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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023037609
(43)【公開日】2023-03-15
(54)【発明の名称】樹脂組成物及びその成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/12 20060101AFI20230308BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20230308BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20230308BHJP
   C08L 91/00 20060101ALI20230308BHJP
【FI】
C08L101/12
C08L71/02
C08L53/02
C08L91/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139245
(22)【出願日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2021144193
(32)【優先日】2021-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591121513
【氏名又は名称】クラレトレーディング株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000104906
【氏名又は名称】クラレプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋庭 英治
(72)【発明者】
【氏名】河原 茂
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AE05Z
4J002BB20Y
4J002BB21W
4J002BP01W
4J002CF19W
4J002CH02X
4J002DA076
4J002DE236
4J002EE036
4J002FD206
4J002FD20Y
4J002GC00
(57)【要約】
【課題】熱安定性の低い液状機能剤を、熱可塑性樹脂中に安定的に練り込んだ樹脂組成物を提供することを目的とし、また、急速なブリードがなく、液状機能剤に由来する特定の機能を持続的に発揮することができる成形体を提供することを目的とする。
【解決手段】樹脂組成物は、常圧、90℃にて液体の性状である液状機能剤(アルキレンオキサイドを含む共重合体および炭化水素系ゴム用軟化剤を除く)と、アルキレンオキサイドを含む共重合体と、アルキレンオキサイドを含む共重合体と相溶性がなく、100℃以下の融点もしくは軟化点を有する熱可塑性樹脂とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
常圧、90℃にて液体の性状である液状機能剤(アルキレンオキサイドを含む共重合体および炭化水素系ゴム用軟化剤を除く)と、アルキレンオキサイドを含む共重合体と、アルキレンオキサイドを含む共重合体と相溶性がなく、100℃以下の融点もしくは軟化点を有する熱可塑性樹脂とを含む、樹脂組成物。
【請求項2】
前記樹脂組成物が、前記熱可塑性樹脂を含む連続相と、前記アルキレンオキサイドを含む共重合体を含む非連続相を有する、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂組成物の全体に対する前記液状機能剤の含有率が1~40質量%である、請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂組成物の全体に対する前記アルキレンオキサイドを含む共重合体の含有率が1~40質量%である、請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
水分含有率が2~30質量%である、請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂が、50~100質量%が重量平均分子量20万以下であり、少なくとも2個のビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAと少なくとも1個の共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBとからなるブロック共重合体を水素添加してなるブロック共重合体(a)100質量部と、炭化水素系ゴム用軟化剤(b)50~300質量部からなる組成物である、請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物を含んでなる成形体。
【請求項8】
