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特開2023-37507NASICON型酸化物粉末およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023037507
(43)【公開日】2023-03-15
(54)【発明の名称】NASICON型酸化物粉末およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/45 20060101AFI20230308BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20230308BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20230308BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230308BHJP
【FI】
C01B25/45 Z
H01B1/08
H01B13/00 Z
H01M10/0562
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021144313
(22)【出願日】2021-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】000224798
【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】藤田 英史
(72)【発明者】
【氏名】阿部 大介
(72)【発明者】
【氏名】道幸 明久
(72)【発明者】
【氏名】田上 幸治
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
5G301CA02
5G301CA12
5G301CA16
5G301CA17
5G301CA19
5G301CA28
5G301CA30
5G301CD01
5H029AJ14
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029HJ01
5H029HJ05
5H029HJ07
5H029HJ08
5H029HJ14
(57)【要約】
【課題】焼結開始温度が低いNASICON型の固体電解質粉を提供する。
【解決手段】リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンを含むNASICON型酸化物粉末であって、さらにナトリウムを1ppm以上、500ppm以下含むNASICON型酸化物粉末を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンを含むNASICON型酸化物粉末であって、
さらにナトリウムを1ppm以上、500ppm以下含むNASICON型酸化物粉末。
【請求項2】
BET一点法で計測される比表面積値であるBETの値と、
レーザー回折により測定された体積基準の累計50%粒子径であるD50の値との、比であるD50/BETの値が0.05以上、7.00以下である、
請求項1に記載のNASICON型酸化物粉末。
【請求項3】
BET一点法で計測される比表面積値であるBETの値が1.0m/g以上、15.0m/g以下、
レーザー回折により測定された体積基準の累計50%粒子径であるD50の値が0.5μm以上、7.0μm以下である、
請求項1または2に記載のNASICON型酸化物粉末。
【請求項4】
リチウムを1.0質量%以上、4.0質量%以下、
アルミニウムを0.5質量%以上、6.0質量%以下、
ゲルマニウムを15質量%以上、35質量%以下、
リンを10質量%以上、30質量%以下を含む、
請求項1から3のいずれかに記載のNASICON型酸化物粉末。
【請求項5】
レーザー回折により測定された体積基準の累計10%粒子径であるD10の値が0.1μm以上、4.0μm以下、
レーザー回折により測定された体積基準の累計90%粒子径であるD90の値が2.0μm以上、14.0μm以下である、
請求項1から4のいずれかに記載のNASICON型酸化物粉末。
【請求項6】
タップ密度が0.5g/cm以上、2.0g/cm以下である、
請求項1から5のいずれかに記載のNASICON型酸化物粉末。
【請求項7】
焼結開始温度が750℃以下である、
請求項1から6のいずれかに記載のNASICON型酸化物粉末。
【請求項8】
さらに、ジルコニウムを10ppm以上、10000ppm以下を含む、
請求項1から7のいずれかに記載のNASICON型酸化物粉末。
【請求項9】
リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンおよびナトリウムを含有したスラリーを得る工程と、
前記スラリーを乾燥して、乾燥粉末を得る工程と、
前記乾燥粉末を600℃以上900℃以下で焼成し、焼成粉末を得る工程と、
前記焼成粉末を粉砕する工程を有するNASICON型酸化物粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、NASICON型酸化物粉末およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池の固体電解質の材料として、イオン伝導度が高いNASICON型結晶構造の固体電解質粉末が用いられている。
上記固体電解質粉末として、特許文献1に記載されるリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンを含有する固体電解質粉末が知られている。
そして、特許文献1には、酸化物系の固体電解質粉末を含むグリーンシートと、当該グリーンシートの第1主面上に形成された第1電極層用ペースト塗布物と、当該グリーンシートの第2主面上に形成された第2電極層用ペースト塗布物とを有する積層単位を積層し、当該積層単位を400℃~1000℃の高温により焼成し、積層チップとする焼成工程を経て全固体電池を得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-187897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら本発明者らの検討によれば、積層型全固体電池製造における焼成工程において、固体電解質層を構成する固体電解質粉末と、正極活物質層を構成する正極活物質粉末とが反応して組成変化が起こり、所定の電池特性が得られない場合があることを知見した。
