(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023037463
(43)【公開日】2023-03-15
(54)【発明の名称】制御装置、電気車及び制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 21/05 20060101AFI20230308BHJP
H02P 21/22 20160101ALI20230308BHJP
【FI】
H02P21/05
H02P21/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021144236
(22)【出願日】2021-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】児島 徹郎
(72)【発明者】
【氏名】隅田 悟士
(72)【発明者】
【氏名】坂井 俊文
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA19
5H505BB04
5H505CC01
5H505DD03
5H505DD05
5H505EE41
5H505EE42
5H505EE49
5H505EE55
5H505GG04
5H505HA08
5H505HB02
5H505JJ04
5H505JJ05
5H505LL22
5H505LL52
(57)【要約】
【課題】 制御モードの切り替え時に生じるトルク変動を抑制できる制御装置を提供する。
【解決手段】 インバータ駆動の誘導電動機を制御する制御装置であって、低速領域の制御モードにおいて、dq軸電流i
d,i
qと、dq軸電流指令i
d
*,i
q
*と、を参照して誘導電動機の周波数を推定するほか、誘導電動機のq軸誘起電圧を用いて、誘導電動機の周波数を推定する周波数推定部と、制御モードが高速領域へと切り替わる前後で、誘導電動機の周波数を踏襲して変化を抑制するように初期値を演算することにより、すべり周波数推定誤差を抑制可能なすべり補償演算部と、制御モードが切り替わる前に推定された誘導電動機の周波数を出力する代わりに、切り替え後に誘導電動機のq軸誘起電圧を用いて推定された誘導電動機の周波数とすべり補償演算部の出力の和へと、切り替えて出力する周波数推定値切り替えスイッチと、を備えた。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータ駆動の誘導電動機を制御する制御装置であって、
低速領域の制御モードにおいて、dq軸電流id,iqと、dq軸電流指令id
*,iq
*と、を参照して前記誘導電動機の周波数を推定するほか、前記誘導電動機のq軸誘起電圧を用いて、前記誘導電動機の周波数を推定する周波数推定部と、
制御モードが高速領域へと切り替わる前後で、前記誘導電動機の周波数を踏襲して変化を抑制するように初期値を演算することにより、すべり周波数推定誤差を抑制可能なすべり補償演算部と、
制御モードが前記切り替わる前に推定された前記誘導電動機の周波数を出力する代わりに、切り替え後に前記誘導電動機のq軸誘起電圧を用いて推定された前記誘導電動機の周波数と前記すべり補償演算部の出力の和へと、切り替えて出力する周波数推定値切り替えスイッチと、
を備えた制御装置。
【請求項2】
前記制御モードに応じて、周波数推定値を切り替えた後の前記すべり補償演算部の初期値を、前記誘導電動機の回転子加速度に、所定の応答時定数を乗算して演算するオフセット量演算部をさらに備えた、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記オフセット量演算部は、前記誘導電動機の回転子加速度について、トルク指令値τm
*を前記誘導電動機の極対数Pmで乗算し、予め設定した負荷のイナーシャJ*で除算して演算する、
請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
さらに負荷質量検出部を有し、該負荷質量検出部から得られた負荷質量の情報を用いて、前記オフセット量演算部が負荷の実イナーシャを演算する、
請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記オフセット量演算部は、前記初期値を、制御モードに応じて、周波数推定値を切り替える前後でインバータ周波数の変化を少なくする方向に演算する、
