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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023037334
(43)【公開日】2023-03-15
(54)【発明の名称】複合構造体
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/00 20060101AFI20230308BHJP
   C23C 2/06 20060101ALI20230308BHJP
   C23C 2/26 20060101ALI20230308BHJP
   C22C 18/04 20060101ALI20230308BHJP
   C22C 18/00 20060101ALI20230308BHJP
   C22C 30/06 20060101ALI20230308BHJP
【FI】
C23C28/00 C
C23C2/06
C23C2/26
C22C18/04
C22C18/00
C22C30/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021144007
(22)【出願日】2021-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(72)【発明者】
【氏名】森 ゆきの
(72)【発明者】
【氏名】莊司 浩雅
(72)【発明者】
【氏名】西田 義勝
【テーマコード(参考)】
4K027
4K044
【Fターム(参考)】
4K027AA05
4K027AA22
4K027AB05
4K027AB44
4K027AC82
4K027AE03
4K044AA02
4K044AB02
4K044BA10
4K044BA12
4K044BB04
4K044BC02
4K044CA11
4K044CA16
(57)【要約】
【課題】亜鉛系めっき鋼材のアルカリ性環境中での耐食性を向上させた、亜鉛系めっき鋼材をコンクリートに埋め込み固定した複合構造体を提供する。
【解決手段】本発明の複合構造体は、亜鉛系めっき鋼材の一部又は全部がコンクリートに埋め込まれており、亜鉛系めっき鋼材とコンクリートの間に、亜鉛系めっき鋼材側から順に、所定の成分、厚さを有する第1層、第2層を備える。これにより、亜鉛系めっき鋼材のアルカリ性環境中での耐食性を向上させた、亜鉛系めっき鋼材をコンクリートに埋め込み固定した複合構造体を得ることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛系めっき鋼材の一部又は全部がコンクリートに埋め込まれた複合構造体であって、
亜鉛系めっき鋼材とコンクリートの間に、亜鉛系めっき鋼材側から順に、第1層、第2層を備え、
第1層は、Ca及びZn、並びに5~60質量%のSi及び10~30質量%のZrの一方又は両方を含み、厚さが0.1~10μmであり、
第2層は、Ca:5~50質量%、Zn:5~50質量%、Al:0~30質量%、Si:0~5質量%を含有し、これらの合計含有量が40~80質量%であり、
第2層の厚さは0.5~80μmである
ことを特徴とする複合構造体。
【請求項2】
前記第1層におけるSi付着量が、Si換算で0.1~5g/m2であることを特徴とする、請求項1に記載の複合構造体。
【請求項3】
前記第1層におけるZr付着量が、Zr換算で0.2~2g/m2であることを特徴とする、請求項1に記載の複合構造体。
【請求項4】
前記亜鉛系めっき鋼材のめっき層の化学組成が、質量%で
Al:4.0~25.0%、
Mg:1.0~12.5%、
Sn:0~20%、
Bi:0~5.0%、
In:0~2.0%、
Ca:0~3.0%、
Y :0~0.5%、
La:0~0.5%、
Ce:0~0.5%、
Si:0~2.5%、
Cr:0~0.25%、
Ti:0~0.25%、
Ni:0~0.25%、
Co:0~0.25%、
V :0~0.25%、
Nb:0~0.25%、
Cu:0~0.25%、
Mn:0~0.25%、
Fe:0~5.0%、
Sr:0~0.5%、
Sb:0~0.5%、
Pb:0~0.5%、及び
B :0~0.5%
を含有し、残部がZn及び不純物である
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の複合構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
主に土木建築分野において、鋼材を用い、これをコンクリートに埋め込み固定して耐久性を向上させた構造物が提案されている。
【0003】
