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特開2023-38264潜在性硬化剤の被膜形成用組成物及び潜在性硬化剤の被膜形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038264
(43)【公開日】2023-03-16
(54)【発明の名称】潜在性硬化剤の被膜形成用組成物及び潜在性硬化剤の被膜形成方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/02 20060101AFI20230309BHJP
   C08G 18/00 20060101ALI20230309BHJP
   C09D 175/02 20060101ALI20230309BHJP
【FI】
C08G18/02
C08G18/00 A
C09D175/02
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003061
(22)【出願日】2023-01-12
(62)【分割の表示】P 2019025573の分割
【原出願日】2019-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】神谷 和伸
(57)【要約】
【課題】従来に比べてより低温での硬化が可能となり、1液保存安定性が向上したカチオン硬化性組成物が得られる潜在性硬化剤における被膜を形成する被膜形成用組成物の提供。
【解決手段】アルミニウムキレート化合物を保持する多孔質粒子と、前記多孔質粒子の表面に被膜とを有する潜在性硬化剤における前記被膜の形成に用いられる潜在性硬化剤の被膜形成用組成物であって、イソシアネート化合物とアルミニウムキレート化合物とを含有し、前記イソシアネート化合物の含有量が10質量%以下である潜在性硬化剤の被膜形成用組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムキレート化合物を保持する多孔質粒子と、前記多孔質粒子の表面に被膜とを有する潜在性硬化剤における前記被膜の形成に用いられる潜在性硬化剤の被膜形成用組成物であって、
イソシアネート化合物とアルミニウムキレート化合物とを含有し、
前記イソシアネート化合物の含有量が10質量%以下であることを特徴とする潜在性硬化剤の被膜形成用組成物。
【請求項2】
前記アルミニウムキレート化合物の含有量が、被膜形成用組成物の全量に対して5質量%以上50質量%以下である請求項1に記載の潜在性硬化剤の被膜形成用組成物。
【請求項3】
前記イソシアネート化合物の含有量が5質量%以下である、請求項1から2のいずれかに記載の潜在性硬化剤の被膜形成用組成物。
【請求項4】
有機溶剤を含有する、請求項1から3のいずれかに記載の潜在性硬化剤の被膜形成用組成物。
【請求項5】
前記多孔質粒子は、ポリウレア樹脂で構成される、請求項1から4のいずれかに記載の潜在性硬化剤の被膜形成用組成物。
【請求項6】
アルミニウムキレート化合物を保持する多孔質粒子の表面を、請求項1から5のいずれかに記載の潜在性硬化剤の被膜形成用組成物を用いて被覆することを特徴とする潜在性硬化剤の被膜形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潜在性硬化剤、潜在性硬化剤の製造方法、被膜形成用組成物、及びカチオン硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アルミニウムキレート系硬化剤が、多官能イソシアネート化合物を界面重合させて得た多孔性樹脂に保持された構造を有する潜在性硬化剤の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
しかし、この提案では、アルミニウムキレート系硬化剤は水と反応して組成が変化するため、多官能イソシアネート化合物の界面重合を用いて水中でカプセル化する際に加水分解して活性が低下してしまうという課題がある。
【0003】
また、硬化剤を含有する樹脂粒子の製造方法及びこの樹脂粒子を、硬化剤を含有する含浸液に浸漬することで樹脂粒子内の硬化剤含有量を増加させる硬化剤粒子の製造方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
しかし、この提案では、溶剤の多孔質粒子内浸透性を応用して多孔質粒子内にアルミニウムキレート剤を含浸させる処理となるため、含浸アルミニウムキレート剤量は含浸液中のアルミニウムキレート剤濃度に依存するので、アルミニウムキレート剤濃度を大きくすると、含浸液の粒子内浸透性が低下してしまうという課題がある。また、含浸アルミニウムキレート剤はカプセル内部に散在した状態となるが、エポキシ硬化時に有効なのは粒子外周部付近のアルミニウムキレート剤であり、硬化に寄与するアルミニウムキレート剤量としては少ないことになる。
【0004】
また、アルコキシシランカップリング剤で表面不活性処理したアルミニウムキレート系潜在性硬化剤が提案されている(例えば、特許文献4参照)。この提案は、アルコキシシランカップリング剤で表面処理を行うことによりエポキシ樹脂組成物の低温速硬化性を損なうことなく、室温下で良好な1液保存安定性を実現することを目的としているが、この提案の1液保存安定性の効果は室温下で48時間程度であり、更なる室温での1液保存安定性の向上が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4381255号公報
【特許文献2】特許第5417982号公報
【特許文献3】特許第5481013号公報
【特許文献4】特開2016-56274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、従来に比べてより低温での硬化が可能となり、1液保存安定性が大幅に向上したカチオン硬化性組成物が得られる潜在性硬化剤の提供が望まれていた。
【0007】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、従来に比べてより低温での硬化が可能となり、1液保存安定性が大幅に向上したカチオン硬化性組成物が得られる潜在性硬化剤及びその製造方法、被膜形成用組成物、並びにカチオン硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> アルミニウムキレート化合物を保持する多孔質粒子と、
前記多孔質粒子の表面に、アルミニウムキレート化合物、並びにウレア結合及びウレタン結合の少なくともいずれかを有するポリマーを含有する被膜と、を有し、
活性アルミニウムキレート化合物含有量が20質量%以上であることを特徴とする潜在性硬化剤である。
<2> 前記多孔質粒子は、ポリウレア樹脂で構成される前記<1>に記載の潜在性硬化剤である。
<3> 前記被膜が窒素元素を5原子%以上含む前記<1>から<2>のいずれかに記載の潜在性硬化剤である。
<4> 前記被膜が酸素元素を25原子%以下含む前記<1>から<3>のいずれかに記載の潜在性硬化剤である。
<5> イソシアネート化合物とアルミニウムキレート化合物とを含有し、
前記イソシアネート化合物の含有量が10質量%以下であることを特徴とする被膜形成用組成物である。
<6> 前記アルミニウムキレート化合物の含有量が5質量%以上50質量%以下である前記<5>に記載の被膜形成用組成物である。
