(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038522
(43)【公開日】2023-03-17
(54)【発明の名称】ディジタル保護リレー装置
(51)【国際特許分類】
H02H 3/02 20060101AFI20230310BHJP
【FI】
H02H3/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021145295
(22)【出願日】2021-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大山 康祐
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 三雄
(72)【発明者】
【氏名】城戸 三安
【テーマコード(参考)】
5G142
【Fターム(参考)】
5G142AB05
5G142AC06
5G142BB07
5G142BB13
5G142BC02
5G142EE08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】入力変換器の入出力特性の誤差を補正するディジタル保護リレー装置を提供する。
【解決手段】装置は、アナログ信号のレベルを変換する複数の入力変換器1aと、各入力変換器の出力によるアナログ信号又は位相基準信号をディジタル信号に変換する複数のA/D変換器1cと、各アナログ信号の振幅値と位相を算出する複数のフーリエ変換演算部と、各フーリエ変換演算部の算出による振幅値を第1補正量で補正し、各フーリエ変換演算部の算出による位相を第2補正量で補正する補正演算部と、補正演算部の各演算結果を基に保護対象に対する保護演算を実行する保護演算部を備える。補正演算部は、その振幅値が、掃引刻み量に従って最小値から定格値まで順次変化する調整用入力信号が、特定の入力変換器に入力された場合、特定の入力変換器に対応する特定のフーリエ変換演算部の算出による振幅値を基に第1補正量を、位相を基に第2補正量を、夫々算出する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統に接続された保護対象からアナログ量の電気信号を示すアナログ信号を入力し、入力した前記アナログ信号のレベルを変換して出力する複数の入力変換器と、
前記各入力変換器の出力によるアナログ信号をディジタル信号に変換する複数のアナログ・ディジタル変換器と、
前記各アナログ・ディジタル変換器の出力による前記ディジタル信号に対するフーリエ変換処理を行って、前記各アナログ信号の振幅値と位相を算出する複数のフーリエ変換演算部と、
前記各フーリエ変換演算部の算出による前記振幅値を第1補正量で補正する演算と前記各フーリエ変換演算部の算出による前記位相を第2補正量で補正する演算を実行する補正演算部と、
前記補正演算部の各演算結果を基に前記保護対象に対する保護演算処理を実行する保護演算部と、
位相基準信号をディジタル信号に変換する位相基準信号用アナログ・ディジタル変換器と、
前記位相基準信号用アナログ・ディジタル変換器の出力による前記ディジタル信号に対する前記フーリエ変換処理を行って、前記位相基準信号の振幅値と位相を算出し、各算出結果を前記補正演算部に出力する位相基準信号用フーリエ変換演算部と、を備え、
前記補正演算部は、
前記アナログ信号に相当する交流信号であって、その振幅値が、掃引刻み量に従って前記アナログ信号の低入力振幅最小値から定格入力振幅値まで複数段階で順次変化する調整用入力信号が、前記複数の入力変換器のうち特定の入力変換器に入力されたことを条件に、前記複数のフーリエ変換演算部のうち前記特定の入力変換器に対応する特定のフーリエ変換演算部の算出結果のうち前記調整用入力信号の振幅値を基に前記第1補正量を算出し、前記特定のフーリエ変換演算部の算出結果のうち前記調整用入力信号の位相を基に前記第2補正量を算出することを特徴とするディジタル保護リレー装置。
【請求項2】
請求項1に記載のディジタル保護リレー装置において、
前記補正演算部は、
