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特開2023-37970滑り止め塗料組成物、エアゾール滑り止め塗料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023037970
(43)【公開日】2023-03-16
(54)【発明の名称】滑り止め塗料組成物、エアゾール滑り止め塗料
(51)【国際特許分類】
   C09D 125/10 20060101AFI20230309BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20230309BHJP
【FI】
C09D125/10
C09D7/65
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021144820
(22)【出願日】2021-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】591213173
【氏名又は名称】住鉱潤滑剤株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】日紫喜 治彦
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CB082
4J038CC041
4J038KA06
4J038PA06
4J038PB07
(57)【要約】
【課題】摩擦係数が大きく、さらに粘着性を付与した滑り止め被膜を形成できる滑り止め塗料組成物を提供する。
【解決手段】本発明に係る滑り止め塗料組成物は、スチレンブタジエンエラストマーと、テルペン樹脂と、を含むバインダーと、溶剤と、を含有する。ここで、バインダーは、スチレンブタジエンエラストマーと、テルペン樹脂とを、65:35~95:5の重量比で含むことが好ましい。また、当該塗料組成物は、バインダーと、溶剤とを、10:90~40:60の重量比で含有することが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレンブタジエンエラストマーと、テルペン樹脂と、を含むバインダーと、
溶剤と、を含有する、
滑り止め塗料組成物。
【請求項2】
前記バインダーは、前記スチレンブタジエンエラストマーと、前記テルペン樹脂とを、65:35~95:5の重量比で含む、
請求項1に記載の滑り止め塗料組成物。
【請求項3】
前記バインダーと、前記溶剤とを、10:90~40:60の重量比で含有する、
請求項1又は2に記載の滑り止め塗料組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかの滑り止め塗料組成物からなる基液と、
噴射剤と、を含有する、
エアゾール滑り止め塗料。
【請求項5】
前記噴射剤は、液化ガス又は圧縮ガスである、
請求項4に記載のエアゾール滑り止め塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り止め塗料組成物、及びその塗料組成物を基液として含有するエアゾール滑り止め塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、台車やパレット等で荷役する際、その台車等から荷が滑落することを防止する滑り止め機構が知られている。例えば、滑り止め機構として、ゴムシートや、顔料にガラス微粒子やシリカ微粒子を使用した滑り止め塗料が挙げられる。これらは、台車等の表面(荷の載置面)における荷との接触面の摩擦係数を上げることで、荷の滑落を防止するものである。
【0003】
しかしながら、上述した滑り止め機構は、摩擦力が大きい場合に効果がある機構であるため、例えば小さな荷や重量の軽い荷では十分な摩擦力が得られず、滑り止め効果が小さいという問題がある。
【0004】
なお、引用文献1には、滑り止め塗料に関する技術が開示されており、塗料中に発泡炭化珪素の粒を混入させることで、建築資材にその粒による凸形状を施すことができ、転倒防止効果を発揮して作業性を改善できることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-162758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、摩擦係数が大きく、さらに粘着性を付与した滑り止め被膜を形成できる滑り止め塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上述した課題を解決するための鋭意検討を重ねた。その結果、スチレンブタジエンエラストマーと、テルペン樹脂とを含むバインダー(粘性液体成分)を溶剤に溶解させて塗料組成物を構成することで、形成される被膜において摩擦係数を高めるとともに、粘着性を付与でき、優れた滑り止め効果を発揮させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
