(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038459
(43)【公開日】2023-03-17
(54)【発明の名称】金型、プレス装置、及びプレス成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 24/00 20060101AFI20230310BHJP
B21D 22/26 20060101ALI20230310BHJP
【FI】
B21D24/00 H
B21D22/26 D
B21D24/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021145197
(22)【出願日】2021-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】米林 亮
(72)【発明者】
【氏名】金山 沙彩
(72)【発明者】
【氏名】西村 隆一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 泰弘
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA05
4E137AA10
4E137AA17
4E137BA01
4E137BB01
4E137BC01
4E137CA09
4E137CB01
4E137EA01
4E137EA03
4E137GA03
4E137GA08
4E137GB03
4E137GB04
4E137HA06
4E137HA08
(57)【要約】
【課題】プレス成形品のスプリングバックを低減させて寸法精度を向上させることができ、簡易な構造を有する金型を提供する。
【解決手段】金型(10)は、ダイ(12L,12R)を備える。ダイ(12L,12R)は、ダイ肩(121L,121R)と、ダイ側面(122L,122R)とを含む。ダイ側面(122L,122R)は、ダイ上部側面(122a)と、ダイ下部側面(122b)とを有する。ダイ下部側面(122b)は、ダイ上部側面(122a)に対して金型(10)の幅方向で外側に向かって凹の形状を有する。ダイ肩(121L,121R)の上端からダイ上部側面(122a)の下端までの長さをH1、ダイ上部側面(122a)の下端からダイ下部側面(122b)の下端までの長さをH2としたとき、H1はダイ肩(121L,121R)の曲率半径よりも5.0mm以上大きく、H2/H1は1.0以上且つ5.0以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の素材にプレス加工を施すための金型であって、
パンチ頂面と、パンチ側面と、前記パンチ頂面と前記パンチ側面との間の角部を構成するパンチ肩と、を含むパンチと、
前記パンチ肩に対応するダイ肩と、前記パンチ側面に対応するダイ側面と、前記ダイ側面から前記金型の幅方向において外側に延在するダイフランジ面と、を含むダイと、
を備え、
前記ダイ側面は、
前記ダイ肩に連続して設けられたダイ上部側面と、
前記ダイ上部側面と前記ダイフランジ面との間に配置され、前記ダイ上部側面に対して前記幅方向で外側に向かって凹の形状を有するダイ下部側面と、
を有し、
前記ダイ肩の上端から前記ダイ上部側面の下端までの前記ダイの上下方向における長さをH1、前記ダイ上部側面の前記下端から前記ダイ下部側面の下端までの前記上下方向における長さをH2としたとき、H1は前記ダイ肩の曲率半径よりも5.0mm以上大きく、H2/H1は1.0以上且つ5.0以下である、金型。
【請求項2】
請求項1に記載の金型であって、
前記ダイ下部側面は、
前記ダイ上部側面の前記下端に連続して設けられ、前記ダイ下部側面を前記ダイ上部側面に接続する第1接続部と、
前記ダイ下部側面の前記下端を含み、前記ダイ下部側面を前記ダイフランジ面に接続する第2接続部と、
前記第1接続部と前記第2接続部との間に配置され、前記第1接続部よりも前記幅方向で外側に位置づけられる中間部と、
を含む、金型。
【請求項3】
請求項2に記載の金型であって、
前記第1接続部は、前記ダイの横断面視で、1.0mm以上且つ10.0mm以下の曲率半径を有する円弧状をなす、金型。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の金型であって、
前記中間部は、前記第1接続部に対して前記幅方向で外側に向かって凹の形状を有する曲面を含む、金型。
【請求項5】
請求項4に記載の金型であって、
前記ダイ上部側面の前記下端から前記ダイ下部側面の前記下端までの前記幅方向における長さをW2としたとき、H2/W2は1.0以上且つ5.0以下である、金型。
【請求項6】
請求項2又は3に記載の金型であって、
前記中間部は、水平面に対して傾斜する傾斜面を含む、金型。
【請求項7】
請求項6に記載の金型であって、
前記傾斜面が水平面となす角度は、前記パンチ側面が鉛直面となす角度をθ°とすると、(50-θ)°以上且つ(78-θ)°以下である、金型。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の金型であって、
前記パンチ及び前記ダイが閉じた状態にあるときの前記パンチ側面と前記ダイ上部側面との間のクリアランスは、前記素材の板厚よりも小さい、金型。
【請求項9】
請求項8に記載の金型であって、
前記クリアランスは、前記板厚の0.85倍以上且つ0.95倍以下である、金型。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の金型であって、さらに、
前記パンチ頂面に対応するパッドを備える、金型。
【請求項11】
板状の素材からプレス成形品を成形するプレス装置であって、
請求項10に記載の金型を備え、
前記プレス装置は、前記パンチ頂面上に配置された前記素材を前記パンチ頂面及び前記パッドによって挟持した状態で、前記パンチ及び前記ダイによる前記素材の成形が開始されるように構成されている、プレス装置。
【請求項12】
請求項11に記載のプレス装置であって、さらに、
前記ダイ及び前記パッドを一体で移動可能に支持するダイホルダを備え、
前記パッドは、伸縮可能な弾性部材によって前記ダイホルダに連結されている、プレス装置。
【請求項13】
プレス成形品の製造方法であって、
請求項1から10のいずれか1項に記載の金型を準備する第1準備工程と、
板状の素材を準備する第2準備工程と、
前記金型を用いて前記素材を前記プレス成形品に成形する成形工程と、
を備え、
前記成形工程は、
前記パンチ頂面上に前記素材を配置した後、前記ダイを前記パンチに対して相対的に接近させ、前記ダイ下部側面を前記素材に接触させることで前記素材をたわませる工程と、
前記素材をたわませた状態で前記ダイを前記パンチにさらに接近させ、前記ダイ上部側面を前記素材に接触させる工程と、
前記ダイ上部側面を前記素材に接触させたまま、前記ダイを前記パンチにさらに接近させることにより、前記ダイ上部側面によって前記素材のたわみを曲げ戻す工程と、
前記パンチ及び前記ダイを閉じ、前記パンチ肩と前記ダイ肩との間、及び前記パンチ側面と前記ダイ上部側面との間で前記素材を挟持する工程と、
を含み、
前記素材は、前記パンチ及び前記ダイが完全に閉じたとき、前記パンチ頂面、前記パンチ肩、及び前記パンチ側面に沿った形状となる、製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の製造方法であって、
前記第1準備工程では、請求項10に記載の金型が準備され、
前記成形工程では、前記パンチ頂面上に配置された前記素材を前記パンチ頂面及び前記パッドによって挟持した状態で、前記ダイ下部側面によって前記素材をたわませる、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、板状の素材にプレス加工を施すための金型、プレス装置、及びプレス成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体等を構成する部品として、プレス成形品が広く使用されている。プレス成形品は、例えば、天板と、天板の両側縁に曲げ部を介して接続された縦壁とを有する。このようなプレス成形品は、板状の素材(金属板)にプレス加工を施すことによって製造される。より具体的には、パンチ及びダイを含む金型を用い、金属板に絞り加工や曲げ加工を施すことにより、プレス成形品が製造される。
【0003】
金型によって金属板をプレス成形品に成形した後、当該プレス成形品を離型するとスプリングバックが発生する。より詳細には、プレス加工中に金型によって金属板が曲げられるとき、曲げ部では、曲げ外側に引張応力が生じ、曲げ内側に圧縮応力が生じるが、成形が終了してプレス成形品を金型から取り外すと、材料の弾性回復により、曲げ外側に圧縮応力が生じ、曲げ内側に引張応力が生じる。これにより、プレス成形品を金型から取り外した瞬間に、プレス成形品の両縦壁を外側に開かせるモーメント(壁開きのモーメント)が生じる。当該モーメントが原因で、プレス成形品のスプリングバックが発生する。
【0004】
プレス加工用の金型は、プレス成形品について目標の寸法精度を得るため、スプリングバックを見込んで設計される場合がある。すなわち、金型のうちプレス成形品の両縦壁を成形する部分は、スプリングバックによる壁開きが見込まれる量だけ、目標とする両縦壁の位置よりも内側に設けられる。しかしながら、スプリングバックの見込み量を実際のスプリングバックの量と正確に一致させることは難しい。また、スプリングバックの量は素材の強度に比例するため、例えば、高張力鋼や超高張力鋼等といった高強度の素材にプレス加工を施す際には、スプリングバックの見込み量が大きくなる。この見込み量に基づいて金型を設計する場合、金型のうちプレス成形品の両縦壁を成形する部分が負角となり、金型の構造として成立しない可能性がある。よって、スプリングバックを見込んで金型を設計することだけでプレス成形品について目標の寸法精度を得るのは困難である。
【0005】
そこで、スプリングバックの見込みに頼らずに目標の寸法精度のプレス成形品を得る技術が提案されている。例えば、特許文献1は、天板及び2つの縦壁に加え、両縦壁から外側に延在するフランジを含むプレス成形品の製造方法を開示する。特許文献1の製造方法は、例えば、素材としての金属板から中間成形品を製造する第1プレス加工工程と、中間成形品から最終的なプレス成形品を製造する第2プレス加工工程とを含む。第1プレス加工工程では、第1パンチ及び第1ダイによって金属板にプレス加工が施され、プレス成形品の天板及び曲げ部が成形されるとともに、各縦壁の一部が成形される。第2プレス加工工程では、第2パンチ及び第2ダイにより、第1プレス加工工程で得られた中間成形品にプレス加工が施され、各縦壁の残りの部分及び各フランジが成形される。特許文献1によれば、各フランジの成形を最後に行うことにより、スプリングバックによる各縦壁の反り(開き)を低減させることができる。
【0006】
例えば、特許文献2は、プレス成形品の製造に際し、カム機構を利用してダイの移動方向を制御することを開示する。特許文献2の製造方法は、パンチ上の素材に向かってダイを降下させて素材を曲げ成形する押し曲げ工程と、カムを用いてダイをパンチに近づく方向に移動させて素材を曲げ成形する寄せ曲げ工程とを含む。寄せ曲げ工程では、パンチの両側に設けられたダイが素材の端部に接触して素材をパンチ側に押圧するため、上方に凸のたわみが素材に形成される。特許文献2によれば、このように素材をたわませることにより、スプリングバック成分を打ち消す方向に作用するスプリングゴー成分を発生させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2016/051765号
【特許文献2】特許第5808297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の製造方法では、プレス成形品の天板及び各縦壁の一部を先行して成形し、各縦壁の残りの部分及び各フランジを最後に成形することでスプリングバックを低減させている。よって、特許文献1の製造方法の場合、スプリングバックに起因する寸法精度の悪化を防止するためには、少なくとも2回のプレス加工工程が必要となる。
【0009】
