(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023037394
(43)【公開日】2023-03-15
(54)【発明の名称】仔牛用衣服及び牛飼育方法
(51)【国際特許分類】
A01K 13/00 20060101AFI20230308BHJP
【FI】
A01K13/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021144108
(22)【出願日】2021-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】521390796
【氏名又は名称】株式会社Guardian
(74)【代理人】
【識別番号】100129300
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】伏見 康生
(57)【要約】 (修正有)
【課題】仔牛が受けるストレス、及び、畜産農家の作業負担などを極力低減しつつ、仔牛の保温を、簡易、適切かつ有効に行いうる手段を提供する。
【解決手段】略胴体部分に被覆させる仔牛C用の衣服Aであって、(1)正中断面が、下方が末広がり状に傾斜した略台形であり、展開時の形態が略中空円錐台形状であり、着用時に頚部付近を被覆する頚被覆部11と、(2)展開時の形態が略中空円筒形状であり、着用時に胸腹部付近及び背部中央付近を被覆する胸腹被覆部2と、(3)展開時の形態が略中空円筒形状で前端下側から後端に向けて切欠34が形成され、着用時に背部後方付近を被覆する背部後方被覆部3と、を備え、頚被覆部1の前方開口部が、着用時に頭部を挿通させる頭部挿通部4を構成し、胸腹被覆部2の側面前方の位置に、略左右対称に、非着用時に上下方向縦長の略長方形状の前肢挿通孔5が形成された仔牛用衣服A。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
略胴体部分に被覆させる仔牛用の衣服であって、
前方側から順に、
正中断面が、下方が末広がり状に傾斜した略台形であり、展開時の形態が略中空円錐台形状であり、着用時に頚部付近を被覆する頚被覆部と、
前記頚被覆部に連続し、展開時の形態が略中空円筒形状であり、着用時に胸腹部付近及び背部中央付近を被覆する胸腹被覆部と、
前記胸腹被覆部に連続し、展開時の形態が略中空円筒形状で前端下側から後端に向けて切欠が形成され、着用時に背部後方付近を被覆する背部後方被覆部と、を備え、
前記頚被覆部の前方開口部が、着用時に頭部を挿通させる頭部挿通部を構成し、
前記胸腹被覆部の側面前方の位置に、略左右対称に、非着用時に上下方向縦長の略長方形状の前肢挿通孔が形成された仔牛用衣服。
【請求項2】
前記胸腹被覆部が周方向に伸縮する請求項1記載の仔牛用衣服。
【請求項3】
前記胸腹被覆部の周方向への伸縮率が130%以上である請求項1又は請求項2記載の仔牛用衣服。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項記載の仔牛用衣服を仔牛に着用させる工程を含む牛飼育方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、略胴体部分に被覆させる仔牛用の衣服、それらの仔牛用衣服を仔牛に着用させる工程を含む牛飼育方法などに関連する。
【背景技術】
【0002】
牛乳・乳製品や牛肉などを生産するため、畜産業の一つとして、牛の飼育が広く行われている。酪農の場合、出産しなければ乳が出ないため、定期的に繁殖が行われ、その際に生まれた仔牛は、次世代の母牛の確保などのため、育成される。肉牛生産の場合も、仔牛は、母牛から生まれて育成された後、肥育牛として大きくなるまで飼育される。
【0003】
一般的に、生後1~3か月齢位までの仔牛は寒さに弱く、防寒対策が不充分な場合、風邪や下痢などになりやすい。この時期の仔牛の体調不良は、発育不良に直結しやすく、経営効率の低下にもつながる。そのため、仔牛がある程度自身で体温調節できるようになるまで、保温管理しながら仔牛を育成することが望ましい。
【0004】
