(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038547
(43)【公開日】2023-03-17
(54)【発明の名称】発電システム
(51)【国際特許分類】
E02B 9/00 20060101AFI20230310BHJP
E03B 3/08 20060101ALI20230310BHJP
F03B 13/02 20060101ALI20230310BHJP
【FI】
E02B9/00 A
E03B3/08 Z
F03B13/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021145330
(22)【出願日】2021-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】520124442
【氏名又は名称】恒賀 健太郎
(71)【出願人】
【識別番号】520124453
【氏名又は名称】岡村 隆弘
(74)【代理人】
【識別番号】100147706
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 裕司
(72)【発明者】
【氏名】恒賀 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】岡村 隆弘
【テーマコード(参考)】
3H074
【Fターム(参考)】
3H074AA10
3H074AA12
3H074BB30
3H074CC39
3H074CC47
(57)【要約】
【課題】サイホン管を用いることなく地下水を循環させることによって水力発電を行う発電システムを提供する。
【解決手段】発電システム100を、被圧層における、比較的多くの地下水Wが賦存されている地下水多量位置112に対して流体的に連結された生産井110と、地下水Wが賦存されている量が比較的少ない地下水少量位置122に流体的に連結されている還元井120と、生産井110からの地下水Wの少なくとも一部を還元井120に導く水路130と、地下水Wの運動エネルギーを受けて発電を行う発電機150とで構成する。生産井110から地下水Wを汲み上げて地下水多量位置112の水位を下げるとともに、還元井120に少なくとも一部の地下水Wを供給して地下水少量位置122の水位を上げることにより、還元井120に供給した地下水Wを地下水多量位置122に戻す。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被圧層における、比較的多くの地下水が賦存されている地下水多量位置に対して流体的に連結された生産井と、
前記被圧層における、前記地下水が賦存されている量が比較的少ない地下水少量位置に流体的に連結されており、前記生産井よりも標高が低い位置に形成されている還元井と、
前記生産井から汲み上げられた前記地下水の少なくとも一部を前記還元井に導く水路と、
前記水路に配置され、前記地下水の運動エネルギーを受けて発電を行う発電機とを備える発電システムであって、
前記還元井が設けられた前記地下水少量位置における前記被圧層の上端から地表までの厚さが、前記生産井が設けられた前記地下水多量位置における前記被圧層の上端から地表までの厚さよりも厚く、かつ、前記地下水少量位置と前記地下水多量位置とが互いに水平方向に並んでいることにより、前記地下水少量位置の地層における圧力が前記地下水多量位置の地層における圧力よりも高くなっており、
前記生産井から前記地下水を汲み上げることによって前記地下水多量位置の水位を下げて前記地下水多量位置の地層における圧力を下げるとともに、前記還元井に少なくとも一部の前記地下水を供給することによって前記地下水少量位置の水位を上げて前記地下水少量位置の地層における圧力を上げることにより、
前記地下水多量位置の地層における圧力と前記地下水少量位置の地層における圧力との差によって水位を下げる動きをする前記地下水多量位置に前記還元井に供給した前記地下水を戻すようになっていることを特徴とする
発電システム。
【請求項2】
前記生産井および前記還元井は、それぞれ山の斜面に形成されており、
前記還元井の地表位置は、前記生産井の地表位置よりも標高が低い位置に設定されている
