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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023037463
(43)【公開日】2023-03-15
(54)【発明の名称】制御装置、電気車及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/05 20060101AFI20230308BHJP
   H02P 21/22 20160101ALI20230308BHJP
【FI】
H02P21/05
H02P21/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021144236
(22)【出願日】2021-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】児島 徹郎
(72)【発明者】
【氏名】隅田 悟士
(72)【発明者】
【氏名】坂井 俊文
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA19
5H505BB04
5H505CC01
5H505DD03
5H505DD05
5H505EE41
5H505EE42
5H505EE49
5H505EE55
5H505GG04
5H505HA08
5H505HB02
5H505JJ04
5H505JJ05
5H505LL22
5H505LL52
(57)【要約】
【課題】 制御モードの切り替え時に生じるトルク変動を抑制できる制御装置を提供する。
【解決手段】 インバータ駆動の誘導電動機を制御する制御装置であって、低速領域の制御モードにおいて、dq軸電流id,iqと、dq軸電流指令id *,iq *と、を参照して誘導電動機の周波数を推定するほか、誘導電動機のq軸誘起電圧を用いて、誘導電動機の周波数を推定する周波数推定部と、制御モードが高速領域へと切り替わる前後で、誘導電動機の周波数を踏襲して変化を抑制するように初期値を演算することにより、すべり周波数推定誤差を抑制可能なすべり補償演算部と、制御モードが切り替わる前に推定された誘導電動機の周波数を出力する代わりに、切り替え後に誘導電動機のq軸誘起電圧を用いて推定された誘導電動機の周波数とすべり補償演算部の出力の和へと、切り替えて出力する周波数推定値切り替えスイッチと、を備えた。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータ駆動の誘導電動機を制御する制御装置であって、
低速領域の制御モードにおいて、dq軸電流id,iqと、dq軸電流指令id *,iq *と、を参照して前記誘導電動機の周波数を推定するほか、前記誘導電動機のq軸誘起電圧を用いて、前記誘導電動機の周波数を推定する周波数推定部と、
制御モードが高速領域へと切り替わる前後で、前記誘導電動機の周波数を踏襲して変化を抑制するように初期値を演算することにより、すべり周波数推定誤差を抑制可能なすべり補償演算部と、
制御モードが前記切り替わる前に推定された前記誘導電動機の周波数を出力する代わりに、切り替え後に前記誘導電動機のq軸誘起電圧を用いて推定された前記誘導電動機の周波数と前記すべり補償演算部の出力の和へと、切り替えて出力する周波数推定値切り替えスイッチと、
を備えた制御装置。
【請求項2】
前記制御モードに応じて、周波数推定値を切り替えた後の前記すべり補償演算部の初期値を、前記誘導電動機の回転子加速度に、所定の応答時定数を乗算して演算するオフセット量演算部をさらに備えた、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記オフセット量演算部は、前記誘導電動機の回転子加速度について、トルク指令値τm *を前記誘導電動機の極対数Pmで乗算し、予め設定した負荷のイナーシャJ*で除算して演算する、
請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
さらに負荷質量検出部を有し、該負荷質量検出部から得られた負荷質量の情報を用いて、前記オフセット量演算部が負荷の実イナーシャを演算する、
請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記オフセット量演算部は、前記初期値を、制御モードに応じて、周波数推定値を切り替える前後でインバータ周波数の変化を少なくする方向に演算する、
請求項2~4の何れか1項に記載の制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の制御装置を備えた電気車。
【請求項7】
コントローラが誘導電動機を駆動制御する制御方法であって、
前記コントローラは、
インバータから前記誘導電動機に電力を供給してトルクを発生させ、
座標変換部に、相電流検出回路の検出出力に基づいて、d軸電流id及びq軸電流iqを生成させ、
低速の制御モードにおいて、dq軸電流id,iqと、dq軸電流指令id *,iq *と、を入力して前記誘導電動機の周波数を推定し、
前記誘導電動機のq軸誘起電圧を用いて、前記誘導電動機の周波数を推定し、
前記制御モードを低速領域から高速領域へと切り替え、
