(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023037221
(43)【公開日】2023-03-15
(54)【発明の名称】スポット溶接継手、自動車用部品、及びスポット溶接継手の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 11/16 20060101AFI20230308BHJP
B23K 11/11 20060101ALI20230308BHJP
B23K 11/00 20060101ALI20230308BHJP
B23K 11/24 20060101ALI20230308BHJP
【FI】
B23K11/16
B23K11/11 540
B23K11/00 570
B23K11/24 315
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021143839
(22)【出願日】2021-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】兼光 萌
(72)【発明者】
【氏名】松田 和貴
(72)【発明者】
【氏名】児玉 真二
【テーマコード(参考)】
4E165
【Fターム(参考)】
4E165AA02
4E165AB02
4E165AB03
4E165AB04
4E165AC01
4E165CA02
4E165CA05
4E165CA06
4E165EA12
(57)【要約】 (修正有)
【課題】引張強さ1800MPa以上の鋼板が母材として用いられながら、従来よりも優れたCTSを有するスポット溶接継手及び自動車部品を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係るスポット溶接継手11は、引張強さが1800MPa以上の鋼板111を1枚以上含む、重ねられた複数の鋼板を有する板組11と、板組11の複数の鋼板を接合するナゲット12と、を備え、P偏析度が0.250%以下、及びMn偏析度が1.500%以下の要件の一方又は両方を満たし、ナゲット炭素量指標Cnugが0.3400質量%未満である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張強さが1800MPa以上の鋼板を1枚以上含む、重ねられた複数の鋼板を有する板組と、
前記板組の複数の前記鋼板を接合するナゲットと、
を備えるスポット溶接継手であって、
引張強さが最も大きい前記鋼板を、第1の鋼板と定義し、
前記第1の鋼板以外の前記鋼板を、第2の鋼板と定義し、
前記ナゲットのうち、前記第1の鋼板と前記第2の鋼板との合わせ面よりも前記第1の鋼板の側にある領域を、前記ナゲットの第1の領域と定義し、
前記スポット溶接継手の、前記ナゲットの中心を通り且つ前記板組の表面に垂直な断面において、前記第1の領域の内部であり、且つ前記第1の領域の端部に最も近い位置に設定された200μm四方の矩形の領域であって、その四辺のうち1つの延在方向と前記板組の厚さ方向とが一致する領域を、P偏析評価領域と定義し、
前記P偏析評価領域において、前記P偏析評価領域の縦辺及び横辺それぞれに沿って0.5μm間隔で配されたP濃度測定点それぞれにおいて測定されたP濃度の平均値を、平均P濃度と定義し、
前記P偏析評価領域において、前記平均P濃度の10倍以上のP濃度を有する前記P濃度測定点を、P偏析点と定義し、
前記P偏析点の個数が、全ての前記P濃度測定点の個数に占める割合をP偏析度と定義し、
前記スポット溶接継手の前記断面において、前記ナゲットの外部であり、前記第1の鋼板の内部であり、且つ前記第1の領域の前記端部に最も近い位置に設定された長辺240μm及び短辺120μmの矩形の領域であって、前記長辺の延在方向と前記板組の前記厚さ方向とが一致する領域を、Mn偏析評価領域と定義し、
前記Mn偏析評価領域において、前記Mn偏析評価領域の前記長辺及び前記短辺それぞれに沿って0.6μm間隔で配されたMn濃度測定点それぞれにおいて測定されたMn濃度の平均値を、平均Mn濃度と定義し、
前記Mn偏析評価領域において、前記平均Mn濃度の1.5倍以上のMn濃度を有する前記Mn濃度測定点を、Mn偏析点と定義し、
前記Mn偏析点の個数が、全ての前記Mn濃度測定点の個数に占める割合をMn偏析度と定義したとき、
前記P偏析度が0.250%以下、及び前記Mn偏析度が1.500%以下の要件の一方又は両方を満たし、
Ck、及び、前記ナゲットの前記中心を通り且つ前記板組の前記表面に垂直な前記断面において測定されるSkを下記式1に代入することによって算出されるナゲット炭素量指標Cnugが0.3400質量%未満である
スポット溶接継手。
【数1】
ここでCkは、前記板組の一方の前記表面からk番目の鋼板の、単位質量%での炭素量であり、Skは、前記ナゲットのうち、前記板組の前記一方の前記表面からk番目の前記鋼板に含まれる領域の、単位mm
2での面積であり、nは、前記板組に含まれる前記鋼板の枚数である。
【請求項2】
前記板組に含まれる前記鋼板の板厚の合計値を、前記板組に含まれる前記鋼板のうち最も薄いものの板厚で割った値を板厚比と定義したとき、
前記板厚比が2以上5以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のスポット溶接継手。
【請求項3】
前記第1の鋼板と接する前記第2の鋼板の引張強さが1800MPa未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載のスポット溶接継手。
【請求項4】
全ての前記第2の鋼板の引張強さが1800MPa未満であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のスポット溶接継手。
【請求項5】
前記第1の鋼板が、前記板組の内部に配されていることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のスポット溶接継手。
【請求項6】
前記第1の鋼板が、前記板組の表面に配されていることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のスポット溶接継手。
【請求項7】
前記ナゲット炭素量指標Cnug、及び前記ナゲットの平均ビッカース硬さHが、下記式2を満たすことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のスポット溶接継手。
1000×Cnug≦H≦580 :式2
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のスポット溶接継手を有する自動車用部品。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載のスポット溶接継手の製造方法であって、
引張強さが1800MPa以上の鋼板を1枚以上含む、重ねられた複数の鋼板を有する板組を、スポット溶接用の一対の電極を用いて挟み、一対の前記電極の間に本通電して、前記板組を溶融させる工程と、