請求項2~4の何れか1項に記載の制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の制御装置を備えた電気車。
【請求項7】
コントローラが誘導電動機を駆動制御する制御方法であって、
前記コントローラは、
インバータから前記誘導電動機に電力を供給してトルクを発生させ、
座標変換部に、相電流検出回路の検出出力に基づいて、d軸電流id及びq軸電流iqを生成させ、
低速の制御モードにおいて、dq軸電流id,iqと、dq軸電流指令id
*,iq
*と、を入力して前記誘導電動機の周波数を推定し、
前記誘導電動機のq軸誘起電圧を用いて、前記誘導電動機の周波数を推定し、
前記制御モードを低速領域から高速領域へと切り替え、
前記制御モードの切換えに応じて周波数推定値切り替えスイッチを切り替えて、前記低速の制御モードにおける前記誘導電動機の周波数を出力する代わりに、前記q軸誘起電圧を用いて推定された前記誘導電動機の周波数と、すべり補償演算部と、の和を出力し、
前記制御モードが切り替わる前後で、前記誘導電動機の周波数を踏襲して変化を抑制するように前記すべり補償演算部の初期値を演算し、
前記すべり補償演算部に、高速の制御モードでのすべり周波数推定誤差を抑制させる、
制御方法。
【請求項8】
オフセット量演算部が、前記制御モードに応じて、周波数推定値を切り替えた後の前記すべり補償演算部の初期値を、前記誘導電動機の回転子加速度に、所定の応答時定数を乗算して演算する、
請求項7に記載の制御方法。
【請求項9】
オフセット量演算部は、前記誘導電動機の回転子加速度について、トルク指令値τm
*を前記誘導電動機の極対数Pmで乗算し、予め設定した負荷のイナーシャJ*で除算して演算する、
請求項8に記載の制御方法。
【請求項10】
前記オフセット量演算部は、負荷質量検出部から得られた負荷質量の情報を用いて負荷の実イナーシャを演算する、
請求項9に記載の制御方法。
【請求項11】
前記オフセット量演算部は、前記初期値を、制御モードに応じて、周波数推定値を切り替える前後でインバータ周波数の変化を少なくする方向に演算する、
請求項8~10の何れか1項に記載の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導電動機用の制御装置、その制御方法、及びそれらが適用された電気車に関する。
【背景技術】
【0002】
モータトルクの急変を抑制できるモータ制御装置において、第1の電圧ベクトル演算手段からの出力結果を用いる運転モードから、第2の電圧ベクトル演算手段からの出力結果を用いる運転モードへの切替時、電圧ベクトルが連続するように第2の電圧ベクトル演算手段の設定値を第1の電圧ベクトル演算手段の設定値にプリセットするという技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
誘導電動機のトルクは、電流×磁束で決まる。このことに対し、特許文献1に記載のモータ制御装置では、低速運転と高速運転と制御モードを切り替えたとき、電流の急変は抑制できても、磁束の変動を抑制することまでは考慮されていない。したがって、制御モード切り替え時にトルク変動を抑制できない恐れがある。本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、電流の急変のみならず、磁束の急変までも抑制することにより、制御モードの切り替え時に生じるトルク変動を抑制できる制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する本発明は、インバータ駆動の誘導電動機を制御する制御装置であって、低速領域の制御モードにおいて、dq軸電流id,iqと、dq軸電流指令id
*,iq