前記制御モードの切換えに応じて周波数推定値切り替えスイッチを切り替えて、前記低速の制御モードにおける前記誘導電動機の周波数を出力する代わりに、前記q軸誘起電圧を用いて推定された前記誘導電動機の周波数と、すべり補償演算部と、の和を出力し、
前記制御モードが切り替わる前後で、前記誘導電動機の周波数を踏襲して変化を抑制するように前記すべり補償演算部の初期値を演算し、
前記すべり補償演算部に、高速の制御モードでのすべり周波数推定誤差を抑制させる、
制御方法。
【請求項8】
オフセット量演算部が、前記制御モードに応じて、周波数推定値を切り替えた後の前記すべり補償演算部の初期値を、前記誘導電動機の回転子加速度に、所定の応答時定数を乗算して演算する、
請求項7に記載の制御方法。
【請求項9】
オフセット量演算部は、前記誘導電動機の回転子加速度について、トルク指令値τm *を前記誘導電動機の極対数Pmで乗算し、予め設定した負荷のイナーシャJ*で除算して演算する、
請求項8に記載の制御方法。
【請求項10】
前記オフセット量演算部は、負荷質量検出部から得られた負荷質量の情報を用いて負荷の実イナーシャを演算する、
請求項9に記載の制御方法。
【請求項11】
前記オフセット量演算部は、前記初期値を、制御モードに応じて、周波数推定値を切り替える前後でインバータ周波数の変化を少なくする方向に演算する、
請求項8~10の何れか1項に記載の制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導電動機用の制御装置、その制御方法、及びそれらが適用された電気車に関する。
【背景技術】
【0002】
モータトルクの急変を抑制できるモータ制御装置において、第1の電圧ベクトル演算手段からの出力結果を用いる運転モードから、第2の電圧ベクトル演算手段からの出力結果を用いる運転モードへの切替時、電圧ベクトルが連続するように第2の電圧ベクトル演算手段の設定値を第1の電圧ベクトル演算手段の設定値にプリセットするという技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-282803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
誘導電動機のトルクは、電流×磁束で決まる。このことに対し、特許文献1に記載のモータ制御装置では、低速運転と高速運転と制御モードを切り替えたとき、電流の急変は抑制できても、磁束の変動を抑制することまでは考慮されていない。したがって、制御モード切り替え時にトルク変動を抑制できない恐れがある。本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、電流の急変のみならず、磁束の急変までも抑制することにより、制御モードの切り替え時に生じるトルク変動を抑制できる制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する本発明は、インバータ駆動の誘導電動機を制御する制御装置であって、低速領域の制御モードにおいて、dq軸電流id,iqと、dq軸電流指令id *,iq *と、を参照して誘導電動機の周波数を推定するほか、誘導電動機のq軸誘起電圧を用いて、誘導電動機の周波数を推定する周波数推定部と、制御モードが高速領域へと切り替わる前後で、誘導電動機の周波数を踏襲して変化を抑制するように初期値を演算することにより、すべり周波数推定誤差を抑制可能なすべり補償演算部と、制御モードが切り替わる前に推定された誘導電動機の周波数を出力する代わりに、切り替え後に誘導電動機のq軸誘起電圧を用いて推定された誘導電動機の周波数とすべり補償演算部の出力の和へと、切り替えて出力する周波数推定値切り替えスイッチと、を備えた。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、制御モードの切り替え時に生じるトルク変動を抑制できる制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施例1に係る制御装置(以下、「本装置」又は「コントローラ」ともいう)を適用した可変速駆動電動機システム(adjustable speed motor system:以下、「電動機システム」と略す)の機能ブロック図である。
図2図1の本装置における第1のオフセット量演算部をより詳細に示す機能ブロック図である。
図3図1の本装置における第2のオフセット量演算部をより詳細に示す機能ブロック図である。
図4】本発明の実施例2に係る制御装置(これも「本装置」又は「コントローラ」という)を適用した電動機システムの機能ブロック図である。
図5図4の本装置における第1のオフセット量演算部をより詳細に示す機能ブロック図である。
図6図4の本装置における第2のオフセット量演算部をより詳細に示す機能ブロック図である。
図7】本発明の実施例3に係る電気車の模式図である。
図8】本発明の実施形態に係る制御方法(以下、「本方法」)で実行される制御の各ステップを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。実施例1を図1図3に示し、実施例2の特徴を図4図6に示し、実施例3の特徴を図7に示し、全体に共通する本方法を図8で示している。なお、同一の要素については、全ての図において、原則として同一の符号を付している。また、同一の機能を有する部分については、説明を省略する。なお、以下に説明する構成はあくまで実施例に過ぎず、本発明に係る実施様態が、以下の具体的様態に限定されることを意図する趣旨ではない。
