(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000380
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】塗料、積層体、及び銅張積層板
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20221222BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20221222BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20221222BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
C09D201/00
B32B15/08 J
B32B27/00 103
H05K1/03 630H
H05K1/03 650
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021101152
(22)【出願日】2021-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100154759
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 貴子
(74)【代理人】
【識別番号】100193725
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 幸子
(74)【代理人】
【識別番号】100207240
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 喜弘
(72)【発明者】
【氏名】吉田 一義
(72)【発明者】
【氏名】小野 宏和
(72)【発明者】
【氏名】小泉 昭紘
【テーマコード(参考)】
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4F100AB17
4F100AB17C
4F100AB33
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4F100AK01
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4J038CD121
4J038DF001
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4J038DJ051
4J038DK001
4J038HA546
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4J038KA06
4J038MA02
4J038MA13
4J038PB09
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂を基材フィルムに用いた銅張積層板(CCL)において、PEEK樹脂と銅箔とを熱ラミネートする際のエネルギーを低減でき、かつPEEK樹脂と銅箔との密着性に優れ、さらに寸法安定性に優れ、かつ良好なはんだ耐熱性を示すことができる銅張積層板(CCL)の提供。また、該銅張積層板(CCL)を得るため、該銅張積層板(CCL)の作製に使用することができる、塗膜及びPEEK樹脂の基材フィルムを含む積層体、並びに該塗膜の作製に使用することができる塗料の提供。
【解決手段】結晶化度が15%以下の高融点の接着性樹脂からなる粉末を含む塗料であって、前記粉末の平均粒径が、0.1~50μmである、塗料である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶化度が15%以下の高融点の接着性樹脂からなる粉末を含む塗料であって、前記粉末の平均粒径が、0.1~50μmである、塗料。
【請求項2】
前記前記結晶化度が15%以下の高融点の接着性樹脂が、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキル(PFA)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、及びこれらの樹脂から選ばれる少なくとも2種以上からなるアロイ樹脂の中から選ばれる、少なくとも1種である、請求項1に記載の塗料。
【請求項3】
ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、及びポリスルホン(PSU)樹脂の中から選ばれる少なくとも1種の非晶性樹脂からなる粉末をさらに含む、請求項2に記載の塗料。
【請求項4】
前記前記結晶化度が15%以下の高融点の接着性樹脂が、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、及びテトラフルオロエチレンパーフルオロアルキル(PFA)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂の中から選ばれる少なくとも1種と、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、及びポリスルホン(PSU)樹脂の中から選ばれる少なくとも1種とのアロイ樹脂からなる、請求項1に記載の塗料。
【請求項5】
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂からなる基材フィルムの少なくとも一方の面上に、請求項1~4のいずれか一項に記載の塗料からなる塗膜が積層されてなる積層体。
【請求項6】
前記ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂からなる基材フィルムの結晶化度が20%以上である、請求項5に記載の積層体。
【請求項7】
比誘電率が3.5以下で、誘電正接が0.0035以下である、請求項5又は6に記載の積層体。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか一項に記載の積層体の前記塗膜上に銅箔を積層してなる、銅張積層板(CCL)。
【請求項9】