*と、を参照して誘導電動機の周波数を推定するほか、誘導電動機のq軸誘起電圧を用いて、誘導電動機の周波数を推定する周波数推定部と、制御モードが高速領域へと切り替わる前後で、誘導電動機の周波数を踏襲して変化を抑制するように初期値を演算することにより、すべり周波数推定誤差を抑制可能なすべり補償演算部と、制御モードが切り替わる前に推定された誘導電動機の周波数を出力する代わりに、切り替え後に誘導電動機のq軸誘起電圧を用いて推定された誘導電動機の周波数とすべり補償演算部の出力の和へと、切り替えて出力する周波数推定値切り替えスイッチと、を備えた。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、制御モードの切り替え時に生じるトルク変動を抑制できる制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施例1に係る制御装置(以下、「本装置」又は「コントローラ」ともいう)を適用した可変速駆動電動機システム(adjustable speed motor system:以下、「電動機システム」と略す)の機能ブロック図である。
【
図2】
図1の本装置における第1のオフセット量演算部をより詳細に示す機能ブロック図である。
【
図3】
図1の本装置における第2のオフセット量演算部をより詳細に示す機能ブロック図である。
【
図4】本発明の実施例2に係る制御装置(これも「本装置」又は「コントローラ」という)を適用した電動機システムの機能ブロック図である。
【
図5】
図4の本装置における第1のオフセット量演算部をより詳細に示す機能ブロック図である。
【
図6】
図4の本装置における第2のオフセット量演算部をより詳細に示す機能ブロック図である。
【
図7】本発明の実施例3に係る電気車の模式図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る制御方法(以下、「本方法」)で実行される制御の各ステップを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。実施例1を
図1~
図3に示し、実施例2の特徴を
図4~
図6に示し、実施例3の特徴を
図7に示し、全体に共通する本方法を
図8で示している。なお、同一の要素については、全ての図において、原則として同一の符号を付している。また、同一の機能を有する部分については、説明を省略する。なお、以下に説明する構成はあくまで実施例に過ぎず、本発明に係る実施様態が、以下の具体的様態に限定されることを意図する趣旨ではない。
【実施例0009】
実施例1の構成要素について説明する。
図1は、本装置(コントローラ)4Aを適用した電動機システムの機能ブロック図である。
図1に示すように、電動機システムは、誘導電動機1、相電流検出回路2、インバータ3及びコントローラ4Aから構成される。なお、
図4を用いて後述する実施例2のコントローラ4Bと、実施例1のコントローラ4Aと、をまとめて本装置(コントローラ)4という。さらに、本発明でいう制御装置は、主にコントローラ4を特定するが、相電流検出回路2、インバータ3まで含める場合もある。
【0010】
相電流検出回路2はホールCT(Current Transformer)等から構成され、U相、V相、W相の三相交流電流iu,iv,iwを検出している。ただし、相電流検出回路2によって必ずしも三相全ての電流を検出する必要はなく、何れかの2相を検出し、三相電流が平衡状態であると仮定して他の1相を演算により求める構成でも良い。
【0011】
インバータ3は、直流電圧電源5と、ゲート・ドライバ6と、半導体スイッチング素子Sup~Swnを備える主回路部7と、より構成される。なお、本発明の効果は、半導体スイッチング素子の種類によって限定されるものではない。
【0012】
コントローラ4は、第1の座標変換部8と、第1の周波数推定演算部9と、第2の周波数推定演算部10と、すべり補償演算部11と、すべり周波数指令演算部12と、周波数推定値切り替えスイッチ(以下、単に「スイッチ」ともいう)13と、第1のオフセット量演算部14と、第2のオフセット量演算部15と、位相演算部16と、電圧指令演算部17と、第2の座標変換部18と、PWM信号発生部19と、より構成される。
【0013】
ここで用いる制御モードとして、制御モード0と、制御モード1と、をつぎのように定義する。
制御モード0:低速運転領域(「低速領域」ともいう)
制御モード1:高速運転領域(「高速領域」ともいう)
【0014】
また、制御モードは、制御モード0から制御モード1に切り替わるものとする。この制御モードの切り替えに応じて、誘導電動機1の周波数を推定するために使用する演算部が、第1の周波数推定演算部9から、第2の周波数推定演算部10へと、切り替えられる。加えて、制御モード1では、すべり周波数推定誤差ωs-errの抑制を目的として、すべり補償演算部11が動作する。
