(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023037661
(43)【公開日】2023-03-16
(54)【発明の名称】射出成形用金型
(51)【国際特許分類】
B29C 45/26 20060101AFI20230309BHJP
【FI】
B29C45/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021144370
(22)【出願日】2021-09-04
(71)【出願人】
【識別番号】000147888
【氏名又は名称】エスバンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103975
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】三好 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】原田 勉
(72)【発明者】
【氏名】木下 高利
【テーマコード(参考)】
4F202
【Fターム(参考)】
4F202AP02
4F202AQ04
4F202CA11
4F202CB01
4F202CK03
(57)【要約】
【課題】本発明は、マニホールドとランナーブッシュとの接続部分に生じた隙間からの溶融樹脂の漏出を初期段階において検出し、溶融樹脂の漏出に直ちに対応することができる射出成形用金型を提供する。
【解決手段】 本発明の射出成形用金型は、ランナーブッシュを配設している固定型板と、固定型板上に配設され且つランナーブッシュの樹脂通路に連通するホットランナーが設けられているマニホールドと、断熱リングとを備えた射出成形用金型であって、断熱リングは、マニホールドに圧着された状態にてマニホールドとランナーブッシュとの接続部分を包囲する筒状に形成され、マニホールド及びランナーブッシュとの対向面によって、マニホールドとランナーブッシュとの接続部分から漏出した漏出樹脂を収容する漏出樹脂収容空間部を形成し、漏出樹脂収容空間部内に漏出樹脂を感知する感知部材を配設している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融樹脂をキャビティに供給するための樹脂通路を有するランナーブッシュを配設している固定型板と、
上記固定型板上に配設され且つ上記ランナーブッシュの樹脂通路に連通するホットランナーが設けられているマニホールドと、
上記固定型板と上記マニホールドとの対向面間に配設された断熱リングとを備えた射出成形用金型であって、
上記断熱リングは、上記マニホールドに圧着された状態にて上記マニホールドと上記ランナーブッシュとの接続部分を包囲する筒状に形成されていると共に、上記断熱リングは、上記マニホールド及び上記ランナーブッシュとの対向面によって、上記マニホールドと上記ランナーブッシュとの接続部分から漏出した漏出樹脂を収容する漏出樹脂収容空間部を形成しており、上記漏出樹脂収容空間部内に上記漏出樹脂を感知する感知部材を配設していることを特徴とする射出成形用金型。
【請求項2】
ランナーブッシュは、固定型板からの突出端部に形成され且つマニホールドの一端面に圧着させている鍔部を有している一方、断熱リングの内周面に上記ランナーブッシュの鍔部受止面を形成し、上記断熱リングの鍔部受止面に上記ランナーブッシュの鍔部を圧着させており、上記鍔部外周面と、上記鍔部外周面に対向する上記断熱リングの内周面と、上記鍔部外周面及び上記断熱リングの内周面間から露出したマニホールドの一端面及び鍔部受止面とによって漏出樹脂収容空間部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の射出成形用金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、合成樹脂成形品の製造方法として射出成形が広く用いられ、溶融樹脂を金型のキャビティ内に充填して成形品を効率良く製造する手段としてマニホールドを使用し、射出成形機のノズルを接続させるスプルーからマニホールドのホットランナー、ランナーブッシュの樹脂通路及びゲートに至るまで樹脂を溶融状態に維持しながら、ゲートから溶融樹脂をキャビティ内に充填して合成樹脂成形品を製造することが行なわれている。
【0003】
