(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023037565
(43)【公開日】2023-03-15
(54)【発明の名称】ショットキーバリアダイオード
(51)【国際特許分類】
H01L 29/872 20060101AFI20230308BHJP
H01L 29/41 20060101ALI20230308BHJP
H01L 29/47 20060101ALI20230308BHJP
H01L 29/24 20060101ALI20230308BHJP
H01L 29/06 20060101ALI20230308BHJP
【FI】
H01L29/86 301E
H01L29/86 301D
H01L29/86 301F
H01L29/44 Y
H01L29/48 D
H01L29/48 E
H01L29/48 F
H01L29/24
H01L29/06 301F
H01L29/06 301G
H01L29/06 301V
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2022089752
(22)【出願日】2022-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(71)【出願人】
【識別番号】515277942
【氏名又は名称】株式会社ノベルクリスタルテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 慎也
(72)【発明者】
【氏名】内田 悠貴
(72)【発明者】
【氏名】脇本 大樹
(72)【発明者】
【氏名】高塚 章夫
【テーマコード(参考)】
4M104
【Fターム(参考)】
4M104AA10
4M104BB05
4M104BB06
4M104EE02
4M104EE15
4M104EE20
4M104FF10
4M104FF35
4M104GG03
4M104GG18
(57)【要約】
【課題】酸化ガリウム系半導体からなる半導体層を備えたショットキーバリアダイオードであって、SiO
2からなるパッシベーション膜により、表面リークが効果的に抑制され、かつ絶縁耐圧が効果的に向上したショットキーバリアダイオードを提供する。
【解決手段】一実施の形態として、酸化ガリウム系半導体からなるn型半導体層10と、n型半導体層10の上面101の一部を覆う、SiO
2からなる絶縁膜11と、n型半導体層10の上面101に接続され、n型半導体層10とショットキー接合を形成し、少なくとも一部の縁が絶縁膜11上にあるアノード電極14と、を備え、絶縁膜11が、n型半導体層10に接触する第1の層12と、第1の層12上の第2の層13を含み、第1の層12の屈折率が、第2の層13の屈折率よりも低く、n型半導体層10が、アノード電極14との接合部を囲むガードリング16を含む、ショットキーバリアダイオード1を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ガリウム系半導体からなるn型半導体層と、
前記n型半導体層の上面の一部を覆う、SiO2からなる絶縁膜と、
前記n型半導体層の前記上面に接続され、前記n型半導体層とショットキー接合を形成し、少なくとも一部の縁が前記絶縁膜上にあるアノード電極と、
を備え、
前記絶縁膜が、前記n型半導体層に接触する第1の層と、前記第1の層上の第2の層を含み、
前記第1の層の屈折率が、前記第2の層の屈折率よりも低く、
前記n型半導体層が、前記アノード電極との接合部を囲むガードリングを含む、
ショットキーバリアダイオード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショットキーバリアダイオードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Ga2O3系単結晶からなる半導体層を有するショットキーバリアダイオードであって、アノード電極の端部への電界集中を緩和するためのフィールドプレート構造を有するものが知られている(特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1に記載のショットキーバリアダイオードにおいては、半導体層上にSiO2等の絶縁材料からなる絶縁層が設けられ、アノード電極が、絶縁層の開口部内で半導体層とショットキー接触し、かつ絶縁層の開口部周辺の領域に乗り上げたフィールドプレートを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のショットキーバリアダイオードにおける絶縁層のような、半導体層上に設けられた絶縁膜は、半導体層の上面を流れる表面リーク電流を抑制するパッシベーション膜としても機能する。しかしながら、本発明の発明者らは、鋭意研究の結果、特に半導体層が酸化ガリウム系半導体からなる場合において、SiO2膜を半導体層上の絶縁膜として用いた場合、絶縁膜の密度を高くすると成膜時の半導体層へのダメージにより表面リークが多くなり、一方で、絶縁膜の密度を低くすると膜質が悪くなるため絶縁耐圧が低くなるという問題があることを見出した。