【0015】
つぎに、制御モード切り替え時に発生する課題について説明する。d軸二次磁束Φ2d,q軸二次磁束Φ2q、及びトルクτmは、それぞれ以下の式(1)、式(2)、及び式(3)で表される。
【0016】
【0017】
ただし、T2は二次時定数、Mは相互インダクタンス、idはd軸電流、ωsはすべり周波数、iqはq軸電流、L2は二次自己インダクタンス、sはラプラス演算子である。以下、言及しない限り、数式中のsはラプラス演算子を表す。また、すべり周波数指令ωs
*は以下の式(4)となる。
【0018】
【0019】
ただし、T2
*は二次時定数の制御側設定値、Φ2d
*はd軸二次磁束指令値、M*は相互インダクタンスの制御側設定値、iq
*はq軸電流指令値である。式(4)より、すべり周波数がすべり周波数指令に一致しており、かつ、T2
*=T2,Φ2d
*=Φ2d,M*=M,iq
*=iqであれば、Φ2qは生じない。この状態で、式(3)中のΦ2qidの項によるトルク(以下、「軸ずれトルク」と呼ぶ)は発生しない。ところで、制御モードの切り替え時に、磁束や電流の変動が発生すると、式(3)よりトルクが変動することが分かる。
【0020】
電流の変動の発生原因として、例えば、制御モード切り替え前後で、周波数推定演算部が、第1の周波数推定演算部9から、異なる制御構成となっている第2の周波数推定演算部10に切り替わることが挙げられる。加えて、第1の周波数推定演算部9と、第2の周波数推定演算部10とでは、入力の状態量も異なる。
【0021】
図1に示すように、第1の周波数推定演算部9の入力は、dq軸電流i
d,i
qと、dq軸電流指令i
d
*,i
q
*と、である。また、第2の周波数推定演算部10の入力は、dq軸電流i
d,i
qと、dq軸電流指令i
d
*,i
q
*と、周波数推定値ω
r
^と、インバータ周波数ω
invと、dq軸電圧V
d
*,V
q
*と、第1のオフセット量演算部14の出力ω
r-ofs
^と、である。なお、ω
r-ofs
^が第2の周波数推定演算部10の初期値となる。
【0022】
したがって、制御構成と入力状態量が異なるため、適切な初期値ωr-ofs
^を設定せずに制御モードを切り替えると、周波数推定値ωr
^が不連続に変化する。これによって、インバータ周波数ωinvが不連続に変化し、電圧指令演算部17の出力(dq軸電圧指令Vd
*,Vq
*)が不連続に変化する。したがって、誘導電動機1に印加される電圧が不連続に変化することになるので、電流が不連続に変化する。ここで、トルクは、電流×磁束で決まるため、トルク変動が発生することになる。
【0023】
換言すると、電流が一定でも磁束が変動すれば、トルク変動が発生する。磁束の変動の発生原因として、例えば、すべり周波数推定誤差ωs-errが挙げられる。すべり補償演算部11によって、定常的にはすべり周波数推定誤差は0となるが、すべり補償演算部11の出力Δωsと、すべり周波数推定誤差ωs-errと、の和が0となるまでは、すべり周波数推定誤差ωs-errが発生することになる。
【0024】
すべり周波数推定誤差ωs-errが生じると、ωs≠ωs
*となり、Φ2q≠0となる。したがって、軸ずれトルクが生じ、トルク変動が発生することになる。その結果、電気車などの駆動システムで、トルク変動が発生する場合には、車両の振動を引き起こし、乗り心地を悪化させる要因となるため、トルク変動を抑制する必要がある。
【0025】
そこで、実施例1の本装置4Aでは、つぎの第1、第2に示すことを達成することでトルク変動を抑制する。第1に制御モード切り替え前後の周波数推定値を連続させることである。第2に制御モード切り替え直後からすべり周波数推定誤差ωs-errを0とすることである。まず第1にいう、制御モード切り替え前後の周波数推定値を連続させる手段として、実施例1の本装置4Aでは第1のオフセット量演算部14を有する。
【0026】
図2は、
図1の本装置4Aにおける第1のオフセット量演算部14をより詳細に示す機能ブロック図である。
図2に示すように、第1のオフセット量演算部14は、演算結果を制御モードに応じて出力するか否か選択可能な周波数推定値切り替えスイッチ(以下、単に「スイッチ」ともいう)143を有する。スイッチ143には、少なくとも、極対数P
