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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023037461
(43)【公開日】2023-03-15
(54)【発明の名称】薄帯片の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B26F 1/44 20060101AFI20230308BHJP
   B26F 1/38 20060101ALI20230308BHJP
   B26D 7/08 20060101ALI20230308BHJP
   B21D 28/12 20060101ALI20230308BHJP
【FI】
B26F1/44 H
B26F1/38 A
B26D7/08 D
B21D28/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021144233
(22)【出願日】2021-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592190866
【氏名又は名称】株式会社江東彫刻
(71)【出願人】
【識別番号】000144614
【氏名又は名称】株式会社三條機械製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】助田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】富岡 晃徳
(72)【発明者】
【氏名】平位 直樹
(72)【発明者】
【氏名】酒寄 勇
(72)【発明者】
【氏名】片岡 公二郎
(72)【発明者】
【氏名】御園生 浩
(72)【発明者】
【氏名】近藤 芳清
(72)【発明者】
【氏名】清水 昌章
【テーマコード(参考)】
3C060
【Fターム(参考)】
3C060AA16
3C060AB01
3C060BA03
3C060BB08
3C060BD04
3C060BG03
3C060BG07
3C060BH01
(57)【要約】
【課題】ロータリーダイカッターの損傷を抑制することができる薄帯片の製造方法を提供することにある。
【解決手段】本発明の薄帯片の製造方法は、アンビルロールとダイロールとを備えるロータリーダイカッターを用い、薄帯材から薄帯片を製造する方法であって、アンビルロールは、アンビルロール本体を含み、ダイロールは、切刃が外周面に突設されたダイロール本体と、ダイロール本体の外周面の切刃の両側に設けられたダイロール弾性層とを含む。アンビル側弾性層の表面に載せた薄帯材をアンビルロール及びダイロールの間に通過させる際、ダイロールの切刃を薄帯材の切断位置に押し込む時にアンビル側弾性層の弾性力により薄帯材の切断位置に曲げによる引張応力を印加した後、ダイロールの切刃を薄帯材の切断位置から引き離す時にアンビル側弾性層及びダイロール弾性層の弾性力により薄帯材の切断位置に曲げ戻しによる引張応力を印加することを特徴とする。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンビルロールとダイロールとを備えるロータリーダイカッターを用い、薄帯材から薄帯片を打ち抜くことで薄帯片を製造する方法であって、
前記アンビルロールは、アンビルロール本体を含み、前記ダイロールは、前記薄帯片の周縁に対応する形状を有する切刃が外周面に突設されたダイロール本体と、前記ダイロール本体の外周面の前記切刃の両側に設けられたダイロール弾性層とを含み、
前記薄帯片の製造方法は、前記アンビルロール本体の外周面に配置されたアンビル側弾性層の前記ダイロール側の表面に載せた前記薄帯材を前記アンビルロール及び前記ダイロールの間に通過させる際に前記薄帯材を所望の切断位置で切断することで、前記薄帯材から前記薄帯片を打ち抜く打ち抜き工程を備え、
前記打ち抜き工程では、前記ダイロールの前記切刃を前記薄帯材の前記切断位置に押し込む時に前記アンビル側弾性層の弾性力を前記薄帯材の前記切断位置の両側に作用させることで前記薄帯材の前記切断位置に曲げによる引張応力を印加した後、前記ダイロールの前記切刃を前記薄帯材の前記切断位置から引き離す時に前記アンビル側弾性層の弾性力を前記薄帯材の前記切断位置に作用させながら、前記ダイロール弾性層の弾性力を前記薄帯材の前記切断位置の両側に作用させることで前記薄帯材の前記切断位置に曲げ戻しによる引張応力を印加することにより、前記薄帯材を前記切断位置で切断することを特徴とする薄帯片の製造方法。
【請求項2】
前記アンビルロールは、前記アンビルロール本体の外周面に設けられた前記アンビルロール弾性層をさらに含み、
前記アンビル側弾性層は、前記アンビルロール弾性層であり、
前記打ち抜き工程では、前記アンビルロール弾性層の前記ダイロール側の外周面に載せた前記薄帯材を前記アンビルロール弾性層及び前記ダイロール弾性層の間に挟みながら前記アンビルロール及び前記ダイロールを互いに逆方向に回転させることで、前記薄帯材を前記アンビルロール弾性層及び前記ダイロール弾性層の間に通過させることを特徴とする請求項1に記載の薄帯片の製造方法。
【請求項3】
前記アンビル側弾性層は、前記ロータリーダイカッターから独立した弾性体シートであり、
前記打ち抜き工程では、前記弾性体シート及び前記弾性体シートの前記ダイロール側の表面に載せた前記薄帯材を前記アンビルロール本体及び前記ダイロール弾性層の間に挟みながら前記アンビルロール及び前記ダイロールを互いに逆方向に回転させることで、前記弾性体シート及び前記薄帯材を前記アンビルロール本体及び前記ダイロール弾性層の間に通過させることを特徴とする請求項1に記載の薄帯片の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ロータリーダイカッターを用い、薄帯材から薄帯片を打ち抜くことで薄帯片を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属材料等から構成される金属薄板、金属薄帯、金属箔などの薄帯材から所定形状の薄帯片を製造することが求められることが多い。これは、様々な機械や電子機器に実装される部品が、このような所定形状を有する薄帯片から形成されることが多いからである。具体的には、例えば、特許文献1に記載されているように、モータコア等に用いられる積層コアは、アモルファス合金等から構成される薄帯片を積層することにより形成される。さらに、二次電池や燃料電池が備える電極の多くは金属薄帯片から形成される。