仔牛育成の際の保温管理として、仔牛の育成空間におけるすきま風を遮断したり、保温マットを敷いたりするなどのほか、仔牛用の衣服を着用させることも行われている。
【0005】
例えば、特許文献1には、ポリビニルアルコール系繊維からなる割織不織布によって構成された生地部分と取り付け手段とを備えた家畜用衣料が、特許文献2には、1枚のシート状であり、四足動物の胴回りに巻きつけて胴回り方向の両端部間に形成した連結手段により連結することにより胴回り全体を被覆する四足動物の衣服が、それぞれ記載されている。
【特許文献1】特開平3-224421号公報
【特許文献2】特開2008-29250号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
仔牛の成長は非常に早く、生時では、体重が平均約30kg、体長が平均約60cm、体高が平均約67cm程度であるのに対し、8週齢では、体重が平均約220kg、体長が平均約115cm、体高が平均約108cm程度にまで到達する。そのため、仔牛用の衣服を着用させて保温管理を行う場合、例えば生後1~3か月程度しか経過していない時でも、複数回、サイズの違う衣服に着せ替えたり、衣服に締め付け度合を調整する部材を取り付けてサイズを調整したりする作業などが必要な場合があり、仔牛が受けるストレス、及び、畜産農家の作業負担がともに過大であった。また、仔牛の成長に伴って衣服がずり上がりやすく、定常的に腹部を被覆し続けることが難しいため、生後の一定期間中、持続的かつ充分に保温することが難しかった。
【0007】
そこで、本発明は、仔牛が受けるストレス、及び、畜産農家の作業負担などを極力低減しつつ、仔牛の保温を、簡易、適切かつ有効に行いうる手段を提供することなどを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、略胴体部分に被覆させる仔牛用の衣服であって、前方側から順に、正中断面が、下方が末広がり状に傾斜した略台形であり、展開時の形態が略中空円錐台形状であり、着用時に頚部付近を被覆する頚被覆部と、前記頚被覆部に連続し、展開時の形態が略中空円筒形状であり、着用時に胸腹部付近及び背部中央付近を被覆する胸腹被覆部と、前記胸腹被覆部に連続し、展開時の形態が略中空円筒形状で前端下側から後端に向けて切欠が形成され、着用時に背部後方付近を被覆する背部後方被覆部と、を備え、前記頚被覆部の前方開口部が、着用時に頭部を挿通させる頭部挿通部を構成し、前記胸腹被覆部の側面前方の位置に、略左右対称に、非着用時に上下方向縦長の略長方形状の前肢挿通孔が形成された仔牛用衣服、そのような仔牛用衣服を仔牛に着用させる工程を含む牛飼育方法、などを提供する。
【0009】
例えば、生後早期に、この仔牛用衣服の後端側から頭部挿通部までを仔牛の頭部側から被せ、頭部挿通部を仔牛の頭部に挿通させ、左右の前肢挿通孔を仔牛の両前肢にそれぞれ挿通させ、後端を後方に引っ張って胴体部分の多くが被覆されるようにして、この仔牛用衣服を着用させる。
【0010】
これにより、仔牛の胸部・腹部付近を被覆できるため、下腹部などを適切に保温でき、下腹部が冷えることによる仔牛の体調不良やそれによる発育不良などを有効に予防できる。また、この仔牛用衣服の場合、胸部・腹部付近だけでなく、頚部付近も被覆されるため、頚部を保温するための別の衣類などを更に着用させなくても、頚部及びその周辺も適切に保温できる。従って、本発明に係る仔牛用衣服は、保温に重要な部位である頚部及びその周辺と下腹部の両方を被覆できるため、仔牛の体全体の適切な保温に有効である。
【0011】
仔牛の保温を適切かつ有効に行うためには、仔牛の体表と衣服ができるだけ隙間なく密着していることが必要である。それに対し、この仔牛用衣服では、胸腹被覆部などが周方向に伸縮する構成とすることで、仔牛の体表面の多様で微細な凹凸などに対しても、仔牛の頚部付近から腹部・腰部付近に亘って、衣服を体表面に隙間なく密着させることができる。従って、本発明により、仔牛の保温を適切、有効かつ効率的に行うことができる。
【0012】
