(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038303
(43)【公開日】2023-03-16
(54)【発明の名称】塗膜剥離組成物及び塗膜の剥離方法
(51)【国際特許分類】
C09D 101/08 20060101AFI20230309BHJP
C09D 9/00 20060101ALI20230309BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20230309BHJP
【FI】
C09D101/08
C09D9/00
C09D7/20
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008633
(22)【出願日】2023-01-24
(62)【分割の表示】P 2019508716の分割
【原出願日】2018-02-13
(31)【優先権主張番号】P 2017062872
(32)【優先日】2017-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000135265
【氏名又は名称】株式会社ネオス
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西本 真人
(72)【発明者】
【氏名】上田 嵩大
(72)【発明者】
【氏名】吉村 和也
(57)【要約】
【課題】塗膜剥離作業工程において、火災、健康障害等のリスクを低減し、溶剤系剥離剤と同等以上の剥離性を発揮することができる水系の塗布型塗膜剥離組成物及び塗膜の剥離方法を提供すること。
【解決手段】pHが5~9の範囲にあり、水、ベンジルアルコール及び少なくとも1種のセルロース誘導体を含む、塗膜剥離組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
pHが5~9の範囲にあり、水、ベンジルアルコール及び少なくとも1種のセルロース誘導体を含む、塗膜剥離組成物。
【請求項2】
ベンジルアルコールと水の質量比(ベンジルアルコールの質量/水の質量)が0.6~4.8の範囲にある、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
セルロース誘導体がメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ブチルセルロース及びプロピルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
セルロース誘導体の含有量が全体量の0.5~3wt%である請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
室温での粘度が3,000~110,000 mPa sの範囲にある、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の塗膜剥離組成物を塗膜に塗布し、塗膜を剥離することを特徴とする塗膜の剥離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼道路橋、建造物、車両、航空機などの旧塗膜の剥離工程で用いられる塗膜剥離組成物及び塗膜の剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁などの塗膜の塗り替えは、メンテナンス頻度を下げるために塗膜寿命の長い塗膜に塗り替える場合や古い塗膜に含まれる有害物(六価クロム、鉛、PCB)の除去などを目的として行われる。
【0003】
古くなった塗膜の塗り替え時には、旧塗膜を剥離する必要がある。塗膜剥離には、ブラスト工法等の物理的な剥離手法が用いられている。しかしながら、ブラスト工法では廃棄物量の増加や粉塵による作業者及び周辺環境の悪化が懸念されている。これらの問題点を解決するために、ジクロロメタンに代表される塩素系溶剤を主剤とする塗膜剥離剤を使用する方法が実施されてきた(特許文献1)。しかし、塗膜剥離剤は、人体、環境への影響より、塩素系溶剤は使用が規制されており、現在では、塩素系溶剤を使用しない種々の溶剤を使用した非塩素系の剥離剤が開発されている。
【0004】
非塩素系の塗膜剥離剤として、特許文献2は、N-メチルピロリドンを使用する方法を開示している。
【0005】
特許文献3は、エチルセルロース、エチルセルロースを膨潤可能な溶剤を含む油相、水溶性高分子を含む水相を含み、エチルセルロースと水溶性高分子により乳化安定性を有するW/O型乳化組成物を開示しているが、塗膜剥離についての記載はなく、化粧料として使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5-171076号公報
【特許文献2】特開平5-279607号公報
