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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023037613
(43)【公開日】2023-03-15
(54)【発明の名称】乳酸菌含有組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/744 20150101AFI20230308BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20230308BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20230308BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230308BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20230308BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20230308BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20230308BHJP
   C12R 1/01 20060101ALN20230308BHJP
   C12R 1/225 20060101ALN20230308BHJP
【FI】
A61K35/744
C12N1/20 A
C12N1/20 E
C12N1/20 Z
A23L33/135
A61P17/00
A61P37/08
A61K35/74 A
A61K35/74 G
A61K35/74 D
A61K35/747
C12R1:01
C12R1:225
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139646
(22)【出願日】2022-09-02
(31)【優先権主張番号】P 2021143652
(32)【優先日】2021-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】502341546
【氏名又は名称】学校法人麻布獣医学園
(74)【代理人】
【識別番号】100137512
【弁理士】
【氏名又は名称】奥原 康司
(72)【発明者】
【氏名】福山 朋季
(72)【発明者】
【氏名】内山 淳平
(72)【発明者】
【氏名】竹田 志朗
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B018MD85
4B018ME07
4B018MF01
4B065AA01X
4B065AA30X
4B065AC20
4B065BA21
4B065CA41
4B065CA43
4B065CA44
4B065CA46
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC55
4C087BC56
4C087BC58
4C087CA09
4C087CA10
4C087CA11
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZA89
4C087ZB13
(57)【要約】
【課題】本発明は、アレルギーの発症の抑制に有効な乳酸菌含有組組成物の提供を課題とする。
【解決手段】本発明は、エンテロコッカス・ヒラエに属する乳酸菌、ラクトバチルス・ジョンソニーに属する乳酸菌、ラクトバチルス・アシドフィルスに属する乳酸菌およびリモシラクトバチルス・ロイテリに属する乳酸菌からなるグループより選択される1以上の乳酸菌、および/または、エンテロコッカス・ヒラエに属する乳酸菌の処理物、ラクトバチルス・ジョンソニーに属する乳酸菌の処理物、ラクトバチルス・アシドフィルスに属する乳酸菌の処理物およびリモシラクトバチルス・ロイテリに属する乳酸菌の処理物からなるグループより選択される1以上の乳酸菌の処理物を含有する組成物である。該組成物は、例えば、飲食品組成物、医薬組成物、飼料組成物および衛生用組成物などとして提供される。さらに、本発明は、アレルギー発症の予防方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンテロコッカス・ヒラエに属する乳酸菌、ラクトバチルス・ジョンソニーに属する乳酸菌、ラクトバチルス・アシドフィルスに属する乳酸菌およびリモシラクトバチルス・ロイテリに属する乳酸菌からなるグループより選択される1以上の乳酸菌、および/または、エンテロコッカス・ヒラエに属する乳酸菌の処理物、ラクトバチルス・ジョンソニーに属する乳酸菌の処理物、ラクトバチルス・アシドフィルスに属する乳酸菌の処理物およびリモシラクトバチルス・ロイテリに属する乳酸菌の処理物からなるグループより選択される1以上の乳酸菌の処理物を含有する組成物。
【請求項2】
前記乳酸菌の処理物が、乳酸菌の培養上清、懸濁物、培養物、発酵物、加熱処理物、破砕物、濃縮物、ペースト化物、乾燥物、希釈物および培養物からの抽出物からなる群から選択される少なくとも1つである請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記乳酸菌が、受領番号NITE AP-03523、受領番号NITE AP-03524、受領番号NITE AP-03525および/または受領番号NITE AP-03526で寄託されたエンテロコッカス・ヒラエ株である請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記乳酸菌が、受領番号NITE AP-03726、受領番号NITE AP-03727、受領番号NITE AP-03728および/または受領番号NITE AP-03729で寄託されたラクトバチルス・ジョンソニー株である請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記乳酸菌が、受領番号NITE AP-03722、受領番号NITE AP-03723、受領番号NITE AP-03724および/または受領番号NITE AP-03725で寄託されたラクトバチルス・アシドフィルス株である請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記乳酸菌が、受領番号NITE AP-03730、受領番号NITE AP-03731、受領番号NITE AP-03732および/または受領番号NITE AP-03733で寄託されたリモシラクトバチルス・ロイテリ株である上請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
抗アレルギー活性を有する請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
抗アレルギー活性がアトピー性皮膚炎に対する予防または治療効果である請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物が飲食品組成物である、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が飲食品組成物である、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物が医薬組成物である、請求項7に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物が医薬組成物である、請求項8に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物が飼料組成物である、請求項7に記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物が飼料組成物である、請求項8に記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物が衛生用組成物である、請求項7に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物が衛生用組成物である、請求項8に記載の組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗アレルギー作用を有する乳酸菌含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギー疾患は様々な要因、例えば、遺伝的要因や環境要因(例えば、乳幼児期の生育環境、腸内細菌叢など)の相互作用によってその発症がコントロールされている。
腸内細菌は、宿主の免疫系の発達に影響を与えると考えられており(非特許文献1)、アレルギー疾患と何らかの関連を有する腸内細菌として乳酸菌が挙げられる。また、乳幼児期におけるペットと生活する環境がアレルギー疾患の環境要因として重要であり、例えば、乳幼児期にペット(イヌやネコなど)と接触することで生じるヒトとペットの微生物クロストークが、アレルギーの発症を抑制することを示唆する報告もある(非特許文献2および3)。
【0003】
乳酸菌は、代謝により乳酸を産生する細菌類の総称で、腸などの消化管に常在して、腸内環境の恒常性の維持に役立っていると考えられている。乳酸菌として利用されることが多いものとして、例えば、Enterococcus属、Lactobacillus属 、Lactococcus属、Bifidobacterium属に分類される細菌が知られている。乳酸菌は腸内環境を整えるための整腸薬や健康食品などに利用される他、アレルギー症状の緩和に効果を発揮するとして注目されている。アレルギーと乳酸菌の関連性については、例えば、ヒト腸由来のEnterococcus faecalis FK-23の死菌がアレルギー性炎症を抑制すること(例えば、非特許文献4および非特許文献5)、Enterococcus hirae ATCC 9790の生菌が抗アレルギー作用を示すこと(特許文献1)などが報告されている。
【0004】
以上のように、乳酸菌がアレルギー疾患に何らかの影響を与えることは示唆されているが、その作用機序については解明されていない点も多く、現在報告されている菌株以外にも、アレルギー疾患の改善という点で、効果的で実用性がある菌株の同定が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-265064号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】MacphersおよびHarris, Nat Rev Immunol. 4:478-485 2004.