このような構造物中では、めっきを施していない鋼材が広く用いられている。めっきを施していない鋼材は、コンクリートのようなアルカリ性環境では、表面に不働態皮膜を形成し、高い耐食性を示すためである。しかしながら、鋼材の、コンクリートに被覆されず露出した部分は耐食性に劣る。また、コンクリート中であっても、中性化が生じた場合には不働態皮膜が消失し、耐食性が低下する。
【0004】
中性化による影響を受けにくい素材として、ステンレスやエポキシ樹脂被覆鋼材が挙げられる。しかしながら、前者は高価であり、後者は物理的な疵が生じた際に防食作用を示さなくなる。
【0005】
そこで、他の中性化の影響を受けにくい素材として、亜鉛系めっきを施した鋼材を使用することが考えられる。亜鉛系めっき鋼材は比較的安価であり犠牲防食作用も有するため、コンクリート中への適用が期待される。
【0006】
特許文献1には、亜鉛系めっき鋼材がコンクリートに埋め込み固定された複合構造体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-196938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
亜鉛系めっき鋼材は、めっきを施していない鋼材と比較し、中性条件での耐食性に優れている。しかしながら、一方で、コンクリートのようなアルカリ性環境で腐食しやすいことが知られている。
【0009】
亜鉛系めっき鋼材は亜鉛の犠牲防食作用により鋼の発錆を抑制するが、亜鉛めっきはコンクリートの強アルカリ性条件で溶解する、また、塩化物イオンの存在下で耐食性が低下するという問題がある。そのため、コンクリート中では恒久的な防食作用は得られない。したがって、コンクリート中において亜鉛系めっき鋼材を適用するためには、アルカリ性環境中での耐食性向上が課題である。
【0010】
本発明は、亜鉛系めっき鋼材のアルカリ性環境中での耐食性を向上させた、亜鉛系めっき鋼材をコンクリートに埋め込み固定した複合構造体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、コンクリート中、すなわち、アルカリ性環境中で亜鉛系めっき鋼材の耐食性を向上させる方法を鋭意検討した。その結果、亜鉛系めっき鋼材の表面を適切に処理し、コンクリートに埋設することにより、亜鉛系めっき鋼材とコンクリートの界面に適切な層構造が形成され、耐食性が向上することを見出した。
【0012】
本発明は、上記の知見に基づき、さらに検討を進めてなされたものであって、その要旨は以下のとおりである。
【0013】
(1)亜鉛系めっき鋼材の一部又は全部がコンクリートに埋め込まれた複合構造体であって、亜鉛系めっき鋼材とコンクリートの間に、亜鉛系めっき鋼材側から順に、第1層、第2層を備え、第1層は、Ca、及びZn、並びに5~60質量%のSi及び10~30質量%のZrの一方又は両方を含み、厚さが0.1~10μmであり、第2層は、Ca:5~50質量%、Zn:5~50質量%、Al:0~30質量%、Si:0~5質量%を含有し、これらの合計含有量が40~80質量%であり、第2層の厚さは0.5~80μmであることを特徴とする複合構造体。
【0014】
(2)前記第1層におけるSi付着量が、Si換算で0.1~5g/m2であることを特徴とする、前記(1)の複合構造体。
【0015】
(3)前記第1層におけるZr付着量が、Zr換算で0.2~2g/m2であることを特徴とする、前記(1)の複合構造体。
【0016】
(4)前記亜鉛系めっき鋼材のめっき層の化学組成が、質量%でAl:4.0~25.0%、Mg:1.0~12.5%、Sn:0~20%、Bi:0~5.0%、In:0~2.0%、Ca:0~3.0%、Y:0~0.5%、La:0~0.5%、Ce:0~0.5%、Si:0~2.5%、Cr:0~0.25%、Ti:0~0.25%、Ni:0~0.25%、Co:0~0.25%、V:0~0.25%、Nb:0~0.25%、Cu:0~0.25%、Mn:0~0.25%、Fe:0~5.0%、Sr:0~0.5%、Sb:0~0.5%、Pb:0~0.5%、及びB:0~0.5%を含有し、残部がZn及び不純物であることを特徴とする前記(1)~(3)のいずれかの複合構造体。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、亜鉛系めっき鋼材のアルカリ性環境中での耐食性を向上させた、亜鉛系めっき鋼材をコンクリートに埋め込み固定した複合構造体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の鋼材とコンクリートの複合構造体を示す図である。
図2】鋼板、溝形鋼(C型)、H型鋼、鋼管、角型鋼をコンクリートに埋め込んだ複合構造体を示す図である。
