IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 本部三慶株式会社の特許一覧

特開2023-38201亜塩素酸水含有薬剤耐性菌および改良型細菌殺傷剤
<>
  • 特開-亜塩素酸水含有薬剤耐性菌および改良型細菌殺傷剤 図1
  • 特開-亜塩素酸水含有薬剤耐性菌および改良型細菌殺傷剤 図2
  • 特開-亜塩素酸水含有薬剤耐性菌および改良型細菌殺傷剤 図3
  • 特開-亜塩素酸水含有薬剤耐性菌および改良型細菌殺傷剤 図4
  • 特開-亜塩素酸水含有薬剤耐性菌および改良型細菌殺傷剤 図5
  • 特開-亜塩素酸水含有薬剤耐性菌および改良型細菌殺傷剤 図6
  • 特開-亜塩素酸水含有薬剤耐性菌および改良型細菌殺傷剤 図6-2
  • 特開-亜塩素酸水含有薬剤耐性菌および改良型細菌殺傷剤 図7
  • 特開-亜塩素酸水含有薬剤耐性菌および改良型細菌殺傷剤 図8
  • 特開-亜塩素酸水含有薬剤耐性菌および改良型細菌殺傷剤 図9
  • 特開-亜塩素酸水含有薬剤耐性菌および改良型細菌殺傷剤 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038201
(43)【公開日】2023-03-16
(54)【発明の名称】亜塩素酸水含有薬剤耐性菌および改良型細菌殺傷剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/08 20060101AFI20230309BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20230309BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230309BHJP
   A61K 33/20 20060101ALI20230309BHJP
   A61K 8/20 20060101ALI20230309BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20230309BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20230309BHJP
   A23L 3/358 20060101ALI20230309BHJP
【FI】
A01N59/08 A
A01P3/00
A61P31/04
A61K33/20
A61K8/20
A61Q11/00
A61P1/02
A23L3/358
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205537
(22)【出願日】2022-12-22
(62)【分割の表示】P 2021022691の分割
【原出願日】2014-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2013106208
(32)【優先日】2013-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2013106214
(32)【優先日】2013-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2013232955
(32)【優先日】2013-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】394014423
【氏名又は名称】三慶株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【弁理士】
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】合田 学剛
(57)【要約】
【課題】亜塩素酸水含有薬剤耐性菌および改良型細菌殺傷剤の提供。
【解決手段】本発明は細菌殺傷剤を提供する。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、多剤耐性緑膿菌およびバンコマイシン耐性腸球菌から選択される菌を不活性化する亜塩素酸水を含む薬剤耐性菌殺傷剤が提供され、またグラム陰性菌に対して適用される場合酸性とされ、グラム陽性菌に対して適用される場合アルカリ性とされる細菌殺傷剤が提供される。前記細菌は、大腸菌、黄色ブドウ球菌、バチルス属菌、パエニバチルス属菌、緑膿菌、腸球菌、サルモネラ菌および歯周病菌からなる群より選択される少なくとも1種の菌を含む。食品加工の前処理細菌殺傷剤として人体に安全でかつ取扱い易く、しかも二酸化塩素の発生の少ない亜塩素酸を生成し、細菌殺傷剤として使用することができる。本発明の亜塩素酸水を含む細菌殺傷剤は、殺菌剤、食品添加物、消毒薬、医薬部外品、医薬品等として利用することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
図面に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜塩素酸水を含む薬剤耐性菌細菌殺傷剤に関する。
【0002】
本発明は、亜塩素酸水を含む改良型細菌殺傷剤に関する。
【背景技術】
【0003】
薬剤耐性菌の問題は、古くて新しい課題である。抗生物質はすばらしい薬であるが、その問題は、対象菌が徐々に耐性を獲得してしまうことである。歴史的には、1950年代の黄色ブドウ球菌のペニシリンに対する耐性獲得に始まり(ペニシリン耐性黄色ブドウ球菌)、メチシリンに対する耐性獲得が1970年代に発見され(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、その後1990年代にバンコマイシンに対する耐性が見出され(バイコマイシン耐性腸球菌(VRE)、バンコマイシン中間耐性黄色ブドウ球菌(VISA),1997年)、2002年にはバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌が報告され、世界中で問題となっている。このように抗生物質はいたちごっこになる傾向があり、抗生物質について薬剤耐性は問題である。
【0004】
亜塩素酸水はまた、食品添加物として最近登録された。亜塩素酸水はそのままで効果があることからその使用法は直接使用されることが多い。
【0005】
本発明者は、亜塩素酸水の製法を見出し、大腸菌に対する殺菌効果を確認して出願している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2008/026607号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、予想外に顕著に薬剤耐性菌を広範に殺傷することができる細菌殺傷剤を提供する。本発明は以下をも提供する。
(1)亜塩素酸水を含む薬剤耐性菌殺傷剤。
(2)前記薬剤耐性菌殺傷剤は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、多剤耐性緑膿菌、およびバンコマイシン耐性腸球菌から選択される菌を不活化するものである、(1)に記載の薬剤耐性菌殺傷剤。
(3)少なくとも100ppmで存在する、(1)または(2)に記載の薬剤耐性菌殺傷剤。
(4)少なくとも200ppmで存在する、(1)~(3)のいずれか1項に記載の薬剤耐性菌殺傷剤。
(5)少なくとも500ppmで存在する、(1)~(4)のいずれか1項に記載の薬剤耐性菌殺傷剤。
(6)前記薬剤耐性菌殺傷は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌を不活化するものであり、pH6.5以上である、(1)~(5)のいずれか1項に記載の薬剤耐性菌殺傷剤。
