(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023037786
(43)【公開日】2023-03-16
(54)【発明の名称】汚泥焼却設備におけるリン焼結物による閉塞防止運転の最適化方法
(51)【国際特許分類】
C02F 11/06 20060101AFI20230309BHJP
F23G 5/02 20060101ALI20230309BHJP
F23G 7/00 20060101ALI20230309BHJP
【FI】
C02F11/06 ZAB
F23G5/02 Z
F23G7/00 104A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021144561
(22)【出願日】2021-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】521392572
【氏名又は名称】浜松ウォーターシンフォニー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391022418
【氏名又は名称】株式会社西原環境
(71)【出願人】
【識別番号】306023716
【氏名又は名称】ヴェオリア・ジェネッツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100101890
【弁理士】
【氏名又は名称】押野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100098268
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100166420
【弁理士】
【氏名又は名称】福川 晋矢
(74)【代理人】
【識別番号】100150865
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 司
(72)【発明者】
【氏名】鹿間 光明
(72)【発明者】
【氏名】窪野 一貴
(72)【発明者】
【氏名】神宮 世意
(72)【発明者】
【氏名】ジェ ピエールイヴ
【テーマコード(参考)】
3K065
3K161
4D059
【Fターム(参考)】
3K065AA24
3K065AB01
3K065AC02
3K065BA05
3K065CA04
3K065CA20
3K161AA22
3K161BA08
3K161CA01
3K161DB32
3K161EA32
3K161JA15
4D059AA03
4D059BB01
4D059BB06
4D059BE00
4D059BF20
4D059BJ00
4D059DA05
4D059EA20
4D059EB11
(57)【要約】
【課題】汚泥焼却設備においてリン焼結物による閉塞が生じることを低減させるための、汚泥焼却設備の運転方法に関し、より実用性が高い方法の提供。
【解決手段】汚泥焼却設備1におけるリン焼結物による閉塞防止運転の最適化方法であって、汚泥中のリンに対するカルシウムの割合が、汚泥焼却設備1に応じて定められた基準値以上となるように、消石灰スラリーを添加すること(16)によって、汚泥を調整することを特徴とする、方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚泥焼却設備におけるリン焼結物による閉塞防止運転の最適化方法であって、
汚泥中のリンに対するカルシウムの割合を示す指標値が、各汚泥焼却設備に応じて定められた基準値以上となるように、消石灰スラリーを添加することによって、汚泥を調整することを特徴とする、方法。
【請求項2】
汚泥に添加する消石灰スラリーが、40wt%以上の濃度の消石灰スラリーであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
汚泥の焼却灰を成分分析し、当該分析結果に基づく下記(1)~(3)の式で示される成分の物質量の比率を前記指標値とし、当該指標値が、それぞれの式に定められた基準値を下回らないように、消石灰スラリーを汚泥に添加することを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
Ca/P・・・(1)
(Ca+Al)/P・・・(2)
Ca/(Fe+P)・・・(3)
【請求項4】
汚泥に対する消石灰スラリーの添加量を下記の式(4)に基づいて算出することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
