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特開2023-38013膝関節リハビリテーション器具およびそれを用いたリハビリテーション方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038013
(43)【公開日】2023-03-16
(54)【発明の名称】膝関節リハビリテーション器具およびそれを用いたリハビリテーション方法
(51)【国際特許分類】
   A61H 3/00 20060101AFI20230309BHJP
   A61F 7/00 20060101ALI20230309BHJP
   A41D 13/005 20060101ALI20230309BHJP
   A41D 13/06 20060101ALI20230309BHJP
   A61F 5/01 20060101ALI20230309BHJP
   A61F 5/02 20060101ALI20230309BHJP
【FI】
A61H3/00 B
A61F7/00 320Z
A41D13/005 101
A41D13/06 105
A61F5/01 N
A61F5/02 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021144887
(22)【出願日】2021-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】504399358
【氏名又は名称】学校法人金沢学院大学
(71)【出願人】
【識別番号】393023145
【氏名又は名称】株式会社ユメロン黒川
(74)【代理人】
【識別番号】110002804
【氏名又は名称】弁理士法人フェニックス特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 勝夫
(72)【発明者】
【氏名】黒川 裕文
【テーマコード(参考)】
3B011
4C046
4C098
4C099
【Fターム(参考)】
3B011AA13
3B011AC01
4C046AA25
4C046AA42
4C046AA47
4C046BB08
4C046CC01
4C046DD06
4C046DD22
4C046DD39
4C046DD41
4C046DD47
4C098AA10
4C098BB09
4C098BB11
4C098BC03
4C098BC13
4C099AA01
4C099CA09
4C099GA02
4C099HA04
4C099LA14
4C099NA02
4C099TA02
(57)【要約】
【課題】 膝頭を確実に加温しつつも下腿の揺動を負担なく行うことができる膝関節リハビリテーション器具およびそれを用いたリハビリテーション方法を提供すること。
【解決手段】 着用者の膝関節部位に巻装して使用される器具であって、
着用者の膝頭の前面を被覆して、脚部に固定可能な固定部材1と;温熱部材2と;弾性復元力を有する弾性部材3とを具備して構成されており、
前記温熱部材2を前記固定部材1に止着して、着用者の膝頭の前面に配置可能にする一方、前記温熱部材2の側方近傍にそれぞれ弾性部材3を配設して、着用者が膝関節部位を屈曲するとき、前記弾性部材3の両方が当該膝関節部位の前方に当接することにより、前記温熱部材2が着用者の膝頭の前面に付勢した状態で押圧可能に構成するという技術的手段を採用した。
【選択図】 図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者の膝関節部位に巻装して使用される器具であって、
着用者の膝頭の前面を被覆して、脚部に固定可能な固定部材1と;
温熱部材2と;
弾性復元力を有する弾性部材3とを具備して構成されており、
前記温熱部材2が前記固定部材1に止着されて、着用者の膝頭の前面に配置可能である一方、
前記温熱部材2の側方近傍にそれぞれ弾性部材3が配設されており、
着用者が膝関節部位を屈曲するとき、前記弾性部材3の両方が当該膝関節部位の前方に当接することにより、前記温熱部材2が着用者の膝頭の前面に付勢した状態で押圧可能に構成されていることを特徴とする膝関節リハビリテーション器具。
【請求項2】
少なくとも一方の前記弾性部材3が、前記固定部材1から着脱自在に構成されていることを特徴とする請求項1記載の膝関節リハビリテーション器具。
【請求項3】
前記弾性部材3が弾性線材の曲げにより形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の膝関節リハビリテーション器具。
【請求項4】
前記弾性部材3が、撓曲方向によって弾性復元力が異なるように形成されており、
着用者が膝関節を伸ばす方向に弾性復元力が大きくなるように前記固定部材1に止着されていることを特徴とする請求項1~3の何れか一つに記載の膝関節リハビリテーション器具。
【請求項5】
前記温熱部材2が、蓄熱ゲルパックと遠赤外線放射性繊維シートとを含んで構成されており、蓄熱ゲルパックの帯熱が遠赤外線放射性繊維シートを通じて着用者の膝頭の前面を温熱可能であることを特徴とする請求項1~4の何れか一つに記載の膝関節リハビリテーション器具。