【0006】
本発明の目的は、酸化ガリウム系半導体からなる半導体層を備えたショットキーバリアダイオードであって、SiO2からなるパッシベーション膜により、表面リークが効果的に抑制され、かつ絶縁耐圧が効果的に向上したショットキーバリアダイオードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、下記[1]のショットキーバリアダイオードを提供する。
【0008】
[1]酸化ガリウム系半導体からなるn型半導体層と、前記n型半導体層の上面の一部を覆う、SiO2からなる絶縁膜と、前記n型半導体層の前記上面に接続され、前記n型半導体層とショットキー接合を形成し、少なくとも一部の縁が前記絶縁膜上にあるアノード電極と、を備え、前記絶縁膜が、前記n型半導体層に接触する第1の層と、前記第1の層上の第2の層を含み、前記第1の層の屈折率が、前記第2の層の屈折率よりも低く、前記n型半導体層が、前記アノード電極との接合部を囲むガードリングを含む、ショットキーバリアダイオード。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酸化ガリウム系半導体からなる半導体層を備えたショットキーバリアダイオードであって、SiO2からなるパッシベーション膜により、表面リークが効果的に抑制され、かつ絶縁耐圧が効果的に向上したショットキーバリアダイオードを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1(a)、(b)は、本発明の実施の形態に係るショットキーバリアダイオードの垂直断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態に係るショットキーバリアダイオードの垂直断面図である。
【
図3】
図3(a)、(b)、(c)は、ガードリングの電気抵抗を調べるためのショットキーバリアダイオードの垂直断面図である。
【
図4】
図4は、ショットキーバリアダイオードに含まれるN注入領域のボックスプロファイルを示すグラフである。
【
図5】
図5(a)、(b)、(c)は、ショットキーバリアダイオードに順方向の電圧を印加したときの電流密度の変化を示すグラフである。
【
図6】
図6(a)、(b)、(c)は、ショットキーバリアダイオードに順方向の電圧を印加したときの電流の変化を示すグラフである。
【
図7】
図7(a)、(b)、(c)は、絶縁膜及びガードリングの効果を調べるためのショットキーバリアダイオードの垂直断面図である。
【
図8】
図8(a)、(b)、(c)は、ショットキーバリアダイオードに逆方向の電圧を印加したときの電流密度の変化を示すグラフである。
【
図9】
図9は、ショットキーバリアダイオードに逆方向の電圧を印加したときの電流の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(ショットキーバリアダイオードの構成)
図1(a)は、実施の形態に係るショットキーバリアダイオード1の垂直断面図である。ショットキーバリアダイオード1は、酸化ガリウム系半導体からなる半導体層を備えた縦型のショットキーバリアダイオードである。
【0012】
ショットキーバリアダイオード1は、酸化ガリウム系半導体からなるn型半導体層10と、n型半導体層10の上面101の一部を覆う、SiO2からなる絶縁膜11と、n型半導体層10の上面101に接続され、n型半導体層10とショットキー接合を形成し、少なくとも一部の縁が絶縁膜11上にあるアノード電極14と、を備える。絶縁膜11は、n型半導体層10に接触する第1の層12と、第1の層12上の第2の層13を含み、第1の層12の屈折率が、第2の層13の屈折率よりも低く、n型半導体層10が、アノード電極14との接合部を囲むガードリング16を含む。また、n型半導体層10の上面101と反対側の面である下面102にはカソード電極15が接続される。
【0013】