(1)本発明の第1の発明は、スチレンブタジエンエラストマーと、テルペン樹脂と、を含むバインダーと、溶剤と、を含有する、滑り止め塗料組成物である。
【0009】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記バインダーは、前記スチレンブタジエンエラストマーと、前記テルペン樹脂とを、65:35~95:5の重量比で含む、滑り止め塗料組成物である。
【0010】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記バインダーと、前記溶剤とを、10:90~40:60の重量比で含有する、滑り止め塗料組成物である。
【0011】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの滑り止め塗料組成物からなる基液と、噴射剤と、を含有する、エアゾール滑り止め塗料である。
【0012】
(5)本発明の第5の発明は、第4の発明において、前記噴射剤は、液化ガス又は圧縮ガスである、エアゾール滑り止め塗料である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、摩擦係数が大きく、さらに粘着性を付与した滑り止め被膜を形成できる滑り止め塗料組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0015】
≪1.滑り止め塗料組成物≫
本実施の形態に係る滑り止め塗料組成物は、例えば台車やパレット等を用いた荷役の作業において、その台車等の金属やプラスチック等の基材からなる表面、すなわち台車等に載置される荷(資材)の載置面に塗布され、滑り止め被膜を形成するものである。
【0016】
具体的に、滑り止め塗料組成物は、バインダーと、溶剤とを含有する。そして、バインダーは、少なくとも、スチレンブタジエンエラストマーと、テルペン樹脂と、を含むことを特徴としている。
【0017】
このように、スチレンブタジエンエラストマーと、テルペン樹脂とを含むバインダーを含有させて構成することで、形成される滑り止め被膜において、主としてスチレンブタジエンエラストマーにより摩擦係数を高めることができるとともに、テルペン樹脂により粘着性を付与することができる。これにより、台車等の表面に塗布して滑り止め被膜を形成したとき、その滑り止め被膜のグリップ力が向上し、荷がその台車等から滑落することを効果的に防ぐことができる。
【0018】
[バインダー]
滑り止め塗料組成物において、バインダーは粘性液体成分であり、後述する溶剤に溶解して組成物を構成する。滑り止め塗料組成物を、対象の塗布面に塗布することで、溶剤が揮発して主としてバインダーの成分からなる滑り止め被膜が形成される。
【0019】
上述したように、バインダーは、スチレンブタジエンエラストマーと、テルペン樹脂と、を含むことを特徴としている。これにより、形成される滑り止め被膜の摩擦係数が高まるとともに、粘着性が付与され、滑り止め効果を向上させることができる。
【0020】
なお、バインダーは、スチレンブタジエンエラストマーと、テルペン樹脂との2成分のみにより構成されることに限られず、効果を損なわない範囲で他の樹脂等の成分を含んでいてもよい。また、スチレンブタジエンエラストマーと、テルペン樹脂とは、それぞれ1種類のみにより構成されることに限られず、複数種を併用して構成してもよい。
【0021】
(スチレンブタジエンエラストマー)
スチレンブタジエンエラストマーは、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。スチレンブタジエンエラストマーの重量平均分子量についても、特に限定されないが、10000~50000の範囲であるのが好ましい。
【0022】
滑り止め塗料組成物においてスチレンブタジエンエラストマーを含有することで、形成される滑り止め被膜の摩擦係数を効果的に高めることができる。
【0023】
(テルペン樹脂)
テルペン樹脂は、テルペンモノマーの重合体である。テルペンモノマーとしては、例えば、α-ピネン、β-ピネン、ジペンテン、リモネン、ミルセン、アロオシメン、オシメン、α-フェランドレン、α-テルピネン、γ-テルピネン、テルピノーレン、1,8-シネオール、1,4-シネオール、α-テルピネオール、β-テルピネオール、γ-テルピネオール、サビネン等が挙げられる。
【0024】
