(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038124
(43)【公開日】2023-03-16
(54)【発明の名称】過カルボン酸濃度測定用指示薬、それを用いた過カルボン酸濃度測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/78 20060101AFI20230309BHJP
G01N 31/00 20060101ALI20230309BHJP
G01N 31/22 20060101ALI20230309BHJP
【FI】
G01N21/78 Z
G01N31/00 V
G01N31/22 122
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021145061
(22)【出願日】2021-09-06
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】000106106
【氏名又は名称】サラヤ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂井 聡美
(72)【発明者】
【氏名】松本 直士
(72)【発明者】
【氏名】川向 恵美子
(72)【発明者】
【氏名】安原 亨
【テーマコード(参考)】
2G042
2G054
【Fターム(参考)】
2G042AA01
2G042BA03
2G042BA04
2G042BA07
2G042BD07
2G042BD10
2G042CB03
2G042DA03
2G042DA08
2G042FA11
2G042FA13
2G042FB02
2G054AA02
2G054AB10
2G054BA04
2G054BB10
2G054CA07
2G054CD04
2G054CE02
2G054CE10
2G054EA04
2G054EB02
2G054EB04
2G054EB05
2G054FA08
2G054FA09
2G054FA12
2G054FA32
2G054FA33
2G054FB02
2G054GA03
2G054GB01
2G054JA01
2G054JA04
2G054JA05
2G054JA06
2G054JA07
2G054JA08
2G054JA09
2G054JA11
(57)【要約】
【課題】過カルボン酸含有水溶液の過カルボン酸濃度を、光学的手法を用いて高精度に測定するための試薬、それを用いた測定方法、及び測定装置に関する。
【解決手段】 過カルボン酸含有水溶液(被験試料)中の過カルボン酸濃度を測定するための指示薬溶液として、内部標準物質としてブリリアントブルーFCF、及び発色物質としてヨウ化物塩を含有する、前記指示薬溶液を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程を有する、過カルボン酸含有水溶液(被験試料)中の過カルボン酸濃度を測定する方法:
(1)ヨウ化物塩及びブリリアントブルーFCFを含む水溶液(指示薬溶液)と被験試料とを混合して、ブリリアントブルーFCF存在下で過カルボン酸とヨウ化物塩を反応させる工程、
(2)上記反応後の溶液(反応液)について、波長600~700nm領域の波長(第1波長)での透過光又は反射光の強度(第1光度)と、波長440~600nm領域の波長(第2波長)での透過光又は反射光の強度(第2光度)を測定する工程、
(3)各種既知濃度の過カルボン酸含有水溶液(標準試料)と指示薬溶液との反応液について測定された第2光度と、標準試料中の既知の過カルボン酸濃度を標準試料と指示薬溶液の総量あたりに換算した過カルボン酸濃度との相関関係を用いて、前記(2)工程で得られた第2光度から、被験試料と指示薬溶液の総量あたりの過カルボン酸濃度を算出し決定する工程、
(4)前記(1)工程で使用する指示薬溶液の第1光度を測定し、前記(2)工程で得られる反応液の第1光度との差異に基づいて、(3)工程で決定した被験試料と指示薬溶液の総量あたりの過カルボン酸濃度から、被験試料の過カルボン酸濃度を算出し決定する工程。
【請求項2】
前記(1)工程の前に、ヨウ化物塩及びブリリアントブルーFCFを含む水溶液(指示薬溶液)について、波長600~700nm領域の波長(第1波長)での透過光又は反射光の強度(第1光度)、及び/又は、波長440~600nm領域の波長(第2波長)での透過光又は反射光の強度(第2光度)を測定する工程を有する、請求項1に記載する測定方法。
【請求項3】
前記第2波長が470nmであり、及び/又は、前記第1波長が630nmである、請求項1又は2に記載する測定方法。
【請求項4】
前記過カルボン酸が過酢酸であり、及び/又は、前記ヨウ化物塩がヨウ化カリウムである、請求項1~3のいずれかに記載する測定方法。
【請求項5】
前記(1)工程で調製する指示薬と被験試料との混合液のpHが1~6である、請求項1~4のいずれかに記載する測定方法。
【請求項6】
前記(1)工程で調製する指示薬と被験試料との混合液中の過カルボン酸の濃度が0.01~200ppmである、請求項1~5のいずれかに記載する測定方法。
【請求項7】
過カルボン酸含有水溶液(被験試料)中の過カルボン酸濃度を測定するための指示薬溶液であって、内部標準物質としてブリリアントブルーFCF、及び発色物質としてヨウ化物塩を含有する、前記指示薬溶液。
【請求項8】
前記過カルボン酸が過酢酸であるか、及び/又は、前記ヨウ化物塩がヨウ化カリウムである、請求項7に記載する指示薬溶液。
【請求項9】
pHが1~6である、請求項7又は8に記載する指示薬溶液。
【請求項10】
さらに、pH調整剤、防腐剤、安定剤及び金属イオン封鎖剤よりなる群から選択される少なくとも一種を含有する、請求項7~9のいずれか1項に記載する指示薬溶液。
【請求項11】
少なくとも(A)測定部1と(B)判定部2を含む、過カルボン酸含有水溶液(被験試料)中の過カルボン酸濃度の測定装置であって、
(A)測定部1は、
(a1)測定試験液を収容するための試料収容部11、
(a2)波長600~700nm領域の波長(第1波長)と波長440~600nm領域の波長(第2波長)の二波長の光を、測定試験液を収容した試料収容部11に照射する光源12を有する発光部121と
(a3)照射光の前記試料収容部11からの透過光又は反射光の強度(光度)を検出する受光素子13を有する受光部131とを備え、
前記測定試験液は、請求項7~9のいずれかに記載する指示薬溶液、又は当該指示薬溶液と被験試料との混合液であり、
(B)判定部2は、(b1)記憶部21と(b2)演算部22を備え、
(b1)記憶部21は、既知濃度の過カルボン酸含有水溶液(標準試料)と請求項7~9のいずれかに記載する指示薬溶液との反応液について第2波長で測定された光強度と、標準試料中の過カルボン酸の既知濃度を標準試料と指示薬溶液の総量あたりに換算した過カルボン酸濃度との相関関係を記憶するように構成されており、
(b2)演算部22は、
(i)測定部1において、試料収容部11に収容された被験試料と指示薬溶液との反応液について、第2波長で測定された光強度(I2
fin)から、前記相関関係に基づいて、被験試料と指示薬溶液の総量あたりに換算した過カルボン酸濃度を算出し、
(ii)指示薬溶液について第1波長で測定された光強度(I1
ini)と、当該指示薬溶液と被験試料との反応液について第1波長で測定された光強度(I1
fin)との差異に基づいて、前記で算出した過カルボン酸濃度から、被験試料中の過カルボン酸濃度を決定するように構成されている、
過カルボン酸濃度測定装置。
【請求項12】
さらに、(C)指示薬溶液を収容する第1チャンバー31、及び/又は、被験試料を収容する第2チャンバー32と、
第1チャンバー31に収容された指示薬溶液を試料収容部11に送達する指示薬供給ライン33、及び/又は、第2チャンバーに収容された被験試料を試料収容部11に送達する被験試料供給ライン34とを備える液体分配システム3を有する、
請求項11に記載する過カルボン酸濃度測定装置。
【請求項13】
前記液体分配システム3は、さらに、前記試料収容部11に送達された反応液を、試料収容部11から外に排出する液排出ライン35を備える、請求項12に記載する過カルボン酸濃度測定装置。
【請求項14】
第1チャンバー31及び第2チャンバー32と、試料収容部11との間に、指示薬溶液と被験試料とを混合するための混合チャンバー36を備え、
当該混合チャンバー36には、第1チャンバー31から指示薬溶液が指示薬供給ライン33を通じて、及び第2チャンバー32から被験試料が被験試料供給ライン34を通じて、別々に送達され、当該混合チャンバー36内で混合された液が、混合液供給ライン37を通じて、試料収容部11に送達されるように構成されている、請求項12または13に記載する過カルボン酸濃度測定装置。
【請求項15】
