(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038491
(43)【公開日】2023-03-17
(54)【発明の名称】ウォーム減速機付き電動機および電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 5/04 20060101AFI20230310BHJP
【FI】
B62D5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021145253
(22)【出願日】2021-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 光輝
(72)【発明者】
【氏名】樫本 圭司
【テーマコード(参考)】
3D333
【Fターム(参考)】
3D333CB13
3D333CC14
3D333CD04
3D333CD05
3D333CD14
3D333CD16
3D333CD60
3D333CE10
3D333CE16
(57)【要約】
【課題】ウォームホイールとウォームシャフトとの干渉音をより低減することが可能なウォーム減速機付き電動機および電動パワーステアリング装置を提供すること。
【解決手段】ウォーム減速機付き電動機および電動パワーステアリング装置は、ウォームホイールと、ウォームホイールを回転可能に支持する第1ハウジングと、ウォームシャフトと、ウォームシャフトを回転可能に支持する第2ハウジングと、第1ハウジングと第2ハウジングとの間に配置される弾性部材と、第1ハウジングにおける第1部位に対して第2ハウジングにおける第2部位を揺動可能に連結するピンと、を備える。第1方向および第2方向の双方に交差する第3方向から見た場合に、ウォームホイールおよびウォームシャフトの噛合部分と、ピンとは、第1方向に並ぶ。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に延びる中心軸の軸回り方向に回転可能なウォームホイールと、
前記ウォームホイールを収容し、且つ、当該ウォームホイールを回転可能に支持する第1ハウジングと、
前記第1方向に交差する第2方向に延びる中心軸の軸回り方向に回転可能で、且つ、前記ウォームホイールに噛み合うウォームシャフトと、
前記ウォームシャフトを収容し、且つ、当該ウォームシャフトを回転可能に支持する第2ハウジングと、
前記ウォームシャフトに設けられるロータと、
前記ロータの外周側に対向して配置され、且つ、前記第2ハウジングに取り付けられるステータと、
前記第1ハウジングと前記第2ハウジングとの間に配置される弾性部材と、
前記第1ハウジングにおける第1部位に対して前記第2ハウジングにおける第2部位を揺動可能に連結するピンと、
を備え、
前記第1方向および前記第2方向の双方に交差する第3方向から見た場合に、
前記ウォームホイールおよび前記ウォームシャフトの噛合部分と、前記ピンとは、前記第1方向に並ぶ、
ウォーム減速機付き電動機。
【請求項2】
前記第1ハウジングにおける前記第1部位は、前記ウォームホイールを挟んで前記第1方向の一方側と他方側とにそれぞれ設けられ、且つ、前記第3方向に突出する突起部であり、
前記第2ハウジングにおける前記第2部位は、前記ウォームシャフトを挟んで前記第1方向の一方側と他方側とにそれぞれ設けられ、且つ、前記第3方向に突出する突出部である、
請求項1に記載のウォーム減速機付き電動機。
【請求項3】
前記第1部位には、前記ピンが嵌まる第1貫通孔が設けられ、
前記第2部位には、前記ピンが嵌まる第2貫通孔が設けられ、
前記第1貫通孔および前記第2貫通孔の一方は、前記ピンが当該貫通孔に対して回転可能な円形孔であり、
前記第1貫通孔および前記第2貫通孔の他方は、前記ピンが当該貫通孔に対して回転不能な異形孔であり、
前記ピンは、前記円形孔に嵌まる円柱部と、前記異形孔に嵌まる異形柱部と、を有する、
請求項2に記載のウォーム減速機付き電動機。
【請求項4】
前記ピンが前記第1貫通孔および前記第2貫通孔に嵌まった状態において、
前記円柱部における第1中心は、前記異形柱部における前記第3方向の中心である第2中心に対して、前記第3方向の一方側または他方側にずれて配置される、
請求項3に記載のウォーム減速機付き電動機。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のウォーム減速機付き電動機を備える、
電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ウォーム減速機付き電動機および電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の電動パワーステアリング装置は、減速機構を備え、当該減速機構は、ウォームシャフトと、ウォームホイールと、を有する。ウォームシャフトは、ウォームホイールと噛み合っており、ウォームシャフトがモータで回転駆動することにより、ウォームホイールも回転する。また、ウォームホイールは、第1ハウジングに収容され、ウォームシャフトは、第2ハウジングに収容される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
第1ハウジングは、第2ハウジングに固定されて、第1ハウジングと第2ハウジングとは、互いに相対移動が阻止されている。具体的には、第1ハウジングには、ウォームホイールが露出する第1開口部が設けられ、第2ハウジングには、ウォームシャフトが露出する第2開口部が設けられる。そして、第1開口部の周縁部と第2開口部の周縁部とが直接固定されるため、第2ハウジングは、第1ハウジングに対して移動が阻止された状態となる。従って、特許文献1の電動パワーステアリング装置では、ウォームシャフトとウォームホイールとのバックラッシュやそれぞれの歯同士の干渉音を抑制することができない。
【0005】
