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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023037742
(43)【公開日】2023-03-16
(54)【発明の名称】スレート屋根の解体工法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/08 20060101AFI20230309BHJP
【FI】
E04G23/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021144498
(22)【出願日】2021-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】504059544
【氏名又は名称】株式会社トータル環境
(71)【出願人】
【識別番号】521324001
【氏名又は名称】株式会社松尾創設
(74)【代理人】
【識別番号】100108604
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 義人
(72)【発明者】
【氏名】川添 栄一
(72)【発明者】
【氏名】桑原 秀昭
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176DD26
(57)【要約】
【課題】手間やコストを従来よりも抑えたスレート屋根の解体工法を提案する。
【解決手段】スレート屋根は、多数のスレート板130を備える。スレート板130は、フックネジ122とそれに螺合させたナット124によってCチャンネル鋼材121に固定されている。スレート屋根を解体する場合には、電動ドリル装置220に取付けたホルソー210で、除去の対象となるスレート板130をCチャンネル鋼材121に固定している複数のフックネジ122すべての周囲に環状孔150を穿つ。その後、そのスレート板130をCチャンネル鋼材121から除去する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
横方向に配された長尺材である横材の上側に配され、前記横材に対して複数箇所をネジによって固定された、スレートでできた板材であるスレート板を複数組合せることによって構成されたスレート屋根の解体工法であって、
作業員が前記スレート屋根の上に登る過程、
除去の対象となる前記スレート板である特定スレート板に対して前記作業員が、
1)ホルソーをその先端に取付けた電動ドリル装置を用いて、前記特定スレート板を固定しているすべての前記ネジの周囲の前記特定スレート板に、前記特定スレート板を貫通する前記ネジを囲む環状の孔である環状孔を開ける過程、
2)それを固定しているすべての前記ネジについて前記環状孔が開けられた前記特定スレート板を、前記横材から除去する過程、
を含む、スレート屋根の解体工法。
【請求項2】
前記特定スレート板は、前記スレート屋根を構成する前記スレート板のうちの過半である、
請求項1記載のスレート屋根の解体工法。
【請求項3】
前記特定スレート板は、前記スレート屋根を構成する前記スレート板のすべてである、
請求項2記載のスレート屋根の解体工法。
【請求項4】
前記1)の過程で用いられる電動ドリル装置として、前記ホルソーを囲む、前記電動ドリル装置の回転軸方向で、前記ホルソーの切削面と同一平面かそれよりも先の位置を開口とするとともに、その長さ方向に伸縮自在とされた、前記開口を除いて気密とされた筒状の部材である筒体が取付けられているものを用いるとともに、
前記1)の過程で、前記特定スレート板を固定している前記ネジの周囲の前記特定スレート板に前記環状孔を開ける作業をしているときに、前記筒体の前記開口の縁を前記特定スレート板に当接させた状態で、前記筒体内の空気を前記電動ドリル装置の外に設けられた吸塵機で引く、
請求項1記載のスレート屋根の解体工法。
【請求項5】
前記ネジの前記スレート板よりも上側の部分は、前記スレート板との間に座金を挟んだナットに螺合させられており、
前記環状孔を、前記座金を囲む環状の孔とする、
請求項1記載のスレート屋根の解体工法。
【請求項6】
前記スレート板は、波板であり、前記ネジは波板の高い位置に固定されている、
請求項1記載のスレート屋根の解体工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スレートでできた板材であるスレート板を複数組合せて構成されるスレート屋根を解体する技術、より詳細にはスレート屋根を構成するスレート板を、スレート屋根を構成する骨材から取外す技術に関する。
【背景技術】
【0002】
スレートでできた板材であるスレート板を複数組合せて構成されるスレート屋根は、丈夫さ、コストの低廉さといった利点を持つため、工場や、倉庫の屋根として広く普及している。なお、本願でいうスレート板は、天然のスレートを切出したものではなく、工業製品として画一的に生産されるいわゆる「化粧スレート」である。