一方、特許文献2の製造方法では、1回のプレス加工工程でプレス成形品を製造することができる。しかしながら、特許文献2の製造方法の場合、ダイの移動方向を制御するためにカム機構を利用する必要があるため、金型の構造が複雑化するという問題がある。
【0010】
本開示は、プレス成形品のスプリングバックを低減させて寸法精度を向上させることができ、簡易な構造を有する金型を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示に係る金型は、板状の素材にプレス加工を施すための金型である。金型は、パンチと、ダイとを備える。パンチは、パンチ頂面と、パンチ側面と、パンチ肩とを含む。パンチ肩は、パンチ頂面とパンチ側面との間の角部を構成する。ダイは、ダイ肩と、ダイ側面と、ダイフランジ面とを含む。ダイ肩は、パンチ肩に対応する。ダイ側面は、パンチ側面に対応する。ダイフランジ面は、ダイ側面から金型の幅方向において外側に延在する。ダイ側面は、ダイ上部側面と、ダイ下部側面とを有する。ダイ上部側面は、ダイ肩に連続して設けられている。ダイ下部側面は、ダイ上部側面とダイフランジ面との間に配置される。ダイ下部側面は、ダイ上部側面に対して金型の幅方向で外側に向かって凹の形状を有する。ダイ肩の上端からダイ上部側面の下端までのダイの上下方向における長さをH1、ダイ上部側面の下端からダイ下部側面の下端までの上下方向における長さをH2としたとき、H1はダイ肩の曲率半径よりも5.0mm以上大きく、H2/H1は1.0以上且つ5.0以下である。
【発明の効果】
【0012】
本開示に係る金型は、プレス成形品のスプリングバックを低減させて寸法精度を向上させることができる。また、本開示に係る金型は、簡易な構造を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る金型の概略構成を示す横断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の金型のうち右側のダイを拡大して示す横断面図である。
【
図3A】
図3Aは、第1実施形態に係るプレス成形品の製造方法を説明するための模式図である。
【
図3B】
図3Bは、第1実施形態に係るプレス成形品の製造方法を説明するための模式図である。
【
図3C】
図3Cは、第1実施形態に係るプレス成形品の製造方法を説明するための模式図である。
【
図3D】
図3Dは、第1実施形態に係るプレス成形品の製造方法を説明するための模式図である。
【
図3E】
図3Eは、第1実施形態に係るプレス成形品の製造方法を説明するための模式図である。
【
図3F】
図3Fは、第1実施形態に係るプレス成形品の製造方法を説明するための模式図である。
【
図3G】
図3Gは、第1実施形態に係るプレス成形品の製造方法を説明するための模式図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係る製造方法によって製造されるプレス成形品を例示する図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態に係る製造方法によって製造される、別のプレス成形品を例示する図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態に係る製造方法によって製造される、さらに別のプレス成形品を例示する図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態の変形例に係る金型の部分横断面図である。
【
図8】
図8は、第1実施形態とは異なる金型及びプレス成形品の製造方法を説明するための模式図である。
【
図9】
図9は、第2実施形態に係る金型の概略構成を示す横断面図である。
【
図11】
図11は、第2実施形態の変形例に係るダイの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施形態に係る金型は、板状の素材にプレス加工を施すための金型である。金型は、パンチと、ダイとを備える。パンチは、パンチ頂面と、パンチ側面と、パンチ肩とを含む。パンチ肩は、パンチ頂面とパンチ側面との間の角部を構成する。ダイは、ダイ肩と、ダイ側面と、ダイフランジ面とを含む。ダイ肩は、パンチ肩に対応する。ダイ側面は、パンチ側面に対応する。ダイフランジ面は、ダイ側面から金型の幅方向において外側に延在する。ダイ側面は、ダイ上部側面と、ダイ下部側面とを有する。ダイ上部側面は、ダイ肩に連続して設けられている。ダイ下部側面は、ダイ上部側面とダイフランジ面との間に配置される。ダイ下部側面は、ダイ上部側面に対して金型の幅方向で外側に向かって凹の形状を有する。ダイ肩の上端からダイ上部側面の下端までのダイの上下方向における長さをH1、ダイ上部側面の下端からダイ下部側面の下端までの上下方向における長さをH2としたとき、H1はダイ肩の曲率半径よりも5.0mm以上大きく、H2/H1は1.0以上且つ5.0以下である(第1の構成)。
【0015】
第1の構成に係る金型を用いて板状の素材にプレス加工を施す際には、素材をパンチ頂面上に配置した状態で、ダイをパンチに対して相対的に接近させる。これにより、まず、ダイ下部側面がパンチ頂面上の素材に接触する。ダイ下部側面は、ダイ上部側面に対し、金型の幅方向で外側に向かって凹の形状を有する。そのため、ダイをパンチに接近させるに伴い、素材は、ダイ下部側面に案内されて、パンチに対するダイの接近方向と反対側に凸の形状となるようにたわんでいく。ダイをパンチにさらに接近させると、素材がダイ上部側面に接触し、たわんでいた素材が徐々に曲げ戻される。ダイ及びパンチの接近が進むにつれて、素材のたわみは縮小され、素材がパンチ肩になじんで(巻き付いて)曲げ部が形成されていく。最終的にパンチ及びダイが閉じたときには、素材のたわみは完全に曲げ戻されて消失し、パンチ肩とダイ肩との間、及びパンチ側面とダイ上部側面との間で素材が挟持される。
【0016】
このように、第1の構成による金型は、パンチに対するダイの接近方向と反対側に凸の形状となるように素材をたわませるとともに、プレス加工が進むにつれて素材のたわみを徐々に曲げ戻すように構成されている。これにより、プレス加工中に、素材のうち特にプレス成形品の縦壁となる部分において、パンチ側に引張応力を生じさせ、パンチの反対側であるダイ側に圧縮応力を生じさせることができる。パンチ肩によって形成される曲げ部では、パンチ側に圧縮応力が生じ、ダイ側に引張応力が生じるため、たわみの曲げ戻しによって生じる応力は、曲げ部の応力と打ち消し合い、曲げ部の応力を減じる。素材からプレス成形品への成形が終了した時点で曲げ部に残存する応力及び曲げ戻し部に残存する応力によって、離型後のプレス成形品では、壁開きのモーメント及び壁閉じのモーメントが生じるが、これらは互いに打ち消し合い、壁開きのモーメントが減少する。よって、離型後のプレス成形品におけるスプリングバックを低減させることができる。その結果、プレス成形品の寸法精度を向上させることができる。また、第1の構成に係る金型を用いて素材にプレス加工を施す際には、通常の型閉じ操作を行うだけでよく、ダイを特別な方向に移動させるためのカム機構等は不要である。よって、金型を簡易な構造とすることができる。
【0017】
第1の構成では、ダイ肩の上端からダイ上部側面の下端までのダイの上下方向における長さをH1、ダイ上部側面の下端からダイ下部側面の下端までのダイの上下方向における長さをH2としたとき、H2/H1が1.0以上且つ5.0以下に設定されている。これにより、ダイ下部側面の長さが十分に確保されるため、プレス加工中、ダイ下部側面によって素材を幅方向の広範囲にわたり、大きくたわませることができる。よって、たわみの曲げ戻しによる応力及びモーメントの打ち消し合いの効果を有効に発揮させることができる。また、第1の構成では、H1をダイ肩の曲率半径よりも5.0mm以上大きくした上で、H2/H1を1.0以上且つ5.0以下としているため、ダイ上部側面の長さも確保することができる。よって、最終的にパンチ及びダイが閉じたとき、パンチ側面とダイ上部側面とで素材をしっかりと挟持することができ、最終的なプレス成形品の形状に素材を成形することができる。そのため、追加のプレス加工工程を実施する必要がなく、プレス成形品の製造における工数及びコストを低減させることができる。
【0018】
H2/H1が5.0を超える場合、ダイ側面において、金型の幅方向で外側に向かって凹の形状を有するダイ下部側面が占める割合が過大となり、ダイ下部側面によって素材をたわませる効果は飽和する。また、H2/H1が5.0を超える場合、金型の製造等にかかるコストも増加する。そのため、第1の構成のように、H2/H1は5.0以下であることが好ましい。
【0019】
ダイ下部側面は、第1接続部と、第2接続部と、中間部とを含んでいてもよい。第1接続部は、ダイ上部側面の下端に連続して設けられ、ダイ下部側面をダイ上部側面に接続する。第2接続部は、ダイ下部側面の下端を含み、ダイ下部側面をダイフランジ面に接続する。中間部は、第1接続部と第2接続部との間に配置され、第1接続部よりも幅方向で外側に位置づけられる(第2の構成)。
【0020】
第1接続部は、例えば、ダイの横断面視で円弧状をなす。この場合、第1接続部は、1.0mm以上且つ10.0mm以下の曲率半径を有することが好ましい(第3の構成)。
【0021】
第3の構成では、ダイ下部側面のうち、当該ダイ下部側面をダイ上部側面に接続する第1接続部の曲率半径が10.0mm以下に設定されている。この場合、所定の大きさを有するダイ側面において、第1接続部、及び第1接続部を含むダイ下部側面が占める割合が大きくなり過ぎず、ダイ上部側面の長さを確保しやすくなる。よって、最終的にパンチ及びダイが閉じたとき、パンチ側面とダイ上部側面とで素材をより確実に挟持することができる。
【0022】
プレス加工中に第1接続部が素材に接触した際、第1接続部が食い込んだ痕(食込み痕)や曲げ癖が素材に残ることがある。これに対して、第3の構成では、第1接続部の曲率半径が1.0mm以上に設定されている。よって、食込み痕や曲げ癖が素材に残るのを回避することができる。
【0023】
中間部は、第1接続部に対して金型の幅方向で外側に向かって凹の形状を有する曲面を含んでいてもよい(第4の構成)。この場合において、ダイ上部側面の下端からダイ下部側面の下端までの上記幅方向における長さをW2としたとき、H2/W2は1.0以上且つ5.0以下であることが好ましい(第5の構成)。
【0024】
H2/W2が1.0未満である場合、すなわちH2に対してW2が大きい場合、ダイ下部側面によって素材をたわませる効果は飽和する。また、H2/W2が1.0未満である場合、金型の製造等にかかるコストも増加する。一方、H2/W2が5.0を超える場合、H2に対してW2が小さくなるため、ダイ下部側面によって素材をたわませる効果は小さくなる。よって、ダイ下部側面の中間部を主に曲面で構成するときは、第5の構成のように、H2/W2が1.0以上且つ5.0以下であることが好ましい。
【0025】
中間部は、水平面に対して傾斜する傾斜面を含んでいてもよい(第6の構成)。当該傾斜面が水平面となす角度は、パンチ側面が鉛直面となす角度をθ°とすると、(50-θ)°以上且つ(78-θ)°以下であることが好ましい(第7の構成)。
【0026】
ダイ下部側面の中間部が主に傾斜面で構成されている場合、水平面に対する傾斜面の角度が大きすぎると、ダイ下部側面の凹みの程度は小さくなる。よって、ダイ下部側面によって素材をたわませる効果は小さくなる。一方、水平面に対する傾斜面の角度が小さすぎると、当該効果は飽和する。また、水平面に対する傾斜面の角度が小さくなるほどダイ下部側面の凹みの程度が大きくなるため、金型が大型化し、金型の製造等にかかるコストが増加する。よって、中間部に含まれる傾斜面が水平面に対してなす角度は、第7の構成のように、パンチ側面が鉛直面に対してなす角度をθ°とすると、(50-θ)°以上且つ(78-θ)°以下であることが好ましい。
【0027】
パンチ及びダイが閉じた状態にあるときのパンチ側面とダイ上部側面との間のクリアランスは、素材の板厚よりも小さくてもよい(第8の構成)。当該クリアランスは、板厚の0.85倍以上且つ0.95倍以下であることが好ましい(第9の構成)。
【0028】