前記光源12が、波長600~700nm領域の波長(第1波長)を試料収容部11に照射する第1光源12-1と波長440~600nm領域の波長(第2波長)を試料収容部11に照射する第2光源12-2からなり、第1光源が赤色発光ダイオード(赤色LED)又は波長600~700nm領域を含有する発光ダイオードであり、第2光源が青色発光ダイオード(青色LED)又は波長440~600領域を含有する発光ダイオードであり、
前記受光素子がフォトダイオードである、請求項11~14のいずれかに記載する、過カルボン酸濃度測定装置。
【請求項16】
前記過カルボン酸が過酢酸であるか、及び/又は、前記ヨウ化物塩がヨウ化カリウムである、請求項11~15のいずれかに記載する、過カルボン酸濃度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過カルボン酸含有水溶液の過カルボン酸濃度を、光学的手法を用いて高精度に測定する方法に関する。またそれに使用する試薬、及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
殺菌剤の有効性は、作用濃度や作用温度、作用時間に依存する。殺菌剤の中には、平衡混合物で濃度が一定していないものや、有機物による分解等不安定なものがある。例えば、過酢酸等の過カルボン酸は、食品衛生分野や医療分野で使用され、履歴管理とともに濃度管理が強く求められている。しかし、過カルボン酸は、温度または紫外線の影響、ならびに水や有機物の混入により分解が促進されることもある。このため、目的とする殺菌能を担保するためには、濃度が精密に測定できなければならない。
【0003】
上記課題から、過カルボン酸、特に過酢酸濃度を精密に測定するための滴定装置が提供されている。しかし、高価であるうえ、実験試薬が必要であり、分析知識と熟練した分析作業能力を有しなければならない。他にも、過酢酸濃度を電気化学的に測定するインライン濃度計が提供されているが、これも高価であり、しかも、決まった過酢酸溶液しか測定できないという問題がある。また、容易に持ち運べないという問題もある。
【0004】
一方で、食品衛生分野や医療分野で濃度管理に関わるユーザの多くは、精密な分析作業に関わったことがない。また普段の業務に加えて、定期的に殺菌剤濃度の有効性を確認する必要が生じるため、過カルボン酸の濃度確認作業は簡便に行えることが望ましい。
【0005】
従来知られている過カルボン酸、特に過酢酸の濃度測定法に、直接測定法、及び間接測定がある。例えば、直接測定法としては、特許文献1(特許第4722513号)では、190nm以下の波長を含む紫外波長域(波長180-210nm)での吸光度(透過光の強度値)を用いて、検量線から、過酢酸を含む水溶液中の過酢酸濃度を算出する方法が提案されている。しかし、この方法は、特殊で高価な光源と精密な検出器が必要であり、医療従事者などの一般ユーザが簡便に使用することはできない。また、過酢酸、過酸化水素、及び酢酸のみを含む水溶液中の過酢酸濃度しか測定できず、これに有機物などが混入すると測定できないという問題がある。間接測定法としては、第1に、試験紙による呈色で評価する方法があるが、半定量的で、作業者の主観が入り、客観性・正確性に乏しいという点やデジタル記録で残せないという問題がある。第2に、ヨウ化物イオン発生による吸収変化を反応速度論的に解析して測定する方法があるが(特許文献2(特許5491389号)、前記特許文献1と同様に、紫外吸収を利用するため高価な光源が必要となるという点、反応速度は温度の影響を受けやすいという点、また複雑な演算が必要となり、しかも目的とする精度が得られないという問題がある。第3に、指示薬溶液に、測定対象の殺菌剤を入れた後の吸光度変化から過酢酸濃度を測定する方法がある(特許文献3(特許第4359336号)。しかし、この方法は、測定に際し、ユーザが安全ピペッターで溶液を正確に計り入れるという精密な定量作業を行う必要があり、特にピペッターの操作において、熟練していないユーザでは操作誤差が発生し、正確な濃度が測定できないというリスクがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-258491号公報
【特許文献2】国際公開WO2008/149247号
【特許文献3】国際公開WO2008/133321号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、過カルボン酸を含有する水溶液の過カルボン酸濃度を、誰でも簡便に精度よく測定することができる方法(過カルボン酸高精度定量法)を提供することを目的とする。
前記特許文献3に記載された過カルボン酸濃度測定方法は、出願人が開発した方法である。当該方法は、過酢酸等の過カルボン酸含む水溶液にヨウ化カリウムを加えてヨウ素を発生させ、ヨウ素の生成量を波長440~600nm、好ましくは470nmの吸光度で測定することで、間接的に水溶液中の過カルボン酸の濃度を測定するというものである。しかし、その測定精度は、添加するヨウ化カリウムの添加量(反応液中の濃度)に依存するため、前述するように、安全ピペッターによる添加作業には精密さが求められ、必ずしも誰でも簡便にできる方法ではない。本発明は、特許文献3に記載された過カルボン酸濃度測定方法(以下、これを「KI法」とも称する)を利用しながらも、操作誤差等の作業に依存して生じ得る誤差を解消することで、誰でも簡便に精度よく過カルボン酸濃度が測定できる方法、さらには手作業無しに精度よく過カルボン酸濃度が測定できる方法を提供することを課題とする。
【0008】
また、本発明は、前記本発明の過カルボン酸高精度定量法において、指示薬溶液をして使用される試薬を提供することを目的とする。さらに、本発明は、過カルボン酸含有水溶液の過カルボン酸濃度を、簡便に精度よく測定することができる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねていたところ、青色一号(Brilliant Blue FCF)と称される青色色素が、(1)水に溶解すること、(2)水溶液中で水やpHの影響をうけずに安定であること、(3)過酢酸を始めとする過カルボン酸、ヨウ化カリウムを始めとするヨウ化物塩、及び過カルボン酸とヨウ化カリウムとの反応生成物のいずれとも反応しないこと、及び(4)発色域が過カルボン酸とヨウ化カリウムとの反応生成物であるポリヨウ化物イオンの発色域と重複しないことを確認し、さらに当該青色色素の存在下で、各種濃度の過カルボン酸とヨウ化カリウムを反応させることで、少なくとも2000 mM以下の過カルボン酸濃度範囲で、反応生成物(ヨウ素)の吸光度との間に直線性の高い検量線が引けることを確認し、当該青色色素が、前記ヨウ化カリウムを用いたKI法において、内部標準物質として有用であることを見出した。
【0010】
そして、当該青色色素(内部標準物質)を添加したヨウ化カリウム水溶液(指示薬溶液)に、過カルボン酸含有水溶液を添加して、青色色素の存在下で過カルボン酸とヨウ化カリウムとを反応させ、次いで、その反応液の、反応生成物(ヨウ素)に由来する波長440~600nm、好ましくは470nmでの透過光(又は反射光)の強度(第2光強度)を測定し、前記検量線を用いて反応液中の過カルボン酸濃度を求めるとともに、青色色素に由来する波長600~700nm、好ましくは630nmでの透過光(又は反射光)の強度(第1光強度)を、反応前の指示薬溶液と反応後の前記反応液のそれぞれについて測定し、その変化から、添加した過カルボン酸含有水溶液の量(容量)または添加した過カルボン酸含有水溶液と指示薬溶液との混合比を割り出すことで、当該過カルボン酸含有水溶液中の過カルボン酸濃度が精度高く算出できることを確認した。
【0011】
本発明は、これらの知見に基づいて、さらに検討を重ねて完成したものであり、下記の実施態様を包含するものである。以下、過カルボン酸を「PCA」、ブリリアントブルーFCFを「BB色素」又は「内標物」と称する場合がある。
【0012】
(I)過カルボン酸(PCA)濃度測定方法
(I-1) 下記の工程を有する、PCA含有水溶液(被験試料)中のPCA濃度を測定する方法:
(1)ヨウ化物塩及びBB色素を含む水溶液(指示薬溶液)と被験試料とを混合して、BB色素存在下でPCAとヨウ化物塩を反応させる工程、
(2)上記反応後の溶液(反応液)について、波長600~700nm領域の波長(第1波長)での透過光又は反射光の強度(第1光度)と、波長440~600nm領域の波長(第2波長)での透過光又は反射光の強度(第2光度)を測定する工程、
(3)各種既知濃度のPCA含有水溶液(標準試料)と指示薬溶液との反応液について測定された第2光度と、標準試料中の既知のPCA濃度を標準試料と指示薬溶液の総量あたりに換算したPCA濃度との相関関係を用いて、前記(2)工程で得られた第2光度から、被験試料と指示薬溶液の総量あたりのPCA濃度を算出し決定する工程、