ショットキーバリアダイオード1においては、アノード電極14とカソード電極15との間に順方向電圧を印加することにより、n型半導体層10から見たアノード電極14とn型半導体層10との界面のエネルギー障壁が低下し、アノード電極14からカソード電極15へ電流が流れる。一方、アノード電極14とカソード電極15との間に逆方向電圧を印加したときは、ショットキー障壁により、電流は流れない。
【0014】
n型半導体層10は、β型の結晶構造を有する酸化ガリウム系半導体の単結晶からなる。ここで、酸化ガリウム系半導体とは、Ga2O3、又は、Al、Inなどの元素が添加されたGa2O3をいう。例えば、酸化ガリウム系半導体は、(GaxAlyIn(1-x-y))2O3(0<x≦1、0≦y≦1、0<x+y≦1)で表される組成を有する。Ga2O3にAlを添加した場合にはバンドギャップが広がり、Inを添加した場合にはバンドギャップが狭くなる。
【0015】
n型半導体層10は、Si、Snなどのドナー不純物を含む。n型半導体層10のドナー濃度は、例えば、1×1015cm-3以上、1×1017cm-3以下である。n型半導体層10の厚さは、例えば、2μm以上、100μm以下である。n型半導体層10は、例えば、液相成長法により育成された単結晶から切り出された基板からなる。
【0016】
n型半導体層10は、複数の半導体層の積層体であってもよく、例えば、基板と、その上にエピタキシャル成長したエピタキシャル層から構成されてもよい。
【0017】
ショットキーバリアダイオード1においては、上述のように、アノード電極14の少なくとも一部の縁が絶縁膜11上に載っている。このアノード電極14の縁の絶縁膜11上に載っている部分141はフィールドプレートと呼ばれ、フィールドプレートを備えた構造はフィールドプレート構造と呼ばれる。このようなフィールドプレート構造を設けることにより、アノード電極14の端部付近への電界集中を緩和し、ショットキーバリアダイオード1の絶縁耐圧を向上させることができる。
【0018】
フィールドプレート構造により効果的に絶縁耐圧を向上させるためには、アノード電極14の縁が全周に渡って絶縁膜11上に載っていることが好ましい。例えば、絶縁膜11の平面形状がn型半導体層10とアノード電極14の接合部を囲む環状である場合は、絶縁膜11上に載っている部分141の平面形状も環状になる。
【0019】
絶縁膜11は、低温で比較的良好な成膜が可能なプラズマCVDを用いて形成される。絶縁膜11を構成する、屈折率の異なる第1の層12と第2の層13は、プラズマ出力を制御することにより作り分けることができる。絶縁膜11は、n型半導体層10の上面101の全面に成膜された後、上面101のアノード電極14が接続される領域を露出させるためにパターニング加工される。
【0020】
一般的に、フィールドプレートを載せる絶縁膜は、その密度が高いほど、ショットキーバリアダイオードの絶縁耐圧を大きく向上させることができる。プラズマCVDのプラズマ出力を大きくすることにより、絶縁膜の密度を高めることができるが、成膜時の半導体層の上面へのダメージが大きくなる。ダメージが大きくなると、半導体層の上面の界面準位密度が高くなるため、半導体層と絶縁膜との界面を流れるリーク電流(以下、界面リーク電流と呼ぶ)が増加する。一方で、プラズマCVDのプラズマ出力を小さくすることにより、半導体層の上面へのダメージを抑え、界面リーク電流の増加を抑えることができるが、絶縁膜の密度が低くなるため、ショットキーバリアダイオードの絶縁耐圧を効果的に向上させることができない。
【0021】
本発明の実施の形態に係るショットキーバリアダイオード1においては、上述のように、絶縁膜11がn型半導体層10に接触する第1の層12と第1の層12上の第2の層13を含み、第1の層12の屈折率が第2の層13の屈折率よりも低い。ここで、絶縁膜11の密度と屈折率には相関があり、密度が高いほど屈折率が高くなる。
【0022】
このため、第1の層12は、第2の層13よりもプラズマ出力が小さい条件で形成される。n型半導体層10と接触する第1の層12をプラズマ出力が小さい条件で形成することにより、n型半導体層10へのダメージを抑え、界面リーク電流を抑えることができる。
【0023】
一方、第1の層12よりも屈折率が高い第2の層13は、第1の層12よりも密度が高い。絶縁膜11が密度の高い第2の層13を含むことにより、ショットキーバリアダイオード1の絶縁耐圧を高めることができる。密度の高い第2の層13は、プラズマCVDのプラズマ出力の大きい条件で成膜されるが、第2の層13の下には第1の層12が存在するため、第2の層13の成膜時のn型半導体層10へのダメージを抑えることができる。
【0024】