第8及び第9の構成では、パンチ側面とダイ上部側面との間のクリアランスが素材の板厚よりも小さくなっている。そのため、最終的にパンチ及びダイが閉じたとき、パンチ側面とダイ上部側面との間で素材が強く挟持され、素材のたわみがよりしっかりと曲げ戻される。この場合、素材のうちプレス成形品の縦壁となる部分において、パンチ側により大きな引張応力を生じさせるとともに、パンチの反対側であるダイ側により大きな圧縮応力を生じさせることができる。よって、これらの応力が曲げ部の応力を打ち消す効果を高めることができる。その結果、離型後のプレス成形品におけるスプリングバックをより低減させることができ、プレス成形品の寸法精度をさらに向上させることができる。
【0029】
実施形態に係る金型では、板状の素材のプレス加工において最終的にパンチ及びダイが閉じたとき、パンチ側面とダイ上部側面とで素材が挟持される一方、凹状のダイ下部側面は実質的に素材に接触しない。そのため、素材のうちプレス成形品の縦壁となる部分に対して荷重を集中的に与えることができる。特に、第8及び第9の構成のように、パンチ側面とダイ上部側面との間のクリアランスが素材の板厚よりも小さい場合、素材のうちプレス成形品の縦壁となる部分をより強く押圧することができる。
【0030】
特許文献2のように、ダイを斜め下に移動させるカム機構では、型剛性により、素材を板厚方向に強く押圧することは困難である。これに対して、第8及び第9の構成では、カム機構を使用せず、パンチ側面とダイ上部側面との間のクリアランスを素材の板厚よりも小さく設定している。これにより、素材を板厚方向に強く押圧することが可能となる。よって、素材のうちプレス成形品の縦壁となる部分においてより大きな応力を発生させることができ、当該応力によって曲げ部の応力を打ち消す効果を高めることができる。その結果、離型後のプレス成形品におけるスプリングバックをより低減させることができ、プレス成形品の寸法精度をさらに向上させることができる。
【0031】
上記金型は、さらに、パンチ頂面に対応するパッドを備えていてもよい(第10の構成)。
【0032】
第10の構成に係る金型は、パンチ及びダイに加え、パッドを備える。この場合、パンチ頂面とパッドとで素材を押さえた状態で、ダイをパンチに相対的に接近させることができる。よって、プレス加工中における素材の位置ずれを防止することができる。また、パッドで素材を押さえた状態で素材の成形を行うことで、プレス成形品の天板の形状を精度よく成形することができる。
【0033】
実施形態に係るプレス装置は、板状の素材からプレス成形品を製造する。プレス装置は、上記金型を備える。プレス装置は、パンチ頂面上に配置された素材をパンチ頂面及びパッドによって挟持した状態で、パンチ及びダイによる素材の成形が開始されるように構成されている(第11の構成)。
【0034】
上記プレス装置は、さらに、ダイホルダを備える。ダイホルダは、ダイ及びパッドを一体で移動可能に支持する。パッドは、伸縮可能な弾性部材によってダイホルダに連結されている(第12の構成)。
【0035】
実施形態に係る製造方法は、プレス成形品の製造方法である。製造方法は、上記金型を準備する第1準備工程と、板状の素材を準備する第2準備工程と、金型を用いて素材をプレス成形品に成形する成形工程と、を備える。成形工程は、パンチ頂面上に素材を配置した後、ダイをパンチに対して相対的に接近させ、ダイ下部側面を素材に接触させることで素材をたわませる工程と、素材をたわませた状態でダイをパンチにさらに接近させ、ダイ上部側面を素材に接触させる工程と、ダイ上部側面を素材に接触させたまま、ダイをパンチにさらに接近させることにより、ダイ上部側面によって素材のたわみを曲げ戻す工程と、パンチ及びダイを閉じ、パンチ肩とダイ肩との間、及びパンチ側面とダイ上部側面との間で素材を挟持する工程とを含む。素材は、パンチ及びダイが完全に閉じたとき、パンチ頂面、パンチ肩、及びパンチ側面に沿った形状となる(第13の構成)。
【0036】
上記製造方法において、第1準備工程では、パンチ及びダイに加えてパッドを備える金型が準備されてもよい。この場合、成形工程では、パンチ頂面上に配置された素材をパンチ頂面及びパッドによって挟持した状態で、ダイ下部側面によって素材をたわませることが好ましい(第14の構成)。
【0037】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0038】
<第1実施形態>
[プレス装置の構成]
図1は、本実施形態に係る金型10の概略構成を示す横断面図である。横断面とは、金型10の長手方向に対して実質的に垂直な平面で切断した断面である。以下の説明では、
図1の紙面における上下方向を金型10の上下方向といい、
図1の紙面における左右方向、すなわち金型10の長手方向及び上下方向からなる平面に対して実質的に垂直な方向を金型10の幅方向という。また、
図1の紙面上での左側及び右側を単に左側及び右側という場合がある。
【0039】
金型10は、板状の素材(金属板)にプレス加工を施すために用いられる。金型10によって素材をプレス加工することにより、例えば自動車の足回り部品であるプレス成形品を製造することができる。自動車の足回り部品としては、例えば、アッパーアーム、ロアアーム、又はトレールリンク等といったアーム部品の他、サスペンションメンバやトーションビーム等が挙げられる。
【0040】
図1を参照して、素材に対してプレス加工を施すに際し、金型10は、プレス装置20に取り付けられる。金型10は、パンチ11と、ダイ12L,12Rと、パッド13とを備えている。本実施形態において、金型10の上型であるダイ12L,12R、及びパッド13は、プレス装置20により、鉛直方向に移動する。鉛直方向に引かれた直線を金型10の横断面に投影したとき、当該直線の方向と金型10の横断面視での上下方向とが一致する。金型10が、側面視で直線的な形状を有するプレス成形品を成形するものである場合、鉛直方向と金型10の横断面視での上下方向とが金型10の全長にわたって常に一致する。
【0041】
パンチ11は、パンチ頂面111と、パンチ肩112L,112Rと、パンチ側面113L、113Rとを含む。
【0042】
図1に示す例において、パンチ頂面111は、実質的に平坦な面である。ただし、パンチ頂面111には、パンチ11の長手方向に延びる溝部又は段部(段差)が形成されていてもよい。溝部又は段部は、パンチ11の長手方向において、パンチ頂面111の全体にわたって延びていてもよいし、パンチ頂面111の一部に設けられていてもよい。
【0043】
金型10の幅方向において、パンチ頂面111の両隣にはパンチ肩112L,112R及びパンチ側面113L、113Rが設けられている。パンチ肩112L及びパンチ側面113Lは、パンチ頂面111の左側に配置されている。パンチ肩112R及びパンチ側面113Rは、パンチ頂面111の右側に配置されている。
【0044】
パンチ肩112L,112Rは、パンチ頂面111に連続して設けられる。より詳細には、パンチ肩112Lは、パンチ頂面111の左側縁に連続し、パンチ肩112Rは、パンチ頂面111の右側縁に連続する。パンチ肩112L,112Rは、それぞれ、パンチ頂面111とパンチ側面113L、113Rとの間の角部(稜線部)を構成する。パンチ肩112L,112Rの各々は、例えば、パンチ11の横断面視で実質的に円弧状をなす。
【0045】
ここで、本実施形態において、実質的に円弧状とは、真円の一部を構成する曲線だけでなく、楕円曲線、スプライン曲線等の滑らかな曲線も含む概念である。本実施形態では、楕円曲線やスプライン曲線等、真円の一部を構成する曲線以外の滑らかな曲線について、その曲率半径は、曲線の両端、及び曲線の中点の3点を通る円の半径で定義することとする。
【0046】
パンチ11の横断面視で、パンチ側面113Lは、左のパンチ肩112Lから下方に延びている。パンチ11の横断面視で、パンチ側面113Rは、右のパンチ肩112Rから下方に延びている。本実施形態の例では、パンチ11の横断面で見て、パンチ側面113L,113Rは、下方に向かうにつれて互いに離間するように上下方向に対して傾斜している。ただし、パンチ側面113L,113Rは、パンチ11の横断面で見て、実質的に上下方向に延びていてもよい。
【0047】
パンチ側面113L,113Rが鉛直面となす角度θL,θR(°)は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。角度θL,θRは、それぞれ0°以上である。角度θL,θRは、それぞれ20°以下であることが好ましい。パンチ側面113L,113Rが鉛直面となす角度θL,θRとは、上下方向及び幅方向からなる平面でパンチ11を切断した断面において、パンチ側面113L,113Rと上下方向とがなす角度(鋭角側)である。鉛直面は、鉛直方向と長手方向とからなる平面、又は上下方向と長手方向とからなる平面で金型10を切断したときの断面である。鉛直面を金型10の横断面に投影すると、上下方向に延びる直線となる。
【0048】
金型10がプレス装置20に取り付けられたとき、ダイ12L,12Rは、パンチ11の上方に位置づけられる。また、金型10がプレス装置20に取り付けられたとき、ダイ12L,12Rは、金型10の幅方向においてパッド13の両隣に位置づけられる。ダイ12Lは、パッド13の左側に配置される。ダイ12Rは、パッド13の右側に配置される。
【0049】
左側のダイ12Lは、ダイ肩121Lと、ダイ側面122Lと、ダイフランジ面123Lとを含む。右側のダイ12Rは、ダイ肩121Rと、ダイ側面122Rと、ダイフランジ面123Rとを含む。
【0050】
左側のダイ肩121Lは、左側のパンチ肩112Lに対応して設けられる。すなわち、ダイ肩121Lは、パンチ11及びダイ12L,12Rが閉じたとき、パンチ肩112Lとの間で素材を挟持することができる形状を有する。同様に、右側のダイ肩121Rは、右側のパンチ肩112Rに対応して設けられる。すなわち、ダイ肩121Rは、パンチ11及びダイ12L,12Rが閉じたとき、パンチ肩112Rとの間で素材を挟持することができる形状を有する。
【0051】
ダイ肩121L,121Rは、それぞれ、ダイ12L,12Rの横断面視で実質的に円弧状をなす。ダイ肩121L,121Rの曲率半径は、対応するパンチ肩112L,112Rの曲率半径との関係で決定することができる。例えば、ダイ肩121Lの曲率半径をRd1、パンチ肩112Lの曲率半径をRp、素材の板厚をtとしたとき、Rd1≦Rp+tであることが好ましい。同様に、ダイ肩121Rの曲率半径をRd1、パンチ肩112Rの曲率半径をRp、プレス加工に供される素材の板厚をtとしたとき、Rd1≦Rp+tであることが好ましい。ただし、左側のダイ肩121Lの曲率半径Rd1及びパンチ肩112Lの曲率半径Rpは、右側のダイ肩121Rの曲率半径Rd1及びパンチ肩112Rの曲率半径Rpと必ずしも同一でなくてもよい。
【0052】
左側のダイ側面122Lは、左側のパンチ側面113Lに対応して設けられる。すなわち、ダイ側面122Lは、パンチ11及びダイ12L,12Rが閉じたとき、ダイ側面122Lの一部分とパンチ側面113Lとの間で素材を挟持することができる形状を有する。右側のダイ側面122Rは、右側のパンチ側面113Rに対応して設けられる。すなわち、ダイ側面122Rは、パンチ11及びダイ12L,12Rが閉じたとき、ダイ側面122Rの一部分とパンチ側面113Rとの間で素材を挟持することができる形状を有する。ダイ側面122L,122Rの各々は、ダイ上部側面122aと、ダイ下部側面122bとを有する。
【0053】
ダイフランジ面123L,123Rは、ダイ側面122L,122Rから金型の幅方向において外側に延在している。ダイフランジ面123Lは、左側のダイ下部側面122bに連続して設けられている。ダイフランジ面123Rは、右側のダイ下部側面122bに連続して設けられている。
【0054】
以下、
図2を参照して、ダイ上部側面122a及びダイ下部側面122bの構成について説明する。
図2は、金型10のうち右側のダイ12Rを拡大して示す横断面図である。
【0055】
ダイ上部側面122aは、ダイ肩121Rに連続して設けられている。ダイ上部側面122aは、ダイ12Rの横断面視でダイ肩121Rから下方に延びている。ダイ上部側面122aは、ダイ12Rの横断面視で実質的に直線状を有する。
【0056】
