(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023037788
(43)【公開日】2023-03-16
(54)【発明の名称】静電吸着部材、静電吸着装置、及び静電吸着部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02N 13/00 20060101AFI20230309BHJP
【FI】
H02N13/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021144567
(22)【出願日】2021-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】599016431
【氏名又は名称】学校法人 芝浦工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】000006297
【氏名又は名称】村田機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100105946
【弁理士】
【氏名又は名称】磯野 富彦
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 忠大
(72)【発明者】
【氏名】中島 丈裕
(57)【要約】
【課題】対象物に対する吸着力をさらに高め、対象物をより確実に保持することが可能な静電吸着部材、静電吸着装置、及び静電吸着部材の製造方法を提供すること。
【解決手段】静電吸着部材10は、誘電体により形成され、対象物100の表面100fに対向する第1側11aに対象物100の表面に倣って変形可能な接触面11fを有する接触部材11と、接触部材11において第1側11aとは反対側の第2側11bに設けられ、接触部材11に電圧を印加可能な電極部20と、を備え、電極部20は、絶縁層25を挟んで積層された複数層の電極21A、21Bを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体により形成され、対象物の表面に対向する第1側に前記対象物の表面に倣って変形可能な接触面を有する接触部材と、
前記接触部材において前記第1側とは反対側の第2側に設けられ、前記接触部材に電圧を印加可能な電極部と、を備え、
前記電極部は、絶縁層を挟んで積層された複数層の電極を備える、静電吸着部材。
【請求項2】
前記電極部は、前記接触部材に接触して設けられ、前記接触部材とともに変形可能である、請求項1に記載の静電吸着部材。
【請求項3】
前記複数層の電極は、各層において、それぞれ第1電極と、前記第1電極に対して絶縁部材を介して配置された第2電極と、を備え、
前記電極部の積層方向から見て、複数の前記第1電極どうし、及び前記第2電極どうしがそれぞれ重なる、請求項1又は請求項2に記載の静電吸着部材。
【請求項4】
各層における前記第1電極、及び各層における前記第2電極は、同一又はほぼ同一形状である、請求項3に記載の静電吸着部材。
【請求項5】
前記積層方向から見て、複数の前記第1電極、及び複数の前記第2電極の外周縁がそれぞれ合致する、請求項4に記載の静電吸着部材。
【請求項6】
前記接触面は、前記第1側に突出する複数の凸部と、前記第2側に窪む複数の凹部の少なくとも一方を備える、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の静電吸着部材。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の静電吸着部材を備える、静電吸着装置。
【請求項8】
前記接触部材を支持する支持部材と、
前記接触部材が前記支持部材によって支持される被支持部分にて前記電極に一端が接続される配線と、を備える、請求項7に記載の静電吸着装置。
【請求項9】
前記複数層の電極に電圧を印加する電圧印加部を備える、請求項7又は請求項8に記載の静電吸着装置。
【請求項10】
対象物の表面に対向する第1側に前記対象物の表面に倣って変形可能な接触面を有する接触部材を誘電体により形成することと、
前記接触部材において前記第1側とは反対側の第2側に、前記接触部材に電圧を印加可能な電極部として、絶縁層を挟んで積層された複数層の電極を設けることと、を含む、静電吸着部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電吸着部材、静電吸着装置、及び静電吸着部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、対象物の表面に倣って変形可能な誘電体からなる接触部材と、接触部材に電圧を印加可能な一対の電極と、を備えた構成が開示されている。この構成において、接触部材の接触面は、凹部と凸部とが連続する凹凸部を有する。このような構成より、対象物に対する吸着力を高め、対象物を確実に保持することを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
重い対象物を吸着して搬送することが必要な状況があり、静電吸着による吸着力は、より一層大きくすることが望まれている。
【0005】
本発明は、対象物に対する吸着力をさらに高め、対象物をより確実に保持することが可能な静電吸着部材、静電吸着装置、及び静電吸着部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る静電吸着部材は、誘電体により形成され、対象物の表面に対向する第1側に対象物の表面に倣って変形可能な接触面を有する接触部材と、接触部材において第1側とは反対側の第2側に設けられ、接触部材に電圧を印加可能な電極部と、を備え、電極部は、絶縁層を挟んで積層された複数層の電極を備える。
【0007】
本発明の一態様に係る静電吸着装置は、上記態様の静電吸着部材を備える。
【0008】
