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特開2023-3745318α-オレアナン型トリペルテンジグルクロナイド類の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023037453
(43)【公開日】2023-03-15
(54)【発明の名称】18α-オレアナン型トリペルテンジグルクロナイド類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07J 63/00 20060101AFI20230308BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20230308BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230308BHJP
【FI】
C07J63/00
A61K31/704
A61P35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021144224
(22)【出願日】2021-09-03
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年8月31日 日本生薬学会第67回年会[東京]講演要旨集(第250頁) 1
(71)【出願人】
【識別番号】595132360
【氏名又は名称】株式会社常磐植物化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100121658
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 昌義
(72)【発明者】
【氏名】立崎 仁
(72)【発明者】
【氏名】石川 勉
【テーマコード(参考)】
4C086
4C091
【Fターム(参考)】
4C086AA04
4C086EA10
4C086NA20
4C086ZB26
4C091AA06
4C091BB20
4C091CC01
4C091DD01
4C091EE06
4C091FF02
4C091FF06
4C091FF17
4C091GG03
4C091GG05
4C091HH01
4C091JJ03
4C091KK12
4C091LL03
4C091LL06
4C091MM03
4C091NN01
4C091PA02
4C091PA05
4C091PB01
4C091QQ05
4C091QQ15
4C091RR08
4C091RR11
(57)【要約】
【課題】より高い純度で18α-オレアナン型トリペルテンジグルクロナイド類を分離・製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明の一観点に係る18α-オレアナン型トリペルテンジグルクロナイド類の製造方法は、オレアナン型トリテルペンジグルクロナイドと水酸化アルカリ水溶液を混合及び加熱して前記オレアナン型トリテルペンジグルクロナイドの18位水素を異性化させて18α-異性体及び18β-異性体の平衡混合物を使用する水酸化アルカリ由来のアルカリ塩沈殿物として得るステップと、平衡混合物を非プロトン性極性溶媒中においてアルキル化剤と処理し、18α-トリアルキルエステル体に誘導し分離精製するステップと、分離精製した前記18α-トリエステル異性体をアルコール性水酸化アルカリ水溶液により加水分解するステップを有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレアナン型トリテルペンジグルクロナイドと水酸化アルカリ水溶液を混合及び加熱して前記オレアナン型トリテルペンジグルクロナイドの18位水素を異性化させて18α-異性体及び18β-異性体の平衡混合物を使用する水酸化アルカリ由来のアルカリ塩沈殿物として得るステップ、
前記平衡混合物を非プロトン性極性溶媒中においてアルキル化剤と処理し、18α-トリアルキルエステル体に誘導し分離精製するステップ、
分離精製した前記18α-トリエステル異性体をアルコール性水酸化アルカリ水溶液により加水分解するステップ、を有する18α-オレアナン型トリペルテンジグルクロナイド類の製造方法。
【請求項2】