(4)前記(1)工程で使用する指示薬溶液の第1光度を測定し、前記(2)工程で得られる反応液の第1光度との差異に基づいて、(3)工程で決定した被験試料と指示薬溶液の総量あたりのPCA濃度から、被験試料のPCA濃度を算出し決定する工程。
(I-2)前記工程(1)の前に、ヨウ化物塩及びBB色素を含む水溶液(指示薬溶液)について、波長600~700nm領域の波長(第1波長)での透過光又は反射光の強度(第1光度)、及び/又は、波長440~600nm領域の波長(第2波長)での透過光又は反射光の強度(第2光度)を測定する工程を有する、(I-1)に記載する測定方法。
(I-3)前記(3)で使用する相関関係が、一方の軸を反応液の第2光強度、他方の軸を過カルボン酸濃度とした検量線で示されるものである、(I-1)に記載する測定方法。
(I-4)前記第2波長が470nmであり、及び/又は、前記第1波長が630nmである、(I-1)~(I-3)のいずれかに記載する測定方法。
(I-5)前記PCAが過酢酸であり、及び/又は、前記ヨウ化物がヨウ化カリウムである、(I-1)~(I-4)のいずれかに記載する測定方法。
(I-6)前記(1)工程で調製する測定溶液(被験試料と指示薬溶液との混合液)のpHが1~6、好ましくは2~6である、(I-1)~(I-5)のいずれかに記載する測定方法。
(I-7)前記(1)工程で調製する測定溶液中のPCAの濃度が0.01~200ppmである、(I-1)~(I-6)のいずれかに記載する測定方法。
(I-8)前記(1)工程で用いる指示薬中のヨウ化物塩の量が、(1)工程で調製する測定溶液中のPCAのモル数の2~60倍である、(I-1)~(I-7)のいずれかに記載する測定方法。
(I-9)測定対象のPCA含有水溶液が、PCAと過酸化水素を含む平衡混合物である、(I-1)~(I-8)のいずれかに記載する測定方法。
(I-10)測定対象のPCA含有水溶液が消毒剤または殺菌剤である、(I-1)~(I-9)のいずれかに記載する測定方法。
【0013】
(II)PCA濃度測定に使用する指示薬溶液
(II-1)PCA含有水溶液(被験試料)中のPCA濃度を測定するための指示薬溶液であって、内部標準物質としてブリリアントブルーFCF(BB色素)、及び発色物質としてヨウ化物塩を含有する、前記指示薬溶液。
(II-2)前記PCAが過酢酸であるか、及び/又は、前記ヨウ化物塩がヨウ化カリウムである、(II-1)に記載する指示薬溶液。
(II-3)pHが1~6の範囲、好ましくはpH2~6である、(II-1)又は(II-2)に記載する指示薬溶液。
(II-4)さらに、pH調整剤、防腐剤、安定化剤及び金属イオン封鎖剤よりなる群から選択される少なくとも一種を含有する、(II-1)~(II-3)のいずれか1項に記載する指示薬溶液。
(II-5)BB色素を0.0000001~0.1質量%、ヨウ化物塩を0.01~1質量%の割合で含む、(II-1)~(II-4)のいずれか1項に記載する指示薬溶液。
(II-6)前記PCA含有水溶液が、PCAと過酸化水素を含む平衡混合物である、(II-1)~(II-5)のいずれかに記載する指示薬溶液。
(II-7)前記PCA含有水溶液が消毒剤または殺菌剤である、(II-1)~(II-6)のいずれかに記載する指示薬溶液。
【0014】
(III)PCA含有水溶液中のPCA濃度測定装置
(III-1)少なくとも(A)測定部1と(B)判定部2を含む、PCA含有水溶液(被験試料)中のPCA濃度の測定装置であって、
(A)測定部1は、
(a1)測定試験液を収容するための試料収容部11、
(a2)波長600~700nm領域の波長(第1波長)と波長440~600nm領域の波長(第2波長)の二波長の光を、測定試験液を収容した試料収容部11に照射する光源12を有する発光部121と
(a3)照射光の前記試料収容部11からの透過光又は反射光の強度(光度)を検出する受光素子13を有する受光部131とを備え、
前記測定試験液は、請求項7~9のいずれかに記載する指示薬溶液、又は当該指示薬溶液と被験試料との混合液であり、
(B)判定部2は、(b1)記憶部21と(b2)演算部22を備え、
(b1)記憶部21は、既知濃度のPCA有水溶液(標準試料)と(II-1)~(II-7)のいずれかに記載する指示薬溶液との反応液について第2波長で測定された光強度と、標準試料中のPCAの既知濃度を標準試料と指示薬溶液の総量あたりに換算したPCA濃度との相関関係を記憶するように構成されており、
(b2)演算部22は、
(i)測定部1において、試料収容部11に収容された被験試料と指示薬溶液との反応液について、第2波長で測定された光強度(I2
fin)から、前記相関関係に基づいて、被験試料と指示薬溶液の総量あたりに換算したPCA濃度を算出し、
(ii)指示薬溶液について第1波長で測定された光強度(I1
ini)と、当該指示薬溶液と被験試料との反応液について第1波長で測定された光強度(I1
fin)との差異に基づいて、前記で算出したPCA濃度から、被験試料中のPCA濃度を決定するように構成されている、
過カルボン酸濃度測定装置。
(III-2)さらに、(C)指示薬溶液を収容する第1チャンバー31、及び/又は、被験試料を収容する第2チャンバー32と、
第1チャンバー31に収容された指示薬溶液を試料収容部11に送達する指示薬供給ライン33、及び/又は、第2チャンバーに収容された被験試料を試料収容部11に送達する被験試料供給ライン34とを備える液体分配システム3を有する、
(III-1)に記載するPCA濃度測定装置。
(III-3)前記液体分配システム3は、さらに、前記試料収容部11に送達された反応液を、試料収容部11から外に排出する液排出ライン35を備える、(III-2)に記載するPCA濃度測定装置。
(III-4)第1チャンバー31及び第2チャンバー32と、試料収容部11との間に、指示薬溶液と被験試料とを混合するための混合チャンバー36を備え、
当該混合チャンバー36には、第1チャンバー31から指示薬溶液が指示薬供給ライン33を通じて、及び第2チャンバー32から被験試料が被験試料供給ライン34を通じて、別々に送達され、当該混合チャンバー36内で混合された液が、混合液供給ライン37を通じて、試料収容部11に送達されるように構成されている、(III-2)または(III-3)に記載するPCA濃度測定装置。
(III-5)前記光源12が、波長600~700nm領域の波長(第1波長)を試料収容部11に照射する第1光源12-1と波長440~600nm領域の波長(第2波長)を試料収容部11に照射する第2光源12-2からなり、第1光源が赤色発光ダイオード(赤色LED)又は波長600~700nm領域を含有する発光ダイオードであり、第2光源が青色発光ダイオード(青色LED)又は波長440~600領域を含有する発光ダイオードであり、
前記受光素子がフォトダイオードである、(III-1)~(III-4)のいずれかに記載する、PCA濃度測定装置。
(III-6)前記PCAが過酢酸であるか、及び/又は、前記ヨウ化物塩がヨウ化カリウムである、(III-1)~(III-5)のいずれかに記載する、PCA濃度測定装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明のPCA濃度測定方法、及び本発明のPCA濃度測定装置は、ピペッティング操作等によって生じ得る誤差を補正することができ、PCA含有水溶液のPCA濃度を精度高く測定し決定することができる。このため、食品衛生分野や医療分野で、厳密な濃度管理が求められる、PCAを有効成分とする消毒剤や殺菌剤中のPCA濃度を、人の熟練度に依存することなく簡便に測定し管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明のPCA濃度測定方法の工程の概略を示したフロー図である。
【
図2】本発明のPCA濃度測定装置の一態様であるPCA濃度測定装置1(セル固定型)の要部を概略的に示す説明図である。
【
図3】既知濃度のPCA含有水溶液(標準試料)と指示薬を用いて、その反応液の第2光度と、標準試料及び指示薬の総量あたりのPCA濃度との相関関係を求め方の概略を示したフロー図である。
【
図4】本発明のPCA濃度測定装置の一態様であるPCA濃度測定装置2(フローセル型、セル内混合)の要部を概略的に示す説明図である。
【
図5】本発明のPCA濃度測定装置の一態様であるPCA濃度測定装置3(フローセル型、セル外混合)の要部を概略的に示す説明図である。
【
図6】試験例1で測定した、BB色素液(BB)、KI液(KI)、BB指示薬溶液(BB+KI)、およびBB色素液に過酢酸希釈液を加えたもの(BB+PA)の吸収スペクトルを示す。
【
図7】試験例1で測定した、BB指示薬溶液 (BB+KI:STB)(STB+PA0)に異なる量の過酢酸希釈液(0.1~0.5ml)を加えたとき(STB+PA1~STB+PA5)の吸収スペクトルを示す。
【
