(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023037314
(43)【公開日】2023-03-15
(54)【発明の名称】薄層表面処理混合物
(51)【国際特許分類】
E01C 7/35 20060101AFI20230308BHJP
E01C 23/00 20060101ALI20230308BHJP
【FI】
E01C7/35
E01C23/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021143974
(22)【出願日】2021-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】000201515
【氏名又は名称】前田道路株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高 謙
(72)【発明者】
【氏名】高橋 知
(72)【発明者】
【氏名】越 健太郎
【テーマコード(参考)】
2D051
2D053
【Fターム(参考)】
2D051AD01
2D051AF01
2D051AF02
2D051AG18
2D053AA21
2D053AD03
(57)【要約】
【課題】接着性および耐久性に優れた薄層の表面処理層を形成可能な薄層表面処理混合物を提供すること。
【解決手段】カチオン系エマルジョンと、モルタル材とを含む、路面の薄層表面処理混合物であって、前記モルタル材が、速硬性混和材と、セメントと、細骨材とを含む、路面の薄層表面処理混合物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン系エマルジョンと、モルタル材とを含む、路面の薄層表面処理混合物であって、
前記モルタル材が、速硬性混和材と、セメントと、細骨材とを含む、路面の薄層表面処理混合物。
【請求項2】
前記カチオン系エマルジョンが、カチオン性のスチレン-ブタジエン共重合体のラテックスである請求項1に記載の薄層表面処理混合物。
【請求項3】
前記薄層表面処理混合物が、着色顔料をさらに含有する請求項1または2に記載の薄層表面処理混合物。
【請求項4】
前記薄層表面処理混合物が、カーボンブラックをさらに含有する請求項1~3のいずれかに記載の薄層表面処理混合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路面の表面に、薄層の表面処理層を形成するための薄層表面処理混合物に関する。
【背景技術】
【0002】
アスファルト舗装や、コンクリート舗装などの舗装路面は、一般に、交通荷重が直接作用すると共に、雨や紫外線などに暴露されることから、その表面から荒れやひび割れなどの劣化が生じ、生じた劣化が徐々に内部に進行して、やがて破損に至ることがある。このような劣化による破損等を未然に防ぎ、あるいは、適宜、補修を行うことにより舗装の維持を図るという観点より、予防的維持工法が行われている。
【0003】
このような予防的維持工法として、表面処理混合物を用いた、表面処理工法が一般に知られている。表面処理工法に用いられる表面処理混合物として、たとえば、特許文献1では、ノニオン系アスファルト乳剤と、セメントを主成分とする混和材と、骨材、フィラー、または水のいずれか一種以上とを混合して得られる舗装用表面補修材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の技術では、アスファルト舗装や、コンクリート舗装などの舗装の表面に形成される表面処理層の、舗装面に対する接着性が十分でなく、そのため、信頼性や耐久性の向上という観点より、さらなる接着性の改善が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、路面の薄層表面処理混合物として、カチオン系エマルジョンと、速硬性混和材、セメント、および細骨材を含有するモルタル材とを含むものを用いることにより、接着性および耐久性に優れた薄層の表面処理層を路面上に形成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明によれば、カチオン系エマルジョンと、モルタル材とを含む、路面の薄層表面処理混合物であって、前記モルタル材が、速硬性混和材と、セメントと、細骨材とを含む、路面の薄層表面処理混合物が提供される。
