(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023037611
(43)【公開日】2023-03-15
(54)【発明の名称】硬化性組成物、硬化物、及び機器
(51)【国際特許分類】
C08G 75/045 20160101AFI20230308BHJP
C08L 81/00 20060101ALI20230308BHJP
C08L 33/08 20060101ALI20230308BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20230308BHJP
C08K 5/29 20060101ALI20230308BHJP
C09J 4/02 20060101ALI20230308BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20230308BHJP
【FI】
C08G75/045
C08L81/00
C08L33/08
C08L83/04
C08K5/29
C09J4/02
C09J11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139391
(22)【出願日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2021144328
(32)【優先日】2021-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠▲崎▼ 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】若生 貴大
【テーマコード(参考)】
4J002
4J030
4J040
【Fターム(参考)】
4J002BG042
4J002CN001
4J002CP033
4J002EE037
4J002EJ038
4J002EN006
4J002EQ008
4J002ER009
4J002EW147
4J002FD013
4J002FD038
4J002FD146
4J002FD207
4J002GJ00
4J030BA03
4J030BA04
4J030BB07
4J030BB62
4J030BB67
4J030BC43
4J030BE02
4J030BF14
4J030BG03
4J040FA131
4J040FA231
4J040HD02
4J040JB07
4J040KA14
4J040KA19
(57)【要約】
【課題】エン化合物とチオール化合物とを含有し、保存安定性が高く、硬化物が低温下でも高い柔軟性を有しやすい硬化性組成物を提供する。
【解決手段】硬化性組成物は、エン化合物(A1)と、チオール化合物(A2)と、硬化触媒(B)と、安定化剤(C)と、ガラス転移温度が-30℃以下であるアクリルポリマー(D)とを含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エン化合物(A1)と、
チオール化合物(A2)と、
潜在性硬化触媒(B1)と、
安定化剤(C)と、
ガラス転移温度が-30℃以下であるアクリルポリマー(D)とを含有する、
硬化性組成物。
【請求項2】
前記アクリルポリマー(D)は、分子中にラジカル重合性不飽和結合を有する反応性ポリマー(D1)を含有する、
請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
前記反応性ポリマー(D1)は、下記式(1)に示す構造を有するポリマー(D11)を含有し、
【化1】
式(1)において、Fnは架橋性官能基、RはH又は炭素数1以上10以下のアルキル基、nは8以上9000以下の数である、
請求項2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
前記エン化合物(A1)と前記チオール化合物(A2)との合計の百分比は、前記硬化性組成物の固形分に対して70質量%以上であり、ただし前記硬化性組成物がフィラー(E)を含有する場合は前記固形分からフィラー(E)を除いた部分に対して70質量%以上である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
前記安定化剤(C)は、ラジカル重合禁止剤と、アニオン重合禁止剤とのうち、少なくとも一方を含有する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
前記安定化剤(C)は、前記アニオン重合禁止剤を含有し、
前記アニオン重合禁止剤は、フェノール性水酸基を有する化合物を含有する、
請求項5に記載の硬化性組成物。
【請求項7】
フィラー(E)を更に含有し、
前記フィラー(E)は、シリコーンパウダー(E1)を含有する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項8】
前記シリコーンパウダー(E1)は、シリコーン複合パウダーと、シリコーンレジンパウダーとのうち、少なくとも一方を含有する、
請求項7に記載の硬化性組成物。
【請求項9】
カルボジイミド化合物(F)を更に含有する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項10】
光重合開始剤(G)を更に含有する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項11】
接着剤である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項12】
請求項1から3のいずれか一項に記載の硬化性組成物を硬化させて得られる、
硬化物。
【請求項13】
第一の部品と、第二の部品と、前記第一の部品と前記第二の部品の間に介在して前記第一の部品と前記第二の部品とを接着する硬化物とを備え、
前記硬化物は、請求項1から3のいずれか一項に記載の硬化性組成物を硬化させて得られる、
機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は硬化性組成物、硬化物、及び機器に関し、詳しくはエン化合物とチオール化合物とを含有する硬化性組成物、この硬化性組成物を硬化させて得られる硬化物、及びこの硬化性組成物を用いて製造される機器に関する。
【背景技術】
【0002】
接着剤として使用される組成物の一種として、エン化合物とチオール化合物とを含有する接着剤がある。この種の硬化物は柔軟性を有しやすい。例えば特許文献1には、アクリル樹脂、チオール化合物、潜在性硬化剤、ラジカル重合禁止剤、及びアニオン重合禁止剤を含有する樹脂組成物が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者の調査によると、特にスマートフォンにおけるカメラモジュール用途の接着剤においては、保存安定性とともに、落下衝撃試験に耐えうるように、接着剤の硬化物に益々高い柔軟性が求められている。
【0005】
しかし、発明者が接着剤として使用される組成物の研究開発を独自に進めた結果、エン化合物とチオール化合物とを含有する組成物を硬化させて硬化物を作製した場合、低温下において硬化物の柔軟性が低下しやすい。
【0006】