(7)前記薬剤耐性菌殺傷は、多剤耐性緑膿菌、およびバンコマイシン耐性腸球菌から選択される菌を不活化するものであり、pH6.5以下である、(1)~(6)のいずれか1項に記載の薬剤耐性菌殺傷剤。
(8)pHが約6.5である、(1)~(7)のいずれか1項に記載の薬剤耐性菌殺傷剤。
(9)尿中の薬剤耐性菌の殺傷剤である、(1)~(8)のいずれか1項に記載の薬剤耐性菌殺傷剤。
【0008】
本発明はまた、細菌殺傷剤としての使用の際、グラム陰性菌に対して適用される場合酸性とし、グラム陽性菌に対して適用される場合ほぼ中性とすることによって、細菌殺傷効果が増強されることを予想外に見出しこれを本発明として提供する。また、本発明は、その他、従来効果が示されていない種々の菌に対しても効果を有することを見出し、その用途を提供する。本発明は以下をも提供する。
(1)亜塩素酸水を含む細菌殺傷剤であって、グラム陰性菌に対して適用される場合酸性とされ、グラム陽性菌に対して適用される場合中性とされる、細菌殺傷剤。
(2)前記酸性は、pH6.5以下であり、前記中性は、pH6.5以上である、(1)に記載の細菌殺傷剤。
(3)前記細菌殺傷剤は、亜塩素酸水と、酸性および/または中性を付与する薬剤とを備えるキットとして提供される、(1)または(2)に記載の細菌殺傷剤。
(4)前記細菌は病原菌を含む、(1)~(3)のいずれか1項に記載の細菌殺傷剤。
(5)前記細菌は、大腸菌、黄色ブドウ球菌、バチルス属菌、パエニバチルス属菌、緑膿菌、腸球菌、サルモネラ菌、カンピロバクターおよび歯周病菌からなる群より選択される少なくとも1種の菌を含む、(1)~(4)のいずれか1項に記載の細菌殺傷剤。
(6)亜塩素酸水を含む歯周病菌殺傷剤。
(7)pHが約6.5である、(1)~(6)のいずれか1項に記載の殺傷剤。
(8)pH調整剤と、(1)~(7)のいずれか1項に記載の殺傷剤とを含む、細菌殺傷キット。
(9)亜塩素酸水を含む細菌殺傷剤であって、該殺傷剤は、接触時に少なくとも25ppmの濃度で対象細菌に接触される、細菌殺傷剤。
(10)前記濃度は、少なくとも50ppmである、(9)に記載の細菌殺傷剤。
【0009】
本発明において、上記1または複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。本発明のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い薬剤耐性菌殺傷能力をもつ細菌殺傷剤が提供される。また、二酸化塩素の発生が抑制された、人体にも安全で、安心して使用することができる細菌殺傷剤が提供され、医療現場等で広く使用できる細菌殺傷剤として利用可能である。
【0011】
広範な殺菌力を示す次亜塩素酸ナトリウム、アルコールに関して存在していた問題が解決された。すなわち、次亜塩素酸ナトリウムは人体に対して安全ではないという点が問題であったがこれが解決された。また、アルコールはアルコール濃度が60%以上になると危険物となり、取り扱いが不便であり、また、60%未満では、細菌殺傷効果を得にくいという問題があったが、これらと同等あるいはより安全でかつ強力な細菌殺傷剤が提供される。
【0012】
亜塩素酸水は多数の薬剤耐性菌、特に多剤耐性菌に対して優れた細菌殺傷効果を有する。
【0013】
亜塩素酸水は歯周病菌、尿中緑膿菌、多剤耐性菌に対して優れた細菌殺傷効果を有し、亜塩素酸水の細菌殺傷効果はグラム陰性菌に対しては酸性側(おおよそpH6.5以下)で強く、グラム陽性菌では中性域(おおよそpH6.5以上)で強い傾向を見出し、この発見に基づいて細菌殺傷剤として有利な使用法を提供する。
【0014】
亜塩素酸水には尿中緑膿菌の増殖抑制物質としての可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、多剤耐性菌に対する亜塩素酸水の細菌殺傷効果を調べるためのスキームを示す。
図2図2は、Methicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA) COLについての亜塩素酸水の細菌殺傷効果を示す。左上は、濃度(ppm表示)で表示した亜塩素酸水のデータであり、右上は100ppm、左下は200ppmおよび右下は500ppmでの亜塩素酸水(左)および亜塩素酸ナトリウム(右)のデータを示したものである。左からpH8.5、7.5、6.5、5.5、4.5を示す
図3図3は、Multidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa (MDRP)TUHについての亜塩素酸水の細菌殺傷効果を示す。左上は、濃度(ppm表示)で表示した亜塩素酸水のデータであり、右上は100ppm、左下は200ppmおよび右下は500ppmでの亜塩素酸水(左)および亜塩素酸ナトリウム(右)のデータを示したものである。左からpH8.5、7.5、6.5、5.5、4.5を示す。
図4図4は、Vancomycin-resistant Enterococcus faecalis BM1447についての亜塩素酸水の細菌殺傷効果を示す。左上は、濃度(ppm表示)で表示した亜塩素酸水のデータであり、右上は100ppm、左下は200ppmおよび右下は500ppmでの亜塩素酸水(左)および亜塩素酸ナトリウム(右)のデータを示したものである。左からpH8.5、7.5、6.5、5.5、4.5を示す。
図5図5は、亜塩素酸水の尿中汚染細菌(MDRP)に対する増殖抑制効果の検討結果を示す。菌液のみ、亜塩素酸水(10ppm、50ppm、100ppm)、亜塩素酸ナトリウム(10ppm、50ppm、100ppm)および次亜塩素酸ナトリウム(10ppm、50ppm、100ppm)を示す。
図6図6は、亜塩素酸水の尿中汚染細菌(MDRP、MRSA)に対する増殖抑制効果の図5のものとは別のラウンドの試験における検討結果を示す。菌液のみ、亜塩素酸水(10ppm、50ppm、100ppm)、亜塩素酸ナトリウム(10ppm、50ppm、100ppm)および次亜塩素酸ナトリウム(10ppm、50ppm、100ppm)を示す。
図6-2】同上。
図7図7は、亜塩素酸水の成分分析の確認試験(表2、確認試験2(2))の吸光度および波長のグラフである。
図8図8は、亜塩素酸水の確認試験(表4、確認試験(2))の吸光度および波長のグラフである。
図9図9は、亜塩素酸水による歯周病菌(Fusobacterium nucleatum F-1)の実験例を示す。左側にプロトコールを示し、右側の五角形に緩衝液中での生残率を示す(緩衝液のみのコントロール)。
図10図10は、亜塩素酸水による歯周病菌(Fusobacterium nucleatum F-1)の実験例を示す。左上に亜塩素酸水、右上に次亜塩素酸ナトリウム、左下に高度さらし粉、右下の亜塩素酸ナトリウムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解
されるべきである。従って、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0017】
本明細書において「薬剤耐性」とは、抗生物質等の自分に対して何らかの作用を持った薬剤に対して抵抗性をもち、これらの薬剤が効かないまたは効きにくくなる現象を言う。
【0018】
本明細書において「薬剤耐性菌」とは、薬剤耐性を獲得した菌をいう。そのような薬剤耐性菌としては、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、多剤耐性緑膿菌(MDRP)、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、クロストリジウム・ディフィシル(CD:芽胞形成、毒素産生)を挙げることができるがそれらに限定されない。理論に束縛されることを望まないが、薬剤耐性遺伝子は概して薬剤耐性を付与する遺伝子が獲得されている。本発明は、このような遺伝子または遺伝子産物をも破壊することで細菌殺傷効果を有するものと考えられる。したがって、本発明は、実施例において特定の多剤耐性菌という複数の薬剤に耐えうるものについて効果が実証されており、より単純な薬剤耐性菌について一般的に効果があるものと外挿されることが当業者に理解される。