【0008】
本発明において、前記カチオン系エマルジョンが、カチオン性のスチレン-ブタジエン共重合体のラテックスであることが好ましい。
また、本発明の薄層表面処理混合物は、着色顔料をさらに含有することが好ましい。
さらに、本発明の薄層表面処理混合物は、カーボンブラックをさらに含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、接着性および耐久性に優れた薄層の表面処理層を形成可能な薄層表面処理混合物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施例1に係る薄層表面処理混合物の可使時間及び可使時間の測定結果を示すグラフである。
【
図2】
図2は、実施例1に係る薄層表面処理混合物、および比較例1に係る薄層表面処理混合物の接着性の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の薄層表面処理混合物は、カチオン系エマルジョンと、モルタル材とを含む、路面の薄層表面処理混合物であって、前記モルタル材が、速硬性混和材と、セメントと、細骨材とを含むものである。
【0012】
本発明の薄層表面処理混合物は、アスファルト舗装や、コンクリート舗装などの舗装路面上に、薄層の表面処理層を形成するために用いられる混合物であり、通常、施工の直前に、カチオン系エマルジョンと、モルタル材とを混合することにより調製されるプレミックスタイプの混合物であり、このようにして調製された本発明の薄層表面処理混合物を、舗装路面上に施工することで、薄層(たとえば、1~5mmの厚み、好ましくは1~3mmの厚み)の表面処理層を形成可能なものである。
具体的には、本発明の薄層表面処理混合物を、舗装路面上に施工することで、カチオン系エマルジョンと、モルタル材とが反応し、これにより硬化反応が起こることで、舗装路面上に、接着性および耐久性に優れた表面処理層を形成できるものである。すなわち、本発明の薄層表面処理混合物は、プレミックスタイプの常温硬化型の混合物である。
【0013】
本発明の薄層表面処理混合物は、舗装路面の補修や、舗装路面の予防的維持に用いることができる他、着色顔料(たとえば、赤、黄色、緑、青、オレンジなどの着色顔料)を添加することで、カラー舗装に用いることもできる。また、本発明の薄層表面処理混合物は、カーボンブラックを添加することで、黒色舗装に用いることも可能である。
【0014】
本発明の薄層表面処理混合物は、カチオン系エマルジョンを含有するものである。カチオン系エマルジョンとしては、カチオン性を示すエマルジョンであればよく、特に限定されないが、得られる表面処理層の接着性をより高めることができるという観点より、カチオン性のブタジエン系の重合体のラテックスが好ましく、カチオン性のアクリロニトリル-ブタジエン共重合体のラテックス、およびカチオン性のスチレン-ブタジエン共重合体のラテックスがより好ましく、カチオン性のスチレン-ブタジエン共重合体のラテックスであることが特に好ましい。カチオン性のスチレン-ブタジエン共重合体のラテックスは、スチレン-ブタジエン共重合体の粒子が、水中に分散してなる水系の分散液であって、カチオン性を示すものである。
【0015】
カチオン系エマルジョンとしては、固形分濃度が、35~70重量%のものが好ましく、40~55重量%のものが好ましい。また、カチオン系エマルジョンとしては、pHが5.0~6.9の範囲にあるものが好ましく、pHが5.5~6.5の範囲にあるものがより好ましい。
【0016】
また、本発明の薄層表面処理混合物は、カチオン系エマルジョンに加えて、モルタル材を含むものである。本発明で用いるモルタル材は、速硬性混和材と、セメントと、細骨材を含有するものである。
【0017】