前記塗膜と接する前記銅箔の表面粗さ(Rz)が5μm以下である、請求項8に記載の銅張積層板(CCL)。
【請求項10】
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂からなる基材フィルムの少なくとも一方の面上に、塗料を塗布し塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を乾燥させる工程と、
乾燥後の前記塗膜上に銅箔を配して熱圧着し、前記塗膜を介して前記基材フィルムと前記銅箔膜とを貼り合わせる工程と、を含む銅張積層板(CCL)の製造方法であって、
前記塗料が、結晶化度が15%以下の高融点の接着性樹脂からなる粉末を含む、銅張積層板(CCL)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料、積層体、及び銅張積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンに代表される通信機器における通信速度の高速化・大容量化に伴い、これら通信機器に使用される回路基板には、電気信号の低損失化や回路パターンのファインピッチ化、高精度で微細な回路形成が求められている。
回路基板の主材料である銅張積層板、いわゆる絶縁性樹脂からなる基材フィルムの表面に銅箔を積層させた銅張積層板(CCL)にも、上記回路基板と同様の性能が求められる。
各種の改良がなされた銅張積層板(CCL)が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、次世代移動体通信システムの5Gなどの本格導入のため、低誘電材料の基板(基材フィルム)を用いた銅張積層板(CCL)の提供が望まれている。
特許文献1で記載のポリイミド樹脂の基板から、低誘電材料基板として、液晶ポリマー(LCP)樹脂や変性ポリイミド(MPI)樹脂の基板を用いた銅張積層板(CCL)が検討されている。
しかし、液晶ポリマー(LCP)樹脂は、造膜性が劣るためフィルム化が難しいという問題があり、変性ポリイミド(MPI)樹脂は、吸湿性が高く湿気で誘電率が変化するという問題がある。
【0005】
そこで、低誘電材料基板として、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂の基板(基材フィルム)を使用しようとする動きがある。
ところが、PEEK樹脂は融点が高いため、例えばPEEK樹脂の基材フィルムと銅箔とを張り合わせ熱ラミネートするのに、高エネルギーが必要となる。また、高温で加熱すると、PEEK樹脂が収縮するため、基材フィルムの寸法が変化し、銅張積層板(CCL)の寸法安定性は悪くなる。
一方、銅張積層板(CCL)の基材フィルムとして、融点が低すぎる材料を用いると、例えば、実装工程における電子部品が受ける熱ストレスの影響を評価するはんだ耐熱性試験を行った場合、はんだ耐熱性がない銅張積層板(CCL)となってしまう。
【0006】
そこで、本発明は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂を基材フィルムに用いた銅張積層板(CCL)において、PEEK樹脂と銅箔とを熱ラミネートする際のエネルギーを低減でき、かつPEEK樹脂と銅箔との密着性に優れ、さらに寸法安定性に優れ、かつ良好なはんだ耐熱性を示すことができる銅張積層板(CCL)を提供することを目的とする。また、該銅張積層板(CCL)を得るため、該銅張積層板(CCL)の作製に使用することができる、塗膜及びPEEK樹脂の基材フィルムを含む積層体、並びに該塗膜の作製に使用することができる塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の接着剤樹脂粉末を含む塗料からなる塗膜を、PEEK樹脂の基材フィルムと銅箔との間に配してなる銅張積層板(CCL)が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、以下の態様を包含するものである。
[1] 結晶化度が15%以下の高融点の接着性樹脂からなる粉末を含む塗料であって、前記粉末の平均粒径が、0.1~50μmである、塗料。
[2] 前記結晶化度が15%以下の高融点の接着性樹脂が、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキル(PFA)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、及びこれらの樹脂から選ばれる少なくとも2種以上からなるアロイ樹脂の中から選ばれる、少なくとも1種である、[1]に記載の塗料。
[3] ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、及びポリスルホン(PSU)樹脂の中から選ばれる少なくとも1種の非晶性樹脂からなる粉末をさらに含む、[2]に記載の塗料。
[4] 前記結晶化度が15%以下の高融点の接着性樹脂が、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、及びテトラフルオロエチレンパーフルオロアルキル(PFA)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂の中から選ばれる少なくとも1種と、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、及びポリスルホン(PSU)樹脂の中から選ばれる少なくとも1種とのアロイ樹脂からなる、[1]に記載の塗料。
[5] 前記塗料がさらに無機フィラーを含有する、[1]~[4]のいずれかに記載の塗料。
[6] ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂からなる基材フィルムの少なくとも一方の面上に、[1]~[5]のいずれかに記載の塗料からなる塗膜が積層されてなる積層体。
[7] 前記塗膜の厚みが1~50μmであり、前記基材フィルムの厚みが5~250μmである、[6]に記載の積層体。
[8] 前記ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂からなる基材フィルムの結晶化度が20%以上である、[6]又は[7]に記載の積層体。
