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  • 特開-カルマン渦型流量計 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023037141
(43)【公開日】2023-03-15
(54)【発明の名称】カルマン渦型流量計
(51)【国際特許分類】
   G01F 1/32 20220101AFI20230308BHJP
【FI】
G01F1/32 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021143701
(22)【出願日】2021-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】000104652
【氏名又は名称】キヤノン電子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉田 達夫
(57)【要約】
【課題】流路形成部材の振動の影響を軽減できるカルマン渦型流量計を構成する。
【解決手段】流路内に配置された渦発生体4の下流側に発生するカルマン渦8、9を渦検出体5によって検出することで、流路3を流れる流体の流量を計測するカルマン渦型流量計であって、渦検出体5が、弾性部材6を介して流路形成部材3に固定されていることを特徴とする。また、流路形成部材3には、径方向に貫通する貫通孔30が設けられ、弾性部材6は貫通孔30から流体が漏出することを防ぐシール部材を兼ねていることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路内に配置された渦発生体の下流側に発生するカルマン渦を渦検出体によって検出することで、前記流路を流れる流体の流量を計測するカルマン渦型流量計であって、
前記渦検出体が、弾性部材を介して流路形成部材に固定されていることを特徴とするカルマン渦型流量計。
【請求項2】
前記流路形成部材には、径方向に貫通する貫通孔が設けられ、
前記弾性部材は前記貫通孔から流体が漏出することを防ぐシール部材を兼ねていることを特徴とする請求項1に記載のカルマン渦型流量計。
【請求項3】
前記弾性部材の弾性係数は、
前記弾性部材および前記渦検出体が構成する系の共振周波数が、前記カルマン渦型流量計が搭載される装置の電源周波数およびその整数倍の周波数とは異なるような弾性係数であることを特徴とする請求項1または2に記載のカルマン渦型流量計。
【請求項4】
前記弾性部材は、前記流路形成部材に対して押さえ部材によって押圧されることで固定され、
前記渦検出体は、前記流路形成部材の内壁よりも前記流路の内部側に突出していることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のカルマン渦型流量計。
【請求項5】
前記渦発生体と前記渦検出体とが同一の前記弾性部材に固定されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のカルマン渦型流量計。
【請求項6】
前記弾性部材における前記流路の内部側に形成された接液面は、前記流路形成部材の内壁と同一面となるように形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のカルマン渦型流量計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルマン渦型流量計の構成に関し、特に、装置の振動の影響を軽減したカルマン渦型流量計に関する。
【背景技術】
【0002】
カルマン渦型流量計は、流路内に配置した渦発生体の下流側に発生するカルマン渦の周期を、渦発生体の下流側に渦検知手段を配置して検出するものである。渦検知手段としては、様々な方法が提案されているが、特許文献1などで開示されるように、圧電素子を用いるのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9-126928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カルマン渦型流量計に対し、流路形成部材に機械的振動が印加されると計測精度が低下してしまうという課題がある。これは、上述したような圧電素子や歪ゲージなど、機械的な変位を検出する素子を渦検知手段として用いる場合に、流路形成部材の振動が圧電素子などに伝達されると、流路形成部材の機械的振動による起電力が発生し、これがノイズ成分となり、その結果、流量計測の精度を低下させてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記を鑑み、本発明に係るカルマン渦型流量計は、
流路内に配置された渦発生体の下流側に発生するカルマン渦を渦検出体によって検出することで、前記流路を流れる流体の流量を計測するカルマン渦型流量計であって、
前記渦検出体が、弾性部材を介して流路形成部材に固定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、流路形成部材の振動による計測精度の低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施例に係るカルマン渦型流量計の部分断面図。
図2】本発明の一実施例に係るカルマン渦型流量計の拡大断面図。
