10質量%以下であるのがより好ましい。
【0074】
第3の固体は、例えば、塩酸に溶解した後に、第1の液体とともに、2サイクル目以降の第1の析出工程に供してもよい。
これにより、第3の固体の第1の析出工程における反応性を高めることができる。
【0075】
なお、図1では、第3の固体を、塩酸に溶解した後に、第1の析出工程に供する場合を示しているが、これに限定されず、塩酸で溶解せずにそのまま第1の液体と混合して、第1の析出工程に供してもよい。
【0076】
<第2の析出工程>
第2の析出工程では、第3の液体に、水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウムよりなる群から選択される少なくとも1種である第3の物質を添加して、カルシウムおよびリンを含む第4の固体を析出させ、第4の液体および第4の固体を含む第4の混合物を得る。
【0077】
第3の液体にカルシウム系試薬である第3の物質を添加することで、溶解しているリン酸イオンをリン酸のカルシウム塩として析出させることができる。また、第3の液体中に含まれていたナトリウムイオンは、水酸化ナトリウムになる。
【0078】
これにより、リンを固体状物質であるリン酸塩(例えば、ハイドロキシアパタイト、リン酸カルシウム等)として取り扱うことができ、保管や輸送等をより好適に行うことができる。特に、本工程では、重金属を実質的にほぼ含まない純度の高いリン酸塩を第4の固体として得ることができる。
【0079】
また、第3の液体は、一般に、アルカリ性を呈するものである。本工程(第2の析出工程)をアルカリ性条件で行うことで、ハイドロキシアパタイトを好適に生成、析出させることができ、好適に回収することができる。また、本工程でリン酸マグネシウム類が生成されたとしてもpHが12以上でリン酸マグネシウム類は溶解するので容易に分離することができる。
【0080】
また、第4の混合物の液相が水酸化ナトリウムを含むことにより、後の第4の固液分離工程で分離される第4の液体を、第2の溶解工程に好適にリサイクルすることができる。
【0081】
本工程終了時における第4の混合物の液相のpHは、12.0以上15.0以下であるのが好ましく、12.5以上14.5以下であるのがより好ましい。
【0082】
本工程で用いる第3の物質は、水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウムよりなる群から選択される少なくとも1種であればよいが、水酸化カルシウムであるのが好ましい。
【0083】
これにより、リン酸のカルシウム塩の一部となるカルシウム成分を系内に効率よく供給しつつ、混合物のpHを好適に調整することができる。その結果、本工程で、第3の液体に混合される物質の使用量を抑制し、本工程を効率よく進行させることができる。また、本工程での混合物中における、カルシウム含有率とpHとのバランスを好適に調整することができ、リンの析出効率を向上させつつ、第4の固体中における不純物の含有率をより低くすることができる。また、後の第4の固液分離工程の完了前にリンが不本意に再溶解してしまうことをより確実に防止することができる。
【0084】
本工程の処理時間は、30分間以上600分間以下であるのが好ましく、120分間以上300分間以下であるのがより好ましい。
【0085】
これにより、リン酸塩をより確実に析出させることができるとともに、本発明の処理方法の処理効率をさらに高めることができる。
【0086】
本工程では、以下の条件を満足するように、第3の物質を加えるのが好ましい。すなわち、本工程の終了時における系内のリンの物質量をX[mol]、第3の物質に含まれるカルシウムの物質量をXCa[mol]としたとき、0.1≦XCa/X≦3.0の関係を満足するのが好ましく、0.5≦XCa/X≦2.0の関係を満足するのがより好ましい。
【0087】
<第4の固液分離工程>
第4の固液分離工程では、カルシウムおよびリンを含む第4の固体を、水酸化ナトリウムが溶解した第4の液体と分離する。
【0088】
第2の析出工程で、第3の液体中に含まれていたリンは、リン酸のカルシウム塩として析出されているので、第4の固体として、第3の液体中に含まれていたリンをほぼ100%回収することができる。また、リンを含む材料を固体として扱うことができ、その取扱いが容易となる。また、分離された第4の固体は、リン酸塩を高純度で含み、重金属の含有率が極めて低いため、肥料、他のリン系化学物質の製造原料等に好適に用いることができる。特に、後処理等を行わなくても、また、後処理を行う場合であっても、簡易な処理で、肥料等に好適に用いることができる。また、分離された第4の液体は、第2の溶解工程に供することによりリサイクルされるが、最終的に廃棄する場合であっても、重金属を実質的に含んでいないため、酸で中和することにより産業廃棄液として処理する必要がない。
