(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023003787
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】電力系統運用計画支援システム、電力系統運用計画支援方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20230110BHJP
H02J 3/24 20060101ALI20230110BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20230110BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/24
H02J3/38 120
H02J13/00 311R
H02J13/00 301J
H02J13/00 301A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021105073
(22)【出願日】2021-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】板井 準
(72)【発明者】
【氏名】小海 裕
(72)【発明者】
【氏名】黒田 英佑
(72)【発明者】
【氏名】原 弘一
【テーマコード(参考)】
5G064
5G066
【Fターム(参考)】
5G064AC10
5G064DA02
5G066AA03
5G066AD08
5G066DA04
5G066FA01
5G066FB11
5G066FB17
5G066HA19
5G066HB02
(57)【要約】
【課題】再生可能エネルギー電源の不安定振動の抑制と電力系統の電圧維持を両立しつつ、再生可能エネルギー電源を最大限に活用できる電力系統運用計画を作成する。
【解決手段】系統安定性判断基準データをもとに作成された電力系統の振動抑制指標による評価結果を出力する振動抑制指標評価部23と、評価結果と運用状態変更対象設備データを入力として、系統安定性判断基準データの振動抑制指標基準を満たしつつ、計算対象となる電力系統で指定した再生可能エネルギー電源の出力の合計量を最大化する初期改善案を作成する振動抑制指標改善案作成部24と、初期改善案をもとに、系統安定性判断基準データの電圧基準を満たしつつ再生可能エネルギー電源の出力の合計量を最大化する改善案を出力する系統電圧改善案作成部27と、を備える。そして、各情報の出力又は表示を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
系統安定性判断基準データをもとに作成された電力系統の振動抑制指標による評価結果を出力する振動抑制指標評価部と、
前記評価結果と運用状態変更対象設備データを入力として、前記系統安定性判断基準データの振動抑制指標基準を満たしつつ、計算対象となる電力系統で指定した再生可能エネルギー電源の出力の合計量を最大化する初期改善案を作成する振動抑制指標改善案作成部と、
前記初期改善案をもとに、前記系統安定性判断基準データの電圧基準を満たしつつ前記再生可能エネルギー電源の出力の合計量を最大化する改善案を出力する系統電圧改善案作成部と、
前記振動抑制指標評価部と前記振動抑制指標改善案作成部と前記系統電圧改善案作成部の情報を出力又は表示する出力部と、を備える
電力系統運用計画支援システム。
【請求項2】
前記初期改善案は、電力系統を構成する送電線の運用回線数と、変圧器の運用数と、同期発電機の運転台数と、同期電動機の運転台数と、同期調相機の運転台数と、再生可能エネルギー電源の有効電力出力と、のうち少なくとも1つ以上の運用計画の変更を、改善内容として含む
請求項1に記載の電力系統運用計画支援システム。
【請求項3】
前記系統電圧改善案作成部は、前記振動抑制指標に与える悪影響が少ないと考えられる改善方法を用いて、前記振動抑制指標基準と前記電圧基準の両方を満たしつつ再生可能エネルギー電源の出力合計量を最大化できる改善案を作成する
請求項1に記載の電力系統運用計画支援システム。
【請求項4】
前記振動抑制指標は、再生可能エネルギー電源の出力又は電圧の不安定振動、あるいは電力系統の電圧維持能力のいずれかを示す
請求項1に記載の電力系統運用計画支援システム。
【請求項5】
前記振動抑制指標は、電力系統の解析断面と計算対象データを入力として振動抑制指標の計算結果を出力する振動抑制指標計算部により計算される
請求項1に記載の電力系統運用計画支援システム。
【請求項6】
前記解析断面は、系統構成データと系統運用計画データと系統モデルデータを入力として電力系統の解析断面を作成する解析断面作成部により作成される
請求項5に記載の電力系統運用計画支援システム。
【請求項7】
前記解析断面と前記振動抑制指標改善案と前記計算対象データを入力として前記電力系統の母線電圧を計算する系統電圧計算部を備える
請求項5に記載の電力系統運用計画支援システム。
【請求項8】
前記系統電圧改善案作成部は、前記系統電圧計算部の計算結果と前記電圧基準をもとに前記母線電圧の改善案を出力する
請求項7に記載の電力系統運用計画支援システム。
【請求項9】
前記系統電圧改善案作成部は、前記系統安定性判断基準データの電圧基準を満たさない場合に、運用状態変更対象設備データを入力として改善案を作成する
請求項8に記載の電力系統運用計画支援システム。
【請求項10】
前記振動抑制指標改善案作成部は、前記系統安定性判断基準データの振動抑制指標基準を満たさない場合に、運用状態変更対象設備データを入力として改善案を作成する
請求項1に記載の電力系統運用計画支援システム。
【請求項11】
前記出力部は、作成された改善案の情報を表示する
請求項1~10のいずれか1項に記載の電力系統運用計画支援システム。
【請求項12】
系統安定性判断基準データをもとに作成された電力系統の振動抑制指標による評価結果を出力する振動抑制指標評価処理と、
前記評価結果と運用状態変更対象設備データを入力として、前記系統安定性判断基準データの振動抑制指標基準を満たしつつ、計算対象となる電力系統で指定した再生可能エネルギー電源の出力の合計量を最大化する初期改善案を作成する振動抑制指標改善案作成処理と、
前記初期改善案をもとに、前記系統安定性判断基準データの電圧基準を満たしつつ前記再生可能エネルギー電源の出力の合計量を最大化する改善案を出力する系統電圧改善案作成処理と、
前記振動抑制指標評価処理と前記振動抑制指標改善案作成処理と前記系統電圧改善案作成処理により得られた情報を出力又は表示する処理と、を含む
電力系統運用計画支援方法。
【請求項13】
電力系統運用計画支援を行う手順を、実装されたコンピュータに実行させるプログラムであり、
系統安定性判断基準データをもとに作成された電力系統の振動抑制指標による評価結果を出力する振動抑制指標評価手順と、
前記評価結果と運用状態変更対象設備データを入力として、前記系統安定性判断基準データの振動抑制指標基準を満たしつつ、計算対象となる電力系統で指定した再生可能エネルギー電源の出力の合計量を最大化する初期改善案を作成する振動抑制指標改善案作成手順と、