すなわち、第1の層12と第2の層13を含む絶縁膜11を用いることにより、ショットキーバリアダイオード1の絶縁耐圧の向上と界面リーク電流の抑制を両立させることができる。
【0025】
第1の層12の成膜時のn型半導体層10へのダメージを効果的に抑えるためには、第1の層12の屈折率は1.44以下であることが好ましい。また、第2の層13の成膜時のn型半導体層10へのダメージを効果的に抑えるためには、第1の層12の厚さは450nm以上であることが好ましい。
【0026】
ショットキーバリアダイオード1の絶縁耐圧を効果的に向上させるためには、第2の層13の屈折率は1.46以上であることが好ましく、また、第2の層13の厚さは20nm以上であることが好ましい。また、応力の発生を抑えるためには、第2の層13の厚さは2000nm以下であることが好ましい。さらに、原因は明らかになっていないが、第2の層13の厚さが100nmを超えると界面リーク電流が大きくなる傾向があることが確認されている。このため、第2の層13の厚さは100nm以下であることが特に好ましい。
【0027】
ガードリング16は、アノード電極14とn型半導体層10の接合部を囲むように設けられたアクセプター不純物を含む領域である。ガードリング16を用いることにより、アノード電極14の端部における電界の集中を緩和し、ショットキーバリアダイオード1の絶縁耐圧を向上させることができる。
【0028】
ガードリング16は、例えば、n型半導体層10の上面101にN(窒素)などのアクセプター不純物をイオン注入し、その後、ダメージ回復のための窒素雰囲気下での900℃程度でのアニール処理を施すことにより形成される。
【0029】
ガードリング16により電界集中を効果的に緩和するためには、アクセプター不純物の濃度が1×1017atoms/cm3である領域をガードリング16と定義したとき、ガードリング16のアノード電極14と接触している部分の横方向の距離Dが10μm以上であることが好ましく、また、ガードリング16の厚さTが10nm以上であることが好ましい。
【0030】
図1(b)は、アノード電極14がカバー17に覆われている場合のショットキーバリアダイオード1の垂直断面図である。カバー17は、アノード電極14を覆い、かつ、アノード電極14の周囲で絶縁膜11の上面と接している。カバー17は導電性を有し、例えば、Ti膜の上にAl膜が積層されたTi/Al積層構造を有する。
【0031】
アノード電極14がNiやPtからなる場合、SiO2からなる絶縁膜11との密着性が低いため、アノード電極14のフィールドプレートである部分141が絶縁膜11から剥がれるおそれがある。このような場合、カバー17を用いることにより、アノード電極14の部分141の絶縁膜11からの剥がれを抑えることができる。
【0032】
図2は、絶縁膜11の内側の側面が傾斜している場合のショットキーバリアダイオード1の垂直断面図である。
図2に示されるショットキーバリアダイオード1においては、絶縁膜11の第1の層12及び第2の層13の内側、すなわちアノード電極14側の側面121及び側面131が、斜め上方を向くように傾斜している。
【0033】
側面121及び側面131が斜め上方を向いている場合、側面121及び側面131が垂直である場合や斜め下方を向いている場合と比較して、より効果的に電界の集中を緩和することができる。
【0034】
第1の層12及び第2の層13をパターニング加工する際のウェットエッチングのエッチングレートを制御することにより、斜め上方を向くように側面121及び側面131を傾斜させることができる。ここで、密度の異なる第1の層12及び第2の層13を同一の条件でエッチングすると、エッチングレートが異なるため、側面121と側面131の両方を、斜め上方を向くように傾斜させることが困難である。このため、第1の層12のエッチングと第2の層13のエッチングを異なる条件で分けて行うことが求められる。
【0035】
また、第2の層13をエッチングした後、第2の層13よりも大きいマスクを用いて第1の層12をエッチングすることにより、
図2に示されるように、側面121の位置を側面131の位置よりも内側にずらし、段差を設けることができる。これにより、さらに効果的に電界の集中を緩和することができる。
【0036】
なお、第1の層12及び第2の層13をパターニング加工する際のウェットエッチングのエッチングレートなどを制御することにより、側面121及び側面131の傾斜角度を制御することもできる。電界集中の緩和効果を高めるためには、側面121及び側面131の傾斜角度は、n型半導体層10の上面101に垂直な方向から10°以上であることが好ましい。