本発明の課題は、エン化合物とチオール化合物とを含有し、保存安定性が高く、硬化物が低温下でも高い柔軟性を有しやすい硬化性組成物、この硬化性組成物を硬化させて得られる硬化物、及びこの硬化性組成物を用いて製造される機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る硬化性組成物は、エン化合物(A1)と、チオール化合物(A2)と、潜在性硬化触媒(B1)と、安定化剤(C)と、ガラス転移温度が-30℃以下であるアクリルポリマー(D)とを含有する。
【0008】
本発明の一態様に係る硬化物は、前記硬化性組成物を硬化させて得られる。
【0009】
本発明の一態様に係る機器は、第一の部品と、第二の部品と、前記第一の部品と前記第二の部品の間に介在して前記第一の部品と前記第二の部品とを接着する硬化物とを備え、前記硬化物は、前記硬化性組成物を硬化させて得られる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エン化合物とチオール化合物とを含有し、保存安定性が高く、硬化物が低温下でも高い柔軟性を有しやすい硬化性組成物、この硬化性組成物を硬化させて得られる硬化物、及びこの硬化性組成物を用いて製造される機器が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の様々な実施形態の一つに過ぎない。以下の実施形態は、本発明の目的を達成できれば設計に応じて種々の変更が可能である。
【0012】
本実施形態に係る硬化性組成物は、好ましくは接着剤として用いられ、より好ましくはカメラモジュール等の精密機器における部品を接着するために用いられる。なお、硬化性組成物は、接着剤として用いられた場合、いかなる物を接着するために用いられてもよく、すなわち硬化性組成物の用途は、カメラモジュール等の精密機器における部品を接着することのみには限られない。また、本実施形態に係る硬化性組成物は、接着剤以外の用途に適用されてもよく、例えば電子部品の封止剤等として用いられてもよい。
【0013】
本実施形態に係る硬化性組成物(以下、組成物(X)ともいう)は、エン化合物(A1)と、チオール化合物(A2)と、潜在性硬化触媒(B1)と、安定化剤(C)と、ガラス転移温度が-30℃以下であるアクリルポリマー(D)とを含有する。
【0014】
組成物(X)が潜在性硬化触媒(B1)と安定化剤(C)とを含有するため、組成物は高い保存安定性を有する。また、組成物(X)がガラス転移温度が-30℃以下であるアクリルポリマー(D)を含有するため、組成物(X)の硬化物は、低温下でも高い柔軟性を有しやすい。
【0015】
なお、アクリルポリマー(D)のガラス転移温度については、示差走査熱量計(例えば株式会社日立ハイテクサイエンス製の型番DSC7000X)を用い、窒素ガスフロー30ml/min、温度範囲-70~200℃、昇温速度10℃/minの条件で得られたDDSC曲線(すなわち、DSC曲線の微分曲線)のピークの温度を、ガラス転移温度とする。アクリルポリマー(D)がブロックポリマーである場合などには、ガラス転移温度が二つ以上測定されることがあるが、その場合は、少なくとも一つのガラス転移温度が-30℃以下であればよい。
【0016】
組成物(X)に含まれる成分の詳細について、説明する。
【0017】
エン化合物(A1)と、チオール化合物(A2)とは、組成物(X)を硬化させるための反応硬化性を有する成分である。
【0018】
エン化合物(A1)は、例えばアクリロイル基とメタクリロイル基とのうち少なくとも一方を有する化合物(以下、アクリル化合物という)と、ビニル基を有する化合物(以下、ビニル化合物という)とのうち、少なくとも一方を含有する。
【0019】
アクリル化合物は、例えばトリメチロールプロパントリアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジアクリレート、アクリロイルモルフォリン、テトラヒドロフルフリルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、トリス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ビス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート、カプロラクトン変性トリス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート、イソシアヌル酸EO変性ジアクリレート及びイソシアヌル酸EO変性トリアクリレート等よりなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
【0020】
ビニル化合物は、トリアリルイソシアヌレート、アリルグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、及びペンタエリスリトールトリアリルエーテル等からなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
【0021】
エン化合物(A1)は、イソシアヌレート骨格を有する化合物を含有することが好ましい。この場合、組成物(X)を接着剤に適用した場合の、組成物(X)の硬化物の接着強度が向上しやすい。この場合、エン化合物(A1)は、トリス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ビス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート、カプロラクトン変性トリス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート、イソシアヌル酸EO変性ジアクリレート、イソシアヌル酸EO変性トリアクリレート及びトリアリルイソシアヌレートよりなる群から選択される少なくとも一種を含有することが好ましい。
【0022】
エン化合物(A1)が含有できる化合物は上記のみに制限されず、エン化合物(A1)は、エチレン性不飽和結合を有する種々の化合物を含有できる。
【0023】
エン化合物(A1)の分子量は、例えば80以上1000以下である。
【0024】
チオール化合物(A2)は、一分子中に少なくとも二つのチオール基を有する化合物を含有することが好ましい。チオール化合物(A21)は、一分子中にチオール基を3個以上6個以下有する化合物を含有することが、より好ましい。
【0025】
チオール化合物(A2)は、例えばポリオールとメルカプト有機酸とのエステルを含有する。このエステルは、部分エステルと完全エステルとのうち少なくとも一方を含有する。
【0026】
ポリオールは、例えばエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール及びジペンタエリスリトール等からなる群から選択される少なくとも一種を含む。
【0027】