しかしながら、スレート屋根にももちろん耐久年数というものは存在するし、また、スレート屋根を備えた建物にも耐久年数が到来したこと等を理由とする建替えの必要が生じることがあるので、スレート屋根にはいつかは解体される必要が生じる。
【0003】
スレート屋根の解体は従来、以下のように行われている。
その説明の前に、スレート屋根の構造について、補足する。スレート屋根の構造にはもちろん複数の種類があるが、以下では典型的な構造について説明する。
スレート屋根は上述したように、複数のスレート板を組合せて構成される。スレート屋根は、フォールライン方向に所定間隔で走る複数の長尺材のそれぞれである垂木と、垂木に対して垂直な方向に所定間隔で水平に走る複数の長尺材のそれぞれである母屋とを骨材として備えており、その骨材に各スレート板が固定される。母屋は通常水平である。
スレート屋根を構成するスレート板は、通常矩形である。そして、各スレート板は、その隣接する2辺が、母屋と、垂木にそれぞれ平行となるようにして、母屋と垂木の上に配される。各スレート板は一般的に少なくとも2本の母屋にわたっている。スレート板は、母屋に固定される。
典型的な母屋は、断面略C字型の「C型鋼」、「Cチャン」等と称されることもあるCチャンネル鋼材である。
そして、Cチャンネル鋼材とスレート板との固定には、フックネジが用いられる。フックネジは、その基端側がネジ切りされた棒状体であるネジ切り部となっており、その先端側がフック状に曲折されたフック部となっている。Cチャンネル鋼材の開口にフック部を係止させたフックネジのネジ切り部を、スレート板に穿った孔からスレート板の上に露出させ、そこに例えば座金を介して、ナットを螺合させることによって、スレート板はCチャンネル鋼材に固定される。上述したように、各スレート板は、一般的に複数のCチャンネル鋼材にわたっている。上述のようなフックネジを用いたCチャンネル鋼材へのスレート板の固定は、そのスレート板が覆っている各Cチャンネル鋼材に対して複数箇所ずつ行われる。
【0004】
上述の如き構造を持つスレート屋根を解体する、特には、スレート屋根を構成するスレート板を、スレート屋根を構成する骨材から取外す作業は、従前は以下のように行われている。
上述したように、スレート屋根を構成するスレート板と骨材のうちの母屋とは、フックネジを介して接続されているため、スレート板を骨材から取外すには、フックネジを介しての両者の接続を断切ることが必要である。
その接続の断切りを、従前は、スレート板の下側から作業者が行っている。具体的には、作業者は、構築した足場に乗ること、高所作業車に乗ること、或いはスレート屋根の屋根裏に入ることによって、スレート屋根の直下に位置取る。
そして、スレート屋根の直下に位置取った作業者が、プライヤーや電動ボルトカッター等の適当な工具を用いて、フックネジのスレート板の下側に位置する部分を切断する。1つのスレート板を骨材と繋いでいる複数のフックネジのすべてを切断すると、骨材に対するそのスレート板との固定が解かれる。骨材からの固定が解かれたスレート板を、順次骨材から取り外していくことにより、スレート屋根の解体が進められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のようなスレート屋根の解体工法は、広く普及している。しかしながら、改良が求められる点もある。
それは、上述の如きスレート屋根の解体工法は、手間とコストがかかるという点である。上述のスレート屋根の解体工法を行う場合には、フックネジのスレート板の下側の部分を切断することが必要であるから、作業者がスレート屋根の直下に位置取ることが必須となる。そのためには、既に述べたように、構築した足場に乗ること、高所作業車に乗ること、或いはスレート屋根の屋根裏に入ることのいずれかが必要となる。
足場を構築するのはもちろん手間もコストもかかる。しかも、スレート屋根はある程度の広さがあるため、足場は、広い範囲に構築される必要があるか、移動できるようにする必要があるから、いずれにせよ手間もコストも削減することが難しい。
高所作業車を用いるのであれば移動についての問題は生じないものの、高所作業車を準備するコストが必要となる。
また、屋根裏に作業者が入る場合においても、足場の構築が必要な場合が多く、これもコストを上昇させる。また、スレート屋根を持つ建物は通常、スレート屋根の解体のことを踏まえて設計されていないので、梁等の存在によって、屋根裏に入った作業者が上述の作業を行うためのスペースを確保できないことも多い。
この作業スペースの確保の問題は、実際のところ、足場を構築する場合、高所作業車を用いる場合でも生じることがある。そのような場合には、現場において様々な工夫を行うことによって問題の解決を図ることになるが、もちろんそれによっても手間やコストが生じる。
【0006】