【非特許文献2】Hesselmarら, Clin Exp Allergy. 29:611-617 1999.
【非特許文献3】Fallら, JAMA Pediatr. 169 e153219 2015.
【非特許文献4】Shimadaら, J Investig Allergol Clin Immunol 14: 187-192 2004.
【非特許文献5】Shimadaら, J Investig Allergol Clin Immunol 17: 70-76 2007.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、アレルギーの発症の抑制に有効な新たな乳酸菌含有組成物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、イヌにおいて腸内細菌は宿主の免疫系に何らかの影響を与えていると考え、健常犬とアトピー犬の腸内細菌叢の比較を行い、健常犬で優位であった細菌を選択した。具体的には、健常犬糞便から分離した240株のうち、184株が上記選択した細菌に該当し、これらの細菌について、16sRNA遺伝子による系統分類解析を行った。その結果、Bacteroides属、Enterococcus属、Lactobacillus(現Limosilactobacillsu属を含む)属およびStreptococcus属の4属13種を同定し、その中から、Enterococcus属のEnterococcus hiraeE. hirae:エンテロコッカス・ヒラエ)、Lactobacillus属のLactobacillus johnsoniiL. johnsonii:ラクトバチルス・ジョンソニー)、Lactobacillus acidophilusL. acidophilus:ラクトバチルス・アシドフィルス)およびLimosilactobacillsu属のLimosilactobacillus reuteriL. reuteri:リモシラクトバチルス・ロイテリ)を解析対象とした。
発明者らは、E. hiraeの生菌、死菌および培養上清、L. johnsoniiの生菌、L. acidophilusの死菌、L. reuteriの死菌を、各々、マウスのアトピー性皮膚炎モデルに経口投与したところ、アレルギーによって発症する諸症状を抑制する効果が認められた。また、E. hiraeの生菌、死菌および培養上清を、各々、投与したマウスの腸間膜リンパ節中において、制御性T細胞(regulatory T cell:Treg)の数が増加することを見出した。
本発明は上記知見に基づいて完成されたものである。
【0009】
すなわち、本発明は以下の(1)~(16)である。
(1)エンテロコッカス・ヒラエに属する乳酸菌、ラクトバチルス・ジョンソニーに属する乳酸菌、ラクトバチルス・アシドフィルスに属する乳酸菌およびリモシラクトバチルス・ロイテリに属する乳酸菌からなるグループより選択される1以上の乳酸菌、および/または、エンテロコッカス・ヒラエに属する乳酸菌の処理物、ラクトバチルス・ジョンソニーに属する乳酸菌の処理物、ラクトバチルス・アシドフィルスに属する乳酸菌の処理物およびリモシラクトバチルス・ロイテリに属する乳酸菌の処理物からなるグループより選択される1以上の乳酸菌の処理物を含有する組成物。
(2)前記乳酸菌の処理物が、乳酸菌の培養上清、懸濁物、培養物、発酵物、加熱処理物、破砕物、濃縮物、ペースト化物、乾燥物、希釈物および培養物からの抽出物からなる群から選択される少なくとも1つである、上記(1)に記載の組成物。
(3)前記乳酸菌が、受領番号NITE AP-03523、受領番号NITE AP-03524、受領番号NITE AP-03525および/または受領番号NITE AP-03526で寄託されたエンテロコッカス・ヒラエ株である上記(1)に記載の組成物。
(4)前記乳酸菌が、受領番号NITE AP-03726、受領番号NITE AP-03727、受領番号NITE AP-03728および/または受領番号NITE AP-03729で寄託されたラクトバチルス・ジョンソニー株である上記(1)に記載の組成物。
(5)前記乳酸菌が、受領番号NITE AP-03722、受領番号NITE AP-03723、受領番号NITE AP-03724および/または受領番号NITE AP-03725で寄託されたラクトバチルス・アシドフィルス株である上記(1)に記載の組成物。
(6)前記乳酸菌が、受領番号NITE AP-03730、受領番号NITE AP-03731、受領番号NITE AP-03732および/または受領番号NITE AP-03733で寄託されたリモシラクトバチルス・ロイテリ株である上記(1)に記載の組成物。
(7)抗アレルギー活性を有する上記(1)から(6)までのいずれかに記載の組成物。
(8)抗アレルギー活性がアトピー性皮膚炎に対する予防または治療効果である上記(7)に記載の組成物。
(9)前記組成物が飲食品組成物である、上記(7)に記載の組成物。
(10)前記組成物が飲食品組成物である、上記(8)に記載の組成物。
(11)前記組成物が医薬組成物である、上記(7)に記載の組成物。
(12)前記組成物が医薬組成物である、上記(8)に記載の組成物。
(13)前記組成物が飼料組成物である、上記(7)に記載の組成物。
(14)前記組成物が飼料組成物である、上記(8)に記載の組成物。
(15)前記組成物が衛生用組成物である、上記(7)に記載の組成物。
(16)前記組成物が衛生用組成物である、上記(8)に記載の組成物。