前記位相基準信号に規定された振幅理論値と前記特定のフーリエ変換演算部の算出による前記調整用入力信号の振幅値との比を示すゲイン補正量を前記第1補正量として前記掃引刻み量毎に算出し、前記特定のフーリエ変換演算部の算出による前記調整用入力信号の位相と前記位相基準信号用フーリエ変換演算部の算出による前記位相基準信号の位相との差分を示す位相補正量を前記第2補正量として前記掃引刻み量毎に算出することを特徴とするディジタル保護リレー装置。
【請求項3】
請求項1に記載のディジタル保護リレー装置において、
前記補正演算部は、
前記位相基準信号に規定された振幅理論値の平均値と、前記特定のフーリエ変換演算部の算出結果のうち前記調整用入力信号の振幅値の平均値との比を示すゲイン補正量を前記第1補正量として前記掃引刻み量毎に算出し、前記特定のフーリエ変換演算部の算出結果のうち前記調整用入力信号の位相の平均値と前記位相基準信号用フーリエ変換演算部の算出結果のうち前記位相基準信号の位相との差分を示す位相補正量を前記第2補正量として前記掃引刻み量毎に算出することを特徴とするディジタル保護リレー装置。
【請求項4】
請求項1に記載のディジタル保護リレー装置において、
前記補正演算部は、
前記位相基準信号に規定された前記掃引刻み量毎の振幅理論値と、前記特定のフーリエ変換演算部の算出結果のうち前記調整用入力信号の振幅値であって、前記掃引刻み量毎の振幅値との比を示すゲイン補正量を前記掃引刻み量毎に算出し、算出した前記掃引刻み量毎のゲイン補正量と前記調整用入力信号の前記掃引刻み量毎の振幅値とを基に、最小二乗法の直線近似によるゲイン補正量計算値を前記第1補正量として算出し、
前記特定のフーリエ変換演算部の算出結果のうち前記調整用入力信号の位相であって、前記掃引刻み量毎の位相と前記位相基準信号用フーリエ変換演算部の算出結果のうち前記位相基準信号の位相との差分を示す位相補正量を前記掃引刻み量毎に算出し、算出した前記掃引刻み量毎の位相補正量と前記調整用入力信号の前記掃引刻み量毎の振幅値とを基に、前記最小二乗法の直線近似による位相補正量計算値を前記第2補正量として算出することを特徴とするディジタル保護リレー装置。
【請求項5】
請求項4に記載のディジタル保護リレー装置において、
前記補正演算部は、
前記入力変換器に前記アナログ信号が入力された場合、前記アナログ信号の入力振幅が、前記低入力振幅最小値と前記定格入力振幅値との中間である中間振幅値より大きいことを条件に、前記アナログ信号の入力振幅と定格ゲイン補正量とから第1補正後振幅を算出すると共に、前記アナログ信号の入力位相と定格位相補正量とから第1補正後位相を算出し、算出した前記第1補正後振幅を基に前記フーリエ変換演算部の算出による前記アナログ信号の振幅値を補正し、算出した前記第1補正後位相を基に前記フーリエ変換演算部の算出による前記アナログ信号の位相を補正し、
前記アナログ信号の入力振幅が、0と前記中間振幅値との間にあることを条件に、前記アナログ信号の入力振幅と前記ゲイン補正量計算値とから第2補正後振幅を算出すると共に、前記アナログ信号の入力位相と前記位相補正量計算値とから第2補正後位相を算出し、算出した前記第2補正後振幅を基に前記フーリエ変換演算部の算出による前記アナログ信号の振幅値を補正し、算出した前記第2補正後位相を基に前記フーリエ変換演算部の算出による前記アナログ信号の位相を補正することを特徴とするディジタル保護リレー装置。
【請求項6】
請求項1に記載のディジタル保護リレー装置において、
前記補正演算部は、
前記位相基準信号に規定された前記掃引刻み量毎の振幅理論値と、前記フーリエ変換演算部の算出結果のうち前記調整用入力信号の振幅値であって、前記掃引刻み量毎の振幅値との比を示す入力ゲイン補正量を前記掃引刻み量毎に算出し、算出した前記各掃引刻み量に対応した前記入力ゲイン補正量を第1補正量としてゲイン補正ルックアップテーブルに記録し、
前記フーリエ変換演算部の算出結果のうち前記調整用入力信号の位相であって、前記掃引刻み量毎の位相と前記位相基準信号用フーリエ変換演算部の算出結果のうち前記位相基準信号の位相との差分を示す入力位相補正量を前記掃引刻み量毎に算出し、算出した前記各掃引刻み量に対応した前記入力位相補正量を前記第2補正量として位相ルックアップテーブルに記録することを特徴とすることを特徴とするディジタル保護リレー装置。
