(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038617
(43)【公開日】2023-03-17
(54)【発明の名称】植物の栽培設備及び栽培方法
(51)【国際特許分類】
A01G 31/00 20180101AFI20230310BHJP
A01G 22/25 20180101ALI20230310BHJP
A01G 31/02 20060101ALI20230310BHJP
【FI】
A01G31/00 601B
A01G22/25 F
A01G31/00 608
A01G31/02
A01G31/00 601A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021145429
(22)【出願日】2021-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(71)【出願人】
【識別番号】000219358
【氏名又は名称】東亜グラウト工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000149077
【氏名又は名称】株式会社大原鉄工所
(74)【代理人】
【識別番号】110000718
【氏名又は名称】弁理士法人中川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】姫野 修司
(72)【発明者】
【氏名】山口 乃理夫
(72)【発明者】
【氏名】張 満良
(72)【発明者】
【氏名】田熊 章
(72)【発明者】
【氏名】高橋 倫広
(72)【発明者】
【氏名】星 拓也
(72)【発明者】
【氏名】浅井 圭介
【テーマコード(参考)】
2B314
【Fターム(参考)】
2B314MA12
2B314MA14
2B314MA17
2B314MA21
2B314MA23
2B314MA26
2B314MA33
2B314MA52
2B314NC07
2B314ND07
2B314ND09
2B314PA03
2B314PA06
2B314PA08
2B314PA17
2B314PB18
2B314PB44
2B314PB55
2B314PC19
2B314PD19
2B314PD35
2B314PD43
2B314PD52
2B314PD56
2B314PD57
(57)【要約】
【課題】水を循環させて利用すると共に、この循環過程で水の温度を調整すると共に養分を保持して植物を栽培することができる栽培設備と栽培方法を提供する。
【解決手段】植物を栽培するための栽培設備であって、例えば山葵4を植え付けるための培地部2と、培地部2を覆うハウス部1と、培地部2から排出された循環水を集水する集水部材10と、集水した水の温度を予め設定された温度範囲に保持するための温度保持部11と、集水した水に曝気する曝気部材12と、培地部2に給水する給水ノズル13bと、を有し、培地部2に給水すると共に流出した循環水を循環させる水循環部Aと、水循環部Aによって循環水に養分を供給する養分供給部15と、を有する、
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物を栽培するための栽培設備であって、
植物を植え付けるための培地部と、
前記培地部を覆うハウス部と、
前記培地部に給水する給水部材と、前記培地部から流出した水を集水する集水部材と、を有し、集水部材で集水した水をポンプによって給水部材に供給して循環させる水循環部と、
前記水循環部によって循環する水の温度を予め設定された温度範囲に調整するための温度調整部と、
前記水循環部によって循環する水に曝気する曝気部材と、
前記水循環部によって循環する水に養分を供給する養分供給部と、
を有することを特徴とする植物の栽培設備。
【請求項2】
前記培地部を囲む少なくとも側面には断熱材が配置されていることを特徴とする請求項1に記載した植物の栽培設備。
【請求項3】
前記温度調整部は、前記水循環部を構成する集水部材と接続されると共に前記曝気部材に接続された循環水熱交換器と、該循環水熱交換器と接続された熱受給設備と、を有することを特徴とする請求項1に記載した植物の栽培設備。
【請求項4】
前記循環水熱交換器と接続された熱受給設備は、前記循環水熱交換器と接続されたクッションタンクと、該クッションタンクと接続されたヒートポンプと、該ヒートポンプと接続されると共に下水を処理した処理水が有する熱との熱交換を行う処理水熱交換器と、を有することを特徴とする請求項3に記載した植物の栽培設備。
【請求項5】
