(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038483
(43)【公開日】2023-03-17
(54)【発明の名称】測角装置、及び、測角方法
(51)【国際特許分類】
G01S 3/48 20060101AFI20230310BHJP
【FI】
G01S3/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021145240
(22)【出願日】2021-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 太樹
(72)【発明者】
【氏名】井上 允信
(72)【発明者】
【氏名】島田 尚也
(72)【発明者】
【氏名】高井 大輔
(57)【要約】 (修正有)
【課題】マルチパスがある場合でも角度の測定精度が高い測角装置、及び、測角方法を提供する。
【解決手段】第1軸及び第2軸に沿って等間隔で配置される複数のアンテナ素子を有し、送信装置から送信される信号を受信するアンテナ装置と、複数のアンテナ素子が受信する信号同士の位相差のうち、位相差の分散が所定値以下になるように複数の位相差を選択する選択部と、選択部によって選択される複数の位相差のうち、複数のアンテナ素子のうちの1つの第1アンテナ素子と、第1軸方向において所定距離の第2アンテナ素子とが受信した信号同士の第1位相差と、第1アンテナ素子と、第2軸方向において所定距離と等距離の第3アンテナ素子とが受信した信号同士の第2位相差との比から送信装置の方位角を算出する方位角算出部と、方位角算出部によって算出された方位角と、第1位相差又は第2位相差とに基づいて送信装置の仰角を算出する仰角算出部とを含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸及び第2軸に沿って等間隔で配置される複数のアンテナ素子を有し、送信装置から送信される信号を受信するアンテナ装置と、
前記複数のアンテナ素子が送信装置から受信する信号同士の位相差のうち、前記位相差の分散が所定値以下になるように複数の位相差を選択する選択部と、
前記選択部によって選択される複数の位相差のうち、前記複数のアンテナ素子のうちの1つの第1アンテナ素子と、前記第1軸方向において前記第1アンテナ素子から所定距離の第2アンテナ素子とが受信した信号同士の第1位相差と、前記複数のアンテナ素子のうちの前記第1アンテナ素子と、前記第2軸方向において前記第1アンテナ素子から前記所定距離と等距離の第3アンテナ素子とが受信した信号同士の第2位相差との比から前記送信装置の方位角を算出する方位角算出部と、
前記方位角算出部によって算出された方位角と、前記第1位相差又は前記第2位相差とに基づいて前記送信装置の仰角を算出する仰角算出部と
を含む、測角装置。
【請求項2】
前記方位角算出部は、前記選択部によって選択された複数の位相差のうち、前記第1アンテナ素子及び前記第2アンテナ素子が受信した信号同士の第1位相差、及び、前記第1アンテナ素子及び前記第3アンテナ素子が受信した信号同士の第2位相差を選択して、前記方位角を算出する、請求項1に記載の測角装置。
【請求項3】
前記仰角算出部は、前記方位角算出部によって選択された前記第1位相差又は前記第2位相差に基づいて前記送信装置の仰角を算出する、請求項1又は2に記載の測角装置。
【請求項4】
前記複数のアンテナ素子が前記送信装置から受信する信号同士の位相差の分散を算出する分散算出部をさらに含み、
前記選択部は、前記分散算出部によって算出される分散が前記所定値以下になるように複数の位相差を選択する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の測角装置。
【請求項5】
前記分散算出部は、複数の周波数の信号を前記複数のアンテナ素子が前記送信装置から受信した場合の信号同士の位相差の分散を前記信号同士の位相差の分散として算出し、
前記選択部は、前記分散が前記所定値以下の位相差を選択する、請求項4に記載の測角装置。
【請求項6】
前記所定値は、マルチパスによる前記位相差の分散の増大を抑制するための上限値である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の測角装置。
【請求項7】
前記アンテナ装置は、前記第1軸及び前記第2軸によって構成される平面が床に対して起立した状態で設置される、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の測角装置。
【請求項8】