【0019】
本明細書において「多剤耐性菌」とは、複数の薬剤(特に、抗生物質)に対して薬剤耐性を獲得した菌をいう。
【0020】
本明細書において「抗菌(作用)」とは病原性や有害性を有する糸状菌、細菌、ウイルスなどの微生物の増殖を抑制することをいい、本明細書では特に細菌に対するものをいう。抗菌作用を有するものを抗菌剤という。
【0021】
本明細書において「殺菌(作用)」とは病原性や有害性を有する糸状菌、細菌、ウイルスなどの微生物を死滅させることをいい、本明細書では特に細菌に対するものをいう。殺菌作用を有するものを殺菌剤という。
【0022】
細菌に対する抗菌作用および殺菌作用を総称して、細菌殺傷(作用)といい、細菌に対する抗菌作用および殺菌作用を有するものを総称して本明細書において「細菌殺傷剤」という。したがって、例えば、薬剤耐性菌に対する場合は、「薬剤耐性菌殺傷剤」と称する。細菌殺傷剤は、薬剤耐性菌殺傷剤を包含する。
【0023】
多剤耐性緑膿菌は、「緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)」の一種であり、緑膿菌は、自然界に広く分布し、栄養要求性が低く、栄養素を殆ど含まない水の中でも増殖する。緑色色素(ピオシアニン)を産生し、バイオフィルムを形成する特徴がある。多剤耐性緑膿菌(Multi-drugresistant Pseudomonas aeruginosa(MDRP))とは、従来から緑膿菌に対して高い抗菌活性を示していたカルバペネム系、フルオロキノロン系、アミノグリコシド系の3系統の抗菌剤薬全てに対して耐性を示す緑膿菌をいう。
【0024】
MDRPの判断基準は、以下の表のとおりである。
【0025】
【表1】
【0026】
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は黄色ブドウ球菌の一種であり、抗生物質メチシリンに対する薬剤耐性を獲得した黄色ブドウ球菌の意味であるが、実際は多くの抗生物質に耐性を示す多剤耐性菌である。代表的な治療薬はバンコマイシン、テイコプラニン、アルベカシンであるが、バンコマイシンに対する耐性株も出現している。MRSAは、従来のペニシリン耐性菌とは別の戦略を採ることでメチシリン耐性の獲得に成功した。MRSAは従来のブドウ球菌とは異なり、β-ラクタム剤が結合できないペプチドグリカン合成酵素(PBP2’)を作ることでβ-ラクタム剤の作用を回避する。このPBP2’というタンパク質はmecAという遺伝子にコードされている。したがって、MRSAは、PEBP2’というタンパク質の存在またはmecAという遺伝子の存在によって識別することができる。判定方法としては、たとえば、薬剤感受性試験結果に基づく判定およびMRSA特異的遺伝子の検出による判定を挙げることができる。薬剤感受性試験は、各医療施設において日常的に実施されている同定試験法により、黄色ブドウ球菌と判定され、かつ、NCCLS(National Committee for Clinical Laboratory Standards)の標準法に従い、2%のNaCl存在下で、35℃24時間の培養後、オキサシリンのMIC値が4≧μg/mlを示す場合、MRSAと判定する。また、NCCLS仕様のdisk拡散法を用いた場合には、同様の培養条件下でオキサシリンの阻止円の直径が≦10mmの場合にもMRSAと判定される。あるいは、MRSA特異的遺伝子の検出による判定では、PCRによるmecA遺伝子(メチシリン耐性に関与するPBP2’の遺伝子)と黄色ブドウ球菌特異的遺伝子(spa遺伝子=staphylococcal protein A遺伝子)を同時に検出する方法などを利用することができる。
【0027】
尿中に見出されるものを特に尿中黄色ブドウ球菌という。
【0028】
バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)とは、腸球菌(Enterococcus)の一種で、バンコマイシンに対する薬剤耐性を獲得した腸球菌(Enterococcus)のことである。腸球菌とは人間や動物の腸内に存在する常在菌の一種であって、通常の健康体ではこの腸球菌が感染症を引き起こす原因となることはないが、何らかの病気にかかって免疫力が低下している状態では、心内膜炎や敗血症、尿路感染症などを引き起こしうる。通常の腸球菌(特にフェカリス)に有効なアンピシリン、バンコマイシン、ニューキノロン、カルバペネムなどの薬剤には抵抗性を示す。VanAおよびVanB遺伝子を保有する腸球菌が問題となっている。したがって、MRSAと同様の遺伝子検出ほうによって、VREを同定することができる。
【0029】
歯周病は、種々の細菌によって引き起こされる疾患であり、本明細書において、歯周病の原因となる細菌を総称して歯周病菌という。歯周病菌には、たとえば、Aggregatibacter actinomycetemcomitans、Prophyromonas gingivaris、Tannerella forsythensis、Treponema denticola、Prevotella intermedia、Fusobacterium nucleatum、Campylobacter rectus、Eikenella corrodens、Actinomyces 属
等を挙げることができる。試験は代表的に、Fusobacterium nucleatum F-1を用いることができる。Fusobacterium nucleatum F-1は、偏性嫌気性グラム陰性桿菌、ワンサンアンギーナ(紡錘菌とワンサンボレリアの混合感染による急性扁桃炎である。潰瘍偽膜性扁桃炎、壊死性潰瘍性扁桃炎とも呼ばれる。)である。本発明では、亜塩素酸水は歯周病菌に対して優れた細菌殺傷効果を示し、その効果は次亜塩素酸ナトリウムと同等かそれ以上であり、30分で生残菌数を10-5以下に低下させたことが実証されている。
【0030】
本発明の亜塩素酸水が対象とする菌は、大腸菌(Escherichia coli)、黄色ブドウ球菌(Stanphylococcus aureus等)、バチルス属菌(Bacillus sp.)、パエニバチルス属菌(Paenibacillus sp.)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa等)、腸球菌(Enterococcus faecalis等)、サルモネラ菌(Salmonella sp.)、カンピロバクター(Campylobacter sp.)、歯周病菌(Fusobacterium nucleatum等)等であってもよい。
【0031】
本明細書において「病原菌」とは、疾患の原因となる任意の細菌をいう。病原菌が標的であるときは、本発明の細菌殺傷剤は、病原菌を対象としうることから、医薬用途で用いることができる。
【0032】
本明細書において、「酸性(域)」とは、本発明の細菌殺傷剤に関して用いるとき、亜塩素酸水が中性域とされるpH6.5よりも酸性のpHであることを意味する。そのようなpHとしては、たとえば、pH6.5以下、pH6.4以下、pH6.3以下、pH6.2以下、pH6.1以下、pH6.0以下、pH5.9以下、pH5.8以下、pH5.7以下、pH5.6以下、pH5.5以下、pH5.4以下、pH5.3以下、pH5.2以下、pH5.1以下、pH5.0以下、pH4.9以下、pH4.8以下、pH4.7以下、pH4.6以下、pH4.5以下等を挙げることができるがそれらに限定されない。