請求項1に記載の発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水力による比較的小規模な発電量を生じさせる発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従前より、特許文献1に開示されているように、上部帯水層に形成された揚水井から、当該上部帯水層より下方にある下部帯水層に形成された注入井に対して、サイホン管を用いることによって地下水を流し、この地下水の流れで発電を行うシステムが開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された発電システムのように、揚水井の地下水をサイホン管で一時的に高い位置まで持ち上げてから、より低い位置にある注入井に戻すシステムの場合、例えば注入井の水位が下がってサイホン管における注入井側の端が地下水から露出してしまい、当該サイホン管内にエアが入ってしまうと、サイホン管内における地下水の流れが止まってしまい、発電も止まってしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、その目的は、サイホン管を用いることなく地下水を循環させることによって水力発電を行う発電システムを提供することにある。
【0006】
本発明の一局面に従うと、
被圧層における、比較的多くの地下水が賦存されている地下水多量位置に対して流体的に連結された生産井と、
前記被圧層における、前記地下水が賦存されている量が比較的少ない地下水少量位置に流体的に連結されており、前記生産井よりも標高が低い位置に形成されている還元井と、
前記生産井から汲み上げられた前記地下水の少なくとも一部を前記還元井に導く水路と、
前記水路に配置され、前記地下水の運動エネルギーを受けて発電を行う発電機とを備える発電システムであって、
前記還元井が設けられた前記地下水少量位置における前記被圧層の上端から地表までの厚さが、前記生産井が設けられた前記地下水多量位置における前記被圧層の上端から地表までの厚さよりも厚く、かつ、前記地下水少量位置と前記地下水多量位置とが互いに水平方向に並んでいることにより、前記地下水少量位置の地層における圧力が前記地下水多量位置の地層における圧力よりも高くなっており、
前記生産井から前記地下水を汲み上げることによって前記地下水多量位置の水位を下げて前記地下水多量位置の地層における圧力を下げるとともに、前記還元井に少なくとも一部の前記地下水を供給することによって前記地下水少量位置の水位を上げて前記地下水少量位置の地層における圧力を上げることにより、
前記地下水多量位置の地層における圧力と前記地下水少量位置の地層における圧力との差によって水位を下げる動きをする前記地下水多量位置に前記還元井に供給した前記地下水を戻すようになっていることを特徴とする
発電システムが提供される。
【0007】
好適には、
前記生産井および前記還元井は、それぞれ山の斜面に形成されており、
前記還元井の地表位置は、前記生産井の地表位置よりも標高が低い位置に設定されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る発電システムによれば、被圧層において、比較的多くの地下水が賦存されている地下水多量位置と地下水が賦存されている量が比較的少ない地下水少量位置とを境界層を介して適切な距離で設定し、かつ、還元井を設けた地下水少量位置における被圧層の上端から地表までの厚さが生産井を設けた地下水多量位置における被圧層の上端から地表までの厚さより厚く、かつ、地下水少量位置と地下水多量位置とが互いに水平方向に並んでいるように設定する。これにより、被圧層の上端から表面までの厚さの違いによって、地下水少量位置における圧力が地下水多量位置における圧力よりも高い状態でそれぞれ平衡圧力になっている。なお、この平衡圧力の状態における、地下水多量位置および地下水少量位置における地下水の水位をそれぞれの平衡水位という。
【0009】
このような状態で、生産井から地下水を汲み上げることによって地下水多量位置の水位を当該地下水多量位置における平衡水位よりも下げて当該地下水多量位置における圧力を(地下水多量位置の)平衡圧力よりも下げるとともに、生産井から汲み上げた地下水の少なくとも一部を還元井に供給することによって地下水少量位置の水位を上げて当該地下水少量位置における圧力を(地下水少量位置の)平衡圧力よりも上げることにより、地下水多量位置における圧力および地下水少量位置における圧力とそれぞれの位置における平衡圧力との差によって還元井に供給した地下水が境界層を介して地下水多量位置に戻されるようになっているので、地下水多量位置と地下水少量位置との間で地下水が循環する作用を生じさせることができる。
【0010】
なお、ここでいう「水位」とは、「地下水位」のことであり、「地下水位」とは「被圧帯水層が受ける地下圧力」を意味している。
【0011】
これにより、サイホン管を用いることなく地下水を循環させることによって水力発電を行うことができる。
【0012】
また、単に、高い位置にある貯水池やダム等から低い位置にある河川や海等に水を放流して発電を行う水力発電とは異なり、生産井から汲み上げた地下水を還元井に戻すことで当該発電システムを設けた山等の全体の水分量を保つことができ、地層や地域の環境を大きく変化させることのない発電システムを供給できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明が適用された実施形態に係る発電システム100の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(発電システム100の構成)