【実施例0009】
実施例1の構成要素について説明する。図1は、本装置(コントローラ)4Aを適用した電動機システムの機能ブロック図である。図1に示すように、電動機システムは、誘導電動機1、相電流検出回路2、インバータ3及びコントローラ4Aから構成される。なお、図4を用いて後述する実施例2のコントローラ4Bと、実施例1のコントローラ4Aと、をまとめて本装置(コントローラ)4という。さらに、本発明でいう制御装置は、主にコントローラ4を特定するが、相電流検出回路2、インバータ3まで含める場合もある。
【0010】
相電流検出回路2はホールCT(Current Transformer)等から構成され、U相、V相、W相の三相交流電流iu,iv,iwを検出している。ただし、相電流検出回路2によって必ずしも三相全ての電流を検出する必要はなく、何れかの2相を検出し、三相電流が平衡状態であると仮定して他の1相を演算により求める構成でも良い。
【0011】
インバータ3は、直流電圧電源5と、ゲート・ドライバ6と、半導体スイッチング素子Sup~Swnを備える主回路部7と、より構成される。なお、本発明の効果は、半導体スイッチング素子の種類によって限定されるものではない。
【0012】
コントローラ4は、第1の座標変換部8と、第1の周波数推定演算部9と、第2の周波数推定演算部10と、すべり補償演算部11と、すべり周波数指令演算部12と、周波数推定値切り替えスイッチ(以下、単に「スイッチ」ともいう)13と、第1のオフセット量演算部14と、第2のオフセット量演算部15と、位相演算部16と、電圧指令演算部17と、第2の座標変換部18と、PWM信号発生部19と、より構成される。
【0013】
ここで用いる制御モードとして、制御モード0と、制御モード1と、をつぎのように定義する。
制御モード0:低速運転領域(「低速領域」ともいう)
制御モード1:高速運転領域(「高速領域」ともいう)
【0014】
また、制御モードは、制御モード0から制御モード1に切り替わるものとする。この制御モードの切り替えに応じて、誘導電動機1の周波数を推定するために使用する演算部が、第1の周波数推定演算部9から、第2の周波数推定演算部10へと、切り替えられる。加えて、制御モード1では、すべり周波数推定誤差ωs-errの抑制を目的として、すべり補償演算部11が動作する。
【0015】
つぎに、制御モード切り替え時に発生する課題について説明する。d軸二次磁束Φ2d,q軸二次磁束Φ2q、及びトルクτmは、それぞれ以下の式(1)、式(2)、及び式(3)で表される。
【0016】
【数1】
【0017】
ただし、T2は二次時定数、Mは相互インダクタンス、idはd軸電流、ωsはすべり周波数、iqはq軸電流、L2は二次自己インダクタンス、sはラプラス演算子である。以下、言及しない限り、数式中のsはラプラス演算子を表す。また、すべり周波数指令ωs *は以下の式(4)となる。
【0018】
【数2】
【0019】
ただし、T2 *は二次時定数の制御側設定値、Φ2d *はd軸二次磁束指令値、M*は相互インダクタンスの制御側設定値、iq *はq軸電流指令値である。式(4)より、すべり周波数がすべり周波数指令に一致しており、かつ、T2 *=T2,Φ2d *=Φ2d,M*=M,iq *=iqであれば、Φ2qは生じない。この状態で、式(3)中のΦ2qidの項によるトルク(以下、「軸ずれトルク」と呼ぶ)は発生しない。ところで、制御モードの切り替え時に、磁束や電流の変動が発生すると、式(3)よりトルクが変動することが分かる。
【0020】
電流の変動の発生原因として、例えば、制御モード切り替え前後で、周波数推定演算部が、第1の周波数推定演算部9から、異なる制御構成となっている第2の周波数推定演算部10に切り替わることが挙げられる。加えて、第1の周波数推定演算部9と、第2の周波数推定演算部10とでは、入力の状態量も異なる。
【0021】
図1に示すように、第1の周波数推定演算部9の入力は、dq軸電流id,iqと、dq軸電流指令id *,iq *と、である。また、第2の周波数推定演算部10の入力は、dq軸電流id,iqと、dq軸電流指令id *,iq *と、周波数推定値ωr ^と、インバータ周波数ωinvと、dq軸電圧Vd *,Vq *と、第1のオフセット量演算部14の出力ωr-ofs ^と、である。なお、ωr-ofs ^が第2の周波数推定演算部10の初期値となる。
【0022】
したがって、制御構成と入力状態量が異なるため、適切な初期値ωr-ofs ^を設定せずに制御モードを切り替えると、周波数推定値ωr ^が不連続に変化する。これによって、インバータ周波数ωinvが不連続に変化し、電圧指令演算部17の出力(dq軸電圧指令Vd *,Vq *)が不連続に変化する。したがって、誘導電動機1に印加される電圧が不連続に変化することになるので、電流が不連続に変化する。ここで、トルクは、電流×磁束で決まるため、トルク変動が発生することになる。
【0023】