本発明の一態様に係る静電吸着部材の製造方法は、対象物の表面に対向する第1側に対象物の表面に倣って変形可能な接触面を有する接触部材を誘電体により形成することと、接触部材において第1側とは反対側の第2側に、接触部材に電圧を印加可能な電極部として、絶縁層を挟んで積層された複数層の電極を設けることと、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様に係る静電吸着部材、静電吸着装置、及び静電吸着部材の製造方法によれば、絶縁層を挟んで積層された複数層の電極を備えるので、対象物に作用させる電界を強くすることができ、その結果、対象物に対する吸着力をさらに高め、対象物をより確実に保持することができる。
【0010】
また、上記態様の静電吸着部材において、電極部は、接触部材に接触して設けられ、接触部材とともに変形可能であってもよい。この態様によれば、電極部が接触部材とともに変形するので、接触部材が対象物の表面に倣って変形する追従性を高めることができる。また、上記態様の静電吸着部材において、複数層の電極は、各層において、それぞれ第1電極と、第1電極に対して絶縁部材を介して配置された第2電極と、を備え、電極部の積層方向から見て、複数の第1電極どうし、及び第2電極どうしがそれぞれ重なってもよい。この態様によれば、第1電極どうし、第2電極どうしが積層方向と直交する方向にずれることによって電気力線が打ち消されるのを抑え、吸着力を効率よく高めることができる。
【0011】
また、上記態様の静電吸着部材において、各層における第1電極、及び各層における第2電極は、同一又はほぼ同一形状であってもよい。この態様によれば、各層における第1電極及び第2電極の形状が同一なので、第1電極及び第2電極を容易に作成できる。また、上記態様の静電吸着部材において、積層方向から見て、複数の第1電極、及び複数の第2電極の外周縁がそれぞれ合致してもよい。この態様によれば、第1電極どうし、第2電極どうしの積層方向と直交する方向のずれを最小限に抑え、吸着力をより一層高めることができる。また、上記態様の静電吸着部材において、接触面は、第1側に突出する複数の凸部と、第2側に窪む複数の凹部の少なくとも一方を備えてもよい。この態様によれば、接触面の凸部、凹部が対象物の表面の粗面に馴染む割合が高くなり、接触面積が大きくなる。その結果、対象物に対する吸着力(静電吸着力)が大きくなり、対象物を強固に吸着して、対象物を確実に保持することができる。
【0012】
また、上記態様の静電吸着装置において、接触部材を支持する支持部材と、接触部材が支持部材によって支持される被支持部分にて電極に一端が接続される配線と、を備えてもよい。この態様によれば、対象物の表面にならって接触部材が変形した状態でも、支持部材によって接触部材が支持される被支持部分では、接触部材の変形量が少なくなる。従って、接触部材に一端が接続される電極が、接触部材から剥がれるのを抑えることができる。また、上記態様の静電吸着装置において、複数層の電極に電圧を印加する電圧印加部を備えてもよい。この態様によれば、電圧印加部で複数層の電極に電圧を印加することによって、接触部材に大きな静電力を発生させ、対象物を強固に吸着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態に係る静電吸着部材の一例を示す図である。
【
図2】静電吸着部材における接触部材の接触面に形成された凸部の断面の一例を示す図である。
【
図3】接触面に形成された凸部を接触面に直交する方向から見た図である。
【
図4】静電吸着部材における接触部材の接触面に形成された凹部の断面の一例を示す図である。
【
図6】静電吸着部材における第1電極、第2電極の一例を示す平面図である。
【
図7】静電吸着部材に生じる電気力線を模式的に示す図である。
【
図8】接触部材の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図9】接触部材を形成するための転写型の構成を示す断面図である。
【
図10】転写型に窪みを形成する手順を示す図であり、転写面上に感光膜を形成した状態を示す断面図である。
【
図11】転写型に窪みを形成する手順を示す図であり、第2感光膜を形成した状態を示す断面図である。
【
図12】転写型に窪みを形成する手順を示す図であり、第2感光膜上にフォトマスクを配置した状態を示す断面図である。
【
図13】接触部材形成工程において、転写型の転写面上に、液状の誘電体材料を供給した状態を示す断面図である。
【
図14】転写面上において誘電体材料が固化することにより接触部材が作成された状態を示す断面図である。
【
図15】電極部形成工程において、1層目の電極を形成するため、電極パターン型を接触部材上にセットした状態を示す図である。
【
図16】電極パターン型に導電性材料を吹き付けた状態を示す断面図である。
【
図17】電極に金属材を載せた状態を示す断面図である。
【
図18】電極上に、絶縁層を形成した状態を示す断面図である。
【
図19】上記したような静電吸着部材を用いた静電吸着装置の一例を示す図である。
【
図20】静電吸着部材における接触部材の接触面を、対象物の表面に押し当てた状態を示す図である。
【
図21】静電吸着部材で吸着した対象物の一部を持ち上げた状態を示す図である。
【
図22】静電吸着部材で持ち上げた対象物をトレー上に載せた状態を示す図である。
【
図23】ダンボール容器の持ち上げ動作中の荷重の測定結果を示す図である。
【
図24】実施例1、2、比較例1、2のそれぞれにおいて、対象物を持ち上げた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。ただし、本発明は以下に説明する形態に限定されない。また、図面においては実施形態を説明するため、一部分を大きく又は強調して記載するなど適宜縮尺を変更して表現しており、実際の製品とは大きさ、形状等が異なっている場合がある。
図1は、実施形態に係る静電吸着部材10の一例を示す図である。
図1に示すように、本実施形態に係る静電吸着部材10は、例えば、ダンボール容器等の対象物100を静電吸着する。静電吸着部材10は、対象物100を吸着して保持する。
【0015】
