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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023037518
(43)【公開日】2023-03-15
(54)【発明の名称】ケラチノサイト増殖抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/605 20060101AFI20230308BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230308BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230308BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20230308BHJP
   A61P 17/12 20060101ALI20230308BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20230308BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230308BHJP
   A61K 125/00 20060101ALN20230308BHJP
【FI】
A61K36/605
A61P43/00 105
A61P17/00
A61P17/06
A61P17/12
A61K8/9789
A61Q19/00
A61K125:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021144329
(22)【出願日】2021-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】599020586
【氏名又は名称】株式会社肌粧品科学開放研究所
(71)【出願人】
【識別番号】500571550
【氏名又は名称】アピオン・ジャパン有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大山 貴央
(72)【発明者】
【氏名】碓井 みちる
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 恵名
(72)【発明者】
【氏名】田沼 靖一
【テーマコード(参考)】
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AA112
4C083CC02
4C083EE11
4C088AB34
4C088AC11
4C088BA08
4C088CA03
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZB21
(57)【要約】
【課題】新規なケラチノサイト増殖抑制剤を提供すること。
【解決手段】本発明のケラチノサイト増殖抑制剤は、ソウハクヒエキスを有効成分として含有することを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソウハクヒエキスを有効成分として含有することを特徴とする、ケラチノサイト増殖抑制剤。
【請求項2】
IL-17Aによって促進されたケラチノサイト増殖を抑制する、請求項1に記載のケラチノサイト増殖抑制剤。
【請求項3】
ケラチノサイト増殖に起因する皮膚症状である、手指のあれ、さめ肌又はざらざら肌の予防剤又は治療剤である、請求項1又は2に記載のケラチノサイト増殖抑制剤。
【請求項4】
ケラチノサイト増殖に起因する疾患の予防剤又は治療剤である、請求項1又は2に記載のケラチノサイト増殖抑制剤。
【請求項5】
ケラチノサイト増殖に起因する疾患が、乾癬又は疣贅である、請求項4に記載のケラチノサイト増殖抑制剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のケラチノサイト増殖抑制剤を含有する、ケラチノサイト増殖抑制用化粧品組成物。
【請求項7】
請求項6に記載のケラチノサイト増殖抑制用化粧品組成物を含有する、ケラチノサイト増殖抑制用化粧品。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項に記載のケラチノサイト増殖抑制剤を含有する、ケラチノサイト増殖抑制用医薬組成物。
【請求項9】
請求項8に記載のケラチノサイト増殖抑制用医薬組成物を含有する、ケラチノサイト増殖抑制用医薬。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか1項に記載のケラチノサイト増殖抑制剤を含有する、ケラチノサイト増殖抑制用試薬組成物。
【請求項11】