一対の前記電極の間の通電を中止しながら加圧を保持することにより、前記板組を冷却して、前記板組を接合するナゲットを形成する工程と、
一対の前記電極の間に後通電して、前記ナゲットを加熱する工程と、
一対の前記電極の間の通電を中止しながら加圧を保持する工程と、
を備え、
前記複数の鋼板の平均板厚h(mm)、
前記本通電、前記冷却、前記後通電、及び前記保持における加圧力FE(N)、
前記本通電における電流値IW(kA)、
前記冷却における冷却時間tS(msec)、
前記後通電における電流値IP(kA)及び通電時間tP(msec)、並びに
前記保持における保持時間tH(msec)
が、下記式A~式Eを満たす
スポット溶接継手の製造方法。
1960×h≦FE≦3920×h :式A
1≦tS≦400 :式B
0.6×IW≦IP≦0.9×IW :式C
50≦tP≦1000 :式D
0≦tH≦200 :式E
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接継手、自動車用部品、及びスポット溶接継手の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抵抗スポット溶接は、安価且つ迅速に鋼板を接合することができる。そのため、抵抗スポット溶接は、例えば自動車ボディー部材の材料である高強度鋼板の接合等、様々な用途で用いられている。
【0003】
一方で自動車分野では、鋼板の高強度化及び薄肉化が進んでいる。鋼板を高強度化及び薄肉化することにより、自動車ボディー部材の強度を保ちながら、その重量を削減し、燃費向上等の効果を得ることができる。
【0004】
ここで、引張強さ1800MPa超級の鋼板では、スポット溶接継手の接合強度の低下が課題となっている。例えば、母材鋼板の引張強さが780MPaを超えると十字引張強さ(Cross Tension Strength、CTS)が低下するという課題がある。十字引張強さとは、板組に含まれる鋼板を剥離させる方向の応力に対する接合部の強度を意味する。
【0005】
CTS低下の要因の一つは、ナゲットの端部付近における靭性の低下である。高強度鋼板においては、種々の条件の熱処理を適用して金属組織を最適化することによって、靭性が確保されている。しかし、高強度鋼板をスポット溶接すると、ナゲット及びその周囲の熱影響部において金属組織が変化し、その結果、ナゲットの端部の脆化が生じる。その結果、ナゲットの端部を介したスポット溶接継手の破断が生じやすくなる。以上の事情により、ナゲットの端部の脆化を抑制する接合方法が求められている。
【0006】
特許文献1には、二枚以上の鋼板を重ね合せた板組を、一対の溶接電極で挟持し、加圧し、通電して溶接する抵抗スポット溶接方法であって、通電により所定の径のナゲットを形成する本工程と、加圧しつつ無通電とする中間工程と、再通電を行なう後工程とを有し、該後工程において、ナゲットとコロナボンドの界面の非溶融部側における最高温度TTが、TT>Ac3となることを特徴とする抵抗スポット溶接方法が開示されている。
【0007】
特許文献2には、炭素を0.15質量%以上含み、引張強さが980MPa以上の高強度鋼板のスポット溶接を2段通電で行い、第1通電工程の電流I1と第2通電工程の電流I2の比(I2/I1)を0.5~0.8とし、冷却工程の時間tcを、鋼板板厚Hに応じて、式(0.2×H2)で計算される0.8×tmin以上、2.5×tmin以下の範囲とし、また第2通電工程の通電時間t2を0.7×tmin以上、2.5×tmin以下の範囲とし、前記第1通電工程までの加圧力よりも、前記冷却工程以降における加圧力を大きくして溶接することで、焼戻しによる硬さ低減のばらつきを抑制しつつ、高い耐遅れ破壊特性を安定して得るスポット溶接方法が開示されている。
【0008】
特許文献3には、重ね合せた複数枚の鋼板のうち少なくとも1枚が、引張強度750~2500MPaの高強度鋼板であり、溶接電極で、重ね合せた複数枚の鋼板を、下記(1)式を満たす加圧力FE(N)で加圧して、本溶接電流IW(kA)を通電し、該通電の終了直後、上記加圧力FE(N)を保持して、下記(2)式を満たす冷却時間tS(ms)冷却して、冷却後、下記(1)式を満たす加圧力FE(N)を保持して、下記(3)式を満たす後通電電流Ip(kA)を、下記(4)式を満たす後通電時間tp(ms)、後通電し、前記冷却及び後通電を1又は2回以上繰り返すスポット溶接方法が開示されている。1960×h≦FE≦3920×h(1)、h:鋼板の板厚(mm)、1≦tS≦300(2)、0.6×IW≦Ip≦IW(3)、1≦tP≦500(4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2013-103273号公報
【特許文献2】国際公開第2014/171495号
【特許文献3】特開2016-68142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1及び特許文献2における技術のいずれも、引張強さが1.5GPa未満の鋼板のスポット溶接継手を対象としている。従って、これら文献には、引張強さ1800MPa超級の鋼板から構成されるスポット溶接継手の接合強度を向上させる手段は含まれていない。特許文献3における技術では、同一強度の鋼板の接合のみが検討対象とされており、また、スポット溶接継手の接合強度を向上させる手段が検討されていない。
【0011】
本発明は、引張強さ1800MPa以上の鋼板が母材として用いられながら、従来よりも優れたCTSを有するスポット溶接継手及び自動車部品を提供することを課題とする。さらに本発明は、引張強さ1800MPa以上の鋼板を母材として用いながら、従来よりも優れたCTSを有するスポット溶接継手を製造可能なスポット溶接継手の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0013】
(1)本発明の一態様に係るスポット溶接継手は、引張強さが1800MPa以上の鋼板を1枚以上含む、重ねられた複数の鋼板を有する板組と、前記板組の複数の前記鋼板を接合するナゲットと、を備えるスポット溶接継手であって、引張強さが最も大きい前記鋼板を、第1の鋼板と定義し、前記第1の鋼板以外の前記鋼板を、第2の鋼板と定義し、前記ナゲットのうち、前記第1の鋼板と前記第2の鋼板との合わせ面よりも前記第1の鋼板の側にある領域を、前記ナゲットの第1の領域と定義し、前記スポット溶接継手の、前記ナゲットの中心を通り且つ前記板組の表面に垂直な断面において、前記第1の領域の内部であり、且つ前記第1の領域の端部に最も近い位置に設定された200μm四方の矩形の領域であって、その四辺のうち1つの延在方向と前記板組の厚さ方向とが一致する領域を、P偏析評価領域と定義し、前記P偏析評価領域において、前記P偏析評価領域の縦辺及び横辺それぞれに沿って0.5μm間隔で配されたP濃度測定点それぞれにおいて測定されたP濃度の平均値を、平均P濃度と定義し、前記P偏析評