(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038541
(43)【公開日】2023-03-17
(54)【発明の名称】焼結体
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230310BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20230310BHJP
C22C 38/42 20060101ALI20230310BHJP
C22C 38/44 20060101ALN20230310BHJP
【FI】
C22C38/00 304
C22C33/02 A
C22C38/42
C22C38/00 301Z
C22C38/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021145323
(22)【出願日】2021-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000220435
【氏名又は名称】株式会社ファインシンター
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後迫 勉
(72)【発明者】
【氏名】植田 義久
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA29
4K018AA30
4K018AA32
4K018AB07
4K018AC01
4K018BA02
4K018BA04
4K018BA15
4K018BB04
4K018BC12
4K018DA21
4K018FA08
(57)【要約】
【課題】浸炭焼入れ焼き戻しを実施しなくとも十分な機械的強度を有する焼結体を提供すること。
【解決手段】クロムを含む鉄系粉末、銅粉末、ニッケル粉末、及び炭素粉末を含む粉末材料を焼結させた焼結体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロムを含む鉄系粉末、銅粉末、ニッケル粉末、及び炭素粉末を含む粉末材料を焼結させた焼結体。
【請求項2】
前記粉末材料100質量%中に前記銅粉末が0.5~5.0質量%含まれる、請求項1に記載の焼結体。
【請求項3】
前記粉末材料100質量%中に前記炭素粉末が0.1~3.0質量%含まれる、請求項1又は2に記載の焼結体。
【請求項4】
前記粉末材料100質量%中に前記ニッケル粉末が0.5~5.0質量%含まれる、請求項1~3の何れか1項に記載の焼結体。
【請求項5】
前記鉄系粉末100質量%中に、クロムが1.0~5.0質量%含まれる、請求項1~4の何れか1項に記載の焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に使用される機械部品には、高い機械的強度及び成形精度が求められる。かかる条件を満たすものとして、特許文献1には、金属を主成分とする粉末を焼結した焼結体材料が開示されている。
【0003】
しかしながら、かかる焼結体の製造には、十分な機械的強度を付与するための、焼結工程後の浸炭焼入れ焼き戻し工程が必要となる。また、浸炭焼入れ焼き戻しと同等の特性となる既存のシンターハードニング材ではローラーハース式シンターハードニング炉という特殊な炉が必要となり、コスト面でのデメリットが存在する。
【0004】
そこで、浸炭焼入れ焼き戻し炉やローラーハース式シンターハードニング炉のような高額な設備を必要とせず、且つ、十分な機械的強度も兼ね備えた焼結体材料が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような事情に鑑み、本発明の目的とするところは、浸炭焼入れ焼き戻しを実施しなくとも十分な機械的強度を有する焼結体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、既存のクロムを含む鉄系粉末に対し、銅及びニッケル、炭素を添加した粉末を焼結することにより、浸炭焼入れ焼き戻しを実施しなくとも十分な機械的強度を有する焼結体を製造できることを見出した。本発明者は、かかる知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下の焼結体を提供する。
項1.
クロムを含む鉄系粉末、銅粉末、ニッケル粉末、及び炭素粉末を含む粉末材料を焼結させた焼結体。
項2.
前記粉末材料100質量%中に前記銅粉末が0.5~5.0質量%含まれる、項1に記載の焼結体。
項3.
前記粉末材料100質量%中に前記炭素粉末が0.1~3.0質量%含まれる、項1又は2に記載の焼結体。
項4.
前記粉末材料100質量%中に前記ニッケル粉末が0.5~5.0質量%含まれる、項1~3の何れかに記載の焼結体。
項5.
