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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023037462
(43)【公開日】2023-03-15
(54)【発明の名称】軒樋吊り具
(51)【国際特許分類】
   E04D 13/072 20060101AFI20230308BHJP
【FI】
E04D13/072 501T
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021144235
(22)【出願日】2021-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】593178409
【氏名又は名称】株式会社オーティス
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】北村 昌司
(57)【要約】
【課題】高さ調整の作業時間を短縮しうる軒樋吊り具を提供する。
【解決手段】上部が屋根板8の開口部8aに挿通され、前記開口部の上下方向に配された一対の第1のナット5A,5Bによって固定される吊りボルト2と、孔部31に挿通された前記吊りボルトに対して前記孔部の上下方向に配された一対の第2のナット5C,5Dによって固定され、軒樋7を吊り下げ支持する樋支持具本体3とを備えた軒樋吊り具1において、前記吊りボルトは、上下に分離して形成されたネジ部21A,21Bと、該ネジ部間に位置する回転操作部23とを有し、前記ネジ部の一方は逆ネジであり、前記一対の第2のナットの少なくとも一方は、前記樋支持具本体に対して回転禁止状態で配される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部が屋根板の開口部に挿通され、前記開口部の上下方向に配された一対の第1のナットによって固定される吊りボルトと、孔部に挿通された前記吊りボルトに対して前記孔部の上下方向に配された一対の第2のナットによって固定され、軒樋を吊り下げ支持する樋支持具本体とを備えた軒樋吊り具において、
前記吊りボルトは、上下に分離して形成されたネジ部と、該ネジ部間に位置する回転操作部とを有し、
前記ネジ部の一方は逆ネジであり、
前記一対の第2のナットの少なくとも一方は、前記樋支持具本体に対して回転禁止状態で配されることを特徴とする軒樋吊り具。
【請求項2】
請求項1において、
前記一対の第1のナットの少なくとも一方は、前記屋根板に対して回転禁止状態で配されることを特徴とする軒樋吊り具。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記回転操作部には、前記吊りボルトを回転操作させるための回転操作棒が挿通される貫通孔が設けられていることを特徴とする軒樋吊り具。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項において、
前記回転操作部は、前記ネジ部間を変形させて設けられていることを特徴とする軒樋吊り具。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項において、
前記回転操作部は、前記ネジ部間に別体の把持部材が固定されて設けられていることを特徴とする軒樋吊り具。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項において、
前記孔部は長孔であり、
前記一対の第2のナットの少なくとも一方は、前記孔部の短手方向に沿って挿通される挿通部と、該挿通部と一体に構成され、前記第2のナットの外周面に当接して前記第2のナットを抱持するナット抱持部とを有する回転禁止部材によって、前記樋支持具本体に対して回転禁止状態で配されていることを特徴とする軒樋吊り具。
【請求項7】
請求項2乃至請求項6のいずれか一項において、
前記開口部は角孔であり、