前記オレアナン型トリテルペンジグルクロナイドは、下記式で示される請求項1記載の18α-オレアナン型トリペルテンジグルクロナイド類の製造方法。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、18α-オレアナン型トリペルテンジグルクロナイド類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カンゾウ(Glycyrrhiza sp.)は、抗潰瘍活性を初め多くの有用な薬理活性を有し、多くの漢方製剤に配合される極めて重用な薬用植物である。
【0003】
そのカンゾウの主成分は、甘味性サポニンのグリチルリチン酸であって、化学構造的にはC環部に特徴的な官能基としてα,β-不飽和ケトンを含み、18位がβ-配置であるオレアナン型トリテルペンジグルクロナイドに属する。
【0004】
一方、カンゾウにはグリチルリチン酸関連構造類似体も少量成分として含まれている。例えば、23位がヒドロキシメチル基に置換された化合物や、20位置換基の立体化学が異なる化合物などが知られている。
【0005】
ところで、18位水素が反転した18α-グリチルリチン酸は、18β-グリチルリチン酸を水酸化アルカリ(カリウム又はナトリウム)水溶液中で加熱還することで、両異性体からなる熱力学的平衡混合物中の主要生成物として製造される旨が報告されている(例えば下記特許文献1参照)。
【0006】
また、下記特許文献2には、精製した18位異性化グリチルリチンメチルエステルをエタノール中希水酸化アルカリ水溶液と加熱した後、酸性水溶液中に加え、異性化グリチルリチンを沈殿物として得る旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平2-22080号公報
【特許文献2】中国特許出願公開第104861031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明者らは高純度の18α-グリチルリチン酸を分離・製造することを目的として、上記特許文献1に記載の技術を参考に水酸化アルカリ水溶液を用いて異性化反応を追試し、得られた反応混合物から18α-グリチルリチン酸の精製を試みたが、目的とする18α-グリチルリチン酸は、原料の18β-グリチルリチン酸とほぼ同一の物理化学的挙動を示すため、高い純度で分離することには成功しなかった。また上記特許文献2に記載の技術を用いても高い純度で分離するには十分ではなかった。
【0009】
そこで、本発明は上記課題に鑑み、より高い純度で18α-オレアナン型トリペルテンジグルクロナイド類を分離・製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、上記課題について検討を行ったところ、反応混合物の分離精製が困難な原因の一つとして、構造が極めて類似し同等な物性が予想されることに加え、対象とする化合物が二つのグルクロン酸残基を含むトリテルペンカルボン酸構造を持つことにより極めて極性が高く、クロマトグラフィー等を利用した精製で使用可能な溶媒等が限定されるためではないかと考えた。
【0011】
そこで、異性化反応後に得られるグリチルリチン酸アルカリ塩の混合物を、ジメチルスルホキシド(またはN,N-ジメチルホルムアミド)中のジメチル硫酸(またはヨウ化メチル)で処理することによってメチルエステル誘導体にした結果、18β-グリチルリチン酸トリメチルエステルと18α-グリチルリチン酸トリメチルエステルのクロマトグラフィー的挙動には変化は認められなかったものの、メタノールに対する溶解性が大きく異なることとなり、分別再結晶により後者が難溶性化合物として単離精製が可能なことが判明した。
【0012】
すなわち、本発明の一観点に係る18α-オレアナン型トリテルペンジグルクロナイド類の製造方法は、(1)オレアナン型トリテルペンジグルクロナイドと水酸化アルカリ水溶液を混合及び加熱して前記オレアナン型トリテルペンジグルクロナイドの18位水素を異性化させて18α-異性体及び18β-異性体の平衡混合物を、酢酸を含むアルコール溶液に滴下して、使用する水酸化アルカリ由来のアルカリ塩の沈殿物として得るステップ、(2)平衡混合物を非プロトン性極性溶媒中においてアルキル化剤と処理し、18α-トリアルキルエステル体に誘導し分離精製するステップ、(3)分離精製した前記18α-トリエステル異性体をアルコール性水酸化アルカリ水溶液により加水分解し、酢酸を含むアルコール溶液に滴下して、使用する水酸化アルカリ由来のアルカリ塩の沈殿物として得るステップ、を有するものである。