【請求項6】
前記固定部材1にニーラップ片11が設けられており、このニーラップ片11により前記温熱部材2を押圧可能であることを特徴とする請求項1~5の何れか一つに記載の膝関節リハビリテーション器具。
【請求項7】
請求項1~6の何れか一つに記載の膝関節リハビリテーション器具を着用者の膝関節部位に装着した状態で、
着用者が足裏を床に接地させない状態で着座し、
前記温熱部材2を着用者の膝頭の前面に付勢した状態で押圧させながら、下腿を前後に揺動させることを特徴とする膝関節リハビリテーション器具を用いたリハビリテーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リハビリテーション技術の改良、更に詳しくは、膝頭を確実に加温しつつも下腿の揺動を負担なく行うことができる膝関節リハビリテーション器具およびそれを用いたリハビリテーション方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
膝は体重を支え酷使される部位であることから、加齢に伴って新陳代謝が弱まると、膝関節の運動を円滑に作用するための関節液(滑液)の分泌が減少し、軟骨が擦り減ることが原因となって痛みを生じることが知られている。
【0003】
高齢化社会を迎え、膝関節の痛みを訴える日本人は、約2530万人と推定され、40歳以上では男性の42.6%、女性の62.4%にのぼるとされているが、病院での治療が必要な重症者は約30%ほどであり、多くの軽症者は、市販のサポーターや鎮痛剤、湿布などを対症療法的に使用している。
【0004】
サポーターを使用する理由としては、膝関節を固定して可動域を規制することにより負担を軽減させたり、体温が逃げないように保温するためであるが、痛みを低減させることはできるものの、症状の根本的な解決まではできない。
【0005】
従来、膝関節の痛みの症状を改善させるための種々のリハビリテーションが行われているが、例えば、患者を歩行させる方法については、歩行時に自身の体重が膝関節にかかるために負担が大きく、しかも、膝関節以外の部位も動かす必要があるために余分な体力を消耗してしまい、患者が疲労しやすくなり、膝関節のピンポイント的な機能訓練を行うことができないという問題がある。
【0006】
また、他の運動療法として、温水プール等の水中で負荷を少なくしながらウォーキングや膝の屈伸運動を行う方法も知られているが、プールの利用は着替え作業などが面倒であり、手間やコストがかかるという問題がある。
【0007】
そして、最近では、膝関節への負担が少ないリハビリテーション方法として、患者がイス等に着座し、足裏を床に接地させない状態で下腿を前後に揺動させる方法が知られつつある。しかしながら、下腿を持ち上げる動作だけでも、患者によっては負担が大きく苦痛となる場合があり、所要の回数を達成できない場合もある。
【0008】
従来、膝運動の際の筋力の負荷を軽減することができるものとして、関節部に装着するサポーターに弾性部材を設けたものが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
また、関節液の分泌促進には、患部の加温が有効であることも知られていることから、サポーターにカイロ等の保温具を設けて、膝関節部に当接させて保温および加温することができるもの(例えば、特許文献2参照)を使用することも考えられる。
【0010】
しかしながら、これらの従来技術は日常的に使用されるものであり、かつ、技術的思想および作用効果は独立的なものであって、リハビリテーション器具に特化した用途は想定されておらず、独自的な構造も具備していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2018-31103号公報
【特許文献2】実開昭61-82621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従来の技術に上記のような問題があったことに鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、膝頭を確実に加温しつつも下腿の揺動を負担なく行うことができる膝関節リハビリテーション器具およびそれを用いたリハビリテーション方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者が上記技術的課題を解決するために採用した手段を、添付図面を参照して説明すれば、次のとおりである。
【0014】
即ち、本発明は、着用者の膝関節部位に巻装して使用される器具であって、
着用者の膝頭の前面を被覆して、脚部に固定可能な固定部材1と;
温熱部材2と;
弾性復元力を有する弾性部材3とを具備して構成されており、
前記温熱部材2を前記固定部材1に止着して、着用者の膝頭の前面に配置可能にする一方、
前記温熱部材2の側方近傍にそれぞれ弾性部材3を配設して、
着用者が膝関節部位を屈曲するとき、前記弾性部材3の両方が当該膝関節部位の前方に当接することにより、前記温熱部材2が着用者の膝頭の前面に付勢した状態で押圧可能に構成するという技術的手段を採用したことによって、膝関節リハビリテーション器具を完成させた。
