(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038504
(43)【公開日】2023-03-17
(54)【発明の名称】高炉の操業方法及びバイオマス炭の粉砕物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21B 5/00 20060101AFI20230310BHJP
【FI】
C21B5/00 319
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021145270
(22)【出願日】2021-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(72)【発明者】
【氏名】中野 薫
【テーマコード(参考)】
4K012
【Fターム(参考)】
4K012BE01
4K012BE09
(57)【要約】
【課題】石炭由来の炭素消費量を低減することを指向した高炉操業方法において、バイオマスを効率的に利用する。
【解決手段】バイオマスの乾留物であるバイオマス炭を粉砕した粉砕物を羽口から吹き込みながら鉄原料を還元する高炉の操業方法において、バイオマス炭の低位発熱量を管理指標として、前記羽口から吹き込むべきバイオマス炭を決定することを特徴とする高炉の操業方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスの乾留物であるバイオマス炭を粉砕した粉砕物を羽口から吹き込みながら鉄原料を還元する高炉の操業方法において、
バイオマス炭の低位発熱量を管理指標として、前記羽口から吹き込むべきバイオマス炭を決定することを特徴とする高炉の操業方法。
【請求項2】
予め炭種が同じで、かつ、乾留条件が互いに異なる複数のバイオマス炭についてそれぞれ低位発熱量に関するデータを取得するとともに、これらのバイオマス炭の中から低位発熱量が最も大きいバイオマス炭を特定する特定ステップを有し、
前記特定ステップで特定したバイオマス炭の製造条件にて製造されたバイオマス炭を前記羽口から吹き込むべきバイオマス炭として決定することを特徴とする請求項1に記載の高炉の操業方法。
【請求項3】
予め炭種が互いに異なる複数のバイオマス炭についてそれぞれ低位発熱量に関するデータを取得するとともに、これらのバイオマス炭の中から低位発熱量が最も大きいバイオマス炭の炭種を、羽口から吹き込むべきバイオマス炭の炭種として決定することを特徴とする請求項1に記載の高炉の操業方法。
【請求項4】
予め炭種が同じで、かつ、乾留条件が互いに異なる複数のバイオマス炭についてそれぞれ低位発熱量に関するデータを取得する第1取得ステップと、
予め炭種が互いに異なる複数のバイオマス炭についてそれぞれ低位発熱量に関するデータを取得する第2取得ステップと、を有し、
前記第1及び第2ステップにおいて低位発熱量を取得したバイオマス炭の中で最も低位発熱量が高いバイオマス炭を適正バイオマス炭と定義したとき、
前記適正バイオマス炭が前記第1取得ステップでデータ取得したバイオマス炭である場合には、このバイオマス炭の製造条件にて製造されたバイオマス炭を前記羽口から吹き込むべきバイオマス炭として決定し、
前記適正バイオマス炭が前記第2取得ステップでデータ取得したバイオマス炭である場合には、このバイオマス炭の炭種を、羽口から吹き込むべきバイオマス炭の炭種として決定することを特徴とする請求項1に記載の高炉の操業方法。
【請求項5】
前記バイオマスは、木質系であることを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか一つに記載の高炉の操業方法。
【請求項6】
高炉の羽口から吹き込まれるバイオマス炭の粉砕物の製造方法であって、
バイオマス炭の低位発熱量を管理指標として設定された製造条件に基づきバイオマスを製造する製造ステップと、
前記製造ステップで得られたバイオマス炭を粉砕する粉砕ステップと、
を有することを特徴とするバイオマス炭の粉砕物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス炭を粉砕した粉砕物を羽口から吹き込みながら鉄原料を還元する高炉の操業方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高炉法では、炉頂から鉱石層を形成するための鉄原料及びコークスを交互に層状に装入しながら、高炉下部の羽口から微粉炭と共に熱風を吹き込むことにより、銑鉄が製造される。コークス及び微粉炭等の炭材は、還元材として使用される。