前記一対の第1のナットの少なくとも一方は、前記開口部の縁部の少なくとも一部に沿って挿通される挿通部を有する回転禁止部材と一体に構成されていることを特徴とする軒樋吊り具。
【請求項8】
請求項2乃至請求項6のいずれか一項において、
前記開口部は角孔であり、
前記一対の第1のナットの少なくとも一方は、前記開口部の縁部の少なくとも一部に沿って挿通される挿通部と、該挿通部と一体に構成され、前記第1のナットの外周面に当接して前記第1のナットを抱持するナット抱持部とを有する回転禁止部材によって、前記屋根板に対して回転禁止状態で配されていることを特徴とする軒樋吊り具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上部が屋根板に取り付けられる丸棒状の吊りボルトと、該吊りボルトに孔部を介して固定され、軒樋を吊り下げ支持する樋支持具本体とを備えた軒樋吊り具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、吊りボルトに固定された樋支持具本体によって軒樋を吊り支持する軒樋吊り具が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような軒樋吊り具は、吊りボルトに挿通させた2組のナットによって屋根板に固定される。
【0003】
具体的には、吊りボルトは、その上部に挿通された2つのナットによって屋根板の上下面を挟み込むことで屋根板に固定され、樋支持具本体は、吊りボルトの下部に挿通されたナットとナットの間に挟み込まれることで吊りボルトに固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-10319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、1つの軒樋吊り具の設置には上述したように上下2箇所でのナットによる締結作業が必要であり、かつその作業は高所での作業でもあるため時間と手間を要する。しかも軒樋吊り具は複数箇所に設置されるものであるから、軒樋に水勾配が設けられるように複数の軒樋吊り具の高さ調整には多大な時間を要していた。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高さ調整の作業時間を短縮しうる軒樋吊り具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の軒樋吊り具は、上部が屋根板の開口部に挿通され、前記開口部の上下方向に配された一対の第1のナットによって固定される吊りボルトと、孔部に挿通された前記吊りボルトに対して前記孔部の上下方向に配された一対の第2のナットによって固定され、軒樋を吊り下げ支持する樋支持具本体とを備えた軒樋吊り具において、前記吊りボルトは、上下に分離して形成されたネジ部と、該ネジ部間に位置する回転操作部とを有し、前記ネジ部の一方は逆ネジであり、前記一対の第2のナットの少なくとも一方は、前記樋支持具本体に対して回転禁止状態で配されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の軒樋吊り具は、上述の構成とされるため、屋根板に対する軒樋吊り具の高さ調整の作業時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(a)は本実施形態に係る軒樋吊り具の模式的側面図、(b)は(a)のA-A’線矢視断面図である。
図2】(a)は回転禁止部材の模式的斜視図、(b)は図1(a)のB矢視における模式的斜視図である。
図3】軒樋吊り具を屋根板に固定する方法を説明するための説明図である。
図4】(a)~(c)は、回転操作棒による吊りボルトの回転操作の説明図である。
図5】吊りボルトの回転操作による軒樋吊り具の固定作業の説明図である。
図6】吊りボルトの回転操作による樋支持具本体の高さ調整の説明図である。
図7】(a)は回転禁止部材として機能する山座金を装着した状態における図1(a)のC部に対応する模式的縦断面図、(b)は山座金の模式的底面図、(c)は変形例に係る山座金を装着した状態における模式的側面図、(d)は(c)の模式的縦断面図である。