本発明が適用された実施形態に係る発電システム100は、
図1に示すように、大略、生産井110と、還元井120と、水路130と、発電機140と、揚水ポンプ150とを備えている。
【0015】
生産井110は、山間部等の斜面において比較的標高が高い地点から穿設された井戸であり、地下の地層の被圧層における、比較的多くの地下水Wが賦存されている地下水多量位置112に対して流体的に連結されている。なお、生産井110は、地上付近まで自然水位が確認される自噴井である。
【0016】
還元井120は、山間部等の斜面において生産井110よりも標高が低い地点から穿設された井戸であり、地下の地層の被圧層における、地下水Wが賦存されている量が比較的少なく外部から与えられた水が染み込むような吸水性が高い地層である地下水少量位置122に流体的に連結されている。
【0017】
つまり、還元井120の地表位置121は、生産井110の地表位置111よりも標高が低い位置に設定されている。また、還元井120の底123は、生産井110の底113よりも標高が低い位置に設定されている。
【0018】
水路130は、生産井110から汲み上げられた地下水Wの少なくとも一部を還元井120に導くものであり、生産井110や還元井120が設けられた山間部等の地表に形成された凹所であってもよいし、当該地表から所定の高さに設けられた水道管でもよいし、当該地表よりもやや低い位置に形成された暗渠であってもよい。
【0019】
発電機140は、水路130に配置されており、生産井110から汲み上げられた地下水Wが還元井120に向けて流れる際の運動エネルギーを受けて発電を行う機械であり、公知の水力発電用発電機が使用されている。
【0020】
揚水ポンプ150は、生産井110の近傍に配置されており、本実施形態に係る発電システム100を起動させる際に、生産井110から地下水Wを汲み上げて地下水多量位置112の水位を下げることを目的として使用される。還元井120から生産井110への地下水Wの循環が成立した後は、当該揚水ポンプ150による地下水Wの汲み上げ動作が不要となるので、揚水ポンプ150の動作を停止させることになる。
【0021】
なお、揚水ポンプ150の動力は、電力であれば、商用電力や太陽光発電による電力を使用することができる。もちろん、電力以外にも内燃機関等の動力を使用するポンプを揚水ポンプ150として使用することも考えられる。
【0022】
(還元井120から生産井110への地下水Wの循環について)
次に、還元井120から生産井110への地下水Wの循環メカニズムについて、
図1を用いて説明する。
【0023】
基本的な原理は、加圧層(難透水層)Cによって閉ざされた被圧層Bにおいて、比較的多くの地下水Wが賦存されている地下水多量位置112と、地下水Wが賦存されている量が比較的少ない地下水少量位置122とを境界層Dを介して適切な距離で設定する(実際には、そのような条件を満たす山等を調査によって探すことになる。)。
【0024】
ここで「境界層D」とは、上述のように地下水多量位置112と地下水少量位置122との間にあり、両位置112,122間での地下水Wの透過が可能で、かつ、地下水多量位置112と地下水少量位置122とが互いに異なる圧力で平衡圧力となるような性質を有する層である。
【0025】
そして、例えば山間部においては山頂から麓に行くほど被圧層Bの上端(つまり、加圧層Cの位置)から地表までの厚さ(つまり、不圧層Aの厚さ)が厚くなることから、生産井110の地表位置111よりも標高が低い位置に還元井120の地表位置121を形成することにより、還元井120を設けた地下水少量位置122における被圧層Bの上端から地表までの厚さH1が生産井110を設けた地下水多量位置112における被圧層Bの上端から地表までの厚さH2より厚くなる。もちろん、上記のような被圧層の上端から地表までの厚さの条件が揃うのであれば、山間部でなくてもよい。なお、地下水多量位置112の被圧層Bと、地下水少量位置122の被圧層Bとは、互いに水平方向に並んでいるのが前提である。
【0026】
この被圧層Bの上端から地表までの厚さの違いによって、地下水少量位置122における圧力が地下水多量位置112における圧力よりも高い状態でそれぞれ平衡圧力になっている。
【0027】
また、この平衡圧力の状態における、地下水多量位置および地下水少量位置における地下水Wの水位をそれぞれの平衡水位という。
【0028】