【0015】
また、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、少なくとも一方の前記弾性部材3を、前記固定部材1から着脱自在に構成するという技術的手段を採用することもできる。
【0016】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、前記弾性部材3を弾性線材の曲げにより形成するという技術的手段を採用することもできる。
【0017】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、前記弾性部材3を、撓曲方向によって弾性復元力が異なるように形成し、
着用者が膝関節を伸ばす方向に弾性復元力が大きくなるように前記固定部材1に止着するという技術的手段を採用することもできる。
【0018】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、前記温熱部材2を、蓄熱ゲルパックと遠赤外線放射性繊維シートとを含んで構成して、蓄熱ゲルパックの帯熱を遠赤外線放射性繊維シートを通じて着用者の膝頭の前面を温熱可能にするという技術的手段を採用することもできる。
【0019】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、前記固定部材1にニーラップ片11を設け、このニーラップ片11により前記温熱部材2を押圧可能にするという技術的手段を採用することもできる。
【0020】
また、本発明は、上記解決手段の何れか一つに記載の膝関節リハビリテーション器具を着用者の膝関節部位に装着した状態で、
着用者が足裏を床に接地させない状態で着座し、
前記温熱部材2を着用者の膝頭の前面に付勢した状態で押圧させながら、下腿を前後に揺動させるという技術的手段を採用することによって、膝関節リハビリテーション器具を用いたリハビリテーション方法を完成させた。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、着用者の膝頭の前面を被覆して、脚部に固定可能な固定部材と;温熱部材と;弾性復元力を有する弾性部材とを具備して膝関節リハビリテーション器具を構成し、
前記温熱部材を前記固定部材に止着して、着用者の膝頭の前面に配置可能にする一方、前記温熱部材の側方近傍にそれぞれ弾性部材を配設して、着用者が膝関節部位を屈曲するとき、前記弾性部材の両方が当該膝関節部位の前方に当接することにより、前記温熱部材が着用者の膝頭の前面に付勢した状態で押圧可能に構成することによって、膝頭を確実に加温しつつも下腿の揺動を負担なく行うことができる。
【0022】
本発明によれば、弾性部材を温熱部材の側方近傍にそれぞれ配設したため、着用者が膝関節を前後に揺動すると、一対の弾性部材の間に位置する温熱部材が、突出する膝頭の斜面に均等に沿うことによって、膝頭に略中央に位置決めすることができると同時に、弾性部材の弾性復元力が温熱部材を膝頭に押圧する方向に作用するため、温熱効果を最大限に発揮させることができる。
【0023】
また、弾性部材によって下腿を持ち上げる方向に付勢されているため、着用者の筋力に依存することなく極めて少ない負荷で下腿を前後に揺動することができる。
【0024】
更にまた、動作効率および温熱効率に無駄がないため少ない揺動回数でよく、リハビリテーションに要する時間の短縮にも繋がり、着用者の体力および膝関節に負担がかからず、高いリハビリテーション効果を得ることができる。
【0025】
そしてまた、膝関節を温めながら屈伸運動を行い、膝関節の周囲の関節液が血液の循環や温度を高め、筋肉を弛緩させることにより、軟骨等の新陳代謝を高め、膝関節の痛みの軽減や予防を図ることができる。
【0026】
本発明の実施により、高齢者等が健康で過ごすことができることによって、延いては医療費の削減にもつながることから、産業上の利用価値は頗る大きい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施形態のリハビリテーション器具を表わす正面図である。
図2】本発明の実施形態のリハビリテーション器具の使用状態を表わす正面図である。
図3】本発明の実施形態のリハビリテーション器具の使用状態を表わす正面図である。
図4】本発明の実施形態のリハビリテーション器具の使用状態を表わす側面図である。
図5】本発明の実施形態のリハビリテーション器具の変形例を表わす正面図である。
図6】本発明の実施形態のリハビリテーション方法を表わす側面図である。
図7】実施例の実験1における「関節音代表波形」を示すグラフである。
図8】実施例の実験1における「大腿直筋の活動ピークに対する関節音の潜時」を示すグラフである。
図9】実施例の実験1における「関節音1と膝関節の屈曲角加速度ピークおよび前方移動加速度ピークとの時間差」を示すグラフである。
図10】実施例の実験2における「膝関節周囲の皮膚温度」を示すグラフである。
図11】実施例の実験2における「膝関節内および大腿直筋の酸化ヘモグロビン濃度の変化」を示すデータである。