図8】(a)は上側の第1のナットの共回りを防止するカバー部材の模式的斜視図、(b)はカバー部材を屋根板に装着した状態を示す模式的縦断面図である。
図9】(a)は回転操作部の変形例を示す模式的側面図、(b)は(a)のD-D’線矢視拡大断面図、(c)は回転操作部の変形例を示す模式的側面図、(d)は(c)のE-E’線矢視拡大断面図、(e)は回転操作部の変形例を示す模式的側面図、(f)は(e)のF-F’線矢視拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1図6に示す軒樋吊り具1は、上部が屋根板8の開口部8aに挿通され、開口部8aの上下方向に配された一対の第1のナット5A,5Bによって固定される吊りボルト2を備える。また、軒樋吊り具1は、孔部31に挿通された吊りボルト2に対して孔部31の上下方向に配された一対の第2のナット5C,5Dによって固定され、軒樋7を吊り下げ支持する樋支持具本体3を備える。吊りボルト2は、上下に分離して形成されたネジ部21A,21Bと、ネジ部21A,21B間に位置する回転操作部23とを有する。ネジ部21A,21Bの一方は逆ネジであり、一対の第2のナット5C,5Dのうちの少なくとも一方は、樋支持具本体3に対して回転禁止状態で配される。
以下、詳しく説明する。なお、軒樋吊り具1が屋根板8に固定されている状態を基準にして、上下方向を規定する。また、本実施形態における第1のナット5A,5B及び第2のナット5C,5Dは平面視して六角形の外周面を有する六角ナットである。
【0011】
図1(a)は、屋根板8に固定されている状態の軒樋吊り具1の模式的側面図である。図1(a)等に示す吊りボルト2は、ステンレス等の金属材からなる、上下方向に延びる略丸棒状の部材である。吊りボルト2は、上下方向に分離して設けられた雄ネジであるネジ部21A,21Bを有している。本実施形態では、上側のネジ部21Aと下側のネジ部21Bとは、ネジ山のピッチが同じになるように形成された雄ネジである。吊りボルト2の上端部に設けられた上側のネジ部21Aは、屋根板8の開口部8aに挿通された状態で、第1のナット5A,5Bが屋根板8を挟持するように締結される。この締結により、吊りボルト2が屋根板8に固定される。吊りボルト2の下端部に設けられた下側のネジ部21Bは、樋支持具本体3の孔部31に挿通された状態で、第2のナット5C,5Dが樋支持具本体3の孔部31が設けられている本体部30を挟持するように締結される。この締結により、樋支持具本体3が吊りボルト2に固定される。
【0012】
また、下側のネジ部21Bは、上側のネジ部21Aとは異なり、逆ネジ(左ネジ)として構成されている。下側のネジ部21Bは、進行方向に対して右回し(時計回り)で螺進(進行)、左回し(反時計回り)で螺退(後退)する上側のネジ部21Aのような通常のネジとは異なり、右回しで螺退、左回しで螺進する。上側のネジ部21Aと下側のネジ部21Bとの間には、雄ネジが形成されていない部位22が設けられており、当該部位22に回転操作部23が設けられている。
【0013】
吊りボルト2は、ネジ部21A,21B間の部位22を変形させて設けられた回転操作部23を有する。本実施形態における回転操作部23は、吊りボルト2の上下方向の略中央部分の厚みがネジ部21A,21Bよりも小さくなるように扁平状に変形して形成されている(図1(a)及び図1(a)のA-A’線矢視断面図である図1(b)参照)。この回転操作部23の略中央部には、回転操作部23の厚さ方向に貫通する貫通孔23aが設けられている。この貫通孔23aは、角孔であり、後述する回転操作棒9が挿通される。
【0014】
吊りボルト2の下側のネジ部21Bに固定される樋支持具本体3は、ステンレス等の金属材からなる長尺状の部材であり、その長手方向(図1(a)の紙面上における左右方向)の両端部に軒樋7の前耳7a、後耳7bを保持する耳保持部32,32が形成されている。また、耳保持部32,32の間にある本体部30には、樋支持具本体3の長手方向に沿って延びる長孔状の孔部31が形成されている。
