(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023003810
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】送信器、無線機、レーダ装置、およびゲート制御方法
(51)【国際特許分類】
H03F 1/02 20060101AFI20230110BHJP
H03F 3/24 20060101ALI20230110BHJP
H04B 1/04 20060101ALI20230110BHJP
G01S 7/03 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
H03F1/02
H03F3/24
H04B1/04 N
G01S7/03 220
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021105102
(22)【出願日】2021-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000221155
【氏名又は名称】東芝電波プロダクツ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503217808
【氏名又は名称】アルモテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】青山 哲
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 博
(72)【発明者】
【氏名】藤木 直也
(72)【発明者】
【氏名】山岸 美穂
【テーマコード(参考)】
5J070
5J500
5K060
【Fターム(参考)】
5J070AK40
5J500AA01
5J500AA41
5J500AA62
5J500AC36
5J500AC81
5J500AC92
5J500AF10
5J500AH14
5J500AH25
5J500AH26
5J500AH32
5J500AH39
5J500AK05
5J500AK11
5J500AK26
5J500AK33
5J500AK34
5J500AK47
5J500AM21
5J500AS14
5J500AT01
5J500AT02
5J500AT03
5J500AT04
5J500AT06
5J500WU08
5K060BB01
5K060CC04
5K060HH06
5K060HH39
5K060LL11
(57)【要約】
【課題】 RFスイッチを用いずに、GaN素子の特性を活かした動作を実現する。
【解決手段】 実施形態の送信器は、信号の送信に使用されるノーマリーオン型のGaN素子と、信号を送信する期間中、前記GaN素子のゲートをオンさせる負電圧を当該ゲートに印加し、信号を送信しない期間中は、前記負電圧よりも更に低くて前記GaN素子のゲートをオンさせることのない負電圧を当該ゲートに印加する回路とを具備する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号の送信に使用されるノーマリーオン型のGaN素子と、
信号を送信する期間中、前記GaN素子のゲートをオンさせる負電圧を当該ゲートに印加し、信号を送信しない期間中は、前記負電圧よりも更に低くて前記GaN素子のゲートをオンさせることのない負電圧を当該ゲートに印加する回路と
を具備する送信器。
【請求項2】
前記回路は、
所定の負電圧の電流を供給する定電流源と、
信号を送信する期間中、前記電流源から供給される負電圧の電流をそのまま前記GaN素子のゲートへ送る第1の状態と、信号を送信しない期間中、前記電流源から供給される負電圧の電流をもとに更に電圧の低下した電流を前記GaN素子のゲートへ送る第2の状態とを切り替える切替回路と
を含む、
請求項1に記載の送信器。
【請求項3】
前記切替回路は、
前記電流源から供給される負電圧の電流をもとに更に電圧の低下した電流を生成する抵抗分圧回路と、
前記電流源から供給される負電圧の電流が、前記抵抗分圧回路を経由して前記GaN素子のゲート側へ流れる経路と、前記抵抗分圧回路をバイパスして前記GaN素子のゲート側へ流れる経路の、いずれか一方を選択的に形成するスイッチと、