[9] 比誘電率が3.5以下で、誘電正接が0.0035以下である、[6]~[8]のいずれかに記載の積層体。
[10] [6]~[9]のいずれかに記載の積層体の前記塗膜上に銅箔を積層してなる、銅張積層板(CCL)。
[11] 前記塗膜と接する前記銅箔の表面粗さ(Rz)が5μm以下である、[10]に記載の銅張積層板(CCL)。
[12] ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂からなる基材フィルムの少なくとも一方の面上に、塗料を塗布し塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を乾燥させる工程と、
乾燥後の前記塗膜上に銅箔を配して熱圧着し、前記塗膜を介して前記基材フィルムと前記銅箔膜とを貼り合わせる工程と、を含む銅張積層板(CCL)の製造方法であって、
前記塗料が、結晶化度が15%以下の高融点の接着性樹脂からなる粉末を含む、銅張積層板(CCL)の製造方法。
[13] 前記熱圧着する工程における熱圧着温度が、前記高融点の接着性樹脂からなる粉末のガラス転移点(Tg)以上で、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂の融点より低い、[12]に記載の銅張積層板(CCL)の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂を基材フィルムに用いた銅張積層板(CCL)において、PEEK樹脂と銅箔とを熱ラミネートする際のエネルギーを低減でき、かつPEEK樹脂と銅箔との密着性に優れ、さらに寸法安定性に優れ、かつ良好なはんだ耐熱性を示すことができる銅張積層板(CCL)を提供することができる。また、該銅張積層板(CCL)を得るため、該銅張積層板(CCL)の作製に使用することができる、塗膜及びPEEK樹脂の基材フィルムを含む積層体、並びに該塗膜の作製に使用することができる塗料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の銅張積層板の構成の一例を示す断面図である。
【
図2】本発明の銅張積層板の構成の他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の銅張積層板、並びに該銅張積層板の作製に使用することができる積層体及び該積層体の作製に使用することができる塗料について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の一実施態様としての一例であり、これらの内容に特定されるものではない。
以下の用語の定義は、本明細書及び特許請求の範囲にわたって適用される。
本発明における融点とは、示差走査熱量計(DSC)にて、室温から10℃/minの昇温速度で昇温時に吸熱ピークのピークトップ温度のことをいう。なお、吸熱ピークが生じない場合、変曲点の温度を融点とする。
基材フィルム、塗膜、銅箔(銅箔膜ともいう)等の膜厚は、顕微鏡を用いて測定対象の断面を観察し、5箇所の厚さを測定し、平均した値である。
【0012】
(積層体)
本発明の積層体は、銅張積層板(CCL)作製に用いることができる。
本発明の積層体は、PEEK樹脂からなる基材フィルムの少なくとも一方の面上に、結晶化度が15%以下の高融点の接着性樹脂からなる粉末を含む塗料を形成してなる塗膜が積層されてなる。
また、本発明の積層体は、塗膜が基材フィルムの両側に積層されていてもよい。
【0013】
<基材フィルム>
本発明において、基材フィルムは、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)フィルムを使用する。
基材フィルムには、フィラーを含有させることができる。
【0014】
<<フィラー>>
基材フィルムは、基材の強度、絶縁性、耐熱性、熱膨張率(CTE)の調整等各種の機能を付与するため、フィラーを含むことができる。フィラーとしては、例えば、無機フィラー及び有機フィラーが挙げられ、これらを単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0015】
無機フィラーとしては、例えば、マイカ、タルク、窒化ホウ素、酸化マグネシウム、シリカ、珪藻土、酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられる。中でも、マイカ、タルク、窒化ホウ素、酸化マグネシウム、シリカの無機フィラーが好ましい。
【0016】
有機フィラーとしては特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリメチルメタクリレート等の有機粒子が挙げられる。
【0017】
無機フィラー及び有機フィラーは、上記のなかから1種を選択して単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。2種以上を組合せる場合は無機フィラーと有機フィラーの組合せであってもよい。
【0018】
フィラーの形状としては、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、無機フィラーは、球状無機フィラーでも非球状無機フィラーでもよいが、熱膨張率(CTE)、フィルム強度の観点からは、非球状無機フィラーが好ましい。非球状無機フィラーの形状は、球状(略真円球状)以外の三次元形状であればよく、例えば、板状、鱗片状、柱状、鎖状、繊維状等が挙げられる。中でも、熱膨張率(CTE)、フィルム強度の観点から、板状、鱗片状の無機フィラーが好ましく、板状の無機フィラーがより好ましい。
板状、鱗片状の無機フィラーの場合、平面方向の平均粒径は0.05μm以上20μm以下、好ましくは0.1μm以上15μm以下、望ましくは0.1μm以上10μm以下、より望ましくは0.1μm以上7μm以下であることが好ましく、また、平面方向と厚みを意味するアスペクト比(平均長軸長さ/平均短軸長さ)は、熱膨張率(CTE)、フィルム強度の観点から5以上500以下、好ましくは20以上500以下、望ましくは40以上500以下であることが好ましい。
フィラーの平均粒径が20μm以下であれば、基材フィルムの表面粗さを小さくすることができ、平滑な塗膜を形成しやすくなる。
