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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023037433
(43)【公開日】2023-03-15
(54)【発明の名称】締結構造
(51)【国際特許分類】
   F16B 33/06 20060101AFI20230308BHJP
   C23C 16/455 20060101ALI20230308BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20230308BHJP
【FI】
F16B33/06 A
F16B33/06 C
C23C16/455
C23C16/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021144191
(22)【出願日】2021-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(71)【出願人】
【識別番号】518126144
【氏名又は名称】株式会社三井E&Sマシナリー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】両角 由貴夫
(72)【発明者】
【氏名】大宮 祐也
(72)【発明者】
【氏名】服部 望
(72)【発明者】
【氏名】牧野 貴明
(72)【発明者】
【氏名】石原 修二
【テーマコード(参考)】
4K030
【Fターム(参考)】
4K030AA03
4K030AA11
4K030AA14
4K030BA43
4K030CA02
4K030CA11
4K030EA03
4K030FA10
4K030HA01
4K030JA01
4K030LA02
4K030LA23
(57)【要約】
【課題】摩擦係数の変化を抑えて、小さい摩擦係数を安定して有することができる締結構造を提供する。
【解決手段】本発明に係る締結構造は、ボルトと、ナット又は構成部品とを螺合させることにより、複数の前記構成部品同士を締結する締結構造であって、前記ボルトと前記ナット若しくは前記構成部品との接触領域と、前記ナットと前記構成部品との接触領域との少なくとも一部の前記ボルト又は前記ナットが、原子層堆積法により形成されたアルミナ薄膜で被覆されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルトと、ナット又は構成部品とを螺合させることにより、複数の前記構成部品同士を締結する締結構造であって、
前記ボルトと前記ナット若しくは前記構成部品との接触領域と、前記ナットと前記構成部品との接触領域との少なくとも一部の前記ボルト又は前記ナットが、原子層堆積法により形成されたアルミナ薄膜で被覆されている締結構造。
【請求項2】
前記アルミナ薄膜の膜厚が、100nm以下である請求項1に記載の締結構造。
【請求項3】
前記アルミナ薄膜の膜厚のばらつきが、±30%以下である請求項1又は2に記載の締結構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、締結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車体部品や航空部品等のように金属等で形成された複数の構成部品の締結に、ボルトの雄ネジを構成部品の貫通孔に貫通させてナットの雌ネジに螺合させた締結構造が採用されている。ボルト及びナットは、ステンレス、ニッケル及びニッケル合金等の金属製であるため、ボルトとナットとの摩擦により、ボルトとナットとの焼付きが生じ易い。そのため、ボルトとナットとの焼付きが生じることを抑制するため、ボルトとナットの表面には摩擦抵抗を低下させる処理が施されている。
【0003】
摩擦抵抗を低下させる処理が施された締結構造として、例えば、締結部表面を、ポリオレフィンワックスエマルジョンと、ウレタン変性ポリオレフィンエマルジョン又はオレフィン・不飽和カルボン酸共重合体エマルジョンとを含有する水性液体からなる摩擦係数安定化剤により被覆した締結部材が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-206683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の締結部材では、摩擦係数安定剤が樹脂成分で構成されているため、摩擦係数安定剤の耐熱温度は高くない。そのため、締結部材が高温(例えば、100℃~150℃)に曝されると、摩擦係数安定剤の特性が変化することで摩擦係数が低下して、適切な摩擦係数を発揮できない、という問題があった。
【0006】