前記養分供給部は、前記水循環部を構成する集水部材から循環してくる循環水の電気伝導度を測定すると共に予め設定された基準となる電気伝導度と比較し、測定された電気伝導度が前記基準となる電気伝導度よりも低下したとき、予め複数の養分が所定の比率で配合された基準肥料が溶解された養分水を追加するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載した植物の栽培設備。
【請求項6】
前記培地部に植え付けられた植物が山葵であり、前記水循環部を構成する給水部材が前記山葵に向けて散水する散水部材であることを特徴とする請求項1に記載した植物の栽培設備。
【請求項7】
培地に水を循環させて該培地に植え付けられた植物を栽培する方法であって、
予め栽培すべき植物の生育に必要な養分の種類と、該植物の生育に適した養分毎の消費速度を測定し、
測定した消費速度に対応させた比率に基づいて前記各養分を配合して基準肥料を設定し、
前記基準肥料を溶解させた水を培地に循環させて該培地に植え付けられた植物に対応する前記基準肥料の最小濃度を設定すると共に、該最小濃度に対応する電気伝導度を測定して最小電気伝導度とし、
前記基準肥料を溶解した水を培地に循環させると共に前記水循環部を構成する集水部材から循環してくる水の電気伝導度を測定し、測定した水の電気伝導度が前記最小電気伝導度よりも低下したとき、循環している水に前記基準肥料を溶解した高濃度養分水を供給することを特徴とする植物の栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を循環させて利用することで植物を栽培する栽培設備及び栽培方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、栽培すべき目的の植物を該植物に適した培地に植え付け、この培地に、或いは植物に直接、水を供給して栽培する水耕栽培が行われている。
【0003】
例えば特許文献1に記載された発明は、葉物野菜の水耕栽培方法に関するものである。この発明では、栽培期間を前半と後半に分け、前半では、窒素、リン酸、カリウムを含有する第1水耕液を用い、後半では、窒素、リン酸、カリウムを含有し、第1水耕液と比較してカリウム含量が低く、カルシウム含量が高い第2水耕液を用いて葉物野菜を栽培している。
【0004】
この発明では、循環型の水耕栽培装置の流路に、pH測定装置、電気伝導度計を設置している。そして、pHと電気伝導度が予め設定された範囲に保持し得るように肥料成分を添加することで、カルシウム含有量が高く、カリウム含有量が低い葉物野菜を栽培することができる。
【0005】
また、特許文献2には、土壌を掘削して形成した凹状部の内面に防水用のシートを敷設した栽培領域を設けると共にこの栽培領域を覆うことで形成した複数のハウス栽培部を有する発明が記載されている。特に、各ハウス栽培部には栽培用水を散水する散水部と散水された栽培用水を排水する排水部が設けられており、一のハウス栽培部からの排水を他のハウス栽培部の散水部と連設して栽培用水を順に供給し得るように構成されている。
【0006】
上記した散水部は、多数の散水孔が形成された散水管を山葵が生育した際に山葵の葉よりも下方に位置するように配置して構成されている。また、複数のハウス栽培部の下流側に位置する排水部から上流側に位置する散水部に栽培用水を返送する返水部を有している。特に、作土部は平均粒径の異なる作土石によって構成されており、最下層に排水管の径よりも大きい径の石を配置することによって保冷性を発揮し得るように構成されている。
【0007】
上記の如く構成された発明では、少ない水量で良好な山葵の栽培環境を得ることが可能となる、作土石が夏場であっても気温が下がる夜間に冷却されることによって、栽培用水を冷却することが可能となる、という効果を発揮することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2020-048456号公報
【特許文献2】特許第5492473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載された発明では、カルシウム含有量の高い葉物野菜を効率的に栽培することができる。しかし、培地の養生や循環水の温度などの条件についての記載がなく、これらの条件を満足させることができる設備の開発が要求されている。
【0010】
また、特許文献2に記載された発明では、山葵を良好な環境で栽培することができ、安定した供給を実現することができる。しかし、山葵を栽培するために、新たな技術の開発が望まれていることも事実である。
【0011】