価領域において、前記平均P濃度の10倍以上のP濃度を有する前記P濃度測定点を、P偏析点と定義し、前記P偏析点の個数が、全ての前記P濃度測定点の個数に占める割合をP偏析度と定義し、前記スポット溶接継手の前記断面において、前記ナゲットの外部であり、前記第1の鋼板の内部であり、且つ前記第1の領域の前記端部に最も近い位置に設定された長辺240μm及び短辺120μmの矩形の領域であって、前記長辺の延在方向と前記板組の前記厚さ方向とが一致する領域を、Mn偏析評価領域と定義し、前記Mn偏析評価領域において、前記Mn偏析評価領域の前記長辺及び前記短辺それぞれに沿って0.6μm間隔で配されたMn濃度測定点それぞれにおいて測定されたMn濃度の平均値を、平均Mn濃度と定義し、前記Mn偏析評価領域において、前記平均Mn濃度の1.5倍以上のMn濃度を有する前記Mn濃度測定点を、Mn偏析点と定義し、前記Mn偏析点の個数が、全ての前記Mn濃度測定点の個数に占める割合をMn偏析度と定義したとき、前記P偏析度が0.250%以下、及び前記Mn偏析度が1.500%以下の要件の一方又は両方を満たし、Ck、及び、前記ナゲットの前記中心を通り且つ前記板組の前記表面に垂直な前記断面において測定されるSkを下記式1に代入することによって算出されるナゲット炭素量指標Cnugが0.3400質量%未満である。
【数1】
ここでCkは、前記板組の一方の前記表面からk番目の鋼板の、単位質量%での炭素量であり、Skは、前記ナゲットのうち、前記板組の前記一方の前記表面からk番目の前記鋼板に含まれる領域の、単位mm
2での面積であり、nは、前記板組に含まれる前記鋼板の枚数である。
(2)上記(1)に記載のスポット溶接継手では、前記板組に含まれる前記鋼板の板厚の合計値を、前記板組に含まれる前記鋼板のうち最も薄いものの板厚で割った値を板厚比と定義しとき、前記板厚比が2以上5以下であってもよい。
(3)上記(1)又は(2)に記載のスポット溶接継手では、前記第1の鋼板と接する前記第2の鋼板の引張強さが1800MPa未満であってもよい。
(4)上記(1)~(3)のいずれか一項に記載のスポット溶接継手では、全ての前記第2の鋼板の引張強さが1800MPa未満であってもよい。
(5)上記(1)~(4)のいずれか一項に記載のスポット溶接継手では、前記第1の鋼板が、前記板組の内部に配されていてもよい。
(6)上記(1)~(4)のいずれか一項に記載のスポット溶接継手では、前記第1の鋼板が、前記板組の表面に配されていてもよい。
(7)上記(1)~(6)のいずれか一項に記載のスポット溶接継手では、前記ナゲット炭素量指標Cnug、及び前記ナゲットの平均ビッカース硬さHが、下記式2を満たしてもよい。
1000×Cnug≦H≦580:式2
【0014】
(8)本発明の別の態様に係る自動車用部品は、上記(1)~(7)のいずれか一項に記載のスポット溶接継手を有する。
【0015】
(9)本発明の別の態様に係るスポット溶接継手の製造方法は、上記(1)~(7)のいずれか一項に記載のスポット溶接継手の製造方法であって、引張強さが1800MPa以上の鋼板を1枚以上含む、重ねられた複数の鋼板を有する板組を、スポット溶接用の一対の電極を用いて挟み、一対の前記電極の間に本通電して、前記板組を溶融させる工程と、一対の前記電極の間の通電を中止しながら加圧を保持することにより、前記板組を冷却して、前記板組を接合するナゲットを形成する工程と、一対の前記電極の間に後通電して、前記ナゲットを加熱する工程と、一対の前記電極の間の通電を中止しながら加圧を保持する工程と、を備え、前記複数の鋼板の平均板厚h(mm)、前記本通電、前記冷却、前記後通電、及び前記保持における加圧力FE(N)、前記本通電における電流値IW(kA)、前記冷却における冷却時間tS(msec)、前記後通電における電流値IP(kA)及び通電時間tP(msec)、並びに前記保持における保持時間tH(msec)が、下記式A~式Eを満たす。
1960×h≦FE≦3920×h :式A
1≦tS≦400 :式B
0.6×IW≦IP≦0.9×IW :式C
0.5≦tP≦1000 :式D
0≦tH≦200 :式E
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、引張強さ1800MPa以上の鋼板が母材として用いられながら、従来よりも優れたCTSを有するスポット溶接継手及び自動車部品を提供することができる。さらに本発明によれば、引張強さ1800MPa以上の鋼板を母材として用いながら、従来よりも優れたCTSを有するスポット溶接継手を製造可能なスポット溶接継手の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】板組が2枚の鋼板を有するスポット溶接継手の、ナゲットの中心を通り且つ板組の表面に垂直な断面の模式図である。
【
図2】板組が3枚の鋼板を有し、且つ第1の鋼板が板組の表面に配されるスポット溶接継手の、ナゲットの中心を通り且つ板組の表面に垂直な断面の模式図である。
【
図3】板組が3枚の鋼板を有し、且つ第1の鋼板が板組の内部に配されるスポット溶接継手の、ナゲットの中心を通り且つ板組の表面に垂直な断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、引張強さ1800MPa以上の鋼板を母材とするスポット溶接継手1の剥離試験結果を詳細に調査したところ、き裂がナゲット12の溶融境界及び端部を通って形成される傾向にあることを知見した。ここでナゲット12の端部とは、板組11の面方向に沿ったナゲット端部のことである。例えば、
図1に示される断面図において、ナゲット12の左端及び右端が、ナゲット12の端部である。
【0019】
さらに本発明者がナゲット12の端部を詳細に調査したところ、ナゲット12の端部及びその周辺においてP(リン)及びMn(マンガン)の偏析が生じていることを知見した。そして本発明者らは、ナゲットの炭素量を希釈し、且つ特定の条件で後通電を実施することにより、偏析が緩和可能であることを知見した。一般に、引張強さ1800MPa以上の高炭素鋼板のスポット溶接において、後通電は偏析緩和のために有効ではないと認識されている。しかし、後述するナゲット炭素量指標Cnugを所定値以下とするように鋼板を組み合わせ、且つナゲットを形成することにより、ナゲット炭素量が低下し、後通電による偏析緩和が有効となる。ナゲット12の端部における偏析緩和によって、き裂の進展経路が溶融境界から逸れてCTSが向上する。
【0020】
以上の知見に基づいて得られた、本実施形態に係るスポット溶接継手1は、引張強さが1800MPa以上の鋼板を1枚以上含む、重ねられた複数の鋼板を有する板組11と、板組11の複数の鋼板を接合するナゲット12と、を備え、P偏析度が0.250%以下、及び/又はMn偏析度が1.500%以下とされており、且つ、ナゲット炭素量指標Cnugが0.3400質量%未満とされている。以下、本実施形態に係るスポット溶接継手1について詳細に説明する。
【0021】
(板組11)