<7> 前記<5>から<6>のいずれかに記載の被膜形成用組成物と、アルミニウムキレート化合物を保持する多孔質粒子とを、非水溶剤下で加熱撹拌することを特徴とする潜在性硬化剤の製造方法である。
<8> 前記<1>から<4>のいずれかに記載の潜在性硬化剤と、カチオン硬化性化合物とを含有することを特徴とするカチオン硬化性組成物である。
<9> 前記カチオン硬化性化合物が、エポキシ化合物又はオキセタン化合物である前記<8>に記載のカチオン硬化性組成物である。
<10> アリールシラノール化合物を含有する前記<8>から<9>のいずれかに記載のカチオン硬化性樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、従来に比べてより低温での硬化が可能となり、1液保存安定性が大幅に向上したカチオン硬化性組成物が得られる潜在性硬化剤及びその製造方法、被膜形成用組成物、並びにカチオン硬化性組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例1、比較例1、比較例2、及び比較例3の潜在性硬化剤についてのDSC測定の結果を示すチャートである。
図2図2は、比較例1の潜在性硬化剤のSEM写真(5,000倍)である。
図3図3は、実施例1の潜在性硬化剤のSEM写真(5,000倍)である。
図4図4は、実施例1の潜在性硬化剤のSEM写真(15,000倍)である。
図5図5は、実施例1及び比較例1の潜在性硬化剤のTG測定の結果を示すチャートである。
図6図6は、実施例1の保管前後の1液保存安定性についてのDSC測定の結果を示すチャートである。
図7A図7Aは、比較例1の潜在性硬化剤粒子の断面SEM写真である。
図7B図7Bは、比較例1の潜在性硬化剤粒子のFIB-SEMによるAlマッピング図である。
図8A図8Aは、実施例1の潜在性硬化剤粒子の断面SEM写真である。
図8B図8Bは、実施例1の潜在性硬化剤粒子のFIB-SEMによるAlマッピング図である。
図9図9は、比較例1の潜在性硬化剤のESCA分析の結果を示すチャートである。
図10図10は、実施例1の潜在性硬化剤のESCA分析の結果を示すチャートである。
図11図11は、実施例1の潜在性硬化剤のIR分析の結果を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(潜在性硬化剤)
本発明の潜在性硬化剤は、アルミニウムキレート化合物を保持する多孔質粒子と、
前記多孔質粒子の表面に、アルミニウムキレート化合物、並びにウレア結合及びウレタン結合の少なくともいずれかを有するポリマーを含有する被膜と、を有し、更に必要に応じてその他の部材を有する。
【0012】
前記潜在性硬化剤における活性アルミニウムキレート化合物含有量は20質量%以上であり、25質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましい。活性アルミニウムキレート化合物含有量の上限値は、ウレア結合及びウレタン結合の少なくともいずれかを有するポリマーの量を考慮すると、80質量%以下であればよく、60質量%以下であってもよい。
活性アルミニウムキレート化合物含有量が20質量%以上であると、従来に比べて硬化活性を大きくすることができる。
ここで、活性アルミニウムキレート化合物とは、潜在性硬化剤中のアルミニウムキレート化合物が加水分解を受けておらず初期構造を保持していることを意味する。
潜在性硬化剤の活性アルミニウムキレート化合物含有量は、例えば、LC/MS法(Liquid Chromatography Mass Spectrometry)により測定することができる。
被膜中にウレア結合及びウレタン結合の少なくともいずれかを有するポリマーを含有することは、例えば、赤外吸光(IR)分析により、波数1710cm-1~1730cm-1においてピークが存在することで、被膜中にウレア結合を有するポリマーが存在していることを確認できる。
【0013】
<多孔質粒子>
前記多孔質粒子は、アルミニウムキレート化合物を保持する。
前記多孔質粒子は、ポリウレア樹脂で構成される
前記多孔質粒子は、例えば、その細孔内に前記アルミニウムキレート化合物を保持する。言い換えれば、ポリウレア樹脂で構成された多孔質粒子マトリックス中に存在する微細な孔に、アルミニウムキレート化合物が取り込まれて保持されている。
【0014】
<<ポリウレア樹脂>>
前記ポリウレア樹脂とは、その樹脂中にウレア結合を有する樹脂である。
前記多孔質粒子を構成する前記ポリウレア樹脂は、例えば、多官能イソシアネート化合物を乳化液中で重合させることにより得られる。その詳細は後述する。前記ポリウレア樹脂は、樹脂中に、イソシアネート基に由来する結合であって、ウレア結合以外の結合、例えば、ウレタン結合などを有していてもよい。なお、ウレタン結合を含む場合には、ポリウレアウレタン樹脂と称することもある。
【0015】
<<アルミニウムキレート化合物>>
前記アルミニウムキレート化合物としては、例えば、下記一般式(1)で表される、3つのβ-ケトエノラート陰イオンがアルミニウムに配位した錯体化合物が挙げられる。ここで、アルミニウムにはアルコキシ基は直接結合していない。直接結合していると加水分解し易く、乳化処理に適さないからである。
【0016】
【化1】
【0017】
前記一般式(1)中、R、R及びRは、それぞれ独立に、アルキル基又はアルコキシ基を表す。
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基などが挙げられる。
前記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、オレイルオキシ基などが挙げられる。
【0018】
前記一般式(1)で表される錯体化合物としては、例えば、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(オレイルアセトアセテート)などが挙げられる。
【0019】
前記多孔質粒子における前記アルミニウムキレート化合物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0020】
前記多孔質粒子の細孔の平均細孔直径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1nm以上300nm以下が好ましく、5nm以上150nm以下がより好ましい。
【0021】
<被膜>
前記被膜は、アルミニウムキレート化合物、並びにウレア結合及びウレタン結合の少なくともいずれかを有するポリマーを含有する。即ち、前記被膜はアルミニウムキレート化合物を含有する高分子被膜である。アルミニウムキレート化合物は被膜中で配位結合、共有結合、水素結合などの任意の化学結合で結合されていてもよく、付着、凝着、吸着、ファンデルワールス結合等の任意の相互作用によって保持されていてもよい。
前記被膜は、前記多孔質粒子の表面に形成されており、前記多孔質粒子の表面の少なくとも一部に形成されていればよいが、前記多孔質粒子の全面を被覆して形成されていてもよい。また、被膜は連続膜として形成されていてもよく、不連続膜を含んでいてもよい。
【0022】
前記被膜は、窒素元素を5原子%以上含むことが好ましく、6原子%以上含むことがより好ましい。
前記被膜は、酸素元素を25原子%以下含むことが好ましく、21原子%以下含むことがより好ましい。
前記被膜が窒素元素を5原子%以上、酸素元素を25原子%以下含むことにより、多孔質粒子の表面にアルミニウムキレート化合物、並びにウレア結合及びウレタン結合の少なくともいずれかを有するポリマーを含有する本発明における被膜が形成されていることを確認できる。