換言すると、電流が一定でも磁束が変動すれば、トルク変動が発生する。磁束の変動の発生原因として、例えば、すべり周波数推定誤差ωs-errが挙げられる。すべり補償演算部11によって、定常的にはすべり周波数推定誤差は0となるが、すべり補償演算部11の出力Δωsと、すべり周波数推定誤差ωs-errと、の和が0となるまでは、すべり周波数推定誤差ωs-errが発生することになる。
【0024】
すべり周波数推定誤差ωs-errが生じると、ωs≠ωs *となり、Φ2q≠0となる。したがって、軸ずれトルクが生じ、トルク変動が発生することになる。その結果、電気車などの駆動システムで、トルク変動が発生する場合には、車両の振動を引き起こし、乗り心地を悪化させる要因となるため、トルク変動を抑制する必要がある。
【0025】
そこで、実施例1の本装置4Aでは、つぎの第1、第2に示すことを達成することでトルク変動を抑制する。第1に制御モード切り替え前後の周波数推定値を連続させることである。第2に制御モード切り替え直後からすべり周波数推定誤差ωs-errを0とすることである。まず第1にいう、制御モード切り替え前後の周波数推定値を連続させる手段として、実施例1の本装置4Aでは第1のオフセット量演算部14を有する。
【0026】
図2は、図1の本装置4Aにおける第1のオフセット量演算部14をより詳細に示す機能ブロック図である。図2に示すように、第1のオフセット量演算部14は、演算結果を制御モードに応じて出力するか否か選択可能な周波数推定値切り替えスイッチ(以下、単に「スイッチ」ともいう)143を有する。スイッチ143には、少なくとも、極対数Pmをイナーシャ(慣性:inertia)設定値J*で除算した値141と、第2の周波数推定演算部10の応答時定数142と、を用いた演算結果が入力される。このスイッチ143は、制御モードに応じて、下記の通り入力を切り替える点でスイッチ13と同様である。
【0027】
制御モード0:0
制御モード1:以下の式(5)で表される値
【0028】
【数3】
【0029】
ただし、ωr-1^は第1の周波数推定演算部9による周波数推定値、τm*はトルク指令値、Pmは極対数、J*はイナーシャ設定値、Testは第2の周波数推定演算部10の応答時定数である。これによって、制御モード切り替え時の、第2の周波数推定演算部10の初期値は式(5)の値に設定される。
【0030】
ここで、すべり補償演算部11の初期値は後述する式(6)の値に設定されるため、制御モード切り替え直後のスイッチ13の入力は式(5)と式(6)の和、すなわち、ωr-1^となる。また、制御モード切り替え直前のスイッチ13の入力は、第1の周波数推定演算部9の出力ωr-1^である。したがって、制御モード切り替え前後で、ωr^の値はωr-1^で変わらないため、周波数推定値の不連続変化が無くなる。
【0031】
つぎに、制御モード切り替え直後からすべり周波数推定誤差ωs-errを0にする手段として、実施例1では第2のオフセット量演算部15を有する。図3は、図1の本装置4Aにおける第2のオフセット量演算部15をより詳細に示す機能ブロック図である。
【0032】
図3に示すように、第2のオフセット量演算部15は、極対数Pmをイナーシャ設定値J*で除算した値141と、第2の周波数推定演算部10の応答時定数142と、を少なくとも用いた演算結果を、制御モードに基づいて出力するか否か選択可能なスイッチ143を有する。
【0033】
ここで、スイッチ143について詳しく説明する。スイッチ143は制御モードに応じて、下記の通り入力を切り替える。
制御モード0:0
制御モード1:以下の式(6)で表される値
【0034】
【数4】
【0035】
式(6)の値を、すべり補償演算部11の初期値に設定することで、制御モードの切り替え直後から、Δωs + ωs-err=0の状態、すなわち、すべり周波数推定誤差ωs-errが0の状態を実現できる。以下、その理由について説明する。第2の周波数推定演算部10は、誘導電動機1のq軸誘起電圧を外乱として捉えて、q軸誘起電圧を推定することで周波数推定を行う方式であり、第2の周波数推定演算部10の周波数推定値ωr-2 ^は、以下の式(7)の通り表現できる。
【0036】
【数5】
【0037】
この時、周波数推定誤差ωr-err ^はωr-2 ^-ωrと表され、すべり周波数推定誤差ωs-errと等価である。したがって、すべり周波数推定誤差ωs-errは以下の式(8)のように表される。
【0038】
【数6】
【0039】
また、定常的には、すべり補償演算部11によって、すべり周波数推定誤差ωs-errが0となり、トルク指令値τm *とトルクτmは一致する。回転子加速度は、トルクをイナーシャ設定値J*で除算し、極対数Pmを乗算することで得られるため、周波数ωrは回転子加速度を積分することで、式(9)のように表される。
【0040】
【数7】
【0041】
したがって、式(8)と式(9)を用いて、定常的なすべり周波数推定誤差ωs-errの推定値は式(10)のように表される。
【0042】
【数8】
【0043】
なお、定常状態を考えるためs=0とした。この定常的なすべり周波数推定誤差ωs-errを補償するように、すべり補償演算部11は動作する。すなわち、Δωsは、式(10)に-1を乗算した上式(6)の値に収束することになり、定常状態ではΔωs + ωs-err=0となる。ただし、収束までには一定時間必要であり、過渡的にはΔωs + ωs-err≠0となり過渡的な磁束の変動が生じる。