本願発明は、手間やコストを従来よりも抑えたスレート屋根の解体工法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するため、本願発明者は以下の発明を提案する。
本願発明は、横方向に配された長尺材である横材の上側に配され、前記横材に対して複数箇所をネジによって固定された、スレートでできた板材であるスレート板を複数組合せることによって構成されたスレート屋根の解体工法(以下、単に「解体工法」という場合がある。)である。
この解体工法は、作業員が前記スレート屋根の上に登る過程、除去の対象となる前記スレート板である特定スレート板に対して前記作業員が、1)ホルソーをその先端に取付けた電動ドリル装置を用いて、前記特定スレート板を固定しているすべての前記ネジの周囲の前記特定スレート板に、前記特定スレート板を貫通する前記ネジを囲む環状の孔である環状孔を開ける過程、2)それを固定しているすべての前記ネジについて前記環状孔が開けられた前記特定スレート板を、前記横材から除去する過程、を含んでいる。
【0008】
本願発明の解体工法で解体されるスレート屋根は、既存のスレート屋根である。したがって、本願発明の解体工法で解体される対象となるスレート屋根自体は、背景技術の欄で説明したものを含む、一般的なスレート屋根である。本願発明の解体工法で解体されるスレート屋根は、横方向に配された長尺材である横材の上側に配され、横材に対して複数箇所をネジによって固定された、スレートでできた板材であるスレート板を複数組合せることによって構成されたものとされる。
ここで、本願発明でいう横材は、典型的には背景技術の欄で説明した骨材であり、更に典型的には背景技術の欄で説明した母屋である。なお、横材は、必ずしも水平であるとは限らず、斜めに配されたものでも良い。また、本願発明でいうスレート板は、背景技術の欄で説明したスレート板と同じである。また、本願発明でいうネジは、典型的には背景技術の欄で説明したフックネジであるが、本願発明でいうネジは必ずしもフックネジには限られない。本願発明でいうネジは、スレート板を横材に固定するためのネジ一般を含む。
本願発明の解体工法は、作業員がスレート屋根の上に登る過程を含む。つまり、本願発明の解体工法では、作業員は、スレート屋根の直下ではなく、スレート屋根の上で作業を行う。したがって、この解体工法では、背景技術の欄で説明した従前の技術とは異なり、作業者は、構築した足場に乗ること、高所作業車に乗ること、或いはスレート屋根の屋根裏に入ることのいずれも要求されない。したがって、本願発明によれば、それらが要求されることによって生じる手間とコストが抑制されることになる。作業員がスレート屋根に登るのは簡単だし、屋根の上であれば作業スペースの問題が生じることもない反面、横材に乗れば安全性も確保することができるからである。
本願発明の解体工法はまた、除去の対象となるスレート板である特定スレート板に対して作業員が、1)ホルソーをその先端に取付けた電動ドリル装置を用いて、特定スレート板を固定しているすべてのネジの周囲の特定スレート板に、特定スレート板を貫通するネジを囲む環状の孔である環状孔を開ける過程を含む。
ホルソーは、円筒形状の部材の先端に切削刃を備えており、その円筒形状の部材の軸に回転軸が一致するようにして電動ドリル装置に取り付けて用いられる、対象となる部材に対して環状(円環状)の孔である環状孔を開けるための器具である。したがって、電動ドリル装置にホルソーを取付けたものを用いることにより、スレート板に対して環状の孔である環状孔を開けることができる。本願発明では、作業員が、横材から取外す対象となるスレート板である特定スレート板に環状孔を開ける。環状孔を開けるのは、特定スレート板において当該特定スレート板を横材に固定しているすべてのネジの周囲である。背景技術の欄で説明したスレート屋根の解体工法では、横材(母屋)とスレート板の接続を解除するために、フックネジのスレート板の下側の部分を切断することとしていた。しかしながら、本願発明では、作業員がスレート屋根の上にいるので、ネジの同様の部分を切断することができない。そこで、特定スレート板のネジを囲む円形の範囲を切断し、特定スレート板を、ネジと固定されている部分とそうでない部分に分離することによって、特定スレート板と横材との接続を解除することとしている。
それにより、特定スレート板と横材との複数のネジによっている接続乃至固定はすべて解除されるので、特定スレート板は横材から取外すことができるようになる。その上で、本願発明では、除去の対象となるスレート板である特定スレート板に対して作業員が、2)それを固定しているすべてのネジについて環状孔が開けられた特定スレート板を、横材から除去する過程を実行する。それにより、特定スレート板は、横材から取外される。
しかも、本願発明の解体工法では、特定スレート板を、ネジと固定されている部分とそうでない部分に分離することによって、特定スレート板と横材との接続を解除することとしているので、ネジと横材との接続の方法が、係止か、螺合のような固定かに関わらず、1)の過程を実施すれば必ず、特定スレート板と横材との接続が解除される。
