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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038209
(43)【公開日】2023-03-16
(54)【発明の名称】光学積層体、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/113 20150101AFI20230309BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20230309BHJP
   G01N 21/958 20060101ALI20230309BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20230309BHJP
【FI】
G02B1/113
C23C14/06 N
G01N21/958
B32B9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207865
(22)【出願日】2022-12-26
(62)【分割の表示】P 2021121879の分割
【原出願日】2021-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100215935
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 茂輝
(74)【代理人】
【識別番号】100141999
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 敬一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 嗣人
(57)【要約】
【課題】欠陥箇所を表示するマーカー層への異常放電を防止し、かつ少ない工程で低コストに欠陥箇所のマーキングが可能な光学積層体、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】基材と、光学機能層とが積層されてなる光学積層体であって、前記光学機能層は、無機酸化物、または無機窒化物を含み、前記光学機能層の表面には、マーカー層が局部的に形成され、前記マーカー層は、半導体材料からなり、波長400nm~700nmの範囲の光線に対する反射率が40%以上であることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、光学機能層とが積層されてなる光学積層体であって、
前記光学機能層は、無機酸化物、または無機窒化物を含み、
前記光学機能層の表面には、マーカー層が局部的に形成され、
前記マーカー層は、半導体材料からなり、波長400nm~700nmの範囲の光線に対する反射率が40%以上であることを特徴とする光学積層体。
【請求項2】
前記マーカー層は、ゲルマニウム、またはケイ素を含むことを特徴とする請求項1に記載の光学積層体。
【請求項3】
前記マーカー層は、前記光学機能層の欠陥部位に少なくとも一部が重ねて形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の光学積層体。
【請求項4】
前記マーカー層は、スパッタリングによって形成されたスパッタ膜であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の光学積層体。
【請求項5】
前記光学積層体は反射防止フィルムであり、
前記光学機能層は、低屈折率層と高屈折率層とが交互に積層された積層体からなることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の光学積層体。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の光学積層体の製造方法であって
前記基材に前記光学機能層を形成する光学機能層形成工程と、
前記光学機能層の欠陥を検査する欠陥検査工程と、
前記欠陥検査工程で欠陥が検出された際に、前記欠陥を含む領域に、前記マーカー層を形成する欠陥領域表示工程と、を有することを特徴とする光学積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学機能層に生じた欠陥位置を表示するマーカー層を備えた光学積層体、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、フラットパネルディスプレイ(FPD)、タッチパネル、太陽電池等においては、入射する外光の表面反射を防止して視認性を向上させるために、様々な構造の光学積層体(反射防止フィルム)が用いられている。
【0003】
従来、反射防止フィルムとして、透明基材に高屈折率層と低屈折率層とを順次積層した多層膜(光学機能層)を備えた反射防止フィルムが提案されている。こうした反射防止フィルムの製造にあたっては、透明基材の一面に、例えばスパッタリングなどによって金属酸化膜や金属窒化膜を積層することにより高屈折率膜や低屈折率膜からなる光学機能層を形成する。その後、更に必要に応じて防汚層の形成など表面処理を行うことが一般的である。
【0004】
こうした反射防止フィルムを製造する際に、光学機能層に欠陥が生じることがある。こうした欠陥は、光学検査装置などによって検出される。そして、光学機能層に欠陥が検出された場合、欠陥の位置にマーキングを行い、後工程等で容易に識別可能とする方法が知られている(例えば、特許文献1~3)。