【0044】
そこで、上式(6)の値を、すべり補償演算部11の初期値に設定すれば、制御モードの切り替え直後から、Δωs + ωs-err=0の状態を実現できることが分かる。したがって、すべり周波数推定誤差ωs-errによる、過渡的な磁束の変動が抑制できる。以上が、実施例1における、制御モード切り替え時のトルク変動抑制手段である。
【0045】
以下、実施例1の構成要素について説明する。第1の座標変換部8は、前記相電流検出回路2を用いて検出された三相交流電流を、dq軸電流に変換する。第1の周波数推定演算部9は、制御モード0の場合に、q軸電流指令iq *と、q軸電流iqと、の差をPI制御することで、誘導電動機1の周波数推定値ωr-1 ^を出力する。
【0046】
第2の周波数推定演算部10は、制御モード1の場合に、誘導電動機1が周波数ωrで回転することによって生じるq軸誘起電圧を外乱として推定することで、誘導電動機1の周波数を推定する。q軸誘起電圧は、d軸電流指令id *と、q軸電流iqと、インバータ周波数ωinvと、q軸電圧指令Vq *と、前回周期の周波数推定値ωr ^と、モータ定数と、を用いて推定する。
【0047】
また、応答時定数はTestである。また、制御モード切り替え直後の初期値は、第1のオフセット量演算部14の出力ωr-ofs ^が設定され、その値は式(5)に等しい。すべり補償演算部11は、制御モード1の場合に、q軸二次磁束Φ2qを推定し、これを0に追従させることで、すべり周波数推定誤差ωs-errを抑制する。q軸二次磁束Φ2qは、周波数推定値ωr ^と、インバータ周波数ωinvと、d軸電圧指令Vd *と、dq軸電流指令id *,iq *と、モータ定数と、を用いて推定する。
【0048】
また、制御モード切り替え直後の初期値は、第2のオフセット量演算部15の出力Δωs-ofsが設定され、その値は式(6)に等しい。すべり周波数指令演算部12は、インバータ周波数ωinvを得るために必要な、すべり周波数指令値ωs*を演算する。すべり周波数指令値はdq軸電流指令id *,iq *と、モータ定数と、を用いて演算する。
【0049】
スイッチ13は制御モードに応じて、下記の通り入力を切り替える。
制御モード0:第1の周波数推定演算部9の出力ωr-1 ^
制御モード1:第2の周波数推定演算部10の出力ωr-2 ^と、すべり補償演算部11の出力Δωsの和
【0050】
第1のオフセット量演算部14は、制御モード切り替え直後の、第2の周波数推定演算部10の初期値のオフセット量ωr-ofs ^を演算する。オフセット量ωr-ofs ^は、第1の周波数推定演算部9による周波数推定値ωr-1 ^と、トルク指令値τm *と、極対数Pmと、イナーシャ設定値J*と、第2の周波数推定演算部10の応答時定数Testと、を用いて演算する。
【0051】
第2のオフセット量演算部15は、制御モード切り替え直後の、第2の周波数推定演算部10の初期値のオフセット量Δωs-ofsを演算する。オフセット量Δωs-ofsは、トルク指令値τm *と、極対数Pmと、イナーシャ設定値J*と、第2の周波数推定演算部10の応答時定数Testと、を用いて演算される。位相演算部16は、座標変換に必要な制御軸の位相θについて、インバータ周波数ωinvを用いて演算する。
【0052】
電圧指令演算部17は、dq軸電圧指令Vd *,Vq *について、インバータ周波数ωinvと、dq軸電流指令id *,iq *と、を用いて演算する。第2の座標変換部18は、電圧指令演算部17が出力したdq軸電圧指令Vd *,Vq *を、三相交流電圧指令Vu *,Vv *,Vw *に変換する。PWM信号発生部19は、第2の座標変換部18が出力する三相交流電圧指令Vu *,Vv *,Vw *を用いて、PWM信号を発し、ゲート・ドライバ6へ出力する。
【0053】
以上のように、実施例1では制御モードの切り替え前後でインバータ周波数ωinvが連続し、かつ、制御モードの切り替え直後から、すべり周波数推定誤差ωs-errが0となる。したがって、実施例1の本装置4Aによれば、制御モード切り替え時のトルク変動を抑制することが可能となる。
【実施例0054】
実施例2の構成要素について説明する。図4は、本装置(コントローラ)4Bを適用した電動機システムの機能ブロック図である。実施例2は、図4に示すように、実施例1の構成要素に加えて、負荷質量検出部20を有する。また、第1のオフセット量演算部21と第2のオフセット量演算部15に代えて、第1のオフセット量演算部21と第2のオフセット量演算部22を有する。以下、実施例1との相違点について説明する。
【0055】
負荷質量検出部20について説明する。負荷質量検出部20は負荷の質量Massを検出し、第1のオフセット量演算部21と第2のオフセット量演算部22に入力する。第1のオフセット量演算部21について説明する。図5は、図4の本装置4Bにおける第1のオフセット量演算部21をより詳細に示す機能ブロック図である。
【0056】