なお、本願発明では、除去の対象となるスレート板である特定スレート板に対して作業員が行う上述の1)の過程と、2)の過程とは、連続して実行される必要はない。
例えば、特定スレート板が複数存在する場合、すべての特定スレート板に対して1)の過程を実行してから、1)の過程が終わったすべての特定スレート板に対して2)の過程を実行することが可能である。要するに、特定スレート板が複数存在する場合には、ある特定スレート板に対して着目したとき、2)の過程が実行される前に1)の過程が既に実行されていれば良い。
【0009】
特定スレート板は、スレート屋根を構成しているスレート板のうちの少なくとも1枚であり、上述したように複数である場合がある。
前記特定スレート板は、前記スレート屋根を構成する前記スレート板のうちの過半であってもよい。また、前記特定スレート板は、前記スレート屋根を構成する前記スレート板のすべてであってもよい。
スレート屋根を構成するスレート板のうちのなるべく多くのものを本願発明における特定スレート板とする(本願発明の解体工法で横材から取外すスレート板とする)ことにより、手間とコストの抑制という既に述べた効果がより強調されることになる。
【0010】
本願発明によるスレート屋根の解体工法では、既に述べたように特定スレート板に環状孔を穿つことが必須である。
ところで、古いスレート板にはアスベストが含まれていることがある。そのようなスレート板にホルソーを用いて環状孔を穿つと、アスベストを含む粉塵が生じて作業員が健康を害するおそれがある。また、スレート板にアスベストが含まれていないまでも、細かな粉塵を作業者が吸込むのは避けるべきである。
アスベストを含むか含まないかによらず、細かな粉塵を作業者が吸込むことを抑制するには、前記1)の過程で用いられる電動ドリル装置として、前記ホルソーを囲む、前記電動ドリル装置の回転軸方向で、前記ホルソーの切削面と同一平面かそれよりも先の位置を開口とするとともに、その長さ方向に伸縮自在とされた、前記開口を除いて気密とされた筒状の部材である筒体が取付けられているものを用いるとともに、前記1)の過程で、前記特定スレート板を固定している前記ネジの周囲の前記特定スレート板に前記環状孔を開ける作業をしているときに、前記筒体の前記開口の縁を前記特定スレート板に当接させた状態で、前記筒体内の空気を前記電動ドリル装置の外に設けられた吸塵機で引けばよい。
そうすることにより、作業者が、特定スレート板に環状孔を穿つ作業によって生じる細かな粉塵を吸込むことを抑制することが可能となる。
筒体の開口を、電動ドリル装置の回転軸方向で、ホルソーの切削面と同一平面かそれよりも先の位置とするのは、電動ドリル装置に取付けられたホルソーで特定スレート板に環状孔を穿ち始めるときにでも、筒体の先端である開口の縁を特定スレート板に当接させられるようにするためである。
また、筒体を、その長さ方向(電動ドリル装置の回転軸方向)に伸縮自在とするのは、筒体が仮にその長さ方向に伸縮自在でなければ、特定スレート板を切削するために特定スレート板に電動ドリル装置を近づけようとしたときに、筒体の先端が特定スレート板の表面に係止されて、電動ドリル装置を特定スレート板に近づけることができなくなってしまうからである。長さ方向に伸縮自在な筒体は、例えば、気密な布(シート)や、蛇腹状の構成を持つチューブ等によって構成可能である。
【0011】
前記ネジの前記スレート板よりも上側の部分は、前記スレート板との間に座金を挟んだナットに螺合させられている場合がある。その場合には、上述の1)の過程において特定スレート板に穿つ前記環状孔を、前記座金を囲む環状の孔とすることができる。
これによりネジの固定に座金が使用されていても、本願発明の解体工法を適用可能となる。
前記スレート板は、波板であり、前記ネジは波板の高い位置に固定されていてもよい。また、ネジは、背景技術の欄で説明したフックネジであっても良いし、その固定に上述した座金が用いられても構わない。そのような典型的なスレート屋根の解体にも、本願発明による解体工法を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態によるスレート屋根の解体工法において解体されるスレート屋根の構成を示す、(A)スレート板を除いた状態の斜視図と、(B)骨材を破線で表したスレート屋根の斜視図。
図2図1に示したスレート屋根におけるスレート板とCチャンネル鋼材との固定状態を示す、Cチャンネル鋼材の延長方向からスレート屋根の一部を見た状態を示す図。
図3】一実施形態におけるスレート屋根の解体工法の1)の過程の初期段階を示す、図2に示した部分に相当する部分を図2と同様の方向から見た図。
図4】一実施形態におけるスレート屋根の解体工法の1)の過程の中期段階を示す、図2に示した部分に相当する部分を図2と同様の方向から見た図。