なお、本明細書中、「~」の符号は、その左右の値を含む数値範囲を示す。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、従来報告されている乳酸菌種よりも高いアレルギー抑制効果を発揮する乳酸菌種が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1E. hiraeを投与したアトピー性皮膚炎モデルマウスを用いた解析結果(1)を示す。ダニ抗原の経皮投与開始から5週間後まで、乳酸菌および培養上清非投与(以下「乳酸菌等非投与」とも記載する)マウス(AD control)、培養上清投与マウス、死菌投与マウスおよび生菌投与マウスについて、アトピー性皮膚炎症状の評価(AD score)(上段A)、背部皮膚の厚さの測定(B)および耳介の厚さの測定(C)を行った。下段は、乳酸菌等非投与マウス、培養上清投与マウス、死菌投与マウスおよび生菌投与マウスの皮膚症状の代表的な画像である。各投与群n=6、データは、平均値を示し、エラーバーは、標準誤差を示す。
図2E. hiraeを投与したアトピー性皮膚炎モデルマウスを用いた解析結果(2)を示す。ダニ抗原の経皮投与開始から5週間後まで、乳酸菌等非投与マウス(AD control)、培養上清投与マウス、死菌投与マウスおよび生菌投与マウスについて、経表皮水分蒸散量(TEWL)を測定した。各投与群n=6、データは、平均値を示し、エラーバーは、標準誤差を示す。
図3E. hiraeを投与したアトピー性皮膚炎モデルマウスを用いた解析結果(3)を示す。乳酸菌等非投与マウス(AD control)および生菌投与マウス由来の組織をヘマトキシリン・エオジン染色し、顕微鏡観察した結果である。表皮の厚さを、 ]で示す。
図4E. hiraeを投与したアトピー性皮膚炎モデルマウスを用いた解析結果(4)を示す。乳酸菌非等投与マウス(AD control)、培養上清投与マウス、死菌投与マウスおよび生菌投与マウスの皮膚病理検査結果である。
図5E. hiraeを投与したアトピー性皮膚炎モデルマウスを用いた解析結果(5)を示す。乳酸菌等非投与マウス(AD control)、培養上清投与マウス、死菌投与マウスおよび生菌投与マウスの耳介リンパ節中のCD3+CD4+T 細胞数およびIgE産生B細胞数を測定した結果である。LN:Lymph Node(リンパ節)、各投与群n=6、データは、平均値を示し、エラーバーは、標準誤差を示す。*P < 0.05、**P < 0.01、****P <0.0001。
図6E. hiraeを投与したアトピー性皮膚炎モデルマウスを用いた解析結果(6)を示す。乳酸菌等非投与マウス(AD control)および生菌投与マウスの耳介リンパ節中の制御性T細胞(T reg)数を測定した結果である。右図は、フローサイトメトリーの解析結果である。LN:Lymph Node(リンパ節)、Treg:制御性T細胞、各投与群n=6、データは、平均値を示し、エラーバーは、標準誤差を示す。
図7L. johnsoniiを投与したアトピー性皮膚炎モデルマウスを用いた解析結果(1)を示す。乳酸菌等非投与マウス(Control)および生菌投与マウスについて、アトピー性皮膚炎症状の評価(累積スコア;AD score)を行った。挿入図は、ダニ抗原投与5週目の乳酸菌等非投与マウスの皮膚症状の代表的な画像である。各投与群n=8、データは、平均値を示し、エラーバーは、標準誤差を示す。
図8L. johnsoniiを投与したアトピー性皮膚炎モデルマウスを用いた解析結果(2)を示す。乳酸菌等非投与マウス(Control)および生菌投与マウスについて、背部皮膚の厚さの測定を行った。各投与群n=8、データは、平均値を示し、エラーバーは、標準誤差を示す。
図9L. johnsoniiを投与したアトピー性皮膚炎モデルマウスを用いた解析結果(3)を示す。ダニ抗原の経皮投与開始から4週間後(A)および7週間後(B)において、1時間あたりのモデルマウスの引っ掻き行動の回数を測定した(n=8)。データは、平均値を示し、エラーバーは、標準誤差を示す。**P < 0.01。
図10L. johnsoniiを投与したアトピー性皮膚炎モデルマウスを用いた解析結果(4)を示す。乳酸菌等非投与マウス(control)および生菌投与マウスの耳介リンパ節中のCD3+CD4+T 細胞数(TH2細胞数、A)、CD3+CD4+T 細胞からのIL-4の産生量(B)およびIL-13の産生量を測定した結果である。各投与群n=8、データは、平均値を示し、エラーバーは、標準誤差を示す。*P < 0.05。
図11L. johnsoniiを投与したアトピー性皮膚炎モデルマウスを用いた解析結果(5)を示す。乳酸菌等非投与マウス(Control)および生菌投与マウスの耳介リンパ節中のIgE産生B細胞数(A)および血清中の総IgE量を測定した結果である。各投与群n=8、データは、平均値を示し、エラーバーは、標準誤差を示す。
図12L. reuteriを投与したアトピー性皮膚炎モデルマウスを用いた解析結果(1)を示す。乳酸菌等非投与マウス(Control)および死菌投与マウスについて、背部皮膚の厚さの測定(A)、経表皮水分蒸散量の測定(TEWL)(B)およびアトピー性皮膚炎症状の評価(C)を行った。各投与群n=8、データは、平均値を示し、エラーバーは、標準誤差を示す。*P < 0.05、**P < 0.01。
図13L. reuteriを投与したアトピー性皮膚炎モデルマウスを用いた解析結果(2)を示す。乳酸菌非等投与マウス(Control)および死菌投与マウスの皮膚病理検査結果である。
