(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038519
(43)【公開日】2023-03-17
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/587 20100101AFI20230310BHJP
C01B 32/05 20170101ALI20230310BHJP
【FI】
H01M4/587
C01B32/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021145291
(22)【出願日】2021-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000219576
【氏名又は名称】東海カーボン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 哲
【テーマコード(参考)】
4G146
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB01
4G146AC02A
4G146AC02B
4G146AC07A
4G146AC07B
4G146AC22B
4G146AC30B
4G146AD17
4G146AD23
4G146AD25
4G146BA03
4G146BA18
4G146BA46
4G146BB07
4G146BC33A
4G146BC33B
4G146BC34A
4G146BC35A
4G146BC35B
4G146BC36A
5H050AA02
5H050BA17
5H050CB07
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】炭素材料からなり且つ中空構造を有し、高速充放電特性に優れるリチウムイオン二次電池用負極材の新規な製造方法を提供すること。
【解決手段】DBP吸油量が20~90ml/100gであり且つ算術平均粒子径が20~400nmであるカーボンブラック粒子100質量部と、10~50質量部の熱硬化性樹脂と、100~300質量部の分散媒と、を含有する原料分散液を調製する分散液調製工程と、該原料分散液を100~300℃でスプレードライ法により乾燥させて、粒径が5~30μmのスプレードライ物を得るスプレードライ工程と、該スプレードライ物を800~3000℃で焼成して、リチウムイオン二次電池用負極材を得る焼成工程と、を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
DBP吸油量が20~90ml/100gであり且つ算術平均粒子径が20~400nmであるカーボンブラック粒子100質量部と、10~50質量部の熱硬化性樹脂と、100~300質量部の水分散媒と、を含有する原料分散液を調製する分散液調製工程と、
該原料分散液を100~300℃でスプレードライ法により乾燥させて、粒径が5~30μmのスプレードライ物を得るスプレードライ工程と、
該スプレードライ物を800~3000℃で焼成して、リチウムイオン二次電池用負極材を得る焼成工程と、
を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【請求項2】
前記リチウムイオン二次電池用負極材の走査型電子顕微鏡観察(SEM)により求められる円形度が0.850以上であることを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【請求項3】
前記熱硬化性樹脂が、フェノール樹脂であることを特徴とする請求項1又は2記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【請求項4】
前記リチウムイオン二次電池用負極材の平均粒子径(D50)が5.0~30.0μmであることを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【請求項5】
前記リチウムイオン二次電池用負極材のBET比表面積が3.00~7.00m2/gであることを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【請求項6】
前記リチウムイオン二次電池用負極材の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像において、前記リチウムイオン二次電池用負極材中の中空粒子の輪郭の内側全体の面積に対する前記空洞の面積の割合が、30~60%であることを特徴とする請求項1乃至5いずれか1項記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【請求項7】
前記リチウムイオン二次電池用負極材の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を画像解析して得られる下記粒子密度B(g/cm3)に対する前記リチウムイオン二次電池用負極材を水銀ポロシ測定して得られる下記粒子密度A(g/cm3)の比(A/B)が0.40~0.80であることを特徴とする請求項1乃至6いずれか1項記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
<粒子密度A>
粒子密度A(g/cm3)=C/(1-C×D)
(式中、Cは、水銀ポロシ測定においてほぼ加圧しない状態(0.51psia)で測定試料の空隙を水銀で満たすことにより測定される嵩密度(g/cm3)であり、Dは、Cの測定後、更に357psiaまで加圧して空隙を満たすときに必要とされる水銀の測定試料1g当たりの体積(cm3)である。)
<粒子密度B>
粒子密度B(g/cm3)=G(1-E/(E+F))
(式中、EはSEM画像中の中空粒子の外殻層内の空隙の面積であり、Fは、SEM画像中の中空粒子の外殻層内のカーボンブラック粒子の熱処理物及びバインダーの熱処理物の合計面積であり、Gは、水銀ポロシ測定において59900psiaに加圧した状態で測定試料の空隙を水銀で満たすことにより測定される真密度(g/cm3)である。)
【請求項8】
前記リチウムイオン二次電池用負極材中の全粒子に対する中空粒子の個数割合が50%以上であることを特徴とする請求項1乃至7いずれか1項記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯電話、パソコン等の多くの機器に搭載され、高容量で、高電圧、小型軽量である点から多様な分野で利用されるようになっている。
【0003】
近年、リチウムイオン二次電池には、用途によって、高速充放電特性に優れることが求められる場合がある。そして、このような高速充放電特性に優れるリチウムイオン二次電池とするために、負極を低密度にすることが試みられている。負極が低密度であると、活物質粒子近傍に保液できる電解液量が増加し、活物質表面に受け入れられるリチウムイオンの拡散速度が向上するので、高速充放電特性に優れたリチウムイオン二次電池とすることができる。
【0004】