前記初期改善案をもとに、前記系統安定性判断基準データの電圧基準を満たしつつ前記再生可能エネルギー電源の出力の合計量を最大化する改善案を出力する系統電圧改善案作成手順と、
前記振動抑制指標評価手順と前記振動抑制指標改善案作成手順と前記系統電圧改善案作成手順により得られた情報を出力又は表示する手順と、を前記コンピュータに実行させる
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統運用計画支援システム、電力系統運用計画支援方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統では、二酸化炭素の排出量削減などを目的に、風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギー電源の導入が進んでいる。それに伴って、火力発電や水力発電に用いられる同期機の運転台数は減少する傾向にある。ここで、本明細書で述べる同期機は、同期発電機、同期電動機、又は同期調相機を指し、以降はこれらを総称して同期機とする。同期機は電力系統の電圧を一定に維持する能力を有するが、再生可能エネルギー電源はこの能力を有しないことが多い。そのため、再生可能エネルギー電源の大量導入が進むことで、電力系統の電圧維持能力は低下することが懸念される。
【0003】
電力系統の電圧維持能力の低下は、再生可能エネルギー電源の運転状態の安定性や、電力系統の安定性に影響を及ぼす場合がある。例えば、インバータを介して電力系統に接続する風力発電の多くは、風力発電の接続箇所における電圧の大きさなどに基づく量の有効電力、無効電力を出力する。そのため、電力系統の電圧維持能力が低く、風力発電の接続箇所の電圧が、電力系統の送電線の運用回線数変更や風力発電の出力変化によって変化しやすい状況下では、風力発電の接続箇所の電圧変化によって風力発電出力が変化し、それに伴って再び風力発電の接続箇所の電圧が変化することが知られている。
【0004】
その結果、風力発電の出力や電圧が一定値に収まらない不安定な振動を継続する現象が確認されている。風力発電は、風況の良い場所などに複数台がまとまって接続することが多いため、1台の風力発電の出力が不安定振動を引き起こすと、それに隣接する他の風力発電の出力にも不安定振動が波及し、最終的には電力系統全体が不安定になってしまう。
【0005】
この問題を解決する技術として、特許文献1、特許文献2、特許文献3に記載されたものが知られている。
特許文献1には、複数の再生可能エネルギー発電システムから構成される再生可能エネルギーファームと電力系統との接続点の電圧、有効電力、無効電力のうち一つ以上を計測することで、電力系統の強さを推定する技術が記載されている。
【0006】
この特許文献1に記載された技術は、有効電力と無効電力のうち一つ以上に対する電圧の感度を決定し、感度の関数として電力系統の強さを決定するようにしている。そして、電力系統の強さに基づき、再生可能エネルギーファームの有効電力指令値と無効電力指令値のうち一つ以上を動的に決定している。
【0007】
また、特許文献2には、発電機と電力系統との接続点から受信した少なくとも2つの計測データ類に基づいて発電機の発電出力を制御する構成とし、計測データ類のうち少なくとも2つに基づいて電力系統のモデルを作成する技術に関する記載がある。ここで、電力系統モデルは、等価的な電力系統電圧と、等価的な電力系統インピーダンスによって特徴づけられている。また、特許文献2には、計測データ類のうち少なくとも2つを用いて、電力系統モデルに基づく電力系統の強さを示す値を計算し、強さを示す値に基づき、発電出力を制御する技術が記載されている。
【0008】
また、特許文献3には、脆弱な状態といった電力系統状態を決定し、風力発電プラントや太陽光発電プラントといった発電プラントを、電力系統状態に適切な形で制御するための技術が記載されている。ここで、特許文献3に記載の技術は、風力発電や太陽光発電といった発電機の出力パラメータを計測し、計測された出力パラメータ同士の関係性を決定し、電力系統の状態が脆弱な状況下で発電プラントにて発生する可能性のある振動現象を防止するために、関係性に応じて発電プラントを制御するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第2020/0328611号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2019/0131795号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2015/0361954号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1、特許文献2、特許文献3に記載された技術では、再生可能エネルギー電源の不安定振動の発生を防ぐために、再生可能エネルギー電源の出力を制御している。
これらの文献に記載されるように、再生可能エネルギー電源の出力抑制のみを講じる場合、再生可能エネルギー電源の出力を最大限に活用することができない。
そのため、再生可能エネルギー電源の導入目的である二酸化炭素の排出量削減への貢献度合いが弱まってしまうことになる。したがって、二酸化炭素の排出量を削減するためには、再生可能エネルギー電源の出力抑制は極力行うことなく、再生可能エネルギー電源の不安定振動の発生を防ぐ必要がある。
【0011】
再生可能エネルギー電源の出力抑制を防ぐ手法の一例としては、送電線や変圧器バンクの運用数増加によって、風力発電接続箇所からみた電力系統のインピーダンス値を減らすことが挙げられる。この手法により、風力発電接続箇所の電圧維持能力を高め、不安定振動の発生を予防できる場合がある。
【0012】
しかしながら、再生可能エネルギー電源の出力抑制以外の対策を講じる場合、系統の運用機器の状態を変更するため、電力系統の電圧が運用上適切な範囲から逸脱することが懸念される。また、送電線や変圧器バンクの運用数などは、段階的な変更しかできないため、最適化問題などで適切な対策を算出することは数理的に困難であった。
【0013】
本発明は、再生可能エネルギー電源の不安定振動の抑制と電力系統の電圧維持を両立しつつ、再生可能エネルギー電源の出力を最大限に活用することができる電力系統運用計画支援システム、電力系統運用計画支援方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。
本願は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、本発明の電力系統運用計画支援システムは、系統安定性判断基準データをもとに作成された電力系統の振動抑制指標による評価結果を出力する振動抑制指標評価部と、評価結果と運用状態変更対象設備データを入力として、系統安定性判断基準データの振動抑制指標基準を満たしつつ、計算対象となる電力系統で指定した再生可能エネルギー電源の出力の合計量を最大化する初期改善案を作成する振動抑制指標改善案作成部と、を備える。