前記被膜の窒素元素及び酸素元素は、例えば、ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)などで測定することができる。
【0023】
前記多孔質粒子は、それ自身として低温硬化性の潜在性硬化剤として機能する。しかし、前記多孔質粒子を潜在性硬化剤としてカチオン硬化性組成物に用いた場合、前記カチオン硬化性組成物の1液保存安定性が十分満足できるものではない。特に、前記カチオン硬化性組成物として、カチオン重合性に優れる脂環式エポキシ樹脂を用いた場合には1液保存安定性が不十分である。
一方、本発明の潜在性硬化剤は、アルミニウムキレート化合物、並びにウレア結合及びウレタン結合の少なくともいずれかを有するポリマーを含有する被膜を、前記多孔質粒子の表面に有することにより、従来に比べてより低温での硬化が可能となり、カチオン硬化性組成物に用いた場合の前記カチオン硬化性組成物の1液保存安定性が大幅に向上する。
即ち、本発明の潜在性硬化剤においては、溶剤系処理による被覆工程で多孔質粒子の表面に形成する高分子被膜中に高活性なアルミニウムキレート化合物を含有させることが可能となる。また、被覆処理を低温で実施することで、形成される高分子被膜のガラス転移温度(Tg)を低くすることができ、より低温で熱応答性を示す潜在性硬化剤の調製が可能となる。
その結果、多孔質粒子表面の被膜の高活性部位が主に硬化に寄与する領域となるため、低温硬化性を大きくすることができると共に、室温での1液保存安定性に非常に優れるカチオン硬化性組成物の調製が可能となる。
【0024】
前記潜在性硬化剤は、粒子状であることが好ましい。
前記潜在性硬化剤の体積平均粒子径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5μm以上20μm以下が好ましく、1μm以上10μm以下がより好ましく、1μm以上5μm以下が特に好ましい。
【0025】
(潜在性硬化剤の製造方法)
前記潜在性硬化剤の製造方法は、多孔質粒子作製工程と、被覆工程とを含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
【0026】
<多孔質粒子作製工程>
前記多孔質粒子作製工程は、乳化液作製処理と、重合処理とを少なくとも含み、好ましくは、追加充填処理を含み、更に必要に応じて、その他の処理を含む。
【0027】
<<乳化液作製処理>>
前記乳化液作製処理は、アルミニウムキレート化合物と、多官能イソシアネート化合物と、好ましくは有機溶剤とを混合して得られる液を乳化処理して乳化液を得る処理であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ホモジナイザーを用いて行うことができる。
【0028】
前記アルミニウムキレート化合物としては、本発明の前記潜在性硬化剤の説明における前記アルミニウムキレート化合物が挙げられる。
【0029】
前記乳化液における油滴の大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5μm以上100μm以下が好ましい。
【0030】
-多官能イソシアネート化合物-
前記多官能イソシアネート化合物は、一分子中に2個以上のイソシアネート基、好ましくは3個のイソシアネート基を有する化合物である。このような3官能イソシアネート化合物の更に好ましい例としては、トリメチロールプロパン1モルにジイソシアネート化合物3モルを反応させた下記一般式(2)のTMPアダクト体、ジイソシアネート化合物3モルを自己縮合させた下記一般式(3)のイソシアヌレート体、ジイソシアネート化合物3モルのうちの2モルから得られるジイソシアネートウレアに残りの1モルのジイソシアネートが縮合した下記一般式(4)のビュウレット体が挙げられる。
【0031】
【化2】
【0032】
前記一般式(2)~(4)中、置換基Rは、ジイソシアネート化合物のイソシアネート基を除いた部分である。このようなジイソシアネート化合物の具体例としては、トルエン2,4-ジイソシアネート、トルエン2,6-ジイソシアネート、m-キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサヒドロ-m-キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンジフェニル-4,4’-ジイソシアネートなどが挙げられる。
【0033】
前記アルミニウムキレート化合物と前記多官能イソシアネート化合物との配合割合としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、アルミニウムキレートの配合量が、少なすぎると、硬化させるべきカチオン硬化性化合物の硬化性が低下し、多すぎると、得られる潜在性硬化剤の潜在性が低下する。その点において、前記多官能イソシアネート化合物100質量部に対して、前記アルミニウムキレート10質量部以上500質量部以下が好ましく、10質量部以上300質量部以下がより好ましい。
【0034】
-有機溶剤-
前記有機溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、揮発性有機溶剤が好ましい。
前記有機溶剤は、前記アルミニウムキレート化合物、及び前記多官能イソシアネート化合物のそれぞれの良溶媒(それぞれの溶解度が好ましくは0.1g/ml(有機溶剤)以上)であって、水に対しては実質的に溶解せず(水の溶解度が0.5g/ml(有機溶剤)以下)、大気圧下での沸点が100℃以下のものが好ましい。このような揮発性有機溶剤の具体例としては、アルコール類、酢酸エステル類、ケトン類などが挙げられる。これらの中でも、高極性、低沸点、貧水溶性の点で酢酸エチルが好ましい。
【0035】
前記有機溶剤の使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0036】
<<重合処理>>
前記重合処理としては、前記乳化液中で前記多官能イソシアネート化合物を重合させて多孔質粒子を得る処理であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0037】
前記多孔質粒子は、前記アルミニウムキレート化合物を保持する。
前記重合処理においては、前記多官能イソシアネート化合物のイソシアネート基の一部が加水分解を受けてアミノ基となり、そのアミノ基と前記多官能イソシアネート化合物のイソシアネート基とが反応してウレア結合を生成して、ポリウレア樹脂が得られる。ここで、前記多官能イソシアネート化合物が、ウレタン結合を有する場合には、得られるポリウレア樹脂は、ウレタン結合も有しており、その点において生成されるポリウレア樹脂は、ポリウレアウレタン樹脂と称することもできる。
【0038】
前記重合処理における重合時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1時間以上30時間以下が好ましく、2時間以上10時間以下がより好ましい。
前記重合処理における重合温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、30℃以上90℃以下が好ましく、50℃以上80℃以下がより好ましい。
重合処理後に、多孔質粒子に保持されるアルミニウムキレート化合物の量を増加させるため、追加充填処理を行うことができる。
【0039】
<<追加充填処理>>