【0005】
例えば、特許文献1には、検出された欠陥を含む領域のフィルム表面に、エンボスロールをプレスしてエンボス加工を行うことにより、欠陥箇所にマーキングを形成するマーキング形成方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、検出された欠陥を含む領域に 凹部や貫通孔の形成、インクの塗布などを行うことにより、欠陥箇所にマーキングを形成する両面積層フィルムの製造方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、光学フィルムの欠陥箇所にマーキングペンを用いてマークを書き込む欠陥マーキング方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、これら特許文献1~3に開示された方法は、光学機能層を形成するスパッタリング装置とは別に、エンボスを形成する転写装置や、インクの噴射装置などを設ける必要があり、工程が複雑化して製造コストが高くなる懸念がある。また、エンボスなど物理的にプレスを行う場合、更なる欠陥が発生する懸念もある。
【0009】
このため、例えば、光学機能層の形成とともに、欠陥箇所の表示にもスパッタリング装置を用いて、欠陥箇所にスパッタリング膜を形成することで、欠陥箇所のマーキングを行うことも考えられる。こうした方法では、欠陥箇所のマーキングも、光学機能層を形成するスパッタリングと同一の方法で成膜するため、インラインでの工程が可能になるというメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2017-137527号公報
【特許文献2】特開2019-173061号公報
【特許文献3】特開2014-016217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、欠陥箇所のマーキングをスパッタリングで形成する場合、視認性を高めるために反射率の高い金属材料を用いてマーキングを行うことが考えられる。しかしながら、金属材料を用いて形成した欠陥のマーカー層は、導電性の金属スパッタリング膜であるために、後工程でコロナ処理などを行う場合、このマーカー層への異常放電を誘発し、光学機能層に更なるダメージを与える懸念があった。
【0012】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、欠陥箇所を表示するマーカー層への異常放電を防止し、かつ少ない工程で低コストに欠陥箇所のマーキングが可能な光学積層体、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
即ち、上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の光学積層体は、基材と、光学機能層とが積層されてなる光学積層体であって、前記光学機能層は、無機酸化物、または無機窒化物を含み、前記光学機能層の表面には、マーカー層が局部的に形成され、前記マーカー層は、半導体材料からなり、波長400nm~700nmの範囲の光線に対する反射率が40%以上であることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、光学機能層の欠陥箇所に形成するマーカー層を、波長400nm~700nmの範囲の光線に対する反射率が40%以上である半導体材料によって形成することで、後工程での可視光線による欠陥箇所の検出が容易であり、かつ、後工程で光学積層体10にコロナ処理などを行う際に、マーカー層に向けて異常放電が発生することを効果的に抑制することが可能になる。
【0015】
また、本発明では、前記マーカー層は、ゲルマニウム、またはケイ素を含んでいてもよい。
【0016】
本発明によれば、前記マーカー層は、前記光学機能層の欠陥部位に少なくとも一部が重ねて形成されていてもよい。
【0017】
本発明によれば、前記マーカー層は、スパッタリングによって形成されたスパッタ膜であってもよい。
【0018】
本発明によれば、前記光学積層体は反射防止フィルムであり、前記光学機能層は、低屈折率層と高屈折率層とが交互に積層された積層体から構成されていてもよい。
【0019】
本発明の光学積層体の製造方法は、前記各項に記載の光学積層体の製造方法であって、前記基材に前記光学機能層を形成する光学機能層形成工程と、前記光学機能層の欠陥を検査する欠陥検査工程と、前記欠陥検査工程で欠陥が検出された際に、前記欠陥を含む領域に、前記マーカー層を形成する欠陥領域表示工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、欠陥箇所を表示するマーカー層への異常放電を防止し、かつ少ない工程で低コストに欠陥箇所のマーキングが可能な光学積層体、およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態の光学積層体を上から見た時の平面図である。
図2図1の光学積層体の断面図である。
図3】光学積層体の製造方法に用いる光学積層体製造装置を示す模式図である。
図4】実施例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態の光学積層体、およびその製造方法について説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0023】
(光学積層体)