【0089】
固液分離の方法は、特に限定されないが、例えば、デカンテーション、ろ過、遠心分離等が挙げられ、複数の方法を組み合わせて行ってもよい。なお、本工程で、分離された液相(第4の液体)中に、比較的多くの固体(第4の固体)が含まれる場合であっても、当該分離された液相(第4の液体)は、第2の溶解工程にリサイクルされるため、2サイクル目以降の第4の固液分離工程で前記固体(第4の固体)を好適に液相(第4の液体)から分離することができる。したがって、本工程は、デカンテーション等の簡易な方法や、メッシュが粗い濾材を用いたろ過により好適に行うことができ、処理方法の実施に要するコストのさらなる削減を図る上で有利である。
【0090】
また、本工程では、必要に応じて、一旦分離された第4の固体を水等の液体(液体D)により洗浄してもよい(第4の洗浄工程)。
【0091】
これにより、例えば、第4の固体中に含まれる水酸化ナトリウム等の不純物の含有率をより低くすることができる。なお、第4の固体の洗浄に用いた液体Dは、例えば、固液分離された第4の液体とともに第2の溶解工程に供してリサイクルしてもよい。
【0092】
<第2の液体のリサイクル>
本発明の処理方法では、第2の固液分離工程で得られた第2の液体を、第1の溶解工程に供することによりリサイクルするのが好ましい。
【0093】
第2の固液分離工程で得られる第2の液体は、塩化物イオンを含み、酸性を呈するものである。したがって、第2の液体を第1の溶解工程に供することにより、第2の液体中に含まれる塩化物イオンを好適に再利用することができ、処理方法全体で使用する化学物質の量のさらなる抑制や、処理方法の実施に要するコストのさらなる削減等の効果が得られる。
【0094】
特に、本発明の処理方法では、第2の液体と塩酸とを混合して、1回目の第1の溶解工程で使用した塩酸のpHと同程度のpHになるようにした後、第1の溶解工程に供することにより、より好適にリサイクルすることができる。
【0095】
リサイクルされる第2の固液分離工程で得られる第2の液体のpHは、-0.3以上6.5以下であるのが好ましく、0.1以上4.0以下であるのがより好ましく、1.0以上3.0以下であるのがさらに好ましい。
【0096】
第2の固液分離工程で得られた第2の液体をリサイクルする場合、第2の固液分離工程で得られた第2の液体のうち第1の溶解工程に供されリサイクルされるものの割合は、10質量%以上であるのが好ましく、50質量%以上であるのがより好ましく、80質量%以上100質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0097】
また、第2の固液分離工程で得られた第2の液体は、1回以上リサイクルされるのが好ましく、特に、2回以上リサイクルされるのがより好ましく、3回以上20回以下リサイクルされるのがより好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0098】
また、第2の固液分離工程で得られた第2の液体中におけるカルシウム塩の含有率、および、マグネシウム塩の含有率が25℃での溶解度以下である場合に、当該第2の液体を前記第1の溶解工程に供することによりリサイクルするのが好ましい。
【0099】
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。また、カルシウムやマグネシウムの回収効率をより優れたものとすることができる。
【0100】
第2の液体中におけるカルシウムやマグネシウムの濃度が10質量%以上の時にアルカリ土類金属資源として回収するのが好ましく、30質量%以上の時にアルカリ土類金属資源として回収するのがより好ましい。
【0101】
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される、カルシウムやマグネシウムの回収効率をより優れたものとすることができる。
【0102】
<アルカリ土類金属資源としての回収>
本発明の処理方法では、リサイクルを行った後の第2の液体を、マグネシウム塩およびカルシウム塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含むアルカリ土類金属資源として回収するのが好ましい。
【0103】
このように、本発明では、リンを回収するととともに、これとは別に有用物質であるアルカリ土類金属も回収することができるため、資源の有効回収の観点から特に好ましい。また、得られたアルカリ土類金属資源を販売すること等により、処理方法全体に要するコストをさらに低下させることができる。
【0104】