図12】実施例の実験2における「膝関節内および大腿直筋の酸化ヘモグロビン濃度」を示すグラフである。
図13】実施例の実験3における「膝屈曲運動時の膝関節音」を示すグラフである。
図14】実施例の実験3における「膝関節屈伸運動中の左右方向の圧中心位置」を示すグラフである。
図15】実施例の実験3における「膝関節屈伸運動中の筋活動の持続時間および平均振幅」を示すグラフである。
図16】実施例の実験3における「立位での膝屈伸運動周期」を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施形態を図1から図6に基づいて説明する。図1中、符号1で指示するものは固定部材であり、この固定部材1は、着用者の膝頭の前面を被覆して、脚部Lに固定可能である。本実施形態では、伸縮性のある生地を帯状に構成して、端部近傍に面ファスナーを設け、脚部Lに巻回して止着することができるものを採用する。
【0029】
また、符号2で指示するものは温熱部材であり、この温熱部材2には、蓄熱ゲルパックを採用することができる。蓄熱性物質としては、シリカ、アルミナ、酸化第二鉄、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化ナトリウムなどのセラミックの微粉末や、トルマリン、ゼオライト、テラ鉱石、ブラックシリカ、ゲルマニウムなどの天然鉱石の微粉末を採用することができ、遠赤外線を放出することができる。また、ゲルの成分としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)などを使用することができる。そして、蓄熱性物質とゲルとを混錬した蓄熱ゲルを生成して、変形自在な軟質素材(ポリエチレン等)の袋体に収容し、電子レンジやヒーターなどの加熱手段で適温に加熱して使用することができる。
【0030】
更にまた、符号3で指示するものは弾性部材であり、この弾性部材3は、弾性復元力を有する金属やプラスチックなどの線材や板材などを使用し、適宜、折曲加工したものを採用することができる。
【0031】
本発明の膝関節リハビリテーション器具は、図2および図3に示すように、着用者の膝関節部位に巻装して使用される器具であって、構成するにあっては、まず、前記温熱部材2を前記固定部材1に止着する。本実施形態では、固定部材1に袋状のポケット部を設け、その内部に温熱部材2を収容することによって止着することができ、温熱部材2を交換式に構成することができる。
【0032】
そして、温熱部材2を着用者の膝頭(特に、膝蓋前滑液包付近)の前面に配置できるようにする。
【0033】
本実施形態では、前記温熱部材2を、蓄熱ゲルパックと遠赤外線放射性繊維シートとを含んで構成して(重ね合わせて)、蓄熱ゲルパックの帯熱を遠赤外線放射性繊維シートを通じて着用者の膝頭の前面を温熱可能にすることもできる。この際、遠赤外線放射性繊維シートは、前述に列挙した天然鉱石等の微粉末を混錬した繊維を綿状の不織布に形成したものを採用することができる。そして、遠赤外線放射性繊維シート側を膝頭側に配置することによって、膝頭に対する接触圧力を分散させることができるとともに、ムラのない温度分布で温熱することもできる。
【0034】
次に、前記温熱部材2の側方近傍にそれぞれ弾性部材3を配設する。本実施形態では、固定部材1の生地の内側に収容部分を設け、この収容部分に直接的に挿入して固定することができる。
【0035】
本実施形態では、前記弾性部材3を弾性線材の曲げにより形成することができる(例えば、渦巻バネやコイルボーンなど)。こうすることによって、板状の場合(板バネ)と比較して、弾性変形を許容する方向の三次元的自由度が増し、力の偏りが少なくスムースに付勢および復元を行うことができる。
【0036】
また、本実施形態では、少なくとも一方の前記弾性部材3を、前記固定部材1から着脱自在に構成することができる。弾性部材3の固定位置を適宜変更することにより、着用者の膝頭の大きさや形状に確実に合致させることができる。固定部材1に着脱自在に固定する手段としては、面ファスナーやホックなどを採用することができる。
【0037】
このように構成された膝関節リハビリテーション器具は、着用者が膝関節部位を屈曲するとき、前記弾性部材3の両方が当該膝関節部位の前方に当接することにより(図3および図4参照)、前記温熱部材2が着用者の膝頭の前面に付勢した状態で押圧することができる。
【0038】
通常、弾性部材3の弾性復元力を最大限に活用するためには、膝関節部位の前方ではなく、膝関節の屈伸運動に干渉しない膝の側面に配設する方が合理的である。しかしながら、本発明では、膝関節の屈伸運動の補助機能だけ考慮すると力学的には一見不利であるものの、温熱部材を着用者の膝頭の前面に付勢した状態で押圧するという他方の機能を同時に満足することができる構成を実現した。
【0039】
なお、本実施形態では、前記弾性部材3を、撓曲方向によって弾性復元力が異なるように形成して、着用者が膝関節を伸ばす方向に弾性復元力が大きくなるように前記固定部材1に止着することもできる。撓曲方向によって弾性復元力が異なるようにするためには、例えば、弾性部材3を非対称に成形したり、弾性率の異なる材料を複数用いて成形することが考えられる。
