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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038619
(43)【公開日】2023-03-17
(54)【発明の名称】ドラグワッシャおよび釣り用リール
(51)【国際特許分類】
   A01K 89/033 20060101AFI20230310BHJP
【FI】
A01K89/033 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021145431
(22)【出願日】2021-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000002439
【氏名又は名称】株式会社シマノ
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】新妻 翔
(72)【発明者】
【氏名】楠田 周
(72)【発明者】
【氏名】八柄 篤司
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼松 卓司
【テーマコード(参考)】
2B108
【Fターム(参考)】
2B108EB01
2B108EH01
2B108EH06
2B108HC01
2B108HC04
2B108HC07
2B108HC14
2B108HF05
(57)【要約】
【課題】高い耐久性と、釣りのドラグ用として好適な制動力の確保とを両立でき、さらにコストを抑えることができる。
【解決手段】釣り用リールに用いられ、ドラグ座金に対して相対回転することで座面が摺動面44aとなるドラグワッシャ44であって、メインギア軸に沿う方向に繊維長方向を向けた縦繊維4Aと、摺動面44aに沿う方向に繊維長方向を向けた横繊維4Bと、を有し、縦繊維4Aと横繊維4Bとが絡み合って形成されるフェルト材からなり、縦繊維4Aの繊維長方向の長さが0.5mm以上である構成のドラグワッシャを提供する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
釣り用リールに用いられ、ドラグ座金に対して相対回転することで座面が摺動面となるドラグワッシャであって、
回転軸に沿う方向に繊維長方向を向けた第1繊維と、
前記摺動面に沿う方向に繊維長方向を向けた第2繊維と、
を有し、
前記第1繊維と前記第2繊維とが絡み合って形成されるフェルト材からなるドラグワッシャ。
【請求項2】
前記第1繊維の繊維長方向の長さは、0.5mm以上である、請求項1に記載のドラグワッシャ。
【請求項3】
前記第1繊維の繊維長方向の長さは、0.8mm以上である、請求項2に記載のドラグワッシャ。
【請求項4】
前記摺動面に対する前記第1繊維の繊維長方向の角度は、60°~90°の範囲である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のドラグワッシャ。
【請求項5】
前記第1繊維は、前記第2繊維より高強度の繊維である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のドラグワッシャ。
【請求項6】
前記第1繊維と前記第2繊維は1本の繊維である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のドラグワッシャ。
【請求項7】
前記フェルト材は、密度が0.35g/cm以上0.8g/cm以下の羊毛である、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のドラグワッシャ。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載のドラグワッシャを使用した釣り用リール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラグワッシャおよび釣り用リールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の釣り用リールのドラグワッシャとして、炭素繊維織布からなるカーボンクロス座金や、羊毛等を絡み合わせたフェルトワッシャ(例えば、特許文献1参照)を用いたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2662735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の釣り用リールのドラグワッシャのうちカーボンクロスワッシャは、耐久性が高く、高制動力を達成できる。しかしながら、カーボンクロスワッシャの場合には、部材コストが大きく、また高弾性のため押圧力に対して制動力が上がり過ぎることから、いわゆる「ピーキー」な挙動を示してしまう。
