(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038446
(43)【公開日】2023-03-17
(54)【発明の名称】電子線適用装置における検出データの作成方法および照射対象の画像合成方法、プログラム、記録媒体、並びに、電子線適用装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/06 20060101AFI20230310BHJP
H01J 37/244 20060101ALI20230310BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20230310BHJP
H01J 37/252 20060101ALI20230310BHJP
【FI】
H01J37/06
H01J37/244
H01J37/28 B
H01J37/28 C
H01J37/252 A
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021145169
(22)【出願日】2021-09-07
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】516040121
【氏名又は名称】株式会社Photo electron Soul
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】西谷智博
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA03
5C101AA04
5C101AA05
5C101AA22
5C101DD05
5C101DD38
5C101GG03
5C101GG08
5C101GG09
5C101HH31
(57)【要約】 (修正有)
【課題】検出器の検出感度の切替えを行うことなく、ダイナミックレンジが大きい画像の取得が可能な検出データの作成方法を提供する。
【解決手段】電子銃にフォトカソード3を使用し、電子ビームの照射領域から放出された放出量のデータを検出器5で検出し、検出信号の信号強度が予め設定した値となるように光源2からフォトカソード3に到達する光量を調整し、検出信号の信号強度が予め設定した値となった光量調整データを照射領域の検出データとして画像を合成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線適用装置における検出データの作成方法であって、
電子線適用装置は、
光源と、
前記光源からの受光に応じて、放出可能な電子を生成するフォトカソードと、
前記フォトカソードとの間で電界を形成することができ、形成した電界により前記放出可能な電子を引き出し、電子ビームを形成するアノードと、
電子ビームを照射した照射対象から放出された放出量のデータを検出する検出器と、
制御部と、
を含み、
前記検出データの作成方法は、
前記照射対象の照射領域に、前記電子ビームを照射する電子ビーム照射工程と、
前記電子ビームが照射された照射領域から放出された放出量のデータを前記検出器で検出し、検出信号を生成する検出工程と、
前記検出信号の信号強度が予め設定した値となるように、前記光源から前記フォトカソードに到達する光量を調整する光量調整工程と、
前記検出信号の信号強度が予め設定した値が得られるまで、前記電子ビーム照射工程と、前記検出工程と、前記光量調整工程とを繰り返す工程と、
前記検出信号の信号強度が予め設定した値となった光量調整データを、前記照射領域の検出データとして出力する検出データ出力工程と、
を含む、検出データの作成方法。
【請求項2】
予め設定した値が、前記照射領域の場所を問わず同一となる値である、
請求項1に記載の検出データの作成方法。
【請求項3】
前記電子線適用装置が、
走査電子顕微鏡、
電子線検査装置、
オージェ電子分光装置、
カソードルミネッセンス装置、
X線分析装置、
透過電子顕微鏡、または、
走査型透過電子顕微鏡、
である、
請求項1または2に記載の検出データの作成方法。
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項に記載の検出データの作成方法で得られた検出データから、前記照射対象の照射領域の画像を合成する画像合成工程と、