また、仔牛の保温を適切かつ有効に行うためには、仔牛の体表と衣服ができるだけ密着するように、衣服のサイズが適合している必要がある。一方、上述の通り、例えば生後1~3か月程度までの仔牛の成長は非常に早く、生時と1~3か月齢とでは、仔牛の大きさが大きく異なる。しかし、この仔牛用衣服の場合、仔牛の成長に合わせ胸腹被覆部などが周方向に伸長する構成とすることで、生後早期の仔牛に、生時の大きさに適合するサイズの衣服を着用させ、その仔牛が例えば1~3か月齢にまで成長した際にも、サイズの適合した状態が保持される。従って、生後早期にこの仔牛用衣服を着用させれば、その後、保温管理が必要な期間中、サイズの違う衣服に着せ替える必要がないため、着せ替えなどによって仔牛が受けるストレス、及び、畜産農家の作業負担を極力低減でき、仔牛の保温を、簡易、適切かつ有効に行うことができる。
【0013】
加えて、生後から保温したい期間中を通してサイズの適合した状態が保持されるため、一般的に行われているように、成長を見越して少し大きめのサイズの衣服を着用させる必要もない。そのため、この仔牛用衣服を用いることには、以下の利点がある。(1)大きめのサイズの衣服を着用させることで、衣服が脱げたり、ずれたり、肢で踏んだりなどすることを防止できる。(2)大きめのサイズの衣服を着用させることで、密着性・保温性が低下することを防止できる。(3)大きめのサイズの衣服を着用させることで、サイズが適合していない部分(たるんだ部分)に糞尿などが付着し、体温が奪われる原因となったり不衛生になったりすることも防止できる。(4)従って、低ストレスで衛生的な育成環境を保持できる。
【0014】
この仔牛用衣服では、胸腹被覆部の側面前方の位置に、略左右対称に前肢挿通孔が形成されており、非着用時に上下方向縦長の略長方形状になるように形成されている。前肢挿通孔の形状を上下方向縦長の略長方形状にすることで、特に、略楕円形や体軸方向縦長の略長方形などではなく上下方向縦長の略長方形にすることで、胸腹被覆部が周方向(上下方向)に伸縮できるようにするために周方向に配設される伸縮部材の分断を極力減らすことができる。言い換えれば、前肢挿通孔を体軸方向に対し幅狭に形成することで、前肢挿通孔を形成するために切断しなければならないそれらの伸縮部材の数を極力減らすことができる。これにより、前肢を挿通できるようにしながら、また着用時に前肢挿通孔と前肢の間に隙間が形成させずに密閉性・保温性を保持できるようにしながら、周方向への伸縮性も極力失わせずに保持できる。
【0015】
また、この仔牛用衣服の胸腹被覆部の側面前方の位置(仔牛用衣服の体軸方向中心近傍の位置)に前肢挿通孔を形成し、仔牛の両前肢を左右の前肢挿通孔にそれぞれ挿通させて着用する構成とすることにより、着用時には仔牛用衣服が少なくとも体軸方向中心近傍の位置では固定された状態となるため、仔牛の動作や成長によって仔牛用衣服が頭部方向にずり上がっていくことを抑止できる。そのため、生後から保温したい一定期間中、下腹部なども適切に保温でき、衣服が頭部方向にずり上がっていないかを確認したりそれを是正したりする畜産農家の作業負担も軽減できる。
【0016】
従来の家畜用衣料などの場合、仔牛の成長に伴うサイズの変化に対し、着せ替えたりするなどのほか、例えば、衣服に締め付け度合を調整する部材などを生地に取り付けてサイズを調整する場合がある。また、衣料が頭部方向にずり上がらないように、ずり上がりを抑止するための部材などを生地に取り付ける場合もある。一方、生地に部材が取り付けられている場合、その部材に糞尿や被毛が入り込んだり絡んだりしやすく、それによってそれらの部材が劣化したり機能しなくなったりしやすい。また、生地に部材を取り付けることにより、その部分に力の負荷が集中しやすくなることで生地が破損しやすくなり、耐久性が損なわれることが多い。
【0017】
それに対し、この仔牛用衣服の場合、上述の通り、胸腹被覆部などが周方向に伸縮できるようにすることで、仔牛の体表面に衣服を密着させることができ、かつ生後から保温したい一定期間中、サイズの適合した状態を保持できるため、それらの部材を省略又は簡略化できる。また、仔牛の両前肢を左右の前肢挿通孔にそれぞれ挿通させて着用する構成とすることで、頭部方向にずり上がっていくことを抑止できるため、ずり上がり防止のための部材なども省略又は簡略化できる。そのため、本発明には、サイズ適合機能やずり上がり抑止機能が劣化しにくく、かつ負荷が特定の部位に集中しないため生地の破損も少なく、耐久性が高いという利点がある。これらのことと関連し、この仔牛用衣服には、生後早期に着用させた後から保温したい期間中、着せ替えずに仔牛を育成でき、かつ利用後も次の仔牛に着用する衣服として、洗浄後複数回再利用できるという有利性もある。