さらに、本発明の電力系統運用計画支援システムは、初期改善案をもとに、系統安定性判断基準データの電圧基準を満たしつつ再生可能エネルギー電源の出力の合計量を最大化する改善案を出力する系統電圧改善案作成部と、振動抑制指標評価部と振動抑制指標改善案作成部と系統電圧改善案作成部の情報を出力又は表示する出力部と、を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電力系統の電圧維持能力の低下に起因する再生可能エネルギー電源の不安定振動の発生防止に必要な再生可能エネルギー電源の出力抑制量を削減することで、二酸化炭素の排出量をより削減することができる。
また、本発明によれば、再生可能エネルギー電源の不安定振動の発生と電力系統の電圧の適正範囲逸脱の両方を防止しつつ、再生可能エネルギー電源の出力を最大限に活用可能な手法を求めるための必要な時間を低減することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1の実施の形態例の電力系統運用計画支援システムの構成例を示す機能ブロック図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態例の系統構成データD11のデータ構造の一例を示す図である。
【
図3】本発明の第1の実施の形態例の系統運用計画データD12のデータ構造の一例を示す図である。
【
図4】本発明の第1の実施の形態例の系統モデルデータD13のデータ構造の一例を示す図である。
【
図5】本発明の第1の実施の形態例の計算対象データD14のデータ構造の一例を示す図である。
【
図6】本発明の第1の実施の形態例の系統安定性判断基準データD15のデータ構造の一例を示す図である。
【
図7】本発明の第1の実施の形態例の運用状態変更対象設備データD16のデータ構造の一例を示す図である。
【
図8】本発明の第1の実施の形態例の電力系統運用計画支援システムのハードウェアの構成例を示すブロック図である。
【
図9】本発明の第1の実施の形態例の電力系統運用計画支援システムの全体の処理例を示すフローチャートである。
【
図10】本発明の第1の実施の形態例の振動抑制指標改善案作成部24の処理例を示すフローチャートである。
【
図11】本発明の第1の実施の形態例の系統電圧改善案作成部27の処理例を示すフローチャートである。
【
図12】本発明の第1の実施の形態例の運用計画の改善対象とする将来電力系統の状態と、運用計画の改善案を表示する画面の一例を示す図である。
【
図13】本発明の第1の実施の形態例の運用計画の改善による効果を表示する画面の一例を示す図である。
【
図14】本発明の第1の実施の形態例の再生可能エネルギー電源の不安定振動抑制効果の一例を示す図である。
【
図15】本発明の第1の実施の形態例の再生可能エネルギー電源の出力量増加効果の一例を示す図である。
【
図16】本発明の第2の実施の形態例の電力系統運用計画支援システムの構成例を示す機能ブロック図である。
【
図17】本発明の第2の実施の形態例の電力系統運用計画支援システムのハードウェアの構成例を示すブロック図である。
【
図18】本発明の第2の実施の形態例の電力系統運用計画支援システムの全体の処理例を示すフローチャートである。
【
図19】本発明の第3の実施の形態例の電力系統運用計画支援システムの構成例を示す機能ブロック図である。
【
図20】本発明の第3の実施の形態例の電力系統運用計画支援システムのハードウェアの構成例を示すブロック図である。
【
図21】本発明の第3の実施の形態例の電力系統運用計画支援システムの全体の処理例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1の実施の形態例>
以下、本発明の第1の実施の形態例を、
図1~
図15を参照して説明する。
[電力系統運用計画支援システムの構成]
図1は、第1の実施の形態例の電力系統運用計画支援システム1の機能から見た構成を示す。
電力系統運用計画支援システム1は、電力系統の運用者が予め保有する入力データD1と、入力データD1をもとに電力系統運用計画の改善案を作成する演算部2と、入力データD1と演算部2の内容を表示する表示部3から構成される。
【0018】
演算部2は、解析断面作成部21、振動抑制指標計算部22、振動抑制指標評価部23、振動抑制指標改善案作成部24、系統電圧計算部25、系統電圧評価部26、及び系統電圧改善案作成部27から構成され、この順に処理を行う。
入力データD1は、系統構成データD11、系統運用計画データD12、系統モデルデータD13、計算対象データD14、系統安定性判断基準データD15、運用状態変更対象設備データD16からなる。
なお、演算部2を構成する各部21~27の機能の詳細については、
図9~
図11で後述するフローチャートの説明において、具体的に説明する。
【0019】
表示部3は、解析断面作成部21、振動抑制指標改善案作成部24、及び系統電圧改善案作成部27で作成された解析断面、振動抑制指標改善案、系統電圧改善案を表示する。また、表示部3は、振動抑制指標計算部22、振動抑制指標評価部23、系統電圧計算部25、及び系統電圧評価部26での計算結果や評価結果を表示するようにしてもよい。いずれの項目を表示するかは、例えば操作者が選択する。
なお、ここでは、電力系統運用計画支援システム1が表示部3を備えて、表示を行う例を示したが、表示部3の代わりに出力部を備えて、ネットワークなどを経由して各情報を外部に出力して、受信先の端末で表示するようにしてもよい。
【0020】
[系統構成データ]
図2は、入力データD1の中の系統構成データD11のデータ構造の例を示す。
系統構成データD11には、電力系統を構成する送電線や同期機に関する情報が格納されている。送電線の情報には、送電線ごとに、回線数、接続元の母線、接続先の母線、抵抗R、リアクタンスXなどの特性の詳細な情報が含まれる。
同期機の情報には、連携母線、並列台数、定格容量、定格出力、リアクタンスXなどの特性の詳細な情報が含まれる。なお、ここでの同期機は、既に説明したように、同期発電機、同期電動機、又は同期調相機の、少なくともいずれかである。
また、
図2には示していないが、系統構成データD11には、電力系統を構成する送電線や同期機に関する情報に加えて、負荷、再生可能エネルギー電源、変圧器、調相設備などに関する情報が、それらの運用状態に関わらずすべて格納されている。
【0021】
[系統運用計画データ]
図3は、入力データD1の中の系統運用計画データD12のデータ構造の例を示す。
系統運用計画データD12には、送電線や変圧器などに用いる遮断器の入切の将来計画や、同期機の有効電力出力の将来計画、負荷の有効電力消費の予測データなどが、それぞれ決められた時間間隔で格納されている。なお、系統運用計画データD12が保有するデータには、
図3に示すデータだけでなく、例えば同期機の並解列計画や無効電力出力計画、負荷の無効電力消費の予測データ、再生可能エネルギー電源の有効電力出力計画と無効電力出力計画、電力系統内の各母線電圧の運用計画なども含まれる。