本発明の一実施形態の光学積層体として、反射防止フィルムを例示して説明する。
図1は、本発明の一実施形態の光学積層体を上から見た時の平面図である。また、図2は、図1の光学積層体の断面図である。
本実施形態の光学積層体(反射防止フィルム)10は、透明基材(基材)11と、この透明基材11の一面に形成された光学機能層12と、を有する。また、光学機能層12の欠陥箇所Dに重ねるようにマーカー層13が形成されている。
【0024】
透明基材11は、可視光域の光を透過可能な透明材料から形成されればよく、例えば、プラスチックフィルムが好適に用いられる。プラスチックフィルムの構成材料の具体例としては、ポリエステル系樹脂、アセテート系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、が挙げられる。
【0025】
光学特性を著しく損なわない限りにおいて、透明基材11には補強材料が含まれていても良く、例えば、セルロースナノファイバー、ナノシリカ等が挙げられる。特に、ポリエステル系樹脂、アセテート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂が好適に用いられる。具体的には、トリアセチルセルロース(TAC)基材が好適に用いられる。
また、無機基材としてガラスフィルムを用いることもできる。
【0026】
透明基材11は、光学的機能や物理的機能が付与されたフィルムであっても良い。光学的機能や物理的機能を有する基材の例としては、例えば、偏光板、位相差補償フィルム、熱線遮断フィルム、透明導電フィルム、輝度向上フィルム、バリア性向上フィルムなどが挙げられる。
【0027】
透明基材11の厚みは、特に限定されないが、例えば、25μm以上であることが好ましい。透明基材11の膜厚は、40μm以上であることがより好ましい。
透明基材11の厚みが25μm以上であると、基材自体の剛性が確保され、光学積層体10に応力が加わっても皺が発生し難くなる。透明基材11の厚みが40μm以上であると、より一層皺が生じにくく、好ましい。
【0028】
後述する光学積層体の製造方法のように、ロールtoロールで光学積層体10を製造する場合、透明基材11の厚みは、1,000μm以下であることが好ましく、600μm以下であることがより好ましい。透明基材11の厚みが1000μm以下であると、製造途中の光学積層体10および製造後の光学積層体10をロール状に巻きつけやすく、効率良く光学積層体10を製造できる。また、透明基材11の厚みが1000μm以下であると、光学積層体10の薄膜化、軽量化が可能となる。透明基材11の厚みが600μm以下であると、より効率良く光学積層体10を製造できるとともに、より一層の薄膜化、軽量化が可能となり、好ましい。
【0029】
光学機能層12は、光学機能を発現させる層である。ここでいう光学機能とは、光の性質である反射と透過、屈折をコントロールする機能であり、例えば、反射防止機能、選択反射機能、防眩機能、レンズ機能などが挙げられる。
光学機能層12は、反射防止層、選択反射層、防眩などであればよい。本実施形態では、光学機能層12として反射防止層が形成されている。
【0030】
光学機能層12は、透明基材11側から順に高屈折率層12aと低屈折率層12bとが積層された積層体である。なお、高屈折率層12aと低屈折率層12bの積層数は、本実施形態のような2層以上、任意の層数とすることができる。
【0031】
本実施形態の光学積層体10では、光学機能層12が、低屈折率層12bと高屈折率層12aとを積層した積層体からなるものであるため、低屈折率層12b側から入射した光、例えば外光が光学機能層12によって拡散される。したがって、低屈折率層12b側から入射した外光が、一方向に反射されることを防止する反射防止機能が得られる。よって、こうした光学積層体10を、例えば表示装置の表示面側に設ければ、外光による反射を抑制して表示装置の視認性を高めることができる。
【0032】
光学機能層12は、無機酸化物、または無機窒化物を含む材料から構成される。
低屈折率層12bは、入手の容易さとコストの点から酸化ケイ素(SiO)を用いることができる。SiO単層膜は、無色透明である。例えば、低屈折率層12bは、SiOを50質量%以上含んでいればよい。
【0033】
低屈折率層12bは、SiO以外にも、例えば、耐久性向上の目的でNa、硬度向上の目的でZr、Al、またN、耐アルカリ性向上の目的で、Zr、Alを含有することも好ましい。
【0034】
低屈折率層12bの屈折率は、好ましくは1.20~1.60であり、より好ましくは1.30~1.50である。
また、低屈折率層12bの膜厚は、1nm以上200nm以下の範囲であればよく、反射防止機能を必要とする波長域に応じて適宜選択されればよい。
【0035】
高屈折率層12aとしては、例えば、五酸化ニオブ(Nb、屈折率2.33)、酸化チタン(TiO、屈折率2.33~2.55)、酸化タングステン(WO、屈折率2.2)、酸化セリウム(CeO、屈折率2.2)、五酸化タンタル(Ta、屈折率2.16)、酸化亜鉛(ZnO、屈折率2.1)、酸化インジウムスズ(ITO、屈折率2.06)、酸化ジルコニウム(ZrO、屈折率2.2)などを用いることができる。また、高屈折率層12aに導電特性を付与したい場合、例えば、ITO、酸化インジウム酸化亜鉛(IZO)を用いることもできる。
高屈折率層12aの膜厚は、例えば、1nm以上200nm以下であればよく、反射防止機能を必要とする波長域に応じて適宜選択される。
【0036】
