IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人三重大学の特許一覧

<>
  • 特開-アンテナ電極電気光学変調器 図1A
  • 特開-アンテナ電極電気光学変調器 図1B
  • 特開-アンテナ電極電気光学変調器 図1C
  • 特開-アンテナ電極電気光学変調器 図2
  • 特開-アンテナ電極電気光学変調器 図3
  • 特開-アンテナ電極電気光学変調器 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023037486
(43)【公開日】2023-03-15
(54)【発明の名称】アンテナ電極電気光学変調器
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/035 20060101AFI20230308BHJP
【FI】
G02F1/035
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021144269
(22)【出願日】2021-09-03
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、総務省、「セキュリティ強化に向けた移動物体高度認識レーダー基盤技術の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】村田 博司
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA21
2K102BA02
2K102BB04
2K102BC04
2K102BD01
2K102CA11
2K102DA04
2K102DD05
2K102EA02
2K102EA12
2K102EA17
(57)【要約】
【課題】従来よりも高い変換効率で電気光学変換を行うことができるアンテナ電極電気光学変調器を提供する。
【解決手段】アンテナ電極電気光学変調器10は、ベース基板12と、ベース基板12の上面においてy軸方向に並べて配置されたパッチアンテナ20~23と、パッチアンテナ20~23の上方に配置された誘電性材料からなる電気光学結晶基板14とを備え、パッチアンテナ20~23のそれぞれは、x軸方向に沿って配置された、第1アンテナ素子20a、第1線路20b、共振電極20c、第2線路20d、及び、第2アンテナ素子20eを有し、電気光学結晶基板14のパッチアンテナ20~23に対向する面にはy軸方向に延伸する光導波路30が形成されており、電気光学結晶基板14は、パッチアンテナ20~23の上方のうち、共振電極20cの上方にだけ、配置されている。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光信号を無線信号で変調して出力するアンテナ電極電気光学変調器であって、
ベース基板と、
前記ベース基板の上面において第1方向に並べて配置され、前記無線信号を受信する複数のパッチアンテナと、
前記複数のパッチアンテナの上方に配置された誘電性材料からなる電気光学結晶基板とを備え、
前記複数のパッチアンテナのそれぞれは、前記ベース基板の上面において前記第1方向と直交する第2方向に沿って配置された、第1アンテナ素子、前記第1アンテナ素子に接続された第1線路、前記第1線路に接続された共振電極、前記共振電極に接続された第2線路、及び、前記第2線路に接続された第2アンテナ素子を有し、
前記電気光学結晶基板の前記複数のパッチアンテナに対向する面には、前記共振電極の上方に対応する位置において第1方向に延伸する、前記光信号を伝送するための光導波路が形成されており、
前記電気光学結晶基板は、前記複数のパッチアンテナの上方のうち、前記共振電極の上方にだけ、配置されている、
アンテナ電極電気光学変調器。
【請求項2】
前記複数のパッチアンテナのそれぞれにおいて、
前記第1線路は、(1)上方に前記電気光学結晶基板が配置されていない位置に形成され、一端が前記第1アンテナ素子に接続される、第1幅を有する第1部分線路と、(2)上方に前記電気光学結晶基板が配置された位置に形成され、前記第1部分線路の他端に一端が接続され、かつ、他端が前記共振電極に接続される、前記第1幅よりも小さい第2幅を有する第2部分線路とを含み、
前記第2線路は、(1)上方に前記電気光学結晶基板が配置されていない位置に形成され、一端が前記第2アンテナ素子に接続される、前記第1幅を有する第3部分線路と、(2)上方に前記電気光学結晶基板が配置された位置に形成され、前記第3部分線路の他端に一端が接続され、かつ、他端が前記共振電極に接続される、前記第2幅を有する第4部分線路とを含む、
請求項1記載のアンテナ電極電気光学変調器。
【請求項3】
前記複数のパッチアンテナのそれぞれにおいて、
前記第1部分線路の前記他端は、前記第2部分線路に近づくに従って漸次幅が狭くなるテーパ形状を有し、