前記追加充填処理としては、前記重合処理により得られた前記多孔質粒子にアルミニウムキレート化合物を追加で充填する処理であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルミニウムキレート化合物を有機溶剤に溶解して得られる溶液に、前記多孔質粒子を浸漬させた後に、前記溶液から前記有機溶剤を除去する方法などが挙げられる。
【0040】
前記追加充填処理を行うことにより、前記多孔質粒子に保持されるアルミニウムキレート化合物の量が増加する。なお、アルミニウムキレート化合物が追加充填された前記多孔質粒子は、必要に応じてろ別し、洗浄し乾燥した後、公知の解砕装置で一次粒子に解砕することができる。
【0041】
前記追加充填処理において追加で充填されるアルミニウムキレート化合物は、前記乳化液となる前記液に配合される前記アルミニウムキレート化合物と同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、前記追加充填処理においては水を使用しないため、前記追加充填処理に使用するアルミニウムキレート化合物は、アルミニウムにアルコキシ基が結合したアルミニウムキレート化合物であってもよい。そのようなアルミニウムキレート化合物としては、例えば、ジイソプロポキシアルミニウムモノオレイルアセトアセテート、モノイソプロポキシアルミニウムビス(オレイルアセトアセテート)、モノイソプロポキシアルミニウムモノオレエートモノエチルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノラウリルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノステアリルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノイソステアリルアセトアセテート、モノイソプロポキシアルミニウムモノ-N-ラウロイル-β-アラネートモノラウリルアセトアセテートなどが挙げられる。
【0042】
前記有機溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記乳化液作製処理の説明において例示した前記有機溶剤などが挙げられる。好ましい態様も同じである。
【0043】
前記溶液から前記有機溶剤を除去する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記溶液を前記有機溶剤の沸点以上に加熱する方法、前記溶液を減圧させる方法などが挙げられる。
【0044】
前記アルミニウムキレート化合物を前記有機溶剤に溶解して得られる前記溶液における前記アルミニウムキレート化合物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10質量%以上80質量%以下が好ましく、10質量%以上50質量%以下がより好ましい。
【0045】
<被覆工程>
前記被覆工程は、アルミニウムキレート化合物を保持する多孔質粒子の表面を、被膜形成用組成物を用いて被覆処理する工程である。
被覆工程により、多孔質粒子の表面に、高活性なアルミニウムキレート化合物を含む被膜を形成することができる。
被膜形成用組成物は、イソシアネート化合物とアルミニウムキレート化合物とを含有し、有機溶剤を含有することが好ましく、更に必要に応じてその他の成分を含有する。
【0046】
前記イソシアネート化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、多孔質粒子の作製で例示した多官能イソシアネート化合物などが挙げられる。
前記イソシアネート化合物の含有量は10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下がより好ましい。イソシアネート化合物の含有量が10質量%以下であると、被覆処理中、被膜形成用組成物の液状態をほぼ保持することができ、良好な被覆処理を行うことができる。
【0047】
被覆工程においては水を使用しないため、被膜形成用組成物に含まれるアルミニウムキレート化合物は、アルミニウムにアルコキシ基が結合したアルミニウムキレート化合物であってもよい。そのようなアルミニウムキレート化合物としては、例えば、ジイソプロポキシアルミニウムモノオレイルアセトアセテート、モノイソプロポキシアルミニウムビス(オレイルアセトアセテート)、モノイソプロポキシアルミニウムモノオレエートモノエチルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノラウリルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノステアリルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノイソステアリルアセトアセテート、モノイソプロポキシアルミニウムモノ-N-ラウロイル-β-アラネートモノラウリルアセトアセテートなどが挙げられる。
前記アルミニウムキレート化合物の含有量は、5質量%以上50質量%以下であることが好ましく、20質量%以上40質量%以下がより好ましい。
【0048】
前記有機溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、多孔質粒子の作製で例示した有機溶剤などが挙げられる。
【0049】
被膜形成用組成物に、アルミニウムキレート化合物を保持する多孔質粒子を浸漬し、非水溶剤下で加熱撹拌する。被覆工程は溶剤系処理であるため、高活性な状態でアルミニウムキレート化合物を多孔質粒子の表面の被膜に含有させることができる。
ここで、イソシアネート化合物は金属錯体へ配位することが知られており、得られた配位化合物はウレタン樹脂製造用の触媒として応用されている(D.K.Chattopadhyay,K.V.S.N.Raju, Progress in Polymer Science, 32, 352-418(2007) Janis Robins Journal of Applied Polymer Science,9,821-838(1965)参照)。
この配位化合物の触媒作用により、被膜形成用組成物中のイソシアネート化合物は時間と共に徐々に高分子化する。この際、一定の撹拌速度で被膜形成用組成物を撹拌することにより、被膜形成用組成物中の多孔質粒子表面に高分子被膜を形成させることが可能となる。そして、被膜形成用組成物中にはイソシアネート化合物と共に、高活性なアルミニウムキレート化合物が溶解しているので多孔質粒子表面に高活性なアルミニウムキレート化合物を含む高分子被膜が形成される。
【0050】
前記被覆工程における前記被膜形成用組成物の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記多孔質粒子の凝集、並びに、前記多孔質粒子からの前記アルミニウムキレート化合物の流出を防止する点で、20℃以上60℃以下が好ましく、20℃以上40℃以下がより好ましい。
前記被覆工程における浸漬の時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2時間以上48時間以下が好ましく、5時間以上30時間以下がより好ましい。浸漬中は一定の撹拌速度(例えば、100rpm~500rpm)で多孔質粒子を浸漬した被膜形成用組成物を撹拌する。
【0051】
前記被覆工程を経て得られた前記潜在性硬化剤は、必要に応じてろ別し、有機溶剤で洗浄し、乾燥した後、公知の解砕装置で一次粒子に解砕することができる。
