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特開2023-38109送電網監視システム及び送電網監視方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038109
(43)【公開日】2023-03-16
(54)【発明の名称】送電網監視システム及び送電網監視方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/24 20060101AFI20230309BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20230309BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20230309BHJP
【FI】
H02J3/24
H02J3/38 160
H02J3/38 120
H02J13/00 301A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021145034
(22)【出願日】2021-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パンディ ラビカント
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大地
(72)【発明者】
【氏名】吉原 徹
(72)【発明者】
【氏名】大原 伸也
(72)【発明者】
【氏名】小海 裕
【テーマコード(参考)】
5G064
5G066
【Fターム(参考)】
5G064AC05
5G064AC09
5G064CB04
5G064CB08
5G064CB12
5G064DA01
5G066AA01
5G066AE03
5G066AE09
5G066HA13
5G066HB01
5G066HB06
(57)【要約】
【課題】電力系統に接続されたPCSベースのエネルギー源についてのLFOをリアルタイムで監視する。
【解決手段】送電網監視システム10は、記憶部110と、リアルタイム計算部102と、安定性チェック部103とを備える。記憶部110は、複数の動作点でのPCSベースのエネルギー源30のインピーダンスを示すPCSインピーダンスデータを記憶する。PCSベースのエネルギー源30は、電力系統20に接続される。リアルタイム計算部21は、POC40で測定された電力潮流に基づいて、電力系統20のインピーダンスである送電網インピーダンスを計算する。安定性チェック部103は、PCSインピーダンスデータ及び送電網インピーダンスに基づいて、POC40におけるLFOの検出のための安定性チェックを行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の動作点でのPCSベースのエネルギー源のインピーダンスであるPCSインピーダンスを示すPCSインピーダンスデータを記憶し、前記PCSベースのエネルギー源は、電力系統に接続されるとともに、電圧源と、前記電圧源によって生成された電力を前記電力系統に供給するために当該電力を調節するPCSとを含む、記憶部と、
前記PCSベースのエネルギー源と前記電力系統とが互いに接続される接続点において測定された電力潮流に基づいて、前記電力系統のインピーダンスである送電網インピーダンスを計算するリアルタイム計算部と、
前記PCSインピーダンスデータ及び前記送電網インピーダンスに基づいて、前記接続点におけるLFOを検出するための安定性チェックを行う安定性チェック部と、
を備える、送電網監視システム。
【請求項2】
前記記憶部は、前記PCSインピーダンスを示す前記PCSインピーダンスデータを周波数領域で記憶し、
前記リアルタイム計算部は、前記送電網インピーダンスを周波数領域で計算する、
請求項1に記載の送電網監視システム。
【請求項3】
前記安定性チェック部は、前記複数の動作点のそれぞれについて、周波数領域での前記PCSインピーダンスデータ及び前記送電網インピーダンスを利用して、前記接続点における前記PCSベースのエネルギー源と前記電力系統との間の伝達関数のゲイン及び位相角を含むボード線図を作成し、
前記安定性チェック部は、前記ボード線図に基づいて前記LFOが検出されるか否かを判断する、
請求項2に記載の送電網監視システム。
【請求項4】
前記PCSベースのエネルギー源の前記インピーダンスを計算するオフライン計算部をさらに備え、
前記記憶部は、前記オフライン計算部によって計算された前記PCSベースのエネルギー源の前記インピーダンスに基づいて生成される前記PCSインピーダンスデータを記憶する、
請求項1に記載の送電網監視システム。
【請求項5】
前記LFOが現在の動作点について検出された場合、前記安定性チェック部は、前記PCSベースのエネルギー源の動作状態を前記現在の動作点から前記複数の動作点のうち別の動作点へと変更するためのコマンドを出力する、
請求項1に記載の送電網監視システム。
【請求項6】
前記電力系統は、複数の発電機がそれぞれのインピーダンス素子を介して前記PCSベースのエネルギー源に並列接続されている並列構成を有する、
請求項1に記載の送電網監視システム。
【請求項7】
前記電力系統は、複数の発電機がインピーダンス素子を介して前記PCSベースのエネルギー源にメッシュ接続されているメッシュタイプ構成を有する、
請求項1に記載の送電網監視システム。
【請求項8】
前記インピーダンス素子は、コンデンサを含み、
前記発電機は、前記コンデンサを介して接続された第1の発電機と、前記コンデンサを介さずに接続された第2の発電機とを含む、
請求項6又は7に記載の送電網監視システム。
【請求項9】
前記コンデンサは、それぞれが直列及び/又は並列接続された複数のコンデンサ素子から成る、
請求項8に記載の送電網監視システム。
【請求項10】
前記PCSベースのエネルギー源は、1つ以上の風力タービンを含むウィンドファームである、