なお、静電吸着部材10は、対象物100として、ダンボール容器に限らず、例えば、ベニヤ板やコンクリート等、粗面を有する対象物を吸着保持することが可能である。また、粗面を有した対象物に限らず、平滑な表面を有する対象物100を吸着して保持するために、この静電吸着部材10を用いることが可能である。
【0016】
静電吸着部材10は、接触部材11と、電極部20と、を備える。接触部材11は、誘電体により形成される。接触部材11は、対象物100の表面100fに対向する第1側11aに、表面100fに接触する接触面11fを有する。接触部材11は、第1側11aと反対側の第2側11bとを結ぶ方向(厚み方向)から見て、例えば、一辺が10mm~500mmの矩形状に設定されている。接触部材11は、厚み方向から見て、円形状であってもよい。この場合、接触部材11は、例えば外径が10mm~500mm程度に設定されてもよい。接触部材11の厚みは、例えば、厚さ30μm~800μm程度に設定されている。本実施形態では、接触部材11は、例えば、100μm程度の厚さを有している。
【0017】
接触部材11は、少なくとも接触面11fが対象物100の表面100fに倣って変形可能である。本実施形態では、静電吸着部材10は、その全体が、対象物100の表面100fに倣って変形可能であるが、この形態に限定されない。例えば、接触部材11の第1側11aと、その反対側の第2側11bとを結ぶ方向(接触面11fに直交する方向)において、接触面11f側の一部のみが、対象物100の表面100fに倣って変形可能であってもよい。
【0018】
接触部材11は、誘電体材料により形成され、誘電体としての性質と絶縁体としての性質とを兼ね備えている。誘電体は、分極を有する材料であり、絶縁体は、分極が起きない材料である。また、接触部材11は、対象物100の表面100fに倣って変形可能となる弾性、及び柔軟性を有する誘電体材料で形成されている。
【0019】
なお、誘電体材料は、形成された接触部材11を弾性的に変形可能とする材料に限定されない。例えば、接触部材11を形成する誘電体材料は、屈曲可能であるが実質的に弾性的に伸縮しない薄膜、層状体を形成するための材料が用いられてもよい。また、接触部材11を形成する誘電体材料は、例えば、10MPa未満の弾性率、特に1MPa未満の弾性率を有する柔軟性を有しているのが好ましい。
【0020】
このような誘電体材料としては、例えば、ゴム系材料、樹脂系材料等が挙げられる。より具体的には、接触部材11を形成する誘電体材料としては、架橋性のゴム、非架橋性の熱可塑性エラストマ、軟質樹脂等が挙げられる。接触部材11を形成する誘電体材料として用いられる架橋性のゴムには、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリルゴム(ACM)、クロロスルホルン化ポリエチレンゴム(CSM)、ウレタンゴム(U)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)、エピクロルヒドリンゴム(CO)、多硫化ゴム(T)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等がある。
【0021】
また、接触部材11を形成する誘電体材料として用いられる非架橋性の熱可塑性エラストマには、例えば、スチレン系、オレフィン系、ウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリイミド系、塩ビ系、フッ素系、アクリル系等の各種の熱可塑性エラストマ等が挙げられる。また、接触部材11を形成する誘電体材料として用いられる軟質樹脂には、例えば、エチレン酢酸ビニル樹脂(EVA)、軟質ポリエステル樹脂、低密度ポリエチレン、ポリウレタン(PU)、ポリプロピレン(PP)、アクリル樹脂等の、それ自体が軟質である樹脂が挙げられ、さらに、各種の樹脂に可塑剤を添加して軟質化したもの等、種々の軟質樹脂等が適用可能である。また、接触部材11を形成する誘電体材料には、ガラス繊維又は炭素繊維等を用いた繊維強化プラスチック(FRP)をはじめとする各種の複合材料、ガラス、セラミック等を含ませてもよい。
【0022】
図2は、静電吸着部材10における接触部材11の接触面11fに形成された凸部14の断面の一例を示す図である。
図3は、接触面11fに形成された凸部14を接触面11fに直交する方向から見た図である。
図2、
図3に示すように、接触部材11の接触面11fは、凸部14を有する。凸部14は、接触面11fの面方向に対して垂直方向に突出している。凸部14は、接触面11fの全面にわたって、接触面11fの面方向に適宜の間隔をあけて複数形成されている。凸部14は、接触面11fに直交する方向から見て、例えば円形に形成されている。本実施形態において、凸部14は、例えば、直径60μmの円形で、高さ5μmで形成されている。凸部14を、接触面11fに直交する方向から見たときの形状、接触面11fからの突出寸法は、何ら限定するものではなく、対象物100の表面100fの粗面状態、材質等に応じて適宜設定することができる。凸部14は、接触面11fの面方向に沿って規則的に連続して形成されていてもよいし、規則性を有さず、不規則(ランダム)に形成されてもよい。
【0023】
なお、上記においては、接触部材の接触面11fに凸部14を備えるようにしたが、これに限らない。
図4は、静電吸着部材10における接触部材11の接触面11fに形成された凹部15の断面の一例を示す図である。
図4に示すように、接触面11fに、凸部14に代えて凹部15を備えるようにしてもよい。凹部15は、接触面11fの面方向に対して垂直方向に窪んでいる。さらに、接触面11fに、凸部14と凹部15とを備えるようにしてもよい。
【0024】
図5は、静電吸着部材10の構成を示す断面図である。
図5に示すように、電極部20は、接触部材11において第1側11aとは反対側の第2側11bに設けられている。電極部20は、後述する電圧印加部40によって印加される電圧により、接触部材11の接触面11fに静電吸着力を発生させる。
【0025】