図8】試験例1で測定した、CV色素液(CV、CV0)、KI液(KI)、CV指示薬溶液 (CV+KI)、およびCV色素液に過酢酸希釈液を加えたもの(BB+PA)の吸収スペクトルを示す。
【
図9】試験例1で測定した、CV指示薬溶液 (CV+KI:STC)(STC+PA0)に異なる量の過酢酸希釈液(0.1~0.5ml)を加えたとき(STC+PA1~STC+PA5)の吸収スペクトルを示す。
【
図10】試験例2において、
図Bの吸収スペクトルをもとに、測定溶液中の過酢酸濃度を横軸に、波長635nm、及び波長400nmから550nmで測定した吸光度を縦軸に、各々プロットしたグラフを示す。
【
図11】
図Eの縦軸(吸光度)のスケールを拡大して、測定溶液中の過酢酸濃度を横軸に、波長470nmから700nmで測定した吸光度を縦軸に、各々プロットしたグラフを示す。
【
図12】試験例3で作成した過酢酸濃度の検量線を示す。横軸は過酢酸濃度(mM)、縦軸は、波長470nmにおける吸光度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(I)PCA濃度測定方法、及びそれに用いる指示薬溶液
本発明は、PCA含有水溶液中のPCA濃度を、PCAとヨウ化物塩との反応で生じる生成物(ヨウ素)に由来する呈色を光学的に測定することで定量する方法である。
本発明の測定方法は、PCAとの反応に使用する指示薬溶液として、発色物質としてヨウ化物塩、及び内部標準物質としてブリリアントブルーFCF(BB色素)を含有する水溶液を用いることを第一の特徴とする。
【0018】
(指示薬溶液)
前記指示薬溶液において発色物質として用いられるヨウ化物塩としては、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化リチウムが挙げられるが、好ましくはヨウ化カリウムである。
また前記指示薬溶液において内部標準物質として用いられるブリリアントブルーFCF(BB色素)は、下式で示される水溶性の青色色素(青色1号)である。
【0019】
【0020】
本発明の方法で使用される指示薬溶液は、上記ヨウ化物塩とBB色素が、水に溶解した状態にある。水としては、本発明の測定に影響しないものであればよく、制限されないが、精製水、純水、イオン交換水などを用いることができる。
【0021】
指示薬溶液は、本発明の測定前にヨウ化物塩とBB色素を水に溶解して調製されてもよいが、予め調製されて、任意の容器に収容されているものであってもよい。制限されないが、予め調製されて、正確に秤量された所定量が容器に充填されているものであってもよい。容器としては、制限されないものの、これをそのまま、例えば分光光度計などを用いた吸光度の測定を含む光学的測定に供するか、及び/又は、これに測定対象のPCA含有水溶液(被験試料)を添加した後に光学的測定に供することができるように、可視光領域の吸光度等の光学的測定用のセルとして使用できるものが好ましい。また流通可能なように脱着可能な蓋(キャップ)付きのセル容器であることが好ましい。光学的測定が可能であれば、セルの形状は制限されず、立方型やプレート型などの形状が含まれる。さらに、指示薬溶液を充填した容器は、保存中に光の影響を受けないように、遮光されているか、又は光遮蔽性のある袋に包装されていることが好ましい。
【0022】
指示薬溶液中のヨウ化物塩の濃度としては、PCA含有水溶液と混合した場合にPCA含有水溶液中のPCAと反応してヨウ素を発生することができる濃度であればよい。ちなみに、指示薬溶液とPCA含有水溶液との混合液(測定溶液)中のヨウ化物塩の量は、PCAのモル数の2~60倍、好ましくは3~30倍、より好ましくは3~15倍であることが望ましい。ヨウ化物塩の量がPCAのモル数の2倍より少ない場合はPCAと反応する必要量が不足し、一方、60倍よりも多い場合は、例えばPCA含有水溶液に過酸化水素が含まれている場合にそれがヨウ化物塩と反応してヨウ素を生成し、徐々にヨウ素量が多くなるため、正確なPCA濃度を得ることが難しくなる傾向がある。こうしたことを考慮して指示薬溶液中のヨウ化物塩の濃度を設定することができる。この限りにおいて、制限されないものの、指示薬溶液中のヨウ化物塩の濃度として、通常0.005~2質量%を挙げることができる。好ましくは0.01~1質量%、より好ましくは0.02~0.5質量%である。
【0023】
指示薬溶液中のBB色素の濃度としては、少なくとも測定時(過カルボン酸水溶液の混合前)において波長630nmにおける吸光度が0.001~3の範囲にあるような濃度であればよく、制限されないものの、0.0000001~0.1質量%を挙げることができる。好ましくは0.000001~0.01質量%、より好ましくは0.00001~0.005質量%である。
【0024】
指示薬溶液は、PCA含有水溶液と混合した場合に、その混合液(測定溶液)のpHが1~6の範囲、好ましくはpH2~6、より好ましくはpH3~5になるようにpH制御されていることが好ましい。測定溶液のpHが6以上では発生したヨウ素量が徐々に減少し、一方、pH1以下では、例えばPCA含有水溶液に過酸化水素が含まれている場合にそれがヨウ化物塩と反応してヨウ素を生成し、徐々にヨウ素量が多くなるため、正確なPCA濃度を得ることが難しくなる傾向がある。
このため、指示薬溶液は、pH調整剤を含むことで、少なくともPCA水溶液と混合する際のpHが1~6の範囲、好ましくはpH2~6、より好ましくはpH3~5に調整されていることが望ましい。このためのpH調整剤としては、本発明の目的(PCA濃度の高精度定量)を損なわないことを限度として、制限されないものの、クエン酸、コハク酸、グルコン酸、酒石酸、乳酸、リンゴ酸、リン酸等の有機酸または無機酸及びそれらの塩を例示することができる。好ましくは、クエン酸である。
【0025】
指示薬溶液は、ヨウ化物塩とBB色素、及び必要に応じて、前記pH調整剤に加えて、本発明の目的(PCA濃度の高精度定量)を損なわないことを限度として、保存料や安定剤を含んでいてもよい。かかる保存料としては、制限されないものの、安息香酸塩、フェノキシエタノール、パラベン類などの酸型保存料を例示することができる。また安定剤としても、制限されないものの、エタノール、グリセリン、プロピレングリコールなどの水溶性溶剤や、ポリアクリル酸やアクリル酸マレイン酸コポリマーなどの水溶性高分子を例示することができる。
【0026】
本発明の方法で定量することができるPCAは、前記指示薬溶液中に含まれるヨウ化物塩、特にヨウ化カリウムと反応して速やかにヨウ素を発生するものであればよい。その限りで特に制限されるものではないが、好適には過酢酸を例示することができる。過酢酸は、その殺菌作用を担保するために濃度管理(精密定量)が強く求められている殺菌料である。
【0027】
本発明の測定方法は、内部標準物質として使用するBB色素(以下、「内標物」と略称する場合がある)に由来する吸収波長(これを以下「第1波長」とも称する)と、PCAとヨウ化カリウムとの反応により生成するヨウ素(反応生成物)に由来する吸収波長(これを以下「第2波長」とも称する)との二波長を用いて、それぞれの波長での透過光又は反射光の強度(両者を区別することなく「光度」と総称する)を測定することを第2の特徴とする(二波長吸収測定法)。
【0028】
前記第1波長としては、BB色素(内標物)に由来する吸収が測定できる波長であって、PCA、ヨウ化物塩、及びこれらの反応生成物の吸収と重複しない波長である必要がある。こうした波長として600~700nmの可視領域の波長を挙げることができる。好ましくは600~650nm領域の波長、より好ましくは630nmの波長である。
また前記第2波長としては、ヨウ素に由来する吸収が測定できる波長であって、PCA、ヨウ化物塩、及び前記内標物の吸収と重複しない波長である必要がある。こうした波長として440~600nmの可視領域の波長を挙げることができる。440nmより短波長では、350nm付近に吸収極大を有するポリヨウ化物イオンのピークと重なり、また600nmより長波長では吸収が弱いため正確な過カルボン酸濃度を得ることが難しくなるためである。好ましくは440~500nm領域の波長、より好ましくは470nmの波長である。
【0029】
PCA含有水溶液と前述する指示薬溶液とを混合し(混合液の調製)、PCAとヨウ化物塩との反応させた後に第2波長を用いて当該反応液の光強度を測定することで、反応生成物(ヨウ素)の量を求めることができる。なお、予め、PCA含有水溶液及び/又は指示薬溶液についても、第2波長を用いてそれらの光強度として測定し(ブランク測定)、それをゼロ点補正することで、反応生成物のみに由来する光度を測定することができる。本発明では、第2波長を用いて測定される光強度を、便宜上「第2光度」または「I2」とも称する。特に、前記反応液について測定される第2光度を「I2
fin」、また指示薬溶液について測定される第2光度を「I2