また、テルペン樹脂は、テルペン化合物(テルペンモノマー)とフェノール系化合物(フェノールモノマー)とを原料として重合させて得られるテルペンフェノール樹脂や、テルペン樹脂を芳香族モノマーによって変性した芳香族変性テルペン樹脂等も包含する。なお、フェノール化合物としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、カテコール、レゾルシン、ヒドロキノン及びビスフェノールA等が挙げられる。また、芳香族モノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-スチレン、3,4-ジメチルスチレン、o-ジビニルベンゼン、p-ジビニルベンゼン、α-クロロスチレン、p-クロロスチレン、2,4-ジクロロスチレン、ビニルトルエン及び1-ビニルナフタレン等が挙げられる。
【0025】
滑り止め塗料組成物においてテルペン樹脂を含有することで、形成される滑り止め被膜の摩擦係数を高めるとともに、粘着性を付与することができる。
【0026】
(スチレンブタジエンエラストマーとテルペン樹脂との重量比)
バインダーにおいて、スチレンブタジエンエラストマーと、テルペン樹脂とは、重量比で65:35~95:5の割合で含まれることが好ましく、80:20~90:10の割合で含まれることがより好ましい。
【0027】
スチレンブタジエンエラストマーとテルペン樹脂との重量比が65:35よりも小さい割合、すなわちスチレンブタジエンエラストマーの含有割合が少ないと、粘着性が高まり過ぎて、成膜力が低くなり被膜の耐久性が低下する可能性がある。また一方で、スチレンブタジエンエラストマーとテルペン樹脂との重量比が95:5よりも大きい割合、すなわちテルペン樹脂の含有割合が少ないと、粘着性が低下し、滑り止め被膜のグリップ力に基づく滑り止め効果が十分に発揮されない可能性がある。
【0028】
(添加剤)
本実施の形態に係る滑り止め塗料組成物においては、その作用を損なわない範囲で、種々の添加剤を含有させることができる。具体的に、添加剤としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及び亜鉛塩の中性金属スルホネート等からなる防錆剤、酸化防止剤、腐食防止剤、消泡剤、ハードケーキ防止剤、沈降防止剤、その他各種の添加剤を任意に選択して含有させることができる。なお、これら各種の添加剤の含有量についても、それぞれ要求される性能に応じて任意に定めることができる。
【0029】
[溶剤]
溶剤は、上述したバインダー成分を溶解して塗料組成物を構成する。滑り止め塗料組成物を、対象の塗布面に塗布すると、その塗料組成物を構成する溶剤が揮発し、主としてバインダーの成分からなる滑り止め被膜が形成される。
【0030】
溶剤としては、上述したバインダー成分を溶解して分散させることができる有機溶剤であれば、特に限定されない。具体的には、例えば、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、アルコール類、グリコールエーテル類等や、あるいはこれらの任意の組み合わせから選択される溶剤が挙げられる。溶剤としては、好ましくは、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、またはこれらの任意の組み合わせから選択される有機溶剤、より好ましくは、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素、特に好ましくは、メチルシクロヘキサンが用いられる。
【0031】
(バインダーと溶剤との重量比)
滑り止め塗料組成物における溶剤の含有割合については、バインダー成分を良好に溶解でき、また十分な滑り止め効果を奏する滑り止め被膜を形成できるような割合を、任意に決定することが好ましい。
【0032】
具体的には、例えば、滑り止め塗料組成物において、バインダーと、溶剤とを、重量比で10:90~40:60の割合とすることができる。バインダーと溶剤との重量比が10:90よりも小さい割合、すなわちバインダー成分の含有割合が少ないと、溶剤には良好に溶解できるものの、滑り止め被膜が適切に成膜されない可能性がある。また、所望とする膜厚の被膜が形成されない可能性がある。また一方で、バインダーと溶剤との重量比が40:60よりも大きい割合、すなわち溶剤の含有割合が少ないと、その溶剤にバインダー成分を十分に溶解できない可能性がある。
【0033】
≪2.エアゾール滑り止め塗料≫
上述した滑り止め塗料組成物を基液として、例えば噴射剤を組み合わせることで、エアゾール滑り止め塗料(剤)とすることができる。
【0034】
[基液]
基液は、当該エアゾール滑り止め塗料における有効成分であり、上述した滑り止め塗料組成物により構成される。滑り止め塗料組成物の詳細は、上で説明したとおりであり、ここでの説明は省略する。