【特許文献3】特許第3549995号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
水を含まない非塩素系塗膜剥離剤は、高い剥離性能を示すが、火災の危険性があり、剥離後の洗浄工程が複雑になる問題点がある。また、有害な溶剤を多く含むために、作業者の安全性に問題がある。
【0008】
本発明の主な目的は塗膜剥離作業工程において、火災、健康障害等のリスクを低減し、溶剤系剥離剤と同等以上の剥離性を発揮することができる水系の塗布型塗膜剥離組成物及び塗膜の剥離方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前課題を解決するために、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテルのような界面活性剤を用いて塗膜剥離に有効な芳香族アルコール系溶剤を乳化させることで解決を試みたが、十分な乳化性を示さなかった。ところが、セルロース誘導体を用いると、増粘できるだけでなく十分な乳化性を示すことを見出した。本発明は、セルロース誘導体を用い、塗膜剥離性、塗布作業性を向上させると共に、火災リスクを低減できる塗膜剥離組成物及び塗膜の剥離方法を提供する。
項1. pHが5~9の範囲にあり、水、ベンジルアルコール及び少なくとも1種のセルロース誘導体を含む、塗膜剥離組成物。
項2. ベンジルアルコールと水の質量比(ベンジルアルコールの質量/水の質量)が0.6~4.8の範囲にある、項1に記載の組成物。
項3. セルロース誘導体がメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ブチルセルロース及びプロピルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1又は2に記載の組成物。
項4. セルロース誘導体の含有量が全体量の0.5~3wt%である項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
項5. 室温での粘度が3,000~110,000mPa sの範囲にある、項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
項6. 項1~5のいずれかに記載の塗膜剥離組成物を塗膜に塗布し、塗膜を剥離することを特徴とする塗膜の剥離方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の塗膜剥離組成物は、水を含有する事で火災リスクが大幅に減少できる。また、使用されるセルロース誘導体は乳化だけでなく増粘作用を有するため、組成物の塗布後に垂れにくくすることができる。さらに、組成物が塗膜に浸透した後に塗膜表面に皮膜を形成し、組成物の乾燥を抑制する事ができ、剥離時間の短縮に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明では、剥離組成物の油相としてベンジルアルコールを使用する。水とベンジルアルコールは質量比でベンジルアルコール/水=0.6~4.8であり、好ましくは0.8~3.0である。水とベンジルアルコールの質量比が上記の範囲内であれば、優れた乳化安定性と粘度を示し、火災の危険性がないために好ましい。
【0012】
本発明で用いるセルロース誘導体としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ブチルセルロース、プロピルセルロース等が挙げられる。
本発明で用いるベンジルアルコールの配合量は、塗膜剥離組成物全量を100wt%とした場合、好ましくは30~90wt%、より好ましくは35~85wt%、さらに好ましくは40~80wt%であり、特に好ましくは45~75wt%である。
本発明で用いる水の配合量は、塗膜剥離組成物全量を100wt%とした場合、好ましくは10~70wt%、より好ましくは15~60wt%、さらに好ましくは20~50wt%であり、特に好ましくは25~40wt%である。
【0013】
本発明で用いるセルロース誘導体の配合量は、塗膜剥離組成物全量を100wt%とした場合、0.3~5wt%、好ましくは0.4~4wt%、より好ましくは0.5~3.5wt%、さらに好ましくは0.5~3wt%であり、特に好ましくは1~3wt%であり、最も好ましくは1~2wt%である。セルロース誘導体の配合量が上記の範囲内であれば、優れた乳化安定性を示す。
【0014】
本発明で用いるセルロース誘導体は、それぞれ1種のみを使用してもよいが、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0015】