ところが、負極を低密度化すると、負極を構成する粒子の粒子間隙間が多くなり過ぎて、導電パスが低下してしまうという問題がある。また、過電圧部が増大するため、初期効率が低下することや、サイクル特性が低下するとの問題もある。
【0005】
そこで、低密度化することにより高速充放電特性に優れ、且つ、上記の低密度化の問題を低減できる材料として、炭素材料からなる中空構造を有する粒子が挙げられる。
【0006】
炭素材料からなる中空構造を有する粒子としては、例えば、特許文献1には、鱗片状黒鉛質粒子(A)および炭素質材料(B)を含む球状ないし略球状でかつ内部に空洞を有する中空粒子であって、平均粒子径が5~25μm、平均アスペクト比が5以下である、複合黒鉛質粒子が記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、金属材料及び/又は炭素材料を含む外殻層を有する複数の中空粒子を含み、それらが互いに固着している、中空の焼結体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013-216563号公報
【特許文献2】特開2017-226859号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、リチウムイオン二次電池用負極材の高速充放電特性の向上への要求は増々高まっている。そのため、炭素材料からなり且つ中空構造を有し、高速充放電特性に優れるリチウムイオン二次電池用負極材を製造するための新規なリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法が求められている。
【0010】
従って、本発明の目的は、炭素材料からなり且つ中空構造を有し、高速充放電特性に優れるリチウムイオン二次電池用負極材の新規な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記技術背景の下、本発明者は、鋭意検討重ねたところ、DBP吸油量が特定の範囲のカーボンブラック粒子を用いて、スプレードライ法により造粒し、次いで、焼成して、中空粒子の外殻層を形成させることにより、炭素材料からなり且つ中空構造を有し、球形度が高く、高速充放電特性に優れるリチウムイオン二次電池用負極材が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明(1)は、DBP吸油量が20~90ml/100gであり且つ算術平均粒子径が100~400nmであるカーボンブラック粒子100質量部と、10~50質量部の熱硬化性樹脂と、100~300質量部の分散媒と、を含有する原料分散液を調製する分散液調製工程と、
該原料分散液を100~30℃でスプレードライ法により乾燥させて、粒径が5~30μmのスプレードライ物を得るスプレードライ工程と、
該スプレードライ物を800~3000℃で焼成して、リチウムイオン二次電池用負極材を得る焼成工程と、
を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を提供するものである。
【0013】
また、本発明(2)は、前記リチウムイオン二次電池用負極材の走査型電子顕微鏡観察(SEM)により求められる円形度が0.850以上であることを特徴とする(1)のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明(3)は、前記熱硬化性樹脂が、フェノール樹脂であることを特徴とする(1)又は(2)のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明(4)は、前記リチウムイオン二次電池用負極材の平均粒子径(D50)が5.0~30.0μmであることを特徴とする(1)乃至(3)いずれかのリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明(5)は、前記リチウムイオン二次電池用負極材のBET比表面積が3.00~7.00m2/gであることを特徴とする(1)乃至(4)いずれかのリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を提供するものである。
【0017】
また、本発明(6)は、前記リチウムイオン二次電池用負極材の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像において、前記リチウムイオン二次電池用負極材中の中空粒子の輪郭の内側全体の面積に対する前記空洞の面積の割合が、30~60%であることを特徴とする(1)乃至(5)いずれかのリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を提供するものである。
【0018】
また、本発明(7)は、前記リチウムイオン二次電池用負極材の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を画像解析して得られる下記粒子密度B(g/cm3)に対する前記リチウムイオン二次電池用負極材を水銀ポロシ測定して得られる下記粒子密度A(g/cm3)の比(A/B)が0.40~0.80であることを特徴とする(1)乃至(6)いずれかのリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を提供するものである。
<粒子密度A>
粒子密度A(g/cm3)=C/(1-C×D)
(式中、Cは、水銀ポロシ測定においてほぼ加圧しない状態(0.51psia)で測定試料の空隙を水銀で満たすことにより測定される嵩密度(g/cm3)であり、Dは、Cの測定後、更に357psiaまで加圧して空隙を満たすときに必要とされる水銀の測定試料1g当たりの体積(cm3)である。)
<粒子密度B>
粒子密度B(g/cm3)=G(1-E/(E+F))
(式中、EはSEM画像中の中空粒子の外殻層内の空隙の面積であり、Fは、SEM画像中の中空粒子の外殻層内のカーボンブラック粒子の熱処理物及びバインダーの熱処理物の合計面積であり、Gは、水銀ポロシ測定において59900psiaに加圧した状態で測定試料の空隙を水銀で満たすことにより測定される真密度(g/cm3)である。)
【0019】
また、本発明(8)は、前記リチウムイオン二次電池用負極材中の全粒子に対する中空粒子の個数割合が50%以上であることを特徴とする(1)乃至(7)いずれかのリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、炭素材料からなり且つ中空構造を有し、高速充放電特性に優れるリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明のリチウムイオン二次電池用負極材のSEM画像である。
【
図2】中空粒子の外接円及びその直径を示す模式図である。
【
図3】中空粒子の輪郭の内側全体の面積及び空洞の面積を示す模式図である。
【