前記アンテナ装置は、前記第1軸及び前記第2軸によって構成される平面が天井に貼り付けられて見下ろした状態で設置される、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の測角装置。
【請求項9】
前記方位角は、前記第1アンテナ素子を原点とする、前記第1軸、前記第2軸、及び第3軸を含む座標系における、前記第1軸及び前記第2軸を含む平面内における前記第1軸に対する方位角であり、
前記仰角は、前記第3軸に対する仰角である、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の測角装置。
【請求項10】
前記方位角算出部は、前記選択部によって選択される前記複数の位相差を与える複数のアンテナ素子の中で、前記第1位相差及び前記第2位相差を与える複数のアンテナ素子のうちの前記信号の受信強度が上位の所定順位以内に入るアンテナ素子の中から、前記第1アンテナ素子、前記第2アンテナ素子、及び前記第3アンテナ素子を選択する、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の測角装置。
【請求項11】
第1軸及び第2軸に沿って等間隔で配置される複数のアンテナ素子を有し、送信装置から送信される信号を受信するアンテナ装置と、コンピュータとを含む測角装置における測角方法であって、
前記コンピュータが、
前記複数のアンテナ素子が送信装置から受信する信号同士の位相差のうち、前記位相差の分散が所定値以下になるように複数の位相差を選択することと、
前記選択される複数の位相差のうち、前記複数のアンテナ素子のうちの1つの第1アンテナ素子と、前記第1軸方向において前記第1アンテナ素子から所定距離の第2アンテナ素子とが受信した信号同士の第1位相差と、前記複数のアンテナ素子のうちの前記第1アンテナ素子と、前記第2軸方向において前記第1アンテナ素子から前記所定距離と等距離の第3アンテナ素子とが受信した信号同士の第2位相差との比から前記送信装置の方位角を算出することと、
前記算出された方位角と、前記第1位相差又は前記第2位相差とに基づいて前記送信装置の仰角を算出することと
を実行する、測角方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測角装置、及び、測角方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、平面状に配置した複数のアンテナの受信信号に基づき、電波の到来方向を求める電波到来角測定装置がある。2軸方向における受信信号の位相差に基づいて方位角を求めている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の電波到来角測定装置は、受信信号のマルチパスの影響を考慮しておらず、マルチパスの影響を抑制できないため、角度を測定する精度が著しく低下するおそれがある。
【0005】
そこで、マルチパスがある場合でも角度の測定精度が高い測角装置、及び、測角方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態の測角装置は、第1軸及び第2軸に沿って等間隔で配置される複数のアンテナ素子を有し、送信装置から送信される信号を受信するアンテナ装置と、前記複数のアンテナ素子が送信装置から受信する信号同士の位相差のうち、前記位相差の分散が所定値以下になるように複数の位相差を選択する選択部と、前記選択部によって選択される複数の位相差のうち、前記複数のアンテナ素子のうちの1つの第1アンテナ素子と、前記第1軸方向において前記第1アンテナ素子から所定距離の第2アンテナ素子とが受信した信号同士の第1位相差と、前記複数のアンテナ素子のうちの前記第1アンテナ素子と、前記第2軸方向において前記第1アンテナ素子から前記所定距離と等距離の第3アンテナ素子とが受信した信号同士の第2位相差との比から前記送信装置の方位角を算出する方位角算出部と、前記方位角算出部によって算出された方位角と、前記第1位相差又は前記第2位相差とに基づいて前記送信装置の仰角を算出する仰角算出部とを含む。
【発明の効果】
【0007】
マルチパスがある場合でも角度の測定精度が高い測角装置、及び、測角方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】方位角と仰角の計算方法を説明する図である。
【
図3】アンテナ装置110と位相差の分散を示す図である。
【
図4】位相差の分散と、算出した方位角φ及び仰角θについての角度誤差との分布を示す図である。
【