スポット溶接継手1の板組11は、引張強さが1800MPa以上の鋼板を1枚以上含む。これにより、スポット溶接継手1の母材強度が飛躍的に高められる。なお、鋼板の引張強さが高められるほど、スポット溶接継手1のCTSが低下することが通常であるが、本実施形態に係るスポット溶接継手1においては、後述するP偏析度又はMn偏析度を低下させることによってCTSを確保している。
【0022】
ここで、本実施形態に係るスポット溶接継手1では、便宜上、引張強さが最も大きい鋼板を、第1の鋼板111と称する。また、第1の鋼板111以外の鋼板を、第2の鋼板112と称する。板組11を構成する鋼板の数は、2枚以上の任意の値とすることができる。例えば
図1に示されるように、鋼板の数が2枚であってもよいし、
図2又は
図3に示されるように、鋼板の数が3枚であってもよい。
図2に示されるように、第1の鋼板111が板組11の表面に配されていてもよいし、
図3に示されるように、第1の鋼板111が板組11の内部に配されていてもよい。板組11を構成する鋼板の枚数が4枚以上であってもよい。
【0023】
なお、複数の鋼板の引張強さが全て同一である板組は、本実施形態に係るスポット溶接継手1においては考慮されない。一方、本実施形態に係るスポット溶接継手1では、板組が、2枚以上の同一引張強さの鋼板と、これらよりも引張強さが小さい鋼板とが組み合わせられたものであってもよい。この場合は、引張強さが最も大きい2枚以上の鋼板のうち任意の一枚を第1の鋼板111とみなし、残りを第2の鋼板112とみなす。引張強さが最も大きい2枚以上の鋼板のうち1枚以上において、後述されるP偏析度及びMn偏析度が低減されていれば、CTS向上効果を得ることができるからである。従って、引張強さが最大かつ同一値の鋼板が2枚以上含まれるスポット溶接継手に関しては、これらの鋼板それぞれに対して後述するP偏析度及びMn偏析度を評価して、少なくとも1枚の鋼板に関してP偏析度及び/又はMn偏析度の要件が満たされていれば、本実施形態に係るスポット溶接継手であるとみなされる。
【0024】
(ナゲット12)
ナゲット12は、板組11に含まれる複数の鋼板が溶融凝固することにより形成された溶接金属である。ナゲット12は、板組11に含まれる全ての鋼板を接合するものとされる必要がある。この要件が満たされる限り、ナゲット12の位置及び形状は特に限定されない。ただし便宜上、ナゲット12のうち、第1の鋼板111と第2の鋼板112との合わせ面Sよりも第1の鋼板111の側にある領域を、ナゲット12の第1の領域121と定義する。
図3に例示されるように、第1の鋼板111が2枚の第2の鋼板112の間に配置されている場合は、ナゲット12のうち2枚の合わせ面Sの間にある領域が第1の領域121である。第1の領域121は、ナゲット12を断面観察したときに、ナゲット12のうち第1の鋼板111と重なり合う部分に該当する。
【0025】
(P偏析度及びMn偏析度)
本実施形態に係るスポット溶接継手1においては、P偏析度を0.250%以下とするか、又はMn偏析度を1.500%以下とする。P偏析度とは、ナゲット12の第1の領域121の端部付近における、P偏析の度合いを意味する。Mn偏析度とは、ナゲット12の外部であり、且つ第1の鋼板111の内部であり、且つナゲット12の第1の領域121の端部付近における、Mn偏析の度合いを意味する。具体的には、P偏析度及びMn偏析度は、以下の手順により特定される値である。
【0026】
(P偏析度の測定方法)
P偏析度の測定にあたっては、まず、スポット溶接継手1の、ナゲット12の中心を通り且つ板組11の表面に垂直な断面において、200μm四方の矩形のP偏析評価領域A1を設定する。P偏析評価領域A1とは、以下の要件が満たされる領域である。
(a)ナゲット12の第1の領域121の内部に配される。
(b)第1の領域121の端部に最も近い位置に配される。
(c)200μm四方の矩形形状を有する。
(d)四辺のうち1つの延在方向と、板組11の厚さ方向とが一致する。
【0027】
ナゲット12の第1の領域121の端部周辺が、最も破断しやすく、従って最も脆化を抑制すべき箇所である。また、ナゲット12の内部が、最もP偏析が生じやすい領域である。さらに分析の便宜上、P偏析評価領域A1は、その四辺のうち1つの延在方向が板組11の厚さ方向と実質的に一致することが好ましい。以上の理由により、P偏析評価領域A1は、上記(a)~(d)を満たす領域と定義される。P偏析評価領域A1について、
図1~
図3を例示しながら以下に詳細に説明する。
【0028】
図1は、板組11が2枚の鋼板を有するスポット溶接継手1の、ナゲット12の中心を通り且つ板組11の表面に垂直な断面の模式図である。
図1に例示されたスポット溶接継手1において、ナゲット12の断面は楕円形状を有する。このようなスポット溶接継手1において、P偏析評価領域A1は、上記要件(a)を満たすために、ナゲット12の第1の領域121の内部に設定され、上記要件(c)を満たすために、200μm四方の矩形形状を有する。また、P偏析評価領域A1は、上記要件(b)及び(d)を満たすために、その4つの頂点のうち1つがナゲット12の外縁、即ち溶融境界に接し、且つ、この頂点と対向する2つの辺のうち1本が、第1の鋼板111と第2の鋼板112との合わせ面Sの延長線に接するように設定される。もっとも、ナゲット12の断面形状が楕円ではない場合や、ナゲット12の中心が鋼板の合わせ面Sからずれて形成されている場合には、P偏析評価領域A1をナゲット12の端部に近づけるために、鋼板の合わせ面Sから離隔させる必要が生じうる。また、曳け巣はナゲット12の内部とはみなされない。上述した箇所が曳け巣等を含んでおり、P偏析度の測定に適しない場合は、測定箇所を上述した箇所から若干移動させることも許容される。例えば、ナゲット12の端部に最も近い位置において測定されるP偏析度と、この位置から100μm程度離れた位置において測定されるP偏析度とはほぼ同一になると考えられる。
【0029】
図2は、板組11が3枚の鋼板を有し、且つ第1の鋼板111が板組11の表面に配されるスポット溶接継手1の、ナゲット12の中心を通り且つ板組11の表面に垂直な断面の模式図である。ナゲット12の断面は楕円形状を有する。このようなスポット溶接継手1においても、P偏析評価領域A1は、
図1に例示されたスポット溶接継手1と同様に設定することができる。
【0030】
図3は、板組11が3枚の鋼板を有し、且つ第1の鋼板111が板組11の内部に配されるスポット溶接継手1の、ナゲット12の中心を通り且つ板組11の表面に垂直な断面の模式図である。このようなスポット溶接継手1において、ナゲット12の第1の領域121は、板組11の内部に配される第1の鋼板111と重なるように設定される。P偏析評価領域A1は、ナゲット12の第1の領域121に設定される。また、P偏析評価領域A1は、ナゲット12の第1の領域121からはみ出さない範囲内で、第1の領域121の端部に最も近い箇所に設定される。
【0031】