【0003】
薄帯材から所定形状の薄帯片を製造する加工方法としては、従来は、プレス打ち抜きが適用されていたが、近年、生産性の向上等の観点から、ロータリーダイカッターを用いた加工方法が適用されるようになっている。
【0004】
ロータリーダイカッターを用いた加工方法として、例えば、特許文献2には、金属薄板や金属箔等の非常に薄い金属部材(薄帯材)をせん断加工により所定形状に打ち抜くロータリーカッターを用いた加工方法が記載されている。このロータリーカッターは、第1回転部材と、第2回転部材と、弾性体と、を備えている。このロータリーカッターでは、第1回転部材は、表面に凸部及び凹部の少なくとも一つを有する。第2回転部材は、第1回転部材と反対方向に回転可能であって、表面に凸部及び凹部の少なくとも一つを有する。弾性体は、第1回転部材が有する凸部若しくは凹部により形成されるエッジの段差部分の少なくとも一部に装着される。さらに、弾性体は、第2回転部材が有する凸部若しくは凹部により形成されるエッジの段差部分の少なくとも一部に装着される。そして、第1回転部材のエッジと第2回転部材のエッジの間で金属部材をせん断する。
【0005】
さらに、ロータリーダイカッターを用いた加工方法として、例えば、特許文献3には、ロータリーダイとアンビルロールとを備えるダイカット装置を用いた加工方法が記載されている。この装置では、ロータリーダイが、ダイカットロールと、ダイカットロールの径方向外側に突出する形状の切刃とを有し、切刃が、ダイカットロールの周方向に沿って外周面から突出する形状の第1刃部をダイカットロールの軸方向に離間して一対含んでいる。さらに、ロータリーダイが、第1刃部をダイカットロールの軸方向に挟むスポンジを有し、スポンジは、ダイカットロールとアンビルロールとの離間距離が最も短い箇所での圧縮率が40%以上に設定されている。このダイカット装置では、ロータリーダイとアンビルロールとの間に電極中間体を通過させる際にロータリーダイの切刃を電極中間体等の薄帯材に進入させることで薄帯材を切断予定線で切断することによって、薄帯材から所定形状の薄帯片を製造する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2017/006868号
【特許文献2】特許第6037690号公報
【特許文献3】特開2017-132019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これに対して、金属材料等から構成される薄帯材は、硬さが高く延性が低いため、切断が容易ではない。このため、特許文献2に記載されたロータリーカッターのようなロータリーダイカッターを用い、せん断加工により、硬さが高く延性が低い薄帯材を打ち抜く場合には、ロータリーダイカッターは、その摩耗が早期に進行するため損傷し易い。
【0008】
さらに、特許文献3に記載されたダイカット装置のようなロータリーダイカッターを用い、薄帯材を切刃で切断することにより薄帯材から薄帯片を打ち抜く場合にも、薄帯材の硬さが高く延性が低いときには、ロータリーダイカッターは、切刃に強い負荷がかかるため損傷し易い。
【0009】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ロータリーダイカッターを用い、薄帯材から薄帯片を打ち抜くことで薄帯片を製造する方法であって、ロータリーダイカッターの損傷を抑制することができる薄帯片の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、本発明の薄帯片の製造方法は、アンビルロールとダイロールとを備えるロータリーダイカッターを用い、薄帯材から薄帯片を打ち抜くことで薄帯片を製造する方法であって、上記アンビルロールは、アンビルロール本体を含み、上記ダイロールは、上記薄帯片の周縁に対応する形状を有する切刃が外周面に突設されたダイロール本体と、上記ダイロール本体の外周面の上記切刃の両側に設けられたダイロール弾性層とを含み、上記薄帯片の製造方法は、上記アンビルロール本体の外周面に配置されたアンビル側弾性層の上記ダイロール側の表面に載せた上記薄帯材を上記アンビルロール及び上記ダイロールの間に通過させる際に上記薄帯材を所望の切断位置で切断することで、上記薄帯材から上記薄帯片を打ち抜く打ち抜き工程を備え、上記打ち抜き工程では、上記ダイロールの上記切刃を上記薄帯材の上記切断位置に押し込む時に上記アンビル側弾性層の弾性力を上記薄帯材の上記切断位置の両側に作用させることで上記薄帯材の上記切断位置に曲げによる引張応力を印加した後、上記ダイロールの上記切刃を上記薄帯材の上記切断位置から引き離す時に上記アンビル側弾性層の弾性力を上記薄帯材の上記切断位置に作用させながら、上記ダイロール弾性層の弾性力を上記薄帯材の上記切断位置の両側に作用させることで上記薄帯材の上記切断位置に曲げ戻しによる引張応力を印加することにより、上記薄帯材を上記切断位置で切断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ロータリーダイカッターの損傷を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態に係る打ち抜き装置を模式的に示す側面図である。
図2】第1実施形態に係る薄帯片の製造方法を使用し、薄帯材から打ち抜く薄帯片を示す概略平面図である。
図3A】第1実施形態に係る薄帯片の製造方法を模式的に示す工程断面図である。
図3B】第1実施形態に係る薄帯片の製造方法を模式的に示す工程断面図である。
図3C】第1実施形態に係る薄帯片の製造方法を模式的に示す工程断面図である。
図3D】第1実施形態に係る薄帯片の製造方法を模式的に示す工程断面図である。
図4】(a)~(c)は、第1実施形態に係る薄帯片の製造方法の打ち抜き工程における薄帯材の切断位置の切断過程の各段階を模式的に示す断面図である。
図5】第2実施形態に係る打ち抜き装置を模式的に示す側面図である。
図6】第2実施形態に係る薄帯片の製造方法の要部を模式的に示す工程断面図である。
図7】(a)~(d)は、第1実施形態に係る薄帯片の製造方法を実機で実施した際に観察された薄帯材の切断位置付近の切断過程の各段階を示す断面画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態に係る薄帯片の製造方法について説明する。
最初に、実施形態に係る薄帯片の製造方法の概略について、第1実施形態及び第2実施形態に係る薄帯片の製造方法を例示して説明する。