本発明の塗膜剥離組成物の室温での粘度は通常3,000~110,000 mPa s程度であり、好ましくは3,000~70,000 mPa s程度、より好ましくは4,000~50,000 mPa s程度、さらに好ましくは4,000~40,000 mPa s程度である。粘度が上記の範囲内であれば、塗布後塗膜剥離組成物が垂れ落ちることはなく、優れた塗布作業性を有する。粘度は、B型粘度計で測定することができる。
【0016】
上記以外に塗膜剥離組成物を酸性またはアルカリ性にするためのpH調整剤(酢酸などの脂肪酸、リン酸、苛性ソーダ、苛性カリ等)、防腐剤、キレート剤などを適宜加えてもよい。本発明の塗膜剥離組成物中に含まれるセルロース誘導体が加水分解しないpH領域は5~9程度、好ましくは5~8程度、より好ましくは6~8程度である。
【0017】
本発明の塗膜剥離組成物の適用対象は鋼道路橋等の鋼構造物や外壁等の建築物表面の塗膜である。本発明の塗膜剥離組成物は、主にメラミン、アクリル、フタル酸、ラッカー、ウレタン、エポキシ系の樹脂を含む塗膜の剥離に有用である。
【0018】
本発明の塗膜剥離組成物の塗布量は、好ましくは0.5~2kg/m2程度、より好ましくは、0.5~1kg/m2程度である。例えば本発明の塗膜剥離組成物を塗膜に塗布し、12~48時間後、好ましくは24時間程度後に塗膜をスクレーパーなどを用いて剥離することができる。塗膜剥離組成物の塗膜への塗布は、スプレー、ローラー、刷毛などを用いて行うことができる。
【0019】
塗膜は被塗布物から浮き上がった状態で剥離されるので、廃棄用の袋などに収容することで容易に廃棄することができ、有害物質を飛散させることはない。
【実施例0020】
以下に、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0021】
本実施例および比較例では以下に示すセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンを用いた。
セルロース誘導体
セルロース誘導体1: 信越化学工業株式会社製: メトローズSM-400
セルロース誘導体2: 信越化学工業株式会社製: メトローズ60SH-4000
セルロース誘導体3: 信越化学工業株式会社製: メトローズ65SH-4000
セルロース誘導体4: 信越化学工業株式会社製: メトローズ90SH-4000
セルロース誘導体5:信越化学工業株式会社製: メトローズSM-4000
ポリビニルピロリドン
第一工業株式会社製: ピッツコールK-90
ポリビニルアルコール
株式会社クラレ製: クラレポバールPVA105
【0022】
実施例1~11及び比較例1~5
[乳化試験、粘度測定]
メトローズSM-400 (2g)を水18gに完全に溶解させた。その溶液にベンジルアルコール80gを投入し、1時間撹拌させ、実施例1の塗膜剥離組成物を調製した。実施例2~11、比較例1~5の塗膜剥離組成物に関しては、表1に記載の割合で同様に調製した。調製後24時間経過後の液状態を目視で確認し、乳化状態を評価した(乳化判定)。評価基準は以下の通りとした。
○:乳白色を維持していた
×:分層した
得られた実施例1~11の剥離組成物の粘度は、B型粘度計を用いて測定した。また、実施例1~11の剥離組成物のpHはpH試験紙を用いて測定した。
【0023】
[塗膜剥離試験]
乳化試験で調製した剥離組成物を以下の二種類の試験片(塗膜物1、塗膜物2)に塗布し、所定時間経過後、試験片表面をスクレーパーでこすり、塗膜が除去できるかを試験した。評価基準は以下の通りとした。
○:塗膜が除去できた
×:塗膜が除去できなかった
【0024】
塗膜物1(建造物塗膜用超厚膜形エポキシ樹脂塗料下塗):
冷間圧延鋼板 (SPCC-SD) 平板 (0.8×25×50mm)に主剤がエポキシ樹脂、硬化剤が変性脂肪族ポリアミンで構成されている塗料 (大日本塗料株式会社製、エポニックスH)を厚さが230μmになるように刷毛で塗布した。その後3日間室温放置し塗膜を硬化させた。得られた塗膜に塗膜剥離組成物を刷毛で塗布した後24時間静置し、塗膜が除去可能かどうか評価した(剥離試験結果(エポキシ系樹脂))。結果を表1~表4に示す。
塗膜物2(フタル酸系):
冷間圧延鋼板 (SPCC-SD) 平板 (0.8×25×50 mm)に長油性フタル酸樹脂塗料 (大日本塗料株式会社製、グリーンズボイド)を厚さ60μmになるように刷毛で塗布した。その後3日間室温で放置し、塗膜を完全に硬化させた。得られた塗膜に塗膜剥離組成物を刷毛で塗布した後、24時間静置し、塗膜が除去可能かどうかを評価した(剥離試験結果(フタル酸系樹脂))。結果を表1~表4に示す。
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
セルロース誘導体がメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ブチルセルロース及びプロピルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の組成物。