本実施形態の光学機能層12は、高屈折率層12aとして五酸化ニオブ(Nb、屈折率2.33)からなるものを用い、低屈折率層12bとして酸化ケイ素(SiO)からなるもの用いている。
【0037】
なお、光学積層体10は、透明基材11と光学機能層12との間に、ハードコート層や密着層を形成することもできる。
ハードコート層は、バインダー樹脂のみからなるものであってもよいし、バインダー樹脂とともに、透明性を損なわない範囲でフィラーを含むものであってもよい。フィラーとしては、有機物からなるものを用いてもよいし、無機物からなるものを用いてもよいし、有機物および無機物からなるものを用いてもよい。
【0038】
ハードコート層に用いられるバインダー樹脂としては、透明性のものが好ましく、例えば、紫外線、電子線により硬化する樹脂である電離放射線硬化型樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などを用いることができる。また、ハードコート層は、単一の層であってもよく、複数の層が積層されたものであってもよい。また、ハードコート層には、例えば、紫外線吸収性能、帯電防止性能、屈折率調整機能、硬度調整機能など公知の機能が更に付与されていてもよい。
【0039】
密着層は、有機材料膜である透明基材11やハードコート層と、無機材料膜である光学機能層12との密着性を向上させるために形成する層である。密着層は、例えば、酸素欠損状態の金属酸化物もしくは金属からなるものであることが好ましい。酸素欠損状態の金属酸化物とは、化学量論組成よりも酸素数が不足した状態の金属酸化物をいう。酸素欠損状態の金属酸化物としては、例えば、SiOx、ALOx、TiOx、ZrOx、CeOx、MgOx、ZnOx、TaOx、SbOx、SnOx、MnOxなどが挙げられる。
また、金属としては、Si、Al、Ti、Zr、Ce、Mg、Zn、Ta、Sb、Sn、Mn、Inなどが挙げられる。密着層は、例えば、SiOxにおけるxが、0を超え2.0未満であるものであってもよい。
【0040】
密着層の厚みは、透明性を維持し、良好な光学特性を得る観点から、例えば、0nm超え20nm以下であることが好ましく、1nm以上10nm以下であることが特に好ましい。
【0041】
マーカー層13は、光学機能層12の製造段階で生じた欠陥箇所Dに対して、少なくとも一部を重ねるように形成される。
マーカー層13は、波長400nm~700nmの範囲の光線に対する反射率が40%以上の半導体材料から構成される。
【0042】
マーカー層13を構成する半導体材料としては、例えば、単体元素からなる真正半導体や、真正半導体にIII族またはV族の元素を微量加えたp型またはn型半導体、複数の元素から構成される化合物半導体などが挙げられる。
【0043】
本実施形態のマーカー層13は、ゲルマニウム、またはケイ素を含む材料をスパッタリングによって形成したスパッタ膜を用いている。より具体的には、ゲルマニウム、鉄を5~10%含有する鉄シリサイドやチタンシリサイドなどの化合物が挙げられる。
【0044】
このうち、半導体として多用されるシリコンと比較した場合のスパッタリングによる成膜速度や入手容易性から、ゲルマニウムをターゲットにしたスパッタリングによってマーカー層13を形成することが特に好ましい。ゲルマニウムは、半導体材料の中でも成膜レートが高いため、他の半導体材料と比較して低パワーでスパッタリング成膜することができる。これにより、マーカー層13を形成する際に光学機能層12への熱ダメージを抑えることができる。
【0045】
マーカー層13の形成厚みは、所望の反射率が得られれば特に限定はされないが、例えば10nm以上、30nm以下が好ましい。30nmを超える厚みでマーカー層13を形成する場合、成膜に要する時間が長くなり、その分だけスパッタリング時に過剰な熱が加わり、光学機能層12への熱ダメージが大きくなる懸念がある。また、マーカー層13の厚みが10nm未満の場合、所望の反射率が得られずに、特に目視での検出がしにくくなる懸念がある。
【0046】
マーカー層13の導電率は、コロナ放電を抑制可能な範囲、例えば、1×10(S/cm)~1×10-8(S/cm)程度であればよい。
【0047】
マーカー層13の形成範囲は、光学機能層12の欠陥箇所Dの平面形状を完全に覆うように形成しても、欠陥箇所Dの平面形状の一部だけが重なるように形成してもよい。後工程でのマーカー層13の検出容易性と、マーカー層13の成膜速度とを勘案して、成膜範囲を適宜選択すればよい。
【0048】
以上のように、本実施形態の光学積層体10によれば、光学機能層12の欠陥箇所Dに形成するマーカー層13を、波長400nm~700nmの範囲の光線、例えば可視光線に対する反射率が40%以上である半導体材料によって形成することで、後工程での可視光線による欠陥箇所の検出が容易であり、かつ、後工程で光学積層体10にコロナ処理などを行う際に、マーカー層13に向けて異常放電が発生することを効果的に抑制することが可能になる。
【0049】
(光学積層体の製造方法)
次に、上述した実施形態の光学積層体の製造方法の一実施形態を説明する。
本実施形態では、光学積層体10の製造方法の一例として、ロール状に巻き付けられた透明基材11を用いて光学積層体10を製造してロール状に巻き取る、いわゆるロールtoロール方式の製造例に挙げて説明する。
【0050】