【0005】
当該知見に基づいて本発明者らは検討を続け、焼結開始温度が低い固体電解質粉末に想到した。即ち、焼結開始温度が低い固体電解質粉末を用いることにより、前記焼成工程における活性化エネルギーを低下させ、固体電解質粉末と正極活物質粉末との反応を抑制する構成に想到したものである。
【0006】
本発明は、上述の状況の下で為されたものであり、その解決しようとする課題は、焼結開始温度が低いNASICON型の固体電解質粉を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するため、本発明者らは研究を行った結果、リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンを含み、さらに所定量のナトリウムを含むNASICON型酸化物粉末に想到した。そして、当該NASICON型酸化物粉末の焼結開始温度が低いことに想到し本発明を完成した。
【0008】
即ち、上述の課題を解決する為の第1の発明は、
リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンを含むNASICON型酸化物粉末であって、
さらにナトリウムを1ppm以上、500ppm以下含むNASICON型酸化物粉末である。
第2の発明は、
BET一点法で計測される比表面積値であるBETの値と、
レーザー回折により測定された体積基準の累計50%粒子径であるD50の値との、比であるD50/BETの値が0.05以上、7.00以下である、
第1の発明に記載のNASICON型酸化物粉末である。
第3の発明は、
BET一点法で計測される比表面積値であるBETの値が1.0m/g以上、15.0m/g以下、
レーザー回折により測定された体積基準の累計50%粒子径であるD50の値が0.5μm以上、7.0μm以下である、
第1または第2の発明に記載のNASICON型酸化物粉末である。
第4の発明は、
リチウムを1.0質量%以上、4.0質量%以下、
アルミニウムを0.5質量%以上、6.0質量%以下、
ゲルマニウムを15質量%以上、35質量%以下、
リンを10質量%以上、30質量%以下を含む、
第1から第3の発明のいずれかに記載のNASICON型酸化物粉末である。
第5の発明は、
レーザー回折により測定された体積基準の累計10%粒子径であるD10の値が0.1μm以上、4.0μm以下、
レーザー回折により測定された体積基準の累計90%粒子径であるD90の値が2.0μm以上、14.0μm以下である、
第1から第4の発明のいずれかに記載のNASICON型酸化物粉末である。
第6の発明は、
タップ密度が0.5g/cm以上、2.0g/cm以下である、
第1から第5の発明のいずれかに記載のNASICON型酸化物粉末である。
第7の発明は、
焼結開始温度が750℃以下である、
第1から第6の発明のいずれかに記載のNASICON型酸化物粉末である。
第8の発明は、
さらに、ジルコニウムを10ppm以上、10000ppm以下を含む、
第1から第7の発明のいずれかに記載のNASICON型酸化物粉末である。
第9の発明は、
リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンおよびナトリウムを含有したスラリーを得る工程と、
前記スラリーを乾燥して、乾燥粉末を得る工程と、
前記乾燥粉末を600℃以上900℃以下で焼成し、焼成粉末を得る工程と、
前記焼成粉末を粉砕する工程を有するNASICON型酸化物粉末の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、焼結開始温度が低いNASICON型酸化物粉末とその製造方法とを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1に係るNASICON型酸化物粉末のXRDスペクトルである。
図2】実施例1に係るNASICON型酸化物粉末のTMAパターンである。
図3図2のTMAパターンにおける(A)部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係るNASICON型酸化物粉末は、焼結開始温度が低いことに加え、高いイオン伝導度を発現するNASICON型結晶構造を有している。NASICON型結晶構造を有する粉末は、高いイオン伝導度を発現するため全固体電池の固体電解質として用いることができる。
以下、発明を実施するための形態について、1.リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リン、および、ナトリウムを含むNASICON型酸化物粉末、2.NASICON型酸化物粉末における各構成元素の効果と含有割合、3.NASICON型酸化物粉末の性状、4.NASICON型酸化物粉末の焼結開始温度、5.NASICON型酸化物粉末の製造方法、の順で説明する。
【0012】
1.リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リン、および、ナトリウムを含むNASICON型酸化物粉末
本発明に係るNASICON型酸化物粉末は、リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リン、および、ナトリウムを含み、かつNASICON型結晶構造を有している。当該粉末がNASICON型結晶構造を有していることは、当該粉末をXRD装置を用いて測定して得たXRDプロファイルと、データベースに登録されているNASICON型結晶構造を有している酸化物の回折ピークとを、解析ソフトを用いて照合することにより判定出来る。例えば、ICDD(国際回折データセンター)のPDF(Powder Diffraction File) No.01-080-1922と照合することで判定することが出来る。尚、本発明に係るNASICON型酸化物粉末は、PDF(Powder Diffraction File) No.01-080-1922にて同定できる一般式Li1+xAlGe2-x(PO、(但し、0<x≦1である。本発明において「LAGP」と記載する場合がある。)を主相とするものであればよいし、本発明の効果を損なわない範囲で、LAGPを主相としその他の酸化物を副相とする混相のものであってもよい。ここで、得られた固体電解質においてLAGPが主相であることは、当該固体電解質をXRD測定した際、得られる最大のピークがLAGPであることで確認することが出来る。そして、副相の割合は、主相と副相とのもっとも強いピーク強度比から求めることができ、副相/主相割合が1/10以下であることが好ましい。