【0015】
第2のナット5C,5Dは、逆ネジである下側のネジ部21Bに対して螺合可能となる雌ネジ溝が形成されている。また、第2のナット5C,5Dのうち、孔部31(樋支持具本体3)の下方に配される第2のナット5Dは、回転禁止部材4によって、樋支持具本体3に対して回転禁止状態で配されている。図2(a)に示す回転禁止部材4は、ステンレス等の金属板からなり、吊りボルト2が挿通される貫通孔41が設けられた長方形状の基板部40を有する。基板部40の短手方向の両端面の略中央部には、樋支持具本体3の孔部31の短手方向(幅方向)に沿って挿通される挿通部42,42が形成されている。挿通部42は、基板部40から略直角に折曲形成され、挿通部42の長手方向の寸法は、樋支持具本体3の孔部31の短手寸法と略同一であり、その上下寸法は、樋支持具本体3の孔部31の上下(厚さ)寸法と略同一である。
【0016】
回転禁止部材4の基板部40の長手方向の両端部40a,40aには、下側の第2のナット5Dを抱持するナット抱持部43,43が形成されている。ナット抱持部43は、基板部40の長手方向の端部40aから略直角に折曲形成されて第2のナット5Dの外周面に当接する側板部43aと、側板部43aから貫通孔41側に略直角に折曲形成されて第2のナット5Dの下面に当接する下板部43bとを備える。図2(b)に示すように、側板部43a,43a間は、第2のナット5Dの径(第2のナット5Dの外周面の対向面間)と略同程度の間隔が設けられ、基板部40及び下板部43b間は、第2のナット5Dの高さと略同程度の間隔が設けられている。
【0017】
次に、上述のようにして構成された軒樋吊り具1を屋根板8に固定する方法の一例について、図3図6を参照しながら説明する。なお、固定する方法は以下の手順や方法に限定されることはない。
図3に示すように、吊りボルト2の上側のネジ部21Aの所望の位置に下側の第1のナット5Bを固定させる。そして、逆ネジである下側のネジ部21Bに、上から第2のナット5C、樋支持具本体3、回転禁止部材4、第2のナット5Dの順番で固定させる。このとき、回転禁止部材4の挿通部42が樋支持具本体3の孔部31の短手方向に沿うように配する。そして、ネジ部21Bに樋支持具本体3が固定された吊りボルト2の上側のネジ部21Aを屋根板8の開口部8aに挿通させる。吊りボルト2が所定の位置に達したら、吊りボルト2の上側のネジ部21Aの開口部8aの上方に露出した部分に、下からパッキン6B、山座金6A、第1のナット5Aの順番に挿通させて、吊りボルト2を屋根板8に固定する。なお、第1のナット5A、山座金6A、パッキン6Bは、一体に構成されているものでもよい。その場合、第1のナット5Aは、山座金6Aに対して回転可能な状態で構成されてもよく、山座金6Aに対して回転できない固定された状態で構成されてもよい。上述のようにして、吊りボルト2及び樋支持具本体3を備える軒樋吊り具1が、屋根板8に固定される。
【0018】
次に、軒樋吊り具1が屋根板8に固定された後、樋支持具本体3が吊り下げ支持する軒樋7の水勾配のために、軒樋吊り具1の高さ調整を行う方法の一例について説明する。以下では、樋支持具本体3を上側に移動させる場合を説明する。まず、上側の第1のナット5Aが吊りボルト2の回転に伴う第1のナット5Aの共回りを抑制するために、不図示のクランプ等の工具によって上側の第1のナット5Aの回転が固定される。共回りとは、ナットがボルトとともに回転することをいう。
【0019】
図4(a)(b)に示すように回転操作部23の貫通孔23aに挿通させた回転操作棒9を、吊りボルト2の軸方向に沿って図4(c)の二点鎖線矢印方向に回転させる。このとき、樋支持具本体3が吊りボルト2の回転に伴い回転しないように手で押さえながら吊りボルト2を回転させる。第1のナット5Aは不図示の工具によって、第2のナット5Dは回転禁止部材4によって、それぞれ吊りボルト2の回転に伴う共回りが抑制されているので、図5に示すように吊りボルト2は屋根板8に対して上方向に螺進して距離a移動する。