図5】制御装置120の分散算出部122、選択部123、方位角算出部124、仰角算出部125が実行する処理を表すフローチャートを示す図である。
【
図6】アンテナ装置110の配置の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の測角装置、及び、測角方法を適用した実施形態について説明する。
【0010】
<実施形態>
図1は、実施形態の測角装置100を示す図である。ここではXYZ座標系を用いて説明する。X軸は第1軸の一例であり、Y軸は第2軸の一例であり、Z軸は第3軸の一例である。
【0011】
図1には、測角装置100の他にスマートフォン50を示す。スマートフォン50は、信号を送信する送信装置機の一例であり、測角装置100は、スマートフォン50から送信される信号を受信して測角装置100に対するスマートフォン50の方位角及び仰角を求める。スマートフォン50から送信される信号は、一例としてCW(Continuous Wave:連続波)である。測角装置100は、さらに測距を行って、求めた方位角及び仰角からスマートフォン50の位置を求めてもよい。この場合には測距装置になる。
【0012】
測角装置100は、アンテナ装置110、及び、制御装置120を含む。アンテナ装置110は、基板110Aとアンテナ素子1~4を有する。基板110Aは絶縁体製の基板である。
【0013】
アンテナ素子1~4は、制御装置120に接続されている。アンテナ素子1~4は、一例としてパッチアンテナであり、基板110Aの+Z方向側の表面に設けられている。アンテナ素子1及びアンテナ素子2のX方向の間隔(距離)、アンテナ素子3及びアンテナ素子4のX方向の間隔(距離)、アンテナ素子1及びアンテナ素子3のY方向の間隔(距離)、及び、アンテナ素子2及びアンテナ素子4のY方向の間隔(距離)は、すべて等しく(等距離であり)、スマートフォン50から送信される信号の波長の1/2以下である。アンテナ素子1~4は、スマートフォン50から送信されるCW信号を受信する。
【0014】
アンテナ素子1~4は、複数のアンテナ素子の一例である。4つのアンテナ素子1~4は、X軸及びY軸に沿って配置されている。また、アンテナ素子1~4はX方向に等間隔で配置されるとともに、Y方向に等間隔で配置されている。アンテナ装置110は、少なくとも3つのアンテナ素子を含めばよいが、
図1には一例として4つのアンテナ素子1~4を示す。
【0015】
アンテナ素子1は、第1アンテナ素子の一例である。アンテナ素子2は、X方向においてアンテナ素子1から所定距離の第2アンテナ素子の一例である。アンテナ素子3は、Y方向においてアンテナ素子1から所定距離の第3アンテナ素子の一例である。アンテナ素子1及びアンテナ素子2のX方向の距離は、アンテナ素子1及びアンテナ素子3のY方向の距離と等距離である。なお、アンテナ装置110は、基板110Aの-Z方向側の表面にグランド電位に保持されるグランド板を有していてもよい。
【0016】
制御装置120は、通信部121、分散算出部122、選択部123、方位角算出部124、仰角算出部125、メモリ126を有する。通信部121は、AFE(Analog Front End)、AD(Analog to Digital)コンバータ等を含み、スマートフォン50から受信した信号を方位角算出部124に出力する。
【0017】
分散算出部122、選択部123、方位角算出部124、仰角算出部125、メモリ126は、一例として、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及び内部バス等を含むマイクロコンピュータ(コンピュータ)によって実現される。分散算出部122、選択部123、方位角算出部124、仰角算出部125は、マイクロコンピュータが実行するプログラムの機能(ファンクション)を機能ブロックとして示したものである。また、メモリ126は、マイクロコンピュータのメモリを機能的に表したものである。
【0018】
分散算出部122は、X方向において隣り合うアンテナ素子1及びアンテナ素子2については、スマートフォン50が送信する信号の周波数を1つの周波数帯域に含まれる複数の周波数に変化させたときに、アンテナ素子1及びアンテナ素子2がスマートフォン50から受信する信号同士の位相差を各周波数において求め、複数の周波数において求まる複数の信号同士の位相差の分散を算出する。分散算出部122は、スマートフォン50とアンテナ装置110との距離を変えて、スマートフォン50からアンテナ装置110への距離が異なる複数の位置において、複数の周波数において求まる複数の信号同士の位相差の分散を算出する。