【0013】
また、本観点において、オレアナン型トリテルペンジグルクロナイドは、下記式で示されるものであることが好ましい。
【化1】
【発明の効果】
【0014】
以上、本発明によって、より高い純度で18α-オレアナン型トリテルペンジグルクロナイド類を分離・製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1H NMRのチャートを示す。
図213C NMRのチャートを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例において示す具体的な例示にのみ限定されるわけではない。
【0017】
本実施形態に係る18α-オレアナン型トリテルペンジグルクロナイド類の製造方法(以下「本方法」という。)は、(1)オレアナン型トリテルペンジグルクロナイドと水酸化アルカリ水溶液を混合及び加熱してオレアナン型トリテルペンジグルクロナイドの18位水素を異性化させた18α-異性体及び18β-異性体の平衡混合物を、酢酸を含むアルコール溶液に滴下して使用する水酸化アルカリ由来のアルカリ塩沈殿物として得るステップ、(2)アルカリ塩混合物を非プロトン性極性溶媒中においてアルキル化剤と処理し、18α-トリアルキルエステル体に誘導し分離精製するステップ、(3)分離精製した前記18α-トリエステル異性体をアルコール性水酸化アルカリ水溶液により加水分解し、酢酸を含むアルコール溶液に滴下して、使用する水酸化アルカリ由来のアルカリ塩の沈殿物として得るステップ、を有するものである。
【0018】
本方法では、上記の通り、まず、(1)オレアナン型トリテルペンジグルクロナイドと水酸化アルカリ水溶液を混合及び加熱して前記オレアナン型トリテルペンジグルクロナイドの18位水素を異性化させて18α-異性体及び18β-異性体の平衡混合物を使用する水酸化アルカリ由来のアルカリ塩の沈殿物として得るステップを有する。
【0019】
本方法において、「オレアナン型トリテルペンジグルクロナイド」は、オレアナントリテルペンアグリコンと2つのグルクロン酸単位をその構造内に有する化合物である。オレアナン型トリテルペンジグルクロナイドの具体的な構造については限定されるわけではないが、例えば下記式で示されるものであることが好ましい。
【化1】
【0020】
また、本ステップにおける水酸化アルカリ水溶液において用いられる水酸化アルカリとしては、本ステップによる目的を達成することができる限りにおいて限定されるわけではないが、例えば水酸化カリウムや水酸化ナトリウムを例示することができる。
【0021】
また、本ステップにおいて、水酸化アルカリ水溶液の濃度についても特に限定されるわけではないが、10重量%以上50重量%以下であることが好ましく、より好ましくは15重量%以上25重量%以下である。
【0022】
また、本ステップにおいて、オレアナン型トリテルペンジグルクロナイドに対する水酸化アルカリの量としては、本ステップの目的を達成することができる限りにおいて限定されるわけではないが、オレアナン型トリテルペンジグルクロナイドを1molとした場合、5mol以上40mol以下とすることが好ましく、より好ましくは20mol以上30mol以下である。
【0023】
また、本ステップでは、上記の通り、オレアナン型トリテルペンジグルクロナイドと水酸化アルカリ水溶液を混合した後加熱する。この加熱は反応を促進する観点から行われるものであり限定されるわけではないが、80℃以上150℃以下であることが好ましく、より好ましくは100℃以上120℃以下の範囲である。
【0024】
また、本ステップにおけるオレアナン型トリテルペンジグルクロナイドと水酸化アルカリ水溶液の反応時間としては、反応温度や濃度によって大きく異なり、十分に反応を進行させることができる限りにおいて限定されるわけではないが、例えば5時間以上15時間以下であることが好ましく、より好ましくは8時間以上10時間以下である。
【0025】
また、本ステップでは、上記反応させた後、オレアナン型トリテルペンジグルクロナイドの18α-異性体および18β-異性体の平衡混合物を、酢酸を含むアルコール溶液に滴下することで、直接使用した水酸化アルカリのアルカリ塩として得ることができる。
【0026】