上下方向及び幅方向からなる平面でダイ12Rを切断した断面において、ダイ上部側面122aと上下方向とがなす角度は、パンチ側面113Rの角度θRと実質的に等しい。本実施形態の例では、ダイ上部側面122aは、パンチ側面113Rに対応して、ダイ12Rの横断面視で上下方向に対して傾斜している。より具体的には、ダイ上部側面122aは、下方に向かうにつれて金型10の幅方向外側に広がるように上下方向に対して傾斜している。
【0057】
ダイ下部側面122bは、ダイ上部側面122aとダイフランジ面123Rとの間に配置されている。ダイ下部側面122bは、ダイ上部側面122aに対し、金型10の幅方向で外側に向かって凹の形状を有する。すなわち、ダイ下部側面122bは、ダイ側面122Rのうち、ダイ上部側面122aと比較して金型10の幅方向において外側に凹んだ領域である。ダイ下部側面122bは、
図2において二点鎖線で示すダイ上部側面122aの延長線よりも金型10の幅方向において外側に配置されている。
【0058】
ダイ下部側面122bは、接続部122c,122dと、中間部122eとを含む。ダイ下部側面122bにおいて、接続部122c,122dは、中間部122eを挟んで設けられる。接続部122cは、中間部122eの上方に配置されている。接続部122dは、中間部122eの下方に配置されている。
【0059】
上側の接続部122cは、ダイ上部側面122aの下端に連続して設けられる。接続部122cは、ダイ下部側面122bをダイ上部側面122aに接続する。接続部122cは、ダイ上部側面122aとダイ下部側面122bの中間部122eとの間の角部を構成する。本実施形態では、接続部122cは、ダイ12Rの横断面視で実質的に円弧状をなす。接続部122cにより、ダイ上部側面122aとダイ下部側面122bとが滑らかに接続される。接続部122cは、1.0mm以上且つ10.0mm以下の曲率半径Rd2を有することが好ましい。接続部122cの曲率半径Rd2は、1.0mm以上且つ4.0mm以下であることがより好ましい。
【0060】
下側の接続部122dは、ダイ下部側面122bの下端を含んでいる。接続部122dは、ダイ下部側面122bをダイフランジ面123Rに接続する。接続部122dは、ダイ下部側面122bの中間部122eとダイフランジ面123Rとの間の角部を構成する。本実施形態では、接続部122dは、ダイ12Rの横断面視で実質的に円弧状をなす。接続部122dにより、ダイ下部側面122bとダイフランジ面123Rとが滑らかに接続される。接続部122dは、素材に食込み痕を残すのを防止する観点から、1.0mm以上の曲率半径Rd3を有することが好ましい。また、接続部122dは、金型10の大型化を防止してコストを低減する観点から、16.0mm以下の曲率半径Rd3を有することが好ましい。接続部122dの曲率半径Rd3は、1.0mm以上且つ4.0mm以下であることがより好ましい。
【0061】
中間部122eは、接続部122cと接続部122dとの間に配置されている。中間部122eは、上側の接続部122cよりも金型10の幅方向で外側に位置づけられる。すなわち、中間部122eは、ダイ上部側面122a、及びダイ上部側面122aとの接続部122cと比較して、金型10の幅方向において外側に凹んでいる。
【0062】
本実施形態では、中間部122eは、主に曲面で構成されている。この曲面は、例えば、上側の接続部122cに対して金型10の幅方向で外側に向かって凹の形状を有する。中間部122eを構成する曲面の形状は、例えば、ダイ12Rの横断面視で円弧状、楕円弧状、又は放物線状等である。
【0063】
引き続き
図2を参照して、ダイ肩121Rの上端からダイ上部側面122aの下端までのダイ12Rの上下方向における長さをダイ側面122Rの上部高さH1と定義する。また、ダイ上部側面122aの下端からダイ下部側面122bの下端までのダイ12Rの上下方向における長さを下部高さH2と定義する。ダイ肩121Rの上端は、ダイ側面122Rと反対側のダイ肩121RのR止まりである。本実施形態の例において、ダイ上部側面122aの下端は、ダイ下部側面122bの接続部122cの上側のR止まりと一致する。また、ダイ下部側面122bの下端は、接続部122dのダイフランジ面123R側のR止まりである。
【0064】
ダイ側面122Rの上部高さH1は、ダイ肩121Rの曲率半径Rd1よりも5.0mm以上大きい。上部高さH1に対する下部高さH2の比率:H2/H1は、1.0以上且つ5.0以下となっている。
【0065】
ダイ上部側面122aの下端からダイ下部側面122bの下端までの金型10の幅方向における長さを凹幅W2と定義する。凹幅W2は、ダイ上部側面122aに対して凹状のダイ下部側面122bの深さである。凹幅W2に対する下部高さH2の比率:H2/W2は、1.0以上且つ5.0以下であることが好ましい。
【0066】
ダイ12Rを横断面で見たとき、ダイ下部側面122bの中間部122eの線長をLとすると、線長Lは、1.03×A以上であることが好ましく、1.08×A以上であることがより好ましい。パラメータAは、以下の式で表される。
A=((H2-Rd2-Rd3)2+(W2-Rd2-Rd3)2)0.5
【0067】
図1に戻り、左側のダイ12Lは、実質的に、右側のダイ12Rを左右反転させた構成を有する。すなわち、左右のダイ12L,12Rにおいて、ダイ上部側面122a及びダイ下部側面122bの基本的な構成は共通している。よって、左側のダイ12Lについては、ダイ上部側面122a及びダイ下部側面122bの詳細な説明を省略する。なお、ダイ12L,12Rは、完全に左右対称の形状を有する必要はない。左側のダイ12Lの各部の寸法は、右側のダイ12Rと同様に好ましい範囲に設定されていればよく、右側のダイ12Rの各部の寸法と一致していなくてもよい。
【0068】
金型10がプレス装置20に取り付けられたとき、パッド13は、パンチ11の上方、且つ左右のダイ12L,12Rの間に位置づけられる。このとき、パッド13は、パンチ頂面111に対向する。より詳細には、パッド13の下面がパンチ頂面111に対向する。パッド13の下面は、パンチ頂面111に対応する形状を有する。本実施形態では、パッド13の下面は、パンチ頂面111に対応して、平坦な面となっている。例えば、パンチ頂面111に溝部が形成されている場合、パッド13の下面には当該溝部に対応する凸部が形成される。例えば、パンチ頂面111に段部が形成されている場合、パッド13の下面には当該段部に対応する段部が形成される。
【0069】
プレス装置20は、金型10を用い、板状の素材からプレス成形品を成形する装置である。プレス装置20は、金型10に加え、例えば、パンチホルダ21と、ボルスタ22と、ダイホルダ23と、スライド24とを備えている。
【0070】
ボルスタ22は、パンチホルダ21を介してパンチ11を支持している。より具体的には、ボルスタ22の上面にパンチホルダ21が固定され、このパンチホルダ21上にパンチ11が配置されている。パンチホルダ21とボルスタ22との間には、上下方向におけるパンチ11の位置を調整するため、プレート状のスペーサが挿入されていてもよい。
【0071】
左右のダイ12L,12R及びパッド13は、ダイホルダ23を介してスライド24に支持されている。より具体的には、スライド24の下面にダイホルダ23が固定され、ダイホルダ23の下面にダイ12L,12Rが固定されている。上下方向におけるダイ12L,12Rの位置を調整するため、スライド24とダイホルダ23との間にはプレート状のスペーサが挿入されていてもよい。パッド13は、伸縮可能な弾性部材25によって、ダイホルダ23に連結されている。弾性部材25は、例えば、ばね、又はガスシリンダ等の流体圧シリンダで構成されている。パッド13は、プレス装置20が備えるアクチュエータ(図示略)に取り付けられていてもよい。ただし、弾性部材25を用いる方式の方がアクチュエータ式よりもプレス装置20を簡易な構造とすることができる。
【0072】
スライド24は、例えば、プレス装置20に設けられた機械式又は油圧式機構等(図示略)により、パンチ11に対して昇降可能に構成されている。スライド24の昇降に伴い、ダイホルダ23も昇降する。ダイホルダ23の昇降に伴い、ダイ12L,12R及びパッド13がパンチ11に対して昇降する。すなわち、ダイ12L,12R及びパッド13は、ダイホルダ23により、一体で移動可能に支持されている。
【0073】
[プレス成形品の製造方法]
以下、金型10を用い、プレス成形品を製造する方法について
図3A~
図3Gを参照しつつ説明する。
図3A~
図3Gは、プレス成形品の製造方法を説明するための模式図である。本実施形態に係るプレス成形品の製造方法は、金型10を準備する工程と、板状の素材を準備する工程と、金型10を用いて素材をプレス成形品に成形する成形工程とを備える。
【0074】
(第1準備工程)
プレス成形品を製造するに際し、上述のように構成された金型10(
図1及び
図2)を準備しておく。金型10は、素材のプレス加工を開始する前に、プレス装置20に取り付けられる。
【0075】
(第2準備工程)
また、プレス成形品を製造するに際し、
図3Aに示すように板状の素材Mを準備する。素材Mは、金属板であり、典型的には鋼板である。素材Mの板厚tは、例えば、0.8mm以上、且つ4.0mm以下である。素材Mは、例えば、270MPa以上、且つ1470MPa以下の引張強さを有する。製造されるプレス成形品が自動車の足回り部品のうちアーム部品である場合、素材Mの引張強さは、通常、590MPa以上である。製造されるプレス成形品が自動車のラダーフレーム等のフレーム部品である場合、素材Mの引張強さは、通常、590MPa以上である。製造されるプレス成形品が自動車のボデー骨格部品のうち、フロントフロアトンネル部の概略U字状の補強部品である場合、素材Mの引張強さは、通常、590MPa以上である。
【0076】
(成形工程)
次に、金型10を用い、素材Mをプレス加工してプレス成形品に成形する。成形工程は、工程(a)~工程(d)を含んでいる。以下、工程(a)~工程(d)について具体的に説明する。
【0077】
(工程(a))
図3Bに示すように、素材Mのプレス加工を開始する際、プレス装置20に取り付けられたダイ12L,12R及びパッド13は上死点に位置する。この状態で、素材Mをパンチ頂面111上に配置する。工程(a)では、パンチ頂面111上に素材Mを配置した後、ダイ12L,12Rをパンチ11に対して相対的に接近させ、各ダイ下部側面122bを素材Mに接触させることで素材Mをたわませる。
【0078】
より具体的に説明すると、
図3Cに示すように、パンチ頂面111上に素材Mを配置した後、スライド24を降下させることにより、スライド24に支持されたダイ12L,12Rを素材M及びパンチ11に向かって降下させる。このとき、パッド13も、ダイ12L,12Rとともに素材M及びパンチ11に向かって降下する。パッド13は、パンチ頂面111上の素材Mに接触し、素材Mを押さえる。より詳細には、パッド13により、素材Mのうち、金型10の幅方向において中央に位置する部分が上方から押さえられる。
【0079】
図3Dに示すように、パッド13とパンチ頂面111とによって素材Mが挟持された状態で、スライド24をさらに降下させる。このとき、パッド13をスライド24に接続する弾性部材25が縮むことにより、ダイ12L,12Rはパッド13に対して相対的に降下する。これにより、ダイ側面122L,122Rのそれぞれのダイ下部側面122bが素材Mに接触する。各ダイ下部側面122bは、ダイフランジ面123L,123Rとの接続部122dで素材Mに接触した後、凹状の中間部122eで素材Mに接触する。素材Mは、ダイ12L,12Rの降下に伴い、凹状の中間部122eに案内されて、パンチ11に対するダイ12L,12Rの接近方向と反対側、すなわち上方に凸の形状となるように大きくたわんでいく。素材Mのうち、パッド13とパンチ頂面111とによって挟持された部位は浮き上がることなく、素材Mの成形が進んでいく。パッド13とパンチ頂面111によって素材Mが挟持された状態が、成形完了まで維持される。
【0080】
(工程(b))
工程(b)では、素材Mをたわませた状態でダイ12L,12Rをパンチ11にさらに接近させ、各ダイ上部側面122aを素材Mに接触させる。より具体的には、
図3Eに示すように、ダイ12L,12Rをさらに降下させ、各ダイ下部側面122bのうち、ダイ上部側面122aとの接続部122cを素材Mに接触させる。その後、ダイ12L,12Rをさらに降下させると、各ダイ上部側面122aが素材Mに接触する。