【0003】
近年、地球温暖化が社会問題となっており、その対策として温室効果ガスの一つである二酸化炭素の排出削減が求められている。上述の通り、高炉法では、炭材を使用して大量の銑鉄を製造するため、二酸化炭素が大量に排出される。そのため、鉄鋼分野では、炭材の使用量を削減することが重要な課題とされている。
【0004】
還元材には、高炉装入物を昇温させる熱源としての役割、及び、炉内の鉄原料を還元する還元材としての役割があり、還元材比(1トンの溶銑を製造するのに必要な還元材の合計質量)を低減するためには炉内の還元効率を向上させる必要がある。
【0005】
鉄原料の炉内における還元反応は様々な反応式で定義されるが、これらの還元反応のうち、コークスとの接触による直接還元反応(反応式:FeO+C→Fe+CO)は大きな吸熱を伴う吸熱反応であることが知られている。したがって、直接還元反応の割合を低下させることが還元材比の低減において重要となる。直接還元反応の割合を低下させることができれば、直接還元反応に要するコークス、及び熱源として使用される還元材の使用量を削減できるからである。
【0006】
還元材比を低減する方法として、羽口から熱風とともに水素系の還元ガス(COGガス、天然ガス、LPGガス、メタンガス、水素ガス)を吹き込むことによって、還元ガス中の水素を利用した水素還元反応を促進して、直接還元反応を低減させる技術が知られている。
【0007】
また、別の方法として、石炭由来の還元材に代えてバイオマスを高炉に装入する方法が提案されている。例えば、特許文献1には、バイオマスを所定の乾留条件(乾留温度:450℃、乾留時間:30分以上)で乾留したバイオマス炭を高炉の羽口から吹き込む方法が開示されている。特許文献2には、バイオマス炭の粉砕物と微粉炭との混合物であって、揮発分濃度が10mass%以上に調整された混合物を高炉の羽口から吹き込む方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011-117075号公報
【特許文献2】特開2011-117074号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Kouji TAKATANI、Takanobu INADA、Yutaka UJISAWA、「Three-dimensional Dynamic Simulator for Blast Furnace」、ISIJ International、Vol.39(1999)、No.1、p.15-22
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
バイオマス炭を効率的に活用して、高炉から排出されるCO2を削減するためには、バイオマス炭の性状を適正化する必要がある。しかしながら、従来は、バイオマス炭の性状と紐付けた高炉での諸元評価がされていなかったため、バイオマスが効率的に利用されているか不明であった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る高炉の操業方法は、(1)バイオマスの乾留物であるバイオマス炭を粉砕した粉砕物を羽口から吹き込みながら鉄原料を還元する高炉の操業方法において、バイオマス炭の低位発熱量を管理指標として、前記羽口から吹き込むべきバイオマス炭を決定することを特徴とする。
【0012】
(2)予め炭種が同じで、かつ、乾留条件が互いに異なる複数のバイオマス炭についてそれぞれ低位発熱量に関するデータを取得するとともに、これらのバイオマス炭の中から低位発熱量が最も大きいバイオマス炭を特定する特定ステップを有し、前記特定ステップで特定したバイオマス炭の製造条件にて製造されたバイオマス炭を前記羽口から吹き込むべきバイオマス炭として決定することを特徴とする上記(1)に記載の高炉の操業方法。
【0013】
(3)予め炭種が互いに異なる複数のバイオマス炭についてそれぞれ低位発熱量に関するデータを取得するとともに、これらのバイオマス炭の中から低位発熱量が最も大きいバイオマス炭の炭種を、羽口から吹き込むべきバイオマス炭の炭種として決定することを特徴とする上記(1)に記載の高炉の操業方法。
【0014】