【0005】
一方、特許文献1に示すようなフェルトワッシャの場合には、比較的、部材コストが低く、押圧力に対しても緩やかに制動力を変化させることが可能であるため、微調整が必要な釣り(とくに細糸を用いる渓流のルアー釣り)に好適であるが、耐久性に劣り、高荷重時にワッシャ自体が破断しやすいという問題があり、その点で改善の余地があった。
【0006】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、その目的は、高い耐久性と、釣りのドラグ用として好適な制動力の確保とを両立でき、さらにコストを抑えることができるドラグワッシャおよび釣り用リールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係るドラグワッシャは、釣り用リールに用いられ、ドラグ座金に対して相対回転することで座面が摺動面となるドラグワッシャであって、回転軸に沿う方向に繊維長方向を向けた第1繊維と、前記摺動面に沿う方向に繊維長方向を向けた第2繊維と、を有し、前記第1繊維と前記第2繊維とが絡み合って形成されるフェルト材からなることを特徴としている。
【0008】
本発明に係るドラグワッシャによれば、摺動面に沿う第2繊維だけでなく、第2繊維に対して交差する第1繊維が設けられ、繊維長方向の異なる第1繊維と第2繊維とが絡み合ってフェルト材を形成し、摺動面に沿う方向だけでなく全方向の繊維密度を高めることができる。そのため、ドラグにより摺動面に高荷重が作用する場合でもせん断に対する摩耗を抑え、破断や損傷の発生を抑制でき、ドラグワッシャとしての耐久性を向上させることができる。
具体的に本発明のドラグワッシャでは、摺動面に沿う横配列となる第2繊維のみの従来の場合のように摺動によって摺動面の繊維が抜け落ちる従来のものに比べて、縦配列となる第1繊維が横配列の第2繊維と絡まって形成されているので、摺動に伴う第2繊維の抜け落ちを減少することができ、耐久性を高めることができる。
また、本発明のドラグワッシャでは、押圧力に対して緩やかに制動力を変化させて微調整が可能なフェルト材の性能も持たせることができるうえ、例えば炭素繊維織布からなるカーボンクロスワッシャ等の部材に比べてコストも抑えることができる。
【0009】
(2)前記第1繊維の繊維長方向の長さは、0.5mm以上であることが好ましい。
【0010】
この場合には、0.5mm以上の繊維長方向の長さの第1繊維を使用することで、第2繊維に対して絡みやすく、耐久性に優れた好適なフェルト材を形成することができる。
【0011】
(3)前記第1繊維の繊維長方向の長さは、0.8mm以上であることを特徴としてもよい。
【0012】
この場合には、さらに耐久性に優れた好適なフェルト材を形成することができる。
【0013】
(4)前記摺動面に対する前記第1繊維の繊維長方向の角度は、60°~90°の範囲であることを特徴としてもよい。
【0014】
この場合には、第1繊維が第2繊維に対して絡み易くなり、フェルト材としての耐久性をより確実に発揮することができる。
【0015】
(5)前記第1繊維は、前記第2繊維より高強度の繊維であることを特徴としてもよい。
【0016】
この場合には、第1繊維の繊維方向が摺動方向に交差しているので、摺動時のせん断に効果を発揮する第1繊維の強度を大きくすることで摩耗を抑えることが可能な耐久性の高いフェルト材を構成することができる。
【0017】
(6)前記第1繊維と前記第2繊維は1本の繊維であることを特徴としてもよい。
【0018】
この場合には、第1繊維と第2繊維とが同一の繊維から形成されるものであり、同じ繊維を例えばニードルパンチ法で厚み方向に絡交させることにより容易に製造することができる。
【0019】
(7)前記フェルト材の密度は、0.35g/cm以上0.8g/cm以下であることを特徴としてもよい。
【0020】
この場合には、フェルト材が0.35g/cm以上0.8g/cm以下となるので、摺動時における耐摩耗性を高めることができる。また、フェルト材の密度が0.8g/cm以下であるので、硬くなり過ぎずクッション性能も確保することができる。
【0021】
(8)本発明に係る釣り用リールは、(1)乃至(7)のいずれか1項に記載のドラグワッシャを使用したことを特徴としている。
【0022】
本発明では、上述したドラグワッシャの効果を有する釣り用リールを提供することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るドラグワッシャおよび釣り用リールによれば、高い耐久性と、釣りのドラグ用として好適な制動力の確保とを両立でき、さらにコストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施形態による両軸リールの全体構成を示す斜視図である。