リサイクルを行った後の第2の液体を、そのまま、塩化マグネシウムおよび塩化カルシウムよりなる群から選択される少なくとも1種を含むアルカリ土類金属資源として回収してもよいが、得られる塩化マグネシウムや塩化カルシウムを、より純度が高いものとするために、リサイクルを行った後の第2の液体に対して、例えば、不純物除去の処理を施してもよい。特に、リサイクルを行った後の第2の液体に対して、以下のような処理を行うのが好ましい。
【0105】
すなわち、リサイクルを行った後の第2の液体と、リンを含む物質を塩酸に溶解した液体とを混合し、さらに、水酸化カルシウムおよび水酸化マグネシウムよりなる群から選択される少なくとも1種を添加して、リン酸のカルシウム塩およびリン酸のマグネシウム塩のうちの少なくとも一方とともに、不純物である重金属やフッ化カルシウムを析出させ、その後、当該析出物を除去することにより、アルカリ土類金属資源を回収するのが好ましい。また、リサイクルを行った後の第2の液体に水酸化カルシウムおよび水酸化マグネシウムよりなる群から選択される少なくとも1種を添加して、溶液のpHを10以上に上げれば、不純物である重金属やフッ素は水酸化重金属やフッ化カルシウムとして析出される。その後、当該析出物を除去することにより、アルカリ土類金属資源を回収することも出来る。
【0106】
これにより、リサイクルを行った後の第2の液体に含まれる不純物である重金属を好適に析出させ、除去することができ、回収されるアルカリ土類金属資源の純度をより高いものとすることができる。
【0107】
上記のような第2の液体中に含まれる不純物除去の処理の際に用いる前記リンを含む物質としては、例えば、第4の固体等を用いることもできるが、リン鉱石を用いるのが好ましい。
【0108】
これにより、不純物である重金属をより好適に析出させることができ、より純度の高いアルカリ土類金属資源を回収することができる。また、各種のリンを含む物質の中でも比較的安価なリン鉱石を用いることにより、アルカリ土類金属資源を得るためのコストをさらに抑制することができる。また、第2の液体中に含まれる不純物除去の処理の際にリン鉱石を用いることにより、例えば、アルカリ土類金属資源を回収した後に残る固体を、第1の溶解工程に好適にリサイクルすることができる。
【0109】
リン鉱石は、本発明の処理方法での被処理物であるリン鉱石を用いてもよいし、被処理物とは別のリン鉱石を用いてもよい。被処理物であるリン鉱石を用いることで、リンを含む物質を別途用意する必要がなく、また、コスト的にも有利である。
【0110】
なお、第2の液体中に含まれる不純物除去の処理の際に用いる前記リンを含む物質の使用量は、通常、第2の液体の使用量に対して、十分に少ない。より具体的には、第2の液体:100質量部に対する、不純物除去の処理の際に用いる前記リンを含む物質の使用量は、通常、1.0質量部以上30.0質量部以下とすることができる。
【0111】
上記のように、リサイクルを行った後の第2の液体から前記析出物を析出させる工程の終了時における液相のpHは、6.0以上12.0以下であるのが好ましい。
【0112】
これにより、リン酸のカルシウム塩およびリン酸のマグネシウム塩のうちの少なくとも一方とともに、不純物である重金属をより好適に析出させて除去することができ、回収されるアルカリ土類金属資源(例えば、塩化マグネシウム、塩化カルシウム等)の純度をさらに高いものとすることができる。
【0113】
リサイクルを行った後の第2の液体は、液体状態のままアルカリ土類金属資源として用いてもよいし、溶媒を除去して固体状態のアルカリ土類金属資源として用いてもよい。
【0114】
例えば、溶液状のアルカリ土類金属資源からアルカリ土類金属塩を析出させてもよい。アルカリ土類金属塩を析出させる場合、乾燥による溶媒の除去や、再結晶等の方法を採用することができる。
【0115】
特に、再結晶の処理を行うことにより、より高い純度のアルカリ土類金属塩を得ることができるため、例えば、得られたアルカリ土類金属塩を試薬として販売することもできる。
【0116】
また、本発明の処理方法で塩化カルシウム等を得る場合、当該塩化カルシウム等は、例えば、除湿剤、融雪剤、食品添加物、化学蓄熱の反応材料等としての用途があり、従来の硫酸湿式法のプロセスで得られる石膏に比べて、付加価値が高いものとなる。
これにより、副生成物の廃棄問題を好適に解決することができる。
【0117】
また、溶液状のアルカリ土類金属資源がMgCl等のマグネシウム塩と、CaCl等のカルシウム塩とを含むものである場合、これらを分離してもよい。より具体的には、例えば、溶液状のアルカリ土類金属資源と、硫酸イオンを含む物質とを混合してもよい。これにより、系内に、MgSOとCaSOが生成する。一方、MgSOは、CaSOより溶解度が十分に大きい。その結果、上記のように反応したカルシウムイオンおよび硫酸イオンは、反応系である液相から排除される一方で、マグネシウムイオンが反応系である液相に残存する。したがって、例えば、CaSOを固相として析出させつつ、マグネシウムイオンをMgClのような形態で液相中に残存させることができ、硫酸イオンを含む物質と混合した後の組成物を固液分離することにより、マグネシウム塩を高い含有率で含む液体と、カルシウム塩を高い含有率で含む固体とに分離することができる。