本発明の目的は、水を循環させて利用することでエネルギーの消費を軽減すると共に、この循環過程で水の温度を調整すると共に養分を保持することで効率良く植物を栽培することができる栽培設備と栽培方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明に係る代表的な植物の栽培設備は、植物を栽培するための栽培設備であって、植物を植え付けるための培地部と、前記培地部を覆うハウス部と、前記培地部に給水する給水部材と、前記培地部から流出した水を集水する集水部材と、を有し、集水部材で集水した水をポンプによって給水部材に供給して循環させる水循環部と、前記水循環部によって循環する水の温度を予め設定された温度範囲に調整するための温度調整部と、前記水循環部によって循環する水に曝気する曝気部材と、前記水循環部によって循環する水に養分を供給する養分供給部と、を有するものである、
【0013】
また、本発明に係る代表的な植物の栽培方法は、培地に水を循環させて該培地に植え付けられた植物を栽培する方法であって、予め栽培すべき植物の生育に必要な養分の種類と、該植物の生育に適した養分毎の消費速度を測定し、測定した消費速度に対応させた比率に基づいて前記各養分を配合して基準肥料を設定し、前記基準肥料を溶解させた水を培地に循環させて該培地に植え付けられた植物に対応する前記基準肥料の最小濃度を設定すると共に、該最小濃度に対応する電気伝導度を測定して最小電気伝導度とし、前記基準肥料を溶解した水を培地に循環させると共に前記水循環部を構成する集水部材から循環してくる水の電気伝導度を測定し、測定した水の電気伝導度が前記最小電気伝導度よりも低下したとき、循環している水に前記基準肥料を溶解した高濃度養分水を供給することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る植物の栽培設備(以下「栽培設備」という)では、水循環部によって循環する水(以下「循環水」ともいう)に対し、温度調整部によって水の温度を予め設定された温度範囲に調整することができ、曝気部材によって水に曝気することで水に空気を含有させると共に有機物の分解を促進することができる。このため、栽培すべき植物に略一定の温度範囲に調整された清浄な水を供給することができる。また、養分供給部を有するため、循環水に適宜養分を供給することができる。このため、栽培すべき植物に対して生育に適した水を供給して安定した収量を実現することができ、消費エネルギーの軽減をはかることができる。
【0015】
また、本発明に係る植物の栽培方法(以下「栽培方法」という)では、栽培すべき植物(以下「目的の植物」ともいう)に必要な養分を溶解した水を培地に循環させることで、植物の生育を促進させることができる。
【0016】
即ち、循環水に溶解させた養分の目的の植物の栽培に必要な最小濃度を設定すると共に電気伝導度を測定し、測定された電気伝導度を最小電気伝導度として設定し、循環水の電気伝導度を測定して最小電気伝導度よりも低下したとき、基準肥料を溶解した高濃度養分水を供給することができる。
【0017】
このため、循環水に溶解された養分濃度を、予め設定された最小濃度に保持することができる。従って、培地に対し目的の植物に対して最適な養分を溶解した循環水を供給することができ、効率的な栽培を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施例に係る栽培設備の構成を模式的に説明する図である。
【
図3】本実施例に係る温度調整部の構成を模式的に説明する図である。
【
図4】基準養分水とこの基準養分水を希釈したときの希釈倍率と養分濃度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る栽培設備の構成を説明し、合わせて栽培方法について説明する。本発明に係る栽培設備及び栽培方法は、培地部に供給した水を循環させると共に循環過程で、水温を予め設定された範囲にあるように調整し、有機物を分解し、養分を供給することで、葉物野菜や根菜類を安定して栽培することが可能である。
【0020】
本発明に係る栽培設備では、培地部をハウス部によって覆うことで雨や風の影響を排除し、培地部に供給する水が循環する過程で、温度調整部によって水温を栽培すべき植物に対応させて略一定の範囲にあるように調整することで、気温の変動を排除し得るように構成されている。また、培地部から集水した水を曝気して有機物の分解を促進することで清浄化すると共に養分を供給した水を循環させて培地部に供給し得るように構成されている。
【0021】