【0033】
本明細書において、「中(性)(域)」とは、本発明の細菌殺傷剤に関して用いるとき、亜塩素酸水のpHが約6.5またはそれよりアルカリ性側の範囲にあることを意味する。そのようなpHとしては、たとえば、pH6.5以上、pH6.6以上、pH6.7以上、pH6.8以上、pH6.9以上であり、上限としてはpH8.5以下、pH8.4以下、pH8.3以下、pH8.2以下、pH8.1以下、pH8.0以下、pH7.9以下、pH7.8以下、pH7.7以下、pH7.6以下、pH7.5以下、pH7.4以下、pH7.3以下、pH7.2以下、pH7.1以下、pH7.0以下、pH7.0未満等を挙げることができるがそれらに限定されない。本発明は亜塩素酸水を使用するものであるため、亜塩素酸ナトリウムとの峻別からはpH7.0未満であることが好ましいがこれに限定されるものではない。
【0034】
酸性および中性は、例えば、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸リン酸緩衝液等の緩衝系を用いることで調整しうる。クエン酸緩衝液であれば、クエン酸にクエン酸金属塩(例えば、クエン酸ナトリウム等)、リン酸緩衝液であればリン酸にリン酸金属塩(例えば、リン酸ナトリウム)等を付加することで緩衝系を作製し得る。そして、クエン酸リン酸緩衝液は、これらを適宜あわせることで調整しうる。
【0035】
本明細書において「酸性および/または中性を付与する薬剤」は、亜塩素酸水のpHを調整することができる任意の薬剤であってよい。酸性を付与する薬剤と中性を付与する薬剤とを別々に備えてもよいが、緩衝系を用いてpHを所望の値に調整できるものでもよい。したがって、酸性および/または中性を付与する薬剤は緩衝系を製造するための薬剤、
例えば、クエン酸とクエン酸金属塩との組み合わせ、リン酸とリン酸緩衝液との組み合わせ、あるいはそれらの組み合わせ等を挙げることができるがそれらに限定されない。
【0036】
本明細書において「酸性を付与する薬剤」とは、亜塩素酸水のpHを下げることができる薬剤であり、例えば、任意の無機酸または有機酸を挙げることができるがそれらに限定されない。
【0037】
本明細書において「中性を付与する薬剤」とは、亜塩素酸水のpHを上げることができる薬剤であり、例えば、任意の無機酸または有機酸の塩、任意の無機塩基または有機塩基を挙げることができるがそれらに限定されない。
【0038】
本発明において、「グラム陰性菌に対して適用される場合酸性とされ、グラム陽性菌に対して適用される場合中性とされる」ことを達成するためには、最初から対象に応じて酸性または中性とした亜塩素酸水を用意してもよく、使用時に適宜酸性を付与する薬剤を加えて酸性とするか、中性を付与する薬剤を加えて中性としてもよい。
【0039】
したがって、本発明の細菌殺傷剤は、亜塩素酸水と、pH調整剤とを備えるキットとして提供されうる。pH調整剤は、酸性を付与する薬剤および/または中性を付与する薬剤を含みうる。
【0040】
あるいは、本発明の細菌殺傷剤は、pHが約6.5の亜塩素酸水を含む。約6.5のpHであることにより、グラム陰性菌のみならずグラム陽性菌も殺傷しうる細菌殺傷剤を提供することができるため、汎用薬剤として利用するためには好ましい。本明細書においてpH「約」6.5とは、前後±0.5の範囲にあること、例えば、pH6.0~7.0、6.1~6.9、6.2~6.8、6.3~6.7、6.4~6.6などを挙げることができるが、これらに限定されず、これらの上限下限の任意の組み合わせでもよいことが理解される。
【0041】
本明細書において「キット」とは、通常2つ以上の区画に分けて、提供されるべき部分(例えば、亜塩素酸水(細菌殺傷剤)、pH調整剤(酸性を付与する薬剤および/または中性を付与する薬剤)、説明書など)が提供されるユニットをいう。混合されて提供されるべきでなく、使用直前に混合して使用することが好ましいような組成物の提供を目的とするとき、あるいは使用直前にpHを適宜調整することが好ましいような組成物の提供を目的とするときに、このキットの形態は好ましい。そのようなキットは、好ましくは、例えば、使用方法、調整方法等を記載した指示書または説明書を備えていることが有利である。
【0042】
本明細書において「指示書」は、本発明を使用する方法について使用者に対する説明を記載したものである。この指示書は、本発明の調製方法、細菌殺傷剤の使い方等を指示する文言が記載されている。この指示書は、本発明が実施される国の監督官庁(例えば、日本であれば厚生労働省、米国であれば食品医薬品局(FDA)など)が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記されてもよい。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ、電子メール、SNS)のような形態でも提供され得る。
【0043】
(亜塩素酸水およびその製造例)
本発明で使用される亜塩素酸水は、本発明者らが見出した特徴を有するものである。特許文献1に記載されるような既知の製法等の任意の方法により製造された亜塩素酸水を用いることができる。代表的な組成として、たとえば、亜塩素酸水61.40%、リン酸二
水素カリウム1.00%、水酸化カリウム0.10%および精製水37.50%のものを配合し、使用することができる(出願人より「オウトゥロックスーパー」との名称で販売される。亜塩素酸水72%は亜塩素酸30000ppmに該当する。)が、これに限定されず、亜塩素酸水は0.25%~75%、リン酸二水素カリウムは、0.70%~17.42%、水酸化カリウムは、0.10%~5.60%であっても良い。リン酸二水素カリウムの代わりにリン酸二水素ナトリウムを、水酸化カリウムの代わりに水酸化ナトリウムを使用しても良い。この薬剤は、酸性条件下で、有機物との接触による亜塩素酸の減衰を低減させているが、殺菌効果は維持している。かつ、塩素ガスの発生が軽微であり、塩素と有機物が混合した臭いの増幅をおさえるという特徴をも有する。
【0044】
1つの実施形態では、本発明の亜塩素酸水は、塩素酸ナトリウム水溶液に、該水溶液のpH値を3.4以下に維持させることができる量および濃度の硫酸またはその水溶液を加えて反応させることにより、塩素酸を発生させ、次いで該塩素酸の還元反応に必要とされる量と同等、もしくはそれ以上の量の過酸化水素を加えることにより、生成することができる。
【0045】
また、別の実施形態では、本発明の亜塩素酸水は、塩素酸ナトリウム水溶液に、該水溶液のpH値を3.4以下に維持させることができる量および濃度の硫酸またはその水溶液を加えて反応させることにより、塩素酸を発生させ、次いで該塩素酸の還元反応に必要とされる量と同等、もしくはそれ以上の量の過酸化水素を加えることにより亜塩素酸を生成させた水溶液に、無機酸または無機酸塩のうちのいずれか単体、または2種類以上の単体もしくはこれらを併用したものを加え、pH値を3.2から8.5までの範囲内に調整することにより、生成することができる。
【0046】
さらに、別の実施形態では、本発明の亜塩素酸水は、塩素酸ナトリウム水溶液に、該水溶液のpH値を3.4以下に維持させることができる量および濃度の硫酸またはその水溶液を加えて反応させることにより、塩素酸を発生させ、次いで該塩素酸の還元反応に必要とされる量と同等、もしくはそれ以上の量の過酸化水素を加えることにより亜塩素酸を生成させた水溶液に、無機酸または無機酸塩もしくは有機酸または有機酸塩のうちのいずれか単体または2種類以上の単体もしくはこれらを併用したものを加え、pH値を3.2から8.5の範囲内に調整することにより、生成することができる。
【0047】