本開示は、前述の課題に鑑みてなされたものであって、ウォームホイールとウォームシャフトとの干渉音をより低減することが可能なウォーム減速機付き電動機および電動パワーステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するため、一態様に係るウォーム減速機付き電動機または電動パワーステアリング装置は、第1方向に延びる中心軸の軸回り方向に回転可能なウォームホイールと、前記ウォームホイールを収容し、且つ、当該ウォームホイールを回転可能に支持する第1ハウジングと、前記第1方向に交差する第2方向に延びる中心軸の軸回り方向に回転可能で、且つ、前記ウォームホイールに噛み合うウォームシャフトと、前記ウォームシャフトを収容し、且つ、当該ウォームシャフトを回転可能に支持する第2ハウジングと、前記ウォームシャフトに設けられるロータと、前記ロータの外周側に対向して配置され、且つ、前記第2ハウジングに取り付けられるステータと、前記第1ハウジングと前記第2ハウジングとの間に配置される弾性部材と、前記第1ハウジングにおける第1部位に対して前記第2ハウジングにおける第2部位を揺動可能に連結するピンと、を備え、前記第1方向および前記第2方向の双方に交差する第3方向から見た場合に、前記ウォームホイールおよび前記ウォームシャフトの噛合部分と、前記ピンとは、前記第1方向に並ぶ。
【0007】
前述したように、特許文献1の電動パワーステアリング装置では、ウォームホイールが収容される第1ハウジングの周縁部と、ウォームシャフトが収容される第2ハウジングの周縁部とが直接固定され、第2ハウジングは、第1ハウジングに対して移動が阻止された状態となる。従って、特許文献1の電動パワーステアリング装置では、ウォームシャフトとウォームホイールとのバックラッシュやそれぞれの歯同士の干渉音を抑制することができない。
【0008】
これに対して、本開示に係るウォーム減速機付き電動機においては、第2ハウジングにおける第2部位は、第1ハウジングにおける第1部位に対してピンを介して揺動可能に連結される。さらに、第1ハウジングと第2ハウジングとの間には、弾性部材が挟まれるため、第2ハウジングは第1ハウジングに対して、いわゆるフローティング状態になっている。
【0009】
ウォームシャフトがウォームホイールに噛み合った状態でウォームシャフトを回転させると、シャフト歯部とホイール歯部との中心軸同士の距離(バックラッシュ)が常に変動する。そして、例えば、ウォームシャフトの回転によってウォームシャフトがウォームホイールから第2方向の他方側に向かう力を受ける場合には、ウォームシャフトにおいて、中心軸よりも下側(ウォームホイール側)の部分が第2方向の他方側に向かう力を受ける。すると、ウォームシャフトにおける中心軸の軸方向の中心を基準とすると、ウォームシャフトに対して例えば反時計回り方向の力が加わる態様となる。すると、ピンを中心として第2ハウジングが反時計回り方向に揺動する。
【0010】
このように、シャフト歯部とホイール歯部との中心軸同士の距離(バックラッシュ)が変動しウォームシャフトに対して時計回り方向または反時計回り方向の力が加わる場合に、当該力に抗することなく当該力に従って第2ハウジングを第1ハウジングに対して揺動させる。これにより、シャフト歯部とホイール歯部との互いの中心軸同士の径方向距離(バックラッシュ)をより均一にすることができ、ウォームホイールとウォームシャフトとの干渉音をより低減することが可能となる。
【0011】
望ましい態様として、前記第1ハウジングにおける前記第1部位は、前記ウォームホイールを挟んで前記第1方向の一方側と他方側とにそれぞれ設けられ、且つ、前記第3方向に突出する突起部であり、前記第2ハウジングにおける前記第2部位は、前記ウォームシャフトを挟んで前記第1方向の一方側と他方側とにそれぞれ設けられ、且つ、前記第3方向に突出する突出部である。
【0012】
従って、突起部および突出部を、第1方向の片側のみに設ける場合よりも、第2ハウジングを、より安定して第1ハウジングに揺動可能に支持することができる。これにより、ウォームホイールとウォームシャフトとの干渉音をより低減することが可能となる。
【0013】
望ましい態様として、前記第1部位には、前記ピンが嵌まる第1貫通孔が設けられ、前記第2部位には、前記ピンが嵌まる第2貫通孔が設けられ、前記第1貫通孔および前記第2貫通孔の一方は、前記ピンが当該貫通孔に対して回転可能な円形孔であり、前記第1貫通孔および前記第2貫通孔の他方は、前記ピンが当該貫通孔に対して回転不能な異形孔であり、前記ピンは、前記円形孔に嵌まる円柱部と、前記異形孔に嵌まる異形柱部と、を有する。なお、本明細書においては、「異形孔」とは、広く、断面が円形以外の形状(例えば、多角形や楕円など)を有する孔を意味する。すなわち、円形孔以外の孔が異形孔である。また、「異形柱部」とは、広く、断面が円形以外の形状(例えば、多角形や楕円など)を有する柱部を意味する。すなわち、円柱部以外の柱部が異形柱部である。
【0014】
これによれば、簡単な構造を有するピンを用いて、第2ハウジングを第1ハウジングに揺動可能に支持することができる。以下に、具体的に説明する。ピンは、異形柱部および円柱部を有する。突起部の第1貫通孔は異形孔であり、当該異形孔には、異形柱部が嵌まり、突出部の第2貫通孔は円形孔であり、当該円形孔には、円柱部が嵌まる。従って、ピンを第1貫通孔および第2貫通孔に嵌めるという単純な動作により、第2ハウジングを第1ハウジングに揺動可能に支持することができる。
【0015】
望ましい態様として、前記ピンが前記第1貫通孔および前記第2貫通孔に嵌まった状態において、前記円柱部における第1中心は、前記異形柱部における前記第3方向の中心である第2中心に対して、前記第3方向の一方側または他方側にずれて配置される。
【0016】