【0022】
[系統モデルデータ]
図4は、入力データD1の中の系統モデルデータD13のデータ構造の例を示す。
系統モデルデータD13には、同期機(SG)や再生可能エネルギー電源(RES)、負荷のモデルに関して、関連する情報であるモデルタイプと各種定数などの詳細が格納されている。これらの同期機や再生可能エネルギー電源、負荷のモデルに関する情報は、コンピュータや計算機を用いた電力系統の数値解析を行う際に必要になる。
なお、系統モデルデータD13には、同期機や再生可能エネルギー電源、負荷の情報に限らず、例えば送電線や変圧器、調相設備などのモデルに関する情報も含まれる。
【0023】
[計算対象データ]
図5は、入力データD1の中の計算対象データD14のデータ構造の例を示す。
計算対象データD14には、振動抑制指標計算部22における振動抑制指標の計算対象となる母線の番号や、系統電圧計算部25において系統電圧の計算対象となる母線の番号の情報が格納されている。
【0024】
[系統安定性判断基準データ]
図6は、入力データD1の中の系統安定性判断基準データD15のデータ構造の例を示す。
系統安定性判断基準データD15には、振動抑制指標計算部22における振動抑制指標の評価に用いる基準値(SCR下限値)と、系統電圧評価部26において系統電圧の評価に用いる基準値(電圧上限値、電圧下限値)に関する情報が格納されている。
【0025】
[運用状態変更対象設備データ]
図7は、入力データD1の中の運用状態変更対象設備データD16のデータ構造の例を示す。
運用状態変更対象設備データD16には、振動抑制指標改善案作成部24や系統電圧改善案作成部27において改善の手法として考慮される送電線や変圧器、同期機などに関する情報が格納されている。
【0026】
例えば、送電線運用回線数の情報として、変更対象送電線ごとに、変更可能運用回線数が格納される。また、変圧器バンク数の情報として、変更対象変圧器ごとに、変更可能バンク数が格納される。また、同期機並列台数の情報として、変更対象同期機ごとに、変更可能並列台数が格納される。さらに、変圧タップの情報として、変更対象変圧器ごとに、変更可能タップ比範囲が格納される。
【0027】
なお、運用状態変更対象設備データD16には、例えば作業やメンテナンスの関係で運用回線数を既存の運用計画から変更できない送電線など、何らかの制約により改善の手法として用いることができない系統設備に関する情報は除外済みとされ、格納されていない。
また、運用状態変更対象設備データD16には、
図7に示すデータだけでなく、例えば投入数の変更対象となる電力用コンデンサと分路リアクトルに関する情報や、無効電力の変更対象となる同期機に関する情報、及び有効電力出力の変更対象となる再生可能エネルギー電源に関する情報なども含まれる。
【0028】
[電力系統運用計画支援システムのハードウェア構成]
図8は、本実施の形態例の電力系統運用計画支援システム1のハードウェア構成の例を示す。
電力系統運用計画支援システム1は、プログラムデータD2a、表示部3、入力部4、CPU(Central Processing Unit:中央処理ユニット)5、メモリ6、及び各種入力データD11~D16と、これらを繋ぐバス線7により構成される。プログラムデータD2aと各種入力データD11~D16は、例えば不揮発性の記憶部(不図示)に記憶される。
【0029】
プログラムデータD2aは、解析断面作成プログラム、振動抑制指標計算プログラム、振動抑制指標評価プログラム、振動抑制指標改善案作成プログラム、系統電圧計算プログラム、系統電圧評価プログラム、系統電圧改善案作成プログラムから構成される。
【0030】
表示部3は、例えば、ディスプレイ装置やプリンタ装置、プロジェクタ装置、音声出力装置などのうちいずれか一つ以上から構成される。
表示部3は、
図1の入力データD1と、演算部2により作成された演算結果の画像データなどを表示する。なお、表示画面の例は後述する。
入力部4は、例えば、キーボード、スイッチ、マウス、タッチパネル、音声入力装置などのうちいずれか一つ以上から構成される。
【0031】
CPU5は、プログラムデータD2aを構成する各種プログラムの中から、演算部2の処理に必要なプログラムを読み込んで演算を実行する。CPU5は、一つまたは複数の半導体チップで構成してもよいし、または、コンピュータや計算機で構成してもよい。
メモリ6は、例えばRAM(Random Access Memory)などの記憶装置から構成され、プログラムデータD2aから読み込まれたプログラムや、演算部2により作成された計算結果データ、画像データなどを記憶する。
【0032】
[電力系統運用計画支援システムの全体の処理の流れ]
図9は、本実施の形態例における電力系統運用計画支援システム1の全体の処理の流れを示すフローチャートである。
まず、解析断面作成部21が、系統構成データD11と系統運用計画データD12と系統モデルデータD13を用いて、例えば30分後や1時間後といった将来の電力系統の解析断面を作成する(ステップS21)。
【0033】
次に、振動抑制指標計算部22は、ステップS21で作成した解析断面を用いて、計算対象データD14にて指定した母線の振動抑制指標を計算する(ステップS22)。つまり、振動抑制指標計算部22は、電力系統の解析断面と計算対象データを入力として振動抑制指標の計算結果を出力する。ここでの振動抑制指標は、少なくとも、再生可能エネルギー電源の出力や電圧の不安定振動、または、電力系統の電圧維持能力のいずれかを示すものである。
振動抑制指標としては、既に知られたSCR(Short Circuit Ratio)、WSCR(Weighted Short Circuit ratio)、CSCR(Composite Short Circuit Ratio)、SCRIF(Short Circuit Ratio with Interaction Factors)、SDSCR(Site-Dependent Short Circuit Ratio)などのうちいずれか一つの指標が用いられる。
【0034】
これらの指標はいずれも、値が大きいほど、再生可能エネルギー電源の不安定振動が発生しにくいことを示すので、再生可能エネルギー電源の不安定振動の発生有無を判断する目安として用いられる。
【0035】
ここで、振動抑制指標の計算例として、SCRの計算式を[数1]式に示す。[数1]式において、SCRiはi番目の再生可能エネルギー電源の接続母線におけるSCR、Viはi番目の再生可能エネルギー電源の接続母線の電圧、Ziはi番目の再生可能エネルギー電源の接続母線からみた電力系統全体のインピーダンス、Piはi番目の再生可能エネルギー電源の有効電力出力、Rはすべての再生可能エネルギー電源の番号の集合を示す。
【0036】
【0037】
[数1]式を計算するために必要なViやPiは、例えば、ステップS21にて作成した解析断面に対し潮流計算を実行することで求めることができる。また、Ziは、ステップS21にて作成した解析断面を参照することで得られる。