射出成形に用いられる射出成形用金型としては、特許文献1に、バルブゲート装置のキャビティへの入口であるゲートを、ニードルピン(バルブピン)で開閉することで、前記キャビティに所定量の溶融樹脂を充填することのできるバルブゲート機構を備えたホットランナーを用いる熱可塑性樹脂の射出成形用金型装置において、複数のゲートを有する単体ノズルが前記キャビティに設置された射出成形用金型が開示され、ノズル本体(ランナーブッシュ)の基端部をマニホールドに圧着させた状態にてノズル本体の樹脂通路をマニホールドのホットランナーに連結、連通させ、溶融樹脂をホットランナー及びノズル本体の樹脂通路を通じてキャビティ内に溶融樹脂を供給するように構成している。
【0004】
又、特許文献2に示したように、射出成形用金型の固定型板上に配設されたマニホールドは、その両側面にフランジ部が突設されており、このフランジ部に形成されたボルト挿通孔を通じてボルトを固定型板に設けている螺子孔に螺締させることによって固定型板上に固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-83661号公報
【特許文献2】WO2017/149723号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、マニホールドは、その内部に形成されたホットランナーを流通する溶融樹脂によって加熱されて熱膨張を生じるため、射出成形用金型が繰り返し使用されてマニホールドの膨張及び収縮が繰り返されると、固定型板の螺子孔に螺締させたボルトに弛みが生じ、固定型板上のマニホールドの配設位置にずれが生じる。
【0007】
マニホールドの配設位置にずれが生じると、このマニホールドとランナーブッシュとの接続部分に隙間が生じ、この隙間を通じて、マニホールドのホットランナー及びランナーブッシュの樹脂通路を流通している溶融樹脂が漏出するという問題点を生じる。
【0008】
上述のマニホールドの配設位置のずれは僅かであるため、マニホールドとランナーブッシュとの接続部分に生じた隙間からの溶融樹脂の漏出は少しずつ生じ、マニホールド及びランナーブッシュ外に漏出した樹脂(漏出樹脂)は冷却、固化して徐々に堆積する。
【0009】
この漏出樹脂の堆積は、射出成形用金型の使用ごとに生じ、マニホールド及びランナーブッシュ外に漏出して堆積した樹脂は、後続して漏出する樹脂が追加されて肥大化すると共に、後続して漏出する樹脂によって、漏出部分から離間する方向に押し出される。
【0010】
一方、ランナーブッシュやマニホールドの周囲には、ランナーブッシュ及びマニホールド内を流通する溶融樹脂を加熱するためのヒーターやその他の機器に電気を供給するための配線が数多く配設されており、この配線に漏出樹脂の堆積物が衝突して配線を切断するという事態を生じる。
【0011】
上述の通り、マニホールドとランナーブッシュとの接続部分に生じた隙間からの溶融樹脂の漏出は少しずつ生じることから、射出成形装置を操作する管理者も樹脂の漏出の初期段階で気付くことが難しく、漏出樹脂の堆積物によって配線が切断され、射出成形装置の動作が停止してはじめて気付くことが多く、このような状態に至ると、射出成形用金型の固定型板上の広い範囲において漏出樹脂の堆積物が広がっていると共に、漏出樹脂によって射出成形用金型の部品同士が融着一体化しており、射出成形用金型の復旧に多大な費用及び時間を要するという問題点を生じる。
【0012】
又、マニホールドの熱が固定型板側に伝達するのを防止するために、マニホールドと固定型板との対向面間に、固定型板から突出したランナーブッシュの突出端部を包囲するように断熱リングが装着されることがある。
【0013】
しかしながら、断熱リングは、マニホールドの熱が固定型板側に伝達するのを防止するために配設されることから、断熱リングとマニホールドとの対向面間には通常、僅かな隙間が形成され、又、断熱リングとマニホールドとの対向面同士が接触していても両者の密着性は低く、マニホールドとランナーブッシュとの接続部分に生じた隙間から生じた漏出樹脂の外部への流出を断熱リングによって阻止することはできず、上述の問題を解決できるものではない。
【0014】
本発明は、従来の射出成形用金型に適用することができると共に、マニホールドとランナーブッシュとの接続部分に生じた隙間からの溶融樹脂の漏出を初期段階において検出し、溶融樹脂の漏出に直ちに対応することができる射出成形用金型を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の射出成形用金型は、
溶融樹脂をキャビティに供給するための樹脂通路を有するランナーブッシュを配設している固定型板と、
上記固定型板上に配設され且つ上記ランナーブッシュの樹脂通路に連通するホットランナーが設けられているマニホールドと、
