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  • 特開-嚥下筋力測定器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023037380
(43)【公開日】2023-03-15
(54)【発明の名称】嚥下筋力測定器
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20230308BHJP
【FI】
A61B5/11 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021144084
(22)【出願日】2021-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】上出 直人
(72)【発明者】
【氏名】村上 健
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038VA05
4C038VB08
4C038VB09
4C038VC20
(57)【要約】
【課題】嚥下時に働く舌骨上筋群を定量的かつ正確に評価する。
【解決手段】嚥下筋力測定器は、被験者の胸部から下あごにかけて延び、当該胸部に対する下あごの動きを規制するように形成されたフレーム部材と、前記フレーム部材に取り付けられ、前記被験者の下あごを受けるあご受けパッドと、前記フレーム部材に取り付けられ、前記被験者の胸部を受ける胸部受けパッドと、前記フレーム部材における前記あご受けパッドと前記胸部受けパッドとの間に取り付けられ、当該フレーム部材の歪み量の計測結果を出力する歪み計と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の胸部から下あごにかけて延び、当該胸部に対する下あごの動きを規制するように形成されたフレーム部材と、
前記フレーム部材に取り付けられ、前記被験者の下あごを受けるあご受けパッドと、
前記フレーム部材に取り付けられ、前記被験者の胸部を受ける胸部受けパッドと、
前記フレーム部材における前記あご受けパッドと前記胸部受けパッドとの間に取り付けられ、当該フレーム部材の歪み量の計測結果を出力する歪み計と、
を備える嚥下筋力測定器。
【請求項2】
前記フレーム部材を前記被験者の頸部に固定するための頸部固定用ベルトをさらに備える、
請求項1に記載の嚥下筋力測定器。
【請求項3】
前記歪み計から出力される信号を受信してディスプレイに表示するモニタ装置
をさらに備える請求項1または請求項2に記載の嚥下筋力測定器。
【請求項4】
前記モニタ装置は、更にトレーニング用の情報を前記ディスプレイに表示する、
請求項3に記載の嚥下筋力測定器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嚥下筋力測定器に関する。
【背景技術】
【0002】
嚥下機能は加齢によって低下し、その結果として高齢者では誤嚥性肺炎を起こしやすくなる。高齢者の嚥下機能低下の原因として、嚥下時の喉頭挙上に不可欠な舌骨上筋群の筋力低下がある。そのため、高齢者の嚥下機能低下を早期に検出するためには、舌骨上筋群の筋力を定量的に測定・評価するための手法が必要となる。
【0003】
嚥下に関連する筋群の筋力を定量的に測定・評価する手法として、舌圧の測定が行われている。しかし、舌圧は舌骨上筋群の筋力を測定しているわけではないため、舌骨上筋群の筋力測定の妥当性としては確度が低い。さらに、口腔内にプローブを挿入する必要性もあり、測定は感染管理に留意する必要性もある。また、唾液や少量の水を飲むことで嚥下機能を評価する手法も臨床的には用いられているが、これらの手法も舌骨上筋群の筋力を測定しているわけでない。高齢者の嚥下機能低下を早期発見し、誤嚥性肺炎のリスクを正確に同定するためには、舌骨上筋群の筋力を定量的に測定する方法が求められている。
【0004】
特許文献1には、嚥下障害(または嚥下運動)を簡便に検査してその結果を表示する生体検査装置が開示されている。この生体検査装置は、可撓性のある首装着部材を有し、被検者の喉頭部に装着保持される構造を有している。さらに、首装着部材には、被検者の喉頭部における横方向の動きを電気的に検出する一対のコイルと、被検者が嚥下するときの嚥下音を検出するマイクロフォンとを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-213592公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