mをイナーシャ(慣性:inertia)設定値J
*で除算した値141と、第2の周波数推定演算部10の応答時定数142と、を用いた演算結果が入力される。このスイッチ143は、制御モードに応じて、下記の通り入力を切り替える点でスイッチ13と同様である。
【0027】
制御モード0:0
制御モード1:以下の式(5)で表される値
【0028】
【0029】
ただし、ωr-1^は第1の周波数推定演算部9による周波数推定値、τm*はトルク指令値、Pmは極対数、J*はイナーシャ設定値、Testは第2の周波数推定演算部10の応答時定数である。これによって、制御モード切り替え時の、第2の周波数推定演算部10の初期値は式(5)の値に設定される。
【0030】
ここで、すべり補償演算部11の初期値は後述する式(6)の値に設定されるため、制御モード切り替え直後のスイッチ13の入力は式(5)と式(6)の和、すなわち、ωr-1^となる。また、制御モード切り替え直前のスイッチ13の入力は、第1の周波数推定演算部9の出力ωr-1^である。したがって、制御モード切り替え前後で、ωr^の値はωr-1^で変わらないため、周波数推定値の不連続変化が無くなる。
【0031】
つぎに、制御モード切り替え直後からすべり周波数推定誤差ω
s-errを0にする手段として、実施例1では第2のオフセット量演算部15を有する。
図3は、
図1の本装置4Aにおける第2のオフセット量演算部15をより詳細に示す機能ブロック図である。
【0032】
図3に示すように、第2のオフセット量演算部15は、極対数P
mをイナーシャ設定値J
*で除算した値141と、第2の周波数推定演算部10の応答時定数142と、を少なくとも用いた演算結果を、制御モードに基づいて出力するか否か選択可能なスイッチ143を有する。
【0033】
ここで、スイッチ143について詳しく説明する。スイッチ143は制御モードに応じて、下記の通り入力を切り替える。
制御モード0:0
制御モード1:以下の式(6)で表される値
【0034】
【0035】
式(6)の値を、すべり補償演算部11の初期値に設定することで、制御モードの切り替え直後から、Δωs + ωs-err=0の状態、すなわち、すべり周波数推定誤差ωs-errが0の状態を実現できる。以下、その理由について説明する。第2の周波数推定演算部10は、誘導電動機1のq軸誘起電圧を外乱として捉えて、q軸誘起電圧を推定することで周波数推定を行う方式であり、第2の周波数推定演算部10の周波数推定値ωr-2
^は、以下の式(7)の通り表現できる。
【0036】
【0037】
この時、周波数推定誤差ωr-err
^はωr-2
^-ωrと表され、すべり周波数推定誤差ωs-errと等価である。したがって、すべり周波数推定誤差ωs-errは以下の式(8)のように表される。
【0038】
【0039】
また、定常的には、すべり補償演算部11によって、すべり周波数推定誤差ωs-errが0となり、トルク指令値τm
*とトルクτmは一致する。回転子加速度は、トルクをイナーシャ設定値J*で除算し、極対数Pmを乗算することで得られるため、周波数ωrは回転子加速度を積分することで、式(9)のように表される。
【0040】
【0041】
したがって、式(8)と式(9)を用いて、定常的なすべり周波数推定誤差ωs-errの推定値は式(10)のように表される。
【0042】
【0043】
なお、定常状態を考えるためs=0とした。この定常的なすべり周波数推定誤差ωs-errを補償するように、すべり補償演算部11は動作する。すなわち、Δωsは、式(10)に-1を乗算した上式(6)の値に収束することになり、定常状態ではΔωs + ωs-err=0となる。ただし、収束までには一定時間必要であり、過渡的にはΔωs + ωs-err≠0となり過渡的な磁束の変動が生じる。
【0044】
そこで、上式(6)の値を、すべり補償演算部11の初期値に設定すれば、制御モードの切り替え直後から、Δωs + ωs-err=0の状態を実現できることが分かる。したがって、すべり周波数推定誤差ωs-errによる、過渡的な磁束の変動が抑制できる。以上が、実施例1における、制御モード切り替え時のトルク変動抑制手段である。
【0045】