図5】一実施形態におけるスレート屋根の解体工法の1)の過程の後期段階を示す、図2に示した部分に相当する部分を図2と同様の方向から見た図。
図6】変形例におけるスレート屋根の解体工法の1)の過程の初期段階を示す、図2に示した部分に相当する部分を図2と同様の方向から見た図。
図7】変形例におけるスレート屋根の解体工法の1)の過程の後期段階を示す、図2に示した部分に相当する部分を図2と同様の方向から見た図。
図8】変形例における筒体を、開口の正面から見た場合の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい一実施形態と変形例を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
この実施形態では、既存の建物のスレート屋根を解体するスレート屋根の解体工法について説明する。
まず、この解体工法で解体される対象となるスレート屋根について説明する。とはいえ、スレート屋根は、既存のものであり、公知或いは周知のものであるから、その説明は簡単に行うのみとする。
【0015】
図1を用いて、本実施形態の解体工法で解体されるスレート屋根の概要について説明する。
図1に、スレート屋根の斜視図を示す。図1(A)は、スレート屋根の後述する骨材のみを示した斜視図であり、同(B)は、骨材を破線で示したスレート屋根の斜視図である。
スレート屋根は、後述するスレート板を支持するための骨材を備えている。なお、この実施形態におけるスレート屋根は、傾斜する切妻屋根の一部であるが、スレート屋根の種類は切妻屋根に限らず、また、傾斜していなくても構わない。
骨材は、垂木110と、母屋120とを含んで構成されている。垂木110は、フォールライン方向に伸びる長尺材である。垂木110は、木材や、金属製の長尺材である。垂木110は複数であり、所定間隔で平行に配されている。
母屋120は、垂木110に対して垂直な方向に伸びる長尺材である。母屋120は、金属製の長尺材である。母屋120は複数であり、所定方向に平行に配されている。母屋120は水平方向に配されている。
骨材の上に、スレート板130が複数配され、骨材に固定されている。スレート板130はいわゆる化粧スレートである。スレート板130は平面視矩形である。スレート板130は、隣接する2辺が垂木110と母屋120とに平行となるように、骨材の上に配されている。スレート板130の長辺、短辺のいずれが垂木110に平行かは問わない。これには限られないが、この実施形態では、各スレート板130の垂木110に沿う辺の長さが隣接する母屋120の間隔と一致させられており、平面視した場合に、各スレート板130の水平な辺が、母屋120の上に略乗るようになっている。
図1では、理解の容易のために、各スレート板130を網掛けの有無で、隣接するスレート板130から区別している。また、図1ではそのように描画していないが、この実施形態のスレート板130はいわゆる波板である。波板であるスレート板130の各波の波頭は、水平方向に延びている。
【0016】
各スレート板130は、骨材の母屋120に固定されている。図1の130Aで示された部分が、スレート板130と母屋120との固定がなされている場所である。
図2に、スレート板130の骨材への固定方法を示す。図2は、母屋120の長さ方向の延長線方向から、母屋120を見た図を示す。ただし、図2では、本来は傾いているスレート板130を水平に図示している。
上述したように、母屋120は、水平に配された長尺材である。この実施形態における各母屋120は、互いに近接した状態で平行に配された、長尺材である2本で一組のCチャンネル鋼材121によって構成されている。各Cチャンネル鋼材121は、アルミ、鉄などによる金属製である。各Cチャンネル鋼材121の断面は、Cチャンネル鋼材121と垂木110とを固定するためのネジ孔等の些末な部分を除けば、その長さ方向のすべての部分で図2に示した通りとなっている。一組のCチャンネル鋼材121は、それらの開口121Xを互いのCチャンネル鋼材121の反対側に向けるようにして、背中合わせで配されている。
【0017】
Cチャンネル鋼材121と、スレート板130とは、公知或いは周知の適当な方法で固定されている。この実施形態ではこれには限られないが、Cチャンネル鋼材121とスレート板130とは、以下のように、フックネジ122を用いて互いに固定されている。
フックネジ122は、図2における下方に折り返されたフック部122Xを有するネジである。フック部122Xは、Cチャンネル鋼材121の開口121X上側の下向きに突出する辺に図2に示すように係止できるような形状、大きさとされている。
フックネジ122のフック部122Xよりも上の適当な範囲、少なくとも図2におけるスレート板130よりも上側の部分の外周にはネジ切りがなされている。フックネジ122のネジ切りがなされている部分をネジ切り部122Yと称するものとする。この実施形態では、フックネジ122の上半分の長さが、ネジ切りのなされたネジ切り部122Yとされているものとする。