請求項10に記載のケラチノサイト増殖抑制用医薬組成物を含有する、ケラチノサイト増殖抑制用試薬。
【請求項12】
請求項1~5のいずれか1項に記載のケラチノサイト増殖抑制剤を含有する、外用組成物。
【請求項13】
請求項12に記載の外用組成物を含有する、外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケラチノサイト増殖抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
体表を覆っている皮膚は、大きく分けて表皮・真皮・皮下組織の3層からなる。体表側にある表皮は、主にケラチノサイトにより構成されている。表皮の皮内側には、活発に分裂・増殖するケラチノサイトからなる基底層があり、そこからケラチノサイトの分化に伴い、体表に向かって有棘層、顆粒層、角質層を構成し、最終的には垢として剥離する。この一連の過程は表皮のターンオーバーと呼ばれることがある。ターンオーバーが、ケラチノサイトの増殖に異常が生じることによってうまく機能しなくなると、生まれ変わる細胞が未成熟な状態になったり、角質層の構造が不均一な状態になったりする。このような状態が続くと、古い角質層が規則的に剥がれ落ちずに皮膚に残り、手指のあれ、ひじ・ひざ・かかと・くるぶし等の角化症、さめ肌、ざらざら肌等の皮膚症状の原因にもなりうる。
【0003】
その他にもケラチノサイトの異常増殖による疾患としては、乾癬、魚鱗癬、掌蹠角化症、掌蹠膿疱症、疣贅、表皮母斑等が知られている。
【0004】
例えば、乾癬とケラチノサイトの増殖との関係については、乾癬の皮疹部において、IL-17AとIL-22によって誘導される表皮の過増殖が起きていることが知られている(非特許文献1)。
【0005】
また疣贅が生じる原因として、ヒトパピローマウイルスが表皮の基底細胞に感染し、感染した基底細胞が細胞分裂し、角化してケラチノサイトに分化するとともにパピローマウイルスが増殖するが、その際、細胞の異常増殖を起こし、疣贅になると考えられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Interleukin(IL)-17A and IL-22-Pproducing neutrophils in psoriatic skin,Beatrice Drying-Andersen et al.,Br J Dermatol 2017,177(6);e321-e322
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、新規なケラチノサイト増殖抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、ソウハクヒエキスがケラチノサイト増殖抑制作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の実施態様は以下の[1]~[16]を含む。
[1]ソウハクヒエキスを有効成分として含有することを特徴とする、ケラチノサイト増殖抑制剤。
[2]IL-17Aによって促進されたケラチノサイト増殖を抑制する、[1]に記載のケラチノサイト増殖抑制剤。
[3]ケラチノサイト増殖に起因する皮膚症状である、手指のあれ、さめ肌、又は、ざらざら肌の予防剤又は治療剤である[1]又は[2]に記載のケラチノサイト増殖抑制剤。
[4]ケラチノサイト増殖に起因する疾患の予防剤又は治療剤である、[1]又は[2]に記載のケラチノサイト増殖抑制剤。
[5]ケラチノサイト増殖に起因する疾患が、乾癬又は疣贅である、[4]に記載のケラチノサイト増殖抑制剤。
[6][1]~[5]に記載のケラチノサイト増殖抑制剤を含有する、ケラチノサイト増殖抑制用化粧品組成物。
[7][6]に記載のケラチノサイト増殖抑制用化粧品組成物を含有する、ケラチノサイト増殖抑制用化粧品。
[8][1]~[5]に記載のケラチノサイト増殖抑制剤を含有する、ケラチノサイト増殖抑制用医薬組成物。
[9][7]に記載のケラチノサイト増殖抑制用医薬組成物を含有する、ケラチノサイト増殖抑制用医薬。
[10][1]~[5]に記載のケラチノサイト増殖抑制剤を含有する、ケラチノサイト増殖抑制用試薬組成物。
[11][10]に記載のケラチノサイト増殖抑制用試薬組成物を含有する、ケラチノサイト増殖抑制用試薬。
[12][1]~[5]に記載のケラチノサイト増殖抑制剤を含有する、外用組成物。
[13][12]に記載の外用組成物を含有する、外用剤。
[14][1]~[4]に記載のケラチノサイト増殖抑制剤を患者に塗布する工程を含む、乾癬又は疣贅の予防方法又は治療方法。
[15]乾癬又は疣贅の予防又は治療に使用される、[1]~[4]に記載のケラチノサイト増殖抑制剤。
