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  • 特開-樹脂組成物および成形品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023037520
(43)【公開日】2023-03-15
(54)【発明の名称】樹脂組成物および成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20230308BHJP
【FI】
C08L101/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021144333
(22)【出願日】2021-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】竹内 莉奈
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BC071
4J002BG103
4J002BN124
4J002CF072
4J002DL006
4J002FA046
4J002FD016
4J002GC00
4J002GG01
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】 他部材との接着性に優れた成形品を提供可能な樹脂組成物、および、前記樹脂組成物から形成された成形品の提供。
【解決手段】 酸変性重合体(A)100質量部に対し、結晶性熱可塑性樹脂(B)を50質量部以上100質量部以下の割合で含む、樹脂組成物。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸変性重合体(A)100質量部に対し、結晶性熱可塑性樹脂(B)を50質量部以上100質量部以下の割合で含む、樹脂組成物。
【請求項2】
前記結晶性熱可塑性樹脂(B)が、熱可塑性ポリエステル樹脂を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記結晶性熱可塑性樹脂(B)が、ポリブチレンテレフタレート樹脂を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記酸変性重合体(A)の重量平均分子量が150,000以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記酸変性重合体(A)100質量部に対し、前記結晶性熱可塑性樹脂(B)の含有量が60~90質量部である、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記酸変性重合体(A)が無水マレイン酸重合体を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記酸変性重合体(A)がスチレン-無水マレイン酸重合体を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
さらに、衝撃改質剤を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記衝撃改質剤がコアシェルエラストマーを含む、請求項8に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
さらに、強化充填材を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成された成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物および成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶性熱可塑性樹脂は、加工が容易であり、さらに、機械的物性、耐熱性その他の物理的・化学的特性に優れているものが多い。このため、自動車部品、電気・電子機器部品その他の精密機器部品等に幅広く使用されている(特許文献1、2)。また、このような結晶性熱可塑性樹脂にさらなる機能を付与するため、酸変性重合体を配合することも検討されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-016559号公報
【特許文献2】特開2006-219626号公報
【特許文献3】特開2020-164661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、結晶性熱可塑性樹脂から形成された成形品を、他の樹脂部材等と接着剤を用いて接着することが広く行われている。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、他部材との接着性に優れた成形品を提供可能な樹脂組成物、および、前記樹脂組成物から形成された成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、酸変性重合体を主要成分とし、これに結晶性熱可塑性樹脂を配合することにより、接着性を向上させることが可能であることを見出し、上記課題を解決するに至った。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>酸変性重合体(A)100質量部に対し、結晶性熱可塑性樹脂(B)を50質量部以上100質量部以下の割合で含む、樹脂組成物。
<2>前記結晶性熱可塑性樹脂(B)が、熱可塑性ポリエステル樹脂を含む、<1>に記載の樹脂組成物。
<3>前記結晶性熱可塑性樹脂(B)が、ポリブチレンテレフタレート樹脂を含む、<1>に記載の樹脂組成物。
<4>前記酸変性重合体(A)の重量平均分子量が150,000以上である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<5>前記酸変性重合体(A)100質量部に対し、前記結晶性熱可塑性樹脂(B)の含有量が60~90質量部である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<6>前記酸変性重合体(A)が無水マレイン酸重合体を含む、<1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<7>前記酸変性重合体(A)がスチレンー無水マレイン酸重合体を含む、<1>~<6>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<8>さらに、衝撃改質剤を含む、<1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<9>前記衝撃改質剤がコアシェルエラストマーを含む、<8>に記載の樹脂組成物。
<10>さらに、強化充填材を含む、<1>~<9>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<11><1>~<10>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された成形品。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、他部材との接着性に優れた成形品を提供可能な樹脂組成物、および、前記樹脂組成物から形成された成形品を提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例における接着強度を測定する方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書において、重量平均分子量および数平均分子量は、特に述べない限り、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)法により測定したポリスチレン換算値である。