【0020】
また、手で回転が止められている樋支持具本体3は、吊りボルト2の回転に伴い、下側のネジ部21Bに対して上方向に距離a移動する。下側のネジ部21Bは逆ネジに構成されているので、上側のネジ部21Aが螺進して吊りボルト2が上方に移動するときは、樋支持具本体3は下側のネジ部21Bに対して上側に移動する。
【0021】
上側のネジ部21Aと下側のネジ部21Bとは、ネジ山のピッチが同じであるため、上述のようにして吊りボルト2が螺進によって屋根板8に対して距離a上側に移動するとき、樋支持具本体3は下側のネジ部21Bに対して同様に距離a上側に移動する。つまり、樋支持具本体3は、図6に示すように吊りボルト2の移動する距離aと下側のネジ部21Bに対して移動する距離aとを合わせた距離2a分だけ上側に移動する。そのため、吊りボルト2の上下方向の移動量よりも樋支持具本体3の上下方向の移動量の方が大きいので、吊りボルト2のわずかな回転量によって屋根板8と樋支持具本体3との間隔が調整でき、作業時間を短縮することが可能となる。
【0022】
なお、本実施形態では、回転操作部23の貫通孔23aに回転操作棒9を挿通させて吊りボルト2を回転させているが、回転操作棒9を用いずに、回転操作部23を手でつかんで吊りボルト2を回転させてもよい。また、本実施形態では、下側の第1のナット5B及び上側の第2のナット5Cは回転禁止状態で配されていないので、吊りボルト2の回転に伴い共回りする。そのため、吊りボルト2の上側への移動に伴い、下側の第1のナット5Bは屋根板8に接触する。また、上方向に移動する吊りボルト2は、ネジ部21Bの下方向への螺進に伴い、樋支持具本体3に対して下側へ相対移動するため、上側の第2のナット5Cは樋支持具本体3に接触する。そして、その接触に伴う摩擦力によって、下側の第1のナット5B及び上側の第2のナット5Cは固定されて共回りが抑制され、回転禁止状態となる。
【0023】
なお、材質等の関係で、屋根板8、樋支持具本体3との間に第1のナット5B及び第2のナット5Cの共回りを抑制するほどの摩擦力が発生せず、第1のナット5B及び第2のナット5Cによって吊りボルト2を上方向に移動させることが困難になる場合がある。その場合は、一度第1のナット5B及び第2のナット5Cを回転させて緩めた後に吊りボルト2を再び回転させればよい。また、第1のナット5Bと屋根板8との間、第2のナット5Cと樋支持具本体3との間に、摩擦力を増大させるワッシャや、付勢力によって押圧して第1のナット5Bや第2のナット5Cの共回りを止める板バネ等の金具等が介在する構成であってもよい。
【0024】
また、高さ調整を行う前にあらかじめ下側の第1のナット5B及び上側の第2のナット5Cが、それぞれ屋根板8及び樋支持具本体3に対して所定の間隔を設けた状態にしてから高さ調整を行ってもよい。また、下側の第1のナット5B及び上側の第2のナット5Cは、第1のナット5A及び第2のナット5Dと同様に、高さ調整を行う前に不図示の工具等によってそれぞれ回転禁止状態で配されてもよい。そのようにすれば、吊りボルト2の回転に伴い下側の第1のナット5B及び上側の第2のナット5Cが共回りしないので、スムーズに樋支持具本体3の高さ調整を行うことができる。
【0025】
また、上述の説明では、樋支持具本体3を上方向に移動させる場合の高さ調整の例について説明しているが、樋支持具本体3を下方向に移動させて高さ調整を行ってもよい。その場合は、吊りボルト2を上方向に移動させる時とは逆回りに回転させることによって、吊りボルト2が下方向に移動し、さらに樋支持具本体3は下側のネジ部21Bに対して下方向に移動する。なお、本実施形態では、下側の第1のナット5B及び上側の第2のナット5Cは回転禁止状態で配されていないので、吊りボルト2の回転に伴い共回りすることによって、それぞれ屋根板8及び樋支持具本体3に離隔してしまう。その場合は、樋支持具本体3の高さ調整が行われた後、あらためて下側の第1のナット5B及び上側の第2のナット5Cを締結させて屋根板8に吊りボルト2を、吊りボルト2に樋支持具本体3を固定させればよい。上側の第1のナット5A及び下側の第2のナット5Dが固定されているので、吊りボルト2や樋支持具本体3から手を離しても落下するおそれがない。そのため、樋支持具本体3の高さ調整を行った後に、余裕をもって下側の第1のナット5B及び上側の第2のナット5Cの締結作業を行うことができる。