メルカプト有機酸は、メルカプト脂肪族モノカルボン酸、ヒドロキシ酸とメルカプト有機酸とのエステル化反応によって得られるチオール基及びカルボキシ基を含有するエステル、メルカプト脂肪族ジカルボン酸、及びメルカプト芳香族モノカルボン酸等からなる群から選択される少なくとも一種を含む。メルカプト脂肪族モノカルボン酸は、例えばメルカプト酢酸;3-メルカプトプロピオン酸等のメルカプトプロピオン酸;3-メルカプト酪酸及び4-メルカプト酪酸等のメルカプト酪酸等からなる群から選択される少なくとも一種を含む。メルカプト脂肪族モノカルボン酸の炭素数は、好ましくは2~8、より好ましくは2~6、さらに好ましくは2~4、特に好ましくは3である。炭素数が2~8のメルカプト脂肪族モノカルボン酸は、例えばメルカプト酢酸、3-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプト酪酸及び4-メルカプト酪酸からなる群から選択される少なくとも一種を含む。メルカプト脂肪族ジカルボン酸は、例えばメルカプトコハク酸、及び2,3-ジメルカプトコハク酸等のジメルカプトコハク酸等からなる群から選択される少なくとも一種を含む。メルカプト芳香族モノカルボン酸は、例えば4-メルカプト安息香酸等のメルカプト安息香酸を含む。
【0028】
ポリオールとメルカプト有機酸との部分エステルは、例えばトリメチロールプロパン ビス(メルカプトアセテート)、トリメチロールプロパン ビス(3-メルカプトプロピオナート)、トリメチロールプロパン ビス(3-メルカプトブチラート)、トリメチロールプロパン ビス(4-メルカプトブチラート)、ペンタエリスリトール トリス(メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトール トリス(3-メルカプトプロピオナート)、ペンタエリスリトールトリス(3-メルカプトブチラート)、ペンタエリスリトー
ル トリス(4-メルカプトブチラート)、ジペンタエリスリトール テトラキス(メルカプトアセテート)、ジペンタエリスリトール テトラキス(3-メルカプトプロピオナート)、ジペンタエリスリトール テトラキス(3-メルカプトブチラート)、及びジペンタエリスリトール テトラキス(4-メルカプトブチラート)等からなる群から選択される少なくとも一種を含む。
【0029】
ポリオールとメルカプト有機酸との完全エステルは、例えばエチレングリコール ビス(メルカプトアセテート)、エチレングリコール ビス(3-メルカプトプロピオナート)、エチレングリコール ビス(3-メルカプトブチラート)、エチレングリコール ビス(4-メルカプトブチラート)、トリメチロールプロパン トリス(メルカプトアセテート)、トリメチロールプロパン トリス(3-メルカプトプロピオナート)、トリメチロールプロパン トリス(3-メルカプトブチラート)、トリメチロールプロパン トリス(4-メルカプトブチラート)、ペンタエリスリトール テトラキス(メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトール テトラキス(3-メルカプトプロピオナート)、ペンタエリスリトール テトラキス(3-メルカプトブチラート)、ペンタエリスリトール テトラキス(4-メルカプトブチラート)、ジペンタエリスリトール ヘキサキス(メルカプトアセテート)、ジペンタエリスリトール ヘキサキス(3-メルカプトプロピオナート)、ジペンタエリスリトール ヘキサキス(3-メルカプトブチラート)、ジペンタエリスリトール ヘキサキス(4-メルカプトブチラート)等が挙げられる。好ましくは、ペンタエリスリトール テトラキス(3-メルカプトプロピオナート)、ペンタエリスリトール テトラキス(3-メルカプトブチラート)、ジペンタエリスリトール ヘキサキス(3-メルカプトプロピオナート)及びトリメチロールプロパン トリス(3-メルカプトプロピオナート)からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む。
【0030】
チオール化合物(A2)は、例えば、トリス[(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル]-イソシアヌレート、1,3,5-トリス(3-メルカプトブチルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン等を含有してもよい。
【0031】
チオール化合物(A2)は、上記以外の化合物を含有してもよい。例えばチオール化合物(A2)は、1,4-ブタンジチオール、1,6-ヘキサンジチオール、1,8-オクタンジチオール、1,10-デカンジチオール、3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール、及びビス-2-メルカプトエチルスルフィド等からなる群から選択される少なくとも一種を含有してもよい。チオール化合物(A2)は、トリス(3-メルカプトプロピル)イソシアヌレート及び1,3,4,6-テトラキス(2-メルカプトエチル)グリコールウリル等からなる群から選択される少なくとも一種を含有してもよい。
【0032】
チオール化合物(A2)は、2級チオール基を有する化合物を含有することが好ましい。例えばチオール化合物(A2)は、ペンタエリスリトール テトラキス(3-メルカプトブチレート)、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン、1,3,5-トリス(2-(3-スルファニルブタノイルオキシ)エチル)-1,3,5-トリアジナン-2,4,6-トリオン、及びトリメチロールプロパン トリス(3-メルカプトブチレート)よりなる群から選択される少なくとも一種を含有することが好ましい。2級チオール基を有する化合物は、1級チオール基を有する化合物と比べ、組成物(X)の保存安定性を高めやすい。
【0033】
エン化合物(A1)とチオール化合物(A2)との合計の百分比は、組成物(X)の固形分に対して、70質量%以上であることが好ましい。ただし、組成物(X)が後述するフィラー(E)を含有する場合は、エン化合物(A1)とチオール化合物(A2)との合計の百分比は、組成物(X)の固形分からフィラー(E)を除いた部分に対して、70質量%以上であることが好ましい。この場合、組成物(X)は良好な反応硬化性を有することができる。この百分比は、80質量%以上であればより好ましく、90質量%以上であれば更に好ましい。また、この百分比は、例えば97質量%以下である。なお、固形分とは、組成物(X)中の、揮発性成分を除く成分のことである。揮発性成分とは、組成物(X)が硬化して硬化物が作製される過程で揮発し、硬化物を構成しない成分のことであり、例えば溶剤等である。
【0034】
また、エン化合物(A1)とチオール化合物(A2)との配合比については、チオール化合物(A2)/エン化合物(A1)当量比が0.5以上1.5以下であることが好ましい。この配合比は、0.7以上1.3以下であればより好ましく、0.85以上1.15以下であれば更に好ましい。
【0035】
組成物(X)中の反応硬化性を有する成分は、エン化合物(A1)及びチオール化合物(A2)のみであってよい。組成物(X)は、本実施形態の効果を過度に損なわない範囲において、エン化合物(A1)及びチオール化合物(A2)以外の反応硬化性を有する成分(以下、成分(A3)という)を含有してもよい。組成物(X)が成分(A3)を含有する場合、エン化合物(A1)に対する成分(A3)の百分比は、0質量%超70質量%以下であることが好ましい。この百分比は、50質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であれば更に好ましい。成分(A3)に含まれる化合物の例は、エポキシ化合物、オキセタン化合物、フェノール化合物、及びアミン化合物を含む。
