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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023037907
(43)【公開日】2023-03-16
(54)【発明の名称】移動農機
(51)【国際特許分類】
   B62D 5/07 20060101AFI20230309BHJP
   B62D 11/08 20060101ALI20230309BHJP
   A01B 69/00 20060101ALI20230309BHJP
【FI】
B62D5/07
B62D11/08 X
A01B69/00 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021144738
(22)【出願日】2021-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】000001878
【氏名又は名称】三菱マヒンドラ農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻 八州仁
【テーマコード(参考)】
2B043
3D052
3D333
【Fターム(参考)】
2B043AA03
2B043AB20
2B043BA02
2B043BB01
2B043DA04
2B043DB17
2B043DB18
2B043DB20
2B043DC03
2B043ED23
3D052AA05
3D052AA18
3D052BB09
3D052DD03
3D052EE03
3D052FF02
3D052FF05
3D052GG03
3D052JJ26
3D333EC07
3D333EC08
3D333EC10
(57)【要約】
【課題】油圧ポンプの負荷を低減することが可能な移動農機を提供する。
【解決手段】トラクタは、油圧制御回路20において、油圧ポンプ21から供給される油圧に基づきパワーステアリング機構を油圧制御するパワーステアリング用油圧回路40と、パワーステアリング用油圧回路40の背圧に基づき前輪増速機構を油圧制御する前輪増速用油圧回路60とを有する。前輪増速用油圧回路60は、背圧が所定圧以上となった場合に油圧を排出する安全弁62と、前輪増速切換弁61とを有しており、前輪増速切換弁61は、背圧を前輪増速機構の油圧サーボ51に供給することで前輪の回転速度を増速する増速位置61Aと、背圧及び油圧サーボ51の油圧を排出する通常位置61Bとに切換えられる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧により前輪に操舵力を付与するパワーステアリング機構と、
前記前輪のステアリングの切れ角が所定値以上となったことに基づき油圧により伝達経路を切換えて、前記前輪の回転速度を後輪の回転速度よりも増速する前輪増速機構と、
油圧を発生させる油圧ポンプと、
前記油圧ポンプから供給される油圧に基づき前記パワーステアリング機構を油圧制御するパワーステアリング用油圧回路と、前記パワーステアリング用油圧回路から供給される背圧に基づき前記前輪増速機構を油圧制御する前輪増速用油圧回路と、を有する油圧制御回路と、を備え、
前記前輪増速用油圧回路は、
前記背圧が所定圧よりも大きくなった場合に油圧を排出する安全弁と、
前記背圧を前記前輪増速機構の油圧サーボに供給して前記伝達経路を切換え、前記前輪の回転速度を増速する第1状態と、前記背圧及び前記油圧サーボの油圧を排出する第2状態と、に切換る切換弁と、を有する、
ことを特徴とする移動農機。
【請求項2】
作業機の昇降状態を制御可能な昇降機構を備え、
前記油圧制御回路は、前記油圧ポンプから前記パワーステアリング用油圧回路に供給する油圧を分岐させる分岐部と、前記分岐部を介して前記油圧ポンプから供給される油圧に基づき前記昇降機構を油圧制御する昇降機構用油圧回路と、を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の移動農機。
【請求項3】
前記昇降機構は、前記作業機の水平状態を制御可能であり、
前記昇降機構用油圧回路は、前記作業機の水平状態を油圧制御する水平制御回路と、前記作業機の昇降状態を油圧制御する昇降制御回路と、を有する、