消石灰スラリーの添加量=[リンに対するカルシウムの不足比率×焼却灰1kg当たりに含まれるリンの物質量(mol/kg-Dry)×カルシウムの原子量(g/mol)×カルシウムに対する消石灰の重量比]/消石灰に対する消石灰スラリーの重量比率・・・(4)
上記式において、「リンに対するカルシウムの不足比率」は、前記式(1)~(3)の値のそれぞれの基準値に対する差分である。
【請求項5】
投入汚泥の重量に対する焼却灰の重量の割合を指標として、消石灰スラリーの添加量を増減させることを特徴とする、請求項1から4の何れかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚泥焼却設備におけるリン焼結物による閉塞を防止するための運転の最適化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下水を処理するための水処理(活性汚泥法)において生じた汚泥の処理として、焼却炉による焼却が行われている。この汚泥焼却工程において、排ガス中に含まれるN2OやNOXを低減すること等の要請から、焼却温度が高温化されている(例えば850℃以上)。
一方で、焼却温度の高温化により、汚泥に含まれるリン酸由来の物質が溶融して飛散し、これが焼却設備の装置内(煙管等)で付着、堆積して閉塞を生じさせるといった問題が生じ易くなる傾向となる。
このような問題に対する技術が、特許文献1や2によって開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5711348号公報
【特許文献2】特許第5881260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、上記問題に対して、汚泥中に含まれるリン酸に対して十分な量の塩基類を含ませることにより、840℃~900℃の温度域で溶融しやすいリン化合物の生成を抑制できることが記載されている。そのための汚泥の管理の指標として、脱水汚泥を焼却炉に供給する前に分析して、
{Na(mol)+K(mol)+Ca(mol×2)+Mg(mol×2)+Al(mol×3)+Fe(mol×3)}/P(mol×3)
若しくは、
{Na(mol)+K(mol)+Ca(mol×2)+Mg(mol×2)+Al(mol×3)+Fe(mol×3)+Cu(mol)+Zn(mol)+Ba(mol×2)}/P(mol×3)
の値が1以上又は1.05以上となるように、少なくともFeイオン、Alイオン、Caイオンのうちのいずれか1種以上を含有する塩基物質の添加もしくは増量によって汚泥の成分を調整することができると記載されている。ここで、特許文献1では、添加する塩基物質として、ポリ鉄(ポリ硫酸第二鉄)とPAC(ポリ塩化アルミニウム)が特に望ましいとされており、実際に実験結果が示されているものも、ポリ鉄とPACのみである。
特許文献2にも、所定量の下水汚泥における、高融点のリン化合物を形成可能な複数の金属元素(具体的には、焼却灰に含まれているFe2O3(酸化第二鉄)、Al2O3(酸化アルミニウム)、CaO(酸化カルシウム)、MgO(酸化マグネシウム))の量(結合可能量)と、リン(具体的には、焼却灰に含まれているP2O5(五酸化二リン))の量(包含量)を特定し、これらの結合可能量と包含量の比によって焼却炉の閉塞危険性を評価する評価指標を算出することの記載がある。特許文献2では、閉塞を防止するために汚泥に添加する薬剤として、鉄含有薬剤(例えばポリ硫酸第二鉄)が示されている。
【0005】
本発明は、汚泥焼却設備においてリン焼結物による閉塞が生じることを低減させるための、汚泥焼却設備の運転方法に関し、より実用性が高い方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(構成1)
汚泥焼却設備におけるリン焼結物による閉塞防止運転の最適化方法であって、汚泥中のリンに対するカルシウムの割合を示す指標値が、各汚泥焼却設備に応じて定められた基準値以上となるように、消石灰スラリーを添加することによって、汚泥を調整することを特徴とする、方法。
【0007】
(構成2)
汚泥に添加する消石灰スラリーが、40wt%以上の濃度の消石灰スラリーであることを特徴とする構成1に記載の方法。
【0008】
(構成3)
汚泥の焼却灰を成分分析し、当該分析結果に基づく下記(1)~(3)の式で示される成分の物質量の比率を前記指標値とし、当該指標値が、それぞれの式に定められた基準値を下回らないように、消石灰スラリーを汚泥に添加することを特徴とする構成1又は2に記載の方法。
Ca/P・・・(1)