を含む、請求項2に記載の送信器。
【請求項4】
信号を送信する期間と信号を送信しない期間とに応じて前記スイッチの状態を切り替える制御信号を前記スイッチに供給する制御回路を更に具備する、請求項3に記載の送信器。
【請求項5】
前記回路は、
信号を送信する期間と信号を送信しない期間とで値が異なるディジタル値のデータを入力し、当該データをアナログ信号に変換して出力するD/A変換器と、
前記D/A変換器から出力されるアナログ信号を反転増幅して得られる負電圧の電流を前記GaN素子のゲートへ送るオペアンプと
を含む、請求項1に記載の送信器。
【請求項6】
前記D/A変換器に入力されるディジタル値のデータを、前記GaN素子の周囲の所定箇所の温度もしくは前記GaN素子の設定周波数に応じて調整する調整回路を更に具備する、請求項5に記載の送信器。
【請求項7】
前記調整回路は、前記GaN素子の周囲の所定箇所の温度から、前記D/A変換器に入力されるディジタル値に対する調整量を導出する手段を有する、請求項6に記載の送信器。
【請求項8】
前記調整回路は、前記GaN素子の設定周波数から、前記D/A変換器に入力されるディジタル値に対する調整量を導出する手段を有する、請求項6又は7に記載の送信器。
【請求項9】
信号の送信に使用されるノーマリーオン型のGaN素子と、
信号を送信する期間中、前記GaN素子のゲートをオンさせる負電圧を当該ゲートに印加し、信号を送信しない期間中は、前記負電圧よりも更に低くて前記GaN素子のゲートをオンさせることのない負電圧を当該ゲートに印加する回路と
を具備する無線機。
【請求項10】
信号の送信に使用されるノーマリーオン型のGaN素子と、
信号を送信する期間中、前記GaN素子のゲートをオンさせる負電圧を当該ゲートに印加し、信号を送信しない期間中は、前記負電圧よりも更に低くて前記GaN素子のゲートをオンさせることのない負電圧を当該ゲートに印加する回路と
を具備するレーダ装置。
【請求項11】
信号の送信に使用されるノーマリーオン型のGaN素子のゲート制御方法であって、
信号を送信する期間中、前記GaN素子のゲートをオンさせる負電圧を当該ゲートに印加し、
信号を送信しない期間中は、前記負電圧よりも更に低くて前記GaN素子のゲートをオンさせることのない負電圧を当該ゲートに印加する、
ゲート制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、送信器、無線機、レーダ装置、およびゲート制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代パワー半導体デバイスとして知られるGaN素子は、高絶縁耐圧性、小型化、高速スイッチング(応答性)という優れた特長を有する。その一方で、
図5に示すようなスイッチング素子でトランジスタを実現するに際し、以下のような使用上の注意を要する。
【0003】
すなわち、GaN素子1は、
図6に示すように、ノーマリーオフではなくノーマリーオンという特性を有することから、ゲートに電圧を印加しない状態ではドレイン電流が流れてしまう。よって、ドレイン電流を止めるためには、ゲートに負電圧を印加する必要がある。もし、ゲートに負電圧が印加されない状態が続き、ドレイン電流が流れっぱなしになると、素子の破壊を招く可能性があるため、注意を要する。
【0004】
また、上述したGaN素子1は、上述したような優れた特長を有することから、その特長を活かして送信器、無線機、レーダ装置等のハイパワーアンプなどにも使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、国内外で無線設備に関するスプリアス関連規定の見直しが行われている。わが国でも電波法における無線設備のスプリアス発射の強度の許容値に係る技術基準などの規則が改正され、平成34年12月1日以降は、新規則に適合しない無線設備は原則使用できなくなる。これに伴い、送信器、無線機、レーダ装置等に使用されるアンプもスプリアスの条件を満たすよう工夫する必要がある。
【0007】