アスペクト比が5以上であればCTEを十分に小さくしやすい。
アスペクト比が大きいほどCTEを調整しやすいが、粒子径を小さくしながらアスペクト比を大きくすることは困難で、フィラーのコストが高くなる傾向があるので500以下とすることが望ましい。
【0019】
[平均粒径、アスペクト比の測定]
無機フィラーの平均粒径及びアスペクト比は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察し、3箇所以上の測定値の平均から求めることができる。なお、フィルム(層)中に存在する無機フィラーの平均粒径及びアスペクト比については、例えばフィルムをエポキシ樹脂で包埋した後、イオンミリング装置を用いてフィルム断面のイオンミリングを行って断面観察用試料を作製し、得られた試料の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察し、3箇所以上の測定値の平均から求めることができる。
また、有機フィラーの平均粒径は、基材フィルムの切断面を電子顕微鏡で観察し、粒子の少なくとも10個の最大径を測定したときの平均値を、溶融混練と分散により基材フィルムの樹脂中に分散したときの平均分散粒径として求めることができる。
【0020】
基材フィルム中のフィラーの含有量は、1体積%以上30体積%以下が好ましく、3体積%以上25体積%以下がより好ましい。
【0021】
<<その他の成分>>
本発明において、基材フィルムには、必要に応じて公知の添加剤を任意に含有することができる。添加剤としては、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、可塑剤、フィラーの分散剤等が挙げられる。
【0022】
<<基材フィルムの特性>>
基材フィルムの膜厚は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、5~250μmであることが好ましく、10~250μmであることがより好ましい。
【0023】
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂からなる基材フィルムの結晶化度は20%以上であるとよい。
本明細書において、結晶化度は、X線回折法に基づいて求めることができる。
【0024】
[結晶化度]
結晶化度(%)は、X線回折法により、試料にX線を照射し、得られる回折情報から、非晶に由来する散乱領域と結晶に由来する散乱強領域とに分け、全散乱強度に対する結晶散乱強度の比として求めることができる(下記式(1))。
【0025】
【0026】
基材フィルムの表面粗さ(Rz)は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、基材フィルムに各種機能を付与するために含有させるフィラーの種類や含有量等の諸条件を考慮すると、基材フィルムの表面粗さ(Rz)は、1μm以上である。一方、基材フィルム上に形成される塗膜の表面粗さ(Rz)を所望の範囲とするには、基材フィルムの表面粗さ(Rz)は、10μm以下であることが好ましい。つまり、基材フィルムの表面粗さ(Rz)としては、1μm以上10μm以下であることが好ましい。
本明細書において、表面粗さ(Rz)とは、膜表面の十点平均粗さをいう。十点平均粗さRzは、JIS B 0601:2013(ISO 4287:1997 Amd.1:2009)に基づいて求めることができる。
【0027】
[十点平均粗さRzの測定]
シートの表面の十点平均粗さRz(μm)は、試験片についてレーザー顕微鏡を用いて粗さ曲線を測定し、この粗さ曲線から、JIS B 0601:2013(ISO 4287:1997 Amd.1:2009)に基づいて、それぞれ10サンプルずつ測定し、それらの平均値を求めることにより得る。
【0028】
基材フィルムの熱膨張率(CTE)は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、張り合わせ後のカール防止の観点から、貼り合せる銅箔との熱膨張率差を小さくするとの理由から、例えば、50ppm以下であることが好ましい。
熱膨張率の測定は、熱機械分析装置〔日立ハイテクサイエンス社製 製品名:SII//SS7100〕を用いた引張モードにより、荷重:50mN、昇温速度:5℃/min.の割合で25℃から250℃まで昇温速度:5℃/minの割合で昇温し、寸法の温度変化を測定し、25℃から125℃までの範囲の傾きから線膨張係数を求めることにより、行うことができる。
【0029】
基材フィルムの表面は、塗膜との密着性向上の理由により、コロナ処理、プラズマ処理、又は紫外線処理により表面処理されていてもよい。
【0030】
<塗膜>
本発明で使用する塗膜は、塗料を塗布することにより形成される。
塗料は、結晶化度が15%以下の高融点の接着性樹脂からなる粉末を含む。
塗料には、該粉末の他、溶媒を含有することができる。
塗膜は、フィラーを含有してもよく、例えば、好ましい態様として、塗膜は無機フィラーを含有することができる。
【0031】
<<塗料>>
<<<粉末>>>
本発明で使用する粉末は、結晶化度が15%以下の高融点の接着性樹脂からなる。
結晶化度は、上記<<基材フィルムの特性>>の欄で説明したのと同様の方法により求めることができる。
【0032】
本発明では、結晶性を有するが、結晶化度は15%以下と低い結晶化度を示す接着性樹脂を用いていることが一つの特徴である。
樹脂中の結晶部位の量によってガラス転移点(Tg)でのゴム化(軟化)割合は異なる(例えば、これは、動的粘弾性測定(DMA)によって確認することができる)。結晶化度が低いものは結晶化度が高いものよりもTg付近で軟化する割合が大きい。このような結晶化度が15%以下と低い接着剤樹脂を用いて、この接着性樹脂からなる粉末を塗料に含有させ、この塗料を用いてPEEK樹脂と銅箔とを接着させることで、PEEK樹脂と銅箔とを強固に接着させることができる。
【0033】
粉末の平均粒径は、0.1~50μmである。均質な塗膜を形成するという観点からは、粉末の平均粒径は、0.1~20μmであることがより好ましい。
【0034】
[平均粒径の測定]