請求項1に記載の送電網監視システム。
【請求項11】
前記風力タービンのそれぞれは、インバータ、変圧器及びフィルタを含む前記PCSを介して、前記接続点で前記電力系統に接続される、
請求項10に記載の送電網監視システム。
【請求項12】
複数の動作点でのPCSベースのエネルギー源のインピーダンスであるPCSインピーダンスを示すPCSインピーダンスデータを記憶装置に記憶することであって、前記PCSベースのエネルギー源は、電力系統に接続されるとともに、電圧源と、前記電圧源によって生成された電力を前記電力系統に供給するために当該電力を調節するPCSとを含むことと、
前記PCSベースのエネルギー源と前記電力系統とが互いに接続される接続点において測定された電力潮流に基づいて、前記電力系統のインピーダンスである送電網インピーダンスを計算することと、
前記PCSインピーダンスデータ及び前記送電網インピーダンスに基づいて、前記接続点におけるLFOを検出するための安定性チェックを行うことと、
を含む、送電網監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統を監視するためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、クリーンな再生可能エネルギーによる発電への需要の高まりにより、電力系統において電力調節システム(PCS)が深く浸透することが必要となった。ある種の再生可能エネルギー源及びPCSを用いた発電機を含むPCSベースのエネルギー源は、接続点(POC)にて電力系統に接続される。電力系統の実時間動作において、POCでのPCSインピーダンス及び送電網インピーダンスは、電力系統の安定性をチェックするための十分なパラメータである。
【0003】
電力系統のいずれかのポイントで送電線の開放をもたらす障害などの何らかの異常が発生した場合、結果として、電力系統の送電網インピーダンスが変化する。この送電網インピーダンスの変化により、POCの電圧及び電流に低周波発振(LFO)が生じる。電力系統におけるLFOを監視及び制御するために、送電網インピーダンス及びPCSインピーダンスのリアルタイム計算が必要となる。しかしながら、PCSインピーダンスの計算は一般的に多大な時間を消費する。従って、LFOをリアルタイムで監視することは難しい。
【0004】
電力系統において何らかの異常が発生した場合、PCSベースのエネルギー源は電力系統に対して脆弱性がある。PCSベースのエネルギー源において生じ得る問題の一つは、電力系統の短絡比(SCR)が低くなった場合のLFOである。SCRは、電力系統における送電線の容量に対するPCSベースのエネルギー源からの出力電力の比率として定義することができる。従って、PCSベースのエネルギー源の出力電力が高く、かつ送電線の送電容量が低い場合、LFOのリスクが高まる。
【0005】
風力エネルギーは、最もクリーンなエネルギー源の一つと見なされている。風力エネルギーを用いて発電する風力タービンは、PCSベースのエネルギー源として使用されるために、PCSを介して電力系統と一体化されてもよい。PCSの機能は、電力の可変特性を調整し、かつこれを電力系統に供給することである。
【0006】
ウィンドファームとは、多くの風力タービンから成る風力発電所である。ウィンドファームは、主要な電力系統やロードセンターから離れた遠隔地に位置することができる。一般的に、ウィンドファームは、電力系統への長い送電線と1つのPOCを必要とする。長い送電線では、直列コンデンサは、送電網の安定性、送電容量及び電圧の安定性の問題に対処するための経済的解決策として見なされている。
【0007】
いくつかの例では、風力タービンが準同期相互作用の問題に対して脆弱であるため、ウィンドファームが送電線の直列コンデンサに放射状に接続されている場合、POCにおいて電圧及び電流にLFOが誘発される。具体的には、PCSが、直列コンデンサによって発生された電気共振と相互作用し、風力タービンの損傷又は動作不良をもたらし得る。最悪の場合、PCSの相互作用は停電をもたらし得る。さらに、電気共振によってもたらされた電流のLFOに反応した際、当該反応は、電力系統における共振の減衰に影響を与え得る。この現象は、準同期制御作用(SSCI)と称されている。SSCIは、電流及び電圧のLFOにつながり、電力系統に不安定さを引き起こす。
【0008】
一般的に用いられるSSCIの調査方法の一つに、周波数走査分析がある。以下の特許文献1は、SSCIの調査のために風力タービン及び電力系統のPCSインピーダンスを計算する周波数走査方法を開示している。特許文献1では、PCSインピーダンス及び送電網インピーダンスは、システムのLFOの周波数である共振周波数を見出すために計算される。共振周波数でのシステムの抵抗を測定することによって、SSCIによってもたらされるLFOのリスク評価を行うことができる。このインピーダンス測定方法は、風力タービンのPCSコントローラを改良するために使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第9,941,828号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1によって開示された方法では、PCSインピーダンスは、電磁過渡現象(EMT)モデルで計算される。このような計算は多大な時間を消費し、従って、LFOをリアルタイムで監視することは未だに難しい。
【0011】