図2図1に示すA-A線断面図であって、両軸リールの断面図である。
図3】回転伝達機構の分解斜視図である。
図4】ドラグワッシャの斜視図である。
図5】ドラグワッシャの内部における縦繊維と横繊維との構成を示す斜視図である。
図6】縦繊維と横繊維との構成を示す側面図であって、摩耗前の状態を示す図である。
図7】縦繊維と横繊維との構成を示す側面図であって、摩耗した状態を示す図である。
図8】試験サイクル数によるドラグ耐久性を示した図である。
図9】変形例によるドラグワッシャの内部における縦繊維と横繊維との構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係るドラグワッシャおよび釣り用リールの実施形態について図面を参照して説明する。なお、各図面において、各構成部材を視認可能な大きさとするために必要に応じて各構成部材の縮尺を適宜変更している場合がある。
【0026】
図1及び図2に示すように本実施形態のドラグワッシャ44は、例えば、中型の丸型リールである両軸リール1(釣り用リール)に採用されている。
【0027】
<全体構成>
両軸リール1は、リール本体10と、リール本体10の側方に配置されたスプール回転用のハンドル組立体20と、ハンドル組立体20のリール本体10側に配置されたスタードラグ30とを備えている。リール本体10には、回転により釣り糸を繰り出し・巻き取るスプール15が回転自在に装着されている。リール本体10は、竿取付部を介して釣り竿に装着される。
【0028】
ここで、以下の説明の「左右方向」とは、釣りを行う際に両軸リール1を備えた釣り竿を持って釣り人から見た状態における左右方向とする。本実施形態では、ハンドル組立体20がリール本体10の右側に位置している。
【0029】
ハンドル組立体20は、リール本体10の右側方に突出するメインギア軸41(後述する)の先端41aに回転不能に装着されたクランクアーム21と、クランクアーム21の一端にクランクアーム21の一端部と直交する方向の軸回りに回転自在に装着されたハンドル把手22と、を有している。
【0030】
リール本体10は、フレーム11と、右側カバー12と、左側カバー13と、を有している。フレーム11は、所定の間隔をあけて配置された右側板11A及び左側板11Bと、右側板11Aと左側板11Bを連結する複数の連結部材11Cと、を有している。右側カバー12は、右側板11Aの外方を覆うように右側板11Aと一体形成されている。左側カバー13は、左側板11Bの外方を覆うように左側板11Bに固定されている。右側板11Aと右側カバー12との間には、後述する各種機構を収納するための空間が形成されている。
【0031】
右側板11A及び右側カバー12は、側面から見て、メインギア軸41(後述)の装着部分を中心に軸方向外方にも膨出した略楕円形状をなしている。左側板11B及び左側カバー13は、側面から見て円形をなしている。
複数の連結部材11Cは、右側板11A及び左側板11Bと一体で形成された板状の部材であり、リール本体10の上部、下部及び後部の3箇所で右側板11A及び左側板11B連結している。このような連結部材11Cを設けることで、リール本体10に大きな荷重が作用しても撓み等の変形が生じがたく、巻上げ効率の低下が抑制される。下部の連結部材11Cには竿取付脚が固定され、後部の連結部材11Cにはリールを釣り竿とともに保持するための合成樹脂製のサムレスト14が装備されている。
【0032】
右側板11A及び左側板11B間には、スプール15が回転自在に配置されている。スプール15の中心には、スプール軸(図示省略)が貫通して固定されている。このスプール軸は、右側板11A及び左側板11Bに軸受を介して回転自在に支持されている。
【0033】
右側板11Aと右側カバー12との間の空間には、ハンドル組立体20からのトルクをスプール15に伝えるための回転伝達機構40と、回転伝達機構40内に設けられたクラッチ機構50と、が配置されている。
【0034】
回転伝達機構40は、スプール15からハンドル組立体20側にトルクが逆に伝達された場合のトルクを規制する機能を含んでいる。また、左側板11Bの中心部には糸繰り出し方向に自由回転するスプール15を制動するための遠心ブレーキ機構が配置されている。回転伝達機構40は、一端(先端41a)にハンドル組立体20が固定されたメインギア軸41(回転軸)と、メインギア軸41の他端(基端41b)に連結されたメインギア42と、メインギア42に噛み合うピニオンギア(図示省略)とを有している。メインギア42は、外周にギア42aを有し、メインギア軸41に回転自在に装着されている。ピニオンギアは、回転伝達機構40を構成すると共にクラッチ機構50としても機能する。