前記第3部分線路の前記他端は、前記第4部分線路に近づくに従って漸次幅が狭くなるテーパ形状を有する、
請求項2記載のアンテナ電極電気光学変調器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光信号を無線信号で変調して出力するアンテナ電極電気光学変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体無線通信システムは第5世代(5G)に突入しつつある。5Gシステムの特徴は、高速データ転送、低遅延、及び、多端末同時接続である。さらに、5Gの次世代(Beyond 5G/6G)の研究開発も始まっている。
【0003】
このような背景の下、ミリ波は次世代・次々世代移動体通信や高分解能レーダーシステムの本命として期待されている。ところが、ミリ波は伝搬損失が大きいという問題があり、その問題は、信号伝送や信号処理の観点からはかなりの制約となってしまう。そのために、ミリ波を光信号に変換し低損失な石英光ファイバを用いて伝送するRoF(Radio-over-Fiber)技術が有用である。今後、ミリ波を用いた様々なデバイス・システム・アプリケーションが創出されると考えられるため、ミリ波無線信号を光信号に変換するデバイスはより重要になると考えられる。
【0004】
そこで、従来、次々世代(Beyond 5G)無線通信のためのRoFベース無線通信技術として、アンテナ電極電気光学変調器が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、平面アンテナと電気光学変調器を融合させたアンテナ電極電気光学変調器が開示されている。このアンテナ電極電気光学変調器は、アンテナ電極を単一モード光導波路に沿ってアレイ状に並べた構成を備える。アンテナ電極は、一組のマイクロストリップ・パッチアンテナを定在波共振電極に結合させた構成となっている。これにより、電源を必要とすることなく、ミリ波無線信号を光信号に変換している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6739808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のアンテナ電極電気光学変調器では、板状のLiNbOが用いられており、高周波になるにつれて、その板状のLiNbOの層全体で共振が起こってしまい、その結果、電気光学変換における変換効率が落ちてしまうという課題がある。
【0007】
そこで、本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであり、従来よりも高い変換効率で電気光学変換を行うことができるアンテナ電極電気光学変調器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本開示の一形態に係るアンテナ電極電気光学変調器は、光信号を無線信号で変調して出力するアンテナ電極電気光学変調器であって、ベース基板と、前記ベース基板の上面において第1方向に並べて配置され、前記無線信号を受信する複数のパッチアンテナと、前記複数のパッチアンテナの上方に配置された誘電性材料からなる電気光学結晶基板とを備え、前記複数のパッチアンテナのそれぞれは、前記ベース基板の上面において前記第1方向と直交する第2方向に沿って配置された、第1アンテナ素子、前記第1アンテナ素子に接続された第1線路、前記第1線路に接続された共振電極、前記共振電極に接続された第2線路、及び、前記第2線路に接続された第2アンテナ素子を有し、前記電気光学結晶基板の前記複数のパッチアンテナに対向する面には、前記共振電極の上方に対応する位置において第1方向に延伸する、前記光信号を伝送するための光導波路が形成されており、前記電気光学結晶基板は、前記複数のパッチアンテナの上方のうち、前記共振電極の上方にだけ、配置されている。
【発明の効果】
【0009】
本開示により、従来よりも高い変換効率で電気光学変換を行うことができるアンテナ電極電気光学変調器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A図1Aは、実施の形態におけるアンテナ電極電気光学変調器の構成を示す外観図である。
図1B図1Bは、図1Aに示されたアンテナ電極電気光学変調器に対して1B-1B線を含む面で切断して得られる断面図である。
図1C図1Cは、図1Aに示されたアンテナ電極電気光学変調器が備える一つのパッチアンテナの平面図である。
図2図2は、図1Aに示されたアンテナ電極電気光学変調器のパッチアンテナ部分の解析結果を示す図である。
図3図3は、図1Aに示されたアンテナ電極電気光学変調器の共振電極部分の解析結果を示す図である。