【0013】
2.NASICON型酸化物粉末における各構成元素の効果と含有割合
本発明に係るNASICON型酸化物粉末は、構成元素として少なくともリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リン、および、ナトリウムを含有する。また、所望によりジルコニウムや、その他の元素を含有しもよい。
以下、各構成元素の効果と含有割合について、(1)リチウム、(2)アルミニウム、(3)ゲルマニウム、(4)リン、(5)ナトリウム、(6)ジルコニウム、(7)水分量、(8)炭素、(9)窒素、(10)その他の元素、の順で説明する。
【0014】
(1)リチウム
本発明のNASICON型酸化物粉末には、リチウムが1.0質量%以上4.0質量%以下含有されていることが好ましい。リチウムの含有量が1.0質量%以上4.0質量%以下であれば、高いイオン伝導度が担保されるからである。リチウムの含有量は好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上、さらに好ましくは1.8質量%以上であり、一方、好ましくは4.0質量%以下、好ましくは3.5質量%以下、さらに好ましくは3.3質量%以下である。
【0015】
(2)アルミニウム
本発明のNASICON型酸化物粉末には、アルミニウムが0.5質量%以上6.0質量%以下含有されていることが好ましい。アルミニウムを0.5質量%以上6.0質量%以下含有することで、NASICON型結晶構造の固体電解質となる。アルミニウム含有量は、好ましくは1.0質量%以上であり、さらに好ましくは1.5質量%以上である。一方、好ましくは5.5質量%以下、さらに好ましくは5.0質量%以下である。
【0016】
(3)ゲルマニウム
本発明のNASICON型酸化物粉末中には、ゲルマニウムが15質量%以上35質量%以下含有されていることが好ましい。前記の濃度範囲であれば、NASICON型結晶構造の固体電解質となる。ゲルマニウム含有量は好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは22質量%以上であり、最も好ましくは23.5質量%以上とすることで、より高いイオン伝導度の固体電解質を得ることができる。一方、好ましくは33質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0017】
(4)リン
本発明のNASICON型酸化物粉末中には、リンが10質量%以上30質量%以下含有されていることが好ましい。前記の濃度範囲であれば、NASICON型結晶構造の固体電解質となる。リン含有量は好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは18質量%以上である。一方、好ましくは28質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下である。
【0018】
(5)ナトリウム
本発明のNASICON型酸化物粉末中には、ナトリウムが1ppm以上500ppm以下含有されている。NASICON型の固体電解質粉末にナトリウムを1ppm以上500ppm以下含有させることでNASICON型の固体電解質粉末の焼結開始温度を低下させる効果を得ことができる。
以上の観点から、ナトリウム含有量は1ppm以上であって、ppm単位で含有量を調整すればよい。一方、ナトリウム含有量が500ppm以下であれば、リチウムイオンとのカチオンミキシングによるイオン伝導性への影響を回避することができる。
尚、ナトリウム含有量が1ppm以下の場合、NASICON型酸化物粉末の焼結開始温度を低下させる効果に不足していても、局所的な焼結の発生を抑えて焼結の均質性をもたらす効果をもたらす可能性は考えられる。また、ナトリウム含有量は、300ppm以下が好ましく、さらに好ましくは200ppm以下である。
【0019】
(6)ジルコニウム
本発明のNASICON型酸化物粉末中には、ジルコニウムが10ppm以上10000ppm以下含有されていることが好ましい。NASICON型酸化物粉末にジルコニウムを含有させることで、イオン導電性の向上をもたらす効果があるためである。イオン導電性を制御するために、添加量を調整すればよい。なお、焼成時にZrOなどの異相の生成を回避する観点やイオン伝導性を担保する観点から、ジルコニウム含有量は10000ppm以下が好ましい。
【0020】
(7)水分量
本発明のNASICON型酸化物粉末において、水分量は0.10質量%以上4.00質量%以下であることが好ましい。水分量が0.10質量%以上4.00質量%以下であると全固体電池の製造工程において電極活物質粉末とNASICON型酸化物粉末の混合時の分散性を高め、これらを均一に混合することができる。一方、水分量が4.00質量%以下であると、NASICON型酸化物粉末が凝集して分散性が低くなることが回避できる。この結果、NASICON型酸化物粉末の凝集が抑制され、電極活物質粉末との混合性を高く維持することができる。
【0021】
(8)炭素
本発明のNASICON型酸化物粉末において、炭素の含有量は0.35質量%以下であることが好ましく、全く含まれていなくても良い。尤も、炭素含有量を調整することで、全固体電池の製造工程においてNASICON型酸化物粉末を焼結させる際に、ガス発生量を調整することができ焼結密度を制御することができる。焼結密度を高くする観点からは、ガス発生量を抑えるため炭素の含有量を0.35質量%以下、例えば0.01質量%以上にすることが好ましい。
【0022】
(9)窒素
発明のNASICON型酸化物粉末において、窒素の含有量は0.005質量%以上3質量%以下であることが好ましい。窒素の含有量が0.005質量%以上3質量%以下であると、NASICON型酸化物粉末を焼結させる際に焼結促進剤として作用し、結晶の粒界が少なくなるためイオン伝導抵抗を低減して、固体電解質焼結体のイオン伝導度が向上するからである。
【0023】
(10)その他の元素
本発明に係るNASICON型酸化物粉末は、NASICON型結晶構造になるのであれば、上述のリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リン、ナトリウム、ジルコニウム、水分、炭素、窒素、以外のその他の元素を含んでもよい。その他の元素は特に限定はされないが、鉄、ケイ素、カルシウム、カリウム、塩素などの少なくとも1つを含んでもよい。本発明に係るNASICON型酸化物粉末において、その他の元素の含有量の合計が、3質量%以下であってもよい。その他の元素として、例えば、鉄、カリウム、カルシウム、ケイ素、チタン、ガリウム、ランタン、インジウム、ハフニウムおよびイットリウムを含んでもよい。