【0035】
メインギア軸41は、スプール軸と平行に配置されており、一端側が右側板11Aに回転自在に支持されている。メインギア42は、メインギア軸41の一端側に一体回転するように連結されている。このような構成では、クラッチ機構50がオンとなる状態では、ハンドル組立体20からのトルクがスプール15に直接伝達される。
【0036】
クラッチ機構50は、スプール軸の外周部にスライド自在に装着された筒状の上述したピニオンギアの一部に配置された噛み合い溝と、スプール軸に配置されたクラッチピン(図示省略)と、を有している。クラッチ機構50では、スプール軸に沿ってピニオンギアを摺動させ、噛み合い溝をクラッチピンと係合させることで、スプール軸とピニオンギアとの間で回転力が伝達される。この状態が連結状態(クラッチオン状態)である。上記の噛み合い溝とクラッチピンとの係合が外されたときには、スプール軸とピニオンギアとの間で回転力は伝達されない。この状態が遮断状態(クラッチオフ状態)である。クラッチオフ状態では、スプール15は自由に回転する。ピニオンギアは、右側カバー12の外方に配置されるクラッチ操作部51により噛み合い溝とクラッチピンとが係合する方向、すなわちクラッチオン状態に付勢されている。このように、クラッチ操作部51は、クラッチ機構50をオンオフ操作するためのものである。
【0037】
次に、回転伝達機構40に設けられるドラグ機構部40Aについて、図3に基づいて具体的に説明する。
図3は、ハンドル組立体20、スタードラグ30、ドラグ機構部40A等をメインギア軸41(図3に示す一点鎖線)に沿って分解した分解斜視図である。これら図3に示す部品は、全て一点鎖線で示すメインギア軸41が挿通される。
【0038】
ドラグ機構部40Aは、メインギア軸41の基端41bから先端41aの順に、ストッパギア43、第1ドラグワッシャ44A(44)、メインギア42、第2ドラグワッシャ44B(44)、第1板座金45A(45)、第3ドラグワッシャ44C(44)、第2板座金45B(45)、第4ドラグワッシャ44D(44)、スタードラグ板46がメインギア軸41の軸方向に重ね合わせた状態で設けられる。ストッパギア43、第1板座金45A、第2板座金45B、及びスタードラグ板46は、それぞれ金属製の薄板であり、メインギア軸41に対して回転不能に取り付けられている。
【0039】
4枚のドラグワッシャ44A~44Dは、それぞれ上述したように板座金45等(メインギア42も含む)の金属板に挟み込まれた状態で設けられている。例えば、第1ドラグワッシャ44Aは、金属製のストッパギア43と金属製のメインギア42との間に挟まれている。また、第3ドラグワッシャ44Cは、金属製の第1板座金45Aと金属製の第2板座金45Bとの間に挟まれている。ドラグ機構部40Aでは、各ドラグワッシャ44の両面(摺動面44a)の摩擦力によってハンドル組立体20からスプール15への回転動力が伝達され、ドラグ性能が発揮される。
【0040】
さらに、スタードラグ板46の基端側には、メインギア軸41の基端41bから先端41aの順に、チューブ31、ナット32、軸受33、複数の座金34がメインギア軸41の軸方向に重ね合わせた状態で設けられる。先端側のストッパギア43から軸受33までは、右側カバー12内に収容され、複数の座金34はスタードラグ30の軸部分に収容されている。軸受33は、図2に示すように、右側カバー12のメインギア軸41の挿通孔12aに嵌め込まれている。
【0041】
このように構成される両軸リール1では、ハンドル組立体20、メインギア軸41、ドラグワッシャ44、メインギア42、不図示のピニオンギア、スプール15(クラッチがオン状態)の順でハンドル組立体20からの動力が伝達される。なお、釣り糸が繰り出し方向に強く引かれた場合には、ドラグの圧着力(摩擦力)を上回る力がメインギア42に掛かり、すなわちスプール15、ピニオンギア、メインギア42の順に力が作用する。このとき、メインギア42、ドラグワッシャ44、ストッパギア43、板座金45の間で滑りが発生し、釣り糸が繰り出すことになる。
【0042】
図3及び図4に示すように、ドラグワッシャ44(44A、44B、44C、44D)は、中心部にメインギア軸41を挿通可能な挿通孔44bを有し、板座金45に対して相対回転することで座面が摺動面44aとなっている。
【0043】
ドラグワッシャ44は、図4図5及び図6に示すように、縦繊維4A(第1繊維)と横繊維4B(第2繊維)とを有する1本の同一の繊維440が多数設けられている。ドラグワッシャ44を構成する1本の繊維440は、例えば上述した60°~90°の角度θで折れ曲げられている。折れ曲げられた一方の縦繊維4Aは、縦繊維4Aの繊維長方向をメインギア軸41に沿う方向に向けて配置されている。他方の横繊維4Bは、横繊維4Bの繊維長方向を摺動面44aの面方向に略平行に向けて配置されている。そして、図5に示すように、複数の繊維440同士は、一方の繊維440の縦繊維4Aが他の繊維440の横繊維4Bと絡み合うことによりフェルト材を形成している。