図4】中空粒子の粒子密度Bの計算方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法は、DBP吸油量が20~90ml/100gであり且つ算術平均粒子径が20~400nmであるカーボンブラック粒子100質量部と、10~50質量部の熱硬化性樹脂と、100~300質量部の分散媒と、を含有する原料分散液を調製する分散液調製工程と、
該原料分散液を100~300℃でスプレードライ法により乾燥させて、粒径が5~30μmのスプレードライ物を得るスプレードライ工程と、
該スプレードライ物を800~3000℃で焼成して、リチウムイオン二次電池用負極材を得る焼成工程と、
を有することを特徴とする。
【0023】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法は、分散液調製工程と、スプレードライ工程と、焼成工程と、を有する。
【0024】
分散液調製工程は、カーボンブラック粒子と、熱硬化性樹脂と、分散媒と、を含有する原料分散液を調製する工程である。
【0025】
分散液調製工程に係るカーボンブラック粒子としては、特に制限されないが、ファーネスブラック、サーマルブラック等が挙げられる。
【0026】
分散液調製工程に係るカーボンブラック粒子のDBP吸油量は、20~90ml/100gである。カーボンブラック粒子のDBP吸油量が上記範囲にあることにより、スプレードライでの噴射時に分散液の分散が良くなり円形度の高い球形の中空粒子が形成しやすくなる。カーボンブラック粒子のDBP吸油量は、水溶性熱硬化性樹脂や水溶媒を取り込み、球形構造を形成しやすくする点で、好ましくは40ml/100g以上であり、また、球形化しやすくする点で、好ましくは60ml/100g以下である。
【0027】
分散液調製工程に係るカーボンブラック粒子の算術平均粒子径は、20~400nmである。カーボンブラック粒子の算術平均粒子径が20~400nmであることにより、不可逆容量の低下を抑制しつつ、高速充放電特性に優れた材料となる。カーボンブラック粒子の算術平均粒子径は、更に高速充放電特性が向上する点で、より好ましくは100nm以上であり、また、初回充電時の不可逆容量増大の抑制が可能となる点で、より好ましくは300nm以下である。
【0028】
カーボンブラック粒子の算術平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)で非晶質炭素粒子の観察を行い、得られる画像中の粒子の外接円の直径を粒子径として、画像ソフト(三谷商事社製WINROOF)を用いて、測定される10000個の粒子の粒子径の平均値である。
【0029】
分散液調製工程に係るカーボンブラック粒子の平均格子面間隔d(002)は、0.3370nm以上である。カーボンブラック粒子の平均格子面間隔d(002)が0.3370nm以上であることにより、粒子表面の反応抵抗が下がり高速充放電特性に優れる。カーボンブラック粒子の平均格子面間隔d(002)は、更に高速充放電特性が向上する点で、より好ましくは0.3400nm以上であり、更に高速充放電特性が向上する点で、特に好ましくは0.3500nm以上である。
【0030】
分散液調製工程に係る熱硬化性樹脂としては、特に制限されないが、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられ、これらのうち、水溶媒との親和性があり、かつ疎水性のカーボンブラックとも相溶性がある点で、水溶性フェノール樹脂が好ましい。熱硬化性樹脂は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0031】
分散液調製工程に係る熱硬化性樹脂の25℃における粘度は、好ましくは50~500mPa/sである。熱硬化性樹脂の粘度が上記範囲にあることにより、熱硬化性樹脂と水分散媒との親和性が高くなり、均一な分散液となる。熱硬化性樹脂の粘度は、目視観察における均一な分散の終了が容易となる点で、好ましくは60mPa/s以上であり、また、容易な撹拌処理で均一な分散液にできる点で、好ましくは300mPa/s以下である。
【0032】
分散液調製工程に係る熱硬化性樹脂の不揮発分は、好ましくは45~70%である。熱硬化性樹脂の不揮発分が上記範囲にあることにより、カーボンブラック同士を結合して外殻層を形成できる熱硬化樹脂として好適となる。熱硬化性樹脂の不揮発分は、外殻層を実用的な強度を有するものにできる点で、好ましくは50%以上であり、また、ドライスプレー工程時の粘度変動を少なくでき、造粒品質の安定化の点で、好ましくは65%以下である。
【0033】
分散液調製工程に係る分散媒は水が挙げられる。水を分散媒にすることで樹脂と適度な親和性を有することで球形構造を保ちつつ、中空構造ができやすくなる。
【0034】
分散液調製工程に係る原料分散液中、熱硬化性樹脂の含有量は、カーボンブラック粒子100質量部に対し、10~50質量部である。熱硬化性樹脂の含有量が上記範囲にあることにより、球形性の高い中空粒子が形成しやすくなる。熱硬化性樹脂の含有量は、カーボンブラック同士の結着性を持たせる点で、好ましくはカーボンブラック粒子100質量部に対し20質量部以上であり、また、中空構造を保ちながら球形性を有した粒子を形成しやすくする点で、好ましくはカーボンブラック粒子100質量部に対し30質量部以下である。
【0035】
分散液調製工程に係る原料分散液中、分散媒の含有量は、カーボンブラック粒子100質量部に対し100~300質量部である。分散媒の含有量が上記範囲にあることにより、中空構造が形成しやすくなる。分散媒の含有量は、カーボンブラックと熱硬化性樹脂を均質に混合する点で、好ましくはカーボンブラック粒子100質量部に対し150質量部以上であり、また、球形性を有した粒子を形成しやすくする点で、好ましくはカーボンブラック粒子100質量部に対し250質量部以下である。
【0036】
分散液調製工程に係る原料分散液中、分散媒の含有量は、カーボンブラック粒子及び熱硬化性樹脂の合計100質量部に対し、70~270質量部である。分散媒の含有量が上記範囲にあることにより、中空粒子が生成し易くなる。分散媒の含有量は、スプレードライ工程での噴霧時の目詰まりを防止できる点で、好ましくはカーボンブラック粒子及び熱硬化性樹脂の合計100質量部に対し130質量部以上であり、また、外殻層強度を実用的なものにできる点で、好ましくはカーボンブラック粒子及び熱硬化性樹脂の合計100質量部に対し180質量部以下である。
【0037】
分散液調製工程に係る原料分散液は、カーボンブラック粒子、熱硬化性樹脂及び分散媒以外に、必要に応じて、界面活性剤、分散剤等を含有することができる。
【0038】
分散液調製工程では、カーボンブラック粒子及び熱硬化性樹脂を、あるいは、カーボンブラック粒子及び熱硬化性樹脂に加え、必要に応じて用いられる界面活性剤、分散剤等を、分散媒に混合し、次いで、撹拌機や超音波振動等により撹拌混合して、これらの混合物を分散媒に、溶解又は分散させることにより、原料分散液を調製する。
【0039】