粉末の平均粒径は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察し、3箇所以上の測定値の平均から求めることができる。なお、塗膜中に存在する粉末の平均粒径については、例えば塗膜の切断面を走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察し、粒子の少なくとも10個の最大径を測定したときの平均値を、溶融混練と分散により塗膜中に分散したときの平均分散粒径として求めることができる。
【0035】
粉末の融点は、PEEK樹脂の融点以下であることが好ましい。一方、はんだ耐熱性試験で良好な結果を示すには、粉末の融点は、はんだ耐熱性試験で要求されるはんだ浴の温度より高いことが好ましい。
より具体的には、粉末の融点が、275℃より高く345℃より低いことが好ましく、288℃より高く345℃より低いことがより好ましい。
【0036】
粉末は、1種類もしくは、2種類以上の接着性樹脂を用いて形成することができる。
本発明では、結晶性を示す高融点の接着性樹脂を用いているため、該接着性樹脂の融点より低い温度で、熱圧着することができ、基材フィルムと銅箔とを塗膜を介して張り合わせることができる。銅張積層板(CCL)の製造方法についての詳しい説明は、後述する。
【0037】
粉末を形成する結晶化度が15%以下の高融点の接着性樹脂としては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキル(PFA)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、及びこれらの樹脂から選ばれる少なくとも2種以上からなるアロイ樹脂等が挙げられる。
また、本発明で使用する粉末としては、上記結晶化度が15%以下の高融点の接着性樹脂からなる粉末の他に、さらに以下の非晶性樹脂からなる粉末を含んでもよい。
ここで、非晶性樹脂としては、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、及びポリスルホン(PSU)樹脂等が挙げられる。
また、本発明で使用する粉末としては、上記結晶化度が15%以下の高融点の接着性樹脂と、上記非晶性樹脂とからなるアロイ樹脂を用いて形成された粉末であってもよい。つまりより具体的に説明すると、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、及びテトラフルオロエチレンパーフルオロアルキル(PFA)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂の中から選ばれる少なくとも1種と、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、及びポリスルホン(PSU)樹脂の中から選ばれる少なくとも1種とからなるアロイ樹脂を用いて形成された粉末であってもよい。
【0038】
本発明で用いる低結晶化度の高融点の接着性樹脂は、上記例示した樹脂から適宜選択することができる。尚、例えば、同じ種類の樹脂でも、溶融状態から結晶化させる際の冷却速度や冷却温度等の条件の違いにより結晶化度や融点の値が異なることがあるため、所望の値を示す樹脂を選択するよう留意するとよい。
【0039】
本発明で使用する結晶化度が15%以下の高融点の接着性樹脂は、溶媒に溶解しにくいため、本発明では、高融点の接着性樹脂を粉砕し、粉末状にしたものを塗料に含有させることで、塗料を基材フィルム上に良好に塗布することができる。
【0040】
<<<溶媒>>>
溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、イソブチルアルコール、n-ブチルアルコール、ベンジルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジアセトンアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類;トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン等の芳香族炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテ-ト、3-メトキシブチルアセテート等のエステル類;ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
<<<無機フィラー>>>
塗膜は、耐熱性向上、流動性制御等のため、フィラー、特に無機フィラーを含有することができる。
含有できるフィラーの種類としては、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、上記基材フィルムに含有されるフィラーとして記載した、上記<<フィラー>>の欄に記載のフィラーを用いることができる。
塗膜に含有されるフィラーの平均粒径としては、0.01μm~20μmであることが好ましく、0.01μm~10μmであることがより好ましく、0.01~5μmであることがさらに好ましい。
【0042】
塗膜中のフィラーの含有量は、0.1体積%以上25体積%以下が好ましく、1体積%以上20体積%以下がより好ましい。
塗膜には基材フィルムよりも一層の表面平滑性が求められるため、用いられるフィラーの平均粒径は基材フィルムより小さいこと、含有量が少ないことが好ましい。
【0043】
塗膜の厚みは、例えば、銅張積層板作製後の膜厚を測定することにより求めることができる。具体的には、銅張積層板の膜厚から銅箔膜と基材フィルムの膜厚を引くことで、塗膜の厚みを算出する。
塗膜の厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、1~50μmであることが好ましく、5~30μmであることがより好ましい。
【0044】
銅張積層板(CCL)における積層体の比誘電率、及び誘電正接は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、電気信号の伝送損失の低減の理由から、比誘電率は、3.5以下で、誘電正接は0.0035以下であることが好ましい。
【0045】
[比誘電率及び誘電正接]