[16]乾癬又は疣贅の予防剤又は治療剤を製造するための、[1]~[4]に記載のケラチノサイト増殖抑制剤の使用。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、新規なケラチノサイト増殖抑制剤の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施例において、IL-17Aが誘導するCCL20遺伝子の発現増強に対するソウハクヒエキスの作用を示す棒グラフである。
図2図2Aは、本発明の一実施例において、NHEKの創傷モデルをIL-17A存在下で培養したときの、ケラチノサイトの増殖を示す顕微鏡写真である。図2Bは、本発明の一実施例において、NHEKの創傷モデルをIL-17A存在下で培養したときの、ソウハクヒエキスのケラチノサイト増殖抑制作用を示す棒グラフである。
図3図3Aは、本発明の一実施例において、NHEKの創傷モデルにおけるケラチノサイト増殖を示す顕微鏡写真である。図3Bは、本発明の一実施例において、NHEKの創傷モデルに対するソウハクエキスのケラチノサイト増殖抑制作用を示す棒グラフである。
図4図4Aは、本発明の一実施例において、ヒト正常表皮三次元培養モデルの組織切片のHE染色像である。図4Bは、本発明の一実施例において、ソウハクヒエキスとIL-17Aが、角質層の厚さと基底層~顆粒層の厚さの比に与える影響を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、添付図面を用いて詳細に説明する。なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図及び範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変及び修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、M. R. Green & J. Sambrook (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (4th edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2012); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.などの標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いることができる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いることができる。
【0013】
<ケラチノサイト増殖抑制剤>
本発明の一実施形態に係るケラチノサイト増殖抑制剤は、ソウハクヒエキスを有効成分として含有する。
【0014】
本明細書において、ソウハクヒは、クワ科クワ属(Morus)の根皮を基原とし、その根皮の一部または全部を乾燥したものをいう。ここで、クワ科クワ属の植物としては、例えば、ログワ(M.lhou)、ヤマグワ(M.bombycis Koidzumi)、ナガミグワ(M.laevigata)、ケグワ(M.tiliaefolia)、オガサワラグワ(M.boninensis)、テンジクグワ(M.serrata)、レッドマルベリー(M.rubra)、マグワ(カラヤマグワ、ホワイトマルベリー)(M.alba)、クロミグワ(M.nigra)、ブラックマルベリー(M.mesozygia)等が挙げられる。
ソウハクヒエキスを製造するためのソウハクヒは、いずれの植物の根皮であってもよいが、マグワ(M.alba)の根皮、又は、ヤマグワ(M.bombycis Koidzumi)の根皮であることが好ましい。
【0015】
ソウハクヒエキスとは、ソウハクヒを抽出原料として得られる抽出液、抽出液の希釈液若しくは濃縮液、または抽出液を乾燥して得られる乾燥物をいう。抽出液は、抽出工程にあるいずれの液体も含む。
ソウハクヒエキスは、ソウハクヒを原料として、当業者には周知の方法を用いて調製してもよいし、市販品を使用してもよい。以下、ソウハクヒを原料としてソウハクヒエキスを調製する方法の一例を説明する。
【0016】
ソウハクヒの抽出液を得るための原料として、まず、ソウハクヒを適度に細断、粉砕、磨砕、または擂潰することによって、小片あるいは粉末にする。このように処理した原料を溶媒に浸漬し、室温で又は加熱して溶媒に対する可溶性成分を抽出した後、濾過して残渣を除去する。
【0017】
可溶性成分を抽出するための溶媒として、特に制限されず、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;エチレングリコール、1,2-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、2,3-ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等の親水性有機溶媒、又は、その水溶液等を用いることができる。