釣り具、機能剤徐放樹脂ボール、銅イオン徐放シート、天然香料含有のグリップ付き文房具、工具、及びハンドルからなる群より選ばれる1種の成形体である、請求項7に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温混練(例えば100℃以下の混練)条件下において、液体が熱可塑性樹脂に練り込まれた樹脂組成物及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液状の機能剤を熱可塑性樹脂中に練り込んで成形体とし、該機能剤が徐放することで特定の機能を発揮させる手法が広く用いられている。例えば、熱可塑性エラストマー樹脂やポリ塩化ビニル樹脂においては、液状のオイルを可塑剤として練り込む手法が利用されており、練り込みを行う際に特定の機能を有する液状のオイルを用いることで、オイルが練り込まれた樹脂成形体から該オイルが徐放し、特定の機能を発揮する成形体とすることができる。
【0003】
また、汎用のポリオレフィン樹脂中に特定のブロックポリマーと液状化合物(有機液体または水溶液)を練り込む方法(例えば、特許文献1)や、2種類の熱可塑性ポリマーを用いて液状機能剤を練り込む方法(例えば、特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3963941号公報
【特許文献2】特許第4576479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、液状機能剤の中には、熱安定性が低いものや低沸点のものもあり、これらを高温の条件で混練すると、液状機能剤が熱分解する場合や、蒸散の度合いが大きいため、工程ロスが多くなるという問題があった。
【0006】
特に、液状機能剤が水溶液の場合、水の沸点(100℃)以下で混練する必要があるが、これに対応できる熱可塑性樹脂は限られており、また、練り込んだ液状機能剤が急速ブリードすることなく保持できる樹脂組成物の実現は困難であった。
【0007】
また、樹脂中に水溶液を保持させる手法としては、アクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなどの高吸水性高分子が広く利用されているが、これらは吸水膨潤により水溶液を保持するものであり、溶融混練により水溶液の練り込みを行うものではない。従って、この場合、水分を吸収する際に樹脂が膨張し、水分の蒸散とともに樹脂が縮小するため、所望の形状を維持することが必要な用途に対応することができないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、熱安定性の低い液状機能剤を、熱可塑性樹脂中に安定的に練り込んだ樹脂組成物を提供することを目的とし、また、急速なブリードがなく、液状機能剤に由来する特定の機能を持続的に発揮することができる成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下の好適な態様を提供するものである。
【0010】
[1]常圧、90℃にて液体の性状である液状機能剤(アルキレンオキサイドを含む共重合体および炭化水素系ゴム用軟化剤を除く)と、アルキレンオキサイドを含む共重合体と、アルキレンオキサイドを含む共重合体と相溶性がなく、100℃以下の融点もしくは軟化点を有する熱可塑性樹脂とを含む、樹脂組成物。
【0011】
[2]樹脂組成物が、前記熱可塑性樹脂を含む連続相と、前記アルキレンオキサイドを含む共重合体を含む非連続相を有する、前記[1]に記載の樹脂組成物。
【0012】
[3]樹脂組成物の全体に対する前記液状機能剤の含有率が1~40質量%である、前記[1]または[2]に記載の樹脂組成物。
【0013】
[4]樹脂組成物の全体に対するアルキレンオキサイドを含む共重合体の含有率が1~40質量%である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0014】
[5]水分含有率が2~30質量%である、前記[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0015】
[6]熱可塑性樹脂が、50~100質量%が重量平均分子量20万以下であり、少なくとも2個のビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAと少なくとも1個の共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBとからなるブロック共重合体を水素添加してなるブロック共重合体(a)100質量部と、炭化水素系ゴム用軟化剤(b)50~300質量部からなる組成物である、前記[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0016】
[7]前記[1]~[6]のいずれかに記載の樹脂組成物を含んでなる成形体。
【0017】