本発明で用いるモルタル材は、速硬性混和材と、セメントと、細骨材を含有するものであればよく、特に限定されないが、蛍光X線分析法(XRF)を用い、F.P.(Fundamental Parameter)法による、定量分析を行った際における、各元素の含有割合が下記の範囲にあるものが好ましい。
Na:好ましくは0.3~0.6重量%、より好ましくは0.42~0.52重量%
Mg:好ましくは0.4~0.9重量%、より好ましくは0.58~0.68重量%
Al:好ましくは3~7重量%、より好ましくは4.5~5.5重量%
Si:好ましくは10~35重量%、より好ましくは20~28重量%
S:好ましくは4~11重量%、より好ましくは7~8重量%
K:好ましくは0.4~1.5重量%、より好ましくは0.9~1重量%
Ca:好ましくは30~70重量%、より好ましくは52~62重量%
Ti:好ましくは0.2~0.8重量%、より好ましくは0.48~0.58重量%
Fe:好ましくは1~6重量%、より好ましくは3.1~4.1重量%
【0018】
また、本発明で用いるモルタル材は、レーザー回折/散乱法による乾式粒度分布測定により測定される体積基準によるメジアン径が、300~500μmであることが好ましく、380~480μmであることがより好ましく、415~460μmであることがさらに好ましい。
【0019】
本発明で用いるモルタル材を構成する、速硬性混和材は、カルシウムアルミネートと、無機硫酸塩と、凝結調整剤とを含む組成物であることが好ましい。
【0020】
カルシウムアルミネートは、モルタル材の使用時において、カチオン系エマルジョンに接したときにカルシウムイオンとアルミニウムイオンを溶出し、これらと無機硫酸塩から溶出される硫酸イオンとを反応させて、針状結晶のエトリンガイト(3CaO・Al2O3・3CaSO4・32H2O)あるいはモノサルフェイト(3CaO・Al2O3・CaSO4・12H2O)などの水和物を生成させることによって、薄層表面処理混合物の初期強度発現性を向上させる作用を有する。カルシウムアルミネートからのカルシウムイオンとアルミニウムイオンの溶出速度が小さくなりすぎると、硫酸イオンとの反応性が悪くなり、薄層表面処理混合物の初期強度発現性が低下するおそれがある。一方、カルシウムアルミネートからのカルシウムイオンとアルミニウムイオンの溶出速度が大きくなりすぎると、硫酸イオンとの反応性が高くなり、速硬性モルタル組成物の凝結始発時間が速くなりすぎて、凝結調整剤を使用しても凝結始発時間を調整しにくく、可使時間を十分に確保することが困難となるおそれがある。このため、カルシウムアルミネートの平均粒子径(平均一次粒子径)は、8~100μmの範囲であることが好ましい。
【0021】
カルシウムアルミネートの平均粒子径は、たとえば、SEM(走査型電子顕微鏡)とEPMA(電子プローブマイクロアナライザー)とを用いて測定することができる。すなわち、速硬性混和材のSEM画像とEPMAによる元素分析によって検出された元素の結果から、速硬性混和材に含まれているカルシウムアルミネートの粒子を特定し、カルシウムアルミネートとして特定された粒子について、粒子径をSEM画像から計測し、その平均値を求めることによって測定することができる。EPMAによる元素分析によりカルシウムとアルミニウムのみが検出された粒子は、カルシウムアルミネートの粒子として特定できる。
【0022】
カルシウムアルミネートとしては、12CaO・7Al2O3、11CaO・7Al2O3・CaF2およびCaO・Al2O3からなる群より選択される一つ以上の組成を有し、ガラス化率が80%以上であるものを使用することが好ましい。ガラス化率は、80~98%であることがより好ましく、90~98%であることが特に好ましい。上記の組成とガラス化率とを有するカルシウムアルミネートは水と接したときにカルシウムイオンとアルミニウムイオンの溶出速度が大きく、反応性が高くなるので、薄層表面処理混合物の初期強度発現性を確実に向上させることが可能となる。
【0023】
また、カルシウムアルミネートは、ブレーン比表面積が3000~5500cm2/gであることが好ましい。なお、ブレーン比表面積は、JIS R5201「セメントの物理試験方法」に記載のブレーン空気透過装置を用いた比表面積試験で測定するものとする。