【0014】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る打ち抜き装置を模式的に示す側面図である。図2は、第1実施形態に係る薄帯片の製造方法を使用し、薄帯材から打ち抜く薄帯片を示す概略平面図である。図3A図3Dは、第1実施形態に係る薄帯片の製造方法を模式的に示す工程断面図である。図4(a)~図4(c)は、第1実施形態に係る薄帯片の製造方法の打ち抜き工程における薄帯材の切断位置の切断過程の各段階を模式的に示す断面図である。
【0015】
図1に示すように、第1実施形態に係る打ち抜き装置1は、材料供給部10と、搬送部20と、ロータリーダイカッター30と、材料回収部40とを備えている。打ち抜き装置1では、材料供給部10から薄帯材Wとしてアモルファス合金薄帯を供給する。材料供給部10から供給される薄帯材Wを搬送部20によりロータリーダイカッター30に搬送し、ロータリーダイカッター30により薄帯材Wから図2に示す薄帯片Mを打ち抜く。打ち抜き後の薄帯材W´を搬送部20により材料回収部40に搬送し、材料回収部40で回収する。なお、薄帯片Mは、積層ステータコアの各層をなす薄帯片がさらに周方向で分割されたものである。
【0016】
材料供給部10は、薄帯材Wを巻き出しロータリーダイカッター30に供給できるように矢印方向に回転可能に設けられた回転軸11を有し、回転軸11には薄帯材Wが巻かれている。搬送部20は、薄帯材Wを挟んで回転する一対の搬送ロール21を有している。一対の搬送ロール21は、回転軸が互いに平行になるように配置され、矢印に示すように互いに逆方向に回転することで薄帯材Wを間に挟み込んで搬送する。搬送部20は、ロータリーダイカッター30の上流側及び下流側に配置されている。材料回収部40は、打ち抜き後の薄帯材W´を巻き取り回収できるように矢印方向に回転可能に設けられた回転軸41を有している。
【0017】
ロータリーダイカッター30は、図1及び図3A図3Dに示すように、アンビルロール32と、ダイロール34とを備えている。アンビルロール32は、アンビルロール本体32Aと、アンビルロール弾性層(アンビル側弾性層)32Bとを含んでいる。アンビルロール本体32Aは、回転軸A1を中心に回転可能に設けられた円柱状の金属製ロールである。アンビルロール弾性層32Bは、アンビルロール本体32Aの外周面32Asに固定されて設けられている。アンビルロール32は、アンビルロール本体32Aの回転軸A1を中心として、アンビルロール弾性層32Bにより薄帯材Wを支持しながら矢印方向に回転する。ダイロール34は、ダイロール本体34Aと、ダイロール弾性層34Bとを含んでいる。ダイロール本体34Aは、アンビルロール本体32Aの回転軸A1と平行な回転軸A2を中心に回転可能に設けられた円柱状の金属製ロールであり、薄帯片Mの周縁に対応する形状を有する切刃34Acが外周面34Asに突設されている。ダイロール弾性層34Bは、ダイロール本体34Aの外周面34Asの切刃34Acの両側(切刃34Acが設けられた部分を除いた部分)に固定されて設けられている。ダイロール34は、ダイロール本体34Aの回転軸A2を中心として、ダイロール弾性層34Bにより薄帯材Wを支持しながら矢印方向に回転する。
【0018】
ロータリーダイカッター30では、ダイロール34の切刃34Acがアンビルロール本体32Aの外周面32Asに接触し、切刃34Acが破損することなどを回避するために、アンビルロール本体32Aの外周面32Asとダイロール本体34Aの外周面34Asとの間の最短距離(以下、「ロール本体間の最短距離」と略すことがある。)dが、切刃34Acの高さhより長くなっている。また、打ち抜き工程でダイロール34の切刃34Acを薄帯材Wの切断位置Wpに確実に押し込むことができるように、ロール本体間の最短距離dが、切刃34Acの高さh及びアンビルロール弾性層32Bの厚さt1の和より短くなっている。さらに、打ち抜き工程でダイロール34の切刃34Acを薄帯材Wの切断位置Wpに押し込む時に薄帯材Wの切断位置Wpの両側をアンビルロール弾性層32B及びダイロール弾性層34Bの間で確実に保持できるように、ダイロール弾性層34Bの厚さt2が、ダイロール34の切刃34Acの高さhより長くなっている。
【0019】
これに加え、ロータリーダイカッター30では、打ち抜き工程において、薄帯材Wに印加される曲げによる引張応力の大きさが2500MPa以上となるように薄帯材Wの曲げ角度180°-αが制御され、かつ薄帯材Wに印加される曲げ戻しによる引張応力の大きさが2500MPa以上となるように薄帯材Wの曲げ戻し角度β-αが制御されるように、ダイロール34の切刃34Acの刃先の角度θ、ロール本体間の最短距離d、ダイロール34の切刃34Acの高さh、アンビルロール弾性層32Bの厚さt1、硬さ、及びヤング率、並びにダイロール弾性層34Bの厚さt2、硬さ、及びヤング率等が設定されている。
【0020】
第1実施形態に係る薄帯片の製造方法では、第1実施形態に係る打ち抜き装置1を用い、薄帯材Wから薄帯片Mを打ち抜くことにより、薄帯片Mを製造する。具体的には、図3A図3Dに示すように、アンビルロール弾性層(アンビル側弾性層)32Bのダイロール側の外周面32Bsに載せた薄帯材Wをアンビルロール弾性層32Bの外周面32Bs及びダイロール弾性層34Bの外周面34Bsの間に挟みながら、アンビルロール32及びダイロール34を矢印に示すように互いに逆方向に回転させる。これにより、薄帯材Wをアンビルロール弾性層32Bの外周面32Bs及びダイロール弾性層34Bの外周面34Bsの間に通過させる。この際に、アンビルロール弾性層32B及びダイロール弾性層34Bを薄帯材Wのアンビルロール側の表面及びダイロール側の表面にそれぞれ接触させた状態で弾性変形させながら、ダイロール34の切刃34Acをダイロール弾性層34Bの外周面34Bsから突出させることで薄帯材Wの切断位置Wpに押し込み、続いてダイロール34の切刃34Acを薄帯材Wの切断位置Wpから引き離す。これによって、薄帯材Wを切断位置Wpで切断することで、薄帯材Wから薄帯片Mを打ち抜く(打ち抜き工程)。
【0021】