さらにまた、別の実施形態では、本発明の亜塩素酸水は、塩素酸ナトリウム水溶液に、該水溶液のpH値を3.4以下に維持させることができる量および濃度の硫酸またはその水溶液を加えて反応させることにより、塩素酸を発生させ、次いで該塩素酸の還元反応に必要とされる量と同等、もしくはそれ以上の量の過酸化水素を加えることにより亜塩素酸を生成させた水溶液に、無機酸または無機酸塩のうちのいずれか単体または2種類以上の単体もしくはこれらを併用したものを加えた後、無機酸または無機酸塩もしくは有機酸または有機酸塩のうちのいずれか単体または2種類以上の単体もしくはこれらを併用したものを加え、pH値を3.2から8.5の範囲内に調整することにより、生成することができる。
【0048】
また、別の実施形態では、上記方法において無機酸は、炭酸、リン酸、ホウ酸または硫酸を用いることができる。
【0049】
さらにまた、別の実施形態では、無機酸塩が、炭酸塩、水酸化塩、リン酸塩またはホウ酸塩を用いることができる。
【0050】
また、別の実施形態では、炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムまたは炭酸水素カリウムを用いることができる。
【0051】
さらに、別の実施形態では、水酸化塩としては、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムを用いることができる。
【0052】
さらにまた、別の実施形態では、リン酸塩としては、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウムまたはリン酸二水素カリウムを用いることができる。
【0053】
また、別の実施形態では、ホウ酸塩としては、ホウ酸ナトリウムまたはホウ酸カリウムを用いることができる。
【0054】
さらに、別の実施形態では、有機酸としては、コハク酸、クエン酸、リンゴ酸、酢酸または乳酸を用いることができる。
【0055】
さらにまた、別の実施形態では、有機酸塩としては、コハク酸ナトリウム、コハク酸カリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、リンゴ酸ナトリウム、リンゴ酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、乳酸ナトリウム、乳酸カリウムまたは乳酸カルシウムを用いることができる。
【0056】
細菌殺傷剤として使用されうる亜塩素酸(HClO)を含む水溶液(亜塩素酸水)の製造方法では、塩素酸ナトリウム(NaClO)の水溶液に、硫酸(HSO)またはその水溶液を加えて酸性条件にすることで得られた塩素酸(HClO)を、還元反応により亜塩素酸とするために必要な量の過酸化水素(H)を加えることにより、亜塩素酸(HClO)を生成する。この製造方法の基本的な化学反応は、下記のA式、B式で表わされる。
【化1】

A式では塩素酸ナトリウム(NaClO)水溶液のpH値が酸性内に維持できる量および濃度の硫酸(HSO)またはその水溶液を加えることで塩素酸を得ることを示している。次いで、B式では、塩素酸(HClO)は、過酸化水素(H)で還元され、亜塩素酸(HClO)が生成されることを示している。
【0057】
【化2】
【0058】
その際に、二酸化塩素ガス(ClO)が発生するが(C式)、過酸化水素(H)と共存させることにより、D~F式の反応を経て、亜塩素酸(HClO)を生成する。
【0059】
ところで、生成された亜塩素酸(HClO)は、複数の亜塩素酸分子同士が互いに分解反応を起したり、塩化物イオン(Cl)や次亜塩素酸(HClO)およびその他の還元物の存在により、早期に二酸化塩素ガスや塩素ガスへと分解してしまうという性質を有している。そのため、細菌殺傷剤として有用なものにするためには、亜塩素酸(HClO
)の状態を長く維持できるように調製する必要がある。
【0060】
そこで、上記方法により得られた亜塩素酸(HClO)もしくは二酸化塩素ガス(ClO)またはこれらを含む水溶液に無機酸、無機酸塩、有機酸または有機酸塩をいずれか単体、または2種類以上の単体もしくはこれらを併用したものを加えることによって、遷移状態を作り出し、分解反応を遅らせることで長時間にわたって亜塩素酸(HClO)を安定的に維持することができる。
【0061】
1つの実施形態では、上記方法により得られた亜塩素酸(HClO)もしくは二酸化塩素ガス(ClO)またはこれらを含む水溶液に無機酸または無機酸塩、具体的には炭酸塩や水酸化塩を単体もしくは、2種類以上の単体もしくはこれらを併用して加えたものを利用することができる。
【0062】
別の実施形態では、無機酸または無機酸塩、具体的には炭酸塩もしくは水酸化塩を単体もしくは2種類以上の単体またはこれらを併用して加えた水溶液に、無機酸、無機酸塩、有機酸もしくは有機酸塩を単体もしくは2種類以上の単体で、またはそれらを併用して加えるものを利用することができる。
【0063】
加えて、さらに別の実施形態では、上記方法によって製造された水溶液に、無機酸、無機酸塩、有機酸もしくは有機酸塩を単体もしくは2種類以上の単体で、またはそれらを併用して加えたものを利用することができる。
【0064】
上記無機酸としては、炭酸、リン酸、ホウ酸または硫酸が挙げられる。また、無機酸塩としては、炭酸塩、水酸化塩のほか、リン酸塩またはホウ酸塩が挙げられ、更に具体的にいえば、炭酸塩は、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化塩は、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、リン酸塩は、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、ホウ酸塩は、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウムを用いるとよい。さらに、上記有機酸としては、コハク酸、クエン酸、リンゴ酸、酢酸または乳酸が挙げられる。また、有機酸塩では、コハク酸ナトリウム、コハク酸カリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、リンゴ酸ナトリウム、リンゴ酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、乳酸ナトリウム、乳酸カリウムまたは乳酸カルシウムが適している。
【0065】
酸および/またはその塩を加えた場合においては、一時的にNa+ClO ⇔ Na-ClOやK+ClO ⇔ K-ClOやH+ClO ⇔ H-ClOといった遷移の状態が作り出され、亜塩素酸(HClO)の二酸化塩素(ClO)への進行を遅らせることができる。これにより、亜塩素酸(HClO)を長時間維持し、二酸化塩素(ClO)の発生が少ない亜塩素酸(HClO)を含む水溶液を製造することが可能となる。
【0066】
以下に、亜塩素酸塩の酸性溶液中の分解を表わす。
【0067】
【化3】
【0068】
この式で表されるように、亜塩素酸塩水溶液のpHにおける分解率は、そのpHが低くなるほど、すなわち酸が強くなるほど、亜塩素酸塩水溶液の分解率が大きくなる。すなわち、上記式中の反応(a)(b)(c)の絶対速度が増大することになる。例えば、反応(a)の占める割合はpHが低くなるほど小さくなるが、全分解率は大きく変動し、すなわち大となるため、二酸化塩素(ClO)の発生量もpHの低下とともに増大する。このため、pH値が低ければ低いほど殺菌や漂白は早まるが、刺激性の有害な二酸化塩素ガス(ClO)によって作業が困難になったり、人の健康に対しても悪い影響を与えることになる。また、亜塩素酸の二酸化塩素への反応が早く進行し、亜塩素酸は不安定な状態になり、殺菌力を維持できる時間も極めて短い。
【0069】