本明細書で示す規格が年度によって、測定方法等が異なる場合、特に述べない限り、2021年1月1日時点における規格に基づくものとする。
本実施形態における樹脂成分とは、酸変性重合体(A)、および、結晶性熱可塑性樹脂(B)、ならびに、必要に応じ配合される非晶性熱可塑性樹脂(C)を意味する。
【0009】
本実施形態の樹脂組成物は、酸変性重合体(A)100質量部に対し、結晶性熱可塑性樹脂(B)を50質量部以上100質量部以下の割合で含むことを特徴とする。このような構成とすることにより、他部材に対する接着性に優れた成形品を提供可能な樹脂組成物が得られる。酸変性重合体が有する、酸由来の基(以下、単に「酸基」ということがある。)が接着性向上に寄与すると推測される。
【0010】
<酸変性重合体(A)>
本実施形態の樹脂組成物は、酸変性重合体(A)を含む。酸変性重合体を主要成分とすることにより、他部材との接着性に優れた成形品を提供可能な樹脂組成物が得られる。
酸変性重合体(A)は結晶性樹脂であっても、非晶性樹脂であってもよいが、通常は非晶性樹脂である。非晶性樹脂を用いることにより、低反り性を効果的に達成することができる。また、酸変性重合体は、熱可塑性樹脂であっても、熱硬化性樹脂であってもよいが、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0011】
酸変性重合体は、酸基含有単量体単位のみからなっていてもよいが、酸基含有単量体単位に加えて、他の単量体単位を含んでいることが好ましく、酸基含有単量体単位(好ましくは無水マレイン酸基含有単量体単位)に加え、芳香族ビニル基含有単量体単位およびオレフィン基含有単量体単位の少なくとも1種を含むことが好ましく、酸基含有単量体単位に加え、スチレン基含有単量体単位およびオレフィン基含有単量体単位の少なくとも1種を含むことがより好ましく、酸基含有単量体単位に加え、スチレン基含有単量体単位を含むことがさらに好ましい。酸基含有単量体単位に加え、スチレン基含有単量体単位を含むことにより、接着性に加え、低そり性について、顕著に向上する傾向にある。
【0012】
芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、スチレンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸アンモニウム等のスチレンスルホン酸塩;スチレンスルホン酸エチル等のスチレンスルホン酸エステル;t-ブトキシスチレン等のスチレンアルキルエーテル;アセトキシスチレン、ビニル安息香酸等のスチレン誘導体;α-メチルスチレンおよびα-メチルスチレン誘導体が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
オレフィン単量体としては、エチレン、プロピレン等のα-オレフィンが例示される。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
芳香族ビニル単量体単位および/またはオレフィン単量体の含有量は、酸変性重合体中、2質量%以上であることが好ましく、また、98質量%以下であることが好ましい。
【0013】
酸変性重合体は、上記に加え、さらに他の単量体単位を含んでいてもよい。その他の単量体としては、アクリル系単量体やマレイミド系単量体が好ましい。アクリル系単量体としては、メタクリル酸メチルやアクリル酸メチルなどが例示される。マレイミド系単量体としては、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミドなどのマレイミド系単量体などが挙げられる。また、アクリロニトリルも例示される。
酸変性重合体の酸変性は、酸および/または酸無水物によって行われることが好ましく、酸無水物によって行われることがより好ましい。酸変性は、具体的には、有機酸およびその酸無水物類によって行われることが好ましく、カルボン酸類および無水カルボン酸類によって行われることがより好ましく、マレイン酸および無水マレイン酸によって行われることがさらに好ましく、無水マレイン酸によって行われることが一層好ましい。
【0014】
酸変性重合体中の酸変性の割合(酸の割合)は、2質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることが好ましく、また、50質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であってもよく、10質量%以下であってもよい。
樹脂組成物中の酸変性重合体における酸の含有量は、樹脂組成物を可溶な溶媒に溶かして得られた溶液から溶媒を蒸発させ、残った物質(残存物)をNMR測定用の重溶媒に溶かし、NMR測定により酸含有量を算出することが出来る。NMR測定にて酸基が確認出来ない場合には、残存物を可溶な溶媒に溶かし、指示薬を加えて塩基性溶媒にて滴定して算出することも出来る。
前記可溶な溶媒及びNMR測定に使用する溶媒は、組成物中の樹脂成分が可溶な溶媒であることが好ましく、ジクロロメタン、メタノール、クロロホルム等が挙げられるが、その限りではない。
【0015】
本実施形態で用いられる無水マレイン酸重合体の具体例としては、スチレン-無水マレイン酸重合体、スチレン-N-フェニルマレイミド-無水マレイン酸重合体、および、オレフィン-無水マレイン酸重合体の少なくとも1種であることがさらに好ましく、スチレン-無水マレイン酸重合体であることが一層好ましい。
本実施形態で用いる酸変性重合体は、酸基含有単量体単位と芳香族ビニル基含有単量体単位と、必要に応じ配合されるその他の単量体単位の合計が末端基を除く全構成単位の合計の100質量%を占めるように構成されることが好ましい。
【0016】
酸変性重合体は、酸変性衝撃改質剤でもよい。
本実施形態で用いることができる酸変性衝撃改質剤は、酸変性されたオレフィン系エラストマーおよび酸変性されたスチレン系エラストマーからなる少なくとも1種の酸変性エラストマーである。
【0017】
オレフィン系エラストマーとしては、軟質相にポリオレフィン部があればよく、EPR、EPDM等のエチレンプロピレンゴム等が好ましく使用できる。
【0018】
スチレン系エラストマーとしては、スチレン成分とエラストマー成分からなり、スチレン成分を通常5~80質量%、好ましくは10~50質量%、特に15~30質量%の割合で含有するものが好ましい。この際のエラストマー成分としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン等の共役ジエン系炭化水素が挙げられ、スチレン系エラストマーとしてはより具体的にはスチレンとブタジエンとの共重合体(SBS)エラストマー、スチレンとイソプレンとの共重合体(SIS)エラストマー等が挙げられる。
【0019】
本実施形態における酸変性衝撃改質剤の酸変性は、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水コハク酸等の環状酸無水物などで共重合体側鎖に環状無水物やカルボン酸基を導入することを指す。
酸変性を導入する方法は、通常行われる方法、例えばグラフト共重合、ランダム共重合などで導入することができる。