【0044】
このような縦繊維4Aと横繊維4Bとを形成する1本の繊維440として、例えばニードルパンチ法を使用して同じ繊維をドラグワッシャ44の厚み方向に絡み合わせて形成することができる。また、1本の繊維に縦繊維4Aと横繊維4Bとを含むものであっても、製造過程で1本の繊維が縦繊維4Aと横繊維4Bとに切断されたものであってもかまわない。
【0045】
また、本実施形態のドラグワッシャ44のフェルト材には、密度が0.35g/cm以上0.8g/cm以下の羊毛が採用されている。この密度範囲(0.35g/cm以上0.8g/cm以下)のフェルト材は十分に縦繊維4Aと横繊維4Bとが絡み、耐久性をもたせることができる。フェルト材の密度が0.8g/cmを超える場合には、硬さが硬くなり、クッション性能が低下することになる。
【0046】
縦繊維4Aの繊維長方向の長さLは、0.5mm以上の長さであり、好ましくは0.8mm以上であり、より好ましくは0.8mm以上1.5mm以下である。縦繊維4Aの長さLが0.5mm未満で短い場合には、横繊維4Bに対して十分に繋ぎ合わせることができず、縦繊維4Aと横繊維4Bとが絡み合った構成にならない。そして、縦繊維4Aの長さLが0.8mm以上の場合には、縦繊維4Aと横繊維4Bとがさらに絡みやすくなる。また、縦繊維4Aの長さLが1.5mmを超える場合には、ドラグワッシャ44自体の厚みが増大し、ドラグ機構部の軸方向(メインギア軸41の軸方向)の長さが長くなってしまう。
【0047】
また、ドラグワッシャ44は、摺動面44aに対する縦繊維4Aの繊維長方向の角度θが60°~90°の範囲となっている。縦繊維4Aの角度θが60°未満の場合には、摺動面44aの面方向に近づくため、横繊維4Bの絡みが不十分となり、ドラグワッシャ44としての耐力を向上させにくくなる。
【0048】
この場合、ドラグワッシャ44は、例えば全体に対して縦繊維4Aの割合が3%以上であり、好ましくは5%以上となっている。縦繊維4Aの割合が3%未満の場合には、ドラグワッシャ44として求められる十分な耐久性が得られない。また、縦繊維4Aが増えるほど縦弾性係数が増加するため、カーボンワッシャのような挙動になることから、縦繊維4Aの割合の上限は例えば30%程度であることが好ましい。
【0049】
本実施形態のドラグワッシャ44は、図7に示すように、摺動面44aで摺動することに伴う摩擦によって摩耗するが、縦繊維4Aが存在することにより、横繊維4Bの抜け落ちの頻度を減少させることができ、耐久性を向上させることができる。
【0050】
ここで、図8は、本実施形態によるドラグワッシャ44の効果であって、従来品である比較例と本実施形態による実施例において、ドラグの耐久性(試験サイクル数)を示している。比較例が10回程度であるのに対して、実施例では150回を超えている。すなわち、実施例では、比較例の10倍以上のドラグの耐久性があることが確認されている。
なお、試験サイクル10回は釣り人が比較的高いドラグ力を維持する釣りへの釣行を1年間継続させた程度の負荷を与えるものである。
【0051】
次に、このように構成されるドラグワッシャおよび釣り用リールの作用について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0052】
本実施形態によるドラグワッシャ44では、図5及び図6に示すように、摺動面44aに沿う横繊維4Bだけでなく、横繊維4Bに対して交差する縦繊維4Aが設けられ、繊維長方向の異なる縦繊維4Aと横繊維4Bとが絡み合ってフェルト材を形成し、摺動面44aに沿う方向だけでなく全方向の繊維密度を高めることができる。そのため、スタードラグ30により摺動面44aに高荷重が作用する場合でもせん断に対する摩耗を抑え、破断や損傷の発生を抑制でき、ドラグワッシャ44としての耐久性を向上させることができる。
【0053】
具体的に本実施形態のドラグワッシャ44では、摺動面44aに沿う横配列となる横繊維4Bのみの従来の場合のように摺動によって摺動面44aの繊維が抜け落ちる従来のものに比べて、縦配列となる縦繊維4Aが横配列の横繊維4Bと絡まって形成されているので、摺動に伴う横繊維4Bの抜け落ちを減少することができ、耐久性を高めることができる。
【0054】
また、本実施形態のドラグワッシャ44では、押圧力に対して緩やかに制動力を変化させて微調整が可能なフェルト材の性能も持たせることができるうえ、例えば炭素繊維織布からなるカーボンクロスワッシャ等の部材に比べてコストも抑えることができる。