このP偏析評価領域A1において、P濃度を測定する。P濃度は、P偏析評価領域A1の縦辺及び横辺それぞれに沿って0.5μm間隔で配されたP濃度測定点において測定する。P偏析評価領域A1の縦辺及び横辺を区別する必要はないが、本実施形態においては便宜上、板組11の厚さ方向に沿って延在する辺を縦辺と称し、縦辺に直交する辺を横辺と称する。P偏析評価領域A1の縦辺及び横辺の長さは200μmであるので、P濃度測定点の個数は(200÷0.5)2=160000個となる。これら測定点において測定されたP濃度の平均値を、平均P濃度と定義する。また、これら測定点のうち、平均P濃度の10倍以上のP濃度を有するものを、P偏析点と定義する。そして、P偏析点の個数が、全てのP濃度測定点の個数に占める割合を、スポット溶接継手1のP偏析度とみなす。
【0032】
(Mn偏析度の測定方法)
Mn偏析度の測定にあたっては、まず、スポット溶接継手1の、ナゲット12の中心を通り且つ板組11の表面に垂直な断面において、長辺240μm及び短辺120μmの矩形のMn偏析評価領域A2を設定する。P偏析評価領域A1はナゲット12の内部に設定されるが、Mn偏析評価領域A2は、ナゲット12の外部に設定される。具体的には、Mn偏析評価領域A2とは、以下の要件が満たされる領域である。
(A)ナゲット12の外部に配される。
(B)第1の鋼板111の内部に配される
(C)第1の領域121の端部に最も近い位置に配される。
(D)長辺240μm及び短辺120μmの矩形形状を有する。
(E)長辺の延在方向と、板組11の厚さ方向とが一致する。
【0033】
Mn偏析評価領域A2は、P偏析評価領域A1と同様に、ナゲット12の第1の領域121の端部に最も近い位置に設定される必要がある。ナゲット12の第1の領域121の端部が、最も破断しやすく、従って最も脆化を抑制すべき箇所であるからである。また、分析の便宜上、Mn偏析評価領域A2は、その長辺の延在方向が板組11の厚さ方向と実質的に一致するように設定される。一方でMn偏析評価領域A2は、P偏析評価領域A1とは異なり、ナゲット12の外部の熱影響部(HAZ)に設けられる。熱影響部とは、溶接熱によって組織、冶金的性質、機械的性質などが変化を生じた、溶融していない母材(即ち、第1の鋼板111及び第2の鋼板112)の部分のことである。本実施形態に係るスポット溶接継手1において、熱影響部は、ナゲット12の周囲に形成される。Mn偏析評価領域A2について、
図1~
図3を再度例示しながら以下に詳細に説明する。
【0034】
図1に例示されるスポット溶接継手1において、Mn偏析評価領域A2は、上記要件(A)及び(B)を満たすために、ナゲット12の外部であって且つ第1の鋼板111の内部の領域に設定され、上記要件(D)を満たすために、長辺240μm及び短辺120μmの矩形形状を有する。また、Mn偏析評価領域A2は、上記要件(C)及び(E)を満たすために、その4つの頂点のうち1つがナゲット12の溶融境界に接し、且つ、この頂点を含む短辺が、第1の鋼板111と第2の鋼板112との合わせ面Sの延長線に接するように設定される。もっとも、ナゲット12の断面形状が楕円ではない場合や、ナゲット12の中心が鋼板の合わせ面Sからずれて形成されている場合には、Mn偏析評価領域A2をナゲット12の端部に近づけるために、鋼板の合わせ面Sから離隔させる必要が生じうる。また、上述した箇所がMn偏析度の測定に適しない場合は、測定箇所を上述した箇所から若干移動させることも許容される。例えば、ナゲット12の端部に最も近い位置において測定されるMn偏析度と、この位置から100μm程度離れた位置において測定されMn偏析度とはほぼ同一になると考えられる。
【0035】
図2に例示されるスポット溶接継手1においても、Mn偏析評価領域A2は、
図1に例示されたスポット溶接継手1と同様に設定することができる。
【0036】
図3に例示されるスポット溶接継手1において、Mn偏析評価領域A2は、第1の鋼板111におけるナゲット12の外部の領域に設定される。また、Mn偏析評価領域A2は、ナゲット12と重ならない範囲内で、ナゲット12の第1の領域121の端部に最も近い箇所に設定される。
【0037】
このMn偏析評価領域A2において、Mn濃度を測定する。Mn濃度は、Mn偏析評価領域A2の長辺及び短辺それぞれに沿って0.6μm間隔で配されたMn濃度測定点において測定する。Mn偏析評価領域A2の長辺の長さは240μmであり、短辺の長さは120μmであるので、Mn濃度測定点の個数は(240÷0.6)×(120÷0.6)=80000個となる。これら測定点において測定されたMn濃度の平均値を、平均Mn濃度と定義する。また、これら測定点のうち、平均Mn濃度の1.5倍以上のMn濃度を有するものを、Mn偏析点と定義する。そして、Mn偏析点の個数が、全てのMn濃度測定点の個数に占める割合を、スポット溶接継手1のMn偏析度とみなす。
【0038】
P偏析部、及びMn偏析部のいずれも脆く、破壊起点として働く。そのため、P偏析度を0.250%以下とするか、又はMn偏析度を1.500%以下とすることにより、スポット溶接継手1の剥離強度を向上させることができる。P偏析度を0.250%以下とし、且つ、Mn偏析度を1.500%以下としてもよい。P偏析度は低いほど好ましいので、P偏析度を0.230%以下、0.200%以下、又は0.150%以下としてもよい。P偏析度の下限値は特に限定されず、0%でもよいが、例えばP偏析度を0.010%以上、0.020%以上、又は0.030%以上と規定してもよい。Mn偏析度も低いほど好ましいので、Mn偏析度を1.400%以下、1.200%以下、又は1.000%以下としてもよい。Mn偏析度の下限値も特に限定されず、0%でもよいが、例えばMn偏析度を0.100%以上、0.200%以上、又は0.300%以上と規定してもよい。
【0039】
P偏析評価領域A1及びMn偏析評価領域A2を上述の位置に配置する理由は、この位置が、剥離強度試験の際に応力集中して破断しやすいからである。破断しやすい箇所における脆化を改善することで、剥離強度が改善される。なお、P偏析評価領域A1をナゲット12の内部に設定する一方で、Mn偏析評価領域A2をナゲット12の外部に設定した理由は、発明者らの経験則に起因する。P偏析はナゲット12の内部で凝固偏析により顕著となりやすく、一方Mn偏析は粒界への偏析のためナゲット12の外部、即ち鋼板内で顕著となりやすいことが確認された。なお、上述の位置で測定されたMn偏析度及びP偏析度と、剥離強度との間には、良好な相関関係が認められた。
【0040】
(ナゲット炭素量指標Cnug)
本実施形態に係るスポット溶接継手1においては、下記式1によって算出されるナゲット炭素量指標Cnugが0.3400質量%未満である。
【数2】
ここで、式1に含まれる符号の意味は以下の通りである。また、Skは、Mn偏析度等と同じく、ナゲット12の中心を通り且つ板組11の表面に垂直な断面において測定される値である。
Sk:ナゲット12のうち、板組11の一方の表面からk番目の鋼板に含まれる領域の、単位mm
2での面積
Ck:板組11の一方の表面からk番目の鋼板の、単位質量%での炭素量