前記洗浄に用いる有機溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、非極性溶剤が好ましい。前記非極性溶剤としては、例えば、炭化水素系溶剤が挙げられる。前記炭化水素系溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサンなどが挙げられる。
【0052】
(カチオン硬化性組成物)
本発明のカチオン硬化性組成物は、本発明の前記潜在性硬化剤と、カチオン硬化性化合物とを含有し、アリールシラノール化合物を含有することが好ましく、更に必要に応じて、その他の成分を含有する。
【0053】
<潜在性硬化剤>
前記カチオン硬化性組成物が含有する潜在性硬化剤は、本発明の前記潜在性硬化剤である。
【0054】
前記カチオン硬化性組成物における前記潜在性硬化剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記カチオン硬化性化合物100質量部に対して、1質量部以上70質量部以下が好ましく、1質量部以上50質量部以下がより好ましい。前記含有量が、1質量部未満であると、硬化性が低下することがあり、70質量部を超えると、硬化物の樹脂特性(例えば、可とう性)が低下することがある。
【0055】
<カチオン硬化性化合物>
前記カチオン硬化性化合物としては、カチオン硬化する有機材料であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エポキシ化合物、オキセタン化合物、ビニルエーテル化合物などが挙げられる。これらの中でも、エポキシ化合物、オキセタン化合物が好ましい。
【0056】
<<エポキシ化合物>>
前記エポキシ化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0057】
前記脂環式エポキシ樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ビニルシクロペンタジエンジオキシド、ビニルシクロヘキセンモノ乃至ジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシド、エポキシ-[エポキシ-オキサスピロC8-15アルキル]-シクロC5-12アルカン(例えば、3,4-エポキシ-1-[8,9-エポキシ-2,4-ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン-3-イル]-シクロヘキサン等)、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボレート、エポキシC5-12シクロアルキルC1-3アルキル-エポキシC5-12シクロアルカンカルボキシレート(例えば、4,5-エポキシシクロオクチルメチル-4’,5’-エポキシシクロオクタンカルボキシレート等)、ビス(C1-3アルキルエポキシC5-12シクロアルキルC1-3アルキル)ジカルボキシレート(例えば、ビス(2-メチル-3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート等)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0058】
なお、脂環式エポキシ樹脂としては、市販品として入手容易である点から、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート〔株式会社ダイセル製、商品名:セロキサイド♯2021P;エポキシ当量 128~140〕が好ましく用いられる。
【0059】
なお、上記例示中において、C8-15、C5-12、C1-3との記載は、それぞれ、炭素数が8~15、炭素数が5~12、炭素数が1~3、であることを意味し、化合物の構造の幅があることを示している。
【0060】
前記脂環式エポキシ樹脂の一例の構造式を、以下に示す。
【化3】
【0061】
前記グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、液状でも固体状でもよく、エポキシ当量が通常100~4,000程度であって、分子中に2以上のエポキシ基を有するものが好ましい。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エステル型エポキシ樹脂等を挙げることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、樹脂特性の点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を好ましく使用できる。また、これらのエポキシ樹脂にはモノマーやオリゴマーも含まれる。
【0062】
<<オキセタン化合物>>
前記カチオン硬化性組成物において、前記エポキシ樹脂に前記オキセタン化合物を併用することで、発熱ピークをシャープにすることができる。
【0063】
前記オキセタン化合物としては、例えば、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、3-エチル-3-{[(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ]メチル}オキセタン、1,4-ビス{[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン、4,4’-ビス[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシメチル]ビフェニル、1,4-ベンゼンジカルボン酸ビス[(3-エチル-3-オキセタニル)]メチルエステル、3-エチル-3-(フェノキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-(2-エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、ジ[1-エチル(3-オキセタニル)]メチルエーテル、3-エチル-3-{[3-(トリエトキシシリル)プロポキシ]メチル}オキセタン、オキセタニルシルセスキオキサン、フェノールノボラックオキセタンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0064】
前記カチオン硬化性組成物における前記カチオン硬化性化合物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、30質量%以上99質量%以下が好ましく、50質量%以上98質量%以下がより好ましく、70質量%以上97質量%以下が特に好ましい。
なお、前記含有量は、前記カチオン硬化性組成物の不揮発分における含有量である。以下においても同様である。
【0065】
前記カチオン硬化性化合物における前記エポキシ樹脂の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、80質量%以上であってもよいし、90質量%以上であってもよい。
【0066】
前記カチオン硬化性化合物における前記オキセタン化合物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、0質量%超であって、20質量%以下であってもよいし、15質量%以下であってもよいし、10質量%以下であってもよい。
【0067】
<アリールシラノール化合物>