比誘電率及び誘電正接は、ネットワークアナライザーMS46122B(Anritsu社製)と開放型共振器ファブリペローDPS-03(KEYCOM社製)とを使用し、開放型共振器法で、温度23℃、周波数28GHzの条件で測定することができる。
【0046】
本発明では、結晶化度の低い、高融点の接着性樹脂の粉末を用いて、該粉末を含有する塗料をPEEK樹脂の基材フィルム上に塗布し、塗膜を形成していることに特徴を有している。本発明では、高融点の接着性樹脂を、微小な粒子としていることで、溶融しやすくし、かつ基材フィルム上に塗布しやすくしている。本発明の積層体を用いて、該塗膜上に銅箔膜を貼り合わせ銅張積層板(CCL)を形成しようとすると、PEEK樹脂と銅箔との熱ラミネートに要するエネルギーを低減することができる。また、PEEK樹脂の融点より低い温度でラミネートすることができるため、PEEK樹脂の寸法変動も生じず、寸法安定性に優れた銅張積層板(CCL)を得ることができる。また、耐熱性に優れた高融点の接着性樹脂粉末を含有する塗膜を用いて基材フィルムと銅箔とを接着しているため、得られた銅張積層板(CCL)に対し、はんだ耐熱性試験を行っても良好なはんだ耐熱性を示すことができる。
【0047】
(銅張積層板(CCL))
本発明の銅張積層板は、本発明の積層体における塗膜上に銅箔の膜(銅箔膜)が張り合わされたものである。基材フィルム上に塗膜、銅箔膜がこの順で積層されてなる。
【0048】
図1は、本発明の銅張積層板の構成の一例を示す断面図である。
銅張積層板1は、基材フィルム2と塗膜3からなる積層体における塗膜3上に銅箔膜4が張り合わされたものである。
このように、銅張積層板1は、基材フィルム2と、塗膜3と、銅箔膜4とを有し、これらの順で積層されてなる。
また、本発明の銅張積層板は、塗膜及び銅箔膜が基材フィルムの両側に積層されていてもよい。
図2に本発明の銅張積層板の構成の他の例を示す。
図2で示す本発明の銅張積層板1は、銅箔膜4a、塗膜3a、基材フィルム2、塗膜3b、銅箔膜4bの順で積層されてなる。
【0049】
銅張積層板における、基材フィルムと塗膜については、上記(積層体)の欄で説明した上記<基材フィルム>と上記<塗膜>の欄に記載のとおりである。
【0050】
尚、銅張積層板における積層体の比誘電率、及び誘電正接は、上記<塗膜>の欄で説明したとおり、比誘電率は、3.0以下で、誘電正接は0.003以下であることが好ましい。
【0051】
<銅箔膜>
銅箔の種類としては、特に限定されず、例えば、電解銅箔、圧延銅箔等を用いることができる。
塗膜と接する銅箔の表面粗さ(Rz)は、5μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましく、1.5μm以下とすることが望ましい。銅箔の表面粗さ(Rz)が5μm以下であることにより、電気信号の伝送特性を確保することができる。
表面粗さ(Rz)の測定法は、上記<<基材フィルムの特性>>の欄で記載したとおりである。
【0052】
銅箔膜の膜厚は、十分な電気信号の伝送特性を確保し、かつ回路パターンの良好なファインピッチを可能とするという観点から、0.05μm~20μmであることが好ましく、0.1~15μmであることがより好ましく、0.5~10μmであることがさらに好ましい。
【0053】
<銅張積層板の膜厚>
銅張積層板の膜厚は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、10μm以上300μm以下が好ましい。銅張積層板の膜厚が上記範囲の下限値以上であれば、ハンドリング性に優れ、強度を確保できる。また、上記範囲の上限値以下であれば、軽薄短小化、フレキシブル性を付与できる。
【0054】
<銅張積層板の製造方法>
銅張積層板の製造方法は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂からなる基材フィルムの少なくとも一方の面上に、塗料を塗布し塗膜を形成する工程と、塗膜を乾燥させる工程と、乾燥後の塗膜上に銅箔を配して熱圧着し、塗膜を介して基材フィルムと銅箔膜とを貼り合わせる工程と、を含む。ここで、塗料は、上述した通り、結晶化度が15%以下の高融点の接着性樹脂からなる粉末を含む。
以下、銅張積層板の製造方法について、より詳しく説明する。
基材フィルム上に、塗料を塗布し塗膜を形成する。
塗膜の基材フィルムとは反対側の面に、銅箔膜を張り合わせる。
塗膜を形成するより具体的な方法としては、次のとおりである。
塗膜は、粉末と溶媒と、必要に応じでフィラー等の他の成分とを混合することにより作製された塗料を用いて形成される。混合方法は特に限定されず、塗料が均一になればよい。
本発明で使用する塗料は、溶媒を含む溶液又は分散液(樹脂ワニス)であるため、基材フィルムへの塗工及び塗膜の形成を容易に行うことができる。
粉末及び溶媒を含有する樹脂ワニスを、基材フィルムの表面に塗布して樹脂ワニス層を形成する。その後、該樹脂ワニス層から溶媒を除去し、塗膜を乾燥させる。その後、塗膜上に銅箔膜を配し、基材フィルム、塗膜、銅箔膜の順で積層された積層体を熱圧着する。これにより、塗膜を介して、基材フィルムと銅箔膜とが貼り合わされる。
ここで、樹脂ワニスを塗布する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、スプレー法、スピンコート法、ディップ法、ロールコート法、ブレードコート法、ドクターロール法、ドクターブレード法、カーテンコート法、スリットコート法、スクリーン印刷法、インクジェット法、ディスペンス法等が挙げられる。
【0055】
また、熱圧着する温度は、結晶化度が15%以下の高融点の接着性樹脂からなる粉末のガラス転移点(Tg)以上で、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂の融点より低い温度であるとよい。
本発明では、上述したように、結晶性を示す接着性樹脂を用いているため、該接着性樹脂の融点より低い温度で、熱圧着することができ、基材フィルムと銅箔とを塗膜を介して張り合わせることができる。
本発明において、熱圧着温度が比較的低い温度であっても、PEEK樹脂と銅箔とをしっかり接着させることができるのは、熱圧着工程において、低結晶化度の接着性樹脂が軟化する温度を通過するときに基材フィルムと銅箔とが塗膜を介して接着され、該接着性樹脂の結晶化温度を超えるところまで加熱した後、冷却して結晶化することで、接着状態がしっかり固定化されるからではないかと推測している。