第1のオフセット量演算部21は、極対数(Pm)211と、回転半径(r)212と、第2の周波数推定演算部10の応答時定数142と、を少なくとも用いた演算結果を、制御モードに基づいて出力するか否か選択可能なスイッチ143を有する。ここで、回転半径(r)212は、誘導電動機1による角運動量が取り出される部品の半径を指す。例えば電気車であれば、車輪の半径rの値が回転半径(r)212に設定される。
【0057】
スイッチ143の動作は前述の通りであるが、選択する値が、図2に示した第1のオフセット量演算部14と異なる。図5に示す第1のオフセット量演算部21では、制御モードに応じて、下記の通り入力を切り替える。
制御モード0:0
制御モード1:以下の式(11)で表される値
【0058】
【数9】
【0059】
ただし、Massは負荷の質量、rは回転半径である。つぎに、第2のオフセット量演算部22について説明する。図6は、図4の本装置4Bにおける第2のオフセット量演算部22をより詳細に示す機能ブロック図である。第2のオフセット量演算部22は、少なくとも、極対数(Pm)211と、回転半径(r)212と、第2の周波数推定演算部10の応答時定数142と、を用いた演算結果を制御モードに応じて出力するか否か選択可能なスイッチ143を有する。
【0060】
スイッチ143の動作は前述の通りであるが、選択する値が、第1のオフセット量演算部14と異なる。第1のオフセット量演算部21では、制御モードに応じて、下記の通り入力を切り替える。
制御モード0:0
制御モード1:以下の式(12)で表される値
【0061】
【数10】
【0062】
以上が、実施例2の構成要素に関する説明である。つぎに、実施例2が解決する課題について説明する。実施例1では、式(10)で定常的なすべり周波数推定誤差ωs-errを推定した。この時、負荷の質量変動により、イナーシャ設定値J*と実イナーシャの値が異なる場合、定常的なすべり周波数推定誤差ωs-errの推定値に誤差が生じる。
【0063】
したがって、制御モードの切り替え直後において、すべり周波数推定誤差ωs-errが0とならず、トルク変動が生じる。以上が、実施例2が解決する課題に関する説明である。つぎに、実施例2の原理について説明する。実施例2では、負荷質量検出部20が負荷の質量Massを検出するため、式(13)は以下のように変形できる。
【0064】
【数11】
【0065】
したがって、負荷の質量Massから実イナーシャを計算することができる。以上が、実施例2の原理に関する説明である。以上のように、実施例2では、負荷の質量変動が生じても、実イナーシャを計算することができるため、すべり周波数推定誤差ωs-errを精度良く推定することが可能である。これによって、負荷の質量変動が生じても、トルク変動の抑制効果を維持することができる。
【実施例0066】
図7は、本発明の実施例3に係る電気車の模式図であり、実施例1又は実施例2の制御装置4を、電気車に適用した場合の実施例である。実施例3に係る電気車は、制御装置として、相電流検出回路2、インバータ3、及びコントローラ4を搭載する。これらの制御装置(2~4)には、架線23より電力が供給され、この制御装置(2~4)によって、電気車が搭載する複数台の誘導電動機1が駆動される。
【0067】
実施例1又は実施例2に係る制御装置(本装置)4を電気車に搭載することで、車両の走行中に制御モードを切り替えた場合でも、トルク変動を抑制することが可能となる。そのため、電気車の車体動揺を低減することができ、乗客の乗り心地等を改善することが可能である。
【0068】
[制御方法]
つぎに、本発明の実施形態に係る制御方法(本方法)について説明する。図8は、本方法で実行される制御の各ステップを示すフローチャートである。本方法は、図1及び図4に示す制御装置(コントローラ)4(2,3を含めても良い)を用いて誘導電動機1を制御する方法であり、図8に示すステップ(S1~S9)を有する。
【0069】
これらは、説明の便宜上、各々を異なるステップに区別しているが、全体的に電気回路で構成された制御装置4であるため、必ずしも別タイミングの別ステップとは限らず、同時進行していることもある。同じ理由のため、S符号の小さい方から大きい方へと順番通りに実行されるとは限らない。
【0070】
コントローラ4は、メモリから読み出されたプログラムをコンピュータのCPU(Central Processing Unit)が実行することにより各機能が形成される。なお、コンピュータは専用のワンチップマイコンで足りるが、他用途のコンピュータの一部を兼用利用する形態でも良い。また、同等機能の一部又は全部をハードウェアにより実現しても構わない。
【0071】
例えば、三相のインバータ3は、誘導電動機1に三相交流電力を供給し、その三相交流電力の周波数に基づく回転磁界を形成してトルクを発生する(ステップS1)。つぎに、第1の座標変換部8が、相電流検出回路2の検出出力に基づいて、d軸電流id及びq軸電流iqを生成する(ステップS2)。
【0072】
ここで、2つあるうちの一方である第1の周波数推定演算部9が、dq軸電流id,iqと、dq軸電流指令id *,iq *と、を入力し、低速運転領域の制御モード0における誘導電動機1の周波数ωr-1 ^を推定する(ステップS3)。また、2つあるうちの他方である第2の周波数推定演算部10が、誘導電動機1のq軸誘起電圧を用いて、誘導電動機1の周波数ωr-2 ^を推定する(ステップS4)。