電極部20は、接触部材11の第2側11bに、接触部材11に接触して設けられている。電極部20は、少なくとも一部が接触部材11中に埋没していてもよい。電極部20は、接触面11fに直交する方向(以下、この方向を積層方向Dと適宜称する)に積層された複数層の(2層の)電極21A、21Bを備える。本実施形態において、電極部20は、2層の電極21A、21Bを備える。電極部20は、2層に限らず、3層、または4層以上の電極を積層して備える構成としてもよい。
【0026】
複数層の電極21A、21Bは、絶縁層25を挟んで積層されている。複数層の電極21A、21Bは、各層において、それぞれ第1電極22と、第2電極23と、を備える。第1電極22、および第2電極23は、複数層の電極21A、21Bの積層方向Dに直交する面(接触面11fと平行な面)に沿って設けられている。
【0027】
図6は、静電吸着部材10における第1電極22、第2電極23の一例を示す平面図である。
図6に示すように、各層の電極21A、21Bを構成する第1電極22、第2電極23は、それぞれ、電極基部22a、23aと、複数の電極延伸部22b、23bと、を有した、いわゆる櫛形電極である。電極基部22aと電極延伸部22bのそれぞれと、電極基部23aと電極延伸部23bのそれぞれとが、電気的に接続されている。複数の電極延伸部22b、23bは、電極基部22a、23aが延びる電極幅方向Daに間隔をあけて設けられている。各電極延伸部22b、23bは、電極幅方向Daに直交する電極長方向Dbに延びている。第1電極22に形成された電極延伸部22bは、電極基部22aから、第2電極23の電極基部23aに向かって電極長方向Dbに延びている。第2電極23に形成された電極延伸部23bは、電極基部23aから、第1電極22の電極基部22aに向かって電極長方向Dbに延びている。このように、第1電極22、第2電極23は、平面視において互いに間隔をあけて対向するように配置されている。本実施形態では、電極幅方向Daと電極長方向Dbとは直交関係にある。
【0028】
第1電極22の各部と、第2電極23の各部とは、絶縁部材26を介して配置されている。第1電極22の電極延伸部22bは、第2電極23において電極幅方向Daで互いに隣り合う2つの電極延伸部23bの間に配置されている。また、第2電極23の電極延伸部23bは、第1電極22において電極幅方向Daで互いに隣り合う2つの電極延伸部22bの間に配置されている。その結果、第1電極22の電極延伸部22bと、第2電極23の電極延伸部23bとは、電極幅方向Daに間隔をあけて交互に配置されている。
【0029】
第1電極22、第2電極23において、電極幅方向Daで隣り合う電極延伸部22b、23bが複数組設けられることが好ましい。また、第1電極22、第2電極23において、電極幅方向Daにおいて互いに隣り合う電極延伸部22b、23bを、2組以上備えることが好ましい。また、第1電極22、第2電極23において、電極幅方向Daにおいて互いに隣り合う電極延伸部22b、23bを3組以上備えることが特に好ましい。なお、第1電極22、第2電極23において、電極幅方向Daで隣り合う電極延伸部22b、23bの数(組数)は、静電吸着部材10の外形寸法、対象物である対象物100の重量、表面100fの粗さ等に応じて適宜に選択される。
【0030】
複数層の電極21A、21Bの積層方向Dから見て、各層の複数の第1電極22どうし、及び第2電極23どうしはそれぞれ重なっている。積層方向Dから見て、各層の複数の第1電極22どうし、及び第2電極23どうしは、それぞれ同極のものが積層されている。各層における第1電極22、及び各層における第2電極23は、同一又はほぼ同一形状である、本実施形態において、各層における第1電極22、及び各層における第2電極23は、同一形状である、積層方向Dから見て、複数の第1電極22、及び複数の第2電極23の外周縁は、それぞれ合致している。つまり、複数層の電極21A、21Bで、第1電極22、第2電極23の形状、大きさ、及び位置が一致しており、積層方向Dに直交する方向(交差する方向)への位置ずれが極めて小さい。
【0031】
このような第1電極22、第2電極23は、接触部材11とともに変形可能となっている。このため、第1電極22、第2電極23は、例えば、カーボンブラック、各種の金属材料を含む導電性材料が膜厚200μm以下に形成された薄膜状であることが好ましい。第1電極22、第2電極23をカーボンブラックにより形成する場合、その膜厚は、例えば20μm程度である。
【0032】
絶縁層25は、積層方向Dにおいて最も接触部材11側に位置する1層目の電極21Aと、2層目の電極21Bとの間に設けられている。絶縁層25は、積層方向Dにおいて接触部材11と、1層目の電極21Aとの間に設けられている。絶縁層25は、2層目の電極21Bにおいて、1層目の電極21Aとは反対側の面を覆うように設けられている。すなわち、2層の電極21A、21Bは、3層の絶縁層25に挟まれた状態で設けられている。絶縁層25は、絶縁性材料から形成されている。絶縁層25を形成する絶縁性材料としては、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリルゴム(ACM)、クロロスルホルン化ポリエチレンゴム(CSM)、ウレタンゴム(U)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)、エピクロルヒドリンゴム(CO)、多硫化ゴム(T)等が挙げられる。絶縁層25は、接触部材11、及び複数層の電極21A、21Bとともに弾性変形可能であることが好ましい。絶縁層25は、例えば、膜厚100~200μmとするのが好ましい。
【0033】
図5に示すように、複数層の電極21A、21Bの第1電極22、第2電極23どうしは、電気的に接続されている。例えば、複数層の電極21A、21Bの間で、第1電極22どうし、第2電極23どうしを、絶縁層25を貫通するよう設けられた貫通電極(ビア)等の導通部材24によって接続してもよい。また、接触部材11側と反対側の層の電極21Bの第1電極22、第2電極23には、それぞれ配線27が接続されている。配線27は、後述する電圧印加部40に接続される。また、各層の電極21A、21Bの第1電極22、第2電極23から、各層に沿って配線を側方に引き出し、電圧印加部40に接続するようにしてもよい。