フックネジ122のネジ切り部122Yのうちの所定の範囲は、スレート板130に設けられたフックネジ122の径に対応する径の孔を貫通させた状態で、スレート板130の上側に露出させられている。ネジ切り部122Yのスレート板130よりも上側に位置する部分には、リング状の座金123を介して、ナット124が螺合させられている。
上述のようにしてフックネジ122のネジ切り部122にナット124を螺合させることによりナット124を下方に移動させていくと、相対的にフックネジ122が上方に移動する。それにより、フックネジ122のフック部122Xが、Cチャンネル鋼材121の開口121X上側の下向きに突出する辺に強固に係止される。それにより、スレート板130は、Cチャンネル鋼材121に固定されることになる。
図2の省略記号(二重波線)で中程を省略されているスレート板130は、1枚のスレート板130である。一枚のスレート板130は、その上端付近と下端付近との波頭の位置で、フックネジ122を用いて、Cチャンネル鋼材121に対して固定されている。また、かかるフックネジ122を用いてのスレート板130のCチャンネル鋼材121への固定は、スレート板130の図2における奥行き方向の複数箇所でなされている。図1に示したように、この実施形態では、これには限られないが、その上側の辺近くと下側の辺近くのそれぞれ5箇所の合計10箇所で、Cチャンネル鋼材121に固定されている。なお、スレート板130がより多くのCチャンネル鋼材121を跨いでいるのであれば、スレート板130はそれが跨ぐ例えば、スレート板130の高さ方向の中程に位置する部分に存在するCチャンネル鋼材121にも固定されている場合があり得る。
【0018】
以上で説明したようなスレート屋根を解体する方法は以下のとおりである。
まず、作業員がスレート屋根に登る。作業員がスレート屋根に登る方法は自由である。例えば、脚立を用いて、作業員がスレート屋根に登ることが可能であるし、また、公知或いは周知のビテイ足場その他の足場材を組んで構築した少なくとも1つの足場を用いて、作業員がスレート屋根に登ることが可能である。作業員は、スレート屋根の上で以下の作業を行うとき、母屋120又は垂木110の上に乗れば安全を確保しやすい。
【0019】
作業員は、スレート屋根の上で以下の1)、2)の作業を行う。
1)の作業は、図3から図5に示したように、除去の対象となるスレート板130である特定スレート板に対して作業員が、ホルソー210をその先端に取付けた電動ドリル装置220を用いて、特定スレート板を固定しているすべてのフックネジ122の周囲の特定スレート板に、スレート板130を貫通するフックネジ122を囲む環状の孔である環状孔150を開ける過程である。
電動ドリル装置220は、アタッチメントの交換により電動ドリルや電動ドライバとして利用可能な公知或いは周知の装置である。電動ドリル装置220としては例えば、株式会社マキタが製造販売する充電式インパクトドライバ(品番:TD001GRDX 40V)、工機ホールディングス株式会社が製造販売するマルチボルト コードレスインパクトドライバ(品番:WH36DC)を利用可能である。
ホルソー210は、電動ドリル装置220のアタッチメントの1つであって、円筒形状の部材の先端に切削刃を備えており、その円筒形状の部材の軸に回転軸が一致するようにして電動ドリル装置220に取り付けて用いられる。ホルソー210を取付けた電動ドリル装置220によって、対象となる部材(この実施形態ではスレート板130の中の特定スレート板)に対して環状(円環状)の孔である環状孔を開けるための器具である。したがって、電動ドリル装置220にホルソー210を取付けたものを用いることにより、スレート板130に対して環状の孔である環状孔150を開けることができる。ホルソー210としては公知或いは周知のもの、例えば市販のものを利用することができる。ホルソー210としては、例えば、株式会社コバルテックが製造販売する電動コアドリル用の乾式ダイヤモンドビット(「水なし君」(商標)シリーズ)を利用することができる。
本願発明では、作業員が、Cチャンネル鋼材121から取外す対象となるスレート板130である特定スレート板に環状孔150を開ける。環状孔150を開けるのは、特定スレート板において当該特定スレート板を横材に固定しているすべてのフックネジ122の周囲である。この実施形態では、フックネジ122と螺合させられたナット124とスレート板130との間に座金123が存在しているので、すべてのフックネジ122と対になった座金123の周囲におけるスレート板130に、環状孔150を穿つ。
【0020】
より具体的には、ホルソー210の先端が座金123の周囲に位置するようにホルソー210が取付けられた電動ドリル装置220を位置決めし(図3)、電動ドリル装置220が備える駆動スイッチを入れることによって電動ドリル装置220の機能によってホルソー210をその円筒形の軸回りに回転させてスレート板130を貫通させる(図4)。