【0038】
次に、振動抑制指標評価部23は、系統安定性判断基準データD14を用いて、ステップS22にて計算した振動抑制指標が基準値を満たしているか否かを評価する振動抑制指標評価処理を行う(ステップS23)。ステップS23にて基準値を満たしていると評価された場合(ステップS23のYES)、ステップS3へ移り、表示部3にステップS21~S23で得られた結果を表示する。
【0039】
また、ステップS23にて基準値を満たしていないと評価された場合(ステップS23のNO)には、振動抑制指標が基準値を満たすために、振動抑制指標改善案作成部24が、運用状態変更対象設備データD16を用いて運用計画の改善案を作成する振動抑制指標改善案作成処理を行う(ステップS24)。なお、ステップS24の改善案作成手順の具体例については後述する。
次に、系統電圧計算部25は、ステップS21にて作成した解析断面、ステップS24にて作成した運用計画改善案を用いて、計算対象データD14にて指定した母線の電圧を計算する(ステップS25)。なお、ステップS24における系統電圧は、例えば潮流計算などにより求められる。
【0040】
次に、系統電圧評価部26は、系統安定性判断基準データD14を用いて、ステップS25にて計算した電圧が適正範囲内にあるか否かを評価する(ステップS26)。
ステップS26にて適正範囲内にあると評価された場合(ステップS26のYES)、ステップS3へ移り、表示部3にステップS21~S26で得られた結果を表示する。
【0041】
一方、ステップS26にて適正範囲内にないと評価された場合、つまり系統安定性判断基準データD14の電圧基準を満たさない場合(ステップS26のNO)には、系統電圧改善案作成部27は、適正範囲外にあった電圧を適正範囲内に収めるために、運用状態変更対象設備データD16を用いて、運用計画の改善案を作成する(ステップS27)。なお、ステップS27における改善案作成手順の具体例については後述する。
運用計画の改善案を作成した後、ステップS3へ移り、表示部3にステップS21~S27で得られた結果を表示する。
【0042】
この
図9に示した一連の処理は、例えば10分や30分など、処理が完了可能な時間幅で周期的に実行される。
【0043】
[振動抑制指標改善案の作成手順]
次に、
図10のフローチャートを用いて、
図9のフローチャートのステップS24における初期改善案である振動抑制指標改善案の作成手順の例を説明する。ここでの改善案は、電力系統を構成する送電線の運用回線数と、変圧器の運用数と、同期機の運転台数(並列台数)と、再生可能エネルギー電源の有効電力出力とのうち少なくとも1つ以上の運用計画の変更を、改善内容として含むものである。
【0044】
まず、振動抑制指標改善案作成部24は、計算対象データD14、系統安定性判断基準データD15、運用状態変更対象設備データD16を用いて、振動抑制指標改善案を作成するための最適化問題の目的関数、制約条件、決定変数を設定する(ステップS241)。
【0045】
ここで、目的関数及び制約条件は、例えば[数2]式のようになる。[数2]式において、SCRref、iはi番目の再生可能エネルギー電源の接続母線におけるSCRの基準値である。
【0046】
【0047】
また、[数2]式に対する決定変数は、電力系統内の各送電線の運用回線数、各変圧器のバンク数、各同期機の並列台数、各変圧器のタップ比、各再生可能エネルギー電源の有効電力出力Piである。ただし、振動抑制指標を悪化させないようにするため、送電線の運用回線数、変圧器バンク数、同期機の並列台数は減らすことができない。逆に、変圧器タップ比、再生可能エネルギー電源の有効電力出力は増やすことができないものとする。
【0048】
次に、振動抑制指標改善案作成部24は、ステップS21にて作成した解析断面を用いて、振動抑制指標を計算するための電力系統の潮流断面を作成する(ステップS242)。
【0049】
次に、振動抑制指標改善案作成部24は、振動抑制指標を改善するために変更する電力系統設備のパラメータ類を1種類選択する(ステップS243)。ここで、変更対象とするパラメータ類は、ステップS241にて設定した決定変数と同様に、電力系統の送電線の運用回線数、変圧器バンク数、同期機の並列台数、変圧器タップ比、再生可能エネルギー電源の有効電力出力などである。
【0050】
なお、パラメータ類の選択順は、電力系統の運用者が入力部4を介して任意で設定することができる。ただし、ここでは、再生可能エネルギー電源の有効電力出力の最大化を目的関数として設定するため、再生可能エネルギー電源の有効電力出力の選択順は遅いことが望ましい。ステップS243では、設定された選択順にパラメータ類を選択し、選択したパラメータ類の中に変更可能なパラメータが存在しない場合に、次の順番のパラメータ類を選択している。
【0051】
次に、振動抑制指標改善案作成部24は、ステップS243にて選択したパラメータ類に属する各パラメータを指定量だけ変更したときの、各再生可能エネルギー電源の接続母線における振動抑制指標の増加量合計値Osum、jを、例えば潮流計算などにより求める(ステップS244)。ここで、各パラメータを指定量だけ変更と述べているが、パラメータを変更する量は、電力系統の運用者が入力部4を介して任意で設定することができる。
【0052】
増加量合計値Osum、jは、例えば[数3]式のように表される。[数3]式において、SCRaft、ijはj番目の電力系統設備パラメータを指定量変更した後のi番目の再生可能エネルギー電源の接続母線におけるSCRを表す。また、SCRbef、ijはj番目の電力系統設備パラメータを指定量変更する前のi番目の再生可能エネルギー電源の接続母線におけるSCRを表し、Pはすべてのパラメータ番号の集合を表している。
【0053】
【0054】
次に、振動抑制指標改善案作成部24は、ステップS244にて計算した振動抑制指標の増加量合計値Osum、jが最大のパラメータを指定量変更した際の、各再生可能エネルギー電源の接続母線における振動抑制指標を計算する(ステップS245)。ここで求める振動抑制指標は、ステップS244にて振動抑制指標の増加量合計値Osum、jを求める際に計算した値をそのまま用いてもよい。
【0055】
次に、振動抑制指標改善案作成部24は、ステップS245にて求めた各振動抑制指標がすべて基準値以上であるか否かを評価する(ステップS246)。ステップS246にて基準値以上であると評価された場合(ステップS246のYES)、振動抑制指標改善案作成部24は、ステップS245にて行ったすべてのパラメータ変更を改善案として決定し、処理を終了する。
【0056】
一方、ステップS246にて基準値以上でないと評価された場合(ステップS246のNO)には、振動抑制指標改善案作成部24は、ステップS245にて最後に行ったパラメータ変更を、振動抑制指標に用いる潮流断面に反映する(ステップS247)。その後、振動抑制指標改善案作成部24は、ステップS243での処理に戻る。
【0057】
[系統電圧改善案の作成手順]
次に、
図11のフローチャートを用いて、