図14L. reuteriを投与したアトピー性皮膚炎モデルマウスを用いた解析結果(3)を示す。乳酸菌等非投与マウス(Control)および死菌投与の耳介リンパ節中の免疫細胞数(A)および血清中の総IgE量を測定した結果である。LN:Lymph Node(リンパ節)、各投与群n=8、データは、平均値を示し、エラーバーは、標準誤差を示す。**P < 0.01、***P <0.001。
図15L. acidophilusを投与したアトピー性皮膚炎モデルマウスを用いた解析結果(1)を示す。乳酸菌等非投与マウス(Control)および死菌投与マウスについて、背部皮膚の厚さの測定(A)、経表皮水分蒸散量の測定(TEWL)(B)およびアトピー性皮膚炎症状の評価(C)を行った。各投与群n=6、データは、平均値を示し、エラーバーは、標準誤差を示す。*P < 0.05、**P < 0.01。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。
第1の実施形態は、エンテロコッカス・ヒラエに属する乳酸菌、ラクトバチルス・ジョンソニーに属する乳酸菌、ラクトバチルス・アシドフィルスに属する乳酸菌およびリモシラクトバチルス・ロイテリに属する乳酸菌からなるグループより選択される1以上の乳酸菌、および/または、エンテロコッカス・ヒラエに属する乳酸菌の処理物、ラクトバチルス・ジョンソニーに属する乳酸菌の処理物、ラクトバチルス・アシドフィルスに属する乳酸菌の処理物およびリモシラクトバチルス・ロイテリに属する乳酸菌の処理物からなるグループより選択される1以上の乳酸菌の処理物を含有する組成物(以下「本実施形態にかかる組成物」とも記載する)である。すなわち、本実施形態にかかる組成物には、1以上乳酸菌、および/または1以上の乳酸菌の処理物が含まれてもよい。
【0013】
本実施形態で用いられるエンテロコッカス・ヒラエとしては、例えば、NCBIアクセッション番号CP015516.1としてその遺伝子配列が登録されている菌種の他、2021年8月30日(原寄託日)付で独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 特許微生物寄託センター(NPMD)(郵便番号292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に寄託された、受領番号NITE AP-03523(識別の表示:EF11-3)、受領番号NITE AP-03524(識別の表示:EF1-4)、受領番号NITE AP-03525(識別の表示:EF13-1)および受領番号NITE AP-03526(識別の表示:EF8-6)で特定される菌株などが好ましい。
【0014】
本実施形態で用いられるラクトバチルス・ジョンソニーとしては、例えば、NCBIアクセッション番号NZ_NIBC00000000としてその遺伝子配列が登録されている菌種の他、2022年8月24日(原寄託日)付で独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 特許微生物寄託センター(NPMD)(郵便番号292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に寄託された、受領番号NITE AP-03726(識別の表示:L08-2)、受領番号NITE AP-03727(識別の表示:L11-1)、受領番号NITE AP-03728(識別の表示:L40-5)および受領番号NITE AP-03729(識別の表示:L41-3)で特定される菌株などが好ましい。
【0015】
本実施形態で用いられるラクトバチルス・アシドフィルスとしては、例えば、NCBIアクセッション番号M99704としてその遺伝子配列が登録されている菌種の他、2022年8月24日(原寄託日)付で独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 特許微生物寄託センター(NPMD)(郵便番号292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に寄託された、受領番号NITE AP-03722(識別の表示:M38-3)、受領番号NITE AP-03723(識別の表示:M38-5)、受領番号NITE AP-03724(識別の表示:M40-1)および受領番号NITE AP-03725(識別の表示:M53-4)で特定される菌株などが好ましい。
【0016】
本実施形態で用いられるリモシラクトバチルス・ロイテリとしては、例えば、NCBIアクセッション番号DQ074950としてその遺伝子配列が登録されている菌種の他、2022年8月24日(原寄託日)付で独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 特許微生物寄託センター(NPMD)(郵便番号292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に寄託された、受領番号NITE AP-03730(識別の表示:M01)、受領番号NITE AP-03731(識別の表示:M11)、受領番号NITE AP-03732(識別の表示:M40)および受領番号NITE AP-03733(識別の表示:M41)で特定される菌株などが好ましい。
上記寄託菌株(16株)は、上記保存機関より入手可能である。
【0017】