まず、ロール状に巻き付けられた透明基材(基材)11を巻き出す。そして、透明基材11の一面11a上に、光学機能層12を形成する光学機能層形成工程を行う。次に、形成した光学機能層12の欠陥の有無を検査する欠陥検査工程を行う。そして、欠陥検査工程において光学機能層12に欠陥が検出された場合、当該欠陥を含む領域に、マーカー層を形成する欠陥領域表示工程を行う。その後、光学機能層12の表面を処理する表面処理工程を行ってから、形成した光学積層体10を巻き取る。
【0051】
なお、透明基材(基材)11を巻き出した後に、透明基材11にハードコート層を形成するハードコート層形成工程や、密着層を形成する密着層形成工程を更に備えていてもよい。また、表面処理工程を行った後に、防汚層を形成する光学機能層形成工程を更に備えていてもよい。
【0052】
本実施形態の光学積層体10の製造方法において、光学機能層形成工程、欠陥検査工程、欠陥領域表示工程、および表面処理工程は、製造途中の光学積層体を減圧下の状態に維持したまま連続して行うことが好ましい。これら光学機能層形成工程、欠陥検査工程、欠陥領域表示工程、および表面処理工程を、製造途中の光学積層体を減圧下の状態に維持したまま連続して行う場合、例えば、スパッタリング装置として公知の薄膜形成装置を用いることができる。
【0053】
図3は、本実施形態の光学積層体の製造方法に用いる光学積層体製造装置を示す模式図である。
本実施形態の光学積層体の製造方法に用いることができる製造装置としては、具体的には、図3に示す光学積層体製造装置20が挙げられる。
光学積層体製造装置20は、ロール巻き出し装置4と、スパッタリング装置1と、表面処理装置2と、ロール巻き取り装置5とを備えている。図3に示すように、これらのロール巻き出し装置4、スパッタリング装置1、表面処理装置2、およびロール巻き取り装置5は、この順に連結されている。光学積層体製造装置20は、ロールから基材を巻き出し、連結された各装置を連続して通過させた後に巻き取ることにより、基材上に複数層を連続的に形成するロールtoロール方式の製造装置である。
【0054】
ロールtoロール方式の光学積層体製造装置20を用いて光学積層体10を製造する場合、製造途中の光学積層体10の搬送速度(ラインスピード)は、適宜設定することができる。搬送速度は、例えば、0.5~20m/minとすることが好ましく、0.5~10m/minとすることがより好ましい。
【0055】
<ロール巻き出し装置>
ロール巻き出し装置4は、内部が所定の減圧雰囲気とされたチャンバー34と、チャンバー34内の気体を排出して減圧雰囲気とする1つまたは複数の真空ポンプ21(図3においては1つ)と、チャンバー34内に設置された巻き出しロール23およびガイドロール22を有する。図3に示すように、チャンバー34は、スパッタリング装置1のチャンバー31と連結されている。
巻き出しロール23には、透明基材11が巻き付けられている。巻き出しロール23は、所定の搬送速度で透明基材11をスパッタリング装置1に供給する。
【0056】
<スパッタリング装置>
図3に示すスパッタリング装置1は、内部が所定の減圧雰囲気とされたチャンバー31と、チャンバー31内の気体を排出して減圧雰囲気とする1つまたは複数の真空ポンプ21(図3においては2つ)と、成膜ロール25と、複数(図3では2つ)のガイドロール22と、複数(図4に示す例では3つ)の成膜部41(41A,41B,41C)と、欠陥検出部42と、を有する。
【0057】
図3に示すように、成膜ロール25と、ガイドロール22と、成膜部41と、欠陥検出部42とは、チャンバー31内に設置されている。チャンバー31は、ロール巻き出し装置4のチャンバー34と連結されている。
【0058】
成膜ロール25およびガイドロール22は、所定の搬送速度で、ロール巻き出し装置4から送られた透明基材11を搬送し、透明基材11の一面11a上に、光学機能層12の形成された透明基材11を表面処理装置2に供給する。
図3に示すスパッタリング装置1では、成膜ロール25上を走行する透明基材11の一面11a上に、成膜部41Aによって高屈折率層12aが成膜され、その上に成膜部41Bによって低屈折率層12bが成膜されることで、光学機能層12が形成される。そして、欠陥検出部42によって光学機能層12の欠陥が検査され、光学機能層12に欠陥が発見された場合、成膜部41Cによって、欠陥箇所Dにマーカー層13(図1、2を参照)が形成される。
【0059】
成膜部41は、図3に示すように、成膜ロール25の外周面と所定の間隔で離間して対向配置され、成膜ロール25を囲むように複数設けられている。成膜部41の数は、光学機能層12を形成している高屈折率層12aと低屈折率層12bとの合計積層数にマーカー層13を形成するものを加えた数であればよい。
【0060】
光学機能層12を形成している高屈折率層12aと低屈折率層12bの合計積層数が多いために、隣接する成膜部41間の距離を確保しにくい場合には、チャンバー31内に成膜ロール25を複数設け、各成膜ロール25の周囲に成膜部41を配置してもよい。
【0061】
成膜ロール25を複数設ける場合、必要に応じてさらにガイドロール22を設置してもよい。成膜ロール25と成膜部41が設けられたチャンバー31を複数台連結してもよい。また、隣接する成膜部41間の距離を確保しやすくするために、成膜ロール25の直径を適宜変更してもよい。
【0062】
各成膜部41には、それぞれ所定のターゲット(不図示)が設置されている。ターゲットには、公知の構造により、電圧が印加されるようになっている。本実施形態では、ターゲットの近傍に、ターゲットに所定の反応性ガスおよびキャリアガスを所定の流量で供給するガス供給部(不図示)と、ターゲットの表面に磁場を形成する公知の磁場発生源(不図示)とが設けられている。
【0063】