舌骨上筋群の筋力を、定量的に測定することのできる手法および機器の開発が求められている。特に、嚥下に関しては、医師、歯科医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、歯科衛生士、栄養士など様々な職種が関わるため、非侵襲的であり、かつ、専門性が異なっても実施が可能である簡便な手法であることが求められている。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであって、嚥下時の喉頭挙上に必要な舌骨上筋群の筋力を定量的かつ正確に評価することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様によれば、嚥下筋力測定器は、被験者に装着された際に当該被験者の胸部から下あごにかけて延びるように形成されたフレーム部材と、前記フレーム部材に取り付けられ、前記被験者の下あごを受けるあご受けパッドと、前記フレーム部材に取り付けられ、前記被験者の胸部を受ける胸部受けパッドと、前記フレーム部材に取り付けられ、当該フレーム部材の歪み量を計測する歪み計と、を備える。
【0009】
本発明の第2の態様によれば、上述の嚥下筋力測定器は、前記フレーム部材を前記被験者の頸部に固定するための頸部固定用ベルトをさらに備える。
【0010】
本発明の第3の態様によれば、上述の嚥下筋力測定器は、前記歪み計から出力される信号を受信してディスプレイに表示するモニタ装置をさらに備える。
【0011】
本発明の第4の態様によれば、前記モニタ装置は、更にトレーニング用の情報を前記ディスプレイに表示する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る嚥下筋力測定器によれば、嚥下時の喉頭挙上に必要な舌骨上筋群の筋力を定量的かつ正確に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1の実施形態に係る嚥下筋力測定器の全体構成を示す図である。
図2】第1の実施形態に係る計測用装具の構造を示す図である。
図3】第1の実施形態に係る嚥下筋力測定器を用いた筋力測定の手順を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第1の実施形態>
以下、本発明の第1の実施形態に係る嚥下筋力測定器について、図1図3を参照しながら説明する。
【0015】
(嚥下筋力測定器の全体構成)
図1は、第1の実施形態に係る嚥下筋力測定器の全体構成を示す図である。
図1に示すように、嚥下筋力測定器1は、計測用装具10と、端末装置11とを備えている。
【0016】
計測用装具10は、被験者Mの前側の頸部に取り付けられ、胸部に対する下あごの位置を固定する。この状態で被験者Mが下あごを引き下げる運動を行うことで計測用装具10に負荷がかかり、その応力から被験者Mの舌骨上筋群の筋力を計測可能とする。
【0017】
端末装置11は、計測用装具10から出力される信号を、AD変換を介してリアルタイムで力(筋力)[N]に換算し、表示可能とするデバイスである。端末装置11は、一般的なスマートフォン、タブレット型PCなどであってよく、その場合は、予め専用のアプリケーションがインストールされているものとする。
【0018】
(計測用装具の構造)
図2は、第1の実施形態に係る計測用装具の構造を示す図である。
以下、図1および図2を参照しながら計測用装具の構造について詳細に説明する。
【0019】
図2に示すように、計測用装具10は、フレーム部材100と、あご受けパッド101と、胸部受けパッド102と、歪み計103と、頸部固定用ベルト104とを備える。
【0020】
フレーム部材100は、被験者Mの胸部から下あごにかけて延び、当該胸部に対する下あごの動きを規制するように形成される。本実施形態においては、フレーム部材100は、被験者Mの胸部および下あごを経由しながら、頸部の前外側(斜め前側)を巡るように環状に形成されている。フレーム部材100は、金属製とされているのが好ましい。
【0021】
あご受けパッド101は、フレーム部材100に取り付けられ、被験者Mの下あごを受ける部材である。
【0022】
胸部受けパッド102は、フレーム部材100におけるあご受けパッド101の反対側に取り付けられ、被験者Mの胸部を受ける部材である。
【0023】
歪み計103は、フレーム部材100におけるあご受けパッド101と胸部受けパッド102との間に取り付けられる。歪み計103は、当該フレーム部材100の歪み量の計測結果を端末装置11に出力する。歪み計103は、一般的な歪みゲージであってよい。