送信器等に適用可能なアンプの種類としては、A級,B級,C級など、様々なものが知られているが、間欠的に利得を発生させるC級アンプ等よりも、常に利得を生成するA級アンプの方が、スプリアスを急激に増大させる可能性は低く、上述した新規則に適合させるためには相応しいと言える。
【0008】
しかしながら、A級アンプは、常に利得を生成するので、もし送信用のパルス信号等を継続して流すとノイズフロアが上がる。例えばA級アンプがレーダ装置に適用される場合には、当該アンプから出力された信号はサーキュレータやアンテナを通じて送信され、対象物から反射され信号が送信時と同じアンテナやサーキュレータを通じて微小な信号として受信されるが、その際に受信される信号はノイズフロアに隠れてしまい、正しく検出することが難しくなる。これを防ぐためには、信号の送信動作を継続的に行うのではなく、断続的に行うことが考えられる。
【0009】
例えば、信号の送信/無送信の状態を交互に切り替えられるように、送信器のアンプの送信ゲートをオン/オフ制御する機能を備えることが望まれる。すなわち、
図7に示すように、所定のパルス幅のパルス信号を送信する期間において送信ゲートをオンの状態にし、信号を送信しない期間においては送信ゲートをオフの状態にすることが望まれる。
【0010】
従来、このような動作を実現する場合には、
図8に示すように、アンプ10の前段および後段に、信号が通過する経路のオン/オフを切り替えるRFスイッチ11,12をそれぞれ設け、信号を送信する期間と信号を送信しない期間とで異なる値を示す送信ゲート制御信号をRFスイッチ11,12に送るようにしている。
【0011】
前述のGaN素子1を用いて送信器のアンプを構成する場合は、
図9に示すように、GaN素子1のドレイン(D)に一定の電圧(例えば、+28V)を供給するドレイン定電圧源2を設け、GaN素子1のゲート(G)に一定の電流(例えば、300mA)を一定の負電圧(例えば、-3.3V)にて供給するゲートバイアス定電流源3を設ける。その上で、GaN素子のゲート(G)側およびドレイン(D)側にRFスイッチ11,12をそれぞれ設ける。すなわち、常に利得を生成するオペアンプ(A級アンプ)を構成した上で、当該アンプの前後にRFスイッチ11,12を設ける。
【0012】
信号を送信する期間においては、RFスイッチ11,12を通じて信号が流れるように構成することで、送信ゲートをオンの状態にする。一方、信号を送信しない期間においては、RFスイッチ11,12をそれぞれ切り替えることで、ポート間アイソレーションを形成し、送信ゲートをオフの状態にする。
【0013】
しかしながら、
図9のように構成すると、次のような問題が生じる。
【0014】
すなわち、小電力(例えば、+20dBm程度)であれば、通常の耐電力のRFスイッチを設けることで十分であるが、大電力で実現する際は、耐電力の大きいRFスイッチを設けなければならないという問題がある。
【0015】
特にGaN素子を使用するアンプは、尖頭電力が100W以上のものも珍しくないため、使用するスペースも大きくなり、価格も高価なものとなる。
【0016】
また、RFスイッチには、挿入損失があるため、損失が熱となり、放熱の仕方を検討する必要も生じる。
【0017】
これらの課題をまとめると、以下の通りとなる。
・小型化できず、使用するスペースが大きくなる。
・挿入損失による放熱が無視できない。
・GaN素子を含むアンプの前後に高耐電力のRFスイッチを配置する必要があり、モジュール単価が高価であることから、実現に際しコストが無視できない。
【0018】
発明が解決しようとする課題は、RFスイッチを用いずに、GaN素子の特性を活かした動作を実現する送信器、無線機、レーダ装置、およびゲート制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
実施形態の送信器は、信号の送信に使用されるノーマリーオン型のGaN素子と、信号を送信する期間中、前記GaN素子のゲートをオンさせる負電圧を当該ゲートに印加し、信号を送信しない期間中は、前記負電圧よりも更に低くて前記GaN素子のゲートをオンさせることのない負電圧を当該ゲートに印加する回路とを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第1の実施形態に係る送信器の概略構成の一例を示す図。