ことを特徴とする請求項2に記載の移動農機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーステアリング機構を油圧制御するパワーステアリング用油圧回路と前輪増速機構を油圧制御する前輪倍速用油圧回路とを備えた移動農機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トラクタ等の移動農機にあって、機体を急旋回させる際、ステアリングの切れ角が所定値以上となると、前輪に駆動連結された変速機構を油圧制御することで変速比を小さくし、前輪の回転速度を増速することで、前輪と後輪との相対速度差を大きくして旋回半径を小さくするものがある。
【0003】
このような移動農機にあっては、油圧ポンプで発生させた油圧を、前輪倍速機構に供給する前輪倍速用油圧回路だけでなく、パワーステアリング用油圧回路や昇降機構用油圧回路等にも供給するために、油圧ポンプからの油圧を分流させることが求められるが、分流弁が複雑になる虞がある。そこで、パワーステアリング用油圧回路の背圧を前輪倍速用油圧回路に供給することで、分流弁の簡略化を図ったものが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-205851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、引用文献1のものにおいては、パワーステアリング用油圧回路の背圧が所定圧以上となると、そのパワーステアリング用油圧回路の構成部品や、その背圧が供給される前輪倍速用油圧回路の構成部品に負荷が生じる虞があるため、背圧を一定圧に維持する安全弁であるリリーフ弁(44)が設けられている。しかしながら、このリリーフ弁は一定圧以上にならないと開放されないため、つまりパワーステアリング用油圧回路の背圧が常に一定圧に維持されている。このため、パワーステアリング用油圧回路からの油圧の排出を常に妨げており、常に油圧ポンプに負荷が生じることになって、油圧ポンプが駆動連結された駆動系における出力損失、油温の上昇、油圧ポンプの寿命への影響、油圧ポンプの騒音増大等が生じてしまうという問題がある。また、特に小型トラクタ等の移動農機においては、小型のエンジンが用いられることが多く、上記油圧ポンプの負荷によるエンジン出力に対する影響が大きいという問題もある。
【0006】
そこで本発明は、油圧ポンプの負荷を低減することが可能な移動農機を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態である移動農機(1)は、
油圧により前輪(2)に操舵力を付与するパワーステアリング機構(30)と、
前記前輪(2)のステアリングの切れ角が所定値以上となったことに基づき油圧により伝達経路を切換えて、前記前輪の回転速度を後輪(3)の回転速度よりも増速する前輪増速機構(9B)と、
油圧を発生させる油圧ポンプ(21)と、
前記油圧ポンプ(21)から供給される油圧に基づき前記パワーステアリング機構(30)を油圧制御するパワーステアリング用油圧回路(40)と、前記パワーステアリング用油圧回路(40)から供給される背圧に基づき前記前輪増速機構(9B)を油圧制御する前輪増速用油圧回路(60)と、を有する油圧制御回路(20)と、を備え、
前記前輪増速用油圧回路(60)は、
前記背圧が所定圧よりも大きくなった場合に油圧を排出する安全弁(62)と、
前記背圧を前記前輪増速機構(9B)の油圧サーボ(51)に供給して前記伝達経路を切換え、前記前輪(2)の回転速度を増速する第1状態(61A)と、前記背圧及び前記油圧サーボ(51)の油圧を排出する第2状態(61B)と、に切換る切換弁(61)と、を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の一形態である移動農機(1)は、
作業機の昇降状態を制御可能な昇降機構(13)を備え、
前記油圧制御回路(20)は、前記油圧ポンプ(21)から前記パワーステアリング用油圧回路(40)に供給する油圧を分岐させる分岐部(22)と、前記分岐部(22)を介して前記油圧ポンプ(21)から供給される油圧に基づき前記昇降機構(13)を油圧制御する昇降機構用油圧回路(80,90)と、を有することを特徴とする。
【0009】
そして、本発明の一形態である移動農機(1)は、
前記昇降機構(13)は、前記作業機の水平状態を制御可能であり、
前記昇降機構用油圧回路は、前記作業機の水平状態を油圧制御する水平制御回路(80)と、前記作業機の昇降状態を油圧制御する昇降制御回路(90)と、を有することを特徴とする。