【0018】
得られた抽出液はそのままソウハクヒエキスとして使用してもよいが、周知の方法に従って希釈、濃縮、乾燥、又は精製等の処理を施して得られる、抽出液の希釈液若しくは濃縮液、又は抽出液の乾燥物をソウハクヒエキスとして使用してもよい。
【0019】
本実施形態に係るケラチノサイト増殖抑制剤は、ソウハクヒエキスのケラチノサイト増殖抑制作用を阻害しない限り、賦形剤、希釈剤、保湿剤、pH調整剤、乳化剤、可溶化剤、分散剤、増粘剤、界面活性剤、防腐剤、酸化防止剤、油脂類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、香料、粉体、色素等を含有していてもよい。
【0020】
本実施形態に係るケラチノサイト増殖抑制剤の剤型は、特に制限されず、使用目的に応じて任意に選択でき、例えば、クリーム状、ペースト状、軟膏状、ローション状、乳液状、ムース状、溶液状、パウダー状、粉末状、パック状、ゲル状等であってもよい。
【0021】
本発明の実施形態に係るケラチノサイト増殖抑制剤は、ケラチノサイトの増殖に起因する皮膚症状である、手指のあれ、さめ肌、又は、ざらざら肌の予防剤又は治療剤として好適に使用することができる。ここで、予防剤には再発を予防するための再発予防剤も含まれる。
【0022】
また本発明の実施形態に係るケラチノサイト増殖抑制剤は、ケラチノサイトの増殖に起因する疾患の予防剤、又は治療剤として好適に使用することができる。ここで、予防剤には再発を予防するための再発予防剤も含まれる。
【0023】
ケラチノサイトの増殖に起因する疾患としては、例えば、乾癬、魚鱗癬、掌蹠角化症、掌蹠膿疱症、疣贅、表皮母斑が挙げられる。
【0024】
本明細書における「乾癬」には、尋常性乾癬、関節症性乾癬(乾癬性関節炎)、滴状乾癬、乾癬性紅皮症、汎発性膿疱性乾癬が含まれる。尋常性乾癬等の主な症状としては、皮膚が赤くなる紅斑、炎症性細胞の浸潤、皮膚の肥厚、過剰に増殖した角質がかさぶた状に積み重なった鱗屑の固着、鱗屑の落屑が挙げられる。本実施形態のケラチノサイト増殖抑制剤は、乾癬の患者において、これらの皮膚症状を改善するために用いることができる。
【0025】
本明細書における「疣贅」には、指状疣贅や足底疣贅などの尋常性疣贅、ミルメシア、爪周囲疣贅、糸状疣贅、指状疣贅、扁平疣贅、尖圭コンジローマ、老人性イボなどの脂漏性角化症、スキンタッグ・首イボ・中年イボなどの軟性線維腫が含まれる。
【0026】
<組成物>
本実施形態に係るケラチノサイト増殖抑制剤は、化粧品組成物、食品組成物、試薬組成物及び医薬組成物に配合することができる。これにより、化粧品組成物、食品組成物、試薬組成物及び医薬組成物にケラチノサイト増殖抑制作用を付与し、ケラチノサイト増殖抑制用化粧品組成物、ケラチノサイト増殖抑制用食品組成物、ケラチノサイト増殖抑制用試薬組成物及びケラチノサイト増殖抑制用医薬組成物を製造することができる。
【0027】
ケラチノサイト増殖抑制用化粧品組成物を含有するケラチノサイト増殖抑制用化粧品の形態は、特に制限されず、例えば、化粧水、クリーム、乳液、軟膏、ローション、オイル、オールインワンジェル、パック、美容液、ファンデーション、クレンジング、洗顔料、洗浄料、シャンプーリンス、アイシャドウ、アイライナー等が挙げられる。これらの化粧品のうち、軟膏やローション等のように、塗布剤として皮膚に塗布して用いることができるものが好ましい。
【0028】
ケラチノサイト増殖抑制用食品組成物を含有するケラチノサイト増殖抑制用食品の種類は、特に制限されず、例えば、一般食品、発酵食品(ヨーグルト、ローヤルゼリー等)、飲料(乳清飲料、茶、スポーツ飲料、果実ジュース、清涼飲料等)、菓子(ガム、ゼリー、飴等)、健康食品(錠剤、カプセル、タブレット等)、栄養補助食品(栄養ドリンク等)、サプリメント、栄養機能食品、機能性表示食品、保健用食品、特定保健用食品、ペットフード、動物用飼料等が挙げられる。
【0029】
ケラチノサイト増殖抑制用試薬組成物を含有するケラチノサイト増殖抑制用試薬は、in vitroで用いることができ、例えば、培養されたケラチノサイト、表皮組織、培養皮膚等の培養物に投与することで、その培養物に対してケラチノサイト増殖抑制効果を及ぼす。試薬の使用方法としては、特に制限されず、例えば、培地にソウハクヒエキスを1回又は複数回にわたって添加してもよい。
【0030】
ケラチノサイト増殖抑制用医薬組成物を含有するケラチノサイト増殖抑制用医薬は、ケラチノサイト増殖に起因する皮膚症状及び疾患の予防又は治療に有効であり、とりわけ乾癬又は疣贅の予防又は治療効果を有する医薬組成物として好適に用いることができる。