【0024】
速硬性混和材に含まれる無機硫酸塩は、モルタル材の使用時において、水と接すると硫酸イオンを溶出し、これとカルシウムアルミネートから溶出するカルシウムイオン、アルミニウムイオンとを反応させて、針状結晶のエトリンガイトあるいはモノサルフェイトなどの水和を生成することによって、薄層表面処理混合物の初期強度発現性を向上させる作用を有する。
【0025】
無機硫酸塩からの硫酸イオンの溶出速度が遅いと、カルシウムアルミネートから溶出するカルシウムイオン、アルミニウムイオンとの反応性が悪くなり、凝結開始から硬化するまでの時間が長くなり、薄層表面処理混合物の初期強度発現性が悪くなる。このため、無機硫酸塩は、ブレーン比表面積が8000cm2/g以上であることが好ましい。また、無機硫酸塩のブレーン比表面積は12000cm2/g以下であることが好ましい。
【0026】
無機硫酸塩は、無水石膏であることが好ましく、特にII型無水石膏であることが好ましい。無水石膏(特に、II型無水石膏)は、カルシウムアルミネートとの反応性が高いので、薄層表面処理混合物の初期強度発現性をより確実に向上させることが可能となる。
【0027】
速硬性混和材に含まれる凝結調整剤は、モルタル材の使用時において、モルタル材に、カチオン系エマルジョンを加えてからモルタル材の凝結が開始するまでの時間を調整する作用、すなわちモルタルの硬化時間を遅延させる作用を有する。凝結調整剤によって、モルタル材の硬化時間が遅延されることによって、モルタル材に、カチオン系エマルジョンを加えてからモルタルの硬化反応が進行するまでの間の薄層表面処理混合物の流動性が向上する。
【0028】
凝結調整剤による薄層表面処理混合物の硬化時間の遅延作用は、凝結調整剤が水に溶解し、速硬性混和材(カルシウムアルミネート)から溶出したカルシウムイオンやアルミニウムイオンとキレート反応して、速硬性混和材の表面に皮膜を形成することによって、速硬性混和材からのカルシウムイオンやアルミニウムイオンの溶出が一時的に抑制されることにより発現すると考えられる。ただし、速硬性混和材の表面に形成される皮膜は、極めて薄いため、比較的短時間で溶解して消失する。そして、この被膜が消失した後は、速硬性混和材からのカルシウムイオン、アルミニウムイオンの再溶出が始まって、薄層表面処理混合物の硬化反応が進行する。
【0029】
速硬性混和材に含まれる凝凝結調整剤は、平均粒子径(平均一次粒子径)が5μm以下の微粒子とされている。このため、比較的に広い温度範囲において、凝結調整剤を水に速やかに溶解させることができる。凝結調整剤の平均粒子径は1μm以上であることが好ましい。
【0030】
凝結調整剤は、無機炭酸塩、オキシカルボン酸、アルミン酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウムのうちの1つ以上を含む。これらは水に溶解しやすいので、凝結調整剤がこれらの薬剤を1つ以上含むことによって、凝結調整剤による凝結調整作用が早期に発揮され、環境温度による速硬性モルタル組成物の凝結始発時間の変動を確実に小さくすることができる。また、凝結調整剤による凝結調整作用が早期に発揮されるので、凝結始発時間がより安定して長くなるとともに、カチオン系エマルジョンを加えた後の流動性がより高くなる。
【0031】
無機炭酸塩は、アルカリ金属の炭酸塩あるいは炭酸水素塩であることが好ましい。無機炭酸塩の例としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸リチウム、炭酸アンモニウムが挙げられる。これらの無機炭酸塩は、1つを単独で使用してもよいし、2つ以上を組合せて使用してもよい。オキシカルボン酸の例としては酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、マレイン酸を挙げられる。これらのオキシカルボン酸は、1つを単独で使用してもよいし、2つ以上を組合せて使用してもよい。
【0032】