【0019】
分散算出部122は、X方向において隣り合うアンテナ素子3及びアンテナ素子4がスマートフォン50から受信する信号同士の位相差、Y方向において隣り合うアンテナ素子1及びアンテナ素子3がスマートフォン50から受信する信号同士の位相差、及び、Y方向において隣り合うアンテナ素子2及びアンテナ素子4がスマートフォン50から受信する信号同士の位相差についても、同様に、スマートフォン50からの距離が異なる複数の位置において、複数の周波数において求まる複数の信号同士の位相差の分散を算出する。なお、分散の代わりに標準偏差を算出してもよい。
【0020】
分散算出部122は、アンテナ素子の数がさらに多い場合は、X方向に配置される様々な2つのアンテナ素子のペアについて、同様に複数の周波数において求まる複数の信号同士の位相差の分散を算出する。また、分散算出部122は、Y方向に配置される様々な2つのアンテナ素子のペアについて、同様に複数の周波数において求まる複数の信号同士の位相差の分散を算出する。
【0021】
選択部123は、分散算出部122によって算出される信号同士の位相差の分散が閾値以下になるように複数の位相差を選択する。より具体的には、選択部123は、分散算出部122によって算出される信号同士の位相差の分散が閾値以下の距離の位置において算出された複数の位相差を選択する。閾値は、所定値の一例である。
【0022】
アンテナ素子が4つの場合には、選択部123は、アンテナ素子1~4のうち、スマートフォン50から受信する信号同士の位相差の分散が閾値以下の距離の位置において算出された複数の位相差を選択する。
【0023】
方位角算出部124は、アンテナ素子1~4によって受信されるCW信号から通信部121によって取り出される信号に基づいて、スマートフォン50の位置を表す方位角を算出する。
【0024】
方位角算出部124は、選択部123によって選択される複数の位相差を与える複数のアンテナ素子の中で、第1アンテナ素子、第2アンテナ素子、及び第3アンテナ素子の候補になる3つのアンテナ素子の組み合わせを選択する。3つのアンテナ素子は、1つのアンテナ素子(第1アンテナ素子の候補)に対して、X方向及びY方向において等距離にある2つのアンテナ素子(X方向にあるのが第2アンテナ素子の候補、Y方向にあるのが第3アンテナ素子の候補)の関係を満たす3つのアンテナ素子である。
【0025】
方位角算出部124は、3つのアンテナ素子の組み合わせの中から、信号の受信強度が上位の所定順位以内に入るアンテナ素子を含む組み合わせに含まれる3つのアンテナ素子を第1アンテナ素子、第2アンテナ素子、及び第3アンテナ素子として選択する。第1アンテナ素子と第2アンテナ素子とが受信した信号同士の位相差が第1位相差であり、第1アンテナ素子と第3アンテナ素子とが受信した信号同士の位相差が第2位相差である。
【0026】
方位角算出部124は、第1アンテナ素子、第2アンテナ素子、及び第3アンテナ素子として選択した3つのアンテナ素子において得られる第1位相差及び第2位相差を用いて、方位角を算出する。算出方法については
図2を用いて後述する。
【0027】
仰角算出部125は、方位角算出部124によって算出される方位角と、第1位相差又は第2位相差とに基づいてスマートフォン50の位置を表す仰角を算出する。算出方法については
図2を用いて後述する。
【0028】
メモリ126は、分散算出部122、選択部123、方位角算出部124、仰角算出部125が上述の処理や以下で説明する処理を実行するのに必要なプログラムやデータ等を格納する。
【0029】
図2は、方位角と仰角の計算方法を説明する図である。
図2には、X軸及びY軸に沿って配置される複数のアンテナ素子111を示す。アンテナ素子111はX方向に等間隔dxでM(Mは2以上の整数)個配置されるとともに、Y方向に等間隔dyでN(Nは2以上の整数)個配置されている。間隔dxと間隔dyは等しい。アンテナ素子111は、
図1に示すアンテナ素子1~4と同様であるが、ここでは簡略化して示す。
【0030】
ここでは一例として、X方向における1番目(M=1)で、かつ、Y方向における1番目(N=1)のアンテナ素子111が第1アンテナ素子の一例である。また、X方向における2番目(M=2)で、かつ、Y方向における1番目(N=1)のアンテナ素子111が第2アンテナ素子の一例であり、X方向における1番目(M=1)で、かつ、Y方向における2番目(N=2)のアンテナ素子111が第3アンテナ素子の一例である。
【0031】
ここでは、