従って、本発明の目的は、電力系統に接続されたPCSベースのエネルギー源についてのLFOをリアルタイムで監視することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る送電網監視システムは、複数の動作点でのPCSベースのエネルギー源のインピーダンスであるPCSインピーダンスを示すPCSインピーダンスデータを記憶し、前記PCSベースのエネルギー源は、電力系統に接続されるとともに、電圧源と、前記電圧源によって生成された電力を前記電力系統に供給するために当該電力を調節するPCSとを含む、記憶部と、前記PCSベースのエネルギー源と前記電力系統とが互いに接続される接続点において測定された電力潮流に基づいて、前記電力系統のインピーダンスである送電網インピーダンスを計算するリアルタイム計算部と、前記PCSインピーダンスデータ及び前記送電網インピーダンスに基づいて、前記接続点におけるLFOを検出するための安定性チェックを行う安定性チェック部と、を備える。
本発明に係る送電網監視方法は、複数の動作点でのPCSベースのエネルギー源のインピーダンスであるPCSインピーダンスを示すPCSインピーダンスデータを記憶装置に記憶することであって、前記PCSベースのエネルギー源は、電力系統に接続されるとともに、電圧源と、前記電圧源によって生成された電力を前記電力系統に供給するために当該電力を調節するPCSとを含むことと、前記PCSベースのエネルギー源と前記電力系統とが互いに接続される接続点において測定された電力潮流に基づいて、前記電力系統のインピーダンスである送電網インピーダンスを計算することと、前記PCSインピーダンスデータ及び前記送電網インピーダンスに基づいて、前記接続点におけるLFOを検出するための安定性チェックを行うことと、を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電力系統に接続されたPCSベースのエネルギー源についてのLFOをリアルタイムで監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係る送電網監視システムの概略ブロック図を示す。
図2図2は、本発明の第1の実施形態に係る送電網監視システムの詳細な構成を示す。
図3図3は、いくつかの動作点での周波数領域内のPCSインピーダンスデータ一式の一例を示す。
図4図4は、周波数領域送電網インピーダンスの例を示す。
図5図5は、安定性チェックプロセスの概要を示す。
図6図6は、安定性チェックプロセスのフローチャートを示す。
図7図7は、図6のステップS130で行われる安定性チェック及びLFO制御のフローチャートを示す。
図8図8は、LFO制御が適用されない場合の、POCにおける時系列での電圧挙動の一例である。
図9図9は、図8の例で示されるPOCでの電圧に従った伝達関数のボード線図の例を示す。
図10図10は、本発明に係るLFO制御が適用された場合の、POCにおける時系列での電圧挙動の一例である。
図11図11は、図10の例で示されるPOCでの電圧に従った伝達関数のボード線図の例を示す。
図12図12は、表示部に表示される画面の一例を示す。
図13図13は、本発明の第2の実施形態に係る送電網監視システムの概略ブロック図を示す。
図14図14は、本発明の第3の実施形態に係る送電網監視システムの概略ブロック図を示す。
図15図15は、本発明の第4の実施形態に係る送電網監視システムの概略ブロック図を示す。
図16図16は、本発明の第5の実施形態に係る送電網監視システムの概略ブロック図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る送電網監視システム10の概略ブロック図を示す。図1に示される通り、送電網監視システム10は、POC40において、測定システム50を介して電力系統20及びPCSベースのエネルギー源30に接続される。
【0016】
電力系統20は、発電機21及び送電網インピーダンス22を含む。発電機21は、電力を生成し、その電力を送電線(図示なし)を介して消費者に供給する。送電網インピーダンス22は、例えば、送電線のインダクタンス、抵抗及び静電容量を含む電力系統20のインピーダンスである。
【0017】
PCSベースのエネルギー源30は、PCS電圧源31及びPCS32を含む。PCS電圧源31は、例えば風力や太陽電力等の再生可能エネルギー源を用いた発電機である。PCS32は、PCS電圧源31によって生成された電力を調整し、この電力を送電線を介して消費者に供給する。
【0018】
電力系統20とPCSベースのエネルギー源30は、POC40において互いに接続される。測定システム50は、POC40に接続され、所定の周期で繰り返し電流及び電圧を検出することによってPOC40での電力潮流を測定し、電力潮流の測定結果を送電網監視システム10に出力する。
【0019】
送電網監視システム10は、オフライン計算部101、リアルタイム計算部102、安定性チェック部103、記憶部110、インターフェース部120、及び表示部130を備える。
【0020】
オフライン計算部101は、PCS32のインピーダンス値であるPCSインピーダンスを、いくつかの動作点において周波数領域で事前に計算する。ここで、動作点とは、PCSベースのエネルギー源30の出力電力を意味し、これはPOC40における有効電力、無効電力、及び電圧に応じて変動する。換言すると、オフライン計算部101は、PCSベースのエネルギー源30の様々な出力電力に対するPCSインピーダンスを事前に計算する。オフライン計算部101によって計算されたPCSインピーダンスデータは、記憶部101に格納される。
【0021】
リアルタイム計算部102は、送電網インピーダンス22のインピーダンス値である送電網インピーダンスを、周波数領域で計算する。リアルタイム計算部102は、測定システム50から出力されたPOC40における電力潮流の測定結果に基づく送電網インピーダンスをリアルタイムで計算する。リアルタイム計算部102によって計算された送電網インピーダンスデータは、安定性チェック部103に出力される。
【0022】