図4図4は、パッチアンテナ部分と共振電極部分とが結合されたパッチアンテナ全体の解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本開示の一具体例を示す。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序等は、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、各図は、必ずしも厳密に図示したものではない。各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0012】
図1Aは、実施の形態におけるアンテナ電極電気光学変調器10の構成を示す外観図である。ここでは、アンテナ電極電気光学変調器10を上方斜めから見た透視的な外観が示されている。図1Bは、図1Aに示されたアンテナ電極電気光学変調器10に対して1B-1B線を含む面で切断して得られる断面図である。図1Cは、図1Aに示されたアンテナ電極電気光学変調器10が備える一つのパッチアンテナ20の平面図である。なお、図1Cには、一つのパッチアンテナ20が示されているが、他のパッチアンテナ21~23についても、パッチアンテナ20と同じ構造を有する。また、図1A図1Cには、互いに直交するx軸、y軸及びz軸が示されている。
【0013】
アンテナ電極電気光学変調器10は、電源を必要とすることなく、従来よりも高い変換効率で電気光学変換を行うことができる電気光学変調器であり、図1Aに示されるように、主要な構成要素として、ベース基板12と、ベース基板12の上面において第1方向(y軸方向)に並べて配置され無線信号40を受信する複数のパッチアンテナ20~23と、複数のパッチアンテナ20~23の上方に配置された誘電性材料からなる電気光学結晶基板14とを備える。
【0014】
なお、図1Bに示されるように、電気光学結晶基板14とベース基板12との間には、電気光学結晶基板14の下面と、ベース基板12の上面及びパッチアンテナ20~23とを覆う絶縁層であるバッファ層16が設けられている。
【0015】
図1Cに示されるように、複数のパッチアンテナ20~23のそれぞれは、ベース基板12の上面において第1方向(y軸方向)と直交する第2方向(x軸方向)に沿って配置された第1アンテナ素子20a、第1アンテナ素子20aに接続された第1線路20b、第1線路20bに接続された共振電極20c、共振電極20cに接続された第2線路20d、及び、第2線路20dに接続された第2アンテナ素子20eを有する。
【0016】
図1A及び図1Bに示されるように、電気光学結晶基板14の複数のパッチアンテナ20~23に対向する面には、共振電極20cの上方に対応する位置において第1方向(y軸方向)に延伸する、光信号(つまり、光)35を伝送するための光導波路30が形成されている。
【0017】
ここで、特徴的な点として、電気光学結晶基板14は、図1Bに示される断面において、複数のパッチアンテナ20~23の上方のうち、共振電極20cの上方にだけ、配置されている。
【0018】
以下、アンテナ電極電気光学変調器10を構成する各構成要素について、詳細に説明する。
【0019】
ベース基板12は、アンテナ電極電気光学変調器10の実効誘電率を減少させてパッチアンテナ20~23(特に、共振電極20c)の性能を向上させるため、並びに、パッチアンテナ20~23からの外力を受けた電気光学結晶基板14が割れてしまうことを防止するために補強する基板であり、例えば、底面にグランドパターン12aが施された厚さ約57μmのSiOからなる基板である。
【0020】
バッファ層16は、例えば、厚さ0.2μmのSiOからなる薄膜である。バッファ層16の下面に、パッチアンテナ20~23が形成されている。パッチアンテナ20~23が形成されたバッファ層16とベース基板12とは、紫外線硬化型樹脂等からなる接着剤で接合されている。
【0021】
電気光学結晶基板14は、強誘電性の材料(例えば、z-cut LiNbO又はz-cut LiTaO)からなる厚さ約25μmの平板状の基板である。電気光学結晶基板14の下面に、溝構造(例えば、幅約4μm、深さ約1.5μm)の光導波路30が形成されている。光導波路30の一端は、光信号35が入力される入力ポート31であり、他端は、変調後の光信号35が出力される出力ポート32である。図1Aでは、入力ポート31の近くには、入力される光信号35のスペクトル例が描かれ、出力ポート32の近くには、出力される光信号35(周波数fmの無線信号40で変調された光信号35)のスペクトル例が描かれている。
【0022】
なお、上述したように、電気光学結晶基板14は、図1Bに示される断面において、複数のパッチアンテナ20~23の上方のうち、共振電極20cの上方にだけ配置されている。より詳しくは、電気光学結晶基板14は、図1Bに示される断面において、共振電極20cの全体を覆い(上方に配置され)、かつ、第1アンテナ素子20a及び第2アンテナ素子20eのいかなる箇所も覆わない(上方に配置されない)大きさであれば、任意の大きさでよい。