このような酸変性の衝撃改質剤としては、例えば、旭化成社製の「タフテックM1913」、アルケマ社製の「ロタダー4613」、三井化学社製「タフマーMP0610」などが挙げられる。
【0020】
酸変性重合体の重量平均分子量は、80,000以上であることが好ましく、100,000以上であることがより好ましく、120,000以上であることがさらに好ましく、150,000以上であることが一層好ましく、200,000以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、結晶性熱可塑性樹脂との相溶性が向上し、表面外観が改善する傾向にある。また、前記酸変性重合体の重量平均分子量は、500,000以下であることが好ましく、400,000以下であることがより好ましく、300,000以下であることが一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、得られる成形品表面への酸変性重合体、ひいては、表面の酸(酸基)の存在確率が高くなり、樹脂組成物の接着性がより向上する傾向にある。
上記重量平均分子量は、溶媒としてテトラヒドロフランを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量である。
本実施形態の樹脂組成物が、酸変性重合体を2種以上含む場合、混合物の重量平均分子量とする。
【0021】
本実施形態における酸変性重合体の酸価は、0mgKOH/g超であり、0.5mgKOH/g以上であることが好ましく、2mgKOH/g以上であることがより好ましく、5mgKOH/g以上であることがさらに好ましく、10mgKOH/g以上であることが一層好ましく、用途に応じては、15mgKOH/g以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、ポリエステル樹脂の分解をより効果的に抑制することができる。また、前記酸変性重合体の酸価の上限は、100mgKOH/g以下であることが好ましく、90mgKOH/g以下であることがより好ましく、80mgKOH/g以下であることがさらに好ましく、用途に応じては、70mgKOH/g以下、60mgKOH/g以下、50mgKOH/g以下、40mgKOH/g以下、35mgKOH/g以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、成形品の械的物性の低下を効果的に抑制できる傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物が酸変性重合体を2種以上含む場合、前記酸価は、混合物の酸価とする。
【0022】
本実施形態の樹脂組成物における酸変性重合体の含有量は、樹脂組成物中、15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、25質量%以上であることがさらに好ましく、30質量%以上であることが一層好ましい。前記酸変性重合体の含有量は、樹脂組成物中、55質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、45質量%以下であることがさらに好ましく、40質量%以下であることが一層好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、酸変性重合体を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0023】
本実施形態においては、樹脂組成物中の酸の含有量が0.5質量%以上であることが好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られる成形品の他部材への優れた接着性を達成することができる。前記樹脂組成物中の酸の含有量は、0.55質量%以上であることが好ましい。また、樹脂組成物中の酸の含有量の上限は、10.0質量%以下であることが好ましく、8.0質量%以下であることがより好ましく、6.0質量%以下であることがさらに好ましく、4.0質量%以下であることが一層好ましく、3.0質量%以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、成形品の表面外観がより向上する傾向にある。
樹脂組成物中の酸の含有量は、酸変性重合体中の酸の含有量が測定等で判っている場合は、樹脂組成物100質量部中の酸変性重合体含有量に酸変性重合体中の酸含有率を掛けることで算出することができる。
また、酸変性重合体中の酸の含有量が不明な場合は、前述の通り、樹脂組成物を可溶な溶媒に溶かして得られた溶液から溶媒を蒸発させ、残った物質(残存物)をNMR測定用の重溶媒に溶かし、NMR測定により酸含有量を算出する。NMR測定にて酸基が確認出来ない場合には、残存物を可溶な溶媒に溶かし、指示薬を加えて塩基性溶媒にて滴定して算出することも出来る。
【0024】
<結晶性熱可塑性樹脂(B)>
本実施形態の樹脂組成物は、酸変性重合体(A)100質量部に対し、結晶性熱可塑性樹脂(B)を50質量部以上100質量部以下の割合で含む。結晶性熱可塑性樹脂を含むことにより、樹脂部材としての必要な強度を十分に保ち、かつ、射出成形などの成形性に優れた成形品が得られる。
本実施形態における結晶性樹脂とは、DSC(示差走査熱量)測定によって、明確な融点を示す樹脂をいう。また、明確な融点を示さない樹脂を非晶性熱可塑性樹脂とする。
結晶性熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、結晶性熱可塑性ポリエステル樹脂などが例示され、ポリアミド樹脂および結晶性熱可塑性ポリエステル樹脂(以下、単に、「ポリエステル樹脂」ということがある)が好ましく、結晶性熱可塑性ポリエステル樹脂がより好ましく、ポリブチレンテレフタレート樹脂がさらに好ましい。
尚、酸変性重合体であって、結晶性熱可塑性樹脂に相当するものは、本発明では、酸変性重合体(A)に該当するものとする。また、酸変性重合体であって、非晶性熱可塑性樹脂に相当するものも、本発明では、酸変性重合体(A)に該当するものとする。
【0025】
ポリアミド樹脂の詳細は、特開2020-100832号公報の段落0012~0022の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
ポリアセタール樹脂の詳細は、特開2021-098767号公報の段落0009~0014の記載を参酌することができ、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0026】
ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸化合物とジヒドロキシ化合物の重縮合、オキシカルボン酸化合物の重縮合あるいはこれらの化合物の重縮合等によって得られるポリエステルであり、ホモポリエステル、コポリエステルの何れであってもよい。
【0027】
ポリエステル樹脂を構成するジカルボン酸化合物としては、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体が好ましく使用される。