【0034】
接触面11fは、第1電極22、第2電極23に電圧を印加することで発生する静電吸着力によって、対象物100の表面100fを吸着する。なお、接触面11fが対象物100の表面100fを吸着した状態において、対象物100と接触面11fとの間に生じるせん断摩擦力が、予め設定した基準値以上となるように、接触部材11の材料、凸部14の数、大きさ、突出寸法、材質等が設定されることが好ましい。このような接触面11fを有した静電吸着部材10は、対象物である対象物100に対して高い静電吸着力を有する。
【0035】
図1に示すように、静電吸着部材10は、支持部材30を備える。支持部材30は、樹脂等の絶縁性材料又は非導電性の材料により形成されている。また、支持部材30を導電性の金属材料等で形成した場合、支持部材30と静電吸着部材10との間に絶縁性材料を介在させる。支持部材30は、各種機械に着脱可能に装着される。静電吸着部材10において支持部材30によって保持された被支持部分11cは、静電吸着部材10の変形量が少ない。このため、前述の配線27を、接触部材11とともに変形する電極部20において、変形量が少ない支持部材30による被支持部分11cの近傍で第1電極22、第2電極23に接続するのが好ましい。被支持部分11cは、積層方向Dから見て、接触部材11の中央に配置され、第1電極22の一部、及び第2電極23の一部を含む領域に設定されている(
図6参照)。
【0036】
また、支持部材30に配線27を内蔵するとともに、静電吸着部材10に対向する部分に、接触部材11側と反対側の2層目の電極21Bの第1電極22、第2電極23に接続される接続端子(図示無し)を設けるようにしてもよい。静電吸着部材10は、支持部材30に対して着脱可能であってもよい。この形態により、静電吸着部材10を交換できる。なお、静電吸着部材10は、支持部材30に対して例えば、剥離可能な接着剤等により貼り付けられる。
【0037】
静電吸着部材10は、電圧印加部40により、電極部20に印加される。電圧印加部40は静電吸着部材10の接触部材11に対して電圧を印加する。電圧印加部40は、図示しない電源と配線27を介して電気的に接続されており、所定の電圧を各層の第1電極22、第2電極23に印加する。静電吸着部材10は、図示しないコントローラにより動作が制御され、電圧印加部40における電圧の印加についてもこのコントローラにより制御される。
【0038】
図7は、静電吸着部材10に生じる電気力線を模式的に示す図である。
図7に示すように、電圧印加部40により静電吸着部材10の電極部20の各層の第1電極22、第2電極23に電圧を印加すると、第1電極22と第2電極23との間に電気力線Sが発生する。発生した電気力線Sは、誘電体からなる接触部材11を貫通し、接触面11fに接触した対象物100の内部に到達する。対象物100の表面100fに到達した電気力線Sは、対象物100の内部に誘電分極を発生させて帯電させる。このため、静電吸着部材10と対象物100との間にクーロン力が発生し、接触部材11の接触面11fに、対象物100が静電吸着される。このようにして、接触部材11の接触面11fを対象物100の表面100fに接触させた状態で、静電力を発生させることにより、対象物100を接触部材11の接触面11fに吸着させることができる。
【0039】
このとき、静電力によって静電吸着部材10が対象物100を吸着した状態では、接触部材11の接触面11fが、対象物100の表面100fに倣って変形する。接触面11fに形成された凸部14により、対象物100の表面100fを形成する粗面の微細な凹凸に倣った状態となり、対象物100の表面100fと接触面11fとの接触面積が増大する。その結果、対象物100の表面100fに対する吸着力が高くなり、静電吸着部材10が対象物100を強固に吸着する。
【0040】
次に、上記したような静電吸着部材10の製造方法について説明する。
図8は、接触部材11の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図8に示すように、接触部材11の製造方法は、転写型製造工程S10と、接触部材形成工程S20と、電極部形成工程S30を含む。転写型製造工程S10は、接触部材11を形成するための転写型50を製造する工程である。
図9は、接触部材11を形成するための転写型50の構成を示す断面図である。
図9に示すように、転写型50は、例えば鉄、アルミ、SUS等の金属材料、ガラス系材料、樹脂系材料等からなる型本体51と、外枠部材52と、を備えている。型本体51は、所定の厚さを有した板状である。型本体51の上面は、接触部材11の接触面11fを形成するための転写面51fとなる。
【0041】
外枠部材52は、型本体51上に設けられている。外枠部材52は、転写面51fの外周側に、転写面51fから上方に突出しかつ転写面51fを取り囲むように設けられている。この外枠部材52は、その内側に平面視において接触部材11の外形形状に応じた形状の開口52aを有する。本実施形態において、外枠部材52は、平面視において矩形の枠状体で、開口52aは矩形状に形成されている。外枠部材52の厚さ(転写面51fから上方への突出高さ)は、形成する接触部材11の厚さと同一又はほぼ同一である。すなわち、形成する接触部材11の厚さは、外枠部材52の厚さにより設定される。
【0042】
転写面51fには、接触面11fの凸部14を形成するための窪み51kが形成される。窪み51kは、例えば、以下のようにして、感光性材料を用いたフォトグラフィ法によって、転写面51f上に所定のパターンで形成される。
図10は、転写型50に窪み51kを形成する手順を示す図であり、転写面51f上に感光膜53を形成した状態を示す断面図である。
図10に示すように、具体的には、転写面51f上に、感光性材料を塗布し、スピンコータ法によって均一な膜厚の感光膜53を形成する。このとき、転写面51fにプラズマ処理等を施し、感光膜53との密着性を高めるのが好ましい。続いて、感光膜53を露光し、下地となる層を形成する。
【0043】
図11は、転写型50に窪み51kを形成する手順を示す図であり、第2感光膜54を形成した状態を示す断面図である。