【0018】
この仔牛用衣服の背部後方被覆部には、その前端下側から後端に向けて切欠が形成されている。例えば、雄の仔牛の場合、腹部ができるだけ被覆されるとともに陰茎部が露出するように、陰茎部に対応する位置近傍の前方の位置から仔牛用衣服の後端に向けて切欠が形成される。即ち、着用時には、背部後方被覆部の後方開口部から臀部・尾部が露出し、かつ、切欠を形成することにより、仔牛用衣服から陰茎部も露出した状態となる。これにより、また、本発明に係る仔牛用衣服は着用時には体表と密着しているため、糞尿が直接衣服に付着することを抑止でき、それによって、体表面温度の低下を防止して保温性を保持でき、更には、着用時に衣服が汚濁することを抑制でき、育成環境を衛生的に保つことができる。
【0019】
また、背部後方被覆部の前端下側から後端に向けて切欠を形成することにより、仔牛が成長して大きくなっていくに従い、切欠の両端の幅が徐々に左右に開くことで、衣服の後方側が、仔牛の後腹部から腰部・臀部にかけてのサイズに合わせ適宜調整されるため、衣服が窮屈にならない。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、仔牛が受けるストレス、及び、畜産農家の作業負担などを極力低減しつつ、仔牛の保温を、簡易、適切かつ有効に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
<本発明に係る仔牛用衣服>
本発明は、略胴体部分に被覆させる仔牛用の衣服であって、前方側から順に、(1)正中断面が、下方が末広がり状に傾斜した略台形であり、展開時の形態が略中空円錐台形状であり、着用時に頚部付近を被覆する頚被覆部と、(2)前記頚被覆部に連続し、展開時の形態が略中空円筒形状であり、着用時に胸腹部付近及び背部中央付近を被覆する胸腹被覆部と、(3)前記胸腹被覆部に連続し、展開時の形態が略中空円筒形状で前端下側から後端に向けて切欠が形成され、着用時に背部後方付近を被覆する背部後方被覆部と、を備えた仔牛用衣服などを広く包含する。
【0022】
【0023】
図1は、仔牛Cに着用させた本発明に係る仔牛用衣服Aの例を示す外観模式図、
図2は、非着用時において、展開させた状態の本発明に係る仔牛用衣服Aの例を示す側方視模式図、
図3は、非着用時において、折り畳んだ状態の本発明に係る仔牛用衣服Aの例を示す側方視模式図である。
【0024】
図1において、仔牛Cは、頭部C1、前肢C2、背部C3、頚部C4~C5、胸腹部C6、陰茎部C7、後肢C8、臀部C9、尾部C10を有している。
【0025】
図1~
図3の仔牛用衣服Aは、全体形状としては、非着用時で展開させた状態(
図2参照)において、体軸方向X1の前方及び後方が開放した略円筒状に形成されており、体軸方向X1の前方側から順に、頚被覆部1、胸腹被覆部2、背部後方被覆部3を備え、それらが正中面に対して略左右対称で連続的に形成され、頚被覆部1の前方開口部10が頭部挿通部4を構成する。また、胸腹被覆部2の側面前方の位置には前肢挿通孔5が形成され、背部後方被覆部3には、その下方側に切欠34が形成されている。
【0026】
上述の通り、各図では、頚被覆部1、胸腹被覆部2、及び、背部後方被覆部3は連続的・一体的に形成されており、頚被覆部1の上方11、胸腹被覆部2の上方21、及び、背部後方被覆部3の上方31は、着用時には、背部C3の正中線に沿った辺りに連続的に位置する。そのため、頚被覆部1の上方11、胸腹被覆部2の上方21、及び、背部後方被覆部3の上方31は、非着用時に、略直線状に形成されていてもよい。仔牛用衣服Aの体軸方向X1の全長(頚被覆部1の上方11の前端から背部後方被覆部3の上方31の後端までの長さ)は、適宜設定でき、特に限定されない。例えば、生後早期における仔牛Cの頚部C4から背部C3の後方(若しくは、臀部C9・尾部C10の手前)までの長さとすることができる。例えば、仔牛用衣服Aの体軸方向X1における長さを750~1,000mmに設定してもよい。