原料分散液の25℃における粘度は、好ましくは5~150mPa・sである。原料分散液の粘度が上記範囲にあることにより、スプレードライ工程で良好な噴霧が可能となる。分散液の粘度は、噴霧ノズルへの目詰まりを防止できる点で、好ましくは10mPa・s以上であり、また、噴霧速度を高速にできる点で、好ましくは100mPa・s以下である。
【0040】
スプレードライ工程は、原料分散液を100~300℃でスプレードライ法により乾燥させて、粒径が5~30μmのスプレードライ物を得る工程である。
【0041】
スプレードライ工程において、スプレードライ法により、原料分散液を乾燥させる方法としては、特に制限されず、スプレードライ装置の加熱部に、原料分散液の液滴を導入して、加熱部で原料分散液を加熱及び乾燥し、分散媒を蒸発乾燥させて、原料分散液の液滴の乾燥物であるスプレードライ物を得ることができる方法であればよい。
【0042】
スプレードライ法を行うためのスプレードライ装置としては、特に制限されず、公知の装置を好適に用いることができる。スプレードライ装置としては、例えば、大川原製作所製(型番CL-8i)、プリス社製(型番SB39)、ヤマト科学社製(型番DL410)等が挙げられる。
【0043】
スプレードライ工程おいて、スプレードライ法により乾燥させるときの乾燥温度は、100~300℃である。スプレードライ法により乾燥させるときの乾燥温度が上記範囲にあることにより、水が揮発し、内部に中空構造が形成する。スプレードライ法により乾燥させるときの乾燥温度は、水を急激に揮発させ、中空構造を形成しやすくする点で、好ましくは150℃以上であり、また、急激な水の乾燥による球形粒子の構造破壊を防ぐ点で、好ましくは200℃以下である。
【0044】
スプレードライ工程では、スプレードライ法により得られるスプレードライ物の粒径が、5~30μm、好ましくは10~20μmとなるように、スプレードライ装置に導入する原料分散液の液滴の粒径を調節する。
【0045】
また、上記以外のスプレードライ工程におけるスプレードライ法の乾燥条件及びスプレードライ装置の運転条件は、適宜選択されるが、例えば、ノズルを超音波により噴霧する超音波ノズルを使用することが可能である。
【0046】
スプレードライ工程において、スプレードライ法により原料分散液を乾燥させて得られるスプレードライ物の粒径は、5~30μmである。スプレードライ物の粒径が上記範囲にあることにより、円形度の高い球形の粒子となり、電極として塗工し易いリチウムイオン二次電池負極材となる。スプレードライ物の粒径は、バインダーとの混合がし易くする点で、好ましくは10μm以上であり、また、適した厚みの電極塗工膜を調製し易くなる点で、好ましくは20μm以下である。
【0047】
そして、スプレードライ工程を行うことにより、粒子の球形度が高いスプレードライ物が得られる。また、スプレードライ物は、粒子内に中空を有する中空粒子を含有している。なお、スプレードライ物は、中空を有していない粒子も含有している。
【0048】
焼成工程は、スプレードライ物を800~3000℃で焼成して、リチウムイオン二次電池用負極材を得る工程である。
【0049】
焼成工程において、スプレードライ物を焼成するときの焼成温度は、800~3000℃である。スプレードライ物を焼成するときの焼成温度が800~3000℃であることにより、リチウムイオン二次電池用負極材粒子のLiイオン受入サイトが発達し、充電容量が発現する。焼成工程において、スプレードライ物を焼成するときの焼成温度が、特に2000℃以上であることにより、実用的な充電容量を確保することができる負極材となり、また、3000℃以下であることにより、Liイオン受入サイトを十分に確保し、高速充放電特性を保持できる。また、スプレードライ物を焼成するときの焼成雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気等の不活性ガス雰囲気である。
【0050】
焼成工程では、スプレードライ物中のカーボンブラック粒子が、カーボンブラック粒子の熱処理物へと変換され、且つ、熱硬化性樹脂が炭化物に変換されることにより、リチウムイオン二次電池用負極材が得られる。
【0051】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を行い得られるリチウムイオン二次電池用負極材の形状は、スプレードライ法を用いて形成されたものなので、粒子の球形度が高い。例えば、
図1には、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を行い得られるリチウムイオン二次電池用負極材の粒子の形態例の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示すが、
図1には、球形度が高い粒子が観察される。
【0052】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を行い得られるリチウムイオン二次電池用負極材の円形度は、リチウムイオン二次電池用負極材の走査型電子顕微鏡(SEM)画像において、好ましくは0.850以上である。リチウムイオン二次電池用負極材のSEM画像における円形度が上記範囲にあることにより、球形に近い負極材となり負極材同士が接触する機会が増加し、折衝抵抗を低減することが可能となる。リチウムイオン二次電池用負極材のSEM画像における円形度は、十分な接触機会を確保することが可能になる点で、より好ましくは0.880以上である。また、リチウムイオン二次電池用負極材のSEM画像における円形度の上限は、特に制限されないが、製造上、0.995程度が上限となる。なお、本発明においては、球形度が高いリチウムイオン二次電池用負極材が得られるが、SEM画像における円形度を求めることにより、リチウムイオン二次電池用負極材の球形度を把握することができる。よって、SEM画像における円形度が高いほど、球形度が高い。
【0053】
本発明において、リチウムイオン二次電池用負極材のSEM画像における円形度は、リチウムイオン二次電池用負極材の走査型電子顕微鏡(SEM)画像において、任意にWINROOFを用いて算出された値である。10個の粒子を抽出し、画像処理により、抽出した各粒子の円形度を測定する。次いで、得られた各粒子の円形度の値を平均し、平均値を、リチウムイオン二次電池用負極材のSEM画像における円形度とする。なお、円形度の測定は、WINROOFを用いて算出する画像処理によって行われる。
【0054】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を行い得られるリチウムイオン二次電池用負極材の粒子断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像において、中空粒子の輪郭の内側全体の面積に対する中空粒子の空洞の面積の割合は、好ましくは30~60%である。中空粒子の輪郭の内側全体の面積に対する中空粒子の空洞の面積が30~60%であることにより、内部に電解液を保持可能な中空構造となる。本発明のリチウムイオン二次電池用負極材において、中空粒子の輪郭の内側全体の面積に対する中空粒子の空洞の面積の割合が、40%以上であることにより、電解液の保液が十分に可能となる中空構造となり、また、50%以下であることにより、中空構造の維持が可能な構造となる。本発明のリチウムイオン二次電池用負極材において、断面のSEM画像中の中空粒子の輪郭の内側全体の面積に対する中空粒子の空洞の面積の割合は、中空粒子中に占める空洞の存在量の指標となる。