【0035】
[噴射剤]
噴射剤は、当該エアゾール滑り止め塗料における有効成分をエアゾール状に噴出させるためのものである。噴射剤としては、上述した滑り止め塗料組成物(基液)や必要に応じて添加する添加剤等と相溶するものであれば特に限定されず、エアゾール製品に一般的に使用されるものを用いることができる。
【0036】
具体的には、例えば、液化石油ガス(LPG)やジメチルエーテル(DME)等の液化ガス、炭酸ガスや窒素ガス等の圧縮ガス、プロパンガス等を用いることができる。
【0037】
噴射剤の含有量としては、使用する噴射剤の種類や目的とする箇所に要求される性能を確保するために適宜設定することができる。例えば、噴射剤として液化ガスを用いる場合には、塗料全体100質量%に対して40質量%~70質量%程度の範囲とすることができる。また、噴射剤として圧縮ガス等を用いる場合には、塗料全体100質量%に対して0.5質量%~5質量%程度の範囲とすることができる。
【0038】
[添加剤]
なお、エアゾール滑り止め塗料においては、基液である滑り止め塗料組成物とは別に、その作用を損なわない範囲で、種々の添加剤を含有させることができる。具体的に、添加剤としては、上述した添加剤と同様に、防錆剤、酸化防止剤、腐食防止剤、消泡剤、ハードケーキ防止剤、沈降防止剤等が挙げられる。
【実施例0039】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0040】
[実施例、比較例のエアゾール滑り止め塗料]
(基液の作製)
下記表1に示す被膜組成となるように各原料を溶媒に溶解させ溶液(基液)を作製した。その際、原料によってその原料が析出しない真溶媒を選定した。例えば、実施例1では、スチレンブタジエンエラストマーA(アサプレンT438,旭化成株式会社製)の場合には、メチルシクロヘキサンを溶剤として選定してそこに溶解させ、10%濃度溶液を作製した。
【0041】
なお、原料としては以下のものを用いた。
・スチレンブタジエンエラストマーA:アサプレンT438(旭化成社製)
・スチレンブタジエンエラストマーB:アサプレンT126S(旭化成社製)
・スチレンブタジエンエラストマーC:アサプレンT437(旭化成社製)
・スチレンブタジエンエラストマーD:KRATON D1155-JOP(クレイトン社製)
・塩素化ポリオレフィン:ハードレン13LP(東洋紡社製)
・クロロスルフォン化ポリエチレン:TOSO-CSM TS-340(東ソー社製)
・クロロプレンゴム:セメダインCS4503F(セメダイン社製)
・芳香族変性テルペン樹脂:YSレジンTO-125(ヤスハラケミカル社製)
・テルペンフェノール樹脂:YSポリスターT160(ヤスハラケミカル社製)
【0042】
(エアゾール塗料の作製)
次に、予め、ジメチルエーテル(DME)と液化石油ガス(LPG)とを70:30の重量比で混合した混合液化ガスを準備し、作製した基液とその混合液化ガスとを40:60の比率で耐圧容器に充填し、エアゾール部材を装着してエアゾール塗料を作製した。
【0043】
(テストピースの作製)
ポリプロピレン(サイズ75mm×30mm×2mm)を用意し、作製したエアゾール塗料を一律の膜厚(10μm)となるよう噴射して塗布し、常温1時間放置して、滑り止め被膜が形成されたテストピースを準備した。
【0044】
[評価]
作製したテストピースを用いて、トライボギアにより摩擦係数を測定した。また、滑り止め被膜から荷が滑り落ちるときの滑落角を測定した。各試験条件は以下の通りとした。
(摩擦係数の測定)
試験機 :トライボギア(表面性試験機)
相手材 :ABS平板(25mm×25mm×2mm)
荷重 :50g
速度 :300mm/min
移動距離:10mm
(滑落角の測定)
試験機 :自動接触角計の滑落モードを応用
相手材 :50g SUS分銅
測定条件:1°/sで角度を上げていき分銅が落ちた角度を計測
【0045】
[結果]
下記表1に、塗料の組成(バインダー成分組成)と、評価結果を示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示されるように、塗料を構成するバインダー成分として、少なくとも、スチレンブタジエンエラストマーと、テルペン樹脂とを含む実施例1~8では、静摩擦係数、動摩擦係数のいずれにおいても高くなった。また、滑落角についても、比較例に比べて大きくなり、荷の滑落を効果的に防ぐことができることがわかった。
【0048】
なお、実施例8では、上述したように、静摩擦係数、動摩擦係数のいずれにおいても高くなったものの、形成した滑り止め被膜にべたつきが生じて、他の実施例の被膜に比べて成膜性が劣るものであった。