前記アリールシラノール化合物は、例えば、下記一般式(A)で表される。
【化4】
ただし、前記一般式(A)中、mは2又は3、好ましくは3であり、なお、mとnとの和は4である。Arは、置換基を有していてもよいアリール基である。
前記一般式(A)で表されるアリールシラノール化合物は、モノオール体又はジオール体である。
【0068】
前記一般式(A)におけるArは、置換基を有していてもよいアリール基である。
前記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基(例えば、1-ナフチル基、2-ナフチル基等)、アントラセニル基(例えば、1-アントラセニル基、2-アントラセニル基、9-アントラセニル基、ベンズ[a]-9-アントラセニル基等)、フェナリル基(例えば、3-フェナリル基、9-フェナリル基等)、ピレニル基(例えば、1-ピレニル基等)、アズレニル基、フロオレニル基、ビフェニル基(例えば、2-ビフェニル基、3-ビフェニル基、4-ビフェニル基等)、チエニル基、フリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピリジル基などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、入手容易性、入手コストの観点から、フェニル基が好ましい。m個のArは、いずれも同一でもよく異なっていてもよいが、入手容易性の点から同一であることが好ましい。
【0069】
これらのアリール基は、例えば、1~3個の置換基を有することができる。
前記置換基としては、例えば、電子吸引基、電子供与基などが挙げられる。
前記電子吸引基としては、例えば、ハロゲン基(例えば、クロロ基、ブロモ基等)、トリフルオロメチル基、ニトロ基、スルホ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等)、ホルミル基などが挙げられる。
前記電子供与基としては、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基等)、ヒドロキシ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基(例えば、モノメチルアミノ基等)、ジアルキルアミノ基(例えば、ジメチルアミノ基等)などが挙げられる。
【0070】
置換基を有するフェニル基の具体例としては、例えば、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、2,6-ジメチルフェニル基、3,5-ジメチルフェニル基、2,4-ジメチルフェニル基、2,3-ジメチルフェニル基、2,5-ジメチルフェニル基、3,4-ジメチルフェニル基、2,4,6-トリメチルフェニル基、2-エチルフェニル基、4-エチルフェニル基などが挙げられる。
【0071】
なお、置換基として電子吸引基を使用することにより、シラノール基の水酸基の酸度を上げることができる。置換基として電子供与基を使用することにより、シラノール基の水酸基の酸度を下げることができる。そのため、置換基により、硬化活性のコントロールが可能となる。
ここで、m個のAr毎に、置換基が異なっていてもよいが、m個のArについて入手容易性の点から置換基は同一であることが好ましい。また、一部のArだけに置換基があり、他のArに置換基が無くてもよい。
【0072】
これらの中でも、トリフェニルシラノール、ジフェニルシランジオールが好ましく、トリフェニルシラノールが特に好ましい。
【0073】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シランカップリング剤、充填剤、顔料、帯電防止剤などが挙げられる。
【0074】
<<シランカップリング剤>>
前記シランカップリング剤は、特開2002-212537号公報の段落[0007]~[0010]に記載されているように、アルミニウムキレート剤と共働して熱硬化性樹脂(例えば、熱硬化性エポキシ樹脂)のカチオン重合を開始させる機能を有する。従って、このような、シランカップリング剤を少量併用することにより、エポキシ樹脂の硬化を促進するという効果が得られる。このようなシランカップリング剤としては、分子中に1~3の低級アルコキシ基を有するものであり、分子中に熱硬化性樹脂の官能基に対して反応性を有する基、例えば、ビニル基、スチリル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基等を有していてもよい。なお、アミノ基やメルカプト基を有するカップリング剤は、本発明の潜在性硬化剤がカチオン型硬化剤であるため、アミノ基やメルカプト基が発生カチオン種を実質的に捕捉しない場合に使用することができる。
【0075】
前記シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-スチリルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0076】
前記カチオン硬化性組成物における前記シランカップリング剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記潜在性硬化剤100質量部に対して、1質量部以上300質量部以下が好ましく、1質量部以上100質量部以下がより好ましい。
【0077】
本発明のカチオン硬化性組成物は、従来に比べてより低温での硬化が可能となり、1液保存安定性が大幅に向上しており、利便性が高いので、各種分野に幅広く好適に用いることができる。
【実施例0078】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0079】
(被膜形成用組成物の調製例1)
-被膜形成用組成物1の調製-
アルミニウムキレート剤(アルミキレートD、川研ファインケミカル株式会社製)12.5質量部と、別のアルミニウムキレート剤(ALCH-TR、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、川研ファインケミカル株式会社製)25質量部と、酢酸エチル57.5質量部と、メチレンジフェニル-4,4’-ジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物(多官能イソシアネート化合物、D-109、三井化学株式会社製)5質量部とを投入し、30℃で20時間、200rpmの撹拌速度で撹拌し、被膜形成用組成物1を調製した。
【0080】
(被膜形成用組成物の調製例2)
-被膜形成用組成物2の調製-
アルミニウムキレート剤(アルミキレートD、川研ファインケミカル株式会社製)12.5質量部と、別のアルミニウムキレート剤(ALCH-TR、川研ファインケミカル株式会社製)25質量部と、酢酸エチル52.5質量部と、メチレンジフェニル-4,4’-ジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物(多官能イソシアネート化合物、D-109、三井化学株式会社製)10質量部とを投入し、30℃で20時間、200rpmの撹拌速度で撹拌し、被膜形成用組成物2を調製した。
【0081】
(被膜形成用組成物の調製例3)
-被膜形成用組成物3の調製-