凝結調整剤は、無機炭酸塩、オキシカルボン酸、アルミン酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウムのうちの2つ以上を組合せて使用することが好ましい。2つ以上の組合せは、無機炭酸塩、オキシカルボン酸およびアルミン酸ナトリウムの3つの組合せが好ましく、無機炭酸塩、オキシカルボン酸、アルミン酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウムの4つの組合せがより好ましい。なお、凝凝結調整剤を2つ以上の組合せとする場合は、少なくとも一つの凝結調整剤の平均粒子径が5μm以下の微粒子とされていればよい。
【0033】
上記の凝結調整剤の中で、硫酸ナトリウムは、水に対する溶解速度が特に速い。このため、硫酸ナトリウムは、水を加えた後の速硬性モルタル組成物の流動性を向上させる効果が高い。また、硫酸ナトリウムは、広い温度範囲で水に溶解し易いので、カチオン系エマルジョンを加えた後の凝結始発時間に対する温度依存性を小さくする効果もある。
【0034】
凝結調整剤の微粒子は、一次粒子もしくはそれに近い凝集粒子として速硬性混和材中に分散していることが好ましい。凝結調整剤が一次粒子もしくはそれに近い凝集粒子として分散していると、水への溶解速度が向上して、凝結調整剤による凝結調整作用が早期に発揮されるので、環境温度による凝結始発時間の変動を確実に小さくできる。また、微細な凝結調整剤の粒子は、カルシウムアルミネートの表面に付着していることが好ましい。この場合は、凝結調整剤がカルシウムアルミネートよりも先に水と接触するので溶解し易くなり、凝結調整剤による凝結調整作用が早期に発揮されるので、環境温度による凝結始発時間の変動をさらに確実に小さくできる。
【0035】
速硬性混和材に含まれる凝結調整剤の平均粒子径は、たとえば、SEMとEPMAとを用いて測定することができる。すなわち、速硬性混和材のSEM画像とEPMAによる元素分析によって検出された元素の結果から、速硬性混和材に含まれている凝結調整剤の粒子を特定し、凝結調整剤として特定された粒子について、粒子径をSEM画像から計測し、その平均値を求めることによって測定することができる。例えば、EPMAによる元素分析によりナトリウムのみが検出された粒子は、炭酸ナトリウム(無機炭酸塩)の粒子として特定できる。
【0036】
速硬性混和材に含まれるカルシウムアルミネートと無機硫酸塩と凝結調整剤の配合量は、カルシウムアルミネート100重量部に対して、無機硫酸塩は50~200重量部の範囲とすることが好ましく、凝結調整剤は0.1~10重量部の範囲とすることが好ましい。
【0037】
速硬性混和材は、たとえば、カルシウムアルミネートを含むクリンカーと凝結調整剤とを混合粉砕して混合粉砕物を調製する混合粉砕工程と、得られた混合粉砕物と、無機硫酸塩とを混合する混合工程とを備える方法によって製造することができる。
【0038】
また、本発明用いるモルタル材は、速硬性混和材に加えて、セメントを含有する。セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント、シリカフュームセメント等を用いることができる。セメントは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。セメントはポルトランドセメント、特に普通ポルトランドセメントを用いることが好ましい。
【0039】
セメントの配合量は、速硬性混和材100重量部に対して、セメントを100~2000重量部の範囲であることが好ましい。セメントの配合量が上記の範囲にあると、速硬性混和材による初期強度の発現性とセメントによる長期強度の発現性とを高度にバランスさせることができる。
【0040】
また、本発明で用いるモルタル材は、速硬性混和材に加えて、細骨材を含有する。細骨材は、本発明の薄層表面処理混合物の硬化に伴う硬化体の収縮(自己収縮)や、硬化後の水分の逸散に伴う収縮(乾燥収縮)を抑える作用がある。細骨材は、砂であることが好ましく、粒子径が150~3000μmの砂であることがより好ましく、200~1500μmの砂であることがさらに好ましい。また、粒子径が90~1000μmの砂であってもよく、さらに90~200μmの砂であってもよい。細骨材の粒子径を上記範囲とすることにより、カチオン系エマルジョンと、モルタル材とを混合した際における、撹拌性能を良好なものとしながら、施工性を良好なものとすることができる。