【
図2A】第2の実施形態に係る送信器の概略構成の一例を示す図。
【
図2B】同実施形態における基準バイアスデータ調整回路の構成の一例を示す図。
【
図3】同実施形態における温度テーブルの一例を示す図。
【
図4】同実施形態における周波数テーブルの一例を示す図。
【
図7】信号を送信する期間と信号を送信しない期間を説明する図。
【
図8】従来の送信器における信号の送信/無送信の切り替え方法を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、実施の形態について説明する。
【0022】
(第1の実施形態)
最初に、第1の実施形態について説明する。
【0023】
図1は、第1の実施形態に係る送信器の概略構成の一例を示す図である。なお、
図9と共通する要素には同一の符号を付している。
【0024】
本実施形態に係る送信器は、信号の送信に使用されるノーマリーオン型のGaN素子1を備えるほか、信号を送信する期間中、GaN素子1のゲートをオンさせる所定の負電圧を当該ゲートに印加し、信号を送信しない期間中は、上記負電圧よりも更に低くてGaN素子1のゲートをオンさせることのない所定の負電圧を当該ゲートに印加する回路を備える。
【0025】
図1の例では、GaN素子1を用いてアンプ(A級アンプに相当)を構成するに際し、ドレイン定電圧源2およびゲートバイアス定電流源3を設け、更に切替回路4を設ける。切替回路4は、ゲートバイアス定電流源3とGaN素子1のゲート(G)との間に介在するように配置され、スイッチ5および抵抗分圧回路6を含む。また、信号を送信する期間と信号を送信しない期間とに応じてスイッチ5の状態を切り替える送信ゲート制御信号を当該スイッチ5に供給する送信ゲート制御回路7も設ける。この送信ゲート制御回路7が出力する送信ゲート制御信号は、前述の
図9で説明した送信ゲート制御信号と同等のものである。
【0026】
GaN素子1は、前述の通り、信号の送信に使用されるノーマリーオン型のGaN素子である。
【0027】
ドレイン定電圧源2は、GaN素子1のドレイン(D)に対して一定の電圧(例えば、+28V)を供給するものである。このドレイン定電圧源2は、
図9で説明したドレイン定電圧源2と同等のものである。
【0028】
ゲートバイアス定電流源3は、一定の電流(例えば、300mA)を一定の負電圧(例えば、-3.3V)にて供給するものである。このゲートバイアス定電流源3は、
図9で説明したゲートバイアス定電流源3と同等のものである。
【0029】
切替回路4は、ゲートバイアス定電流源3から供給される一定の負電圧の電流をそのままGaN素子1のゲート(G)へ送る第1の状態と、ゲートバイアス定電流源3から供給される一定の負電圧の電流をもとに更に電圧の低下した電流をGaN素子1のゲート(G)へ送る第2の状態とを切り替えるものである。特に、第2の状態のときにGaN素子1のゲート(G)に流れる電流は、送信用のパルス信号(入力信号)がGaN素子1のゲート(G)側に流れていても当該ゲート(G)がオンすることがないほどに(ドレイン電流が流れないほどに)十分に低い電圧(例えば、-5.0V)を示すものとする。
【0030】
スイッチ5は、送信ゲート制御回路7から供給される送信ゲート制御信号に従い、ゲートバイアス定電流源3から供給される一定の負電圧の電流が、抵抗分圧回路6を経由してGaN素子1のゲート(G)側へ流れる経路と、抵抗分圧回路6をバイパスしてGaN素子1のゲート(G)側へ流れる経路の、いずれか一方を選択的に形成するものである。
【0031】
抵抗分圧回路6は、ゲートバイアス定電流源3から供給される一定の負電圧の電流をもとに更に電圧の低下した電流を生成するものである。この抵抗分圧回路6は、2つの直接接続された抵抗器を含む。2つの直接接続された抵抗器は、その一端がスイッチ5の片方の接点(ゲートバイアス定電流源3の出力側)に電気的に接続され、他端が例えば-7Vの電源に電気的に接続されている。2つの抵抗器の間にある接続点は、スイッチ5のもう片方の接点(GaN素子1のゲート(G)側)に電気的に接続され、抵抗分圧後の負電圧(例えば、-5.0V)が得られるようになっている。この抵抗分圧後の電圧は、送信用のパルス信号(入力信号)がGaN素子1のゲート(G)側に供給されても当該ゲート(G)がオンすることがないほどに十分に低い電圧値を示す。