【0037】
ショットキーバリアダイオード1は、
図2に示されるように、絶縁膜11の内側の側面が傾斜し、n型半導体層10がガードリング16を含み、かつアノード電極14がカバー17に覆われていることが好ましい。
【0038】
(ショットキーバリアダイオードの評価)
図3(a)、(b)、(c)は、ショットキーバリアダイオード1のガードリング16の電気抵抗を調べるためのショットキーバリアダイオード3a、3b、3cの垂直断面図である。
【0039】
図3(a)に示されるショットキーバリアダイオード3aは、β-Ga
2O
3からなるn型半導体層30と、n型半導体層30の上面301上に形成されたアノード電極31と、n型半導体層30の下面302上に形成されたカソード電極32とを備える。
図3(b)に示されるショットキーバリアダイオード3bは、Nがイオン注入されたN注入領域33がn型半導体層30に環状に設けられている点において、ショットキーバリアダイオード3aと異なる。
図3(c)に示されるショットキーバリアダイオード3cは、N注入領域33がアノード電極31の下方全体を覆うように設けられている点において、ショットキーバリアダイオード3bと異なる。
【0040】
図4は、ショットキーバリアダイオード3b、3cに含まれるN注入領域33のボックスプロファイルを示すグラフである。N注入領域33は、Nイオンを次の表1に示される条件で多段注入することにより形成した。
【0041】
【0042】
図5(a)、(b)、(c)は、それぞれショットキーバリアダイオード3a、3b、3cに順方向の電圧を印加したときの電流密度の変化を示すグラフである。また、
図6(a)、(b)、(c)は、それぞれショットキーバリアダイオード3a、3b、3cに順方向の電圧を印加したときの電流の変化を示すグラフである。
図5(a)、(b)、(c)と
図6(a)、(b)、(c)には、それぞれ同じ条件で複数回実施された測定の結果が示されている。
【0043】
これらの測定結果から、ショットキーバリアダイオード3a、3b、3cのオン抵抗は、それぞれ8.15mΩcm2、7.77mΩcm2、2.56MΩcm2であることがわかる。また、ショットキーバリアダイオード3a、3b、3cの体積抵抗率は、それぞれ135Ωcm、130Ωcm、42.7GΩcmと換算される。これらの結果によれば、ショットキーバリアダイオード3cの電気抵抗はショットキーバリアダイオード3a、3bの1億倍以上である。このことから、N注入領域33及びそれに対応するショットキーバリアダイオード1のガードリング16は、その周囲のアクセプター不純物が注入されていない領域の1億倍以上の電気抵抗を有する領域であると定義することができる。
【0044】
図7(a)、(b)、(c)は、ショットキーバリアダイオード1の絶縁膜11及びガードリング16の効果を調べるためのショットキーバリアダイオード4a、4b、4cの垂直断面図である。
【0045】
図7(a)に示されるショットキーバリアダイオード4aは、β-Ga
2O
3からなるn型半導体層40と、n型半導体層40の上面401上に形成されたアノード電極44と、n型半導体層40の下面402上に形成されたカソード電極45と、n型半導体層40中のNがイオン注入された領域であるガードリング46と、アニール変質層48とを備える。また、ショットキーバリアダイオード4aにおいては、アノード電極44の周囲を保護するためのポリイミドからなる保護材が設けられている。
【0046】
図7(b)に示されるショットキーバリアダイオード4bは、β-Ga
2O
3からなるn型半導体層40と、n型半導体層40の上面401の一部を覆う、SiO
2からなる絶縁膜41と、n型半導体層40の上面401に接続され、n型半導体層40とショットキー接合を形成し、縁が絶縁膜41上にあるアノード電極44と、n型半導体層40の下面402上に形成されたカソード電極45と、アニール変質層48とを備える。絶縁膜41は、n型半導体層40に接触する第1の層42と、第1の層42上の第2の層43を含み、第1の層42の屈折率が、第2の層43の屈折率よりも低い。また、絶縁膜41の平面形状は、n型半導体層40とアノード電極44の接合部を囲む環状である。
【0047】
図7(c)に示されるショットキーバリアダイオード4cは、
図1(a)に示される絶縁膜11及びガードリング16を備えたショットキーバリアダイオード1に対応し、ガードリング46と絶縁膜41の両方を備える点において、ショットキーバリアダイオード4a、4bと異なる。なお、ショットキーバリアダイオード4a~4cに含まれるアニール変質層48は、アニール処理の際にn型半導体層40の表面に意図せずに形成されてしまう変質層である。このアニール変質層48は、ドライエッチングやウェットエッチングなどにより除去することができる。