【0036】
組成物(X)は硬化触媒(B)を含有する。このため、組成物(X)が加熱されることで組成物(X)の硬化反応が進行しやすい。
【0037】
硬化触媒(B)は、例えばイミダゾール類、シクロアミジン類、第3級アミン類、有機ホスフィン類、テトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレート、ボレート以外の対アニオンを持つ4級ホスホニウム塩、及びテトラフェニルボロン塩等からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。
【0038】
硬化触媒(B)は、潜在性硬化触媒(B1)を含有する。この場合、加熱されていない状態での組成物(X)の反応を抑制し、組成物(X)の保存安定性を高めることができる。潜在性硬化触媒(B1)は、液状潜在性硬化促進剤と固体分散型潜在性硬化促進剤とのうち少なくとも一方を含有できる。例えば潜在性硬化触媒(B1)は、マイクロカプセル型潜在性硬化触媒(B11)を含有することが好ましい。マイクロカプセル型潜在性硬化触媒(B11)は、触媒活性を有する化合物からなるコアと、コアを覆うシェルとを備える。シェルは、例えば有機高分子と無機化合物とのうち少なくとも一方からなる。マイクロカプセル型潜在性硬化触媒(B11)は、例えば触媒活性を有する化合物としてイミダゾール類を含むマイクロカプセル化イミダゾールを含有する。
【0039】
エン化合物(A1)とチオール化合物(A2)との合計に対する硬化触媒(B)の百分比は、0.1質量%以上35質量%以下であることが好ましい。この百分比が0.1質量%以上であると、組成物(X)を反応させて硬化させる場合の組成物(X)の反応性が高まりやすい。また、この百分比が35質量%以下であると、組成物(X)の保存安定性がより高まりやすい。この百分比は0.3質量%以上であればより好ましく、0.5質量%以上であれば更に好ましく、0.8質量%以上であれば特に好ましい。またこの百分比は20質量%以下であればより好ましく、15質量%以下であれば更に好ましく、10質量%以下であれば特に好ましい。
【0040】
組成物(X)は、上述のとおり安定化剤(C)を含有する。安定化剤(C)とは、組成物(X)中の反応性を有する成分であるエン化合物(A1)及びチオール化合物(A2)の反応を進みにくくする化合物である。組成物(X)が安定化剤(C)を含有すると、組成物(X)の保存安定性が高まりやすい。
【0041】
安定化剤(C)は、ラジカル重合禁止剤と、アニオン重合禁止剤とのうち、少なくとも一方を含有することが好ましい。この場合、組成物(X)の保存安定性が、より高まりやすい。これは、組成物(X)の保管中に、ラジカル重合禁止剤によってエン化合物(A1)とチオール化合物(A2)との間のラジカル重合反応、及びエン化合物(A1)中の分子同士のラジカル重合反応が進みにくくなり、またアニオン重合禁止剤によってエン化合物(A1)とチオール化合物(A2)とのアニオン重合反応が進みにくくなるためであると、推定される。
【0042】
ラジカル重合禁止剤は、例えば、4-tert-ブチルピロカテコール、tert-ブチルヒドロキノン、1,4-ベンゾキノン、ジブチルヒドロキシトルエン、1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジルフリーラジカル、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、メキノール、フェノチアジン及びN-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム等よりなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有できる。なお、ラジカル重合禁止剤が含有しうる化合物は、前記のみには制限されない。
【0043】
アニオン重合禁止剤は、例えば有機ホウ酸化合物とフェノール性水酸基を有する化合物とのうち、少なくとも一方を含有する。有機ホウ酸化合物は、例えばホウ酸トリエチル、ホウ酸トリブチル、及びホウ酸トリイソプロピル等よりなる群から選択される少なくとも一種のホウ酸エステルを含有する。フェノール性水酸基を有する化合物は、例えば2.3-ジヒドロキシナフタレン、4-メトキシ-1-ナフトール、ピロガロール、メチルヒドロキノン、及びt-ブチルヒドロキノン等よりなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
【0044】
本実施形態では、組成物(X)がアニオン重合禁止剤を含有する場合、アニオン重合禁止剤は、フェノール性水酸基を有する化合物を含有することが好ましい。この場合、組成物(X)の保存安定性がより高まりやすい。その理由は明らかではないが、フェノール性水酸基を有する化合物は一般的に弱酸性でありプロトンを放出することができ、プロトンの作用により硬化触媒(B)を安定化させるものと推測される。一方、一般的に有機ホウ酸化合物はプロトンを放出することはない。
【0045】
エン化合物(A1)と、チオール化合物(A2)と、潜在性硬化触媒(B1)と、安定化剤(C)と、アクリルポリマー(D)との合計に対する安定化剤(C)の百分比は、0.01質量%以上1.0質量%以下であることが好ましい。この百分比が0.01質量%以上であれば組成物(X)の保存安定性が更に高まりやすい。この百分比が1.0質量%以下であれば組成物(X)の硬化性が損なわれにくく、組成物(X)が適切な条件で硬化された際に高い接着強度が維持されやすいという利点がある。この百分比は0.03質量%以上であればより好ましく、0.05質量%以上であれば更に好ましく、0.10質量%以上であれば特に好ましい。またこの百分比は0.5質量%以下であればより好ましく、0.35質量%以下であることが更に好ましく、0.25質量%以下であれば特に好ましい。
【0046】
安定化剤がラジカル重合禁止剤を含有する場合、エン化合物(A1)と、チオール化合物(A2)と、潜在性硬化触媒(B1)と、安定化剤(C)と、アクリルポリマー(D)との合計に対するラジカル重合禁止剤の百分比は、0.01質量%以上1.0質量%以下であることが好ましい。この百分比が0.01質量%以上であれば組成物(X)の保存安定性が更に高まりやすい。この百分比が1.0質量%以下であれば組成物(X)の硬化性が損なわれにくく、組成物(X)が適切な条件で硬化された際に高い接着強度が維持されやすいという利点がある。この百分比は0.03質量%以上であればより好ましく、0.05質量%以上であれば更に好ましく、0.10質量%以上であれば特に好ましい。またこの百分比は0.5質量%以下であればより好ましく、0.35質量%以下であることが更に好ましく、0.25質量%以下であれば特に好ましい。
【0047】
安定化剤がアニオン重合禁止剤を含有する場合、エン化合物(A1)と、チオール化合物(A2)と、潜在性硬化触媒(B1)と、安定化剤(C)と、アクリルポリマー(D)との合計に対するアニオン重合禁止剤の百分比は、0.01質量%以上1.0質量%以下であることが好ましい。この百分比が0.01質量%以上であれば組成物(X)の保存安定性が更に高まりやすい。この百分比が1.0質量%以下であれば組成物(X)の硬化性が損なわれにくく、適切な条件で硬化された際に高い接着強度が維持されやすいという利点がある。この百分比は0.03質量%以上であればより好ましく、0.05質量%以上であれば更に好ましく、0.10質量%以上であれば特に好ましい。またこの百分比は0.5質量%以下であればより好ましく、0.35質量%以下であることが更に好ましく、0.25質量%であれば特に好ましい。