【0032】
なお、
図1に示される送信器は、レーダ装置の一部を構成していてもよい。その場合のレーダ装置は、当該送信器のほか、図示しない受信器や、送信/受信に共通して使用されるアンテナやサーキュレータ等が備えられたものとなる。また、
図1に示される構成は、送信器に適用する代わりに、送信器および受信器の両機能を備える無線機に適用してもよい。
【0033】
上記構成において、
図1に示される送信器が動作中の場合、ドレイン定電圧源2からは一定の電圧(例えば、+28V)が供給され、また、ゲートバイアス定電流源3からは一定の電流(例えば、300mA)が一定の負電圧(例えば、-3.3V)にて供給される。
【0034】
ドレイン定電圧源2から供給される電圧は、そのままGaN素子1のドレイン(D)に送られる。
【0035】
一方、ゲートバイアス定電流源3から供給される電流は、スイッチ5が閉じている間は、抵抗分圧回路6をバイパスする経路を通じてGaN素子1のゲート(G)側へ送られ、一方、スイッチ5が開いている間は、抵抗分圧回路6を経由する経路を通じてGaN素子1のゲート(G)側へ送られる。
【0036】
信号を送信する期間においては、
図7に示したように所定のパルス幅のパルス信号(入力信号)がGaN素子1のゲート(G)側に供給され、また、送信ゲート制御回路7から供給される送信ゲート制御信号により、スイッチ5が閉の状態にされる。このとき、ゲートバイアス定電流源3から供給される負電圧(例えば、-3.3V)の電流が閉の状態にあるスイッチ5を経由してGaN素子1のゲート(G)側へ流れる。当該負電圧の電流がGaN素子1のゲート(G)に印加されている間、入力信号に応じて当該ゲート(G)がオンし、バイアス電流が流れ、GaN素子1のドレイン(D)側に利得が発生する。GaN素子1のドレイン(D)側で得られた出力信号は、図示しないサーキュレータやアンテナを通じて送信されることになる。
【0037】
一方、信号を送信しない期間においては、パルス信号はGaN素子1のゲート(G)側には供給されず、送信ゲート制御回路7から供給される送信ゲート制御信号により、スイッチ5が開の状態にされる。このとき、ゲートバイアス定電流源3から供給される負電圧(例えば、-3.3V)の電流は抵抗分圧回路6を流れる。この抵抗分圧回路6では、2つの抵抗器の間から抵抗分圧された負電圧(例えば、-5.0V)の電流が生成され、GaN素子1のゲート(G)側へ流れる。当該抵抗分圧された負電圧の電流がGaN素子1のゲート(G)に印加されている間、入力信号の供給の有無にかかわらず、当該ゲート(G)はオンせず、バイアス電流は流れず、利得は発生しない。
【0038】
第1の実施形態によれば、ノーマリーオン型のGaN素子を用いて送信器を構成するに際し、RFスイッチを用いずに、ノーマリーオン型のGaN素子の特性を活かしつつ、放熱の低減、低コスト化、省スペース化、小型化を図ることができる。また、GaN素子のゲートにバイアス電流を定常的に流す必要がないので、省電力化を図ることもできる。結果的に、環境に配慮した送信器を実現することができる。
【0039】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。
【0040】
図2Aは、第2の実施形態に係る送信器の概略構成の一例を示す図である。なお、
図1と共通する要素には同一の符号を付している。以降、第1の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0041】
第2の実施形態では、第1の実施形態で説明した切替回路4等を用いず、代わりにD/A変換器8やオペアンプ9を用いることで、GaN素子1のゲート(G)に印加する電圧の制御を実現する。より具体的には、この第2の実施形態では、第1の実施形態で説明したゲートバイアス定電流源3、スイッチ5および抵抗分圧回路6を含む切替回路4、および送信ゲート制御回路7からなる回路群を設けず、代わりに、D/A変換器8およびオペアンプ9からなる回路群を設ける。
【0042】