本ステップにおいて、酢酸を含むアルコール溶液は沈殿物を効率よく得るためのものであり限定されるわけではないが、アルコールとしてメタノール、エタノール及びプロパノールの少なくともいずれかであることが好ましい。また、最終的に調整されるアルコール水溶液中のアルコール濃度が80%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上である。なお、ここで酢酸はギ酸やプロピオン酸等の有機酸であってもよい。すなわち、有機酸を含むアルコール溶液とすることが可能である。
【0027】
なお本ステップにおいて、酢酸を含むアルコール溶液は沈殿物を効率よく得るためのものであり限定されるわけではないが、酢酸は使用する水酸化アルカリの中和量以上が好ましく、より好ましくは3倍から5倍等量である。
【0028】
以上本ステップでは、上記の反応により、オレアナン型トリテルペンジグルクロナイドの18位水素を異性化させて18α-異性体及び18β-異性体の平衡混合物を使用した水酸化アルカリ由来のアルカリ塩沈殿物として直接得ることができる。
【0029】
また、本方法では、上記ステップに続き、上記の通り、(2)平衡混合物を非プロトン性極性溶媒中においてアルキル化剤と処理し、18α-トリアルキルエステル体に誘導し分離精製するステップを有する。
【0030】
本ステップにおいて、「非プロトン性極性溶媒」は、イオン化するプロトンが無い溶媒をいい、本ステップの目的を達成することができる限りにおいて限定されるわけではないが、ジメチルスルホキシドやジメチルホルムアミド等を例示することができる。
【0031】
本ステップにおいて、「アルキル化剤」とは、アルキル化するために用いられる化合物であって、限定されるわけではないが、例えばジメチル硫酸、ヨウ化メチル、ジエチル硫酸及びヨウ化エチルの少なくともいずれかを例示することができる。
【0032】
また、本ステップにおける平衡混合物に対するアルキル化剤の量は、十分に反応が進行する限りにおいて限定されるわけではないが、平衡混合物を1molとした場合に、アルキル化剤を3mol以上8mol以下とすることが好ましく、より好ましくは4.5mol以上6mol以下の範囲である。
【0033】
また、本ステップにおける平衡混合物とアルキル化剤の反応の温度は、十分に反応が進行する限りにおいて限定されるわけではないが、15℃以上40℃以下であることが好ましく、20℃以上30℃以下であることがより好ましいが、室温程度でも十分に反応する。
【0034】
また、本ステップにおける平衡混合物とアルキル化剤の反応時間は、十分に反応が進行する限りにおいて限定されるわけではないが、2時間以上24時間以下であることが好ましく、4時間以上6時間以下であることがより好ましい。
【0035】
また、本ステップでは、反応を完結させるため、塩基を添加しておくことが好ましい。この具体的な例としては限定されるわけではないが、例えば炭酸カリウムや炭酸ナトリウムを用いることができる。
【0036】
本ステップによると、上記平衡混合物はアルキル化され、対応するトリアルキルエステル混合物に誘導される。
【0037】
また本ステップでは、上記18α-トリアルキルエステル体を分離精製することが必要である。具体的には析出する沈殿物をろ過、水洗するとともに、クロマトグラフィー等の精製方法を用いることが好ましい。クロマトグラフィーとしては限定されるわけではないが、シリカゲルクロマトグラフィーを用いることができる。
【0038】
本ステップでは、異性化されたオレアナン型トリテルペンジグルクロナイドのトリメチルエステル混合物がメタノールに対して溶解性の差を生ずる。そのためこの溶解性の差を利用することで、難溶性の18位異性化トリメチルエステルを高い純度の結晶として得ることができるようになる。
【0039】
また、本方法では、上記の通り、(3)分離精製した18α-トリエステル異性体をアルコール性水酸化アルカリ水溶液により加水分解し、酢酸を含むアルコール溶液に滴下して、使用する水酸化アルカリ由来のアルカリ塩の沈殿物として得るステップ、を有するものである。
【0040】
本ステップにおいて「アルコール性水酸化アルカリ水溶液」とは、アルコールを含む水酸化アルカリ水溶液をいう。
【0041】
ここで水酸化アルカリとしては、本ステップの目的を達成することができる限りにおいて限定されるわけではないが、例えば水酸化カリウムや水酸化ナトリウムを例示することができる。
【0042】