安定性チェック部103は、事前に記憶部110に格納されたPCSインピーダンスデータ及びリアルタイム計算部102によってリアルタイムで計算された送電網インピーダンスデータを取得し、これらのデータに基づいて、POC40における電圧及び電流の安定性チェックを行い、LFOの発生を監視する。その結果、POC40における電力潮流が不安定になりそうでLFOが発生するかもしれない場合、安定性チェック部103は、PCSベースのエネルギー源30から電力系統20への出力電力の安定化を促すために、インターフェース部120を介して給電指令所60に所定のコマンドを出力する。
【0023】
記憶部110は、送電網監視システム10で使用される様々なデータ、例えば、オフライン計算部101によって計算されたPCSインピーダンスデータ等を格納する。HDD(ハードディスクドライブ)、SSD(ソリッドステートドライブ)等の不揮発性記録媒体を記憶部110として使用してよい。
【0024】
インターフェース部120は、送電網監視システム10の信号を入出力するための所定のインターフェース処理を行う。安定性チェック部103からの上述のコマンドは、インターフェース部120の処理によって給電指令所60に出力することができる。
【0025】
表示部130は、測定システム50によって検出されたPOC40における電流及び電圧と、安定性チェック部103による安定性チェックの結果とを入力する。これらの入力データに基づき、表示部130は、システム管理者等の送電網監視システム10のユーザに対して、電力系統20及びPCSベースのエネルギー源30の動作状態を監視するための様々な情報を表示する。表示部130で表示される画像の例については後述する。
【0026】
給電指令所60は、安定性チェック部103からの出力コマンドに応答して、PCSベースのエネルギー源30から電力系統20への出力電力の安定化を促すために、PCSベースのエネルギー源30の動作状態を変更する。これにより、POC40におけるLFOの発生を回避することができる。
【0027】
なお、第1の実施形態に記載の送電網監視システム10は、電力系統20の電圧安定性、周波数安定性及び電力潮流の制御など、他の電力系統の安定化機能を含んでもよい。さらに、電力系統20に関して、発電機21は多数の発電機を表すものでもよいし、送電網インピーダンス22は、相互に接続された直列、並列及びメッシュタイプの送電線の組合せであってもよい。図1に示される電力系統20は、単なる例示である。
【0028】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る送電網監視システム10の詳細な構成を示す。送電網監視システム10は、CPU100及び記憶部110を含む。CPU100は、記憶部110等に記録されたプログラムを実行して所定の処理を行い、オフライン計算部101、リアルタイム計算部102、及び安定性チェック部103として機能する。
【0029】
オフライン計算部101は、PCSベースのエネルギー源30の電磁過渡現象モデルである、PCSのEMTモデル1101を、記憶部110から読み込む。オフライン計算部101は、PCSのEMTモデル1101を用いてEMTシミュレーションソフトウェア1011を実行して時系列シミュレーションを行い、いくつかの動作点1,2…NにおけるPCSインピーダンスデータ一式ZPCS1(f), ZPCS2(f), …ZPCSN(f)を周波数領域で用意する。オフライン計算部101によって計算されたPCSインピーダンスデータ一式ZPCS1(f), ZPCS2(f), …ZPCSN(f)は、PCSインピーダンスデータ1102として記憶部110に格納される。
【0030】
リアルタイム計算部102は、POC40で流れる電圧及び電流の測定結果を測定システム50から受信し、受信した電圧及び電流に基づき、送電網インピーダンスZg(f)を周波数領域で計算する。計算された送電網インピーダンスZg(f)のリアルタイムデータ1021は、リアルタイム計算部102から安定性チェック部103に出力される。
【0031】
安定性チェック部103は、記憶部110からPCSインピーダンスデータ1102を読み込み、リアルタイム計算部102からリアルタイム送電網インピーダンスデータ1021を受信する。これらのデータに基づいて、安定性チェック部103は、POC40におけるLFOの監視及び制御のための安定性チェックを行う。安定性チェック部103が行う安定性チェックの具体的な処理については後述する。そして、安定性チェック部103は、必要に応じて、所定の信号をインターフェース部120に出力する。安定性チェック部103から受信した信号に応答して、インターフェース部120は、PCSベースのエネルギー源30から電力系統20への出力電力の安定化のためのコマンドを、給電指令所60に出力する。
【0032】
図3は、0~60Hz等の周波数範囲を調査するためにオフライン計算部101によって計算された、いくつかの動作点における周波数領域でのPCSインピーダンスデータ一式ZPCS1(f), ZPCS2(f), …ZPCSN(f)の例を示す。LFOが発生した場合の電力系統20の安定した動作点を探すためには、PCSベースのエネルギー源30のインピーダンスをいくつかの動作点において計算する必要がある。本実施形態では、図3に示される通り、異なる動作点についてN個のPCSインピーダンスデータZPCS1(f), ZPCS2(f), …ZPCSN(f)が周波数領域で計算され、LFOの監視及び制御に使用するために記憶部110に格納される。図3において、例えばPCSインピーダンスデータZPCS1(f)に関して、グラフ401及び402はそれぞれ、第1の動作点でのPCSベースのエネルギー源30の抵抗及びリアクタンスを示す。
【0033】
図4は、リアルタイム計算部102によって計算された周波数領域での送電網インピーダンスZg(f)の例を示す。図4(a)は、障害前の電力系統20の送電網インピーダンスZg1(f)の例を示しており、これは異常の無い電力系統20の抵抗及びリアクタンスをそれぞれ示すグラフ501及び502によって表される。図4(b)は、障害後の電力系統20の送電網インピーダンスZg2(f)の例を示しており、これは送電線に異常が有る電力系統20の抵抗及びリアクタンスをそれぞれ示すグラフ503及び504によって表される。