を含む、電子線適用装置における照射対象の画像合成方法。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載の各工程を電子線適用装置の制御部に実行させるためのプログラム。
【請求項6】
請求項5に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項7】
光源と、
前記光源からの受光に応じて、放出可能な電子を生成するフォトカソードと、
前記フォトカソードとの間で電界を形成することができ、形成した電界により前記放出可能な電子を引き出し、電子ビームを形成するアノードと、
電子ビームを照射した照射対象から放出された放出量のデータを検出する検出器と、
制御部と、
を含む、電子線適用装置であって、
前記制御部は、
前記照射対象の照射領域に、前記電子ビームを照射する電子ビーム照射工程と、
前記電子ビームが照射された照射領域から放出された放出量のデータを前記検出器で検出し、検出信号を生成する検出工程と、
前記検出信号の信号強度が予め設定した値となるように、前記光源から前記フォトカソードに到達する光量を調整する光量調整工程と、
前記検出信号の信号強度が予め設定した値が得られるまで、前記電子ビーム照射工程と、前記検出工程と、前記光量調整工程とを繰り返す工程と、
前記検出信号の信号強度が予め設定した値となった光量調整データを、前記照射領域の検出データとして出力する検出データ出力工程と、
を実行するように制御する、
電子線適用装置。
【請求項8】
予め設定した値が、前記照射領域の場所を問わず同一となる値である、
請求項7に記載の電子線適用装置。
【請求項9】
前記制御部が、
前記検出データから、前記照射対象の照射領域の画像を合成する画像合成工程、
を実行するように制御する、請求項7または8に記載の電子線適用装置。
【請求項10】
前記電子線適用装置が、
走査電子顕微鏡、
電子線検査装置、
オージェ電子分光装置、
カソードルミネッセンス装置、
X線分析装置、
透過電子顕微鏡、または、
走査型透過電子顕微鏡、
である、
請求項7~9の何れか一項に記載の電子線適用装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願における開示は、電子線適用装置における検出データの作成方法および照射対象の画像合成方法、プログラム、記録媒体、並びに、電子線適用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトカソードを搭載した電子銃、当該電子銃を含む電子顕微鏡および検査装置等の電子線適用装置が知られている。例えば、特許文献1には、光源から励起光を照射して電子ビームを射出するフォトカソードを用いた試料検査装置が開示されている。特許文献1に記載の試料検査装置は、電子ビームが照射された試料から放出される電子を検出し検出信号を生成する検出器と、検出信号の中から光源が照射した周波数変調光の変調周波数に対応する周波数の信号を抽出することで、試料から放出された信号ではないノイズ信号を除去することが開示されている。また、特許文献1には、試料が熱損傷を受けやすい等の状況により、パルス光の光量を調整することが開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、検査装置の照射領域から放出された2次電子を検出する検出手段について、投影倍率等に応じて検出感度を調整することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6604649号公報
【特許文献2】特開平11-242943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、検出手段の検出感度の調整は、例えば、電子ビームを照射することで照射領域から放出された2次電子の検出結果を参照しながらマニュアル等で実施している。したがって、例えば、照射領域の全体画像の撮影や、照射領域の一部を拡大して撮影する等の調整をする場合、検出感度のダイナミックレンジが大きい検出器が必要との問題がある。
【0006】
本出願は上記問題点を解決するためになされたものであり、鋭意研究を行ったところ、後述する原理に示すとおり、(1)フォトカソードは受光する励起光の光量を調整することで、放出する電子ビームの強度(電子量)を簡単に調整できること、(2)照射領域から放出された放出量の検出信号の信号強度を予め設定した値となるようにフォトカソードに到達する光量を調整し、(3)検出信号の信号強度が予め設定した値となった時の光量調整データは、照射領域の試料状態を反映したデータとなることから、光量調整データを照射領域の検出データとして使用できること、(4)したがって、検出器の検出感度のダイナミックレンジが小さくても、照射領域の検出データが得られること、を新たに見出した。