(4)予め炭種が同じで、かつ、乾留条件が互いに異なる複数のバイオマス炭についてそれぞれ低位発熱量に関するデータを取得する第1取得ステップと、予め炭種が互いに異なる複数のバイオマス炭についてそれぞれ低位発熱量に関するデータを取得する第2取得ステップと、を有し、前記第1及び第2ステップにおいて低位発熱量を取得したバイオマス炭の中で最も低位発熱量が高いバイオマス炭を適正バイオマス炭と定義したとき、前記適正バイオマス炭が前記第1取得ステップでデータ取得したバイオマス炭である場合には、このバイオマス炭の製造条件にて製造されたバイオマス炭を前記羽口から吹き込むべきバイオマス炭として決定し、前記適正バイオマス炭が、前記第2取得ステップでデータ取得したバイオマス炭である場合には、このバイオマス炭の炭種を、羽口から吹き込むべきバイオマス炭の炭種として決定することを特徴とする上記(1)に記載の高炉の操業方法。
【0015】
(5)前記バイオマスは、木質系であることを特徴とする上記(1)乃至(4)のうちいずれか一つに記載の高炉の操業方法。
【0016】
(6)上記課題を解決するために、本発明に係るバイオマス炭の粉砕物の製造方法は、高炉の羽口から吹き込まれるバイオマス炭の粉砕物の製造方法であって、バイオマス炭の低位発熱量を管理指標として設定された製造条件に基づきバイオマスを製造する製造ステップと、前記製造ステップで得られたバイオマス炭を粉砕する粉砕ステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、石炭由来の炭素消費量を低減することを指向した高炉操業方法において、バイオマスを効率的に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】高炉数学モデルを用いて表1のバイオマス炭の置換率と低位発熱量(kcal/kg)との関係を評価した関係図である。
【
図2】高炉数学モデルを用いて表3のバイオマス炭の置換率と低位発熱量(kcal/kg)との関係を評価した関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者は、バイオマス炭の性状(炭素の含有量、水素の含有量、分解熱)に着目し、これらのバイオマス炭の性状と微粉炭炭素置換率(以下、「置換率」という)との関係について、高炉数学モデルを用いて評価した。評価に利用した高炉数学モデルの概要は以下の通りである。
高炉数学モデル:高炉の内部領域を高さ方向、径方向、周方向に分割することで複数のメッシュ(小領域)を規定し、各メッシュの挙動をシミュレーションする(例えば、非特許文献1参照)。
【0020】
(シミュレーションの条件について)
シミュレーションの条件について説明する。表1に示す諸元を基本操業(通常の微粉炭操業)条件とし、高炉羽口から吹き込む微粉炭を完全に停止するとともに、表2に示すバイオマス炭の吹込量を増加させて、コークス比一定条件の下で出銑量、溶銑温度、炉頂温度が基本操業時と同一となるように、送風量、酸素富化率を調整した。シミュレーションは、表2に示す個々のバイオマス炭について実施した。
【表1】
【表2】
ケースC1には、Cの含有量が互いに異なり(58.4~88.4質量%)、Hの含有量、Ashの含有量及び分解熱が互いに等しい複数のバイオマス炭が含まれている。なお、Ashとは灰分のことである。ケースC2には、Cの含有量が互いに異なり(75.0~95.7質量%)、Hの含有量、Ashの含有量及び分解熱が互いに等しい複数のバイオマス炭が含まれている。ケースHには、Hの含有量が互いに異なり(0~6.0質量%)、Cの含有量、Ashの含有量及び分解熱が互いに等しい複数のバイオマス炭が含まれている。ケースAshには、Ashの含有量が互いに異なり(0~15.0質量%)、Cの含有量、Hの含有量及び分解熱が互いに等しい複数のバイオマス炭が含まれている。ケース分解熱HDには、分解熱が互いに異なり(0~400kcal/kg)、Cの含有量、Hの含有量及びAshの含有量が互いに等しい複数のバイオマス炭が含まれている。
【0021】
ベースのバイオマス炭に対して、ある成分の含有率を変化させたときは、その変化代を酸素含有率で調整した。例えば、ベースのバイオマス炭に対して、炭素を10mass%減少させたときの影響を評価する際は、酸素を10mass%増加すると仮定した。
【0022】