【0118】
マグネシウム塩を高い含有率で含む液体を乾燥することにより、純度の高いMgClを得ることができる。また、MgClを得る際に、例えば、再結晶等の処理を行ってもよい。このようにして得られるMgClは純度が高いものであるので、試薬として販売することもできる。さらに、乾燥する時に発生する溶媒は第2の液体に戻し、再利用することもできる。
【0119】
カルシウム塩を高い含有率で含む固体は、純度の高いCaSOであり、試薬や難燃剤として販売することもできる。
【0120】
上記のようにしてCaSOを生成させる場合、第2の液体と硫酸イオンを含む物質とを混合した後の組成物のpHは、3.0以上12.0以下であるのが好ましく、6.0以上10.0以下であるのがより好ましい。
【0121】
<第4の液体のリサイクル>
本発明の処理方法では、第4の固液分離工程で得られた第4の液体を、第2の溶解工程に供することによりリサイクルする。
【0122】
第4の固液分離工程で得られる第4の液体は、水酸化ナトリウムを含み、アルカリ性を呈するものである。したがって、第4の液体を第2の溶解工程に供することにより、第4の液体中に含まれる水酸化ナトリウムを好適に再利用することができ、処理方法全体で使用する化学物質の量の抑制や、処理方法の実施に要するコストを削減する等の効果が得られる。
【0123】
リサイクルされる第4の液体のpHは、12.0以上15.0以下であるのが好ましく、13.0以上14.5以下であるのがより好ましい。
【0124】
第4の固液分離工程で得られた第4の液体は、少なくとも一部がリサイクルされればよいが、第4の固液分離工程で得られた第4の液体のうち第2の溶解工程に供されリサイクルされるものの割合は、10質量%以上であるのが好ましく、50質量%以上であるのがより好ましく、80質量%以上100質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0125】
また、第4の固液分離工程で得られた第4の液体は、少なくとも1回リサイクルされるものであればよいが、繰り返し行う一連の工程における第4の液体のリサイクル回数は、3回以上であるのが好ましく、5回以上100回以下であるのがより好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0126】
<第3の固体のリサイクル>
本発明の処理方法では、第3の固液分離工程で得られた第3の固体を、第1の析出工程に供することによりリサイクルしてもよい。
【0127】
第3の固液分離工程で得られた第3の固体は、水酸化鉄および水酸化アルミニウムよりなる群から選択される少なくとも1種を含むものである。したがって、第3の固体を第1の析出工程における第2の物質として供することにより、第3の固体中に含まれる水酸化鉄や水酸化アルミニウムを好適に再利用することができ、処理方法全体で使用する化学物質の量の抑制や、処理方法の実施に要するコストを削減する等の効果が得られる。
【0128】
また、第3の固液分離工程を終了した時点で、第1の溶解工程に供される被処理物中に含まれていたリンのほとんどは、第3の液体に含まれているが、第3の固体にも比較的高い含有率で含まれている。したがって、この第3の固体を第1の析出工程に供することにより、リン資源をより効率よく回収することができる。
【0129】
第3の固液分離工程で得られた第3の固体を第1の析出工程に供することによりリサイクルする場合、当該第3の固体は、塩酸に溶解した後に、第1の液体とともに第1の析出工程に供されるのが好ましい。
これにより、リサイクルされる第3の固体の反応性を高めることができる。
【0130】
第3の固液分離工程で得られた第3の固体をリサイクルする場合、第3の固液分離工程で得られた第3の固体は、少なくとも一部がリサイクルされればよいが、第3の固液分離工程で得られた第3の固体のうち第1の析出工程に供されリサイクルされるものの割合は、10質量%以上であるのが好ましく、50質量%以上であるのがより好ましく、80質量%以上100質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0131】
繰り返し行う一連の工程における第3の固体のリサイクル回数は、3回以上であるのが好ましく、5回以上100回以下であるのがより好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0132】