【0041】
細骨材の配合量は、モルタル材の全体量に対して10~67質量%の範囲とすることが好ましい。細骨材の配合量を上記範囲とすることにより、カチオン系エマルジョンと、モルタル材とを混合した際における、撹拌性能を良好なものとしながら、本発明の薄層表面処理混合物を用いて形成される表面処理層の耐摩耗性をより高めることができる。
【0042】
本発明の薄層表面処理混合物において、カチオン系エマルジョンと、モルタル材との配合割合は、「カチオン系エマルジョン:モルタル材」の重量比率で、好ましくは10:90~40:60であり、より好ましくは20:80~35:65、さらに好ましくは22:78~28:72である。カチオン系エマルジョンと、モルタル材との配合割合を上記範囲とすることにより、本発明の薄層表面処理混合物を用いて形成される表面処理層を、接着性および耐久性により一層優れたものとすることができる。
【0043】
なお、本発明の薄層表面処理混合物は、カチオン系エマルジョン、およびモルタル材に加えて、これら以外の成分を含有していてもよく、たとえば、着色顔料(たとえば、赤、黄色、緑、青、オレンジなどの着色顔料)を添加することで、カラー舗装に用いることができ、カーボンブラックを添加することで、黒色舗装に用いることもできる。さらには、増粘剤(粘度調整剤)を添加してもよく、増粘剤を添加することで、段差補修材として、好適に用いることができる。増粘剤としては、たとえば、酸性白土、カオリン、アタパルジャイトなどが好適に挙げられる。
【0044】
本発明の薄層表面処理混合物は、通常、施工の直前に、カチオン系エマルジョンと、モルタル材とを、ハンドミキサーなどで混合することにより調製され、このようにして調製された本発明の薄層表面処理混合物を、舗装路面上に施工することで、薄層(たとえば、1~5mmの厚み、好ましくは1~3mmの厚み)の表面処理層の形成に用いられるものである。そして、本発明の薄層表面処理混合物は、上記したカチオン系エマルジョンと、上記したモルタル材とを含有するものであることから、本発明の薄層表面処理混合物を用いて形成される表面処理層を、路面に対する接着性、および耐久性に優れたものとすることができるものである。なお、本発明の薄層表面処理混合物に、カチオン系エマルジョン、およびモルタル材以外の成分を添加する際には、予め、カチオン系エマルジョン、またはモルタル材に混合しておいてもよいし、これらを混合する際に、別途添加してもよい。
【0045】
加えて、本発明の薄層表面処理混合物は、通常、施工の直前に、カチオン系エマルジョンと、モルタル材とを、混合することにより調製されるものであるが、この際には、施工現場などにおいて、ハンドミキサーなどを用いて混合することができ、さらには、混合により得られた薄層表面処理混合物を、施工する際には、ゴムレーキなどを用いて施工することができるため、施工機械を用いる必要がなく、そのため、高い生産性にて、路面上に、表面処理層を形成することができる。また、本発明の薄層表面処理混合物は、ハンドミキサーなどを用いて混合した際においても、4~8(J14ロート)sec程度の流動性を確保でき、優れた流動性を実現することができ、さらには、十分な可使時間を確保可能なものであり、そのため、プレミックスタイプの混合物として、好適に用いることができるものである。
【0046】
さらに、本発明の薄層表面処理混合物は、舗装路面上に施工することで、カチオン系エマルジョンと、モルタル材とが反応し、これにより硬化反応が起こることで、舗装路面上に、表面処理層を形成できるものであり、この際においては、常温(5~35℃)で、しかも、比較的短い時間で硬化反応を進行させることができ、これにより、好ましくは30~60分程度と早期の交通開放を可能とすることができるものである。
【0047】