当該医薬組成物を含有する医薬は、ヒト又はヒト以外の動物の個体に投与できる。投与形態は、特に制限されず、例えば、経口投与であっても、非経口投与であってもよい。経口投与のための剤型としては、特に制限されず、例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤、液剤、乳剤、シロップ剤、懸濁剤、トローチ剤等が挙げられる。また非経口投与のための剤型としては、特に制限されず、例えば、注射剤(静脈注射剤、筋肉注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤等)、点滴剤、外用剤(軟膏剤、粉末剤、顆粒剤、液剤、ゲル剤、乳液剤、クリーム剤、ローション剤、ムース剤、ゼリー剤、シート剤、スプレー剤等)、坐剤等が挙げられるが、外用剤として用いることが好ましい。
【0031】
<使用方法>
本発明の一実施形態に係るケラチノサイト増殖抑制剤は、外用組成物に配合して使用することが好ましい。ケラチノサイト増殖抑制剤を配合した外用組成物を含有する外用剤の形態は、特に制限されず、例えば、粉末状、顆粒状、液状、固形状、液状、ゲル状、乳液状、クリーム状、ローション状、ムース状、ゼリー状、ペースト状、軟膏状、シート状、スプレー状等が挙げられる。当該外用剤は、例えば、頭、顔、首、腕、手、腋、背中多、胴、性器、足等の部位の皮膚に使用することができる。
【0032】
以上説明したように、本実施形態に係るケラチノサイト増殖抑制剤は、ケラチノサイトの増殖を抑制することができ、このためケラチノサイトの増殖に起因する疾患の予防剤又は治療剤として有用である。この増殖抑制剤によって抑制されるケラチノサイトの増殖は、IL-17Aによって誘導されたものであってもよい。
【実施例0033】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0034】
[試験例1:ソウハクヒエキスによるCCL20遺伝子の発現抑制作用の評価]
ソウハクヒエキスが、IL-17Aの刺激に対するバイオマーカーであるCCL20遺伝子の発現量に与える影響について、以下の方法で評価した。
【0035】
培養したヒト正常表皮ケラチノサイト(Normal Human Epidermal Keratinocyte:NHEK)(倉敷紡績株式会社製)を、5.0×10個/ウエルになるように96ウエルプレートに播種し、37℃、5%CO条件下で培養した。24時間後、各ウエルにIL-17A(BioLegend社製)及びソウハクヒエキス(一丸ファルコス社製)を表1に示す終濃度になるようにそれぞれ添加した。
【0036】
【表1】
【0037】
37℃、5%CO条件下で24時間培養した後、培地を除去し、Superprep Cell Lysis RT(東洋紡績株式会社製)を用いて全RNAを抽出及びcDNAの合成を行った。合成したcDNAをもとに、THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix(東洋紡績株式会社製)を用いて、定量PCRを行った。なお、プライマーとして、ヒトCCL20フォワード及びヒトCCL20リバースを用いた。また内部標準としてグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)を用い、CCL20のmRNA発現量を相対的に評価した。その結果を図1に平均値±標準誤差の棒グラフとして示した(図1)。なお、図中の「MAE」との表記は、Morus alba extractの略で、ソウハクエキスのことを意味する。
【0038】
<使用したプライマーの配列>
ヒトCCL20フォワード:GCTGCTTTGATGTCAGTGCT
ヒトCCL20リバース:GCAGTCAAAGTTGCTTGCTG
ヒトGAPDHフォワード:AGCCACATCGCTCAGACAC
ヒトGAPDHリバース:GCCCAATACGACCAAATCC
【0039】
図1に示すように、比較例1-1に比べて比較例1-2では、NHEKにおけるCCL20遺伝子の発現量が2倍以上に増加している。このように、NHEKでは、IL-17A刺激によりCCL20遺伝子の発現が増強する。これに対して、実施例1では、比較例1-2に比べて、CCL20遺伝子の発現量が有意に減少している。このように、ソウハクエキスは、NHEKにおけるIL-17A刺激によるCCL20遺伝子の発現を抑制する作用を有する。
【0040】
一方、IL-17Aはケラチノサイトの増殖と異常な分化を引き起こすことが知られている。試験例1の結果から、ソウハクヒエキスは、NHEKに対するIL-17Aの効果を抑制する作用を有するため、ソウハクヒエキスは、IL-17Aの発現に起因する皮膚疾患の予防剤及び治療剤として有用である。
【0041】
[試験例2:ソウハクヒエキスによるケラチノサイト増殖抑制作用の評価]
ソウハクヒエキスが、NHEKの創傷モデルにおいてIL-17Aが誘導するケラチノサイトの増殖に与える影響について以下の方法で評価した。