【請求項7】
請求項6に記載のディジタル保護リレー装置において、
前記補正演算部は、
前記入力変換器に前記掃引刻み量のいずれかを振幅値に含む前記アナログ信号が入力された場合、前記アナログ信号の振幅値で特定される前記掃引刻み量に対応した入力ゲイン補正量を前記ゲイン補正ルックアップテーブルから抽出し、抽出した前記入力ゲイン補正量を基に前記フーリエ変換演算部の算出による前記アナログ信号の振幅値を補正し、
前記アナログ信号の振幅値で特定される前記掃引刻み量に対応した入力位相補正量を前記位相ルックアップテーブルから抽出し、抽出した前記入力位相補正量を基に前記フーリエ変換演算部の算出による前記アナログ信号の位相を補正することを特徴とするディジタル保護リレー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統に接続された保護対象を保護するディジタル保護リレー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術として、例えば、電力系統から入力されるアナログ信号を、入力変換器を介して取り込み、取り込んだアナログ信号をA/D(Analog/Digital)変換器でディジタル信号に変換し、変換されたディジタル信号から振幅値を算出し、算出した振幅値と予め設定されている基準振幅値との比をゲイン補正係数として算出し、算出したゲイン補正係数でゲイン補正するディジタル保護制御装置がある(特許文献1参照)。また、入出力特性に影響がある入力変換器の励磁インピーダンスを算出し、算出した励磁インピーダンスと入出力特性の理論式から入出力特性を補正するディジタル保護制御装置がある(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9-149536号公報
【特許文献2】特開2013-106359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、電力系統から入力されるアナログ信号は、電力系統からの絶縁と適切な入力レベルに変換するために、入力変換器を介して保護リレー装置に入力される。この入力変換器に用いられるトランスは、電力系統から入力されるアナログ信号の最大振幅の仕様となるフルスケール仕様により入出力特性が異なる。そのため、フルスケール仕様によってトランスの入出力特性が異なる場合でも、ディジタル保護リレー装置におけるリレー精度を確保するために、トランスの入出力特性の誤差をディジタル演算で補正することが行われている。例えば、入力変換器に定格のアナログ信号を印加した際のトランスの入出力特性の誤差を、ゲイン補正と位相補正で補正することが行われている。
【0005】
しかし、アナログ信号の入力振幅が定格より小さい入力振幅で、性能保証する最小入力振幅のときには、トランスの磁束密度が低く、トランスの励磁電流が減少し、それによりトランスの励磁インピーダンスが低下し、トランスの励磁コイル側に流れる電流が増加する一方で、トランスの入力側からトランスの出力側へ伝達される電流が減少し、トランスの入出力誤差が大きくなる。さらに、入力変換器の入出力特性は、各々のトランスで個体差による特性ばらつきがあることから、特性ばらつきをなくすには、トランス単体で性能保証する最小入力振幅で入出力特性を測定して、判定基準範囲内であるものを選別して使用する必要がある。しかし、この場合には、選別で判定基準範囲外となったトランスの部品コストと選別測定作業コストの無駄なコストが発生する課題がある。
【0006】