【0024】
3.NASICON型酸化物粉末の性状
本発明に係るNASICON型酸化物粉末の性状について、(1)粒径、(2)比表面積(BET)、(3)D50/BETの値、(4)タップ密度、の順で説明する。
【0025】
(1)粒径
本発明に係るNASICON型酸化物粉末の粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置により体積基準の粒度分布を測定し、測定によって得られた体積基準の累積50%粒子径(D50)の値が0.5μm以上7.0μm以下であることが好ましい。
また、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置により体積基準の粒度分布を測定し、測定によって得られた体積基準の累積10%粒子径(D10)の値が0.1μm~4.0μm、累積90%粒子径(D90)の値が2.0μm以上14.0μm以下であることが好ましい。
【0026】
(2)比表面積(BET)の値
本発明に係るNASICON型酸化物粉末のBET一点法で計測される比表面積(BET)の値は、1.0m/g以上、15.0m/g以下であることが好ましい。BETの値が1.0m/gより大きいと焼結の駆動力が担保され、焼結開始温度が抑制され好ましい。一方、BETの値が15.0m/gより小さければ、粒子の凝集力が抑制されて焼結密度が担保され好ましい。
【0027】
(3)D50/BETの値
本発明に係るNASICON型酸化物粉末について、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置により測定した累積50%粒子径(D50)の値と、BET一点法で測定された比表面積値(BET)の値との関係式(D50/BET)の値が、0.05以上、7.00以下であることが好ましい。D50/BETの値が0.05以上であると、粒径に対する比表面積の値が大きくなり(真球状に近づきすぎないことになり)、焼結開始温度が低くなる傾向になり好ましい。一方、D50/BETの値が7.00以下であると、粒径に対する比表面積が大きくなりすぎず、粒子の凝集力が抑制されて焼結密度が向上することから好ましく、5.00以下であるのがさらに好ましい。
【0028】
(4)タップ密度
本発明に係るNASICON型酸化物粉末のタップ密度が0.5g/cm以上、2.0g/cm以下であることが好ましい。タップ密度が0.5g/cm以上の場合、粉末の充填性が高くなり、焼結密度が向上するため好ましい。タップ密度の上限値は特に制限されるものではないが、本発明に係る粒子構造、組成の場合、通常の製造条件によれば上限値は2.0g/cm程度となる。
【0029】
4.NASICON型酸化物粉末の焼結開始温度
本発明に係るNASICON型酸化物粉末の焼結開始温度とその測定方法について、(1)焼結開始温度、(2)焼結開始温度の測定方法、の順で説明する。
【0030】
(1)焼成開始温度
全固体電池の製造工程において、電極活物質粉末とNASICON型酸化物粉末とを混合しペースト化する。当該ペーストを焼成し積層電極体を作製する過程での工程において、電極活物質とNASICON型酸化物粉末が反応して、充放電に寄与しない異相が生成され、その結果、設計通りの電池性能が得られなくなる場合がある。
ここで、本発明者らは、ペーストを焼成し積層電極体を作製する過程において、NASICON型酸化物粉末が焼結を開始する温度(本発明において「焼成開始温度」と記載する場合がある。)が750℃を超えていると、電極活物質(例えばリン酸バナジウムリチウム(Li(PO)やリン酸コバルトリチウム(LiCoPO))と反応して異相を生成してしまい、リチウムイオン伝導性の低下や、結晶構造の不安定化によるサイクル特性の悪化などの電池特性に悪影響を及ぼす可能性に想到した。
上述の観点から、本発明に係るNASICON型酸化物粉末の焼結開始温度は、750℃以下であることが好ましいことに想到した。そして、本発明に係るNASICON型酸化物粉末の焼結開始温度は、後述するTMA装置にて測定した体積変化率が-0.5%となったときの温度として測定することが、便宜であることにも想到した。
【0031】
(2)焼結開始温度の測定方法
本発明に係るNASICON型酸化物粉末の焼結開始温度は、NASICON型酸化物粉末をプレス機により成形して圧粉体を得、得られた圧粉体を熱機械分析(ThermoMechanical Analysis)装置にセットし、大気雰囲気中で所定の荷重を付与し、常温から所定の昇温速度にて昇温し、ピストン治具の変位を計測することで測定した。
具体的には、TMA装置の試料ホルダ(シリンダー)に圧粉体をセットし、大気雰囲気中で当該シリンダーの上部からピストン状治具により980mNの荷重を付与し、常温から昇温速度10℃/minにて昇温し、ピストン治具の変位から圧粉体の体積変化(体積収縮率)を計測した。そして、当該圧粉体圧粉体の体積変化(体積収縮率)の値が-0.5%となったときの温度を、本発明に係るNASICON型酸化物粉末の焼結開始温度と規定した。
【0032】
5.NASICON型酸化物粉末の製造方法
本発明に係るNASICON型酸化物粉末は、各構成元素を含有する原料の水溶液を混合してスラリーを得、当該スラリーを乾燥して乾燥粉末を得、当該乾燥粉末を焼成することで得られる。
【0033】
以下、本発明に係るNASICON型酸化物粉末の製造方法について、(1)原料水溶液調製、(2)混合、(3)乾燥、(4)焼成、(5)粒径調整、比表面積調整、の順に説明する。
【0034】
(1)原料水溶液調製
本発明に係るNASICON型酸化物粉末の構成元素であるリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リン、ナトリウム、および、所望によりジルコニウム、鉄、カリウム、カルシウム、ケイ素、チタン、ガリウム、ランタン、インジウム、ハフニウムおよびイットリウムの各元素を含む原料を、それぞれ水に溶解させて水溶液とする。各構成元素を含む原料は硝酸塩を用いることで、NASICON型酸化物粉末に不純物が残留しにくくなるため好ましい。
リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リン、ナトリウム、所望によりジルコニウム、鉄、カリウム、カルシウム、ケイ素、チタン、ガリウム、ランタン、インジウム、ハフニウムおよびイットリウムの各元素を含む原料の添加量は、製造するNASICON型酸化物粉末の組成を鑑みて、適宜調整すればよい。
【0035】
(2)混合
前記「(1)原料水溶液調製」にて調製した原料水溶液を混合して、NASICON型酸化物粉末の構成元素を含むスラリーを得る工程である。
【0036】
例えば、アンモニアで溶解させたアルカリ性のゲルマニウム水溶液に、硝酸リチウム、硝酸アルミニウム9水和物、リン酸二水素アンモニウムを溶解させた酸性の水溶液を添加すると直後に濁り、共沈によってリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンおよびアンモニアを含有したスラリーを得ることが出来る。この混合工程では液温は特に検討する必要はなく、加温しても、しなくても良い。当該スラリー中には、水酸化物として析出した構成元素と、イオンとして存在している構成元素とが存在していると考えられる。構成元素のイオン濃度積が溶解度積よりも高くなる過飽和状態を実現し、共沈法を用いてスラリーを生成させるのは、構成元素の均一性向上を果たすことが、NASICON型結晶構造を有すNASICON型酸化物粉末を得る為に肝要な為である。NASICON型酸化物粉末の構成元素を含むスラリーを得るために、各種原料水溶液を混合した場合のpHを2以上、5以下に調整するのが好ましい。
【0037】
(3)乾燥、
前記「(2)混合」にて得られたスラリーの水分を乾燥させて、乾燥粉末を得る工程である。乾燥方法は特に限られないが、スプレードライヤー等を用いた噴霧乾燥が好ましい。噴霧乾燥によれば、短時間でスラリー中においてイオンで存在している構成元素を急速に析出させるので、構成元素間の溶解度の差から生じる、析出の不均一さを低減することができる。これにより、組成の均一な乾燥粉末を得ることができ、二酸化ゲルマニウムの生成が抑制されたNASICON型酸化物粉末を、より確実に製造することができる。乾燥温度は、得られる乾燥粉末に水分が残らない温度に適宜設定すればよい。例えば、噴霧乾燥機であるスプレードライヤーの入口温度は150~250℃、熱風出口温度は60℃以上であることが好ましい。
【0038】
(4)焼成
前記「(3)乾燥」にて得られた乾燥粉末を焼成し、NASICON型結晶構造をもつ焼成粉末を得る工程である。具体的には、アルミナ製等の容器に乾燥粉末を入れ、大気雰囲気下で室温から300℃以上500℃以下まで、昇温速度0.1℃/min以上20℃/min以下にて昇温する。さらに600℃以上900℃以下まで、昇温速度1℃/min以上40℃/min以下にて昇温し、乾燥粉末を焼成してNASICON型結晶構造をもつ焼成粉末を得ることができる。
【0039】
得られたNASICON型結晶構造をもつ焼成粉末は、本発明に係るNASICON型酸化物粉末として、例えば固体電解質として全固体電池に使用できる。
得られた焼成粉末が、本発明に係るNASICON型酸化物粉末であることは、当該粉末のXRDプロファイルから判定出来る。具体的には、得られたXRDプロファイルを、XRD装置付属の電子計算機を用いてICDD(国際回折データセンター)のPDF(Powder Diffraction File) No.01-080-1922と照合し、結晶構造を同定すればよい。生成物については、NASICON型結晶構造をもつLAGP粉末単相であることが好ましいが、本発明の効果を損なわない程度に副相を含んでもよい。副相の割合は、主相に係るもっとも強いピークと、副相に係るもっとも強いピークとのピーク強度比から求めることができ、副相/主相割合が1/10以下であることが好ましい。
【0040】
(5)粒径調整、比表面積調整
NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造において、NASICON型酸化物粉末を焼結して得られる固体電解質をシート状に成形する場合、目的のシート厚に応じて、NASICON型結晶構造をもつ焼成粉末の粒径、比表面積を適宜調整して、NASICON型酸化物粉末としてもよい。粒径、比表面積調整の方法は、公知の方法が使用可能ではあるが、ビーズミル等を用いた湿式粉砕が好ましい。
【0041】
ビーズミルを用いた湿式粉砕法での粒径、比表面積の調整は、メディア(ビーズ)の材質、メディア(ビーズ)の径、メディア(ビーズ)とスラリーの比、スラリー濃度、粉砕時間、回転数など既知の方法により適宜調整できる。
湿式粉砕を実施した場合は、湿式粉砕処理後に固液分離し、回収した湿式粉砕後のNASICON型酸化物粉末を乾燥する。
【0042】
上述したように、乾燥して得られたNASICON型酸化物粉末の粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定により求めた体積基準の累積10%粒子径(D10)が0.1μm以上4.0μm以下、累積50%粒子径(D50)が0.5μm以上7.0μm以下、累積90%粒子径(D90)が2μm以上14μm以下であることが好ましい。また比表面積(BET)の値は1.0m/g以上15.0m/g以下であることが好ましい。そして、D50/BETの値は0.05以上、7.00以下であることが好ましく、5.00以下であることがさらに好ましい。
【0043】
湿式粉砕時の溶媒としては、NASICON型酸化物粉末中のリチウムがプロトンとイオン交換してしまい、固体電解質のイオン伝導を低減することを防ぐ観点から、有機溶媒が好ましく、具体的にはIPAが好ましい。IPAは粉砕後の乾燥にて揮発するので、NASICON型酸化物粉末に残存しないからである。粉砕にビーズミルを使用する場合は、ビーズの材質としては、アルミナ、ジルコニアが不純物混入の観点から好ましい。湿式粉砕後のNASICON型酸化物粉末は、使用した溶媒の沸点以上の温度、且つ、前記「(4)焼成」の際における焼成温度以下の温度範囲で乾燥させて、使用した溶媒を除去することが好ましい。また、上記で得られたNASICON型酸化物粉末の水分値が過度に低い場合は、水分を含む雰囲気中に所定時間曝露して、粉末の水分量を調整する工程を入れてもよい。
【実施例0044】
〈実施例1〉