薄帯材Wを切断位置Wpで切断する場合には、図4(a)に示すようにダイロール34の切刃34Acを薄帯材Wの切断位置Wpに接触させた後、図4(b)に示すようにダイロール34の切刃34Acを薄帯材Wの切断位置Wpに押し込む時に、切刃34Acの押圧力を薄帯材Wの切断位置Wpに作用させると同時にアンビルロール弾性層32Bの弾性力を薄帯材Wの切断位置Wpの両側に作用させることで薄帯材Wの切断位置Wpのアンビルロール側に曲げによる引張応力を印加する。この際には、ロール本体間の最短距離d、切刃34Acの高さh、アンビルロール弾性層32Bの厚さt1、硬さ、及びヤング率等が上述したように設定されているため、アンビル側弾性層32Bの弾性力が好適に設定される。これに加え、切刃34Acの刃先の角度θが上述したように設定されていることで、薄帯材Wの切断位置の曲げ角度180°-αが好適に制御され、曲げによる引張応力の大きさが2500MPa以上となる。
【0022】
続いて、図4(c)に示すようにダイロール34の切刃34Acを薄帯材Wの切断位置Wpから引き離す時に、アンビルロール弾性層32Bの弾性力を薄帯材Wの切断位置Wpに作用させながら、ダイロール弾性層34Bの弾性力を薄帯材Wの切断位置Wpの両側に作用させることで薄帯材Wの切断位置Wpのダイロール側に曲げ戻しによる引張応力を印加する。この際には、ロール本体間の最短距離d、切刃34Acの高さh、アンビルロール弾性層32Bの厚さt1、硬さ、及びヤング率等、並びにダイロール弾性層34Bの厚さt2、硬さ、及びヤング率等が上述したように設定されているため、アンビルロール弾性層32Bの弾性力及びダイロール弾性層34Bの弾性力が好適に設定される。これにより、薄帯材Wの切断位置の曲げ戻し角度β-αが好適に制御され、曲げ戻しによる引張応力の大きさが2500MPa以上となる。以上のように、薄帯材Wの切断位置Wpに対して2500MPa以上の曲げによる引張応力及び2500MPa以上の曲げ戻しによる引張応力を連続して印加することにより、薄帯材Wを切断位置Wpで切断する。
【0023】
第1実施形態に係る薄帯片の製造方法では、アンビルロール32及びダイロール34の回転を連続させることで上述した進行プロセスによる薄帯材Wの切断位置Wpでの切断を連続的に起こすことにより、薄帯材Wから薄帯片Mを打ち抜く。これにより、薄帯材Wから薄帯片Mを製造する。
【0024】
(第2実施形態)
図5は、第2実施形態に係る打ち抜き装置を模式的に示す側面図である。図6は、第2実施形態に係る薄帯片の製造方法の要部を模式的に示す工程断面図である。
【0025】
図5に示すように、第2実施形態に係る打ち抜き装置51は、材料供給部60と、搬送部70と、ロータリーダイカッター80と、材料回収部90とを備えている。打ち抜き装置51では、材料供給部60から弾性体シート(アンビル側弾性層)E及び弾性体シートEのダイロール側の表面Esに載せた薄帯材Wを含む材料シートLを供給する。なお、薄帯材Wはアモルファス合金薄帯である。材料供給部60から供給される材料シートLを搬送部70によりロータリーダイカッター80に搬送し、ロータリーダイカッター80により材料シートLの薄帯材Wから図2に示す薄帯片Mを打ち抜く。打ち抜き後の材料シートL´を搬送部70により材料回収部90に搬送し、材料回収部90で回収する。
【0026】
材料供給部60は、材料シートLを巻き出しロータリーダイカッター80に供給できるように矢印方向に回転可能に設けられた回転軸61を有し、回転軸61には材料シートLが巻かれている。搬送部70は、材料シートLを挟んで回転する一対の搬送ロール71を有している。一対の搬送ロール71は、回転軸が互いに平行になるように配置され、矢印に示すように互いに逆方向に回転することで材料シートLを間に挟み込んで搬送する。搬送部70は、ロータリーダイカッター80の上流側及び下流側に配置されている。材料回収部90は、打ち抜き後の材料シートL´を巻き取り回収できるように矢印方向に回転可能に設けられた回転軸91を有している。
【0027】
ロータリーダイカッター80は、図5及び図6に示すように、アンビルロール82と、ダイロール84とを備えている。アンビルロール82は、アンビルロール本体32Aを含んでいる。アンビルロール本体32Aは、図3Aに示すアンビルロール本体32Aと同様のものである。アンビルロール82は、回転軸A1を中心として、アンビルロール本体32Aにより材料シートLを弾性体シート側から支持しながら矢印方向に回転する。ダイロール84は、図3Aに示すダイロール34と同様の構成を有している。ダイロール84は、ダイロール本体34Aの回転軸A2を中心として、ダイロール弾性層34Bにより材料シートLを薄帯材側から支持しながら矢印方向に回転する。
【0028】
ロータリーダイカッター80では、図3Aに示すロータリーダイカッター30と同様にロール本体間の最短距離dが切刃34Acの高さhより長くなっている。また、打ち抜き工程でダイロール84の切刃34Acを薄帯材Wの切断位置Wpに押し込むことができるように、ロール本体間の最短距離dが切刃34Acの高さh及び弾性体シートEの厚さt3の和より短くなっている。さらに、図3Aに示すロータリーダイカッター30と同様にダイロール弾性層34Bの厚さt2がダイロール84の切刃34Acの高さhより長くなっている。
【0029】
これに加え、ロータリーダイカッター80では、図3Aに示すロータリーダイカッター30と同様に、薄帯材Wの曲げ角度180°-αが制御され、かつ薄帯材Wの曲げ戻し角度β-αが制御されるように、ダイロール84の切刃34Acの刃先の角度θ、ロール本体間の最短距離d、ダイロール84の切刃34Acの高さh、弾性体シートEの厚さt3、硬さ、及びヤング率、並びにダイロール弾性層34Bの厚さt2、硬さ、及びヤング率等が設定されている。
【0030】
第2実施形態に係る薄帯片の製造方法では、図6に示すように、材料シートLに含まれる弾性体シート(アンビル側弾性層)E及び弾性体シートEのダイロール側の表面Esに載せた薄帯材Wをアンビルロール本体32Aの外周面32As及びダイロール弾性層34Bの外周面34Bsの間に挟みながら、アンビルロール82及びダイロール84を矢印に示すように互いに逆方向に回転させる。これにより、アンビルロール本体32Aの外周面32Asに配置された弾性体シートE及び薄帯材Wをアンビルロール本体32Aの外周面32As及びダイロール弾性層34Bの外周面34Bsの間に通過させる。この際に、弾性体シートE及びダイロール弾性層34Bを薄帯材Wのアンビルロール側の表面及びダイロール側の表面にそれぞれ接触させた状態で弾性変形させながら、ダイロール84の切刃34Acをダイロール弾性層34Bの外周面34Bsから突出させることで薄帯材Wの切断位置Wpに押し込み、続いてダイロール84の切刃34Acを薄帯材Wの切断位置Wpから引き離す。これによって、薄帯材Wを所望の切断位置Wpで切断することで、薄帯材Wから薄帯片Mを打ち抜く(打ち抜き工程)。
【0031】