図9のフローチャートのステップS27における系統電圧改善案の作成手順の例を説明する。系統電圧改善案作成部27は、以下に説明するように、系統電圧計算部25の計算結果と電圧基準をもとに母線電圧の改善案を作成する系統電圧改善案作成処理を行って、作成した改善案を出力するものである。
まず、系統電圧改善案作成部27は、計算対象データD14、系統安定性判断基準データD15、運用状態変更対象設備データD16を用いて、系統電圧改善案を作成するための最適化問題の目的関数、制約条件、決定変数を設定する(ステップS260)。
【0058】
目的関数及び制約条件は、例えば[数4]式のようになる。[数4]式におけるVjはj番目の母線の電圧の大きさ、VLL、jはj番目の母線の電圧の適正範囲の下限値、VUL、jはj番目の母線の電圧の適正範囲の上限値を表す。なお、Nはすべての母線番号の集合を示している。
【0059】
【0060】
また、[数4]式に対する決定変数は、電力用コンデンサや分路リアクトルの投入数、同期機の無効電力出力、再生可能エネルギー電源の無効電力出力である。電力系統内の無効電力を調整する電力系統設備は、無効電力の変更による電力系統の電圧維持能力などへの影響が小さい。そのため、ステップS24で改善した振動抑制指標を悪化させることなく、電力系統の電圧を改善することができる。
【0061】
なお、[数4]式に対する決定変数として、上述した電力系統設備の情報の他に、振動抑制指標に与える悪影響が小さいと考えられる電力系統設備の変数を含めてもよい。すなわち、振動抑制指標に与える悪影響が少ないと考えられる改善方法を用いて、振動抑制指標基準と電圧基準の両方を満たしつつ再生可能エネルギー電源の出力合計量を最大化できる改善案を作成してもよい。
例えば、送電線の運用回線数、変圧器バンク数、同期機の並列台数などは、増やすことを条件に決定変数として含めてもよいし、変圧器タップ比、再生可能エネルギー電源の有効電力出力などは、減らすことを条件に決定変数として含めてもよい。
【0062】
次に、系統電圧改善案作成部27は、ステップS21にて作成した解析断面とステップS24にて作成した振動抑制指標改善案を用いて、系統電圧を計算するための電力系統の潮流断面を作成する(ステップS261)。
次に、系統電圧改善案作成部27は、系統電圧を改善するために変更する電力系統設備のパラメータ類を1種類選択する(ステップS262)。なお、ステップS262で変更対象とするパラメータ類は、ステップS261にて設定した決定変数と同様に、電力用コンデンサや分路リアクトルの投入数、同期機の無効電力出力、変圧器タップ比、再生可能エネルギー電源の有効電力出力と無効電力出力である。
【0063】
パラメータ類の選択順は、電力系統の運用者が入力部4を介して任意で設定することができる。ただし、ここでは、再生可能エネルギー電源の有効電力出力の最大化を目的関数として設定するため、再生可能エネルギー電源の有効電力出力の選択順は遅いことが望ましい。ステップS262は、設定された選択順にパラメータ類を選択し、選択したパラメータ類の中に変更可能なパラメータが存在しない場合に、次の順番のパラメータ類を選択する。
【0064】
次に、系統電圧改善案作成部27は、ステップS262にて選択したパラメータ類に属する各パラメータを単位量だけ変更したときの各計算対象電圧の変化量、すなわち感度を、例えば潮流計算などにより求める(ステップS263)。変更する単位量とは、各パラメータ類が変更可能な最小の量を意味し、例えば複数台が並列して電力系統内の同一母線に接続している分路リアクトルの投入数を変更する場合は、1台が単位量となる。
【0065】
次に、系統電圧改善案作成部27は、ステップS263で計算した、各パラメータの変更前後の各系統電圧の値を用いて、電圧逸脱抑制量Vsum、jをパラメータごとに計算し、電圧逸脱抑制量Vsum、jが最大のパラメータを選定する(ステップS264)。
【0066】
電圧逸脱抑制量Vsum、jは、例えば[数5]式で表される。[数5]式におけるΔVijは、j番目の電力系統設備パラメータを単位量変更することで、i番目の母線電圧の大きさが適正範囲へどれだけ近づいたかを示す指標であり、[数6]式で表される。ここで、Vbef、ijはj番目の電力系統設備パラメータを単位量変更する前のi番目の母線電圧の大きさを示し、Vaft、ijはj番目の電力系統設備パラメータを単位量変更した後のi番目の母線電圧の大きさを示す。
【0067】
【0068】
【0069】
次に、系統電圧改善案作成部27は、ステップS264にて選定したパラメータを変更可能な範囲で単位量ずつ変化させながら、その都度全計算対象電圧と電圧逸脱抑制量を計算する(ステップS265)。例えば、ステップS264にて選定したパラメータが分路リアクトルの投入数である場合、計算対象電圧は、ステップS263で求めた感度に2台、3台、4台などの単位量おきの値を乗じ、パラメータ変更前の電圧に加算することで求められる。また、電圧逸脱抑制量は、ステップS264で求めた[数5]式の値に、同じく単位量おきの値を乗じることで求められる。
【0070】
次に、系統電圧改善案作成部27は、すべての計算対象電圧が適正範囲内に収まるケースがステップS265にて存在したか否かを判断する(ステップS266)。ステップS266にて該当するケースが存在する場合(ステップS266のYES)、ステップS265にて行ったパラメータ変更を改善案に反映し、処理を終了する。
【0071】
一方、ステップS266にて該当するケースが存在しない場合(ステップS266のNO)には、系統電圧改善案作成部27は、ステップS265におけるパラメータ変化のうち、電圧逸脱抑制量が最大となったパラメータ変化を改善案に反映する(ステップS267)。
【0072】
次に、系統電圧改善案作成部27は、系統電圧改善のために変更可能な系統設備がまだ残っているか否かを判断する(ステップS268)。ステップS268で変更可能な系統設備が残っていると判断された場合(ステップS268のYES)には、ステップS267にて行ったパラメータ変更を、系統電圧計算に用いる潮流断面に反映し(ステップS269)、ステップS262に戻る。
一方、ステップS268で変更可能な系統設備が残っていないと判断された場合(ステップS268のNO)には、最適化問題の計算を打ち切り、処理を終了する。
【0073】
[表示例]
ここで、
図12と
図13を用いて表示部3における表示の一例について説明する。
図12は、運用計画の改善対象とする将来の特定時刻での電力系統の状態の表示31と、運用計画の改善案の表示32を並べた画面の一例である。
この例では、将来の電力系統の潮流状態や、各種系統設備の運用状態として、電力系統の状態の表示31を、系統図表示31aと表形式31bで行っている。
また、演算部2が出力する運用計画改善案の表示32についても、表形式32a~31dで行っている。
具体的には、運用計画改善案の表示32として、送電線の運用回線数の表32aと、同期機の運転台数の表32bと、分路リアクトル(ShR)の投入数の表32cと、調相洋設備(SC)の投入数の表32dとを示している。