【0023】
パッチアンテナ20~23のそれぞれは、78GHzの無線信号40に共振するように設計されたアルミニウム製の方形マイクロストリップ・パッチアンテナであり、図1Cに示されるように、第1アンテナ素子20a、第1線路20b、共振電極20c、第2線路20d、及び、第2アンテナ素子20eで構成される。パッチアンテナ20~23は、例えば、3.50mm間隔で配置される。
【0024】
第1アンテナ素子20a及び第2アンテナ素子20eは、一辺が1236μm(つまり、電気長が半波長)の正方形状を有する。なお、この大きさは、第1アンテナ素子20a及び第2アンテナ素子20eの上方に電気光学結晶基板14が配置されないことに起因している。もし、従来技術のように、第1アンテナ素子20a及び第2アンテナ素子20eの上方に電気光学結晶基板14が配置される場合には、78GHzの無線信号40に共振するためには、一辺が536μmの正方形状にする必要がある。
【0025】
第1線路20bは、(1)上方に電気光学結晶基板14が配置されていない位置に形成され、一端が第1アンテナ素子20aに接続される、第1幅(ここでは、170μm)を有する第1部分線路20b1と、(2)上方に電気光学結晶基板14が配置された位置に形成され、第1部分線路20b1の他端に一端が接続され、かつ、他端が共振電極20cに接続される、第1幅よりも小さい第2幅(ここでは、40μm)を有する第2部分線路20b2とを含む。同様に、第2線路20dは、(1)上方に電気光学結晶基板14が配置されていない位置に形成され、一端が第2アンテナ素子20eに接続される、第1幅(ここでは、170μm)を有する第3部分線路20d1と、(2)上方に電気光学結晶基板14が配置された位置に形成され、第3部分線路20d1の他端に一端が接続され、かつ、他端が共振電極20cに接続される、第2幅(ここでは、40μm)を有する第4部分線路20d2とを含む。これにより、第1部分線路20b1と第2部分線路20b2とのインピーダンス整合、及び、第3部分線路20d1と第4部分線路20d2とのインピーダンス整合が確保され、第1アンテナ素子20a及び第2アンテナ素子20eで受信された電力が効率的に共振電極20cに給電される。
【0026】
そして、第1部分線路20b1の他端は、第2部分線路20b2に近づくに従って漸次幅が狭くなるテーパ形状の箇所(テーパ部20b3)を有する。テーパ部20b3は、第1線路20bの幅が第1幅(ここでは、170μm)から第2幅(ここでは、40μm)に変化する領域であり、長さが、例えば、180μmである。同様に、第3部分線路20d1の他端は、第4部分線路20d2に近づくに従って漸次幅が狭くなるテーパ形状の箇所(テーパ部20d3)を有する。テーパ部20d3は、第2線路20dの幅が第1幅(ここでは、170μm)から第2幅(ここでは、40μm)に変化する領域であり、長さが、例えば、180μmである。これにより、第1部分線路20b1と第2部分線路20b2との接続箇所、及び、第3部分線路20d1と第4部分線路20d2と接続箇所における不要な電磁波輻射が抑制され、第1アンテナ素子20a及び第2アンテナ素子20eで受信された電力が、伝搬ロスが抑制された状態で、共振電極20cに給電される。
【0027】
共振電極20cは、図1Cに示されるように、第1方向(y軸方向)に延びる2辺を含むトラック形状のループ形状を有し、ループ形状を構成する一辺が第1線路20bと直角に接続され、ループ形状を構成するもう一辺が第2線路20dと直角に接続されている。
【0028】
以上のように構成される本実施の形態におけるアンテナ電極電気光学変調器10は、次の工程で製造される。つまり、図1Bに示される断面図を上下反転した状態で、下層(つまり、電気光学結晶基板)から上層に向けて、製造していく。
【0029】
具体的には、まず、ベース基板12と同程度の平面的な大きさをもつ電気光学結晶基板を準備し、電気光学結晶基板の表面に、安息香酸プロトン交換法によって溝構造の光導波路30を形成する。次に、電気光学結晶基板14の表面全域にSiOからなるバッファ層16を形成し、バッファ層16の上面に、フォトリソグラフィ技術によって、アルミニウム製のパッチアンテナ20~23を形成する。そして、パッチアンテナ20~23が形成されたバッファ層16の下面に接着剤を塗布し、そこに、底面にグランドパターン12aが施されたベース基板12を、グランドパターン12aが施されていない面が接着されるように、貼り合わせる。最後に、バッファ層16が形成された電気光学結晶基板のうち、図1Bに示される断面において、共振電極20cの上方より広い領域を除去することで、共振電極20cの上方にだけ配置された電気光学結晶基板14を形成する。
【0030】
次に、以上のように製造される本実施の形態に係るアンテナ電極電気光学変調器10の動作について、説明する。
【0031】