前記鉄系粉末100質量%中に、クロムが1.0~5.0質量%含まれる、項1~4の何れかに記載の焼結体。
【発明の効果】
【0009】
以上にしてなる本発明に係る焼結体は、浸炭焼入れ焼き戻しを実施しなくとも、十分な機械的強度を有する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。また、本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。
【0011】
(1.焼結体)
本発明の焼結体は、クロムを含む鉄系粉末、銅粉末、ニッケル粉末、及び炭素粉末を含む粉末材料を焼結させたものである。
【0012】
(1.1.鉄系粉末)
鉄系粉末は、鉄合金粉であってもよいし、鉄純粉と鉄合金粉との混合粉末であってもよい。
【0013】
鉄合金粉に含まれる合金元素としては、クロム以外に例えば、モリブデン、ニオブ、タングステン、及びバナジウム等を例示することができる。これらは一種のみが含まれていてもよいし、二種以上が含まれていてもよい。
【0014】
上記した中でも、鉄合金粉に含まれる合金元素として、クロム以外にモリブデンが好ましい。かかる鉄合金粉を採用することにより、高い機械的強度を有する焼結体を得ることができる。
【0015】
この際、鉄系粉末100質量%中に含まれるクロムの量は、材料コストと得られる焼結体の機械的強度とのバランスを考慮し、1.0~5.0質量%とすることが好ましく、2~4質量%とすることがより好ましい。
【0016】
さらに、鉄系粉末100質量%中に含まれるモリブデンの量についても同様の理由から、0.1~1.0質量%とすることが好ましく、0.3~0.7質量%とすることがより好ましい。
【0017】
鉄系粉末の平均粒子径は45~212μmとすることが好ましく、45~150μmとすることがより好ましい。かかる平均粒子径を採用することにより、粉末の金型への充填性が確保できる。
【0018】
かかる鉄系粉末として、例えばヘガネス社製AstaloyCrMを挙げることができる。
【0019】
(1.2.銅粉末)
本発明の焼結体に使用される粉末材料は、上記した鉄系粉末に加えて、さらに銅粉末を含む。粉末材料中に銅粉末が含まれない場合、焼結体の十分な機械的強度を得ることができない。
【0020】
粉末材料に含まれる銅粉末の量は、粉末材料100質量%中に、銅粉末0.5~5.0質量%とすることが好ましく、1~3質量%とすることが好ましい。銅粉末が粉末材料100質量%中に0.5質量%以上含まれることにより、焼結工程後の浸炭焼入れ焼き戻し工程を実施しなくとも十分な機械的強度を有する焼結体を得ることができる。一方、コスト面を考慮し、粉末材料中に含まれる銅粉末量は5.0質量%以下とすることが好ましい。
【0021】
銅粉末の平均粒子径は、5~75μmとすることが好ましく、5~45μmとすることがより好ましい。かかる平均粒子径とすることにより、銅の流出孔を小さく抑えることができる。
【0022】
(1.3.炭素粉末)
本発明の焼結体に使用される粉末材料は、さらに、炭素粉末を含む。炭素粉末としては、例えば、黒鉛粉末を使用することができる。
【0023】
粉末材料に含まれる炭素粉末の量は、粉末材料100質量%中に、炭素粉末0.1~3.0質量%とすることが好ましく、0.3~1.5質量%とすることがより好ましく、0.5~1.0質量%とすることがさらに好ましい。
【0024】
炭素粉末の平均粒子径は、3~20μmとすることが好ましく、5~10μmとすることがより好ましい。
【0025】
(1.4.ニッケル粉末)
本発明の焼結体に使用される粉末材料は、ニッケル粉末を含む。粉末材料にニッケル粉末が含まれない場合、焼結体の疲労強さや硬さが不十分となってしまう。
【0026】
粉末材料に含まれるニッケル粉末の量は、粉末材料100質量%中に、ニッケル粉末が0.5~5.0質量%とすることが好ましく、1.0~3.0質量%とすることがより好ましい。ニッケル粉末が粉末材料100質量%中に0.5質量%以上含まれることにより、焼結工程後の浸炭工程及び焼き戻し工程を実施しなくとも十分な機械的強度を有する焼結体を得ることができる。一方、コスト面を考慮し、粉末材料中に含まれる銅粉末量は5.0質量%以下とすることが好ましい。
【0027】
ニッケル粉末の平均粒子径は、1~15μmとすることが好ましく、3~7μmとすることがより好ましい。かかる平均粒子径とすることにより、ニッケルの分布を均一にすることができる。
【0028】
(1.5.その他成分)