【0073】
ここで、制御装置4を用いた誘導電動機1が、例えば静止状態から回転を開始してしばらく経過すると、制御装置4の制御モードが、低速運転領域の制御モード0から、高速運転領域の制御モード1へと、切り替わる(ステップS5)。このとき、制御モードの切り替えに応じて、誘導電動機1の周波数を推定するため、後段の位相演算部16及び電圧指令演算部17に、信号入力するように接続して用いられる演算部は、第1の周波数推定演算部9から、第2の周波数推定演算部10へと、切り替えられる。
【0074】
周波数推定値切り替えスイッチ13が、制御モードの切換えに応じて、第1の周波数推定演算部9の出力ωr-1^を停止する。その代わりに、スイッチ13は、第2の周波数推定演算部10の出力ωr-2^と、すべり補償演算部11の出力Δωsと、の和を後段に接続して出力する。
【0075】
また、第1のオフセット量演算部14,21が、制御モードに応じて、周波数推定値を切り替えた後の、第2の周波数推定演算部10の初期値を演算する(ステップS7)。さらに、第2のオフセット量演算部15,22が、制御モードに応じて、周波数推定値を切り替えた後の、すべり補償演算部11の初期値を演算する(ステップS8)。
【0076】
この初期値は、第2のオフセット量演算部15,22から、すべり補償演算部11を経由して第2の周波数推定演算部10に対し、切り替え前のインバータ周波数ωinvを切り替え後にも引き継がせるように作用する。このとき、すべり補償演算部11は、高速運転領域の制御モード1において、すべり周波数推定誤差ωs-errを抑制するように動作する(ステップS9)。
【0077】
したがって、制御モードが0から1に変化したとき選択された、第2の周波数推定演算部10の出力と、すべり補償演算部11の出力と、の和に含まれるすべり周波数推定誤差ωs-errが抑制されている。このように動作する本方法によれば、コントローラ(本装置)4が、制御モードを低速領域の0から高速領域の1へ切り替える前後で、誘導電動機1を駆動するインバータ周波数ωinvが変化することを抑制できる。その結果、誘導電動機1は、制御モードの切り替え時に生じるトルク変動が抑制される。
【0078】
本発明の実施形態に係る制御装置(本装置)4は、つぎのように総括できる。
[1]図1及び図4に示す本装置4は、誘導電動機1を制御する。本装置4は、インバータ3と、第1の周波数推定演算部9と、第2の周波数推定演算部10と、すべり補償演算部11と、スイッチ13と、第1のオフセット量演算部14,21と、第2のオフセット量演算部15,22と、を備えた。
【0079】
インバータ3は、誘導電動機1に三相交流電力を供給するDC/AC変換装置である。第1の周波数推定演算部9は、低速運転領域の制御モード0において、誘導電動機1の周波数を推定するものである。第2の周波数推定演算部10は、誘導電動機1のq軸誘起電圧を用いて、誘導電動機1の周波数を推定する。
【0080】
第1のオフセット量演算部14,21は、制御モードに応じて、周波数推定値を切り替えた後の、第2の周波数推定演算部10の初期値を演算する。第2のオフセット量演算部15,22は、制御モードに応じて、周波数推定値を切り替えた後の、すべり補償演算部11の初期値を演算する。
【0081】
また、制御モードが切り替わるとき、すなわち、低速運転領域の制御モード0から、高速運転領域の制御モード1への切り替わるとき、誘導電動機1の周波数を推定するために用いられる演算部が、第1の周波数推定演算部9から、第2の周波数推定演算部10に切り替えられる。
【0082】
スイッチ13は、制御モード0のときに第1の周波数推定演算部9のみを選択して、その演算結果を出力している。制御モードが0から1に変化すれば、それに応じて、第2の周波数推定演算部10の出力と、すべり補償演算部11の出力と、の和を選択するように、スイッチ13が切り替わる。
【0083】
ここで、すべり補償演算部11の初期値は式(6)の値に設定される。また,第2の周波数推定演算部10の初期値は式(5)の値に設定される。その結果、式(5)と式(6)の和、すなわち、ωr-1^となる。また、制御モード切り替え直前のスイッチ13の入力は、第1の周波数推定演算部9の出力ωr-1^である。したがって、制御モード切り替え前後で、ωr^の値はωr-1^で変わらないため、周波数推定値の不連続変化が無くなる。
【0084】
このとき、すべり補償演算部11は、高速運転領域の制御モード1において、すべり周波数推定誤差ωs-errを抑制するように動作する。したがって、制御モードが0から1に変化したとき選択された、第2の周波数推定演算部10の出力と、すべり補償演算部11の出力と、の和に含まれるすべり周波数推定誤差ωs-errが抑制されている。その結果、本制御装置(コントローラ)4は、制御モードの切り替え時に生じるトルク変動を抑制できる。
【0085】
[2]図3及び図6に示すように、上記[1]の本装置4において、第2のオフセット量演算部15,22は、制御モードに応じて、周波数推定値を切り替えた後のすべり補償演算部11の初期値を、誘導電動機1の回転子加速度に、第2の周波数推定演算部10の応答時定数142を乗算して演算すると良い。そうすることで、すべり周波数推定誤差ωs-errがより適切に抑制される。その結果、本制御装置(コントローラ)4は、制御モードの切り替え時に生じるトルク変動を良好に抑制できる。