アンテナ電極電気光学変調器10に無線信号40が照射されると、パッチアンテナ20~23において、無線信号40が第1アンテナ素子20a及び第2アンテナ素子20eで受信され、共振電極20cに給電されることで、共振電極20cに定在波が発生する。これにより、共振電極20cの周りに電界が発生し、ポッケルス効果により、電気光学結晶基板14の屈折率が変化する。その結果、光導波路30の入力ポート31から入力された光信号35が、4つのパッチアンテナ20~23の共振電極20cのそれぞれにおいて、変調され、変調後の光信号35が光導波路30の出力ポート32から出力される。
【0032】
次に、本実施の形態に係るアンテナ電極電気光学変調器10の特性を解析したので、その結果を説明する。
【0033】
効率よく解析を行うために、まず、パッチアンテナ部分(第1アンテナ素子20a及び第1部分線路20b1を含む部分、あるいは、第2アンテナ素子20e及び第3部分線路20d1を含む部分)と共振電極部分(第2部分線路20b2、共振電極20c及び第4部分線路20d2を含む部分)とに分け、それぞれについて解析を行い、その後、それらを結合させて解析を行った。それぞれの解析については、三次元電磁界シミュレータHFSSを用いた。
【0034】
図2は、図1Aに示されたアンテナ電極電気光学変調器10のパッチアンテナ部分の解析結果を示す図である。ここには、パッチアンテナ部分の反射係数(dB)の周波数(GHz)依存性が示されている。パッチアンテナ部分は、78GHzに共振する構造になっていることが分かる。
【0035】
図3は、図1Aに示されたアンテナ電極電気光学変調器10の共振電極部分の解析結果を示す図である。ここには、共振電極部分の反射係数(dB)の周波数(GHz)依存性が示されている。共振電極部分は、78GHzに共振する構造になっていることが分かる。
【0036】
図4は、パッチアンテナ部分と共振電極部分とが結合されたパッチアンテナ20(あるいは、21~23)全体の解析結果を示す図である。ここでは、パッチアンテナ部分と共振電極部分とが結合されたパッチアンテナ20の共振電極20cの表面の電界分布が示されている。ここで、横軸は、共振電極20cにおけるy軸方向の位置(横軸:Distance(mm))を示し、縦軸は、パッチアンテナ20に誘起されたx軸方向における入射電界Eに対する共振電極20cで生じた定在波によるz軸方向の電界Eの比(E/E)を示す。
【0037】
図4から分かるように、本実施の形態に係るアンテナ電極電気光学変調器10によれば、共振電極20cの表面において、入力信号の約3000倍の信号増強が確認できる。これは、本実施の形態に係るアンテナ電極電気光学変調器10では、電気光学結晶基板14が、図1Bに示される断面において、パッチアンテナ20~23の上方のうち、共振電極20cの上方にだけ配置されていることに起因している。
【0038】
つまり、78GHzの無線信号を対象とした場合に、パッチアンテナ全体を覆うように電気光学結晶基板が配置された構造を有する従来のアンテナ電極電気光学変調器では、上述したように、パッチアンテナのアンテナ素子を、一辺が536μmの正方形状にする必要があったために、せいぜい約200倍の信号増強であった。これに対して、本実施の形態に係るアンテナ電極電気光学変調器10では、電気光学結晶基板14がパッチアンテナ20~23の上方のうち共振電極20cの上方にだけ配置されていることから、パッチアンテナ20~23のアンテナ素子を、一辺が1236μmの正方形状(面積比で4倍以上)という大型にすることができ、約3000倍という極めて大きな信号増強が可能になったと考えられる。
【0039】
以上のように、本実施の形態に係るアンテナ電極電気光学変調器10は、光信号35を無線信号40で変調して出力する電気光学変調器であって、ベース基板12と、ベース基板12の上面において第1方向に並べて配置され、無線信号40を受信する複数のパッチアンテナ20~23と、複数のパッチアンテナ20~23の上方に配置された誘電性材料からなる電気光学結晶基板14とを備え、複数のパッチアンテナ20~23のそれぞれは、ベース基板12の上面において第1方向と直交する第2方向に沿って配置された、第1アンテナ素子20a、第1アンテナ素子20aに接続された第1線路20b、第1線路20bに接続された共振電極20c、共振電極20cに接続された第2線路20d、及び、第2線路20dに接続された第2アンテナ素子20eを有し、電気光学結晶基板14の複数のパッチアンテナ20~23に対向する面には、共振電極20cの上方に対応する位置において第1方向に延伸する、光信号35を伝送するための光導波路30が形成されており、電気光学結晶基板14は、複数のパッチアンテナ20~23の上方のうち、共振電極20cの上方にだけ、配置されている。
【0040】