エンテロコッカス・ヒラエ、ラクトバチルス・ジョンソニー、ラクトバチルス・アシドフィルスおよびリモシラクトバチルス・ロイテリ(以下これらの乳酸菌を「本実施形態にかかる乳酸菌」とも記載する)の培養方法は、特に限定されるものではなく、乳酸菌の培養方法として、当業者が通常選択する方法であればいかなる方法であってもよい。例えば、培養温度は20~50℃、好ましくは25~40℃とし、嫌気条件にて培養することができる。
本実施形態にかかる乳酸菌が増殖するための培地は、特に限定されるものではなく、当業者が通常選択する培地を用いることができる。そのような培地として、例えば、炭素源(グルコース、ガラクトース、マンノース、ラクトース、スクロース、セロビオース、トレハロースなど)、窒素源(アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウムなど)、無機塩類(塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウムなど)、有機成分(ペプトン、酵母エキス、肉エキス、大豆粉など)などを菌種に適する組成で含む培地であればよく、TSB培地などを好適に使用することができる。
【0018】
本実施形態にかかる乳酸菌は、生菌であっても死菌であってもよく、また、湿潤菌であっても乾燥菌であってもよい。また、本実施形態にかかる乳酸菌の「処理物」としては、限定はしないが、例えば、乳酸菌の懸濁物(懸濁液、培養物(菌体、培養上清を含む)、培養上清(培養物から固形分を除いたもの)、発酵物および発酵物から固形分を除いた上清をあげることができる。さらに、乳酸菌の「処理物」として、乳酸菌の加熱処理物、滅菌処理物、破砕物、濃縮物、希釈物、ペースト化物、乾燥物、凍結物(凍結乾燥物など)、溶菌物、培養物からの抽出物などを挙げることができる。
また、本実施形態にかかる組成物には、エンテロコッカス・ヒラエ、ラクトバチルス・ジョンソニー、ラクトバチルス・アシドフィルスおよびリモシラクトバチルス・ロイテリ、ならびにエンテロコッカス・ヒラエ、ラクトバチルス・ジョンソニー、ラクトバチルス・アシドフィルスおよびモシラクトバチルス・ロイテリの各処理物以外に他の物質が含まれていてもよい。他の物質として、特に制限はないが、例えば、乳糖、ブドウ糖、マンニトール、蔗糖、デキストリン、シクロデキストリン、デンプン、セルロース、コラーゲン、クエン酸、酢酸、食塩、ビタミン類などを含有させてもよい。
【0019】
本実施形態にかかる組成物は、制御性T細胞の数を増やし、自己免疫疾患、炎症性疾患、アレルギー疾患などを引き起こす過剰な免疫応答を抑制する効果を有しており、好ましくは、アレルギーの発症を抑制する効果を有しており、使用目的に応じて、例えば、飲食品組成物、医薬組成物、飼料組成物および衛生用組成物などとして提供され得るが、これらの組成物に限定されるものではない。
本実施形態にかかる組成物の抑制や予防、治療の対象となる自己免疫疾患、炎症性疾患、アレルギー疾患としては、具体的には、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、強皮症、多発性筋炎・皮膚筋炎、シェーグレン症候群、ベーチェット病等の自己免疫疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病等の炎症性腸疾患および多発性硬化症等の炎症性疾患、気管支喘息、アレルギー性鼻炎・花粉症、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、アナフィラキシー、薬物アレルギー、じんましん、結膜炎等のアレルギー疾患を挙げることができ、これらの中でも好適な対象として気管支喘息、アレルギー性鼻炎・花粉症、アトピー性皮膚炎、結膜炎等のアレルギー疾患を挙げることができ、最も好適な対象はアトピー性皮膚炎である。
【0020】
本実施形態にかかる組成物が医薬組成物である場合、その剤形は特に限定されず、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、液体製剤、座剤または注射剤等が挙げられる。これらの製剤は常法に従って調製される。なお、液体製剤にあっては、用時、水または他の適当な溶媒に溶解または懸濁するものであってもよい。また、錠剤、顆粒剤は周知の方法でコーティングしてもよい。
【0021】
本実施形態にかかる組成物が飲食品組成物として提供される場合、その形態は特に制限されず、例えば、清涼飲料、栄養飲料等の飲料、キャンディー、ガム、ゼリー、クリーム、アイスクリームなどの菓子類、乳飲料、発酵乳、ドリンクヨーグルト、バター等の乳製品、その他サプリメントなどであってもよい。
【0022】
本実施形態にかかる組成物が衛生用組成物として提供される場合、その形態は特に制限されず、例えば、ハミガキ、皮膚クリーム、石鹸、シャンプー、化粧品、エアロゾル、ミスト、コーティング剤などであってもよく、非ヒト動物用の衛生用組成物であってもよい。
【0023】
また、本実施形態にかかる組成物は、非ヒト動物に摂取可能な飼料組成物および動物用の医薬組成物であってもよい。ここでいう動物飼料には、いわゆる、動物に必要な栄養源として摂取させるもの以外にも、動物の嗜好品として与える動物用のサプリメントなども含まれる。
【0024】
第2の実施形態は、本実施形態にかかる医薬組成物を対象に投与することを含む、アレルギーの発症の予防方法(以下「本実施形態にかかる予防方法」とも記載する)である。