薄帯材Wを切断位置Wpで切断する場合には、まず、ダイロール84の切刃34Acを薄帯材Wの切断位置Wpに接触させ押し込む時に、切刃34Acの押圧力を薄帯材Wの切断位置Wpに作用させると同時に弾性体シートEの弾性力を薄帯材Wの切断位置Wpの両側に作用させることで薄帯材Wの切断位置Wpのアンビルロール側に曲げによる引張応力を印加する。この際には、ロール本体間の最短距離d、切刃34Acの高さh、弾性体シートEの厚さt3、硬さ、及びヤング率等が上述したように設定されているため、弾性体シートEの弾性力が好適に設定される。これに加え、切刃34Acの刃先の角度θが上述したように設定されていることで、薄帯材Wの切断位置の曲げ角度180°-αが好適に制御され、曲げによる引張応力の大きさが2500MPa以上となる。
【0032】
続いて、ダイロール84の切刃34Acを薄帯材Wの切断位置Wpから引き離す時に、弾性体シートEの弾性力を薄帯材Wの切断位置Wpに作用させながら、ダイロール弾性層34Bの弾性力を薄帯材Wの切断位置Wpの両側に作用させることで薄帯材Wの切断位置Wpのダイロール側に曲げ戻しによる引張応力を印加する。この際には、ロール本体間の最短距離d、切刃34Acの高さh、弾性体シートEの厚さt3、硬さ、及びヤング率等、並びにダイロール弾性層34Bの厚さt2、硬さ、及びヤング率等が上述したように設定されているため、弾性体シートEの弾性力及びダイロール弾性層34Bの弾性力が好適に設定される。これにより、薄帯材Wの切断位置の曲げ戻し角度β-αが好適に制御され、曲げ戻しによる引張応力の大きさが2500MPa以上となる。以上のように、薄帯材Wの切断位置Wpに対して2500MPa以上の曲げによる引張応力及び2500MPa以上の曲げ戻しによる引張応力を連続して印加することにより、薄帯材Wを切断位置Wpで切断する。
【0033】
第2実施形態に係る薄帯片の製造方法では、アンビルロール82及びダイロール84の回転を連続させることで上述した進行プロセスで薄帯材Wの切断位置Wpでの切断を連続的に起こすことにより、薄帯材Wから薄帯片Mを打ち抜く。これにより、薄帯材Wから薄帯片Mを製造する。
【0034】
(作用効果)
従って、実施形態に係る薄帯片の製造方法によれば、従来のようにせん断加工により薄帯材を打ち抜く場合や従来の方法で切刃により薄帯材を切断する場合とは異なり、第1及び第2実施形態のように、薄帯材の切断位置に対して曲げによる引張応力及び曲げ戻しによる引張応力を連続して印加することで薄帯材を切断位置で切断することにより、薄帯材から薄帯片を製造できる。よって、ロータリーダイカッターの損傷を抑制することができる。
【0035】
続いて、実施形態に係る薄帯片の製造方法における各構成の詳細について説明する。
【0036】
1.ロータリーダイカッター
ロータリーダイカッターは、アンビルロールとダイロールとを備える。上記アンビルロールは、アンビルロール本体を含み、上記ダイロールは、上記薄帯片の周縁に対応する形状を有する切刃が外周面に突設されたダイロール本体と、上記ダイロール本体の外周面の上記切刃の両側に設けられたダイロール弾性層とを含む。
【0037】
ロータリーダイカッターとしては、アンビルロールとダイロールとを備え、実施形態に係る薄帯片の製造方法に用いることができれば特に限定されないが、例えば、第1実施形態に係るロータリーダイカッターのように、上記アンビルロールが、上記アンビルロール本体の外周面に設けられた上記アンビルロール弾性層をさらに含み、上記アンビル側弾性層が、上記アンビルロール弾性層であるものでもよい。また、ロータリーダイカッターとしては、例えば、第2実施形態に係るロータリーダイカッターのようにアンビルロールがアンビルロール弾性層を含まないものでもよい。このようなカッターでは、上記アンビル側弾性層は、上記ロータリーダイカッターから独立した弾性体シートである。
【0038】
アンビルロールのアンビルロール本体は、回転軸を中心に回転可能に設けられた円柱状の部材である。アンビルロール本体の外周面は、特に限定されるものではなく、通常、円筒面であるが、例えば、凹凸のない平滑な円筒面でもよいし、アンビルロール弾性層を固定するための凸部や凹部が円筒面に設けられたものでもよい。アンビルロール本体の構成材料は、特に限定されるものではないが、通常、金属である。アンビルロール本体の構成材料としては、例えば、日本工業規格JIS G 4403:2015に規定される冷間金型用の合金工具鋼鋼材(材料記号:SKD)及び高速度工具鋼(材料記号:SKH)や日立金属株式会社製の高速度工具鋼(材料記号:HAP)等の金属などが挙げられる。
【0039】
アンビルロールのアンビルロール弾性層は、アンビルロール本体の外周面に設けられたものであれば特に限定されないが、例えば、接着、溶着、若しくは機械的接合、又はこれらの組み合わせにより、アンビルロール本体の外周面に固定されて設けられたものである。アンビルロール弾性層の種類は、特に限定されないが、例えば、ウレタン、ゴム、PET等の非発泡樹脂からなる非発泡樹脂シートなどが挙げられる。また、ロータリーダイカッターから独立した弾性体シートの種類も、アンビルロール弾性層の種類と同様である。
【0040】
ダイロールのダイロール本体は、回転軸を中心に回転可能に設けられた円柱状の部材であって、切刃が外周面に突設された部材である。ダイロール本体の回転軸は、特に限定されないが、通常、アンビルロール本体の回転軸と平行である。ダイロール本体の外周面は、特に限定されるものではなく、通常、円筒面であり、例えば、凹凸のない平滑な円筒面でもよい。ダイロール本体の構成材料については、アンビルロール本体の構成材料と同様であるため、ここでの説明は省略する。ダイロール本体の切刃は、薄帯片の周縁に対応する形状を有する。ここで、「薄帯片の周縁に対応する形状を有する」とは、ダイロール本体の外周面を平面に展開した場合の切刃の刃先の形状が薄帯片の周縁と同一であることを指す。なお、切刃は、ダイロール本体の一部でもよいし、ダイロール本体とは別の金属等の硬質材料からなる部材でもよい。
【0041】
ダイロールのダイロール弾性層は、ダイロール本体の外周面の切刃の両側に設けられたものであれば特に限定されないが、例えば、接着、溶着、若しくは機械的接合、又はこれらの組み合わせにより、ダイロール本体の外周面に固定されて設けられたものである。ダイロール弾性層の種類は、特に限定されないが、例えば、ウレタン、エチレン酢酸ビニル(EVA)等の発泡樹脂からなるフォームシートやスポンジシートなどが挙げられる。
【0042】