n:板組11に含まれる鋼板の枚数
なお、式1で定義される炭素濃度指標の算出にあたり、板組を構成する複数の鋼板が第1の鋼板にあたるか、第2の鋼板にあたるかを判断する必要はない。例えば、板組を構成する鋼板の枚数nが2である場合、式1は下記式1’と書き換えることができる。
Cnug=(S1×C1+S2×C2)/(S1+S2) (式1’)
【0041】
式1によって算出されるCnugは、ナゲット12の炭素濃度の指標である。ナゲット12は、溶融した鋼板が混じり合って凝固したものであるので、各鋼板に含まれるナゲット面積と各鋼板の炭素量から、ナゲット12の炭素量を推定することができる。
【0042】
ナゲット炭素量指標Cnugを0.3400質量%未満にすることには、2つの効果があると考えられている。1つめの効果は、ナゲット12の硬さを低下させ、ナゲット12の靭性を向上させることである。ナゲット12の靭性の向上は、スポット溶接継手1のCTSの一層の向上に寄与する。2つめの効果は、P偏析及びMn偏析を一層緩和することである。P及びMnの偏析緩和も、スポット溶接継手1のCTSの一層の向上に寄与する。ナゲット炭素量指標Cnugを0.3300質量%以下、0.3200質量%以下、又は0.3000質量%以下としてもよい。例えば、第2の鋼板112を低炭素鋼板とすること、及び低炭素鋼板の板厚が板組11の総板厚に占める割合を増やすこと等の手段によって、ナゲット炭素量指標Cnugを低下させることができる。ナゲット炭素量指標Cnugの下限値は特に限定されないが、板組11が必ず1枚以上の高強度鋼板を含むことを考慮すると、ナゲット炭素量指標Cnugは0.1000質量%以上となることが通常である。
【0043】
ナゲット12の炭素量の減少が、ナゲット端部の周辺におけるP及びMnの偏析を緩和する原因は、現時点では明らかではない。本発明者らは、サイトコンペティション効果により、上述の現象が生じていると推定している。偏析におけるサイトコンペティション効果とは、ある場所に元素が偏析すると、その場所に別の元素が偏析できなくなる現象のことである。もしナゲット12の端部においてサイトコンペティション効果が発現しているとすれば、例えば金属組織の粒界にC原子及びP原子が偏析するスポットがある状態において、このスポットにCが偏析すると、このスポットにPが偏析しなくなると予想される。本発明者らは、ナゲット12のC含有量が低いほど、サイトコンペティション効果によってP及びMnが拡散可能な領域が増大し、偏析が一層解消されると推定している。
【0044】
ナゲット炭素量指標Cnugを算出するためには、Sk(k=1~n)を測定する必要がある。Skの測定方法は、以下の通りである。まず、スポット溶接継手1を切断して、ナゲット12の中心を通り、且つ、板組11の表面に垂直な断面を現出させる。この断面を、溶融境界の判別ができる程度に腐食させて、ナゲット12を視認可能な状態とする。腐食液は例えばピクリン酸である。視認可能となったナゲット12の光学顕微鏡写真を撮影する。そして、鋼板の合わせ面Sを延長した線をナゲット12に記入する。これらの線、及びナゲット12の外縁に囲まれた領域の面積を測定することにより、Skを求めることができる。具体的には、板組の一方の表面からk-1枚目の鋼板とk枚目の鋼板との合わせ面を延長した線と、板組の一方の表面からk枚目の鋼板とk+1枚目の鋼板との合わせ面を延長した線と、これらの線の間にあるナゲット外縁とによって囲まれた領域の面積が、Skである。
【0045】
なお、ナゲットの炭素量の実測値は、ナゲット炭素量指標Cnugと一致することが多い。ナゲット炭素量指標Cnugを測定することに代えて、ナゲットの炭素量を測定してもよい。ナゲットの炭素量の実測値が、上述したナゲット炭素量指標Cnugを規定する数値範囲内に入っているスポット溶接継手もまた、ナゲットの炭素量が希釈されてCTSが向上された、本実施形態に係るスポット溶接継手であるとみなされる。
【0046】
(板厚比)
本実施形態に係るスポット溶接継手1においては、板厚比を2以上5以下としてもよい。ここで、板厚比とは、板組11に含まれる鋼板の板厚の合計値を、板組11に含まれる鋼板のうち最も薄いものの板厚で割った値と定義される値である。上述の定義によれば、本実施形態に係るスポット溶接継手1において、板厚比は必然的に2以上となる。一方、板厚比を2.1以上、2.5以上、又は3.0以上としてもよい。これにより、本実施形態に係るスポット溶接継手1から構成される機械部品の設計の自由度を高めることができる。また、本実施形態に係るスポット溶接継手1においては、板厚比を5以下とすることが好ましい。これにより、接合不良の発生率を一層低下させることができる。板厚比を4.8以下、4.5以下、又は4.0以下としてもよい。
【0047】
板組11を構成する鋼板それぞれの板厚及び鋼種を限定する必要はない。上述したナゲット炭素量指標Cnug及び板厚比は、鋼板の板厚及び種類に影響される値である。従って、これらの値が上述の好ましい範囲内となるような板厚及び鋼種を適宜選定することができる。特に好適な板厚の例を挙げると、0.8mm以上4.0mm以下である。板組11の総板厚も特に限定されない。
【0048】
(鋼板の板厚、及び引張強さ等)
鋼板の引張強さも、引張強さが1800MPa以上の鋼板が1枚以上板組11に含まれる限り、特に限定されない。最も引張強さが大きい第1の鋼板111は、必然的に、引張強さ1800MPa以上の鋼板とされるが、第1の鋼板111の引張強さが1900MPa以上、2000MPa以上、又は2100MPa以上であってもよい。第1の鋼板111の引張強さの上限は特に限定されないが、例えば2800MPa以下、2500MPa以下、又は2300MPa以下であってもよい。
【0049】
第2の鋼板112の引張強さは、第1の鋼板111の引張強さ未満であれば特に限定されない。もし、引張強さが最大の鋼板が2枚以上あり、これらのうち任意の一枚を第1の鋼板111とみなした場合は、板組に、第1の鋼板111の引張強さ未満の鋼板が1枚以上含まれていればよい。一方、第2の鋼板112の引張強さが小さい程、ナゲット12の炭素量を希釈する効果が高まり、スポット溶接継手1のCTSが高まるので好ましい。例えば、少なくとも第1の鋼板111に接する第2の鋼板112の引張強さを1800MPa未満、1700MPa以下、1500MPa以下、又は1200MPa以下とすることが好ましい。また、全ての第2の鋼板112の引張強さを1800MPa未満、1700MPa以下、1500MPa以下、又は1200MPa以下とすることが一層好ましい。
【0050】
第1の鋼板111及び第2の鋼板112の一方又は両方が、その表面にめっき層を有していてもよい。めっき層の例は、例えば溶融亜鉛めっき、溶融合金亜鉛めっき、合金化溶融亜鉛めっき、電気亜鉛めっき、電気Alめっき等である。例えば、第1の鋼板111及び第2の鋼板112がホットスタンプ用の鋼板であり、スポット溶接継手1がホットスタンプ部材であってもよい。
【0051】
(ナゲット12の硬さ等)