上記固定型板と上記マニホールドとの対向面間に配設された断熱リングとを備えた射出成形用金型であって、
上記断熱リングは、上記マニホールドに圧着された状態にて上記マニホールドと上記ランナーブッシュとの接続部分を包囲する筒状に形成されていると共に、上記断熱リングは、上記マニホールド及び上記ランナーブッシュとの対向面によって、上記マニホールドと上記ランナーブッシュとの接続部分から漏出した漏出樹脂を収容する漏出樹脂収容空間部を形成しており、上記漏出樹脂収容空間部内に上記漏出樹脂を感知する感知部材を配設していることを特徴とする。
【0016】
上記射出成形用金型において、ランナーブッシュは、固定型板からの突出端部に形成され且つマニホールドの一端面に圧着させている鍔部を有している一方、断熱リングの内周面に上記ランナーブッシュの鍔部受止面を形成し、上記断熱リングの鍔部受止面に上記ランナーブッシュの鍔部を圧着させており、上記鍔部外周面と、上記鍔部外周面に対向する上記断熱リングの内周面と、上記鍔部外周面及び上記断熱リングの内周面間から露出したマニホールドの一端面及び鍔部受止面とによって漏出樹脂収容空間部が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の射出成形用金型は、マニホールドとランナーブッシュとの接続部分を筒状の断熱リングによって包囲し、マニホールドとランナーブッシュとの接続部分から漏出した漏出樹脂を漏出樹脂収容空間部内に誘導し、この漏出樹脂収容空間部内に配設した感知部材によって漏出樹脂が発生したことを直ちに感知して漏出樹脂への対応を初期段階において確実に行なうことができ、射出成形装置の停止といった不測の事態を未然に防止することができる。
【0018】
上記射出成形用金型において、ランナーブッシュは、固定型板からの突出端部に形成され且つマニホールドの一端面に圧着させている鍔部を有している一方、断熱リングの内周面に上記ランナーブッシュの鍔部受止面を形成し、上記断熱リングの鍔部受止面に上記ランナーブッシュの鍔部を圧着させており、上記鍔部外周面と、上記鍔部外周面に対向する上記断熱リングの内周面と、上記鍔部外周面及び上記断熱リングの内周面間から露出したマニホールドの一端面及び鍔部受止面とによって漏出樹脂収容空間部が形成されている場合には、マニホールドとランナーブッシュとの接続部分から漏出した漏出樹脂を外部に漏出させることなく、漏出樹脂収容空間部内に確実に収容し、僅かな量の漏出樹脂であっても確実に感知部材によって感知することができ、漏出樹脂への初期段階での対応をより確実に行なうことができる。
【0019】
更に、断熱リングによって、ランナーブッシュにおける固定型板から突出させた突出端部をマニホールドにより確実に密着させることができ、マニホールドとランナーブッシュとの接続部分からの溶融樹脂の漏出をより効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の射出成形用金型を示した断面図である。
【
図2】
図1の射出成形用金型の要部を示した拡大図である。
【
図5】漏出樹脂検知システムのハードウエア構成を示した図である。
【
図6】本発明の射出成形用金型の他の一例を示した断面図である。
【
図7】
図6の射出成形用金型の要部を示した拡大図である。
【
図8】断熱リングの他の一例を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の射出成形用金型の一例を図面を参照しながら説明する。
図1及び
図2に示したように、射出成形用金型Aは、固定型板1と、固定型板1に配設されたランナーブッシュ2と、固定型板1上に配設されたマニホールド3と、ランナーブッシュ2とマニホールド3との間に介在された断熱リング4とを備えている。
【0022】
固定型板1は、この固定型板1と対になる移動型板(図示せず)を有し、固定型板1と移動型板とを型締めすることによってキャビティ(図示せず)を形成し、このキャビティに連通し且つランナーブッシュを配設するためのランナーブッシュ配設用空間部11を有している。
【0023】
固定型板1のランナーブッシュ配設用空間部11には、ランナーブッシュ2がその他端部を固定型板1から突出させた状態に配設されており、固定型板1から突出した他端部(突出端部)には外方に向かって突出した円環状の鍔部20が形成されている。
【0024】
