(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000379
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】散液デバイスならびにそれを用いた反応装置および反応生成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01F 27/96 20220101AFI20221222BHJP
B01J 19/18 20060101ALI20221222BHJP
B01F 23/41 20220101ALI20221222BHJP
【FI】
B01F7/32 A
B01J19/18
B01F3/08 A
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021101151
(22)【出願日】2021-06-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】390006264
【氏名又は名称】関西化学機械製作株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】502059825
【氏名又は名称】Bio-energy株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼ 真司
(72)【発明者】
【氏名】野田 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】向田 忠弘
【テーマコード(参考)】
4G035
4G075
4G078
【Fターム(参考)】
4G035AB38
4G035AB40
4G035AE15
4G075AA13
4G075BA10
4G075BB05
4G075BB08
4G075CA02
4G075DA02
4G075EA07
4G075EB01
4G075EC09
4G075EC11
4G075ED08
4G075FA12
4G075FB02
4G075FB06
4G075FB12
4G075FB13
4G078AA07
4G078AB05
4G078BA05
4G078CA03
4G078CA08
4G078DA01
4G078DC06
4G078EA03
(57)【要約】
【課題】 反応物の混合や撹拌のような操作に要するエネルギーを低減することのできる、散液デバイスならびにそれを用いた反応装置および反応生成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の散液デバイスは、鉛直方向に沿って配置された回転軸と該回転軸に装着された、少なくとも1つの第1の流液部材と少なくとも1つの第2の流液部材とを備える。ここで、第1の流液部材および第2の流液部材はともに、上端に位置する吐出部、下端に位置する吸液部、および該吐出部と該吸液部との間を延びる流路を備え、第1の流液部材の吸液部は、第2の流液部材の該吸液部よりも上方に配置されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向に沿って配置された回転軸と該回転軸に装着された、少なくとも1つの第1の流液部材と少なくとも1つの第2の流液部材とを備え、
該第1の流液部材および該第2の流液部材がともに、上端に位置する吐出部、下端に位置する吸液部、および該吐出部と該吸液部との間を延びる流路を備え、
該第1の流液部材の該吸液部が、該第2の流液部材の該吸液部よりも上方に配置されている、散液デバイス。
【請求項2】
前記第1の流液部材および前記第2の流液部材のそれぞれにおいて、前記回転軸の軸線に対して前記吸液部が前記吐出部よりも近位に位置するように傾斜して配置されている、請求項1に記載の散液デバイス。
【請求項3】
前記第1の流液部材および前記第2の流液部材がともに両端が開放された筒状の形態を有する、請求項1または2に記載の散液デバイス。
【請求項4】
反応液を収容するための反応槽と、該反応槽内に設けられている請求項1から3のいずれかに記載の散液デバイスとを備える、反応装置。
【請求項5】
前記反応液が油相および水相から構成されている、請求項4に記載の反応装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、散液デバイスならびにそれを用いた反応装置および反応生成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、油脂は燃料や化学品へ変換するための原料としても注目されている。特に、化学反応によって動物性油脂および/または植物性油脂から長鎖脂肪酸エステルを合成し、これを軽油と代替可能なバイオディーゼル燃料として利用する試みが積極的になされている。
【0003】
他方、相間移動触媒やスラリー触媒を用いる2液相以上の反応系において、不斉合成反応などの反応を通じて様々な化合物を合成する技術が注目されている。こうした反応の多くでは、反応系を力強く撹拌することによって反応促進が行われる。
【0004】
2液相の反応は、例えばバイオディーゼル燃料の製造に採用されることがある。例えば、リパーゼのような酵素を触媒に用いた酵素触媒法によるエステル交換反応が挙げられる。こうした酵素触媒法によるエステル交換反応では、酵素として、例えば、液体酵素やイオン交換樹脂などの担体に固定化された酵素(固定化酵素)が使用される。液体酵素は、培養液を濃縮かつ精製したものから構成されている点で、固定化酵素と比較して安価である。また、当該酵素は、上記エステル交換反応により生成する副生成物のグリセリン水に残存するため、これを次バッチの反応に用いることができる。これにより、液体酵素の繰り返し利用が可能となり、バイオディーゼル燃料の製造に要するコストの節減が可能となる(非特許文献1)。