特に、培地部の少なくとも側面に断熱材を配置することで、ハウス部内の室温の変化の影響を排除することが可能であり、培地部の温度を循環水の温度によって保持することが可能である。このため、循環水の温度を保持するために必要となるエネルギーの消費を抑えることが可能となり、効率の良い栽培を実現することが可能である。
【0022】
本発明に於いて、培地部の構成は限定するものではなく、栽培すべき植物に対応させて適宜構成することが好ましい。例えば、栽培すべき植物が根菜であるような場合、培地部は、容器と該容器に収容した土或いは砂利からなることが好ましい。この場合、培地となる土や砂利が循環水と共に流出することのないように、培地部を構成する容器の排水部にはフィルターなどを配置しておくことが好ましい。また、栽培すべき植物が葉物野菜であるような場合、培地部は循環水が供給される容器と、根及び生育した実を支持することが可能な培地としてのポットと、このポットを支持する支持部材(例えば並行して設置したレール状の部材)によって構成することが好ましい。
【0023】
水循環部を構成する培地部から流出した循環水を集水する集水部材としては限定するものではなく、循環水が培地部から自然流下し得るような場合、集水タンクであって良い。また、自然流下し得ないような場合、培地部を構成する容器からポンプによって集水し得るように構成することが好ましい。
【0024】
温度調整部は、循環水を予め設定された温度の範囲にあるように調整し得る機能を有するものであれば良く、栽培すべき植物の生育に適した温度に調整し得るように構成されていれば良い。例えば、電気エネルギーや石油エネルギーを利用して循環水の温度を予め設定された範囲の温度に調整し得るようにした温度調整装置であって良い。しかし、年間を通して温度の変動が少ない下水を処理した処理水との熱交換を行って循環水の温度を予め設定された範囲にあるように調整し得るように構成すると、温度を保持するために必要とされるエネルギーの消費を軽減することが可能となり好ましい。
【0025】
曝気部を構成する曝気部材の構造は特に限定するものではなく、酸素雰囲気の曝気槽に循環水を噴霧して曝気する構造や、循環水を貯留させたタンクに空気を供給して曝気させる構造、或いは循環水をシャワー状に滴下させる構造など、周囲の環境に対応させて選択することが好ましい。
【0026】
養分供給部は、循環水が培地部を通過する際に栽培されている植物に養分が補給されることで減少した養分を供給するものであり、この機能を有するものであればよく、構成を限定するものではない。特に、循環水に対して養分を供給する時期としては、予め設定された成分を有する養分を連続的に供給し得るように構成してもよく、循環水の養分濃度を測定して供給し得るようにしても良い。
【0027】
特に、予め栽培すべき植物の生育に適した養分の種類と各養分の比率を測定し、測定された比率に基づいて各養分を配合した基準肥料を設定しておくことが好ましい。そして、基準肥料を予め設定された希釈倍率で希釈して電気伝導度を測定することで、予め希釈倍率と電気伝導度との関係を知ることで、電気伝導度に対応した基準肥料の濃度を明らかにしておくことが好ましい。
【0028】
また、基準肥料を溶解した水を目的の植物を植え付けた培地に循環させて、植え付けられた目的の植物が生育するのに最小限必要となる基準肥料濃度を測定しておくことが好ましい。このようにして得られた最小限必要な基準肥料濃度を最小濃度として設定することで、最小濃度の循環水の電気伝導度を最小電気伝導度として設定することが可能となる。そして、このようにして設定された最小電気伝導度を循環水に対する基準肥料の追加を判断する際の基準とすることが好ましい。
【0029】
従って、実際に循環している水の電気伝導度を測定し、測定された電気伝導度が設定された最小電気伝導度よりも低下したとき、基準肥料を溶解した養分水を供給することで、循環水の養分を安定して保持することが可能である。循環している水に対する養分水の供給量や供給速度を限定するものではない。しかし、循環水に供給する養分水は、電気伝導度が最小電気伝導度よりも大きいことが必要となる。
【0030】
大量の養分水を循環水に供給することは、循環している水の量を増大させることになるため好ましいことではない。このため、循環水に対し基準肥料を高濃度で溶解した高濃度養分水を供給することが好ましい。また、循環している水が循環中に蒸発などに起因して失われることがあるが、このようにして失われた水は給水などの手段によって補給することが好ましい。
【0031】
培地部の少なくとも側面に配置された断熱材の構成は特に限定するものではなく、一般に流通している断熱性を有する発泡合成樹脂からなるシート状のものや、パネル状のものを利用することが可能である。培地部を断熱材によって周囲との熱の授受を軽減することで、循環水の温度を保持するのに必要なエネルギーを軽減することが可能である。