図12は、転写型50に窪み51kを形成する手順を示す図であり、第2感光膜54上にフォトマスク55を配置した状態を示す断面図である。
図11に示すように、露光された感光膜53上に、感光性材料を塗布し、スピンコータ法によって均一な膜厚の第2感光膜54を形成する。このときも、感光膜53にプラズマ処理等を施し、第2感光膜54との密着性を高めるのが好ましい。
【0044】
続いて、
図12に示すように、第2感光膜54上に、形成すべき凸部14に合わせて形成したフォトマスク55を配置し、露光を行う。その後、フォトマスク55を外し、現像処理を施すことで、
図9に示した複数の窪み51kが形成された転写型50が製作される。なお、本実施形態では、窪み51kを、転写面51f上に感光性材料を用いてフォトグラフィ法によって形成する構成としたが、これに限られない。窪み51kは、形成すべき凸部14の形状、寸法等によっては、各種の機械加工やモールド成形等の成形加工によって、転写面51fに一体に形成してもよい。
【0045】
図13は、接触部材形成工程S20において、転写型50の転写面51f上に、液状の誘電体材料を供給した状態を示す断面図である。接触部材形成工程S20では、転写型50を用いて接触部材11が作成される。接触部材形成工程S20では、
図8に示すように、転写型50の転写面51f上に、例えばPDMS等の液状の誘電体材料60を供給する。誘電体材料60は、外枠部材52の開口52aから内側の転写面51f上に供給される。誘電体材料60は、外枠部材52の上端と同じ高さ以上となる量が供給される。誘電体材料60は、ディスペンサ(図示無し)により転写面51f上に供給される。誘電体材料60は、例えばスピンコータ法により、転写型50が回転し、供給された誘電体材料60が遠心力によって転写面51f上で拡がる。スピンコータ法を用いることにより、転写面51f上において誘電体材料60が均一に拡がる。
【0046】
なお、接触部材形成工程S20では、スピンコータ法に代えて、スプレーコータ等、他の方法・装置が用いられてもよい。これらの装置を用いることによって、接触部材11の膜厚を、薄く均一に成形できる。静電吸着部材10において、電極部20から接触面11fまでの距離(すなわち接触部材11の膜厚)が、薄いほど静電吸着力は向上する。また、接触部材形成工程S20では、転写面51fと誘電体材料60との間に気泡が残るのを防止するため、転写型50が振動されてもよいし、誘電体材料60に向けてマイクロ波等が照射されてもよい。また、転写面51fにおける誘電体材料60の濡れ性を向上させるために、転写面51f上に親液膜が被膜されてもよい。
【0047】
続いて、転写面51f上に供給された誘電体材料60が固化する。誘電体材料60を固化するには、大気中において所定時間放置して自然乾燥させるだけでなく、誘電体材料60に応じた温度条件で加熱等を行ってもよい。また、転写型50を、減圧雰囲気に設定されたチャンバ等に収容し、減圧乾燥させてもよい。誘電体材料60が固化することにより、転写面51f上の外枠部材52の内側において、窪み51kを有した転写面51fのパターンが転写される。
【0048】
図14は、転写型50の転写面51fから接触部材11を取り出す状態を示す断面図である。その後、
図14に示すように、固化した接触部材11を、転写型50の外枠部材52及び転写面51fから取り外す。取り出された接触部材11には、転写面51fの窪み51kが転写された凸部14を有する接触面11fが形成される。接触部材11を取り出した後の転写型50には、再度液状の誘電体材料60を供給することにより、次の接触部材11を作成することができる。すなわち、転写型50は再利用できる。
【0049】
電極部形成工程S30では、接触部材11の第2側11bに、電極部20を形成する。電極部形成工程S30は、電極パターン形成工程S31と、絶縁層形成工程S32と、を備える。
図15は、電極部形成工程S30において、1層目の電極21Aを形成するため、電極パターン型70を接触部材11上にセットした状態を示す図である。まず、接触部材形成工程S20で形成した接触部材11の第2側11b上に、例えばPDMS等の絶縁性材料を塗布し、例えばスピンコータ法により、所定の膜厚の絶縁層25を形成する。このとき、絶縁性材料と接触部材11の第2側11bとの密着性を高めるため、接触部材11にプラズマ処理等を施してもよい。続いて、
図15に示すように、電極パターン形成工程S31では、先に形成した絶縁層25上に、電極パターン型70を載せる。電極パターン型70は、各層の第1電極22、第2電極23に対応した形状の開口70aを有する。電極パターン型70は、第1電極22、第2電極23の膜厚に応じた厚みを有している。
【0050】
図16は、電極パターン型70に導電性材料71を吹き付けた状態を示す断面図である。続いて、
図16に示すように、第1電極22、第2電極23を形成する導電性材料71として、例えばカーボンブラックを吹き付ける。このとき、導電性材料71と絶縁層25との密着性を高めるため、絶縁層25にプラズマ処理等を施してもよい。導電性材料71を、電極パターン型70の上面レベルまで吹き付けることで、最も第2側11bに位置する1層目の電極21Aの第1電極22、第2電極23が形成される。
【0051】
図17は、電極21Aに導通部材24を載せた状態を示す断面図である。続いて、
図17に示すように、電極21Aの第1電極22、第2電極23の所定位置に、例えば金属箔等の導通部材24を載せる。導通部材24は、1層目の電極21Aの第1電極22、第2電極23と、2層目の電極21Bの第1電極22、第2電極23とを電気的に接続する導通部材24を形成する、
【0052】
図18は、電極21A上に、絶縁層25を形成した状態を示す断面図である。続いて、
図18に示すように、絶縁層形成工程S32では、1層目の電極21Aの第1電極22、第2電極23上に、例えばPDMS等の絶縁性材料を塗布し、例えばスピンコータ法により、所定の膜厚の絶縁層25を形成する。このとき、導通部材24の上面は、マスキング等を施しておくのが好ましい。第1電極22と第2電極23との隙間に流れ込む絶縁性材料により、第1電極22と第2電極23との間の絶縁部材26が形成される。