ターゲットの材料、および反応性ガスの種類および流量は、成膜部41と成膜ロール25との間を通過することによって透明基材11上に形成される高屈折率層12a、低屈折率層12b、および欠陥箇所Dに形成されるマーカー層13の組成に応じて適宜決定される。
【0064】
例えば、成膜部41Aを用いて、Nbからなる高屈折率層12aを形成する場合、ターゲットとしてNbを用い、反応性ガスとしてOを用いる。また、例えば、成膜部41Bを用いて低屈折率層12bとしてSiOからなる層を形成する場合、ターゲットとしてSiを用い、反応性ガスとしてOを用いる。また、成膜部41Cを用いて欠陥箇所Dに対してマーカー層13としてGeからなる層を形成する場合、ターゲットとしてGeを用い、キャリアガスとしてArを用いる。
【0065】
本実施形態では、成膜速度の高速化の観点から、スパッタ法として、マグネトロンスパッタ法を用いることが好ましい。
なお、スパッタ法は、マグネトロンスパッタ法に限定されるものではなく、直流グロー放電または高周波によって発生させたプラズマを利用する2極スパッタ方式、熱陰極を付加する3極スパッタ方式などを用いてもよい。
【0066】
欠陥検出部42は、光学機能層12となる各層を成膜した後に、光学機能層12に欠陥が存在する場合にこれを検出する光学モニターであればよい。これにより、形成された光学機能層12に対して、欠陥の有無を確認できる。光学機能層12に生じる可能性のある欠陥としては、例えば、光学特性が所望の値を満たさない部分や、異物、ピンホールなどが挙げられる。これらの欠陥は、光学モニターによって検出することができる。
【0067】
欠陥検出部42を構成する光学モニターとしては、例えば、光学積層体10の延長方向に直角な幅方向にスキャン可能な光学ヘッドにより、光学積層体10の一面11a上に形成された光学機能層12の幅方向の光学特性、例えば反射率の変化を測定することによって、欠陥箇所Dを検出するものが挙げられる。こうした欠陥検出部42は、欠陥箇所Dを検出した場合、欠陥箇所Dの位置情報を制御部(不図示)に出力する。
【0068】
制御部(不図示)は、入力された欠陥箇所Dの位置情報に基づいて、成膜部41Cによる成膜方向を制御する。そして、成膜部41Cは、欠陥箇所Dに重ねるように、半導体、本実施形態ではゲルマニウムからなるマーカー層13を成膜する。
【0069】
<表面処理装置>
図3に示す表面処理装置2は、内部が所定の減圧雰囲気とされたチャンバー32と、キャンロール26と、複数(図3では2つ)のガイドロール22と、プラズマ放電装置43とを有する。図3に示すように、キャンロール26と、ガイドロール22と、プラズマ放電装置43は、チャンバー32内に設置されている。図3に示すように、チャンバー32は、ロール巻き取り装置5のチャンバー35と連結されている。
【0070】
キャンロール26およびガイドロール22は、所定の搬送速度で、スパッタリング装置1から送られた光学機能層12と、欠陥箇所Dが存在する場合のマーカー層13と、が形成された透明基材11を搬送し、光学機能層12の表面が処理された光学積層体10をロール巻き取り装置5に送り出す。
【0071】
プラズマ放電装置43はコロナ放電装置の一種であり、図3に示すように、キャンロール26の外周面と所定の間隔で離間して対向配置されている。プラズマ放電装置43は、気体をグロー放電により電離させる。気体としては、安価かつ不活性で光学特性に影響を及ぼさないものが好ましく、例えば、アルゴンガス、酸素ガス、窒素ガス、ヘリウムガス等を使用できる。気体としては、質量が大きく化学的に安定であり、入手も容易であるため、アルゴンガスを用いることが好ましい。
本実施形態では、プラズマ放電装置43として、アルゴンガスを高周波プラズマによりイオン化するグロー放電装置を用いることが好ましい。
【0072】
こうしたプラズマ放電装置43のプラズマ放電(コロナ放電)によって、光学機能層12の表面処理を行う際に、欠陥箇所Dが存在する場合に形成されたマーカー層13が半導体材料、例えばゲルマニウム膜によって構成されているため、プラズマ放電がマーカー層13に向けて異常放電することが無い。マーカー層13は半導体材料によって形成されているので、導電率が低く、マーカー層13に向けて異常なプラズマ放電が生じることを防止できる。
【0073】
<ロール巻き取り装置>
図3に示すロール巻き取り装置5は、内部が所定の減圧雰囲気とされたチャンバー35と、チャンバー35内の気体を排出して減圧雰囲気とする1つまたは複数の真空ポンプ21(図3においては1つ)と、チャンバー35内に設置された巻き取りロール24およびガイドロール22とを有する。
【0074】
巻き取りロール24には、光学積層体10が巻き付けられている。巻き取りロール24およびガイドロール22は、所定の巻き取り速度で、光学積層体10を巻き取る。
【0075】
図3に示す光学積層体製造装置20に備えられているそれぞれの真空ポンプ21としては、例えば、ドライポンプ、油回転ポンプ、ターボ分子ポンプ、油拡散ポンプ、クライオポンプ、スパッタイオンポンプ、ゲッターポンプなどを用いることができる。真空ポンプ21は、各チャンバー31、32、34、35において、所望の減圧状態を作り出すために適宜選択し、あるいは組み合わせて用いることができる。
【0076】
次に、図3に示す光学積層体製造装置20を用いて、光学機能層形成工程と、欠陥検査工程と、欠陥領域表示工程と、表面処理工程とを、製造途中の光学積層体10を減圧下の状態に維持したまま連続して行う方法について説明する。