ここで「予防」とは、アレルギーの発症を予め阻止することを目的とする処置のことである。
本実施形態にかかる予防方法の対象は、特に限定はされないが、哺乳類に分類される任意の動物であればよく、例えば、ヒトの他、イヌ、ネコ、ウサギなどのペット動物、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマなどの家畜動物などのことである。特に好ましい「哺乳動物」は、ヒトおよびイヌである。
【0025】
本明細書が英語に翻訳されて、単数形の「a」、「an」および「the」の単語が含まれる場合、文脈から明らかにそうでないことが示されていない限り、単数のみならず複数のものも含むものとする。また、本明細書において、「約」とは±10%の数値範囲を意味する。
以下に実施例を示してさらに本発明の説明を行うが、本実施例は、あくまでも本発明の実施形態の例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例0026】
1.実験方法
1-1.糞便からの乳酸菌の分離および系統分類
健常犬(16頭)の糞便から分離した細菌240株のうち、アトピー犬の腸内細菌叢より健常犬の腸内細菌叢において優位であった184株を選択し、系統分類解析を行った。具体的には、犬から採取した糞便をMRS液体培地またはLBS液体培地を使用し、嫌気条件下で、37℃にて一晩静置培養を行った。培養後、MRSまたはLBS平板培地で細菌の分離を行った。純化は最低3回行った。細菌の系統分類は、16S rRNAシークエンスに基づき行った。その結果、Bacteroides属、Enterococcus属、Lactobacillus(現Limosilactobacillsu属を含む)属およびStreptococcus属の4属13種を同定し、その中から、Enterococcus属のEnterococcus hiraeE. hirae:エンテロコッカス・ヒラエ)、Lactobacillus属のLactobacillus johnsoniiL. johnsonii:ラクトバチルス・ジョンソニー)およびLactobacillus acidophilusL. acidophilus:ラクトバチルス・アシドフィルス)、Limosilactobacillsu属のLimosilactobacillus reuteriL. reuteri:リモシラクトバチルス・ロイテリ)を解析対象とした。本実施例で使用したE. hiraeは、受領番号NITE AP-03523、受領番号NITE AP-03524、受領番号NITE AP-03525および受領番号NITE AP-03526で寄託された菌株を、L. johnsoniiは、受領番号NITE AP-03726、受領番号NITE AP-03727、受領番号NITE AP-03728および受領番号NITE AP-03729で寄託された菌株を、L. acidophilusは、受領番号NITE AP-03722、受領番号NITE AP-03723、受領番号NITE AP-03724および受領番号NITE AP-03725で寄託された菌株を、L. reuteriは、受領番号NITE AP-03730、受領番号NITE AP-03731、受領番号NITE AP-03732および受領番号NITE AP-03733で寄託された菌株を、各々、菌数で1:1:1:1の比率で混合したもの(本明細書において「寄託乳酸菌」とも記載する)である。本実施例において、寄託乳酸菌は、TSB培地(精製水1 Lあたりカゼイン-スイ消化ペプトン17.0 g、大豆-パパイン消化ペプトン3.0 g、塩化ナトリウム5.0 g、リン酸2カリウム2.5 g、ブドウ糖2.5 g、pH7.3 ± 0.2、BD社製)の培地を使用して培養した
【0027】
1-2.アトピー性皮膚炎モデルマウスの作製
本実施例で用いた全ての動物実験は麻布大学動物実験専門委員会に承認を得て実施した。
6週齢の雌性NC/Ngaマウスまたは雌性NC/JicJclマウス(L. reuteriの寄託乳酸菌を用いた実験に使用)(日本エスエルシー株式会社)を用いて実験を実施した。1週間馴化後、寄託乳酸菌の生菌、死菌または培養上清を、各々、マウス1匹あたり0.2 mL(異常増殖状態の生菌および死菌、またはその培養上清)を実験期間中毎日経口投与した。E. hiraeの生菌、死菌または培養上清の投与開始1週間後より、ダニ抗原(コナヒョウヒダニ、Dermatophagoides farinae)または化学物質ハプテン(2, 4-ジイソシアン酸トリレン;L. reuteriの寄託乳酸菌を用いた実験に使用)を用いたアトピー性皮膚炎症状の感作を開始した(ダニ抗原またはハプテンの感作中にも、寄託乳酸菌の生菌、死菌または培養上清の経口投与は毎日行った)。死菌は、生菌を洗浄後、加熱処理を行い作製した。ダニ抗原またはハプテンの感作前に頚背部皮膚の毛刈りを行い、頚背部には10回のテープストリッピングを行った後、ダニ懸濁液30μl(0.25 mg/ml)を、両耳介には10μlずつピペットを用いて経皮投与した。ダニ抗原またはハプテンの投与は週2回、12週間実施し、毎週、アトピー性皮膚炎症状(AD score)のモニタリング、背部および耳介の皮膚の厚さの測定、および経表皮水分蒸散量の測定を実施した。
AD scoreは、耳介部、背部皮膚のそれぞれについて痂疲・潰瘍形成、発赤をスコア化し(0~10段階に症状の程度をスコア化)、その累計値を累積スコアとして評価した。
背部および耳介の皮膚の厚さは、ノギスを使って測定した。