なお、本発明においては、本発明の薄層表面処理混合物を用いて形成した表面処理層の表面に、コーティングを行うことで、コーティング層を形成してもよい。コーティング層は、薄層表面処理混合物として、着色顔料やカーボンブラックを添加した場合に、表面処理層の白化(色落ち)を抑制することができる。コーティング層としては、特に限定されないが、たとえば、本発明の薄層表面処理混合物に用いるカチオン系エマルジョンをコーティング剤として用い、これを、本発明の薄層表面処理混合物を用いて形成した表面処理層の表面にコーティングすることにより形成することができる。また、コーティング剤には、さらに、増粘剤(粘度調整剤)を添加してもよく、増粘剤としては、たとえば、酸性白土、カオリン、アタパルジャイトなどが好適に挙げられる。コーティング層は、表面処理層の表面に、好ましくは0.05~0.3kg/m2にて形成することができ、より好ましくは1~2kg/m2にて形成することができる。
【実施例0048】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0049】
<実施例1>
カチオン性のスチレン-ブタジエン共重合体のラテックス(商品名「ラックスター DS-410」、DIC社製、固形分濃度43~45重量%、pH5.5~6.5)25重量部と、モルタル材(商品名「MG-11M」、三菱マテリアル社製)75重量部と、着色材としてのカーボンブラック4重量部とをハンドミキサーで、1.5分間混合することで、薄層表面処理混合物を調製した。
【0050】
なお、モルタル材(商品名「MG-11M」、三菱マテリアル社製)は、速硬性混和材とセメントと細骨材を含むものであり、蛍光X線分析法(XRF)を用いた、F.P.(Fundamental Parameter)法(SQX計算)による、定量分析(ZSX Primus 蛍光X線分析装置(リガク社製)を使用)を行った際における、各元素の含有割合は下記の通りであった。また、モルタル材(商品名「MG-11M」、三菱マテリアル社製)は、レーザー回折/散乱法による乾式粒度分布測定により測定された体積基準によるメジアン径(レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-950V2(堀場製作所社製)を使用)が、432μmであった。
Na:0.47重量%
Mg:0.63重量%
Al:5.0重量%
Si:24重量%
S:7.5重量%
K:0.96重量%
Ca:57重量%
Ti:0.53重量%
Fe:3.6重量%
【0051】
また、モルタル材(商品名「MG-11M」、三菱マテリアル社製)は、速硬性混和材とセメントと細骨材とを上記所定量含み、速硬性混和材が、カルシウムアルミネートと、無機硫酸塩と、カルシウムアルミネートとを上記所定量含むものであると想定される。
【0052】
そして、得られた薄層表面処理混合物について、可使時間および硬化時間の測定を行った。得られた測定結果を
図1に示す。
図1の結果からも明らかなように、実施例1に係る薄層表面処理混合物は、常温(5~35℃)において、可使時間が十分に長く、また、硬化時間が60分以内と短いものであった。なお、本試験においては、薄層表面処理混合物の各測定温度において、混合開始後、ゴムレーキにより作業ができなくなった時間を、可使時間とし、敷き均し後、薄層表面処理混合物が、タイヤに付着しなくなった時間を、硬化時間とした。
【0053】
得られた薄層表面処理混合物を用いて、30cm×30cm×5cmの硬化物供試体を得て、得られた硬化物供試体を用いて、耐摩耗抵抗性(寸法:内径255mm×厚み5mm)、すべり抵抗性、ねじり抵抗性、および耐流動性の測定・評価を行った。その評価結果は下記の通りであり、いずれも、十分な特性を示すものであった。
耐摩耗抵抗性:71g/m2
すべり抵抗性(BPN値):70
ねじり抵抗性:0.05%
耐流動性(Ds値):21000条
【0054】
なお、耐摩耗抵抗性の測定は、ウエットトラック摩耗試験(JEAAT-1、社団法人日本アスファルト乳剤協会)により行い、すべり抵抗性の測定は、振り子式すべり抵抗測定方法(S021-2、舗装試験調査法便覧、日本道路協会発行)により行った。また、ねじり抵抗性の測定は、ねじり抵抗性測定方法(舗装性能評価法別冊、日本道路協会発行)に従って行い、耐流動性の測定は、WT試験方法(舗装試験調査法便覧、日本道路協会発行)に従って行った。