シャフト歯部とホイール歯部との中心軸同士の距離(バックラッシュ)は、ピンによって調整可能となる。例えば、シャフト歯部とホイール歯部との中心軸同士の距離が小さい場合には、前記ピンを適用して、第2ハウジングと第1ハウジングとの高さ方向の距離を大きくすることにより、シャフト歯部とホイール歯部との中心軸同士の距離を大きくすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、ウォームホイールとウォームシャフトとの干渉音をより低減することが可能なウォーム減速機付き電動機および電動パワーステアリング装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、実施形態の電動パワーステアリング装置の模式図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係るウォーム減速機付き電動機を第1ステアリングシャフトの出力軸側から見た模式的な斜視図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係るウォーム減速機付き電動機を第1ステアリングシャフトの入力軸側から見た模式的な斜視図である。
【
図7】
図7は、第1ハウジングの第1部位、第2ハウジングの第2部位およびピンを示す分解斜視図である。
【
図9】
図9は、
図6に対応する断面図であり、第2ハウジングにおいてY2側に対してY1側が下がっている状態を示す図である。
【
図10】
図10は、
図6に対応する断面図であり、第2ハウジングにおいてY1側に対してY2側が下がっている状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、同一構造の部位には同一符号を付けて、説明を省略する。なお、三次元座標において、X方向は車体の前後方向、Y方向は車幅方向、Z方向は上下方向を示す。さらに、X1側は、第1ステアリングシャフト82の出力軸側を示し、X2側は入力軸側を示す。Y1側は、車幅方向の左側を示し、Y2側は、右側を示す。Z1側は、上側を示し、Z2側は、下側を示す。
【0020】
なお、以下の説明において、「第1方向」とは、ウォームホイール11の中心軸AX1の軸方向であり、「第2方向」とは、ウォームシャフト12、12Aの中心軸AX2の軸方向である。「第2方向」は、「第1方向」と交差する。また、「第3方向」は、「第1方向」および「第2方向」の双方に交差する方向である。
【0021】
ここで、以下の実施形態においては、分かりやすくするために、X方向が第1方向に一致し、Y方向が第2方向に一致し、Z方向が第3方向に一致する態様としている。また、X1側を第1方向の一方側、X2側を第1方向の他方側とも称し、Y1側を第2方向の一方側、Y2側を第2方向の他方側とも称し、Z1側を第3方向の一方側、Z2側を第3方向の他方側とも称する。ただし、本発明において、「第1方向」が「X方向」に限定されず、「第2方向」が「Y方向」に限定されず、「第3方向」が「Z方向」に限定されない。
【0022】
以下に、実施形態について説明する。
図1は、実施形態の電動パワーステアリング装置の模式図である。
図2は、実施形態に係るウォーム減速機付き電動機を第1ステアリングシャフトの出力軸側から見た模式的な斜視図である。
図3は、実施形態に係るウォーム減速機付き電動機を第1ステアリングシャフトの入力軸側から見た模式的な斜視図である。
図4は、
図3の分解斜視図である。
図5は、
図2のVーV線による断面図である。
図6は、
図2のVIーVI線による断面図である。
図7は、第1ハウジングの第1部位、第2ハウジングの第2部位およびピンを示す分解斜視図である。
図8は、
図7のピンを拡大した斜視図である。
図9は、
図6に対応する断面図であり、第2ハウジングにおいてY2側に対してY1側が下がっている状態を示す図である。
図10は、
図6に対応する断面図であり、第2ハウジングにおいてY1側に対してY2側が下がっている状態を示す図である。
【0023】
図1に示すように、第1ステアリングシャフト82は、入力軸82aと、出力軸82bとを備える。入力軸82aの一方の端部がステアリングホイール81に連結され、入力軸82aの他方の端部が出力軸82bに連結される。また、出力軸82bの一方の端部が入力軸82aに連結され、出力軸82bの他方の端部が第1ユニバーサルジョイント84に連結される。
【0024】
図1に示すように、第2ステアリングシャフト85は、第1ユニバーサルジョイント84と第2ユニバーサルジョイント86とを連結している。第2ステアリングシャフト85の一方の端部が第1ユニバーサルジョイント84に連結され、他方の端部が第2ユニバーサルジョイント86に連結される。第3ステアリングシャフト87の一方の端部が第2ユニバーサルジョイント86に連結され、第3ステアリングシャフト87の他方の端部がステアリングギヤ88に連結される。
【0025】
図1に示すように、ステアリングギヤ88は、ピニオン88aと、ラック88bとを備える。ピニオン88aは、第3ステアリングシャフト87に連結される。ラック88bは、ピニオン88aに噛み合う。ステアリングギヤ88は、ピニオン88aに伝達された回転運動をラック88bで直進運動に変換する。ラック88bは、タイロッド89に連結される。ラック88bが移動することで車輪の角度が変化する。
【0026】
図1に示すように、操舵力アシスト機構83は、ウォーム減速機付き電動機100を備える。ウォーム減速機付き電動機100は、出力軸82bに補助操舵トルクを与える。ウォーム減速機付き電動機100については、詳細に後述する。
【0027】
図1に示すように、電動パワーステアリング装置80は、ウォーム減速機付き電動機100と、ECU(Electronic Control Unit)90と、トルクセンサ94と、車速センサ95と、を備える。ウォーム減速機付き電動機100、トルクセンサ94および車速センサ95は、ECU90と電気的に接続される。トルクセンサ94は、入力軸82aに伝達された操舵トルクをCAN(Controller Area Network)通信によりECU90に出力する。車速センサ95は、電動パワーステアリング装置80が搭載される車体の走行速度(車速)を検出する。車速センサ95は、車体に備えられ、車速をCAN通信によりECU90に出力する。