図2における第1アンテナ素子、第2アンテナ素子、第3アンテナ素子としての3つのアンテナ素子111がスマートフォン50から信号を受信する場合に、スマートフォン50の方向を表す方位角φと仰角θを算出する方法について説明する。
【0032】
第1アンテナ素子及び第2アンテナ素子が受信する信号の位相差をβx、第1アンテナ素子及び第3アンテナ素子が受信する信号の位相差をβy、信号の波長をλとすると、位相差βx、βyは、次式(1)、(2)で表すことができる。位相差βxは第1位相差の一例であり、位相差βyは第2位相差の一例である。
【0033】
【0034】
【0035】
式(1)、(2)をそれぞれ方位角φ,仰角θでまとめると、次式(3)~(6)が得られる。
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
式(1)、(2)より、βxに対するβyの比は次式(7)で表される。
【0041】
【0042】
ここで、dx=dyであるから、式(7)から式(8)が得られ、さらに式(9)のように変形して方位角φを求めることができる。
【0043】
【0044】
【0045】
そして、式(9)で求まった方位角φを用いれば、式(3)又は式(5)のいずれか一方から仰角θを求めることができる。式(3)から仰角θを算出する場合には位相差βxを用いればよく、式(5)から仰角θを算出する場合には位相差βyを用いればよい。
【0046】
図3は、アンテナ装置110と位相差の分散を示す図である。
図3(A)に示すように、水平な床Fの上にアンテナ装置110を垂直に立てて設置した。ここでは、アンテナ装置110が
図2に示すように複数のアンテナ素子111を有するものとして説明する。また、
図3では、アンテナ装置110はXYZ座標の原点に位置し、+X方向は鉛直上方であり、Y方向は水平方向であり、+Z方向は床Fの表面に沿ってアンテナ装置110から離れる方向である。
【0047】
スマートフォン50からアンテナ装置110までの距離が異なる複数の位置において、スマートフォン50から送信する信号の周波数を複数の周波数に変更しながら、スマートフォン50が送信する信号を複数のアンテナ素子111で受信する場合における、2つのアンテナ素子111のペアが受信する信号同士の位相差の分散を計算した。また、複数の周波数は、一例として2.4GHz帯(2.4GHz~2.48GHz)のうちの複数の周波数に設定した。分散は、距離が異なる複数の位置の各々において、2.4GHz帯の複数の周波数で得た複数の位相差について算出した。
【0048】
M×N個のアンテナ素子111の中から、X方向に配置される2つで構成される複数のペアと、Y方向に配置される2つで構成される複数のペアとを抽出し、ペア毎における信号同士の位相差の分散を算出した。
【0049】
図3(B)には、比較用に、床Fが存在しない場合の信号同士の位相差の分散を示す。分散は距離に応じて殆ど変化せず、略一定値を示した。これに対して、
図3(C)に示すように、床Fが存在する場合には、位相差の分散が距離に応じて周期的に増減した。
【0050】
図3(C)に示す計算結果において、位相差の分散が大きくなったペアは、X方向に配置される2つのアンテナ素子111のペアが多かった。Y方向に配置される2つのアンテナ素子111が受信した信号同士の位相差の分散は、比較的小さいことが分かった。これは、スマートフォン50から送信される信号が床Fの表面で反射されてからアンテナ素子111によって受信されるマルチパスが生じていることを示していると考えられる。床Fの表面で反射したマルチパスの信号がX方向に配置される2つのアンテナ素子111によって受信されることにより、信号同士の位相差の分散が大きくなったと考えられる。
【0051】
測角装置100が配置される場所には、多くの場合において床が存在する。床が存在する場合にはマルチパス影響によって信号同士の位相差が大きくなり、位相差が大きくなると、最終的に求まる方位角φ及び仰角θの角度誤差が大きくなるおそれがある。
【0052】
このため、測角装置100は、方位角φ及び仰角θを求める際に、信号同士の位相差の分散が閾値以下の位相差を用いることとする。選択部123は、X方向に配置される様々な2つのアンテナ素子のペアで受信される信号同士の位相差と、Y方向に配置される様々な2つのアンテナ素子のペアで受信される信号同士の位相差とのうち、信号同士の位相差の分散が閾値以下の位相差を選択する。
【0053】
そして、方位角算出部124は、選択部123によって選択されたX方向に配置される2つのアンテナ素子のペアで受信される信号同士の位相差と、Y方向に配置される2つのアンテナ素子のペアで受信される信号同士の位相差とのうち、X方向において所定距離の第1アンテナ素子及び第2アンテナ素子で受信される信号同士の位相差と、Y方向において所定距離と等距離の第1アンテナ素子及び第3アンテナ素子で受信される信号同士の位相差とを用いて、方位角を算出する。