【0055】
また、得られた薄層表面処理混合物を、アスファルト舗装路面(As舗装)およびコンクリート舗装路面(Co舗装)のそれぞれに対し、施工し、厚さ5mmの薄層の表面処理層を形成し、接着力の測定を行った。なお、この際には、カチオン性のスチレン-ブタジエン共重合体のラテックス(商品名「ラックスター DS-410」、DIC社製)100重量部と、増粘剤4重量部とを含有するコーティング剤を用いて、表面処理層上に、0.15kg/m
2にて、コーティング層を形成した。得られた測定結果を後述の比較例1における結果とともに、
図2にグラフ化して示す。
図2に示すように、実施例1の薄層表面処理混合物を用いて得られた薄層の表面処理層は、アスファルト舗装路面(As舗装)およびコンクリート舗装路面(Co舗装)のいずれに対しても、高い接着力を示すものであった。なお、接着力の測定は、引張接着試験(JEAAT-5、社団法人日本アスファルト乳剤協会)に準拠して、行った。
【0056】
また、得られた薄層表面処理混合物を、アスファルト舗装路面(As舗装、前田道路社の技術研究所内の駐車場)に対し、施工し、厚さ3mmの薄層の表面処理層を形成し、長期耐久試験を行った。なお、この際には、カチオン性のスチレン-ブタジエン共重合体のラテックス(商品名「ラックスター DS-410」、DIC社製)100重量部と、増粘剤4重量部とを含有するコーティング剤を用いて、表面処理層上に、0.15kg/m2にて、コーティング層を形成した。長期耐久試験の結果、施工・供用後、1年以上にわたり、飛散や剥がれは見られず、優れた耐久性を有するものであることが確認された。
【0057】
<実施例2>
カーボンブラック4重量部に代えて、赤色着色材3.75重量部をさらに配合した以外は、実施例1と同様にして、薄層表面処理混合物を得て、同様に評価を行ったところ、実施例1と同等の効果が得られることが確認された。
【0058】
<実施例3>
カーボンブラック4重量部に代えて、黄色着色材3.75重量部をさらに配合した以外は、実施例1と同様にして、薄層表面処理混合物を得て、同様に評価を行ったところ、実施例1と同等の効果が得られることが確認された。
【0059】
<実施例4>
カーボンブラック4重量部に代えて、緑色着色材3.75重量部をさらに配合した以外は、実施例1と同様にして、薄層表面処理混合物を得て、同様に評価を行ったところ、実施例1と同等の効果が得られることが確認された。
【0060】
<実施例5>
接着力の測定および長期耐久試験において、コーティング層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして、薄層表面処理混合物を得て、同様に評価を行ったところ、実施例1と同等の効果が得られることが確認された。
【0061】
<実施例6>
カチオン性のスチレン-ブタジエン共重合体のラテックス(商品名「ラックスター DS-410」、DIC社製)の配合量を20重量部とし、モルタル材(商品名「MG-11M」、三菱マテリアル社製)の配合量を80重量部とし、着色材および増粘剤を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして、薄層表面処理混合物を得て、同様に評価を行ったところ、実施例1と同等の効果が得られることが確認された。なお、実施例6においても、接着力の測定および長期耐久試験において、コーティング層を形成しなかった。
【0062】
<比較例1>
カチオン性のスチレン-ブタジエン共重合体のラテックス(商品名「ラックスター DS-410」、DIC社製)およびモルタル材(商品名「MG-11M」、三菱マテリアル社製)に代えて、アクリル樹脂のエマルジョン14.3重量部、およびポリマーセメント85.7重量部を使用した以外は、実施例1と同様にして、薄層表面処理混合物を得て、実施例1と同様にして、接着力の測定を行った。得られた結果を、
図2にグラフ化して示す。