【0081】
(工程(c))
工程(c)では、各ダイ上部側面122aを素材Mに接触させたまま、ダイ12L,12Rをパンチ11にさらに接近させることにより、各ダイ上部側面122aによって素材Mのたわみを曲げ戻す。
図3Fに示すように、ダイ12L,12Rの降下に伴い、素材Mのたわみは、各ダイ上部側面122aとパンチ側面113L,113Rとの間で曲げ戻される。素材Mのたわみは、ダイ12L,12Rの降下が進み、ダイ12L,12Rがパンチ11に接近するにつれて徐々に縮小する。また、素材Mは、パンチ肩112L,112Rに巻き付いていく。
【0082】
(工程(d))
工程(d)では、
図3Gに示すように、パンチ11及びダイ12L,12Rを閉じ、パンチ肩112L,112Rとダイ肩121L,121Rとの間、及びパンチ側面113L,113Rと左右のダイ上部側面122a,122aとの間で素材Mを挟持する。これにより、素材Mはプレス成形品30となる。より具体的には、ダイ12L,12Rを下死点まで到達させることで、素材Mがパンチ肩112L,112Rとダイ肩121L,121Rとの間でプレスされ、プレス成形品の曲げ部が形成される。また、パンチ側面113Lと左側のダイ12Lのダイ上部側面122aとの間、パンチ側面113Rと右側のダイ12Rのダイ上部側面122aとの間で素材Mがプレスされ、プレス成形品30の両縦壁が形成される。このとき、素材Mの端部、つまりプレス成形品30の両縦壁の下端部は、ダイ側面122L,122Rに対して非接触である。ダイ12L,12Rが下死点まで到達したとき、素材Mのたわみは完全に曲げ戻されてプレス成形品30の両縦壁となる。
【0083】
ダイ12Lが下死点に到達し、パンチ11及びダイ12Lが完全に閉じた状態にあるとき、パンチ側面113Lとダイ12Lのダイ上部側面122aとの間のクリアランスは、素材Mの板厚tよりも小さいことが好ましい。同様に、ダイ12Rが下死点に到達し、パンチ11及びダイ12Rが閉じた状態にあるとき、パンチ側面113Rとダイ12Rのダイ上部側面122aとの間のクリアランスは、素材Mの板厚tよりも小さいことが好ましい。より好ましくは、パンチ側面113L,113Rと左右のダイ上部側面122a,122aとの間のクリアランスは、素材Mの板厚tの0.85倍以上且つ0.95倍である。パンチ肩112L,112Rとダイ肩121L,121Rとの間のクリアランスは、典型的には、パンチ側面113L,113Rと左右のダイ上部側面122a,122aとの間のクリアランスと等しい。
【0084】
ダイ12L,12Rが下死点に到達し、パンチ11及びダイ12L,12Rが完全に閉じたとき、素材Mの全体がパンチ11に接触する。パンチ11及びダイ12L,12Rが完全に閉じたとき、素材Mは、パンチ頂面111、パンチ肩112L,112R、及びパンチ側面113L,113Rに沿った形状となる。したがって、上下方向及び幅方向からなる平面でパンチ11及び成形後の素材Mを切断した断面において、素材Mのうちパンチ側面113L,113Rに接触している部分、つまりプレス成形品30の両縦壁が上下方向となす角度(鋭角側)は、パンチ側面113L,113Rの角度θL,θRと実質的に同一となっている。
【0085】
[プレス成形品]
図4は、本実施形態に係る製造方法によって製造されるプレス成形品30を例示する図である。プレス成形品30は、横断面視で概略U字状を有している。プレス成形品30は、天板31と、左右の縦壁32L,32Rと、左右の曲げ部33L,33Rとを含む。左の縦壁32Lの上端は、左の曲げ部33Lを介し、天板31の左側縁に接続されている。右の縦壁32Rの上端は、右の曲げ部33Rを介し、天板31の右側縁に接続されている。縦壁32L,32Rの下端は、それぞれ自由端である。
【0086】
図4に示すプレス成形品30では、天板31が平坦な形状を有する。ただし、パンチ頂面111に溝部又は段部が設けられている場合、プレス成形品30の天板31には、パンチ頂面111に対応する溝部又は段部が形成される。天板31には、1つ以上の貫通孔が設けられていてもよい。この貫通孔は、単なる丸孔であってもよいし、バーリング加工によって形成され、孔縁端が突出した形状の孔(バーリング孔)であってもよい。天板31の貫通孔は、金型10によってプレス成形品30が成形された後に形成することができる。
【0087】
図4に示すプレス成形品30は、天板31側から見て(平面視で)直線的な形状を有する。また、
図4に示すプレス成形品30は、縦壁32L又は縦壁32R側から見て(側面視で)直線的な形状を有する。しかしながら、
図5に示すように、プレス成形品30は、平面視で湾曲又は屈曲する形状を有していてもよい。あるいは、
図6に示すように、プレス成形品30は、側面視で湾曲又は屈曲する形状を有することもできる。
【0088】
プレス成形品30の形状は、平面視で、直線部と湾曲部又は屈曲部とを2種以上組み合わせたものであってもよい。また、プレス成形品30の形状は、側面視で、直線部と湾曲部又は屈曲部とを2種以上組み合わせた形状であってもよい。さらに、プレス成形品30は、例えば、平面視で三叉形状や四叉形状等、概略U字状の横断面を有する部分が複数に枝分かれするような形状を有していてもよい。プレス成形品30は、全体にわたり一様な横断面形状を有するものであってもよいし、横断面形状が途中で変化するものであってもよい。
【0089】
[効果]
本実施形態に係る金型10を用いてプレス加工を実施する場合、板状の素材Mは、プレス成形品30に成形される過程で、各ダイ下部側面122bによって大きくたわむ。各ダイ下部側面122bは、ダイ上部側面122aに対して幅方向外側に凹の形状を有することで、上方に凸の形状となるように素材Mを案内してたわませる。パンチ11に対するダイ12L,12Rの接近が進行すると、素材Mが各ダイ上部側面122aに接触し、素材Mのたわみが徐々に曲げ戻される。素材Mのたわみは、パンチ11に対するダイ12L,12Rの接近に伴って縮小しつつ、パンチ側面113L,113Rと各ダイ上部側面122aとの隙間に残存する。最終的にパンチ11及びダイ12L,12Rが閉じたとき、素材Mのたわみは完全に曲げ戻されて消失し、パンチ肩112L,112Rとダイ肩121L,121Rとの間、及びパンチ側面113L,113Rと各ダイ上部側面122aとの間で素材Mが挟持される。
【0090】
このように、本実施形態では、プレス加工の過程で上方に凸の形状となるように素材Mをたわませ、曲げ戻す。これにより、プレス加工中、素材Mのうち特にプレス成形品30の縦壁32L,32Rとなる部分において、パンチ11側に引張応力を生じさせ、パンチ11の反対側であるダイ12L,12R側に圧縮応力を生じさせることができる。一方、パンチ肩112L,112Rによって形成される曲げ部33L,33Rでは、プレス加工中、パンチ11側に圧縮応力が生じ、ダイ12L,12R側に引張応力が生じている。そのため、素材Mのたわみを曲げ戻すことで生じる応力は、曲げ部33L,33Rの応力と打ち消し合い、曲げ部33L,33Rの応力を減じる。成形下死点で曲げ部33L,33Rに残存する応力及び曲げ戻し部に残存する応力によって、金型10から取り外されたプレス成形品30では、壁開きのモーメントと壁閉じのモーメントとが生じて互いに打ち消し合う。よって、プレス成形品30において離型時に生じる壁開きのモーメントを小さくすることができる。その結果、プレス成形品30におけるスプリングバックを低減させることができ、プレス成形品30の寸法精度を向上させることができる。また、金型10を用いて素材Mにプレス加工を施す際には、ダイ12L,12Rを真下に降下させるだけでよい。したがって、ダイ12L,12Rを特別な方向に移動させるためのカム機構等は不要であり、金型10を簡易な構造とすることができる。
【0091】
本実施形態に係る金型10では、ダイ側面122L,122Rの上部高さH1、ダイ側面122L,122Rの下部高さをH2としたとき、H2/H1が1.0以上且つ5.0以下に設定されている。これにより、ダイ側面122L,122Rのそれぞれにおいて凹状のダイ下部側面122bの長さが十分に確保されるため、プレス加工中、各ダイ下部側面122bによって素材Mを幅方向の広範囲にわたり、大きくたわませることができる。よって、たわみの曲げ戻しによる応力の打ち消し合いの効果を有効に発揮させることができる。
【0092】
本実施形態に係る金型10では、ダイ側面122Lの上部高さH1をダイ肩121Lの曲率半径Rd1よりも5.0mm以上大きくし、ダイ側面122Rの上部高さH1をダイ肩121Rの曲率半径Rd1よりも5.0mm以上大きくした上で、ダイ側面122L,122Rの各々について、上部高さH1に対する下部高さH2の比率:H2/H1を1.0以上且つ5.0以下に設定している。よって、各ダイ上部側面122aの長さも確保することができる。そのため、最終的にパンチ11及びダイ12L,12Rが閉じたとき、パンチ側面113L,113Rと各ダイ上部側面122aとで素材Mをしっかりと挟持することができる。これにより、素材Mのうちプレス加工中にたわんだ部位を曲げ戻すことができ、最終的なプレス成形品30の形状に素材Mを成形することができる。したがって、追加のプレス加工工程を実施する必要がなく、プレス成形品30の製造における工数及びコストを低減させることができる。
【0093】
プレス加工中に生じる曲げ部33L,33Rの応力や離型時に生じるモーメントを曲げ戻しによって打ち消すためには、パンチ肩112L、112Rの近傍にある各ダイ上部側面122aと、パンチ側面113L,113Rとの間で素材Mをしっかりと挟持することが重要である。本実施形態に係る金型10では、上述したように、各ダイ上部側面122aの長さを適切に確保したことで、パンチ側面113L,113Rと各ダイ上部側面122aとで素材Mをしっかりと挟持することができる。よって、プレス加工中に生じる曲げ部33L,33Rの応力や離型時に生じるモーメントを曲げ戻しによって効果的に打ち消すことができる。
【0094】
H2/H1が5.0を超える場合、ダイ側面122L,122Rの各々において、凹状のダイ下部側面122bが占める割合が大きくなり、各ダイ下部側面122bによって素材Mをたわませる効果は飽和する。また、H2/H1が5.0を超える場合、金型10の製造等にかかるコストも増加する。よって、H2/H1は5.0以下であることが好ましい。
【0095】
本実施形態に係る金型10において、各ダイ下部側面122bのうちダイ上部側面122aとの接続部122cの曲率半径は、10.0mm以下に設定されることが好ましい。この場合、所定の大きさを有するダイ側面122L,122Rの各々において、接続部122c、及びこの接続部122cをダイ下部側面122bが占める割合が大きくなり過ぎず、ダイ上部側面122aの長さを確保しやすくなる。よって、最終的にパンチ11及びダイ12L,12Rが閉じたとき、パンチ側面113L,113Rと各ダイ上部側面122aとで素材Mをより確実に挟持することができる。
【0096】
また、本実施形態では、接続部122cの曲率半径が1.0mm以上に設定されることが好ましい。これにより、プレス加工中に接続部122cが素材Mに接触した際、素材Mに食込み痕や曲げ癖が残るのを回避することができる。
【0097】
本実施形態では、各ダイ下部側面122bの中間部122eが曲面を含んでいる。中間部122eは、ダイ下部側面122bのダイ上部側面122a側の接続部122cに対し、金型10の幅方向で外側に向かって凹の形状を有する。この場合、ダイ側面122L,122Rの各々において、凹幅W2に対する下部高さH2の比率:H2/W2は、1.0以上且つ5.0以下であることが好ましい。H2/W2が小さくなるほど凹状の各ダイ下部側面122bによって素材Mをたわませる効果は向上するが、H2/W2が1.0未満となると、素材Mをたわませる効果は飽和する。また、H2/W2が1.0未満である場合、金型10の製造等にかかるコストも増加する。一方、H2/W2が5.0を超える場合、下部高さH2に対して凹幅W2が小さくなるため、素材Mをたわませる効果が低下する。
【0098】