アルミニウムキレート剤(アルミキレートD、川研ファインケミカル株式会社製)12.5質量部と、別のアルミニウムキレート剤(ALCH-TR、川研ファインケミカル株式会社製)25質量部と、酢酸エチル47.5質量部と、メチレンジフェニル-4,4’-ジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物(多官能イソシアネート化合物、D-109、三井化学株式会社製)15質量部とを投入し、30℃で20時間、200rpmの撹拌速度で撹拌し、被膜形成用組成物3を調製した。
【0082】
<被膜形成用組成物の状態>
次に、調製した被膜形成用組成物1~3について、目視観察により、被膜形成用組成物の状態を評価した。結果を表1に示した。
【0083】
【表1】
表1の結果から、被膜形成用組成物中のイソシアネート化合物の含有量が5質量%では液状であったが、被膜形成用組成物中のイソシアネート化合物の含有量が10質量%となると一部が固体として析出したが流動性は保持しており実使用上問題ないレベルであった。
被膜形成用組成物中のイソシアネート化合物の含有量が15質量%であると、被膜形成用組成物中でのイソシアネート化合物の反応量が大きくなり、大部分が固体として析出し流動性がなくなることがわかった。
したがって、被覆処理中、被膜形成用組成物の流動性を保持するためには、イソシアネート化合物の含有量は10質量%以下とする必要があることがわかった。
【0084】
(実施例1)
<潜在性硬化剤1の製造>
<<多孔質粒子作製工程>>
-水相の調製-
蒸留水800質量部と、界面活性剤(ニューレックスR-T、日油株式会社製)0.05質量部と、分散剤としてポリビニルアルコール(PVA-205、株式会社クラレ製)4質量部とを、温度計を備えた3リットルの界面重合容器に入れ、均一に混合し、水相を調製した。
【0085】
-油相の調製-
次に、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)の24質量%イソプロパノール溶液(アルミキレートD、川研ファインケミカル株式会社製)100質量部と、メチレンジフェニル-4,4’-ジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物(多官能イソシアネート化合物、D-109、三井化学株式会社製)70質量部とを、酢酸エチル130質量部に溶解し、油相を調製した。
【0086】
-乳化-
調製した前記油相を、先に調製した前記水相に投入し、ホモジナイザー(10,000rpm/5分:T-50、IKAジャパン株式会社製)で混合、乳化し、乳化液を得た。
【0087】
-重合-
調製した前記乳化液を、80℃で6時間、200rpmで撹拌しながら重合を行った。反応終了後、重合反応液を室温(25℃)まで放冷し、生成した重合樹脂粒子をろ過によりろ別し、蒸留水でろ過洗浄し、室温(25℃)下で自然乾燥することにより、塊状の硬化剤を得た。この塊状の硬化剤を、解砕装置(A-Oジェットミル、株式会社セイシン企業製)を用いて一次粒子に解砕することにより、粒子状硬化剤を得た。
【0088】
-被覆処理-
調製例1の被膜形成用組成物1 100質量部に対して、粒子状硬化剤5質量部を配合した後、30℃で20時間、大気圧下、200rpmで加熱撹拌した。その後、被膜形成用組成物の3倍量のシクロヘキサンを添加し、10分間の超音波照射を実施した後、ろ過洗浄により固体回収を行った。その後、自然乾燥を行うことで、白色の固体触媒粒子を得た。なお、乾燥後はAO-JET MILL(株式会社セイシン企業製)にて解砕し、1次粒子の状態として、潜在性硬化剤1を得た。
得られた実施例1の潜在性硬化剤は、赤外吸光(IR)分析により、図11に示すように、波数1710cm-1~1730cm-1にピークが存在することから、被膜中にウレア結合を有するポリマーが存在していることが確認できた。
なお、IR分析は、FTS-165(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社製)を用いて行った。
【0089】
(比較例1)
実施例1において、被覆処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、被覆処理前の多孔質粒子からなる潜在性硬化剤2を得た。
【0090】
(比較例2)
実施例1において、被覆処理の代わりに、イソシアネート化合物が配合されていない被膜形成用組成物を用いて、以下のようにしてアルミニウムキレート化合物の追加充填処理を行った以外は、実施例1と同様にして、アルミニウムキレート化合物が追加充填された粒子状硬化剤からなる潜在性硬化剤3を得た。
【0091】
-追加充填処理-
粒子状硬化剤15質量部を、アルミニウムキレート系溶液〔アルミニウムキレート剤(アルミキレートD、川研ファインケミカル株式会社製)12.5質量部と、別のアルミニウムキレート剤(ALCH-TR、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、川研ファインケミカル株式会社製)25質量部とを酢酸エチル62.5質量部に溶解させた溶液〕に投入し、30℃で20時間、200rpmの撹拌速度で撹拌した。撹拌終了後、ろ過処理し、シクロヘキサンで洗浄することにより塊状の硬化剤を得た。この塊状の硬化剤を、30℃で4時間真空乾燥した後、解砕装置(A-Oジェットミル、株式会社セイシン企業製)を用いて、一次粒子に解砕した。
【0092】
(比較例3)
実施例1において、被覆処理の代わりに、以下のシランカップリング剤表面処理を行った以外は、実施例1と同様にして、シランカップリング剤で表面処理した多孔質粒子からなる潜在性硬化剤4を得た。
【0093】
-シランカップリング剤表面処理-
メチルトリメトキシシラン(KBM-13、信越化学工業株式会社製)1.5質量部をシクロヘキサン28.5質量部に溶解してシランカップリング剤処理液を調製した。この処理液30質量部に粒子状硬化剤3質量部を投入し、その混合物を30℃で20時間、200rpmで撹拌しながら、シランカップリング剤の表面処理を行った。処理反応終了後、処理液から重合粒子を濾過により濾別し、自然乾燥した。
【0094】
<DSC測定>
次に、実施例1、及び比較例1~3の潜在性硬化剤について、以下のようにして、DSC測定を行った。結果を表2及び図1に示した。
【0095】
―DSC測定用組成物-
質量比で、EP828:トリフェニルシラノール:潜在性硬化剤=80:8:4となるように調製した組成物をDSC測定の試料として用いた。
・EP828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱ケミカル株式会社製)
・トリフェニルシラノール(東京化成工業株式会社製)
・潜在性硬化剤:実施例1、比較例1、比較例2又は比較例3の潜在性硬化剤
【0096】
-DSC測定条件-
・測定装置:DSC6200(株式会社日立ハイテクサイエンス製)
・評価量: 5mg
・昇温速度:10℃/min
【0097】
【表2】
【0098】
図1及び表2の結果から、実施例1は、比較例1と比較して、発熱開始温度で約18℃、発熱ピーク温度で約12℃の低温化が見られた。また、約30J程度総発熱量がアップしていることが確認できた。このことから、多孔質粒子を被膜形成用組成物で被覆処理を行うことにより、低温硬化性が大幅に向上していることがわかった。
また、比較例2は、被膜形成用組成物中にイソシアネート化合物を含まないため、従来のアルミニウムキレート化合物を追加充填処理したものとなるが、この比較例2と実施例1との比較から、実施例1の方がより低温硬化性に優れていることがわかった。