【0034】
図5は、安定性チェック部103が行う安定性チェックプロセスの概要を示す。リアルタイム計算部102によって計算される送電網インピーダンスZg(f)は、安定性チェック部103に送信される。安定性チェック部103は、送電網インピーダンスZg(f)とPCSインピーダンスデータZPCS1(f), ZPCS2(f), …ZPCSN(f)のそれぞれとを組み合わせ、伝達関数Zg(f)/ZPCS1(f), Zg(f)/ZPCS2(f), …Zg(f)/ZPCSN(f)を作成する。電力系統20に異常が発生した場合、リアルタイム計算部102によって計算された送電網インピーダンスZg(f) は、電力系統20における送電網構成の変更により、図4に示される通りZg1(f)からZg2(f)へと変化する傾向がある。この場合、安定性チェック部103は、伝達関数Zg(f)/ZPCS1(f), Zg(f)/ZPCS2(f), …Zg(f)/ZPCSN(f)のいずれかの変化を検出することによって、異常を検出できる。上述の安定性チェックプロセスは、安定性チェック部103によって行われる。
【0035】
図5に示される通り、電力系統20の送電網電流I(f)及び送電網電圧Vg(f)は、POC40における電力潮流を測定して数式1に示される閉ループ伝達関数を導出することによって取得できる。
【数1】
【0036】
伝達関数Zg(f)/ZPCS(f)のボード線図を作成することによって、システムの安定性を判定できる。換言すると、LFOの検出及び制御を行うことが出来る。安定性チェック部103によって実行される安定性チェックプロセスのフローチャートについては、次のセクションで説明する。
【0037】
図6は、安定性チェック部103による安定性チェックプロセスのフローチャートを示す。図6のフローチャートに示される処理は、例えば、図2に示される送電網監視システム10の安定性チェック部103として機能するCPU100によって、所定の周期で実行される。
【0038】
ステップS110において、安定性チェック部103は、記憶部110からの周波数領域でのPCSインピーダンスデータZPCS1(f), ZPCS2(f), …ZPCSN(f)にアクセスする。ここでNは、オフライン計算部101によって事前にPCSインピーダンスデータが計算される動作点の数である。
【0039】
ステップS120において、安定性チェック部103は、リアルタイム計算部102からの周波数領域での送電網インピーダンスZg(f)にアクセスする。送電網インピーダンスZg(f)は、測定システム50によって測定されたPOC40における電力潮流に基づいて、リアルタイム計算部102によってリアルタイムで計算される。
【0040】
ステップS130において、安定性チェック部103は、ステップS110で取得されたPCSインピーダンスデータZPCS1(f), ZPCS2(f), …ZPCSN(f)と、ステップS120で取得された送電網インピーダンスZg(f)とに基づいて、安定性チェック及びLFO制御を行う。ステップS130の詳細な処理については、図7を参照して以下のセクションで説明する。
【0041】
ステップS140において、安定性チェック部103は、ステップS130で行われた安定性チェックの結果を表示部130に出力する。安定性チェック部103からの安定性チェックの結果に基づき、表示部130は、電力系統20及びPCSベースのエネルギー源30の現在の状態を表示する。ステップS140で表示される画面の例については後述する。
【0042】
ステップS140の処理が行われた後、安定性チェック部103は、図6に示される安定性チェックプロセスを終了する。
【0043】
図7は、図6のステップS130で行われる安定性チェック及びLFO制御のフローチャートを示す。
【0044】
ステップS131において、安定性チェック部103は、変数kをk=1として設定する。
【0045】
ステップS132において、安定性チェック部103は、図6のステップS110及びS120で取得された周波数領域でのPCSインピーダンスデータZPCSk(f)及び周波数領域での送電網インピーダンスZg(f)に基づき、kの現在値について伝達関数Zg(f)/ZPCSk(f)を計算する。なお、kの値は、ステップS132からステップS135までのループ処理の間に、初期値1から最終値Nまで1つずつカウントアップされる。数式1の伝達関数で説明した通り、伝達関数Zg(f)/ZPCSk(f)は、動作点k=1、2、3…Nについて順番に、ステップS132で計算される。動作点k=1、2、3…Nは、PCSベースのエネルギー源30の出力電力P1, P2, P3, …Pn、PCSベースのエネルギー源30の無効電力Q1, Q2, Q3, …Qn、及びPOC40での電圧振幅V1, V2, V3, …VNに、それぞれ対応する。
【0046】
ステップS133において、安定性チェック部103は、ステップS132で計算された伝達関数Zg(f)/ZPCSk(f)のボード線図を作成する。ここでk=1は、PCSベースのエネルギー源30の現在の動作点に対応する。ステップS133で作成されるボード線図の一例については後述する。
【0047】
ステップS134において、安定性チェック部103は、ステップS133で作成されたボード線図にゲイン交点周波数が存在するか否かを判断する。ゲイン交点周波数とは、伝達関数Zg(f)/ZPCSk(f)のゲインが0dBになる周波数を意味する。ボード線図にゲイン交点周波数が存在すると判断された場合、ステップS134からステップS135へと処理が進み、一方、存在しないと判断された場合には、処理はステップS136に進む。
【0048】