【0010】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これは、発明の理解を容易にするための便宜的なものであり、特許請求の範囲の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、前輪の増速を行わない第2状態において、油圧ポンプの負荷を低減することができ、PTO軸の出力向上、油温の上昇の抑制、油圧ポンプの長寿命化、油圧ポンプの騒音低減等を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施の形態に係るトラクタを示す全体図である。
図2】(a)は本実施の形態に係る駆動系を示す上方視図、(b)は本実施の形態に係る駆動系を示す側方視図である。
図3】本実施の形態に係る駆動系の後方部分を示す斜視図である。
図4】本実施の形態に係るトラクタの油圧制御回路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る実施の形態を図1乃至図4を用いて説明する。まず、本実施の形態に係るトラクタ1の概略構成を図1乃至図3を用いて説明する。
【0014】
[トラクタの概略構成]
本実施の形態に係る移動農機としてのトラクタ1は、例えば小型のトラクタであって、図1に示すように、タイロッドの前後移動量を感知する前輪切れ角センサ(不図示)を有する前輪2と後輪3とによって支持されている機体5を有しており、この機体5には、上方の中央部に運転席7が、前側にエンジン6が、エンジン6の後方にトランスミッション9が、それぞれ配置されている。また、機体5の後部には、トランスミッション9から駆動力が出力されるPTO軸(不図示)に駆動連結される作業機(不図示)を昇降可能にかつ水平状態を調整可能にする昇降機構13が配置されている。
【0015】
運転席7には、ステアリングとしてのステアリングホイール7aが設けられていると共に、トランスミッション9の主変速装置(不図示)を操作する主変速レバー10と、トランスミッション9の副変速装置(不図示)を操作する副変速レバー11とが設けられている。さらに運転席7には、トランスミッション9を後輪3のみに駆動力を伝達する二輪駆動状態と、後輪3及び前輪2に駆動力を伝達する四輪駆動状態とを切替える駆動力切替えレバー(図示せず)、四輪駆動状態と後輪3の略々2倍の回転速度を前輪2に伝達する前輪倍速状態とを切替えるクイックターン切替えレバー(図示せず)とが配置されている。
【0016】
[トラクタの駆動系及び油圧経路の構成]
続いて、トラクタ1の駆動系と油圧経路との詳細について図2及び図3を用いて説明する。図2(a)、図2(b)、及び図3に示すように、トラクタ1の駆動系においては、前方にエンジン6が配置され、その後方にエンジン6に駆動連結されるトランスミッション9が配置される。トランスミッション9は、エンジン6の回転を変速して後輪3又は後輪3と前輪2とに伝達する走行用変速機構9Aを備えており、走行用変速機構9Aの前方側における前輪2への伝達経路上に前輪2の回転を増速する(2倍にする)前輪増速機構9Bを備えている。
【0017】
また、トランスミッション9の上方には、ステアリングホイール7aの回転操作により操舵力を付与して前輪2を操舵するパワーステアリング機構30が配置されている。パワーステアリング機構30には、所謂オービットロールであるパワーステアリング用油圧回路40が設けられている。
【0018】
一方、トランスミッション9の後方には、図示を省略したPTO軸に駆動連結される作業機(不図示)の昇降状態や水平状態を制御可能であり、つまり作業機を昇降したり水平位置を調整したりする昇降機構13が配置されている。昇降機構13には、図3に示すように、作業機を昇降する昇降アーム13Aと、作業機を水平に調整する水平アーム13Bとが備えられている。
【0019】
図2(a)、図2(b)、及び図3に示すように、機体5の右側下方には、トランスミッション9から油を油圧フィルタ19に供給するパイプで構成される油路L0が接続されており、機体5の下方を通るように、油圧フィルタ19から油圧ポンプ21まで接続する油路L1が配置されている。油圧ポンプ21からは、油圧を分岐して供給する分岐部としての分岐弁22を介して油路L3及び油路L4に発生させた油圧を供給する。油路L4は、機体5の左側下方を通って昇降機構13に接続され、一方の油路L3は、パワーステアリング用油圧回路40に接続されている。詳しくは後述するパワーステアリング用油圧回路40の背圧は、パワーステアリング用油圧回路40に接続された油路L5に出力され、機体5の後方右側に配置された前輪増速用油圧回路60に接続されている。そして、前輪増速用油圧回路60と前輪増速機構9Bとが油路L15を介して接続されている。