ランナーブッシュ2には、その長さ方向に貫通する樹脂通路21が形成され、樹脂通路21の一端部には、キャビティに連通するゲート部21aが形成されていると共に、樹脂通路21の他端部は後述するマニホールド3のホットランナー31に連結、連通している。そして、ランナーブッシュ2の樹脂通路21内には、樹脂通路21の長さ方向に沿って移動させて、ゲート部21aを開閉させるためのバルブピン22が配設されている。バルブピン22は、その他端部をマニホールド3に貫通させてマニホールド3上に配設した油圧シリンダー、エアーシリンダー又は電動シリンダーなどの駆動装置5に接続させており、駆動装置5によって樹脂通路21の長さ方向に沿って移動可能に構成されている。
【0025】
なお、ランナーブッシュ2には、その外周面にバンドヒータ23が装着されており、マニホールド3のホットランナー31からランナーブッシュ2内の樹脂通路21を通じてキャビティに充填される溶融樹脂をバンドヒータ23によって加熱して良好な溶融状態を保持するように構成されている。
【0026】
固定型板1上にはマニホールド3が配設されている。マニホールド3は、その内部に溶融樹脂が流通するホットランナー31を有しており、ホットランナー31の他端開口部にはスプルーを介して射出成形機のノズル(図示せず)が接続されて連結、連通している一方、ホットランナー31の一端開口部には、その開口端面にランナーブッシュ2の鍔部20の他端面20bが圧着しており、ホットランナー31の一端開口部には、ランナーブッシュ2の樹脂通路21の他端開口部が水密的に連結、連通しており、常態において、ホットランナー31及びランナーブッシュ2の樹脂通路21内を流通する溶融樹脂が、マニホールド3とランナーブッシュ2との接続部分、即ち、ランナーブッシュ2の鍔部20の他端面20bとこの鍔部20の他端面20bに対向するマニホールド3の一端面32との接続界面から漏出しないように構成されている。
【0027】
なお、マニホールド3は、その両側面にフランジ部が突設されており、このフランジ部に形成されたボルト挿通孔を通じてボルトを固定型板に設けている螺子孔に螺締させることによって固定型板1上に固定されている。
【0028】
図1及び
図2に示したように、ランナーブッシュ2とマニホールド3との対向面間には断熱リング4が配設されている。
図3及び
図4に示したように、断熱リング4は筒状(環状)に形成されており、その中央部には、ランナーブッシュ2の突出端部を挿通させた状態にて配設可能な貫通孔41が両面間(
図1において上下面間)に亘って貫通した状態に形成されている。
【0029】
断熱リング4の他端面4aには、貫通孔41を全面的に包囲するように一定高さを有する環状の当接部44が形成され、当接部44は、マニホールド3の一端面32に全面的に水密的に圧着されており、マニホールド3とランナーブッシュ2との接続部分から漏出した漏出樹脂が断熱リング4外に漏出しないように構成されている。なお、断熱リング4の他端面4aに当接部44を形成することなく、断熱リング4の他端面4aをマニホールドの一端面32に全面的に水密的に圧着させて、マニホールド3とランナーブッシュ2との接続部分から漏出した漏出樹脂が断熱リング4外に漏出しないように構成してもよい。
【0030】
更に、断熱リング4の内周面には、その厚み方向(
図1における上下方向)の中央部に全周に亘って円環状の段部が形成されており、この段部をランナーブッシュ2の鍔部20の一端面20aを受止する鍔部受止面42に形成している。
【0031】
断熱リング4の貫通孔41において、鍔部受止面42よりも固定型板1側部分の内径は、ランナーブッシュ2の突出端部における鍔部20を形成していない部分の外径に略合致している一方、鍔部受止面42よりもマニホールド3側部分の内径は、ランナーブッシュ2の鍔部20の外径よりも若干大きく形成されており、ランナーブッシュ2の鍔部20の外周面20cとこれに対向する断熱リング4の内周面45との間には空間部が形成されており、この空間部を、マニホールド3とランナーブッシュ2との接続部分から漏出した漏出樹脂を受け入れるための漏出樹脂収容空間部Bとしている。
【0032】
断熱リング4の貫通孔41の一端開口端面には、その全周に亘って円環状の挿入片43が突設されている。断熱リング4は、その挿入片43を固定型板1のランナーブッシュ配設用空間部11の他端開口部の内周面とこの内周面に対向するランナーブッシュ2の外周面との間に形成された隙間に挿入した状態にて、一端面4bが固定型板1に水密的に圧着し且つ他端面4aの当接部44がマニホールド3の一端面32に水密的に圧着されている。そして、断熱リング4の鍔部受止面42には、ランナーブッシュ2の鍔部20の一端面20aが水密的に圧着された状態となっている。