ロータリーダイカッターでは、ロール本体間の最短距離(アンビルロール本体の外周面とダイロール本体の外周面との間の最短距離)dは、特に限定されないが、通常、第1及び第2実施形態のように、ダイロールの切刃の高さhより長い。ロール本体間の最短距離dは、特に限定されないが、通常、第1及び第2実施形態のように、切刃の高さh及びアンビル側弾性層の厚さt1,t3の和より短い。ダイロール弾性層の厚さt2は、特に限定されないが、第1及び第2実施形態のように、ダイロールの切刃の高さhより長いことが好ましい。
【0043】
なお、「ロール本体間の最短距離d」とは、アンビルロール本体の回転軸とダイロール本体の回転軸とに直交する直線におけるアンビルロール本体の外周面とダイロール本体の外周面との間の距離を指す。「ダイロールの切刃の高さh」とは、ダイロール本体の径方向における切刃のダイロール本体の外周面側の基端から刃先までの寸法を指す。「アンビル側弾性層の厚さt1,t3」とは、アンビルロール本体の径方向におけるアンビル側弾性層の弾性変形していない状態での寸法を指す。「ダイロール弾性層の厚さt2」とは、ダイロール本体の径方向におけるダイロール弾性層の弾性変形していない状態での寸法を指す。
【0044】
アンビル側弾性層の硬さは、特に限定されないが、ダイロール弾性層の硬さより硬いことが好ましく、中でも、ダイロール弾性層の硬さの3倍以上が好ましい。硬いアンビル側弾性層により薄帯材を支持することで薄帯材の変形やずれを抑制できるとともに、軟らかいダイロール弾性層により薄帯材に十分な弾性力を付与できるからである。ここで、アンビル側弾性層及びダイロール弾性層の硬さは、例えば、日本工業規格JIS K 6253-3:2012又はJIS K 7312:1996に規定される方法で測定されるものをいう。すなわち、アンビル側弾性層及びダイロール弾性層の硬さは、例えば、タイプAのデュロメータ硬さ(ショアA)である。
【0045】
2.打ち抜き工程
打ち抜き工程においては、上記ロータリーダイカッターを用い、上記アンビルロール本体の外周面に配置されたアンビル側弾性層の上記ダイロール側の表面に載せた上記薄帯材を上記アンビルロール及び上記ダイロールの間に通過させる際に上記薄帯材を所望の切断位置で切断することで、上記薄帯材から上記薄帯片を打ち抜く。
【0046】
上記アンビルロールが、上記アンビルロール本体の外周面に設けられた上記アンビルロール弾性層をさらに含み、上記アンビル側弾性層が、上記アンビルロール弾性層である場合、上記打ち抜き工程では、上記アンビルロール弾性層の上記ダイロール側の外周面に載せた上記薄帯材を上記アンビルロール弾性層及び上記ダイロール弾性層の間に挟みながら上記アンビルロール及び上記ダイロールを互いに逆方向に回転させることで、上記薄帯材を上記アンビルロール弾性層及び上記ダイロール弾性層の間に通過させる。
【0047】
上記アンビル側弾性層が、上記ロータリーダイカッターから独立した弾性体シートである場合、上記打ち抜き工程では、上記弾性体シート及び上記弾性体シートの上記ダイロール側の表面に載せた上記薄帯材を上記アンビルロール本体及び上記ダイロール弾性層の間に挟みながら上記アンビルロール及び上記ダイロールを互いに逆方向に回転させることで、上記弾性体シート及び上記薄帯材を上記アンビルロール本体及び上記ダイロール弾性層の間に通過させる。
【0048】
上記打ち抜き工程では、上記ダイロールの上記切刃を上記薄帯材の上記切断位置に押し込む時に上記アンビル側弾性層の弾性力を上記薄帯材の上記切断位置の両側に作用させることで上記薄帯材の上記切断位置に曲げによる引張応力を印加した後、上記ダイロールの上記切刃を上記薄帯材の上記切断位置から引き離す時に上記アンビル側弾性層の弾性力を上記薄帯材の上記切断位置に作用させながら、上記ダイロール弾性層の弾性力を上記薄帯材の上記切断位置の両側に作用させることで上記薄帯材の上記切断位置に曲げ戻しによる引張応力を印加することにより、上記薄帯材を上記切断位置で切断する。
【0049】
なお、打ち抜き工程において、薄帯材をアンビルロール及びダイロールの間に通過させる際には、図4(a)に示すように、ダイロールの切刃を薄帯材の切断位置に押し込む前の段階から、アンビルロール弾性層等のアンビル側弾性層の弾性力及びダイロール弾性層の弾性力が薄帯材に作用してもよい。また、図4(b)に示すようにダイロールの切刃を薄帯材の切断位置に押し込む時に、アンビル側弾性層の弾性力が薄帯材の切断位置に作用してもよいし、ダイロール弾性層の弾性力が薄帯材の切断位置の両側に作用してもよい。さらに、図4(c)に示すようにダイロールの切刃を薄帯材の切断位置から引き離す時に、アンビル側弾性層の弾性力が薄帯材の切断位置の両側に作用してもよい。各タイミングで薄帯材の各部位に作用する各弾性層のこれらの弾性力も曲げによる引張応力及び曲げ戻しによる引張応力の大きさ等に影響する。
【0050】
曲げによる引張応力の大きさとしては、薄帯材を切断位置で切断可能であれば特に限定されず、薄帯材の種類や厚さ等に応じ異なるが、例えば、薄帯材がアモルファス合金薄帯である場合には、例えば、2500MPa以上の範囲内が好ましい。薄帯材を確実に切断し、薄帯材から薄帯片を確実に打ち抜くことができるからである。曲げ戻しによる引張応力の大きさとしては、薄帯材を切断位置で切断可能であれば特に限定されず、薄帯材の種類や厚さ等に応じ異なるが、薄帯材がアモルファス合金薄帯である場合には、例えば、2500MPa以上の範囲内が好ましい。薄帯材を確実に切断し、薄帯材から薄帯片を確実に打ち抜くことができるからである。なお、「曲げによる引張応力の大きさ」とは、薄帯材の切断位置に印加される曲げによる引張応力のうちの最大の引張応力の大きさを指す。「曲げ戻しによる引張応力の大きさ」とは、薄帯材の切断位置に印加される曲げ戻しによる引張応力のうちの最大の引張応力の大きさを指す。
【0051】
曲げによる引張応力の大きさを調整する方法としては、特に限定されないが、例えば、図4(b)に示す薄帯材の切断位置の曲げ角度180°-αを制御することで曲げによる引張応力の大きさを調整する方法などが挙げられる。ここで、「曲げ角度180°-α」とは、薄帯材の切断位置の曲げが最大となる時に薄帯材における切断位置を挟んで隣り合う部位同士のなす角度のうちダイロール側の角度αを180°から差し引いた角度を指す。当該方法では、曲げ角度180°-αをより大きくすることで曲げによる引張応力の大きさをより大きくすることができ、曲げ角度180°-αをより小さくすることで曲げによる引張応力の大きさをより小さくすることができる。
【0052】