【0027】
頚被覆部1は、仔牛Cの頚部C4~C5付近に対応する部位で、着用時(
図1参照、以下同じ)に、頭部C1の付け根辺りから胸垂C31辺りまで、概ね頚部C4~C5を全周に亘って被覆する。正中断面S1-S2(
図2参照)が、上方11が略水平で下方12が体軸方向X1の前方から後方に向けて末広がり状に傾斜した略台形であり、非着用時(伸縮前の状態、以下同じ)における展開時(折り畳まずに略中空円柱形状に展開した状態、
図2参照、以下同じ)の同部位1の形態は略中空円錐台形状である。
【0028】
着用時には、頚被覆部1の上方11は背部C3の正中線に沿った辺りに、下方12の前側は頚部C4辺りに、その後側13は頚部C5辺りに、それぞれ位置する。頚部C4~C5辺りを広く被覆できるため、それらの部位及びそれらの周辺を適切に保温できる。
【0029】
頚被覆部1は周方向に伸縮する構成であってもよい。例えば、頚被覆部1を形成する生地Tの全部又は一部に伸縮性生地を採用して周方向に伸縮できるようにし、かつ、正中断面S1-S2において、下方12を、体軸方向X1の前方から後方に向けて末広がり状に傾斜した略台形に形成することにより、着用時に、頚部C4から胸垂C31辺りまでを密着した状態で被覆できる。
【0030】
頚被覆部1の寸法は、適宜設定でき、特に限定されない。例えば、非伸長時において、正中断面S1-S2における略直角台形の上底を200~250mm、下底を300~400mm、高さ(体軸方向X1の長さ)を150~250mmに設定してもよい。
【0031】
胸腹被覆部2は、仔牛Cの胸腹部C6付近及び背部C3の中央付近に対応する部位で、着用時に概ね胸腹部C6から背部C3の中央付近までを全周に亘って被覆する。非着用時における展開時の形態は略中空円筒形状である。
【0032】
着用時には、胸腹被覆部2の上方21は背部C3の正中線に沿った辺りに、下方22は下腹部C61辺りに、それぞれ位置する。そのため、下腹部C61を含む範囲を広く被覆でき、胸腹部C6及びその周辺も適切に保温できる。
【0033】
胸腹被覆部2は周方向に伸縮する構成であってもよい。例えば、胸腹被覆部2を形成する生地Tの全部又は一部に伸縮性生地を採用して周方向に伸縮できるようにし、かつ、同部位2を略中空円筒形状に形成することで、着用時に、胸腹部C6辺りを広く、密着した状態で被覆できる。
【0034】
胸腹被覆部2の寸法は、適宜設定でき、特に限定されない。胸腹被覆部2の横断面(略円)の円周の長さは、例えば、生後早期における仔牛の胴回りの長さと略同一にしてもよい。これにより、生後早期には、着用時に、下腹部などにおける密着性・密閉性、さらには保温性を高めることができ、例えば1~3か月齢にまで成長した際にも、胸腹被覆部2が周方向X2に伸長できるようにすることにより、下腹部などにおける密着性・密閉性、それによる保温性を保持できる。例えば、非伸長時において、胸腹被覆部2の横断面(略円)の円周の長さを600~800mm、体軸方向X1の長さを300~500mmに設定してもよい。
【0035】
背部後方被覆部3は、仔牛Cの背部C3の後方付近に対応する部位で、着用時に背部後方付近を被覆する。背部後方被覆部3は、胸腹被覆部2に連続し、展開時の形態が略中空円筒形状で前端下側32から後端33に向けて切欠34が形成されている。
【0036】
背部後方被覆部3は周方向に伸縮する構成であってもよい。例えば、背部後方被覆部3を形成する生地Tの全部又は一部に伸縮性生地を採用して周方向に伸縮できるようにすることで、仔牛の成長に合わせ、仔牛の後腹部から腰部・臀部にかけてのサイズが、適宜、自動的に調整され、衣服Aが窮屈になりにくい。
【0037】
背部後方被覆部3の寸法は、適宜設定でき、特に限定されない。切欠34を形成する前の背部後方被覆部3の横断面(略円)の円周の長さは、胸腹被覆部2と略同一にしてもよい。例えば、非伸長時において、胸腹被覆部2の横断面の円周の長さを600~800mm、体軸方向X1の長さを200~400mmに設定してもよい。
【0038】