【0033】
漏出樹脂収容空間部Bは、ランナーブッシュ2の鍔部20の外周面20cと、この外周面に対向する断熱リング4の内面(内周面45及び当接部44)と、鍔部20の外周面20c及び断熱リング4の内面の間から露出した鍔部受止面42及びマニホールド3の一端面32とによって形成されており、ランナーブッシュ2とマニホールド3との接続部分(接続界面)が全面的に漏出樹脂収容空間部B内に露出、位置した状態となっている。
【0034】
そして、断熱リング4において、漏出樹脂収容空間部Bを形成している内周面45には、その内周面45に開口する感知部材配設孔46が形成されており、この感知部材配設孔46には漏出樹脂を感知するための感知部材Cが配設されている。感知部材Cは、漏出樹脂を感知することができれば、特に限定されず、例えば、漏出樹脂の圧力を検知する圧力センサ、漏出樹脂の温度を検知する温度センサなどが挙げられるが、射出成形時の雰囲気温度の影響を受けずに漏出樹脂を安定的に検知することができるので、圧力センサが好ましい。
【0035】
圧力センサは、漏出樹脂の圧力を検知することができればよく、漏出樹脂の圧力を電気的又は機械的な機構(仕組み)の何れで検知してもよいが、溶融樹脂の熱の影響を受けにくいので、漏出樹脂の圧力を機械的な機構にて検知するスイッチ部材が好ましい。
【0036】
感知部材配設孔46には、感知部材Cが配設されているが、マニホールド3のホットランナー31を流通する溶融樹脂の熱が断熱リングを介して検知部材Cに伝わるのを可能な限り低減し、感知部材Cが過度に加熱されて感知部材Cが故障するなどの不具合が生じることを防止又は低減するために、感知部材配設孔46内における検知部材Cとこれに対向する感知部材配設孔46の内周面間には、スリーブ部材61が介在されている。
【0037】
更に、感知部材配設孔46の内側開口部には、漏出樹脂が感知部材Cに直接、接触し、感知部材Cが過度に加熱されて感知部材Cが故障するなどの不具合が生じることを防止又は低減するためにピン部材62が配設されている。ピン部材62は、感知部材配設孔46内において内外方向に移動可能に配設されており、漏出樹脂の圧力によって外方に変位し、漏出樹脂の圧力を感知部材Cに円滑に伝達可能に構成されている。
【0038】
又、断熱リング4には、漏出樹脂収容空間部B及び断熱リング4の外周面47のそれぞれに開口して、漏出樹脂収容空間部Bを断熱リング4外に連結、連通させる通気孔48が形成されている。この通気孔48は、漏出樹脂収容空間部B内に進入した漏出樹脂によって押出された空気を漏出樹脂収容空間部B外に排出するための通気孔である。
【0039】
断熱リング4に形成された通気孔48は、漏出樹脂収容空間部B内の空気を外部に排出可能な程度の大きさを有している一方、漏出樹脂収容空間部B内に漏出した漏出樹脂は、漏出樹脂収容空間部B内において冷却されて粘度が上昇しており、通気孔48を通じて外部に流出することはない。
【0040】
感知部材Cには、無線モジュール7が付帯されていてもよい。無線モジュール7とは、無線データ通信を行なうためのモジュールであって、ワイファイ(Wi-Fi)(登録商標)やブルートゥース(登録商標)[Bluetooth(登録商標)]、W-CDMA規格、LTE規格、LPWA(Low Power Wide Area)規格などの通常の無線通信方式を実現するためのモジュールである。
【0041】
図5に示したように、感知部材Cに付帯させた無線モジュール7には、CPU(Central Processing Unit)61が通信可能に電気的に接続されている。更に、CPU61には、ROM(Read Only Memory)62と、RAM(Random Access Memory)63と、補助記憶装置64と、出力モジュール65とが通信可能に電気的に接続されている。
【0042】
CPU61は、A/D変換部66を介して感知部材Cと通信可能に電気的に接続されている。A/D変換部66は、感知部材Cから出力されたアナログ信号を量子化することによってCPU61に入力可能なデジタル信号を生成する。CPU61は、感知部材Cから漏出樹脂の感知に伴って発信された漏出樹脂信号をデジタル信号として取得する。CPU61、補助記憶装置64、感知部材C及び出力モジュール65に汎用の無線モジュールを付帯又は実装させて、相互に無線を通じて通信可能に電気的に接続してもよい。
【0043】
補助記憶装置64としては、例えば、SSD(Solid State Drive)やHDD(Hard Disk Drive)などが挙げられる。出力モジュール65としては、例えば、ディスプレイ、スピーカー、携帯端末機器などが挙げられる。