【0040】
本発明においては、下腿の自重に抗して振り上げる筋力トレーニングが目的ではなく、膝関節の屈伸運動時の負荷の軽減が目的であるため、昇降の負荷を均等化させることができる技術的意義は大きい。もっとも、弾性部材3の配置によっては、膝関節が伸びているときに弾性部材3が力を受けていない状態であれば、膝関節を屈曲したときに反発するため、自然と伸ばす方向に付勢されることになる。
【0041】
また、本実施形態では、図5に示すように、前記固定部材1にニーラップ片11を設けることもできる。このニーラップ片11により前記温熱部材2を着用者の膝頭に押圧することも可能である。こうすることによって、温熱部材2を隙間なく確実に密着させることができる。なお、必要に応じて、ニーラップ片11にポケット等を設けて温熱部材2を止着できるようにすることもできる。
【0042】
『膝関節リハビリテーション方法』
次に、本発明の膝関節リハビリテーション方法について説明する(図6参照)。まず、上記のように構成した膝関節リハビリテーション器具を着用者の膝関節部位に装着する。本実施形態では、固定部材1を伸長させながら脚部Lに巻回して、端部近傍に設けた面ファスナーによって止着することができる。また、必要に応じて、ニーラップ片11によって温熱部材2を押圧することもできる。
【0043】
そして、器具を装着した状態で、着用者が足裏を床に接地させない状態でイス等の台に着座する。この際、器具を装着してから着座しても良いし、着座してから器具を装着しても良い。
【0044】
然る後、下腿を前後に揺動させる。この際、着用者の膝関節の可動範囲に留意しながら行い、例えば、約40~42℃に加温して30回揺動する。本実施形態では、弾性部材3を温熱部材2の側方近傍にそれぞれ配設したため、前記温熱部材2を着用者の膝頭の前面に付勢した状態で押圧させながら揺動することができる。
【実施例0045】
本発明の器具を使用した場合の効果を検証するために、以下の3つの実験を行った(図7から図16参照)。
【0046】
『実験1』 安静立位からの膝屈曲運動時の筋緊張と関節音
本実験の目的は、器具の着用効果の検証に先立ち、安静立位からの膝屈曲運動時の筋緊張と関節音との関係を明らかにすることである。
【0047】
<方法>
1.被験者
被験者は、健康な成人13名(男性9名、女性4名)から成る。彼らの年齢、身長、体重および足長の平均値±標準偏差(SD)は、それぞれ22.54±2.11歳、168.43±12.45cm、66.72±16.04kgおよび24.83±1.96cmであった。いずれの被験者も神経学的および整形外科学的障害を有していなかった。
【0048】
2.装置およびデータ記録
安静立位時の前後方向における足圧中心(CoPap)を測定するために、床反力計(WJ-1001,WAMI)を用いた。安静立位時の膝関節角度を検出するために、電気ゴニオメーター(M110;Penny&Giles)を用いた。電気ゴニオメーターは、伸展位にて右膝関節の外側に取り付けた。大腿では、大転子および裂隙を通る軸とゴニオメーターの長軸を一致させ、下腿では、裂隙および外果を通る軸とゴニオメーターの長軸を一致させた。また、センサー部の中心が膝関節裂隙と一致するように位置を調整した。その電気信号は、直流アンプ(PH-412B;電機計測販売株式会社)によって増幅され、0.01V/degreeに設定された。
CoPapおよび電気ゴニオメーターの電気信号は、ブザー発生器(F-H6408;HIRUTA)に送った。そのブザー音は被験者に安静立位のCoPap位置および膝関節角度を提示するために用いた。ブザー音は、CoPap位置が安静立位位置の±1cmの範囲内に位置している場合に高音(2000Hz)で、膝関節角度が安静時膝関節角度の±1°の範囲内である場合に低音(1000Hz)で提示された。
矢状面における膝屈曲運動を、ポジションセンサーシステム(C1373;Hamamatsu Photonics)により記録した。このシステムは、6つの赤外線ダイオードターゲット(LEDターゲット)とセンサーヘッドからなり、二次元におけるLEDターゲットのX座標とY座標をアナログ信号として出力するものである。LEDターゲットを身体左側の肩峰、大転子、膝関節裂隙中央、外果およびフォースプレート側面に2つ(矢状面にて、踵から0cmの位置および15cmの位置)取り付け、被験者の左方4mに設置したカメラで記録した。LEDのXおよびY座標の記録時の分解能は0.3mmであった。
表面電極(M-00-S;Medicotest)を双極導出用に配置し、左側の大腿直筋(Rectus Femoris:RF)から筋電図(EMG)を記録した。皮膚の毛を剃り、アルコール綿で拭いた後、電極を電極間距離3cmにて、筋の長軸に沿って貼り付けた。入力抵抗を5kΩ未満とした。電極からの信号は、生体アンプ(NEC-Sanei,BIOTOP-6R12)によって増幅し(2000倍)、バンドパスフィルターを通した(5-500Hz)。