要約すると、「通常の微粉炭操業において、微粉炭に代えてバイオマス炭を吹き込んだときに、通常の微粉炭操業と同じレベルの溶銑を製造するためには、バイオマス炭の吹込量をどの程度に設定すればよいか」を熱バランス計算によりシミュレートする処理を高炉数学モデルに実行させた。そして、この熱バランス計算の計算結果に基づき、「置換率」を以下のように算出した。
【0023】
(置換率について)
バイオマス炭を羽口から吹き込む高炉操業では、石炭由来の炭素消費量を低減することが目的であるため、バイオマス炭単位吹込量当たりの微粉炭由来の炭素低減量を評価指標とする必要がある。本実施形態では、この評価指標として「置換率」を使用した。置換率の定義は、以下の通りである。
置換率=(バイオマス炭使用による微粉炭削減量×微粉炭中の炭素割合)/バイオマス炭使用量・・・・・・・・式(1)
「バイオマス炭使用による微粉炭削減量」の単位は「kg/pig-ton」であり、溶銑1トンを製造する際に削減した微粉炭の削減量である。「バイオマス炭使用量」の単位も「kg/pig-ton」であり、溶銑を1トン製造するのに使用したバイオマス炭の使用量である。「微粉炭中の炭素割合」の単位は「kg/ton」であり、1トンの微粉炭に含まれる炭素の重さ(kg)である。
【0024】
(置換率と低位発熱量の関係について)
本発明者は、上述のシミュレーションに基づき算出された個々のバイオマス炭の置換率について、低位発熱量(kcal/kg)との関係を評価した。低位発熱量(kcal/kg)とは、燃料が完全燃焼(炭素が二酸化炭素に変化し、水素が水蒸気に変化)したときの発熱量である。本実施形態では、表2のバイオマス炭の性状データに基づき、以下の式(2)から低位発熱量(kcal/kg)を推算した。
低位発熱量(kcal/kg)=78.375×バイオマス炭中の炭素量(mass%)+289.25×バイオマス炭中の水素量(mass%)-分解熱(kcal/kg)
・・・・・式(2)
なお、「78.375」及び「289.25」は熱力学的定数である。
【0025】
評価結果を
図1に示した。
図1の縦軸は、上述の高炉数学モデルにより求められる置換率である。
図1の横軸は、式(2)に基づき推算される低位発熱量(kcal/kg)である。各ケースに含まれるバイオマス炭毎に、置換率及び低位発熱量(kcal/kg)を
図1にプロットした。
【0026】
プロットしたデータから、最小二乗法によって回帰直線(1次関数)を求め、相関係数を求めた。相関係数は、約0.98であり、強い相関が認められた。以上のシミュレーションから、低位発熱量(kcal/kg)が高位になるほど、置換率が高くなることがわかった。つまり、石炭由来の炭素消費量を低減することを指向した高炉操業方法では、低位発熱量(kcal/kg)が高いバイオマス炭を吹き込むことによりバイオマスを効率的に利用できることがわかった。
なお、本発明者は、高位発熱量と置換率とにも相関関係があることを別途確認している。ただし、高位発熱量の場合、低位発熱量よりも相関係数が小さいため、本発明では、低位発熱量(kcal/kg)を管理指標とした。
【0027】
以上の考察結果に基づき、本発明者は、バイオマス炭を粉砕した粉砕物を補助還元材として羽口から吹き込む高炉の操業方法において、「バイオマス炭の低位発熱量(kcal/kg)を管理指標として、羽口から吹き込むべきバイオマス炭を決定すること」を知見した。なお、当該補助還元材は、微粉炭とともに吹き込んでもよいし(微粉炭の一部代替)、微粉炭の代わり(微粉炭の全量代替)に吹き込んでもよい。
【0028】
「バイオマス炭の低位発熱量(kcal/kg)を管理指標として、羽口から吹き込むべきバイオマス炭を決定する決定方法」について説明する。
(決定方法1)
決定方法1では、予め炭種が同じで、かつ、乾留条件が互いに異なる複数のバイオマス炭についてそれぞれ低位発熱量(kcal/kg)に関するデータを取得するとともに、これらのバイオマス炭の中から低位発熱量(kcal/kg)が最も大きいバイオマス炭を特定する特定ステップを実施し、この特定ステップで特定したバイオマス炭の製造条件にて製造されたバイオマス炭を羽口から吹き込むべきバイオマス炭として決定する。低位発熱量(kcal/kg)は、既述の通りバイオマス炭の性状に基づき、式(2)から推算することができる。
【0029】