【0028】
ECU90は、ウォーム減速機付き電動機100の第1モータ部3および第2モータ部4(
図2参照)の動作を制御する。ECU90は、トルクセンサ94および車速センサ95のそれぞれから信号を取得する。ECU90には、イグニッションスイッチ98がオンの状態で、電源装置99(例えば車載のバッテリ)から電力が供給される。ECU90は、操舵トルクおよび車速に基づいて補助操舵指令値を算出する。ECU90は、補助操舵指令値に基づいて第1モータ部3および第2モータ部4へ供給する電力値を調節する。ECU90は、第1モータ部3および第2モータ部4から誘起電圧の情報または第1モータ部3および第2モータ部4に設けられたレゾルバ等から出力される情報を取得する。ECU90が第1モータ部3および第2モータ部4を制御することで、ステアリングホイール81の操作に要する力が小さくなる。
【0029】
図2および
図3に示すように、ウォーム減速機付き電動機100は、第1構造体110と、第2構造体120と、弾性部材5と、ピン300と、を備える。第1構造体110、第2構造体120および弾性部材5は、上下方向に配置される。第1構造体110が下側(Z2側)に位置し、第1構造体110の上に弾性部材5が配置され、第2構造体120が第1構造体110および弾性部材5の上側に配置される。即ち、第1構造体110と第2構造体120とで、弾性部材5を上下から挟持している。なお、ウォームホイール11とウォームシャフト12とでウォーム減速機1(
図3参照)が構成される。
【0030】
図2、
図3、
図4および
図5に示すように、第1構造体110は、第1ハウジング21と、ウォームホイール11と、を有する。第1ハウジング21は、本体部211と、蓋体部212を備え、ウォームホイール11を収容する。本体部211は、前後方向(X方向)において、X1側に位置し、蓋体部212は、本体部211のX2側の開口を覆う。ウォームホイール11は、第1方向に延びる。換言すると、ウォームホイール11は、中心軸AX1の軸方向に延びる。ウォームホイール11は、中心軸AX1の軸回り方向に回転可能である。また、
図4に示すように、第1ハウジング21は、ウォームホイール11が露出する第1開口部213と、第1開口部213の周縁部213aと、を有する。
【0031】
図5に示すように、本体部211は、第1周面部211aと、後壁面部211bと、第2周面部211cと、フランジ211dと、円盤部211eと、スプライン軸211fと、突起部211g(第1部位)と、を有する。第1周面部211aは、中心軸AX1の軸回りの周方向に延びる円筒面である。後壁面部211bは、第1周面部211aのX1側の端から径方向の内側に延びる。第2周面部211cは、周方向に延びる円筒面である。第2周面部211cは、後壁面部211bの径方向の内側の端からX1側に向けて延びる。第2周面部211cの内周側には、円盤部211eが嵌合される。フランジ211dは、第2周面部211cのX1側の端から径方向の内側に向けて延びる。なお、
図5に示すように、スプライン軸211fは、円盤部211eに対して回転可能に支持されており、スプライン軸211fは、ウォームホイール11に連結される。また、スプライン軸211fは、後述する突設部212dと一体である。スプライン軸211fには、第1ステアリングシャフト82の出力軸82bが接続され、突設部212dには、第1ステアリングシャフト82の入力軸82aが接続される。
【0032】
図5に示すように、蓋体部212は、前面部212aと、筒状部212bと、プレート部212cと、突設部212dと、を有する。前面部212aは、径方向の内側に向けて延びる。前面部212aの周縁部は、第1周面部211aのX2側の端に対向する。筒状部212bは、前面部212aの径方向の内側の端からX1側に向けて円筒状に延びる。プレート部212cは、筒状部212bの内周側に嵌合される。なお、
図3に示すように、プレート部212cから円筒状の突設部212dがX2側に向けて突出している。
【0033】
さらに、
図5に示すように、プレート部212cと円盤部211eとの間には、ウォームホイール11が配置される。ウォームホイール11は、径方向の中央に位置する芯金11aと、芯金11aの外周側に位置するホイール歯部11bと、を備える。芯金11aは、ホイール歯部11bよりもX方向の厚さが厚く形成される。芯金11aには、スプライン軸211fが連結されている。
【0034】
図4に示すように、第1ハウジング21の上面21aには、凹溝210が設けられる。上面21aは、第1開口部213の周縁部213aでもある。凹溝210には、弾性部材5が挿入される。弾性部材5は、例えばゴムである。
【0035】
図4に示すように、第1ハウジング21の上面21aは、平坦部21bと、湾曲部21c、21dと、を備える。平坦部21bおよび湾曲部21c、21dには、凹溝210が設けられる。湾曲部21c、21dは、Z1側(上方側)に凸の湾曲状である。湾曲部21cは、上面21aにおけるX2側の部位であり、湾曲部21dは、上面21aにおけるX1側の部位である。
【0036】
次に、第2構造体120を説明する。
図2に示すように、第2構造体120は、第2ハウジング22と、ウォームシャフト12と、第1モータ部3と、第2モータ部4と、を備える。ウォームシャフト12の中心軸AX2は、Y方向(第2方向)に延びる。
【0037】
図2および
図3に示すように、第2ハウジング22は、下枠部221と、軸受固定部222と、フランジ223と、カバー23と、を有する。下枠部221は、平坦部221aと、湾曲部221bと、湾曲部221cと、を有する。湾曲部221bは、上側(Z1側)に向けて凸の湾曲形状を有する。湾曲部221bは、下枠部221のX2側において、Y1側の平坦部221aと、Y2側の平坦部221aと、を連結する。湾曲部221bのZ方向厚さは、湾曲部221cのZ方向厚さよりも厚い。湾曲部221cは、下枠部221のX1側において、Y1側の平坦部221aと、Y2側の平坦部221aと、を連結する。