【0005】
液体酵素を用いるエステル交換反応では、油層と水層との二相系が用いられ、例えば反応物を高速で撹拌する等によりエマルジョンが形成される。ここで、反応物の高速撹拌には、撹拌機への相当なエネルギーの負荷が必要である。一方、工業製品としての生産性を高めるためには、反応物の撹拌等の操作に要するエネルギーを低減させることが所望されている。しかし、そうすると上記反応物を用いるエマルジョン形成能が低下し、エステル交換反応を効果的に行うことができないという矛盾を生じる。
【0006】
あるいは、上記酵素に代えてアルカリ触媒を用いる方法もある。この場合も2液相の反応系が採用され、反応には力強い撹拌が必要とされる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M. Nordbladら、Biotechnology and Bioengineering, 2014, Vol.11, No.12, pp.2446-2453
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、反応生成物の製造において、反応物の混合や撹拌のような操作に要するエネルギーを低減することのできる、散液デバイスならびにそれを用いた反応装置および反応生成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、鉛直方向に沿って配置された回転軸と該回転軸に装着された、少なくとも1つの第1の流液部材と少なくとも1つの第2の流液部材とを備え、
該第1の流液部材および該第2の流液部材がともに、上端に位置する吐出部、下端に位置する吸液部、および該吐出部と該吸液部との間を延びる流路を備え、
該第1の流液部材の該吸液部が、該第2の流液部材の該吸液部よりも上方に配置されている、散液デバイスである。
【0010】
1つの実施形態では、上記第1の流液部材および上記第2の流液部材のそれぞれにおいて、上記回転軸の軸線に対して上記吸液部が上記吐出部よりも近位に位置するように傾斜して配置されている。
【0011】
1つの実施形態では、上記第1の流液部材および上記第2の流液部材はともに両端が開放された筒状の形態を有する。
【0012】
本発明はまた、反応液を収容するための反応槽と、該反応槽内に設けられている上記散液デバイスとを備える、反応装置である。
【0013】
1つの実施形態では、上記反応液は、油相および水相から構成されている。
【0014】
本発明はまた、反応生成物の製造方法であって、上記反応装置内で反応液を循環させることにより撹拌する工程を包含する、方法である。
【0015】
1つの実施形態では、上記反応液は油相および水相から構成されている。
【0016】
1つの実施形態では、上記反応生成物は脂肪酸エステルであり、上記反応液は、原料油脂、液体酵素、炭素数1から8を有するアルコール、および水を含有する。
【0017】
さらなる実施形態では、上記原料油脂は、植物油脂、動物油脂、魚油、微生物生産油脂、およびこれらの廃油からなる群から選択される少なくとも1種の油脂である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の散液デバイスによれば、掬い上げた反応液を液面より上方に移動させて散液することにより、反応液を効率良く混ぜ返すことができる。これにより、容器内に含まれる液体について水平方向の回転に基づく撹拌に加え、鉛直方向の移動および循環を促すことができる。本発明の散液デバイスは、反応装置に組み込むことができ、これにより、種々の反応生成物を製造するにあたり、反応物の混合や撹拌に要する物理的操作のエネルギーを減じることができる。例えば、本発明の反応装置に油相と水相との2相で構成される反応液を収容させた場合、余分な動力を使用することなく反応液のエマルジョン化、および/または副生成物(例えばグリセリン)の水での抽出を促すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の散液デバイスが組み込まれた反応装置の一例を示す概略図である。
【
図2】
図1に示す散液デバイスの第2の流液部材の一例を模式的に表す斜視図である。
【
図3】本発明の散液デバイスが組み込まれた反応装置の他の例を示す概略図である。
【
図4】本発明の散液デバイスが組み込まれた反応装置の別の例を示す概略図である。
【
図5】本発明の他の散液デバイスが組み込まれた反応装置の一例を示す概略図である。
【
図6】
図5に示す散液デバイスの第2の流液部材の一例を模式的に表す斜視図である。
【
図7】本発明の別の散液デバイスが組み込まれた反応装置の一例を示す概略図である。
【
図8】本発明の別の散液デバイスが組み込まれた反応装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を、添付の図面を参照して説明する。なお、以下のすべての図面に共通して同様の参照番号を付した構成は、他の図面に示したものと同様である。
【0021】
(散液デバイスおよび反応装置)
以下、本発明の散液デバイスを、反応装置に組み込んだ例を用いて説明する。
【0022】
図1は、本発明の散液デバイスが組み込まれた反応装置の一例を示す概略図である。
【0023】
図1に示す本発明の散液デバイス120は、鉛直方向に沿って配置された回転軸121と、好ましくは水平方向に延びる取付具122を介して当該回転軸121に装着された第1の流液部材123aと第2の流液部材123bとから構成されている。第1の流液部材123aは、吸液部124aおよび吐出部125a、ならびに吸液部124aと吐出部125aとの間を延びる流路126aを備える。第2の流液部材123bは、吸液部124bおよび吐出部125b、ならびに吸液部124bと吐出部125bとの間を延びる流路126bを備える。