本実施形態において、ダイ下部側面122bの中間部122eの線長Lが大きいほど、ダイ下部側面122bの凹みは大きくなる。ダイ下部側面122bの凹みが大きいほど、プレス加工中における素材Mのたわみが大きくなる。この場合、各ダイ上部側面122aと、パンチ側面113L,113Rとの間で素材Mをしっかりと挟持した際に、プレス加工中に生じる曲げ部33L,33Rの応力や離型時に生じるモーメントを曲げ戻しによってより効果的に打ち消すことができる。すなわち、線長Lが大きいほど、プレス成形品30の寸法精度は良好になる。よって、線長Lは、上述したパラメータAの1.03倍以上であることが好ましく、1.08倍以上であることがより好ましい。
【0099】
本実施形態に係る金型10において、パンチ側面113L,113Rと各ダイ上部側面122aとの間のクリアランスは、パンチ11及びダイ12L,12Rが閉じた状態で素材Mの板厚tよりも小さいことが好ましい。パンチ側面113L,113Rと各ダイ上部側面122aとの間のクリアランスは、板厚tの0.85倍以上且つ0.95倍以下であることが特に好ましい。これにより、成形工程で最終的にパンチ11及びダイ12L,12Rが閉じたとき、パンチ側面113L,113Rと各ダイ上部側面122aとの間で素材Mが強く挟持され、素材Mのたわみがより確実に曲げ戻される。この場合、素材Mのうちプレス成形品30の縦壁32L,32Rとなる部分において、パンチ11側により大きな引張応力を生じさせるとともに、ダイ12L,12R側により大きな圧縮応力を生じさせることができる。よって、これらの応力が曲げ部33L,33Rの応力を打ち消す効果を高めることができる。その結果、プレス成形品30におけるスプリングバックをより低減させることができ、プレス成形品30の寸法精度をさらに向上させることができる。
【0100】
本実施形態に係る金型10によって素材Mにプレス加工を施す場合、最終的にパンチ11及びダイ12L,12Rが閉じたとき、パンチ側面113L,113Rと各ダイ上部側面122aとで素材Mが挟持される。一方、各ダイ下部側面122bは実質的に素材Mに接触しない。これにより、素材Mのうちプレス成形品30の縦壁32L,32Rとなる部分に対して荷重を集中的に与えることができる。特に、パンチ側面113L,113Rと各ダイ上部側面122aとの間のクリアランスが素材Mの板厚tよりも小さい場合、素材Mのうちプレス成形品30の縦壁32L,32Rとなる部分をより強く押圧することができる。
【0101】
パンチ11及びダイ12L,12Rが完全に閉じたとき、各ダイ下部側面122bは実質的に素材Mに接触しない。すなわち、素材Mのうちプレス成形品30の縦壁32L,32Rの下端部となる部分は、パンチ側面113L,113Rとダイ側面122L,122Rとによって挟持されない。しかしながら、この部分ではプレス加工中に弾性変形しか生じず、塑性変形は生じない。そのため、素材Mのうちプレス成形品30の縦壁32L,32Rの下端部となる部分がパンチ側面113L,113Rとダイ側面122L,122Rとで挟持されなくても、パンチ11及びダイ12L,12Rが閉じたとき、素材Mがパンチ11に沿った形状に成形される。
【0102】
パンチ11及びダイ12L,12Rが完全に閉じ、素材Mがプレス成形品30に成形されたとき、プレス成形品30の縦壁32L,32Rの下端部は、
図3Gに示すようにパンチ側面113L,113Rと接触することが望ましい。すなわち、パンチ側面113L,113Rは、パンチ11及びダイ12L,12Rが完全に閉じたとき、プレス成形品30の縦壁32L,32Rの全体と接触する形状を有することが望ましい。ただし、パンチ側面113L,113Rは、その下部のみにおいてプレス成形品30の縦壁32L,32Rと接触しない形状を有していてもよい。例えば、
図7に示すように、パンチ側面113L,113Rは、その下部のみが縦壁32L,32Rの開き角度よりも小さい角度を有するように構成されていてもよい。縦壁32L,32Rの開き角度は、パンチ側面113L,113Rが鉛直面となす角度θ
L,θ
Rに相当する。この場合、パンチ11及びダイ12L,12Rが完全に閉じたときに、縦壁32L,32Rの下端部がパンチ側面113L,113Rと接触しない。
【0103】
本実施形態に係る金型10は、パンチ11及びダイ12L,12Rに加え、パッド13を備える。プレス装置20は、パンチ頂面111上に配置された素材Mをパンチ頂面111及びパッド13によって挟持した状態で、パンチ11及びダイ12L,12Rによる素材Mの成形が開始されるように構成されている。そのため、金型10及びプレス装置20を用いて素材Mのプレス加工を行う際、パンチ頂面111とパッド13との間で素材Mを挟持した状態で、ダイ12L,12Rをパンチ11に接近させることができる。より詳細には、パンチ頂面111上に配置された素材Mをパンチ頂面111及びパッド13によって挟持した状態で、各ダイ下部側面122bによって素材Mをたわませることができる。よって、プレス加工中における素材Mの位置ずれを防止することができる。また、パッド13で素材Mを押さえた状態で素材Mの成形を行うことで、プレス成形品30の天板31の形状を精度よく成形することができる。
【0104】
例えば
図8に示すように、プレス成形品の壁開きを抑制するため、素材Mを凸状に膨らませるように予成形を行い、予成形後の素材Mに対して一般的なパンチ41及びダイ42L,42Rでプレス加工を施すことも考えられる。しかしながら、この場合、素材Mをプレス加工工程とは別工程で予め膨らませる予成形工程が必要であるため、予成形用の金型や、プレス成形品の製造に関する工数及びコストが増加する。また、予成形工程では目的とする形状が比較的緩やかな凸状であるため、特に素材Mの強度が大きい場合、予成形における素材Mの変形量は弾性変形の範囲内となる。そのため、素材Mは、予成形の離型後に緩やかな凸形状とならず、平坦な形状となる。すなわち、予成形工程において素材Mを凸状に成形すること自体が難しい。
【0105】
一方、本実施形態では、素材Mの予成形を行わず、一工程で素材Mをプレス成形品30に成形している。よって、プレス成形品30の製造に関する工数及びコストを抑制することができる。また、素材Mの予成形を行わないため、素材Mの成形困難性の問題も生じない。
【0106】
<第2実施形態>
図9は、第2実施形態に係る金型10Aの横断面図である。金型10Aは、第1実施形態に係る金型10(
図1及び
図2)とほぼ同一の構成を有する。金型10Aは、ダイ側面122L,122Rの構成においてのみ、第1実施形態に係る金型10と異なる。
【0107】
図10は、金型10Aのうち右側のダイ12Rを拡大して示す横断面図である。金型10Aにおいて、左右のダイ12L,12Rのダイ側面122L,122Rの基本的な構成は共通している。よって、右側のダイ12Rについてのみ、
図10を参照しながらダイ側面122Rの構成を説明し、左側のダイ12Lについてはダイ側面122Lの詳細な説明を省略する。
【0108】
図10に示すように、本実施形態において、ダイ下部側面122bの中間部122eは、水平面に対して傾斜する傾斜面122fを含んでいる。水平面とは、鉛直方向に対して垂直な面で金型10を切断したときの断面である。水平面を金型10の横断面に投影すると、左右方向の直線となる。本実施形態の例では、中間部122eの全体が傾斜面122fとなっている。傾斜面122fは、ダイ上部側面122aとの接続部122cから金型10Aの幅方向で外側に向かうにつれて下降している。ダイ側面122Rにおいて、上部高さH1に対する下部高さH2の比率:H2/H1は、第1実施形態と同様、1.0以上且つ5.0以下である。また、第1実施形態と同様、ダイ側面122Rの上部高さH1は、ダイ肩121Rの曲率半径Rd1よりも5.0mm以上大きい。このような構成であっても、第1実施形態と同様、プレス成形品30(
図4~
図6)におけるスプリングバックを低減させることができ、プレス成形品30の寸法精度を向上させることができる。
【0109】
ダイ側面122Rにおいて、傾斜面122fは、水平面と角度ψ(°)をなす。角度ψは、上下方向及び幅方向からなる平面でダイ12Rを切断した断面において、傾斜面122fが幅方向となす角度(鋭角側)である。
【0110】
ダイ側面122Rにおいて、傾斜面122fの角度ψが大きすぎると、ダイ上部側面122aに対するダイ下部側面122bの凹みの程度は小さくなる。そのため、プレス加工中、ダイ下部側面122bによって素材をたわませる効果は小さくなる。当該効果を十分に発揮させるためには、角度ψは(78-θ
R)°以下であることが好ましい。一方、傾斜面122fの角度ψが小さくなると、プレス加工中に素材をたわませる効果が大きくなるが、角度ψが小さすぎると当該効果は飽和する。また、傾斜面122fの角度ψが小さくなるほどダイ下部側面122bの凹みの程度が大きくなるため、金型10Aが大型化し、金型10Aの製造等にかかるコストが増加する。そのため、傾斜面122fが水平面に対してなす角度ψは、(50-θ
R)°以上であることが好ましい。左側のダイ側面122L(
図9)においても、右側のダイ側面122Rと同様に、傾斜面122fの角度が(50-θ
L)°以上、(78-θ
L)°以下であることが好ましい。θ
L,θ
Rは、第1実施形態で説明した通り、パンチ側面113L,113Rがそれぞれ鉛直面となす角度である。傾斜面122fの角度ψは、左右のダイ側面122L,122Rで同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0111】
ダイ側面122Rにおいて、ダイ上部側面122aに対するダイ下部側面122bの接続部122c、及びダイフランジ面123Rに対するダイ下部側面122bの接続部122dのそれぞれの曲率半径Rd2,Rd3は、第1実施形態と同様に設定することができる。同様に、ダイ側面122L(
図9)において、ダイ上部側面122aに対するダイ下部側面122bの接続部122c、及びダイフランジ面123Lに対するダイ下部側面122bの接続部122dのそれぞれの曲率半径Rd2,Rd3は、第1実施形態と同様に設定することができる。パンチ側面113L,113Rと各ダイ上部側面122aとの間のクリアランスも、第1実施形態と同様に設定することができる。
【0112】
図9及び
図10に示す例では、各ダイ下部側面122bにおいて、中間部122eの全体が傾斜面122fで構成されている。しかしながら、中間部122eの一部が傾斜面122fであってもよい。例えば、
図11に示すように、ダイ側面122L,122Rにおいて、ダイ上部側面122aとダイ下部側面122bとの接続部122cと、傾斜面122fとの間に、金型10Aの横断面視で幅方向に延びる直線状の面122gが設けられていてもよい。あるいは、接続部122cと傾斜面122fとが曲線状の面(図示略)を介して連結されていてもよい。
【0113】
以上、本開示に係る実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0114】
例えば、上記各実施形態では、プレス装置20に金型10を取り付けた状態で、ダイ12L,12Rがパンチ11の上方に配置される。また、素材Mにプレス加工を施す際には、パンチ11に向かってダイ12L,12Rを移動させている。しかしながら、上記各実施形態とは逆に、素材Mにプレス加工を施すに際し、ダイ12L,12Rがパンチ11の下方に配置されてもよい。また、ダイ12L,12Rに向かってパンチ11を移動させることで、ダイ12L,12Rをパンチ11に対して相対的に接近させてもよい。
【0115】
上記各実施形態に係る金型10,10Aは、左右対称のダイ12L,12Rを備える。ただし、左側のダイ12Lと右側のダイ12Rとが厳密に対称な形状及び寸法を有する必要はない。
【0116】
上記第1実施形態では、各ダイ下部側面122bの中間部122eは、主に曲面によって構成されている。一方、上記第2実施形態では、各ダイ下部側面122bの中間部122eは、主に直線状の傾斜面122fで構成されている。本開示に係る金型は、これらの実施形態を組み合わせて構成することも可能である。すなわち、ダイ12L,12Rの一方では、第1実施形態のように、ダイ下部側面122bの中間部122eを主に曲面で構成し(
図2)、ダイ12L,12Rの他方では、第2実施形態のように、ダイ下部側面122bの中間部122eを主に傾斜面122fで構成してもよい(
図10又は
図11)。あるいは、ダイ12L,12Rの一方にのみ凹状のダイ下部側面122bを設け、ダイ12L,12Rの他方には凹状のダイ下部側面122bを設けなくてもよい。
【0117】