ただし、低位発熱量の推算方法は、これに限るものではなく、JIS M 8814に準拠した方法によって推算してもよい。具体的には、バイオマス炭の低位発熱量をH1(MJ/kg)としたとき、JIS M 8814に準拠してバイオマス炭の高位発熱量Hhを測定し、測定された高位発熱量Hhを式(3)に代入することにより低位発熱量H1(MJ/kg)を推算してもよい。
H1=Hh-r×(9H+w)・・・・式(3)
ただし、式(3)において、Hは燃焼前の試料中の水素含有量(mass%)であり、wは燃焼前の試料中の水分含有量(mass%)であり、rは水蒸気の凝縮潜熱(MJ/kg)である。
【0030】
「特定ステップで特定したバイオマス炭の製造条件にて製造されたバイオマス炭を羽口から吹き込むべきバイオマス炭として決定する」とは、特定ステップで特定したバイオマス炭と同一の製造条件で製造されたバイオマス炭を羽口から吹き込むことを意味する。同一の製造条件とは、バイオマス及び乾留条件が同一であることを意味する。
【0031】
バイオマスには、農業系、林業系、畜産系、水産系、廃棄物系等の熱分解して炭化物を生成するあらゆるバイオマスが含まれる。有効発熱量の高いバイオマスを用いることが好ましく、木質系バイオマスを用いることが好ましい。木質系バイオマスとしては、パルプ黒液、チップダスト等の製紙副産物、樹皮、のこ屑等の製材副産物、枝、葉、梢、端尺材等の林地残材、スギ、ヒノキ、マツ類等の除間伐材、食用菌類の廃ホダ木等の特用林産からのもの、シイ、コナラ、マツ等の薪炭林、ヤナギ、ポプラ、ユーカリ、マツ等の短伐期林業等の林業系バイオマスや、市町村の街路樹、個人宅の庭木等の剪定枝条等の一般廃棄物や、国や県の街路樹、企業の庭木等の剪定枝条、建設・建築廃材等の産業廃棄物等が挙げられる。農業系バイオマスに分類される、廃棄物・副産物を発生源とする籾殻、麦わら、稲わら、サトウキビカス、パームヤシ等や、エネルギー作物を発生源とする米糠、菜種、大豆等の農業系バイオマスの一部も木質系バイオマスとして好適に用いることができる。
【0032】
バイオマスの乾留方式には、通常のバッチ式、ロータリーキルン式、竪型炉方式等を用いることができる。バイオマスを乾留したときに発生した乾留ガスは、乾留時の熱源として用いることができる。ただし、乾留ガス以外の重油、プロパン等の燃料ガスを燃焼させた加熱ガスを熱源としてもよい。
【0033】
製造条件に含まれる乾留条件の設定は、乾留温度の設定であってもよい。なお、乾留温度とは、炉の最終到達温度のことである。例えば、パームヤシを乾留したバイオマス(以下、PKS炭ともいう)を羽口から吹き込む場合、以下の(A)~(C)の手順にしたがって、パームヤシの乾留温度を設定することができる。
(A)乾留温度を変えながらパームヤシを乾留して、複数のPKS炭を製造する。
(B)各PKS炭の性状(炭素量(mass%)、水素量(mass%)、分解熱(kcal/kg)等)を特定した後、低位発熱量(kcal/kg)を推算し、低位発熱量(kcal/kg)が最も大きいPKS炭を特定する。
(C)(B)で特定したPKS炭を製造したときの乾留温度を、パームヤシの乾留温度(以下、適正乾留温度ともいう)に設定する。
なお、乾留条件として乾留時間を用いることもできる。
【0034】
適正乾留温度にて乾留されたPKS炭は、粉砕工程に供され、粉砕物として羽口から吹き込まれる。これにより、石炭由来の炭素消費量を低減することを指向した高炉操業方法において、パームヤシ等のバイオマスを効率的に利用することができる。粉砕方法は特に限定しないが、例えばローラミルを用いることができる。
【0035】
(決定方法2)
決定方法2では、予め炭種が互いに異なる複数のバイオマス炭についてそれぞれ低位発熱量(kcal/kg)に関するデータを取得するとともに、これらのバイオマス炭の中から低位発熱量(kcal/kg)が最も大きいバイオマス炭の炭種を、羽口から吹き込むべきバイオマス炭の炭種として決定する。
決定方法2は、市販のバイオマス炭を補助還元材として用いる場合に実施される。炭種が互いに異なる複数のバイオマス炭についてそれぞれサンプルを入手する。入手したサンプルの性状(炭素量(mass%)、水素量(mass%)、分解熱(kcal/kg)等)を個々特定して、低位発熱量(kcal/kg)を推算するとともに、この推算結果に基づき、低位発熱量(kcal/kg)が最も大きいバイオマス炭を特定する。
【0036】