また、Tg付近で軟化する割合が大きい低結晶化度の接着性樹脂を用いていることも、PEEK樹脂と銅箔とをしっかり接着させていることに貢献していると推測している。
【0056】
本発明の銅張積層板が、
図2で示すような基材フィルムの両面に塗膜と銅箔膜がそれぞれ設けられている銅張積層板である場合には、基材フィルムの一方の面に対して、上述した方法により、塗膜、銅箔膜を形成し、その後、基材フィルムの他方の面に対して、同様方法で、塗膜、銅箔膜を形成することができる。あるいは、基材フィルムに対して両側の塗膜を一緒に形成し、次に塗膜の上に配される銅箔膜も両側一緒に形成する方法を用いてもよい。
【0057】
基材フィルムが、コロナ処理、プラズマ処理、又は紫外線処理等で表面処理された基材フィルム又は塗膜を用いる場合には、例えば、基材フィルムを用意した後、用意した基材フィルムの表面を表面処理し、その表面処理した基材フィルムに対して、上述した方法により、塗膜を形成すればよい。
【実施例0058】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、下記において、部及び%は、特に断らない限り、質量基準である。
【0059】
(実施例1)
<基材フィルム>
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂(Sepla Film 信越ポリマー社製 融点345℃、結晶化度28%)のフィルム100μmを用いた。
【0060】
<塗料1の作製>
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂(信越ポリマー社製 結晶化度10%、Tg146℃)の粉砕物1(平均粒径10μm)を用いた。
該粉砕物1とトルエンとを100質量部:40質量部の割合で混合し、塗料1を作製した。
【0061】
<銅張積層板の作製>
PEEKの基材フィルムの表面をコロナ処理した。該表面処理されたPEEKフィルム上に、上記で得られた塗料1を塗布した。
次に、オーブンに塗膜付き基材フィルムを入れて、120℃の60分間加熱し、塗膜を乾燥させた。塗膜の膜厚は銅張積層板作製後に15μmとなるように調整した。
乾燥した塗膜上に銅箔1(3EC-M1S-HTE、三井金属社製、電界銅箔、厚さ12μm、Rz1.8μm)の膜を配し、PEEKフィルム、塗膜、銅箔膜の順で積層された積層体を熱プレス機で、280℃、4MPa、10分間加熱し、積層体を熱圧着させた。
【0062】
このようにして得られた実施例1の銅張積層板に対して、以下の測定、及び評価を行った。
【0063】
[密着性]
JIS K6854-3:1999に指定されている方法に従い、T型剥離試験により300mm/minの剥離速度で銅張積層板の密着性を測定した。
【0064】
[比誘電率及び誘電正接]
比誘電率及び誘電正接は、銅張積層板の積層された銅箔を濃硝酸で溶かして銅箔を除去したフィルムを試験体として調製し、ネットワークアナライザーMS46122B(Anritsu社製)と開放型共振器ファブリペローDPS-03(KEYCOM社製)とを使用し、開放型共振器法で、温度23℃、周波数28GHzの条件で測定した。
【0065】
[はんだ耐熱試験]
はんだ耐熱試験は、銅張積層板をカットして30mm×30mmの試験体とし、基材フィルム面を上にして、288℃のはんだ浴に10秒間×3回浮かべ、銅張積層板の膨れ、剥がれ等の外観異常を確認した。
以下の評価基準により、銅張積層板の耐熱性を評価した。
○ 異常なし(溶解もなし)。
△ 剥離はしていないが、接着剤層の軟化がみられ「シミ模様」ができている。
× 剥離している。
【0066】
[寸法安定性]
寸法安定性は銅張積層板の積層された銅箔を濃硝酸で溶かして銅箔を除去したフィルムを試験体として調製し、150℃×30分の条件下で加熱した前後の寸法を測定した。
具体的には、先ず、加熱前のフィルムの長さを測定し、ステンレス板の上にフィルムを置き、熱風循環式恒温槽内に、規定する時間、及び温度で処理した後、室温まで冷却し、先に測定した同じ部分についてフィルムの長さを測定した。
寸法安定性は、下記式(2)で求め、0.2%未満を〇、0.2%以上を×とした。
寸法変化率(%)=100×(Lo-L)/Lo (2)
式(2)中、Lo:試験前のフィルム長さ、L:試験後のフィルム長さである。
【0067】
実施例1の銅張積層板における、上記測定及び、評価に対する結果を下記表1に示す。
【0068】
(実施例2)
<基材フィルム>
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂(Sepla Film 信越ポリマー社製 融点345℃、結晶化度30%)のフィルム100μmを用いた。
【0069】
<塗料2の作製>
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂とポリエーテルイミド(PEI)樹脂とのアロイ(PEEK:PEI=7:3)樹脂(信越ポリマー社製、結晶化度9%、Tg170℃)の粉砕物2(平均粒径5μm)を用いた。
該粉砕物2とトルエンとを100質量部:40質量部の割合で混合し、塗料2を作製した。
【0070】
<銅張積層板の作製>
PEEKの基材フィルムの表面をコロナ処理した。該表面処理されたPEEKフィルム上に、上記で得られた塗料2を塗布した。
次に、オーブンに塗膜付き基材フィルムを入れて、120℃の60分間加熱し、塗膜を乾燥させた。塗膜の膜厚は銅張積層板作製後に10μmとなるように調整した。
乾燥した塗膜上に銅箔2(HS1-VSP、三井金属社製、電界銅箔、厚さ18μm、Rz1.2μm)の膜を配し、PEEKフィルム、塗膜、銅箔膜の順で積層された積層体を熱プレス機で、260℃、4MPa、10分間加熱し、積層体を熱圧着させた。
【0071】
このようにして得られた実施例2の銅張積層板に対して、実施例1と同様の測定、及び評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0072】
(実施例3)
<基材フィルム>