ステップS135において、安定性チェック部103は、ステップS134でボード線図において検出されたゲイン交点周波数での伝達関数Zg(f)/ZPCSk(f)の位相角が-180度未満であるか否かを判断する。位相角が-180度未満であると判断された場合、換言すると、kの現在値についてLFOが発生したと判断された場合、kの値はカウントアップされて、次の動作点k=k+1での伝達関数をチェックするために、処理はステップS132に戻る。一方、位相角が-180度未満でないと判断された場合、処理はステップS136に進む。
【0049】
ステップS132からステップS135までのループ処理は、ステップS134においてゲイン交点周波数が存在しないと判断されるか、又はステップS135においてゲイン交点周波数が-180度以上であると判断されるまで、繰り返し実行される。その結果として、LFOが発生しない動作点kを特定することができる。
【0050】
ステップS136において、安定性チェック部103は、ゲイン交点周波数が存在していないと判断されるか、又はゲイン交点周波数が-180度以上であると判断された動作点kに対応するコマンドを出力する。安定性チェック部103から出力されたコマンドは、インターフェース部103を介して給電指令所60に転送される。このコマンドに応答して、給電指令所60は、PCSベースのエネルギー源30を制御して出力電力を安定化する。
【0051】
ステップS136の処理が行われた後、安定性チェック部103は、図7に示される安定性チェック及びLFO制御を終了し、図6に戻って次のステップS140に進む。
【0052】
ステップS130で安定性チェック部103によって上述の処理が行われることにより、安定性チェック及びLFO制御を達成できる。
【0053】
なお、上述の実施の形態では、ボード線図を用いた安定性チェックプロセスの方法を説明したが、送電網監視システム10は、LFOを監視するいくつかの動作点における周波数領域での送電網インピーダンスZg(f)及び周波数領域PCSインピーダンスZPCS(f)に基づき、数式1を用いてLFOを監視するその他の制御理論や方法を利用してもよい。
【0054】
図8は、LFO制御が適用されない場合の、POC40での時系列の電圧挙動の例である。図8では、グラフ1001は、測定システム50によって測定されたPOC40での電圧を示す。グラフ1001で示される通り、POC40での電圧は、t=0からt=0.2秒の間は安定しており、ある有効電力出力P1、無効電力出力Q1及び電圧振幅V1に対応する動作点k=1によって、PCSベースのエネルギー源30において安定した動作が行われる。この時間の間、障害になる前の周波数領域でのPCSインピーダンスZPCS(f)はZPCS1(f)によって与えられ、周波数領域での送電網インピーダンスZg(f)はZg1(f)によって与えられる。
【0055】
そして、t=0.2秒では、電力系統20においてライン開放障害が発生し、周波数領域での送電網インピーダンスZg(f)がZg1(f)からZg2(f)へと変化したと想定する。この障害の後、POC40での電圧振幅は、グラフ1001によって示される通り変動し、これはPOC40において電圧にLFOが発生したことを示す。
【0056】
図9は、図8の例に示されるPOC40での電圧による伝達関数Zg(f)/ZPCS(f)のボード線図の例を示す。図9では、グラフ1101及び1103はそれぞれ、障害の前の伝達関数Zg1(f)/ZPCS1(f)のゲイン及び位相角を示し、グラフ1102及び1104はそれぞれ、障害の後の伝達関数Zg2(f)/ZPCS2(f)のゲイン及び位相角を示す。
【0057】
図9に示される通り、グラフ1101ではゲインが0dBになるゲイン交点周波数が無く、グラフ1103では位相角が-180度未満になる部分は無い。従って、LFOは発生せず、動作点k=1での障害の前の伝達関数Zg1(f)/ZPCS1(f)は安定している。しかしながら、LFOの発生により、グラフ1102ではゲインが0dBになるゲイン交点周波数が存在し、グラフ1104ではゲイン交点周波数での位相角が-180度未満である。
【0058】
図10は、本発明に係るLFO制御が適用された場合の、POC40における時系列での電圧挙動の一例を示す。図10では、グラフ1201は、測定システム50によって測定されたPOC40での電圧を示す。グラフ1201によって示される通り、動作点をk=1から、障害後に安定した動作を行うことが出来る別のkの値へと変更することによって、t=0.2秒の後に、POC40での電圧を安定した状態に維持することが可能である。
【0059】
図11は、図10の例で示されるPOC40での電圧による伝達関数Zg(f)/ZPCS(f)のボード線図の例を示す。図11では、グラフ1302及び1303はそれぞれ、LFO制御が適用された場合の障害の後の伝達関数Zg2(f)/ZPCS2(f)のゲイン及び位相角を示す。なお、グラフ1102及び1104はそれぞれ、図9で示されるものと同じである。
【0060】
図11で示される通り、グラフ1102のゲイン交点周波数及びグラフ1302のゲイン交点周波数は互いに異なっていることは明確であり、また、グラフ1104の位相角が不安定な動作点を表す-180度未満であり、一方、グラフ1303の位相角は-180度よりも大きいことも明確である。よって、本発明に従って動作点を変更した後の伝達関数Zg2(f)/ZPCS2(f)は安定しているということが理解される。
【0061】
上述の通り、本発明を送電網監視システム10に適用することによって、LFOが現在の動作点k=1で検出された場合に、PCSベースのエネルギー源30を制御して、その動作点を現在の動作点から、LFOが検出されない別の安定した動作点へと変更することができる。変更後の動作点は、有効電力出力P2、無効電力出力Q2及び電圧振幅V2に対応する。従って、障害の後の伝達関数Zg2(f)/ZPCS2(f)が安定するように、周波数領域でのPCSインピーダンスZPCS2(f)を変更できる。
【0062】