これにより、電気光学結晶基板14がパッチアンテナ20~23の上方のうち共振電極20cの上方にだけ配置されていることから、パッチアンテナ全体を覆うように電気光学結晶基板が配置された構造を有する従来のアンテナ電極電気光学変調器に比べ、パッチアンテナ20~23のアンテナ素子をより大きなサイズにすることができ、より大きな信号増強が可能になる。よって、従来よりも高い変換効率で電気光学変換を行うことができるアンテナ電極電気光学変調器が実現される。
【0041】
また、複数のパッチアンテナ20~23のそれぞれにおいて、第1線路20bは、(1)上方に電気光学結晶基板14が配置されていない位置に形成され、一端が第1アンテナ素子20aに接続される、第1幅を有する第1部分線路20b1と、(2)上方に電気光学結晶基板14が配置された位置に形成され、第1部分線路20b1の他端に一端が接続され、かつ、他端が共振電極20cに接続される、第1幅よりも小さい第2幅を有する第2部分線路20b2とを含み、第2線路20dは、(1)上方に電気光学結晶基板14が配置されていない位置に形成され、一端が第2アンテナ素子20eに接続される、第1幅を有する第3部分線路20d1と、(2)上方に電気光学結晶基板14が配置された位置に形成され、第3部分線路20d1の他端に一端が接続され、かつ、他端が共振電極20cに接続される、第2幅を有する第4部分線路20d2とを含む。
【0042】
これにより、第1部分線路20b1と第2部分線路20b2とのインピーダンス整合、及び、第3部分線路20d1と第4部分線路20d2とのインピーダンス整合が確保され、第1アンテナ素子20a及び第2アンテナ素子20eで受信された電力が効率的に共振電極20cに給電される。
【0043】
また、複数のパッチアンテナ20~23のそれぞれにおいて、第1部分線路20b1の他端は、第2部分線路20b2に近づくに従って漸次幅が狭くなるテーパ形状の箇所(テーパ部20b3)を有し、第3部分線路20d1の他端は、第4部分線路20d2に近づくに従って漸次幅が狭くなるテーパ形状の箇所(テーパ部20d3)を有する。
【0044】
これにより、第1部分線路20b1と第2部分線路20b2との接続箇所、及び、第3部分線路20d1と第4部分線路20d2と接続箇所における不要な電磁波輻射が抑制され、第1アンテナ素子20a及び第2アンテナ素子20eで受信された電力が、伝搬ロスが抑制された状態で、共振電極20cに給電される。
【0045】
以上、本開示に係るアンテナ電極電気光学変調器10について、実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、この実施の形態に限定されるものではない。本実施の形態の主旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものや、実施の形態における一部の構成要素を組み合わせて構築される別の形態も、本開示の範囲内に含まれる。
【0046】
例えば、上記実施の形態では、アンテナ電極電気光学変調器10に、4つのパッチアンテナ20~23が設けられたが、1つのパッチアンテナだけが設けられてもよい。必要とされる変調度に応じて、アンテナ電極電気光学変調器10に設けるパッチアンテナの数(変調器の段数)を適宜決定すればよい。
【0047】
また、上記実施の形態では、アンテナ電極電気光学変調器10のパッチアンテナ20~23は、電気長が半波長の正方形パッチアンテナであったが、これに限られず、電気長が1/4波長の辺を含む長方形パッチアンテナ等であってもよい。
【0048】
また、上記実施の形態では、アンテナ電極電気光学変調器10は、78GHzの無線信号40を受信する変調器として説明されたが、この周波数に限られず、広く、ミリ波(30GHz帯域から300GHz帯)の無線信号に適用され得る。
【0049】
また、上記実施の形態では、アンテナ電極電気光学変調器10には、1つの光導波路30が形成されていたが、光導波路の数は、これに限られず、2つ以上の光導波路、例えば、並行に延在する2つの光導波路、あるいは、4つの光導波路が形成されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本開示は、光信号を無線信号で変調して出力するアンテナ電極電気光学変調器として、例えば、ミリ波無線を光信号に変換して伝送するRoF方式の伝送システムにおける変調器として、利用できる。
【符号の説明】
【0051】
10 アンテナ電極電気光学変調器
12 ベース基板
12a グランドパターン
14 電気光学結晶基板
16 バッファ層
20~23 パッチアンテナ
20a 第1アンテナ素子
20b 第1線路
20b1 第1部分線路
20b2 第2部分線路
20b3 テーパ部
20c 共振電極
20d 第2線路
20d1 第3部分線路
20d2 第4部分線路
20d3 テーパ部
20e 第2アンテナ素子
30 光導波路
31 入力ポート
32 出力ポート
35 光信号
40 無線信号
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4