図4に示すように、軸受固定部222は、下枠部221の上側に設けられる。軸受固定部222は、Y1側とY2側とにそれぞれ設けられる。軸受固定部222は、Y方向から見た場合に、円環状である。軸受固定部222の内周側には、軸受130が嵌合されている。軸受130は、内輪、外輪および転動体を有する。軸受130の内輪の内周側には、ウォームシャフト12の軸部(シャフト部)12aが嵌合される。
【0038】
従って、ウォームシャフト12のY1側およびY2側は、軸受130を介して、第2ハウジング22に回転可能に支持される。
図4に示すように、フランジ223は、Z方向およびY方向に延びる。即ち、フランジ223は、軸受固定部222の上端から上側(Z1側)に延びる。フランジ223は、Y1側の軸受固定部222の上端と、Y2側の軸受固定部222の上端と、を連結する。なお、点ハッチングで示すカバー23は、ウォームシャフト12を覆っている。カバー23は、ウォームシャフト12に金属粉などの異物が付着することを抑制する。なお、第2ハウジング22の下枠部221は、
図4に示すように、ウォームシャフト12が露出する第2開口部224と、第2開口部224の周縁部224aと、を有する。
【0039】
図6に示すように、ウォームシャフト12は、軸部12aと、シャフト歯部12bと、大径部12cと、テーパー部12dと、を有する。ウォームシャフト12は、第2方向に延びる。換言すると、ウォームシャフト12は、中心軸AX2の軸方向に延びる。軸部12aは、前述のように、軸受130を介して、第2ハウジング22に回転可能に支持される。大径部12cは、軸部12aの軸方向の内側に位置する。換言すると、大径部12cは、軸部12aに対して、ウォームシャフト12の軸方向の中心側に設けられる。大径部12cの外周面は、中心軸AX2の軸回りの周方向に沿った円筒面である。大径部12cの径は、軸部12aの径よりも大きい。テーパー部12dは、大径部12cの軸方向の内側に位置する。テーパー部12dの径は、軸方向の内側(ウォームシャフト12の軸方向の中心側)に行くに従って径が小さくなる。換言すると、中心軸AX2を含む断面において、テーパー部12dの外周面は、ウォームシャフト12の軸方向の中心側に行くに従って中心軸AX2に近づく。また、Y1側のテーパー部12dと、Y2側のテーパー部12dと、の間には、シャフト歯部12bが設けられる。ウォームシャフト12のシャフト歯部12bは、ウォームホイール11のホイール歯部11bと噛み合う。即ち、ウォームシャフト12が中心軸AX2の軸回り方向に回転すると、ウォームホイール11は中心軸AX1の軸回り方向に回転する。
【0040】
また、大径部12cおよびテーパー部12dは、ロータ250である。ロータ250は、電磁鋼板および冷間圧延鋼板などの薄板を積層し、ウォームシャフト12に対してカシメ等により固定することで製造される。永久磁石同期モータのように、ロータに永久磁石を用いる場合には、ロータ250を形成するために用いる薄板に、あらかじめ磁石挿入用の開口を設けることができる。薄板を積層することにより、前述した磁石挿入用の開口部に、磁石挿入用の挿入孔が形成される。この挿入孔に永久磁石を挿入することにより、ロータ250を製造することができる。その他、磁性粉体を焼結することにより、ロータを製造してもよい。
【0041】
図4に示すように、第1モータ部3は、ステータ31と、支持プレート38と、を有する。ステータ31は、X1側とX2側とに一対に配置される。ステータ31は、ティース33にコイル240(
図5参照)が巻回されることにより形成される。
【0042】
図4に示すように、支持プレート38は、X1側とX2側とにそれぞれ設けられる。支持プレート38は、上端フランジ38aと、円弧部38bと、下端フランジ38cと、を備える。円弧部38bの内周面に、ステータ31が固定される。ステータ31の内周側には、前述したロータ250が対向して配置される。
【0043】
図5に示すように、第2モータ部4は、ステータ41と、支持プレート37と、を有する。ステータ41は、中心軸AX2を挟んでX1側とX2側とに一対に配置される。換言すると、中心軸AX2を含む断面において、X1側のステータ41とX2側のステータ41とは、中心軸AX2を通ってZ方向に延びる直線に対して対称である。
【0044】
ステータ41は、ティース43と、コイル240と、を有する。コイル240がティース43に巻回されることにより、ステータ41が形成される。
【0045】
支持プレート37は、X1側とX2側とにそれぞれ設けられる。支持プレート37は、上端フランジ37aと、円弧部37bと、下端フランジ37cと、を備える。円弧部37bの内周面に、ステータ41が固定される。ステータ41の内周側には、前述したロータ250が対向して配置される。
【0046】
次に、第1構造体110と第2構造体120との支持構造を説明する。
図4に示すように、第1ハウジング21の湾曲部21c、21dにおけるそれぞれの頂部には、突起部(第1部位)211gが設けられる。換言すると、湾曲部21c、21dにおけるY方向の中央に位置する頂部から突起部(第1部位)211gが上側(Z1側)に向けて突出している。
図7に拡大して示されるように、突起部211gは、プレート形状を有し、第1貫通孔211hが設けられる。第1貫通孔211hは、上下方向(Z方向)に細長い略楕円形状を有する。第1貫通孔211hは、異形孔である。
【0047】
また、
図5および
図7に示すように、第2ハウジング22における湾曲部221b、221cにおけるそれぞれの頂部には、突出部(第2部位)221dが設けられる。換言すると、湾曲部221b、221cおけるY方向の中央に位置する頂部には、突出部(第2部位)221dが上側(Z1側)に向けて突出している。突出部221dは、X方向から見て上側に凸の半円形状を有し、第2貫通孔221eが設けられる。第2貫通孔221eは、X方向から見て円形である。第2貫通孔221eは、円形孔である。これらの突起部(第1部位)211gおよび突出部(第2部位)221dは、第1ハウジング21および第2ハウジング22におけるY方向の中央に設けられる。また、