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1、5-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ビフェニル-2,2’-ジカルボン酸、ビフェニル-3,3’-ジカルボン酸、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルエーテル-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルメタン-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルスルフォン-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルイソプロピリデン-4,4’-ジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボン酸、アントラセン-2,5-ジカルボン酸、アントラセン-2,6-ジカルボン酸、p-tert-フェニレン-4,4’-ジカルボン酸、ピリジン-2,5-ジカルボン酸等が挙げられ、テレフタル酸が好ましく使用できる。
【0028】
これらの芳香族ジカルボン酸は2種以上を混合して使用してもよい。これらは周知のように、遊離酸以外にジメチルエステル等のエステル形成性誘導体として重縮合反応に用いることができる。
なお、少量であればこれらの芳香族ジカルボン酸と共にアジピン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸や、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸および1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸を1種以上混合して使用することができる。
【0029】
ポリエステル樹脂を構成するジヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、へキシレングリコール、ネオペンチルグリコール、2-メチルプロパン-1,3-ジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の脂肪族ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール等の脂環式ジオール等、およびそれらの混合物等が挙げられる。なお、少量であれば、分子量400~6,000の長鎖ジオール、すなわち、ポリエチレングリコール、ポリ-1,3-プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等を1種以上共重合してもよい。
また、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール、ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン等の芳香族ジオールも用いることができる。
【0030】
また、上記のような二官能性モノマー以外に、分岐構造を導入するためトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等の三官能性モノマーや分子量調節のため脂肪酸等の単官能性化合物を少量併用することもできる。
ポリエステル樹脂としては、通常は主としてジカルボン酸とジオールとの重縮合からなるもの、すなわち、ポリエステル樹脂全体の50質量%、好ましくは70質量%以上がこの重縮合物からなるものを用いる。ジカルボン酸としては芳香族カルボン酸が好ましく、ジオールとしては脂肪族ジオールが好ましい。
【0031】
なかでも好ましいのは、酸成分の95モル%以上がテレフタル酸であり、アルコール成分の95質量%以上が脂肪族ジオールであるポリアルキレンテレフタレートである。その代表的なものはポリブチレンテレフタレート樹脂およびポリエチレンテレフタレート樹脂であり、ポリブチレンテレフタレート樹脂が好ましい。これらはホモポリエステルに近いもの、即ち樹脂全体の95質量%以上が、テレフタル酸成分および1,4-ブタンジオールまたはエチレングリコール成分からなるものであるのが好ましい。
また、イソフタル酸、ダイマー酸、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)等のポリアルキレングリコール等が共重合されているものも好ましい。なお、これらの共重合体は、共重合量が、ポリアルキレンテレフタレートの全セグメント中の1モル%以上、50モル%未満のものが例示される。
【0032】
ポリエステル樹脂の末端カルボキシル基濃度は、1~23eq/tonであることが好ましく、7~20eq/tonであることがより好ましい。このような範囲とすることにより、流動性がより向上する傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物が2種以上のポリエステル樹脂を含む場合、ポリエステル樹脂の末端カルボキシル基濃度は、混合物のものとする。末端カルボキシル基量は、ベンジルアルコール25mLにポリエステル樹脂0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/Lベンジルアルコール溶液を用いて滴定することにより、求めることができる。
【0033】
本実施形態の樹脂組成物は、結晶性熱可塑性樹脂を、酸変性重合体(A)100質量部に対し、結晶性熱可塑性樹脂(B)を50質量部以上の割合で含み、55質量部以上であることが好ましく、60質量部以上であることがより好ましく、65質量部以上であることがさらに好ましく、70質量部以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、表面に、酸変性重合体(A)が有する酸基の存在率が上がり、接着性がより向上する傾向にある。また、前記結晶性熱可塑性樹脂(B)の含有量の上限値は、酸変性重合体(A)100質量部に対し、100質量部以下であり、100質量部未満であることが好ましく、95質量部以下であることがさらに好ましく、90質量部以下であることが一層好ましく、85質量部以下であることがより一層好ましく、80質量部以下であることがさらに一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、樹脂組成物の耐熱性がより向上する傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、結晶性熱可塑性樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0034】
<酸変性重合体以外の非晶性熱可塑性樹脂(C)>
本実施形態の樹脂組成物は、酸変性重合体(B)以外の非晶性熱可塑性樹脂(C)を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。非晶性熱可塑性樹脂を含むことにより、得られる成形品の反りを効果的に抑制できる。これは、非晶性熱可塑性樹脂が結晶性熱可塑性樹脂に比べて、成形時に収縮しにくいためと推測される。さらに、本実施形態においては、非晶性熱可塑性樹脂を含むことにより、薬品等によって、成形品の表面に容易に適度な粗さを形成することができ、得られる成形品の接着性をより高めることができる。