上記各実施形態に係る金型10,10Aは、パッド13を備えている。しかしながら、金型10,10Aは、パッド13を備えなくてもよい。例えば、金型10,10Aを横断面で見たときにパンチ頂面111(プレス成形品30の天板31)の幅が比較的短い場合や、パンチ頂面111が溝部や段部等のない、平坦な形状を有する場合、ダイ12L,12Rのみで上型が構成されていたとしても、寸法精度のよいプレス成形品30を一工程で得ることができる。
【0118】
ただし、金型10,10Aを横断面で見たときにパンチ頂面111の幅が比較的長い場合や、パンチ頂面111に溝部や段部等が設けられている場合は、ダイ12Lとダイ12Rとの間にパッド13が存在することが好ましい。あるいは、ダイ12Lにおいて、ダイ肩121Lからダイ12R側に延在するダイ頂面を設けるとともに、ダイ12Rにおいて、ダイ肩121Rからダイ12L側に延在するダイ頂面を設けてもよい。あるいは、ダイ12L,12Rを一体的に形成することで、ダイ12L,12Rとの接続部分をダイ頂面とすることもできる。また、ダイ12L,12Rの間に別の金型を設けてもよい。パッド13、ダイ頂面、又はダイ12L,12Rの間の別の金型と、パンチ頂面111とによって素材Mを挟持することにより、プレス成形品30の天板31に所定の形状を与えることができ、寸法精度のよいプレス成形品30を一工程で得ることができる。
【0119】
ダイ頂面が設けられた金型10,10Aと、パッド13が設けられた金型10,10Aとでは、後者の方が好ましい。ダイ頂面が設けられた金型10,10Aの場合、ダイ12L,12Rが下死点に到達したときにダイ頂面とパンチ頂面111とによって素材Mが挟持されるが、プレス加工中はダイ頂面によってパンチ頂面111上の素材Mを押さえることはできない。一方、パッド13が設けられた金型10,10Aの場合、プレス加工の初期からパッド13によってパンチ頂面111上の素材Mを押さえることができる。パッド13によって素材Mを押さえた状態で素材Mの成形を行うことにより、プレス加工中における素材Mの位置ずれを防止することができ、且つ、パンチ頂面111上の素材Mの予期しない変形挙動(たわみの挙動)を抑制することができる。また、プレス成形品30の天板31の形状を精度よく成形することもできる。よって、上記各実施形態のように、金型10,10Aは、パッド13を備えることが好ましい。
【0120】
上記第1実施形態では、各ダイ下部側面122bの中間部122eは、上側の接続部122cから下側の接続部122dまで滑らかに連続する曲面で構成されている。上記第2実施形態では、各ダイ下部側面122bの中間部122eは、実質的に、上側の接続部122cから下側の接続部122dまで連続する単一の傾斜面122fで構成されている。しかしながら、中間部122eの形状はこれらに限定されるものではない。例えば、中間部122eには段差が設けられていてもよい。
【実施例0121】
以下、実施例によって本開示をさらに詳しく説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0122】
[第1実施例]
本開示による効果を確認するため、第1実施形態に係る金型10(
図1及び
図2)又は第2実施形態に係る金型10A(
図9及び
図10)を用い、引張強さTS=1180MPa、板厚t=1.6mmの素材(鋼板)を概略U字状の横断面を有するプレス成形品30に成形するプレス加工について、CAE解析を実施した。プレス成形品30において、曲げ部33L,33Rの曲げR(曲げ内側の曲率半径)は8.0mm、縦壁32L,32Rの開き角度θは5°とした。曲げ部33L,33Rの曲げRは、パンチ肩112L,112Rの曲率半径Rpに相当する。縦壁32L,32Rの開き角度θは、上記実施形態において説明したパンチ側面113L,113Rの角度θ
L,θ
Rに相当する。
【0123】
CAE解析には市販のソフトウェア(LS-DYNA ver971 rev7.12,ANSYS社製)を使用し、成形解析及びスプリングバック解析を行って、スプリングバック後の縦壁32L,32Rの開き角度の変化量Δθ(°)を評価した。Δθは、金型10から取り外す前(離型前)のプレス成形品30における縦壁32L,32Rの開き角度θ:5°と、金型10,10Aから取り外した後(離型後)の縦壁32L,32Rの開き角度θ(°)との差である。Δθが小さいほどスプリングバックが低減され、プレス成形品30の寸法精度が向上したことを意味する。
【0124】
第1実施形態に係る金型10(
図1及び
図2)を用いた場合の解析結果(No.1~18)を表1に示す。金型10では、ダイ下部側面122bの中間部122eが主に曲線状の面で構成されている。本解析において、左右のダイ側面122L,122Rにおけるダイ下部側面122bの中間部122eの線長Lは、1.08×Aとした。パラメータAは次式で表される。
A=((H2-Rd2-Rd3)
2+(W2-Rd2-Rd3)
2)
0.5
【0125】
ダイ肩121L、121Rの曲率半径Rd1は9.6mm、ダイフランジ面123L,123Rに対するダイ下部側面122bの接続部122dの曲率半径Rd3は4.0mmとした。表1には、比較のため、一般的な金型、つまりダイ側面122L,122Rに凹状のダイ下部側面122bが設けられていない金型を用いた場合の解析結果(比較例)も示している。
【0126】
【0127】
表1に示すように、スプリングバック後の縦壁32L,32Rの開き角度の変化量Δθは、No.1~18の全てにおいて比較例よりも小さくなった。ただし、ダイ側面122L,122Rの上部高さH1がダイ肩121L,121Rの曲率半径Rd1よりも3.0mm大きいNo.1(H1-Rd1=3.0)では、開き角度の変化量Δθが7.0°を超え、Δθの低減効果は小さかった。これは、各ダイ上部側面122aの長さが短いことにより、パンチ11とダイ12L,12Rとが閉じた状態(下死点)で各ダイ上部側面122aが素材を十分に押さえることができなかったためと考えられる。
【0128】
一方、ダイ側面122L,122Rの上部高さH1がダイ肩121L,121Rの曲率半径Rd1よりも5.0mm大きいNo.3(H1-Rd1=5.0)では、開き角度の変化量Δθが5.0°以下となった。No.3におけるΔθは4.6°であり、比較例の半分未満である。ダイ側面122L,122Rの上部高さH1がダイ肩121L,121Rの曲率半径Rd1よりも12.0mm大きいNo.2(H1-Rd1=12.0)では、開き角度の変化量Δθは2.1°であり、より小さくなった。この結果より、スプリングバックを効果的に低減させ、プレス成形品30の寸法精度を有意に向上させるためには、ダイ側面122L,122Rの上部高さH1をダイ肩121L,121Rの曲率半径Rd1よりも5.0mm以上大きくする必要がある(H1-Rd1≧5.0)。
【0129】
ダイ上部側面122aと凹状のダイ下部側面122bとの接続部122cの曲率半径Rd2が1.0mmであるNo.4では、開き角度の変化量Δθは1.8°であり、比較例と比べて顕著に小さくなった。また、接続部122cの曲率半径Rd2が10.0mmであるNo.5でも、開き角度の変化量Δθは3.6°であり、比較例と比べて顕著に小さくなった。一方、接続部122cの曲率半径Rd2が12.0mmであるNo.11では、開き角度の変化量Δθが7.0°以下となったが5.0°を超えた。No.11では、Δθの低減効果を得られたものの、効果の程度はNo.5に比べると小さかった。よって、接続部122cの曲率半径Rd2が10.0mm以下の場合、スプリングバックがより効果的に低減し、プレス成形品30の寸法精度がより向上することがわかる。
【0130】
接続部122cの曲率半径Rd2が0.5mmであるNo.10では、開き角度の変化量Δθは1.7°であり、曲率半径Rd2が1.0mmであるNo.4とほぼ同等であった。ただし、No.10では、素材に曲げ癖が残存した。よって、接続部122cの曲率半径Rd2は、1.0mm以上であることが好ましい。
【0131】
ダイ側面122L,122Rにおいて上部高さH1に対する下部高さH2の比率:H2/H1が1.0であるNo.6では、開き角度の変化量Δθは2.8°であり、比較例と比べて顕著に小さくなった。また、H2/H1が3.0であるNo.2でも、開き角度の変化量Δθは2.1°であり、比較例と比べて顕著に小さくなった。一方、H2/H1を0.5としたNo.12では、開き角度の変化量Δθが7.0°を超え、Δθの低減効果は小さかった。よって、H2/H1を1.0以上とすることで、スプリングバックが効果的に低減し、プレス成形品30の寸法精度が有意に向上するといえる。
【0132】
ダイ側面122L,122Rにおいて上部高さH1に対する下部高さH2の比率:H2/H1が5.0であるNo.7では、開き角度の変化量Δθは0.8°であり、比較例と比べて顕著に小さくなった。H2/H1を6.0としたNo.14では、開き角度の変化量Δθが0.8°であり、No.7と同等であった。つまり、H2/H1が5.0を超えると、スプリングバックの低減効果、及びそれに伴うプレス成形品30の寸法精度の向上効果が飽和した。また、H2/H1を5.0超とすると、ダイ下部側面122bが長くなることにより、金型10のサイズが大きくなるため、金型10に関するコストが増加する。したがって、H2/H1を5.0以下とすることで、プレス成形品30の寸法精度を効率よく向上させられるといえる。
【0133】
ダイ側面122L,122Rにおいて凹幅W2に対する下部高さH2の比率:H2/W2が1.0であるNo.8では、開き角度の変化量Δθは1.3°であり、比較例と比べて顕著に小さくなった。H2/W2が2.0であるNo.2、及びH2/W2が5.0であるNo.9では、開き角度の変化量Δθはそれぞれ2.1°及び3.2°であり、比較例と比べて顕著に小さくなった。一方、H2/W2が6.0であるNo.13では、開き角度の変化量Δθが7.0°以下となったが5.0°を超えた。No.13では、Δθの低減効果を得られたものの、効果の程度はNo.9に比べると小さかった。よって、スプリングバックをより効果的に低減させ、プレス成形品30の寸法精度をより向上させるためには、H2/W2が5.0以下であることが好ましい。
【0134】
H2/W2を0.5としたNo.15では、開き角度の変化量Δθは1.3°であり、No.8と同等であった。つまり、H2/W2が1.0を下回ると、スプリングバックの低減効果、及びそれに伴うプレス成形品30の寸法精度の向上効果が飽和した。また、H2/W2を1.0未満とすると、下部高さH2に対して凹幅W2が大きくなることで、金型10のサイズが大きくなるため、金型10に関するコストが増加する。したがって、プレス成形品30の寸法精度をより効率よく向上させるためには、H2/W2が1.0以上であることが好ましい。
【0135】
No.16~18では、パンチ11及びダイ12L,12Rが閉じた状態にあるときのパンチ側面113L,113Rと各ダイ上部側面122aとのクリアランスCLが素材の板厚tよりも小さい。No.16~18におけるクリアランスCLは、それぞれ、板厚tの0.97倍(CL/t=0.97)、0.95倍(CL/t=0.95)、及び0.85倍(CL/t=0.85)である。CL/tが0.97であるNo.16では、開き角度の変化量Δθは2.0°であり、CL/tが1.00であるNo.2よりもわずかに低減した。一方、CL/tが0.95であるNo.17では、開き角度の変化量Δθは1.2°であり、No.2と比較して有意に小さくなった。CL/tが0.85であるNo.18では、開き角度の変化量Δθが0.6°とさらに小さくなった。したがって、プレス成形品30の寸法精度をより向上させるためには、クリアランスCLは、素材の板厚tよりも小さいことが好ましく、板厚tの0.85倍以上且つ0.95倍以下であることが特に好ましい。
【0136】
第2実施形態に係る金型10A(
図9及び
図10)を用いた場合の解析結果(No.19~36)を表2に示す。金型10Aでは、ダイ下部側面122bの中間部122eが主に直線状の傾斜面122fで構成されている。以下、説明の便宜上、金型10Aを直線タイプ、ダイ下部側面122bの中間部122eが主に曲線状の面で構成される金型10を曲線タイプと称する。
【0137】