図12は、ステップS140で表示部130に表示される画面の例を示す。この画面は、複数の表示枠131~136を含む。表示枠131は、電力系統20及びPCSベースのエネルギー源30の構成を示す。表示枠132は、表示枠131で使用されるシンボルの注記を示す。表示枠133及び134は、日時を示す。表示枠135は、PCS電圧源31としてPCSベースのエネルギー源30にそれぞれ含まれる再生可能エネルギー源についての出力電力及び安定性チェック結果を示す。表示枠136は、POC40での電圧の波形を示す。
【0063】
上述の本発明の第1の実施形態によれば、以下の作用効果が得られる。
【0064】
(1)送電網監視システム10は、記憶部110と、リアルタイム計算部102と、安定性チェック部103とを備える。記憶部110は、複数の動作点k=1、2、3…NにおけるPCSベースのエネルギー源30のインピーダンスであるPCSインピーダンスZPCS1(f), ZPCS2(f), …ZPCSN(f)を示すPCSインピーダンスデータ1102を記憶する。PCSベースのエネルギー源30は、電力系統20に接続され、PCS電圧源31と、PCS電圧源31によって生成された電力を調整して電力系統20に供給するPCS32とを含む。リアルタイム計算部21は、PCSベースのエネルギー源30と電力系統20とが互いに接続される接続点(POC)40で測定された電力潮流に基づいて、電力系統20のインピーダンスである送電網インピーダンスZg(f)を計算する。安定性チェック部103は、PCSインピーダンスデータ1102及び送電網インピーダンスZg(f)に基づいて、POC40でのLFOを検出するための安定性チェックを行う。この構成により、電力系統20に接続されたPCSベースのエネルギー源30についてのLFOをリアルタイムで監視できる。
【0065】
(2)記憶部110は、周波数領域でのPCSインピーダンスZPCS1(f), ZPCS2(f), …ZPCSN(f)を示すPCSインピーダンスデータ1102を記憶し、リアルタイム計算部102は、周波数領域での送電網インピーダンスZg(f)を計算する。こうすることによって、周波数領域におけるLFOを正確に監視することができる。
【0066】
(3)安定性チェック部103は、周波数領域でのPCSインピーダンスデータ1102及び送電網インピーダンスZg(f)を利用して、ボード線図を作成する(ステップS132、S133)。ボード線図は、図9及び図11に示される通り、複数の動作点k=1、2、3…Nのそれぞれについて、POC40におけるPCSベースのエネルギー源30と電力系統20との間の伝達関数Zg(f)/ZPCSk(f)のゲイン及び位相角を含む。安定性チェック部103は、ボード線図に基づいてLFOが検出されたか否かを判断する(ステップS134、S135)。こうすることによって、POC40でLFOが発生せずに安定した動作を行うことが出来る、PCSベースのエネルギー源30の動作点を検出することができる。
【0067】
(4)送電網監視システム10は、PCSベースのエネルギー源30のインピーダンスを計算するオフライン計算部101をさらに備える。記憶部110は、オフライン計算部101によって計算されたPCSベースのエネルギー源30のインピーダンスに基づいて生成されたPCSインピーダンスデータZPCS1(f), ZPCS2(f), …ZPCSN(f)を記憶する。この構成により、PCSインピーダンスデータZPCS1(f), ZPCS2(f), …ZPCSN(f)をオフライン計算部101で事前に計算して、これらを記憶部110に記憶できる。
【0068】
(5)LFOが現在の動作点k=1について検出された場合、安定性チェック部103は、PCSベースのエネルギー源30の動作状態を現在の動作点から複数の動作点k=1、2、3…Nのうちの別の動作点へと変更させるためのコマンドを出力する(ステップS136)。このようにすることによって、障害の後の伝達関数Zg2(f)/ZPCS2(f)が安定するようにPCSインピーダンスを変更できる。
【0069】
[第2の実施形態]
図13は、本発明の第2の実施形態に係る送電網監視システム10Aの概略ブロック図を示す。図1に示される第1の実施形態に係る送電網監視システム10と比べると、送電網監視システム10Aは、インターフェース部120を有しておらず、給電指令所60が接続されていないという点で異なる。
【0070】
送電網監視システム10Aでは、安定性チェック部103は、第1の実施形態で説明したように安定性チェックを行うことによって、POC40でのLFOの発生を監視し、LFOが検出された場合は、表示部130を制御して安定性チェックの結果を表示させる。
【0071】
上述の本発明の第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、電力系統20に接続されたPCSベースのエネルギー源30についてLFOをリアルタイムで監視することが可能である。
【0072】
[第3の実施形態]
図14は、本発明の第3の実施形態に係る送電網監視システム10Bの概略ブロック図を示す。図1に示される第1の実施形態に係る送電網監視システム10と比べると、送電網監視システム10Bは、オフライン計算部101を有しないという点で異なる。
【0073】
送電網監視システム10Bでは、PCSインピーダンスデータ1102は、事前にコンピュータ(図示せず)によって計算されて記憶部110に記憶される。
【0074】
上述の本発明の第3の実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、電力系統20に接続されたPCSベースのエネルギー源30についてLFOをリアルタイムで監視することが可能である。さらに、オフライン計算部101を省略することによって、送電網監視システム10Bの構成を簡略化できる。
【0075】
[第4の実施形態]