【0044】
CPU61やRAM63上に所定のプログラムを読み込ませることにより、CPU61の制御のもとで感知部材C及び出力モジュール65を作動させると共に、RAM63や補助記憶装置64におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで漏出樹脂検知システムDが実現される。
【0045】
漏出樹脂検知システムDは、漏出樹脂警告部を備えており、漏出樹脂警告部は、CPU61の制御のもとで、ROM62などに記憶されている漏出樹脂警告プログラムを実行することで所定の機能を発揮する。
【0046】
次に、射出成形用金型Aの使用要領について説明する。上記射出成形用金型Aを使用して射出成形を行なうには、固定型板1と移動型板とを型締めして両者間にキャビティを形成した上で、射出成形機のノズルから溶融樹脂をスプルーを介してマニホールド3のホットランナー31に供給し、バルブピン22を作動させつつ、ホットランナー31に連結、連通させているランナーブッシュ2の樹脂通路21及びゲート部21aを通じてキャビティ内に溶融樹脂を供給して所望形状の射出成形品を成形することができる。
【0047】
射出成形時には、マニホールド3のホットランナー31には高温に加熱されて溶融状態となった樹脂が流通するので、マニホールド3が溶融樹脂によって加熱されて膨張する。一方、射出成形が行なわれていない状態においては、マニホールド3のホットランナー31には溶融樹脂は流通していないため、冷却された状態にあり、上記膨張は生じていない。
【0048】
その他に、射出成形時には、射出成形機の駆動、固定型板1及び移動型板の型締め及び型開き、並びに、バルブピン22を駆動させる駆動装置などに起因した振動などが生じている。
【0049】
このように、射出成形時に生じる様々な要因によって、マニホールド3を固定型板1に固定させているボルトの螺締状態が弛み、固定型板1に対するマニホールド3の固定が緩むことがある。
【0050】
このような状態となると、マニホールド3とランナーブッシュ2との相対位置が変化し、ランナーブッシュ2の鍔部20の他端面20bと、これに対向するホットランナー31の一端開口端面32aとの密着性が低下し、ランナーブッシュ2とマニホールド3との接続部分から溶融樹脂が漏出する事態が生じる。
【0051】
断熱リング4の当接部44とこれに対向するマニホールド3の一端面32との密着性も低下するが、常態において、断熱リング4の当接部44とこれに対向するマニホールド3の一端面32との密着性を、ランナーブッシュ2の鍔部20の他端面20bと、これに対向するホットランナー31の一端開口端面32aとの密着性よりも高くしていると共に、漏出樹脂は、断熱リング4とマニホールド3の一端面32との界面に比して低い抵抗でもって進入可能な漏出樹脂収容空間部B内に優先的に進入して収容されることから、漏出樹脂が断熱リング4外に漏出することはない。
【0052】
ランナーブッシュ2とマニホールド3との接続部分からの溶融樹脂の漏出は、その初期段階において、一度に大量に生じるのではなく、少量ずつ徐々に生じる。即ち、先の射出成形時に生じた漏出樹脂が漏出樹脂収容空間部B内に流入して収容された後に冷却されて堆積物となる。そして、この射出成形後に行なわれる射出成形時にも同様に漏出樹脂が発生し、漏出樹脂収容空間部B内に流入して収容される。射出成形時には、ランナーブッシュ2及びマニホールド3が加熱されていることから、漏出樹脂収容空間部B内に既に堆積している漏出樹脂も加熱されて軟化し、複数回の漏出にて生じた漏出樹脂はそれらが一体化しながら、必要に応じて漏出樹脂収容空間部Bの形状に合わせて変形し、漏出樹脂収容空間部B内に堆積されていく。そして、漏出樹脂収容空間部B内への漏出樹脂の堆積がある程度進行すると、漏出樹脂の堆積物は、漏出樹脂収容空間部B内に開口している感知部材配設孔46内に進入し、この感知部材配設孔46内に配設している感知部材Cが漏出樹脂を感知する。
【0053】
又、漏出樹脂収容空間部Bは、ランナーブッシュ2の鍔部20をその全周に亘って包囲するように連続した空間となるように環状空間部に形成され、ランナーブッシュ2とマニホールド3との接続部分は何れも漏出樹脂収容空間部B内に露出した状態に収容されているので、ランナーブッシュ2とマニホールド3との接続部分から漏出した漏出樹脂は全て、漏出樹脂収容空間部B内に円滑に収容され、感知部材Cによって確実に感知される。
【0054】