ダニ抗原最終投与の翌日に、イソフルラン吸入麻酔下でマウスから採血を行い、その後、安楽死させ、背部および耳介皮膚、耳介リンパ節、小腸パイエル板を採取し、各種解析を実施した。
【0028】
1-3.経表皮水分蒸散量(trans-epidermal water loss:TEWL)
経表皮水分蒸散量は、日本アッシュ株式会社製の経皮水分蒸散量測定器(VAPO SCAN AS-VT100RS)を用いて実施した。各個体につき2回測定し、平均値を個体データとした。
【0029】
1-4.組織学的解析
剖検時に全動物から背部および耳介皮膚を採取し、10%中性緩衝ホルマリン液で固定した。常法に従ってパラフィン包埋、ヘマトキシリン・エオジン染色標本を作製し、病理検査に供した。
【0030】
1-5.皮膚病理検査
ヘマトキシリン・エオジン染色標本について、真皮および表皮の毛嚢炎、錯角化、過角化、炎症細胞浸潤、潰瘍、線維化等を0: 異常なし、1: 軽度の異常、2: 中等度の異常、3: 重度の異常で評価した。
【0031】
1-6.耳介リンパ節中の炎症性細胞数の測定
耳介リンパ節から単細胞分離後、フローサイトメトリー法により、細胞表面抗原に基づいてヘルパーT細胞(CD3+CD4+T細胞)数およびB細胞(CD19+IgE+細胞)数を測定した。また、培養上清中の各種サイトカインの産生量はELISA法で測定した。
【0032】
1-7.小腸パイエル板中の制御性T細胞数の測定
全動物から小腸のパイエル板を採取し、単細胞分離後CD4およびCD25の表面膜抗原を発現し、転写因子であるFoxp3を核内に発現する制御性T細胞数をフローサイトメトリー法にて測定した。
【0033】
1-8.統計的分析
得られたデータは、各群で平均値および標準誤差を算出し、実験毎に全群で多重比較検定を実施した。多重比較検定ではBartlett 法による分散の検定を行い、分散の場合は、Dunnett’s 検定を用いた。各検査項目について,各群間の統計学的有意差の有無を危険率5および1%レベルで解析した。
【0034】
2.結果
2-1.E. hiraeの寄託乳酸菌を使用した結果
2-1-1.培養上清中の短鎖脂肪酸の定量
E. hiraeの寄託乳酸菌の培養上清に抗アレルギー効果が認められたため、培養上清中に含まれる短鎖脂肪酸の量を、質量分析装置(ABsciex社製3200QTrap)を用いて測定した。測定結果を表1に示す。培地(TSB培地:トリプチケースソイブイヨン培地)単独と比較して、酢酸と乳酸が乳酸菌培養群で上昇していた。
なお、表1中、NDは不検出を意味する。
【表1】
【0035】
2-1-2.アトピー性皮膚症状の解析結果
アトピー性皮膚炎モデルマウスに、E. hiraeの寄託乳酸菌の培養上清、死菌または生菌を経口投与し、アトピー性皮膚炎症状をAD scoreで評価し、背部皮膚の厚さおよび耳介の厚さを測定した(図1)。
アトピー性皮膚炎症状は、投与3週目以降、培養上清、死菌および生菌ともに有意な減少が認められた(図1上段左図)。
背部皮膚の厚さは、生菌および死菌では4週目以降、培養上清では5週目にコントロールと比較して有意な減少が認められた。耳介皮膚厚も4週目以降に全ての投与群でコントロールと比較して有意な減少が認められた。下段の写真は剖検時のマウスの皮膚症状を示す。左から、コントロール(乳酸菌等非投与)マウス、次いで、培養上清投与マウス、死菌投与マウス、生菌投与マウスの結果である。コントロールと比較して、培養上清、死菌および生菌のいずれを投与した場合にも、皮膚症状の改善が認められた。
【0036】
2-1-3.経表皮水分蒸散量
アトピー性皮膚炎モデルマウスへ、E. hiraeの寄託乳酸菌の培養上清、死菌または生菌を投与し、投与期間中の経表皮水分蒸散量(trans-epidermal water loss:TEWL)の測定を行った。
アトピー性皮膚炎ではひっかき行動や炎症により皮膚のセラミドが傷害され、皮膚のバリア機能に障害を来たし、アレルギー抗原等の皮内への侵入が容易になる。また、皮膚バリアが破綻すると、皮内に蓄積されていた水分が外側に蒸散する。そこで、皮膚からの水分蒸散を測定する事により皮膚バリア機能を評価した。生菌投与群では4週目以降にコントロールと比較し、TEWL値の有意な減少が認められた。死菌および培養上清投与群においても、生菌投与群程ではないものの、TEWL値の減少傾向が認められた(図2)。
以上の結果は、寄託乳酸菌の培養上清、死菌および生菌が、アトピー性皮膚炎に伴って生じる経表皮水分蒸散を抑制することを示している。従って、寄託乳酸菌の培養上清、死菌および生菌は、アトピー性皮膚炎に伴って生じる、皮膚バリアの機能障害を抑制または改善する効果があると考えられる。
【0037】
2-1-4.組織学的解析
E. hiraeの寄託乳酸菌の生菌を投与したアトピー性皮膚炎モデルマウスの背部皮膚および耳介皮膚由来の組織切片を作製し、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を行い、顕微鏡観察を行った。結果を図3に示す。E. hiraeの寄託乳酸菌の生菌を投与したマウスの表皮の厚さは、背部および耳介共に、コントロールマウスの表皮の厚さよりも薄いことが明らかになった。
【0038】
2-1-5.皮膚病理検査
アトピー性皮膚炎モデルマウスに、E. hiraeの寄託乳酸菌の培養上清、死菌または生菌を投与して、皮膚病理検査を行った。生菌投与群では、耳介、背部皮膚共に炎症性細胞浸潤、過角化等全ての項目でコントロールと比較して有意に減少していた。死菌投与群では、背部皮膚の炎症性細胞浸潤、過角化がコントロールと比較して有意に減少していたが、耳介での変化は軽度であった。培養上清投与群では、生菌投与群および死菌投与群ほどではないものの、全ての項目で減少傾向が認められた(図4)。