切欠34は、背部後方被覆部3の下面の切り欠いた部分であり、その切欠は、背部後方被覆部3の前端下側32(胸腹被覆部2の下側後端の位置)から後端33に向けて形成される。切欠部5は、例えば、雄の仔牛の場合、下腹部C61が被覆されるとともに陰茎部C7が露出するように形成する。切欠34を形成することにより、下腹部C61は被覆したまま陰茎部C7などを露出させることができ、また、陰茎部C7などを露出させつつ、仔牛Cの胴体のできるだけ後方まで被覆することができる。
【0039】
切欠34は、例えば、展開時に、背部後方被覆部3の前端下側32から後端33に向けて、後方に向かって拡がっていく下方視略逆V字形状に形成してもよい。これにより、陰茎部C7などの横幅分の長さを比較的簡易に確保できるため、陰茎部C7などを露出させつつ、切欠の長さを短くでき、下腹部C61を被覆しやすくできる。例えば、背部後方被覆部3の前端下側32(胸腹被覆部2の下側後端の位置。着用時に陰茎部C7などに対応する位置の少し前方に当たる位置。)を起点とし、そこから、背部後方被覆部3の後端33に形成された円周上のうちの側方部分に当たる左右の略同一高さの位置に向けて左右両方に略対称になるように切込みを加えることにより、略逆V字形状の切欠34を形成することができる。
【0040】
切欠34の位置・大きさは、背部後方被覆部3の前端下側32から後端33に向けて形成されたものであればよく、特に限定されない。例えば、背部後方被覆部3の後端33から200~400mmの位置(背部後方被覆部3の前端下側32)を起点とし、そこから、背部後方被覆部3の上方31(の正中線)から150~250mm下の高さの円周上の位置に向けて左右それぞれ切込みを加えることにより、切欠34を形成してもよい。
【0041】
頭部挿通部4は、頚被覆部1の前方開口部10であり、着用時に頭部C1を挿通させる部位である。頚被覆部1の正中断面S1-S2において、上方11が略水平で下方12が末広がり状に傾斜した略台形とすることで、頭部挿通部4(頚被覆部1の前方開口部10)は、胸腹被覆部2の横断面(略円)よりも、径及び円周の長さが短くその中心も上方に位置している。これにより、牛の頭部C1に適合した位置に頭部挿通部4を形成することができる。
【0042】
頭部挿通部4(略円)の円周の長さは、適宜設定でき、特に限定されない。例えば、頭部挿通部4(略円)の円周の長さを、非伸長時において、生後早期における仔牛の頚周りの長さ(頚部の太さ)と略同一にしてもよい。例えば、頚被覆部1を周方向に伸縮する構成にした場合、生後早期には、着用時に、頚周りにおける密着性・密閉性、さらには保温性を高めることができ、1~3か月齢位にまで達した際にも、頚被覆部1の生地Tが周方向X2に伸長することにより、頚周りにおける密着性・密閉性、それによる保温性を保持できる。例えば、頭部挿通部4(略円)の円周を、400~500mmに設定してもよい。
【0043】
前肢挿通孔5は、略左右対称に胸腹被覆部2の側面前方の位置(仔牛用衣服の体軸方向中心近傍の位置)に形成された孔で、着用時に仔牛Cの両前肢C2、C2をそれぞれ挿通させる部位である。前肢挿通孔5は、非着用時に上下方向縦長の略長方形状になるように形成される(
図3参照)。
【0044】
前肢挿通孔5の寸法・縦横比は、生後早期の仔牛が着用時に窮屈でない程度でありながら密閉性を保てる大きさで適宜調整すればよく、特に限定されない。例えば、前肢挿通孔5の略長方形状の長辺を100~200mm、短辺を50~100mm、縦横比を2:1~4:1に設定してもよい。
【0045】
本発明に係る仔牛用衣服Aは、着用時、仔牛Cの頚部C4から胸腹部C6辺りまでを被覆し、陰茎部C7・臀部C9・尾部C10は原則的には露出させる。また、頭部C1は頭部挿通部4に挿通させ、両前肢C2、C2は左右の前肢挿通孔5に挿通させる。一方、左右の後肢C8、C8は仔牛用衣服Aに挿通させず、露出状態とする。これにより、着用時に仔牛Cの頭部C1及び前肢C2のみを衣服Aに挿通させればよく、後肢C8を挿通させる必要がないため、着用時に仔牛が受けるストレス、及び、畜産農家の作業負担を極力低減できる。また、着用時に後肢C8を挿通させないため、成長により仔牛Cの体長(体軸方向X1の長さ)が伸びても、それによってサイズ不適合で着せ替える必要が生じることはない。