また、第1の析出工程に供されリサイクルされる第3の固体は、重金属の含有率が10質量%以下であるのが好ましく、1質量%以下であるのがより好ましい。
【0133】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されない。
【0134】
例えば、本発明の処理方法は、前述した工程以外の工程(例えば、前処理工程、中間処理工程、後処理工程等)を有していてもよい。
【実施例0135】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0136】
(実施例1)
以下のようにして、リン鉱石を被処理物とする処理方法を実施した。
【0137】
まず、原料となるヨルダン産のリン鉱石を用意した。
リン鉱石は、粉砕して、微粉砕(粒径0.15mmふるい90%パス)と粗粉砕(粒径2mm以下)との2種類の粒径とした。
【0138】
次に、三角フラスコに2.0M/L濃度(2.0モル濃度)の塩酸を200mL入れ、20℃で、リン鉱石10gをこの三角フラスコ内に添加し、マグネットスターラーを用いて1時間撹拌した。これにより、リン鉱石中の酸化リンをリン酸イオンとして溶出させた(第1の溶解工程)。
【0139】
第1の溶解工程で用いたリン鉱石の質量[g]と、当該第1の溶解工程で用いた塩酸中に含まれる塩化水素(HCl)の物質量[mol]との比(HCl/リン鉱石)は、0.04[mol/g]であった。
本工程の終了時における液相のpHは、1.0以下であった。
【0140】
その後、ろ紙を濾過器にセットし、固液分離し、第1の液体と第1の固体とを得た(第1の固液分離工程)。
【0141】
次に、第1の液体200mLに対し、20℃で、水酸化カルシウムと、塩化鉄とを加えながら撹拌し、pHメーターを用いてpHを測定した。溶液のpHが2.0となった時点で水酸化カルシウムおよび塩化鉄の添加を止め、さらに30分間撹拌した(第1の析出工程)。
【0142】
これにより、鉄およびリンを含む固体としての第2の固体が析出し、第2の固体と第2の液体とを含む第2の混合物を得た。このとき、リンは、主に鉄のリン酸塩として析出した。
【0143】
その後、ろ紙を濾過器にセットし、真空ポンプを用いて固液分離を行った(第2の固液分離工程)。
【0144】
第2の固液分離工程で得られた固相である第2の固体を、乾燥した後、10gを分取し、これを20質量%濃度(5mol/L)のNaOH水溶液が200mL入っている三角フラスコに投入し、20℃で1時間撹拌した。これにより、リンを再溶出させた(第2の溶解工程)。
【0145】
本工程において、水酸化ナトリウム水溶液の体積[mL]と、乾燥後の第2の固体の質量[g]との比(水酸化ナトリウム水溶液/第2の固体)は、20.0であった。また、水酸化ナトリウムの物質量[mol]と、第2の固体の質量[g]との比(NaOH/第2の固体)は、0.1であった。
本工程終了時における液相のpHは、13.5以上であった。
【0146】
リンが溶解した液相である第3の液体をろ紙で固液分離し、水酸化鉄を含む固相である第3の固体と分離した(第3の固液分離工程)。
【0147】
次に、固液分離した第3の液体に対し、添加するカルシウムの物質量[mol]と、第3の液体中のリンの物質量[mol]との比(Ca/P)が1.6となるように、撹拌を行いながら、水酸化カルシウムを添加し、さらに90分間撹拌した(第2の析出工程)。
【0148】
これにより、リン酸のカルシウム塩を析出させた。本工程は、室温(20℃)で行った。また、本工程終了時における反応液のpHは、13.5以上であった。
【0149】
その後、ろ紙を濾過器にセットし、固液分離し、NaOHを含む第4の液体と、主としてリン酸のカルシウム塩で構成された第4の固体とを得た(第4の固液分離工程)。
【0150】
得られた第4の固体中における各重金属の含有率は、いずれも、各重金属に対して肥料基準値、言い換えると、許可最大量以下であった。
【0151】
例えば、第4の固体中におけるAsの含有率は、(P)換算で、9.87mg/kgであり、肥料の基準値である4000mg/kgに対し0.25%であった。また、第4の固体中におけるCdの含有率は、(P)換算で、2.38mg/kgであり、肥料の基準値である150mg/kgに対し1.59%であった。
【0152】
したがって、得られた第4の固体は、重金属の含有量が基準値を大幅に下回り、肥料として安全性に問題はないと考えられる。
リン鉱石および第4の固体に含まれる重金属や金属の含有率を表1に示す。
【0153】
【表1】
【0154】
表1に示すように、得られた第4の固体は、原料であるリン鉱石に比べて、各重金属の含有量が大幅に減少していることがわかる。
【0155】