【0039】
2-1-6.耳介リンパ節中の炎症性細胞数の測定
E. hiraeの寄託乳酸菌の培養上清、死菌または生菌を投与したアトピー性皮膚炎モデルマウスの、耳介リンパ節中の炎症性細胞数を測定した。
アレルギーに関連するT細胞(CD3+CD4+T cell)数(図5左)およびIgE産生B細胞(CD19+IgE+ cell)数(図6右)が、コントロール群と比較して、死菌投与群および生菌投与群において、有意に減少していた。また、培養上清投与群においても、これらの細胞数の減少傾向が認められた。
【0040】
2-1-7.小腸パイエル板中の制御性T細胞数の測定
乳酸菌は腸管免疫における制御性T細胞を活性化する事で、アレルギー抑制に働いている可能性が示唆されている。そこで、E. hiraeの寄託乳酸菌の生菌について、小腸パイエル板中の制御性T細胞数を測定した。その結果、生菌投与群においては、コントロール群と比較して、制御性T細胞数の増加傾向が認められた(図6)。
【0041】
2-2.L. johnsoniiの寄託乳酸菌を使用した結果
2-2-1.アトピー性皮膚症状の解析結果
アトピー性皮膚炎モデルマウスに、L. johnsoniiの寄託乳酸菌の培養上清、生菌を経口投与し、アトピー性皮膚炎症状をAD scoreで評価し、背部皮膚の厚さを測定した。
アトピー性皮膚炎症状は、コントロール群に比べて寄託乳酸菌投与群において減少が認められた(図7)。また、背部皮膚の厚さも、4週目以降、コントロール群と比較して有意な減少が認めらた(図8)。
次に、ダニ抗原の投与から4週目と7週目に、マウスモデルの1時間あたりの痒み行動に対する寄託乳酸菌投与の影響を調べた(図9)。その結果、コントロールマウス(乳酸菌非投与)に比べ、寄託乳酸菌投与マウスでは、引っ掻き行動の回数が有意に減少することが認められた(図9AおよびB)。
【0042】
2-2-2.耳介リンパ節中の炎症性細胞数および炎症性サイトカインの産生量の測定
L. johnsoniiの寄託乳酸菌の生菌を投与したアトピー性皮膚炎モデルマウスの、耳介リンパ節中の炎症性細胞数を測定した。
アレルギーに関連するTh2細胞(CD3+CD4+T cell)数、炎症性サイトカインIL-4およびIL-13のTh2細胞からの産生量、IgE産生B細胞(CD19+IgE+ cell)数と血清中の総IgEの量を測定した。その結果、コントロールと比較して、耳介リンパ節中のTh2細胞数が有意に減少し(図10A)、Th2細胞からのIL-4およびIL-13の産生量も有意に低下していた(図10AおよびB)。また、耳介リンパ節中のIgE産生B細胞数(図11A)と血清中の総IgE量(図11B)もコントロールと比較して減少したことが確認された。
【0043】
2-3.L. reuteriの寄託乳酸菌を使用した結果
2-3-1.アトピー性皮膚症状の解析結果
アトピー性皮膚炎モデルマウスに、L. reuteriの寄託乳酸菌の死菌を経口投与し、アトピー性皮膚炎症状をAD scoreで評価し、背部皮膚の厚さおよび経表皮水分蒸散量を測定した。
アトピー性皮膚炎症状は、コントロールと比較して、投与4週目以降有意な減少が認められ(図12C)、背部皮膚の厚さは、3週目以降有意な減少が認めらた(図12A)。また、経表皮水分蒸散量(trans-epidermal water loss:TEWL)は、2週目以降にコントロールと比較して、有意な減少が認められた(図12B)。
【0044】
2-3-2.皮膚病理検査
アトピー性皮膚炎モデルマウスに、L. reuteriの寄託乳酸菌の死菌を投与して、皮膚病理検査を行った。死菌投与群では、背部皮膚において炎症性細胞浸潤、過角化等の項目でコントロールと比較して有意に減少していた(図13)。
【0045】
2-3-3.耳介リンパ節中の細胞数および血清中のIgE量の測定
L. reuteriの寄託乳酸菌の死菌を投与したアトピー性皮膚炎モデルマウスの、耳介リンパ節中の免疫細胞数と血清中のIgEの量を測定した。
その結果、耳介リンパ節中の細胞数は、コントロールと比較して有意に減少していた(図14。また、血清中の総IgE量(図11B)もコントロールと比較して有意に減少していた。
【0046】
2-4.L. acidophilusの寄託乳酸菌を使用した結果
2-4-1.アトピー性皮膚症状の解析結果
アトピー性皮膚炎モデルマウスに、L. acidophilusの寄託乳酸菌の死菌を経口投与し、アトピー性皮膚炎症状をAD scoreで評価し、背部皮膚の厚さおよび経表皮水分蒸散量を測定した。
アトピー性皮膚炎症状は、コントロールと比較して、投与4週目以降有意な減少が認められ(図15C)、背部皮膚の厚さは、4週目以降有意な減少が認めらた(図15A)。また、経表皮水分蒸散量(trans-epidermal water loss:TEWL)は、2週目以降にコントロールと比較して、有意な減少が認められた(図15B)。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、アレルギーの発症抑制効果を発揮する組成物を提供するもので、医学、獣医学分野の他、飲食品製造分野における利用が期待される。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15