【0046】
なお、
図2では、展開状態での衣服Aが例示されているが、本発明は、このような形態を取りうるものであればよく、このような形態を保持できるものである必要なない。多くの場合、非着用時には折り畳まれた状態として
図3で例示された形態を保持でき、着用時には生地Tが仔牛Cの体形に合わせ伸長した状態として
図1に例示されたような形態となる。
【0047】
本発明に係る仔牛用衣服Aにおける略中空円筒状の全体形状は、公知の方法によって作出でき、特に限定されない。例えば、一枚の生地Tを二つ折りにして重ね、折り目を上縁(
図3では符号11、21、31)とし、下縁(
図3では符号22)を縫合することによって作出してもよいし、二枚の生地Tを重ね、上縁(
図3では符号11、21、31)及び下縁(
図3では符号22)を縫合することによって作出してもよい。
【0048】
本発明に係る仔牛用衣服Aの製造手段は、公知手段を広く採用でき、特に限定されない。例えば、略中空円筒状で、折り畳むことにより二枚重ねで略矩形に形成された生地Tについて、以下の処理を行うことにより製造することができる。以下、
図3を用いて説明する。
【0049】
まず、二枚重ねの生地Tの前方下部の領域T1を切断した後、重ねられた二枚の切断面同士を縫合して、頚被覆部1に当たる部分を形成する。例えば、生地Tの前端の上縁から100~125mmの位置を起点とし、そこから、生地Tの前端から150~250mmの位置の下縁の位置まで、体軸方向X1の前方から後方に向けて末広がり状になるように、重ねられた二枚をともに切断し、二枚の切断面同士を縫合することで、頚被覆部1を作製する。
【0050】
次に、二枚重ねの生地Tの体軸方向中心近傍の位置(二枚とも同じ位置)に、上下方向縦長の略長方形状に孔を切り抜き、左右それぞれの前肢挿通孔5に当たる部分を形成する。例えば、頚被覆部1の後端(胸腹被覆部2の前端)から50~200mm後方を、略長方形の前辺の位置とし、生地Tの上縁(
図3では符号21)から50~200mm下方を略長方形の上辺の位置とし、長辺が100~200mm、短辺が50~100mm、縦横比が2:1~4:1の略長方形状を切り抜く。前肢挿通孔5は、仔牛Cの前肢C2を挿通させる部分であるため、切り抜いた部分には、重ねられた二枚のそれぞれの孔について、断面を滑らかにする処理を施してもよい。
【0051】
次に、二枚重ねの生地Tの後方下部の領域T2を切断し、切欠5に当たる部分を形成する。例えば、胸腹被覆部2の後端下縁の位置(生地Tの下縁において、背部後方被覆部3の後端33から200~400mm前方の位置。
図3では符号32。)を起点とし、そこから、背部後方被覆部3の後端33の、生地Tの上縁(
図3では符号31)から150~250mm下の高さの位置に向けて切込みを加える。切欠部34は、仔牛Cの胸腹部C6から臀部C9にかけてと接する部分であるため、切欠いた部分には、重ねられた二枚のそれぞれについて、切断面を滑らかにする処理を施してもよい。
【0052】
図4は、仔牛用衣服Aに用いることが可能な生地Tの例を示す一部断面模式図である。
【0053】
仔牛用衣服Aにおいて、頚被覆部1、胸腹被覆部2、及び、背部後方被覆部3のいずれか、複数、又は全部が、周方向に伸縮する構成であってもよい。
【0054】
例えば、頚被覆部1、胸腹被覆部2、及び/又は、背部後方被覆部3について、それぞれ、その全面又は一部を、周方向に伸縮可能な伸縮性生地で形成することにより、各部1、2、3が周方向に伸縮する構成とすることができる。
【0055】
仔牛用衣服Aで用いる伸縮性生地は、少なくとも周方向X2に伸縮可能な生地であればよく、公知の技術を広く採用でき、特に限定されない。なお、本発明に係る仔牛用衣服Aでは、周方向X2に伸縮可能な伸縮性生地を採用した部位、若しくは採用しなかった部位に、周方向X2以外の方向(例えば体軸方向)に伸縮する生地が採用されている場合も広く包含し、狭く限定されない。
【0056】