上述した、NASICON型酸化物粉末の製造工程を示すフローに拠って、実施例1に係るNASICON型酸化物粉末を製造した。(1)原料水溶液調製、(2)混合、(3)噴霧乾燥、(4)焼成、(5)粒径、比表面積調整、の順で説明する。そして製造された実施例1に係るNASICON型酸化物粉末の分析および特性評価を実施した。(6)NASICON型酸化物粉末の分析および特性評価、(7)NASICON型結晶構造を有する固体電解質の調製と特性評価、の順で説明する。
【0045】
(1)原料水溶液調製
実施例1においては原料水溶液として、(I)ゲルマニウム含有水溶液、(II)リチウム、アルミニウム、リン、ナトリウム、ジルコニウム含有水溶液、を調製した。以下、それぞれについて説明する。
【0046】
(I)ゲルマニウム含有水溶液
純水3160gへ二酸化ゲルマニウム(富士フイルム和光純薬株式会社製99.999%)152gを添加して撹拌しながら40℃に加温し、さらにアルカリとして濃度28質量%のアンモニア水(ナカライテスク社製28%)77gを添加して、前記二酸化ゲルマニウムを溶解させゲルマニウム含有水溶液を調製した。調製した水溶液のpHは10.7でありアルカリ性であった。
【0047】
(II)リチウム、アルミニウム、リン、ナトリウム、ジルコニウム含有水溶液
純水675gへ、硝酸リチウム(富士フイルム和光純薬株式会社製、98.0+%)102gと、硝酸アルミニウム9水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製98.0+%)195gとリン酸二水素アンモニウム(富士フイルム和光純薬株式会社製98.0+%)360gと、硝酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製98.0+%)0.07gと、硝酸ジルコニル2水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製97.0+%)1.9gを加え、リチウム、アルミ二ウム、リン、ナトリウム、ジルコニウム含有水溶液を調製した。調製したリチウム、アルミニウム、リン、ナトリウム、ジルコニウム含有水溶液のpHは1.8であり、酸性であった。
【0048】
(2)混合
前記アルカリ性であるゲルマニウム含有水溶液を攪拌しながら40℃に加温し、そこへ前記酸性であるリチウム、アルミニウム、リン、ナトリウム、ジルコニウム含有水溶液の全量を添加したところ、水溶液は当該添加直後に白濁し、リチウムとアルミ二ウムとゲルマニウムとリンとナトリウムとジルコニウムとアンモニアと水とを含む、白色の混合スラリーを得た。得られた混合スラリーのpHは4.7であった。
【0049】
(3)噴霧乾燥
前記混合スラリーを、噴霧乾燥機(東京理化器械株式会社製 SD-1000)を用いて噴霧乾燥して、前記混合スラリー中の水分を蒸発させて一気に固相析出させ、白色の乾燥粉末を得た。尚、噴霧乾燥の条件としては、入口温度180℃、出口温度90℃、前記混合スラリーの添加速度10g/minとした。
【0050】
(4)焼成
アルミナ製の容器に、前記噴霧乾燥で得られた乾燥粉末を入れ、大気雰囲気下で昇温速度5℃/minにて室温から400℃まで昇温し、400℃を2時間キープし、昇温速度5℃/minにて400℃から800℃まで昇温し、800℃で120分間焼成することでNASICON型結晶構造をもつ焼成粉末が得られた。
【0051】
(5)粒径、比表面積調整
前記NASICON型結晶構造をもつ焼成粉末40gを、φ1mmZrビーズ160gとIPA94.32gと共にビーズミルに装填し120分間湿式粉砕した後、乾燥機に入れ、100℃で3時間乾燥し、実施例1に係るNASICON型酸化物粉末を得た。
【0052】
(6)NASICON型酸化物粉末の分析および特性評価
得られた実施例1に係るNASICON型酸化物粉末に対して、(I)粒径、粒度分布測定、(II)比表面積測定、(III)元素分析、(IV)窒素量分析、炭素量分析(V)XRD測定、(VI)タップ密度、(VII)焼結開始温度、(VIII)水分量の測定、を行った。以下、それぞれの方法および結果について説明する。
【0053】
(I)粒径、粒度分布測定
実施例1に係るNASICON型酸化物粉末を、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(SYMPATEC社製のへロス粒度分布測定装置(HELOS&RODOS(気流式の分散モジュール)))を使用して、分散圧5barで体積基準の粒度分布を測定し、体積基準の累積10%粒子径(D10)、累積50%粒子径(D50)、累積90%粒子径(D90)を測定した。実施例1に係るNASICON型酸化物粉末のD10、D50、D90の値を表2に記載する。
【0054】
(II)比表面積測定
実施例1で得られたNASICON型酸化物粉末の比表面積(BET)の値を、BET比表面積測定器(株式会社マウンテック製 Macsorb)を用いて測定した。当該測定器内に105℃で20分間窒素ガスを流して脱気した後、窒素とヘリウムとの混合ガス(N2:30体積%、He:70体積%)を流しながら、BET1点法によりBETの値を測定した。実施例1に係るNASICON型酸化物粉末のBETの値を表2に記載する。そして、実施例1に係るNASICON型酸化物粉末のD50の値をBETの値で除した、「D50/BET」の値を表2に記載する。
【0055】
(III)元素分析
実施例1に係るNASICON型酸化物粉末へ、溶融剤として炭酸ナトリウムを添加して、アルカリ溶融塩を作製した。更にこの溶融塩を硝酸に溶解し、そして、この溶解液に対しICP-OES装置(Agilent社製 ICP-720)を用いて元素分析を行った。リチウム、アルミニウム、リン、ゲルマニウム、ジルコニア、鉄、ケイ素、カルシウム、塩素の各構成元素の定量分析値を表1に記載する。
ナトリウムについては、実施例1に係るNASICON型酸化物粉末を1g秤量して、50mlメスフラスコを用い純水にて定容した。得られた溶液を30分間超音波にかけて、孔径0.2μmのフィルターでろ過し、ろ過溶液中のナトリウム量をHITACHI製の原子吸光光度計ZA3300にて測定した。その分析値を表1に記載する。
【0056】
(IV)窒素量分析、炭素量分析
実施例1に係るNASICON型酸化物粉末中の窒素含有量を、窒素分析装置(株式会社堀場製作所製 EMGA-920)を用いて分析した。窒素含有量の分析値を表1に記載する。
また実施例1に係るNASICON型酸化物粉末中の炭素含有量を、微量炭素・硫黄分析装置((株)堀場製作所製ETMA-U510)を用いて分析した。炭素含有量の分析値を表1に記載する。
【0057】
(V)XRD測定