【0032】
以下、図を用いて本実施例に係る栽培設備の構成について説明する。本実施例では、栽培すべき植物として山葵を対象としている。山葵の生育には水温の影響が大きく、育成に適正な温度範囲は17℃以下、好ましくは14℃よりも低い温度とされている。そして、適正な温度範囲よりも低い温度の水が供給された場合生育不全となり、高い温度の水が供給された場合でも生育不全となる。
【0033】
図に示す山葵の栽培設備は、ハウス部1に覆われた培地部2の培地3に植え込まれた山葵4に対して散水すると共に、培地部2を通過した循環水を集水して循環させる水循環部Aを有している。水循環部Aは、培地部2に給水するための給水部材13を構成する複数の散水ノズル13bと、培地部2から流出した循環水を集水する集水管5と接続された集水部材10と、集水した循環水を散水ノズル13bに給水する給水ポンプ13aと、を有して構成されている。この水循環部Aには、温度調整部11と、曝気部材12とが配置されている。
【0034】
温度調整部11の出口側には温度検出部材14が設けられており、この温度検出部材14によって循環水の水温を監視し得るように構成されている。また、水循環部Aの所定位置、例えば曝気部材12と給水ポンプ13aの間に養分供給部15が配置されており、該養分供給部15によって循環水に養分を供給し得るように構成されている。尚、
図1、
図3に於いて符号Pは、循環水を吸引し或いは圧送するポンプである。
【0035】
ハウス部1は一般的な温室であって良い。また、培地部2は水漏れの虞のない槽2eによって構成されており、該槽2eの側面及び底面には発泡合成樹脂からなる断熱材2aが配置されている。培地部2を構成する槽2eの内部には培地3が構成されている。前述したように、培地3は栽培する目的の植物に対応して適宜の材によって構成されている。
【0036】
培地3は、目的の植物の根が十分に張ることが可能で、且つ供給された循環水が速やかに浸透し得るように構成されていることが好ましい。このため、培地3は、上層部分を粒形の小さい砂層とし、この砂層から下層に向けて順に粒形が大きい石層、栗石層などの複数の層が積層されて構成されることが好ましい。
【0037】
例えば、培地3の表面に微小な粒形を有する微粒子層が形成されて浸透性が疎外され、供給された循環水が表面に滞留したような場合、滞留した循環水と大気との間に熱交換が生じることとなり、循環水の温度を保持するために消費する熱量が増加する虞が生じる。このような場合、形成された微粒子層を除去して砂層を露出させることで、供給された循環水の浸透性を回復することが可能である。
【0038】
このため、本実施例では、培地3は、速やかな水の浸透をはかることが可能で且つ山葵を栽培するのに適した、厚さが50cm~60cm程度の粒形の異なる砂利、小石、栗石からなる複数の層の積層体として構成されている。即ち、培地3は、上層が粒形0.1cm~1cm程度の砂利からなる厚さが15cm~25cm程度の砂利層、中層が粒形3cm~5cm程度の小石からなる厚さが10cm~20cm程度の小石層、下層が良好な水はけを確保し得る粒形15cm~20cm程度の栗石からなる厚さが15cm~25cm程度の栗石層として構成されている。
【0039】
そして、培地部2に循環水を散水したとき、常に培地3の表面から40cm程度の深さに水位2bを保持し得るように循環する循環水の水量が設定されている。培地部2に於ける水位2bよりも下層に集水管5が配置されており、この集水管5によって培地3を通過した循環水を集水して培地部2から集水部材10に排出することが可能である。
【0040】
本実施例では、培地部2に於ける培地3に直接空気を供給し得るように構成されている。このため、培地部2の外部にブロワなどの給気装置6aが配置されると共に培地3に複数の給気管6bが配置されている。給気管6bの設置深さは特に限定するものではなく、水位2bよりも下層であって良くまた上層であっても良い。しかし、栽培されている山葵に直接触れることは好ましくない。
【0041】
上記の如く、培地3に直接空気を供給することで、後述するように、培地部2の上表面に断熱材2cを配置して断熱性を向上させるのに有利である。即ち、培地部2の上表面を断熱材2cで覆うことによって水表面からの蒸発を軽減することが可能となり、循環水の温度を保持することが可能となる。一方、水表面を介しての酸素の授受を行うことが不能となり、培地部2が酸素不足となる虞が生じる。このため、培地3に直接空気を供給することで酸素不足を解消することが可能となる。
【0042】