非晶性熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン樹脂、耐衝撃性ポリスチレン樹脂(HIPS)、水添ポリスチレン樹脂、ポリアクリルスチレン樹脂、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂)、AS樹脂(アクリロニトリルスチレン樹脂)、AES樹脂(アクリロニトリルエチレンゴムスチレン樹脂)、ASA樹脂(アクリロニトリルスチレンアクリルゴム樹脂)等のスチレン系樹脂、ポリアルキルメタクリレート樹脂、(メタ)アクリレート共重合体、ポリメタクリルメタクリレート樹脂、ポリフェニルエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、非晶性ポリアルキレンテレフタレート樹脂、非晶性ポリエステル樹脂、非晶性ポリアミド樹脂、ポリ-4-メチルペンテン-1、環状ポリオレフィン樹脂、非晶性ポリアリレート樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂が例示され、スチレン系樹脂およびポリカーボネート樹脂が好ましく、スチレン系樹脂がより好ましい。スチレン系樹脂を用いることにより、樹脂組成物の成形安定性、熱安定性向上などの効果がより効果的に発揮される傾向にある。
【0035】
スチレン系樹脂の中でも、耐衝撃性ポリスチレン樹脂(HIPS)、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂)およびAS樹脂(アクリロニトリルスチレン樹脂)が好ましく、耐衝撃性ポリスチレン樹脂(HIPS)およびAS樹脂(アクリロニトリルスチレン樹脂)がより好ましい。
【0036】
本実施形態の樹脂組成物における非晶性熱可塑性樹脂の含有量は、樹脂組成物に含まれる樹脂成分100質量部に対し、1質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であってもよく、10質量部以上であってもよく、20質量部以上であってもよく、25質量部以上であってよい。前記下限値以上とすることにより、得られる成形品の反りを効果的に抑制できる傾向にある。また、前記非晶性熱可塑性樹脂の含有量の上限値は、樹脂組成物に含まれる樹脂成分100質量部に対し、60質量部以下であることが好ましく、55質量部以下であることがより好ましく、45質量部以下であってもよい。
実施形態の樹脂組成物は、非晶性熱可塑性樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0037】
本実施形態の樹脂組成物は、非晶性熱可塑性樹脂を実質的に含まない構成とすることもできる。実質的に含まないとは、樹脂組成物に含まれる非晶性熱可塑性樹脂の含有量が樹脂組成物に含まれる樹脂成分の合計量の10質量%以下であることをいい、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0038】
<離型剤(D)>
本実施形態の樹脂組成物は、離型剤を含むことが好ましい。
離型剤は、公知の離型剤を広く用いることができ、脂肪族カルボン酸のエステル化物が好ましい。脂肪族カルボン酸のエステル化物は、多価アルコールと、炭素数10~19の脂肪族カルボン酸のエステル化物であることが好ましい。
離型剤としては、具体的には、特開2018-070722号公報の段落0063~0077の記載、特開2019-123809号公報の段落0090~0098の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0039】
本実施形態の樹脂組成物が離型剤を含む場合、その含有量は、樹脂組成物に含まれる樹脂成分100質量部に対し、0.01質量部以上含むことが好ましく、0.08質量部以上含むことがより好ましく、0.2質量部以上含むことがさらに好ましい。また、前記離型剤の含有量の上限値は、樹脂組成物に含まれる樹脂成分100質量部に対し、5質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましく、1質量部以下であることがさらに好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、離型剤を1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0040】
<衝撃改質剤(E)>
本実施形態の樹脂組成物は、衝撃改質剤を含有することも好ましい。衝撃改質剤を含有することで、樹脂組成物の耐衝撃性を改良することができる。
【0041】
本実施形態で用いることができる衝撃改質剤は、ゴム成分にこれと共重合可能な単量体成分とをグラフト共重合したグラフト共重合体が好ましい。グラフト共重合体の製造方法としては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などのいずれの製造方法であってもよく、共重合の方式は一段グラフトでも多段グラフトであってもよい。
なお、酸変性衝撃改質剤の場合、本明細書では、酸変性重合体(A)とみなす。
【0042】
ゴム成分は、ガラス転移温度が通常0℃以下、中でも-20℃以下が好ましく、さらには-30℃以下が好ましい。ゴム成分の具体例としては、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブチルアクリレートやポリ(2-エチルヘキシルアクリレート)、ブチルアクリレート・2-エチルヘキシルアクリレート共重合体などのポリアルキルアクリレートゴム、ポリオルガノシロキサンゴムなどのシリコーン系ゴム、ブタジエン-アクリル複合ゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN(Interpenetrating Polymer Network)型複合ゴム、スチレン-ブタジエンゴム、エチレン-プロピレンゴムやエチレン-ブテンゴム、エチレン-オクテンゴムなどのエチレン-α-オレフィン系ゴム、エチレン-アクリルゴム、フッ素ゴムなど挙げることができる。これらは、単独でも2種以上を混合して使用してもよい。これらの中でも、機械的特性や表面外観の面から、ポリブタジエンゴム、ポリアルキルアクリレートゴム、ポリオルガノシロキサンゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN型複合ゴム、スチレン-ブタジエンゴムが好ましい。
【0043】
ゴム成分を共重合したグラフト共重合体は、耐衝撃性や表面外観の点から、コアシェルエラストマーであることが好ましい。なかでもポリブタジエン含有ゴム、ポリブチルアクリレート含有ゴム、ポリオルガノシロキサンゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN型複合ゴムから選ばれる少なくとも1種のゴム成分をコア層とし、その周囲に(メタ)アクリル酸エステルを共重合して形成されたシェル層からなる、コアシェルエラストマーが特に好ましい。上記コアシェルエラストマーにおいて、ゴム成分を40質量%以上含有するものが好ましく、60質量%以上含有するものがさらに好ましい。また、(メタ)アクリル酸は、10質量%以上含有するものが好ましい。尚、本実施形態におけるコアシェルエラストマーは必ずしもコア層とシェル層が明確に区別できるものでなくてもよく、コアとなる部分の周囲にゴム成分をグラフト重合して得られる化合物を広く含む趣旨である。
【0044】