[8]釣り具、機能剤徐放樹脂ボール、銅イオン徐放シート、天然香料含有のグリップ付き文房具、工具、及びハンドルからなる群より選ばれる1種の成形体である、前記[7]に記載の成形体。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、熱安定性の低い液状機能剤を、熱可塑性樹脂中に安定的に練り込んだ樹脂組成物を提供することができる。また、急速なブリードがなく、液状機能剤に由来する特定の機能を持続的に発揮することができる成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る樹脂組成物を説明するための模式図である。
図2】実施例1の樹脂組成物の状態を示す走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の樹脂組成物は、常圧、90℃にて液体の性状である液状機能剤(アルキレンオキサイドを含む共重合体および炭化水素系ゴム用軟化剤を除く)と、アルキレンオキサイドを含む共重合体と、アルキレンオキサイドを含む共重合体と相溶性がなく、100℃以下の融点もしくは軟化点を有する熱可塑性樹脂とを含有している。
【0021】
<液状機能剤>
本発明の樹脂組成物中に練り込まれる液状機能剤としては、常圧、90℃にて液体の性状であることが必要である。液状機能剤が常圧、90℃にて気体となる場合、後述の混練工程において蒸散量が多くなるため、好ましくない。従って、液状機能剤が常圧、90℃にて液体の性状であれば、上述の不都合を生じることなく混練することができ、特に、水溶液も混練工程での蒸散量を抑えながら混練することが可能になる。なお、液状機能剤の沸点は90℃以上であることが好ましい。
【0022】
また、本発明の樹脂組成物においては、100℃以下の融点もしくは軟化点を有する熱可塑性樹脂を含有しているため、100℃以下の比較的低温にて溶融混練を行うことができ、100℃よりも高い温度において熱分解や熱による変質を起こしやすい耐熱性の低い成分や、熱により蒸散しやすい成分を含む液状機能剤の練り込みに適している。
【0023】
例えば、耐熱性の低いタンパク質やアミノ酸などを含むオイルや水溶液などの練り込みに本発明を好適に用いることができる。また、多くの成分を含む天然香料や、エッセンシャルオイル、フィトンチッドなどは、加熱処理によって低沸点成分が蒸散してしまうと、加熱前後での成分の構成が変わってしまい、香りが変化する場合があるが、本発明では低温混練であるため、その変化を抑えることができる。
【0024】
また、液状機能剤としては、各種のオイル、溶質を含む水溶液、界面活性剤を用いてオイルなどを水中に分散したO/Wエマルジョン、界面活性剤を用いて水分をオイル中に分散したW/Oエマルジョン、微粒子が分散した水ベースのスラリー、およびオイルベースのスラリー等も使用することができる。
【0025】
なお、ここでいう「融点」とは、示差走査熱量計(DSC)で測定した際の、融解の吸熱ピークのことを言う。
【0026】
また、ここでいう「軟化点」とは、JIS K7206:2016に準拠した測定により求めたビカット軟化温度のことを言う。
【0027】
本発明の樹脂組成物全体に対する液状機能剤の含有量としては、1~40質量%の範囲で、好適には5~20質量%の範囲で、目的に応じて、適宜、選択することができる。液状機能剤の含有量が上記下限値未満では、目的とする機能を発揮することができない場合がある。また、液状機能剤の含有量が上記上限値を超えると、成形体としての形態保持性に欠ける傾向が強くなる場合がある。
【0028】
<アルキレンオキサイドを含む共重合体>
アルキレンオキサイドを含む共重合体は、エチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドの重合により得られるポリマーであり、本発明においては、各種のアルキレンオキサイドを含む共重合体を用いることができる。
【0029】
より具体的には、例えば、ノニオン型ポリアルキレンオキサイド系吸水性樹脂等の変性ポリアルキレンオキサイドや、アリルグリシジルエーテルとエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのランダム共重合体(エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド・アリルグリシジルエーテルランダム共重合体)等のエチレンオキサイドを含む共重合体が挙げられる。
【0030】
ノニオン型ポリアルキレンオキサイド系吸水性樹脂としては、例えば、住友精化社製のアクアコークTWB等の市販品が挙げられ、エチレンオキサイドを含む共重合体としては、明成化学工業社製のアルコックスCP-A1HやアルコックスCP-A2H等の市販品が挙げられる。
【0031】
また、アルキレンオキサイド含む共重合体においては、アルキレンオキサイドの末端または側鎖の一部または全部が、各種の変性基で置換されているものであってもよい。
【0032】
アルキレンオキサイドを含む共重合体の分子量は、1000~1000万であることが好ましく、より好ましくは1万~100万である。