そして、この特定したバイオマス炭の炭種を羽口から吹き込むべきバイオマス炭の炭種として決定する。決定した炭種のバイオマス炭を新たに入手し、粉砕物とした後、羽口から吹き込む。これにより、石炭由来の炭素消費量を低減することを指向した高炉操業方法において、市販のバイオマス等を効率的に利用することができる。なお、粉砕方法は、既述の通り特に限定しないが、例えばローラミルを用いることができる。
【0037】
(決定方法3)
決定方法1及び決定方法2において低位発熱量(kcal/kg)を取得したバイオマス炭の中で最も低位発熱量(kcal/kg)が大きいバイオマス炭を特定する。なお、この特定したバイオマス炭を適正バイオマス炭と定義する。適正バイオマス炭が決定方法1のバイオマス炭である場合には、このバイオマス炭の製造条件にて製造されたバイオマス炭を羽口から吹き込むべきバイオマス炭として決定する。適正バイオマス炭が決定方法2のバイオマス炭である場合には、このバイオマス炭の炭種を、羽口から吹き込むべきバイオマス炭の炭種として決定する。
【0038】
決定方法は、決定方法1~3に限るものではない。例えば、乾留条件が既知のバイオマス炭Aと、乾留条件が不明な市販バイマス炭Bとの低位発熱量(kcal/kg)を比較し(つまり、比較するバイオマス炭が2つのケース)、低位発熱量(kcal/kg)が高い適正バイオマス炭を決定する。この適正バイオマス炭がバイオマス炭Aである場合には、バイマス炭Aの製造条件にて製造されたバイオマス炭を羽口から吹き込むべきバイオマス炭として決定する。適正バイオマス炭が市販バイオマス炭Bである場合には、市販バイマス炭Bを羽口から吹き込むべきバイオマス炭の炭種として決定する。
【0039】
(実施例)
以下、実施例を示して、本発明について具体的に説明する。実施形態で説明した方法にしたがって、表3に示すバイオマス炭について置換率と低位発熱量(kcal/kg)との関係を求め、
図2にプロットした。
図2は、
図1に対応している。,
C、H、N、Oの含有量は元素分析に基づき算出し、灰分の含有量は工業分析に基づき算出した。高位発熱量を測定し、元素分析結果をもとに完全燃焼熱を計算し、高位発熱量との差を分解熱として求めた。なお、算出した分解熱が負の場合、分解熱は0とした。
【表3】
試料No1は微粉炭である。試料No2~4はパームヤシを乾留したPKS炭(バイオマス炭)であり、No2のPKS炭は乾留温度を500℃、No3のPKS炭は乾留温度を700℃、No4のPKS炭は乾留温度を900℃に設定したものである。試料No5~7は市販されているバイオマス炭である(乾留温度不明)。乾留炉として、ロータリーキルンを使用した。
【0040】
試料No2~4を比較参照して、PKS炭(500℃乾留)、PKS炭(700℃乾留)、PKS炭(900℃乾留)の順に低位発熱量(kcal/kg)が高くなった。つまり、乾留温度が最も低いPKS炭(500℃乾留)の低位発熱量(kcal/kg)が一番高くなった。また、
図2から、PKS炭(500℃乾留)の置換率が最も高くなった。
【0041】
以上の実験結果から、予め乾留温度が互いに異なる複数のPKS炭のそれぞれについて低位発熱量(kcal/kg)を取得しておき、これらのPKS炭の中から低位発熱量(kcal/kg)が最も高いPKS炭を製造したときの乾留温度(500℃)にてパームヤシを乾留することにより、置換率が高いPKS炭を製造できることがわかった(決定方法1に対応する実施例)。
【0042】
試料No5~7を比較参照して、バイオマス炭1、バイオマス炭3、バイオマス炭2の順に低位発熱量(kcal/kg)が高くなった。また、
図2から、バイオマス炭1の置換率が最も高くなった。
【0043】
以上の実験結果から、予め炭種が異なる市販バイオマス炭のそれぞれについて低位発熱量(kcal/kg)を取得しておき、これらの市販バイオマス炭の中から低位発熱量(kcal/kg)が最も高い市販バイオマス炭を、羽口から吹き込むべきバイオマス炭の炭種として決定することにより、置換率が高い市販バイオマス炭を羽口から吹き込めることがわかった(決定方法2に対応する実施例)。
【0044】
試料No2~7を比較参照して、バイオマス炭1の低位発熱量(kcal/kg)が最も高かった。以上の実験結果から、決定方法1及び決定方法2の中で最も低位発熱量(kcal/kg)が大きいバイオマス炭1を、羽口から吹き込むべきバイオマス炭の炭種として決定することにより、置換率が高い市販バイオマス炭を羽口から吹き込めることがわかった(決定方法3に対応する実施例)。