【0007】
本出願における開示は、新たな原理による電子線適用装置における検出データの作成方法および照射対象の画像合成方法、プログラム、記録媒体、並びに、電子線適用装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本出願は、以下に示す、電子線適用装置における検出データの作成方法および照射対象の画像合成方法、プログラム、記録媒体、並びに、電子線適用装置に関する。
【0009】
(1)電子線適用装置における検出データの作成方法であって、
電子線適用装置は、
光源と、
前記光源からの受光に応じて、放出可能な電子を生成するフォトカソードと、
前記フォトカソードとの間で電界を形成することができ、形成した電界により前記放出可能な電子を引き出し、電子ビームを形成するアノードと、
電子ビームを照射した照射対象から放出された放出量のデータを検出する検出器と、
制御部と、
を含み、
前記検出データの作成方法は、
前記照射対象の照射領域に、前記電子ビームを照射する電子ビーム照射工程と、
前記電子ビームが照射された照射領域から放出された放出量のデータを前記検出器で検出し、検出信号を生成する検出工程と、
前記検出信号の信号強度が予め設定した値となるように、前記光源から前記フォトカソードに到達する光量を調整する光量調整工程と、
前記検出信号の信号強度が予め設定した値が得られるまで、前記電子ビーム照射工程と、前記検出工程と、前記光量調整工程とを繰り返す工程と、
前記検出信号の信号強度が予め設定した値となった光量調整データを、前記照射領域の検出データとして出力する検出データ出力工程と、
を含む、検出データの作成方法。
(2)予め設定した値が、前記照射領域の場所を問わず同一となる値である、
上記(1)に記載の検出データの作成方法。
(3)前記電子線適用装置が、
走査電子顕微鏡、
電子線検査装置、
オージェ電子分光装置、
カソードルミネッセンス装置、
X線分析装置、
透過電子顕微鏡、または、
走査型透過電子顕微鏡、
である、
上記(1)または(2)に記載の検出データの作成方法。
(4)上記(1)~(3)の何れか一つに記載の検出データの作成方法で得られた検出データから、前記照射対象の照射領域の画像を合成する画像合成工程と、
を含む、電子線適用装置における照射対象の画像合成方法。
(5)上記(1)~(4)の何れか一つに記載の各工程を電子線適用装置の制御部に実行させるためのプログラム。
(6)上記(5)に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
(7)光源と、
前記光源からの受光に応じて、放出可能な電子を生成するフォトカソードと、
前記フォトカソードとの間で電界を形成することができ、形成した電界により前記放出可能な電子を引き出し、電子ビームを形成するアノードと、
電子ビームを照射した照射対象から放出された放出量のデータを検出する検出器と、
制御部と、
を含む、電子線適用装置であって、
前記制御部は、
前記照射対象の照射領域に、前記電子ビームを照射する電子ビーム照射工程と、
前記電子ビームが照射された照射領域から放出された放出量のデータを前記検出器で検出し、検出信号を生成する検出工程と、
前記検出信号の信号強度が予め設定した値となるように、前記光源から前記フォトカソードに到達する光量を調整する光量調整工程と、
前記検出信号の信号強度が予め設定した値が得られるまで、前記電子ビーム照射工程と、前記検出工程と、前記光量調整工程とを繰り返す工程と、
前記検出信号の信号強度が予め設定した値となった光量調整データを、前記照射領域の検出データとして出力する検出データ出力工程と、
を実行するように制御する、
電子線適用装置。
(8)予め設定した値が、前記照射領域の場所を問わず同一となる値である、
上記(7)に記載の電子線適用装置。
(9)前記制御部が、
前記検出データから、前記照射対象の照射領域の画像を合成する画像合成工程、
を実行するように制御する、上記(7)または(8)に記載の電子線適用装置。
(10)前記電子線適用装置が、
走査電子顕微鏡、