【0026】
なお、下側の第1のナット5B及び上側の第2のナット5Cは、高さ調整を行う前に回転禁止状態で配されていれば、吊りボルト2の回転に伴い共回りしないので、屋根板8及び樋支持具本体3から離隔しない。そのため、下側の第1のナット5B及び上側の第2のナット5Cが回転禁止状態で配されていれば、高さ調整を行った後に締結作業を行う必要がなくなり、スムーズに樋支持具本体3の高さ調整を行うことができる。つまり、上側の第1のナット5A及び下側の第2のナット5Dと同様に、下側の第1のナット5B及び上側の第2のナット5Cが回転禁止状態で配されていれば、樋支持具本体3の上方向、下方向の両方の高さ調整をスムーズに行うことができる。
【0027】
上述の軒樋吊り具1の高さ調整では、不図示の共回り防止用の工具によって、屋根板8の開口部8aの上方に配された第1のナット5Aが屋根板8に対して回転禁止状態で配されているが、これに限定されることはない。例えば、屋根板8の開口部8aが角孔として形成されていれば、図7(a)(b)に示すように、山座金6Aが開口部8aの縁部に沿って挿通される板状の挿通部6Aaを有する回転禁止部材として構成されてもよい。山座金6Aは、一対の挿通部6Aa,6Aaが互いの面部が対向するように配されている。上側の第1のナット5Aは、回転が固定された状態で、回転禁止部材である山座金6Aと一体に構成されている。そのため、山座金6Aの挿通部6Aa,6Aaが開口部8aの縁部に沿って挿通されることで、上側の第1のナット5Aが屋根板8に対して回転禁止状態で配される。
【0028】
また、回転禁止部材として機能する山座金6Aの変形例としては、図7(c)(d)に示すようなものが挙げられる。図7(c)(d)では、山座金6Aが、図7(a)(b)の挿通部6Aaに加え、上側の第1のナット5Aの外周面及び下面の少なくともそれぞれの一部に当接して上側の第1のナット5Aを抱持するナット抱持部6Abを有する。上側の第1のナット5Aは、図7(a)(b)と異なり山座金6Aと一体に構成されていない。上側の第1のナット5Aは、山座金6Aのナット抱持部6Abに抱持された状態で、山座金6Aの挿通部6Aa,6Aaが屋根板8の開口部8aの縁部に沿った状態で挿通されることで、屋根板8に対して回転禁止状態で配される。
【0029】
また、屋根板8が折板屋根の場合、図8(a)に示すようなカバー部材80を用いて上側の第1のナット5Aが屋根板8に対して回転禁止状態で配されてもよい。カバー部材80は、丸孔状の開口部8a付近の屋根板8の形状に沿って折曲されたステンレス等の金属板によって形成されている。カバー部材80は、上板部81と、上板部81の両端部に設けられ、屋根板8の一部を幅方向(建物に対する見付の方向と一致する方向、図8(b)の紙面上における左右方向)から挟み込む側板部82,82とを有する。上板部81には、第1のナット5Aの外周面に沿う形状に形成された貫通孔81aが設けられている。図8(b)に示すように、第1のナット5A、山座金6A、パッキン6Bが上方に配された状態の屋根板8の上方から覆うようにカバー部材80が配される。これにより、第1のナット5Aがカバー部材80の貫通孔81aにはまり、上側の第1のナット5Aが屋根板8に対して回転禁止状態で配される。
【0030】
また、カバー部材80の構成は図示したものに限定されることはない。例えば、貫通孔81aが吊りボルト2が挿通される丸孔形状に形成され、この貫通孔81aの上側または下側に、上側の第1のナット5Aが溶接等で固着されることで、カバー部材80と上側の第1のナット5Aとが一体に構成されてもよい。
【0031】