本発明の目的は、電力系統から入力されるアナログ信号の振幅値が、性能保証の最小値から最大値までのいずれであっても、入力変換器の入出力特性の誤差を補正することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、電力系統に接続された保護対象からアナログ量の電気信号を示すアナログ信号を入力し、入力した前記アナログ信号のレベルを変換して出力する複数の入力変換器と、前記各入力変換器の出力によるアナログ信号をディジタル信号に変換する複数のアナログ・ディジタル変換器と、前記各アナログ・ディジタル変換器の出力による前記ディジタル信号に対するフーリエ変換処理を行って、前記各アナログ信号の振幅値と位相を算出する複数のフーリエ変換演算部と、前記各フーリエ変換演算部の算出による前記振幅値を第1補正量で補正する演算と前記各フーリエ変換演算部の算出による前記位相を第2補正量で補正する演算を実行する補正演算部と、前記補正演算部の各演算結果を基に前記保護対象に対する保護演算処理を実行する保護演算部と、位相基準信号をディジタル信号に変換する位相基準信号用アナログ・ディジタル変換器と、前記位相基準信号用アナログ・ディジタル変換器の出力による前記ディジタル信号に対する前記フーリエ変換処理を行って、前記位相基準信号の振幅値と位相を算出し、各算出結果を前記補正演算部に出力する位相基準信号用フーリエ変換演算部と、を備え、前記補正演算部は、前記アナログ信号に相当する交流信号であって、その振幅値が、掃引刻み量に従って前記アナログ信号の低入力振幅最小値から定格入力振幅値まで複数段階で順次変化する調整のための既知の入力信号である調整用入力信号が、前記複数の入力変換器のうち特定の入力変換器に入力されたことを条件に、前記複数のフーリエ変換演算部のうち前記特定の入力変換器に対応する特定のフーリエ変換演算部の算出結果のうち前記調整用入力信号の振幅値を基に前記第1補正量を算出し、前記特定のフーリエ変換演算部の算出結果のうち前記調整用入力信号の位相を基に前記第2補正量を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電力系統から入力されるアナログ信号の振幅値が、性能保証の最小値から最大値までのいずれであっても、入力変換器の入出力特性の誤差を補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施例1に係るディジタル保護リレー装置の構成例を示す構成図である。
【
図2】本発明の実施例1に係るディジタル保護リレー装置のハードウェアとソフトウェアの構成例を示す構成図である。
【
図3】比較例に用いたディジタル保護リレー装置の定格入力印加時の補正処理を説明するためのフローチャートである。
【
図4】比較例に用いたディジタル保護リレー装置の定格入力印加時の補正処理による入出力特性図である。
【
図5】本発明の実施例1に係るディジタル保護リレー装置の低入力振幅時の第1補正処理を説明するためのフローチャートである。
【
図6A】本発明の実施例2に係るディジタル保護リレー装置の低入力振幅時の第2補正処理を説明するためのフローチャートである。
【
図6B】本発明の実施例2に係るディジタル保護リレー装置の低入力振幅時の第2補正処理結果を適用した処理を説明するためのフローチャートである。
【
図7】本発明の実施例2に係るディジタル保護リレー装置の低入振幅時の第2補正処理による入出力特性図である。
【
図8A】本発明の実施例3に係るディジタル保護リレー装置の第3補正処理を説明するためのフローチャートである。
【
図8B】本発明の実施例3に係るディジタル保護リレー装置の第3補正処理結果を適用した処理を説明するためのフローチャートである。
【
図9】本発明の実施例3に係るディジタル保護リレー装置の第3補正処理による入出力特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
【実施例0011】
図1は、本発明の実施例1に係るディジタル保護リレー装置の構成例を示す構成図である。
図1において、ディジタル保護リレー装置1は、複数の入力変換器1aと、複数のアナログフィルタ1bと、複数のA/D変換器1cと、複数のディジタルフィルタ1dと、CPU(Central・Processing・Unit)1eと、ワークメモリ1fと、補正値記録用不揮発メモリ1gと、入出力インターフェース(I/Oインターフェース)1hとを備え、各ディジタルフィルタ1dと、CPU1eと、ワークメモリ1fと、補正値記録用不揮発メモリ1gと、入出力インターフェース1hがバス1iを介して互いに接続される。