図3】本発明の複合構造体の第1層、第2層の透過型電子顕微鏡(TEM:Scanning Electoron Microscope)写真の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明について図面に従って詳細に説明する。以下、元素の含有量に関する「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0020】
図1は、本発明に係る構成を説明する図である。図1に示すように、本発明の複合構造体は、亜鉛系めっき鋼材の一部、又は全部がコンクリートに埋め込んで固定された構造体である。
【0021】
「亜鉛系めっき鋼材」は、鋼に亜鉛がめっきされたものであれば、特に限定されるものではない。たとえば、鋼板、鋼管、角管、形鋼等が含まれる。その他、デザイン上で複雑な形状を有するものであってもよい。図2に、本発明の実施形態の例として、亜鉛系めっきを施した鋼板、溝形鋼(C型)、H型鋼、鋼管、角型鋼をコンクリートに埋め込んだ複合構造体を示す。
【0022】
亜鉛系めっき鋼材の鋼の成分、めっきの成分は特に限定されるものではなく、一般的に知られたものを用いればよい。また、亜鉛にAlやMg等の合金成分を添加した合金めっきを適用しても、同様の効果を有する。亜鉛系めっきには、たとえば、JIS H 8641、JIS G 3302、JIS G 3323、JIS G 3317で規定されているめっきが適用できる。
【0023】
亜鉛系めっきに含有される亜鉛以外の合金成分の例としては、Al:4.0~25.0%、Mg:1.0~12.5%、が例示できる。亜鉛系めっきの性能を落とさない範囲であれば、その他の元素を含有してもよい。その他の元素には、意図的に含有させる元素、不純物として含有される元素が含まれる。
【0024】
その他の元素としては、Sn:0~20%、Bi:0~5.0%、In:0~2.0%、Ca:0~3.0%、Y:0~0.5%、La:0~0.5%、Ce:0~0.5%、Si:0~2.5%、Cr:0~0.25%、Ti:0~0.25%、Ni:0~0.25%、Co:0~0.25%、V:0~0.25%、Nb:0~0.25%、Cu:0~0.25%、Mn:0~0.25%、Fe:0~5.0%、Sr:0~0.5%、Sb:0~0.5%、Pb:0~0.5%、及びB:0~0.5%が例示できる。
【0025】
複合構造体の亜鉛系めっき鋼材とコンクリートの間には、図3に示すように、亜鉛系めっき鋼板側から順に、以下に説明する、第1層、第2層からなる層構造を備える。
【0026】
<第1層>
第1層は、亜鉛系めっき鋼材に化成処理を施すことにより形成される層である。化成処理は一般的な方法によればよいが、本発明における第1層は、Ca、及びZn、並びにSi及びZrの一方又は両方を含有する必要がある。
【0027】
Ca、及びZnは、めっきとコンクリートの界面にCa-Zn反応層を形成し、亜鉛系めっき鋼材の耐食性を向上させる元素である。この効果を得るために、Ca、Znの含有量は、それぞれ、10~40%、5~15%とする。
【0028】
Si及びZrは、前記Ca-Zn反応層に対して固溶することによりCa-Zn-Si、Ca-Zn-Zr、Ca-Zn-Si-Zrのいずれかの複合塩からなる反応層を形成し、亜鉛系めっき鋼材の耐食性をさらに向上させる元素である。Si、Zrの含有量は、Si:5~60質量%、Zr:10~30質量%の一方、又は両方を満たすようにする。好ましくは、Siは10~50質量%、より好ましくは20~40質量%であり、Zrは15~30質量%、より好ましくは20~30質量%である。なお、Si:5~60質量%を含有する場合に10質量%未満のZrを含有すること、及びZr:10~30質量%を含有する場合に5質量%未満のSiを含有することを妨げない。また、付着量が、それぞれ、Si換算で0.1~5g/m2、Zr換算で0.2~2g/m2であることが好ましい。より好ましくは、それぞれ、Si換算で0.5~4g/m2、Zr換算で0.4~2g/m2である。
【0029】
その他の元素としては、通常、化成処理皮膜に含まれる元素を含有してもよい。コンクリートに起因する元素が含有されてもよい。具体的には、Oを中心として、さらにP、Mo、V、Mg、C、K等を含有することができ、その合計濃度は10~90質量%である。
【0030】
第1層の厚みは0.1~10μmとする。これにより、コンクリート中の強アルカリ成分により亜鉛系めっきが溶解することを防ぎ、また、亜鉛系めっき鋼材とコンクリートを適切に密着することができる。好ましくは0.5~8μmである。
【0031】
<第2層>