感知部材Cが漏出樹脂を感知すると、感知部材CはCPU61に漏出樹脂信号を発信し、この漏出樹脂信号を受信したCPU61は、樹脂の漏出が生じていることを示す警告信号を出力モジュール65に出力し、出力モジュール65から警告音や警告表示などの警告信号を出力する。
【0055】
そして、警告信号を受けた射出成形装置の管理者は、射出成形装置の動作を停止させて樹脂の漏出の確認及び漏出箇所の復旧を初期段階にて容易に行なうことができ、漏出樹脂による射出成形装置の損傷を未然に防止することができると共に、射出成形を早期に再開することができる。
【0056】
上記射出成形用金型Aでは、ランナーブッシュ2の鍔部20の一端面20aを断熱リング4の鍔部受止面42で受止し、この鍔部受止面42によってランナーブッシュの鍔部20をマニホールド3に向かって押圧して、ランナーブッシュの鍔部20の他端面20bをマニホールド3におけるホットランナー31の一端開口端面32aに水密状態に圧着させた場合を説明したが、
図6~9に示したように、ランナーブッシュ2の突出端部、詳細には、鍔部20の他端面20bに接続部24を突設し、この接続部24の外周面に形成した螺子部24aをマニホールド3のホットランナー31の一端開口部に形成された接続凹部33に水密的に螺合させることによって、ランナーブッシュ2の鍔部20の他端面20bをマニホールド3の一端面32(ホットランナー31の一端開口端面32a)に水密状に圧着させた射出成形用金型A’であってもよい。なお、ランナーブッシュ2の樹脂通路21は、接続部24を貫通し、マニホールド3のホットランナー31に連結、連通している。
【0057】
このように構成された射出成形装置においても、マニホールド3の膨張及び上述した射出成形装置の駆動時の振動などに起因して、マニホールド3を固定型板1に固定させているボルトの螺締状態が弛み、固定型板1に対するマニホールド3の固定が緩むことがある。
【0058】
このような状態となると、マニホールド3とランナーブッシュ2との相対位置が変化し、ランナーブッシュ2の接続部24とマニホールド3の接続凹部33との螺合状態に弛みが生じ、ランナーブッシュ2の鍔部20の他端面20bとこれに対向するマニホールド3の一端面32との密着性が低下し、ランナーブッシュ2とマニホールド3との接続部分から溶融樹脂が漏出する事態が生じる。
【0059】
射出成形用金型A’においても、マニホールド3と固定型板1との対向面間に断熱リング4’が介在されている。断熱リング4’は、挿入片43及び当接部44が形成されていないこと以外は、上述した断熱リング4と同様の構造であるので同一符号を付して説明を省略する。
【0060】
断熱リング4’においても、上記断熱リング4と同様に、ランナーブッシュ2の鍔部20の外周面20cとこれに対向する断熱リング4の内周面45との間に空間部が形成されており、この空間部を、マニホールド3とランナーブッシュ2との接続部分から漏出した漏出樹脂を受け入れるための漏出樹脂収容空間部Bとしている。そして、ランナーブッシュ2とマニホールド3との接続部分(接続界面)、即ち、ランナーブッシュ2の鍔部20の他端面20bとこれに対向するマニホールド3の一端面32との接続部分は、漏出樹脂収容空間部B内に全面的に露出、位置した状態となっている。
【0061】
断熱リング4’を用いた射出成形用金型A’においても、ランナーブッシュ2とマニホールド3との接続部分(接続界面)から溶融樹脂が漏出した場合には、漏出樹脂が漏出樹脂収容空間部B内に進入して収容されて漏出樹脂の堆積物を生成し、この漏出樹脂の堆積物を漏出樹脂収容空間部B内に配設している感知部材Cが感知し、上述と同様の要領で溶融樹脂の漏出が生じたことが射出成形装置A’の管理者に通知される。
【0062】
射出成形用金型A’において、挿入片43及び当接部44が形成されていない断熱リング4'を用いた場合を説明したが、挿入片43及び当接部44の何れか一方又は双方が形成された断熱リングを用いてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 固定型板
2 ランナーブッシュ
3 マニホールド
31 ホットランナー
4 断熱リング
4a 断熱リングの他端面
4b 断熱リングの一端面
5 駆動装置
20 ランナーブッシュの鍔部
20a 鍔部の一端面
20b 鍔部の他端面
21 樹脂通路
21b 樹脂通路の他端開口端面
22 バルブピン
41 貫通孔
42 鍔部受止面
43 挿入片
44 当接部
45 内周面
46 感知部材配設孔
48 通気孔
A 射出成形用金型
B 漏出樹脂収容空間部
C 感知部材