(Ca+Al)/P・・・(2)
Ca/(Fe+P)・・・(3)
【0009】
(構成4)
汚泥に対する消石灰スラリーの添加量を下記の式(4)に基づいて算出することを特徴とする、構成3に記載の方法。
消石灰スラリーの添加量=[リンに対するカルシウムの不足比率×焼却灰1kg当たりに含まれるリンの物質量(mol/kg-Dry)×カルシウムの原子量(g/mol)×カルシウムに対する消石灰の重量比]/消石灰に対する消石灰スラリーの重量比率・・・(4)
上記式において、「リンに対するカルシウムの不足比率」は、前記式(1)~(3)の値のそれぞれの基準値に対する差分である。
【0010】
(構成5)
投入汚泥の重量に対する焼却灰の重量の割合を指標として、消石灰スラリーの添加量を増減させることを特徴とする、構成1から4の何れかに記載の方法
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、より実用性が高い、汚泥焼却設備におけるリン焼結物による閉塞防止運転の最適化方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る実施形態の、汚泥焼却設備におけるリン焼結物による閉塞防止運転の最適化方法を適用する汚泥焼却設備の構成の概略を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化する際の一形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。
【0014】
本実施形態は、汚泥焼却設備におけるリン焼結物による閉塞防止運転の最適化方法に関し、汚泥の焼却によって汚泥に含まれるリン酸由来の物質が溶融して飛散し、これが汚泥焼却設備の装置内(煙管等)で付着、堆積して閉塞を生じさせるといった問題を低減させるために行われる汚泥焼却設備の運転の最適化方法である。
特許文献1や2においても記載されているように、従来、汚泥中に含まれる塩基物質(高融点のリン化合物を形成可能な複数の金属元素)の合計量と、リンの量との比率によって、汚泥焼却設備に閉塞が生じる危険性の度合いを評価することが行われている。また、特許文献1や2には、この評価に基づき、リンに対して塩基物質(高融点のリン化合物を形成可能な複数の金属元素)が足りないと判断された場合に、塩基物質を汚泥に添加することの記載がある。しかしながら、実際に添加剤としての結果が示されているものは、ポリ鉄(ポリ硫酸第二鉄)とPAC(ポリ塩化アルミニウム)だけである。
即ち、理論的には、「リンに対して塩基物質(高融点のリン化合物を形成可能な複数の金属元素)が足りないと判断された場合に、不足分の塩基物質を汚泥に添加すること」によって、汚泥焼却設備の閉塞が防止できるとされているが、実際には、汚泥の調整のための添加剤としてはポリ鉄とPACに関する運用実績しかない状態である。また、閉塞が生じる危険性の度合いを評価する指標としても、汚泥中に含まれる塩基物質の“合計量”と、リンの量との比率に基づいて算出するという概念しか存在していない。
【0015】
このような状況に対して、本願の発明者らは、複数の実際の汚泥の汚泥焼却設備の運用実績の詳細な分析や、経験及び試行等に基づいて、実際の設備での運用においては、汚泥の調整をカルシウムによって行うこと(特に消石灰スラリーを用いること)が有用であり(後に説明する実験でも明らかになるように、カルシウムは、リンを固定している他の塩基物質例えば、Alに比べ、固定効果が優れている)、且つ、指標としても汚泥中のリンに対するカルシウムの割合をベースとして、これに基づいて判断することで高い実用性が得られることを見出した。
【0016】
より具体的には、先ず、汚泥焼却設備に閉塞が生じる危険性の度合いを示す指標値として、汚泥の焼却灰を成分分析し、当該分析結果に基づく下記(1)~(3)の式で示される成分の物質量の比率を求める。
Ca/P・・・(1)
(Ca+Al)/P・・・(2)
Ca/(Fe+P)・・・(3)
【0017】
式(1)~(3)のそれぞれには、閉塞が生じる危険性を示す基準値が予め定められている。
当該基準値は、各汚泥焼却設備ごとに定められる値であり、各汚泥焼却設備において実験的に定められる値である。即ち、実際の運転において、閉塞が起こった(リン酸由来の物質の堆積が認められた)場合と、閉塞が起こらなかった(リン酸由来の物質の堆積が認められなかった)場合に基づいて、式(1)~(3)の条件出しを行う(閉塞が起こらなかった場合に基づいて各式の閾値(基準値)を定める)ものである。例えば、あるサイトにおける実際の運転において(Ca+Al)/Pの値が0.7以上で閉塞が生じない(リン酸由来の物質の堆積が認められない)ことが確認されたのであれば、そのサイトにおける式(2)の基準値を0.7と定める等である。