電子線検査装置、
オージェ電子分光装置、
カソードルミネッセンス装置、
X線分析装置、
透過電子顕微鏡、または、
走査型透過電子顕微鏡、
である、
上記(7)~(9)の何れか一つに記載の電子線適用装置。
【発明の効果】
【0010】
本出願で開示する新たな原理による電子線適用装置における検出データの作成方法および照射対象の画像合成方法、プログラム、記録媒体、並びに、電子線適用装置を用いることで、検出器の検出感度のダイナミックレンジが小さくても照射領域の検出データが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態に係る電子線適用装置1を模式的に示す図である。
【
図2A】
図2Aは、従来の電子線適用装置における検出感度の調整の概略を示す図である。
【
図2B】
図2Bは、従来の電子線適用装置における検出感度の調整の概略を示す図である。
【
図2C】
図2Cは、従来の電子線適用装置における検出感度の調整の概略を示す図である。
【
図2D】
図2Dは、従来の電子線適用装置における検出感度の調整の概略を示す図である。
【
図3A】
図3Aは、本出願で開示する検出データ作成方法の原理を説明するための図である。
【
図3B】
図3B、本出願で開示する検出データ作成方法の原理を説明するための図である。
【
図3C】
図3C、本出願で開示する検出データ作成方法の原理を説明するための図である。
【
図4】
図4は、検出データ作成方法のフローチャートである。
【
図5】
図5は図面代用写真で、上段は実施例2で合成した画像データ、下段は比較例2で撮影した画像データを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ、電子線適用装置における検出データの作成方法(以下、「検出データ作成方法」と記載することがある。)および照射対象の画像合成方法、プログラム、記録媒体、並びに、電子線適用装置について詳しく説明する。なお、本明細書において、同種の機能を有する部材には、同一または類似の符号が付されている。そして、同一または類似の符号の付された部材について、繰り返しとなる説明が省略される場合がある。
【0013】
また、図面において示す各構成の位置、大きさ、範囲などは、理解を容易とするため、実際の位置、大きさ、範囲などを表していない場合がある。このため、本出願における開示は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、範囲などに限定されない。
【0014】
(電子線適用装置および検出データ作成方法の実施形態)
図1~
図4を参照して、電子線適用装置および検出データ作成方法の実施形態について説明する。
図1は、実施形態に係る電子線適用装置1を模式的に示す図である。
図2A乃至
図2Dは従来の電子線適用装置における検出感度の調整の概略を示す図である。
図3A乃至
図3Cは、本出願で開示する検出データ作成方法の原理を説明するための図である。
図4は、検出データ作成方法のフローチャートである。
【0015】
図1に示す電子線適用装置1の実施形態は、光源2と、フォトカソード3と、アノード4と、検出器5と、制御部6と、を少なくとも含んでいる。なお、
図1には、電子線適用装置1が電子銃部分1aと相手側装置1b(電子線適用装置1から電子銃部分1aを除いた部分)に分けて形成した例が示されている。代替的に、電子線適用装置1は一体的に形成されてもよい。また、電子線適用装置1は、任意付加的に、フォトカソード3とアノード4との間に電界を発生させるための電源7、電子ビームBを照射対象S上で走査するための電子ビーム偏向装置8を設けてもよい。更に、図示は省略するが、電子線適用装置1の種類に応じた公知の構成部材を含んでもよい。
【0016】
光源2は、フォトカソード3に励起光Lを照射することで、電子ビームBを射出できるものであれば特に制限はない。光源2は、例えば、高出力(ワット級)、高周波数(数百MHz)、超短パルスレーザー光源、比較的安価なレーザーダイオード、LED等があげられる。照射する励起光Lは、パルス光、連続光のいずれでもよく、目的に応じて適宜調整すればよい。なお、
図1に示す例では、光源2が、真空チャンバーCB外に配置され励起光Lが、フォトカソード3の第1面(アノード4側の面)側に照射されている。代替的に、光源2を真空チャンバーCB内に配置してもよい。また、励起光Lは、フォトカソード3の第2面(アノード4とは反対側の面)側に照射されてもよい。