リン鉱石、第1の固液分離工程で得られた第1の固体、および第4の固液分離工程で得られた第4の固体について、Ga検出器を用いてウラン系列の放射能濃度[Bq/g]を求めた。その結果を図2に示す。図2から、第1の溶解工程において、リン鉱石を塩酸で溶出させると、リン鉱石中の放射性物質の多くは第1の固体側に移動し、最終析出物である第4の固体にはほとんど含まれていないことがわかる。
【0156】
第3の固液分離工程で得られた第3の固体を、塩酸に溶解した後で第1の析出工程に供することによりリサイクルし、第2の固液分離工程で得られた第2の液体を第1の溶解工程に供することによりリサイクルし、第4の固液分離工程で得られた第4の液体を第2の溶解工程に供することによりリサイクルすることで、第1の溶解工程~第4の固液分離工程の一連の工程を繰り返し行った。
【0157】
なお、2回目以降のサイクルの第1の析出工程においては、第2の物質として第3の固体に含まれる水酸化鉄を用い、新たに第2の物質を追加して用いることはなかった。また、2回目以降のサイクルの第2の溶解工程においては、水酸化ナトリウム水溶液として第4の液体を用い、新たに第4の液体を追加して用いることはなかった。
【0158】
第3の固体のリサイクル回数、第2の液体のリサイクル回数、第4の液体のリサイクル回数は、いずれも、5回とした。ただし、2回目のリサイクルからは、追加して用いるリン鉱石の質量は10.0gとし、第1の溶解工程での液相のpHが1回目のサイクルと同様となるように、塩酸を追加して用いた。
【0159】
その結果、2回目以降の第1の溶解工程では塩酸を添加して2.0M/Lの濃度にする必要はあるが、残留塩酸を利用でき塩酸の使用量を減らすことができた。また、2回目以降の第2の溶解工程で2.0M/L濃度のNaOH水溶液を追加して用いる必要がなかった。すなわち、リサイクルにより、特許文献1に記載の方法に比べて、全体としてのNaOHの使用量を1/100以下に大幅に削減することができ、HClの使用量も削減できた。
【0160】
また、2回目、3回目、4回目の第4の固液分離工程で得られた第4の固体についても、1回目の第4の固液分離工程で得られた第4の固体と同様に、各重金属の含有率は、いずれも、各重金属についての肥料基準値(許可最大量)以下であった。
【0161】
2回目、3回目の第4の固液分離工程で得られた第4の固体を合わせて水洗した後、乾燥した。その結果、ハイドロキシアパタイトとして換算して純度90.3%の析出物が得られた。析出時の第4の固体においてPの含有割合(換算値)は、38.28質量%であった。
【0162】
なお、析出物の同定は、X線回折(XRD)法とICP-MS法とを用いて行い、モリブデン青吸光光度法によりリン酸濃度を定量した。
【0163】
また、得られた第4の固体について、肥料としての適性を評価する目的で、独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC)により定められている肥料分析法を参考に、水溶性試験およびク溶性試験を行ったところ、水溶性のものが0%、ク溶性のものが100%であった。
【0164】
第1の固液分離工程で得られた第1の液体、第2の固液分離工程で得られた第2の固体および第2の液体について、各サイクルにおける各重金属の含有量を測定した。
【0165】
なお、重金属の含有量については、ICP分光分析(ICP-AES)・ICP質量分析(ICP-MS)を用いて液相中の重金属の濃度を求め、重金属について、固相に含まれる量と液相に含まれる量とを算出した。
【0166】
その結果を図3に示す。なお、第1の液体についての結果を図3(a)に、第2の液体についての結果を図3(b)に、第2の固体についての結果を図3(c)に、それぞれ示す。
【0167】
図3から、重金属は、第1の溶解工程で液相(第1の液体)に溶出しており、リサイクルを繰り返すことにより、重金属が濃縮されていることがわかる。また、第1の析出工程では、重金属は、析出物である第2の固体には移動せず、析出残液である第2の液体中に留まることが確認された。また、リサイクルを繰り返しても、クロムを除いて、重金属は、第2の固体には移動せず、第2の液体に濃縮されていることが確認された。なお、第2の液体は、物理的にも問題はなく、リサイクルが可能であった。
【0168】
また、5回リサイクルした後の第2の固液分離工程で得られた第2の液体中に、pH12までアルカリ溶液を添加して、重金属を析出させた。その後、固液分離、すなわち、固体側の重金属を除去した、液体における各種金属や重金属の含有量を、図4に示す。図4に示すように、Ca以外の金属や重金属の濃度は十分に低く、高純度の塩化カルシムが得られた。
【0169】