【0048】
上述のとおり、組成物(X)は、ガラス転移温度が-30℃以下であるアクリルポリマー(D)を含有する。アクリルポリマーとは、アクリロイル基とメタクリロイル基とのうち少なくとも一方を有する一種又は二種以上のモノマーの重合体である。アクリルポリマー(D)のガラス転移温度は、-35℃以下であればより好ましく、-40℃以下であれば更に好ましい。また、このガラス転移温度は、例えば-100℃以上である。また、アクリルポリマー(D)の数平均分子量は、例えば2,000以上80,000以下である。なお、この数平均分子量は、 GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法により、東ソー株式会社製HLC-8329GPCを用いて、GPCカラムとして東ソー株式会社製TSKgel SuperMultiprore HZ-Mを用い、GPC溶媒としてテトラヒドロフランを用い、標準ポリスチレン換算法により測定される。
【0049】
アクリルポリマー(D)は、分子中にラジカル重合性不飽和結合を有する反応性ポリマー(D1)を含有することが好ましい。この場合、アクリルポリマー(D)によって組成物(X)の接着性が阻害されにくい。ただし、アクリルポリマー(D)が、ラジカル重合性不飽和結合を有さないポリマー(D2)を含有してもよい。
【0050】
アクリルポリマー(D)は、常温で液状であっても固体状であってもよい。すなわち、反応性ポリマー(D1)は常温で液状であっても固体状であってもよく、ポリマー(D2)も常温で液状であっても固体状であってもよい。
【0051】
反応性ポリマー(D1)は、下記式(1)に示す構造を有するポリマー(D11)を含有することが好ましい。この場合、組成物(X)の硬化物が、広い温度域において、より高い柔軟性を有しやすい。
【0052】
【0053】
式(1)において、Fnは架橋性官能基、RはH又は炭素数1以上10以下のアルキル基、nは8以上9000以下の数である。
【0054】
アクリルポリマー(D)は、上記以外の化合物を含有してもよい。
【0055】
例えば、反応性ポリマー(D1)のうち、液状の化合物としては、株式会社カネカ製XMAP RC100C、RC200C、MM110C等、日本曹達株式会社NISSO PB TE-2000、TEAI-1000等の分子中にアクリロイル基、メタクリロイル基機、アリル基を有する化合物等が挙げられる。
【0056】
また、ポリマー(D2)のうち、液状の化合物としては、株式会社クラレ製 クラリティLA-2114等の分子中にポリアクリル酸ブチル構造を有する化合物、東亞合成株式会社UP-1000等が挙げられる。
【0057】
また、ポリマー(D2)のうち、固体状の化合物としては、株式会社クラレ製 クラリティLA-2140、LK-9243等の分子中にポリアクリル酸ブチル構造を有する化合物が挙げられる。
【0058】
アクリルポリマー(D)がポリマー(D2)を含有する場合、ポリマー(D2)は固体状であることが好ましい。その場合、ポリマー(D2)よって接着性が阻害されにくい。
【0059】
エン化合物(A1)と、チオール化合物(A2)と、潜在性硬化触媒(B1)と、安定化剤(C)と、アクリルポリマー(D)との合計に対するアクリルポリマー(D)の百分比は、1質量%以上16質量%以下であることが好ましい。この百分比が1質量%以上であれば、硬化物が、広い温度域において、より高い柔軟性を有しやすい。この百分比が16質量%以下であれば、組成物(X)の良好な接着性が維持されやすい。この百分比は、2質量%以上であればより好ましく、4質量%以上であることが更に好ましく、6質量%以上であれば特に好ましい。またこの百分比は、12質量%以下であればより好ましく、10質量%以下であれば更に好ましく、8質量%以下であれば特に好ましい。
【0060】
組成物(X)は、フィラー(E)を含有してもよい。フィラー(E)は、組成物(X)が硬化する際の硬化収縮を低減できる。
【0061】
フィラー(E)は、シリコーンパウダー(E1)を含有することが好ましい。その場合、硬化物の柔軟性が更に高まりやすい。
【0062】
シリコーンパウダー(E1)は、例えばシリコーンゴムからなる粉体(シリコーンゴムパウダー)、シリコーンレジンからなる粉体(シリコーンレジンパウダー)、及びシリコーンゴムからなるコアとシリコーンレジンからなるシェルとを有する粉体(シリコーン複合パウダー)よりなる群から選択される少なくとも一種を含有する。なお、シリコーンレジンとは、3次元状のシロキサン結合を主体する骨格を有するシリコーンであり、シリコーンゴムとは2次元状のシロキサン結合を主体とする骨格を有するシリコーンである。
【0063】
シリコーンパウダー(E1)は、シリコーンレジンパウダーと、シリコーン複合パウダーとのうち、少なくとも一方を含有することが好ましい。この場合、組成物(X)の硬化物は、広い温度域において、より低い弾性率を更に有しやすい。
【0064】
シリコーンパウダー(E1)の平均粒径は、0.3μm以上30μm以下であることが好ましい。平均粒径が0.3μm以上であれば組成物(X)の粘度の過度な上昇を抑制できるという利点がある。平均粒径が30μm以下であれば組成物(X)の狭い空間への高い浸入性を維持できるという利点がある。この平均粒径は、0.5μm以上であればより好ましく、0.7μm以上であれば更に好ましい。また、この平均粒径は、20μm以下であればより好ましく、10μm以下であれば更に好ましい。なお、平均粒径は、レーザー回折法で測定される粒度分布から算出される累積頻度50%の粒径(d50)である。
【0065】
組成物(X)に対するシリコーンパウダー(E1)の百分比は、15質量%以上50質量%以下であることが好ましい。この百分比が15質量%以上であれば、硬化物(X)の柔軟性が特に高まりやすく、また硬化収縮を低減しやすい。また、この百分比が50質量%以下であれば、組成物(X)の粘度の過度な上昇を抑制できるという利点がある。この百分比は、20質量%以上であればより好ましく、23質量%以上であれば更に好ましく、27質量%以上であれば特に好ましい。また、この百分比は、45質量%以下であればより好ましく、40質量%以下であれば更に好ましく、35質量%以下であれば特に好ましい。
【0066】
フィラー(E)は、シリコーンパウダー(E1)のみを含有してもよく、シリコーンパウダー(E1)以外のフィラー(以下、フィラー(E2)ともいう)を更に含有してもよい。
【0067】
フィラー(E2)は、無機フィラーを含有できる。フィラー(E2)が無機フィラーのみを含有してもよい。組成物(X)が無機フィラーを含有すると、組成物(X)が硬化して硬化物が作製される過程における硬化収縮が生じにくくなる。そのため、組成物(X)は、カメラモジュールなどの精密機器における部品の接着に更に適したものとなる。無機フィラーは、例えばシリカ、アルミナ、硫酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、ホウ酸アルミニウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ビスマス、酸化チタン、ジルコン酸バリウム、及びジルコン酸カルシウム等からなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