【0055】
また、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を行い得られるリチウムイオン二次電池用負極材が、中空粒子を含有していることは、リチウムイオン二次電池用負極材の粒子断面の走査型電子顕微鏡(SEM)観察によっても、確認できる。
【0056】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を行い得られるリチウムイオン二次電池用負極材に含有されている中空粒子は、カーボンブラック粒子の熱処理物と熱硬化性樹脂の炭化物からなる外殻層を有する。そして、中空粒子の内部、すなわち、外殻層の内側には、空洞が形成されている。外殻層では、カーボンブラック粒子が、熱硬化性樹脂の炭化物で結合することにより、外殻層の形状を保持している。なお、外殻層では、外殻層を構成するカーボンブラック粒子の粒子間隙間の全てが、熱硬化性樹脂の炭化物で充填されているのではなく、カーボンブラック粒子の粒子間隙間には、熱硬化性樹脂の炭化物で充填されていない部分がある。そのため、外殻層は、外殻層を貫通する貫通孔を有する。この貫通孔は、中空粒子の外側と、粒子内部の空洞とを繋ぐ孔であり、該貫通孔を通って、電解液が出入りすることができる。
【0057】
外殻層に貫通孔が形成されていることは、水銀ポロシ測定において900psia以上の圧力で水銀が浸透する200nm以下の気孔を示すピークの存在から確認される。
【0058】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を行い得られるリチウムイオン二次電池用負極材は、多数の粒子状物の集合体であり、その一部として、中空粒子を含んでいる。また、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を行い得られるリチウムイオン二次電池用負極材は、カーボンブラック粒子の熱処理物と熱硬化性樹脂の炭化物とからなり且つ空洞が形成されていない粒子も含有している。
【0059】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を行い得られるリチウムイオン二次電池用負極材中、全粒子数に対する中空粒子の個数割合は、好ましくは50~100%である。リチウムイオン二次電池用負極材中の全粒子数に対する中空粒子の個数割合が50%以上であることにより、中空粒子の高速充放電特性が高まる効果がより大きくなる。リチウムイオン二次電池用負極材中の全粒子数に対する中空粒子の個数割合は、電解液と活物質間のリチウムイオンの挿脱入頻度をより高める点で、より好ましくは60%以上、特に好ましくは70%以上である。なお、本発明において、リチウムイオン二次電池用負極材中、全粒子数に対する中空粒子の個数割合は、リチウムイオン二次電池用負極材をポリフッ化ビニリデンのバインダー25%を含んだスラリーから任意の厚みで塗工して得られた膜の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、SEM画像において観察される粒子全ての数と、その内の中空粒子の数と、を数え、次いで、リチウムイオン二次電池用負極材中の全粒子数に対する中空粒子の個数割合を算出することにより、求められる。
【0060】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を行い得られるリチウムイオン二次電池用負極材の平均粒子径(D50)は、好ましくは5.0~30.0μmである。リチウムイオン二次電池用負極材の平均粒子径(D50)が5.0~30.0μmであることにより、リチウムイオン電池塗工に適したスラリーが調製可能となる。本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を行い得られるリチウムイオン二次電池用負極材の平均粒子径(D50)は、7.0μm以上であることにより、気泡やダマのない均一な塗工膜となり、また、20.0μm以下であることにより、粗大粒のない均一な塗工膜となる。なお、本発明において、リチウムイオン二次電池用負極材の平均粒子径(D50)は、レーザー回折粒度分布測定装置を用いて体積基準積算粒度分布を測定したときの積算粒度が50%のときの粒径である。
【0061】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を行い得られるリチウムイオン二次電池用負極材のBET比表面積は、好ましくは3.00~7.00m2/gである。リチウムイオン二次電池用負極材のBET比表面積が3.00~7.00m2/gであることにより、リチウムイオンの挿脱入可能な表面を持ち、かつ過剰なSEI膜の形成による初期効率の低下を防ぐことができる。本発明のリチウムイオン二次電池用負極材のBET比表面積は、3.00m2/g以上であることにより、リチウムイオンの挿脱入可能な表面を増やすこととなり、また、7.00m2/g以下、好ましくは5.00m2/g以下であることにより、過剰なSEI膜の形成を防ぐこととなる。本発明において、比表面積(SA)は、全自動表面積測定装置(マイクロトラックベル社製BELSORP-miniX)を用い、窒素吸着等温線における相対圧0.05~0.2の範囲におけるBET多点法により算出される値を意味する。
【0062】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を行い得られるリチウムイオン二次電池用負極材の全細孔容積は、好ましくは0.05~0.20cm3/gである。リチウムイオン二次電池用負極材の全細孔容積が0.05~0.20cm3/gであることにより、電解液の保持性の高い細孔構造となる。本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の全細孔容積は、0.05cm3/g以上であることにより、電解液の保持が可能な細孔構造となり、また、0.10m3/g以下であることにより、活物質あたりの重量が維持され、実用的な電池容量を持つリチウムイオン二次電池負極材となる。なお、リチウムイオン二次電池用負極材の全細孔容積は、全自動表面積測定装置(マイクロトラックベル社製BELSORP-miniX)を用い、窒素吸着等温線における相対圧0.99で算出される値を意味する。