【0033】
本発明の樹脂組成物全体に対するアルキレンオキサイドを含む共重合体の含有量としては、1~40質量%であることが好ましく、3~20質量%であることがより好ましい。アルキレンオキサイドを含む共重合体の含有量が上記下限値未満では、特に水溶液練り込みの場合に、含有できる水分が少ないため、十分な機能の発現ができず、好ましくない。また、アルキレンオキサイドを含む共重合体の含有量が上記上限値を超えると、主体となる熱可塑性樹脂による連続相の形成ができず、形態保持性に欠ける傾向が強くなるため、好ましくない。
【0034】
<熱可塑性樹脂>
本発明において、樹脂組成物の主体となる樹脂は、アルキレンオキサイドを含む共重合体と相溶性のない100℃以下で溶融混練できる各種の熱可塑性樹脂から選ぶことができる。
【0035】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂として、例えば、スチレン系熱可塑性エラストマー、アクリル系熱可塑性エラストマー、またはこれらを配合した熱可塑性エラストマー、これらを主体として含む熱可塑性エラストマーコンパウンド(例えば、スチレン系熱可塑性エラストマーを主体として含むスチレン系熱可塑性エラストマーコンパウンド)、100℃以下の融点を有する樹脂(ポリカプロラクトーン、変性ポリエチレン、変性ポリプロピレン、これらを配合した樹脂、およびこれらを主体として含むコンパウンド)などを挙げることができる。
【0036】
なお、熱可塑性樹脂は市販品を用いることができる。例えば、クラレプラスチックス社製の熱可塑性エラストマーコンパウンド(商品名:アーネストン(登録商標)JS20N)、ダイセル社製の生分解性ポリカプロラクトーン(商品名:プラクセル)、三井化学社製のリサイクル改質用の変性ポリエチレンや変性ポリプロピレン(商品名:タフマー)、出光興産社製のホットメルト用の変性ポリエチレン(商品名:エルモーデュ)等が挙げられ、中でも熱可塑性エラストマーコンパウンドが好ましい。
【0037】
熱可塑性エラストマーコンパウンドとしては、例えば、50~100質量%が重量平均分子量20万以下であり、少なくとも2個のビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAと少なくとも1個の共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBとからなるブロック共重合体を水素添加してなるブロック共重合体(a)100質量部と、炭化水素系ゴム用軟化剤(b)50~300質量部からなる組成物を使用することができる。
【0038】
<ブロック共重合体(a)>
ブロック共重合体(a)は、少なくとも2個のビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAと、少なくとも1種の共役ジエン化合物からなる重合体ブロックBとからなるブロック共重合体を水素添加して得られるものである。
【0039】
ビニル芳香族化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等が挙げられる。これらの中でも、スチレンおよびα-メチルスチレンが好ましい。芳香族ビニル化合物は1種を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0040】
ブロック共重合体(a)におけるビニル芳香族化合物の含有量は5~75質量%が好ましく、5~50質量%がより好ましい。
【0041】
前記共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン等が挙げられる。共役ジエン化合物は1種を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらの中でも、共役ジエン化合物がイソプレン及びブタジエンから選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、イソプレンとブタジエンの混合物がより好ましい。
【0042】
ブロック共重合体(a)は、重合体ブロックBの共役ジエン化合物に由来する炭素-炭素二重結合の50%以上が水素添加されていることが好ましく、75%以上が水素添加されていることがより好ましく、95%以上が水素添加されていることが特に好ましい。
【0043】
ブロック共重合体(a)は、重合体ブロックAと重合体ブロックBとをそれぞれ少なくとも1個含有していればよいが、耐熱性、力学物性等の観点から、重合体ブロックAを2個以上、重合体ブロックBを1個以上含有していることが好ましい。重合体ブロックAと重合体ブロックBの結合様式は、線状、分岐状あるいはこれらの任意の組み合わせであってもよいが、重合体ブロックAをAで、重合体ブロックBをBで表したとき、A-B-Aで示されるトリブロック構造や、(A-B)n、(A-B)n-A、(ここでnは2以上の整数を表す)で示されるマルチブロック共重合体などを挙げることができる。これらの中でも、A-B-Aで示されるトリブロック構造のものが、耐熱性、力学物性、取り扱い性等の点で特に好ましい。