【0017】
フォトカソード3は、光源2から照射される励起光Lの受光に応じて、放出可能な電子を生成する。フォトカソード3が励起光Lの受光に応じて放出可能な電子を生成する原理は公知である(例えば、特許第5808021号公報等を参照)。
【0018】
フォトカソード3は、石英ガラスやサファイアガラス等の基板と、基板の第1面(アノード4側の面)に接着したフォトカソード膜(図示は省略)で形成されている。フォトカソード膜を形成するためのフォトカソード材料は、励起光を照射することで放出可能な電子を生成できれば特に制限はなく、EA表面処理が必要な材料、EA表面処理が不要な材料等が挙げられる。EA表面処理が必要な材料としては、例えば、III-V族半導体材料、II-VI族半導体材料が挙げられる。具体的には、AlN、Ce2Te、GaN、1種類以上のアルカリ金属とSbの化合物、AlAs、GaP、GaAs、GaSb、InAs等およびそれらの混晶等が挙げられる。その他の例としては金属が挙げられ、具体的には、Mg、Cu、Nb、LaB6、SeB6、Ag等が挙げられる。前記フォトカソード材料をEA表面処理することでフォトカソード3を作製することができ、該フォトカソード3は、半導体のギャップエネルギーに応じた近紫外-赤外波長領域で励起光の選択が可能となるのみでなく、電子ビームの用途に応じた電子ビーム源性能(量子収量、耐久性、単色性、時間応答性、スピン偏極度)が半導体の材料や構造の選択により可能となる。
【0019】
また、EA表面処理が不要な材料としては、例えば、Cu、Mg、Sm、Tb、Y等の金属単体、或いは、合金、金属化合物、又は、ダイアモンド、WBaO、Cs2Te等が挙げられる。EA表面処理が不要であるフォトカソードは、公知の方法(例えば、特許第3537779号等を参照)で作製すればよい。特許第3537779号に記載の内容は参照によりその全体が本明細書に含まれる。
【0020】
なお、本明細書中における「フォトカソード」と「カソード」との記載に関し、電子ビームを射出するという意味で記載する場合には「フォトカソード」と記載し、「アノード」の対極との意味で記載する場合には「カソード」と記載することがあるが、符号に関しては、「フォトカソード」および「カソード」のいずれの場合でも3を用いる。
【0021】
アノード4は、カソード3と電界を形成できるものであれば特に制限はなく、電子銃の分野において一般的に用いられているアノード4を使用すればよい。カソード3とアノード4との間で電界を形成することで、励起光Lの照射によりフォトカソード3に生成した放出可能な電子を引き出し、電子ビームBを形成する。
【0022】
図1には、カソード3とアノード4との間に電界を形成するため、電源7をカソード3に接続した例が示されているが、カソード3とアノード4との間に電位差が生じれば電源7の配置に特に制限はない。
【0023】
検出器5は、電子ビームBを照射した照射対象Sから放出された放出量のデータSBを検出する。放出量のデータSBは、電子ビームBを照射することで照射対象Sから発せられる信号を意味し、例えば、二次電子、反射電子、特性X線、オージェ電子、カソードルミネセンス、透過電子等が挙げられる。検出器5は、これらの放出量のデータSBを検出できるものであれば特に制限はなく、公知の検出器・検出方法を用いればよい。
【0024】
次に、
図2および
図3を参照し、本出願で開示する検出データ作成方法(換言すると、制御部6の制御内容)の原理について、従来技術と対比しながら説明する。
図2Aは照射対象Sをフォトカソード3側から見た図である。
図2Aに示す電子線適用装置1は、照射対象Sの照射領域Rに対し、電子ビームBを偏向しながらライン状に照射する。照射領域Rに回路C等の凹凸が形成されている場合、照射する電子ビームBの強度が同じ場合、凹凸部分から放出される放出量のデータSBは他の部分と異なる。したがって、従来の電子線適用装置1では、
図2Bに示すように、放出量のデータSBを時系列(X)に検出器5で検出すると、凹凸部分は検出信号の強度(Z)の差として検出できる。
【0025】
ところで、従来の電子線適用装置1では、照射領域Rのある部分の放出量のデータSBの強度が検出器5の処理可能な信号の最大値(ダイナミックレンジ、
図2Bに示す例では縦軸の10。)を超えると、