ここでアルコールとしては、本ステップの目的を達成することができる限りにおいて限定されるわけではないが、例えばメタノール、エタノール及びプロパノールのいずれかを例示することができる。
【0043】
また、本ステップにおいて、水酸化アルカリ水溶液の濃度としては、本ステップの目的を達成することができる限りにおいて限定されるわけではないが、水溶液中5重量%以上25重量%以下であることが好ましく、より好ましくは10重量%以上15重量%以下である。
【0044】
さらに、本ステップにおける18α-トリエステル異性体に対する水酸化アルカリの量は、十分に反応が進行する限りにおいて限定されるわけではないが、トリエステル異性体を1molとした場合に、水酸化アルカリを5mol以上20mol以下とすることが好ましく、より好ましくは8mol以上12mol以下の範囲である。
【0045】
また、本ステップにおいて、上記水酸化アルカリ水溶液に添加されるアルコールの量としては、18α-トリエステル異性体が溶解する限りにおいて限定されず、使用する水酸化アルカリに対し容積比1であることが好ましい。
【0046】
また、本ステップでは、上記反応させた後、18α-オレアナン型トリテルペンジグルクロナイドを、酢酸を含むアルコール溶液に滴下することで直接使用した水酸化アルカリのアルカリ塩として得ることができる。このアルカリ塩は再度溶液によって溶解し再結晶化させることによって、より純度を高めることが可能となる。
【0047】
本ステップにおいて、酢酸を含むアルコール溶液は沈殿物を効率よく得るためのものであり限定されるわけではないが、アルコールとしてはメタノール、エタノール及びプロパノールの少なくともいずれかであることが好ましい。また、最終的に調整されるアルコール水溶液中のアルコール濃度が80%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上である。なお、ここで酢酸はギ酸やプロピオン酸等の有機酸であってもよい。すなわち、有機酸を含むアルコール溶液とすることが可能である。
【0048】
本ステップにおいて、酢酸を含むアルコール溶液は沈殿物を効率よく得るためのものであり限定されるわけではないが、酢酸は使用する水酸化アルカリの中和量以上が好ましく、より好ましくは3倍から5倍等量である。
【0049】
本ステップにおいて、得られた18α-オレアナン型トリペルテンジグルクロナイドのアルカリ塩は、酸性にすることで18α-オレアナン型トリペルテンジグルクロナイドに、そしてその18α-オレアナン型トリペルテンジグルクロナイドはアンモニア水溶液で処理することにより、18α-オレアナン型トリペルテンジグルクロナイドのアンモニウム塩に誘導できる。
【0050】
以上、本方法によって、より高い純度で18α-オレアナン型トリペルテンジグルクロナイド類を分離・製造する方法を提供することができる。なお、本方法によって得られる化合物は異性化前の18β-オレアナン型トリペルテンジグルクロナイドに比べ高い薬理活性が期待される。
【実施例0051】
ここで、上記実施形態に係る製造方法を実際に実行しその効果を確認した。以下具体的に説明する。
【0052】
(ア)異性化反応
まず、18β-グリチルリチン酸アンモニウム塩(5g,5.95×10-3M)を、水酸化カリウム(8g,143×10-3M)を水(32mL)に溶解した水溶液とともに8時間加熱還流後、酢酸(10mL,175×10-3M)を99.5%エタノール(300mL)に溶解した溶液に室温にて撹拌して滴下し、析出する結晶を吸引ろ過することで、粗異性化混合物のカリウム塩(4.6g)を得た。
【0053】
(イ)メチル化反応
次いで、上記粗異性化混合物のカリウム塩(6.26g,7.274×10-3M) を、ジメチル硫酸(3.5mL,36.4×10-3M)および炭酸カリウム(5g,36.4×10-3M)を含むジメチルスルホキシド(18mL)に加え、室温にて一晩撹拌後、2%塩酸水溶液(75mL)中に注加し、析出する沈殿を濾過、水洗することで、反応生成物(6.03g)を得た。このうち、3.29gについて溶出溶媒としてクロロホルム:メタノール(10:1)混液を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて18α-および18β-トリメチルエステル混合物に相当する結晶性フラクション(1.0g,29%)を、メタノールを用いて繰り返し洗浄することで、18α-グリチルリチン酸トリメチルエステル(0.7g,20%)を無色微細針状晶、mp,285-288℃、として得た。なお、得たトリメチルエステルの HRMS、比旋光度([α])、H NMR、13C NMRのデータは下記のとおりである。