【0044】
ブロック共重合体(a)の重量平均分子量は4万~50万の範囲内のものを用いることが好ましい。分子量が上記範囲より小さすぎる場合は、得られる組成物の力学物性の低下を招き好ましくない。逆に大きすぎる場合には粘度の上昇が著しくなり、成形加工性が損なわれ好ましくない。
【0045】
また、ブロック共重合体(a)は50~100質量%が重量平均分子量20万以下であることが好ましく、80~100質量%が重量平均分子量20万以下であることが好ましい。
【0046】
なお、本明細書でいう重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によって求めた標準ポリスチレン換算の重量平均分子量をいう。
【0047】
測定条件:
GPC;LC Solution (SHIMADZU製)
検出器:示差屈折率計 RID-10A(SHIMADZU製)
カラム:TSKgelG4000Hxlを2本直列(TOSOH製)
ガードカラム:TSKguardcolumnHxl-L(TOSOH製)
溶媒:テトラヒドロフラン
温度:40℃
流速:1ml/min
濃度:2mg/ml
【0048】
<炭化水素系ゴム用軟化剤(b)>
炭化水素系ゴム用軟化剤(b)としては、例えば、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、アロマ系オイル等のプロセスオイル、流動パラフィン等が挙げられ、中でもパラフィン系オイル、ナフテン系オイル等のプロセスオイルが好ましい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
本発明に用いられる熱可塑性エラストマーコンパウンドにおいては、ブロック共重合体(a)100質量部に対して、炭化水素系ゴム用軟化剤(b)を50~300質量部含有していることが好ましい。好ましくは60~200質量部、より好ましくは60~150質量部である。
【0050】
また、ここで言う「アルキレンオキサイドを含む共重合体と相溶性のない熱可塑性樹脂」とは、図1に示すように、溶融混練した混合物(樹脂組成物)を顕微鏡で観察した場合に、アルキレンオキサイドを含む共重合体との間に明確な境界部分が存在する熱可塑性樹脂のことを言う。図1においては、熱可塑性樹脂が連続相を形成し、アルキレンオキサイドを含む共重合体が非連続相を形成する構造を有している。熱可塑性樹脂が樹脂組成物中にて連続相となることにより、本発明の樹脂組成物からなる成形体は、一定の形態を保つのに必要な強度を有することができる。
【0051】
そして、本発明の樹脂組成物においては、液状機能剤が、熱可塑性樹脂よりもアルキレンオキサイドを含む共重合体に対して親和性を有する場合、液状機能剤は、アルキレンオキサイドを含む共重合体の内部、および熱可塑性樹脂とアルキレンオキサイドを含む共重合体との境界部分に含まれることになる。また、液状機能剤が、アルキレンオキサイドを含む共重合体よりも熱可塑性樹脂に対して親和性を有する場合、液状機能剤は、熱可塑性樹脂の内部、および熱可塑性樹脂とアルキレンオキサイドを含む共重合体との境界部分に含まれることになる。また、液状機能剤が、熱可塑性樹脂とアルキレンオキサイドを含む共重合体に対して親和性を有していない場合、液状機能剤は、熱可塑性樹脂とアルキレンオキサイドを含む共重合体との境界部分に含まれることになる。
【0052】
本発明で用いられるアルキレンオキサイドを含む共重合体は、親水性が高く、水を吸収する吸水膨潤ポリマーとして知られている。本発明は、この特性を利用したものであり、アルキレンオキサイドを含む共重合体と相溶性のない疎水性の熱可塑性樹脂中に、水溶液、またはこれに類する極性の高い液状機能剤をアルキレンオキサイドを含む共重合体とともに混練することにより、熱可塑性樹脂中に高濃度の液状機能剤を練り込むことが可能になる。
【0053】
そして、液状機能剤が、熱可塑性樹脂よりもアルキレンオキサイドを含む共重合体に対して親和性を有する場合、練り込まれた液状機能剤は、親和性のあるアルキレンオキサイドを含む共重合体中に取り込まれるとともに、主体樹脂である疎水性の熱可塑性樹脂とその中に分散したアルキレンオキサイドを含む共重合体の粒子との界面部分にも配置・保持されることにより、樹脂ペレットや成形体の表面に、液状機能剤が急速ブリードすることのない、高濃度の液状機能剤を含有する樹脂組成物を得ることができる。
【0054】
<樹脂組成物>
上述の液状機能剤として水溶液を使用する場合、樹脂組成物の全体における水分含有率が2~30質量%であることが好ましく、5~20質量%であることがより好ましい。水分含有率が上記下限値未満では、含有できる水溶液が少ないため十分な機能の発現ができず、好ましくない。また、水分含有率が上記上限値を超えると、成形体表面に水溶液がブリードしやすくなる傾向がある。
【0055】