【0024】
図1に示すように、本発明の散液デバイス120では、第1の流液部材123aの吸液部124aおよび第2の流液部材123bの吸液部124bはいずれも、反応液116の液面128よりも下方に配置され、第1の流液部材123aの吐出部125aおよび第2の流液部材123bの吐出部125bはいずれも反応液116の液面128よりも上方に配置されている。これにより、散液デバイス120は、回転軸121の回転とそれに伴う第1の流液部材123aおよび第2の流液部材123bのそれぞれにかかる遠心力により、例えば、
図1に示すような反応槽110に収容された反応液116を、第1の流液部材123aの吸液部124aおよび第2の流液部材123bの吸液部124bから汲み取り、流路126a,126bを通じて反応槽110の下方から上方に向かって流動させることができる。その後、汲み取られた反応液は、第1の流液部材123aの吐出部125aおよび第2の流液部材123bの吐出部125bから、液面128よりも上方に吐出される。
【0025】
本発明において、液面128に対する吸液部124a,124bおよび吐出部125a,125bの配置は、静置段階(すなわち、回転軸121の回転がなく、反応液116の液面が略水平方向に広がった状態にあるとき)に加え、回転軸121を所望の回転速度で回転させている段階(すなわち、回転軸121の回転を通じて後述するような反応液116の撹拌が行われている状態にあるとき)にも保持されていることが好ましい。その結果、反応槽110内の反応液116は、回転軸121および流液部材123a,123bの回転によって流液部材の吸液部124a,124bから容易に汲み取り可能であり、その後遠心力によって流液部材123a,123b内の流路126a,126bを通じて吐出部125a,125bまでに移動し、吐出部125a,125bのそれぞれから、例えば反応槽110の内壁111や反応液116の液面128に向かって吐出され得る。
【0026】
さらに、本発明の散液デバイス120では、第1の流液部材123aの吸液部124aが、第2の流液部材123bの吸液部124bよりも上方に配置されている。すなわち、第1の流液部材123aにおける吸液部124aの最下端部127aと第2の流液部材123bにおける吸液部124bの最下端部127bとは、鉛直方向における位置が距離Δdを空けて配置されている。この距離Δdは、第1の流液部材123aおよび第2の流液部材123bの大きさ、回転軸121に付与される回転速度、反応槽110に収容される反応液116の容量やその深さによって変動するため必ずしも限定されないが、例えば0.5cm~1,000cm、好ましくは1cm~100cmである。
【0027】
1つの実施形態では、静置状態において反応液116が
図1に示すような油相116aと水相116bとの二相系で構成されている場合、第1の流液部材123aにおける吸液部124aの最下端部127aは静置状態において油相116a内に配置されており、かつ第2の流液部材123bにおける吸液部124bの最下端部127bは静置状態において水相116b内に配置されている。これにより、回転軸121が回転すると、吸液部123a,123bのそれぞれで汲み取られる反応液116の組成は同一ではなくむしろ異なるものとすることができる。
【0028】
なお、
図1に示す実施形態では、油相116aと水相116bとで構成される二相系に反応液116に対し、2つの流液部材(すなわち、第1の流液部材123aおよび第2の流液部材123b)を備える散液デバイス120を用いる場合について説明したが、本発明はこのような構成のみに限定されない。例えば、回転軸の回転によって反応液が多相(例えば3相)に分離するような場合において、各相からの反応液の汲み上げを目的として、各最下端部の高さ方向の位置が異なる複数(例えば3つまたはそれ以上)の流液部材が設けられていてもよい。
【0029】
回転軸121は所定の剛性を有するシャフトであり、例えば、円筒状または円柱状の形状を有する。回転軸121は、反応槽110内で、通常、鉛直方向に配置されている。回転軸121の太さは、必ずしも限定されないが、例えば、8mm~200mmである。回転軸121の長さは、使用する反応槽110の大きさ等によって変動し、当業者によって適切な長さが選択され得る。
【0030】
回転軸121の一端は、反応槽110の上部でモータ140などの回転手段に接続されている。回転軸121の他端は、反応槽110の底部109に接続されておらず、例えば反応槽110の底部109から一定の間隔を開けて(好ましくは反応液116の液面128から離れて)配置されている。これにより、回転軸121が反応液116に接触する機会を低減できる。あるいは、回転軸の他端は反応槽の底部109に設けられた軸受に収容されていてもよい。
【0031】
図1に示す散液デバイス120では、回転軸121の軸線Jに対して、第1の流液部材123aおよび第2の流液部材123bの吸液部124a,124bが吐出部125a,125bよりも近位に位置するように傾斜して配置されている。すなわち、当該散液デバイス120では、第1の流液部材123aの吸液部124aと回転軸121の軸線Jとの最短距離が、吐出部125aと回転軸121の軸線Jとの最短距離よりも短く、かつ第2の流液部材123bの吸液部124bと回転軸121の軸線Jとの最短距離が、吐出部125bと回転軸121の軸線Jとの最短距離よりも短くなるように、第1の流液部材123aおよび第2の流液部材123bがそれぞれ傾斜して配置されている。
【0032】
あるいは、
図1に示す散液デバイス120において、第1の流液部材123aおよび第2の流液部材123bはそれぞれ、回転軸121の軸方向に対して所定の角度(取付傾斜角ともいう)θ
1をなすように傾斜して取付けられている。取付傾斜角θ