【0053】
この後、電極の積層数に応じて、上記の電極パターン形成工程S31、及び絶縁層形成工程S32を繰り返す。
図5に示したように、電極部20が例えば2層の電極21A、21Bを備える場合、電極パターン形成工程S31、及び絶縁層形成工程S32を繰り返し、絶縁層25上に、2層目の電極21Bの第1電極22、第2電極23を形成した後、電極21B上に絶縁層25を形成する。これにより、接触部材11上に電極部20が一体に形成され、静電吸着部材10が製造される。
【0054】
なお、上記の電極パターン形成工程S31では、予め用意された第1電極22、第2電極23を接着剤等により接触部材11、絶縁層25上に貼り付けてもよいし、導電性のペーストを用いて第1電極22、第2電極23のパターンを作成し、接触部材11が溶融しない温度に加熱することで第1電極22、第2電極23を形成してもよい。また、接触部材11と、電極部20とを別々に製作し、これらを互いに貼り付けてもよい。この後、
図1に示すように、製造された静電吸着部材10を、支持部材30に取り付けることで、静電吸着部材10が製造される。このような静電吸着部材10は、ダンボール容器等の対象物100を上方から吸着することで、対象物100を吸着保持するようにしてもよいし、対象物100の側面などを吸着するようにしてもよい。
【0055】
図19は、上記したような静電吸着部材10を用いた静電吸着装置1の一例を示す図である。この
図19に示すように、静電吸着装置1は、装置本体2と、静電吸着部材10と、を備えている。装置本体2は、床面F上、又は床面F上に敷設された軌道R上で移動可能に構成されている。装置本体2は、静電吸着部材10の支持部材30が装着されるアーム3と、アーム3を昇降させるシリンダ等の昇降機構4と、を備える。また、本実施形態において、静電吸着装置1は、トレー5を備えている。トレー5は、装置本体2から、静電吸着部材10が設けられている前方に向けて進退可能に構成されている。
【0056】
図20は、静電吸着部材10における接触部材11の接触面11fを、対象物100の表面100fに押し当てた状態を示す図である。
図20に示すように、静電吸着装置1で対象物100を吸着保持するには、まず、装置本体2を対象物100に向けて前進させ、静電吸着部材10の接触部材11の接触面11fを、対象物100の表面100fに押し当てる。この状態で、電圧印加部40により、電極部20の各層の電極21A、21Bに電圧を印加する。すると、各層の第1電極22、第2電極23からの電界により、静電吸着部材10が接触している対象物100の内部に誘電分極が発生して帯電する。このため、静電吸着部材10と対象物100との間にクーロン力が発生し、接触部材11の接触面11fに、対象物100が静電吸着される。
【0057】
図21は、静電吸着部材10で吸着した対象物100の一部を持ち上げた状態を示す図である。
図21に示すように、静電吸着装置1では、昇降機構4によりアーム3を上昇させ、対象物100を吸着した静電吸着部材10を持ち上げる。すると、対象物100が、少なくとも、静電吸着部材10に吸着された側100pで持ち上がる。このとき、対象物100の重量、大きさ等によっては、対象物100の全体が持ち上がることもある。
【0058】
図22は、静電吸着部材10で持ち上げた対象物100をトレー上に載せた状態を示す図である。
図22に示すように、静電吸着装置1では、トレー5を装置本体2から前進させ、対象物100の下方に差し込む。その後、昇降機構4によりアーム3とともに静電吸着部材10を下降させる。これにより、対象物100がトレー5によって下方から支持される。この状態で、装置本体2を床面F上、または軌道R上で移動させることにより、対象物100を搬送することができる。
【実施例0059】
出願人は、上記のような静電吸着部材10について、吸着力を評価する実験・検証を行った。その結果について説明する。まず、上記したような静電吸着部材の製造方法により、静電吸着部材10を製造した。
【0060】
(実施例1)
接触部材11は、積層方向Dから見て75x75[mm]の矩形状とした。電極部20は、2層の電極21A、21Bを備える構成とした。2層の電極21A、21Bは、それぞれ積層方向Dから見て65x65[mm]の矩形状とした。各層の電極21A、21Bにおいて、第1電極22と第2電極との間隔は1mmとした。また、1層目の電極21Aと接触面11fとの間隔は100[μm]、1層目の電極21Aと2層目の電極21Bとの間の絶縁層25の厚さは200[μm]となっている。接触面11fには、直径約51[μm]、高さ約6[μm]の凸部14を複数設けた。
【0061】
(実施例2)
実施例1に対し、接触面11fを平面としたもの(凸部14を設けていないもの)を、実施例2として用意した。
【0062】
(比較例1、2)
比較のため、電極を1層のみとし、接触面11fを平面とした比較例1、電極を1層のみとし、接触面11fに複数の凸部14を設けた比較例2を用意した。
【0063】
上記したような実施例、及び比較例1~3のそれぞれにおいて、接触面11fを対象物100としての段ボール箱の側面に押し付け、電極部20に±5[kV]の電圧を印加し、対象物100を吸着保持させた。さらに、対象物100を吸着保持した静電吸着部材10を、静電吸着装置1のアーム3に装着した。静電吸着部材10を固定するアーム3に6軸力覚センサを設置して、静電吸着部材10にかかる荷重を測定した。
【0064】
まず、実施例1の静電吸着部材10において、重量4kgのダンボール容器(対象物100)を持ち上げたときの荷重を6軸力覚センサで検出した。ここで、静電吸着部材10が対象物100に接近する方向をZ軸、下向き方向をY軸、右手座標系に則り力覚センサを正面に見て左方向をX軸とした。
図23は、ダンボール容器の持ち上げ動作中の荷重の測定結果を示す図である。