そこで、亜塩素酸(HClO)を含む水溶液に上記無機酸、無機酸塩、有機酸もしくは有機酸塩を加える場合には、二酸化塩素の発生の抑制や殺菌力とのバランスの観点から、pH値を3.2~8.5の範囲内で調整する。そして、細菌殺傷の点から、たとえば、好ましい実施形態では、pH6.5以上の中性~アルカリ性側で、グラム陽性菌である黄色ブドウ球菌に対して効果が高かった。また、好ましい実施形態では、pH6.5以下の酸性側で、グラム陰性菌である腸球菌および緑膿菌に対して効果が高かった。したがって、細菌殺傷の点でも必ずしも酸性度が強いことが重要ではないことが驚くべきことに判明した。pH6.5付近であれば、グラム陽性菌およびグラム陰性菌の両方を効果的に細菌を殺傷しうるといえる。また、亜塩素酸ナトリウムとの峻別という意味では、本発明の細菌殺傷剤はpH7.0未満であることが好ましいが本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、殺菌すべき対象に応じて最適な用途を提供するという点で従来にない殺菌剤としての用途を提供するものである。
【0070】
本発明は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、多剤耐性緑膿菌、およびバンコマイシン耐性腸球菌等の薬剤耐性菌に対して効果を有することが示された。本発明の殺菌剤は、使用後に分解されてしまうことから、原理的に薬剤耐性菌が発生することは考えられない。そして、理論に束縛されることを望まないが、現在発生している代表的な薬剤耐性菌に対してpHの最適な値は異なるもののいずれも同程度の濃度で作用することが示されたことから、本発明の細菌殺傷剤は、薬剤耐性菌一般に効果があると理解される。また、pH6.5付近では、試験した薬剤耐性菌のいずれにも効果があると判明したことから、適切にpHを調節することによって、汎用の薬剤耐性菌に対する細菌殺傷剤(薬剤耐性菌殺傷剤)を提供することができる。
【0071】
したがって、1つの局面では、本発明は、亜塩素酸水を含む細菌殺傷剤であって、グラム陰性菌に対して適用される場合酸性とされ、グラム陽性菌に対して適用される場合中性とされる、細菌殺傷剤を提供する。好ましくは、本発明で使用される酸性は、pH6.5以下であり、中性は、pH6.5以上である。本発明の細菌殺傷剤は、本明細書に記載の任意の事項および公知の情報、例えば、特許文献1等の情報を用いて製造することができる。
【0072】
別の局面では、本発明の細菌殺傷剤は、亜塩素酸水と、pH調整剤、例えば、酸性および/または中性を付与する薬剤とを備えるキットとして提供される。あるいは、本発明の細菌殺傷剤は、約pH6.5のpHで提供される。この場合は、グラム陽性菌およびグラム陰性菌の両方に対して有効であることが理解される。pH調整剤、例えば、酸性および/または中性を付与する薬剤は、本明細書に記載の任意の事項および公知の情報を用いて実施することができる。
【0073】
1つの実施形態では、本発明が対象とする細菌は病原菌を含む。したがって、本発明は、医療現場で有効である。本発明が有効である細菌としては、たとえば、前記細菌は、大
腸菌、黄色ブドウ球菌、バチルス属菌、パエニバチルス属菌、緑膿菌、腸球菌、サルモネラ菌、カンピロバクターおよび歯周病菌等を挙げることができるがそれに限定されない。したがって、1つの実施形態では、本発明はまた、亜塩素酸水を含む歯周病菌殺傷剤を提供する。
【0074】
1つの局面において、本発明は、亜塩素酸水を含む細菌殺傷剤であって、該殺傷剤は、接触時に少なくとも25ppmの濃度で対象細菌に接触される、細菌殺傷剤を提供する。このような低濃度で対象細菌を殺傷しうることは、従来の結果からは予想できなかった。
【0075】
好ましい実施形態では、前記濃度は、少なくとも50ppmである。本発明では、接触時に亜塩素酸が50ppm以上あることで、代表的な腸管出血性大腸菌(O157,O111、O26等)やサルモネラ菌は1分間の接触で殺傷することができたことが実証されている。黄色ブドウ球菌にしても50ppmの接触時濃度があれば5分間で殺傷することができた。このような接触時の濃度の設定は、対象のおおよその体積がわかることから、最終の体積をもとに、適切な量を算出することによって、達成することができる。
【0076】
なお、本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0077】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0078】
必要な場合、以下の実施例で用いる動物の取り扱いは、ヘルシンキ宣言に基づいて行った。試薬類は具体的には実施例中に記載した製品を使用したが、他メーカー(Sigma,和光純薬、ナカライ、等)の同等品でも代用可能である。
【0079】
(標本細菌)
本実施例では、代表的に以下の細菌を用いた。実施例7における細菌は実施例7において示す。
【0080】
歯周病菌:Fusobacteriumnucleatum F-1(選択培地:BHI寒天培地)
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌:Methicillin-resistant Staphylococcus aureus COL(MRSA;選択培地:BHI寒天培地)
多剤耐性緑濃菌:Multidrug-resistant Pseudomonas
aeruginosa TUH(MDRP;選択培地:BHI寒天培地)
バンコマイシン耐性腸球菌:Vancomycin-resistant Enterococcus faecalis BM1447(VRE;選択培地:BHI寒天培地)
(亜塩素酸水の定量法)
本品約5 gを精密に量り,水を加えて正確に100mlとする。この試料液20 mlを正確に量り、ヨウ素ビンに入れ、硫酸(1→10)10 mlを加えた後、ヨウ化カリウム1 gを加え、直ちに密栓をしてよくふり混ぜる。ヨウ素瓶の上部にヨウ化カリウム試液を流し込み、暗所に15分間放置する。次に栓を緩めてヨウ化カリウム試液を流し
込み、直ちに密栓してよくふり混ぜた後、遊離したヨウ素を0.1 mol/Lチオ硫酸ナトリウムで滴定する(指示薬 デンプン試液)。指示薬は液の色が淡黄色に変化した後に加える。別に空試験を行い補正する。0.1 mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液1 ml=1.711 mg HClO)。
【0081】
(実施例1:亜塩素酸水の生産)
以下の実施例で使用される亜塩素酸水製剤は、以下のように生産した。本明細書では、亜塩素酸水は「亜水」と略称することがあるが、同義である。
亜塩素酸水の成分分析表
【0082】
【表2】
【0083】
この亜塩素酸水を用いて、以下の配合に基づき、亜塩素酸水製剤を製造した
【0084】
【表3】
【0085】
【表4】
【0086】
(殺菌作用(細菌殺傷作用)の測定法)
多剤耐性菌に対する亜塩素酸水の殺菌(細菌殺傷)効果
実施例1の調製方法に基づき調製した「亜塩素酸水で製造した亜塩素酸水製剤」を上記の「亜塩素酸水」の定量法に基づき「亜塩素酸水」の濃度を測定し、被検菌との接触時の「亜塩素酸水」の有効塩素濃度が10ppm、50ppm、100ppm、200ppm、500ppmになるように緩衝液の調製方法に基づき調製した各緩衝液を用いて調製した。
【0087】
試験菌液(MRSA,MDRPまたはVRE等)は0.1ml:1-2×10/mlをクエン酸リン酸緩衝液0.8ml(pH8.5、7.5、6.5、5.5または4.5)中に用意し、試験消毒剤0.1ml用意した。終濃度は、50ppm,100ppm,200ppm,500ppm等とし、25℃で30秒、1分または3分間、インキュベーションした。総量は0.02mlであった。
【0088】