1は、当業者によって任意の角度に設定され得るが、例えば10°~45°、好ましくは15°~25°である。第1の流液部材123aおよび第2の流液部材123bの取付傾斜角θ
1は互いに同一であっても、異なっていてもよい。
【0033】
図1に示す散液デバイス120では、回転軸121の軸線Jを介して第1の流液部材123aと第2の流液部材123bとが向かい合って設けられている。ここで、本発明の散液デバイスに設けられ得る第1の流液部材の数は、必ずしも限定されないが、例えば少なくとも1つであり、好ましくは2つ~8つであり、より好ましくは2つ~6つである。本発明の散液デバイスに設けられ得る第2の流液部材の数は、必ずしも限定されないが、例えば少なくとも1つであり、好ましくは2つ~8つであり、より好ましくは2つ~6つである。第1の流液部材および第2の流液部材がそれぞれ複数個用いられる場合、回転軸の軸線を介して第1の流液部材同士が向かい合い、かつ第2の得有液部材同士が向かい合ってそれぞれ設けられていてもよい。また、第1の流液部材および第2の流液部材は、それぞれ回転軸の軸周りに略均等な角度で装着されていることが好ましい。
【0034】
本発明おいて、第1の流液部材123aおよび第2の流液部材123bは、例えば、全体が筒状(例えば、円筒状、楕円筒状または角筒状)に加工されたものであってもよく、あるいは、下端および上端が、半円筒状、半角筒状、V字状などの、いわゆる樋状の形態を有し、かつその間の中間部分が筒状(例えば、円筒状、楕円筒状、角筒状)に加工されたものであってもよく、下端のみがこのような樋状の形態を有し、かつそれ以外の部分が筒状(例えば、円筒状、楕円筒状、角筒状)に加工されたものであってもよい。
【0035】
第1の流液部材123aおよび第2の流液部材123bの大きさは、特に限定されない。
図2は、
図1に示す散液デバイスの第2の流液部材の一例を模式的に表す斜視図である。例えば、第2の散液部材123bが
図2に示すような全体が円筒状の部材が使用される場合、円筒部分の内径は、例えば2mm~200mmである。吸液部124bから吐出部125bまでの長さ(すなわち通路126bの長さ)は、必ずしも限定されず、例えば、第1の流液部材123aについて選択される長さや、組み込まれる反応槽の大きさ、取付傾斜角θ
1の大きさ等によって適切な長さが当業者により選択され得る。なお、
図2では、吸液部124bの内径と通路126bの内径と吐出部125bの内径が略同一の大きさであるかのように記載されているが、本発明はこのような形態のみに限定されない。例えば、第2の流液部材123bの内径が吸液部124bから吐出部125bにかけて緩やかにまたは段階的に縮径するものであってもよく、あるいは第2の流液部材123bの内径が吸液部124bから吐出部125bにかけて緩やかにまたは段階的に拡径するものであってもよい。
【0036】
本発明の散液デバイス120は、
図1に記載したような反応装置100の反応槽110以外に、例えば、内容物の物理的混合や撹拌を必要とする際に使用される混合装置または撹拌装置の混合槽または撹拌槽に組み込んで使用することもできる。
【0037】
次に、本発明の散液デバイスが組み込まれた反応装置について再び
図1を用いて説明する。
【0038】
本発明の反応装置100は反応槽110および上記散液デバイス120を備える。
【0039】
反応槽110は、反応液116を収容して撹拌することができる密閉可能な槽であり、例えば、平底、丸底、円錐底または下方に向かって傾斜する底部109を有する。
【0040】
反応槽110の大きさ(容量)は、反応装置100の用途(例えば、これを用いて行われる反応の種類)や、反応液の処理量などによって適宜設定されるため、必ずしも限定されないが、例えば、0.1リットル~1,000,000リットルである。
【0041】
1つの実施形態では、反応槽110はまた、反応液供給口112および生成物出口114を備える。反応液供給口112は、反応槽110内に反応液116を新たに供給するための入口である。反応液供給口112は、例えば反応槽110の上方(例えば、上蓋)に設けられている。あるいは、反応液供給口112は、反応槽110の側面部に設けられていてもよい。反応槽110に設けられる反応液供給口112の数は1個に限定されない。例えば、複数個の反応液供給口が反応槽110に設けられていてもよい。
【0042】
生成物出口114は、反応槽110内で得られた生成物を反応槽110から取り出すための出口である。生成物出口114は、当該生成物に加えて反応残渣や廃液等も排出可能であり、当該排出は、例えば生成物出口114の下流側に設けられたバルブ115の開閉によって調節され得る。生成物出口114はまた、例えば反応槽110内の底部109の中央に連通して設けられている。
【0043】
反応槽110の上部は、例えば、蓋体またはメンテナンス・ホールのような開閉可能な構造を有していてもよい。さらに、反応槽110の上部には、反応槽110内の圧力を調節するための圧力調節口(図示せず)が設けられていてもよい。さらに、圧力調節口は例えば図示しない減圧ポンプに接続されていてもよい。
【0044】
反応槽110に収容される反応液116は、水溶液、スラリーなどの液体である。反応装置100が例えば後述するエステル交換反応による脂肪酸エステルの製造に使用されるような場合、反応液116は、例えば油相116aおよび水相116bの二相系で構成されており、油相116aおよび水相116bのそれぞれには出発材料などの反応物および溶媒などの媒体が含有されている。
【0045】