図2Bの矢印に示すように、本来得られるはずのピークが検出できない場合がある。その場合、従来の電子線適用装置1では、本来得られるはずのピークが検出できるように、検出器5の検出感度を調整している。しかしながら、本来得られるはずのピークが検出できるように検出感度を調整する(下げる)と、
図2Bの矢印に示すピークは
図2Cに示すように検出できるものの、白抜き矢印に示すピークは、検出強度が下がるという問題がある。
【0026】
そのため、従来の電子線適用装置1では、
図2Dに示すように、
図2Bに示すデータの中でダイナミックレンジの範囲内のデータはそのまま用い、
図2Bでダイナミックレンンジを超えたデータ部分に関しては検出感度を下げた
図2Cに示すデータを用いて合成する場合もある。しかしながら、その場合、例えば、
図2Dに示す例では、矢印および白抜き矢印のピークはほぼ同じになり、実際の照射領域Rの状態を正確に反映していないという問題がある。
【0027】
一方、本出願で開示する検出データ作成方法では、
図3Aに示すように、照射領域Rから放出された放出量のデータSBの検出信号の信号強度が予め設定した値となるように、光源2からフォトカソード3に到達する光量を調整する。なお、
図3Aは、検出信号の信号強度の予め設定した値が、照射領域Rの場所を問わず同一となる例を示している。照射領域Rに凹凸があるにもかかわらず検出信号の信号強度が同一になるということは、
図3Bに示すように、照射領域Rの凹凸に応じて光源2からフォトカソード3に到達する光量を調整していることになる。したがって、
図3Aに示す検出信号の信号強度が同じとなるように、フォトカソード3に到達する光量を調整した
図3Bに示す光量調整データは、照射領域Rの試料状態を反映したデータとなる。そのため、光量調整データは、照射領域Rの検出データとして使用できる。
【0028】
電子線適用装置1が、例えば、半導体回路等の検査を行う電子線検査装置の場合、検出データは上記のとおり照射領域Rの試料状態を反映したデータであることから、検出データに基づき半導体回路の欠陥の有無等を検査できる。また、電子線適用装置1が走査電子顕微鏡(SEM)の場合、検出データに基づき照射領域Rの画像を合成できる。なお、検出データは照射領域Rの試料状態を反映したデータであることから、画像合成の際には、照射領域Rの試料状態を正確に反映するように合成すればよいが、必要に応じて
図2Dに示すように一部加工して合成してもよい。合成した画像が、検出データをどの様に反映した画像であるのか明らかであれば、画像の合成方法に特に制限はない。
【0029】
なお、
図3Aは検出信号の信号強度の予め設定した値が照射領域Rの場所を問わず同一の例を示しているが、予め設定した値は同一でなくてもよい。例えば、
図3Cのaおよびbに示すように、照射領域Rが明らかに異なる試料状態の領域を含む場合は、領域に応じた異なる値を予め設定した値としてもよい。
【0030】
また、電子線適用装置1が走査電子顕微鏡の場合、照射領域Rがチャージアップすることを避けるため、特定の領域に照射する電子ビームの量を少なくしたい場合がある。後述する検出データ作成方法に記載のとおり、制御部6は、検出信号の信号強度が予め設定した値が得られるまで、電子ビーム照射工程と、検出工程と、光量調整工程とを繰り返す。つまり、制御部6は、検出信号に基づき光量をフィードバック制御していることから、電子ビームBの照射位置、検出信号および光量の関係を常に記憶できる。したがって、特定の領域のみ検出信号が小さくなる(換言すると、予め設定した値が異なる)ようにしても、記憶した電子ビームBの照射位置、検出信号および光量の関係に基づき検出データを解析することで、照射領域Rの試料状態を反映したデータが得られる。
【0031】
なお、本出願で開示する電子線適用装置1の制御部6は、照射領域Rから放出された放出量のデータSBの検出信号の信号強度が予め設定した値となるように、光源2からフォトカソード3に到達する光量を常に調整する必要はない。例えば、放出量のデータSBの強度が検出器5の処理可能な信号の最大値(ダイナミックレンジ)を超えた場合または予め設定した閾値を超えた場合のみ、本出願で開示する制御を行うように切り替えてもよい。つまり、放出量のデータSBの強度が検出器5の処理可能な信号の最大値(ダイナミックレンジ)または閾値を超えない場合は、従来と同様に検出器5の検出信号を照射領域Rの試料状態を反映した検出データとしてもよい。
【0032】