図3】本発明の一実施例に係るカルマン渦型流量計のブロック図。
図4】本発明の一実施例に係るカルマン渦型流量計の信号波形イメージの一例。
図5】本発明の一実施例に係るカルマン渦型流量計の信号波形イメージの他の例。
図6】本発明の一実施例に係るカルマン渦型流量計の信号波形イメージの他の例。
図7】流路形成部材を手で叩いた時のローパスフィルタの出力信号波形の例。
図8】本発明の他の実施例に係るカルマン渦型流量計の拡大断面図。
図9】本発明の他の実施例に係るカルマン渦型流量計の拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(実施例1)
本発明は、流路形成部材の振動の影響を受けにくいカルマン渦型流量計を提供するものである。以下、図面を参照しながら本発明の実施例1に係るカルマン渦型流量計について説明する。図1には本実施例に係るカルマン渦型流量計の部分断面図を示す。
【0009】
フランジ1及び2で他の装置に接続された円筒状の流路形成部材3の内部に形成される流路には、流体が流れる流路方向7に沿って、渦発生体4及びその下流側に所定の間隔をあけて渦検出体としての圧電素子5が配置されている。圧電素子5は、流路形成部材3に対し弾性部材6を介して固定されている。
【0010】
また、図2に渦検出部分の一例を示す拡大断面図を示す。圧電素子5は、弾性部材6に陥入しており、弾性部材6の内部を通して信号を取り出す電線16が外部に引き出されている。なお、圧電素子5と弾性部材6の間には、ここでは図示していない接着部材を用いて漏水を防止する構造としても良い。弾性部材6は、押さえ部材10によって流路形成部材3に押圧されることによって固定されており、押さえ部材10は、ネジ11及び12によって流路形成部材3にネジ止めされている。このような構造にすれば、ネジ11及び12を取り外すことで、容易に圧電素子5及び弾性部材6を取り外すことが可能となる。
【0011】
また、図2に示すように、渦発生体4及び圧電素子5は、その中心線14及び15が、流路の径方向の中心を通るように配置されていると共に、中心線14及び15が互いに平行となるよう配置されている。また、渦発生体4及び圧電素子5は、流路方向7に対して直交するように配置されている。換言すると、流路形成部材3の内壁の法線方向に中心線14及び15が向くように配置されている。
【0012】
また、渦発生体4は流路形成部材3の内壁よりも流路の内部側(径方向の中心側)に対し突出しており、さらに、圧電素子5よりも流路の内部側に対し突出した構造となっている。
【0013】
このような構成において、流路形成部材3の内部に図1の流路方向7で示す方向に流体が流れると、渦発生体4の下流側にカルマン渦8やカルマン渦9などが発生する。発生したカルマン渦8や9が圧電素子5の近傍を通過した時に、圧電素子5に機械的な応力が加わり、電圧が発生する。一般に、渦の発生周期は、流体の流速と一定の関係があることが知られており、渦の発生周期を圧電素子5によって計測することで、既知である流路の断面積から流体の流量を算出することができる。
【0014】
図3に本実施例に係るカルマン渦型流量計のブロック図を示す。図3において、カルマン渦によって圧電素子5に誘起された信号は、アンプ19で増幅された後ローパスフィルタ20及びハイパスフィルタ21により、不要な信号成分を減衰させられる。その後、コンパレータ22によりデジタル信号に変換され、CPU23によって、周期の計測が行われ、算出された流量が外部に出力される。
【0015】
本発明と同様の電気ブロックで構成された従来の測定系で、流量がゼロの時にアンプ19の出力で計測される信号を模式的に表した信号波形イメージの一例を、図4に示す。なお、以下の説明においては、従来の測定系においても同様の構成は同じ符号を用いて説明する。
【0016】
図4に示すように、流量がゼロであるにも関わらず、アンプの出力信号が観察されるのは、装置全体が動力源(その多くはモーター)によって機械的に駆動されている為、装置全体に機械的な振動が発生しており、その振動を圧電素子が検出することによるものである。この為、流量がゼロの時に計測される信号は、一次電源の周波数(通常50Hz又は60Hz)の倍数の周波数成分が基本波となる。
【0017】
図5には、従来の測定系において流路にある流体を流した状態のローパスフィルタ20の出力を模式的に表した信号波形イメージを示す。通常、ローパスフィルタ20のカットオフ周波数は、計測範囲内で発生するカルマン渦の発生周期の上限よりも高い周波数に設定され、計測範囲としては概ね100Hzから数百Hz前後の周波数になることが多く、殆どの場合、一次電源の周波数よりも高い周波数に設定される。この為、カルマン渦による出力の他に、前述の機械的な振動による出力も含まれ、信号に歪が生じている。
【0018】
図6に、従来の測定系において流路にある流体を流した状態のハイパスフィルタ21の出力を模式的に表した信号波形イメージを示す。ハイパスフィルタ21のカットオフ周波数は、計測範囲の下限で生じるカルマン渦の発生周期の下限よりも低い周波数である必要がある。従ってこの周波数は、必ずしも一次電源の周波数よりも高いとは限らず、ハイパスフィルタ21の出力には流路形成部材3の振動による影響が残ってしまうことが分かる。
【0019】