図1の反応装置100によれば、回転軸121を回転させることにより、散液デバイス120内の第1の流液部材123aおよび第2の流液部材123bが吸液口124a,124bから反応液116を汲み取る。汲み取られた反応液は、当該回転軸121の回転に伴う遠心力により、通路126a,126bを介して吐出口125a,125bまで移動し、当該吐出口125a,125bから反応槽110内に、具体的には反応槽110内の反応液116の液面128よりも上方に吐出される。これにより、反応液116は、反応槽110の内壁111や液面128への衝突とともに、反応槽110の底部109から上方への移動が可能となり、反応槽110の高さ方向での反応液116の混ぜ返し(例えば、鉛直方向における撹拌または循環)を促すことができる。その結果、反応装置100内で行われる反応生成物の製造がより効果的に進行し得る。
【0046】
なお、本発明において、上記反応槽110、回転軸121、取付具122および流液部材123は、それ添え独立して、例えば、鉄、ステンレススチール、ハステロイ、チタンなどの金属およびこれらの組合せでなる材料から構成されている。これらは、耐薬品性を高めるために、テフロン(登録商標)やグラスライニング、ゴムライニングのような当該分野において公知のコーティングが付与されていてもよい。
【0047】
図3は、本発明の反応装置の他の例を示す概略図である。
図3に示す本発明の反応装置200では、反応槽110の内壁111に、反応槽110の底部109から反応液116の液面128を上回る高さにまで延びる複数の邪魔板210が設けられている。
図3において、邪魔板210は、例えば静置された反応液116の略中央に位置するように(すなわち、邪魔板210の上端が油相116aの内部に位置し、邪魔板210の下端が水相116bの内部に位置し、かつ当該上端および下端が油相116aと水相116bとの界面近傍に位置するように)設けられている
【0048】
邪魔板210は、回転軸121の回転により、取付具122を通じて第1の流液部材123aおよび第2の流液部材123bが回転し、それにより反応槽110内の反応液116が追随して一緒に回転運動することを防止する役割を果たす。言い換えれば、邪魔板210は、反応槽110内で反応液116が水平方向に回転する際の障壁となり、渦の形成を防止できる。その結果、反応液116には反応槽110内で不規則な動きが与えられ、結果として反応液116を混合かつ撹拌する効率を高めることができる。
【0049】
反応槽110に設けられる邪魔板210の数は必ずしも限定されないが、例えば、反応槽110の内壁111に略等間隔で1つ~8つが設けられている。
【0050】
図4は、本発明の反応装置の別の例を示す概略図である。
図4に示す反応装置300では、反応槽110の外周に温度調整用のジャケット310が設けられている。
図4において、ジャケット310は、例えば中空の材料で構成されており、図示しない管を通じて、ジャケット入口320から例えば水蒸気や水や熱媒油などの熱媒体を導入し、ジャケット出口330から排出することができる。ジャケット310内に導入された熱媒体は、反応槽110の外側から反応液116の加熱を行うことにより、反応槽110内の反応液116に対する温度制御を可能にする。
【0051】
なお、
図4に示す実施形態では、熱媒体として反応槽110内を加熱するための加熱用熱媒体を用いる例について説明したが、本発明はこれに限定されない。当該加熱用熱媒体に代えて、例えば、液化窒素、水、ブライン、ガス冷媒(例えば、二酸化炭素、フロン)のような冷却用熱媒体がジャケット310に導入されてもよい。
【0052】
図5は、本発明の他の散液デバイスが組み込まれた反応装置の一例を示す概略図である。反応装置400において、散液部420を構成する2つの流液部材(すなわち、第1の流液部材423aおよび第2の流液部材423b)は、下方の一部(例えば、吸液部424a,424bの最下端部427a,427b近傍)が筒状であり、かつその上方が樋状の形態を有する流路426a,426bを備える。散液デバイス420もまた、第1の流液部材423aの吸液部424aが、第2の流液部材423bの吸液部424bよりも上方に配置されている。
【0053】
図6は、
図5に示す散液デバイスの第2の流液部材423bの一例を模式的に表す斜視図である。例えば、第2の散液部材423bが
図6に示すような一部が円筒状でありかつ残りが樋状の部材が使用される場合、円筒部分の内径は、例えば2mm~200mmである。吸液部424bの最下端部427bから吸液部424bの最上端部428bまでの長さ(すなわち円筒状の通路の長さ)、および吸液部424の最下端部427bから吐出部425bまでの長さ(すなわち通路426bの長さ)は、必ずしも限定されず、例えば、第1の流液部材423aにそれぞれ対応する部分の長さや、組み込まれる反応槽の大きさ、取付傾斜角θ
1の大きさ等によって適切な長さが当業者により選択され得る。なお、
図6では第2の流液部材423bについて説明したが、
図5に示す第1の流液部材423aもまた、流路426aの長さが
図6に示す流路426bと異なる点を除き、略同様である。
【0054】
再び
図5を参照すると、散液デバイス420もまた、第1の流液部材423aの吸液部424aが、第2の流液部材423bの吸液部424bよりも下方に配置されている。すなわち、第1の流液部材423aにおける吸液部424aの最下端部427aと第2の流液部材423bにおける吸液部423bの最下端部427bとは、鉛直方向における位置が所定の距離を空けて配置されている。
図5において、第1の流液部材423aにおける吸液部424aの最下端部427aは静置状態にて反応液116の油相116aが存在する位置に設けられており、第2の流液部材423bにおける吸液部424bの最下端部427bは静置状態にて反応液116の水相116bが存在する位置に設けられている。
【0055】