なお、式(3)では、鉄とリンの物質量の合計に対するカルシウムの割合を指標としている。即ち、従来の方法では分子に加えられていた鉄の含有量が、分母に加えられた形となっている。汚泥焼却炉において鉄が一定値を超えるとクリンカの要因となり、閉塞の一因となるため(即ち、鉄は閉塞物質と評価できるため)、分母に鉄を取り込んだ評価値としているものである。
【0018】
汚泥の焼却灰を成分分析した結果に基づいて算出される式(1)~(3)の何れかの指標値が、それぞれの式の基準値を下回っている場合には、消石灰スラリーを汚泥に添加することによって、式(1)~(3)の値が基準値を下回らないようにすることで、閉塞が生じることを防止することができる。
この際の消石灰スラリーの添加量は、下記の式(4)に基づいて算出することができる。なお、下記式(4)によって算出される「消石灰スラリーの添加量」は、焼却灰1t当たりの量に対して添加すべき消石灰スラリーの重量(kg)である。即ち、汚泥焼却設備から排出される焼却灰の重量を直接又は間接的に測定して、この焼却灰の重量に下記式(4)によって算出された値を乗じることで得られた消石灰スラリーの添加量を、汚泥に添加するものである。または、灰の発生率(灰発生量(t)/脱水汚泥投入量(t)*100)は、基本的には一定範囲内(例えば、2.5%程度)であるため、これに基づいて、投入する脱水汚泥の重量に対して添加すべき消石灰スラリーの重量を把握することができる。
消石灰スラリーの添加量=[リンに対するカルシウムの不足比率×焼却灰1kg当たりに含まれるリンの物質量(mol/kg-Dry)×カルシウムの原子量(g/mol)×カルシウムに対する消石灰の重量比]/消石灰に対する消石灰スラリーの重量比率・・・(4)
上記式において、「リンに対するカルシウムの不足比率」は、前記式(1)~(3)の値のそれぞれの基準値に対する差分である。例えば、汚泥の焼却灰を成分分析した結果に基づいて算出される式(2)の値が0.6であり、基準値が0.7であった場合、「リンに対するカルシウムの不足比率」は、0.7-0.6=0.1である。
また、「カルシウムに対する消石灰の重量比」は、消石灰の分子量(g/mol)÷カルシウムの原子量(g/mol)である。なお、(mol/kg-Dry)は乾燥重量当たりの物質量である。
【0019】
上記に基づいて算出される量の消石灰スラリーを汚泥に対して添加して、汚泥を調整することによって、汚泥焼却設備に閉塞が生じる危険性を低減することができる。
なお、基準値に満たない指標値(式(1)~(3)によって算出される値)が複数ある場合には、それぞれにおいて式(4)で算出される消石灰スラリーの添加量のうち、最も大きな値に基づいて消石灰スラリーを添加するようにすればよい。
【0020】
図1は、本実施形態の汚泥の調整方法を適用する汚泥焼却設備の構成の概略を示すブロック図である。
汚泥焼却設備1は、下水を処理する水処理施設(特に図示せず)に隣接しており、水処理施設から脱水ケーキ(脱水汚泥)を受け入れるケーキ貯留ホッパ11と、脱水ケーキを圧送するケーキ投入ポンプ13と、ケーキ投入ポンプ13へ脱水ケーキを投入するケーキ投入ポンプフィーダ12と、脱水汚泥を焼却する焼却炉15と、焼却炉へ脱水汚泥を投入するケーキ投入機14と、消石灰スラリーを脱水汚泥に添加する消石灰スラリー注入機16とを備えている。ケーキ投入ポンプ13は、定量ポンプであり、従って、ここで搬送される脱水汚泥の量が規定される(これに基づいて、脱水汚泥の重量を把握する(体積から重量に換算する)ことが可能であり、当該脱水汚泥の重量に応じて、前記説明した割合の消石灰スラリーが投入されることになる)。なお、上記した「汚泥の焼却灰の成分分析」のための焼却灰のサンプリングは、焼却炉15から排出される焼却灰を任意の箇所でサンプリングすることによって行うことができる。
ケーキ貯留ホッパ11~焼却炉15は、脱水汚泥を焼却する従来の任意の設備であって良いため、ここでのこれ以上の説明は省略する。また下水を活性汚泥法等によって処理する水処理施設についても公知のものであるため、ここでの説明を省略する。
【0021】
消石灰スラリー注入機16は、消石灰スラリーが貯蔵されるタンク部と、投入する消石灰スラリーの重量を計量する計量部と(直接的に重量を計量するものであってもよいし、例えば流量計に基づいて体積を計量してこれに基づいて重量を算出するもの等であってもよい)、消石灰スラリーを脱水汚泥に投入する液送部(例えば定量ポンプを用いることで、計量部と液送部を一体的に構成するもの等であってよい)と、を備える。消石灰スラリー注入機16は、前述した方法によって算出された量の消石灰スラリーを汚泥に対して添加するものである。