【0012】
各入力変換器1aは、複数のチャンネル、例えば、(三相・零相)×(入力側+出力側)×(電圧+電流)分のチャンネルとして16チャンネルに分かれて電力系統10に接続され、電力系統10からのアナログ信号(50Hz又は60Hz)である電圧信号又は電流信号を、アナログ電子回路で取り扱える電圧又は電流のレベルに変換し、変換した電圧又は電流の信号を各アナログフィルタ1bに出力するトランス(VT)又は変流器(CT)で構成される。入力変換器1aが、トランスで構成された場合、入力変換器1aは、電力系統10からの電圧信号を、例えば、±10Vの範囲内の電圧信号に変換する。
【0013】
複数のアナログフィルタ1bのうち一つのアナログフィルタ(位相基準信号用アナログフィルタ)1bは、位相基準信号20を入力し、入力した位相基準信号20の周波数帯域のみの信号を通過させてA/D変換器(位相基準信号用A/D変換器)1cに出力し、残りのアナログフィルタ1bは、各入力変換器1aからのアナログ信号を入力し、入力したアナログ信号の周波数帯域のみの信号を通過させて各A/D変換器1cに出力する。この際、各アナログフィルタ1bとしては、ディジタルサンプリングによる折返し誤差防止用アナログフィルタを用いることができる。
【0014】
各A/D変換器1cは、アナログ信号をディジタル信号に変換し、変換したディジタル信号をCPU1eに転送する。CPU1eは、ディジタル保護リレー装置1全体を統括制御する制御部として機能するプロセッサで構成され、バス1iを介して、各ディジタルフィルタ1bの出力信号を取り込むと共に、不揮発メモリ1gに記録された補正値を取り込み、ワークメモリ1f或いは記憶装置に格納された制御プログラムを基に各種の保護演算処理を実行する。ワークメモリ1fとしては、RAM(Random・Access・Memory)を用いることができ、不揮発メモリ1gとしては、フラッシュメモリ(Flash)等の導体メモリを用いることができる。
【0015】
この際、CPU1eは、例えば、複数のチャンネルのうちいずれかのチャンネルからの電圧が100Vから0Vとなり、電流が5Aから20Aになり、零相電流が検出された場合、このチャンネルで地絡事故が発生したとして、保護対象となる変圧器を保護するための保護リレーを動作させる保護演算処理を実行する。
【0016】
図2は、本発明の実施例1に係るディジタル保護リレー装置のハードウェアとソフトウェアの構成例を示す構成図である。
図2において、ディジタル保護リレー装置1のハードウェア2aは、入力変換器1aと、複数のアナログフィルタ1bと、複数のA/D変換器1cと、補正値記録用不揮発メモリ1gとから構成される。ディジタル保護リレー装置1のソフトウェア2bは、位相基準信号20をディジタル信号に変換するA/D変換器1cの出力によるディジタル信号をフーリエ変換処理する特定のフーリエ変換演算部2cと、電力系統10からのアナログ信号をディジタル信号に変換するA/D変換器1cの出力によるディジタル信号をフーリエ変換処理する位相基準信号用フーリエ変換演算部2cと、各フーリエ変換演算部2cでフーリエ変換理された信号の振幅A0、A1及び位相θ0、θ1を補正値記録用不揮発性メモリ1gに記録された各補正値(第1補正量及び第2補正量)で補正する演算を実行し、振幅Ac1、位相θc1の補正処理信号を生成する補正演算部2dと、補正演算部2dの演算結果による補正処理信号を基に保護演算を行い、この保護演算により電力系統における事故(地絡事故等)の有無を判定する保護演算部2eとを備える。各演算部は、制御プログラムで構成される。この際、補正演算部2dは、各フーリエ変換演算部2cの算出による振幅値を第1補正量で補正する演算と各フーリエ変換演算部2cの算出による位相を第2補正量で補正する演算を実行する。また、保護演算部2eは、補正演算部2dの演算結果を基に各チャンネルにおける地絡事故や短絡事故を検出する演算を実行する。なお、
図2には、ディジタル保護リレー装置1のハードウェア2aのうち補正演算に利用される、入力変換器1aとアナログフィルタ1b及びA/D変換器1cのみが図示されている。