【0042】
カルチャーインサート(ibidi社製)のウエル内に、NHEKを播種し、37℃、5%CO条件下で培養した。24時間培養後、各ウエルにおいてインサートを取り外し、各ウエルについて顕微鏡を用いて撮影を行った(図2Aの上段の写真)。その後、各ウエルの培地を、表2に示す濃度でIL-17A及びソウハクヒエキスを含む培地に置換した。18時間培養後、各ウエルについて顕微鏡を用いて撮影を行った(図2Aの下段の写真)。撮影した写真から間隙部分の面積を測定し、<式I>に従って間隙残存率を求めた。ケラチノサイトの増殖が抑制されると、間隙部分の面積は大きいままとなり、間隙残存率の値も大きいものとなる。そこで間隙残存率の値を指標として、IL-17Aが誘導するケラチノサイトの増殖に対する、ソウハクヒエキスの抑制作用を評価した。図2Bは、各ウエルにおける間隙残存率を棒グラフにして示したものである。
【0043】
<式I> 間隙残存率=S/S
(式中、Sはインサートを取り外した直後の間隙部分の面積を表し、Sはインサートを取り外した後、IL-17A及びソウハクヒエキスを表2に示す濃度で含んでいる培地で18時間NHEKを培養した時の間隙部分の面積を表す。)
【0044】
【表2】
【0045】
図2Bに示すように、比較例2-1に比べて比較例2-2では、間隙残存率の値が小さくなっていた。このように、比較例2-2では、IL-17Aの添加によりケラチノサイトの増殖が促進されていた。これに対して、ソウハクヒエキスを添加した実施例2-1~2-3では、ソウハクヒエキスを添加していない比較例2-2に比べて、間隙残存率の値が大きくなった。このように、ソウハクヒエキスを添加することにより、IL-17Aが誘導するケラチノサイトの増殖が抑制される。
【0046】
次に、IL-17Aを添加せずに上記と同様の実験を行い、ソウハクヒエキスのケラチノサイト増殖を抑制する作用について評価した。
各ウエルの培地を、表3に示す濃度でIL-17A及びソウハクヒエキスを含む培地に置換して18時間培養したことを除き、上記と同様の実験を行った。培地を置換する前の各ウエルについて顕微鏡を用いて撮影した写真を図3Aの上段に示した。また、培地を置換してから18時間経過後の各ウエルについて顕微鏡を用いて撮影した写真を図3Bの下段に示した。図3Bは、各ウエルの間隙残存率を棒グラフにして表したものである。
【0047】
【表3】
【0048】
図3Bに示すように、比較例3に比べてソウハクヒエキスを添加した実施例3では、間隙残存率の値が大きくなった。このように、ソウハクエキスは、IL-17A非存在下でのケラチノサイトの増殖を抑制する作用を有する。
【0049】
[試験例3:ソウハクヒエキスによる角質層の肥厚化抑制作用の評価]
ヒト正常表皮3次元培養モデル(EPI-200(MatTek社製))を用いて、IL-17Aが誘導する角質層の肥厚化に対してソウハクヒエキスの与える影響について、以下の方法で評価した。
【0050】
ヒト正常表皮3次元培養モデルを、EPI-200に添付されたマニュアルに従ってカップ内で1日前培養した後、表4に示す濃度でIL-17Aを含む培地に置換した。ソウハクヒエキスをリン酸緩衝液で2.75μg/mLに希釈した溶液を表4に示す濃度になるようにカップ上部より添加した。37℃、5%CO条件下で48時間培養した後、ヒト正常表皮3次元培養モデルをPBS(-)で洗浄し、4%パラホルムアルデヒド水溶液で固定し、パラフィン包埋し、組織切片を作製した。作製した各組織切片についてヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を施し、光学顕微鏡を用いて表皮の角質層の構造を観察し、これを撮影した(図4A)。HE染色の画像から、角質層の厚さと基底層、有棘層、顆粒層の三層の厚さ厚さを測定し、両者の厚さの比の値(角質層の厚さ/基底層~顆粒層の厚さ)を棒グラフにして表した(図4B)。
【0051】
【表4】
【0052】
図4Aに示すように、比較例4-1に比べて比較例4-2では、角質層の厚さが増大し、基底層~顆粒層の厚さが減少していた。角質層の厚さと三層の厚さの比を定量的に表した図4Bに示されるように、比較例4-1に比べて比較例4-2では、角質層の厚さと三層の厚さの比の値が約2.5倍にもなっていた。このように、ヒト正常表皮3次元培養モデルでは、IL-17A刺激により角質層の厚さが肥大化する。
これに対して、ソウハクヒエキスを添加した実施例4-1及び4-2では、ソウハクヒエキスを添加していない比較例4-2に比べて、角質層の厚さと三層の厚さの比の値が小さくなった。このように、ソウハクヒエキスは、IL-17Aが引き起こす角質層の厚さの肥大化を抑制する作用を有する。従って、ソウハクヒエキスは、乾癬又は疣贅の予防剤及び治療剤として有用である。
図1
図2
図3
図4