図6に示すように、ウォームホイール11のホイール歯部11bとウォームシャフト12のシャフト歯部12bとが噛み合う噛合部分200も、第1ハウジング21および第2ハウジング22におけるY方向の中央に設けられる。従って、Z方向(上下方向、第3方向)から見た場合に、噛合部分200およびピン300は、X方向(第1方向)に並ぶ。
【0048】
そして、
図6に示すように、第2構造体120と第1構造体110とのZ方向(上下方向)の隙間は、Y1側とY2側とで略同一である。具体的には、Y1側の端部およびY2側の端部において、第2構造体120の下端221gは、第2開口部224の周縁部224aであり、第1構造体110の上端221fは、第1開口部213の周縁部213aである。
図6に示すように、Y1側の端部およびY2側の端部において、第2構造体120の下端221gと、第1構造体110の上端221fとの間には、Z方向(上下方向)に距離D1だけ離隔する隙間がそれぞれ設けられる。このように、ウォームシャフト12が回転していない状態では、第2構造体120と第1構造体110とのZ方向(上下方向)の隙間は、Y1側の端部とY2側の端部とで略同一の距離D1を有する。
【0049】
ここで、
図7および
図8に示すように、ピン300は、円柱部301と、異形柱部302と、フランジ部303と、を有する。円柱部301は、第1中心Z10を有し、第1中心Z10に沿って延びる。円柱部301は、第1中心Z10の周方向に沿って延びる円筒状の外周面301aを有する。円柱部301の先端面301bは、第1中心Z10に直交する平坦面である。異形柱部302は、第2中心Z20を有し、第2中心Z20に沿って延びる。第2中心Z20は、第1中心Z10と同一軸心上に位置する。異形柱部302は、円柱部301に対してX2側に隣接する。異形柱部302は、Y方向およびZ方向の径が円柱部301よりも大きい。異形柱部302は、上下方向(Z方向)に細長い略楕円柱である。異形柱部302におけるX1側に位置する環状の先端面302bが露出する。先端面302bは、第2中心Z20に直交する平坦面である。フランジ部303は、異形柱部302に対してX2側に隣接する。フランジ部303は、Y方向およびZ方向の径が異形柱部302よりも大きい。フランジ部303は、円筒面303aを有する円柱である。フランジ部303におけるX1側に位置する環状の先端面303bが露出する。先端面303bは、第1中心Z10および第2中心Z20に直交する平坦面である。
【0050】
図7に示すように、ピン300における円柱部301は、突出部221dの第2貫通孔221eに嵌まる。第2貫通孔221eは、円形孔である。このため、円柱部301が第2貫通孔221eに嵌まった状態において、円柱部301と第2貫通孔221eとは、相対的に回転可能である。ピン300における異形柱部302は、突起部(第1部位)211gの第1貫通孔211hに嵌まる。第1貫通孔211hは、異形孔である。このため、異形柱部302が第1貫通孔211hに嵌まった状態において、異形柱部302は第1貫通孔211hに対して回転不能である。
【0051】
また、前述したように、ピン300における第2中心Z20は第1中心Z10と同一軸心上に位置する。従って、ピン300が、第1貫通孔211hおよび第2貫通孔221eに嵌まった状態において、第1貫通孔211hにおけるZ方向の中心と第2貫通孔221eにおける中心とは、同一軸心上に配置される。また、
図5に示すように、X2側の突起部211gおよび突出部221dについても、第1貫通孔211hおよび第2貫通孔221eが設けられ、第1貫通孔211hおよび第2貫通孔221eにピン300が嵌まっている。従って、第2構造体120と第1構造体110との支持構造は、X2側についても、X1側と同じである。
【0052】
次に、
図9および
図10を参照して、第1構造体110に対する第2構造体120の揺動の態様を説明する。第2構造体120と第1構造体110との間に弾性部材5が挟まれた状態で、突起部(第1部位)211gと突出部(第2部位)221dとがピン300を介して揺動可能に連結されることにより、第2構造体120が第1構造体110に組み付けられる。このとき、弾性部材5は、第2構造体120と第1構造体110とによって弾性変形可能であり、第2構造体120は第1構造体110に対して、いわゆるフローティング状態になっている。第1構造体110に対する第2構造体120の揺動中心は、第1中心Z10(第2中心Z20)である。
【0053】
ここで、
図9に示すようにX1側からX2側に向けてウォーム減速機付き電動機100を見た場合に、ウォームホイール11とウォームシャフト12との噛み合いによって、第2構造体120に対して反時計回り方向に揺動する力が加わる場合がある。この場合、第2構造体120におけるY2側の部位は、矢印P1で示すように上側(Z1側)に向けて移動し、第2構造体120におけるY1側の部位は、矢印P2で示すように下側(Z2側)に向けて移動する。すると、Y2側においては、第1構造体110の上端221fと第2構造体120の下端221gとが、上下方向に距離D2だけ離隔する。また、Y1側においては、第1構造体110の上端221fと第2構造体120の下端221gとが当接する。
【0054】
また、
図10に示すようにX1側からX2側に向けてウォーム減速機付き電動機100を見た場合に、ウォームホイール11とウォームシャフト12との噛み合いによって、第2構造体120に対して時計回り方向に揺動する力が加わる場合がある。この場合、第2構造体120におけるY2側の部位は、矢印P3で示すように下側(Z2側)に向けて移動し、第2構造体120におけるY1側の部位は、矢印P4で示すように上側(Z1側)に向けて移動する。すると、Y1側においては、第1構造体110の上端221fと第2構造体120の下端221gとが、上下方向に距離D3だけ離隔する。また、Y2側においては、第1構造体110の上端221fと第2構造体120の下端221gとが当接する。