なお、本実施形態では、ケーキ投入ポンプフィーダ12において、脱水汚泥に対して消石灰スラリーを添加するものを例としている。これによれば脱水汚泥と消石灰スラリーがケーキ投入ポンプ13内で混錬された状態となり好ましいものであるが、本発明をこれに限るものでは無く、焼却炉に投入する前の、脱水汚泥に対して消石灰スラリーを添加できる任意の箇所において、消石灰スラリーを添加するものであってよい。
【0022】
本実施形態の汚泥の調整方法によれば、カルシウムの添加を消石灰スラリー(懸濁液)によって行うようにしているため、比較的容易に正確な量の添加を安全に行うことができる(例えば定量ポンプ等を使用して機械的に正確な量を添加することが容易である)という優れた作用効果を奏する。即ち、粉体の消石灰は粒度が細かく取り扱い時に飛散し、薬品暴露の危険性が高いことから防護具の装着などが必須となる等の問題や、粉体を機械的に正確に添加しようとすると、構造が複雑化(高コスト化)する等の問題があるが、消石灰スラリーを用いることで、このような問題が解消されるものである。
【0023】
次に、汚泥の焼却灰へのリンの固定化に関する実験(リンを溶出させず安定化するリン固定化試験)について説明する。リン固定化試験は、汚泥に含まれているリンの量と、汚泥の焼却後の焼却灰に含まれているリンの量を比較し、両者の変化が小さい場合にはリンが飛散しておらず(リンが固定化されており)、汚泥焼却設備を閉塞させる危険性が小さいと評価できると考えられるため、“汚泥の焼却灰へのリンの固定化”としてこれを評価しようとするものである。
【0024】
<試験内容、条件>
浜松市西遠浄化センターより入手した脱水汚泥100g(含水率75wt%~76wt%)を110℃で加熱し、残った量に対して消石灰は0.99wt%、PACは3.62wt%となるように各薬剤を添加した(何れも重量比)。なお、消石灰0.99wt%、PAC3.62wt%は、脱水汚泥に含有されるリンの高融点化に必要なカルシウム量を消石灰の量として換算、若しくは、必要なアルミニウム量をPACの量として換算したものである。添加した薬剤は、45wt%の消石灰スラリー、25wt%の消石灰スラリー、粉末消石灰、PACであり、無添加(ブランク)条件でも行った。なお、45wt%の消石灰スラリー、25wt%の消石灰スラリー、粉末消石灰については、含まれる消石灰の重量が、前述の割合(0.99%)となるように添加した。
各薬剤を混練し磁性皿に移し以下の焼成条件(表1)で加熱した。なお、段階4は、段階3(900℃で30分加熱)の後、300℃になるまで自然放冷したものである。
【0025】
【0026】
図2に、加熱後の状態を示した。
図2において、それぞれ、(a):45wt%の消石灰スラリー、(b):25wt%の消石灰スラリー、(c):粉末消石灰、(d):PAC、(e):無添加(ブランク)のものを示す。
【0027】
加熱後、以下の1、2の操作を行い、汚泥(焼成前)100g中に含まれるリンの総量を、酸化リン(P2O5)換算で算出(3,4)した。
1.焼成灰1gに30%硝酸を4ml加え、純水にて50gに調整
2.1を濾過し、ろ液中のリン酸濃度をICP発光分光分析法(重金属測定分析器)にて測定
3.2の測定値から、元の汚泥100g中に含まれるリンの重量をP2O5換算で算出
4.焼成していない脱水汚泥中に含まれるリンの重量をP2O5換算で算出した重量と、焼成灰中のリンの重量をP2O5換算で算出した重量を比較して、固定化率(焼却によって気化せずに灰に残ったP2O5)を「リン固定化率」として算出
【0028】
<試験結果>
表2に、添加剤ごとに焼成灰中のリン濃度測定結果と、リン固定化率を示す。
なお、表2中の脱水汚泥の蘭は、前述の脱水汚泥を110℃乾燥させ、乾燥させた汚泥1gを30%硝酸4mlに溶き、純水で50gに調整したサンプルの測定結果である。
また、表2中の「ICP分析値」は、50ml中のリン濃度であり、「P2O5換算」は、元々の汚泥100g中に含まれるリンの重量をP2O5換算した値である。「リン固定化率」は脱水汚泥中のP2O5重量のうち、どれだけのリンを反応させたかで表し、以下の式で算出した。
リン固定化率(%)=各サンプルのP2O5換算(mg/100g)÷脱水汚泥のP2O5換算(mg/100g)×100