次に図9(a)~(f)を参照しながら吊りボルト2の回転操作部23の変形例について説明する。なお、図9(a)(c)(e)は、それぞれ変形例に係る吊りボルトの模式的側面図であり、図9(b)は、図9(a)のD-D’線矢視拡大断面図、図9(d)は、図9(c)のE-E’線矢視拡大断面図、図9(f)は、図9(e)のF-F’線矢視拡大断面図である。
【0032】
図9(a)(b)に示す回転操作部23は、ネジ部21A,21B間の部位22の一部を変形させて設けられており、その横断面形状は、ネジ部21A,21Bの横断面面積よりも小さい略正方形状の矩形状に形成されている。回転操作部23の横断面形状が矩形状に形成されているので、回転操作部23を手でつかんで回しやすくなっている。
【0033】
図9(c)(d)及び図9(e)(f)に示す回転操作部23は、ネジ部21A,21B間の部位22に固定させた別体の把持部材24によって構成されている。図9(c)(d)では、矩形状の板材である把持部材24の中心部が吊りボルト2に沿うように変形させた状態で溶接等によって吊りボルト2に固定されることによって、回転操作部23が構成されている。
【0034】
図9(e)(f)では、吊りボルト2の下側のネジ部21Bの上端部まで挿通された六角ナットである把持部材24が、溶接等によって吊りボルト2に固定されることによって回転操作部23が、上側のネジ部21Aと下側のネジ部21Bとの間に構成されている。
【0035】
軒樋吊り具1の構成は、上述したものや図示したものに限定されることはない。例えば、吊りボルト2は、下側のネジ部21Bではなく上側のネジ部21Aが逆ネジとして構成されてもよく、また、上側のネジ部21Aと下側のネジ部21Bは、その長さが異なって構成されていてもよい。特に下側のネジ部21Bが上側のネジ部21Aよりも長く構成されていれば、樋支持具本体3の高さ調整の範囲を大きくすることができる。さらに、上側のネジ部21Aと下側のネジ部21Bとで、ネジ山のピッチを異ならせたものでもよい。
【0036】
また、例えば、図1図6に示す回転操作部23に貫通孔23aが設けられていなくてもよく、図9(c)(d)の回転操作部23に、回転操作棒9が挿通されるための貫通孔が設けられてもよい。その他の部材の構成も、適宜設計されればよい。また、上側の第1のナット5Aは、開口部8aに連通するように屋根板8に溶接等で直接固着されて、屋根板8に対して回転禁止状態で配されてもよい。また、下側の第2のナット5Dは、回転禁止状態で配するために、回転禁止部材4を用いることに限定されることはない。下側の第2のナット5Dは、上側の第1のナット5Aと同様に工具等を用いて回転禁止状態で配されてもよく、樋支持具本体3の下面に孔部31に連通するように溶接等で固着されることで、樋支持具本体3に対して回転禁止状態で配されてもよい。下側の第1のナット5B及び上側の第2のナット5Cも同様に、種々の方法で回転禁止状態に配されてもよい。また、回転禁止部材4の構成も上述のものに限定されることはなく、材質も金属に限定されることはなく例えば合成樹脂等であってもよい。
【0037】
また、上述の説明では、上側の第1のナット5A及び下側の第2のナット5Dが回転禁止状態に配されている場合や、一対の第1のナット5A,5B及び一対の第2のナット5C,5Dの両方が回転禁止状態で配されている場合について説明しているが、それらに限定されることはない。それらに代わり下側の第1のナット5B及び上側の第2のナット5Cのみが高さ調整を行う前に回転禁止状態に配されてもよい。下側の第1のナット5B及び上側の第2のナット5Cが回転禁止状態で配されている場合は、吊りボルト2を屋根板8に対して下方への高さ調整が行いやすくなる。また、下側の第1のナット5B及び上側の第2のナット5Cが回転禁止状態において、上側への高さ調整を行うと第2のナット5C,5D間の間隔が、下側への高さ調整を行うと第1のナット5A,5B間の間隔が、それぞれ大きくなってしまう。そのため、高さ調整の後にあらためて上側の第1のナット5Aや下側の第2のナット5Dを締結させる。これらによって、第1のナット5A,5B及び第2のナット5C,5Dが屋根板8及び樋支持具本体3を挟持して締結される。