【0024】
本実施形態に係る計測用装具10において、歪み計103は、フレーム部材100の左右の一方側のみに設けられているが、他の実施形態においてはこの態様に限られない。即ち、他の実施形態においては、歪み計103は、フレーム部材100の左右両方に設けられていてもよい。この場合、端末装置11は、フレーム部材100の左右両方に設けられた2個の歪み計103の各々から歪み量を取得し、2つの歪み量の平均値等を応力換算して表示するようにしてもよい。
【0025】
頸部固定用ベルト104は、フレーム部材100を被験者Mの頸部に固定するための帯状部材である。頸部固定用ベルト104は、フレーム部材100の左右方向の一方の端から他方側の端までをつなぐように設けられている。頸部固定用ベルト104を被験者Mの頸部後側に回して締めることでフレーム部材100が頸部前側に固定される(図1参照)。
【0026】
(嚥下筋力の測定手順)
図3は、第1の実施形態に係る嚥下筋力測定器を用いた筋力測定の手順を示すフロー図である。
以下、図3を参照しながら、嚥下筋力測定器1を用いた筋力測定の手順について詳細に説明する。
【0027】
まず、計測用装具10を被験者Mの頸部に装着させながら、頸部固定用ベルト104を頸部後側に回して締めることで固定する(ステップS01)。このとき、計測用装具10は、被験者Mの下あごがあご受けパッド101に接し、かつ、被験者Mの胸部が胸部受けパッド102に接するように固定される。
【0028】
次に、被験者Mは、下あごを下に引き下げる運動を行う(ステップS02)。この運動により、計測用装具10は、被験者Mの胸部と下あごで挟みこまれるような形で外力を受ける。そうすると、フレーム部材100の形状が外力に応じた量だけ歪む。
【0029】
あご受けパッド101と胸部受けパッド102との間に設けられた歪み計103が、フレーム部材100で生じている歪みの度合い(歪み量)に応じた電気信号を出力する(ステップS03)。
【0030】
端末装置11は、歪み計103から入力される電気信号を、AD変換を介して数値化し、さらに、アプリケーションで“力”(単位:N)に変換してリアルタイム表示する(ステップS04)。これにより、フレーム部材100に加えられている外力(つまり、被験者Mが下あごであご受けパッド101を押す力)が定量的に計測される。
【0031】
(作用、効果)
舌骨上筋群は、下あごを引き下げる運動を行うことで筋収縮をさせることができる。つまり、下あごの引き下げ運動の際に発生する物理的な力を直接測定することができれば、理論上は、舌骨上筋群の筋力を定量的に評価することができる。
【0032】
本実施形態に係る嚥下筋力測定器1によれば、下あごの引き下げ運動の際に発生する“力”を定量的に測定することができる。具体的には、歪み計103を通じて、被験者Mが計測用装具10を装着した状態で下あごの引き下げ運動を行なった際に、フレーム部材100に発生する歪み量を計測できるように構成した。測定された歪み量は、端末装置11にてリアルタイムで応力(筋力)[N]に換算して表示されるので、下あごの引き下げ運動時に発生する力をその場で直ちに評価することができる。
【0033】
以上のとおり、本実施形態に係る嚥下筋力測定器1によれば、嚥下時に働く舌骨上筋群を定量的かつ正確に評価することができる。これにより、高齢者等の誤嚥性肺炎のリスクを早い段階で検出することが可能となる。
【0034】
<その他の実施形態>
第1の実施形態に係る嚥下筋力測定器1は、専ら、被験者Mの下あごを引き下げる運動を介して舌骨上筋群の筋力を測定するための装置であるものとして説明した。
しかし、他の実施形態においてはこの態様に限定されず、例えば、嚥下筋力測定器1は、舌骨上筋群の筋力トレーニングを支援する機能を有していてもよい。具体的には、当該実施形態に係る嚥下筋力測定器1の端末装置11は、計測用装具10を下あごで押す力の目標値や回数の目標値が定められたトレーニングメニュー(トレーニング用の情報)を表示する機能、および、その達成度を表示できるようにしてもよい。また、端末装置11は、計測された力の日々の変化をグラフ化して表示する機能を有していてもよい。
【0035】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0036】
1 嚥下筋力測定器
10 計測用装具
100 フレーム部材
101 あご受けパッド
102 胸部受けパッド
103 歪み計
104 頸部固定用ベルト
11 端末装置
M 被験者
図1
図2
図3