本発明の一態様は、摩擦係数の変化を抑えて、小さい摩擦係数を安定して有することができる締結構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る締結構造の一態様は、ボルトと、ナット又は構成部品とを螺合させることにより、複数の前記構成部品同士を締結する締結構造であって、前記ボルトと前記ナット若しくは前記構成部品との接触領域と、前記ナットと前記構成部品との接触領域との少なくとも一部の前記ボルト又は前記ナットが、原子層堆積法により形成されたアルミナ薄膜で被覆されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る締結構造の一態様は、摩擦係数の変化を抑えて、小さい摩擦係数を安定して有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る締結構造を模式的に示す側面図である。
図2図1の締結構造を分解した状態を示す側面図である。
図3図1の締結構造を分解した状態を示す断面図である。
図4】アルミナ薄膜の膜厚を変化させて締結構造のすべり試験を実施した時の滑り距離と摩擦係数との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の符号を付して、重複する説明は省略する。また、図面における各部材の縮尺は実際とは異なる場合がある。本明細書において数値範囲を示す「~」は、別段の断わりがない限り、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0011】
本発明の実施形態に係る締結構造について説明する。本実施形態に係る締結構造は、一方の締結部材であるボルト(ねじ)と、他方の締結部材であるナット又は1つ以上の構成部品とを螺合させることにより、複数の構成部品同士を締結する締結構造であり、ボルトと、ナット若しくは構成部品との接触領域と、ナットと構成部品との接触領域との少なくとも一部を原子層堆積(ALD:Atomic Layer Deposition)法により形成されたアルミナ薄膜で被覆している。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る締結構造を模式的に示す側面図であり、図2は、図1の締結構造を分解した状態を示す側面図であり、図3は、図1の締結構造を分解した状態を示す断面図である。図1図3では、本実施形態に係る締結構造を構成するボルトとナットとを螺合させて、2つの構成部品を締結する形態について説明する。
【0013】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る締結構造1は、ボルト10、ナット20及びアルミナ薄膜30を有し、ボルト10とナット20とを螺合させることにより、2つの構成部品2及び3を締結してよい。
【0014】
なお、図1図3中の一点鎖線は、締結構造1の中心軸Jを示す。中心軸Jとは、ボルト10とナット20を螺合した時の締結構造1の中心となる軸である。
【0015】
図1及び図2に示すように、ボルト10は、構成部品2及び3のボルト孔2A及び3Aに挿入されるフランジ付き六角ボルトであり、頭部11及び軸部12を有する。
【0016】
頭部11は、基体111及びフランジ部112を有する。
【0017】
基体111は、柱状部材であり、平面視において略六角形に形成されている。基体111の平面視における形状は、特に限定されず、略三角形、略四角形等の多角形及び円形等でもよい。
【0018】
フランジ部112は、円盤状の部材であり、基体111の一方の端面(図1図3では、下側の端面)に設けられる。フランジ部112は、基体111よりも大径に形成されている。
【0019】
軸部12は、頭部11の裏面に対して略直角となるように、頭部11から延設されている。軸部12は、円柱状に形成されており、先端部12aからその途中にかけて、ナット20の雌ネジ(内ネジ)20aに螺合可能に形成された雄ネジ(外ネジ)121を有する。
【0020】
基体111、フランジ部112及び軸部12は、一体に形成されてもよいし、溶接、接着剤等により接合して形成されてもよい。
【0021】
図1及び図2に示すように、ナット20は、構成部品2及び3を挟んでボルト10の雄ネジ121に締め付けられるフランジ付き六角ナットであり、ナット基体21及びフランジ部22を有する。
【0022】
ナット基体21は、頭部11の基体111と同様、柱状部材であり、平面視において略六角形に形成されている。ナット基体21の平面視における形状は、特に限定されず、略三角形、略四角形等の多角形及び円形等でもよい。
【0023】
フランジ部22は、ナット基体21の一方の端面(図1図3では、上側の端面)に形成され、ナット基体21よりも大径に形成されている。
【0024】
図3に示すように、ナット20は、その貫通孔の壁面に、ボルト10の雄ネジ121と螺合させる雌ネジ20aを有する。雌ネジ20aは、ナット基体21の貫通孔の壁面に設けられる雌ネジ21aと、フランジ部22の貫通孔の壁面に設けられる雌ネジ22aとを有する。