上記実施形態は、電子線適用装置1として走査電子顕微鏡および電子線検査装置の例を用いて説明したが、電子線適用装置1は、二次電子、反射電子、特性X線、オージェ電子、カソードルミネセンス、透過電子を検出できるものであれば特に制限はない。走査電子顕微鏡および電子線検査装置以外の電子線適用装置1としては、例えば、オージェ電子分光装置、カソードルミネッセンス装置、X線分析装置、透過電子顕微鏡(TEM)、走査型透過電子顕微鏡(STEM)等が挙げられる。
【0033】
なお、
図2Aには、照射対象Sの照射領域Rに、電子ビームBを偏向しながら照射する走査型の電子線適用装置の例が示されている。代替的に、光源2からフォトカソード3に照射される励起光Lの位置を走査してもよい。更に代替的に、フォトカソード3に複数の励起光が同時に照射されるようにしてもよい。励起光Lを走査、或いは、複数の励起光Lが同時に照射される場合でも、照射領域Rから放出された放出量のデータSBの検出信号の信号強度が予め設定した値となるように、光源2からフォトカソード3に到達する光量を調整することで、照射領域Rの試料状態を反映した光量調整データが得られる。
【0034】
次に、
図4を参照して、検出データ作成方法を説明する。検出データ作成方法は、電子ビーム照射工程(ST1)と、検出工程(ST2)と、光量調整工程(ST3)と、検出データ出力工程(ST4)と、を含む。電子ビーム照射工程(ST1)は、照射対象Sの照射領域Rに、電子ビームBを照射する。検出工程(ST2)は、電子ビームBが照射された照射領域Sから放出された放出量のデータSBを検出器5で検出し、検出信号を生成する。光量調整工程(ST3)は、検出信号の信号強度が予め設定した値となるように、光源2からフォトカソード3に到達する光量を調整する。なお、光量調整工程は、光源2からフォトカソード3に到達する光量を調整できれば特に制限はない。例えば、光源2のパワーを直接制御することで光量を調整すればよい。また、光源2とフォトカソード3との間に液晶シャッター等の光量調整部材21を配置し、制御部6が光量調整部材21を制御することでフォトカソード3に到達する光量を調整してもよい。制御部6が光量調整部材21を制御する場合は、光量調整部材21の調整データが照射領域Rの試料状態を反映したデータとなる。電子ビーム照射工程(ST1)と、検出工程(ST2)と、光量調整工程(ST3)は、検出信号の信号強度が予め設定した値が得られるまで繰り返せばよい。検出データ出力工程(ST4)は、検出信号の信号強度が予め設定した値となった光量調整データを、照射領域Rの検出データとして出力する。
【0035】
本出願で開示する電子線適用装置および検出データ作成方法(以下においては、「電子線適用装置」と記載する。)は、以下の効果を奏する。
(1)従来の電子線適用装置は、照射領域Rから放出された放出量のデータの検出信号に基づき照射対象Rの試料状態の情報を得ていることから、検出器5の検出感度はある程度のダイナミックレンジが必要であった。一方、本出願の電子線適用装置1では、照射対象Rの試料状態の情報は検出器5の検出信号から直接得る必要はなく、検出器5は単に検出信号が得られれば良い。したがって、検出器5のダイナミックレンジを小さくできる一方で、電子線適用装置1としてのダイナミックレンジを大きくできる。また、検出器5のダイナミックレンジを小さくできることから、コストダウンにもなる。
(2)従来の電子線適用装置1を用いた場合、検出感度の調整は、基本的にはユーザーがマニュアルで調整している。一方、本出願の電子線適用装置1は、検出信号に基づき光量をフィードバック制御することから、自動制御により照射対象Rの試料状態の検出データが得られる。
(3)照射対象Sが、電子ビームBにより損傷を受けやすい試料の場合がある。本出願の電子線適用装置1は、検出器5で検出した検出信号の信号強度が予め設定した値となるように光量を調整することから、照射対象Sに必要以上の強度の電子ビームBを照射することが避けられる。したがって、照射対象Sが受けるダメージが低減できる。また、照射対象Sが受ける電子量が低減できることから、低ドーズ化できる。
(4)フォトカソード3は励起光Lの照射により劣化することが知られている。本出願の電子線適用装置1は、検出器5で検出した検出信号の信号強度が予め設定した値となるように光量を調整することから、フォトカソード3に必要以上に励起光Lを照射することが避けられる。したがって、フォトカソード3の寿命が長くなる。