曲げ角度180°-αを制御するために設定可能な条件としては、特に限定されないが、ダイロールの切刃の刃先の角度θ、ロール本体間の最短距離d、ダイロールの切刃の高さh、並びにアンビル側弾性層の厚さt1,t3、硬さ、及びヤング率等が挙げられる。
【0053】
切刃の刃先の角度θを設定する場合には、薄帯材は切刃の刃先の角度θに沿って曲がるので、切刃の刃先の角度θをより小さくすることで曲げ角度180°-αをより大きくすることができ、切刃の刃先の角度θをより大きくすることで曲げ角度180°-αをより小さくすることができる。また、ロール本体間の最短距離d、ダイロールの切刃の高さh、並びにアンビル側弾性層の厚さt1,t3を設定する場合には、ロール本体間の最短距離dを切刃の高さh及びアンビル側弾性層の厚さt1,t3の和より短くする場合において、ロール本体間の最短距離dと、切刃の高さh及びアンビル側弾性層の厚さt1,t3の和との差をより大きくすることにより、アンビル側弾性層の弾性力を増大させることで曲げ角度180°-αを大きくすることができる。さらに、アンビル側弾性層の硬さ又はヤング率を設定する場合には、当該硬さ又は当該ヤング率をより大きくすることにより、アンビル側弾性層の弾性力を増大させることができる。
【0054】
曲げ戻しによる引張応力の大きさを調整する方法としては、特に限定されないが、例えば、図4(c)に示す薄帯材の切断位置の曲げ戻し角度β-αを制御することで曲げ戻しによる引張応力の大きさを調整する方法などが挙げられる。ここで、「曲げ戻し角度β-α」とは、薄帯材の切断位置の曲げ戻しが最大となる時に薄帯材における切断位置を挟んで隣り合う部位同士のなす角度のうちダイロール側の角度βから角度αを差し引いた角度を指す。当該方法では、曲げ戻し角度β-αをより大きくすることで曲げ戻しによる引張応力の大きさをより大きくすることができ、曲げ戻し角度β-αをより小さくすることで曲げ戻しによる引張応力の大きさをより小さくすることができる。
【0055】
曲げ戻し角度β-αを制御するために設定可能な条件としては、特に限定されないが、例えば、ロール本体間の最短距離d、ダイロールの切刃の高さh、アンビル側弾性層の厚さt1,t3、硬さ、及びヤング率、並びにダイロール弾性層の厚さt2、硬さ、及びヤング率等が挙げられる。
【0056】
ロール本体間の最短距離d、ダイロールの切刃の高さh、並びにアンビル側弾性層の厚さt1,t3を設定する場合には、ロール本体間の最短距離dを切刃の高さh及びアンビル側弾性層の厚さt1,t3の和より短くする場合において、ロール本体間の最短距離dと、切刃の高さh及びアンビル側弾性層の厚さt1,t3の和との差をより大きくすることにより、アンビル側弾性層の弾性力を増大させることで曲げ戻し角度β-αを大きくすることができる。さらに、アンビル側弾性層の硬さ又はヤング率を設定する場合には、当該硬さ又は当該ヤング率をより大きくすることにより、アンビル側弾性層の弾性力を増大させることができる。また、ダイロール弾性層の厚さt2を設定する場合には、ダイロール弾性層の厚さt2をより大きくすることにより、ダイロール弾性層の弾性力を増大させることで曲げ戻し角度β-αを大きくすることができる。さらに、ダイロール弾性層の硬さ又はヤング率を設定する場合には、当該硬さ又は当該ヤング率をより大きくすることにより、ダイロール弾性層の弾性力を増大させることができる。
【0057】
3.薄帯片の製造方法
薄帯片の製造方法は、上記ロータリーダイカッターを用い、薄帯材から薄帯片を打ち抜くことで薄帯片を製造する方法であって、上記打ち抜き工程を備える。
【0058】
薄帯材は、薄帯片の打ち抜きが可能であれば特に限定されないが、ビッカース硬さが300HV以上900HV以下の範囲内であるものが好ましく、中でもアモルファス合金薄帯等が好ましい。ロータリーダイカッターの損傷をより効果的に抑制できるからである。なお、「ビッカース硬さ」とは、例えば、JIS Z2244(2009)によるビッカース硬さ試験において、試験力0.01kgf、かつ荷重保持時間10秒である場合の薄帯材のビッカース硬さを指す。
【0059】
薄帯材の厚さは、薄帯片の打ち抜きが可能であれば特に限定されず、薄帯材の種類によって異なるが、例えば、アモルファス合金薄帯である場合には、例えば、0.025mm以上0.030mm以下の範囲内である。
【0060】
薄帯片は、特に限定されないが、例えば、車載用等のモータにおけるステータコアやロータコア等を積層コアの各層をなす薄帯片、当該薄帯片がさらに周方向で分割された薄帯片等が挙げられる。
【実施例0061】
以下、実施例及び試験例を挙げて、実施形態に係る薄帯片の製造方法をさらに具体的に説明する。
【0062】
[実施例]
最初に、第1実施形態に係る薄帯片の製造方法をCAE(Computer Aided Engineering)シミュレーションで実施した。具体的には、まず、ロータリーダイカッターの計算モデルを、下記の構成をモデル化することで作製した。また、薄帯材の計算モデルを、実製品のアモルファス合金薄帯(厚さ:所定値)をモデル化することで作製した。
【0063】
(ロータリーダイカッターの構成)
アンビルロール本体の外径:所定値
アンビルロール弾性層の厚さt1:所定値
アンビルロール弾性層の硬さ(ショアA):所定値
アンビルロール弾性層のヤング率:所定値
ダイロール本体の外径:所定値
ダイロール弾性層の厚さt2:所定値
ダイロール弾性層の硬さ(ショアA):所定値
ダイロール弾性層のヤング率:所定値
ダイロールの切刃の高さh:所定値
ダイロールの切刃の刃先の角度θ:所定値
ロール本体間の最短距離d:所定値
【0064】
次に、所定のCAEソフトウェアを使用し、ロータリーダイカッター及び薄帯材の計算モデルを用い、所定の打ち抜き条件で、薄帯材から薄帯片を打ち抜く過程を解析した(打ち抜き工程)。
【0065】
図4(a)~図4(c)において、実施例のCAEシミュレーションによる解析で得られた薄帯材の切断位置付近の切断過程の各段階での応力分布を示す。図4(a)~図4(c)に示すように、薄帯材の切断位置付近の切断過程の解析結果では、ダイロールの切刃が薄帯材の切断位置に押し込まれる際に薄帯材の切断位置のアンビルロール側に曲げによる引張応力が印加された後、ダイロールの切刃が薄帯材の切断位置から引き離される際に薄帯材の切断位置のダイロール側に曲げ戻しによる引張応力が印加された。また、解析結果では、曲げによる引張応力の大きさは、アンビルロール側の表面で2500MPa以上となり、曲げ戻しによる引張応力の大きさは、ダイロール側の表面で2500MPa以上となった。
【0066】