【0068】
フィラー(E)がシリコーンパウダー(E1)以外のフィラー(E2)を含有する場合、組成物(X)に対するフィラー(E2)の百分比は、例えば0質量%超30質量%以下である。
【0069】
組成物(X)は、カルボジイミド化合物(F)を含有してもよい。この場合、組成物(X)の硬化物が高温高湿下であっても劣化しにくくなり、硬化物の信頼性が高まりやすい。
【0070】
カルボジイミド化合物(F)とは、カルボジイミド基(-N=C=N-)を分子中に有する化合物である。カルボジイミド化合物は、ポリカルボジイミド、モノカルボジイミド及び環状カルボジイミドからなる群から選択される少なくとも一種を含むことができる。ポリカルボジイミドは、脂肪族ポリカルボジイミド及び芳香族ポリカルボジイミドのうち少なくとも一方を含むことができる。脂肪族ポリカルボジイミドは、主鎖が脂肪族炭化水素から構成される。芳香族ポリカルボジイミドは、主鎖が芳香族炭化水素から構成される。モノカルボジイミドは、脂肪族モノカルボジイミド及び芳香族モノカルボジイミドのうち少なくとも一方を含むことができる。
【0071】
モノカルボジイミドは、例えばN,N'-ジ-o-トルイルカルボジイミド、N,N'-ジフェニルカルボジイミド、N,N'-ジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、N,N'-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、N,N'-ビス(プロピルフェニル)カルボジイミド、N,N'-ジオクチルデシルカルボジイミド、N-トリイル-N'-シクロヘキシルカルボジイミド、N,N'-ジ-2,2-ジ-tert-ブチルフェニルカルボジイミド、N-トリイル-N'-フェニルカルボジイミド、N,N'-ジ-p-ニトロフェニルカルボジイミド、N,N'-ジ-p-アミノフェニルカルボジイ
ミド、N,N'-ジ-p-ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド、及びN,N'-ジ-p-トルイルカルボジイミドなどからなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
【0072】
ポリカルボジイミドは、例えば下記式で表される化合物である。
【0073】
R2-(-N=C=N-R1-)m-R3
式中、m個のR1は各々独立に2価の芳香族基又は脂肪族基である。R1が芳香族基の場合、R1は、少なくとも1個の炭素原子を有する脂肪族置換基、脂環式置換基、及び芳香族置換基のうちの少なくとも一種で置換されていてもよい。これらの置換基は、ヘテロ原子を有してもよく、またこれらの置換基は、カルボジイミド基が結合する芳香族基の少なくとも1つのオルト位に置換してもよい。R2は、炭素数1~18のアルキル基、炭素数5~18のシクロアルキル基、アリール基、炭素数7~18のアラルキル基、-R4-NH-COS-R5、-R4COOR5、-R4-OR5、-R4-N(R5)2、-R4-SR5、-R4-OH、-R4-NH2、-R4-NHR5、-R4-エポキシ、-R4-NCO、-R4-NHCONHR5、-R4-NHCONR5R6又は-R4-NHCOOR7である。R3は、-N=C=N-アリール、-N=C=N-アルキル、-N=C=N-シクロアルキル、-N=C=N-アラルキル、-NCO、-NHCONHR5、-NHCONHR5R6、-NHCOOR77、-NHCOS-R5、-COOR5、-OR5、エポキシ、-N(R5)2、-SR5、-OH、-NH2、又は-NHR5である。R4は、2価の芳香族基又は脂肪族基である。R5及びR6は、各々独立に、炭素数1~20のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数7~18のアラルキル基、オリゴ/ポリエチレングリコール類、又はオリゴ/ポリプロピレングリコール類である。R7は、R5の前記定義の1つを有するか、又はポリエステル基もしくはポリアミド基である。mは2以上の整数である。
【0074】
ポリカルボジイミドは、例えばポリ(4,4’-ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)、ポリ(N,N'-ジ-2,6-ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)、及びポリ(1,3,5-トリイソプロピルフェニレン-2,4-カルボジイミド)などからなる群から選択される少なくとも一種を含む。ポリカルボジイミドの市販品の例として、脂肪族ポリカルボジイミド(日清紡ケミカル社製、エラストスタブH-01)、及びカルボジイミド変性イソシアネート(日清紡ケミカル社製、カルボジライトV-05)などよりなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
【0075】
環状カルボジイミドは、一分子中に一つのカルボジイミド基と、このカルボジイミド基における二つの窒素(第一窒素及び第二窒素)のいずれにも結合している基(結合基)とを備える。結合基は、例えば脂肪族基、脂環族基、芳香族基及びこれらの組み合わせからなる基から選択される2価の基である。結合基は、ヘテロ原子を備えてもよい。芳香族基は、例えば炭素数5~15のアリ-レン基、炭素数5~15のアレーントリイル基、並びに炭素数5~15のアレーンテトライル基からなる群から選択される。脂肪族基は、例えば炭素数1~20のアルキレン基、炭素数1~20のアルカントリイル基、並びに炭素数1~20のアルカンテトライル基からなる群から選択される。脂環族基は、例えば炭素数3~20のシクロアルキレン基、炭素数3~20のシクロアルカントリイル基、並びに炭素数3~20のシクロアルカンテトライル基からなる群から選択される。
【0076】
カルボジイミド化合物(F)は、環状カルボジイミドを含有することが好ましい。この場合、組成物(X)の保存安定性が更に損なわれにくく、かつ硬化物の接着強度が更に高まりやすいという利点がある。
【0077】
エン化合物(A1)とチオール化合物(A2)との合計に対するカルボジイミド化合物(FE)の百分比は、1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。この百分比が1質量%以上であると、硬化物の信頼性が特に高まりやすい。この割合が20質量%以下であると、組成物(X)の硬化時の深部硬化性が維持されやすい。この百分比は、3質量%以上であればより好ましく、5質量%以上であることが更に好ましく、7質量%以上であれば特に好ましい。また、この百分比は15質量%以下であることがより好ましく、12質量%以下であることが更に好ましく、10質量%以下であれば特に好ましい。
【0078】
組成物(X)は、光重合開始剤(G)を更に含有してもよい。光重合開始剤(G)は、組成物(X)に光硬化性を付与できる。特に組成物(X)を接着剤として使用する場合に組成物(X)が光重合開始剤(G)を含有すると、組成物(X)に光を照射することで組成物(X)をある程度硬化させて仮接着を行った後、組成物(X)を加熱することで組成物(X)を十分に硬化させて本接着を行うことができる。