膝関節部に生じる関節音を測定するために、膝関節伸展位にて左側膝蓋骨外下方に円柱型コンデンサマイク(直径1cm,厚さ0.7cm)を取り付けた。皮膚とコンデンサマイクの摩擦音が発生しない様に、コンデンサマイクを皮膚に密着させてサージカルテープにて貼り付けた。コンデンサマイクの音は、マイクアンプ(MM-SPAMP,サンワサプライ)によりに増幅した。
後の分析のため、全ての電気信号は、A/D変換器(ADA16-32/2(CB)F;Contec)を介して、サンプリング周波数1kHz、16-bitの分解能でコンピュータ(Dimension9150;Dell)に送られた。
【0049】
3.手順
すべての測定は、床反力計上にて行われた。被験者は、裸足にて足の内側を10cm平行に離し、両上肢を胸の前で組んだ。測定中は、前方の固視点を注視するよう指示した。
膝屈曲運動の測定に先立ち、安静立位姿勢を10秒間測定した。この測定を試行間に30秒間の休憩をはさんで5試行実施した。CoPapおよび膝関節角度について、5試行の平均値が算出され、それぞれ安静立位位置および安静立位膝関節角とした。
次に、安静立位膝関節角を基準(0°)として、45°まで屈曲する膝屈曲運動を実施した。被験者は、安静立位位置および安静立位膝関節角を2秒間保持した後に、45°/sec(1秒間で45°屈曲)にて、任意のタイミングで設定した角度まで膝屈曲をし、5秒間保持した。この手順を5試行実施した。本試行の前に練習試行を実施した。練習試行は、本試行と同様の手順を5回連続で再現出来るまで繰り返した。膝関節角度は、被験者が東大式関節角度計を用いて、被験者の右側より目測にて確認した。運動中、体幹部は垂直位を保つよう指示された。練習試行における屈曲速度の規定はメトロノームを用い、本試行ではメトロノームの音を消した。各試行間には10秒間の休憩を挟んだ。
【0050】
<結果>
膝屈曲運動中に2つの関節音波形が見られた(図7参照)。関節音1は膝屈曲角度が8.35±2.78°の時に音が発生しており、全65試行中53試行(全体の81.5%)で見られた。関節音2は24.78±6.90°の時に音が発生しており、全65試行中60試行(全体の92.3%)で見られた。
全試行において、関節音1および2に先行して、大腿直筋の活動ピークが得られた。大腿直筋活動ピーク1から関節音1までの時間は50.21±12.07msec、大腿直筋活動ピーク2から関節音2までの時間は54.00±17.51msecであり、これらの間に有意差はなかった(図8参照)。また、関節音2に先行する大腿直筋活動ピーク2は、大腿直筋活動減少の後の活動増加直後(12.35±5.58msec後)に認められた。
さらに、関節音1発生の同タイミングに膝屈曲角加速度のピークと前方移動加速度ピークが出現しており、関節音1との時間差はそれぞれ、膝屈曲角加速度ピークが-2.35±13.67msec、前方移動加速度ピークが-4.10±13.37msec(t12=1.06,p>0.05)であった(図9参照)。
【0051】
<考察>
膝屈曲運動時に2つの関節音が認められ、いずれも大腿直筋の筋活動の約50ms後に生じること、およびその関節音のタイミングと一致して、膝関節屈曲運動の加速度ピークが認められることが明らかとなった。この関節音は、滑液内の気泡の形成や破裂、骨が急激に移動する際に生じる靭帯・腱と骨との接触(スナップ)、関節軟骨の摩擦などにより生じるといわれている(Song et al.,2018)。膝関節屈曲運動の開始時には、次の二つの要因で、関節音が発生するものと考えられる。一つは、前方への滑り運動と関連した関節軟骨の摩擦音であり、もう一つは大腿直筋の伸張反射を伴う急激な活動増加である。すなわち、1つ目の関節音は、膝関節屈曲運動初期の大腿骨の前方への滑りによって生じた急激な張力増加に伴う筋活動増加に関連し、その後の関節音は、この張力増加に関連して生じた大腿直筋の伸張反射による筋活動増加に関連するものと考えられる。
【0052】
『実験2』 膝の無負荷屈伸運動の器具着用効果
本実験の目的は、無負荷での反復膝関節屈伸運動と本発明の器具の着用が、膝関節皮膚温、膝関節内の酸素化動態、および大腿直筋の血流動態におよぼす影響を明らかにすることである。
【0053】
<方法>
1.被験者
被験者は、50歳以上の健康な成人男性5名から成る。彼らの年齢、身長および体重の平均値±標準偏差(SD)は、それぞれ59.0±6.8歳、173.3±5.5cm、および71.6±11.1kgであった。いずれの被験者も神経学的および整形外科学的障害を有していなかった。
【0054】
2.装置およびデータ記録
本発明の器具は、伸縮性のある縦19cm×横42cmの器具である。膝関節中央部にあてる部位に、縦14.5cm×横12.5cmのポケットがあり、その中に温熱部材(蓄熱材を用いた懐炉)を入れ、それを厚手の保温布の上から膝蓋骨中央にあてる仕組みである。縦14cm×横4cmの2つの弾性部材(バネ)を、膝蓋骨の両側におき、膝の伸展を補助した。このバネは、90°曲げるのに200gの力を有した。懐炉は、550Wの電子レンジで20秒間温めることにより、38℃に蓄熱する。
膝関節周りの皮膚温を計測するために、サーモグラフィ(日本光電,Infra-eye mini)を用いた。サーモグラフィのカメラを被験者の前方1.5mに配置し、レンズ中央の高さに両膝関節中心が位置するようにした。計測部位は、膝蓋骨の中央の高さで、内側縁より1cm内側とした。