まず、ロール巻き出し装置4のチャンバー34内に、透明基材11が巻き付けられた巻き出しロール23を設置する。そして、巻き出しロール23およびガイドロール22を回転させて、所定の搬送速度で、透明基材11を、スパッタリング装置1に送り出す。
【0077】
次に、スパッタリング装置1のチャンバー31内で、光学機能層形成工程、欠陥検査工程、および必要に応じて欠陥領域表示工程を行う。具体的には、成膜ロール25およびガイドロール22を回転させて、所定の搬送速度で、透明基材11を搬送しながら、成膜ロール25上を走行する透明基材11の一面11a上に、光学機能層12を形成する。
【0078】
本実施形態では、成膜部41Aによって高屈折率層12aを、また、成膜部41Bによって低屈折率層12bと、交互に積層する。これにより、例えば反射防止層である光学機能層12を形成する。
【0079】
光学機能層12を形成する際のスパッタリング時の圧力は、スパッタする金属により異なるが、2Pa以下であってもよく、1Pa以下であることが好ましく、0.6Pa以下であることがより好ましく、0.2Pa以下であることが特に好ましい。スパッタリング時の圧力が1Pa以下の減圧下の状態であると、成膜分子の平均自由工程が長くなり、成膜分子のエネルギーが高いまま積層されるため、緻密でより良好な膜質となる。
【0080】
次いで、形成した光学機能層12を欠陥検出部42、例えば光学モニタースキャンすることによって光学機能層12の欠陥の有無を検出する(欠陥検査工程)。そして、光学機能層12に欠陥箇所Dが発見された場合、欠陥検出部42は欠陥箇所Dの位置情報を制御部(不図示)に出力する。
【0081】
次いで、成膜部41Cでは、制御部(不図示)に入力された欠陥箇所Dの位置情報に基づいて、欠陥箇所Dに重ねるように、半導体、本実施形態ではゲルマニウムからなるマーカー層13を成膜する(欠陥領域表示工程)。
【0082】
次に、表面処理装置2のチャンバー32内で、光学機能層12に表面処理工程を行う。
本実施形態では、光学機能層形成工程によって得られた光学機能層12の形成された透明基材11を、大気に触れさせることなく、減圧下の状態に維持したまま連続して表面処理工程を行う。
【0083】
表面処理工程では、キャンロール26およびガイドロール22を回転させて、所定の搬送速度で、光学機能層12が形成された透明基材11を搬送しながら、キャンロール26上を走行する光学機能層12の表面に、放電処理を行う。こうした表面処理工程は、例えば、光学積層体10の製造後に、光学機能層12の表面に、例えば保護フィルムの貼り合せを行なったり、光学機能層12に重ねて更に別な層の形成を行なったりする際に密着性を高めるために、光学機能層12の表面のクリーニング工程として行うものである。光学機能層12に重ねて更に形成される層としては、例えば、フッ素化合物やシリコーン化合物を用いて蒸着法によって形成される防汚層が挙げられる。
【0084】
光学機能層12の表面処理方法としては、例えば、グロー放電処理、プラズマ処理、イオンエッチング、アルカリ処理などを用いることができる。これらの中でも、大面積処理が可能であるため、グロー放電処理を用いることが好ましい。
【0085】
光学機能層12の表面に放電処理を行うと、光学機能層12の表面がエッチングされ、光学機能層12の表面の粗さが変化する。光学機能層12の表面の粗さRaは、放電処理の際の積算出力を適切な範囲とすることにより制御できる。
【0086】
こうした表面処理工程において、放電によって光学機能層12の表面処理を行う際に、欠陥箇所Dが存在する場合に形成されたマーカー層13が半導体材料、例えばゲルマニウム膜によって構成されているため、マーカー層13に向けて異常放電することが無い。マーカー層13は半導体材料によって形成されているので、導電率が低く、マーカー層13に向けて異常な放電が発生して、光学機能層12に更なる欠陥を生じさせることを防止できる。
【0087】
以上の方法により、スパッタリングによって形成された光学機能層12を有する光学積層体10が得られる。その後、光学積層体10を、ガイドロール22の回転によって、ロール巻き取り装置5に送り出す。
そして、ロール巻き取り装置5のチャンバー35内で、巻き取りロール24およびガイドロール22の回転によって、光学積層体10を巻き取りロール24に巻き付ける。
【0088】
こうして得られた光学積層体10は、光学機能層12に欠陥が存在する場合に、欠陥箇所Dに重ねてマーカー層13が形成されている。こうしたマーカー層は、半導体、例えばゲルマニウム膜であるため、可視光によって容易に検出することができる。このため、後工程でこうした欠陥箇所Dを避けて光学積層体10を利用する際に、目視や、可視光を用いた簡易な検出器で容易に欠陥箇所Dを特定することができる。
【0089】
なお、表面処理工程は、図3に示すように、光学機能層の形成と連続した工程でなくてもよい。例えば、光学機能層12の形成までを一貫して行なって一度巻取り、別の場所で表面処理工程を行なった上で保護フィルムの貼り合わせを行なったり、光学機能層12上にさらに別な機能層の形成を行ってもよい。
【0090】
なお、本実施形態の光学積層体10において、透明基材11の光学機能層12などが形成される一面11aと対向する他面にも、必要に応じて各種の層を設けてもよい。例えば、他の部材との接着に用いられる粘着剤層が設けられていても良い。また、この粘着剤層を介して他の光学フィルムが設けられていても良い。他の光学フィルムとしては、例えば偏光フィルム、位相差補償フィルム、1/2波長板、1/4波長板として機能するフィルムなどが挙げられる。