頚被覆部1、胸腹被覆部2、及び、背部後方被覆部3のいずれか、複数、又は全部が、周方向に伸縮する構成の場合において、周方向の伸縮率(即ち、採用された伸縮性生地の周方向の伸縮率)は130%以上であることが好ましく、150%以上であることがより好ましく、170%以上であることがさらに好ましい。これにより、生後早期から例えば生後1~3か月齢位に至るまで、サイズの適合した状態を保持できるほか、着脱が容易になり、着用時・脱衣時に仔牛が受けるストレス、及び、畜産農家の作業負担を低減できる。
【0057】
仔牛用衣服Aの全面又は一部に採用される伸縮性生地Tは、例えば、
図4のように、内層7、中層8、外層9の三層で形成された部材であってもよい。
【0058】
内層7は、着用時に仔牛Cの肌面と接触する部分である。素材については公知のものを広く採用でき、特に限定されないが、例えば、肌触りの良い素材、仔牛Cの肌面との適合性の高い素材などを用いてもよい。例えば、内層7の素材に、ナイロン製生地などを採用してもよい。
【0059】
中層8は、内層7と外層9に挟まれた部分である。素材については公知のものを広く採用でき、特に限定されないが、例えば、綿など、保温性の高い素材を内層7と外層9の間に挟むことにより、保温性を高めることができる。
【0060】
外層9は、衣服Aの外側を形成する部分である。素材については公知のものを広く採用でき、特に限定されないが、例えば、撥水性、防汚性の高い素材を採用することにより、衣服Aが濡れることなどによる保温性低下や衣服Aの汚濁による衛生面の劣化を抑止できる。例えば、外層9の素材に、ナイロン製生地などを採用してもよい。
【0061】
伸縮性生地Tは、複数の伸縮部材10、10、10が一定間隔X3で周方向X2に取着された構造を含んでいてもよい。例えば、内層7及び/又は外層9の素材に、伸縮部材10を伸ばした状態で、周方向X2に、一定間隔X3で取着していくことにより、周方向X2に伸縮する伸縮性生地Tを形成することができる。
【0062】
伸縮部材10は、公知のものを広く採用でき、特に限定されない。伸縮性生地Tが周方向X2に伸縮するように形成されているのであれば、伸縮部材10が生地Tのどの部位に取着されているかについては限定されない。例えば、内層7の外面・内面、内層7及び外層9、外層9の外面・内面のいずれか又は複数に伸縮部材10が取着されていてもよい。伸縮部材10の取着手段についても、公知のものを広く採用でき、特に限定されない。例えば、公知の接着剤などの接着手段を用いて、伸縮部材10が取着されていてもよい。
【0063】
<本発明に係る牛飼育方法>
本発明は、上述の仔牛用衣服を仔牛に着用させる工程を含む牛飼育方法を広く包含する。
【0064】
生後早期(例えば、母牛から離して個室での育成を開始する段階)からの所定の期間中は、自身での体温調節が不充分になりやすいため、保温管理を行うことが好ましい。
【0065】
それに対し、例えば、生後早期からある程度成長するまでの所定の期間中、本発明に係る仔牛用衣服を着用させて仔牛を育成することにより、仔牛の保温を適切、有効かつ効率的に行うことができ、下腹部が冷えることによる仔牛の体調不良やそれによる発育不良なども有効に予防できる。
【0066】
本発明は、少なくとも上述の仔牛用衣服を仔牛に着用させる工程を含んでいればよく、例えば、着用時期・期間・日数などによっては狭く限定されない。生後から保温したい期間中、例えば、母乳から離れて固形飼料での育成が可能になる時期、生後早期から1~3か月齢位までの間などに、少なくとも一定期間、上述の仔牛用衣服を仔牛に着用させ、適切に仔牛の保温を図ることで、下腹部が冷えることによる仔牛の体調不良やそれによる発育不良などを有効に予防できる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【
図1】仔牛Cに着用させた本発明に係る仔牛用衣服Aの例を示す外観模式図。
【
図2】非着用時において、展開させた状態の本発明に係る仔牛用衣服Aの例を示す側方視模式図。
【
図3】非着用時において、折り畳んだ状態の本発明に係る仔牛用衣服Aの例を示す側方視模式図。
【
図4】仔牛用衣服Aに採用可能な伸縮性生地Tの例を示す一部断面模式図。
【符号の説明】
【0068】
1 頚被覆部
2 胸腹被覆部
3 背部後方被覆部
31 切欠
4 頭部挿通部
5 前肢挿通孔
A 仔牛用衣服
C 仔牛