上記の如く構成された培地部2では、槽2eの側面及び底面に断熱材2aを配置することによって、培地部2に構成された培地3の温度を、ハウス部1の室内温度や地熱の影響を排除して循環水の温度と略等しく保持することが可能である。特に、培地3の表面、或いは槽2eの水面に、栽培している山葵4に対応させて穴2dを形成した断熱材2cを配置することで、一層周囲の温度の影響を排除することが可能となり、培地部2に供給された循環水の温度を安定した状態で保持することが可能となる。
【0043】
砂利層からなる培地3に植え込まれた山葵4に向けて散水された循環水は、砂利層を通過して槽2の水位2bよりも下層に配置された集水管5に集水され、培地部2の外部に構成された集水部材10に排出される。そして、培地部2から排出された循環水を集水し、培地3に植え付けられた山葵4の育成に伴って変化した水温や有機物による汚れを浄化し、再度培地部2に供給するように構成されている。
【0044】
集水部材10は、培地部2から排出された循環水を貯留するタンク10aと、このタンク10aに貯留された循環水をくみ上げて温度調整部11に圧送するポンプ10bと、を有して構成されている。
【0045】
温度調整部11は、水を循環させる際に水温を山葵の生育に好ましい温度とされる17℃以下の温度、好ましくは14℃以下で最も低い温度でも5℃の範囲を逸脱することなく、調整することが可能なように構成されている。前述したように、温度調整部11の構成は特に限定するものではない。
【0046】
しかし、温度調整部11としては、
図3に示すように、水循環部Aを構成する集水部材10に接続された循環水熱交換器11aを配置すると共に、この循環水熱交換器11aに熱受給設備11bを接続することで構成することが好ましい。循環水熱交換器11aとしては、一般的に利用されている熱交換器であって良く、交換する熱源としては循環する水の温度を上昇させ或いは低下させるように構成した熱受給設備11bを利用することが可能である。
【0047】
熱受給設備11bは、循環水熱交換器11aに対し略一定の温度範囲の熱を供給し得るように構成されていれば良く、構造を限定するものではない。このような熱受給設備として、例えば流体を一定の温度範囲にあるように調整し得るように加温又は冷却して熱交換器に供給し得るように構成したものを利用することが可能である。
【0048】
本実施例では、下水の温度が一年を通して大幅な変動がないことに直目して、下水処理場に於ける下水を処理した処理水の熱を利用し得るように構成したものを利用している。下水を処理した処理水の熱を利用する場合、下水を処理した処理水を貯留させる混和槽21に処理水熱交換器22を設置しておき、この処理水熱交換器22とヒートポンプ23を接続すると共にクッションタンク24を介してヒートポンプ23と循環水熱交換器11aを接続することで、熱受給設備11bを構成することが可能である。
【0049】
山葵4の生育には養分が必須であり、循環水に溶解された養分は循環する回数の増加に伴って減少するため、循環水に対し定期的に或いは常時、養分の補給を行うことが必要となる。しかし、水に溶解された養分が過多となることは山葵4に限らず目的の植物の生育に対して好ましいことではない。このため、循環水に対し養分を補給する時期と量を管理することが好ましい。
【0050】
このため、予め実験により山葵の生育に効果のある養分が、Mg、Ca、K、P、B、Mnであることを確認した。また、循環水に前記各養分を溶解させて培地に所定時間循環させ、各養分の単位時間当たりの消費量(消費速度)を確認した。消費速度は養分毎に異なる数値となり、その比率を確認したところ、Mg:55、Ca:105、K:17.5、P:4.6、B:1.4、Mn:0.700であった。この比率に対応させて各養分を配合し、基準肥料を設定した。
【0051】
上記の如くして設定した基準肥料を循環水に溶解させて培地に循環させることで、溶解された各養分は一様に消費されることとなる。従って、循環水に対し、基準肥料そのもの、或いは基準肥料を溶解した養分水を供給することで、常に安定した比率で各養分が溶解された循環水を実現することが可能となる。
【0052】
前述したように、循環水に溶解されている養分が過多となることは目的の植物の生育に対して好ましいことではない。このため、基準肥料を溶解した循環水を循環させて山葵4の生育状態を観察し、生育に必要な最低限の溶解量を調査すると共に電気伝導度を調査した。
【0053】
一方で、基準肥料を溶解した水の電気伝導度を測定すると共に、基準肥料の希釈倍率と電気伝導度との関係を測定した。この結果、希釈倍率と電気伝導度との関係が