D/A変換器8およびオペアンプ9からなる回路群は、信号を送信する期間中、GaN素子1のゲート(G)をオンさせる所定の負電圧を当該ゲートに印加し、信号を送信しない期間中は、上記負電圧よりも更に低くてGaN素子1のゲート(G)をオンさせることのない所定の負電圧を当該ゲートに印加する。この点、第1の実施形態で説明したゲートバイアス定電流源3、切替回路4、および送信ゲート制御回路7からなる回路と共通する。
【0043】
D/A変換器8は、信号を送信する期間と信号を送信しない期間とで値が異なるディジタル値のデータを入力し、当該データをアナログ信号に変換して出力するものである。
【0044】
上記ディジタル値のデータには、信号を送信する期間中にGaN素子1のゲート(G)に印加する負電圧のレベル(例えば、-3.3V)を設定するために用意されたディジタル値のデータと、信号を送信しない期間中にGaN素子1のゲート(G)に印加する負電圧のレベル(例えば、-5.0V)を設定するために用意されたディジタル値のデータとがあり、いずれか一方がD/A変換器8に入力される。ただし、これら2種類のディジタル値のデータは、必ずしも-3.3Vや-5.0Vなどといった固定値の印加電圧レベルを設定するためだけに使用されるものではなく、適宜、状況に応じて印加電圧のレベル変更を可能にする可変データである。
【0045】
オペアンプ9は、D/A変換器8から出力されるアナログ信号を反転増幅して得られる負電圧の電流をGaN素子1のゲートへ送るものである。
【0046】
上記構成において、
図2Aに示される送信器が動作中の場合、ドレイン定電圧源2からは一定の電圧(例えば、+28V)が供給され、また、D/A変換器8からは可変値として設定されたディジタル値に応じたレベルの電流が供給される。
【0047】
ドレイン定電圧源2から供給される電圧は、そのままGaN素子1のドレイン(D)に送られる。
【0048】
一方、D/A変換器8から供給される電流は、オペアンプ9により反転増幅されて、負電圧の電流としてGaN素子1のゲート(G)側へ送られる。
【0049】
信号を送信する期間においては、
図7に示したように所定のパルス幅のパルス信号(入力信号)がGaN素子1のゲート(G)側に供給される。このとき、D/A変換器8には、信号を送信する期間中にGaN素子1のゲート(G)に印加すべき負電圧のレベル(例えば、-3.3V)を実現するためのディジタル値のデータが入力される。これにより、当該ディジタル値のデータがD/A変換器8によりアナログ信号に変換され、オペアンプ9により反転増幅され、負電圧の電流(例えば、-3.3V)がGaN素子1のゲート(G)側へ流れる。当該負電圧の電流がGaN素子1のゲート(G)に印加されている間、入力信号に応じて当該ゲート(G)がオンし、バイアス電流が流れ、GaN素子1のドレイン(D)側に利得が発生する。GaN素子1のドレイン(D)側で得られた出力信号は、図示しないサーキュレータやアンテナを通じて送信されることになる。
【0050】
一方、信号を送信しない期間においては、パルス信号はGaN素子1のゲート(G)側には供給されない。このとき、D/A変換器8には、信号を送信しない期間中にGaN素子1のゲート(G)に印加すべき負電圧のレベル(例えば、-5.0V)を実現するためのディジタル値のデータが入力される。これにより、当該ディジタル値のデータがD/A変換器8によりアナログ信号に変換され、オペアンプ9により反転増幅され、負電圧の電流(例えば、-5.0V)がGaN素子1のゲート(G)側へ流れる。当該抵抗分圧された負電圧の電流がGaN素子1のゲート(G)に印加されている間、入力信号の供給の有無にかかわらず、当該ゲート(G)はオンせず、バイアス電流は流れず、利得は発生しない。
【0051】
ところで、GaN素子1は周囲温度や設定周波数などの変化に応じてその特性が変化し、出力レベルも変化してしまうことがある。その対策のためには、例えば、D/A変換器8の前段において、D/A変換器8に入力されるディジタル値のデータを、GaN素子1の周囲の所定箇所の温度もしくはGaN素子1の設定周波数に応じて調整する回路(以下、「基準バイアスデータ調整回路」と称す。)を更に設けるようにしてもよい。このようにすると、周囲温度や設定周波数に応じて適切なレベルに調整された電圧をGaN素子1のゲート(G)に印加することが可能となり、GaN素子1の設定周波数や周囲温度の条件に寄らず、出力レベルを一定に保つことが可能となる。ここで、基準バイアスデータ調整回路の構成の一例を