図23に示すように、電圧印加することにより静電吸着部材10を吸着させることで、Z軸に荷重がかかることが分かる。次に、対象物100の持ち上げ動作へ移行すると、Y軸へ荷重がかかり、対象物100を持ち上げて保持できていることが分かる。対象物100を持ち上げた後から保持している間のY軸荷重に注目すると、重量4kgの対象物100を持ち上げるためには、Y軸荷重が約13[N]必要なことが確認できた。
【0065】
次に、実施例1、2、比較例1、2のそれぞれにおいて、対象物100としてのダンボール容器の重量を、1.0kg、1.5kg、2.0kg、4.0kgの4通りとし、対象物100を途中で落とさずに持ち上げることができるかどうかを確認した。
図24は、実施例1、2、比較例1、2のそれぞれにおいて、対象物100を持ち上げた結果を示す図である。この
図24に示すように、電極を1層のみとし、接触面11fを平面とした比較例1では、1.0kgの対象物100のみ、持ち上げることに成功した。電極を1層のみとし、接触面11fに凸部14を設けた比較例2では、2.0kgまでの対象物100について、持ち上げることに成功した。
【0066】
電極を2層とし、接触面11fを平面とした実施例2では、2.0kgまでの対象物100について、持ち上げることに成功した。これにより、電極を複数層に積層すること、接触面11fに凸部14を設けることで、吸着力が高まることが確認された。また、電極を2層とし、接触面11fに凸部14を設けた実施例1では、4kgまでの対象物100を持ち上げることに成功した。このように、電極部の電極を複数積層し、さらに接触面11fに凸部14を設けることで、静電吸着部材10における吸着力が向上することが確認できる。
【0067】
以上の説明のように、本実施形態の静電吸着部材10によれば、誘電体により形成され、対象物100の表面に対向する第1側11aに対象物100の表面に倣って変形可能な接触面11fを有する接触部材11と、接触部材11において第1側11aとは反対側の第2側11bに設けられ、接触部材11に電圧を印加可能な電極部20と、を備え、電極部20は、絶縁層25を挟んで積層された複数層の電極21A、21Bを備える。
【0068】
本実施形態の静電吸着部材10において、電極部20が、絶縁層25を挟んで積層された複数層の電極21A、21Bを備えることで、対象物100に対する吸着力をさらに高め、対象物100をより確実に保持することが可能となる。
【0069】
また、電極21A、21Bは、接触部材11に接触して設けられ、接触部材11とともに変形可能である場合、電極21A、21Bが接触部材11とともに変形するので、接触部材11が対象物100の表面に倣って変形する追従性を高めることができる。また、電極部20の積層方向Dから見て、複数の第1電極22どうし、及び第2電極23どうしがそれぞれ重なる場合、第1電極22どうし、第2電極23どうしが積層方向Dと直交する方向にずれることによって電気力線を打ち消しあうのを抑え、吸着力を効率よく高めることができる。
【0070】
また、各層における第1電極22、及び各層における第2電極23は、同一又はほぼ同一形状である場合、積層方向Dから見て、複数の第1電極22どうし、及び第2電極23どうしのずれをより一層抑えることができ、吸着力を効率よく高めることができる。また、積層方向Dから見て、複数の第1電極22、及び複数の第2電極23の外周縁がそれぞれ合致する場合、第1電極22どうし、第2電極23どうしの積層方向Dと直交する方向のずれを最小限に抑え、吸着力を最大限に高めることができる。また、接触面11fは、第1側11aに突出する複数の凸部14と、第2側11bに窪む複数の凹部15の少なくとも一方を備える場合、接触面11fの凸部14、凹部15が対象物100の表面の粗面に馴染む割合が高く、接触面積が大きくなる。その結果、対象物100に対する吸着力(静電吸着力)が大きくなり、対象物100が強固に吸着される。従って、対象物100が確実に保持される。
【0071】
本実施形態に係る静電吸着装置1によれば、上記したような静電吸着部材10を備えることで、対象物100に対する吸着力をさらに高め、対象物100をより確実に保持することが可能となる静電吸着部材10を備えた静電吸着装置1を提供できる。
【0072】
また、接触部材11が支持部材30によって支持される被支持部分11cにて電極21A、21Bに一端が接続される配線27を備える場合、対象物100の表面にならって接触部材11が変形した場合であっても、支持部材によって接触部材11が支持される被支持部分11cでは、接触部材11の変形量が少なくて済む。従って、対象物100の表面に倣って張り付いた接触部材11が、対象物100の表面から剥がれるのを抑えることができる。
【0073】
また、複数層の電極21A、21Bに電圧を印加する電圧印加部40を備える場合、電圧印加部40で複数層の電極21A、21Bに電圧を印加することによって、接触部材11が、より大きな静電力を発生し、対象物100を強固に吸着することができる。
【0074】
本発明に係る静電吸着部材10の製造方法によれば、第1側11aに接触面11fを有する接触部材11を誘電体により形成することと、第2側11bに接触部材11に電圧を印加可能な電極部20として、絶縁層25を挟んで積層された複数層の電極21A、21Bを設けることにより、対象物100に対する吸着力をさらに高め、対象物100をより確実に保持することが可能となる静電吸着部材10を製造することができる。
【0075】
以上、本発明の実施形態及び実施例について説明したが、本発明の技術的範囲は、上記した実施形態及び実施例に限定されない。上記した実施形態及び実施例に多様な変更又は改良を加えることが可能であることは当業者において明らかである。また、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。また、上記した実施形態及び実施例で説明した要件の1つ以上は、省略されることがある。また、上記した実施形態などで説明した要件は、適宜組み合わせることができる。また、本実施形態において示した各工程の実行順序は、前の工程の結果を後の工程で用いるものでない限り、任意の順序で実現可能である。また、上記した実施形態における動作に関して、便宜上「まず」、「次に」、「続いて」等を用いて説明したとしても、この順序で実施することが必須ではない。