【0091】
また、透明基材の他面に、反射防止、選択反射、防眩、偏光、位相差補償、視野角補償又は拡大、導光、拡散、輝度向上、色相調整、導電などの機能を有する層が直接形成されていても良い。
なお、光学積層体10の形状は、平滑な形状であってもよいし、モスアイ、防眩機能を発現するナノオーダーの凹凸構造を有する形状でもよい。また、レンズ、プリズムなどのマイクロからミリオーダーの幾何学形状であっても良い。形状は、例えば、フォトリソグラフィーとエッチングの組み合わせ、形状転写、熱プレス等によって形成できる。本実施形態においては、蒸着等により成膜するため、基材に例えば凹凸形状がある場合でも、その凹凸形状を維持できる。
【0092】
本実施形態の光学積層体10は、例えば液晶表示パネル、有機EL表示パネルなど、画像表示部の表示面に反射防止膜として用いることができる。これ以外にも、例えば、窓ガラスやゴーグル、太陽電池の受光面、スマートホンの画面やパーソナルコンピューターのディスプレイ、情報入力端末、タブレット端末、AR(拡張現実)デバイス、VR(仮想現実)デバイス、電光表示板、ガラステーブル表面、遊技機、航空機や電車などの運行支援装置、ナビゲーションシステム、計器盤、光学センサーの表面などにも、光学積層体10を適用することができる。
【0093】
以上、本発明の実施形態を説明したが、こうした実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例0094】
まず、透明基材として厚さ80μmのトリアセチルセルロース(TAC)からなるフィルムを用意した。そして、透明基材上に紫外線硬化性樹脂組成物からなる厚さ5μmのハードコート層を形成した 続いて、ハードコート層上に、スパッタリングターゲットとしてSiターゲットとNbターゲットとを用い、ArガスとOガスとの混合ガスを用いて反応性スパッタ法により、光学機能層(反射防止層)を形成した。すなわち、ハードコート層上にSiOからなる低屈折率層(第1層)と、Nbからなる高屈折率層(第2層)と、SiOからなる低屈折率層(第3層)とNbからなる高屈折率層(第4層)と、SiOからなる低屈折率層(第5層)とをこの順に繰り返して光学機能層を成膜した。
【0095】
続いて、光学機能層に重ねて、スパッタリングターゲットとしてGe(実施例1)、FeSi(Fe10%)(実施例2)、Cu(比較例1)、Ag(比較例2)、Cr(比較例3)をそれぞれ用い、DCスパッタにて出力5W/cm、Arガス下に於いて膜厚20nmとなるように、それぞれの実施例(マーカー層)および比較例(金属膜)の薄膜を形成した。
こうして得られた実施例1、2および比較例1~3のそれぞれの光学積層体(試料)を用いて、以下の試験を行った。
【0096】
(1)コロナ処理時の異常放電試験
コロナ処理装置:CORONA STATION(春日電機株式会社製)、高周波電源:AGF-012(春日電機株式会社製)
出力設定:10
テーブルスピード:20
以上の条件で、異常放電の有無を目視にて確認した。
(2)マーカー層(実施例)、金属膜(比較例)の表面抵抗値の測定
表面抵抗測定器:ロレスタGX(日東精工アナリテック株式会社製)
(3)マーカー層(実施例)、金属膜(比較例)の検出試験
(3-1:検出試験1)フィルムに光を照射し、前記フィルムで透過又は反射した光を測定する測定部と、この測定部をフィルムの搬送方向と交差する第1方向に移動可能とする移動機構と、を備え、測定部は、フィルムに光を照射する投光部と、フィルムからの光を集光する積分球と、積分球で集光した光を受光する受光部とを有する測定装置を用い、半導体からなるマーカー層の検出の可否を測定した。測定は10回行い、全回数検出可能であったものを可、検出不良があったものを不可とした。
(3-2:検出試験2)可視光下で目視にてマーカー層の視認性の確認を行った。マーカー層とその周辺部分との差異の識別が容易であったものを可、困難だったものを不可とした。
(4)マーカー層(実施例)、金属膜(比較例)の反射率の測定
分光光度計:U3900(日立ハイテクサイエンス株式会社製)(1)~(3)の試験結果を表1に示す。また、(4)の試験結果を図4に示す。
【0097】
【表1】
【0098】
表1に示す結果によれば、異常放電試験においては、半導体を用いて形成したマーカー層を有する光学積層体(実施例1、2)は、いずれもコロナ処理を行っても異常放電は発生しなかった。一方で金属膜を形成した光学積層体(比較例1~3)は、いずれも異常放電が発生し、光学機能層にダメージを与える結果となった。
また、検出試験では、比較例1の金属膜は検出が困難であった。よって、マーカー層として半導体膜を用いた実施例1、2は、異常放電の防止と、検出容易性との両方を満たすことが確認できた。
【0099】
一方、図4に示す結果によれば、マーカー層として半導体膜を用いた実施例1、2は、波長370nm~790nmの全域に渡って、反射率の変動が比較的少ないことが確認された。
【符号の説明】
【0100】
1…スパッタリング装置
4…ロール巻き出し装置
5…ロール巻き取り装置
10…光学積層体
11…透明基材
12…光学機能層
12a…高屈折率層
12b…低屈折率層
13…マーカー層
20…光学積層体製造装置
21…真空ポンプ
22…ガイドロール
23…巻き出しロール
24…巻き取りロール
25…成膜ロール
26…キャンロール
31、32、34、35…チャンバー
41、41A、41B、41C…成膜部
42…欠陥検出部
43…プラズマ放電装置
図1
図2
図3
図4