図2Bに示す。
【0052】
図2B中の基準バイアスデータは、調整を行う前のディジタル値のデータである。
【0053】
図2Bに示される基準バイアスデータ調整回路20は、温度テーブル21、周波数テーブル22、加算器23、dB/dec変換器24、および基準バイアスデータ調整部25を備えている。但し、
図2Bに示す構成は一例であり、この構成に限定されるものではない。
【0054】
温度テーブル21は、GaN素子1の周囲の所定箇所の温度を示す温度データから、D/A変換器8に供給されるディジタル値に対する調整量を導出する機能である。この温度テーブル21の一例を
図3に示す。
図3に示される例は、基準温度に対する偏差ΔT(単位は例えば℃)から、基準バイアスデータの調整量ΔdB(単位は例えばdB)を導出することを可能にするテーブルの例である。但し、この例に限定されるものではない。
【0055】
周波数テーブル22は、GaN素子1の設定周波数を示す周波数データから、D/A変換器8に供給されるディジタル値に対する調整量を導出する機能である。この周波数テーブル22の一例を
図4に示す。
図4に示される例は、GaN素子1の設定周波数F(単位は例えばGHz)から、基準バイアスデータの調整量ΔdB(単位は例えばdB)を導出することを可能にするテーブルの例である。但し、この例に限定されるものではない。
【0056】
加算器23は、温度テーブル21から得られた調整量(dB)と周波数テーブル22から得られた調整量(dB)とを加算して出力する機能である。
【0057】
dB/dec変換器24は、加算器23から出力される調整量の単位をdB/dec変換して出力する機能である。
【0058】
基準バイアスデータ調整部25は、dB/dec変換器24から出力される調整量に応じて、基準バイアスデータを調整して出力する機能である。出力されたデータ(ディジタルデータ)は、D/A変換器8へ供給される。
【0059】
図2Aおよび
図2Bの例のように、テーブルを用いてフィードスルー方式のゲート制御を行う場合は、温度データや周波数データの入力後、すぐにそれらの情報がGaN素子1のゲート(G)の印加電圧に反映されるため、環境条件の変化に対して遅延時間が小さく応答性の高い制御を実現することができ、高い応答性を要するレーダ装置にも適する。
【0060】
但し、
図2Aおよび
図2Bの例は一例であり、これに限定されるものではない。例えば、上述したようなフィードスルー方式ではなく、代わりに、フィードバック方式(例えば、出力レベルをセンサ(検波器等)でモニタして該出力レベルと既定レベルとの偏差をフィードバックする方式)を採用してもよい。この場合、多少の遅延時間が生じるものの、テーブルなどが不要となり、デバイスの個体差(特性の違い)も吸収することが可能となる。
【0061】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態で得られる効果に加え、更に、周囲温度や設定周波数などの変化に応じてGaN素子1の特性が変化しても、適切なレベルに調整された電圧をGaN素子のゲートに印加することが可能となり、GaN素子の設定周波数や周囲温度の条件に寄らず、出力レベルを一定に保つことが可能となる。
【0062】
以上詳述したように、各実施形態によれば、RFスイッチを用いずに、GaN素子の特性を活かした動作を実現する送信器、無線機、レーダ装置、およびゲート制御方法を提供することが可能となる。
【0063】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0064】
1…GaN素子、2…ドレイン定電圧源、3…ゲートバイアス定電流源、4…切替回路、5…スイッチ、6…抵抗分圧回路、7…送信ゲート制御回路、8…D/A変換器、9…オペアンプ、10…アンプ、11,12…RFスイッチ、20…基準バイアスデータ調整回路、21…温度テーブル、22…周波数テーブル、23…加算器、24…dB/dec変換器、25…基準バイアスデータ調整部。