図15は、本発明の第4の実施形態に係る送電網監視システム10の概略ブロック図を示す。本実施形態では、電力系統20は、2つのライン(以下、「ライン1」及び「ライン2」という)がPOC40に並列接続された並列構成を有する。ライン1は、発電機211と、直列接続されたインダクタL1及び抵抗器R1から成る送電網インピーダンス221と、スイッチS1とを含む。ライン2は、発電機212と、インダクタL2、抵抗器R2及びコンデンサC2から成る送電網インピーダンス222と、スイッチS2とを含む。換言すると、発電機212はコンデンサC2を介してPOC40に接続され、一方、発電機211はコンデンサを介さずにPOC40に接続される。
【0076】
なお、電力系統20は、3つまたはそれ以上の発電機が、POC40においてそれぞれの送電網インピーダンスを介してPCSベースのエネルギー源30に並列接続されている、別の並列構成を有してよい。送電網インピーダンスは、任意数のインダクタ、抵抗器及び/又はコンデンサから成るインピーダンス素子を含んでよい。また、コンデンサC2は、それぞれが直列及び/又は並列接続されている多数のコンデンサ素子から構成されてよい。
【0077】
さらに本実施形態では、PCSベースのエネルギー源30は、PCS電圧源31を構成するブレード311及び永久磁石同期発電機(PMSG)312と、PCS32を構成する変圧器321、フィルタ322、インバータ323、整流器324及びコントローラ325とを含む風力タービンとして構成される。なお、送電網監視システム10の構成は、図1に示される第1の実施形態の構成と同一である。また、1つまたはそれ以上の風力タービンはそれぞれPCSベースのエネルギー源30として動作し、風力タービンを含むウィンドファームとしてPOC40に接続されてよい。
【0078】
第4の実施形態では、測定システム50は、POC40における電力潮流データに加えて、電力系統20のネットワークトポロジーの情報を送電網監視システム10に提供できる。安定性チェック部103は、第1の実施形態で説明された安定性チェックを行い、LFOが検出された場合は、給電指令所60を介してコントローラ325にコマンドを出力する。このコマンドに応じて、コントローラ325は、インバータ323を制御し、PCSベースのエネルギー源30からの出力電力を調整する。
【0079】
障害が発生して電力系統20のライン1でスイッチS1が開くと、風力タービン(PCSベースのエネルギー源30)は、スイッチS2を介してコンデンサC2と放射状に接続されるようになり、コンデンサC2と相互作用してライン2で直列共振を発生し、これによって送電網インピーダンスZg(f)が変化する。その結果、SSCIが発生し、POC40において電流及び電圧のLFOが誘発される。このような場合でも、安定性チェック部103は、コマンドを出力することによってPCSベースのエネルギー源30の出力電力を制御することができ、よって、伝達関数Zg(f)/ZPCS(f)は、スイッチS1が開く前と同じ状態に維持される。その結果、風力タービンからの出力電力の安定化を促すことが可能となる。
【0080】
[第5の実施形態]
図16は、本発明の第5の実施形態に係る送電網監視システム10の概略ブロック図を示す。本実施形態では、電力系統20は、発電機211及び発電機212が、POC40にそれぞれ接続された平行な2つのラインであるライン1及びライン2に、それぞれスイッチS3及びS4を介して選択可能に接続される、メッシュタイプ構成を有する。前のセクションで説明した第4の実施形態と同様に、ライン1は、直列接続されたインダクタL1及び抵抗器R1から成る送電網インピーダンス221と、スイッチS1とを含む。ライン2は、インダクタL2、抵抗器R2及びコンデンサC2から成る送電網インピーダンス222と、スイッチS2とを含む。換言すると、発電機211及び212はそれぞれ、コンデンサC2を介して又はコンデンサC2を介さずに、POC40に接続される。
【0081】
なお、電力系統20は、3つまたはそれ以上の発電機が、POC40において送電網インピーダンスを介してPCSベースのエネルギー源30にメッシュ接続される、別のメッシュタイプ構成を有してよい。送電網インピーダンスは、任意数のインダクタ、抵抗器及び/又はコンデンサから成るインピーダンス素子を含んでよい。また、コンデンサC2は、それぞれが直列及び/又は並列接続された複数のコンデンサ素子から構成されてよい。
【0082】
なお、第4の実施形態と同様に、PCSベースのエネルギー源30は風力タービンとして構成され、1つ以上の風力タービンはそれぞれ、PCSベースのエネルギー源30として動作し、風力タービンを含むウィンドファームとしてPOC40に接続され得る。送電網監視システム10の構成は、図1に示す第1の実施形態の構成と同一である。
【0083】
上述の本発明の第4及び第5の実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、電力系統20に接続されたPCSベースのエネルギー源30についてのLFOをリアルタイムで監視することが可能である。
【0084】
上述の実施形態及び変形例は、単なる例であり、本発明は、これらの詳細によって限定されるものと見なされるべきではない。本発明の本質的特徴が保持されるものであれば、その他の実施も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0085】
10、10A、10B:送電網監視システム
20:電力系統
21:発電機
22:送電網インピーダンス
30:PCSベースのエネルギー源
31:PCS電圧源
32:PCS(電力調節システム)
40:POC(接続点)
50:測定システム
60:給電指令所
100:CPU
101:オフライン計算部
102:リアルタイム計算部
103:安定性チェック部
110:記憶部
120:インターフェース部
130:表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【外国語明細書】