それにより、スレート板130は、フックネジ122と一体化されている部分(固定部130X)とそれ以外の部分(非固定部130Y)とに分離されることとなる(図4図5)。スレート板130が固定部130Xと非固定部130Yとに分離させられると、スレート板130の非固定部130YとCチャンネル鋼材121との係止が解ける。場合によっては、スレート板130の固定部130Xは、図5に示したように、非固定部130Yから下方に脱落し、場合によっては図5に示した以上に下方に移動して、フックネジ122、座金123、ナット124、及びスレート板130の固定部130Xの全体がCチャンネル鋼材121の下方に落下する。
上述したように各スレート板130は、この実施形態では、フックネジ122によって合計10箇所でCチャンネル鋼材121に固定されている。その固定が1箇所でも残っているとスレート板130はCチャンネル鋼材121から取外すことができないので、除去の対象となるスレート板130である特定スレート板の10箇所で、上述した固定部130Xと非固定部130Yとの分離を行う。
なお、スレート屋根の上で作業員が作業を行うのであれば、上述したナット124を回転させ、フックネジ122とナット124との螺合を解くことによって、スレート板130とCチャンネル鋼材121との固定を解くことが可能である。本願でそうしないのは、フックネジ122とナット124とは、屋外環境に長期間さらされた結果錆びつく等して固着していることが多く、フックネジ122のネジ切り部122Yに対してナット124を回転させることが著しく困難であることが多いためである。また、スレート板130とCチャンネル鋼材121(或いは、本願発明における横材)との固定が上述の如きフックネジ122を用いないものであっても(例えば、一般的なネジを木材である母屋120に螺合させたような場合であっても)、スレート板130を固定部130Xと非固定部130Yに分離させれば、スレート板130と母屋120との固定が必ず解けるため、スレート板130と母屋120との固定状態を意識しないで、スレート屋根の解体を行えるからである。
【0021】
スレート板130のうちの除去の対象となる特定スレート板を固定していた10箇所のすべてで固定部130Xと非固定部130Yとの分離を行うと、その特定スレート板は、Cチャンネル鋼材121から取外すことができる状態となる。
次いで、その特定スレート板に対して2)の作業を行う。
2)の作業は、除去の対象となるスレート板130である特定スレート板に対して作業員が、それを固定しているすべてのフックネジ122について環状孔150が開けられた特定スレート板を、その特定スレート板が固定されていたCチャンネル鋼材121から除去する過程である。
Cチャンネル鋼材121からの特定スレート板の除去は、例えば作業員の手作業によって行えば良い。多くの場合、スレート板130に存在する複数の固定部130Xは、スレート板130の非固定部130Yに穿たれた環状孔150の下に落ち込んでいるので、固定部130Xと非固定部130Yとの間の摩擦が殆どない状態で、簡単にCチャンネル鋼材121から取外すことができる。
【0022】
なお、除去の対象となるスレート板130である特定スレート板に対して作業員が行う上述の1)の過程と、2)の過程とは、連続して実行される必要はない。
例えば、特定スレート板が複数存在する場合、すべての特定スレート板に対して1)の過程を実行してから、1)の過程が終わったすべての特定スレート板に対して2)の過程を実行することが可能である。要するに、特定スレート板が複数存在する場合には、ある特定スレート板に対して着目したとき、2)の過程が実行される前に1)の過程が既に実行されていれば良い。
すべてのスレート板130、例えば、少なくともスレート屋根に配されたスレート板130のうちの過半のスレート板130に対して、上述の1)の過程と2)の過程とを実行する。結果として、スレート屋根を構成していたすべてのスレート板130が、Cチャンネル鋼材121から除去される。
【0023】
<変形例>
上述したように、この実施形態におけるスレート屋根の解体工法では、既に述べたように、1)の過程において、特定スレート板に環状孔150を穿つことが必須である。
ところで、古いスレート板130にはアスベストが含まれていることがある。そのようなスレート板130にホルソー210を用いて環状孔150を穿つと、アスベストを含む粉塵が生じて作業員が健康を害するおそれがある。また、スレート板130にアスベストが含まれていないまでも、細かな粉塵を作業者が吸込むのは避けるべきである。
アスベストを含むか含まないかによらず、細かな粉塵を作業者が吸込むことを抑制するには、以下のようにすればよい。
なお、変形例における解体工法は、以下に説明する筒体230、チューブ240、吸塵機250を用いるという点を除けば、上述の実施形態と変わらない。
【0024】