【0038】
また、吊りボルト2の回転操作部23の回転操作は、樋支持具本体3の高さ調整だけではなく、吊りボルト2を屋根板8に取り付ける際に行われてもよい。その場合は、吊りボルト2の取り付け作業の前に、上側の第1のナット5Aを開口部8aに連通させてから屋根板8に対して回転禁止状態で配する。そして、上側のネジ部21Aの所望の位置に下側の第1のナット5Bを螺合させて、吊りボルト2の上端部を開口部8aに通して第1のナット5Aの雌ネジ孔の端部に接触させる。その状態で吊りボルト2を回転操作部23によって回転させることで、上側のネジ部21Aは第1のナット5Aに螺合し、吊りボルト2が上側に螺進して移動する。このとき、樋支持具本体3は、手で回転が止められている状態が好ましい。そして、吊りボルト2が所望の位置に達したときに下側の第1のナット5Bが屋根板8に接触していない場合は、第1のナット5Bを締結させる。上述のようにすることで、第1のナット5A,5Bが屋根板8を挟持するように締結され、吊りボルト2が屋根板8に固定される。
【0039】
なお、吊りボルト2の取り付け作業の前に開口部8aに連通させてから屋根板8に回転禁止状態で配されるのは上側の第1のナット5Aではなく、下側の第1のナット5Bでもよい。その場合は、下側の第1のナット5Bに螺合させた吊りボルト2が所望の位置に達してから、上側のネジ部21Aに上側の第1のナット5Aを螺合させることで、第1のナット5A,5Bが屋根板8を挟持するように締結され、吊りボルト2が屋根板8に固定される。また、上側の第1のナット5Aを締結させる前に軒樋吊り具1から手を離した状態になったときに、軒樋吊り具1の重さで下側の第1のナット5Bが屋根板8から脱落しないように、下側の第1のナット5Bは屋根板8に対して強固に固定されるのが好ましい。また、第1のナット5A,5Bの両方が、吊りボルト2の取り付け作業の前に、開口部8aに連通されて屋根板8に回転禁止状態で配されてから、吊りボルト2の屋根板8への取り付け作業を行ってもよい。
【0040】
また、本実施形態の軒樋吊り具1は、第1のナット5A,5B間や第2のナット5C,5D間が離隔した状態であっても、吊りボルト2を回転操作させることで、それらの間隔を縮める調整を行うことができる。吊りボルト2に螺合した第1のナット5A,5B間や第2のナット5C,5D間が離隔した状態で、第1のナット5A及び第2のナット5Dがそれぞれ屋根板8及び樋支持具本体3に対して回転禁止状態で配されていれば、吊りボルト2を回転操作によって上方向に移動させればよい。吊りボルト2の回転差操作だけで、第1のナット5A,5B間や第2のナット5C,5D間の間隔が縮まり、屋根板8及び樋支持具本体3が第1のナット5A,5B及び第2のナット5C,5Dによって挟み込まれるので、効率的に施工作業を行うことができる。
【0041】
また、軒樋7は、複数の軒樋吊り具1によって吊り下げ支持される。軒樋7が複数の軒樋吊り具1に吊り下げ支持されている状態で、軒樋7の水勾配や高さ位置の調整のために、樋支持具本体3の高さ調整、すなわち軒樋7の高さ調整を行ってもよい。軒樋7の高さを調整する場合には、複数の吊りボルト2を一斉に回転させればよく、軒樋7の水勾配の調整の場合には、該当する樋支持具本体3が固定されている吊りボルト2を回転させればよい。本実施形態の軒樋吊り具1は、吊りボルト2の回転によって樋支持具本体3の高さ調整を行うことができるので、軒樋7を吊り下げ支持している状態でも高さ調整を行うことができる。
【符号の説明】
【0042】
1 軒樋吊り具
2 吊りボルト
21A,21B ネジ部
23 回転操作部
24 把持部材
3 樋支持具本体
31 孔部
4 回転禁止部材
5A,5B 第1のナット
5C,5D 第2のナット
6A 山座金(回転禁止部材)
7 軒樋
8 屋根板
8a 開口部
9 回転操作棒

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9