【0074】
図13は、運用計画の改善による効果を示す表示33、34の画面の一例である。この例では、運用計画改善前の表示33と、運用計画改善案による改善後の表示34とを並べている。
ここでは、運用計画改善前の表示33として、再生可能エネルギーの出力、SCR、SCR基準値の一覧33aと、各母線の電圧、上限値、下限値の一覧33bを示している。また、運用計画改善後の表示34として、再生可能エネルギーの出力、SCR、SCR基準値の一覧34aと、各母線の電圧、上限値、下限値の一覧34bとを示している。
【0075】
電力系統の運用者は、この
図13に示す画面を参考に、作成された運用計画改善案を実際の運用計画に反映するか否かについて検討することができる。
なお、表示部3が表示する情報は
図12や
図13の例に限らない。例えば、各種入力データD11~D16の情報や、振動抑制指標改善案作成部24や系統電圧改善案作成部27の処理途中で発生する中間データなども必要に応じて表示することができる。
【0076】
[第1の実施の形態例による効果]
ここで、
図14と
図15を用いて、本実施の形態例の電力系統運用計画支援システムによる効果を説明する。
図14は、本実施の形態例の電力系統運用計画支援システムを適用する前の再生可能エネルギー電源の有効電力出力の時系列波形101と、本実施の形態例の電力系統運用計画支援システムを適用した後の再生可能エネルギー電源の有効電力出力の時系列波形102を比較したものである。
【0077】
適用前の再生可能エネルギー電源の有効電力出力の時系列波形101では、再生可能エネルギー電源の出力が不安定で振動しており、出力抑制が必要な状態になっている。
これに対して、適用後の再生可能エネルギー電源の有効電力出力の時系列波形102では、再生可能エネルギー電源の出力が安定しており、出力抑制が不要な状態になる。このように、本実施の形態例の電力系統運用計画支援システムを適用することで、再生可能エネルギー電源の有効電力出力の不安定振動を防止することができる。
【0078】
図15は、本実施の形態例の電力系統運用計画支援システムの適用前の再生可能エネルギー電源の出力状況201と、適用後の再生可能エネルギー電源の出力状況202とを比較したものである。
本実施の形態例の電力系統運用計画支援システムを適用する前は、再生可能エネルギー電源の不安定振動を防止するために、再生可能エネルギー電源の一部を出力抑制していた。
図15の例では、例えば再生可能エネルギー出力合計値が200MWであった。
【0079】
これに対して、本実施の形態例の電力系統運用計画支援システムを適用した後は、再生可能エネルギー電源の出力抑制をせずに不安定振動を防止することができ、例えば再生可能エネルギー出力合計値を300MWにすることができる。つまり、本実施の形態例の電力系統運用計画支援システムを適用することで、再生可能エネルギー電源の出力合計量が増え、二酸化炭素の排出量をより削減することが可能になる。
【0080】
<第2の実施の形態例>
次に、本発明の第2の実施の形態例を、
図16~
図18を参照して説明する。
図16~
図18において、第1の実施の形態例で説明した
図1~
図15と同一の構成要素又は同一のステップには同一の符号を付し、重複説明を省略する。
【0081】
[電力系統運用計画支援システムの構成]
図16は、本発明の第2の実施の形態例の電力系統運用計画支援システム1の機能から見た構成を示す。
本実施の形態例の電力系統運用計画支援システム1では、再生可能エネルギー電源の不安定振動の発生有無を判断するため、振動抑制指標の評価に加え、再生可能エネルギー電源の瞬時値解析の処理を加えたものである。
【0082】
そして、瞬時値解析の結果、再生可能エネルギー電源の不安定振動が確認された場合のみ、運用計画の改善案作成処理に進む。これにより、瞬時値解析の分だけ処理量が増加するが、再生可能エネルギー電源の不安定振動が発生しないにもかかわらず振動抑制指標が基準値を満たさないケースに対しては、改善案の作成処理を省略することができる。
【0083】
図16に示すように、電力系統運用計画支援システム1は、演算部2において不安定振動判定部28が追加されている点が、
図1に示す第1の実施の形態例の電力系統運用計画支援システム1と相違する。
不安定振動判定部28には、振動抑制指標評価部23の評価結果の情報が供給されており、不安定振動判定部28は、再生可能エネルギー電源の瞬時値解析の処理を行い、不安定振動の有無を判定する。
そして、不安定振動判定部28で判定した不安定振動の有無の情報が、振動抑制指標評価部23の評価結果の情報と共に振動抑制指標改善案作成部24に供給される。
【0084】
なお、不安定振動判定部28での瞬時値解析の処理には、系統安定性判断基準データD15が保有するデータとして、不安定振動の発生有無を判断する基準が別途必要になる。
また、不安定振動判定部28での瞬時値解析の処理には、瞬時値解析用の解析断面も必要となる。このため、系統モデルデータD13は、瞬時値解析用の電力系統モデルデータを追加で保有し、それに基づいて解析断面作成部21が瞬時値解析用の解析断面を作成する。
図16に示す電力系統運用計画支援システム1のその他の構成は、
図1に示す電力系統運用計画支援システム1と同様なので、説明は省略する。
【0085】
[電力系統運用計画支援システムのハードウェア構成]
図17は、本発明の第2の実施の形態例の電力系統運用計画支援システム1のハードウェア構成の例を示す。
図17に示す電力系統運用計画支援システム1は、プログラムデータD2bとして、再エネ不安定振動判定プログラムが追加されている点が、
図8に示す電力系統運用計画支援システム1のプログラムデータD2aと相違する。再エネ不安定振動判定プログラムは、演算部2が不安定振動判定部28を実行する際に読み込まれる。
【0086】
[電力系統運用計画支援システムの全体の処理の流れ]
図18は、本発明の第2の実施の形態例における電力系統運用計画支援システム1の全体の処理の流れを示すフローチャートである。
図18に示す処理の流れは、
図9に示す第1の実施の形態例における処理の流れと比べて、振動抑制指標の改善案を作成するステップS24の前に、再生可能エネルギー電源の運転状態を瞬時値解析で確認するステップS28と、再生可能エネルギー電源の不安定振動の有無を判定するステップS29が追加されている点である。
【0087】
すなわち、ステップS23にて基準値を満たしていないと評価された場合(ステップS23のNO)、不安定振動判定部28は、再生可能エネルギー電源の運転状態を瞬時値解析で確認し(ステップS28)、再生可能エネルギー電源の不安定振動の有無を判定する(ステップS29)。このステップS29にて、再生可能エネルギー電源の不安定振動が無い場合(ステップS29のNO)、ステップS3に移り、表示処理が行われる。
一方、ステップS29にて、再生可能エネルギー電源の不安定振動が有る場合(ステップS29のYES)、ステップS24の振動抑制指標改善案作成に移る。
図18のフローチャートのその他の処理は、