本解析において、左右のダイ側面122L,122Rにおけるダイ下部側面122bの中間部122eの線長Lは、中間部122eが直線状のため、1.00×Aとなる。パラメータAは次式で表される。ダイ肩121L、121Rの曲率半径Rd1は9.6mm、ダイフランジ面123L,123Rに対するダイ下部側面122bの接続部122dの曲率半径Rd3は4.0mmとした。
A=((H2-Rd2-Rd3)2+(W2-Rd2-Rd3)2)0.5
【0138】
【0139】
表2における比較例は、表1における比較例と同一である。表2に示すように、スプリングバック後の縦壁32L,32Rの開き角度の変化量Δθは、No.19~36の全てにおいて比較例よりも小さくなった。ただし、ダイ側面122L,122Rの上部高さH1がダイ肩121L,121Rの曲率半径Rd1よりも3.0mm大きいNo.19(H1-Rd1=3.0)では、曲線タイプのNo.1(表1)と同様、開き角度の変化量Δθが7.0°を超え、Δθの低減効果は小さかった。
【0140】
一方、ダイ側面122L,122Rの上部高さH1がダイ肩121L,121Rの曲率半径Rd1よりも5.0mm大きいNo.21(H1-Rd1=5.0)では、開き角度の変化量Δθが5.0°以下となった。No.21におけるΔθは、4.8°であり、比較例の半分未満である。ダイ側面122L,122Rの上部高さH1がダイ肩121L,121Rの曲率半径Rd1よりも12.0mm大きいNo.20(H1-Rd1=12.0)では、開き角度の変化量Δθは2.9°であり、より小さくなった。この結果より、直線タイプの金型10Aの場合も、曲線タイプの金型10と同様、スプリングバックを効果的に低減させ、プレス成形品30の寸法精度を向上させるためには、ダイ側面122L,122Rの上部高さH1をダイ肩121L,121Rの曲率半径Rd1よりも5.0mm以上大きくする必要がある(H1-Rd1≧5.0)。
【0141】
ダイ上部側面122aと凹状のダイ下部側面122bとの接続部122cの曲率半径Rd2が1.0mmであるNo.22では、開き角度の変化量Δθは2.1°であり、比較例と比べて顕著に小さくなった。また、接続部122cの曲率半径Rd2が10.0mmであるNo.23でも、開き角度の変化量Δθは4.1°であり、比較例と比べて顕著に小さくなった。一方、接続部122cの曲率半径Rd2が12.0mmであるNo.29では、開き角度の変化量Δθが7.0°以下となったが5.0°を超えた。No.29では、Δθの低減効果を得られたものの、効果の程度はNo.23に比べると小さかった。よって、直線タイプの金型10Aの場合も、曲線タイプの金型10と同様、接続部122cの曲率半径Rd2が10.0mm以下の場合、スプリングバックが効果的に低減し、プレス成形品30の寸法精度がより向上することがわかる。
【0142】
接続部122cの曲率半径Rd2が0.5mmであるNo.28では、開き角度の変化量Δθは1.9°であり、曲率半径Rd2が1.0mmであるNo.22と比べてわずかに低減した。ただし、No.28では、素材に曲げ癖が残存した。よって、直線タイプの金型10Aの場合も、接続部122cの曲率半径Rd2は、1.0mm以上であることが好ましい。
【0143】
ダイ側面122L,122Rにおいて上部高さH1に対する下部高さH2の比率:H2/H1が1.0であるNo.24では、開き角度の変化量Δθは4.6°であり、比較例と比べて顕著に小さくなった。また、H2/H1が3.0であるNo.20でも、開き角度の変化量Δθは2.9°であり、比較例と比べて顕著に小さくなった。一方、H2/H1を0.5としたNo.30では、開き角度の変化量Δθが7.0°を超え、Δθの低減効果は小さかった。よって、直線タイプの金型10Aの場合も、曲線タイプの金型10と同様、H2/H1を1.0以上とすることで、スプリングバックが効果的に低減し、プレス成形品30の寸法精度が有意に向上するといえる。
【0144】
ダイ側面122L,122Rにおいて上部高さH1に対する下部高さH2の比率:H2/H1が5.0であるNo.25では、開き角度の変化量Δθは1.8°であり、比較例と比べて顕著に小さくなった。H2/H1を6.0としたNo.32では、開き角度の変化量Δθが1.8°であり、No.25と同等であった。つまり、H2/H1が5.0を超えると、スプリングバックの低減効果、及びそれに伴うプレス成形品30の寸法精度の向上効果が飽和した。また、直線タイプの金型10Aでも、H2/H1を5.0超とすると、ダイ下部側面122bが長くなることにより、金型10Aのサイズが大きくなるため、金型10Aに関するコストが増加する。したがって、H2/H1を5.0以下とすることで、プレス成形品30の寸法精度を効率よく向上させられるといえる。
【0145】
ダイ側面122L,122Rにおけるダイ下部側面122bの傾斜面122fの角度ψ(°)と、プレス成形品30の縦壁32L,32Rの開き角度θ(°)との和:ψ+θが50°であるNo.26では、開き角度の変化量Δθは1.4°であり、比較例と比べて顕著に小さくなった。ψ+θが78°であるNo.27でも、開き角度の変化量Δθは4.4°であり、比較例と比べて顕著に小さくなった。一方、ψ+θが80°であるNo.31では、開き角度の変化量Δθが7.0°以下となったが5.0°を超えた。No.31では、Δθの低減効果を得られたものの、効果の程度はNo.27に比べると小さかった。よって、直線タイプの金型10Aにおいて、スプリングバックを効果的に低減させ、プレス成形品30の寸法精度をより向上させるためには、傾斜面122fの角度ψが(78-θ)°以下であることが好ましい。
【0146】
傾斜面122fの角度ψと縦壁32L,32Rの開き角度θとの和:ψ+θを48°としたNo.33では、開き角度の変化量Δθは1.4°であり、No.26と同等であった。つまり、ψ+θが50°を下回ると、スプリングバックの低減効果、及びそれに伴うプレス成形品30の寸法精度の向上効果が飽和した。また、ψ+θを50°未満とすると、金型10Aのサイズが大きくなるため、金型10Aに関するコストが増加する。したがって、プレス成形品30の寸法精度をより効率よく向上させるためには、傾斜面122fの角度ψが(50-θ)°以上であることが好ましい。
【0147】
No.34~36では、パンチ側面113L,113Rと各ダイ上部側面122aとのクリアランスCLが素材の板厚tよりも小さい。No.34~36におけるクリアランスCLは、それぞれ、板厚tの0.97倍(CL/t=0.97)、0.95倍(CL/t=0.95)、及び0.85倍(CL/t=0.85)である。CL/tが0.97であるNo.34では、開き角度の変化量Δθは2.8°であり、CL/tが1.00であるNo.20よりもわずかに低減した。一方、CL/tが0.95であるNo.35では、開き角度の変化量Δθは1.9°であり、No.20と比較して有意に小さくなった。CL/tが0.85であるNo.36では、開き角度の変化量Δθは1.2°とさらに小さくなった。したがって、直線タイプの金型10Aの場合も、曲線タイプの金型10と同様、プレス成形品30の寸法精度をより向上させるためには、クリアランスCLは、素材の板厚tよりも小さいことが好ましく、板厚tの0.85倍以上且つ0.95倍以下であることが特に好ましい。
【0148】
[第2実施例]
金型10,10Aについて、第1実施例と同様の基本条件でCAE解析を実施し、パッド13の有無、及びダイ頂面の有無による効果の違いを検証した。解析結果を表3に示す。
【0149】
【0150】
表3における比較例、No.2、及びNo.20は、それぞれ、第1実施例における比較例、No.2、及びNo.20と同一である。No.P2の条件は、金型10にパッド13を設けなかった点を除き、No.2の条件と同一である。No.P20の条件は、金型10Aにパッド13を設けなかった点を除き、No.20の条件と同一である。No.D2の条件は、パッド13に代えてダイ12L,12Rにダイ頂面を設けた点を除き、No.2の条件と同一である。No.D20の条件は、パッド13に代えてダイ12L,12Rにダイ頂面を設けた点を除き、No.20の条件と同一である。No.2,No.P2,No.D2において、左右のダイ側面122L,122Rのダイ下部側面122bの中間部122eの線長Lは、1.08×Aとした。
【0151】
表3に示すように、スプリングバック後の縦壁32L,32Rの開き角度の変化量Δθは、No.P2、No.D2、No.D20、及びNo.P20の全てにおいて比較例よりも小さくなった。
【0152】
ただし、パッド13がないNo.P2では、パッド13があるNo.2に比べてΔθが大きくなった。加えて、パッド13がないNo.P20では、パッド13があるNo.20に比べてΔθが大きくなった。したがって、スプリングバックをより低減させ、プレス成形品30の寸法精度をより効率よく向上させるためには、素材を押さえるためのパッド13を左右のダイ12L,12Rの間に設けることが好ましい。
【0153】
また、パッド13に代えてダイ12L,12Rにダイ頂面を設けたNo.D2では、パッド13があるNo.2に比べてΔθが大きかったが、パッド13及びダイ頂面がないNo.P2に比べるとΔθが小さくなった。加えて、パッド13に代えてダイ12L,12Rにダイ頂面を設けたNo.D20では、パッド13があるNo.20に比べてΔθが大きかったが、パッド13及びダイ頂面がないNo.P20に比べるとΔθが小さくなった。したがって、スプリングバックをより低減させ、プレス成形品30の寸法精度をより効率よく向上させるためには、素材を押さえるためのダイ頂面があることが好ましく、パッド13があることがさらに好ましい。
【0154】
[第3実施例]
金型10について、第1実施例と同様の基本条件でCAE解析を実施し、ダイ下部側面122bの中間部122eの線長Lの大小による効果の違いを検証した。解析結果を表4に示す。表4には、線長Lを次式で表されるパラメータAで除した値を記載した。
A=((H2-Rd2-Rd3)2+(W2-Rd2-Rd3)2)0.5
【0155】
【0156】
表4における比較例、及びNo.2は、それぞれ、第1実施例における比較例、及びNo.2と同一である。No.200の条件は、No.2と同様、線長LがパラメータAの1.08倍であるが、H2/W2がNo.2と異なる。No.201の条件は、線長LがパラメータAの1.01倍であり、中間部122e(ダイ下部側面)の凹みはNo.200より小さくほぼ直線的である。No.202の条件は、線長LがパラメータAの1.03倍であり、中間部122e(ダイ下部側面)の凹みはNo.200より小さい。No.203の条件は、線長LがパラメータAの1.06倍であり、中間部122e(ダイ下部側面)の凹みはNo.202より大きいがNo.2より小さい。No.204の条件は、線長LがパラメータAの1.10倍であり、中間部122e(ダイ下部側面)の凹みが表4の中では最も大きい。
【0157】
表4に示すように、スプリングバック後の縦壁32L,32Rの開き角度の変化量Δθは、No.200、No.201、No.202、No.203、及びNo.204の全てにおいて比較例よりも小さくなった。
【0158】
線長Lの大きい順、つまり、No.204、No.200、No.203、No.202、No.201の順にΔθが小さいことから、線長Lが大きいほど好ましいといえる。すなわち、線長Lが大きいほど中間部122e(ダイ下部側面)の凹みが大きく、プレス加工中の素材Mのたわみが大きくなる。プレス加工中の素材Mのたわみが大きいほど、各ダイ上部側面122aと、パンチ側面113L,113Rとの間で素材Mをしっかりと挟持した際に、プレス加工中に生じる曲げ部33L,33Rの応力や離型時に生じるモーメントを曲げ戻しによってより効果的に打ち消すことができる。
【0159】
表4に示すように、線長LをパラメータAの1.03倍以上としたNo.200、及びNo.202~204では、開き角度の変化量Δθが比較例と比べて顕著に小さくなった。線長LをパラメータAの1.08倍以上としたNo.200、及びNo.204では、Δθがさらに小さくなっている。そのため、線長Lは、パラメータAの1.03倍以上であることが好ましく、パラメータAの1.08倍以上であることがより好ましい。
【0160】
No.2では、No.200と同様に線長LがパラメータAの1.08倍であるが、No.2の方がNo.200よりもH2/W2が小さい。No.2では、開き角度の変化量ΔθがNo.200よりも小さくなった。