【0020】
[油圧制御回路の詳細]
ついで、本実施の形態に係るトラクタ1の油圧制御回路20について図4を用いて説明する。図4に示すように、油圧ポンプ21は、エンジン6に駆動連結されて駆動され、油路L0、油圧フィルタ19、及び油路L1を介して油を吸入して油圧を発生し、油路L2に吐出する。油路L2に供給された油圧ポンプ21の油圧は、分岐弁22によって油路L3と油路L4とに供給される。
【0021】
(昇降機構用油圧回路)
まず、昇降機構用油圧回路を構成する水平制御回路80及び昇降制御回路90の詳細について説明する。上記油路L4に供給された油圧は、水平昇降切換部70の水平昇降切換弁71に入力される。水平昇降切換弁71のスプールは、スプリングの付勢力によって水平制御位置71Aに位置し、図示を省略したソレノイドの駆動によりスプリングの付勢力に抗して水平昇降制御位置72Bに切換えられる。即ち、水平昇降切換弁71は、水平制御位置71Aでは昇降機構用油圧回路の一つである水平制御回路80に油圧を供給し、水平昇降制御位置71Bでは水平制御回路80と油路L6に油圧を供給し、つまり後述の昇降制御回路90にも油圧を供給する。
【0022】
水平制御回路80では、安全弁81により入力される油圧を一定圧以下に調圧しつつ左右切換弁82に油圧を供給する。左右切換弁82のスプールは、不図示のソレノイドによって駆動されることで、右上昇位置82A、中間位置82B、左上昇位置82Cに切換えられる。即ち、左右切換弁82のスプールが左上昇位置82Cに切換えられると、油圧が対向型油圧サーボ84の油室84bに供給されると共に油室84aの油圧が排出されて水平アーム13B(図3参照)が上昇される。反対に左右切換弁82のスプールが右上昇位置82Aに切換えられると、油圧が対向型油圧サーボ84の油室84aに供給されると共に、油室84bの油圧が、油室84aの油圧で開放される逆止弁83を介して排出されて、水平アーム13B(図3参照)が下降される。そして、左右切換弁82のスプールが中間位置82Bに切換えられている間は、対向型油圧サーボ84に水平昇降切換部70からの油圧が供給されずにそのまま排出され、作業機の水平状態は維持される。
【0023】
上記水平昇降切換弁71のスプールが水平昇降制御位置71Bに切換えられると、油路L6から昇降制御部100に油圧が供給され、安全弁91により入力される油圧を一定圧以下に調圧しつつ昇降制御回路90に油圧を供給する。昇降制御回路90は、潤滑切換弁93、排出切換弁94、潤滑遮断切換弁95を有して構成されている。
【0024】
詳細には、上記水平昇降切換弁71のスプールが水平昇降制御位置71Bに切換えられると、油路L6から安全弁91により一定圧以下に調圧された油圧が潤滑切換弁93に供給される。潤滑切換弁93のスプールは、不図示のソレノイドによってレバー112が駆動されることで、第1潤滑停止位置93A、第2潤滑停止位置93B、第1潤滑供給位置93C、第2潤滑供給位置93Dに切換えられる。潤滑切換弁93は、スプールが何れの位置でも逆止弁96に油圧を供給し、油路L7と、逆止弁及び可変オリフィスを有して排出量を調整する排出調整弁97とを介して昇降アーム13Aを上昇方向に押圧する油圧サーボ98に油圧を供給可能にする。
【0025】
また、潤滑切換弁93からは潤滑遮断切換弁95にも油圧が供給される。潤滑遮断切換弁95のスプールは、油路L8を介して昇降機構13に潤滑油を供給する潤滑供給位置95Aと、油圧を遮断して潤滑油の供給を停止する潤滑遮断位置95Bとに切換え可能であり、上記潤滑切換弁93のスプールが第1潤滑停止位置93A及び第2潤滑停止位置93Bの状態で、潤滑遮断切換弁95に作動油圧が入力されてスプリングの付勢力に抗してスプールが潤滑遮断位置95Bとなり、上記潤滑切換弁93のスプールが第1潤滑供給位置93C及び第2潤滑供給位置93Dの状態で、潤滑遮断切換弁95への作動油圧が遮断されてスプリングの付勢力によってスプールが潤滑供給位置95Aとなる。なお、第2潤滑停止位置93Bの状態では、潤滑遮断切換弁95のポートの絞りによって潤滑遮断切換弁95及び油路L7への油圧供給が絞られる。