【0063】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を行い得られるリチウムイオン二次電池用負極材の外殻層中の気孔径(粒子間隙間の径)は、好ましくは10~200nmである。リチウムイオン二次電池用負極材の外殻層中の気孔径(粒子間隙間の径)が10~200nmであることにより、優れた性能を発揮する負極材となる。本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を行い得られるリチウムイオン二次電池用負極材の外殻層中の気孔径は、50nm以上であることにより、リチウムイオンが中空内部に拡散しやすくなり、高速充放電特性が向上し、また、150nm以下であることにより、粒子の外殻が疎にならず、充電容量の高い粒子密度となる。なお、リチウムイオン二次電池用負極材の外殻層中の気孔径は、水銀ポロシ測定(Auto Pore V9510)における900psia以上の水銀挿入圧力で現れるピークから算出される値を意味する。
【0064】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を行い得られるリチウムイオン二次電池用負極材のタップ密度は、好ましくは0.66~0.81g/cm3である。リチウムイオン二次電池用負極材のタップ密度が0.66~0.81g/cm3であることにより、中空構造を持ち且つ形状の揃った粒子となる。本発明のリチウムイオン二次電池用負極材のタップ密度は、0.69g/cm3以上であることにより、形状の揃った粒子として均一な塗工膜の形成がし易くなり、また、0.78g/cm3以下であることにより、中空構造を有した構造が発達しており保液できる電解液量が多い構造となる。本発明において、タップ密度は、25mlメスシリンダーに黒鉛粒子粉末5gを投入し、タッピング式粉体減少度測定器(筒井理化学器械社製)を用いてギャップ10mmにて1000回タッピングを繰り返した後の見かけ体積の値と、メスシリンダーに投入した黒鉛粒子粉末の質量から、下記式:
タップ密度(g/cm3)=メスシリンダーに投入した粉末の質量(g)/1000回タッピングを繰り返した後の見かけ体積の値(cm3)
により算出した値を意味する。
【0065】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を行い得られるリチウムイオン二次電池用負極材において、リチウムイオン二次電池用負極材の粒子断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像において、中空粒子の輪郭の内側全体の面積に対する中空粒子の空洞の面積の割合は、好ましくは30~60%である。中空粒子の輪郭の内側全体の面積に対する中空粒子の空洞の面積が30~60%であることにより、内部に電解液を保持可能な中空構造となる。本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を行い得られるリチウムイオン二次電池用負極材において、中空粒子の輪郭の内側全体の面積に対する中空粒子の空洞の面積の割合が、40%以上であることにより、電解液の保液が十分に可能となる中空構造となり、また、50%以下であることにより、中空構造の維持が可能な構造となる。本発明のリチウムイオン二次電池用負極材において、断面のSEM画像中の中空粒子の輪郭の内側全体の面積に対する中空粒子の空洞の面積の割合は、中空粒子中に占める空洞の存在量の指標となる。
【0066】
本発明において、中空粒子の輪郭の内側全体の面積に対する中空粒子の空洞の面積の割合は、以下の手順により求められる。先ず、リチウムイオン二次電池用負極材を、ポリフッ化ビニリデンを25%含むスラリーから任意の厚みの塗工膜を作製し、断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を得る。次いで、SEM画像中より、任意に中空粒子を選定し、選定した粒子の外接円の直径を求める。求めた外接円の直径が、平均粒子径(D50)±20%以内である場合には、画像解析をして、選定した中空粒子の輪郭の内側全体の面積と、空洞の面積を求める。次いで、中空粒子の輪郭の内側全体の面積に対する中空粒子の空洞の面積の割合を計算する。そして、外接円の直径が平均粒子径(D50)±20%以内である中空粒子が10個になるまで、中空粒子の選定及び中空粒子の輪郭の内側全体の面積に対する中空粒子の空洞の面積の割合を計算し、得られた面積割合を平均して、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材における、リチウムイオン二次電池用負極材の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像において、中空粒子の輪郭の内側全体の面積に対する中空粒子の空洞の面積の割合とする。なお、平均粒子径(D50)は、レーザー回折粒度分布測定装置を用いて体積基準積算粒度分布を測定したときの積算粒度が50%のときの粒径を指す。
【0067】
本発明において、中空粒子の輪郭内側全体の面積に対する中空粒子の空洞の面積の割合の測定方法について、
図2及び
図3を参照して説明する。先ず、リチウムイオン二次電池用負極材の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を得る。次いで、SEM画像中より、
図2に示すように、任意に中空粒子11を選定し、選定した粒子の外接円12(図中、点線で示す。)を描き、外接円の直径13を求める。次いで、選定した中空粒子11の外接円の直径13が、平均粒子径(D50)±20%以内であった場合には、
図3に示すように、画像処理により、中空粒子の輪郭14の内側全体(
図3(A)中、斜線で示す部分)の面積と、中空粒子11内部の空洞の輪郭15の内側(
図3(B)中、斜線で示す部分)の面積を求める。次いで、中空粒子の輪郭14の内側全体の面積に対する中空粒子11内部の空洞の輪郭15の内側の面積の割合を算出する。そして、外接円の直径が平均粒子径(D50)±20%以内である中空粒子が10個になるまで、中空粒子の選定及び中空粒子の輪郭の内側全体の面積に対する中空粒子の空洞の面積の割合を計算し、得られた面積割合を平均し、平均値を中空粒子の輪郭の内側全体の面積に対する中空粒子の空洞の面積の割合とする。なお、
図2及び
図3では、説明の都合上、中空粒子の輪郭及び空洞の輪郭のみを示し、カーボンブラック粒子の熱処理物、熱硬化性樹脂の炭化物及び外殻層中の粒子間隙間の記載を省略した。
【0068】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を行い得られるリチウムイオン二次電池用負極材において、リチウムイオン二次電池用負極材の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を画像解析して得られる下記粒子密度B(g/cm3)に対するリチウムイオン二次電池用負極材を水銀ポロシ測定して得られる下記粒子密度A(g/cm3)の比(A/B)は、好ましくは0.40~0.80である。粒子密度Bに対する粒子密度Aの比(A/B)が0.40~0.80であることにより、中空粒子の外殻におけるリチウムイオンの高い拡散性を保ちつつ、且つ電解液を保液可能な大きな空洞を粒子内部に持つことが可能となる。本発明のリチウムイオン二次電池用負極材において、粒子密度Bに対する粒子密度Aの比(A/B)が0.50以上であることにより、中空粒子の外殻にリチウムイオンの移動がしやすい空隙が保たれ、また、0.70以下であることにより、電解液を保液可能な空洞を粒子内部に持つこととなる。本発明のリチウムイオン二次電池用負極材において、粒子密度Bに対する粒子密度Aの比(A/B)は、中空粒子中に占める空洞の存在量の指標となる。