以下、実施例1の構成要素について説明する。第1の座標変換部8は、前記相電流検出回路2を用いて検出された三相交流電流を、dq軸電流に変換する。第1の周波数推定演算部9は、制御モード0の場合に、q軸電流指令iq
*と、q軸電流iqと、の差をPI制御することで、誘導電動機1の周波数推定値ωr-1
^を出力する。
【0046】
第2の周波数推定演算部10は、制御モード1の場合に、誘導電動機1が周波数ωrで回転することによって生じるq軸誘起電圧を外乱として推定することで、誘導電動機1の周波数を推定する。q軸誘起電圧は、d軸電流指令id
*と、q軸電流iqと、インバータ周波数ωinvと、q軸電圧指令Vq
*と、前回周期の周波数推定値ωr
^と、モータ定数と、を用いて推定する。
【0047】
また、応答時定数はTestである。また、制御モード切り替え直後の初期値は、第1のオフセット量演算部14の出力ωr-ofs
^が設定され、その値は式(5)に等しい。すべり補償演算部11は、制御モード1の場合に、q軸二次磁束Φ2qを推定し、これを0に追従させることで、すべり周波数推定誤差ωs-errを抑制する。q軸二次磁束Φ2qは、周波数推定値ωr
^と、インバータ周波数ωinvと、d軸電圧指令Vd
*と、dq軸電流指令id
*,iq
*と、モータ定数と、を用いて推定する。
【0048】
また、制御モード切り替え直後の初期値は、第2のオフセット量演算部15の出力Δωs-ofsが設定され、その値は式(6)に等しい。すべり周波数指令演算部12は、インバータ周波数ωinvを得るために必要な、すべり周波数指令値ωs*を演算する。すべり周波数指令値はdq軸電流指令id
*,iq
*と、モータ定数と、を用いて演算する。
【0049】
スイッチ13は制御モードに応じて、下記の通り入力を切り替える。
制御モード0:第1の周波数推定演算部9の出力ωr-1
^
制御モード1:第2の周波数推定演算部10の出力ωr-2
^と、すべり補償演算部11の出力Δωsの和
【0050】
第1のオフセット量演算部14は、制御モード切り替え直後の、第2の周波数推定演算部10の初期値のオフセット量ωr-ofs
^を演算する。オフセット量ωr-ofs
^は、第1の周波数推定演算部9による周波数推定値ωr-1
^と、トルク指令値τm
*と、極対数Pmと、イナーシャ設定値J*と、第2の周波数推定演算部10の応答時定数Testと、を用いて演算する。
【0051】
第2のオフセット量演算部15は、制御モード切り替え直後の、第2の周波数推定演算部10の初期値のオフセット量Δωs-ofsを演算する。オフセット量Δωs-ofsは、トルク指令値τm
*と、極対数Pmと、イナーシャ設定値J*と、第2の周波数推定演算部10の応答時定数Testと、を用いて演算される。位相演算部16は、座標変換に必要な制御軸の位相θについて、インバータ周波数ωinvを用いて演算する。
【0052】
電圧指令演算部17は、dq軸電圧指令Vd
*,Vq
*について、インバータ周波数ωinvと、dq軸電流指令id
*,iq
*と、を用いて演算する。第2の座標変換部18は、電圧指令演算部17が出力したdq軸電圧指令Vd
*,Vq
*を、三相交流電圧指令Vu
*,Vv
*,Vw
*に変換する。PWM信号発生部19は、第2の座標変換部18が出力する三相交流電圧指令Vu
*,Vv
*,Vw
*を用いて、PWM信号を発し、ゲート・ドライバ6へ出力する。
【0053】
以上のように、実施例1では制御モードの切り替え前後でインバータ周波数ωinvが連続し、かつ、制御モードの切り替え直後から、すべり周波数推定誤差ωs-errが0となる。したがって、実施例1の本装置4Aによれば、制御モード切り替え時のトルク変動を抑制することが可能となる。
スイッチ143の動作は前述の通りであるが、選択する値が、第1のオフセット量演算部14と異なる。第1のオフセット量演算部21では、制御モードに応じて、下記の通り入力を切り替える。
制御モード0:0
制御モード1:以下の式(12)で表される値
したがって、負荷の質量Massから実イナーシャを計算することができる。以上が、実施例2の原理に関する説明である。以上のように、実施例2では、負荷の質量変動が生じても、実イナーシャを計算することができるため、すべり周波数推定誤差ωs-errを精度良く推定することが可能である。これによって、負荷の質量変動が生じても、トルク変動の抑制効果を維持することができる。