【0055】
次いで、ピンの他の態様について説明する。
図11は、ピンの他の例を示す斜視図である。
図12は、ピンのさらに他の例を示す斜視図である。
図11に示すピン310は、
図8に示すピン300に対して、円柱部301の上下方向(Z方向)の位置が異なる。つまり、ピン310において、円柱部301は、第1中心Z11を有し、第1中心Z11に沿って延びる。異形柱部302は、Z方向の中央を通る第2中心Z21を有し、第2中心Z21に沿って延びる。第1中心Z11は、第2中心Z21よりもZ1側(上側、第3方向の一方側)に距離D10ずれて位置する。換言すると、第2中心Z21は、第1中心Z11よりもZ2側(下側)に距離D10ずれて位置する。
【0056】
図12に示すピン320は、
図8に示すピン300に対して、円柱部301の上下方向(Z方向)の位置が異なる。つまり、ピン320において、円柱部301は、第1中心Z12を有し、第1中心Z12に沿って延びる。異形柱部302は、Z方向の中央を通る第2中心Z22を有し、第2中心Z22に沿って延びる。第1中心Z12は、第2中心Z22よりもZ2側(下側、第3方向の他方側)に距離D20ずれて位置する。換言すると、第2中心Z22は、第1中心Z12よりもZ1側(上側)に距離D20ずれて位置する。
【0057】
以上説明したように、ウォーム減速機付き電動機100は、X方向(第1方向)に延びる中心軸AX1の軸回り方向に回転可能なウォームホイール11と、ウォームホイール11を収容し、且つ、ウォームホイール11を回転可能に支持する第1ハウジング21と、Y方向(第2方向)に延びる中心軸AX2の軸回り方向に回転可能で、且つ、ウォームホイール11に噛み合うウォームシャフト12と、ウォームシャフト12を収容し、且つ、ウォームシャフト12を回転可能に支持する第2ハウジング22と、第1ハウジング21と第2ハウジング22との間に配置される弾性部材5と、第1ハウジング21における突起部211g(第1部位)に対して第2ハウジング22における突出部221d(第2部位)を揺動可能に連結するピン300、310、320と、を備える。Z方向(第3方向)から見た場合に、ウォームホイール11およびウォームシャフト12の噛合部分200と、ピン300、310、320とは、X方向(第1方向)に並ぶ。
【0058】
前述した特許文献1の電動パワーステアリング装置では、ウォームホイールが収容される第1ハウジングの周縁部と、ウォームシャフトが収容される第2ハウジングの周縁部と、が直接固定され、第2ハウジングは、第1ハウジングに対して移動が阻止された状態となる。従って、特許文献1の電動パワーステアリング装置では、ウォームシャフトとウォームホイールとのバックラッシュやそれぞれの歯同士の干渉音を抑制することができない。
【0059】
これに対して、本実施形態に係るウォーム減速機付き電動機100においては、第2ハウジング22における突出部221d(第2部位)は、第1ハウジング21における突起部211g(第1部位)に対してピン300、310、320を介して揺動可能に連結される。さらに、第1ハウジング21と第2ハウジング22との間には、弾性部材が挟まれるため、第2ハウジング22は第1ハウジング21に対して、いわゆるフローティング状態になっている。
【0060】
ウォームシャフト12のシャフト歯部12bがウォームホイール11のホイール歯部11bに噛み合った状態でウォームシャフト12を回転させると、シャフト歯部12bとホイール歯部11bとの中心軸同士の距離(バックラッシュ)が常に変動する。そして、例えば、ウォームシャフト12の回転によってシャフト歯部12bがホイール歯部11bからY2側に向かう力を受ける場合には、
図9に示すように、ウォームシャフト12において、中心軸AX2よりも下側の部分がY2側に向かう力を受ける。そして、ウォームシャフト12における中心軸AX2の軸方向の中央を中心Cとすると、当該中心Cを基準として、反時計回り方向の力が加わる態様となる。すると、前述のように、ピン300、310、320を中心として第2ハウジング22が反時計回り方向に揺動する。
【0061】
このように、シャフト歯部12bとホイール歯部11bとの中心軸同士の距離(バックラッシュ)が変動し、ウォームシャフト12に対して時計回り方向または反時計回り方向の力が加わる場合に、当該力に抗することなく当該力に従って第2ハウジング22を第1ハウジング21に対して揺動させる。これにより、シャフト歯部12bとホイール歯部11bとの中心軸同士の距離(バックラッシュ)をより均一にすることができ、ウォームホイール11とウォームシャフト12との干渉音をより低減することが可能となる。
【0062】
第1ハウジング21における突起部211g(第1部位)は、ウォームホイール11を挟んでX方向(第1方向)のX1側(一方側)とX2側(他方側)とにそれぞれ設けられ、且つ、Z方向(第3方向)に突出する。第2ハウジング22における突出部221d(第2部位)は、ウォームシャフト12を挟んでX方向(第1方向)のX1側(一方側)とX2側(他方側)とにそれぞれ設けられ、且つ、Z方向(第3方向)に突出する。
【0063】
従って、突起部211g(第1部位)および突出部221d(第2部位)を、X方向(第1方向)の片側のみに設ける場合よりも、第2ハウジング22を、より安定して第1ハウジング21に揺動可能に支持することができる。これにより、ウォームホイール11とウォームシャフト12との干渉音をより低減することが可能となる。
【0064】
第1部位である突起部211gには、ピン300、310、320が嵌まる第1貫通孔211hが設けられ、第2部位である突出部221dには、ピン300、310、320が嵌まる第2貫通孔221eが設けられる。第2貫通孔221eは、ピン300、310、320が貫通孔に対して回転可能な円形孔である。第1貫通孔211hは、ピン300、310、320が貫通孔に対して回転不能な異形孔である。ピン300、310、320は、円形孔に嵌まる円柱部301と、異形孔に嵌まる異形柱部302と、を有する。