図9のフローチャートと同様の流れで実行される。
【0088】
以上説明したように、第2の実施の形態例における電力系統運用計画支援システム1によると、再生可能エネルギー電源の不安定振動が発生しないにもかかわらず振動抑制指標が基準値を満たさないケースに対しては、改善案の作成処理を省略することができる。
なお、第2の実施の形態例では、改善案の作成要否を判断するために瞬時値解析を用いているが、使い方はこれに限らない。例えば、振動抑制指標改善案作成部24にて、作成した改善案が不安定振動を防止したか否かを判断するために瞬時値解析を用いてもよい。
【0089】
<第3の実施の形態例>
次に、本発明の第3の実施の形態例を、
図19~
図21を参照して説明する。
図19~
図21においても、第1及び第2の実施の形態例で説明した
図1~
図18と同一の構成要素又は同一のステップには同一の符号を付し、重複説明を省略する。
本実施の形態例の電力系統運用計画支援システム1では、電力系統運用計画支援システム1が行う処理を、スクリーニングによって軽減するようにしたものである。
【0090】
すなわち、第3の実施の形態例では、振動抑制指標と系統電圧のうちいずれかまたは両方の改善案を作成する際に、改善方法をスクリーニングする。スクリーニング方法としては、例えば振動抑制指標が基準値を満たしていない母線からの電気的距離が一定の距離以下の系統設備のみに改善方法を絞り込む、などを行う。ここでの電気的距離は、例えば2地点間のインピーダンスの大きさなどを用いて求められる。これにより、改善案の作成に要する計算量を軽減することができる。
【0091】
[電力系統運用計画支援システムの構成]
図19は、本発明の第3の実施の形態例における電力系統運用計画支援システム1の機能から見た構成を示す。
図19に示す電力系統運用計画支援システム1は、入力データD1においてスクリーニング基準データD17が追加されている点が、
図1に示す電力系統運用計画支援システム1と相違する。
スクリーニング基準データD17は、振動抑制指標改善案作成部24や系統電圧改善案作成部27の入力データとなる。
【0092】
[電力系統運用計画支援システムのハードウェア構成]
図20は、本発明の第3の実施の形態例の電力系統運用計画支援システム1のハードウェア構成の例を示す。
図20に示す電力系統運用計画支援システム1は、スクリーニング基準データD17を備えると共に、プログラムデータD2cとして、変更対象設備スクリーニングプログラムが追加されている点が、
図8に示す電力系統運用計画支援システム1のプログラムデータD2aと相違する。変更対象設備スクリーニングプログラムは、演算部2が振動抑制指標改善案作成部24と系統電圧改善案作成部27のうちいずれかまたは両方を実行する際に読み込まれる。
【0093】
[電力系統運用計画支援システムの全体の処理の流れ]
図21は、本発明の第3の実施の形態例における電力系統運用計画支援システム1の全体の処理の流れを示すフローチャートである。
図21に示す処理の流れは、
図9に示す第1の実施の形態例における処理の流れと比べて、振動抑制指標の改善案を作成するステップS24の前に、振動抑制指標の改善方法をスクリーニングするステップS30が追加されている。さらに、系統電圧の改善案を作成するステップS27の前に、系統電圧の改善方法をスクリーニングするステップS31が追加されている。なお、ステップS30とステップS31は両方ではなく、いずれか一方のみを用いてもよい。
【0094】
すなわち、振動抑制指標改善案作成部24は、ステップS23にて基準値を満たしていないと評価された場合(ステップS23のNO)、スクリーニング基準データD17を用いて、振動抑制指標改善手段をスクリーニングする(ステップS30)。
また、系統電圧改善案作成部27は、ステップS26で系統電圧が適正範囲では無い場合(ステップS26のNO)には、スクリーニング基準データD17を用いて、系統電圧改善手段をスクリーニングする(ステップS31)。
その他の処理については、
図9に示すフローチャートと同じ流れで実行される。
【0095】
このように振動抑制指標の改善方法をスクリーニングする処理や、系統電圧の改善方法をスクリーニングする処理を行うことで、電力系統運用計画支援システム1が行う処理を軽減することができる。
【0096】
<変形例>
なお、ここまで説明した実施の形態例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0097】
例えば、説明した各実施の形態例では、電力系統、同期機、再生可能エネルギー電源の設備が、いずれも既存の設備であることを前提として、電力系統運用計画支援システム1が改善案を作成するようにした。
これに対して、いずれかの設備を増強した場合の改善案を作成するようにしてもよい。例えば、既存の電力系統に接続される再生可能エネルギー電源を増やした場合に、振動抑制が可能かどうかを電力系統運用計画支援システム1が検討して改善案を作成してもよい。
このように、電力設備を増やす場合の改善案を作成することで、電力系統運用計画支援システム1として、設備増強が適正かどうかを検討することが可能になる。
【0098】
また、
図1や
図8などに示す構成図では、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものだけを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えても良い。
また、上述した各実施の形態例では、電力系統運用計画支援システムをコンピュータで構成した場合を
図8などに示した。これに対して、電力系統運用計画支援システムが行う機能の一部又は全部を、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのハードウェアによって実現してもよい。
また、電力系統運用計画支援システム1を1つの装置として構成するのは一例であり、例えば
図1に示す入力データD1を保持する装置と、演算部2に相当する演算を行う装置とを個別に構成し、ネットワークなどで接続してもよい
【0099】
なお、電力系統運用計画支援システム1をコンピュータなどの情報処理装置で構成した場合に、プログラムについては、コンピュータ内の不揮発性ストレージやメモリに用意する他に、外部のメモリ、ICカード、SDカード、光ディスク等の記録媒体に置いて、転送してもよい。
【符号の説明】
【0100】
1…電力系統運用計画支援システム、2…演算部、3…表示部、4…入力部、5…CPU、6…メモリ、7…バス線、21…解析断面作成部、22…振動抑制指標計算部、23…振動抑制指標評価部、24…振動抑制指標改善案作成部、25…系統電圧計算部、26…系統電圧評価部、27…系統電圧改善案作成部、28…不安定振動判定部、D1:入力データ、D2a,D2b,D2c…プログラムデータ、D11…系統構成データ、D12…系統運用計画データ、D13…系統モデルデータ、D14…計算対象データ、D15…系統安定性判断基準データ、D16…運用状態変更対象設備データ、D17…スクリーニング基準データ