【0079】
光重合開始剤(G)は、例えば芳香族ケトン類、アシルフォスフィンオキサイド化合物、芳香族オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオ化合物(チオキサントン化合物、チオフェニル基含有化合物など)、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、及びアルキルアミン化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有する。
【0080】
エン化合物(A1)とチオール化合物(A2)との合計に対する光重合開始剤(G)の百分比は、0.05質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。この百分比が0.05質量%以上であることで、組成物(X)に、仮接着のための十分な光硬化性を付与できる。また、この割合が2.0質量%以下であると、組成物(X)に光を照射した場合に組成物(X)を深部まで硬化させやすくできる。この百分比は0.1質量%以上であればより好ましく、0.2質量%以上であれば更に好ましく、0.4質量%以上であれば特に好ましい。またこの割合は1.5質量%以下であればより好ましく、1.0質量%以下であれば更に好ましく、0.8質量%以下であれば特に好ましい。
【0081】
組成物(X)は、本実施形態の効果が過度に損なわれない範囲において、上記以外の添加剤を更に含有してもよい。添加剤は、例えばラジカル捕捉剤、希釈剤、溶剤、顔料、可撓性付与剤、カップリング剤、酸化防止剤、チクソトロピー性付与剤、及び分散剤等よりなる群から選択される少なくとも一種を含む。
【0082】
組成物(X)は、上記の組成物(X)の成分を混合することで調製できる。
【0083】
上述のとおり、組成物(X)を、接着剤として用いることができる。すなわち、組成物(X)を硬化させることで硬化物を得ることができ、この硬化物で、例えば機器を構成する二つの部品(以下、第一の部品及び第二の部品ともいう)を接着できる。
【0084】
本実施形態に係る硬化物は、組成物(X)を硬化させることで得られる。上記のとおり、この硬化物で、第一の部品と第二の部品とを接着することができる。
【0085】
本実施形態に係る機器は、第一の部品と、第二の部品と、これら第一の部品と第二の部品の間に介在して第一の部品と第二の部品とを接着する硬化物とを備える。この硬化物は、組成物(X)を硬化させて得られる。機器は、上述のとおり、例えばカメラモジュールなどの精密機器であるが、これのみには限られない。例えば、機器として、半導体素子、集積回路、大規模集積回路、トランジスタ、サイリスタ、ダイオード、コンデンサ等の電子部品が挙げられる。上記機器がカメラモジュールの場合、第一の部品と第二の部品との接着とは、言い換えるとカメラモジュールの構成部材間を接着することである。第一の部品と第二の部品との接着の例としては、基板とカメラ筐体との接合、及びレンズユニットとカメラ筐体との接合などが挙げられる。なお、第一の部品、第二の部品はこれらの例に限定されるものではない。
【0086】
第一の部品及び第二の部品の各々の材質は、例えば液晶ポリマーなどの樹脂、ポリカーボネートなどの樹脂、ポリエステルなどの樹脂、ニッケル、銅などの金属、セラミック、ポリイミドなどの樹脂、ガラス、又はその他各種の基板材料などであるが、これらのみには制限されない。
【0087】
組成物(X)を用いて第一の部品と第二の部品とを接着する方法、及び第一の部品、第二の部品及び硬化物を備える機器を製造する方法について説明する。
【0088】
第一の部品と第二の部品との間に組成物(X)を介在させる。この状態で、組成物(X)を加熱することで、組成物(X)を硬化させて、硬化物を作製する。この硬化物によって、第一の部品と第二の部品とが接着される。
【0089】
組成物(X)が光重合開始剤(G)を含有する場合は、第一の部品と第二の部品との間に組成物(X)を介在させた状態で、組成物(X)を加熱する前に、組成物(X)に光を照射することで、組成物(X)の硬化をある程度進行させる。このより、第一の部品と第二の部品とを仮接着できる。この場合の組成物(X)に照射する光の波長は、組成物(X)中の光重合開始剤(G)の種類等に応じ、適宜選択される。この光は、例えば紫外線である。このように第一の部品と第二の部品とを仮接着すると、第一の部品と第二の部品との相互の位置関係を適切に調整することで、アラインメント精度を高めることが容易である。
【0090】
組成物(X)を加熱する条件は、組成物(X)が十分に硬化するように適宜設定される。加熱条件は、例えば加熱温度80℃以上120℃以下、加熱時間30分以上120分以下である。
【0091】
(まとめ)
第一の態様に係る硬化性組成物は、エン化合物(A1)と、チオール化合物(A2)と、潜在性硬化触媒(B1)と、安定化剤(C)と、ガラス転移温度が-30℃以下であるアクリルポリマー(D)とを含有する。
【0092】
この態様によれば、エン化合物とチオール化合物とを含有し、保存安定性が高く、硬化物が低温下でも高い柔軟性を有しやすい硬化性組成物を提供できる。
【0093】
第二の態様では、第一の態様において、アクリルポリマー(D)は、分子中にラジカル重合性不飽和結合を有する反応性ポリマー(D1)を含有する。
【0094】
第三の態様では、第二の態様において、反応性ポリマー(D1)は、下記式(1)に示す構造を有するポリマー(D11)を含有する。
【化2】
式(1)において、Fnは架橋性官能基、RはH又は炭素数1以上10以下のアルキル基、nは8以上9000以下の数である。
【0095】
第四の態様では、第一から第三のいずれか一の態様において、エン化合物(A1)とチオール化合物(A2)との合計の百分比は、硬化性組成物の固形分に対して70質量%以上であり、ただし硬化性組成物がフィラー(E)を含有する場合は固形分からフィラー(E)を除いた部分に対して70質量%以上である。
【0096】
第五の態様では、第一から第四のいずれか一の態様において、安定化剤(C)は、ラジカル重合禁止剤と、アニオン重合禁止剤とのうち、少なくとも一方を含有する。
【0097】
第六の態様では、第五の態様において、安定化剤(C)は、アニオン重合禁止剤を含有し、アニオン重合禁止剤は、フェノール性水酸基を有する化合物を含有する。
【0098】
第七の態様では、第一から第六のいずれか一の態様において、硬化性組成物は、フィラー(E)を更に含有し、フィラー(E)は、シリコーンパウダー(E1)を含有する。
【0099】
第八の態様では、第七の態様において、シリコーンパウダー(E1)は、シリコーン複合パウダーと、シリコーンレジンパウダーとのうち、少なくとも一方を含有する。
【0100】
第九の態様では、第一から第八のいずれか一の態様において、硬化性組成物は、カルボジイミド化合物(F)を更に含有する。
【0101】
第十の態様では、第一から第九のいずれか一の態様において、硬化性組成物は、光重合開始剤(G)を更に含有する。
【0102】
第十一の態様では、第一から第十のいずれか一の態様において、硬化性組成物は、接着剤である。
【0103】