ini」と称する場合がある。
【0030】
PCA含有水溶液と指示薬溶液との反応液について得られる前記第2光度(I
2
fin
)と、PCA含有水溶液のPCA濃度との間には、良好な相関関係がある。また、PCA含有水溶液のPCA濃度を、PCA含有水溶液と指示薬溶液の総量あたりに換算したPCA濃度についても、その反応液の第2光度と良好な相関関係がある(試験例3、
図12参照)。
このため、予め、種々の既知量のPCAを含むPCA含有水溶液(標準試料)を用いて、指示薬溶液と反応させて得られる反応液の第2光度(I
2
fin)と、前記既知量から換算した標準試料と指示薬溶液の総量あたりのPCA濃度との相関関係を求め、検量線式等として記憶しておくと、これに基づいて、未知濃度のPCA含有水溶液(被験試料)と指示薬溶液との反応液について測定された第2光度(I
2
fin)から、被験試料と指示薬溶液の総量あたりの過カルボン酸濃度を算出することができる。
【0031】
また、第1波長を用いて、未知濃度のPCA含有水溶液(被験試料)との反応に使用する指示薬溶液の光強度を測定することで、当該指示薬溶液中の内標物の濃度を求めることができる。同様に、第1波長を用いて、被験試料と指示薬溶液との反応液の光強度を測定することで、反応液中の内標物の濃度を求めることができる。以下、第1波長を用いて測定される光強度を、便宜上「第1光度」または「I1」とも称する。特に、指示薬溶液について測定される第1光度を「I1
ini」と称し、前記反応液について測定される第1光度を「I1
fin」と称する場合がある。
【0032】
指示薬溶液の内標物濃度を反映する第1光度(I1
ini)と反応液の内標物濃度を反映する第1光度(I1
fin)との差異、例えば差(I1
ini-I1
fin)から、反応液と指示薬溶液との容量差、つまり指示薬溶液と混合したPCA含有水溶液の添加量(容量)を算出することができる。また指示薬溶液の第1光度(I1
ini)と反応液の第1光度(I1
fin)との比から、指示薬溶液とそれに添加混合するPCA含有水溶液との割合(混合比)を算出することができる。
例えば、測定に際して、指示薬溶液充填済みの容器型セルを用いる場合など、あらかじめ指示薬溶液の量が定まっていれば、前記の差異から、それに対するPCA含有水溶液(被験試料)の添加量やそれらの総量を正確に算出することができる。このため、先に、前記相関関係に基づいて、反応液の第2光度(I2
fin)から算出しておいた被験試料と指示薬溶液の総量あたりのPCA濃度から、被験試料中のPCA濃度を算出することができる。
【0033】
このように、本発明の測定方法は、PCAとヨウ化物塩との反応生成物(ヨウ素)に由来する第2波長を用いて、未知濃度のPCA含有水溶液(被験試料)と指示薬溶液との反応液の第2光度(I2
fin)を測定し、これを事前に作成した相関関係に基づいて、被験試料と指示薬溶液の総量あたりのPCA濃度を算出し、
また、内標物に由来する第1波長を用いて、指示薬溶液の第1光度(I1
ini)と反応液の第1光度(I1
fin)を測定して、両者の差異を算出し、
次いで、当該差異に基づいて、前記被験試料と指示薬溶液の総量あたりのPCA濃度から、被験試料そのもののPCA濃度を算出することを特徴とする。
【0034】
かかる方法において、指示薬溶液の量が正確に秤量されたものであれば、仮にそれに添加する被験試料の量にバラツキがある場合でも、それを補正することができ、被験試料中のPCA濃度を正確に求めることができる。また、指示薬溶液中の内標物の濃度が定まっていれば、仮に被験試料と指示薬溶液との混合比にバラツキが生じる場合であっても、前記第1光度(I1
ini)と(I1
fin)との差異からその混合比を算出することができ、それを用いて、被験試料中のPCA濃度を正確に求めることができる。制限されないものの、前者の方法は、例えば、光強度の測定に固定セル、例えば指示薬溶液充填済みの容器型セルを用いる場合に利用可能であり、また後者の方法は、例えば、光強度の測定にフローセル型セルを用いる場合に利用可能である。フローセル型セルの場合、光路長が一定であるため、あらかじめ濃度が定まっている指示薬溶液が流れている時と、フローセル型セル内を、指示薬溶液と被験試料との反応液が流れている時の第1光度(I1
ini)と(I1
fin)の差異で、指示薬溶液と被験試料との混合比が分かり、そこから換算することができる。
【0035】
本発明の測定方法において、測定溶液(指示薬溶液+PCA含有水溶液)中の好ましいPCA濃度は0.01~200ppmである。より好ましくは0.1~100ppm、さらに好ましくは1~50ppmである。上記濃度に収まるように、指示薬溶液に添加するPCA含有水溶液の量を適宜調整することが好ましい。
【0036】
指示薬溶液及び反応液の各波長での光強度は、少なくとも可視光の吸収領域(360~830nm)での透過光または反射光の強度が測定できる分光光度計を用いて測定することができる、また当該吸光度が測定できる測定部を有する器具を用いて測定することもできる。好ましくは、前述する第1波長と第2波長の二波長での光強度が同時または異時に測定できるように設定された、光源とそれから照射された光の透過光または反射光を受光するための受光素子を備えた分光光度計または測定機器である。光源の数は、上記が実現できればよく、1つでも2以上であってもよい。例えば第1波長の光を発光する第1の光源と、第2波長の光を発光する第2の光源からなる2つの光源であることができる。また少なくとも440~700nm領域を含む広範囲の波長の光を発光する1つの光源を用いて、透過/反射前後にフィルタ等を用いて、第1波長と第2波長とに分光することも可能である。
【0037】
また、光源を発光ダイオード(LED)とすることもできる。光源を2つ用いる場合、一つめの光源(LED)(第1光源)としては、第1波長である600~650nm領域の波長で発光するLEDを用いることができる。制限されないが、例えばInGaAlPやGaPを材料とする赤色LEDを挙げることができる。また、もう一つの光源(LED)(第2光源)としては、第2波長である430~600nm領域の波長で発光するLEDを用いることができる。制限されないが、例えばInGaNを材料とする青色LEDを挙げることができる。また、光源を1つ用いる場合は、白色LEDを用いて、透過/反射前後にフィルタ等を用いて、第1波長と第2波長とに分光して用いる。光源として、LEDを用いる場合は、LEDから発光され、被験試料を透過又は反射した光を、受光素子としてフォトダイオードで検出する態様にすることで、小型で安価なPCA濃度測定装置(機器)とすることもできる。
【0038】
本発明の測定方法は、指示薬溶液について第1波長で光強度を測定する第1の測定と、指示薬溶液とPCA含有水溶液(被験試料)とを混合した後に、第1波長及び第2波長で各々の光強度(第1光度、第2光度)を測定するように、少なくとも2回の光強度測定工程を有することを、第3の特徴とする。
第1の測定にあたり、指示薬溶液は、光強度測定に供する容器型セルにあらかじめ収容された状態で提供されてもよいし、空の容器型セル(例えば、光路長の決まった立方型セル、底面積の決まったプレート型セル等が含まれる)に装置で自動的に充填して提供されてもよい。
第2の測定に先立ち、指示薬溶液をいれた容器型セルに、PCA含有水溶液(被験試料)を、手動または自動的に添加し、その中で混合される。混合は、回転子とスターラーを用いる等の手技で行っても、また機械装置で自動的に行ってもよい。
なお、光強度測定に供するセルは、容器型セルに限定されず、フローセルであっても、また円筒型セルであってもよい。使用するセルは、耐薬品性があり、且つ第1波長及び第2波長での光の透過又は反射に影響しない材料で作製されていることが好ましい。例えば、ガラス製、アクリル樹脂製、ポリカーボネイト樹脂製、塩化ビニル製、またはPET樹脂などを例示することができる。
【0039】
前述する第1測定と第2測定は、用いるセルの種類や形状、及び測定する光の種類(透過光と反射光)に応じて、例えば下記のようにして実施することができる。
[容器型セル:立方型セル]
(1)横透過光の使用:指示薬溶液を入れた立方型の容器型セルの横から、第1波長で光を照射して横に透過する光の強度を測定し(第1測定)、次いで、そこにPCA含有水溶液を入れて混合した後に、同様に、第1波長及び第2波長で光を照射して各透過光の光強度を測定する(第2測定)。
(2)横反射光の使用:指示薬溶液を入れた立方型の容器型セルの横から、第1波長で光を照射して、横にセル壁面を反射する光の強度を測定し(第1測定)、次いで、そこにPCA水溶液を入れて混合した後に、同様に、第1波長及び第2波長で光を照射して各反射光の光強度を測定する(第2測定)。
【0040】
[容器型セル:プレート型セル]