【0017】
図3は、比較例に用いたディジタル保護リレー装置の定格入力印加時の補正処理を説明するためのフローチャートである。
図3において、比較例に用いたディジタル保護リレー装置は、アナログ信号の定格入力振幅A
R1,定格入力の振幅理論値A
T1,ゲイン補正量G
CR1、アナログ信号の定格入力位相θ
R1、基準信号位相θ
REF、位相補正量θ
CR1をそれぞれ入力情報として取り込み(S1)、入力情報を基に、定格入力時のゲイン補正量G
CR1と、位相補正量θ
CR1を算出する(S2)。この際、定格入力時のゲイン補正量G
CR1は、ゲイン補正量G
CR1=定格入力の振幅理論値A
T1/定格入力振幅A
R1かから算出される。位相補正量θ
CR1は、位相補正量θ
CR1=位相補正量θ
CR1-基準信号位相θ
REFから算出される。
【0018】
図4に、比較例に用いたディジタル保護リレー装置の定格入力印加時の補正処理による入出力特性図を示す。
図4に示すように、比較例では、定格入力時のアナログ信号を基に、ゲイン補正量G
CR1と位相補正量θ
CR1を算出しているので、低入力振幅時に、入出力特性の誤差が大きくなることが分かる。
【0019】
図5は、本発明の実施例1に係るディジタル保護リレー装置の低入力振幅時の第1補正処理を説明するためのフローチャートである。この処理は、工場出荷時における低入力振幅時の補正処理として、補正誤差を平均化するための処理を実行するものである。
【0020】
図5において、例えば、
図2に示す特定の入力変換器1aには、電力系統に接続される保護対象、例えば、変圧器に入力されるアナログ信号に相当する交流信号(50Hz又は60Hz)であって、その振幅値が、掃引刻み量(低入力振幅掃引刻み量ΔA
L、例えば、0.1V)に従って、アナログ信号の低入力振幅最小値(性能保証の最小値、例えば、数十mV又は数十mA)から定格入力振幅値(性能保証の最大値、例えば、110V又は5A)まで複数段階で順次変化する調整のための既知の入力信号である調整用入力信号が入力される。調整用入力信号は、例えば、数十mVから110Vまで、0.1Vずつ複数段階で順次変化する信号である。なお、性能保証とは、ディジタル保護リレー装置1の性能を保証することを意味する。
【0021】
補正演算部2dは、低入力振幅AL[i]、低入力振幅理論値ALT[i]、低入力ゲイン補正量GCL[i]、低入力位相θL[i]、基準信号位相θREF[i]、低入力位相補正量θCL[i]、低入力ゲイン平均補正量GAVL、低入力位相平均補正量θAVL、低入力振幅掃引刻み量ΔAL、定格入力振幅AR1に関する情報を対象として処理を開始する(S11)。この際、補正演算部2dは、(AR1-AL)/ΔAL=N(Nは自然数)、AL[i]=AR1、i=0、AL[0]=低入力振幅最小値として処理する。
【0022】
補正演算部2dは、調整用入力信号が特定の入力変換器1aに入力されたことに伴って、特定の入力変換器1aに対応した特定のフーリエ変換演算部2cの各算出結果と位相基準信号用フーリエ変換演算部2cの各算出結果を取り込み、調整用入力信号の振幅値に対する低入力ゲイン補正量GCL[i]と調整用入力信号の位相に対する低入力位相補正量θCL[i]を掃引刻み量(低入力振幅掃引刻み量ΔAL)毎に算出する(S12)。この際、補正演算部2dは、低入力ゲイン補正量GCL[i]=位相基準信号20に規定された低入力振幅理論値ALT[i]/調整用入力信号の低入力振幅AL[i]として算出し、低入力位相補正量θCL[i]=調整用入力信号の低入力位相θL[i]-基準信号位相θREFとして算出する。
【0023】
次に、補正演算部2dは、ステップS12の算出結果を基に、低入力ゲイン平均補正量GAVLと低入力位相平均補正量θAVLを掃引刻み量(低入力振幅掃引刻み量ΔAL)毎に算出する(S13)。この際、補正演算部2dは、低入力ゲイン平均補正量GAVL=低入力ゲイン平均補正量GAVL(初期値)+低入力ゲイン補正量GCL[i]/Nとして算出し、低入力位相平均補正量θAVL=低入力位相平均補正量θAVL(初期値)+低入力位相補正量θCL[i]/Nとして算出する。