さらに、オペレータが不注意により流路形成部材3に接触してしまった場合等、流路形成部材3に外部からの衝撃力が加わった場合の、従来の測定系におけるローパスフィルタ20の出力には図7に示すような出力が現れ、計測の誤差要因となる。図7は、実際に従来の測定系を作成し、手で流路形成部材3を叩いた時の波形であり、時刻Tで流路形成部材3を叩いたあと、所定の周期で振動が発生している様子が分かる。
【0020】
このような振動による影響は、上述したようなローパスフィルタやハイパスフィルタなどの電気的な手段では除去することが難しく、誤差の要因となっていた。
【0021】
これに対し、本発明によれば、図1の流路形成部材3と圧電素子5との間に弾性部材6を設けることによって圧電素子5に伝わる振動が減衰し、出力信号に含まれる外部からの機械的な振動によるノイズ成分は軽減され、精度の高い計測が可能となる。
【0022】
なお、弾性部材6は圧電素子5に伝わる振動を低減するだけでなく、流路形成部材3に設けた圧電素子5から信号を取り出すための電線16を引き出すための貫通孔30を封止するように密着させることで、流路形成部材3から流体が漏出することを防ぐシール部材の役割を兼ねていても良い。
【0023】
この場合、図2に示した押さえ部材10は、その取り付け時において流路形成部材3に接触する前に、弾性部材6に密着し弾性部材6を流路形成部材3との間に挟持した状態で流路形成部材3に対し密着させる構造とするとよい。つまり、弾性部材6の押さえしろにおける流路形成部材3の径方向に対する厚みが、押さえ部材10側の押さえしろの厚みよりも大きいことが好ましい。
【0024】
また、この場合、押さえ部材10はネジ11及び12によって流路形成部材3に対しネジ止めされる為、バネ性を持った材料であることが望ましく、さらには電気的なシールド効果を持たせるために導電性の高い材料、例えば金属であることが望ましい。
【0025】
さらに、図1及び図2では、弾性部材6は稠密な構造となっているが、内部に空間を持ち圧電素子を梁で支える構造としてもよい。また、圧電素子5と弾性部材6からなる系が持つ自己共振周波数が、カルマン渦型流量計が搭載される装置のAC電源の周波数、多くの場合は50Hzあるいは60Hzの整数倍の周波数とならないよう、弾性部材6の弾性係数などの機械的な特性を選定することで、調整されていることが好ましい。
【0026】
また、図2では圧電素子5は弾性部材6の内部に突き当たって固定される態様を示しているが、圧電素子5は弾性部材6を貫通するように構成されていても構わない。
【0027】
(実施例2)
図8に、本発明の実施例2に係るカルマン渦型流量計の断面図を示す。基本的な構成は実施例1と同様であり、同じ構成については同じ符号を用いて示し、その説明を省略する。本実施例では圧電素子5が固定されている弾性部材6が実施例1よりも流路方向7の上流側に拡張されており、渦発生体4は弾性部材6に係止されている。なお、図2に示す実施例1と同様、渦発生体4は圧電素子5よりも流路の内部に向かって突出した構造となっている。このように、渦発生体4と圧電素子5と弾性部材6とを一体のユニットとして形成することで、製品を組み立てる際に、流路形成部材3に対して一つのユニットを押さえ部材10を介して固定するだけで済み、組立性が向上すると共に、圧電素子5あるいは渦発生体4が破損した場合でも押さえ部材10を取り外すことにより容易に交換可能である。
【0028】
なお、図8では弾性部材6の突出部は端部が概略直角に形成されているが、端部は直角である必要は無く、例えば曲面形状あるいは渦発生体4及び圧電素子5の径方向の先端部を頂点とした円錐形状であっても良い。
【0029】
なお、本実施例においては、カルマン渦を発生するための渦発生体4も弾性部材6に陥入しているが、渦発生体4を固定するためのネジ13を設け、押さえ部材10の外側から渦発生体4をネジ13で固定可能になっている。さらに、圧電素子5に対してもネジを設けて押さえ部材10の外側から固定させるように構成しても良い。このように、本発明は、渦発生体4や圧電素子5を確実に固定するように構成することを妨げない。
【0030】
(実施例3)
図9に、本発明の実施例3に係るカルマン渦型流量計の断面図を示す。基本的な構成は実施例2と同様であり、同じ構成については同じ符号を用いて示し、その説明を省略する。この実施例では弾性部材6の接液面24が、流路形成部材3の内壁と同一面となるように形成されている。
【0031】
この構成により、弾性部材6が流体の流れを乱す事が無くなり、測定の安定性を増すことが出来る。なお、図9に示す断面位置において流路形成部材3の内壁と接液面24とが同一面となっていればよく、接液面24は平坦面であっても良いが、接液面24が流路形成部材3の内壁と面一となる形状であることが好ましい。例えば流路形成部材3が円筒形状であれば接液面24も流路形成部材3内壁の曲率半径と同じ曲率半径の円弧で形成されていることが好ましい。
【0032】
なお、これまでの実施例では渦検出素子として圧電素子を例に説明してきたが、流路内に発生した渦を検出出来れば、圧電素子に限らない。例えばストレンゲージ等の機械的な歪みを検知する検出素子を用いても良い。
【符号の説明】
【0033】
3 流路形成部材
4 渦発生体
5 圧電素子
6 弾性部材
10 押さえ部材
24 接液面
30 貫通孔


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9