膝関節腔および大腿直筋における酸化ヘモグロビン濃度の相対的変化を測定するために、近赤外線血流測定装置(HAMAMATSU PHOTONICS,NIRO-200)を用いた。時間分解能は2Hzであった。1対の計測プローブを、左膝関節の膝蓋骨から膝蓋腱への移行部で、膝蓋腱の両側のくぼみに当てた。この部位は、関節内注射の挿入部に一致する。入射プローブは膝蓋腱の内側に、受光プローブは外側においた。もう1対の計測プローブは、大腿直筋の筋腹にあてた。プローブ間距離は、約3cmとした。後の分析のため、NIRO-200の電気信号は、A/D変換器(ADA16-32/2(CB)F;Contec)を介して、サンプリング周波数1kHz、16-bitの分解能でコンピュータ(Dimension9150;Dell)に送られた。
【0055】
3.手順
測定は全て、足裏が床面に接地しない高さ(90cm)の椅子上座位にて実施した。測定は、本発明の器具を着用しない「非着用条件」と着用する「着用条件」からなり、各条件での測定は、1日あけて実施した。
はじめに、安静座位を1分間保った。その後、膝関節および大腿直筋の酸化ヘモグロビン濃度が定常状態にあることを確認し、左脚の無負荷膝屈伸運動を1分間実施した。その後、再び安静座位を1分間保った。
「着用条件」では、器具を左膝に巻いてから無負荷膝屈伸運動を実施した。器具には、550Wの電子レンジで20秒間温めた懐炉を入れた。運動終了後、ただちに器具を外し、安静座位での測定を実施した。
【0056】
<結果>
左膝関節皮膚温は、1分間の無負荷膝屈伸運動により、30.46±0.3℃から30.78±0.43℃へ約0.3℃上昇した(p<0.05)(図10参照)。器具を着用して無負荷膝屈伸運動を実施した場合には、30.9±0.76℃から31.72±0.82℃へと約0.8℃上昇した(p<0.05)。運動前後の温度上昇は、無負荷膝屈伸運動よりも器具を着用しての無負荷膝屈伸運動時に大きい傾向が認められた(p=0.06)。運動を行わない右膝関節皮膚温は、左膝関節の運動前後で変化しなかった。
左膝関節内および左大腿直筋の酸化ヘモグロビン濃度の変化を図11に示す。左膝関節内の酸化ヘモグロビン濃度は、無負荷膝屈伸運動後に、約20秒間増加し続け、その後1分間はその値が維持された。一方、大腿直筋の酸化ヘモグロビン濃度は、無負荷膝屈伸運動後、約20秒間は関節内のそれと同じく増加し、その後減少に転じた。器具を装着して無負荷膝屈伸運動を実施した場合には、いずれの酸化ヘモグロビン濃度も、運動後に大きく増加するようになり、1分後まで高い値を示し続けた。
安静座位時の左膝関節内の酸化ヘモグロビン濃度は、1分間の無負荷膝屈伸運動前に比べて、運動後に増大した。器具を着用して無負荷膝屈伸運動を実施した場合には、運動後の増大がさらに大きくなった(p<0.05)(図12上参照)。
安静座位時の左大腿直筋の酸化ヘモグロビン濃度は、1分間の無負荷膝屈伸運動直後に増大するが、明確な変化は認められなかった。器具を着用して無負荷膝屈伸運動を実施した場合には、運動後に増大が認められる傾向を示した(図12下参照)。
【0057】
<考察>
本実験では、無負荷での反復膝関節屈伸運動と器具の着用が、膝関節皮膚温、膝関節の関節液の流動性、大腿直筋の血流動態におよぼす影響について検討した。無負荷での膝関節屈伸運動を繰り返すことにより、膝関節皮膚温が上昇した。これは、運動による関節周囲の皮膚血流の増大によると考えられる。
また、膝関節内の酸化ヘモグロビン濃度は、無負荷膝屈伸運動後に増大し、1分後までその増加が持続した。一方、大腿直筋の酸化ヘモグロビン濃度は、無負荷膝屈伸運動後、約20秒間は関節内のそれと同じく増加し、その後減少に転じた。これらの結果は、膝関節内と大腿直筋の循環動態の様相が異なることを示す。
この運動を、本発明の器具を着用して実施すると、運動後の膝関節の皮膚温の上昇およびヘモグロビン濃度の増大はさらに大きくなり、かつ高い値がより持続するようになった。器具を着用しての無負荷膝屈伸運動が、膝関節周囲の循環動態により効果的に作用することが示された。
【0058】
『実験3』 膝の無負荷屈伸運動の器具着用効果
本実験の目的は、立位での膝屈伸運動時の関節音および動作様式におよぼす本発明の器具を着用しての無負荷屈伸運動の影響を明らかにすることである。
【0059】
<方法>
1.被験者
被験者は、前記実験2と同様の、50歳以上の健康な成人男性5名から成る。いずれの被験者も神経学的および整形外科学的障害を有していなかった。
【0060】
2.装置およびデータ記録
実験2と同様の器具を用いた。膝関節部に生じる関節音を測定するために、膝関節伸展位にて両脚の膝蓋骨下端で、膝蓋腱の外側部に、円柱型コンデンサマイク(直径1cm,厚さ0.7cm)を1つずつ取り付けた。皮膚とコンデンサマイクの摩擦音が発生しない様に、コンデンサマイクを皮膚に密着させてサージカルテープにて貼り付けた。コンデンサマイクの音は、それぞれ別のマイクアンプ(MM-SPAMP,サンワサプライ)により増幅した。