このような状態で、生産井110から地下水Wを汲み上げることによって地下水多量位置112の水位(地下水多量位置112において地下水Wが受ける地下圧力)を当該地下水多量位置112における平衡水位よりも下げると、加圧層Cによって閉ざされた被圧層Bにある地下水多量位置112における圧力は平衡圧力よりも下がる。
【0029】
そして、生産井110から汲み上げた地下水Wの少なくとも一部を還元井120に供給する。これにより、地下水少量位置122の水位(地下水少量位置122において地下水Wが受ける地下圧力)を当該地下水少量位置122における平衡水位よりも上げると、加圧層Cによって閉ざされた被圧層Bにある地下水少量位置122における圧力は平衡圧力よりも上がることになる。
【0030】
これにより、地下水多量位置112における圧力および地下水少量位置122における圧力とそれぞれの位置における平衡圧力との差によって、還元井120に供給した地下水Wが、平衡圧力よりも高い状態の地下水少量位置122から境界層Dを介して平衡圧力よりも低い状態の地下水多量位置112に戻される。このようにして、地下水多量位置112と地下水少量位置122との間で地下水Wが循環する作用を生じさせることができる。
【0031】
本実施形態に係る発電システム100は、地下水多量位置112と地下水少量位置122との間における、それぞれの位置での被圧層Bの上端(つまり、加圧層Cの位置)から地表までの厚さ(つまり、不圧層Aの厚さ)に起因する平衡圧力の差、および、地下水多量位置112にある地下水Wを汲み上げるとともに、地下水少量位置122に当該地下水Wを戻すことによって生じる、それぞれの平衡圧力からの圧力差(地下水多量位置112における圧力は平衡圧力よりも低くなり、地下水少量位置122における圧力は平衡圧力よりも高くなる。)を利用して、地下水少量位置122から地下水多量位置112への地下水Wの流れを作り出して当該地下水Wを循環させることをポイントとしている。
【0032】
なお、還元井120に戻す地下水Wの量は、生産井110から汲み上げた地下水Wを100%戻す訳ではなく、上述のような地下水Wの流れを利用して、生産井110から汲み上げた地下水Wの60%から70%を還元井120に戻すようになっている。なお、還元井120に戻さずに余った地下水Wは、他の表層水と同様に(例えば不圧層Aに)地下還元される。
【0033】
(発電システム100による発電の手順)
次に、上述した発電システム100を用いて発電する手順を簡単に説明する。最初に適切な場所に生産井110および還元井120を設けた後、生産井110と還元井120との間に水路130を設ける。然る後、水路130に発電機140を配置するとともに、揚水ポンプ150を生産井110の近傍に配置することで発電システム100が完成する。
【0034】
そして、最初に、揚水ポンプ150を稼働させることにより、生産井110から地下水Wを汲み上げていく。すると、生産井110が設けられた地下水多量位置112における地下水Wの水位が下がりだしていく。
【0035】
また、汲み上げた地下水Wを水路130に流して、当該地下水Wの運動エネルギーによって発電機140を動作させて発電するとともに、少なくとも一部の地下水Wを還元井120に戻す。
【0036】
すると、上述したように、生産井110から地下水Wを汲み上げることによって地下水多量位置112の水位が下げられており、かつ、還元井120に少なくとも一部の地下水Wが戻されて地下水少量位置122の水位が上がることにより、還元井120に供給した地下水Wが地下水少量位置122から地下水多量位置112に戻っていき、地下水Wの循環が始まる。
【0037】
地下水Wの循環が始まり、揚水ポンプ150による地下水Wの汲み上げ動作が不要になった時点で当該揚水ポンプ150の動作を停止する。
【0038】
以後は、地下水Wの循環により、生産井110から還元井120への水路130を通した地下水Wの流れが続くので、発電機140による発電を引き続き行うことができる。
【0039】
このように、本実施形態に係る発電システム100によれば、サイホン管を用いることなく地下水Wを循環させることによって水力発電を行うことができる。
【0040】
また、単に、高い位置にある貯水池やダム等から低い位置にある河川や海等に水を放流して発電を行う水力発電とは異なり、生産井110から汲み上げた地下水Wを還元井120に戻すことで当該発電システム100を設けた山等の全体の水分量を保つことができ、地層や地域の環境を大きく変化させることのない発電システム100を供給できる。
【0041】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0042】
100…発電システム
110…生産井、112…地下水多量位置
120…還元井、122…地下水少量位置
130…水路
140…発電機
150…揚水ポンプ
W…地下水、A…不圧層、B…被圧層、C…加圧層、D…境界層