(3)縦透過光の使用:指示薬溶液を入れたプレート型の容器型セルの底(又は上)から、第1波長で光を照射して縦に透過する光の強度を測定し(第1測定)、次いで、そこにPCA含有水溶液を入れて混合した後に、同様に、第1波長及び第2波長で光を照射して各透過光の光強度を測定する(第2測定)。
(4)縦反射光の使用:指示薬溶液を入れたプレート型の容器型セルの底(又は上)から、第1波長で光を照射して、縦にセル壁面を反射する光の強度を測定し(第1測定)、次いで、そこにPCA含有水溶液を入れて混合した後に、同様に、第1波長及び第2波長で光を照射して各反射光の光強度を測定する(第2測定)。
【0041】
[フローセル]
(5)透過光の利用:フローセル内を流れる指示薬溶液に、横から第1波長で光を照射して横に透過する光の強度を測定し(第1測定)、次いで、フローセル内を流れる指示薬溶液とPCA含有水溶液の混合液に、同様に、第1波長及び第2波長で光を照射して各透過光の光強度を測定する(第2測定)。
(6)反射光の利用:フローセル内を流れる指示薬溶液に、横から第1波長で光を照射して壁面を反射する光の強度を測定し(第1測定)、次いで、フローセル内を流れる指示薬溶液とPCA含有水溶液の混合液に、同様に、第1波長及び第2波長で光を照射して各反射光の光強度を測定する(第2測定)。
【0042】
[円筒型セル]
(7)透過光の利用:円筒型セル内を流れる指示薬溶液に、横から第1波長で光を照射して横に透過する光の強度を測定し(第1測定)、次いで、フローセル内を流れる指示薬溶液とPCA含有水溶液の混合液に、同様に、第1波長及び第2波長で光を照射して各透過光の光強度を測定する(第2測定)。
【0043】
以上、説明する本発明の測定方法は、一例として下記の工程で実施することができる。その工程の概略フロー図を、
図1に示す。
(1)指示薬溶液と被験試料とを混合して、BB色素存在下でPCAとヨウ化物塩を反応させる工程(
図1の工程104)、
(2)上記反応後の溶液(反応液)について、第1波長での透過光又は反射光の強度(第1光度)と、第2波長での透過光又は反射光の強度(第2光度)を測定する工程(
図1の工程105)、
(3)各種既知濃度のPCA含有水溶液(標準試料)と指示薬溶液との反応液について測定された第2光度と、標準試料中の既知の過カルボン酸濃度を標準試料と指示薬溶液の総量あたりに換算したPCA濃度との相関関係を用いて(
図1の工程106)、前記(2)工程で得られた第2光度から、被験試料と指示薬溶液の総量あたりのPCA濃度を算出し決定する工程(
図1の工程107)、
(4)前記(1)工程で使用する指示薬溶液の第1光度を測定し、前記(2)工程で得られる反応液の第1光度との差異に基づいて、(3)工程で決定した被験試料と指示薬溶液の総量あたりのPCA濃度から、被験試料のPCA濃度を算出し決定する工程(
図1の工程108)。
また、本発明は、前記工程(1)の前に、指示薬溶液について、第1波長での透過光又は反射光の強度(第1光度)、及び/又は、第2波長での透過光又は反射光の強度(第2光度)を測定する工程を有することもできる(
図1の工程102)。
なおこれらの一連の工程は、ヒトが分光光度計を用いて手技で行ってもよいが、装置を用いて自動的に行うこともできる。
【0044】
(II)PCA濃度測定装置、及びその使用方法
本発明の測定方法を実施するために使用されるPCA濃度測定装置について説明する。但し、下記に説明する装置は例示に過ぎず、発明の測定方法は、下記に説明する装置に拘束されることなく実施することができる。
本発明のPCA濃度測定装置は、過カルボン酸(PCA)、好ましくは過酢酸を殺菌成分として含有する消毒剤または殺菌剤中に含まれるPCA濃度を、精度高く簡便に、自動的または半自動的に測定するために使用することができる。
【0045】
[PCA濃度測定装置1]
本発明装置の一態様として、測定試料を固定型セルに入れて測定するタイプの装置(PCA濃度測定装置1)を、
図2を用いて説明する。
図2は、当該装置1の要部を概略的に示す説明図である。装置1は、装置の試料収容部に指示薬溶液を収容したセル(回転子を内蔵)をセットし、その中に被験試料を添加して、セル近傍に設けられたスターラーを用いて撹拌して反応後、測定した後、セルごと試料収容部から取り出す形態を有する。なお、
図2では、被験試料を試料収容部11に収容したセルに自動的又は半自動的に添加する態様を記載しているが、これに限らない。本発明には、これに代えて、例えば、指示薬溶液、又は指示薬溶液と被験試料との反応液を収容したセルを、試料収容部11にセットして用いる態様であってもよいし、また試料収容部11に収容したセルに、手技により指示薬溶液、及び被験試料とを添加しセル内で混合する態様であってもよい。
【0046】
図2に示すように、装置1は、その主要な構成要素として、測定部1と判定部2を備える。
測定部1は、測定試験液を収容するための試料収容部11;波長600~700nm領域の波長(第1波長)の光を、測定試験液を収容した試料収容部11に照射する第1光源12-1と、波長440~600nm領域の波長(第2波長)の光を、上記試料収容部11に照射する第2光源12-1を備えた発光部121;及び、光が照射された前記試料収容部11からの透過光又は反射光の強度(光強度)を検出する受光素子13を備えた受光部131を備える。
【0047】
試料収容部11は、前述する容器型セルが収容でき、上記発光部121から照射された光をセル内の測定試料に透過できるようなる形状、素材及び構造を備える。測定試料は、予め容器型セルに添加しておくか、または空の容器型セルを試料収容部11に収容した後に、それに添加することもできる。好適な態様は、事前に指示薬溶液が充填された容器型セルを試料収容部11内に収容し、その後、その中に、後述する第2チャンバー32から被験試料が流入添加されて、セル内で両溶液が混合される態様である。
【0048】
発光部121と受光部131は、前記試料収容部11を挟んで、対向配置されている。発光部121は、試料収容部11内に収容されたセル中の測定試料に向けて第1波長及び第2波長を発光するものであり、それぞれ第1光源12-1及び第2光源12-2(発光素子)を備えている。これらの光源12は、試料収容部11の長手軸と並行に配列されている。またこれらの光源12は好ましくは各波長の光を発光する発光ダイオード(LED)で構成することができる。例えば、第1光源12-1は、第1波長の光を発光する赤色LEDであることができ、また第2光源12-2は、第2波長の光を発光する青色LEDであることができる。受光部131は、発光部121から発光され、上記試料収容部11、セル及び測定試料を透過した光を受光するもののであり、例えば光源がLEDである場合、フォトダイオードで構成された受光素子13を備えることができる。この受光素子13は、好ましくは、試料収容部11の長手軸と並行に、第1光源12-1及び第2光源に対して、各光源からの透過光が受光し得るように配置されている。
【0049】
受光部131には、測定試料を透過した光を受光したときに発生する電気信号(例えば電圧変化)を測定し、また、それを例えばオペアンプ(演算増幅器:Amp)を用いて増幅したり、及び/又は、例えばA/Dコンバータによりアナログ電気信号をデジタル電気信号に変換することができるように構成された、電気信号処理部4が接続されており、電気信号処理部3での測定処理データは、判定部2に信号入力される。
【0050】
判定部2は、プログラムに従って作動するコンピュータであり、少なくとも記憶部21と演算部22を備えている。記憶部21と、演算部22とは、相互に信号授受可能なように接続されている。記憶部21には、濃度の異なるPCA含有水溶液(標準試料)毎に、指示薬溶液と反応させた溶液(反応液)について測定した第2光度に相当する電気処理データと、標準試料中のPCA濃度を標準試料と指示薬溶液との総量あたりに換算したPCA濃度との相関データ(検量線データ等)が、読み出し可能に記憶されている。また記憶部21は、測定フローにおいて、指示薬溶液について測定された第1光度(I1
ini)及び第2光度(I2
ini)に相当する電気処理結果、または両者の差異(差または比)が、読み出し可能な状態で、一時的に記憶されるように構成されていてもよい。なお、記憶部21は、測定時に、演算部22と相互に信号授受可能なように接続されていればよく、外部メモリとして、存在するものであってもよい。
【0051】
演算部22に、電気信号処理部4を介して、測定部1で測定された指示薬溶液の第1光度(I1
ini)及び第2光度(I2
ini)に相当する各電気処理データ、並びに被験試料と指示薬溶液との反応液の第1光度(I1
fin)及び第2光度(I2
fin)に相当する各電気処理データが、信号入力されると、記憶部21に保存された前記相関データとともに、所定の演算を行うことで、被験試料中のPCA濃度を算出し決定することができる。
【0052】