例えば、脱水汚泥中のP2O5の重量が57.92、無添加での焼成後のP2O5重量が54.92であるため、無添加サンプルでは(57.92-54.92)=3mgのP2O5が焼成により昇華したと判断し、固定化率は54.92/57.92×100=94.8%となる。
【0029】
【0030】
上記の試験結果より消石灰スラリーを使用することで脱水汚泥中のリンが固定化され、閉塞の要因とされる気化するリンを抑制する効果があると言える。
また、アルミニウム(PAC)添加よりも、カルシウム(消石灰(水酸化カルシウム))の添加の方が、リンの固定化率が高い(即ち閉塞防止効果が高い)と言える。
加えて、消石灰スラリーとして一般的な濃度である25wt%の消石灰スラリーより、高濃度の45wt%の消石灰スラリーの方が、リンの固定化率が高くなっている。
高濃度の消石灰スラリーを用いることで、添加される水分量も低減されるため、焼却炉の運用上(熱効率)においても好もしいものであり、40wt%以上の濃度の高濃度消石灰スラリーを用いると好ましい。
【0031】
前述のように、従来は、汚泥の調整のための添加剤としてはポリ鉄とPACに関する運用実績しかない状態である。
しかしながら、鉄化合物は、クリンカ(焼塊)を生じさせる原因となり得るものであり、実際の設備での運用を考えた場合に、ポリ鉄を添加剤として加えることは好ましいものではない。即ち、前述したように、鉄化合物は逆に閉塞物質となり得るものであり、本実施形態においては、式(3)に示されるように、Feは分母に入っている。加えて、ポリ鉄は腐食性が高い薬品であり機器の腐食(劣化)の観点からも望ましくない。
また、上記実験で示されるように、アルミニウム(PAC)添加よりも、カルシウム(消石灰)の添加の方が優れている点が、本願によって初めて示された。
本実施形態の汚泥焼却設備におけるリン焼結物による閉塞防止運転の最適化方法(汚泥の調整方法)によれば、従来は実証されていなかった、汚泥焼却設備の閉塞を防止することを目的とした汚泥の調整のための薬剤としてのカルシウム(特に消石灰スラリーを用いること)の有用性を利用しているため、非常に好適である(より実用性が高い)。
また、指標としても汚泥中のリンに対するカルシウムの割合をベースとして、これに基づいて判断をすることで高い実用性が得られるため、運用上好ましい。即ち、従来のごとく、汚泥中に含まれる塩基物質の“合計量”と、リンの量との比率に基づいて指標を算出する場合に比べ、分析しなければならない成分が少なくて済むため、より実用性が高いものである。
【0032】
なお、上記の汚泥焼却設備におけるリン焼結物による閉塞防止運転の最適化方法(汚泥の調整方法)において、さらに、灰発生率(投入汚泥の重量に対する焼却灰の重量の割合)に応じて消石灰スラリーの添加量を調整するようにしてもよい。
前述したごとく、通常の汚泥であれば灰の発生率は一定範囲内(例えば2.5%程度)で推移するが、設備内に灰が堆積しているような状況下では、灰の発生率が低下する。よって、灰の発生率に基づいて、汚泥焼却設備の閉塞の危険性を評価する指標とし得るものである。
灰発生率が低下した場合、焼却炉内に灰が残留していると考えられ、消石灰スラリーの添加量を増加させることで残留している焼却灰を炉外へ排出させる効果がある。一方で過剰に消石灰を添加した場合、灰発生率が一定値よりも上昇しなくなる。このような場合には焼結リスクは低いと判断でき、消石灰添加率を下げる(消石灰スラリーの添加量を低減する)もしくは添加を停止する。
灰発生率を指標とする場合の具体的な数値については、各汚泥焼却設備において実験的に定められる値である。実験的に定められた所定の値を閾値(上限側、下限側)とし、灰発生率が閾値(上限側)を超えた場合には石灰スラリーの添加量を減少させ、灰発生率が閾値(下限側)を下回った場合には石灰スラリーの添加量を増加させる。
灰発生率を指標とする場合の具体例としては、例えば、通常の灰発生率が2.5%程度である場合に、灰発生率が2.7%以上を3時間継続した場合は、過剰添加と判定し消石灰スラリーの添加量を15%減少させ、さらに灰発生率が3.7%以上となる場合は、閉塞の危険性は「極小」と判定し、添加を停止する。消石灰スラリー添加停止中に、灰発生率が2.7%未満まで減少してきたら添加を再開させる。一方、灰発生率が1.9%以下を3時間継続した場合は、添加不足と判定し添加量を15%増加させる、といったようなものである。
【符号の説明】
【0033】
1...汚泥焼却設備
11...ケーキ貯留ホッパ
12...ケーキ投入ポンプフィーダ
13...ケーキ投入ポンプ
14...ケーキ投入機
15...焼却炉
16...消石灰スラリー注入機