コアシェルエラストマーの好ましい具体例としては、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS)、メチルメタクリレート-アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(MABS)、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体(MB)、メチルメタクリレート-アクリルゴム共重合体(MA)、メチルメタクリレート-アクリルゴム-スチレン共重合体(MAS)、メチルメタクリレート-アクリル・ブタジエンゴム共重合体、メチルメタクリレート-アクリル・ブタジエンゴム-スチレン共重合体、メチルメタクリレート-(アクリル・シリコーンIPNゴム)共重合体等が挙げられる。
【0045】
このような衝撃改質剤としては、例えば、ローム・アンド・ハース・ジャパン社製の「パラロイド(登録商標、以下同じ)EXL2602」、「パラロイドEXL2603」、「パラロイドEXL2655」、「パラロイドEXL2311」、「パラロイドEXL2313」、「パラロイドEXL2315」、「パラロイドKM330」、「パラロイドKM336P」、「パラロイドKCZ201」、三菱レイヨン社製の「メタブレン(登録商標、以下同じ)C-223A」、「メタブレンE-901」、「メタブレンS-2001」、「メタブレンSRK-200」、カネカ社製の「カネエース(登録商標、以下同じ)M-511」、「カネエースM-600」、「カネエースM-400」、「カネエースM-580」、「カネエースM-711」、「カネエースMR-01」、宇部興産製の「UBESTA XPA」等が挙げられる。
【0046】
本実施形態の樹脂組成物が衝撃改質剤を含む場合、その含有量は、樹脂組成物に含まれる樹脂成分100質量部に対し、1質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましく、8質量部以上であることがさらに好ましく、10質量部以上であることが一層好ましく、12質量部以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られる成形品の耐衝撃性がより向上する傾向にある。また、前記衝撃改質剤の含有量の上限値は、樹脂組成物に含まれる樹脂成分100質量部に対し、30質量部以下であることが好ましく、28質量部以下であることがより好ましく、26質量部以下であることがさらに好ましく、24質量部以下であることが一層好ましく、22質量部以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、樹脂組成物の流動性がより向上する傾向にある。
実施形態の樹脂組成物は、衝撃改質剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0047】
本実施形態の樹脂組成物においては、また、結晶性熱可塑性樹脂と衝撃改質剤の質量比率は、5~2:1であることが好ましく、4~2.5:1であることがさらに好ましい。このような比率とすることにより本発明の効果がより効果的に発揮される。
また、本実施形態の樹脂組成物においては、また、酸変性重合体と衝撃改質剤の質量比率は、6~2:1であることが好ましく、5.5~3:1であることがより好ましい。このような比率とすることにより本発明の効果がより効果的に発揮される。
【0048】
<安定剤(F)>
本実施形態の樹脂組成物は、安定剤を含んでいてもよい。
安定剤としては、ヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物、リン系化合物、硫黄系安定剤等が例示される。これらの中でも、リン系化合物が好ましい。
安定剤としては、具体的には、特開2021-063196号公報の段落0067~0075の記載、特開2018-070722号公報の段落0046~0057の記載、特開2019-056035号公報の段落0030~0037の記載、国際公開第2017/038949号の段落0066~0078の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0049】
本実施形態の樹脂組成物が安定剤を含む場合、その含有量は、樹脂組成物に含まれる樹脂成分100質量部に対し、0.01質量部以上含むことが好ましく、0.05質量部以上含むことがより好ましく、0.08質量部以上含むことがさらに好ましい。また、前記安定剤の含有量の上限値は、樹脂組成物に含まれる樹脂成分100質量部に対し、5質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましく、1質量部以下であることがさらに好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、安定剤を1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0050】
<着色剤(G)>
本実施形態の樹脂組成物は、着色剤を含んでいてもよい。着色剤としては、染料であっても、顔料であってもよいが、顔料が好ましい。
着色剤としては、有機着色剤および無機着色剤のいずれでもよい。また、有彩色着色剤および無彩色着色剤のいずれであってもよい。
着色剤としては、特開2021-101020号公報の段落0121~0123の記載、特開2019-188393号公報の段落0088~0090の記載が例示され、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
本実施形態の樹脂組成物は、カーボンブラックを含有することが好ましい。カーボンブラックは、その種類、原料種、製造方法に制限はなく、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のいずれをも使用することができる。その数平均粒径には特に制限はないが、5~60nm程度であることが好ましい。
【0051】
カーボンブラックは、熱可塑性樹脂、好ましくはポリブチレンテレフタレート樹脂と予め混合したマスターバッチとして配合されることが好ましい。
【0052】
本実施形態の樹脂組成物が着色剤(好ましくはカーボンブラック)を含む場合、その含有量は、樹脂組成物に含まれる樹脂成分100質量部に対し、0.01質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、着色効果がより効果的に発揮される。また、前記着色剤の含有量の上限値は、樹脂組成物に含まれる樹脂成分100質量部に対し、4質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましく、2質量部以下であることがさらに好ましく、1質量部以下であることが一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、得られる成形品の機械的強度がより向上する傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、着色剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0053】
<強化充填材(H)>
本実施形態の樹脂組成物は、強化充填材を含んでいることが好ましい。強化充填材を含むことにより、得られる成形品の機械的強度を高くすることができる。
本実施形態で用いることができる強化充填材は、その種類等、特に定めるものではなく、繊維、フィラー、ビーズ等のいずれであってもよいが、繊維が好ましい。
【0054】
強化充填材が繊維である場合、短繊維であってもよいし、長繊維であってもよい。