【0024】
次に、補正演算部2dは、i=i+1とする処理を実行し(S14)、この後、iがNよりも小さいか或いはNと等しいか否かを判定し(S15)、iがNよりも小さいか或いはNと等しいときには、ステップS12の処理に移行し、ステップS12~ステップS15の処理を繰り返し、iがNよりも大きくなったときには、ステップS13の処理結果を補正値記録用不揮発性メモリ1gに格納し(S16)、その後、このルーチンでの処理を終了する。
【0025】
上記処理により、補正演算部2dは、位相基準信号に対して規定された、掃引刻み量毎の振幅理論値の平均値と、特定のフーリエ変換演算部2cの算出結果のうち調整用入力信号の振幅値であって、掃引刻み量毎の振幅値の平均値との比からゲイン補正量を第1補正量として算出し、特定のフーリエ変換演算部2cの算出結果のうち調整用入力信号の位相であって、掃引刻み量毎の位相の平均値と位相基準信号の位相との差分から位相補正量を第2補正量として算出する。
【0026】
本実施例によれば、電力系統から入力されるアナログ信号の振幅値が、性能保証の最小値から最大値までのいずれであっても、最小値の信号域から最大値の信号域に亘って入力変換器の入出力特性の誤差を平均化して補正することができ、結果として、最小値の信号域から最大値の信号域に亘って入力変換器の入出力特性の誤差が平均化されて補正されたゲイン補正量及び位相補正量を得ることができる。
次に、補正演算部2dは、i=i+1とする処理を実行し(S23)、この後、iがNよりも小さいか或いはNと等しいか否かを判定し(S24)、iがNよりも小さいか或いはNと等しいときには、ステップS22の処理に移行し、ステップS22~ステップS24の処理を繰り返し、iがNよりも大きくなったときには、i=0として、ループ回数iを再度初期化する(S25)。
次に、補正演算部2dは、ステップS22~S24の算出結果を基に、ゲイン補正および位相補正の近似直線を最小二乗法の直線近似の係数として、ゲイン補正近似直線算出係数Yg、Xg、Xgsq、XYg及び位相補正近似直線係数Yp、Xp、Xpsq、XYpを算出する(S26)。この際、補正演算部2dは、ゲイン補正近似直線算出係数Xg=Xg(初期値)+低入力振幅AL[i]として算出し、ゲイン補正近似直線算出係数Yg=Yg(初期値)+低入力ゲイン補正量GCL[i]として算出し、ゲイン補正近似直線算出係数Xgsq=Xgsq(初期値)+低入力振幅AL[i]×低入力振幅AL[i]として算出し、ゲイン補正近似直線算出係数XYg=XYg(初期値)+低入力振幅AL[i]×低入力ゲイン補正量GCL[i]として算出する。また、補正演算部2dは、位相補正近似直線係数Xp=Xp(初期値)+低入力振幅AL[i]として算出し、位相補正近似直線係数Yp=Yp(初期値)+低入力位相補正量θCL[i]として算出し、位相補正近似直線係数Xpsq=Xpsq(初期値)+低入力振幅AL[i]×低入力振幅AL[i]として算出し、位相補正近似直線係数XYp=XYp(初期値)+低入力振幅AL[i]×低入力ゲイン補正量GCL[i]として算出する。
次に、補正演算部2dは、i=i+1とする処理を実行し(S27)、この後、iがNよりも小さいか或いはNと等しいか否かを判定し(S28)、iがNよりも小さいか或いはNと等しいときには、ステップS26の処理に移行し、ステップS26~ステップS28の処理を繰り返し、iがNよりも大きくなったときには、ステップS29の処理に移行する。
本実施例によれば、電力系統から入力されるアナログ信号の振幅値が、性能保証の最小値から最大値までのいずれであっても、最小値の信号域から最大値の信号域に亘って入力変換器の入出力特性の誤差を最小二乗法の直線近似で算出したもので補正することができ、結果として、最小二乗法の直線近似で補正されたゲイン補正量及び位相補正量を得ることができる。また、本実施例によれば、入力振幅Ainが、0と中間振幅値AMIDとの間に存在する場合と、入力振幅Ainが中間振幅値AMIDよりも大きい場合とに分けて、電力系統から入力されるアナログ信号の振幅値を補正することができる。