(成形体の製造方法)
次に、本発明の樹脂組成物を用いた成形体の製造方法について説明する。
【0056】
本発明の成形体は、本発明の樹脂組成物を用いて、射出成型、押し出し成型、ブロー成型、フィルム成型、溶融紡糸などの公知の成型方法によって製造することができる。
【0057】
まず、熱可塑性樹脂とアルキレンオキサイドを含む共重合体と液状機能剤とを所定の比率で、所定の温度において、2軸混練機等を用いて混練し、この混練中に液状機能剤を添加し練り込むことにより、アルキレンオキサイドを含む共重合体と液状機能剤とを含有する樹脂組成物を作製する。なお、アルキレンオキサイドを含む共重合体と液状機能剤とを熱可塑性樹脂に練り込む方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0058】
また、溶融混練を行う際の温度は、熱可塑性樹脂の融点もしくは軟化点以上、100℃以下が好ましい。温度が上記下限値未満では、樹脂組成物中に未溶融物が発生する場合がある。また、温度が上記上限値を超えると、水分や低沸点成分の蒸散が多くなるため、好ましくない。
【0059】
次に、作製した樹脂組成物を用いて、例えば、射出成型により、本実施形態の成形体を作製する。
【0060】
本実施形態の成形体は、熱安定性の低い液状機能剤を徐放する成形体として使用することができ、例えば、釣り具(ルアー)、機能剤徐放樹脂ボール、銅イオン徐放シート、天然香料含有のグリップ付き文房具、工具、ハンドル等の用途に好適に使用できる。
【実施例0061】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0062】
(実施例1)
スチレン系熱可塑性エラストマーコンパウンド(クラレプラスチックス社製、商品名:アーネストン(登録商標)JS20N)とアルキレンオキサイドを含む共重合体(住友精化社製、商品名:アクアコークTWB)とイソブチレン・無水マレイン酸の共重合ポリマー中和物水溶液(クラレ社製のイソバン600のNaOHによる中和度0.6の20%水溶液)とを60/20/20の質量比で配合し、90℃の溶融混練条件において、通常の2軸混練を行い、樹脂組成物を得た。
【0063】
なお、溶融混練の工程においては、水の蒸散は特に観察されず、水溶液によるべたつき(急速ブリードによるべたつき)のない樹脂組成物であった。また、液状機能剤について、特に変化は見られなかった。
【0064】
また、100℃設定の熱風循環炉にて24時間処理した後の重量減少を算出することによって、樹脂組成物の水分含有量を測定したところ、18%であった。
【0065】
なお、本実施例の樹脂組成物の状態を示す走査電子顕微鏡(SEM)写真を図2に示す。図2に示すように、本実施例の樹脂組成物においては、スチレン系熱可塑性エラストマーとアルキレンオキサイドを含む共重合体との間に明確な境界部分が存在しており、スチレン系熱可塑性エラストマーがアルキレンオキサイドを含む共重合体と相溶性のない樹脂であることが分かる。
【0066】
次に、射出成型において、シリンダー温度が90℃、金型温度が50℃、及び成形圧力が600kgf/cmの条件で、樹脂組成物の射出成型を行い、直径3cmのボール状の成形体を得た。これを、加湿器の吸水タンクに投入し、加湿器を運転したところ、COOH末端を持つイソブチレン・無水マレイン酸の共重合ポリマー中和物が水中に溶出し、水中のCaイオンやMgイオンを取り込むことで、加湿器フィルターに生じやすい炭酸Caや炭酸Mgからなるスケールの発生を抑制することができることを確認した。
【0067】
(実施例2)
スチレン系熱可塑性エラストマーコンパウンド(クラレプラスチックス社製、商品名:アーネストン(登録商標)JS20N)とアルキレンオキサイドを含む共重合体(住友精化社製、商品名:アクアコークTWB)とフィトンチッド水溶液(フィトンチッドジャパン社製、商品名:PT150)とを50/25/25の質量比で配合し、90℃の溶融混練条件において、通常の2軸混練を行い、樹脂組成物を得た。
【0068】
なお、溶融混練の工程においては、水の蒸散は特に観察されず、水溶液によるべたつき(急速ブリードによるべたつき)のない樹脂組成物であった。また、液状機能剤について、特に変化は見られなかった。
【0069】
また、実施例1と同様の方法により、樹脂組成物の水分含有量を測定したところ、22%であった。
【0070】
次に、90℃において樹脂組成物の射出成型を行い、10cm×10cm、厚さ5mmのプレートを作製した。なお、プレートにべたつきはなく、しっとりとした触感であった。
【0071】
次に、JIS Z 2801.2010-5におけるフィルム密着法に準拠して、黄色ブドウ球菌について抗菌性を評価したところ、24時間後の抗菌活性値は3.2より高い値を示し、良好な抗菌性を有することを確認した。
【0072】
(実施例3)