膝関節屈伸運動時の両側大腿直筋の筋活動を測定するために、双極表面筋電図(EMG)を検出した。その筋電位は、多チャンネル生体アンプ(NEC,BIOTOP-6R12)を用いて増幅し(×5000)、LFF5Hz、HFF500Hzのアナログフィルタを介した。立位時の前後および左右方向の足圧中心(それぞれCoPap,CoPml)および垂直分力(Fz)を測定するために、床反力計(WJ-1001,WAMI,Japan)を用いた。
立位での膝関節運動時の膝関節運動様式を捉えるために、直径13mmの反射マーカーを、両側の大転子、膝関節裂隙中央、および外果に取り付けた。これらのマーカーは、被験者の左右側に配置した4台の赤外線カメラ(OptiTrack Flex13,Optitrack,USA)にて、120Hz/秒で撮影された。各カメラの制御は、Motive(Optitrack,USA)を搭載した1台のコンピュータ(LV950R,NEC,Japan)にて行なった。VENUS3DR(ノビテック,Japan)を用いて各マーカーの三次元座標を取得した。他の計測信号との同期を図るために、計測開始と同時に5Vのトリガ信号が出力された。
後の分析のため、全ての電気信号は、A/D変換器(ADA16-32/2(CB)F;Contec,Japan)を介して、サンプリング周波数1kHz、16-bitの分解能でコンピュータ(Dimension9150;Dell,Japan)に送られた。
【0061】
3.手順
はじめに、床反力計上で立位での膝関節屈伸運動を5回実施した。被験者は、裸足にて足の内側を10cm平行に離し、両上肢を胸の前で組んだ。立位での膝関節屈伸運動を5試行終えた後、床反力計の後方にある、足裏が床面に接地しない高さ(90cm)の椅子に座り、両脚の無負荷膝屈伸運動を1分間実施した。この時、左膝には本発明の器具を巻いた。器具には、550Wの電子レンジで20秒間温めた懐炉を入れた。無負荷膝屈伸運動終了後、ただちに器具を外し、再び床反力計上で立位での膝関節屈伸運動を5回実施した。
【0062】
<結果>
立位での膝関節屈曲運動時に、膝関節音が生じた。この音の振幅は、無負荷膝屈伸運動後に、器具の着用側(左側)では小さくなった(p<0.05)。非着用側(右側)では変わらなかった(図13参照)。
立位での膝屈伸運動中の圧中心位置(図14参照)は、無負荷膝屈伸運動前では、最大加圧時、膝関節伸展立位時ともに、安静立位時と変わらなかった。無負荷膝屈伸運動後では、最大加圧時に、器具の着用側(左側)へ偏倚する傾向が認められた。膝関節伸展立位時には、安静立位時の圧中心位置と変わらなかった。
立位での膝屈伸運動中の筋活動の持続時間は、着用側(左側)では無負荷膝屈伸運動前後で変化がなく、非着用側(右側)では増加する傾向が認められた。筋活動の平均振幅は、着用側(右側)では無負荷膝屈伸運動前後で変化がなく、非着用側(右側)では減少する傾向が認められた(図15参照)。
立位での膝屈伸運動周期は、屈曲相、伸展相ともに、無負荷膝屈伸運動後に短くなる傾向が認められた(図16参照)。
【0063】
<考察>
立位での膝屈伸運動において、関節音の振幅は、無負荷膝屈伸運動後に、器具の非着用側(右側)では変わらなかったが、着用側(左側)では小さくなった。圧中心位置は、無負荷膝屈伸運動後では、最大加圧時に、器具の着用側(左側)へ偏倚する傾向が認められた。大腿直筋の筋活動の持続時間および平均振幅は、着用側では無負荷運動前後で変わらなかった。非着用側では、持続時間が増加し、平均振幅は減少した。膝屈伸運動の周期は、無負荷運動後に短くなった。これらの結果は、無負荷での膝屈伸運動により、立位での膝屈伸運動の速度が増し、器具を着用した側の優位性が増したことを示す。それにも関わらず、着用側の膝関節音の振幅は減少したことは、本発明の器具の使用によって、膝関節内の関節液の流動性が増すなどで摩擦が減り、膝関節の動きが滑らかになったことを示すと考えられる。
【0064】
以上の実験結果より、本発明の器具を使用することによって、着用者の膝関節部位において、以下の効果が得られることがわかった。
(1)膝関節周囲の温度が上昇する。
(2)膝関節内の関節液が流動的になる。
(3)膝関節周囲筋の血流動態が向上する。
(4)立位での膝の屈伸運動時の関節音が減少する。
(5)立位での膝屈伸の運動性が増す。
【0065】
本発明は、概ね上記のように構成されるが、図示の実施形態に限定されるものでは決してなく、「特許請求の範囲」の記載内において種々の変更が可能であって、例えば、固定部材1は、帯状のものに限らず筒状に構成することができる。
【0066】
また、温熱部材2は、蓄熱ゲルパックに限らず、白金触媒式カイロや鉄粉酸化式カイロなどを採用しても良いし、コンセントから電源を供給して加熱するものや電池式の電熱式ヒータを採用することもできる。
【0067】
更にまた、弾性部材3の形状および強度も変更することができ、これら何れのものも本発明の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0068】
1 固定部材
2 温熱部材
3 弾性部材
L 脚部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図16