【0025】
ボルト10及びナット20を形成する材料としては、鋼鉄、ステンレス、チタン、ニッケル、ニッケル合金、アルミニウム、アルミニウム合金、真鍮等の金属を用いることができる。
【0026】
ボルト10及びナット20は、これらの一部又は全部が表面処理されていてもよい。表面処理として、例えば、めっき処理、リン酸処理、黒染処理、金属浸透処理、亜鉛-クロム処理、三価クロム化成皮膜処理(三価クロメート処理)等を用いることができる。
【0027】
アルミナ薄膜30は、ボルト10とナット20とが互いに接触する接触領域と、ボルト10と構成部品2とが互いに接触する接触領域と、ナット20と構成部品3とが互いに接触する接触領域との少なくとも一部のボルト10又はナット20が被覆されるように設けられてよい。
【0028】
本実施形態では、接触領域は、フランジ部112の一方の端面(図1図3では、下側の端面)112aと、軸部12の雄ネジ121と、ナット20の雌ネジ20aと、フランジ部22の一方の端面(図1図3では、上側の端面)22bとの4つの領域である。図3に示すように、アルミナ薄膜30は、これらの4つの領域に設けてよい。なお、アルミナ薄膜30は、これらの4つの領域の何れかに設けられればよく、これらの4つの領域のうちの1つ~3つの領域に設けられてもよい。
【0029】
アルミナ薄膜30は、ALD法により形成される。ALD法は、真空成膜技術の1つであり、原子の自己制御性を利用して、堆積対象である、ボルト10又はナット20の上記の接触領域の少なくとも一部に気相原料を暴露し、1原子層ごとに薄膜を製膜する手法である。ALD法は気相成長法(CVD)等の他の一般的な成膜方法よりも高い被覆率を有するように成膜できる。そのため、アルミナ薄膜30は、ボルト10又はナット20の上記の接触領域の少なくとも一部をこれらの形状に沿うように略均一な膜厚で被覆することができる。
【0030】
また、ALD法は1原子層ごとに成膜できるため、ALD法により形成されるアルミナ薄膜30にクラックや欠陥が生じたり、アルミナ薄膜30の内部又は表面にパーティクル等の粒子が付着する等の不具合が生じ難いため、アルミナ薄膜30は、他の一般的な成膜方法に形成される場合に比べて膜欠陥を少なくできる。
【0031】
さらに、ALD法は表面反応を用いた成膜方法であるため、膜厚を例えば数nm~数十nmに制御して成膜することができる。そのため、アルミナ薄膜30が、例えば膜厚3.5nmの薄膜でも、アルミナ薄膜30は、ボルト10又はナット20の上記の接触領域の少なくとも一部を略均一な膜厚で確実に被覆することができる。
【0032】
アルミナ薄膜30は、ALD法により形成されることで、ボルト10又はナット20の上記の接触領域に略均一な膜厚で被覆できるため、外部からの水分及び酸素の侵入を抑制でき、構成部品2及び3の劣化を抑制することができる。
【0033】
アルミナ薄膜30の膜厚は、100nm以下が好ましく、1nm~35nmがより好ましく、3.5nm~30nmがさらに好ましい。アルミナ薄膜30の膜厚が100nm以下であれば、アルミナ薄膜30はその表面の摩擦係数の低減効果を発揮することができる。アルミナ薄膜30の膜厚が1nm~35nmであれば、表面の摩擦係数を小さくすることができると共に、ボルト10及びナット20からの剥離を抑制することができる。
【0034】
なお、本明細書において、アルミナ薄膜30の膜厚とは、アルミナ薄膜30の主面に垂直な方向の長さをいう。アルミナ薄膜30の膜厚は、例えば、アルミナ薄膜30の断面において、任意の場所を測定した時の厚さである。アルミナ薄膜30の断面において、任意の場所で数カ所測定した場合は、これらの測定箇所の厚さの平均値としてもよい。
【0035】
図4は、アルミナ薄膜の膜厚を変化させて締結構造のすべり試験を実施した時の滑り距離と摩擦係数との関係を示す図である。なお、アルミナ薄膜を形成する基材には、SUS304を用い、摩擦係数は、往復摺動試験機を用いて、アルミナ薄膜を形成する基材上に球体(ボール)を一方向に往復させながら測定した。球体の荷重は8.6Nであり、面圧は934MPaであり、球体の移動速度は33mm/秒であり、球体を一方向に往復させた時の最大の滑り距離は500mmであり、球体の滑り距離の測定時間は15秒であり、アルミナ薄膜を形成する基材上の状態は乾燥状態とした。図4中の滑り距離は、往復摺動試験機を用いて、プレート上に球体を往復させた時の長さの和を示す。図4中、例1は、基材に形成したアルミナ薄膜の膜厚が3.5nmであり、例2は、基材に形成したアルミナ薄膜の膜厚が35nmであり、例3は、基材に形成したアルミナ薄膜の膜厚が180nmであり、例4は、基材にアルミナ薄膜を形成しなかった。
【0036】