【0048】
図8(a)、(b)、(c)は、それぞれショットキーバリアダイオード4a、4b、4cに逆方向の電圧を印加したときの電流密度の変化を示すグラフである。
図8(a)、(b)、(c)には、それぞれ同じ条件で複数回実施された測定の結果が示されている。
【0049】
図8(a)、(b)、(c)は、ガードリング46と絶縁膜41の両方を用いる場合、ガードリング46と絶縁膜41のいずれか一方を用いる場合と比較して、逆方向の電圧を印加したときに流れる電流が小さくなることを示している。
【0050】
図9は、ガードリング46を備えるショットキーバリアダイオード4aとガードリング46と絶縁膜41の両方を備えるショットキーバリアダイオード4cに逆方向の電圧を印加したときの電流の変化を示すグラフである。
図9のAがショットキーバリアダイオード4aの特性であり、Bがショットキーバリアダイオード4cの特性である。
【0051】
図9は、ガードリング46と絶縁膜41の両方を用いる場合、ガードリング46のみを用いる場合と比較して、絶縁破壊電圧が大きくなることを示している。
【0052】
図8(a)、(b)、(c)及び
図9に示される測定結果によれば、本発明の実施の形態に係るショットキーバリアダイオード1において、絶縁膜11とガードリング16を併用することにより、特に効果的に絶縁耐圧が向上することがわかる。
【0053】
(ショットキーバリアダイオードの製造方法)
以下に、ショットキーバリアダイオード1が
図2に示される構成を有する場合の製造方法の例を示す。
【0054】
まず、酸化ガリウム系半導体基板をn型半導体層10として用意し、プロセス開始前洗浄として、有機溶剤を用いた超音波洗浄、フッ酸洗浄、及びSPM酸洗浄などを実施する。
【0055】
次に、n型半導体層10の上面101をフォトレジストで覆い、ドライエッチングによりアライメントパターンを形成する。そして、パターンを形成されたフォトレジストの上からNイオン注入を上記の表1に示される条件などで実施する。その後、ランプ炉内のN2雰囲気中で900℃、30分の条件で熱処理を実施し、n型半導体層10の表面近傍にガードリング16を形成する。
【0056】
次に、上面101の上に、絶縁膜11の第1の層12及び第2の層13となるSiO2膜をCVD法で成膜する。そして、まず、第2の層13となる上層のSiO2膜上に、フォトリソグラフィによりレジストをパターニングした後、そのレジストをマスクとして用いてBHFをエッチャントとするウェットエッチングを施し、側面131が傾斜した第2の層13を形成する。その後、第1の層12となる下層のSiO2膜上に、フォトリソグラフィによりレジストをパターニングした後、そのレジストをマスクとして用いてBHFをエッチャントとするウェットエッチングを施し、側面121が傾斜した第1の層12を形成する。
【0057】
次に、前処理としてSPM洗浄と超純水洗浄を実施した後、アノード電極14となるNiやPtからなる金属膜をn型半導体層10の上面101に蒸着させる。そして、金属膜をパターニングしてアノード電極14を形成する。
【0058】
次に、カバー17となるTi/Al積層構造などを有する金属膜をアノード電極14の上に堆積させる。そして、その金属膜をアノード電極14よりも大きいパターンでパターニングし、カバー17を形成する。その後、n型半導体層10の下面102をTi/Ni/Au積層構造などを有する金属膜で覆い、カソード電極15を形成する。
【0059】
(実施の形態の効果)
上記実施の形態によれば、酸化ガリウム系半導体からなる半導体層を備えたショットキーバリアダイオードであって、SiO2からなるパッシベーション膜により、表面リークが効果的に抑制され、かつ絶縁耐圧が効果的に向上したショットキーバリアダイオードを提供することができる。
【0060】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。また、発明の主旨を逸脱しない範囲内において上記実施の形態の構成要素を任意に組み合わせることができる。また、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0061】
1…ショットキーダイオード、 10…n型半導体層、 101…上面、 11…絶縁膜、 12…第1の層、 121…側面、 13…第2の層、 131…側面、 14…アノード電極、 141…部分、 15…カソード電極、 16…ガードリング