(5)本出願の電子線適用装置1では、フォトカソード3が受光する励起光Lの光量の変化に応じて、放出する電子ビームBの強度(放出する電子の量)を迅速に変更できるという特徴を用いている。一方、従来の電界放出型陰極および熱電子放出型陰極を用いた電子線適用装置では、検出器5で検出した検出信号の信号強度に基づき、電界放出型陰極および熱電子放出型陰極から放出する電子ビームの強度を迅速に変更できない。したがって、本出願における開示は、フォトカソード3を用いることで初めて実施ができる、新たな原理による検出データの作成方法および電子線適用装置である。
【0036】
(プログラムおよび記録媒体の実施形態)
上記電子線適用装置および検出データ作成方法の実施形態は、電子線適用装置1の制御部6の制御により実施することができる。したがって、制御部6には、
図4に示す各工程が実施できるように作成したプログラムがインストールされていればよい。また、プログラムは、読み取り可能な記録媒体に記録して提供してもよい。従来の電子線適用装置1の制御部6に本出願で開示するプログラムをインストールすることで、本出願で開示する新たな原理による照射領域Rの検出データ作成方法を実施できる。
【0037】
以下に実施例を掲げ、本出願で開示する実施形態を具体的に説明するが、この実施例は単に実施形態の説明のためのものである。本出願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。
【実施例0038】
[電子線適用装置1の作製]
<実施例1>
光源2には、レーザー光源(Toptica製iBeamSmart)を用いた。フォトカソード3は、Daiki SATO et al. 2016 Jpn. J. Appl. Phys. 55 05FH05に記載された公知の方法で、InGaNフォトカソードを作製した。フォトカソード表面のEA処理は、公知の方法により行った。作製した電子銃部分を、市販のSEMの電子銃部分と置き換えた。なお、市販SEMの仕様は、電子銃がコールド型電界放出電子源(CFE)を用いており、電子ビーム偏向装置8として偏向コイルを備えていた。電子ビームの加速電圧は最大で30kv、最大で100万倍での観察が可能である。電子線適用装置1の制御部6は、実施形態で説明した各工程が実施できるように、プログラムを作成・改良した。
【0039】
<比較例1>
制御部6のプログラムを改良しなかった以外は、実施例1と同様に電子線適用装置1を作成した。
【0040】
[検出データの作成方法および画像合成方法の実施]
<実施例2>
実施例1で作製した電子線適用装置1を用いて、照射対象Sに電子ビームBを照射した。そして、検出器5で検出した検出信号の信号強度が予め設定した値(照射領域Rの場所を問わず検出信号が同一となる値)となるように、光源2の光量を調整した。検出信号の信号強度が予め設定した値となった光量調整データを、照射領域の検出データとして出力した。そして、検出データ(光源2の光量(強度)を調整するデータ)に基づき、画像を合成した。
図5の上段に実施例2で合成した画像データを示す。なお、実験条件は以下の通りである。
・加速電圧:25kV
・倍率:25、000倍
・1mW~100mWで光源2の強度を変調
【0041】
<比較例2>
比較例1で作製した電子線適用装置を用いて、従来の手順で照射対象SのSEM像を撮影した。
図5の下段に比較例2で撮影した画像データを示す。なお、実験条件は以下の通りである。
・加速電圧:25kV
・倍率:25、000倍
・プローブ電流:100pA(SEM像の取得の際の電流)
【0042】
図5に示す通り、実施例2および比較例2では、画像を形成する原理は全く異なるものの、照射対象Sの画像を得ることができた。
本出願で開示する電子線適用装置における検出データの作成方法および照射対象の画像合成方法、プログラム、記録媒体、並びに、電子線適用装置により、検出器のダイナミックレンジに応じて検出感度を調整する必要のない、新しい原理で照射対象Sの試料状態の情報を得ることができる。したがって、電子顕微鏡や電子線検査装置等の試料状態の検査・撮影等を行う業者にとって有用である。
1…電子線適用装置、1a…電子銃部分、1b…相手側装置、2…光源、21…光源調整部材、3…フォトカソード(カソード)、4…アノード、5…検出器、6…制御部、7…電源、8…電子ビーム偏向装置、B…電子ビーム、C…回路、CB…真空チャンバー、L…励起光、S…照射対象、SB…放出量のデータ、R…照射領域