【0054】
ここで、X方向において所定距離の第1アンテナ素子及び第2アンテナ素子で受信される信号同士の位相差は、第1位相差の一例である。また、Y方向において所定距離と等距離の第1アンテナ素子及び第3アンテナ素子で受信される信号同士の位相差は、第2位相差の一例である。
【0055】
さらに、仰角算出部125は、方位角算出部124によって算出された方位角と、第1位相差の一例としての位相差又は第2位相差の一例としての位相差とに基づいて仰角を算出する。
【0056】
図4は、位相差の分散と、算出した方位角φ及び仰角θについての角度誤差との分布を示す図である。
図4(A)には、距離に対する位相差の分散の分布を示す。
図4(B)には、
図4(A)に示す位相差の分散の算出に用いられた位相差から算出した方位角φ及び仰角θの角度誤差の距離に対する分布を示す。角度誤差は、算出した方位角φ及び仰角θと実際の方位角φ及び仰角θとの誤差である。
【0057】
また、
図4(C)には、
図4(A)に示す位相差の分散のうち閾値以下のものを示す。
図4(D)には、
図4(C)に示す位相差の分散の算出に用いられた位相差から算出した方位角φ及び仰角θの角度誤差の距離に対する分布を示す。閾値は、所定値の一例であり、スマートフォン50から送信される信号が床で反射することによって生じるマルチパスによる位相差の分散の増大を抑制するための上限値である。なお、ここでは床での反射によって生じるマルチパスについて説明するが、マルチパスは床での反射に限らず、壁や天井等によって生じるものであってもよい。
【0058】
図4(A)に示すように、位相差の分散の分布は、距離に応じて周期的に増減している。これは、
図3(C)に示すものと同一である。分散が大きい距離における位相差を用いて方位角φ及び仰角θを算出すると、
図4(B)に示すように角度誤差が大きくなる。3つの四角で囲んだ区間は、
図4(A)において位相差の分散が閾値以上になった区間である。
【0059】
これに対して、
図4(C)では、位相差の分散が閾値以下のものだけが選択されている。このような選択は、選択部123が行う。具体的には、選択部123は、閾値よりも大きい位相差の分散が算出された距離における位相差を間引いており、閾値以下の位相差の分散が算出された距離における位相差を選択している。
【0060】
そして、
図4(C)に示す位相差の分散の算出に用いられた位相差から方位角算出部124及び仰角算出部125が算出した方位角φ及び仰角θの角度誤差は、
図4(D)に示すように、
図4(B)に比べて、
図4(A)において位相差の分散が閾値以上になった3つの区間における方位角φ及び仰角θの値が間引かれることによって、角度誤差が低減されている。
【0061】
図5は、制御装置120の分散算出部122、選択部123、方位角算出部124、仰角算出部125が実行する処理を表すフローチャートを示す図である。
図5に示す処理は、実施形態の測角方法によって実現される。
【0062】
分散算出部122は、処理がスタートすると位相差の分散を算出する(ステップS1)。これにより、例えば
図4(A)に示す位相差の分散のデータが作成される。
【0063】
選択部123は、ステップS2で算出された位相差の分散のうち、閾値以下の距離の位相差の分散の算出に用いられた位相差を選択する(ステップS2)。これにより、例えば
図4(A)に示す位相差のデータから
図4(C)に示すように閾値以下の位相差の分散のデータが選択される。
【0064】
方位角算出部124は、選択部123によって選択された位相差の分散のデータに基づいて、第1アンテナ素子、第2アンテナ素子、及び第3アンテナ素子を選択し、第1アンテナ素子及び第2アンテナ素子で受信される信号同士の位相差(第1位相差の一例)と、第1アンテナ素子及び第3アンテナ素子で受信される信号同士の位相差(第2位相差の一例)との比から方位角φを算出する(ステップS3)。
【0065】
仰角算出部125は、ステップS3で算出された方位角φと、ステップS3で算出に用いられた位相差(第1位相差の一例)又は位相差(第2位相差の一例)のいずれか一方とに基づいて、仰角θを算出する(ステップS4)。以上で方位角φ及び仰角θが求まり、一連の処理が終了する。
【0066】