【0069】
本発明において、リチウムイオン二次電池用負極材を水銀ポロシ測定して得られる、粒子間空隙を埋める圧力より算出される粒子密度A(g/cm3)は、以下の式により求められる。
粒子密度A(g/cm3)=C/(1-C×D)
(式中、Cは、水銀ポロシ測定においてほぼ加圧しない状態(0.51psia)で測定試料の空隙を水銀で満たすことにより測定される嵩密度(g/cm3)であり、Dは、Cの測定後、更に357psiaまで加圧して空隙を満たすときに必要とされる水銀の測定試料1g当たりの体積(cm3)である。)
すなわち、粒子密度Aは水銀がリチウムイオン二次電池用負極材の外殻層の隙間(500nm以下)に侵入する前までの密度であり、空洞と外殻の空隙を含んだ中空粒子の密度となる。
【0070】
粒子密度Aは、以下の手順により求められる。先ず、水銀ポロシ測定器の測定容器に、リチウムイオン二次電池用負極材(測定試料)を充填し、ほぼ加圧しない状態(0.51psia)で測定試料の空隙を水銀で満たし、水銀ポロシ測定における加圧しない状態での嵩密度C(g/cm3)を測定する。次いで、更に、水銀ポロシ測定器内の測定試料に、357psiaまで加圧して水銀を導入することにより、357psiaでの加圧で満たされるおよそ500nm以上の空隙を水銀で満たし、更に357psiaまで加圧することより空隙を満たすときに必要とされる水銀の体積、すなわち、嵩密度Cの測定した後、357psiaでの加圧で満たされる空隙を水銀で満たすために更に導入した水銀の体積を、測定試料1g当たりに換算して、「Cの測定後、更に357psiaまで加圧して空隙を満たすときに必要とされる水銀の測定試料1g当たりの体積D(cm3)」を求める。次いで、「粒子密度A(g/cm3)=C/(1-C×D)」により、粒子密度Aを計算する。
【0071】
本発明において、リチウムイオン二次電池用負極材の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を画像解析して得られる粒子密度B(g/cm3)は、以下の式により求められる。
粒子密度B(g/cm3)=G(1-E/(E+F))
(式中、EはSEM画像中の外殻層内の空隙の面積であり、Fは、SEM画像中の外殻層内のカーボンブラック粒子の熱処理物及び熱硬化性樹脂の炭化物(非空隙部)の合計面積であり、Gは水銀ポロシ測定において59900psiaに加圧した状態で測定試料の空隙を水銀で満たすことにより測定される真密度(g/cm3)である。)
すなわち、粒子密度Bは外殻層内の空隙を含むリチウムイオン二次電池用負極材の外殻層の密度で、粒子が全て、内部に空洞が形成されていない粒子であると仮定したときの密度である。
【0072】
粒子密度Bは、以下の手順により求められる。先ず、リチウムイオン二次電池用負極材の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を得る。次いで、SEM画像中より、任意に中空粒子を選定し、選定した粒子の外接円の直径を求める。求めた外接円の直径が、平均粒子径(D50)±20%以内である場合には、画像解析をして、選定した中空粒子の外接長方形を描き、外接長方形内の粒子に対してモノクロ画像処理を行い、白黒に二値化(空隙を黒)した上で外輪郭(中空粒子の輪郭)の外側と内輪郭(空洞の輪郭)の内側を画像処理で黒く塗りつぶし、画像解析により外殻層の空隙部(黒)の面積Eの合計と非空隙部(白)の面積Fを求め、また、水銀ポロシ測定において59900psiaに加圧した状態で測定試料の空隙を水銀で満たすことにより測定される真密度(g/cm3)を測定し、「粒子密度(g/cm3)=G(1-E/(E+F))」の式により粒子密度を計算する。そして、外接円の直径が平均粒子径(D50)±20%以内である中空粒子が10個になるまで、中空粒子の選定及び粒子密度の計算をし、得られた粒子密度を平均して、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材における、リチウムイオン二次電池用負極材の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を画像解析して得られる空隙部分の面積より算出される粒子密度Bとする。
【0073】
本発明において、粒子密度Bの測定方法について、
図2及び
図4を参照して説明する。先ず、リチウムイオン二次電池用負極材を、ポリフッ化ビニリデンを25%含むスラリーから任意の厚みの塗工膜を作製し、断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を得る。次いで、SEM画像中より、
図2に示すように、任意に中空粒子11を選定し、選定した粒子の外接円12を描き、外接円の直径13を求める。次いで、選定した中空粒子11の外接円の直径13が、平均粒子径(D50)±20%以内であった場合には、
図4に示すように、選定した中空粒子11の外接長方形25を描く。次いで、外接長方形内の粒子に対してモノクロ画像処理を行い、白黒に二値化(空隙を黒)し、更に外輪郭の外側24と中空空洞の内輪郭の内側22を画像処理で黒く塗りつぶし、画像解析により外殻層の空隙部(黒)の面積Eの合計と非空隙部(白)の面積Fを求める。また、水銀ポロシ測定器の測定容器に、リチウムイオン二次電池用負極材(測定試料)を充填し、59900psiaに加圧した状態で測定試料の空隙を水銀で満たし、水銀ポロシ測定における59900psiaに加圧した状態での真密度G(g/cm
3)を測定する。このとき水銀ポロシ測定において59900psiaに加圧することより、測定試料の外殻層内の孔及び内部の空洞も水銀で満たされる。次いで、「粒子密度(g/cm
3)=G(1-E/(E+F))」の式により粒子密度を計算する。そして、外接円の直径が平均粒子径(D50)±20%以内である中空粒子が10個になるまで、中空粒子の選定及び粒子密度の計算をし、得られた粒子密度を平均し、粒子密度Bとする。なお、
図2及び
図4では、説明の都合上、中空粒子の輪郭及び空洞の輪郭のみを示し、カーボンブラック粒子の熱処理物、熱硬化性樹脂の炭化物及び外殻層中の粒子間隙間の記載を省略した。
【0074】
カーボンブラック粒子の熱処理物は、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法により得られるリチウムイオン二次電池用負極材の外殻層を構成する主成分である。そして、中空粒子の外殻層が、カーボンブラック粒子の熱処理物で形成されていることにより、高速充放電特性が高くなる。
【0075】