ナゲット12の硬さは特に限定されないが、例えば、上述のナゲット炭素量指標Cnugとナゲット12の平均ビッカース硬さHとが、下記式2を満たしてもよい。
1000×Cnug≦H≦580 :式2
【0052】
ナゲット12の平均ビッカース硬さHを580HV以下とすることにより、ナゲット12の靭性を一層改善して、スポット溶接継手1のCTSを一層向上させることができる。ナゲット12の平均ビッカース硬さHを570HV以下、560HV以下、又は540HV以下としてもよい。一方、ナゲット12の炭素量に対してナゲット硬さが小さすぎると、溶融境界破断が生じにくくなる。CTS向上の観点からは、破断形態が溶融境界破断となるようなナゲットを設けることが好ましい。ナゲット硬さがナゲット炭素量指標Cnugの1000倍以上であると、溶融境界で破断しやすくなるので、本実施形態に係るスポット溶接継手が特に有用である。そのため、ナゲット炭素量指標Cnug×1000を、ナゲット12の平均ビッカース硬さHの下限値としてもよい。
【0053】
ナゲット12の平均ビッカース硬さHの測定方法は、以下の通りである。まず、スポット溶接継手1を切断して、ナゲット12の中心を通り、且つ、板組11の表面に垂直な断面を現出させる。この断面を、溶融境界の判別ができる程度に腐食させて、ナゲット12を視認可能な状態とする。腐食液は例えばピクリン酸である。そして、ナゲット12の内部の10箇所でビッカース硬さを測定する。硬さ測定はJIS Z 2244:2009に準拠して行う。測定荷重は200gfとする。また、測定箇所は溶融境界から0.2mm以上ナゲット12内側に離れた位置とする。ただし、ナゲット12の内部に形成された空隙である曳け巣は、ナゲット12の硬さ測定箇所とはしない。これにより得られたビッカース硬さの測定値を、ナゲット12の平均ビッカース硬さHとみなす。
【0054】
次に、本発明の別の態様に係る自動車用部品について説明する。本実施形態に係る自動車用部品は、上述された本実施形態に係るスポット溶接継手1を含む。従って、本実施形態に係る自動車部品は、高い母材強度及び高いCTSを兼備することができる。本実施形態に係る自動車部品の種類は特に限定されないが、例えば、衝突安全性を確保するために重要な部材であるバンパー、及びBピラーである。また、Aピラー、サイドシル、フロアメンバー、フロントサイドメンバー、キック部、リアサイドメンバー、フロントサスタワー、トンネルリンフォース、トルクボックス、シート骨格、バッテリーケースのフレーム及びそれらのピラー同士の結合部(Bピラーとサイドシルの結合部、Bピラーとルーフレールの結合部、ルーフクロスメンバーとルーフレールの結合部)を、本実施形態に係る自動車部品としてもよい。
【0055】
次に、本発明の別の態様に係るスポット溶接継手1の製造方法について説明する。本実施形態に係る製造方法によれば、上述されたスポット溶接継手1を好適に製造することができる。ただし、以下の説明は、本実施形態に係るスポット溶接継手1を限定するものではない。
【0056】
本実施形態に係るスポット溶接継手1の製造方法は、
(S1)引張強さが1800MPa以上の鋼板を1枚以上含む、重ねられた複数の鋼板を有する板組11を、スポット溶接用の一対の電極を用いて挟み、一対の電極の間に本通電して、板組11を溶融させる工程、
(S2)一対の電極の間の通電を中止しながら加圧を保持することにより、板組11を冷却して、板組11を接合するナゲット12を形成する工程、
(S3)一対の電極の間に後通電して、ナゲット12を加熱する工程、及び
(S4)一対の電極の間の通電を中止しながら加圧を保持する工程
を有する。各工程における諸条件について、以下に詳細に説明する。
【0057】
(S1:本通電)
まず、板組11を、スポット溶接用の一対の電極を用いて挟む。板組11は、引張強さが1800MPa以上の鋼板を1枚以上含む、重ねられた複数の鋼板を有するものとする。以下、板組11を構成する鋼板の板厚の合計値を、鋼板の枚数で割った値を、平均板厚hと称する。
【0058】
電極は、スポット溶接用の電極とする。スポット溶接用の電極とは、被溶接材を加圧すること、被溶接材に通電すること、及び被溶接材を冷却することが可能な電極のことである。例えば、電極の内部に管路を設け、この管路に冷媒を流通させることにより、電極を用いた被溶接材の冷却が可能である。
【0059】
そして、一対の電極の間に通電し、板組11のうち電極に挟まれた箇所を溶融させる。以下、板組11を溶融させるための通電を本通電と称する。また、
図4に示されるように、本通電における電流値を本通電電流値IWと称し、本通電、並びに後述する冷却、後通電、及び保持の際に電極が板組11を挟む力を、加圧力FEと称する。加圧力FEは必ずしも一定値ではなく、本通電、冷却、後通電、及び保持それぞれに適用される加圧力FEが相違していてもよい。また、本通電の開始から終了までの間に、加圧力FEが変動してもよい。冷却、後通電、及び保持においても同様である。しかしながら、加圧力FEは後述する式Aを満たす必要がある。
【0060】
(S2:冷却)
本通電に次いで、一対の電極の間の通電を中止しながら、加圧を保持する。加圧を保持する、とは、加圧力FEを0超かつ下記式Aを満たす値に制御することを意味する。これにより、板組11からスポット溶接用の電極への熱移動が生じ、板組11の溶接部が冷却される。そして、本通電によって形成された溶融金属は凝固して、板組11を接合するナゲット12となる。以下、
図4に示されるように、加圧を保持したまま通電を中止した状態の長さを冷却時間tSと称する。
【0061】
(S3:後通電)
本通電、及び冷却に次いで、一対の電極の間に再度通電をする。これにより、ナゲット12を加熱する。以下、ナゲット12を加熱するための通電を後通電と称する。また、
図4に示されるように、後通電における電流値を後通電電流値IPと称し、後通電の長さを後通電時間tPと称する。凝固直後のナゲット12にはP及びMnの偏析が生じている。後通電をすることにより、P及びMnを拡散させ、偏析を緩和することができる。
【0062】
(S4:保持)
本通電、冷却、及び後通電に次いで、一対の電極の間の通電を中止しながら加圧を保持する。これにより、加熱されたナゲット12を冷却する。以下、後通電終了後に、加圧力FEが0超かつ下記式Aを満たす値に制御されている時間を、保持時間tHと称する。
【0063】
上述された一連の工程において、平均板厚h(mm)、加圧力FE(N)、本通電電流値IW(kA)、冷却時間tS(msec)、後通電電流値IP(kA)、後通電時間tP(msec)、及び保持時間tH(msec)が、下記式A~式Eを満たすように制御される。
1960×h≦FE≦3920×h :式A
1≦tS≦400 :式B
0.6×IW≦IP≦0.9×IW :式C
50≦tP≦1000 :式D
0≦tH≦200 :式E
【0064】