以上のように、実施形態によれば、選択部123は、分散算出部122によって算出された位相差の分散のうち、閾値以下の分散の算出に用いられた位相差を選択し、方位角算出部124は、選択部123によって選択された位相差のデータに基づいて、第1アンテナ素子、第2アンテナ素子、及び第3アンテナ素子を選択し、第1位相差及び第2位相差に基づいて方位角φを算出する。さらに、仰角算出部125は、算出された方位角φと、第1位相差又は第2位相差のいずれか一方とに基づいて仰角θを算出する。
【0067】
このため、マルチパスがある場合でも角度の測定精度が高い方位角φ及び仰角θを求めることができる。
【0068】
したがって、マルチパスがある場合でも角度の測定精度が高い(角度誤差が小さい)測角装置100、及び、測角方法を提供することができる。
【0069】
また、方位角算出部124は、選択部123によって選択された複数の位相差のうち、第1アンテナ素子及び第2アンテナ素子が受信した信号同士の第1位相差、及び、第1アンテナ素子及び第3アンテナ素子が受信した信号同士の第2位相差を選択して、方位角φを算出する。このため、小さい角度誤差で方位角φを算出することができる。
【0070】
また、仰角算出部125は、方位角算出部124によって選択された第1位相差又は第2位相差のいずれか一方に基づいてスマートフォン50の仰角θを算出するので、方位角φの算出に利用した第1位相差又は第2位相差を用いることによって、より容易に仰角θを算出することができる。
【0071】
また、複数のアンテナ素子がスマートフォン50から受信する信号同士の位相差の分散を算出する分散算出部122をさらに含み、選択部123は、分散算出部122によって算出される分散が閾値以下になるように複数の位相差を選択するので、分散算出部122によって算出された位相差の中から分散が閾値以下の分散の算出に用いられた位相差を選択することができる。
【0072】
また、分散算出部122は、スマートフォン50からの距離が異なる複数の位置において、複数の周波数の信号を複数のアンテナ素子がスマートフォン50から受信した場合の複数の位置の各々における信号同士の位相差の分散を信号同士の位相差の分散として算出する。そして、選択部123は、分散が閾値以下の距離の位置において算出された複数の位相差を選択するので、マルチパスの影響が大きい距離の位置における位相差を排除して、角度誤差の小さい方位角φ及び仰角θを計算することができる。
【0073】
また、閾値は、スマートフォン50から送信される信号が床で反射することによって生じるマルチパスによる位相差の分散の増大を抑制するための値であるので、閾値以下の位相差を選択することによって、効果的にマルチパスの影響を低減することができる。
【0074】
また、アンテナ装置110は、X軸及びY軸によって構成される平面が床に対して起立した状態で設置されるので、マルチパスが生じやすいが、床での反射に起因するマルチパスの影響を低減することができる。
【0075】
また、アンテナ装置110を上述のように床に対して起立した状態で天井に配置して、アンテナ装置110の真下を通る人のスマートフォン50から受信する信号に基づいて測角装置100に対するスマートフォン50の方位角及び仰角を求めてもよい。
【0076】
また、方位角φは、第1アンテナ素子を原点とする、X軸、Y軸、及びZ軸を含む座標系における、X軸及びY軸を含む平面内におけるX軸に対する方位角であり、仰角θは、Z軸に対する仰角であるため、XYZ座標の原点と同一の原点を有する極座標における方位角と仰角を算出することができる。
【0077】
なお、以上では、分散算出部122が位相差の分散を算出する形態について説明したが、位相差の分散の代わりに位相差の分布を算出してもよい。
【0078】
また、アンテナ装置110は、
図6に示すように配置されてもよい。
図6は、アンテナ装置110の配置の変形例を示す図である。
図6には、水平な床Fと、床Fに平行な天井Cを示す。アンテナ装置110は、X軸及びY軸によって構成される平面が天井Cに貼り付けられて見下ろした状態で設置されている。このように配置したアンテナ装置110を用いて、アンテナ装置110の下方にあるスマートフォン50の方位角及び仰角を求めてもよい。
【0079】
以上、本発明の例示的な実施形態の測角装置、及び、測角方法について説明したが、本発明は、具体的に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0080】
1~4 アンテナ素子
50 スマートフォン
100 測角装置
110 アンテナ装置
111 アンテナ素子
120 制御装置
121 通信部
122 分散算出部
123 選択部
124 方位角算出部
125 仰角算出部
126 メモリ