強化充填材の原料は、ガラス、炭素(炭素繊維等)、アルミナ、ボロン、セラミック、金属(スチール等)等の無機物、および、植物(ケナフ(Kenaf)、竹等を含む)、アラミド、ポリオキシメチレン、芳香族ポリアミド、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、超高分子量ポリエチレン等の有機物などが挙げられ、ガラスが好ましい。
【0055】
本実施形態における樹脂組成物は、強化充填材として、ガラス繊維を含むことが好ましい。
ガラス繊維は、Aガラス、Cガラス、Eガラス、Rガラス、Dガラス、Mガラス、Sガラスなどのガラス組成から選択され、特に、Eガラス(無アルカリガラス)が好ましい。
ガラス繊維は、長さ方向に直角に切断した断面形状が真円状または多角形状の繊維状の材料をいう。ガラス繊維は、単繊維の数平均繊維径が通常1~25μm、好ましくは5~17μmである。数平均繊維径を1μm以上とすることにより、樹脂組成物の成形加工性がより向上する傾向にある。数平均繊維径を25μm以下とすることにより、得られる構造体の外観が向上し、補強効果も向上する傾向にある。ガラス繊維は、単繊維または単繊維を複数本撚り合わせたものであってもよい。
ガラス繊維の形態は、単繊維や複数本撚り合わせたものを連続的に巻き取ったガラスロービング、長さ1~10mmに切りそろえたチョップドストランド(すなわち、数平均繊維長1~10mmのガラス繊維)、長さ10~500μm程度に粉砕したミルドファイバー(すなわち、数平均繊維長10~500μmのガラス繊維)などのいずれであってもよいが、長さ1~10mmに切りそろえたチョップドストランドが好ましい。ガラス繊維は、形態が異なるものを併用することもできる。
また、ガラス繊維としては、異形断面形状を有するものも好ましい。この異形断面形状とは、繊維の長さ方向に直角な断面の長径/短径比で示される扁平率が、例えば、1.5~10であり、中でも2.5~10、さらには2.5~8、特に2.5~5であることが好ましい。
【0056】
ガラス繊維は、本実施形態における樹脂組成物の特性を大きく損なわない限り、樹脂成分との親和性を向上させるために、例えば、シラン系化合物、エポキシ系化合物、ウレタン系化合物などで表面処理したもの、酸化処理したものであってもよい。
【0057】
本実施形態における樹脂組成物は、強化充填材(好ましくはガラス繊維)を、樹脂組成物に含まれる樹脂成分100質量部に対して、10質量部以上含むことが好ましく、20質量部以上であることがより好ましく、35質量部以上であることがさらに好ましく、45質量部以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られる構造体の機械的強度がより上昇する傾向にある。また、前記強化充填材(好ましくはガラス繊維)の含有量は、樹脂組成物に含まれる樹脂成分100質量部に対して、100質量部以下であることが好ましく、90質量部以下であることがより好ましく、80質量部以下であることがさらに好ましい。前記上限値以下とすることにより、得られる成形品の外観がより向上する傾向にある。
【0058】
本実施形態における樹脂組成物おける強化充填材(好ましくはガラス繊維)の含有量は、樹脂組成物中、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましく、25質量%以上であることが一層好ましい。また、前記強化充填材(好ましくはガラス繊維)の含有量は、樹脂組成物中、50質量%以下であることがより好ましく、45質量%以下であることがさらに好ましく、40質量%以下であることがさらに好ましく、35質量%以下であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、機械的強度がより上昇する傾向にある。また、前記上限値以下とすることにより、得られる成形品の外観がより向上する傾向にある。
本実施形態における樹脂組成物は、強化充填材(好ましくはガラス繊維)を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0059】
<その他の成分>
本実施形態の樹脂組成物は、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、上記以外の他成分を含有していてもよい。その他の成分の例を挙げると、各種樹脂添加剤が挙げられる。
樹脂添加剤としては、例えば、エポキシ含有化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。なお、樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせおよび比率で含有されていてもよい。
帯電防止剤としては、特開2016-216534号公報の段落0063~0067の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
難燃剤としては、特開2016-216534号公報の段落0068~0075の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0060】
本実施形態の樹脂組成物は、(A)酸変性重合体、および、(B)結晶性熱可塑性樹脂の合計が樹脂組成物に含まれる樹脂成分の80質量%以上を占めることが好ましく、85質量%以上を占めることがより好ましく、90質量%以上を占めることがさらに好ましく、95質量%以上を占めることが一層好ましい。上限値としては、100質量%であってもよい。
本実施形態の樹脂組成物は、(A)酸変性重合体、(B)結晶性熱可塑性樹脂、(D)離型剤、(E)衝撃改質剤、(F)安定剤、(G)着色剤、および(H)強化充填材の合計が樹脂組成物の95質量%以上を占めることが好ましく、98質量%以上を占めることがより好ましい。上限値としては、100質量%であってもよい。
本実施形態の樹脂組成物は、(A)酸変性重合体、および、(B)結晶性熱可塑性樹脂、ならびに、必要に応じ配合される他の成分の合計が100質量%となるように調整される。
【0061】
<樹脂組成物の物性>
本実施形態の樹脂組成物は、直径100mm、厚み1.6mmの円板に成形したときの板反りが、5mm未満であることが好ましく、3mm未満であることがより好ましい。前記反りの下限値は0mmが理想であるが、0.01mm以上が実際的である。このような低そりは、酸変性重合体として非晶性樹脂、好ましくは、スチレン-無水マレイン酸重合体)を配合することにより達成される。
前記反りは、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
【0062】
<樹脂組成物の製造方法>
本実施形態の樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知の樹脂組成物の製造方法を広く採用でき、酸変性重合体(A)、および、結晶性熱可塑性樹脂(B)、ならびに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常220~320℃の範囲である。
【0063】
<成形品>
上記した樹脂組成物(例えば、ペレット)は、各種の成形法で成形して成形品とされる。すなわち、本実施形態の成形品は、本実施形態の樹脂組成物から成形される。成形品の形状としては、特に制限はなく、成形品の用途、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フィルム状、ロッド状、円筒状、環状、円形状、楕円形状、多角形形状、異形品、中空品、枠状、箱状、パネル状、ボタン状のもの等が挙げられる。中でも、フィルム状、枠状、パネル状、ボタン状のものが好ましく、厚さは例えば、枠状、パネル状の場合1mm~5mm程度である。