こうして得られたPCA濃度(測定結果)は、装置1のディスプレイ等の表示部51、インターネット等の通信部52、プリンタ等の記録部(不図示)などの媒体を介して、出力されるようになっていてもよい(出力部5)。
【0053】
装置1は、PCA含有水溶液(被験試料)を入れるための第2チャンバー32と、その中にいれた被験試料を、試料収容部11に収容したセル内に供給するための被験試料供給ライン34を備える。被験試料供給ライン34を通じて、第2チャンバー32に収容された被験試料は、試料収容部11に収容されたセル内の指示薬溶液に供給添加される。被験試料供給ライン34は、例えばポンプ等により自動又は半自動に所定量の被験試料がセル内に供給できるように構成されている(不図示)。セル内に被験試料が供給添加されると、指示薬溶液と被験試料は、セル内にセットした回転子14-1とセル近傍に設けられたスターラー14-2とで、よく撹拌され、指示薬溶液中の内標物(BB色素)の存在下で、ヨウ化物塩と被験試料中のPCAが反応して、生成するヨウ素の濃度(言い換えると、被験試料中のPCA濃度)に従って発色した反応液が得られる。
【0054】
この装置1を用いて、
図1に記載する概略フロー図に従って実施することで、被験試料中のPCA濃度を測定することができる。一例であるものの、概略は下記の通りである。
(0)まず、指示薬溶液を入れた容器型セルを試料収容部11にセットし、第1光源12-1及び第2光源12-2から第1波長及び第2波長の光を照射して、指示薬溶液の第1光度(I
1
ini)と第2光度(I
2
ini)を測定する。これらの光度は電位信号処理4で処理された後、演算部22に伝達されて、記憶部21で一次的に保存される。
(1)次いで セル内で指示薬溶液と被験試料とを混合して、BB色素存在下でPCAとヨウ化物塩を反応させて反応液を調製する。
(2)セル内の反応液に、第1波長及び第2波長の光を照射して、反応液の第1光度(I
1
fin)と第2光度(I
2
fin)を測定する。これらの光度は電位信号処理4で処理された後、演算部22に伝達される。
(3)演算部22に伝達された第2光度(I
2
fin)に相当する電気信号から、記憶部21に保存している相関データを用いて、被験試料のPCA濃度を、被験試料と指示薬溶液の総量あたりのPCA濃度として算出する。
(4)演算部22に伝達された第2光度(I
2
fin)に相当する電気信号と、記憶部21に一時保存した指示薬溶液の第1光度(I
1
ini)に相当する電気信号とから、両者の差異を求め、それに基づいて、前記PCA濃度から、被験試料のPCA濃度を算出し決定する。そしてその結果は、出力部5を介して外部に出力される。
【0055】
前記(3)で用いる相関データは、事前に同測定装置を用いて、
図3に示すように、種々の既知濃度を有するPCA含有水溶液(標準試料)毎に、指示薬溶液と反応させた複数の反応液について第2光度(I
2
fin)を測定し、当該第2光度(I
2
fin)と、標準試料中のPCA濃度を標準試料と指示薬溶液の総量あたりに換算したPCA濃度との相関関係を取得することで作成することができる。このとき、指示薬溶液の第1光度(I
1
ini)と第2光度(I
2
ini)、及び反応液の第1光度(I
1
ini)は、第2光度(I
2
fin)をブランク補正(ゼロ補正)するために使用することができる。
【0056】
[PCA濃度測定装置2]
本発明装置の別の一態様として、測定試料をフローセルに入れて、セル内で反応後、測定するタイプの装置(PCA濃度測定装置2)の要部の概略を
図4に示す。装置2は、指示薬溶液と被験試料を別々に、フローセル内に流入した後、セル内で、撹拌フィンを用いて撹拌して反応させて測定した後、反応液を測定後、フローセルから液排出ラインを介して排出する形態を有する。
【0057】
図4に示すように、装置2は、その主要な構成要素として、測定部1と判定部2を備えるほか、装置1と異なる点として、指示薬溶液を入れるための第1チャンバー31と、その中にいれた指示薬溶液を、試料収容部11に収容したセル内に供給するための指示薬供給ライン33を備える。また、フローセル内で反応させた反応液を、試料収容部11の外に排出するための液排出ライン35を備える。
【0058】
装置2を用いて被験試料のPCA濃度を測定する方法として、装置1を用いた測定方法と異なる点を挙げると、下記の通りである。
まず、指示薬供給ライン31を通じて、第1チャンバー31に収容された指示薬溶液を、試料収容部11に配置された空のフローセル内に供給する。指示薬溶液の第1光度(I1
ini)及び第2光度(I1
fin)が測定された後に、被験試料供給ライン34を通じて、第2チャンバー32に収容された被験試料を、継続して指示薬溶液が供給されているフローセル内に供給する。フローセル内で合流した両溶液は、撹拌フィンを用いて撹拌されることで反応し、反応生成物(ヨウ素)の濃度に応じて呈色する。反応液は、試料収容部11で第1光度(I1
ini)及び第2光度(I1
fin)が測定された後、試料収容部11の外に排出される。装置2はそのための液排出ライン35を備える。
【0059】
[PCA濃度測定装置3]
本発明装置の別の一態様として、測定試料を反応させた後、フローセルに入れて測定するタイプの装置(PCA濃度測定装置3)の要部の概略を
図5に示す。装置3は、指示薬溶液と被験試料を混合して反応させた後に、反応液をフローセル内に流入して、測定後に、フローセルから液排出ラインを介して排出する形態を有する。
【0060】
図5に示すように、装置3は、その主要な構成要素として、測定部1と判定部2を備えるほか、装置2と異なる点として、指示薬供給ライン33を通じて第1チャンバー31から供給された指示薬溶液と、被験試料供給ライン34を通じて第2チャンバー32から供給された被験試料とを混合するための混合チャンバー36を備える。
【0061】
装置3を用いて被験試料のPCA濃度を測定する方法として、装置1及び2を用いた測定方法と異なる点を挙げると、下記の通りである。
まず、第1チャンバー31に収容された指示薬溶液を、指示薬供給ライン31と混合部36を介して、試料収容部11に配置された空のフローセル内に供給し、指示薬溶液の第1光度(I1
ini)及び第2光度(I1
fin)が測定する。次いで、混合部36に第2チャンバー32に収容された被験試料を、指示薬供給ライン32を通じて供給し、混合部36内で両者を混合して反応させる。反応液は反応生成物(ヨウ素)の濃度に応じて呈色する。反応液は、試料収容部11で第1光度(I1
ini)及び第2光度(I1
fin)が測定された後、試料収容部11の外に排出される。装置3はそのための液排出ライン35を備える。
【0062】
以上、本明細書において、「含む」及び「含有する」の用語には、「からなる」及び「から実質的になる」という意味が含まれる。
【実施例0063】
以下、本発明の構成及び効果について、その理解を助けるために、実験例を用いて本発明を説明する。但し、本発明はこれらの実験例によって何ら制限を受けるものではない。以下の実験は、特に言及しない限り、室温(25±5℃)、及び大気圧条件下で実施した。なお、特に言及しない限り、以下に記載する「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
【0064】
実験例1 指示薬溶液に使用する内部標準物質(色素)の選択
特許文献3に記載されるように、過カルボン酸と過酸化水素を含む平衡混合物にヨウ化カリウムを加えてヨウ素を発生させ、これを透過する光量を測定することで、前記平衡混合物中の過カルボン酸濃度を選択的に定量することができる(この方法を便宜上、「KI法」と称する)。このKI法において、測定に用いる光の波長範囲は440~600nmである。440nmより短波長では、350nm付近に吸収極大を有するポリヨウ化物イオンのピークを重なり、一方、600nmより長波長では、吸収が弱いため、正確な過カルボン酸の濃度を得ることが困難であるからである(特許文献3、段落[0013]参照)。
このことから、指示薬溶液に使用する内部標準物質(色素)として、600nm以降に吸収ピークを有する、赤色の光を吸収する青色色素が望ましい。青色色素としては、青色一号(Brilliant Blue)、クリスタルバイオレット(Crystal Violet)、フィコシアニン(Phycosynin)、銅フタロシアニン、アルシアンブルー(Alcian Blue)、Suminol Miling Brilliant Sky Blue SE(N)、Suminol Fast Blue PR conc.、及びAstrazon Blue FGRL 200% micro等が知られている。
【0065】
本実験では、これらの青色色素のうち、青色一号(以下、「BB」と称する場合がある)、クリスタルバイオレット(以下、「CV」と称する場合がある)を用いて、過カルボン酸濃度測定のための指示薬溶液の内部標準物質としての適性を評価した。