また、この第2の液体と、微量のリン鉱石を塩酸に溶解した液体とを混合し、さらに、水酸化カルシウムを添加しながら撹拌し、pHメーターを用いてpHを測定した。溶液のpHが10.0となった時点で、水酸化カルシウム添加を止め、さらに30分間撹拌した。本工程は、室温(20℃)で行った。これにより、リン酸のカルシウム塩とともに、不純物である重金属を析出させた。
【0170】
その後、当該析出物を固液分離により除去した。固液分離された液相を乾燥したところ、高純度のCaClが得られた。表2には、第2の液体から得られた乾燥物(CaCl)中におけるCa以外の金属や重金属の含有量を示す。
【0171】
【表2】
【0172】
上記実施例1において、第1の溶解工程での塩酸量によるリンの溶出率への影響を評価するために、第1の溶解工程で用いたリン鉱石の質量[g]と、当該第1の溶解工程で用いた塩酸中に含まれる塩化水素(HCl)の物質量[mol]との比、HCl/リン鉱石[mol/g]を変えて、リンの溶出率を求めた。
【0173】
なお、リンの溶出率、析出率は、モリブデン青吸光光度法によりリン酸濃度を定量し、その結果から算出した。
【0174】
その結果を図5に示す。図5から、第1の溶解工程において、HCl/リン鉱石[mol/g]を0.016以上とすることで、リン鉱石中に含まれるリンの溶出率をほぼ99%以上とすることができ、リンをより好適に析出できることがわかる。
【0175】
上記実施例1において、第1の溶解工程での温度および攪拌時間によるリンの溶出率への影響を評価するために、温度を20℃、80℃と変え、攪拌時間の経過に伴うリンの溶出率を求めた。その結果を図6に示す。図6から、温度を変えてもリンの溶出率には大きな影響はなく、また、攪拌時間を10分間以上とすることで、リン鉱石中に含まれるリンの溶出率を99%以上とすることができ、リンをより好適に溶出できることがわかる。
【0176】
上記実施例1において、第1の析出工程でのpHによるリンの析出率への影響を評価するために、第1の析出工程で用いる第1の固体中のリンの物質量[mol]と、当該第1の析出工程で用いる塩化鉄中の鉄の物質量[mol]とが、P:Fe=1:1となるように塩化鉄を添加するとともに、pHを変え、リンの析出率を求めた。その結果を図7に示す。図7から、第1の析出工程において、pHが上がるほどリンの析出率は向上し、pHを2.0以上とすることで、第1の溶液中に含まれるリンの析出率を99%以上とすることができ、リンをより好適に析出できることがわかる。
【0177】
上記実施例1において、第2の溶解工程での水酸化ナトリウム水溶液濃度によるリンの溶出率への影響を評価するために、第2の溶解工程で用いる水酸化ナトリウムの物質量[mol]と、当該第2の溶解工程で用いる第2の固体(リン酸鉄)の質量[g]との比、水酸化ナトリウム/リン酸鉄[mol/g]を変えて、リンの溶出率を求めた。その結果を図8に示す。図8から、第2の溶解工程において、水酸化ナトリウム/リン酸鉄[mol/g]を0.10以上とすることで、リンの溶出率を97%以上とすることができ、リンをより好適に溶出できることがわかる。
【0178】
上記実施例1において、第2の溶解工程での固液比による、リンの溶出率への影響を評価するために、固液比、言い換えると、液相(L)である水酸化ナトリウム水溶液の体積[mL]と、固相(S)である第2の固体の質量[g]との比、L/S[mL/g]を変え、リンの溶出率を求めた。その結果を図9に示す。図9から、固液比を変えたことによるリン溶出率への影響はほとんど見られないことがわかる。また、高濃度アルカリである水酸化ナトリウム水溶液による溶出は、第3の固液分離工程におけるろ過速度にもほとんど影響しないことがわかる。
【0179】
上記実施例1において、第2の溶解工程での固液比による、第3の固液分離工程でのろ過時間への影響を評価するために、固液比L/S[mL/g]を変え、ろ過に要した時間を求めた。その結果を図10に示す。
【0180】
上記実施例1において、第2の析出工程でのカルシウム添加量および析出時間による、リンの析出率への影響を評価するために、カルシウムの物質量[mol]と、第3の液体中に含まれるリンの物質量[mol]との比Ca/P、および、析出時間を変えて、リンの析出率を求めた。また、第2の溶解工程での水酸化ナトリウム濃度、すなわち、水酸化ナトリウム/析出物[mol/g]による、第2の析出工程でのリンの析出率への影響を評価するために、上記Ca/Pとともに、水酸化ナトリウム/析出物[mol/g]も変化させた。その結果を図11に示す。なお、図11(a)では、水酸化ナトリウム/析出物[mol/g]を一定にして、析出時間を変えた場合の、Ca/Pとリンの析出率との関係を示し、図11(b)では、水酸化ナトリウム/析出物[mol/g]に対して、Ca/Pを変えた場合の、析出時間とリンの析出率との関係を示す。
【0181】