第2層は、第1層中のZnが拡散し、コンクリートに含有されるCaと反応することにより形成される反応層であり、Ca及びZnを含む水酸化物、Ca、Al、Siの酸化物、及び不純物からなり、Ca:5~50質量%、Zn:5~50質量%、Al:0~30質量%、Si:0~5質量%を含有し、これらの合計含有量が40~80質量%である。ここで、Ca、Al、Siの酸化物とは、Ca、Al、Siそれぞれの酸化物のみではなく、Ca、Al、Siの2種以上を含む複酸化物も含まれる。Ca、Al、Siの含有量は、好ましくは、Ca:10~40質量%、Al:5~20質量%、Si:3~5質量%である。
【0032】
第2層には、その他の元素として、O、Fe、S、Mo、V、Mg、C、Na、K等を含有することができ、その合計濃度は20~60質量%である。その他の元素は、化成処理やコンクリートに起因するものである。
【0033】
第2層の厚さは0.5~80μm、好ましくは1~70μmである。
【0034】
第1層、第2層を上述のような構成とすることによって、アルカリ性であるコンクリート中の耐食性を向上させ、亜鉛系めっき鋼材のZnの早期の消失を抑えることが可能となり、亜鉛系めっき鋼材の耐食性が向上する。
【0035】
上述のように、適切な化成処理層(第1層)を亜鉛系めっき鋼材の表面に形成し、コンクリート中での反応により第2層を形成し、上述の構成とすることにより、本発明の複合構造体においては、アルカリ性であるコンクリート中での亜鉛系めっき鋼材の耐食性を向上させ、亜鉛系めっき鋼材のZnの早期の消失を抑えることが可能となり、亜鉛系めっき鋼材の耐食性を、簡便に低コストで向上することができる。
【0036】
なお、上述のとおり、第2層は、化成処理層である第1層を備える亜鉛系めっき鋼板と、コンクリートが反応することにより形成されるので、複合構造体に含まれる亜鉛系めっき鋼板のうちコンクリートに埋め込まれていない部分には、第2層は形成されない。
【0037】
また、連続生産プロセスが活用しづらく、後述する化成処理の工程が多少複雑化するが、亜鉛系めっき鋼材のコンクリートに埋め込まれる部分のみに化成処理皮膜を形成し、コンクリートに埋め込まれていない領域は、化成処理層である第1層を備えない構成としてもよい。亜鉛系めっき鋼板の切断端面に関しては露出していてもよいが、塗料等で端面を覆うと尚よい。
【0038】
亜鉛系めっきと第1層の境界、第1層と第2層の境界は、図3に例示するようにTEM観察によって見分けることができる。第2層とコンクリート層の境界も、同様にTEM観察によって見分けられる。また、第2層とコンクリート層の境界は、第2層からコンクリート層側にかけてTEM観察を行い、観察部位をEDS(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)により分析することで見分けることができる。具体的には、観察部位を、めっき層表面と垂直方向に線分析を行い、各場所での化学組成の定量分析を行う。線分析の手法は特に限定されないが、たとえば、数nm間隔の連続点分析を行う手法が挙げられ、Znが5質量%未満となる点を含む範囲がコンクリート層であると判断できる。
【0039】
亜鉛系めっき鋼材とコンクリートの間の構造を、上述のような層構造とするためには、亜鉛系めっき鋼材をコンクリートに埋め込む前に、化成処理を施し、化成処理皮膜(第1層)を形成する。その後、化成処理皮膜を形成した亜鉛系めっき鋼材をコンクリート中に埋設し、常温で28日間養生する。
【0040】
化成処理皮膜は、化成処理液を塗布した後、塗膜を焼付乾燥することで形成することができる。化成処理液の塗布方法に特に制限はないが、公知のロールコート、スプレー塗布、バーコート、浸漬、静電塗布等を使用することができる。
【0041】
化成処理液の製造方法は特に限定されない。たとえば、各々の皮膜形成成分を混合し、ディスパーで攪拌し、溶解又は分散する方法が挙げられる。各々の皮膜形成成分の溶解性、又は分散性を向上させるために、必要に応じて、公知の親水性溶剤等を添加してもよい。
【0042】
本発明の複合構造体における第1層(化成処理皮膜)は、上述のとおりCaを含有する。化成処理皮膜にCa成分を含有させる方法は、特に限定されない。たとえば、化成処理液の希釈水に、CaCl2、Ca-EDTA錯体などを溶解しておくことができる。化成処理液中のCa濃度は、低すぎると効果がなく、高すぎると化成処理液がゲル化して、塗布することができなくなる。そのため、化成処理液中に含まれるCa濃度を5~40mg/Lとすることが好ましい。
【0043】
前述したとおり、連続生産プロセスが活用しづらく、後述する化成処理の工程が多少複雑化するが、亜鉛系めっき鋼材のコンクリートに埋め込まれる部分のみに化成処理皮膜を形成し、コンクリートに埋め込まれていない領域は、化成処理を施さなくてもよい。