【0066】
1.試験液の調製
(a)色素液
BBまたはCVを約0.2gとり、精製水で200mLにメスアップした。ホールピペットとメスフラスコで10倍希釈系列の希釈液を調製した(BB色素液、CV色素液)。
(b)ヨウ化カリウム含有液(KI液)
ヨウ化カリウム0.48g、安息香酸ナトリウム0.5gおよびクエン酸(無水)0.3gを精製水にいれて混合し、精製水で1Lにメスアップした。
(c)指示薬溶液
前記で調製した各色素液(BB色素液、CV色素液)とKI液とを混合し、指示薬溶液(BB指示薬溶液、CV指示薬溶液)を調製した。
(d)過酢酸希釈液
過酢酸を6%濃度で含む消毒液(アセサイド第一剤:サラヤ株式会社製)を、精製水で過酢酸濃度が約0.2%となるように希釈して調製した。
【0067】
2.試験方法
(a)スペクトル確認
各色素液、KI液、各指示薬溶液、及び各指示薬溶液と過酢酸希釈液を混合したものについて、紫外可視分光光度計(光路長10mmの石英セル使用:UV-2600、島津製作所製)を用いて、800nmから250nmの吸収スペクトルを測定した。
(b)濃度測定
1)20mL容のメスフラスコに、各指示薬溶液を一定量入れたあと、それぞれに過酢酸希釈液を0、0.1、0.2、0.3、0.4、または0.5mLの割合で混合し、同指示薬溶液で20mLにメスアップした。
2)上記液を撹拌混合してから1分後、吸収スペクトルを測定した。
【0068】
3.試験結果
図6にBB色素液(BB)、KI液(KI)、BB指示薬溶液(BB+KI)、BB色素液と過酢酸希釈液を混合したもの(BB+PA)の吸収スペクトルを示す。BB色素液(BB)は、629.5nmに吸収極大を持つピークを示し、430nmから380nmにもごく小さな吸収があった。KI液は無色透明であり、300nmより高波長には吸収ピークはみられず、300nmより低波長に強い吸収がみられた。BB色素液(BB)の670nmから540nmのピークの形状は、BB指示薬溶液 (BB+KI)や、BB色素液に過酢酸を混合したもの(BB+PA)のピーク形状と変わらず、KIや過酢酸の影響はみられなかった。
【0069】
図7に、BB指示薬溶液(BB+KI:STBと表記)に、異なる量の過酢酸希釈液を混合したものの吸収スペクトルを示す。図中、「STB+PA0」はBB指示薬溶液のみ、STB+PA1からSTB+PA5は、BB指示薬溶液に過酢酸希釈液の添加量をそれぞれ0.1から0.5mLの割合で増やしたものを指す。BB指示薬溶液に過酢酸希釈液を混合した直後、青色から緑に変化した。過酢酸希釈液を添加していないBB指示薬溶液(STB+P0)はBBによる吸収のみであり(液色は青色)、STB+PA1からSTB+PA5まで、添加する過酢酸希釈液量が多くなるほど、600nm未満の吸収強度が高くなり、それに伴って、液色も緑色が強くなった。
【0070】
図8に、CV色素液(CV0、CV)、KI液(KI)、CV指示薬溶液(CV+KI)、CV指示薬溶液と過酢酸希釈液を混合したもの(CV+PA)の吸収スペクトルを示す。CV色素液(CV)は、590nmと540nmに吸収極大を持つ二山のピークを示した。また310nm付近にも小さな吸収があったため10倍濃度のCV色素液(CV0)により確認したところ、310nmをピークとする特異的な吸収がみられた。CV色素液(CV)の650nmから450nmのピークの形状は、CV指示薬溶液 (CV+KI)、CV色素液に過酢酸希釈液を加えたもの(CV+PA)のピーク形状と変わらず、KIや過酢酸の影響はみられなかった。
【0071】
図9に、CV指示薬溶液 (STC)に異なる量の過酢酸希釈液を加えたときの吸収スペクトルを示す。「STC+PA0」はCV指示薬溶液のみ、「STC+PA1」から「STC+PA5」は、CV指示薬溶液(STC)にそれぞれ過酢酸希釈液を0.1から0.5mL添加したものを指す。CV指示薬溶液に過酢酸希釈液を混合すると、CV色素液のピーク形状が変化し、590nmの吸収が小さくなった。また540nmの吸収はポリヨウ化物イオンの吸収ピークの裾部分に存在し、重複した。
【0072】
以上の結果に示すように、CVは、KIと過酢酸を混合したときに基準となるピークの形状が変化した。これに対して、BBは、CV と異なり、KI、PA、及び反応後の物質との反応性がなく、その吸収ピークの形状に変化は認められなかった。このことから、青色色素のうち、BBは、KI法を利用した過カルボン酸の濃度測定において、指示薬溶液に配合する内部標準物質(色素)として利用できることが確認された。また、フィコシアニン(Phycosynin)、銅フタロシアニン、アルシアンブルー(Alcian Blue)、Suminol Miling Brilliant Sky Blue SE(N)、Suminol Fast Blue PR conc.、及びAstrazon Blue FGRL 200% microは、いずれも内部標準物質としての適性に欠けていた。
【0073】
実験例2 BB指示薬溶液の波長範囲の決定
実験例1で得られた
図7のスペクトル(BB指示薬溶液に異なる量の過酢酸希釈液を添加したときの吸収スペクトル)をもとに、これを測定溶液中の過酢酸濃度を横軸に、波長635nm、及び波長400nmから550nmで測定した吸光度を縦軸に、各々プロットしたグラフを
図10に示す。また、縦軸の吸光度のスケールを拡大して、測定溶液中の過酢酸濃度を横軸に、波長470nmから700nmで測定した吸光度を縦軸に、各々プロットしたグラフを
図11に示す。
これからわかるように、過酢酸濃度とポリヨウ化物イオンの吸収が良好な直線関係にあるのは、430nmから550nmの波長領域であった。400nmでは曲線となった。色素標準となる波長範囲は、600nmから700nmであった。
【0074】
実験例3 定量精度の評価
1.試験液の調製
(a)指示薬溶液
BB 16mg/L、KI 480mg/L、クエン酸300mg/L、及び安息香酸ナトリウム500mg/Lとなるように、各成分を精製水に溶解して、指示薬溶液(pH4)を調製した。
(b)過酢酸希釈液
過酢酸を6%濃度で含む消毒液(アセサイド第一剤:サラヤ株式会社製)を、精製水で過酢酸濃度が0.01%、0.05%、0.10%、0.15%、0.20%、0.25%、及び0.30%となるように希釈して調製した。
【0075】
2.試験方法
(a)検量線の作成
1)指示薬溶液に、各濃度の過酢酸希釈液0.1mLを正確に加え、指示薬溶液で正確に20mLにメスアップし、検量線測定溶液とした。
2)紫外可視分光光度計(光路長10mmの石英セル使用:UV-2600、島津製作所製)で470nmの吸光度(I470)を測定した。
3)縦軸に吸光度、横軸に検量線測定溶液中の過酢酸濃度をプロットして、検量線を作成した。
【0076】
(b)添加回収試験方法
1)任意の量の過酢酸濃度0.01%(100ppm)の過酢酸希釈液と指示薬溶液20mLを混合し、470nmと630nmにおける吸光度(I470、I630)を測定した。
2)吸光度I470から、前記で作成した検量線を用いて測定溶液中の過酢酸濃度を求めた。
3)波長630nmにおける吸光度I630の変化から、過酢酸希釈液の添加容量(mL)を割り出し、当該過酢酸希釈液中の過酢酸濃度を算出した。
【0077】
3.試験結果
作成した検量線を
図12に示す。表1に添加回収試験の結果を示す。
【0078】
【0079】
この結果から、実際に添加した過酢酸希釈液の過酢酸濃度100ppmに対し、添加回収試験によって算出された過酢酸希釈液の過酢酸濃度は99ppmから102pmであり、回収率99%から102%であったことから、本発明のBB内部標準指示薬を用いることで、過酢酸含有溶液中の過酢酸の濃度が、±2%以内と精度よく測定できることが確認できた。
前記(1)工程の前に、ヨウ化物塩及びブリリアントブルーFCFを含む水溶液(指示薬溶液)について、波長600~700nm領域の波長(第1波長)での透過光又は反射光の強度(第1光度)、及び/又は、波長440~600nm領域の波長(第2波長)での透過光又は反射光の強度(第2光度)を測定する工程を有する、請求項1に記載する測定方法。
前記液体分配システム3は、さらに、前記試料収容部11に送達された反応液を、試料収容部11から外に排出する液排出ライン35を備える、請求項12に記載する過カルボン酸濃度測定装置。
前記光源12が、波長600~700nm領域の波長(第1波長)を試料収容部11に照射する第1光源12-1と波長440~600nm領域の波長(第2波長)を試料収容部11に照射する第2光源12-2からなり、第1光源が赤色発光ダイオード(赤色LED)又は波長600~700nm領域を含有する発光ダイオードであり、第2光源が青色発光ダイオード(青色LED)又は波長440~600領域を含有する発光ダイオードであり、
前記受光素子がフォトダイオードである、請求項11~14のいずれかに記載する、過カルボン酸濃度測定装置。