この場合、図6図7に示されたように、1)の過程で用いられるホルソー210の取付けられた電動ドリル装置220として、更に筒体230が取付けられたものを用いる。
筒体230は、ホルソー210を囲む筒状の部材である。筒体230は、電動ドリル装置220の回転軸方向で、ホルソー210の切削面と同一平面かそれよりも先の位置を開口231とする。筒体230は、開口231を除いて気密に構成されている。ただし、この「気密」はそれほど厳密なものでなくても良い。また、筒体230は、その長さ方向に伸縮自在とされている。
長さ方向に伸縮自在な筒体230は、例えば、気密な布(シート)や、蛇腹状の構成を持つチューブ等によって構成可能である。筒体230の上側の開口の縁を、電動ドリル装置220の回転軸の図6、7における上方に位置するホルソー210とともに回転することのない部分に固定することにより、下側の開口231を除いて筒体230の内部を気密にすることができる。筒体230と電動ドリル装置220との固定の方法は、公知或いは周知技術によって行うことができる。筒体230として利用することのできる、蛇腹状の構成を持つことによってその長さ方向に伸縮自在なチューブの例としては、例えば、日本ヒルティ株式会社が製造販売するサクションホース(品番:36MMX4.65M ANTI-STATIC)を利用可能である。
筒体230には、例えば柔軟な管であるチューブ240を介して吸塵機250が接続されている。吸塵機250はチューブ240を介して、筒体230内部の空気を引くことができるような、公知或いは周知の装置である。吸塵機250としては例えば、日本ヒルティ株式会社が製造販売する集じん機(品番:VC40L-X)を利用可能である。
【0025】
ホルソー210に加えて筒体230が取付けられた電動ドリル装置220を用いて上述の1)の過程、つまり、スレート板130に対して環状孔150を穿つ処理を実行する場合には、環状孔150を穿つ処理を実行しながら、吸塵機250で筒体230の内部の空気を引けばよい。そうすることで、環状孔150の切削によって生じた粉塵を、チューブ240を介して吸塵機250に吸塵させることができるようになる。
ある環状孔150を形成するためにスレート板130の切削を開始する場合には、図6に示したように、スレート板130の表面にホルソー210の切削面と、筒体230の開口231の縁とが当接した状態となる。筒体230の開口231は、電動ドリル装置220の回転軸方向で、ホルソー210の切削面と同一平面かそれよりも先の位置にあるから、ホルソー210の切削面と筒体230の開口231の縁との双方をスレート板130の表面に当接させることが可能である。
この状態から、電動ドリル装置220が備える駆動スイッチを入れることによって電動ドリル装置220の機能によってホルソー210をその円筒形の軸回りに回転さると、ホルソー210はスレート板130を切削して、図6の下方に向かって進み始める。このとき、筒体230は回転しない。ホルソー210が、環状孔150を穿つためにスレート板130を切削している間、吸塵機250は筒体230の内部の空気を引く。吸塵機250は、ホルソー210がスレート板130を切削している間に筒体230の中の空気を吸引すれば良く、ホルソー210がスレート板130を切削していないときまで含めて筒体230の中の空気を吸引してもよい。いずれにせよ、ホルソー210がスレート板130を切削することによって生じた粉塵は、吸塵機250によって吸塵され、筒体230の外部に漏れることが抑制される。
ホルソー210が図6の下方に向かって進み始めると、筒体230は自動的にその図6における上下方向の長さを縮める。それにより、ホルソー210の移動を、スレート板130の上側の面にその下端が係止された筒体230が妨げることはない。最終的にホルソー210は、図7に示したように、スレート板130を貫通して環状孔150を形成する。
【0026】
これによりスレート板130は、上述の実施形態で説明したように、固定部130Xと非固定部130Yとに分離させられる。
そこから先は、変形例においても上述の実施形態と同じである。
なお、電動ドリル装置220とスレート板130の距離が変化したときにおいても筒体230の開口231の縁とスレート板130の上面との当接を確実なものとするために、筒体230の開口231の縁の所定の部分に、図8に示したように、重り232を取付けておいても構わない。重り232は例えば、金属の塊である。筒体230と重り232の固定方法は、公知或いは周知技術によれば良い。重り232は環状であり、筒体230の開口231の縁に沿って設けられていても良い。
【符号の説明】
【0027】
110 垂木
120 母屋
121 Cチャンネル鋼材
122 フックネジ
122X フック部
122Y ネジ切り部
123 座金
124 ナット
130 スレート板
210 ホルソー
220 電動ドリル装置
230 筒体
240 チューブ
250 吸塵機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8