【0026】
排出切換弁94は、不図示のソレノイドによってレバー111が駆動されることで、そのスプールが油圧排出停止位置94A、油圧排出位置94Bに切換えられる。排出切換弁94のスプールが油圧排出停止位置94Aに切換えられた状態では、内蔵された逆止弁によって油路L7を介して油圧サーボ98の油圧を排出する経路が遮断され、つまり油圧サーボ98に供給された油圧が排出されず、昇降アーム13Aの上昇が行われる。そして、排出切換弁94のスプールが油圧排出位置94Bに切換えられた状態では、油路L7を介して油圧サーボ98の油圧を排出し、昇降アーム13A(及び作業機)が自重によって下降される。なお、上記レバー112はレバー111に位置が規制されており、排出切換弁94のスプールが油圧排出停止位置94Aに切換えられた状態では、潤滑切換弁93のスプールが第2潤滑供給位置93Dに移動しないように構成されている。
【0027】
(パワーステアリング用油圧回路)
次に、パワーステアリング用油圧回路40について説明する。上記油圧ポンプ21から分岐弁22を介して油路L3に供給された油圧は、所謂オービットロールであるパワーステアリング用油圧回路40に供給され、調圧弁41によって一定圧以下に調圧されてステアリング圧制御弁44にパイロット圧として供給されると共に、調圧弁41によって調圧された余剰圧が、パワーステアリング用油圧回路40から排出される背圧として油路L5に供給される。なお、逆止弁42により、供給されるパイロット圧よりも背圧が上回らないように調圧される。
【0028】
上記ステアリング圧制御弁44のスプールは、ステアリングホイール7aに連結されたステアリングシャフト32によって、右アシスト位置44A、中間位置44B、左アシスト位置44Cの間で移動され、つまりステアリングホイール7aの切れ角を右に回転していくとステアリング圧制御弁44のスプールは右アシスト位置44Aに移動し、反対にステアリングホイール7aの切れ角を左に回転していくとステアリング圧制御弁44のスプールは左アシスト位置44Cに移動する。
【0029】
ステアリング圧制御弁44が右アシスト位置44Aに移動すると、パイロット圧がサーボフィードバック付きメータリングポンプ45に供給されつつ油路L31を介してパワーステアリングシリンダ31に供給され、図示を省略したステアリングロッドを介して前輪2を右方向に旋回させる。また反対に、ステアリング圧制御弁44が左アシスト位置44Cに移動すると、パイロット圧がサーボフィードバック付きメータリングポンプ45に供給されつつ油路L32を介してパワーステアリングシリンダ31に供給され、図示を省略したステアリングロッドを介して前輪2を左方向に旋回させる。なお、このステアリングロッドには、切れ角センサ(不図示)が配置されており、前輪2の切れ角が所定値に達すると、不図示の制御部によってソレノイドを駆動して詳しくは後述する前輪増速切換弁61のスプールを増速位置61Aに切換える。
【0030】
(前輪増速用油圧回路)
ついで、前輪増速用油圧回路60について説明する。上記パワーステアリング用油圧回路40の背圧が油路L5を介して前輪増速用油圧回路60に供給され、油路L11に入力される。油路L11に供給された上記パワーステアリング用油圧回路40の背圧は、切換弁としての前輪増速切換弁61に供給されると共に、油路L12を介して安全弁62に供給される。
【0031】
前輪増速切換弁61のスプールは、第2状態を形成する位置としての増速位置61Aと、第1状態を形成する位置としての通常位置61Bとに移動されて切換えられる。即ち、上述したようにステアリングロッドの位置、つまりステアリングホイール7aの切れ角が所定値以上となったことに基づき不図示のソレノイドが駆動され、前輪増速切換弁61のスプールは増速位置61Aに切換えられる。増速位置61Aの状態では、油路L11と油路L14との間が遮断されると共に油路L11と油路L15とが連通し、上記パワーステアリング用油圧回路40の背圧が油路L15を介して前輪増速機構9Bの油圧サーボ51に作動圧として供給される。これにより、前輪増速機構9Bにおいて、通常の変速比(後輪3に対して前輪2を略同じ回転速度にする変速比)のギヤを通過する伝達経路を切断し、後輪3に対して前輪2を増速(本実施の形態では略倍速に)する変速比のギヤを通過する伝達経路を形成し、つまり後輪3に対して前輪2の回転速度を増速して、トラクタ1の旋回半径を小さくして急旋回させる。