第十二の態様に係る硬化物は、第一から第十一のいずれか一の態様に係る硬化性組成物を硬化させて得られる。
【0104】
第十三の態様に係る機器は、第一の部品と、第二の部品と、第一の部品と第二の部品の間に介在して第一の部品と第二の部品とを接着する硬化物とを備える。硬化物は、第一から第十一のいずれか一の態様に係る硬化性組成物を硬化させて得られる。
【実施例0105】
以下、本実施形態の、より具体的な実施例を提示する。なお、本実施形態は、下記の実施例のみには制限されない。
【0106】
1.組成物の調製
表1及び表2に示す原料を混合することで、組成物を調製した。表1及び表2に示す原料の詳細は下記のとおりである。
-エン化合物:イソシアヌル酸EO変性ジ及びトリアクリレート。東亞合成株式会社製。アロニックスM-313。
-チオール化合物:ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)。昭和電工株式会社製。品名カレンズMTPE1(登録商標)。
-エポキシ化合物:液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂。日鉄ケミカル&マテリアルズ株式会社製造。品名YD-8125。
-潜在性硬化触媒#1:アミンアダクト系の潜在性硬化触媒。味の素ファインテクノ株式会社製。アミキュアPN-40J。
-潜在性硬化触媒#2:常温で固体の変性アミン化合物。株式会社T&K TOKA製。品名フジキュアーFXR-1121。
-非潜在性硬化触媒:2-フェニル-1-ベンジル-1H-イミダゾール。
-光重合開始剤#1:1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン、IGM Resins B.V.製 品名Omnirad 184。
-光重合開始剤#2:2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、IGM Resins B.V.製 品名Omnirad TPO G。
-安定化剤#1:ラジカル重合禁止剤。N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム。富士フイルム和光純薬株式会社製。Q-1301
-安定化剤#2:アニオン重合禁止剤。2.3-ジヒドロキシナフタレン。
-アクリルポリマー#1:式(1)に示す構造を有する末端反応型液状アクリル樹脂。株式会社カネカ製。品名KANEKA XMAP RC100C。ガラス転移温度-48℃及び84℃。数平均分子量5000~40000。
-アクリルポリマー#2:式(1)に示す構造を有する末端反応型液状アクリル樹脂。株式会社カネカ製。品名KANEKA XMAP RC200C。ガラス転移温度-31℃及び48℃。数平均分子量5000~40000。
-アクリルポリマー#3:不飽和結合を有さない固体状のアクリル系ブロック共重合体。株式会社クラレ製。品名クラリティLA2140。ガラス転移温度-43℃。数平均分子量30000~70000。
-アクリルポリマー#4:不飽和結合を有さない固体状のアクリル系ブロック共重合体。株式会社クラレ製。品名クラリティLK9243。ガラス転移温度-52℃。数平均分子量30000~70000。
-アクリルポリマー#5:エポキシ基を有する固体状のアクリル系共重合体。東亜合成株式会社製。品名ARUFON UG-4035。ガラス転移温度52℃。数平均分子量5000~15000。
-カルボジイミド化合物#1:環状カルボジイミド、帝人株式会社製、品番TCC-FP20M。
-カルボジイミド化合物#2:日清紡株式会社製。品番10M-SP。
-シリコーンパウダー#1:シリコーンレジンパウダー。信越化学工業株式会社製。品名KMP-706。平均粒径2μm。
-シリコーンパウダー#2:シリコーンゴムパウダー。信越化学工業株式会社製。品名KMP-597。平均粒径5μm。
【0107】
2.評価試験
(1)保存安定性
組成物を遮光容器に入れ、25℃における粘度をB型粘度計で回転数20rpmの条件で測定した。粘度の測定を連続的に行い、25℃における粘度が初期値の値の2.0倍になるまでに要した期間を、保存安定性の指標とした。
【0108】
(2)接着強度#1
液晶ポリマー(品名E463i、ポリプラスチックス社製)で作製された被着体の上に組成物を塗布して直径5mm、厚さ0.5の塗膜を作製した。この塗膜にピーク波長365nmの紫外線を積算照度500mJ/cm2の条件で照射した。続いて、シェアテスターにより被着体に対する組成物のせん断接着強度を測定した。
【0109】
これにより測定される接着強度が0.3MPa以上である場合、組成物は、二つの部材同士を仮接着するために適していると、判断できる。
【0110】
(3)接着強度#2
液晶ポリマー(品名E463i、ポリプラスチックス社製)で作製された被着体の上に組成物を塗布して直径5mm、厚さ0.5mmの塗膜を作製した。この塗膜にピーク波長365nmの紫外線を積算照度500mJ/cm2の条件で照射してから、塗膜を80℃で1時間加熱することで熱硬化させ、硬化物を得た。シェアテスターにより被着体に対する硬化物のせん断接着強度を測定した。
【0111】
(4)収縮率
ガラス板上にポリエチレンテレフタレート製の離型フィルムを配し、離型フィルム上に、平面視5mm×150mm、厚み0.5mmの上下に開放された空間を有するシリコーン製スペーサーを配置した。スペーサー内の空間を組成物で満たした後、スペーサー上面にポリエチレンテレフタレート製の離型フィルムを配し、この離型フィルム上にガラス板を配置した。上側のガラス板の上方から空間内の組成物へ向けて、ピーク波長365nmの紫外線を、積算照度500mJ/cm2の条件で照射した。続いて、組成物を80℃で
1時間加熱することで熱硬化させて、硬化物を作製した。JIS K5600に準拠して、組成物の比重と硬化物の比重とから、収縮率を算出した。
【0112】
(5)弾性率
上記「(4)収縮率」と同じ方法で硬化物を作製した。この硬化物について、JIS K7244-4に基づき動的粘弾性試験(DMA)の引張り法を行った。動的粘弾性試験(DMA)は、測定装置として日立ハイテクサイエンス社製の型番DMA7100を用い、周波数1.0Hz、昇温速度10℃/minの条件で実施した。その結果から、硬化物の弾性率(貯蔵弾性率)の、-40℃から260℃までの範囲内における最大値を算出した。
【0113】
以上の結果、下記表1及び表2に示す。
【0114】
【0115】
【0116】
上記の結果から明らかなように、エン化合物と、チオール化合物と、硬化触媒と、安定化剤と、ガラス転移温度が-30℃以下であるアクリルポリマーとを含有する組成物を調製した実施例1~14では、組成物の保存安定性が高く、かつ硬化物の弾性率が広い温度範囲において低減された。このうち組成物にカルボジイミド化合物を配合した実施例5,6、11~14では、加熱後の接着強度の評価が高くなる傾向がみられた。
【0117】
一方、組成物に潜在性硬化触媒を配合していない比較例1及び組成物に安定化剤を配合していない比較例2では、組成物の保存安定性が低下し、組成物にガラス転移温度が-30℃以下であるアクリルポリマーを配合していない比較例3では硬化物の弾性率が高くなった。また、ガラス転移温度が-30℃を超えるアクリルポリマーを配合した比較例4では、硬化物の弾性率が低減できなかった。