図4に示すように、略直線で表すことができることが判明した。従って、循環水の電気伝導度を測定することで、循環水に於ける基準肥料の濃度を判断することが可能である。
【0054】
前述した山葵4の生育に必要な最低限の基準肥料を溶解した循環水の電気伝導度を測定して最小電気伝導度として設定し、この最小電気伝導度を循環水に対して基準肥料を供給するか否かの管理指標とすることが可能である。このように、循環水の電気伝導度を測定しつつ、測定された電気伝導度が予め設定された最小電気伝導度よりも低下したときに基準肥料を供給することで、適度な養分濃度の循環水を培地3に供給することが可能である。
【0055】
循環水に基準肥料を供給する際に、この基準肥料を如何なる形態で供給するかは限定するものではなく、前述した比率で配合した各養分を直接供給しても良い。しかし、循環水に対する供給の確実さ、供給された各養分の溶解の容易さなどを考慮すると、予め基準肥料を溶解した養分水を供給することが好ましい。
【0056】
供給する養分水に於ける基準肥料の濃度が低いと、循環水に対し大量に供給することが必要となり、水循環部Aの負担が大きくなる虞がある。このため、循環水に対し、基準肥料を少量の水に溶解させた高濃度養分水を供給するように構成することが好ましい。循環水に供給する高濃度養分水の濃度を限定するものではなく、予め設定された最小電気伝導度に対応する濃度よりも十分に高い濃度であれば良い。また、循環水に高濃度養分水を供給するための機構も限定するものではなく、給水部材13を構成する散水ノズル13bよりも上流側に定量ポンプを配置して供給し得るように構成することが可能である。
【0057】
尚、前述した基準肥料を構成する養分の種類や養分の比率は限定すべきものではなく、栽培すべき植物に応じて変化するものであることは当然である。
【0058】
養分供給部15は、水循環部Aを構成する集水部材10と養分供給部15との間に配置され循環水の電気伝導度を計測するための図示しない計測部材を有している。また、
図4に示す希釈倍率と電気伝導度との関係を示すデータ及び高濃度養分水を供給する際の基準となる最小電気伝導度の値のデータや高濃度養分水の供給量などを含む動作プログラムが記憶された制御部を有している。そして、計測部材によって計測された電気伝導度の値が最小電気伝導度よりも低下しているとき、配管を流れる循環水に対し、予め設定された量の高濃度養分水を供給し得るように構成されている。
【0059】
従って、養分供給部15の下流側を流れる循環水は、予め設定された範囲の養分濃度を有することとなる。この循環水は、給水ポンプ13aによって加圧されて散水ノズル13bを経て培地部2の培地3に植え込まれた山葵4に散水されることで供給される。このため、山葵4に対し安定した状態で養分を補給することが可能となり、良好な生育を実現することが可能である。
【0060】
上記の如く構成された栽培設備では、循環水を温度調整部材11によって山葵4の生育に適した温度に調整して保持させることが可能である。また、曝気部材12によって循環水に含ませた有機物を分離すると共に空気を混合させることが可能である。そして、給水ポンプ13aによって圧送した循環水を散水ノズル13bから山葵4に散水することが可能である。このように、水を循環させて利用することで、水を有効に利用することが可能である。
【0061】
また、養分供給部15によって循環水の電気伝導度から養分の濃度を検出し、電気伝導度が最小電気伝導度よりも低下したとき、高濃度養分水を供給することで、山葵4を含む栽培すべき植物を効果的に栽培することが可能となる。このように、循環水に対する養分の供給を、検出した電気伝導度に応じて行うように構成することで、植物の栽培に必要な作業の無人化をはかることが可能である。
【0062】
更に、温度調整部を下水の処理水の有する熱を利用し得るように構成することで、循環水の温度を保持するためのエネルギーを減少させることが可能となり、効率の良い栽培設備とすることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係る栽培設備、栽培方法では葉物野菜や根菜の栽培に利用して有利である。
【符号の説明】
【0064】
A 水循環部
P ポンプ
1 ハウス部
2 培地部
2a、2c 断熱材
2b 水位
2d 穴
2e 槽
3 培地
4 山葵
5 集水管
6a 給気装置
6b 給気管
10 集水部材
10a タンク
10b ポンプ
11 温度調整部
11a 循環水熱交換器
11b 熱受給設備
12 曝気部材
13 給水部材
13a 給水ポンプ
13b 散水ノズル
14 温度検出部材
15 養分供給部
21 混和槽
22 処理水熱交換器
23 ヒートポンプ
24 クッションタンク