次に、チオ硫酸ナトリウム、ポリソルベート80およびレシチンを含む中和液0.18ml(Difico D/E Neutralizing Broth)を用いて中和し、0.1mlをLBorBHI寒天平板に画線した。
【0089】
(対照薬剤)
対照の薬剤としては、亜塩素酸ナトリウムを用いた。いずれも和光純薬等から入手可能である。
【0090】
(実施例2:Methicillin-resistant Staphylococcus aureus COLに対する効果)
本実施例では、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対する効果を確認した。方法は上記(殺菌作用(細菌殺傷作用)の測定法)に準じた。結果は図2に示す。
【0091】
示されるように、おおむね100ppm以上でMRSAはほぼ殺傷されたことが示された。特に、100ppmでpHが高いpH6.5以上の中性~アルカリ性の領域では、完全にMRSAが殺傷されることがわかった。このことから、従前の予想に反してMRSA
等のグラム陽性細菌では中性~アルカリ領域が好ましいことが理解される。より詳細には、100ppmでpHが高いpH6.5~8.5、亜塩素酸ナトリウムとの峻別を考慮するとpH6.5以上7.0未満の中性の領域では、完全にMRSAが殺傷されることがわかった。このことから、従前の予想に反してMRSA等のグラム陽性細菌では中性領域が好ましいことが理解される。
【0092】
(実施例3:Multidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa TUHに対する効果)
本実施例では、多剤耐性緑膿菌に対する効果を確認した。方法は上記(殺菌作用(細菌殺傷作用)の測定法)に準じた。結果は図3に示す。
【0093】
示されるように、おおむね100ppm以上でMDRPはほぼ殺傷され、500ppmでは完全に殺傷されたことが示された。特に、50ppmでもpHが低いpH6.5以下の酸性領域では、完全にMDRPが殺傷されることがわかった。このことから、従前の予想に反して、抗菌効果は、菌によって好ましいpHが異なることがわかった。
【0094】
(実施例4:Vancomycin-resistant Enterococcus
faecalis BM1447に対する効果)
本実施例では、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)に対する効果を確認した。方法は上記(殺菌作用(細菌殺傷作用)の測定法)に準じた。結果は図4に示す。
【0095】
示されるように、おおむね200ppm以上でVREはほぼ殺傷されたことが示された。特に、100ppmでもpHが低いpH6.5以下の酸性領域ではVREが殺傷されることがわかった。このことから、従前の予想に反して、抗菌効果は、菌によって好ましいpHが異なることがわかった。
【0096】
(多剤耐性菌に対する亜塩素酸水の殺菌効果のまとめ)
亜塩素酸水は多剤耐性菌3株に対して優れた殺菌能を示し、100 ppm以上の濃度においては30秒で、99%以上の被験菌株を完全に殺傷した。
【0097】
亜塩素酸水の多剤耐性菌に対する殺菌効果に及ぼすpHの影響については菌種により異なり、グラム陽性菌(MRSA, VRE)ではpH6.5以下の酸性側で、グラム陰性菌ではpH6.5以上の中性~アルカリ側で殺菌能が増強する傾向を認めた。
【0098】
(実施例5:亜塩素酸水の尿中汚染細菌に対する増殖抑制効果の検討)
本実施例では、亜塩素酸水の尿中汚染細菌(MDRP)およびMRSAに対する増殖抑制効果を検討した。試験方法は、上記実施例に準ずるものであり、試料も上述のように準備したものを使用した。
【0099】
試験は、同様の試料を用いて2回行った。
【0100】
結果を図5および6に示す。図5および6は、同様の試験を2回実施し、これを纏めたものを試験結果として示す。
【0101】
示されるように、亜塩素酸水は、亜塩素酸ナトリウムおよび次亜塩素酸ナトリウムと同様のMDRPおよびMRSAの増殖抑制効果が見られた。
【0102】
(実施例6:歯周病菌(Fusobacterium nucleatum F-1)に対する試験結果)
本実施例では、歯周病菌としてFusobacterium nucleatum F
-1に対する亜塩素酸水の効果を確認した。以下にその手法および結果を示す。
【0103】
(方法)
菌液として、6.6×10cfu (0.1 ml)を用い、各種試験液 (0.1
ml;亜塩素酸水;次亜塩素酸ナトリウム;高度さらし粉および亜塩素酸ナトリウムを用い、緩衝液としてクエン酸リン酸緩衝液(0.8ml;pH8.5、7.5、6.5、5.5、4.5)を用いた。これを、25℃、30分で嫌気培養し、コロニー数より生残菌数を算出した。
【0104】
結果を図9におよび10に示す。亜塩素酸水は歯周病菌に対して優れた細菌殺傷効果を示し、その効果は次亜塩素酸Naと同等かそれ以上であり、30分で生残菌数を10-5以下に低下させた。また、歯周病菌(Fusobacteriumnucleatum F-1)に対しては50ppmで効果があった。
【0105】
以上から、亜塩素酸水は歯周病菌に対して優れた細菌殺傷効果を有するといえる。
【0106】
(実施例7;感染性病原菌に対する細菌殺傷効果確認試験結果)
本実施例では、感染性病原菌に対する細菌殺傷効果確認試験を行った。方法および結果は以下のとおりである。
【0107】
(試験方法)
亜塩素酸水の定量法は上述した(亜塩素酸水の定量法)に記載のとおりである。
【0108】
(使用被検菌)
1) 腸管出血性大腸O157:Escherichia coli O157 sakai株(1996,RIMD0509952)
2) 腸管出血性大腸O111:Escherichia coli O111患者からの分離株(2008,RIMD05092028)
3) 腸管出血性大腸O26 :Escherichia coli O26 集団食中毒からの分離株(2000,RIMD05091992)
4) 大腸菌:Escherichia coli IFO3927
5) メチシリン耐性黄色ブドウ球菌:Methicillin-resistant Staphylococcusaureus COL
6) 黄色ブドウ球菌:Stanphylococcus aureus IFO12732
7) 薬剤耐性緑濃菌:Multidrug-resistant Pseudomonasaeruginosa TUH
8) 緑濃菌:
9) バンコマイシン耐性腸球菌:Vancomycin-resistant Enterococcusfaecalis BM144710) 腸球菌:
11)サルモネラ菌:Salmonella Enteritidis IFO3313※ 4)大腸菌、6)黄色ブドウ球菌、8)緑濃菌、10)腸球菌は、現場におけるモニタリング時の指標菌として参照することを目的として設定した。
【0109】
(被検菌の調製方法)
1) O157:腸管出血性大腸菌O157:H7 (選択培地:マッコンキー培地)
2) O111:腸管出血性大腸菌O111:HNM(選択培地:マッコンキー培地)
3) O26:腸管出血性大腸菌O26:H11(選択培地:マッコンキー培地)
4) 大腸菌:Escherichia coli IFO3927(選択培地:デゾキシコレート培地)
選択培地に画線し、37℃で24時間、培養した被検菌を各々滅菌生理食塩水に懸濁し、菌液(10 個/ml)を調製した。
5) サルモネラ菌:Salmonella Enteritidis IFO3313(選択培地:DHL培地)
選択培地に画線し、37℃で24時間、培養した被検菌を各々滅菌生理食塩水に懸濁し、菌液(10 個/ml)を調製した。
6) 黄色ブドウ球菌:Stanphylococcus aureus IFO 12732(選択培地:卵黄加マンニット食塩培地)