図4に示すように、アルミナ薄膜の膜厚が3.5nm~35nmでは、摩擦係数は、安定して約0.15以下に低く抑えられることが確認された。
【0037】
アルミナ薄膜30の膜厚のばらつきは、±30%以下であることが好ましく、±25%以下がより好ましく、±20%以下がさらに好ましい。アルミナ薄膜30の膜厚のばらつきが上記の好ましい範囲内であれば、アルミナ薄膜30の表面の均一性が高められ、アルミナ薄膜30はその表面の摩擦係数の低減効果をより発揮することができる。
【0038】
なお、本明細書において、アルミナ薄膜30の膜厚のばらつきとは、アルミナ薄膜30の断面において、任意の場所で数カ所測定し、これらの測定箇所の厚さの最大値と最小値との差を上記測定箇所のアルミナ薄膜30の厚さの平均値で除した値に100を乗じた値(アルミナ薄膜30の膜厚のばらつき(%)=(アルミナ薄膜30の厚さの最大値-アルミナ薄膜30の厚さの最小値)/アルミナ薄膜30の厚さの平均値×100)としてもよい。また、アルミナ薄膜30の膜厚のばらつきは、アルミナ薄膜30の上記測定箇所の厚さの平均値からの偏差を、アルミナ薄膜30の厚さの平均値で除した値に100を乗じた値(アルミナ薄膜30の膜厚のばらつき(%)=(アルミナ薄膜30の厚さの平均値からの偏差)/アルミナ薄膜30の厚さの平均値×100)としてもよい。
【0039】
締結構造1の製造方法について説明する。図2に示すように、まず、ボルト10又はナット20の接触領域に、ALD法を用いて、アルミナ薄膜30を形成する(アルミナ薄膜の形成工程)。
【0040】
接触領域は、上述の通り、フランジ部112の一方の端面112aと、軸部12の雄ネジ121と、ナット20の雌ネジ20aと、フランジ部22の一方の端面22bとの4つの領域である。
【0041】
ALD法の成膜条件について説明する。
【0042】
ALD法を用いて、アルミナ薄膜30を形成する際、ボルト10又はナット20の上記の接触領域の少なくとも一部のみを露出させ、その他の部分は被覆し、反応装置内に設置する。そして、前駆体として、アルミナ薄膜30を形成する材料を反応装置内に供給して、ボルト10又はナット20の上記の接触領域の少なくとも一部に付着させる。
【0043】
アルミナ薄膜30を形成する材料には、アルミニウム化合物を用いることが好ましい。アルミニウム化合物は、アルミニウムを含み、気化できるガス成分であればよく、例えば、トリメチルアルミニウム(TMA)、トリエチルアルミニウム(TEA)、トリクロロアルミニウム及びジメチルアルミニウムハイドライド(DMAH)等を用いることができる。
【0044】
アルミナ薄膜30を形成する材料を、ボルト10又はナット20の上記の接触領域の少なくとも一部に付着させた後、残りのアルミナ薄膜30を形成する材料を反応装置内から排気する。その後、酸化剤を反応装置内に供給して、ボルト10又はナット20の上記の接触領域の少なくとも一部に付着させたアルミナ薄膜30を形成する材料と反応させてアルミナを形成する。
【0045】
酸化剤は、アルミニウム化合物を酸化できる材料であればよく、例えば、水蒸気、オゾン及びプラズマで励起された酸素ラジカル等を用いることができる。
【0046】
反応装置内の反応時間は、特に限定されず、適宜設計可能である。
【0047】
反応装置内の反応温度は、適宜設計可能であり、400℃以下であることが好ましい。
【0048】
ALD法の成膜条件によりアルミナ薄膜30を成膜することで、アルミナ薄膜30が軸部12の雄ネジ121及びナット20の雌ネジ20a等のようなネジ山等の凹凸部分に成膜されても、アルミナ薄膜30の膜厚のばらつきは±30%以下に抑えることができる。
【0049】
次に、ボルト10の軸部12を構成部品2及び3のボルト孔2A及び3Aに挿入して、軸部12の先端部12aからその途中にかけて形成した雄ネジ121をナット20の雌ネジ20aに螺合させることで、ボルト10とナット20とを締結する(締結工程)。
【0050】
これにより、構成部品2及び3をボルト10とナット20とで締結した締結構造1が得られる。
【0051】
このように、締結構造1は、上記の接触領域の少なくとも一部のボルト10又はナット20をALD法により形成されたアルミナ薄膜30で被覆している。アルミナ薄膜30は、ALD法により形成されるため、アルミナ薄膜30の表面は滑らかであり、凹凸のバラツキが小さくできるため、摩擦係数を小さく抑えることができる。また、締結構造1が、高温(例えば、100℃~150℃)の環境下に置かれても、アルミナ薄膜30の特性の変化を抑えることができるので、所望の摩擦係数を安定して維持することができる。よって、締結構造1は、ボルト10又はナット20の上記の接触領域の少なくとも一部の摩擦係数の変化を抑えて、小さい摩擦係数を安定して有することができる。摩擦係数は、例えば、0.2以下、より好ましくは0.15以下にできる。
【0052】