スチレン系熱可塑性エラストマーコンパウンド(クラレプラスチックス社製、商品名:アーネストン(登録商標)JS20N)とアルキレンオキサイドを含む共重合体(明成化学工業社製、商品名:アルコックスCP-A1H)とヒノキチオール(キセイテック社製、商品名:青森ビバ精油)とを80/10/10の質量比で配合し、90℃の溶融混練条件において、通常の2軸混練を行い、樹脂組成物を得た。
【0073】
なお、溶融混練の工程においては、ヒノキチオールの蒸散は特に観察されず、水溶液によるべたつき(急速ブリードによるべたつき)のない樹脂組成物であった。また、混練前後での香りの変化もなく、液状機能剤について、特に変化は見られなかった。
【0074】
次に、90℃において樹脂組成物の射出成型を行い、10cm×10cm、厚さ5mmのプレートを作製した。なお、プレートにべたつきはなかった。
【0075】
次に、JIS Z 2801.2010-5におけるフィルム密着法に準拠して、黄色ブドウ球菌について抗菌性を評価したところ、24時間後の抗菌活性値は4.9より高い値を示し、良好な抗菌性を有することを確認した。
【0076】
さらに、JIS Z 2911:2018.付属書A(規定)プラスチック製品の試験における方法Aに準用して6種類の混合カビについて抵抗性を確認したところ、レベル「0」となり、良好な抗カビ性能を有することを確認した。
【0077】
(実施例4)
スチレン系熱可塑性エラストマーコンパウンド(クラレプラスチックス社製、商品名:アーネストン(登録商標)JS20N)とアルキレンオキサイドを含む共重合体(住友精化社製、商品名:アクアコークTWB)とソークオイル(ノリーズ社製、商品名:バイトバスリキッドエビ)とを60/20/20の質量比で配合し、90℃の溶融混練条件において、通常の2軸混練を行い、樹脂組成物を得た。
【0078】
なお、溶融混練の工程においては、オイルの蒸散は特に観察されず、べたつき(急速ブリードによるべたつき)のない樹脂組成物であった。また、混練前後での香りの変化もなく、液状機能剤について、特に変化は見られなかった。
【0079】
次に、90℃においてバス用のルアーの母体を成型して、これに針と付属部品を付けてルアーとし、バス釣り評価を行った。繰り返し使用した場合であっても、バイトバスリキッドエビの香りは持続しており、また、練り込んだアルキレンオキサイドを含む共重合体が吸水するため、ルアー全体において水が吸水膨潤して滑らかな動きとなり、良好な釣果を得た。
【0080】
(実施例5)
変性ポリエチレン(三井化学社製、商品名:タフマーH-10305)とアルキレンオキサイドを含む共重合体(住友精化社製、商品名:アクアコークTWB)とボルドー液(井上石灰工業社製、商品名:CIボルドー66D、石灰と銅を含有する水分散液)とを60/20/20の質量比で配合し、90℃の溶融混練条件において、通常の2軸混練を行い、樹脂組成物を得た。
【0081】
なお、溶融混練の工程においては、水の蒸散は特に観察されず、水溶液によるべたつき(急速ブリードによるべたつき)のない樹脂組成物であった。また、液状機能剤について、特に変化は見られなかった。
【0082】
また、実施例1と同様の方法により、樹脂組成物の水分含有量を測定したところ、12%であった。
【0083】
次に、90℃において樹脂組成物の押出成型を行い、メッシュを作製し、屋外暴露において、銅イオンの流出量を測定して追跡したところ、1年間継続して銅イオンの流出が確認できた。従って、このメッシュは、果樹などに被せることにより、急速な銅イオンの流出による薬害リスクを生じることなく、長期間、銅イオンによる殺菌効果を発揮することが可能なツールとして有効であることが確認できた。
【0084】
(比較例1)
実施例1において、アルキレンオキサイドを含む共重合体を配合せず、スチレン系熱可塑性エラストマーコンパウンド(クラレプラスチックス社製、商品名:アーネストン(登録商標)JS20N)とイソバン水溶液(クラレ社製のイソバン600のNaOHによる中和度0.6の20%水溶液)とを80/20の質量比で配合し、90℃の溶融混練条件において、通常の2軸混練を行ったところ、イソバン水溶液がベント口から吹き出して、急速ブリードによるべたつきが見られ、混練物を得ることができなかった。
【0085】
(比較例2)
実施例3におけるスチレン系熱可塑性エラストマーコンパウンド(クラレプラスチックス社製、商品名:アーネストン(登録商標)JS20N)を直鎖状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製、商品名:ノバテックLL UJ580)に変更し、160℃の溶融混練条件において、通常の2軸混練を行ったこと以外は、実施例3と同様にして、樹脂組成物を作製したところ、ヒバ精油の熱的劣化に起因して混練物が黒色に着色し、香りも変質した。
【0086】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0087】
以上に説明したように、本発明は、低温混練条件下において、液体が熱可塑性樹脂に練り込まれた樹脂組成物及びその成形体に、特に有用である。
図1
図2