実施例1に係るNASICON型酸化物粉末に対して、下記測定条件にてXRD測定を実施した。得られたXRDスペクトルを図1に示す。
<XRD測定条件>
測定装置 :XRD-6100(島津製作所製)
管球 :Cu
管電圧 :40kv
管電流 :30mA
発散スリット:1.0°
散乱スリット:1.0°
受光スリット:0.3mm
ステップ幅 :0.02°/step
計測時間 :0.25sec
【0058】
図1に示す、実施例1に係るNASICON型酸化物粉末のXRDスペクトルをICDD(国際回折データセンター)のPDF(Powder Diffraction File) No.01-080-1922と照合したところ、NASICON型結晶構造の固体電解質が主相であると同定することができた。主相に係るもっとも強いピークと、副相に係るもっとも強いピークとのピーク強度比から求めた、副相/主相割合で1/10を超えるものは確認できなかった。この結果を表2に記載する。
【0059】
(VI)タップ密度
実施例1に係るNASICON型酸化物粉末のタップ密度は、特開2007-263860号公報に記載された方法と同様に、酸化物粉末を内径6mmの有底円筒形の容器に充填して酸化物粉末層を形成し、この酸化物粉末層に上部から0.16N/mの圧力を加えた後、酸化物粉末層の高さを測定し、この酸化物粉末層の高さの測定値と、充填された酸化物粉末の重量とから、酸化物粉末の密度を求めた。実施例1に係るNASICON型酸化物粉末のタップ密度の値を表2に記載する。
【0060】
(VII)焼結開始温度
実施例1に係るNASICON型酸化物粉末を、手動プレス機により成形して寸法φ5mm、高さ約5mmの圧粉体を得た。得られた圧粉体を、熱機械分析(TMA)装置(日立ハイテクサイエンス製;TMA/SS6200)の試料ホルダ(シリンダー)にセットした。そして、大気雰囲気中でシリンダーの上部からピストン状治具により980mNの荷重を付与し、常温から昇温速度10℃/minにて昇温し、ピストン治具の変位を計測して圧粉体の体積変化(体積収縮率)を測定した。圧粉体の体積変化(体積収縮率)から、当該圧粉体の焼結開始温度を求める方法を、図2、3を参照しながら説明する。
【0061】
図2は、縦軸に圧粉体の体積収縮率をとり、横軸に圧粉体の温度をとった時の、実施例1に係る圧粉体のTMAパターンを示すグラフである。そして、図3は、図2においてTMAパターンが変化し始めた(A)部分を拡大した、拡大図である。
そして図3において、当該圧粉体が-0.5%の体積変化(体積収縮率)したときの温度を求め、これを焼結開始温度とした。実施例1に係るNASICON型酸化物粉末の焼結開始温度の値を表2に記載する。
【0062】
(VIII)水分量の測定
下記測定条件にて実施例1に係るNASICON型酸化物粉末の水分量を測定した。測定した水分量を表1に記載する。
<水分量測定条件>
測定装置 :カールフィッシャー水分測定装置(平沼産業株式会社製 平沼微量水分測定装置AQ-2100と水分気化装置EV-2000)
測定サンプル量 :0.3g
キャリアガス :窒素ガス
キャリアガス流量:0.3L/min
interval time:15sec
気化室温度:100℃
【0063】
(7)NASICON型結晶構造を有する固体電解質の調製と特性評価
実施例1に係るNASICON型酸化物粉末の圧粉体を焼成して、実施例1に係るNASICON型結晶構造を有する固体電解質を製造した。そして、当該固体電解質のイオン伝導度評価を実施した。以下、(I)NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造、(II)NASICON型結晶構造を有する固体電解質のイオン伝導度評価、の順に説明する。
【0064】
(I)NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造
実施例1に係るNASICON型酸化物粉末0.5gを、直径10mmの円筒容器中に投入し、プレス機によって360MPaでプレスして圧粉体を得た。得られた圧粉体を、炉内に設置し、大気雰囲気下で、炉内温度が800℃に達してから120分間加熱して焼成し、実施例1に係るNASICON型結晶構造を有する固体電解質である圧粉焼成体を製造した。
【0065】
(II)NASICON型結晶構造を有する固体電解質のイオン伝導度評価
実施例1に係るNASICON型結晶構造を有する固体電解質に対し、大気雰囲気下、温度25℃にて、ポテンショ/ガルバノスタット(ソーラトロン社製 1470E)と周波数応答分析器(ソーラトロン社製 1255B)を用い、交流インピーダンス法により100Hz~4MHzの範囲で測定を行った。そして、当該測定値のCole-Coleプロット(複素インピーダンス平面プロット)からNASICON型結晶構造を有する固体電解質の抵抗値を求め、得られた抵抗値から実施例1に係るNASICON型結晶構造を有する固体電解質のイオン伝導度を算出した。算出したイオン伝導度の値を表2に記載する。
【0066】
〈実施例2〉
実施例1の硝酸ナトリウムの添加量を0.03g、硝酸ジルコニル2水和物の添加量を0.95gとし、粉砕時のビーズ材質をSUS304とした以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例2に係るNASICON型酸化物粉末を得た。
得られた実施例2に係るNASICON型酸化物粉末に対し、実施例1と同様の操作を行って特性を評価した。評価結果を表1、2に記載する。
【0067】
〈実施例3〉
実施例1の硝酸ナトリウムの添加量を0.08g、硝酸ジルコニア2水和物の添加量を0.80gとした以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例3に係るNASICON型酸化物粉末を得た。
得られた実施例3に係るNASICON型酸化物粉末に対し、実施例1と同様の操作を行って特性を評価した。評価結果を表1、2に記載する。
【0068】
〈実施例4〉
実施例1の硝酸ナトリウムの添加量を0.10g、硝酸ジルコニア2水和物の添加量を0.15gとした以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例4に係るNASICON型酸化物粉末を得た。
得られた実施例4に係るNASICON型酸化物粉末に対し、実施例1と同様の操作を行って特性を評価した。評価結果を表1、2に記載する。
【0069】
〈実施例5〉