締結構造1は、ボルト10及びナット20が締め付け易くなるので、より小さい力(トルク)で締め付ける際に要求される軸力を得ることができる。実際の締結作業では、一般に軸力の管理は、トルクの大きさで管理される。一定の軸力をより小さいトルクで得るためには、摩擦係数が安定してより小さく抑えられる必要がある。締結構造1は、構成部品2及び3同士を締結する際、ボルト10とナット20とを安定してより小さいトルクで螺合させることができるので、小さいトルクでも構成部品2及び3の締結を確実に行なうことができる。
【0053】
なお、摩擦係数とは、ボルト10及びナット20が締付けにより摺動した時の総合摩擦係数μをいう。摩擦係数は、ボルト10及びナット20の上記の接触領域で生じる様々な摩擦係数を総合した値である。なお、様々な摩擦係数を総合した値は、様々な摩擦係数を代表する値でもよいし、様々な摩擦係数を統合した値でもよい。なお、上記の、総合した値、代表した値及び統合した値は、いずれも、接触領域で生じる様々な摩擦係数を合わせた値ではなく、接触領域で生じる様々な摩擦係数を平均した値でもよい。
【0054】
一般に、ボルト及びナットがステンレスを用いて形成される場合、ステンレスは熱伝導率が炭素鋼等よりも小さく、摩擦係数が大きいため、締結時にボルトとナットに特に焼き付けが生じ易い傾向にある。締結構造1は、ボルト10及びナット20がステンレスを用いて形成される場合でも、これらの接触領域の摩擦係数を安定して小さくすることができるので、締結時にボルト10及びナット20の接触領域での発熱を抑えることができる。これにより、ボルト10及びナット20を焼付き難くすることができる。
【0055】
ボルト10及びナット20の表面には、防錆処理として三価クロメート処理を施して、三価クロムのクロメート(クロム酸塩)を含む防錆皮膜を形成することがある。ボルト10及びナット20がその表面に防錆皮膜を有していても、締結構造1は、ボルト10及びナット20の接触領域にアルミナ薄膜30を有することで、接触領域の摩擦係数は安定して小さい状態を維持することができるので、ボルト10及びナット20の締結時により小さいトルクで要求される軸力を得ることができる。
【0056】
締結構造1は、アルミナ薄膜30の膜厚を100nm以下にできる。アルミナ薄膜30の膜厚が100nm以下であれば、アルミナ薄膜30の摩擦係数を十分小さく抑えることができる。よって、締結構造1は、ボルト10又はナット20の上記の接触領域の少なくとも一部の摩擦係数の変化を十分に抑えることができるため、小さい摩擦係数をより安定して有することができる。
【0057】
締結構造1は、アルミナ薄膜30の膜厚のばらつきを±30%以下にすることができる。これにより、アルミナ薄膜30の表面はより滑らかとし、凹凸のバラツキをより小さくできるため、アルミナ薄膜30の摩擦係数はさらに小さく抑えることができる。このため、締結構造1は、ボルト10又はナット20の上記の接触領域の少なくとも一部の摩擦係数の変化をさらに抑えることができるため、小さい摩擦係数を更に安定して有することができる。
【0058】
締結構造1は、上述の通り、高温の条件下に曝されても、ボルト10又はナット20の上記の接触領域の少なくとも一部の摩擦係数の変化を抑えて、小さい摩擦係数を安定して有することができる。そのため、締結構造1は、車両、航空機、人工衛星等の宇宙関連構造物のように、高温条件下で用いる、車体部品、航空部品、宇宙用部品等の固定に好適に用いることができる。
【0059】
なお、本実施形態においては、ボルト10が構成部品2及び3のボルト孔2A及び3Aを貫通してナット20と螺合させる場合について説明したが、構成部品2及び3のボルト孔2A及び3Aに雌ねじを形成し、ボルト10をボルト孔2A及び3Aに螺合させてもよい。
【0060】
本実施形態においては、一方の締結部材は、ボルト10に代えて、ねじ込みボルト、埋め込みボルト、タップねじ等を用いてもよい。この場合、構成部品2及び3のボルト孔2A及び3Aを雌ねじとしてよい。これにより、本実施形態に係る締結構造1は、ねじ込みボルト、埋め込みボルト、タップねじ等をボルト孔2A及び3Aと螺合させることで構成できる。
【0061】
本実施形態においては、締結構造1は、2つの構成部品2及び3を締結しているが、構成部品は1つでもよいし、3つ以上でもよい。
【0062】
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更などを行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0063】
1 締結構造
2、3 構成部品
10 ボルト
11 頭部
111 基体
112、22 フランジ部
112a、22b 端面
12 軸部
121 雄ネジ(外ネジ)
20 ナット
20a、21a、22a 雌ネジ(内ネジ)
21 ナット基体
30 アルミナ薄膜
図1
図2
図3
図4