【0055】
また、本実施形態では、0.5mm以上の繊維長方向の長さの縦繊維4Aを使用することで、横繊維4Bに対して絡みやすく、耐久性に優れた好適なフェルト材を形成することができる。
【0056】
また、本実施形態では、縦繊維4Aの繊維長方向の長さを0.8mm以上1.5mm以下とすることにより、さらに耐久性に優れた好適なフェルト材を形成することができる。
【0057】
さらに、本実施形態では、摺動面44aに対する縦繊維4Aの繊維長方向の角度が60°~90°の範囲であるので、縦繊維4Aが横繊維4Bに対して絡み易くなり、フェルト材としての耐久性をより確実に発揮することができる。
【0058】
さらにまた、本実施形態では、縦繊維4Aが横繊維4Bより高強度の繊維であり、縦繊維4Aの繊維方向が摺動方向に交差しているので、摺動時のせん断に効果を発揮する縦繊維4Aの強度を大きくすることで摩耗を抑えることが可能な耐久性の高いフェルト材を構成することができる。
【0059】
また、本実施形態では、縦繊維4Aと横繊維4Bとが同一の繊維から形成されるものであり、同じ繊維を例えばニードルパンチ法で厚み方向に絡交させることにより容易に製造することができる。
【0060】
また、本実施形態のドラグワッシャ44では、フェルト材が0.35g/cm以上0.8g/cm以下となるので、摺動時における耐摩耗性を高めることができる。また、フェルト材の密度が0.8g/cm以下であるので、硬くなり過ぎずクッション性能も確保することができる。
【0061】
上述のように構成された本実施形態によるドラグワッシャ44および両軸リール1では、高い耐久性と、釣りのドラグ用として好適な制動力の確保とを両立でき、さらにコストを抑えることができる。
【0062】
以上、本発明によるドラグワッシャおよび釣り用リールの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。実施形態は、その他様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形例には、例えば当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、均等の範囲のものなどが含まれる。
【0063】
例えば、本実施形態では、ドラグワッシャ44における縦繊維4Aの繊維長方向の長さが0.5mm以上とし、より好ましくは0.8mm以上1.5mm以下であるとしているが、これらの数値範囲であることに限定されることはない。
【0064】
また、摺動面44aに対する縦繊維4Aの繊維長方向の角度は、上述した実施形態で新下60°~90°の範囲であることに制限されることはない。要は、縦繊維4Aと横繊維4Bとが交差していればよいのである。
【0065】
さらに、本実施形態では、縦繊維4Aが横繊維4Bより高強度の繊維としているが、これに限定されることはなく、縦繊維4Aが横繊維4Bとが同じ強度であってもよい。例えば、上述したように縦繊維4Aが横繊維4Bとが同一の1本の繊維から構成されている場合にはそれぞれ同じ強度となる。
【0066】
さらにまた、本実施形態のドラグワッシャでは、フェルト材の密度が0.35g/cm以上0.8g/cm以下の羊毛を採用しているが、このような密度のフェルト材であることに制限されることはない。
【0067】
また、本実施形態では、ドラグワッシャ44を構成する繊維が1本の繊維440が折れ曲がって縦繊維4Aと横繊維4Bとを形成しているが、このような1本の繊維440が折れ曲がった形状であることに限定されることはない。例えば、図9に示すように、回転軸(メインギア軸41)に沿う方向に繊維長方向を向けた第1繊維440Aと、摺動面44aに沿う方向に繊維長方向を向けた第2繊維440Bと、がそれぞれ1本の繊維ではなく別体の繊維であってもよい。
【0068】
さらにまた、上述した実施形態では、釣り用リールとして、中型の丸型リールである両軸リールをドラグワッシャの適用例としているが、両軸リールであることに限定されることはなく、例えばスピニングリールにも適用可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 両軸リール(釣り用リール)
4A 縦繊維(第1繊維)
4B 横繊維(第2繊維)
10 リール本体
15 スプール
20 ハンドル組立体
30 スタードラグ
40 回転伝達機構
40A ドラグ機構部
41 メインギア軸(回転軸)
42 メインギア
44(44A~44D) ドラグワッシャ
44a 摺動面
45(45A、45B) 板座金(ドラグ座金)
50 クラッチ機構
440 繊維
440A 第1繊維
440B 第2繊維
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9