図11から、第2の溶解工程での水酸化ナトリウム濃度が同じ場合、第2の析出工程でのカルシウム添加量が多いほど、また、析出時間が長いほど、リンの析出率が高くなる傾向にあることがわかる。また、第2の析出工程でのカルシウム添加量が同じであっても、第2の溶解工程での水酸化ナトリウム濃度が高い場合には、析出率は高くなる傾向になることがわかる。すなわち、第2の析出工程でのリンの析出率には、第2の析出工程でのカルシウム添加量および析出時間だけでなく、前の第2の溶解工程での水酸化ナトリウム濃度も影響することがわかる。
【0182】
また、第2の析出工程において、Ca/Pを1.67とした場合の、析出時間とリンの析出率との関係を図12に示す。図12から、析出時間が90分間で、第3の液体中のリンの97%が析出しており、析出時間を90分間以上とすることでリンを好適に析出できることがわかる。
【0183】
上記実施例1において、1サイクル目の第1の析出工程では、塩化鉄に替えて塩化アルミニウムを用い、2サイクル目以降では、水酸化鉄に替えて水酸化アルミニウムを用いた以外は、同様にして処理方法を実施した。その結果、上記と同様に優れた結果が得られた。このように、1サイクル目の第1の析出工程で塩化アルミニウムを用い、2サイクル目以降の第1の析出工程で水酸化アルミニウムを用いた場合の、第1の析出工程でのpHを変えた時のリンの析出率への影響を示すグラフを図13に示す。
【0184】
上記実施例1において、第1の析出工程で、水酸化カルシウムに替えて炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムを用いた以外は、それぞれ、同様にして処理方法を実施した。その結果、上記と同様に優れた結果が得られた。このように、第1の析出工程で、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムを用いた場合の、第1の析出工程でのpHを変えた時のリンの析出率への影響を示すグラフを図14に示す。
【0185】
上記実施例1において、第2の析出工程で、水酸化カルシウムに替えて炭酸カルシウムを用いた以外は、同様にして処理方法を実施した。その結果、上記と同様に優れた結果が得られた。このように、第2の析出工程で、炭酸カルシウムを用いた場合の、析出時間を変えた時のリンの析出率への影響を示すグラフを図15に示す。
【産業上の利用可能性】
【0186】
本発明の処理方法は、被処理物であるリン鉱石と塩酸とを混合し、前記被処理物中に含まれるリンを溶解させ、第1の液体および第1の固体を含む第1の混合物を得る第1の溶解工程と、リンが溶解するとともに塩化物イオンを含む前記第1の液体を、前記第1の固体と分離する第1の固液分離工程と、前記第1の液体に、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、および、炭酸マグネシウムよりなる群から選択される少なくとも1種である第1の物質、ならびに、鉄系物質およびアルミニウム系物質よりなる群から選択される少なくとも1種である第2の物質を添加して、鉄およびアルミニウムのうちの少なくとも一方とリンとを含む第2の固体を析出させ、第2の液体および前記第2の固体を含む第2の混合物を得る第1の析出工程と、鉄およびアルミニウムのうちの少なくとも一方ならびにリンを含む前記第2の固体を、カルシウムおよびマグネシウムのうちの少なくとも一方が溶解するとともに塩化物イオンを含む前記第2の液体と分離する第2の固液分離工程と、前記第2の固体を水酸化ナトリウム水溶液で溶解させ、第3の液体および第3の固体を含む第3の混合物を得る第2の溶解工程と、リンおよびナトリウムが溶解した前記第3の液体を、水酸化鉄および水酸化アルミニウムよりなる群から選択される少なくとも1種を含む前記第3の固体と分離する第3の固液分離工程と、前記第3の液体に、水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウムよりなる群から選択される少なくとも1種である第3の物質を添加して、カルシウムおよびリンを含む第4の固体を析出させ、第4の液体および前記第4の固体を含む第4の混合物を得る第2の析出工程と、カルシウムおよびリンを含む前記第4の固体を、水酸化ナトリウムが溶解した前記第4の液体と分離する第4の固液分離工程とを有する一連の工程を繰り返し行う処理方法であって、前記第4の固液分離工程で得られた前記第4の液体を、前記第2の溶解工程に供することによりリサイクルする。そのため、被処理物であるリン鉱石から、低コストで効率よくリンを分離することができるとともに、副生成物の廃棄問題を解決し、廃液量や全体として使用する化学物質の量を抑制することができる処理方法を提供することができる。したがって、本発明の処理方法は、産業上の利用可能性を有する。
図1
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