【0065】
これによれば、簡単な構造を有するピン300、310、320を用いて、第2ハウジング22を第1ハウジング21に揺動可能に支持することができる。以下に、具体的に説明する。ピン300、310、320は、異形柱部302および円柱部301を有する。突起部211gの第1貫通孔211hは異形孔であり、当該異形孔には、異形柱部302が嵌まり、突出部221dの第2貫通孔221eは円形孔であり、当該円形孔には、円柱部301が嵌まる。従って、ピン300、310、320を第1貫通孔211hおよび第2貫通孔221eに嵌めることにより、第2ハウジング22を第1ハウジング21に揺動可能に支持することができる。
【0066】
ピン310、320が第1貫通孔211hおよび第2貫通孔221eに嵌まった状態において、円柱部301における第1中心Z11、Z12は、第2中心Z21、Z22に対して、Z方向(第3方向)のZ1側(上側、一方側)またはZ2側(下側、他方側)にずれて配置される。
【0067】
具体的には、ピン310においては、第1中心Z11が、第2中心Z21に対して、Z方向(第3方向)のZ1側(上側、一方側)にずれている。従って、ピン310が第1貫通孔211hおよび第2貫通孔221eに嵌まった状態では、ピン300が第1貫通孔211hおよび第2貫通孔221eに嵌まった状態よりも、第1ハウジング21に対する第2ハウジング22のZ方向(第3方向)の相対位置がZ1側(上側)に配置される。これにより、シャフト歯部12bとホイール歯部11bとの中心軸同士の距離(バックラッシュ)が小さくなる。このように、シャフト歯部12bとホイール歯部11bとの中心軸同士の距離(バックラッシュ)が大きい場合には、ピン310を適用して、中心軸同士の距離(バックラッシュ)を小さくすることができる。
【0068】
また、ピン320によって、第2ハウジング22がより下側の位置で揺動可能に支持されるため、シャフト歯部12bとホイール歯部11bとの中心軸同士の距離(バックラッシュ)が小さい場合には、ピン320を適用して、中心軸同士の距離(バックラッシュ)を大きくすることができる。
【0069】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されず、種々の電動パワーステアリング(EPS(Electric Power Steering)以下、EPSと称する)装置の減速機構、および所謂ステアバイワイヤシステムにおける操舵反力装置の減速機構、などに適用が可能である。EPS装置としては、例えば、ステアリングコラム内の所謂コラムタイプのEPS装置、所謂ピニオンタイプのEPS装置、所謂デュアルピニオンタイプのEPS装置などがある。
【0070】
前記コラムタイプのEPS装置は、ステアリングコラムの内側に回転自在に支持されたステアリングシャフトに対して補助動力を付与する。前記ピニオンタイプのEPS装置は、ステアリングギヤユニットの操舵ピニオン軸に補助動力を付与する。前記デュアルピニオンタイプのEPS装置は、ステアリングギヤユニットに設けられた、操舵ピニオン軸とは別のアシストピニオン軸に補助動力を付与する。また、前記ステアバイワイヤシステムにおける操舵反力装置の減速機構は、ステアリングギヤユニットとは機構的に連結しないステアリングコラムの内側に回転自在に支持されたステアリングシャフトに車両の運行状況に応じて操舵反力を付与する。
【0071】
なお、前記ステアバイワイヤシステムにおける操舵反力装置の減速機構において、付与すべき反力はEPS装置における補助動力に対して比較的小さく設けられるため、本願の解決すべき課題である、より小型化されたウォーム減速機付き電動機としては更に効果が望める。
【符号の説明】
【0072】
1 ウォーム減速機
3 第1モータ部
4 第2モータ部
5 弾性部材
11 ウォームホイール(ウォーム減速機)
11a 芯金
11b ホイール歯部
12 ウォームシャフト(ウォーム減速機)
12a 軸部(シャフト部)
12b シャフト歯部
12c 大径部
12d テーパー部
21 第1ハウジング
21a 上面
21b 平坦部
21c、21d 湾曲部
22 第2ハウジング
23 カバー
31 ステータ
33 ティース
37 支持プレート
37a 上端フランジ
37b 円弧部
37c 下端フランジ
38 支持プレート
38a 上端フランジ
38b 円弧部
38c 下端フランジ
41 ステータ
43 ティース
80 電動パワーステアリング装置
81 ステアリングホイール
82 第1ステアリングシャフト
82a 入力軸
82b 出力軸
83 操舵力アシスト機構
84 第1ユニバーサルジョイント
85 第2ステアリングシャフト(ステアリングシャフト)
86 第2ユニバーサルジョイント
87 第3ステアリングシャフト
88 ステアリングギヤ
88a ピニオン
88b ラック
89 タイロッド
90 ECU(Electronic Control Unit)
94 トルクセンサ
95 車速センサ
100 ウォーム減速機付き電動機
110 第1構造体
120 第2構造体
130 軸受
200 噛合部分
210 凹溝
211 本体部
211a 第1周面部
211b 後壁面部
211c 第2周面部
211d フランジ
211e 円盤部
211f スプライン軸
211g 突起部(第1部位)
211h 第1貫通孔
212 蓋体部
212a 前面部
212b 筒状部
212c プレート部
212d 突設部
213 第1開口部
213a 周縁部
221 下枠部
221a 平坦部
221b、221c 湾曲部
221d 突出部(第2部位)
221e 第2貫通孔
221f 上端
221g 下端
222 軸受固定部
223 フランジ
224 第2開口部
224a 周縁部
240 コイル
250 ロータ
300、310、320 ピン
301 円柱部
301a 外周面
301b 先端面
302 異形柱部
303 フランジ部
303a 円筒面
303b 先端面
AX1、AX2 中心軸
Z10 第1中心
Z20 第2中心