【0054】
HRMS:m/z 865.4574(Calcd for [C456916:865.4580),899.4223(Calcd for [C456816Cl]:899.4201)
【0055】
比旋光度[α] 27+47(c 0.4,EtOH)
【0056】
H NMR(600MHz,pyridine-d)δ:0.66(3H,s,28-Me),0.78(1H,d,J=11Hz,5-H),1.06(1H,brt,J=13Hz,1-H),1.11(3H,s,26-Me),1.14(1H,brt,J=13Hz,15-H),1.19(3H,s,24-Me),1.26(1H,dd,J=13,7Hz,16-H),1.30(6H,s,27-Me,30-Me),1.31(1H,s,22-H),1.35(3H,s,23-Me), 1.36(3H,s,25-Me),1.36-1.42(1H,m,6-H),1.38(1H,d,J=3Hz,7-H),1.45(1H,dt,J=14,4Hz,16-H),1.52-1.60(4H,m,6-H,7-H,21-H,22-H), 1.63(1H,brd,J=12Hz,19-H),1.76(1H,t,J=12Hz,19-H),1.84(1H,dt,J=14,5Hz,15-H),2.01(1H,dt,J=14,4Hz,21-H),2.05-2.13(1H,m,2-H),2.20-2.24(1H,m,2-H),2.27(1H,br d,J=12Hz,18-H),2.35(1H,s,9-H),2.98(1H,dt,J=13,3Hz,1-H),3.33(1H,dd,J=11,4Hz,3-H), 3.71(6H,s,31-Me,7’-Me),3.86(3H,s,7’’-Me),4.20(1H,t,J=9Hz,2’-H),4.21(1H,t,J=9Hz,2’’-H),4.29(1H,t,J=9Hz,3’’-H),4.34(1H,t,J=9Hz,3’-H),4.44(1H,t,J=9Hz,4’-H),4.50(1H,d,J=10Hz,5’-H),4.53(1H,d,J=10Hz,5’’-H),4.54(1H,t,J=10Hz,4’’-H),5.01(1H,d,J=7Hz,1’-H),5.43(1H,d,J=7Hz,1’’-H),5.70(1H,s,12-H)
【0057】
13C NMR(150MHz,pyridine-d)δ:16.3(C28), 16.9(C24),17.3(C25),18.0(C),19.0(C26),20.9(C30),21.1(C27),27.0(C),27.2(C15),28.2(C23),29.3(C21),32.4(C19),34.3(C),35.9(C17), 36.3(C16),37.4(C10),37.9(C22),39.8(C),40.2(C),40.7(C18),43.2(C20),44.3(C),45.4(C14),52.2(C’’),52.3(C31),52.4(C’),55.8(C),61.3(C),73.0(C’),73.3(C’’),76.9(C’’),77.1(C’),77.8(C’’),77.9(C’),78.0(C’’),84.8(C’),89.7(C),105.4(C’),107.2(C’’),124.6(C12),165.8(C13),170.7(C’),170.8(C’’)179(C29),199.5(C11
【0058】
(ウ)加水分解反応
18α-グリチルリチン酸トリメチルエステル(0.302g、0.35×10-3M)を95%エタノール(2mL)に溶解し、10%KOH(2mL、3.5×10-3M)を加え3時間加熱還流後、酢酸(0.3mL、17.5×10-3M)を含む99.5%エタノール(16mL)溶液に室温にて撹拌して滴下した。析出する沈殿をろ過し、18α-グリチルリチン酸カリウムを粗結晶として定量的に得た。これを60%プロピオン酸水溶液から2回再結晶することで、18α-グリチルリチン酸カリウム(0.273g、91%)、無色微細針状晶、mp 218-222℃(dec)、に誘導した。