選択培地に画線し、37℃で24~48時間、培養した被検菌を各々滅菌生理食塩水中に均一に懸濁し、菌液(10個/ml)を調製した。
【0110】
(操作方法)
調製方法に基づき調製した「亜塩素酸水」を上記の「亜塩素酸水」の定量法に基づき「亜塩素酸水」の濃度を測定し、被検菌との接触時の「亜塩素酸水」の有効塩素濃度が10ppm、50 ppm、100 ppm、200 ppm、500 ppmになるように緩衝液の調製方法に基づき調製した各緩衝液を用いて調製した。それらの液9 mlを各々滅菌済試験管に加え、これらの検体を試料液とした。これらの試料液に被検菌液1mlを加え、均一に混合し、1分後、5分後、10分後に、再度均一に混合し、各1 mlを採取した。その採取した液を、滅菌済の0.01 mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液(各種緩衝液で調整)9 mLが入った試験管に加え、均一に混合し中和した後に、各0.1 mLを採取し、シャーレ1プレートに撒く。その後、各選択培地を約20 mL加えて混釈し、各温度と時間で培養後、生残菌数を測定した。
【0111】
(試験結果)
感染症の原因菌、並びに、当該原因菌の指標菌に対する「亜塩素酸水」の細菌殺傷効果確認試験結果
【0112】
【表5】
【0113】
【表6】
【0114】
【表6A】
【0115】
(実施例8;鶏肉に付着させた感染性病原菌に対する細菌殺傷効果確認試験結果)
本実施例では、感染性病原菌に対する細菌殺傷効果確認試験を行った。方法および結果は以下のとおりである。
【0116】
(試験方法)
亜塩素酸水の定量法は上述した(亜塩素酸水の定量法)に記載のとおりである。
【0117】
(使用被検菌)
1)腸管出血性大腸O157:Escherichia coli O157 sakai株(1996,RIMD0509952)
2)カンピロバクター:Campylobacter jejuni JCM2013
(被検菌の調製方法)
1)O157:腸管出血性大腸菌O157:H7 (選択培地:マッコンキー培地)
選択培地に画線し、37℃で24時間、培養した被検菌を各々滅菌生理食塩水に懸濁し、菌液(10 個/ml)を調製した。
2)カンピロバクター:Campylobacter jejuni JCM2013(選択培地:CCDA平板培地)
選択培地に画線し、37℃で48時間、微好気条件下で培養した被検菌のシングルコロニーを白金耳で釣菌し、BHI培地50mL×3に植菌し、37℃で48時間、微好気条件下で震盪培養(震盪速度:100rpm)した。
【0118】
(対象食材)
鶏肉(ムネ肉):量販店で国産(産地不明)の鶏ムネ肉を試験前日に約2kg購入したものを用いた。
【0119】
(操作方法)
各培養した菌液を遠心分離(遠心速度:6000rpm)をかけ、上清の液体培地を捨て、滅菌済の生理食塩水で10程度になるように希釈調製した菌液を等量手動式噴霧器に入れ、10菌懸濁液を作成した。
【0120】
下記操作方法で試験を実施した。
【0121】
【表7】
【0122】
(試験結果)
結果を以下の表8および9に示す。
【0123】
【表8】
【0124】
【表9】
【0125】
(結論・考察)
感染性病原菌として、腸管出血性大腸菌O157、カンピロバクターでも殺傷しうることが実証された。
【0126】
以上から、他のグラム陰性菌についても同様に有効であることが明らかになった。
【0127】
実施例の結果から、pH6.5であれば、グラム陽性およびグラム陰性の両方に有効な細菌殺傷剤として利用しうることも明らかになった。
【0128】
(実施例9:無菌マウス飼育用アイソレーターから分離した細菌類の細菌殺傷効果)
本実施例では、無菌マウス飼育用アイソレーターが環境細菌に汚染された為、このアイソレーターから細菌類を分離し、各種対象消毒剤を用いて、細菌殺傷効果をIn vitroで確認した。
【0129】
<分離菌種>
(1)Paenibacillus属細菌
(2)Bacillus属細菌
(3)N.D.
3種の細菌を分離し、16SrDNAを解析した結果、上記の菌種を同定した(PaenibacillusやBacillusの属名は解析出来たが、類縁の種が多数存在する為、種名は同定出来てない。また、No.(3)の菌種に関しては属名を同定することが出来なかった)。
【0130】
<対象薬剤>
Control:滅菌イオン交換水
(1)次亜塩素酸ナトリウム(南海化学社製)
(2)上記実施例で製剤化した「亜塩素酸水」
(3)Exspor (エコラボ社製:二酸化塩素)
<試験方法>
(1)BHI寒天培地で培養した各分離菌のシングルコロニーを5mLのBHI培地で37℃、2日間培養した。
(2)培養した菌液を遠心分離(3000×g、4℃、10min)によって集菌後、滅菌生理食塩水(0.85%)で2回洗浄し、約10CFU/mlの菌液を調製した(Inoculam値)。
(3)各対象薬剤を滅菌イオン交換水で所定濃度になるように希釈調製し、滅菌済試験管に9mLずつ分注した。
(4)この薬剤入試験管に(2)で調製した菌液を1 mL添加し、ボルテックスを用いて、よく混合した。
(5)所定時間に(4)の試験管から1 mL抜取、9mL 0.05mol/Lのチオ硫酸Na液に添加・混合し、中和を行った。
(6)中和処理後の液1 mLをシャーレに撒き、BHI寒天培地で混釈し、37℃、24時間培養を行い生育してきた生残菌数を測定した。
【0131】
この操作を3回行い、平均値±標準偏差(S.D.)で細菌殺傷評価を行った。
<結果>
【0132】
【表10】
【0133】
【表11】
【0134】
上記表10で使用されたExspor(日本クレア)は、BASE(基剤)とACTIVATOR(活性剤)を使用直前に混合する二剤型の殺菌剤であり、BASE(基剤)の主成分は亜塩素酸ナトリウム、ACTIVATOR(活性剤)の主成分は有機酸であり、混合して発生する二酸化塩素ガスを用いて、噴霧し、ガス殺菌する目的で使用されるものである。しかしながら、本試験(In vitro)では、試験形態から、二酸化塩素ガスを評価することは出来ない為、2剤を混合した混合液をそのまま使用しており、この混合液中には、殺菌成分である二酸化塩素と、亜塩素酸の両方が存在しているために、結果として、亜塩素酸水よりも高い殺菌効果が得られたものと考えられる。
【0135】
しかしながら、Exsporは、使用時に用時調製をするという手間や、あくまで、二酸化塩素ガスを発生させることで使用するように設計されており、二酸化塩素ガスの人体への影響が懸念される。他方で、亜塩素酸水は、1剤であることから調製時の手間がかからず、また、二酸化塩素ガスの発生が少ない為に、ほぼ同等の殺菌効果でありながら、Exsporよりも安全に使用することができる。このように、本発明の亜塩素酸水は、同程度の殺菌効果を発揮するために安全に使用することができるということが示された。
【0136】
以上のように、本発明の好ましい実施形態および実施例を用いて本発明を例示してきたが、本発明はこれに限定されず、特許請求の範囲に記載した構成の範囲内において様々な態様で実施することができ、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対
する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明の亜塩素酸水を含む細菌殺傷剤は、細菌殺傷剤等の殺菌剤、食品添加物、消毒薬、医薬部外品、医薬品等として利用することができ、また、pHを調節することによりさらに有効な細菌殺傷剤等の殺菌剤、食品添加物、消毒薬、医薬部外品、医薬品等として利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図6-2】
図7
図8
図9
図10