続いて、第1実施形態に係る薄帯片の製造方法を、実機において、CAEシミュレーションと同一の条件で実施した。具体的には、まず、実機のロータリーダイカッターを準備した。実機のロータリーダイカッターの構成は、ロータリーダイカッターの計算モデルでモデル化された構成と同一とした。また、薄帯材として、薄帯材の計算モデルでモデル化されたものと同一の実製品のアモルファス合金薄帯を準備した。
【0067】
次に、実機のロータリーダイカッターを用い、CAEシミュレーションと同一の打ち抜き条件で、実製品のアモルファス合金薄帯から薄帯片を打ち抜く試験を行った(打ち抜き工程)。この結果、薄帯材から薄帯片を打ち抜くことができ、薄帯片を製造できた。
【0068】
図7(a)~図7(d)は、第1実施形態に係る薄帯片の製造方法を実機で実施した際に観察された薄帯材の切断位置付近の切断過程の各段階を示す断面画像である。なお、これらの断面画像は、所定の撮影方法を使用し、撮影されたものである。図7(a)~図7(d)に示すように、実施例で薄帯片の製造方法を実機において実施した場合には、ダイロールの切刃(図示せず)が薄帯材の切断位置に押し込まれる時に薄帯材が切断位置で曲がり、ダイロールの切刃が薄帯材の切断位置から引き離される時に薄帯材の切断位置で曲げが元に戻った。そして、薄帯材が切断位置で曲がった段階では、薄帯材が切断位置で切断されず、薄帯材の切断位置で曲げが元に戻った際に、薄帯材のダイロール側から亀裂が入り、薄帯材が切断位置で切断された。
【0069】
以上の実施結果を考察すると、第1実施形態に係る薄帯片の製造方法を実機で実施した場合には、薄帯材の切断位置に対して曲げによる引張応力及び曲げ戻しによる引張応力が連続して印加され、薄帯材の曲げが元に戻った際に薄帯材が切断位置で切断されたと考えられる。そして、このような薄帯材の切断位置での切断が連続的に起こることで、薄帯材から薄帯片を打ち抜くことができたと考えられる。さらに、以上の実施結果から、薄帯材が上記の実製品のアモルファス合金薄帯である場合には、曲げによる引張応力の大きさが2500MPa以上であり、かつ曲げ戻しによる引張応力の大きさが2500MPa以上であれば、薄帯材を切断位置で確実に切断でき、薄帯材から薄帯片を確実に打ち抜くことができると考えられる。
【0070】
[試験例1-1]
ロータリーダイカッターとして、ダイロール本体の外周面に突設された切刃の形状が図2に示す薄帯片Mとは異なる薄帯片の周縁に対応するものを用い、薄帯材として、ポリプロピレン層、アルミニウム層、及びポリプロピレン層をこの順に積層した積層材(厚さ:0.12mm)を使用した点を除いて、実施形態1と同様に薄帯片の製造方法を実施した。その際には、ロータリーダイカッターの条件を下記表1のように設定した。
【0071】
[試験例1-2及び試験例1-3]
ロータリーダイカッターの条件を下記表1のように設定した点を除いて、試験例1-1と同様に薄帯片の製造方法を実施した。
【0072】
[試験例2-1~試験例2-3]
薄帯材として、アルミニウム層からなる薄帯材(厚さ:0.30mm)を使用した点、及びロータリーダイカッターの条件を下記表1のように設定した点を除いて、試験例1-1と同様に薄帯片の製造方法を実施した。
【0073】
[試験例3-1~試験例3-3]
薄帯材として、アルミニウム層からなる薄帯材(厚さ:0.015mm)を使用した点、及びロータリーダイカッターの条件を下記表1のように設定した点を除いて、試験例1-1と同様に薄帯片の製造方法を実施した。
【0074】
[試験例4-1~試験例4-3]
薄帯材として、鉛層からなる薄帯材(厚さ:0.10mm)を使用した点、及びロータリーダイカッターの条件を下記表1のように設定した点を除いて、試験例1-1と同様に薄帯片の製造方法を実施した。
【0075】
[試験例5-1~試験例5-3]
薄帯材として、鉛層からなる薄帯材(厚さ:0.05mm)を使用した点、及びロータリーダイカッターの条件を下記表1のように設定した点を除いて、試験例1-1と同様に薄帯片の製造方法を実施した。
【0076】
[試験例6-1及び試験例6-2]
ロータリーダイカッターの条件を下記表1のように設定した点を除いて、試験例1-1と同様に薄帯片の製造方法を実施した。
【0077】
[試験例7-1及び試験例7-2]
ロータリーダイカッターの条件を下記表1のように設定した点を除いて、試験例1-1と同様に薄帯片の製造方法を実施した。
【0078】
[試験例8-1及び試験例8-2]
ロータリーダイカッターの条件を下記表1のように設定した点を除いて、試験例1-1と同様に薄帯片の製造方法を実施した。
【0079】
[試験例9-1及び試験例9-2]
ロータリーダイカッターの条件を下記表1のように設定した点を除いて、試験例1-1と同様に薄帯片の製造方法を実施した。
【0080】
[試験例10-1及び試験例10-2]
ロータリーダイカッターの条件を下記の表1のように設定した点を除いて、試験例1-1と同様に薄帯片の製造方法を実施した。
【0081】
[結果]
各試験例の薄帯片の製造方法での薄帯片の打ち抜きの結果について、各試験例の薄帯片の製造方法で使用した薄帯材の種類とともに下記の表1に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
上記の表1に示すように、ダイロールの切刃の刃先の角度θ、アンビルロール弾性層の
硬さ、並びにダイロール弾性層の厚さ及びヤング率の設定を変更することにより、薄帯片の打ち抜きの結果が変わっている。このことから、これらの条件の設定を変更することにより、曲げによる引張応力の大きさ及び曲げ戻しによる引張応力の大きさが調整され、薄帯材の切断の可否が変わっていると考えられる。
【0084】
以上、本発明に係る実施形態について詳述したが、本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【符号の説明】
【0085】
30 ロータリーダイカッター
32 アンビルロール
32A アンビルロール本体
32As 外周面
32B アンビルロール弾性層
32Bs 外周面
34 ダイロール
34A ダイロール本体
34Ac 切刃
34As 外周面
34B ダイロール弾性層
34Bs 外周面
W 薄帯材
Wp 切断位置
M 薄帯片
80 ロータリーダイカッター
82 アンビルロール
84 ダイロール
L 材料シート
E 弾性体シート
Es ダイロール側の表面
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6
図7