【0032】
また、この前輪増速切換弁61のスプールが増速位置61Aである状態にあっては、上記パワーステアリング用油圧回路40の背圧が所定圧以下となるように安全弁62が作用し、つまり油路L12の背圧が所定圧よりも大きくなるとスプリングの付勢力に抗して安全弁62が開放され、油路L13を介して油圧を排出し、油路L12、油路L11、油路L15の油圧を所定圧以下に維持する。
【0033】
その後、ステアリングホイール7aの切れ角が所定値未満となると、不図示のソレノイドが駆動され、前輪増速切換弁61のスプールは通常位置61Bに切換えられる。すると、油路L15と油路L14とが連通すると共に、油路L11と油路L14とが連通し、つまり油圧サーボ51の作動圧が排出されると共に、上記パワーステアリング用油圧回路40の背圧もそのまま排出される状態となる。これにより、前輪増速機構9Bにおいて、上述した後輪3に対して前輪2を増速する伝達経路から、通常の変速比の伝達経路に戻され、つまり後輪3に対して前輪2も略々同速度にされ、通常走行が可能となる。
【0034】
以上のように、前輪増速用油圧回路60において、前輪増速切換弁61のスプールが通常位置61Bにある状態、つまりトラクタ1で前輪増速を行っていない通常走行状態では、上記パワーステアリング用油圧回路40の背圧が油路L14から排出されるため、パワーステアリング用油圧回路40に背圧による負荷がかからない。これにより、パワーステアリング用油圧回路40に油圧を供給する油圧ポンプ21の負荷も低減され、油圧ポンプ21の駆動による駆動系の出力損失が低減されるので、通常走行時におけるエンジン6による走行出力やPTO軸の出力が向上できる。さらに、油圧ポンプ21の駆動負荷が低減されるため、油圧ポンプ21による油温の上昇も低減され、油圧ポンプの長寿寿命化や騒音低減も図ることできる。特に本実施の形態のように小型のトラクタ1にあって、エンジン6が小型で最大出力性能が小さいものでは、エンジン出力の余力があまり大きくないが、油圧ポンプ21の負荷が低減されることで、エンジン6の余力を確保することができ、走行出力やPTO軸の出力が向上できる。
【0035】
また、油圧制御回路20が、油圧ポンプ21の油圧を分岐弁22を介して昇降機構用油圧回路としての水平制御回路80と昇降制御回路90とに供給可能に構成されているため、1つの油圧ポンプ21によって、パワーステアリング用油圧回路40、前輪増速用油圧回路60、水平制御回路80、及び昇降制御回路90に油圧を供給することになるが、パワーステアリング用油圧回路40に背圧による負荷が低減されるため、作業機の水平制御や昇降制御における油圧供給に余裕を持たせることができ、これらの油圧制御を精度良く行うことを可能とすることができる。
【0036】
[他の実施の形態の可能性]
なお、以上説明した本実施の形態におけるトラクタ1にあっては、前輪増速を行うものを説明したが、これに限らず、例えば急旋回時に前輪2の内輪となる側をブレーキによって回転停止させるものでもよい。この場合は、このブレーキに油圧を供給するブレーキ用油圧回路を備え、そのブレーキ用油圧回路にパワーステアリング用油圧回路40の背圧を供給する構成でもよい。
【0037】
また、本実施の形態におけるトラクタ1にあっては、作業機の水平位置を調整する水平アームと、それを油圧制御する水平制御回路80を備えたものを説明したが、これに限らず、作業機の昇降位置だけを調整し、水平制御回路80を備えていないものでも構わない。
【0038】
また、本実施の形態では、移動農機としてトラクタ1を一例として説明したが、これに限らず、例えば田植え機等であってもよく、パワーステアリング機構と前輪増速機構とを備えるものであれば、どのような移動農機であってもよい。
【符号の説明】
【0039】
1…移動農機(トラクタ)
2…前輪
3…後輪
7a…ステアリング(ステアリングホイール)
9B…前輪増速機構
13…昇降機構
20…油圧制御回路
21…油圧ポンプ
22…分岐部(分岐弁)
30…パワーステアリング機構
40…パワーステアリング用油圧回路
60…前輪増速用油圧回路
61…切換弁(前輪増速切換弁)
61A…第1状態(増速位置)
61B…第2状態(通常位置)
62…安全弁
80…昇降機構用油圧回路、水平制御回路
90…昇降機構用油圧回路、昇降制御回路
図1
図2
図3
図4