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂(Sepla Film 信越ポリマー社製 融点345℃、結晶化度30%)のフィルム100μmを用いた。
【0073】
<塗料3の作製>
ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂(信越ポリマー社製、結晶化度12%、Tg160℃)の粉砕物3(平均粒径15μm)を用いた。
塗料に無機フィラー(合成マイカ、MS-100DS)を含有させた。
該粉砕物3と無機フィラーとトルエンとを100質量部:10質量部:50質量部の割合で混合し、塗料3を作製した。
【0074】
<銅張積層板の作製>
PEEKの基材フィルムの表面をコロナ処理した。該表面処理されたPEEKフィルム上に、上記で得られた塗料3を塗布した。
次に、オーブンに塗膜付き基材フィルムを入れて、120℃の60分間加熱し、塗膜を乾燥させた。塗膜の膜厚は銅張積層板作製後に20μmとなるように調整した。
乾燥した塗膜上に銅箔2(HS1-VSP、三井金属社製、電界銅箔、厚さ18μm、Rz1.2μm)の膜を配し、PEEKフィルム、塗膜、銅箔膜の順で積層された積層体を熱プレス機で、280℃、4MPa、10分間加熱し、積層体を熱圧着させた。
【0075】
このようにして得られた実施例3の銅張積層板に対して、実施例1と同様の測定、及び評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0076】
(実施例4)
<基材フィルム>
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂(Sepla Film 信越ポリマー社製 融点345℃、結晶化度30%)のフィルム100μmを用いた。
【0077】
<塗料4の作製>
ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂(信越ポリマー社製、結晶化度10%、Tg146℃)の粉砕物4(平均粒径10μm)を用いた。
塗料に無機フィラー(合成マイカ、MS-100DS)を含有させた。
塗料にポリエーテルスルホン(PES)樹脂(住友化学社製)の粉砕物(平均粒径10μm)を含有させた。
該粉砕物4と無機フィラーとPESの粉砕物とトルエンとを100質量部:10質量部:10質量部:50質量部の割合で混合し、塗料4を作製した。
【0078】
<銅張積層板の作製>
PEEKの基材フィルムの表面をコロナ処理した。該表面処理されたPEEKフィルム上に、上記で得られた塗料4を塗布した。
次に、オーブンに塗膜付き基材フィルムを入れて、120℃の60分間加熱し、塗膜を乾燥させた。塗膜の膜厚は銅張積層板作製後に20μmとなるように調整した。
乾燥した塗膜上に銅箔2(HS1-VSP、三井金属社製、電界銅箔、厚さ18μm、Rz1.2μm)の膜を配し、PEEKフィルム、塗膜、銅箔膜の順で積層された積層体を熱プレス機で、260℃、4MPa、10分間加熱し、積層体を熱圧着させた。
【0079】
このようにして得られた実施例4の銅張積層板に対して、実施例1と同様の測定、及び評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0080】
(比較例1)
<基材フィルム>
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂(Sepla Film 信越ポリマー社製 融点345℃、結晶化度30%)のフィルム100μmを用いた。
【0081】
<銅張積層板の作製>
PEEKの基材フィルムの表面をコロナ処理した。
該表面処理されたPEEKフィルム上に、実施例1と同様の銅箔1を配し、PEEKフィルムと銅箔膜の積層体に対し、熱プレス機で、360℃、4MPa、10分間加熱し、積層体を熱圧着させ、銅張積層板を作製した。
【0082】
(比較例2)
比較例1において、熱圧着する温度を、実施例と同様の280℃に変更した以外は、比較例1と同様にして、銅張積層板を作製した。
【0083】
(比較例3)
<基材フィルム>
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂(Sepla Film 信越ポリマー社製 融点345℃、結晶化度28%)のフィルム100μmを用いた。
【0084】
<塗料1の作製>
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂(信越ポリマー社製 結晶化度20%、Tg146℃)の粉砕物1(平均粒径10μm)を用いた。
該粉砕物1とトルエンとを100質量部:40質量部の割合で混合し、塗料1を作製した。
【0085】
<銅張積層板の作製>
PEEKの基材フィルムの表面をコロナ処理した。該表面処理されたPEEKフィルム上に、上記で得られた塗料1を塗布した。
次に、オーブンに塗膜付き基材フィルムを入れて、120℃の60分間加熱し、塗膜を乾燥させた。塗膜の膜厚は銅張積層板作製後に15μmとなるように調整した。
乾燥した塗膜上に銅箔1(3EC-M1S-HTE、三井金属社製、電界銅箔、厚さ12μm、Rz1.8μm)の膜を配し、PEEKフィルム、塗膜、銅箔膜の順で積層された積層体を熱プレス機で、280℃、4MPa、10分間加熱し、積層体を熱圧着させた。
【0086】
このようにして得られた比較例1~比較例3の銅張積層板に対して、実施例1と同様の測定、及び評価を行った。
比較例1~比較例3の銅張積層板における、上記測定及び、評価に対する結果を下記表1に示す。
尚、比較例2、3の銅張積層板は、PEEKフィルムと銅箔1の膜とがそもそも接着しなかったため特性評価ができなかった。
【0087】
【表1】
実施例で作製された本発明の銅張積層板は、PEEK樹脂と銅箔とを熱ラミネートする際のエネルギーを低減し、かつPEEK樹脂と銅箔との良好な密着性を示すものであった。また、実施例で作製された本発明の銅張積層板は、寸法安定性に優れ、かつ良好なはんだ耐熱性を示すものであった。
本発明の銅張積層板は、スマートフォン、携帯電話、光モジュール、デジタルカメラ、ゲーム機、ノートパソコン、医療器具等の電子機器用のFPC関連製品の製造に好適に用いられ得る。