そして、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法により得られるリチウムイオン二次電池用負極材は、炭素材料からなり且つ中空構造を有し、球形度が高い、中空粒子を含有するので、初期効率の低下が少なく、サイクル特性に優れ、且つ、高速充放電特性に優れる。本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法により得られるリチウムイオン二次電池用負極材が、中空粒子を含むことにより、電極の低密度化における過剰な粒子間空隙の形成が抑制され、高い導電パスが維持されることで初期効率及びサイクル特性が高くなり、且つ、高速充放電特性が高くなる。本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法により得られるリチウムイオン二次電池用負極材に含有されている中空粒子は、内部に空洞を有しているので、初期効率及びサイクル特性を低下させることなく、低密度化を可能とする。また、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法により得られるリチウムイオン二次電池用負極材に含有されている中空粒子は、導電パスとなる外殻層が、主としてリチウムイオンを受け入れる表面エッジ面が多いカーボンブラックの熱処理物で構成されているので、電解液と活物質間のリチウムイオンの挿脱入頻度が多くなり、且つ、小粒径であることから活物質内でのリチウムイオン拡散速度も早まり、その結果、高速充放電特性が高くなる。
【0076】
また、中空粒子中の空洞は、粒子内部に電解液を保液することに寄与するので、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法により得られるリチウムイオン二次電池用負極材は、カーボンブラック粒子の熱処理物と、熱硬化性樹脂の炭化物と、からなる外殻層を有し、内部に空洞が形成されている中空粒子を含むことにより、高速充放電特性が高くなる。
【0077】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法により得られるリチウムイオン二次電池用負極材の初期容量は、好ましくは200mAh/g以上である。リチウムイオン二次電池用負極材の初期容量が、200mAh/g以上であることにより、電池を組んだ際に十分なエネルギー密度を確保することが可能となる。本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法により得られるリチウムイオン二次電池用負極材の初期容量は、更に十分なエネルギー密度の確保が可能となる点で、特に好ましくは345mAh/g以上である。
【0078】
以下に、実施例を示して、本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
【実施例0079】
(実施例1)
(中空粒子の作製)
サーマルブラック(Cancarb製、算術平均粒子径303nm)100質量部に、水溶性フェノール樹脂(住友ベークライト製)20質量部と水200部を配合し、原料温度を40℃に保った状態でスプレードライ装置(大河原製作所CL-8i)のフィーダータンクに入れ、ディスク式アトマイザ(MC-50)でディスク回転数40000rpmの条件で噴霧した。噴霧液は180℃の熱風で乾燥された後、サイクロンで回収し、得られた中空粒子を800℃の温度で焼成し、その後、黒鉛化炉で2400℃の温度で焼成し、中空粒子(試験負極材)を得た。
次いで、得られた中空粒子を走査型電子顕微鏡観察(SEM)した。その結果を
図1に示す。
【0080】
(実施例2)
水溶性フェノール樹脂を30質量部用いた他は実施例1と同様の方法で中空粒子(試験負極材)を作成した。
【0081】
(実施例3)
水溶性フェノール樹脂を40質量部用いた他は実施例1と同様の方法で中空粒子(試験負極材)を作成した。
【0082】
(比較例1)
サーマルブラック(Cancarb製、算術平均粒子径303nm)100質量部に、ピッチ(PKQL:JFEケミカル製、軟化点87-110℃)20質量部配合し、高速混合機(三井ヘンシェルミキサーFM10C/I型)に入れ、周速10m/秒で10分間混合した。得られた造粒物を1000℃の温度で焼成し、その後、黒鉛化炉で2400℃の温度で焼成し、試験負極材を得た。
【0083】
【0084】
(分析方法)
・SEM分析装置及び条件
分析装置:日本電子社製JSM7900F
加速電圧2-5kvで加速した電子線を試料に当て二次電子像を観察。
断面資料作製装置:日本電子社製IB-19530CP
電極シートを所定のサイズに切り出し、加工位置に対し遮蔽版を設置する。アルゴンイオンビームを照射することで、遮蔽版のエッジに沿って切断される。
・平均粒子径(D50)を求める際のレーザー回折粒度分布測定装置及び分析条件
分析装置:堀場製作所社製:LA-960
光源:半導体レーザー(650nm)
蒸留水またはエタノールを適宜選択し、その100質量部に対し、10質量%の両性界面活性剤を添加した溶液に対し、粉末を超音波で分散させた。分散させた粉末を装置内の測定セルにフローし、レーザーを照射する。散乱光をリング状検出器で検出、解析することで粒度分布を得る。
・水銀ポロシ測定:島津アクセス社製
分析装置:水銀圧入式細孔分布測定装置:オートポアIV9510形
サンプルを150℃、6時間乾燥後セルにおよそ0.5g入れ、低圧ポートにセットして大気圧から30μmHgまで真空引きを行い、続いて水銀の注入を行う。その後、セルを高圧ポートに移し、このほぼ加圧しない状態(0.51psia)でのセル内の水銀注入量から測定試料粉末の嵩密度C(g/cm3)を計算する。続いて加圧を行うことで水銀注入量を増やし、357psiaまで加圧したときの水銀量から粒子密度A(g/cm3)を測定する。更に加圧を行うことで水銀注入量を増やし、59900psiaまで加圧したときの水銀量から密度G(g/cm3)を測定する。
【0085】
(評価方法)
(ラミネート電池の作製)
前記の作用極、対極を使用し、評価用電池として、正極(Li金属)、セパレータ(ポリプロピレン)、負極(試験負極材)を順に積層し、更に、Niタブを取り付けた後、積層物をアルミラミネートして、ラミネート電池を不活性雰囲気下で組み立てた。電解液は1mol/dm3のリチウム塩LiPF6を溶解したエチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)1:1混合溶液を使用した。充電は電流密度0 .2mA/cm2、終止電圧5mV で定電流充電を終えた後、下限電流0.02mA/cm2となるまで定電位保持する。放電は電流密度0.2mA/cm2にて終止電圧1.5Vまで定電流放電を行い、3サイクル終了後の放電容量を可逆容量とした。初期効率は、1サイクル目の放電容量を1サイクル目の充電容量で除した値(%)である。5Cの充電容量は、3サイクル後の完放電の状態から、12分間で満充電させたときの充電容量である。
【0086】