このような配置において、第1の流液部材423aおよび第2の流液部材423bは、回転軸121の回転により、それぞれの最下端部427a,427b付近の反応液116を汲み取ることができる。次いで、汲み取られた反応液116は、回転軸121の回転により第1の流液部材423aの流路426aおよび第2の流液部材423bの流路426bをそれぞれ通過して上方に移動し、吐出部425a,425bから反応槽110の内壁111に向かって吐出される。吐出された反応液はそのまま内壁111を流下して再び反応液116と混ざることができる。
【0056】
図7は、本発明の別の散液デバイスが組み込まれた反応装置の一例を示す概略図である。
図7に示す反応装置500では、散液デバイス520を構成する第1の流液部材523aおよび第2の流液部材523bが円筒などの筒状の形態を有し、かつそれらの上端が斜め上方を指向するように湾曲することにより吐出部525a,525bが反応槽110の内壁111方向に指向するように設計されている。
【0057】
散液デバイス520もまた、第1の流液部材523aの吸液部524aが、第2の流液部材523bの吸液部524bよりも上方に配置されている。すなわち、第1の流液部材423aにおける吸液部424aの最下端部427aと第2の流液部材423bにおける吸液部423bの最下端部427bとは、鉛直方向における位置が所定の距離を空けて配置されている。
【0058】
このような配置において、第1の流液部材523aの吸液部524aおよび第2の流液部材523bの吸液部524bから汲み取られた反応液116は、回転軸121の回転により第1の流液部材523aの流路526aおよび第2の流液部材523bの流路526bをそれぞれ通過して上方に移動し、吐出部525a,525bから反応槽110の内壁111に向かって吐出される。これにより、反応槽110の高さ方向において別々の場所に存在する油相116aおよび水相116bの各液液が内壁111上で混合する。吐出された反応液はそのまま内壁111を流下して再び反応液116と混ざることができる。
【0059】
図7に示す実施形態では、第1の流液部材523aおよび第2の流液部材523bは例えば所定の曲率にて緩やかに湾曲している例につい説明したが、本発明はこの形態に限定されない。例えば、散液部材の上方にて1つまたはそれ以上の折れ曲がりによって屈曲し、吐出口が反応槽110の内壁111に指向しているものであってもよい。
【0060】
図8は、本発明の別の散液デバイスが組み込まれた反応装置の一例を示す概略図である。
図8に示す反応装置600では、散液デバイス620を構成する第1の流液部材623aおよび第2の流液部材623bが円筒などの筒状の形態を有し、かつその上方が湾曲することにより、吐出部625a,625bが反応槽110内に収容された反応液116の液面128を指向するように設計されている。
【0061】
散液デバイス620もまた、第1の流液部材623aの吸液部624aが、第2の流液部材623bの吸液部624bよりも下方に配置されている。すなわち、第1の流液部材623aにおける吸液部624aの最下端部627aと第2の流液部材623bにおける吸液部623bの最下端部627bとは、鉛直方向における位置が所定の距離を空けて配置されている。
【0062】
このような配置において、第1の流液部材623aおよび第2の流液部材623bの吸液部624a,624bから汲み取られた反応液116は、回転軸121の回転により第1の流液部材623aの流路626aおよび第2の流液部材623bの流路626bをそれぞれ通過して上方に移動し、吐出部625a,625bから反応槽110の反応液116の液面128に向かって吐出される。
【0063】
図8に示す実施形態では、第1の流液部材623aおよび第2の流液部材623bは例えば所定の曲率にて緩やかに湾曲している例につい説明したが、本発明はこの形態に限定されない。例えば、散液部材の上方にて1つまたはそれ以上の折れ曲がりによって屈曲し、吐出口が反応槽110内の反応液116の液面128に指向しているものであってもよい。
【0064】
本発明の散液デバイスが組み込まれた反応装置は、反応液(反応物)の撹拌が所望される種々の反応生成物の製造において有用である。特に、油相と水相とで構成されるような二相系(不均一反応系)において、従来の撹拌機を用いる場合よりも効果的に反応生成物を得ることができる。このような二相系の例としては、脂肪酸エステルを製造するためのエステル交換反応が挙げられる。
【0065】
(反応生成物の製造方法)
次に、本発明の散液デバイスが組み込まれた反応装置を用いて所定の反応生成物を製造する方法について説明する。
【0066】
本発明の製造方法では、上記散液デバイスが組み込まれた反応装置内で反応液を循環させることにより撹拌が行われる。ここで、本明細書において、用語「循環による撹拌」とは、対象となる液体(例えば反応液)に対して、水平方向の回転を加えることによる撹拌と、上記反応装置を用いる場合のように、鉛直方向の当該液体の移動かつ循環を通じて当該液体全体の混ぜ返し(またはミキシング)との両方を包含していう。
【0067】
本発明に用いられる反応液は、無機または有機系の液体媒体を含有し、一般に撹拌機等による撹拌を通じて化学反応を進行させかつ制御され得るものである。例えば反応液は不均一系の反応液である。例えば、油相および水相から構成されている反応液は、上記循環による撹拌を通じて、反応液の乳化を向上かつ促進することができる点で有用である。
【0068】
反応液が不均一系の反応液である場合、当該反応液には、例えば原料油脂と、液体酵素と、炭素数1から8を有するアルコール、および水が含有されている。
【0069】