本発明の焼結体に使用される粉末材料は、その効果及び目的を損なわない範囲内で、その他の成分を含むことも好ましい。かかる成分として、モリブデン、ニオブ、タングステン、及びバナジウム等を挙げることができる。
【0029】
本発明の焼結体は、上記した粉末材料を焼結、焼き戻しして得られるものであり、粉末材料中の各主成分組成(配合量)は、焼結して焼結体となっても不変である。
【0030】
(2.焼結体の製造方法)
本発明の焼結体は、上記した粉末材料を焼結、焼き戻しすることにより、得ることができる。
【0031】
粉末材料は、上記した配合成分を均一になるように混合し、得ることができる。
【0032】
本発明の焼結体は、極めて優れた機械的強度を有しているため、焼結工程後の浸炭工程及び焼き戻し工程を実施する必要がない。換言すると、本発明の焼結体は、焼結工程後の浸炭工程及び焼き戻し工程を実施しなくとも、優れた機械的強度を有する。
【0033】
従来の浸炭焼入れ焼き戻しを前提とした焼結体では焼結工程直後の焼結体組織はフェライトまたはパーライト構造であり、その後に再加熱、浸炭、油冷、焼戻しを実施することにより機械的強度の高いマルテンサイト構造が形成される。本発明では粉末材料の組成を上記の通りに最適化することにより、焼結処理のみでマルテンサイト構造が形成される。
【0034】
本発明の焼結体の製造方法においては、浸炭工程及び焼戻し工程が不要である。また、急速な冷却が必要なシンターハードニング材のようにローラーハース式シンターハードニング炉が不要であり、より簡易なメッシュベルト式焼結炉又はプッシャー式コンベクール炉を使用することができる。
【0035】
焼結温度としては、1000~1500℃とすることが好ましく、1100~1300℃とすることがより好ましい。
【0036】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例0037】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0038】
(実施例及び比較例)
ヘガネス社製AstaloyCrM(3質量%Cr及び0.5質量%Moを含む鉄の合金粉末)に対し、下記表1に示した通りの粉末を加えて混合した。
【0039】
得られた粉末材料を、幅115mm×厚さ15mmの成形型を用い密度6.6~7.1g/cm3の範囲で成形(狙い密度6.6、6.8、7.1g/cm3)、厚さ5mmのカーボン製トレイの上に並べメッシュベルト式焼結炉(1130℃×均熱15min以上 N2+H2混合雰囲気)を用い焼結と冷却を行い、その後必要に応じ大気炉を用い、180℃×60minの焼き戻しを行った。この際の焼結炉の冷却は通常のウォータージャケット方式にて行った。
【0040】
【表1】
(表中、CrMは、ヘガネス社製AstaloyCrMを意味する。)
【0041】
引張強さ評価試験
上記にて得られた粗材から評価部がΦ8mm、標点間距離が25mm、チャック部がM12のねじ形状になるよう加工を行い、島津製作所製オートグラフに取り付けて3mm/minの速度で引っ張り破断した時の荷重を断面積で割り引張強さとした(引張試験方法 JIS Z 2241による)。また測定は各狙い密度でn=3実施し、その平均をその密度での値とした。なお、試験片の正確な密度は、試験実施前に水浸法(JIS Z 2501による)にて測定を行った。
【0042】
回転曲げ疲労強さ評価試験
上記同様、粗材から平行部がΦ8mm、評価部長さ25mmとなるよう加工を行い、島津製作所製 小野式回転曲げ疲労試験機に取り付け、荷重(錘)を加え回転数3600rpmで破断するまで回転、回転数が107回で破断した時の荷重を断面積で割った値をその密度の回転曲げ疲労強さとした(JIS Z 2274による)。なお、試験片の正確な密度は引張試験同様、試験前に実施した。
【0043】
見掛硬さ評価試験
見掛硬さ試験は引張試験を行った試験片を切断、樹脂埋めを行い耐水ペーパーでの研磨、アルミナによるバフ研磨を行い、断面の気孔出しを行った上で行った。硬さ測定にはビッカース硬度計を用い98Nの荷重で行った。測定は各狙い密度でn=3実施し、その平均をその密度での値とした(JIS Z 2244による)。
【0044】
下記表2に示すとおり、各実施例の焼結体(横軸を密度、縦軸を各特性値としたグラフから得られた、密度7.0g/cm3での各特性値)は、浸炭焼入れ焼き戻しを実施しなくとも、浸炭焼入れ焼き戻しを実施した焼結体と同等或いはそれ以上の機械的特性を有することが確認された。
【0045】