実施例1の硝酸ナトリウムの添加量を0.02g、硝酸ジルコニア2水和物の添加量を0.30gとし、粉砕工程を100分間実施した以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例5に係るNASICON型酸化物粉末を得た。
得られた実施例5に係るNASICON型酸化物粉末に対し、実施例1と同様の操作を行って特性を評価した。評価結果を表1、2に記載する。
【0070】
〈実施例6〉
実施例1の硝酸ナトリウムの添加量を0.03g、硝酸ジルコニア2水和物の添加量を0.40gとし、粉砕工程を60分間実施した以外、実施例1と同様の操作を行って、実施例6に係るNASICON型酸化物粉末を得た。
得られた実施例6に係るNASICON型酸化物粉末に対し、実施例1と同様の操作を行って特性を評価した。評価結果を表1、2に記載する。
【0071】
〈実施例7〉
実施例1の硝酸リチウムの添加量を98g、硝酸アルミニウム9水和物添加の量を116.7g硝酸ナトリウムの量添加を0.23g、硝酸ジルコニア2水和物の添加量を0.02gとした。また、焼成について、大気雰囲気下で昇温速度5℃/minにて室温から400℃まで昇温し、400℃を2時間保持し、昇温速度5℃/minにて400℃から600℃まで昇温し、600℃で120分間焼成した。また、粉砕工程については、30分間実施した。
上記以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例7に係るNASICON型酸化物粉末を得た。
得られた実施例7に係るNASICON型酸化物粉末に対し、実施例1と同様の操作を行って特性を評価した。評価結果を表1、2に記載する。
【0072】
〈実施例8〉
実施例1の硝酸リチウムの添加量を110g、硝酸アルミニウム9水和物の添加量を116.7g、硝酸ナトリウムの添加量を0.08g、硝酸ジルコニア2水和物の添加量を0.02gとした。また、粉砕工程については、30分間実施した。
上記以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例8に係るNASICON型酸化物粉末を得た。
得られた実施例8に係るNASICON型酸化物粉末に対し、実施例1と同様の操作を行って特性を評価した。評価結果を表1、2に記載する。
【0073】
〈実施例9〉
実施例1の硝酸ナトリウムの添加量を0.30gとした以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例9に係るNASICON型酸化物粉末を得た。
得られた実施例9に係るNASICON型酸化物粉末に対し、実施例1と同様の操作を行って特性を評価した。評価結果を表1、2に記載する
【0074】
〈実施例10〉
実施例1の硝酸ナトリウムの添加量を0.02gとした以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例10に係るNASICON型酸化物粉末を得た。
得られた実施例10に係るNASICON型酸化物粉末に対し、実施例1と同様の操作を行って特性を評価した。評価結果を表1、2に記載する
【0075】
〈実施例11〉
実施例1の硝酸ジルコニウム2水和物の添加量の添加量を0.02gとした以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例11に係るNASICON型酸化物粉末を得た。
得られた実施例11に係るNASICON型酸化物粉末に対し、実施例1と同様の操作を行って特性を評価した。評価結果を表1、2に記載する
【0076】
〈実施例12〉
実施例1の硝酸ジルコ二ウム2水和物の添加量の添加量を2.80gとした以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例12に係るNASICON型酸化物粉末を得た。
得られた実施例12に係るNASICON型酸化物粉末に対し、実施例1と同様の操作を行って特性を評価した。評価結果を表1、2に記載する
【0077】
〈比較例1〉
炭酸リチウム(富士フイルム和光純薬株式会社製99.0+%)、酸化アルミニウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)、二酸化ゲルマニウム(富士フイルム和光純薬株式会社製99.999%)、およびリン酸二水素アンモニウム(富士フイルム和光純薬株式会社製98.0+%)を準備し、LAGP粉末であるLi1.5Al0.5Ge1.5(POが得られるように、各粉体の所定量を秤量した。秤量した粉体を乾式ビーズミルにより混合し混合粉体とした。当該混合粉体を400℃で1時間熱処理した後、イソプロピルアルコールを分散媒としてビーズミルによりD50粒子径が0.04μmになるまで粉砕した。当該粉砕粉を800℃にて焼成し、比較例に係るNASICON型酸化物粉末を得た。
得られた比較例1に係るNASICON型酸化物粉末に対し、実施例1と同様と同様の操作を行って特性を評価した。評価結果を表1、2に記載する。
【0078】
〈比較例2〉
比較例1の400℃熱処理後の粉砕処理を、D50粒子径が0.08μmになるまで粉砕した以外は、比較例1と同様と同様の操作を行って、比較例2に係るNASICON型酸化物粉末を得た。
得られた比較例2に係るNASICON型酸化物粉末に対し、実施例1と同様と同様の操作を行って特性を評価した。評価結果を表1、2に記載する。
【0079】
〈比較例3〉
比較例1の400℃熱処理後の粉砕処理を、D50粒子径が0.30μmになるまで粉砕した以外は、比較例1と同様と同様の操作を行って、比較例3に係るNASICON型酸化物粉末を得た。
得られた比較例3に係るNASICON型酸化物粉末に対し、実施例1と同様と同様の操作を行って特性を評価した。評価結果を表1、2に記載する。
【0080】
〈比較例4〉
比較例1の400℃熱処理の粉砕処理を、D50粒子径が6.8μmになるまで粉砕した以外は、比較例1と同様と同様の操作を行って、比較例4に係るNASICON型酸化物粉末を得た。
得られた比較例4に係るNASICON型酸化物粉末に対し、実施例1と同様と同様の操作を行って特性を評価した。評価結果を表1、2に記載する。
【0081】
〈比較例5〉
実施例1の硝酸ナトリウムの添加量を0g、硝酸ジルコニウム2水和物の添加量を0gとした以外は、実施例1と同様の操作を行って、比較例5に係るNASICON型酸化物粉末を得た。
得られた比較例1に係るNASICON型酸化物粉末に対し、実施例1と同様の操作を行って特性を評価した。評価結果を表1、2に記載する
【0082】
【表1】
【表2】
図1
図2
図3