【実施例0044】
本発明の複合構造体における亜鉛系めっき鋼材の耐食性を評価するため、鋼板をコンクリートに埋め込み試験体を作製し、腐食促進試験を行った。以下、詳細を説明する。
【0045】
鋼板として、板厚2.3mmの亜鉛めっき鋼板(鋼板A)、Zn-6%Al-3%Mgめっき鋼板(鋼板B)、Zn-11%Al-3%Mg-0.2%Siめっき鋼板(鋼板C)、Zn-5%Al-0.5%Mgめっき鋼板(鋼板D)を用意した(表1)。
【0046】
【表1】
【0047】
鋼板A~鋼板Dのそれぞれに対して、表2に示す処理条件のいずれかの処理を施し、200mm×60mmに切断したものを32枚用意し、コンクリートに埋め込み、常温で28日間養生させて複合構造体を作製した。処理条件a、bで使用した化成処理液は、それぞれZr、SiのほかP、V、Caなどを含み、Ca濃度が表3-1、3-2に記載の値となるようにCaCl2を溶解させた希釈水を添加することで作製した。コンクリートは、セメント、水、細骨材、粗骨材、及び混和剤からなる普通コンクリート(水セメント比64.4)を使用した。
【0048】
【表2】
【0049】
【表3-1】
【0050】
【表3-2】
【0051】
作製した複合構造体1~62について、以下の方法で、めっき厚み、各層に含まれる成分を測定した。なお、複合構造体55~62の欄に記載した条件では、希釈水中のCa濃度が高すぎ、希釈後の化成処理液がゲル化し鋼板に塗布することができなかったため、複合構造体は作製できなかった。
【0052】
<めっき厚み>
めっき厚みは、複合構造体に埋め込まれた鋼板の長手方向に垂直な断面のTEM像から、画像処理ソフトを用いて測定した。TEMによる断面観察は、FIB(集束イオンビーム)加工により鋼板表面に付着したコンクリートの上部から幅約50μm、深さ約30μmの領域で断面を削り出し、FE-TEM(電界放出型透過電子顕微鏡)を用い、加速電圧を200kVとして行った。
【0053】
<各層の成分>
各層に含まれる成分は、EDS(エネルギー分散型X線分析)により分析した。分析時の加速電圧は200kV、プローブ径は約2nmとした。分析は厚さ方向に0.5μm間隔で行い、各層における含有量の平均値をそれぞれの層の含有量とした。
【0054】
表4-1、4-2に、各複合構造体に使用した鋼板の種類、化成処理条件、第1層、第2層の厚み、成分を示す。
【0055】
【表4-1】
【0056】
【表4-2】
【0057】
続いて、各複合構造体に対して、腐食促進試験として、複合サイクル試験を行った。
【0058】
<複合サイクル試験>
作製した複合構造体を複合サイクル試験機に設置し、JIS H 8502に準ずる、中性塩水噴霧サイクル試験を3サイクル、又は30サイクル実施した後、試験機から複合構造体を取り出し、解体し、表面にコンクリートが付着した状態の鋼板を回収した。解体する際は、ハンマーを用いてコンクリートを半分に破砕した後、コンクリートカッターを用い、鋼板表面にコンクリートが約5mm以内の厚みで残存するよう、鋼板表面に付着したコンクリートを削った。
【0059】
なお、噴霧するのは中性塩水であるが、コンクリートに含まれるCa(OH)2が溶出するため、コンクリートと鋼板の界面はアルカリ性となり、本方法によりアルカリ性環境中での耐食性を評価することができる。
【0060】
中性塩水噴霧サイクル試験の1サイクルは、塩水噴霧(35℃±1℃、塩化ナトリウムの濃度50±5g/l):2時間、乾燥(60±1℃、相対湿度25±5%):4時間、湿潤(50±1℃、相対湿度95%以上):2時間の、計8時間とした。
【0061】
複合サイクル試験の評価は、鋼材、めっき残存部が写るように光学顕微鏡で断面像を撮影し、鋼材よりも色彩の明るい部分をめっき層とし、画像処理ソフトを用いて鋼板のめっき厚の減少量(=初期めっき厚-めっき残厚)を測定し、その値により1~3の3段階で行い、基準は下記のとおりとした。なお、初期めっき厚は、複合構造体に供した鋼板と同種の鋼板を、コンクリートに埋め込まずにそのまま前記の方法により撮影して測定したものである。また、初期めっき厚及びめっき残厚のいずれも任意の20か所で測定し、平均を基準値として使用した。
【0062】
1:めっき厚の減少量 10μm超
2:めっき厚の減少量 5μm超、10μm以下
3:めっき厚の減少量 5μm以下
【0063】
結果を表5-1、5-2に示す。
【0064】
【表5-1】
【0065】
【表5-2】
【0066】
腐食促進試験の結果より、本発明の複合構造体によれば、アルカリ性環境であるコンクリート中においても亜鉛系めっき鋼材の耐食性が維持されることが確認できた。
図1
図2
図3