【0064】
成形品を成形する方法としては、特に制限されず、従来公知の成形法を採用でき、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、異形押出法、トランスファー成形法、中空成形法、ガスアシスト中空成形法、ブロー成形法、押出ブロー成形、IMC(インモールドコ-ティング成形)成形法、回転成形法、多層成形法、2色成形法、インサート成形法、サンドイッチ成形法、発泡成形法、加圧成形法等が挙げられる。特に、本実施形態の樹脂組成物は、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法で得られる成形品に適している。しかしながら、本実施形態の樹脂組成物がこれらで得られた成形品に限定されるものではないことは言うまでもない。
【0065】
本実施形態の成形品は、電気電子機器、OA機器、携帯情報端末、機械部品、家電製品、車輌部品、各種容器、照明機器、ディスプレイ等の部品等に好適に用いられる。これらの中でも、車輌部品に好ましく用いられる。
本実施形態の成形品は、接着剤や封止剤、加飾、コーティング剤等との接着性に優れているので、同組成での成形品または他部材と接着剤を用いて貼り合わせる成形品や、封止剤、加飾、コーティング剤等を用いて成形品の封止や加飾、コーティングを行う用途に好ましく用いられる。
なお、他部材とは、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、金属、ガラス等から形成された部材を指す。
具体的には、イグニッションケース、センサーハウジング、ECUハウジング、フューエルキャップ、車載カメラ、ウィンドレギュレーター、自動車用コネクター、リレーケース、モーターケース、各種ケース、各種チューブなどに好ましく用いられる。
上記接着剤としては、シリコーン系接着剤、変性シリコーン系接着剤、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤、ウレタン系接着剤、ポリエステル系接着等が例示される。
また、上記封止剤としては、特開2021-080363号公報、特開2014-062224号公報、特開平10-305444号公報、特開2011-018859号公報、特開2001-247746号公報、特開2009-029842号公報に記載の封止剤、封止用組成物または封止方法を好適に使用することができ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【実施例0066】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0067】
1.原料
下記表1に示す原料を用いた。
【表1】
【0068】
2.実施例1、比較例1
<コンパウンド>
上記表1に示した各成分のうち、強化充填材を除いた各成分を表2に示す割合(全て質量部)にて、タンブラーミキサーで均一に混合した後、二軸押出機(日本製鋼所社製「TEX30α」、L/D=42)を使用し、強化充填材はサイドフィーダーより供給し、シリンダー設定温度260℃、吐出量40kg/h、スクリュー回転数200rpmの条件で溶融混練した樹脂組成物を、水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化し、樹脂組成物のペレットを得た。
【0069】
<酸の含有量の測定方法>
樹脂組成物中の酸の含有量は、原料(例えば、無水マレイン酸重合体)中の酸(例えば、無水マレイン酸)の含有量から算出した。具体的には、全ての添加物を含んだ樹脂組成物100質量部中、酸変性重合体含有量に重合体中の酸含有率を掛けることで算出した。
【0070】
<引張強さ>
上記で得られたペレットを120℃で5時間乾燥させた後、日本製鋼社製射出成形機(型締め力85T)を用いて、シリンダー温度250℃、金型温度80℃の条件で、ISO多目的試験片(4mm厚)を射出成形した。
ISO527に準拠して、上記ISO多目的試験片(4mm厚)を用いて、引張強さ(単位:MPa)を測定した。
【0071】
<曲げ特性>
ISO178に準拠して、上記ISO多目的試験片(4mm厚)を用いて、23℃の温度で、曲げ強さ(単位:MPa)および曲げ弾性率(単位:MPa)を測定した。
【0072】
<シャルピー衝撃強さ>
ISO179に準拠して、上記ISO多目的試験片(4mm厚)にノッチ加工を施したノッチ付き試験片について、23℃の温度でノッチ付シャルピー衝撃強さ(単位:kJ/m2)を測定した。
【0073】
<エポキシ系接着剤との接着強度および界面状態>
ISO179に準拠して、上記ISO多目的試験片(4mm厚)を2枚作製した。図1に示すように、その一方のISO多目的試験片1のチャック部分に、フッ素系樹脂テープ2(Nitto社製、NITOFLON粘着テープ、0.18×10×10mm)を貼った。次に、接着剤3の塗布範囲が20mm×20mm×0.18mm厚となるように、接着剤3を塗布し、もう一方のISO多目的試験片4(4mm厚)と接着した後、バインダークリップで固定し、その接着剤に規定の硬化条件にて処理を行い、接着させた。
ISO多目的試験片1・4は、テンシロン1tにて、図1に示す矢印の方向に5mm/minにて引張り、引張試験を行った。なお、引張試験の際は、試験片が垂直になるよう、スペーサーを使用した。
接着強度の単位は、Nで示した。
また、接着後の界面状態を確認し、以下の通り記載した。
試験後に材料の破壊が起きている場合:母材破壊
試験後に接着剤の破壊が起きている場合:凝集破壊
試験後に接着剤と樹脂界面での剥離が起きている場合:界面剥離
尚、エポキシ系接着剤は、一液型・加熱硬化接着剤を用いた。
【0074】
<変性シリコーン系接着剤との接着強度および界面状態>
上記エポキシ系接着剤との接着強度において、接着剤を変性シリコーン系接着剤(変性シリコーンポリマーを主成分とする一液・常温硬化型接着剤)に変更し、他は同様に行った。
接着強度の単位は、Nで示した。
また、接着後の界面状態を確認した。
【0075】
<接着性総合評価>
上記接着強度および界面状態に基づき、以下の通り評価した。
エポキシ系接着剤の接着について、母材破壊のものをaとした。
変性シリコーン系接着剤との接着強度(N):650N以上のものをaとした。
総合評価:aが2つのものをA判定、1つのものをB判定、0のものをC判定とした。
【0076】
<円板反り>
上記樹脂組成物を用い、射出成形機(日精樹脂工業社製「NEX80-9E」)にて、シリンダー温度260℃、金型温度80℃の条件で、直径100mm、厚み1.6mmの円板をサイドゲート金型により成形し、成形後23℃50%RH環境下で1晩放置後、円板の反り量(単位:mm)を求めた。
以下の基準により、低反り性の評価判定を行った。
A:反り量が3mm未満
B:反り量が3mm以上5mm未満
C:反り量が5mm以上
【0077】
【表2】
【0078】
上記結果から明らかなとおり、本発明の樹脂組成物は、他部材との接着性に優れていた(実施例1)。これに対し、比較例1の組成物は、接着性に劣っていた。
【符号の説明】
【0079】
1 ISO多目的試験片
2 フッ素系樹脂テープ
3 接着剤
4 ISO多目的試験片
図1