原料油脂は、例えばバイオディーゼル燃料用の脂肪酸エステルの製造において使用され得る油脂である。原料油脂は、予め精製された油脂、または不純物を含む未精製油脂のいずれであってもよい。原料油脂の例としては、食用油脂およびその廃食用油脂、原油、および他の廃棄物系油脂、ならびにそれらの組合せが挙げられる。食用油脂およびその廃食用油脂の例としては、植物油脂、動物油脂、魚油、微生物生産油脂、およびこれらの廃油、ならびにこれらの混合物(混合油脂)が挙げられる。植物油脂の例としては、必ずしも限定されないが、大豆油、菜種油、パーム油、およびオリーブ油が挙げられる。動物油脂の例としては、必ずしも限定されないが、牛脂、豚脂、鶏脂、鯨油、および羊脂が挙げられる。魚油としては、必ずしも限定されないが、イワシ油、マグロ油、およびイカ油が挙げられる。微生物生産油脂の例としては、必ずしも限定されないが、モルティエレラ属(Mortierella)またはシゾキトリウム属(Schizochytrium)などの微生物によって生産される油脂が挙げられる。
【0070】
原油は、例えば、従来の食用油脂の搾油工程から得られる未精製または未加工の油脂であり、例えば、リン脂質および/またはタンパク質などのガム状不純物、遊離脂肪酸、色素、微量金属および他の炭化水素系の油可溶性不純物、ならびにこれらの組合せを含有し得る。原油に含まれる当該不純物の含有量は特に限定されない。
【0071】
廃棄物系油脂としては、例えば、食品油脂の製造過程で生じる粗油をアルカリの存在下で精製することにより得られる油滓、熱処理油、プレス油、および圧延油、ならびにこれらの組合せが挙げられる。
【0072】
原料油脂は、油脂本来の性質を阻害しない範囲において任意の量の水分を含有していてもよい。さらに、原料油脂は、別途脂肪酸エステルの生成反応において使用した溶液中に残存する未反応の油脂を用いてもよい。
【0073】
本発明において液体酵素としては、脂肪酸エステルの生成反応に使用され得る任意の酵素触媒のうち、室温において液体の性状を有するものが挙げられる。液体酵素の例としては、リパーゼ、クチナーゼ、およびそれらの組合せが挙げられる。ここで、本明細書中に用いられる用語「リパーゼ」とは、グリセリド(アシルグリセロールともいう)に作用して、当該グリセリドをグリセリンまたは部分グリセリドと脂肪酸とに分解する能力を有し、かつ直鎖低級アルコールの存在下ではエステル交換により脂肪酸エステルを生成する能力を有する酵素を言う。
【0074】
本発明において、リパーゼは1,3-特異的であっても、非特異的であってもよい。脂肪酸の直鎖低級アルコールエステルを製造することができるという点においては、当該リパーゼは、非特異的であることが好ましい。リパーゼの例としては、リゾムコール属(リゾムコール・ミーハエ(Rhizomucor miehei))、ムコール属、アスペルギルス属、リゾプス属、ペニシリウム属などに属する糸状菌に由来するリパーゼ;キャンディダ属(カンジダ・アンタルシティカ(Candida antarcitica),カンジダ・ルゴサ(Candida rugosa),カンジダ・シリンドラセア(Candida cylindracea))、ピヒア(Pichia)などに属する酵母に由来するリパーゼ;シュードモナス属、セラチア属などに属する細菌に由来するリパーゼ;および豚膵臓などの動物に由来するリパーゼが挙げられる。液体リパーゼは、例えば、これらの微生物が産生したリパーゼを含む該微生物の培養液を濃縮かつ精製することによって、あるいは粉末化したリパーゼを水に溶解することによって得ることができる。市販の液体リパーゼもまた用いられ得る。
【0075】
本発明における上記液体酵素の使用量は、例えば、原料油脂の種類および/または量によって変動するため必ずしも限定されないが、使用する原料油脂100質量部に対し、好ましくは0.1質量部~50質量部、好ましくは0.2質量部~30質量部である。液体酵素の使用量が0.1質量部を下回ると、効果的なエステル交換反応を触媒することができず、所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率を低下させるおそれがある。液体酵素の使用量が50質量部を上回ると、もはやエステル交換反応を通じて得られる所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率に変化が見られず、むしろ製造効率を低下させるおそれがある。
【0076】
本発明におけるアルコールは、直鎖または分岐鎖の低級アルコール(例えば、炭素数1~8のアルコール、好ましくは炭素数1~4のアルコール)である。直鎖の低級アルコールが好ましい。直鎖の低級アルコールの例としては、必ずしも限定されないが、メタノール、エタノール、n-プロパノール、およびn-ブタノール、ならびにこれらの組合せが挙げられる。
【0077】
上記アルコールの使用量は、例えば、使用する原料油脂の種類および/または量によって変動するため必ずしも限定されないが、原料油脂100質量部に対し、好ましくは5質量部~100質量部、好ましくは10質量部~30質量部である。アルコールの使用量が5質量部を下回ると、効果的なエステル交換反応を行うことができず、所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率を低下させるおそれがある。アルコールの使用量が100質量部を上回ると、もはやエステル交換反応を通じて得られる所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率に変化が見られず、むしろ製造効率を低下させるおそれがある。
【0078】
本発明に用いられる水は、蒸留水、イオン交換水、水道水、純水のいずれであってもよい。当該水の使用量は、例えば、使用する原料油脂の種類および/または量によって変動するため必ずしも限定されないが、原料油脂100質量部に対し、好ましくは0.1質量部~50質量部、好ましくは2質量部~30質量部である。水の使用量が0.1質量部を下回ると、反応系内に形成される水層の量が不足し、上記原料油脂、液体酵素およびアルコールによる効果的なエステル交換反応を行うことができず、所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率を低下させるおそれがある。水の使用量が50質量部を上回ると、もはやエステル交換反応を通じて得られる所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率に変化が見られず、むしろ製造効率を低下させるおそれがある。