また、比較例3は被覆処理の代わりにシランカップリング剤で表面処理を行ったものであるが、処理前である比較例1と比較して発熱開始温度で約11℃、発熱ピーク温度で約5℃の高温化が見られた。
【0099】
<SEM(走査型電子顕微鏡)観察>
次に、実施例1及び比較例1の潜在性硬化剤について、JSM-6510A(日本電子株式会社製)で撮影したSEM写真を示す。図2は、比較例1の5,000倍のSEM写真である。図3は実施例1の5,000倍のSEM写真、図4は実施例1の15,000倍のSEM写真である。
【0100】
図2図4のSEM写真から、イソシアネート化合物及びアルミニウムキレート化合物を含有する被膜形成用組成物で被覆処理することにより、得られた実施例1の潜在性硬化剤の表面には被膜が形成されていることがわかった。
【0101】
<TGの測定>
次に、実施例1及び比較例1潜在性硬化剤について、以下のTG測定条件に基づき、TGを測定した。結果を表3及び図5に示した。
【0102】
-TGの測定条件-
・測定装置:TG/DTA6200(株式会社日立ハイテクサイエンス製)
・評価量:5mg
・昇温速度:10℃/min
・評価レンジ:260℃までの重量減少にて評価とする(260℃以上ではカプセル重合壁の熱分解促進のため)。
【0103】
【表3】
*260℃での重量減少率
【0104】
表3及び図5の結果から、実施例1は、アルミニウムキレート化合物を保持する多孔質粒子をイソシアネート化合物及びアルミニウムキレート化合物を含有する被膜形成用組成物で被覆処理することにより、比較例1に比べて約13%程度、加熱時の重量減少量がアップしていることがわかる。これは被覆処理により、高活性なアルミニウムキレート化合物を含む高分子被膜が形成されたためであると考えることができる。
【0105】
<1液保存安定性>
次に、実施例1、比較例1、比較例2、及び比較例3の潜在性硬化剤について、以下のようにして、1液保存安定性を評価した。結果を表4に示した。また、実施例1の結果を図6に示した。
【0106】
―保存安定性測定用組成物-
質量比で、EP828:トリフェニルシラノール:硬化剤=80:8:4となるように調製した組成物を保存安定性測定用の試料として用いた。
・EP828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱ケミカル株式会社製)
・トリフェニルシラノール(東京化成工業株式会社製)
・硬化剤:実施例1、比較例1、比較例2、又は比較例3の潜在性硬化剤
【0107】
-保存安定性の条件-
保管温度:30℃
保管期間:7日間
評価:DSC測定により、保管前後の総発熱量の変化を比較した。なお、DSC測定は上記と同様である。
【0108】
【表4】
【0109】
表4及び図6の結果から、実施例1の潜在性硬化剤は優れた低温硬化性を有しているにも関わらず、エポキシ樹脂組成物の1液保存安定性が非常に優れていることがわかった。なお、実施例1における保管処理ありと保管処理なしとの微小な差は測定誤差であると考えられる。このことから、多孔質粒子表面の高分子被膜上に残存していると考えられるアルミニウムキレート化合物については、洗浄溶剤(シクロヘキサン)中での超音波処理及びろ過洗浄回収処理により、十分洗浄除去することが可能であることがわかった。
これに対して、比較例1~3は、いずれも、実施例1に比べて、1液保存安定性が劣ることがわかった。
【0110】
<潜在性硬化剤の断面のアルミニウム(Al)マッピング>
次に、実施例1及び比較例1の潜在性硬化剤について、集束イオンビーム(FIB-SEM)による潜在性硬化剤粒子の断面のAlマッピングを行った。結果を図7A図8Bに示す。
比較例1については、図7A及び図7Bに示すように、アルミニウムキレート化合物は潜在性硬化剤粒子全体に広がっているが、アルミニウム量が少ないため、判別しにくかった。
実施例1については、図8A及び図8Bに示すように、アルミニウムキレート化合物は潜在性硬化剤粒子全体に均一に分布している。また、比較例1の被覆処理前と比較してコントラストがはっきりしているため、アルミニウムキレート化合物の内包量が多くなっていると推定される。
【0111】
<ESCAによる表面元素分析>
次に、実施例1及び比較例1の潜在性硬化剤について、ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)分析を行った。結果を表5、表6、図9、及び図10に示した。
【0112】
-ESCA測定条件-
測定装置としては、AXIS-HS(Kratos Analytical社製)を用いた。X線源としては、MgKα、測定条件としては、電流値10mA、加速電圧値10.4kV、スキャン速度1eVを用いた。
【0113】
【表5】
【0114】
【表6】
【0115】
表5、表6、図9、及び図10の結果から、比較例1の被覆処理前と比較して、被覆処理後の実施例1の潜在性硬化剤粒子表面のアルミニウム(Al)比率は同程度であるが、実施例1では窒素(N)の比率が高く、酸素(O)の比率が少なくなっており、明らかに表面の元素組成が異なっていることがわかった。表6の結果から、実施例1の被膜は、窒素元素を5原子%以上、酸素元素を25原子%以下含むことが確認できた。
比較例1の被覆処理前は水中重合であるため、イソシアネート化合物の水への溶出が発生し、窒素の比率が低下すると考えられる。実施例1は比較例1と同等のアルミニウム(Al)比率でありながら、低温硬化性に優れるため、実施例1は被膜にアルミニウムキレート化合物を高活性な状態で保持していることが示唆される。
【0116】
<LC/MSによる潜在性硬化剤粒子内のアルミニウムキレート化合物の定量>
次に、実施例1及び比較例1の潜在性硬化剤について、LC/MS(Liquid Chromatography Mass Spectrometry)分析を行った。結果を表7、及び表8に示した。
【0117】
-LC/MS測定条件-
測定装置は、ACQUITY UPLC/SQD(Waters Corporation社製)を用いた。水-アセトニトリルの混合溶媒を用いて、流量0.4ml/minで測定を行った。定量値は、アルミニウムキレート化合物の分子イオンピークの強度を、別途測定した検量線によりアルミニウムキレート化合物含有量に換算し、算出した。
【0118】
【表7】
【0119】
【表8】
【0120】
表7、及び表8の結果から、比較例1の被覆処理前と比較して、被覆処理後の実施例1の潜在性硬化剤粒子内のアルミニウムキレート化合物含有量は合計で28.1質量%と高い値を示した。実施例1の場合は、被覆処理により、硬化剤粒子内にアルミニウムキレート化合物が加水分解を受けずに初期構造を保持している。即ち、高活性な状態で高含有されていることがわかった。表8の結果から、実施例1の潜在性硬化剤は、高活性なアルミニウムキレート化合物を20質量%以上含有することが確認できた。
比較例1の被覆処理前は水中重合であるため、潜在性硬化剤粒子内のアルミニウムキレート化合物は、水による加水分解で初期構造を保持していない割合が大きいと考えることができる。
【0121】
以上説明したように、アルミニウムキレート化合物を含有する多孔質粒子の表面を高活性なアルミニウムキレート化合物とイソシアネート化合物を溶解させた被膜形成用組成物を用いて被覆処理して得られた潜在性硬化剤は、従来に比べてより低温での硬化が可能となり、また、前記潜在性硬化剤を配合することにより1液保存安定性が大幅に向上したエポキシ樹脂組成物が得られることがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10
図11