式Aは、本通電の開始から、加圧の保持の終了に至るまでの加圧力FEの上下限値と、平均板厚hとの関係を規定している。平均板厚hに対して加圧力FEが小さすぎると、本通電時に鋼板の間に隙間が生じ、溶接不良が生じるおそれがある。また、平均板厚hに対して加圧力FEが大きすぎると、本通電時に電極が板組11の内部に向けて陥入し、スポット溶接継手1の表面に凹凸が生じるおそれがある。以上の事情を考慮して、加圧力FEの下限値は1960×hとし、上限値は3920×hとする。なお、上述の通り、加圧力FEを一定にする必要はない。本通電を開始した瞬間から、加圧の保持が終了するまでの間、式Aに規定される範囲内で加圧力FEが変動してもよい。
【0065】
本通電の条件は特に限定されない。本通電電流値IW、及び本通電時間は、板組11の総板厚等を考慮しながら、適切なサイズを有するナゲット12を形成可能な条件を適宜選択することができる。通常、板組11の総板厚が大きいほど、入熱を高める必要がある。入熱を高めるためには、本通電電流値IW、及び/又は本通電時間を大きくすればよい。
【0066】
式Bは、冷却時間tSを規定している。冷却時間tSは1~400msecの範囲内とされる。冷却時間tSが短すぎると、溶融金属が完全に凝固する前に後通電が開始することとなり、正常なナゲット12を形成することができない。一方、冷却時間tSが長すぎると、スポット溶接継手1の製造効率が損なわれる。
【0067】
式Cは、本通電電流値IWと後通電電流値IPとの関係を規定している。後通電電流値IPが本通電電流値IWの0.9倍を超過すると、ナゲット12が再溶融するおそれがある。一方、後通電電流値IPが本通電電流値IWの0.6倍を下回ると、P及びMnを十分に拡散させることができず、P偏析度及び/又はMn偏析度を十分に低下させることができない。
【0068】
式Dは、後通電時間tPを規定している。後通電時間tPは50~1000msecの範囲内とされる。後通電時間tPが短すぎると、P及びMnを十分に拡散させることができず、P偏析度及び/又はMn偏析度を十分に低下させることができない。一方、後通電時間tPが長すぎると、スポット溶接継手1の製造効率が損なわれる。なお、一般に、引張強さ1800MPa以上の高炭素鋼板のスポット溶接において、後通電は偏析緩和のために有効ではないと認識されている。しかし本実施形態に係るスポット溶接継手の製造方法では、高強度の第1の鋼板と、これよりも強度が小さい第2の鋼板とを組み合わせて、ナゲットの炭素を希釈している。具体的には、ナゲット炭素量指標Cnugが0.3400質量%未満に抑制されている。このようなナゲットに対して後通電を行うと、偏析緩和が達成され、き裂の進展経路が溶融境界から逸れるようになり、スポット溶接継手1のCTSが高められる。
【0069】
式Eは、保持時間tHを規定している。ここで、保持時間tHとは、後通電が終了した時点から、電極が鋼板表面から離れる時点までの期間の長さである。保持時間を設けることは必ずしも必須ではなく、例えば保持時間tHを0msecとしてもよい。即ち、後通電の終了と同時に電極を開放して、加圧力を1960×h以下に低下させてもよい。しかしながら、後通電の安定性を考慮して、保持時間tHを0msec超としてもよい。一方、保持時間tHが200msecを超えると、スポット溶接継手1の製造効率が損なわれる。
【実施例0070】
実施例により本発明の一態様の効果を更に具体的に説明する。ただし、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例に過ぎない。本発明は、この一条件例に限定されない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限り、種々の条件を採用し得る。
【0071】
鋼板A~Kを組み合わせて種々の板組を作成した。これらに本通電、冷却、及び後通電をして、種々のスポット溶接継手を製造し、そのCTS等を評価した。
【0072】
表1には、鋼板の引張強さ、板厚、C含有量、及びMn含有量を記載した。
【0073】
表2には、板組を構成する鋼板の種類、板組の合計板厚、鋼板の平均板厚h、及び加圧力FEを記載した。また、鋼板の平均板厚hから算出される加圧力FEの上下限値も、あわせて表2に記載した。
【0074】
表3には、本通電における本通電電流値IW、冷却における冷却時間tS、後通電における後通電電流値IP及び後通電時間tP、並びに保持時間tHを記載した。また、本通電電流値IWから算出される後通電電流値IPの上下限値も、あわせて表3に記載した。
【0075】
表4には、スポット溶接継手のP偏析度、Mn偏析度、及びCTS向上率を記載した。さらに、式1によって算出されるナゲット炭素量指標Cnug、及びナゲット12の平均ビッカース硬さH、及び板厚比も記載した。P偏析度、Mn偏析度、ナゲット炭素量指標Cnug、及びナゲット12の平均ビッカース硬さHの測定方法は上述の通りとした。
【0076】
CTS向上率は、以下の手順で測定した。まず、表2等に記載のスポット溶接継手1~23と同一の板組に対して、後通電を省略したスポット溶接を行って、スポット溶接継手1´~23´を作製した。これらのスポット溶接継手1´~23´を、CTS向上率の基準として用いることとした。以下、これらのスポット溶接継手を、評価基準スポット溶接継手1´~23´と称する。なお、評価基準スポット溶接継手1´~23´の断面を評価したところ、全て、P偏析度が0.250%超且つMn偏析度が1.500%超であった。評価基準スポット溶接継手の溶接条件は以下の通りとした。
・加圧力FE=3.92~4.00(kN)
・単通電電流値I=7~8.5(kA)
・通電時間tP=360(msec)
【0077】
次に、後通電をしたスポット溶接継手1~23、及び後通電を省略した評価基準スポット溶接継手1´~23´のCTSを、JIS Z 3137:1999「抵抗スポット及びプロジェクション溶接継手の十字引張試験に対する試験片寸法及び試験方法」に準拠して測定した。さらに、スポット溶接継手1~23のCTSそれぞれを、評価基準スポット溶接継手1´~23´のCTSで割った値を求めた。この値を、スポット溶接継手1~23のCTS向上率とみなした。CTS向上率が7%以下のスポット溶接継手を「×」と評価し、CTS向上率が7%超25%以下のスポット溶接継手を「△」と評価し、CTS向上率が25%超43%以下のスポット溶接継手を「〇」と評価し、CTS向上率が43%超のスポット溶接継手を「◎」と評価した。評価が△、〇、又は◎となったスポット溶接継手を、従来よりも優れたCTSを有するスポット溶接継手とみなした。
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
P偏析度が0.250%以下、及びMn偏析度が1.500%以下の要件の一方又は両方を満たす実施例スポット溶接継手は、P及びMnの偏析が解消されていない評価基準スポット溶接継手に比べて、7%超のCTSの向上が見られた。即ち、これらのスポット溶接継手は、従来よりも優れたCTSを有した。
【0083】
一方、例6、例12、及び例13のスポット溶接継手は、P及びMnの偏析が解消されなかった比較例である。このスポット溶接継手においては、CTSの改善が見られなかった。