【0079】
本発明の製造方法では、上記反応液に対して所定の電解質が添加されていてもよい。電解質を構成するアニオンとしては、必ずしも限定されないが、例えば、炭酸水素イオン、炭酸イオン、塩化物イオン、水酸化物イオン、クエン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオン、およびリン酸イオンならびにこれらの組合せが挙げられる。電解質を構成するカチオンとしては、例えば、アルカリ金属イオン、およびアルカリ土類金属イオンならびにそれらの組合せが挙げられ、より具体的な例としては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、およびカルシウムイオン、ならびにそれらの組合せが挙げられる。本発明において、電解質の例としては、炭酸水素ナトリウム(重曹)、炭酸ナトリウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、クエン酸三ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化ナトリウム、およびリン酸三ナトリウム、ならびにそれらの組合せが好ましい。汎用性に富み、入手が容易である等の理由から、炭酸水素ナトリウム(重曹)がより好ましい。
【0080】
本発明において、上記原料油脂、触媒、およびアルコール、および水は、例えば
図1に示す反応装置100の反応槽110に反応液供給口112を通じて同時または任意の順序で添加され、油相116aおよび水相116bで構成される反応液116が構成される。その後、回転軸121の回転を通じて散液デバイス120の第1の流液部材123aおよび第2の流液部材123bを反応槽110内で回転させることにより、上述の通り、第1の流液部材123aおよび第2の流液部材123bの吸液部124a,124bから反応液116が汲み取られ、汲み取られた反応液は流路126a,126bを通じて上方に移動し、第1の流液部材123aおよび第2の流液部材123bの吐出口125a,125bから吐出される。このような反応液116の移動によって反応液116の撹拌が促され、反応生成物である脂肪酸エステルの生成が行われる。反応槽110内に付される温度は、必ずしも限定されないが、例えば、5℃~80℃、好ましくは15℃~80℃、より好ましくは25℃~50℃である。
【0081】
なお、本発明において、反応装置100内の回転軸の回転は必ずしも高速(例えば、600rpm以上)で行われなくてもよい。例えば、低速(例えば、80rpm以上300rpm未満)または中速(例えば、300rpm以上600rpm未満)に設定されてもよい。さらに、反応時間は、使用する原料油脂、触媒、アルコール、および水の各量によって変動するため、必ずしも限定されず、任意の時間が当業者によって設定され得る。
【0082】
反応の終了後、生成物および反応残渣は反応装置100の反応槽110から取り出され、例えば、当業者に周知の手段を用いて脂肪酸エステルを含む層と、副生成物グリセリンを含む層とに分離される。その後、脂肪酸エステルを含む層はさらに、必要に応じて当業者に周知の方法を用いて脂肪酸エステルが単離かつ精製され得る。
【0083】
上記のようにして得られた脂肪酸エステルは、例えばバイオディーゼル燃料またはその構成成分として使用され得る。
【符号の説明】
【0084】
100,200,300,400,500,600 反応装置
109 底部
110 反応槽
111 内壁
112 反応液供給口
114 生成物出口
115 バルブ
116 反応液
116a 油相
116b 水相
120,420,520 散液デバイス
121 回転軸
122 取付具
123a,423a,523a 第1の流液部材
123b,423b,523b 第2の流液部材
124a,124b,424a,424b,524a,524b,624a,624b 吸液部
125a,125b,425a,425b,525a,525b,625a,625b 吐出部
126a,126b,426a,426b,526a,526b,626a,626b 流路
127a,127b,427a,427b,527a,527b,627a,627b 最下端部
128 液面
140 モータ
210 邪魔板
310 ジャケット
320 ジャケット入口
330 ジャケット出口
【手続補正書】
【提出日】2022-06-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向に沿って配置された回転軸と該回転軸に1本の取付具を介して装着された、少なくとも1つの第1の流液部材と少なくとも1つの第2の流液部材とを備え、
該第1の流液部材および該第2の流液部材がともに、上端に位置する吐出部、下端に位置する吸液部、および該吐出部と該吸液部との間を延びる流路を備え、かつ両端が開放された筒状の形態を有し、
該第1の流液部材の該吸液部が、該第2の流液部材の該吸液部よりも上方に配置されている、散液デバイス。
【請求項2】
前記第1の流液部材および前記第2の流液部材のそれぞれにおいて、前記回転軸の軸線に対して前記吸液部が前記吐出部よりも近位に位置するように傾斜して配置されている、請求項1に記載の散液デバイス。
【請求項3】
反応液を収容するための反応槽と、該反応槽内に設けられている請求項1または2に記載の散液デバイスとを備える、反応装置。
【請求項4】
前記反応液が油相および水相から構成されている、請求項3に記載の反応装置。