【0086】
[3]図1図3に示すように、上記[2]の本装置4Aにおいて、第2のオフセット量演算部15は、誘導電動機1の回転子加速度と、トルク指令値τm *と、誘導電動機1の極対数(Pm)211と、を乗算して、予め設定した負荷のイナーシャJ*で除算するように演算すると良い。このように演算する第2のオフセット量演算部15は、制御モードに応じて、周波数推定値を切り替えた後のすべり補償演算部11の初期値を設定する。
【0087】
ここで、すべり補償演算部11の初期値は上式(6)の値に設定されるため、制御モード切り替え直後のスイッチ13の入力は上式(5)と上式(6)の和、すなわち、ωr-1^となる。また、制御モード切り替え直前のスイッチ13の入力は、第1の周波数推定演算部9の出力ωr-1^である。
【0088】
したがって、制御モード切り替え前後で、ωr^の値はωr-1^で変わらないため、周波数推定値の不連続変化が無くなる。また、負荷のイナーシャは、実施状態に応じて変動するが、その変動値に代えて設計値や経験則に基づく固定値を採用して予め設定しておけば、計算を簡略化できるので、実用上有益である。
【0089】
[4]図4図6に示すように、上記[3]の本装置4Bにおいて、負荷質量検出部20をさらに有し、その負荷質量検出部20から得られた負荷質量Massの情報を用いて、第2のオフセット量演算部22が負荷のイナーシャを演算すると良い。本装置4Bの第2のオフセット量演算部22は、制御モードに応じて周波数推定値を切り替えた後、すべり補償演算部11の初期値を、実際に計量した負荷質量Massに基づいて、より精密に設定できる。
【0090】
換言すると、本装置4Bでは、負荷質量検出部20を用いて負荷の質量Massから実イナーシャを計算することができるため、負荷の質量変動が生じても、すべり周波数推定誤差ωs-errを精度良く推定することにより、トルク変動の抑制効果を維持できる。その結果、本装置4Bは、誘導電動機1のフリーラン再起動時の衝撃を良好に軽減することができる。
【0091】
[5]図1図2図4、及び図5に示すように、上記[1]~[4]の何れかの本装置4において、第1のオフセット量演算部14,21は、第2の周波数推定演算部10の初期値を、制御モードに応じて、周波数推定値を切り替える前後でインバータ周波数ωinvの変化を少なくする方向に演算すると良い。インバータ周波数ωinvの変化を少なくする方向とは、インバータ周波数ωinvが連続させることであり、そうすれば、誘導電動機1を駆動する回転磁界の回転速度も変化なく連続しているので、本装置4は、フリーラン再起動時の衝撃を軽減し易くすることができる。
【0092】
そうすることによって、制御モードが0から1に変化したとき選択された、第2の周波数推定演算部10の演算出力は、周波数推定値を切り替える前後で、インバータ周波数ωinvが連続するような初期値に基づいて滑らかである。その結果、本制御装置(コントローラ)4は、制御モードの切り替え時に生じるトルク変動を抑制できる。
【0093】
[6]図7に示すように、上記[5]に記載の本装置4を電気車に備えると良い。その電気車は、定速と高速とそれぞれの走行状態を遷移するタイミングで生じるトルク変動が抑制されるため、乗客に良好な乗り心地を提供できる。
【符号の説明】
【0094】
1 誘導電動機、2 相電流検出回路、3 インバータ、4A,4B(まとめて4) 制御装置(本装置、コントローラ)、5 直流電圧電源、6 ゲート・ドライバ(Gate driver)、7 主回路部、8 第1の座標変換部(First coordinate conversion part)、9 第1の周波数推定演算部(First frequency estimation calculation part)、10 第2の周波数推定演算部(Second frequency estimation calculation part)、11 すべり補償演算部(Slip compensation calculation part)、12 すべり周波数指令演算部(Slip frequency command calculation part)、13,143 周波数推定値切り替えスイッチ、14,21 第1のオフセット量演算部(First offset calculation part)、15,22 第2のオフセット量演算部(Second offset calculation part)、16 位相演算部(Phase calculation part)、17 電圧指令演算部(Voltage command calculation part)、18 第2の座標変換部(Second coordinate conversion part)、19 PWM信号発生部(PWM signal generator)、20 負荷質量検出部、23 架線、141 極対数Pmをイナーシャ設定値J*で除算した値、142 (第2の周波数推定演算部10の)応答時定数、211 極対数Pm、212 回転半径r
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8