このカリウムは10%塩酸で処理することにより、18α-グリチルリチン酸、無色粉末、mp 203-206℃、に、そしてその18α-グリチルリチン酸はアンモニアで処理することで18α-グリチルリチン酸アンモニウム、無色、微細針状晶、mp 204-208℃(dec)、に導いた。HRMS、比旋光度([α])、H NMR、13C NMRのデータは下記のとおりである。また、図1図2に、18β-グリチルリチン酸と18α-グリチルリチン酸のHおよび13C NMRチャートを記載する。なお、図1H NMRのチャートであって、図中、上は18β-グリチルリチン酸、下は18α-グリチルリチン酸をそれぞれ示す。また図213C NMRのチャートであって、上は18β-グリチルリチン酸を、下は18α-グリチルリチン酸をそれぞれ示す。
【0059】
HRMS(18α-グリチルリチン酸アンモニウム): m/z 821.3984(Calcd for [C426116N-NH-H]:821.3965), 845.3931(Calcd for [C426216N-NH+Na]:845.3930)。
【0060】
比旋光度(18α-グリチルリチン酸)[α] 28+23(c 0.5,EtOH)
【0061】
H NMR(18α-グリチルリチン酸:600 MHz,pyridine-d)δ:0.70(3H,s,28-Me),0.74(1H,t,J=10Hz,5-H),1.02-1.06(1H,m,1H),1.05(3H,s,26-Me),1.12(1H,dd,J=12,5Hz,15-H),1.20-1.35(4H,m,6-H,7-H,16-H,22-H),1.27(3H,s,25-Me),1.28(3H,s,24-Me),1.31(3H,s,27-Me), 1.42(3H,s,23-Me),1.46(3H,s,30-Me),1.46-1.60(4H,m,6-H,7-H,16-H,22-H),1.71(1H,d,J=13Hz,21-H),1.76-1.85(2H,m,15-H,19-H), 1.97(1H,t,J=13Hz,19-H),2.13(1H,dt,J=14,14 Hz,2-H),2.23(1H,dt,J=14,4Hz,21-H),2.32(1H,brd,J=9Hz,2-H,18-H),2.33(1H,s,12-H),2.94(1H,dt,J=14,3Hz,1-H),3.37(1H,dd,J=12,5Hz,3-H),4.29(1H,t,J=8Hz,2’’-H),4.32(1H,td,J=8,7Hz,2’-H),4.36(1H,t,J=9Hz,3’’-H),4.44(1H,t,J=9Hz,3’-H),4.60(1H,t,J=10Hz,4’-H),4.64(1H,d,J=10Hz,5’-H),4.66(1H,d,J=10Hz,5’’-H),4.68(1H,t,J=10Hz,4’’-H),5.08(1H,d,J=7Hz,1’-H),5.47(1H,d,J=8Hz,1’’-H),5.78(1H,s,12-H)。
【0062】
13C NMR(18α-グリチルリチン酸:150MHz,pyridine-d)δ:16.4(C28),17.27(C24),17.28(C25),18.0(C),18.9(C26),21.0(C27),21.5(C30),27.0(C),27.3(C15),28.4(C23),29.7(C21),32.8(C19), 34.3(C),36.0(C17),36.7(C16),37.3(C10),38.0(C22),39.8(C),40.2(C),40.9(C18),43.1(C20),44.3(C),45.4(C14),55.8(C),61.2(C),73.4(C’),73.6(C’’),77.2(C’’),77.8(C’),78.0(C’’),78.1(C’),78.8(C’’),84.9(C’),89.5(C),105.5(C’),107.3(C’’),124.7(C12),166.1(C13),172.5(C’’),172.7(C’),181.3(C29),199.5(C11)。
【0063】
以上、本実施例によって、より高い純度で18α-オレアナン型トリテルペンジグルクロナイド類を分離・製造する方法を提供することができることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、18β-グリチルリチン酸及びその類縁体から立体異性体である18α-グリチルリチン酸及びその類縁体の製造方法として産業上の利用可能性がある。



図1
図2